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  • 特開-切断刃 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070629
(43)【公開日】2022-05-13
(54)【発明の名称】切断刃
(51)【国際特許分類】
   B02C 18/18 20060101AFI20220506BHJP
   B23K 26/342 20140101ALI20220506BHJP
【FI】
B02C18/18 B
B23K26/342
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020179796
(22)【出願日】2020-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】390015967
【氏名又は名称】株式会社キンキ
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】高見 敬太
(72)【発明者】
【氏名】永井 勇夫
(72)【発明者】
【氏名】黒田 直寛
(72)【発明者】
【氏名】和田 知樹
(72)【発明者】
【氏名】和田 直哉
【テーマコード(参考)】
4D065
4E168
【Fターム(参考)】
4D065CA12
4D065CB02
4D065CC01
4D065CC08
4D065DD08
4D065EC02
4D065EC09
4E168BA33
(57)【要約】
【課題】従来のアーク溶接によって肉盛り溶接することで切断刃の摩耗部を補修する方法の有する、入熱、寸法精度等の課題を解消し、新品の切断刃の易摩耗部位を補強することを可能にした切断刃を提供すること。
【解決手段】切断刃1の刃先部12の回転方向に向かって尖った先端エッジ部13の上面及び刃先部12を含む側面外縁のサイドエッジ部14に、レーザ肉盛り溶接部16、17を形成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半径方向外向きに突出する刃先部を備え、
前記刃先部は、回転方向に向かって尖った先端エッジ部を有し、
前記刃先部を含む側面外縁にサイドエッジ部を有し、
前記先端エッジ部の上面及び前記サイドエッジ部は、肉盛り溶接部が形成されてなる切断刃において、
前記肉盛り溶接部が、レーザ肉盛り溶接部からなることを特徴とする切断刃。
【請求項2】
前記レーザ肉盛り溶接部が、切断刃の母材に形成された断面が半円形状の溝内に形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の切断刃。
【請求項3】
前記レーザ肉盛り溶接部が、バナジウム、クロム及びモリブデンを含有してなることを特徴とする請求項1又は2に記載の切断刃。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剪断式破砕機等に用いられる切断刃に関するものである。
【背景技術】
【0002】
剪断式破砕機は、図3図4に示すように、鋏のように対向する回転刃Cにより生じる剪断力により破砕を行うものであるが、回転刃Cに用いられる切断刃1は使用するにつれて、破砕時の摩擦で摩耗するし、破砕時の衝撃により刃部が欠けることがある。
そのため、破砕機の切断刃1には、高硬度かつ高靭性が要求される。
しかしながら、これらは相反する機能であり、両立が困難とされてきた。
【0003】
また、破砕機の切断刃1の摩耗する部位は、被破砕物が接触する部分だけで、被破砕物によって、切断刃1の特定の部位のみが摩耗することもある。
【0004】
そして、切断刃1が摩耗して破砕性能が著しく低下すると新品に交換され、使用後の切断刃1はリサイクルされるが、精錬して再生するのはCOの排出量が大きく、環境負荷が大きいという問題があった。
【0005】
この問題に対処するため、摩耗部をアーク溶接によって肉盛り溶接して補修する方法が、従来から広く利用されてきた(例えば、特許文献1参照。)。
これにより、アーク溶接によって肉盛りした切断刃の肉盛り溶接部は、高い硬度を確保し、母材は、靭性を有する材質にすることで、破砕機の切断刃としての性能を満たすものを得ることができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-196610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のアーク溶接によって肉盛り溶接することで切断刃の摩耗部を補修する方法には、以下の課題があった。
・アーク溶接の場合、ワイヤ状の溶接材料しか選べないため、溶接材料の選択に制約を受ける。
・入熱や溶接材料による希釈部が大きく、硬度低下部が広範囲になる。
・精密な肉盛り層の厚さ制御が困難なため肉盛り量が増え、所定の寸法精度を確保するために肉盛り量の70~80%を機械切削する必要があり、肉盛り溶接後の機械加工の作業量が増える。
・肉盛り溶接部の硬度を高めるため、硬度の高い溶接材料を採用することが好ましいが、硬度が高すぎる(HRC60以上)と、肉盛り溶接後の機械加工性が著しく悪化し、比較的機械加工が容易な溶接材料からの採用を余儀なくされる。
そして、以上のことから、アーク溶接によって肉盛り溶接する方法は、切断刃の摩耗部を補修する場合には用いられるが、新品の切断刃には、適用しにくいという課題があった。
【0008】
本発明は、上記従来のアーク溶接によって肉盛り溶接することで切断刃の摩耗部を補修する方法の有する、入熱、寸法精度等の課題を解消し、新品の切断刃の易摩耗部位を補強することを可能にした切断刃を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の切断刃は、
半径方向外向きに突出する刃先部を備え、
前記刃先部は、回転方向に向かって尖った先端エッジ部を有し、
前記刃先部を含む側面外縁にサイドエッジ部を有し、
前記先端エッジ部の上面及び前記サイドエッジ部は、肉盛り溶接部が形成されてなる切断刃において、
前記肉盛り溶接部が、レーザ肉盛り溶接部からなることを特徴とする。
【0010】
この場合において、前記レーザ肉盛り溶接部が、切断刃の母材に形成された断面が半円形状の溝内に形成されてなるようにすることができる。
【0011】
また、前記レーザ肉盛り溶接部が、バナジウム、クロム及びモリブデンを含有してなるようにすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の切断刃によれば、従来のアーク溶接によって肉盛り溶接することで切断刃の摩耗部を補修する方法の課題を解消し、以下の作用効果を奏するものである。
・レーザ肉盛り溶接の場合、溶接材料が粉体であるため、溶接材料の選択に制約を受けず、溶接材料の選択肢が広くなる。また、市販品だけでなく、独自の溶接粉末を作製可能で硬度や靭性に独自性を出すことも可能となる。
・入熱や溶接材料による希釈部が小さく、硬度低下部を狭い範囲に抑制し、硬度低下を抑えることができる。
・溶接材料(粉体)供給量や溶接速度等の条件のコントロールにより精密な肉盛り層の厚さ制御が可能なため、肉盛り量を必要最小限とすることができ、所定の寸法精度を確保するための削り代を小さく(具体的には、0.5mm前後)に制御することができ、干渉等の性能に関わる部位の仕上げ加工(例えば、切断刃の厚さの仕上げ研磨)の削り代を少なくでき、干渉等の性能に関わらない部位は肉盛溶接後の機械加工が不要となることとも相俟って、肉盛り溶接後の機械加工の作業量を低減することができる。
・肉盛り溶接部の硬度を高めるため、硬度の高い溶接材料を採用することが好ましいが、研磨のみの加工のため、高硬度(例えば、HRC60以上)の肉盛が可能となる。これにより、レーザ肉盛り溶接部の耐摩耗性をアーク溶接の場合と比較して、1.5~2倍程度に向上することができる。
そして、以上のことから、レーザ溶接によって肉盛り溶接する方法は、切断刃の摩耗部を補修する場合のほか、新品の切断刃に適用する場合に、最適な方法ということができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の切断刃の第1実施例を示す説明図で、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は図1(a)のA-A断面図、(d)は図1(b)のB-B断面図、(e)は図1(b)のC-C断面図、(f)はアーク溶接によって肉盛り溶接した場合の(e)に対応する図である。
図2】本発明の切断刃の第2実施例を示す説明図で、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は図1の(d)に対応する図である。を示す説明図である。
図3】本発明の切断刃を適用する剪断式破砕機の説明図である。
図4】同剪断式破砕機の回転刃の説明図である。
図5】本発明の切断刃の第3実施例を示す説明図で、(a)は切断刃の母材の正面図、(b)は同側面図、(c)は図5(a)のA部の拡大断面図、(d)は図5(b)のB部の拡大断面図、(e)はレーザ溶接によって肉盛り溶接した切断刃の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の切断刃の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例0015】
図1に、本発明の切断刃の第1実施例を示す。
この切断刃1は、例えば、図3図4に示す構造の剪断式破砕機の回転刃Cに用いられるものである。
【0016】
剪断式破砕機は、従来より汎用されているもので、矩形断面をした2本の回転軸3が、一定間隔をおいてほぼ平行に並設されている。
回転軸3は、それぞれ軸受(図示省略)を介して、回転可能に箱形のケーシング6内に設置、支持され、モータ(図示省略)によって、内方に(図の矢印方向に)回転するように構成されている。
【0017】
回転軸3には、それぞれ円盤状の回転刃Cがスペーサ4を間に挟んで交互に設けられている。これらの回転刃Cは、その側面同士が互いに密接した状態で装着されている。
各回転刃Cは、切断刃1と本体部2から構成され、本体部2の外周面21に、複数(本実施例においては、6個)の切断刃1を配置し、両者をボルト穴15、22の位置でボルト(図示省略)を用いて固定するようにしている。
回転刃Cの切断刃1は、固定部11と、この固定部11から半径方向外向きに突出する刃先部12とを備え、刃先部12は、回転方向に向かって尖った先端エッジ部13を有し、処理物を引き込み、切断したり、剪断したりする作用を奏する。
これにより、ケーシング6の上方から投入された処理物は、回転刃Cの切断刃1の上記作用により破砕され、下方に排出されるようになっている。
【0018】
なお、箱形のケーシング6の側部からは、回転刃C及びスペーサ4に向けてスクレーパ5が突設されている。
スクレーパ5は、回転刃Cに挟まった処理物を掻き取る作用を奏する。
【0019】
ところで、回転刃Cの切断刃1は、使用するにつれて、破砕時の摩擦で摩耗するし、破砕時の衝撃により刃部が欠けることがあり、一定期間使用すれば取り替える必要が生じる。
この期間を延長できるように、本実施例の切断刃1は、図1に示すように、刃先部12の回転方向に向かって尖った先端エッジ部13の上面及び刃先部12を含む側面外縁のサイドエッジ部14に、レーザ肉盛り溶接部16、17を形成するようにしている。
【0020】
この場合において、切断刃1の母材には、靭性を有する材質、例えば、クロムモリブデン鋼(SCM440等)や耐摩耗鋼(HARDOX(登録商標)500)を好適に用いることができる。
【0021】
レーザ肉盛り溶接部16、17の材料には、粉体の溶接材料を用いるため、溶接材料の選択に制約を受けず、溶接材料の選択肢が広くなる。
本実施例においては、バナジウム、クロム及びモリブデンを含有する粉体の溶接材料を用いるようにしている。
これにより、肉盛り溶接部16、17は、バナジウム、クロム及びモリブデンを含有したものとなり、その硬度を、高硬度(例えば、HRC60~65)にすることができる。
【0022】
レーザ肉盛り溶接部16、17の肉厚は、1~3mm程度、好ましくは、2mm程度と、必要最小限の厚さに制御して形成することができる。
これにより、所定の寸法精度を確保するためのレーザ肉盛り溶接部16、17の削り代を小さく(具体的には、0.5mm前後)に制御することができ、干渉等の性能に関わる部位の仕上げ加工(例えば、切断刃1の厚さの仕上げ研磨)の削り代を少なくでき、干渉等の性能に関わらない部位は肉盛溶接後の機械加工が不要となることとも相俟って、肉盛り溶接後の機械加工の作業量を低減することができる。
なお、本実施例においては、レーザ肉盛り溶接部16は、刃先部12の回転方向に向かって尖った先端エッジ部13を形成するための削り代18を設けるようにしている。
【実施例0023】
図2に、本発明の切断刃の第2実施例を示す。
この切断刃1は、刃先部12の回転方向に向かって尖った先端エッジ部13の上面及び刃先部12を含む側面外縁のサイドエッジ部14に形成したレーザ肉盛り溶接部16、17を、切断刃1の母材に形成された断面が半円形状の溝内に形成するようにしたものである。
半円形状の溝は、直径2~6mm程度、好ましくは、4mm程度とし、複数条、具体的には、先端エッジ部13の上面は4条、サイドエッジ部14は2条、それぞれ形成するようにしている。
これにより、上記第1実施例が奏する作用効果に加え、以下の作用効果を奏する。
・溶接パス数を少なくすることができ、施工時間及び施工コストを低減することができる。
・レーザ肉盛り溶接部16、17を、切断刃1の母材に形成された断面が半円形状の溝内に形成することにより、レーザ肉盛り溶接部16、17が、切断刃1の母材に一体化され、剥離することがない。
なお、本実施例のその他の構成及び作用は、上記第1実施例と同様である。
【実施例0024】
図5に、本発明の切断刃の第3実施例を示す。
上記第1~第2実施例の切断刃1は、切断刃1を複数個のピースで分割構成したものであるが、本発明の切断刃の形態は、これに限定されず、図3に示すような、矩形断面をした回転軸(図示省略)に直接装着される、一体構造の切断刃1(回転刃C)に、第1~第2実施例の切断刃1の構成を適用することもできる。
【0025】
この切断刃1(回転刃C)は、具体的には、刃先部12の回転方向に向かって尖った先端エッジ部13の上面及び刃先部12を含む側面外縁のサイドエッジ部14に形成したレーザ肉盛り溶接部16、17を、切断刃1の母材に形成された断面が半円形状の溝17a、17b内に形成するようにしたものである。
半円形状の溝は、直径2~6mm程度、好ましくは、4mm程度とし、複数条、具体的には、先端エッジ部13の上面は4条(図示省略)、サイドエッジ部14は2条、それぞれ形成するようにしている。
これにより、上記第2実施例が奏する作用効果と同様の作用効果を奏する。
【0026】
以上、本発明の切断刃について、複数の実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、各実施例に記載した構成を適宜組み合わせる等、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の切断刃は、従来のアーク溶接によって肉盛り溶接することで切断刃の摩耗部を補修する方法の有する、入熱、寸法精度等の課題を解消し、新品の切断刃の易摩耗部位を補強することが可能になるという特性を有していることから、実施例に記載した2軸剪断式破砕機の回転刃に用いられる切断刃に好適に用いることができるほか、2軸剪断式破砕機以外の1軸又は多軸剪断式破砕機の回転刃等に用いられる各種切断刃にも広く適用することができ、また、新品の切断刃の易摩耗部位の補強の用途に加え、切断刃の摩耗部の補修の用途にも用いることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 切断刃
11 固定部
12 刃先部
13 先端エッジ部
14 サイドエッジ部
16 レーザ肉盛り溶接部
17 レーザ肉盛り溶接部
18 削り代
C 回転刃
図1
図2
図3
図4
図5