(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070491
(43)【公開日】2022-05-13
(54)【発明の名称】熱交換器
(51)【国際特許分類】
F28D 1/03 20060101AFI20220506BHJP
F28F 9/02 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
F28D1/03
F28F9/02 301J
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020179582
(22)【出願日】2020-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】502112854
【氏名又は名称】有限会社和氣製作所
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(72)【発明者】
【氏名】山岸 成多
(72)【発明者】
【氏名】松田 利彦
(72)【発明者】
【氏名】石室 賢人
(72)【発明者】
【氏名】和氣 庸人
(72)【発明者】
【氏名】井上 勝文
(72)【発明者】
【氏名】坂本 亮平
(72)【発明者】
【氏名】大西 人司
【テーマコード(参考)】
3L103
【Fターム(参考)】
3L103AA01
3L103BB33
3L103BB42
3L103CC02
3L103CC18
3L103CC22
3L103DD15
3L103DD95
(57)【要約】
【課題】複数の熱交換チューブを積層して構成される熱交換器において、熱交換チューブ間の隙間を精度よく形成する。
【解決手段】熱交換器は、第1の流体F1が通過可能な隙間をあけて積層された複数の熱交換チューブ20を有する。熱交換チューブ20は、第1の流体F1と熱交換を行う第2の流体が流れ、折り返し部26aを含む内部流路26と、折り返し部26aからそれぞれ延在して間隔をあけて互いに対向する内部流路26における2つの流路部分26bの間に設けられた複数のスリット46と、隣接する他の熱交換チューブ20に接触して隙間を形成する複数の凸状支持部40と、を備える。複数の熱交換チューブ20の積層方向視で、複数のスリット46の少なくとも1つが、その延在方向の中心が隣接し合う2つの凸状支持部40を結ぶ直線上から外れた状態で延在する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の流体が通過可能な隙間をあけて積層された複数の熱交換チューブを有し、
前記熱交換チューブそれぞれが、
前記第1の流体と熱交換を行う第2の流体が流れ、折り返し部を含む内部流路と、
前記内部流路に連通し、前記第2の流体が流入する流入側接続部と、
前記内部流路に連通し、前記第2の流体が流出する流出側接続部と、
前記折り返し部からそれぞれ延在して間隔をあけて互いに対向する前記内部流路における2つの流路部分の間の前記熱交換チューブの部分に設けられた複数のスリットと、
隣接する他の熱交換チューブに接触して前記隙間を形成する複数の凸状支持部と、を備え、
前記複数の熱交換チューブの積層方向視で、前記複数のスリットの少なくとも1つが、その延在方向の中心が隣接し合う2つの前記凸状支持部を結ぶ直線上から外れた状態で延在する、熱交換器。
【請求項2】
前記積層方向視で、前記複数のスリットの少なくとも1つが、隣接し合う2つの前記凸状支持部を結ぶ直線と交差することなく延在する、請求項1に記載の熱交換器。
【請求項3】
前記積層方向視で前記流入側接続部と前記流出側接続部との間を通過する前記熱交換チューブの中心線上を外して、前記複数のスリットが延在する、請求項1または2に記載の熱交換器。
【請求項4】
前記複数のスリットが、前記積層方向視で、中心線対称に前記熱交換チューブに設けられている、請求項1から3のいずれか一項に記載の熱交換器。
【請求項5】
前記熱交換チューブが、切り起こし部を備え、
前記スリットが、前記切り起こし部における貫通穴である、請求項1から4のいずれか一項に記載の熱交換器。
【請求項6】
前記切り起こし部における切り起こし片が、前記貫通穴に対して前記第1の流体の流れ方向の下流側で起立し、前記流れ方向の上流側に傾いた壁状である、請求項5に記載の熱交換器。
【請求項7】
前記切り起こし部における切り起こし片が、前記第1の流体の流れ方向に対して直交する方向に延在するブリッジ状である、請求項5に記載の熱交換器。
【請求項8】
前記流入側接続部と前記流出側接続部とが隣接し、
前記積層方向視で前記流入側接続部と前記流出側接続部との間の前記熱交換チューブの部分に、貫通穴が設けられている、請求項1から7のいずれか一項に記載の熱交換器。
【請求項9】
前記流入側接続部と前記流出側接続部とが、前記第1の流体の流れ方向に並んでいる、請求項1から8のいずれか一項に記載の熱交換器。
【請求項10】
前記流入側接続部が前記第1の流体の流れ方向の下流側に位置し、前記流出側接続部が上流側に位置する、請求項9に記載の熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、水(流体)が流れる内部流路を備えるフィン状の複数の熱交換チューブが隙間をあけて積層された熱交換器が開示されている。複数の熱交換チューブの間に熱交換対象の空気(流体)が通過する隙間を形成するために、熱交換チューブそれぞれには、隣接する他の熱交換チューブに接触する複数のエンボス部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載するようなフィン状の複数の熱交換チューブを積層して構成される熱交換器の場合、熱交換チューブ間の隙間を精度よく形成する必要がある。さもなくば、熱交換チューブ間の流路抵抗にバラツキが生じ、その結果として熱交換器の熱交換率にバラツキが生じうる。
【0005】
そこで、本開示は、複数の熱交換チューブを積層して構成される熱交換器において、熱交換チューブ間の隙間を精度よく形成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するために、本開示の一態様によれば、
第1の流体が通過可能な隙間をあけて積層された複数の熱交換チューブを有し、
前記熱交換チューブそれぞれが、
前記第1の流体と熱交換を行う第2の流体が流れ、折り返し部を含む内部流路と、
前記内部流路に連通し、前記第2の流体が流入する流入側接続部と、
前記内部流路に連通し、前記第2の流体が流出する流出側接続部と、
前記折り返し部からそれぞれ延在して間隔をあけて互いに対向する前記内部流路における2つの流路部分の間の前記熱交換チューブの部分に設けられた複数のスリットと、
隣接する他の熱交換チューブに接触して前記隙間を形成する複数の凸状支持部と、を備え、
前記複数の熱交換チューブの積層方向視で、前記複数のスリットの少なくとも1つが、その延在方向の中心が隣接し合う2つの前記凸状支持部を結ぶ直線上から外れた状態で延在する、熱交換器が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、複数の熱交換チューブを積層して構成される熱交換器において、熱交換チューブ間の隙間を精度よく形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の実施の形態1に係る熱交換器の正面図
【
図2】
図1のA-A線に沿った熱交換器の部分断面図
【
図3】実施の形態1に係る熱交換器の熱交換チューブの斜視図
【
図5】
図4のB-B線に沿った熱交換チューブの断面図
【
図6A】スリットと2つの凸状支持部とが設けられた比較例の熱交換チューブの簡易モデルを示す図
【
図6B】積層によってねじれ変形した比較例の熱交換チューブの簡易モデルを示す図
【
図7A】実施例の熱交換チューブの簡易モデルを示す図
【
図7B】好ましい実施例の熱交換チューブの簡易モデルを示す図
【
図8】本開示の実施の形態2に係る熱交換器の熱交換チューブの断面図
【
図9】本開示の実施の形態3に係る熱交換器の熱交換チューブの斜視図
【
図10】実施の形態3に係る熱交換チューブの断面図
【
図13】熱交換チューブの内部流路の異なる例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の一態様の熱交換器は、第1の流体が通過可能な隙間をあけて積層された複数の熱交換チューブを有し、前記熱交換チューブそれぞれが、前記第1の流体と熱交換を行う第2の流体が流れ、折り返し部を含む内部流路と、前記内部流路に連通し、前記第2の流体が流入する流入側接続部と、前記内部流路に連通し、前記第2の流体が流出する流出側接続部と、前記折り返し部からそれぞれ延在して間隔をあけて互いに対向する前記内部流路における2つの流路部分の間の前記熱交換チューブの部分に設けられた複数のスリットと、隣接する他の熱交換チューブに接触して前記隙間を形成する複数の凸状支持部と、を備え、前記複数の熱交換チューブの積層方向視で、前記複数のスリットの少なくとも1つが、その延在方向の中心が隣接し合う2つの前記凸状支持部を結ぶ直線上から外れた状態で延在する。
【0010】
このような態様によれば、複数の熱交換チューブを積層して構成される熱交換器において、熱交換チューブ間の隙間を精度よく形成することができる。
【0011】
例えば、前記積層方向視で、前記複数のスリットの少なくとも1つが、隣接し合う2つの前記凸状支持部を結ぶ直線と交差することなく延在してもよい。
【0012】
例えば、前記積層方向視で前記流入側接続部と前記流出側接続部との間を通過する前記熱交換チューブの中心線上を外して、前記複数のスリットが延在してもよい。
【0013】
例えば、前記複数のスリットが、前記積層方向視で、中心線対称に前記熱交換チューブに設けられてもよい。
【0014】
例えば、前記熱交換チューブが、切り起こし部を備え、前記スリットが、前記切り起こし部における貫通穴であってもよい。
【0015】
例えば、前記切り起こし部における切り起こし片が、前記貫通穴に対して前記第1の流体の流れ方向の下流側で起立し、前記流れ方向の上流側に傾いた壁状であってもよい。
【0016】
例えば、前記切り起こし部における切り起こし片が、前記第1の流体の流れ方向に対して直交する方向に延在するブリッジ状であってもよい。
【0017】
例えば、前記流入側接続部と前記流出側接続部とが隣接し、前記積層方向視で前記流入側接続部と前記流出側接続部との間の前記熱交換チューブの部分に、貫通穴が設けられてもよい。
【0018】
例えば、前記流入側接続部と前記流出側接続部とが、前記第1の流体の流れ方向に並んでいてもよい。
【0019】
例えば、前記流入側接続部が前記第1の流体の流れ方向の下流側に位置し、前記流出側接続部が上流側に位置してもよい。
【0020】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態1に係る熱交換器の正面図である。また、
図2は、
図1のA-A線に沿った熱交換器の部分断面図である。なお、図に示すX-Y-Z直交座標系は、本開示の理解を容易にするためのものであって、本開示の実施の形態を限定するものではない。X軸方向は熱交換チューブの短手方向を示し、Y軸方向は熱交換チューブの長手方向を示し、Z軸方向は複数の熱交換チューブの積層方向を示している。
【0022】
図1に示す熱交換器10は、空調装置や冷凍装置などの冷凍サイクルや発熱を伴って作動する機器の冷却装置などに使用される。具体的には、本実施の形態1の場合、熱交換器10は、空気などの流体(第1の流体)F1によって水やハイドロフルオロカーボンなどの流体(第2の流体)F2を加熱または冷却するための装置である。
【0023】
図1および
図2に示すように、熱交換器10は、第1の流体F1が通過可能な隙間をあけて積層された複数の熱交換チューブ20と、熱交換チューブ20を支持する筺体22とを有する。
【0024】
図3は、実施の形態1に係る熱交換器の熱交換チューブの斜視図である。また、
図4は、実施の形態1に係る熱交換器の熱交換チューブの上面図である。そして、
図5は、
図4のB-B線に沿った熱交換チューブの断面図である。なお、
図5は、2つの熱交換チューブが積層された状態を示している。
【0025】
図3~
図4に示すように、熱交換チューブ20は、概ね薄板状、いわゆるフィン状の部材であって、第1の流体F1と熱交換を行う部材である。
【0026】
図5に示すように、熱交換チューブ20は、例えば、プレス成型された2つの金属薄板20A、20Bを互いに接合することによって作成されている。本実施の形態1の場合、熱交換チューブ20に使用される金属薄板20A、20Bは、両面にアルミシリコン合金などのロウ材層が形成され、厚さが0.2mmのアルミニウム基板、いわゆるクラッド板である。2つの金属薄板20A、20Bそれぞれにプレス成型によってエンボス部20a、20bが成型されている。これらのエンボス部20a、20bが互いに対向した状態で2つの金属薄板20A,20Bが接合されることにより、熱交換チューブ20の内部流路26が形成されている。なお、熱交換チューブ20は、ステンレス基板の両面に銅やニッケルなどのロウ材層を形成したクラッド材で作製されてもよいし、両面にロウ材が接合されたまたはメッキされた銅基板で作製されてもよい。
【0027】
図3~
図5に示すように、熱交換チューブ20は、内部流路26に連通して第2の流体F2が流入する筒状の流入側接続部28と、内部流路26に連通して第2の流体F2が流出する筒状の流出側接続部30とを備える。本実施の形態1の場合、流入側接続部28と流出側接続部30は、熱交換チューブ20の長手方向(Y軸方向)の中心に、短手方向(X軸方向)に並んだ状態で配置されている。複数の熱交換チューブ20が積層された状態のとき、複数の熱交換チューブ20の流入側接続部28が積層方向(Z軸方向)に連結されるとともに、流出側接続部30が積層方向に連結される。流入側接続部28同士と、流出側接続部30同士は、加熱接合される、例えばロウ付けされる。複数の流入側接続部28が連結することにより、
図2に示すように、熱交換チューブ20それぞれの内部流路26に第2の流体F2を分配する流入側マニホールド流路32が形成される。また、複数の流出側接続部30が連結することにより、熱交換チューブ20それぞれの内部流路26からの第2の流体F2が合流する流出側マニホールド流路34が形成される。
【0028】
なお、流入側接続部28と流出側接続部30は、本実施の形態1のように、第1の流体F1の流れ方向(X軸方向)に並んでいる、すなわち流れ方向に重なるのが好ましい。これにより、これらが流れ方向に並んでいない場合に比べて、熱交換チューブ20の間の隙間Sを流れる第1の流体F1に対する流路抵抗を小さくすることができる。
【0029】
また、第1の流体F1と第2の流体F2との熱交換率を考慮すると、流入側接続部28が第1の流体F1の流れ方向(X軸方向)の下流側に位置し、流出側接続部30が第1の流体F1の流れ方向の上流側に位置するのが好ましい。
図3に示すように、流入側接続部28から内部流路26を介して流出側接続部30に流れる第2の流体F2は、熱交換チューブ20の積層方向(Z軸方向)視で、第1の流体F1の流れ方向に対して反対方向に流れる。その結果、第2の流体F2の流れは、第1の流体F1の流れに対する対向流とみなすことができる。その結果、第1および第2の流体F1、F2が、積層方向視で同一方向に流れる場合に比べて、すなわち流入側接続部28が第1の流体F1の流れ方向の上流側に位置し、流出側接続部30が下流側に位置する場合に比べて、第1および第2の流体F1、F2間の熱交換率が向上する。
【0030】
図1および
図2に示すように、積層状態の複数の熱交換チューブ20は、筺体22内に収容されている。筺体22は、熱交換チューブ20の短手方向(X軸方向)に開いた筒状であって、それにより第1の流体F1の流れ方向が熱交換チューブ20の短手方向に規制されている。
【0031】
また、本実施の形態1の場合、筺体22は、天板部22a、底板部22b、および天板部22aと底板部22bとを接続する側壁部22cとを備える。天板部22a、複数の熱交換チューブ20、および底板部22bが積層された状態で加熱されて互いに接合されることにより、これらの積層体が作製される。その後、側壁部22cを、ビスなどで積層体の天板部22aと底板部22bとに固定することにより、熱交換器10が作製される。
【0032】
また、筺体22は、流入側マニホールド流路32に連通する流入ポート36と、流出側マニホールド流路34に連通する流出ポート38とを備える。第2の流体F2は、流入ポート32を介して流入側マニホールド流路32内に入り、その流入側マニホールド流路32から熱交換チューブ20それぞれの内部流路26に入る。熱交換チューブ20それぞれの内部流路26内の第2の流体F2は、流出側マニホールド流路34で合流し、流出ポート38を介して熱交換器10の外部に流出する。
【0033】
図5に示すように、複数の熱交換チューブ20は、第1の流体F1が通過可能な隙間Sをあけて積層される。その隙間Sを形成して維持するために、熱交換チューブ20それぞれは、積層方向(Z軸方向)の両面に複数の凸状支持部40、42を備える。複数の凸状支持部40は熱交換チューブ20の一方の表面(金属薄板20A)に設けられ、複数の凸状支持部42は、他方の表面(金属薄板20B)に設けられている。また、複数の熱交換チューブ20の積層方向(Z軸方向)視で、複数の凸状支持部40の位置と複数の凸状支持部42の位置は一致する。
【0034】
このような熱交換チューブ20の複数の凸状支持部42と隣接する熱交換チューブ20の複数の凸状支持部44とが互いに接触して互いに支持し合うことにより、これら2つの熱交換チューブ20の間に、第1の流体F1が通過可能な隙間Sが形成される。凸状支持部42と凸状支持部44は、加熱接合される、例えばロウ付けされる。
【0035】
図4に示すように、本実施の形態1の場合、熱交換チューブ20の内部流路26は、積層方向(Z軸方向)視で、熱交換チューブ20の短手方向(X軸方向)に延在する中心線C1対称且つ長手方向(Y軸方向)に延在する中心線C2対称の形状を備える。具体的には、内部流路26は、流入側接続部28から流出側接続部30に向かって延在して熱交換チューブ20の長手方向の一方側に配置された略「M」字状の流路26Lと、流入側接続部28から流出側接続部30に向かって延在して長手方向の他方側に配置された略「M」字状流路26Rとから構成されている。その結果、内部流路26は、第2の流体F2の流れ方向が180度変わる複数の折り返し部26aを含んでいる。このような複数の折り返し部26aを内部流路26が含むことにより、その内部流路26内を流れる第2の流体F2と熱交換チューブ20上を流れる第1の流体F1との間の熱交換率が向上する。
【0036】
図4に示すように、熱交換チューブ20には、複数のスリット46が設けられている。具体的には、折り返し部26aから延在して間隔をあけて互いに対向する内部流路26における2つの流路部分26bの間の熱交換チューブ20の部分に、複数のスリット46が形成されている。本実施の形態1の場合、スリット46は、直線状の流路部分26bの延在方向(Y軸方向)に延在して熱交換チューブ20を貫通する長穴である。スリット46は、例えばパンチ加工によって熱交換チューブ20に形成される。
【0037】
このスリット46は、折り返し部26aから延在する2つの流路部分26bそれぞれを流れる第2の流体F2間の熱交換を抑制するために設けられている。すなわち、一方の流路部分26b内の第2の流体F2から他方の流路部分26b内の第2の流体F2への熱交換チューブ20を介する熱移動を、スリット46によって抑制している。言い換えると、スリット46は、熱のショートカットを抑制している。このような熱のショートカットが発生すると第1および第2の流体F1、F2間の熱交換率が低下するので、その対策としてスリット46が設けられている。
【0038】
このようなスリット46により、熱のショートカットは抑制することができるものの、熱交換チューブ20はスリットがない場合に比べて変形しやすくなる。そこで、熱交換チューブ20の変形を抑制できるように、複数のスリット46は適切な位置に設けられている。
【0039】
具体的には、
図4に示すように、複数の熱交換チューブ20の積層方向(Z軸方向)視で、スリット46の延在方向(Y軸方向)の中心が隣接し合う2つの凸状支持部40を結ぶ直線上から外れた状態で、少なくとも1つのスリット46は熱交換チューブ20に設けられている。その理由について説明する。
【0040】
図6Aは、スリットと2つの凸状支持部とが設けられた比較例の熱交換チューブの簡易モデルを示している。
図6Bは、積層によってねじれ変形した比較例の熱交換チューブの簡易モデルを示している。
【0041】
図6Aに示すように、隣接し合う、例えば最短距離で隣接し合う2つの凸状支持部140を結ぶ直線VL上に、スリット146の延在方向(Y軸方向)中心CSが位置する場合、比較例の熱交換チューブ120は変形しやすくなる。
【0042】
上述したように、複数の比較例の熱交換チューブ120は、それぞれ凸状支持部140、142を介して互いに支持された状態で積層される。しかしながら、熱交換チューブ120それぞれの許容できる製造誤差(例えば、凸状支持部140、142の高さ誤差など)、複数の熱交換チューブ120の許容できる組み立て誤差が累積すると、ある熱交換チューブ120に変形が発生しうる。
【0043】
例えば、誤差の累積により、
図6Bに示すように、隣接し合う2つの凸状支持部140の積層方向(Z軸方向)の位置(高さ位置)が異なるようなねじれ変形が、熱交換チューブ120に生じうる。これは、2つの凸状支持部140が、スリット146によって互いに拘束されておらず、互いに対して積層方向にシフトしやすいために生じる。このようなねじれ変形が生じると、熱交換チューブ120間の隙間の大きさにバラツキが生じ、それにより、この隙間を通過する第1の流体に対する流路抵抗にバラツキが生じうる。その結果、熱交換器の熱交換率にバラツキが生じうる。
【0044】
このようなねじれ変形は、
図6Aに示すように、隣接し合う2つの凸状支持部140を結ぶ直線VL上にスリット146の延在方向(Y軸方向)中心CSが位置する場合に生じやすい。また、スリット146の長さが大きくなればなるほど、熱交換チューブ120の変形量も大きい。
【0045】
そこで、本実施の形態1の場合、
図4に示すように、複数の熱交換チューブ20の積層方向(Z軸方向)視で、スリット46の延在方向(Y軸方向)の中心が隣接し合う2つの凸状支持部40を結ぶ直線上から外れた状態で、少なくとも1つのスリット46は熱交換チューブ20に設けられている。
【0046】
図7Aは、実施例の熱交換チューブの簡易モデルを示す図である。また、
図7Bは、好ましい実施例の熱交換チューブの簡易モデルを示す図である。
【0047】
図7Aに示す実施例の熱交換チューブ20において、複数の熱交換チューブ20の積層方向(Z軸方向)視で、スリット46の延在方向(Y軸方向)の中心CSは、隣接し合う2つの凸状支持部40を結ぶ直線VL上から外れている。その結果、中心CLが直線VL上に位置する
図6Aに示す比較例の熱交換チューブ120に比べて、熱交換チューブ20は、積層することによって生じる変形が抑制される。
【0048】
なお、隣接し合う2つの凸状支持部40を結ぶ直線VLが、スリット46の中心CSから離れてスリット46の両端に近づくほど、熱交換チューブ20の変形はより抑制される。
【0049】
図7Bに示す好ましい実施例の熱交換チューブ20において、複数の熱交換チューブ20の積層方向(Z軸方向)視で、スリット46は、隣接し合う2つの凸状支持部40を結ぶ直線VLと交差することなく延在する。これにより、2つの凸状支持部40は、その間にスリット46が存在しないために、互いに対して積層方向にシフトし難くされている。その結果、
図7Aに示す実施例の熱交換チューブ20に比べて、
図7Bに示す熱交換チューブ20はさらに変形しにくくされている。
【0050】
熱交換チューブ20の変形を抑制するために、複数の凸状支持部40(42)に対して位置決めされているのに加えて、スリット46は、本実施の形態1の場合、以下のことを考慮して熱交換チューブ20に設けられている。
【0051】
まず、本実施の形態1の場合、
図4に示すように、複数のスリット46は、熱交換チューブ20の長手方向(Y軸方向)に延在する中心線C2を外して延在するように、熱交換チューブ20に設けられている。すなわち、流入側接続部28と流出側接続部30との間を通過する中心線C2を外して延在するように、複数のスリット46は熱交換チューブ20に設けられている。これにより、複数の熱交換チューブ20を積層したときに、ある熱交換チューブ20が中心線C2に沿って折り曲がることを抑制している。
【0052】
具体的に説明すると、熱交換チューブ20それぞれの流入側接続部28と流出側接続部30には、積層方向(Z軸方向)のサイズについて許容できる誤差が存在する。複数の熱交換チューブ20を積層してその誤差が累積すると、ある熱交換チューブ20において、流入側接続部28と流出側接続部30との間に曲げ応力が発生する。このとき、流入側接続部28と流出側接続部30との間を通過する熱交換チューブ20の中心線C2上に、複数のスリット46が延在していると、その中心線C2に沿って熱交換チューブ20が折り曲がる可能性がある。
【0053】
したがって、
図4に示すように、複数のスリット46は、流入側接続部28と流出側接続部30との間を通過する中心線C2を外して、熱交換チューブ20に設けられている。
【0054】
また、本実施の形態1の場合、
図4に示すように、複数のスリット46は、複数の熱交換チューブ20の積層方向(Z軸方向)視で、熱交換チューブ20の2つの中心線C1、C2対称に配置されている。これにより、熱交換チューブ20の剛性が一様になり、熱交換チューブ20の変形が抑制されている。
【0055】
本実施の形態1の場合、熱交換チューブ20は、熱のショートカットを抑制する構成要素として、スリット46以外の構成要素も備えている。
【0056】
図4に示すように、複数の熱交換チューブ20の積層方向(Z軸方向)視で、流入側接続部28と流出側接続部30は、その間に内部流路26が存在しない状態で近い距離で隣接している。その間の熱交換チューブ20の部分に、流入側接続部28を流れる第2の流体F2と流出側接続部30を流れる第2の流体F2との間の熱移動を抑制する貫通穴48が設けられている。
【0057】
具体的に説明すると、熱交換チューブ20において、流入側接続部28を流れる第2の流体F2と流出側接続部30を流れる第2の流体F2との間の温度差が最も大きい。したがって、流入側接続部28と流出側接続部30とが隣接している場合、これらの間で大量の熱のショートカットが生じうる。この熱のショートカットを抑制するために、貫通穴48が設けられている。
【0058】
さらに、本実施の形態1の場合、
図4に示すように、複数の熱交換チューブ20の積層方向(Z軸方向)視で、流入側接続部28と内部流路26との間の熱交換チューブ20の部分と流出側接続部30と内部流路26との間の熱交換チューブ20の部分とにも、これらの間の熱のショートカットを抑制するための貫通穴50が設けられている。
【0059】
以上のような本実施の形態1によれば、複数の熱交換チューブを積層して構成される熱交換器において、熱交換チューブ間の隙間を精度よく形成することができる。
【0060】
(実施の形態2)
上述の実施の形態1の場合、
図5に示すように、スリット46は、例えばパンチ加工によって熱交換チューブ20の一部を除去することによって形成される貫通穴状である。本実施の形態2は、そのスリットの形成方法が、上述の実施の形態1とは異なる。この異なる点を中心に、本実施の形態2について説明する。
【0061】
図8は、本実施の形態2に係る熱交換器の熱交換チューブの断面図である。なお、
図8は、2つの熱交換チューブが積層された状態を示している。
【0062】
図8に示すように、スリット252bも、上述の実施の形態1の熱交換チューブ20のスリット46と同様に理由で、熱交換チューブ220に設けられている。しかしながら、本実施の形態2のスリット252bは、切り起こし部252の一部で構成されている。
【0063】
切り起こし部252は、例えば、熱交換チューブ220に角括弧状の切込みを形成し、その切込みに囲まれた部分を起立させたものである切り起こし片252aと、切り起こし片252aが起立することによって生じた貫通穴から構成されている。その切り起こし部252における貫通穴が、異なる内部流路226の部分(折り返し部から延在して互いに対向する部分)を流れる第2の流体F2間の熱のショートカットを抑制するスリット252bとして機能する。
【0064】
また、本実施の形態2の場合、切り起こし部252における切り起こし片252aは、スリット252b(貫通穴)に対して第1の流体F1の流れ方向の下流側で起立し、その流れ方向の上流側に傾いた壁状である。そのため、切り起こし片252aは、第1の流体F1の風向板として機能する。具体的には、切り起こし片252aは、第1の流体F1をスリット252b内にガイドする。それにより、第1の流体F1は、熱交換チューブ20の異なる隙間Sに流入する。その結果、熱交換器内を第1の流体F1は複雑に流れ、それにより第1の流体F1と第2の流体F2との間の熱交換率が、上述の実施の形態1に比べて向上する。
【0065】
本実施の形態2も、上述の実施の形態1と同様に、複数の熱交換チューブを積層して構成される熱交換器において、熱交換チューブ間の隙間を精度よく形成することができる。
【0066】
(実施の形態3)
本実施の形態3は、上述の実施の形態2の改良形態である。具体的には、切り起こし部における切り起こし片の形状が異なる。
【0067】
図9は、本実施の形態3に係る熱交換チューブの斜視図である。また、
図10は、本実施の形態3に係る熱交換器の熱交換チューブの断面図である。なお、
図10は、2つの熱交換チューブが積層された状態を示している。
【0068】
図9および
図10に示すように、本実施の形態3に係る熱交換器の熱交換チューブ320も、上述の実施の形態2の熱交換チューブ220と同様に、切り起こし部352を備える。本実施の形態3の場合、切り起こし部352における切り起こし片352aは、第1の流体F1の流れ方向に対して直交する方向に延在するブリッジ状である。切り起こし部352における貫通穴352bは、異なる内部流路326の部分(折り返し部から延在して互いに対向する部分)を流れる第2の流体F2間の熱のショートカットを抑制するスリットとして機能する。
【0069】
図10に示すように、第1の流体F1は、ブリッジ状の切り起こし片352aによってその上下に分流される。これにより、上述の実施の形態2に比べて熱交換器内を第1の流体F1は複雑に流れ、それにより第1の流体F1と第2の流体F2との間の熱交換率がさらに向上する。
【0070】
本実施の形態3も、上述の実施の形態1と同様に、複数の熱交換チューブを積層して構成される熱交換器において、熱交換チューブ間の隙間を精度よく形成することができる。
【0071】
以上、上述の実施の形態1~3を挙げて本開示を説明したが、本開示の実施の形態は上述の実施の形態に限らない。
【0072】
例えば、上述の実施の形態1の場合、
図4に示すように、熱交換チューブ20の内部流路26は、複数の熱交換チューブ20の積層方向(Z軸方向)視で、短手方向(X軸方向)に延在する中心線C1且つ長手方向(Y軸方向)に延在する中心線C2対称の形状である。具体的には、内部流路26は、熱交換チューブ20の長手方向の一方側に配置された略「M」字状の流路26Lと、長手方向の他方側に配置された略「M」字状流路26Rとから構成されている。
【0073】
しかしながら、本開示の実施の形態に係る熱交換器における熱交換チューブの内部流路の形状は、これに限定されない。
【0074】
【0075】
図11に示す熱交換チューブ420の場合、その内部流路426は、熱交換チューブ420の積層方向(Z軸方向)視で、短手方向(X軸方向)に延在する中心線C1且つ長手方向(Y軸方向)に延在する中心線C2対称の形状を備える。具体的には、内部流路426は、流入側接続部428から流出側接続部430に向かって延在して熱交換チューブ20の長手方向の一方側に配置された略「U」字状の流路426Lと、流入側接続部428から流出側接続部430に向かって延在して長手方向の他方側に配置された略「U」字状流路426Rとから構成されている。これにより、内部流路426は、2つの折り返し部426aと、その折り返し部426aから延在して間隔をあけて互いに対向する流路部分426bとを含んでいる。その流路部分426bの間の熱交換チューブ420の部分に、複数のスリット446が設けられている。
【0076】
図12に示す熱交換チューブ520の場合、その内部流路526は、熱交換チューブ520の積層方向(Z軸方向)視で、長手方向(Y軸方向)に延在する中心線C2対称の形状を備える。しかし、内部流路526の形状は、短手方向(X軸方向)に延在する中心線C1対称の形状ではない。その理由は、流入側接続部528と流出側接続部530が、熱交換チューブ520において長手方向の中心ではなく、長手方向の一方の端部で短手方向に並んだ状態で設けられているからである。内部流路526は、流入側接続部528から流出側接続部530に向かって延在して略「M」字状の形状を備える。これにより、内部流路526は、3つの折り返し部526aと、その折り返し部526aから延在して間隔をあけて互いに対向する流路部分526bとを含んでいる。その流路部分526bの間の熱交換チューブ520の部分に、複数のスリット546が設けられている。なお、複数のスリット546は、中心線C2上を外して設けられている。
【0077】
図13に示す熱交換チューブ620の場合、その内部流路626の形状は、熱交換チューブ520の積層方向(Z軸方向)視で、短手方向(X軸方向)に延在する中心線C1且つ長手方向(Y軸方向)に延在する中心線C2対称の形状ではない。その理由は、流入側接続部628と流出側接続部630が、熱交換チューブ620の対角線上に配置されているからである。そのため、内部流路626は、流入側接続部628から流出側接続部630に向かって延在して「逆S]字状の形状を備える。これにより、内部流路626は、2つの折り返し部626aと、その折り返し部626aから延在して間隔をあけて互いに対向する流路部分626bとを含んでいる。その流路部分626bの間の熱交換チューブ620の部分に、複数のスリット646が設けられている。
【0078】
このように熱交換器の内部流路の形状や流入側接続部と流出側接続部の位置は、用途に応じて種々に変更可能である。本開示の実施の形態に係る熱交換器における熱交換チューブの内部流路は、少なくとも1つの折り返し部を含む流路であればよい。すなわち、本開示の実施の形態に係る熱交換器における熱交換チューブは、1つの折り返し部によって間隔をあけて互いに対向する2つの流路部分が生じ、その2つの流路部分の間の熱交換チューブの部分にスリットが設けられている熱交換チューブである。
【0079】
また、上述の実施の形態1の場合、
図3に示すように、熱交換器10によって熱交換される第1の流体F1は、熱交換チューブ20の短手方向(X軸方向)に流れる。しかしながら、本開示の実施の形態はこれに限らない。熱交換チューブの長手方向に第1の流体が流れるように、熱交換器は構成されてもよい。
【0080】
すなわち、本開示の実施の形態に係る熱交換器は、広義には、第1の流体が通過可能な隙間をあけて積層された複数の熱交換チューブを有し、前記熱交換チューブそれぞれが、前記第1の流体と熱交換を行う第2の流体が流れ、折り返し部を含む内部流路と、前記内部流路に連通し、前記第2の流体が流入する流入側接続部と、前記内部流路に連通し、前記第2の流体が流出する流出側接続部と、前記折り返し部からそれぞれ延在して間隔をあけて互いに対向する前記内部流路における2つの流路部分の間の前記熱交換チューブの部分に設けられた複数のスリットと、隣接する他の熱交換チューブに接触して前記隙間を形成する複数の凸状支持部と、を備え、前記複数の熱交換チューブの積層方向視で、前記複数のスリットの少なくとも1つが、その延在方向の中心が隣接し合う2つの前記凸状支持部を結ぶ直線上から外れた状態で延在する。
【0081】
以上のように、本開示における技術の例示として、上述の実施の形態を説明してきた。そのために、図面および詳細な説明を提供している。したがって、図面及び詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上述の技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0082】
また、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲又はその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略等を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本開示は、フィン状の複数の熱交換チューブを積層して構成される熱交換器に対して適用可能である。
【符号の説明】
【0084】
20 熱交換チューブ
26 内部流路
26a 折り返し部
26b 流路部分
40 凸状支持部
46 スリット
F1 第1の流体