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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022007056
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】尿成分可視化剤及び尿成分可視化方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/493 20060101AFI20220105BHJP
   G01N 31/00 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
G01N33/493 A
G01N31/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020109737
(22)【出願日】2020-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】230117259
【弁護士】
【氏名又は名称】綿貫 敬典
(72)【発明者】
【氏名】南田 憲宏
(72)【発明者】
【氏名】今井 英志
【テーマコード(参考)】
2G042
2G045
【Fターム(参考)】
2G042AA10
2G042BC01
2G042BC02
2G042BC10
2G042DA08
2G042FA14
2G042FB02
2G045AA15
2G045CB03
2G045DB30
2G045FB11
(57)【要約】
【課題】付着面のpHが変化した場合にも確実に尿成分を可視化することができる尿成分可視化剤及び尿成分可視化方法を提供する。
【解決手段】本発明の尿成分可視化剤は、尿中の金属成分により呈色する金属指示薬と、希釈液とを含有するものである。金属指示薬としてアリザリンレッドやキレート剤を用いることができる。この尿成分可視化剤を床面または壁面に噴霧することにより、付着箇所を可視化することができる。本発明の尿成分可視化剤はpHの影響を受けないため、pHが変化した場合にも確実に尿成分を可視化することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿中の金属成分により呈色する金属指示薬と、希釈液とを含有することを特徴とする尿成分可視化剤。
【請求項2】
前記金属指示薬がアリザリンレッドであることを特徴とする請求項1に記載の尿成分可視化剤。
【請求項3】
前記希釈液が、水または有機溶媒であることを特徴とする請求項1または2に記載の尿成分可視化剤。
【請求項4】
さらにpH低下剤を添加したことを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の尿成分可視化剤。
【請求項5】
請求項1~4の何れかに記載の尿成分可視化剤を、便器、床面、壁面いずれかに噴霧することを特徴とする尿成分可視化方法。
【請求項6】
請求項1~3の何れかに記載の尿成分可視化剤と、pH低下剤とを便器、床面、壁面いずれかに噴霧することを特徴とする尿成分可視化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレの床面等に飛散した尿成分を可視化するために用いられる尿成分可視化剤及び尿成分可視化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トイレの便器や床面や壁面等に飛散した尿成分は放置すると細菌により分解されてアンモニア臭等の悪臭の原因となるため、定期的に清掃することが望まれる。しかし尿成分は透明であって目視することができない。このため、床面全体を清掃しなければならず、しかも確実に除去されたか否かを確認することもできない。
【0003】
pH指示薬を用いてペットなどの尿のpHを測定し、ペットの健康状態を判断することが、特許文献1、特許文献2に示されている。特許文献1では尿成分中の水素イオンに呈色するチモールブルーやフェノールフタレイン等のpH指示薬が配合された組成物を用いて、健康状態を確認している。特許文献2では、視認性を向上させるため、pH指示薬にアントシアニンを用いて健康状態を確認している。また特許文献3には、人体の手などの身体部位の洗浄が十分に行われたか否かを可視化するため、pHが異なる2種類の液を用い、色の変化によって洗浄の完了を判断することが示されている。
【0004】
しかしこれらの特許文献1~3の発明は、何れも尿成分の可視化を目的とするものではない。またこれらの発明は何れも外部環境の影響を受け易いpHによる色の変化を利用しているため、洗浄剤を用いてトイレの床面の洗浄を行うような場合には、洗浄剤が付着面のpHを変動させてしまうため、付着箇所の見分けが付かなくなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許2006-234475号公報
【特許文献2】特開2009-42158号公報
【特許文献3】特許第5788114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、付着面のpHが変化した場合にも確実に尿成分を可視化することができる尿成分可視化剤及び尿成分可視化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明の尿成分可視化剤は、尿中の金属成分により呈色する金属指示薬と、希釈液とを含有することを特徴とするものである。なお、前記金属指示薬としてアリザリンレッドを用いることができる。また前記希釈液を、水または有機溶媒とすることができる。さらにpH低下剤を添加することもできる。
【0008】
また本発明の尿成分可視化方法は、上記の尿成分可視化剤を便器、床面壁面いずれかに噴霧することを特徴とするものである。また、尿成分可視化剤と、pH低下剤とを、便器、床面壁面いずれかに噴霧することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、外部環境の影響を受け易いpHではなく、尿中の物理的定着し易いCa等の金属成分により尿成分を可視化させることができるため、洗剤により付着面のpHが変化した場合にも、尿成分の確実な清掃除去が可能となる。本発明の尿成分可視化剤は単独で便器、床面または壁面に噴霧してもよいが、尿成分可視化剤にpH低下剤を添加しておくか、pH低下剤を併せて噴霧すれば、視認性を更に向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明では、尿中の金属成分により呈色する金属指示薬を用いる。一般に、人の尿成分にはNa、K、Ca、Mg、Cu等の金属成分が微量に存在するので、本発明では例えば、アリザリンレッドS、EDTA、PAN等の金属指示薬を用いることにより尿成分を可視化する。なお、本発明における尿成分とは、人の尿成分のみならず、犬、猫に代表されるペットなど、動物の尿成分も含まれる。
【0011】
アリザリンレッドは赤色の染料であり、レーキ顔料として知られている。アリザリン分子のヒドロキシ基に隣接した水素をスルホ基に置換したもののナトリウム塩がアリザリンレッドSであり、金属イオンと結合する性質を持つため、生体内のカルシウム塩沈着部を染色するために生物学の分野で用いられている。このアリザリンレッドSは、尿成分中のCaと反応して赤色に呈色する。
【0012】
EDTA(エチレンジアミン四酢酸)はキレート剤であり、金属イオンとキレート錯体を形成する性質を持ち、Ca、Cuなどの金属イオンと強く結合する。EDTAは、一定条件下において、尿成分中のCaと反応し、呈色する。
【0013】
PAN[1-(2-Pyridylazo)-2-naphthol)]もキレート剤であり、多くの金属とキレート錯体を形成する。有機溶媒に溶かすことができ、アルカリ性にすれば水にも溶かすことができる。PANは尿成分中のCaと反応して黄色に呈色する。
【0014】
本発明の尿成分可視化剤は、上記した金属指示薬を希釈液に溶解、あるいは分散させたものである。希釈液は水またはエタノール、ベンゼンなどの有機溶媒である。本発明の尿成分可視化剤をスプレー容器に入れてトイレの床面や壁面にスプレーすれば、尿成分が付着した部位は、変色するため、尿成分を可視化することができる。しかも洗浄剤により付着面のpHが変化しても付着箇所を確認できるので、洗浄剤を使用して付着面を洗浄することができる。
【0015】
次の実施例に示すように、金属指示薬はpHが酸性領域であってもアルカリ領域であっても呈色するが、pH低下剤を尿成分可視化剤に添加しておくか、別容器に収納したpH低下剤を併せて噴霧すれば、尿成分可視化剤の視認性を更に向上させることができる。pH低下剤としては、例えばクエン酸やその水溶液を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0016】
また次の実施例に示すように、膨潤性の鉱物であるスメクタイト(ベイナイト、モンモリロライト等)の粉砕物を尿成分可視化剤に添加することが出来る。
スメクタイト(ベイナイト、モンモリロライト等)は、チキソ性を有しており、通常は高粘度であるが、熱や圧力が加わると、低粘度化する性質を持っている。これによりは、スメクタイト等を含んだ可視化剤溶液は、圧力が加わるスプレー噴霧時は低粘度で噴霧しやすくなると同時に、スプレー噴霧後は、高粘度化する為、可視化剤溶液は、飛散したり、液ダレすることが無い。
以下に本発明の実施例と比較例を示す。
【実施例0017】
表1に示すように、実施例1-4の4種類の尿成分可視化剤と、比較例1-2の2種類の尿成分可視化剤を調合した。表中の数値はpHを除き、質量%を示す。実施例1-3は金属指示薬としてアリザリンレッドSを使用し、実施例4は金属指示薬としてキレート剤であるEDTAとPANを使用した。比較例では呈色剤としてアントシアニンを用いた。また表1に示す通り、クエン酸とスメクタイトを添加した。クエン酸を添加した尿成分可視化剤のpHは3.0-4.0であり、添加しない尿成分可視化剤のpHは11.0である。
【0018】
これらの尿成分可視化剤をスプレー容器に入れてトイレの床面にスプレーし、付着箇所の視認性、液体の飛散性を評価し、表1の可視化剤噴霧時の評価の欄1に記載した。視認性についての評価は、尿成分可視化剤をスプレーした場合において、尿成分の付着箇所が、それ以外の箇所と目視ではっきりと判別可能な場合は○、尿成分の付着箇所がそれ以外の箇所と目視で判別可能な場合は△、尿成分の付着箇所が、それ以外の箇所と目視で判別出来ない場合は×とした。また、液体の飛散性についての評価は、可視化剤が、目的としたスプレー噴霧箇所に適切に吹きかけられており、その他の箇所に全く飛散していない場合は○、可視化剤が、目的としたスプレー噴霧箇所に概ね噴霧されているが、それ以外の箇所に飛散している場合は△、可視化剤が、目的としたスプレー噴霧箇所に殆ど噴霧されず、その他の箇所に飛散している場合は×とした。
【0019】
視認性について、実施例1においては、尿成分の付着箇所は赤、それ以外の箇所は赤紫色となり、目視で判別可能な結果となった。実施例2において、尿成分の付着箇所は赤、それ以外の箇所は黄色となり、目視ではっきりと判別可能な結果となった。実施例3も同様であった。実施例4においては、尿成分の付着箇所は黄色、それ以外の箇所は赤紫色となり、目視で判別可能な結果となった。比較例1において、尿成分の付着箇所は紫色、それ以外の箇所は桃色となり、目視ではっきりと判別可能な結果となった。比較例2において、尿成分の付着箇所は紫色、それ以外の箇所も紫色となり、尿成分の付着箇所が、それ以外の箇所と目視で判別出来ない結果となった。
【0020】
飛散性について、スメクタイトが添加されていない実施例3については、可視化剤が、若干尿付着箇所以外の箇所に飛散していた。それ以外の実施例1、2、4及び比較例においては、可視化剤が、尿付着箇所に適切に吹きかけられており、その他の箇所に全く飛散していなかった。
【0021】
しかし、尿付着箇所に、尿可視化剤を噴霧した後、トイレの床面にpHの異なる3種類の洗剤を噴霧したところ、表1の洗剤噴霧時の評価の欄2に示すように、実施例1-4では、洗剤の噴霧前後で、尿付着箇所の色の変化がなく、洗剤除去後の変色に問題がなかったが、比較例では洗剤の噴霧前後で、尿可視化剤は、pHの影響を受けて色が変化し、尿成分の付着箇所とそれ以外の箇所の見分けが付かなくなった。
【0022】
この実験で用いた3種類の洗剤の配合は表2、表3、表4に示した通りである。なお、洗剤配合は表2~4に示されるものに限定されず、溶剤に、洗浄剤を含み、所定のpHに調整されているものであれば良い。表2はpHが9の強アルカリ性洗剤、表3はpHが7.5のアルカリ性洗剤、表4はpHが3の酸性洗剤である。
【0023】
上記の実験結果から明らかなように、本発明によれば付着面のpHが変化した場合にも確実に尿成分を可視化することができるので、床面等に付着した尿成分を視認し、洗剤を用いて確実に洗浄することができる。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
【表4】