(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070420
(43)【公開日】2022-05-13
(54)【発明の名称】マイクロ波熟成方法およびマイクロ波熟成装置
(51)【国際特許分類】
A23L 5/10 20160101AFI20220506BHJP
A23L 17/30 20160101ALI20220506BHJP
A23L 17/00 20160101ALI20220506BHJP
A23F 3/06 20060101ALI20220506BHJP
H05B 6/80 20060101ALI20220506BHJP
H05B 6/68 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
A23L5/10 C
A23L17/30 Z
A23L17/00 B
A23L17/00 A
A23F3/06 E
A23F3/06 A
H05B6/80 Z
H05B6/68 320M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020179475
(22)【出願日】2020-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000180313
【氏名又は名称】四国計測工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】國井 勝之
(72)【発明者】
【氏名】曽我 博文
(72)【発明者】
【氏名】香川 英二
【テーマコード(参考)】
3K086
3K090
4B027
4B035
4B042
【Fターム(参考)】
3K086AA01
3K086BA07
3K086CA02
3K086CD07
3K090AA01
3K090AB01
3K090BA03
3K090DA20
3K090EB21
4B027FB01
4B027FC02
4B027FP23
4B027FR20
4B035LC12
4B035LC16
4B035LE05
4B035LG37
4B035LG42
4B035LP05
4B035LP16
4B035LT20
4B042AC10
4B042AD39
4B042AG12
4B042AG16
4B042AG30
4B042AH01
4B042AH09
4B042AP10
4B042AW10
(57)【要約】
【課題】乾燥しやすい食品や水分含有量が少ない食品にマイクロ波を照射してドライ熟成を行う場合でも、食品の過度な乾燥を抑制し、食品を十分に熟成させることが可能となる、マイクロ波熟成方法およびマイクロ波熟成装置を提供する。
【課題を解決するための手段】熟成室40内に収容した食品Mにマイクロ波を照射しながら送風を行うことで、食品Mの表面を乾燥させながら熟成を行うドライ熟成工程を有する、マイクロ波熟成方法であって、ドライ熟成工程において、食品Mの表面温度よりも内部温度が高くなるように、マイクロ波の照射量、熟成室40の温度、および/または、風量を調整するとともに、食品Mの水分蒸発を抑制するために、通気性および透湿性を有するシートSを食品Mに被せることを特徴とする、マイクロ波熟成方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熟成室内に収容した食品にマイクロ波を照射しながら送風を行うことで、前記食品の表面を乾燥させながら熟成を行うドライ熟成工程を有する、マイクロ波熟成方法であって、
前記ドライ熟成工程において、前記食品の表面温度よりも内部温度が高くなるように、前記マイクロ波の照射量、前記熟成室の温度、および/または、風量を調整するとともに、前記食品の水分蒸発を抑制するために、通気性および透湿性を有するシートを前記食品に被せることを特徴とする、マイクロ波熟成方法。
【請求項2】
前記シートは切り込みを有し、
前記切り込みの大きさ、および/または、量を変えることで、前記食品の水分蒸発量を調整する、請求項1に記載のマイクロ波熟成方法。
【請求項3】
熟成室内に収容した食品にマイクロ波を照射しながら送風を行うことで、前記食品の表面を乾燥させながら熟成を行うドライ熟成工程を有する、マイクロ波熟成方法であって、
前記ドライ熟成工程において、食品の表面温度よりも内部温度が高くなるように、前記マイクロ波の照射量、前記熟成室の温度、および/または、風量を調整するとともに、
前記食品の水分蒸発を抑制するために、
(1)前記風量を0.5m/秒未満とする、および/または、
(2)食品の表面温度と内部温度との温度差が8℃以内となるように、前記マイクロ波の照射量、前記熟成室の温度、および/または、前記風量を制御することを特徴とする、マイクロ波熟成方法。
【請求項4】
前記食品が、乾燥茶葉、魚の切り身、または魚卵である、請求項1ないし3のいずれかに記載のマイクロ波熟成方法。
【請求項5】
前記ドライ熟成工程では、前記食品の表面に水を吹きかける工程をさらに含む、請求項1ないし4のいずれかに記載のマイクロ波熟成方法。
【請求項6】
前記ドライ熟成工程において、
前記食品と接触して前記食品の内部温度を直接測定できる場合には、測定した前記食品の内部温度に基づいて、前記マイクロ波の照射量、前記熟成室内の温度、および/または、前記風量を調整し、
前記食品と接触して前記食品の内部温度を直接測定できない場合には、前記食品と共に前記熟成室内に収容した容器に入れた水の温度を測定し、当該測定温度に基づいて、前記マイクロ波の照射量、前記熟成室の温度、および/または、前記風量を制御する、請求項1ないし5のいずれかに記載のマイクロ波熟成方法。
【請求項7】
食品を収納する熟成室と、
前記熟成室内に照射されるマイクロ波を発振するマイクロ波発振部と、
前記熟成室内の空気を冷却する冷却器と、
前記冷却器により冷却された空気を前記熟成室内に送風するファンと、
前記マイクロ波発振部により前記マイクロ波の照射量、前記熟成室の温度、および/または、前記ファンの風量を制御する制御部と、
ユーザにより操作され、食品をドライ熟成させるためのドライ熟成モードを選択可能な操作部と、を有し、
前記制御部は、前記操作部により前記ドライ熟成モードが選択された場合に、前記食品の水分蒸発を抑制するために、
(1)前記ファンの風量を0.5m/秒未満とする、および/または、
(2)食品の表面温度と内部温度との温度差が8℃以内となるように、前記マイクロ波の照射量、前記熟成室の温度、および/または、前記風量を制御することを特徴とする、マイクロ波熟成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を照射して食品を熟成させるマイクロ波熟成方法およびマイクロ波熟成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、牛肉を一定期間熟成させることで牛肉のうま味などを増大させた、いわゆる熟成肉が広く知られるようになり、その需要が増大している。牛肉を熟成させる場合には、牛肉に直接風を当てて乾燥状態として熟成を行うドライ熟成や、真空パックにして熟成を行うウェット熟成が知られている。
たとえば、発明者は、熟成室に収納した食品に冷風を直接当てながら、マイクロ波を照射することで、ドライ熟成を短い熟成期間で行う技術を開示している(たとえば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ドライ熟成は、食品に風を当てて食品を乾燥させ、食品の水分含有量を低くすることで、食品の腐敗を防ぎながら熟成を行うことができる。しかしながら、熟成の対象となる食品が、肉のように比較的大きな塊ではなく、魚介類のように比較的小さな切り身であり乾燥しやすい場合、あるいは、乾燥茶葉のように水分含有量が少ない場合には、熟成が進みにくく、十分に熟成させた食品が得られないという問題があった。特に、特許文献1のように、マイクロ波を照射しながらドライ熟成させる場合には、マイクロ波により食品内部の温度を高めることができるため、食品内部の水分も蒸発しやすい傾向があり、上記問題を解決することが特に希求されている。
【0005】
本発明は、乾燥しやすい食品や水分含有量が少ない食品にマイクロ波を照射してドライ熟成を行う場合でも、食品の過度な乾燥を抑制することで、食品を十分に熟成させることが可能となる、マイクロ波熟成方法およびマイクロ波熟成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を達成するために、本発明者は鋭意研究を重ね、比較的乾燥しやすい食品や元々水分含有量の少ない食品についてドライ熟成を行う場合においても、食品内の水分蒸発を抑制することができ、食品を十分に熟成させることができるマイクロ波熟成方法を創作し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記(1)ないし(6)のマイクロ波熟成方法に関する。
(1)熟成室内に収容した食品にマイクロ波を照射しながら送風を行うことで、前記食品の表面を乾燥させながら熟成を行うドライ熟成工程を有する、マイクロ波熟成方法であって、前記ドライ熟成工程において、食品の表面温度よりも内部温度が高くなるように、前記マイクロ波の照射量、前記熟成室の温度、および/または、風量を調整するとともに、前記食品の水分蒸発を抑制するために、通気性および透湿性を有するシートを前記食品に被せることを特徴とする、マイクロ波熟成方法。
(2)前記シートは切り込みを有し、前記切り込みの大きさ、および/または、量を変えることで、前記食品の水分蒸発量を調整する、上記(1)に記載のマイクロ波熟成方法。
(3)熟成室内に収容した食品にマイクロ波を照射しながら送風を行うことで、前記食品の表面を乾燥させながら熟成を行うドライ熟成工程を有する、マイクロ波熟成方法であって、前記ドライ熟成工程において、食品の表面温度よりも内部温度が高くなるように、前記マイクロ波の照射量、前記熟成室の温度、および/または、風量を調整するとともに、前記食品の水分蒸発を抑制するために、(1)前記風量を0.5m/秒未満とする、および/または、(2)食品の表面温度と内部温度との温度差が8℃以内となるように、前記マイクロ波の照射量、前記熟成室の温度、および/または、前記風量を制御することを特徴とする、マイクロ波熟成方法。
(4)前記食品が、乾燥茶葉、魚の切り身、または魚卵である、上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のマイクロ波熟成方法。
(5)前記ドライ熟成工程では、前記食品の表面に水を吹きかける工程をさらに含む、上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のマイクロ波熟成方法。
(6)前記ドライ熟成工程において、前記食品と接触して前記食品の内部温度を直接測定できる場合には、測定した前記食品の内部温度に基づいて、前記マイクロ波の照射量、前記熟成室内の温度、および/または、前記風量を調整し、前記食品と接触して前記食品の内部温度を直接測定できない場合には、前記食品と共に前記熟成室内に収容した容器に入れた水の温度を測定し、当該測定温度に基づいて、前記マイクロ波の照射量、前記熟成室の温度、および/または、前記風量を制御する、上記(1)ないし(5)のいずれかに記載のマイクロ波熟成方法。
【0007】
また、本発明は、下記(7)のマイクロ波熟成装置に関する。
(7)食品を収納する熟成室と、前記熟成室内に照射されるマイクロ波を発振するマイクロ波発振部と、前記熟成室内の空気を冷却する冷却器と、前記冷却器により冷却された空気を前記熟成室内に送風するファンと、前記マイクロ波発振部により前記マイクロ波の照射量、前記熟成室の温度、および/または、前記ファンの風量を制御する制御部と、ユーザにより操作され、食品をドライ熟成させるためのドライ熟成モードを選択可能な操作部と、を有し、前記制御部は、前記操作部により前記ドライ熟成モードが選択された場合に、前記食品の水分蒸発を抑制するために、(1)前記ファンの風量を0.5m/秒未満とする、および/または、(2)食品の表面温度と内部温度との温度差が8℃以内となるように、前記マイクロ波の照射量、前記熟成室の温度、および/または、前記風量を制御することを特徴とする、マイクロ波熟成装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、乾燥しやすい食品や水分含有量が少ない食品にマイクロ波を照射してドライ熟成を行う場合でも、食品の過度な乾燥を抑制し、食品を十分に熟成させることが可能となる、マイクロ波熟成方法およびマイクロ波熟成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係るマイクロ波熟成装置の構成図である。
【
図2】本実施形態に係る内部温度センサの構成を示す図である。
【
図3】本実施形態に係るドライエイジング方法を説明するための図である
【
図4】生茶葉のドライエイジング試験におけるアミノ酸の含有量の測定結果を示す図である。
【
図5】スジコのドライエイジング試験における官能評価の結果を示す図である。
【
図6】真鯛のドライエイジング試験における遊離アミノ酸の測定結果を示す図である。
【
図7】真鯛のドライエイジング試験における総遊離アミノ酸および核酸成分の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1は、食品Mに冷風を送風しながら、マイクロ波を照射することで、微生物が付着する食品Mの表面を冷却し腐敗を抑制するとともに、マイクロ波により食品内部の温度を高め熟成を促進させることができる。本実施形態では、このようなマイクロ波熟成装置1を用いた、ドライエイジング(ドライ熟成)について説明する。特に、本実施形態に係るマイクロ波熟成方法では、ドライエイジングにおける食品Mの過度の乾燥を抑制するために、(1)ウェットエイジングで採用されているクッキングシートやエイジングシートなどの通気性および透湿性を有するシートSを食品Mに被せてドライエイジングを行う、(2)ファン43の風量を0.5m/秒未満としてドライエイジングを行う、(3)食品Mの表面温度と内部温度との温度差が8℃以内となるように、マイクロ波の照射量、熟成室の温度、風量を制御してドライエイジングを行う、の3つの方法を提案する。これらの方法により、牛肉の肉塊のように乾燥しにくい食品Mではなく、魚介類などの小さな切り身で乾燥しやすい食品Mや乾燥茶葉などの水分含有量の少ない食品Mのドライエイジングにおいても、食品Mの水分蒸発を抑制し、食品Mを十分に熟成させることが可能となる。なお、上記3つの方法は、乾燥しやすい食品や水分含有量が少ない食品Mでもドライエイジングにより十分に熟成させることを目的とした方法であり、いずれか1つの方法を用いてもよいし、2以上の方法を組み合わせ行ってもよい。以下においては、まず、本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1について説明する。
【0011】
(マイクロ波熟成装置)
図1は、本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1の構成図である。本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1は、ドライエイジングおよびウェットエイジングが可能な装置であり、肉類(ハムなどの加工肉食品を含む)、魚介類、チーズなどの乳製品、コーヒー豆などの豆類、野菜類、果物類、麺類、パン類、ワインなどの酒類、発酵食品(味噌や醤油などの発酵調味料を含む)などの各種食品Mを熟成させることができる。ただし、上述したように、本実施形態に係るマイクロ波熟成方法では、魚介類などの小さな切り身で乾燥しやすい食品Mや乾燥茶葉などの水分含有量の少ない食品Mのドライエイジングに特に有用である。
【0012】
マイクロ波熟成装置1は、
図1に示すように、冷却器10、冷媒流路20、マイクロ波発振部30、熟成室40、断熱部50、内部温度センサ60、制御部70、UVランプ80、および操作部90を備える。
【0013】
冷却器10は、
図1に示すように、冷媒流路20と接続しており、冷媒流路20を循環する冷媒を冷却する。なお、冷却器10としては、たとえば、コンプレッサーやコンデンサーなどを有し、外部との熱交換により冷媒を冷却することができる公知の装置を用いることができる。
【0014】
冷媒流路20は、冷却器10と接続しており、熟成室40の内部空間の空気を冷却するための冷媒が循環する。冷媒流路20は、熟成室40の壁部41と直に接しており、冷媒流路20を循環する冷媒が、熟成室40の壁部41と熱交換を行うことで、熟成室40の壁部41が冷却され、壁部41と接する熟成室40内の空気が冷却される。そして、熱交換を行い温まった冷媒は、再度、冷却器10へと戻り、冷却器10により冷却されることとなる。なお、冷媒は、特に限定されず、たとえばHFC(ハイドロフルオロカーボン)やHC(ハイドロカーボン)などを用いることができる。
【0015】
マイクロ波発振部30は、食品Mに照射するためのマイクロ波を発振する。本実施形態では、マイクロ波発振部30として、半導体素子を用いたソリッドステート方式の半導体発振器が用いられる。半導体発振器は、マグネトロンと比べて、高い周波数および出力安定度が得られるとともに、出力値および周波数を数μ秒単位で精密に制御することができる。マイクロ波発振部30で発振されたマイクロ波は、ケーブル31を介して、熟成室40の照射口42から熟成室40内に照射される。
【0016】
熟成室40には、熟成するための食品Mが載置される。マイクロ波発振部30により発振されたマイクロ波は、ケーブル31を介して、照射口42から熟成室40内に照射され、熟成室40内に載置された食品Mを均一加熱する。本実施形態においては、照射口42に、小型で利得が高いパッチアンテナ(平面アンテナ)が取り付けられており、これにより、マイクロ波発振部30により発振されたマイクロ波が熟成室40内に照射される。また、熟成室40の壁部41には、冷媒流路20が隙間なく直に接しており、冷媒流路20を流通する冷媒が熟成室40の壁部41を冷却し、壁部41が壁部41と接触する熟成室40内の空気を冷却することで、食品Mを表面から冷却することができる。これにより、食品Mの内部温度を食品Mの表面温度よりも高くすることが可能となる。
【0017】
また、熟成室40は、
図1に示すように、ファン43および扉(不図示)を備えている。ファン43は、食品Mの一般的な熟成に適した風量(たとえば0.5~10.0m/秒)で送風を行うことができる。また、本実施形態において、ファン43は、0.5m/秒未満の風量で送風を行うことも可能である。ファン43は、熟成室40内の空気を対流させることで、冷媒により冷却された冷気を食品Mに当てることができ、これにより、食品Mの表面を効率良く冷却することができる。また、扉には、マイクロ波が外部に漏洩することを防止するために、チョーク構造を有しており、外部から開閉可能となっている。なお、チョーク構造は公知の構造とすることができる。ユーザは、扉を開け閉めして、熟成を行う食品Mを熟成室40に出し入れすることができる。また、熟成室40の壁部41の内面(内壁)の全ての面には、マイクロ波を反射するための反射板が設置されている。熟成室40には、テフロン(登録商標)やポリプロピレンなどのマイクロ波透過性材により構成された任意の形状の棚を設置してもよい。またステンレスなどの金属材料を使用する場合は、間隔が20mm以上の格子状の棚や、直径20mm以上の開口部を持つパンチングメタル形状の棚を設置しても良い。
【0018】
断熱部50は、冷媒流路20を流通する冷媒が熟成室40に到達する前に外気と熱交換してしまうことを抑制するための部材である。断熱部50は、
図1に示すように、冷媒流路20と隙間なく直に接しており、熟成室40の壁部41と伴に冷媒流路20を挟持する。断熱部50の素材としては、特に限定されず、たとえば発泡スチロールやウレタンなどを用いることができる。
【0019】
内部温度センサ60は、食品Mの内部温度を測定する。ここで、
図2は、本実施形態に係る内部温度センサ60の構成を示す図である。
図2に示すように、内部温度センサ60は、シース部61と、スリーブ部62と、導線部63と、内部コネクタ64とを有する。また、内部温度センサ60は、
図1に示すように、内部コネクタ64、内部アダプタ65、外部アダプタ66、および外部コネクタ67を介して、熟成室40の外側にある受信計68と接続しており、受信計68により温度が計測される。
【0020】
また、本実施形態において、マイクロ波熟成装置1は、食品Mの表面温度を測定する外部温度センサ(不図示)を有している。外部温度センサとしてたとえば非接触により赤外線や可視光線の強度を測定する放射型温度センサを用いることができ、また、外部温度センサを有しない構成とすることもできる。
【0021】
内部温度センサ60により測定された食品Mの内部温度、および外部温度センサにより測定された食品Mの表面温度は、制御部70へと出力される。そして、後述するように、制御部70により、内部温度センサ60により測定された食品Mの内部温度、および/または、外部温度センサにより測定された食品Mの外部温度に基づいて、温度制御および風量制御が行われる。
【0022】
制御部70には、熟成させる食品Mの表面温度および内部温度がそれぞれ所定の温度となるように温度制御を行うプログラムが組み込まれている。具体的には、制御部70は、内部温度センサ60により測定された食品Mの内部温度および/または外部温度センサにより測定された食品Mの外部温度に基づいて、冷却器10、マイクロ波発振部30およびファン43の動作を制御することで、冷却器10による冷気の温度、マイクロ波発振部30によるマイクロ波の出力、ファン43の風量を制御して温度制御を行う。たとえば、制御部70は、マイクロ波発振部30のマイクロ波の出力を高くすることで食品Mの内部温度を高くすることができ、また、冷却器10による冷気の温度を低くし、あるいは、ファン43の風量を高くすることで、食品Mの表面温度および/または内部温度を低くすることができる。
【0023】
また、制御部70は、マイクロ波発振部30によるマイクロ波の発振を制御することができる。特に、本実施形態では、マイクロ波発振部30が半導体発振器であり、マイクロ波の発振を高い精度で制御することができる。そして、制御部70は、マイクロ波発振部30によるマイクロ波の発振を制御することで、マイクロ波を照射する。
【0024】
このようにマイクロ波を照射して食品Mを熟成する場合、マイクロ波は誘電加熱により食品内部まで加熱するため、食品Mの表面に加えて食品Mの内部まで加熱することができる。通常、食品Mの内部を温めることで食品Mの熟成を促進することができるが、食品Mの表面を温めることは食品Mの表面に付着した菌の増殖を促すこととなる。これに対して、本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1では、冷却機構、すなわち、冷却器10およびファン43の動作により食品Mの表面を冷却することで、食品Mの表面に付着した菌の増殖を抑制することができる。
【0025】
特に、本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1では、制御部70の制御により、加熱機構(マイクロ波発振部30)による食品Mの加熱と、冷却機構(冷却器10およびファン43)による食品Mの表面の冷却とを同時に行うことで、食品Mの表面温度が内部温度よりも低くなるように、加熱機構および冷却機構の動作が制御されている。具体的には、制御部70は、食品Mの表面温度が内部温度よりも低くなるように、冷却器10による冷気の温度、マイクロ波発振部30の出力、ファン43による風量を制御する。なお、食品Mを熟成している間中、マイクロ波を連続して照射する必要はなく、少なくとも1時間以上(好ましくは3時間以上、より好ましくは5時間以上)、マイクロ波の照射が行なわれる構成とすることができる。
【0026】
また、本実施形態において、マイクロ波熟成装置1は、ユーザが操作するための操作部90を備えており、ユーザは操作部90を操作することで、食品Mのドライエイジングに適した温度制御および風量制御を行うドライエイジングモードを、マイクロ波熟成装置1に実行させることができる。さらに、本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1では、牛肉などの肉塊をドライエイジングする通常のドライエイジングモードに加えて、魚介類のように切り身が小さく乾燥しやすい食品Mや乾燥茶葉のように水分含有量の少ない食品Mを適切にドライエイジングする特定ドライエイジングモードを操作部90で選択できるようになっており、特定ドライエイジングモードが選択された場合には、乾燥しやすい食品Mや水分含有量の少ない食品Mに適した温度制御および風量制御を行うこともできる。なお、通常のドライエイジングモードおよび特定ドライエイジングモードにおける温度制御および風量制御については後述する。
【0027】
UVランプ80は、紫外線を発生させる装置である。本実施形態では、UVランプを熟成室40内に直接設置することで、食品Mの熟成中に、UVランプ80で発生させた紫外線を、熟成室40内に置かれた食品Mの表面に照射することができる。このように、熟成中に、紫外線を食品Mの表面に直接照射することで、食品Mの表面に存在する菌の増殖をより抑制することができる。なお、制御部70は、UVランプ80の動作も制御することができる。たとえば、制御部70は、熟成を開始したタイミングまたは熟成室40の扉を(開けた後に)閉じたタイミングから、一定時間(たとえば数時間)、UVランプ80に紫外線を照射させるように制御を行うことができる。
【0028】
(ドライエイジング)
次に、本実施形態に係る食品Mのドライエイジングについて説明する。ドライエイジングとは、食品Mを真空パックなどに包まずに、食品Mに風を直接当てて乾燥させながら熟成させることで、腐敗を抑制しながら食品Mを熟成させる手法である。肉塊などを熟成させる通常のドライエイジングモードにおいては、腐敗を抑制するために、食肉Mを直接風が当たるように配置し、一般的な熟成に適した風量(たとえば0.5~10.0m/秒)で熟成が行われる。また、本実施形態では、通常のドライエイジングモードにおいては、食品Mの表面温度と内部温度との差が8℃を超えるように、冷却器10による冷気の温度、マイクロ波発振部30によるマイクロ波の出力、ファン43の風量を制御することで、食品Mの表面に付着した菌の増殖を抑制しながら、食品Mの内部の熟成を促進させる。
【0029】
一方で、魚介類などの切り身が小さく乾燥しやすい食品Mや、乾燥茶葉などのように水分含有量が少ない食品Mで、通常のドライエイジングモードによりドライエイジングを行った場合、食品Mが直ぐに乾燥してしまい、十分な熟成期間を得ることができないという問題があった。そこで、本実施形態では、乾燥しやすい食品Mや水分含有量が少ない食品Mについては、食品Mの水分蒸発を抑制し、十分な熟成期間を得るために、下記(1)~(3)のマイクロ波熟成方法によりドライエイジングが行われる。なお、下記(1)のマイクロ波熟成方法は、通常のドライエイジングモードおよび上述した特定ドライエイジングモードの両方で行うことができ、(2),(3)のマイクロ波熟成方法は、特定ドライエイジングモードにより行われる。
【0030】
(1)食品MにシートSを被せてマイクロ波熟成を行う方法
図3は、本実施形態に係るマイクロ波熟成方法の一例を説明するための図である。本実施形態では、
図3に示すように、食品Mをザルやバットなどの容器Cに収容し、食品Mを収容した容器Cの上面をシートSで蓋をする。このように、食品MにシートSを被せることで、食品Mに冷風が直接当たることを抑制することができるため、食品Mへのマイクロ波の照射により発生した水蒸気の容器C外部への拡散を抑制し、容器C内の湿度を高い状態で維持することができ、食品M中の水分が過度に蒸発してしまい食品Mが熟成に適した範囲を超えて乾燥してしまうことを有効に防止することができる。なお、
図3に示す図では、食品Mと接しないようにシートSを被せる構成を例示しているが、食品MとシートSとが接触するように、シートSを食品Mに被せる構成としてもよい。また、
図3に示すように、食品Mの片面側だけをシートSで被う構成に限定されず、食品Mの全体をシートSで包む構成としてもよい。
【0031】
また、シートSは、マイクロ波に対して耐性があり、かつ、通気性および透湿性を有する素材から構成される。シートSが通気性を有することで、冷却器10により冷却された空気がシートSを通過して、食品Mの表面を冷却することができ、シートSが透湿性を有することで、食品Mから蒸発した水蒸気がシートSで結露し食品Mに滴下してしまうことを防止することができる。このようなシートSとしては、市販のクッキングシートやエイジングシートを用いることができる。また、上記特性を有するものであれば、ティッシュペーパーやキッチンペーパーなども用いることができる。シートSには、切り込みNが入れられており、切り込みNの大きさ、および/または、切り込みNの量に応じて、食品Mの水分蒸発を調整することができる。たとえば、水分含有量が少ない乾燥茶葉などの食品Mでは、切り込みNの大きさを小さくし、あるいは、切り込みNの量を少なくすることで、食品Mの水分蒸発量を少なくすることができる。また、魚介類のように徐々に乾燥させてよい食品Mでは、切り込みNを比較的大きくし、あるいは、切り込みNの量を比較的多くすることで、食品Mの水分蒸発量を多くすることができる。
【0032】
(2)ファン43の風量を0.5m/秒未満としてマイクロ波熟成を行う方法
また、本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1は、特定ドライエイジングモードが選択された場合に、食品Mの水分蒸発を抑制し十分な熟成期間を得るために、制御部70によりファン43の動作を制御することで、通常のドライエイジングモードにおいて0.5~10.0m/秒であるファン43の風量を0.5m/秒未満に制御することができる。これにより、食品Mがファン43から送風される冷風により乾燥し過ぎしてしまうことを抑制し、食品Mの熟成を促進することができる。
【0033】
(3)食品Mの外部温度と内部温度との差を8℃以内としてマイクロ波熟成を行う方法
また、本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1は、特定ドライエイジングモードが選択された場合に、制御部70により、食品Mの表面温度と内部温度との差が8℃以内となるように、マイクロ波の照射量、熟成室40の温度、ファン43の風量を調整する。このように、食品Mの表面温度と内部温度との差が8℃以内とすることで、食品Mの乾燥を抑制し、十分な熟成期間を確保することが可能となる。
【0034】
(4)その他
また、乾燥茶葉のように、初めから水分含有量が少なく熟成が進みにくい食品Mでは、上記(1)~(3)のマイクロ波熟成方法によるドライエイジングを行う前に、食品Mの表面に霧吹きなどで水を吹きかけ、食品Mを湿潤させておくことで、食品Mの熟成を促進させる構成とすることもできる。また、魚介類などの乾燥しやすい食品Mであっても、ドライエイジングの途中で食品Mに霧吹きなどで水を吹きかけることで、熟成に適した水分含有量を維持させることもできる。このように、食品Mに霧吹きなどで水を吹きかけて、熟成に適した水分含有量を維持することで、十分な熟成期間を確保することができ、食品Mを十分に熟成させることができる。たとえば、乾燥茶葉では、最初に水を吹きかけただけでは4日程度で乾燥し熟成が進まなくなるが、ドライエイジングの途中で水を追加的に吹きかけることで20日間も熟成させることが可能となる。なお、食品Mに霧吹きなどで水を吹きかける構成に代えて、食品Mに水蒸気(過熱水蒸気ではない)を吹き付ける構成としてもよい。また、マイクロ波熟成装置1に、食品Mへの水または水蒸気の吹きかけを自動で行う機構を設ける構成とすることもできる。
【0035】
さらに、本実施形態にマイクロ波熟成装置1では、牛肉の肉塊などのドライエイジングでは、食品Mに内部温度センサ60のシース部61を直接挿して食品Mの内部温度を測定し、測定した食品Mの内部温度に基づいて、温度制御および風量制御が行われる。しかし、熟成対象の食品Mが、茶葉や魚卵のように、内部温度センサ60のシース部61を挿して食品Mの内部温度を直接測定できない場合がある。本実施形態では、このような食品Mについて、
図3に示すように、ビーカーBなどの容器に水Wを入れ、この水Wの温度を内部温度センサ60により測定することで、測定した水Wの温度を食品Mの内部温度とみなし、温度制御や風量制御を行う構成とすることができる。また、
図3に示す構成において、内部温度センサ60で測定した温度に基づく制御を行わないで、食品Mに一定出力のマイクロ波を照射し、食品Mを熟成させる構成とすることもできる。この場合、水Wを入れたビーカーBに内部温度センサ60を挿したまま、ビーカーBを、網目が所定ピッチ幅(たとえば2cm以内)の棚44の下側(棚44を介して照射口42と反対側)に静置する構成とすることが好ましい。これにより、照射口42からビーカーBへと照射されるマイクロ波を減衰させることができ、内部温度センサ60を保護することができるとともに、水Wによるマイクロ波の吸収を抑制し、食品Mに十分なマイクロ波を照射することが可能となる。
【0036】
次に、本実施形態に係るドライエイジングの試験例について説明する。
【0037】
(乾燥茶葉のドライエイジング)
市販の紅茶用の乾燥茶葉(ネパール産の夏摘み乾燥茶葉)を原料としてドライエイジング試験を行った。具体的には、ポリプロピレン製のバットに60gの乾燥紅茶の葉を広げ、12gの蒸留水を霧吹きで吹きかけた後、
図3に示すように、切れ目が数カ所入ったクッキングシートでバットの上面を被い、熟成室40内にセットした。また、熟成室40には50mlの蒸留水を入れたビーカーを温度制御用に静置し、ビーカー内の蒸留水Wの温度を内部温度センサ60で測定した。そして、制御部70により、室内温度を0℃に冷却しながら、9日間、マイクロ波を連続照射して、ビーカー内の蒸留水Wの温度が5℃となるように、冷却器10による冷気の温度およびマイクロ波発振部30によるマイクロ波の出力を制御した。また、マイクロ波照射中は最大風速1m/秒の風量でファン43に送風を行わせ、熟成室40内の空気を循環させた。そして、乾燥茶葉の重量を1日1回測定し、重量が変化しなくなった日(9日目)まで、ドライエイジングを行った。なお、比較例として、同じ乾燥茶葉を、ジッパー付きの袋に入れ、マイクロ波を照射することなく、0℃で9日間冷蔵保存したものを使用した。
【0038】
上記ドライエイジング方法により9日間熟成させた紅茶の乾燥茶葉(実施例1)と、マイクロ波を照射せずに、表面温度および内部温度を0℃として、9日熟成させた紅茶の乾燥茶葉(比較例1)とについて、外部の専門家2名(フードアナリスト)により、官能試験を実施した。具体的には、それぞれの乾燥茶葉について、ホットの紅茶(茶葉1.5gを湯120mlで3分抽出)と、アイスの紅茶(茶葉4gを水400mlで約6時間抽出)を淹れ、試飲することで官能試験を行った。
【0039】
官能試験の結果、ホットの紅茶については実施例1の乾燥茶葉と比較例1の乾燥茶葉とで違いは分かりにくいとの評価が得られた。一方で、アイスの紅茶については、実施例1の乾燥茶葉の紅茶の方が、明らかにおいしく感じられたとの評価が得られた。このような評価は、実施例1の乾燥茶葉で淹れたアイスの紅茶では、乾燥茶葉の熟成が促進され成分に変化が生じたことにより、渋みのキレが良くなり(渋みが口の中で後を引かずスッと消えるようになり)、また、嫌味が残らなくなったことで、元からあるフルーティーさと蜜の甘さが強調され分かりやすくなったためと推測される。
【0040】
(生茶葉のドライエイジング)
次に、八女茶の生茶葉を原料としてドライエイジング試験を行った。具体的には、ポリプロピレン製のザルに250gの生茶葉を広げ、熟成室40内にセットした。また、熟成室40には50mlの蒸留水を入れたビーカーBを温度制御用に静置し、ビーカーB内の蒸留水Wを内部温度センサ60で測定した。そして、制御部70により、庫内温度を0℃に冷却しながら、13日間マイクロ波を連続照射して、ビーカーBの温度が5℃となるように、冷却器10による冷気の温度およびマイクロ波発振部30によるマイクロ波の出力を制御した。また、マイクロ波照射中は最大風速1m/秒の風量でファン43に送風を行わせ、熟成室40内の空気を循環させた。そして、生茶葉の重量を1日1回測定し、重量が変化しなくなった日(13日目)まで、ドライエイジングを行った。なお、比較例として、同一の生茶葉170gを、ポリプロピレン製のザルに広げ、マイクロ波を照射することなく30℃で2日間乾燥させたものを使用した。
【0041】
上記ドライエイジングにより、八女茶の生茶葉を13日熟成させた乾燥茶葉(実施例2)と、八女茶の生茶葉を、マイクロ波を照射せずに30℃で2日間乾燥させた乾燥茶葉(比較例2)とについて、アミノ酸の含有量を測定した。
図4に、アミノ酸の含有量の測定結果を示す。なお、
図4において、グレーの棒線が実施例2の乾燥茶葉のアミノ酸含有量を示しており、白の棒線が比較例2の乾燥茶葉のアミノ酸含有量を示している。分析は一般財団法人日本食品分析センターが実施し、遊離アミノ酸はアミノ酸自動分析法で測定した。
図4に示すように、アミノ酸の総含有量は比較例2の乾燥茶葉が多いのに対して、カルボキシル基を分子内に2つ有するグルタミン酸およびアスパラギン酸のみ、実施例2の生茶葉が比較例2の乾燥茶葉に対して増加していることがわかった。これより、実施例2のように、生茶葉を低温で熟成させることにより、旨み成分のグルタミン酸が選択的に増大することがわかった。
【0042】
さらに、上記ドライエイジング試験において、八乙女の生茶葉を13日間熟成した乾燥茶葉(実施例2)と、八乙女の生茶葉を、マイクロ波を照射せずに30℃で2日間乾燥させた乾燥茶葉(比較例2)とについて、外部の専門家1名(フードアナリスト)により、官能試験を実施した。具体的には、それぞれの乾燥茶葉について、常温(茶葉1gを水100mlで3時間抽出)、熱湯(茶葉1gを熱湯65mlで1分間抽出)、70℃(2煎目,茶葉1gを熱湯65mlで1分間抽出)でそれぞれ抽出し、抽出したお茶を試飲することで官能試験を行った。その結果、生茶葉を熟成または乾燥した茶葉は青臭さが残存するものの、70℃で抽出したお茶の2煎目においては、実施例2の茶葉にのみ、フルーティーさが認められた。生茶葉を市販のお茶のレベルまで加工することはできていないが、本実施形態に係るマイクロ波熟成方法により渋味の低減と旨味の増加が確認できた。
【0043】
(スジコのドライエイジング)
市販のスジコを原料としてドライエイジング試験を行った。具体的には、スジコ約800gをポリプロピレン製のバットに入れ、切れ目が数カ所入ったクッキングシートでバットの上面を被い、熟成室40内にセットした。また、熟成室40には50 mlの蒸留水を入れたビーカーBを温度制御用に静置し、室内温度を-2℃に冷却しながら、マイクロ波を連続照射して、スジコの内部温度を6℃として、6日間熟成を行った。また、マイクロ波照射中は最大風速1m/秒の風量でファン43に送風を行わせ、熟成室40内の空気を循環させた。なお、途中の3日目でサンプリングを行い、3日間熟成させたスジコ(実施例3)と、6日間熟成させたスジコ(実施例4)とを得た。そして、実施例3,4のスジコ、並びに、マイクロ波を照射せずに冷凍保存させたスジコ(比較例3)について、冷凍(-30℃)で保存した後、冷蔵庫(5℃)に移し24時間静置して解凍し、その後、和食料理店の料理人により、40℃程度のぬるま湯を用いて各スジコを捌きイクラに調製し、官能試験に供した。
【0044】
官能試験は、一般財団法人おいしさの科学研究所において、食経験豊かな10名のパネルにより行った。また、本官能試験では、マイクロ波を照射しないで冷凍保存させた比較例3のスジコ由来のイクラをコントロールとし、実施例3および実施例4のスジコ由来のイクラの「旨み」および「イクラ特有の味の濃さ」について比較評価した。また、各パネルには、各イクラについて自由にコメントもしてもらった。
【0045】
図5は、マイクロ波を照射しないで冷凍保存させた比較例3のスジコ由来のイクラの評価をコントロールとした、マイクロ波を照射して3日および6日間熟成させた実施例3,4のスジコ由来のイクラの「旨み」および「イクラ特有の味の濃さ」の官能検査の結果を示す図である。また、
図5においては、「旨み」および「イクラ特有の味の濃さ」について、比較例3での評価を基準点の3点とし、比較例3に対して「強い」場合は5点、「やや強い」場合は4点、「比較例3と同じ」場合は3点、「やや弱い」場合は2点、「弱い」場合は1点の5段階で評価し、各パネルの評価値の平均値を求めた。
図5に示すように、本実施形態に係るドライエイジングで3日間熟成させた実施例3のスジコ由来のイクラについて、「旨み」および「イクラ特有の味の濃さ」が、比較例3に比べて強く感じる人の割合が多かった。また、マイクロ波を3日間連続照射した実施例3のスジコ由来のイクラに対するコメントとして、「色・味ともに一番良好で、活用幅がありそう(しっとり感がおにぎり向き)」との感想が得られた。なお、マイクロ波を照射して6日間熟成させた実施例4のスジコ由来のイクラは、熟成期間が長くなり過ぎてしまい、「旨み」および「イクラ特有の味の濃さ」は比較例3よりも低下した。
【0046】
(真鯛のドライエイジング)
市販の真鯛(生魚)を原料としてドライエイジング試験を行った。具体的には、真鯛(生魚)1匹を3枚におろし、一方の半身はそのまま冷凍保存し、もう一方の半身(約500gの鯛の切り身)を熟成室40内に入れ、熱電対を挿入した。熟成室40内の温度が0℃、鯛の内部温度が8℃となるように、冷却器10による冷気の温度およびマイクロ波発振部30によるマイクロ波の出力を制御した。また、マイクロ波照射中は最大風速0.3m/秒の風量でファン43に送風を行わせ、熟成室40内の空気を循環させた。そして、マイクロ波を連続照射して、真鯛の切り身を3日間熟成させた。
【0047】
上記ドライエイジングにより3日間熟成させた鯛の切り身(実施例5)と、マイクロ波を照射せずに冷凍保存させた鯛の切り身(比較例4)とについて、グルタミン酸および遊離アミノ酸の含有量、並びに、イノシンおよびイノシン酸の核酸成分の含有量を測定した。なお、グルタミン酸はうま味に関連するアミノ酸であり、イノシン酸は魚類のうま味に関連する核酸成分であり、両者は魚類のうま味を示す指標となる。本分析は一般財団法人食肉科学技術研究所が実施し、遊離アミノ酸はアミノ酸自動分析法で測定し、イノシン酸は高速液体クロマトグラフィーで測定した。
図6および下記表1に、遊離アミノ酸の測定結果および核酸成分の分析結果を示す。また、
図7に、グルタミン酸、総遊離アミノ酸、イノシン、およびイノシン酸の測定結果を示す。
【表1】
【0048】
図7に示すように、マイクロ波を照射した実施例5の鯛の切り身では、マイクロ波を照射しない比較例4の鯛の切り身と比べて、グルタミン酸およびイノシン酸の含有量が増加した。具体的には、本実施形態に係るマイクロ波熟成方法(実施例5)では、マイクロ波を照射しない冷凍保存(比較例4)と比べて、3日間のドライエイジングで、グルタミン酸の含有量が63%増加し、イノシン酸の含有量が7%増加した。また、魚類は一般に、熟成期間が経つほどグルタミン酸が増加するのに対して、イノシン酸は減少する傾向があるが、マイクロ波で熟成期間を短縮することにより、イノシン酸を減少させることなくグルタミン酸を多く含んだ熟成魚を提供することが可能となることがわかった。
【0049】
なお、本試験例では、約500gの鯛の切り身をそのまま熟成室40内に入れて熟成を行ったが、鯛の切り身をバットに入れ、エイジングシートで鯛の切り身を覆って熟成することも有効である。この場合、鯛の切り身からの水分の蒸発が抑制されるため、最適な熟成期間は7日間と長くなり、その分、熟成を長く行うことが可能となる。
【0050】
(インドマグロのドライエイジング)
インドマグロの切り身を原料としてドライエイジング試験を行った。具体的には、インドマグロの切り身をポリプロピレン製のバットに入れ、切れ目が数カ所入ったクッキングシートでバットの上面を覆い、熟成室40内にセットした。また、室内温度を0℃に冷却しながら、マイクロ波を連続照射して、インドマグロの内部温度を8℃とし、7日間熟成を行った。また、マイクロ波照射中は、最大風速1m/秒の風量でファン43に送風を行わせ、熟成室40内の空気を循環させた。
【0051】
上記ドライエイジングにより7日間熟成させたインドマグロの切り身(実施例6)と、マイクロ波を照射せずに冷凍保存させたインドマグロの切り身(比較例5)とについて、グルタミン酸およびイノシン酸の含有量を測定した。その結果、比較例5のインドマグロの切り身に対して、実施例6のインドマグロの切り身では、グルタミン酸が1.3倍、イノシン酸が1.1倍に増加したことがわかった。
【0052】
以上のように、本実施形態に係るマイクロ波熟成方法は、食品Mにマイクロ波を照射しながら送風を行うことで、食品Mの表面を乾燥させて熟成を行うドライエイジング工程において、(1)食品MにシートSを被せること、(2)ファン43の風量を0.5m/秒未満とすること、(3)食品Mの外部温度と内部温度との差を8℃以内とすることの、いずれかの方法で、マイクロ波照射による食品Mの水分蒸発を抑制し、食品Mの水分含有量を熟成に好適な範囲に長時間維持させることができ、水分含有量が少ない乾燥茶葉などの食品Mや、乾燥しやすい魚介類などの食品Mにおいても、十分な熟成期間を得ることができ、食品Mを十分に熟成させることが可能となる。
【0053】
また、乾燥茶葉など食品Mでは、水分含有量が少ないため、ドライエイジングにおいて熟成が進行しにくいが、霧吹きなどで水を吹きかけた後に、シートSを被せて水分蒸発を抑制することで、熟成を促進することができる。また、茶葉や魚卵など、食品Mに内部温度センサ60を挿入して食品Mの内部温度を測定することができない食品では、食品Mと同じく熟成室40内に収容したビーカーBに水Wを入れておき、ビーカーB内の水Wの温度を内部温度センサ60で測定し、測定した水Wの温度を食品Mの内部温度として推定することで、茶葉や魚卵などの食品Mについても適切に温度制御を行うことができ、適切に熟成を行うことができる。
【符号の説明】
【0054】
1…マイクロ波熟成装置
10…冷却器
20…冷媒流路
30…マイクロ波発振部
31…ケーブル
40…熟成室
41…壁部
42…照射口
43…ファン
50…断熱部
60…内部温度センサ
70…制御部
80…UVランプ
90…操作部