(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070682
(43)【公開日】2022-05-13
(54)【発明の名称】セメント成形体の製造法
(51)【国際特許分類】
B28B 7/36 20060101AFI20220506BHJP
B28B 11/24 20060101ALI20220506BHJP
B28B 1/14 20060101ALI20220506BHJP
B28B 1/16 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
B28B7/36
B28B11/24
B28B1/14 E
B28B1/16
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020179877
(22)【出願日】2020-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】592086880
【氏名又は名称】丸栄コンクリート工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391016842
【氏名又は名称】岐阜県
(74)【代理人】
【識別番号】100081628
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 桂
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 肇
(72)【発明者】
【氏名】近藤 秀貴
(72)【発明者】
【氏名】水野 克基
(72)【発明者】
【氏名】浅倉 秀一
【テーマコード(参考)】
4G052
4G053
4G055
【Fターム(参考)】
4G052AB25
4G053AA17
4G053DA06
4G055BA04
4G055BA06
(57)【要約】
【課題】 微細亀裂の発生が抑制されるセメント成形体の製造法を提供する。
【解決手段】 セルロースナノファイバー(CNF)を水や有機溶媒に分散させた液、CNF分散液は、保水性があり、また、チキソ性があって、静止時に粘度が高くて粘着性があり、流動時や振動時に粘度が低くて流動性があるものにする。型枠1は、内面に、CNF分散液を流動性のある状態で膜状に付着し、CNF分散液膜4は粘着性のある状態で付着状態を維持する。CNF分散液膜を内面に形成した型枠は、内部にセメント組成物5を流入させる。その後、振動させ、内部のセメント組成物を締め固める一方、内面のCNF分散液に流動性を生じさせ、流動性が生じたCNF分散液を型枠内部のセメント組成物の表面部に侵入させて混入する。CNF分散液を表面部に混入したセメント組成物は、養生し、硬化後、脱型し、表面部にCNF分散液が混入しているセメント成形体を得る。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント成形体を製造する方法であって、
セルロースナノファイバー(CNF)を水や有機溶媒に分散させた液、CNF分散液は、保水性があり、また、チキソ性があって、静止時に粘度が高くて粘着性があり、流動時や振動時に粘度が低くて流動性があるものにし、
型枠は、内面に、CNF分散液を流動性のある状態で膜状に付着し、CNF分散液膜は放置して静止させておき、粘着性のある状態で付着状態を維持し、
CNF分散液膜を内面に付着した型枠は、内部にセメント組成物を流入させ、
セメント組成物の流入を終えた型枠は、振動させ、内部のセメント組成物を締め固める一方、内面のCNF分散液に流動性を生じさせ、流動性が生じたCNF分散液を型枠内部のセメント組成物の表面部に侵入させて混入し、
CNF分散液を表面部に混入したセメント組成物は、養生し、硬化後、脱型し、
表面部にCNF分散液が混入しているセメント成形体を得ることを特徴とするセメント成形体の製造法。
【請求項2】
セメント組成物を型枠に流入させる際、トレミー管を用い、セメント組成物が型枠の底面から湧き上がるように型枠内部に流入させることを特徴とする請求項1に記載のセメント成形体の製造法。
【請求項3】
養生は、常温養生、水中養生、蒸気養生又はオートクレープ養生にすることを特徴とする請求項1又は2に記載のセメント成形体の製造法。
【請求項4】
セメント成形体は、プレキャスト又は現場打ちにすることを特徴とする請求項1、2又は3に記載のセメント成形体の製造法。
【請求項5】
CNF分散液は、助剤のチキソトロピック剤を添加することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のセメント成形体の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント成形体の表面部を改質する製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートやモルタルのセメント成形体は、製造時、表面に微細な亀裂が発生することがある。特に、促進養生の高温養生を行なったときに顕著になる。また、製造後の乾燥収縮、乾湿繰り返しや凍結融解などによって、表面に微細な亀裂が発生することがある。セメント成形体は、表面に微細亀裂が発生すると、耐久性が低くなる。なお、セメント成形体とは、セメントを含む成形体である。
セメント成形体の表面を補強する技術がある。セメント成形体の表面に補強剤を塗布したり、散布したりする。特許文献1は、セメント硬化体の表面に塗布する塗布剤を開示している。この塗布剤は、セルロースナノファイバー(CNF)を含有している。なお、CNFとは、木材のパルプをナノレベルに微細にほぐして得られる超微細植物繊維である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
[課 題]
上記のような微細亀裂の発生が抑制されるセメント成形体の製造法を提供する。
【0005】
[構 想]
1)セメント成形体の表面に微細亀裂が発生する事象は、セメント成形体の表面部と中心部の含水率の差が大きくなることに起因しているものと推察される。
セルロースナノファイバー(CNF)を水や有機溶媒に分散させた液、CNF分散液は、保水性がある。
セメント成形体は、保水性のあるCNF分散液を表面部に混入すると、表面部が保水される。表面の微細亀裂の発生が抑制される。
【0006】
2)CNF分散液は、硬化後のセメント硬化体よりも、硬化前のセメント組成物に付着する方が、混入し易い。型枠は、内面にCNF分散液を膜状に付着した状態でセメント組成物を流入させる。型枠内部のセメント組成物は、表面部にCNF分散液が侵入して混入する。なお、セメント組成物とは、セメントを含む組成物である。
【0007】
3)CNF分散液は、チキソ性(thixotropic)がある。静止時に粘度が高くて粘着性があり、流動時や振動時に粘度が低くて流動性がある。
チキソ性のあるCNF分散液は、流動性のある状態で塗布や噴霧によって型枠の内面に膜状に付着する。型枠の内面に形成したCNF分散液膜は、放置して静止させておき、粘着性のある状態で付着状態を維持する。
CNF分散液膜を内面に形成した型枠は、内部にセメント組成物を流入させる。その際、型枠内面のCNF分散液膜に衝撃や振動を与えないようにする。
セメント組成物の流入を終えた型枠は、振動を加える。すると、振動で、型枠内部のセメント組成物が締め固められる一方、型枠内面のCNF分散液膜に流動性が生ずる。流動性が生じたCNF分散液膜は、膜の形態が崩れ、CNF分散液が型枠内部のセメント組成物の表面部に侵入して混入する。
【0008】
[具体化]
セメント成形体を製造するに当たり、型枠は、内面に、CNF分散液を流動性のある状態で塗布や噴霧によって膜状に付着する。型枠の内面に形成したCNF分散液膜は、放置して静止させておき、粘着性のある状態で付着状態を維持する。
次に、CNF分散液膜を内面に形成した型枠は、内部にセメント組成物を流入させる。その際、型枠内面のCNF分散液膜に衝撃や振動を与えないようにする。そのため、例えば、セメント組成物を円滑に流下させるトレミー管を用いる。セメント組成物は、型枠の底面から湧き上がるように型枠内部に流入させる。
セメント組成物の流入を終えた型枠は、その下に敷いた振動台、又は、外側面に取り付けた振動装置を作動して振動させる。振動で、型枠内部のセメント組成物を締め固める一方、型枠内面のCNF分散液膜に流動性を生じさせる。流動性が生じたCNF分散液膜は、膜の形態が崩れ、CNF分散液が型枠内部のセメント組成物の表面部に侵入して混入する。
CNF分散液を表面部に混入したセメント組成物は、養生する。養生は、促進養生の蒸気養生(常圧高温養生)やオートクレープ養生(高圧高温養生)を行う。又は、常温養生や水中養生を行う。
セメント組成物は、養生で硬化した後、脱型する。セメント成形体を得る。セメント成形体は、工場で製造するプレキャストや、施工現場で製造する現場打ちにする。
このセメント成形体は、表面部に保水性のあるCNF分散液が混入している。表面に微細亀裂が発生し難い。
なお、CNF分散液は、チキソ性が十分でないときは、助剤のチキソトロピック剤を添加する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1.セメント成形体を製造する方法であって、
セルロースナノファイバー(CNF)を水や有機溶媒に分散させた液、CNF分散液は、保水性があり、また、チキソ性があって、静止時に粘度が高くて粘着性があり、流動時や振動時に粘度が低くて流動性があるものにし、
型枠は、内面に、CNF分散液を流動性のある状態で膜状に付着し、CNF分散液膜は放置して静止させておき、粘着性のある状態で付着状態を維持し、
CNF分散液膜を内面に付着した型枠は、内部にセメント組成物を流入させ、
セメント組成物の流入を終えた型枠は、振動させ、内部のセメント組成物を締め固める一方、内面のCNF分散液に流動性を生じさせ、流動性が生じたCNF分散液を型枠内部のセメント組成物の表面部に侵入させて混入し、
CNF分散液を表面部に混入したセメント組成物は、養生し、硬化後、脱型し、
表面部にCNF分散液が混入しているセメント成形体を得ることを特徴とするセメント成形体の製造法。
2.上記1のセメント成形体の製造法において、
セメント組成物を型枠に流入させる際、トレミー管を用い、セメント組成物が型枠の底面から湧き上がるように型枠内部に流入させることを特徴とする。
3.上記1又は2のセメント成形体の製造法において、
養生は、常温養生、水中養生、蒸気養生又はオートクレープ養生にすることを特徴とする。
4.上記1、2又は3のセメント成形体の製造法において、
セメント成形体は、プレキャスト又は現場打ちにすることを特徴とする。
5.上記1~4のいずれかのセメント成形体の製造法において、
CNF分散液は、助剤のチキソトロピック剤を添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
微細亀裂の発生が抑制されるセメント成形体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態における振動台上の型枠の縦断面図。
【
図2】同型枠の内面に離型剤を膜状に付着した状態を示す縦断面図。
【
図3】同型枠の離型剤付き内面にCNF分散液を膜状に付着した状態を示す縦断面図。
【
図4】同型枠の内部にセメント組成物を流入する途中状態を示す縦断面図。
【
図5】同型枠の内部にセメント組成物を満杯にした状態を示す縦断面図。
【
図6】同型枠内のセメント組成物の上面を均してCNF分散液を膜状に付着した状態を示す縦断面図。
【
図7】同型枠を振動台で振動する状態を示す縦断面図。
【
図8】同型枠を養生槽に入れた状態を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態における選定>
1)セメント成形体は、プレキャストにする。
2)原材料のセメント組成物は、主成分を、セメント、水と細骨材、又は、セメント、水、細骨材と粗骨材にする。配合は、流動性を高くする。
3)セルロースナノファイバー(CNF)を水や有機溶媒に分散させた液、CNF分散液は、保水性のあるものにする。また、チキソ性があって、静止時に粘度が高くて粘着性があり、流動時や振動時に粘度が低くて流動性があるものにする。
4)養生は、促進養生の蒸気養生にする。
【0013】
<製造方法>
1)型枠の設置と離型剤の付着
型枠1は、
図1に示すように、作業台兼用の振動台2の上に載せる。振動台2は作動せず、型枠1を静止状態に維持する。型枠1は、上面が開口した箱形状にする。また、鋼製や木製にする。
静止中の型枠1は、
図2に示すように、内面に型枠の離型剤3を塗布や噴霧で膜状に付着する。離型剤3は、油性又は水性にする。
【0014】
2)CNF分散液の付着
型枠1の離型剤付き内面には、
図3に示すように、CNF分散液を粘度が低くて流動性がある状態で塗布や噴霧によって膜状に付着する。そのCNF分散液膜4は、放置して静止させておき、粘着性のある状態で付着状態を維持する。
【0015】
3)セメント組成物の流入
CNF分散液膜4を内面に形成した型枠1は、内部にセメント組成物5を流入させる。その際、型枠1内面のCNF分散液膜4に衝撃や振動を与えないようにする。そのため、トレミー管6を用いる。
トレミー管6は、
図4に示すように、型枠1の底面に近接した下端開口からセメント組成物5を型枠1の底面に流出させて、その流出セメント組成物5に下端開口を埋没する。そして、トレミー管6の下端開口からセメント組成物5を流出し続ける。型枠1内部のセメント組成物5は、増え続けて、上面が上昇する。そのセメント組成物5の上面の上昇に合わせてトレミー管6を上昇させる。トレミー管6は、セメント組成物5が流出している下端開口をセメント組成物5の上面近くに埋没した状態を維持する。セメント組成物5が型枠1の底から湧き上がるように型枠1内に流入させる。
【0016】
4)上面へのCNF分散液の付着
型枠1は、
図5に示すように、セメント組成物5を満杯にしてトレミー管6を撤去する。そして、型枠1内部のセメント組成物5は、上面を均す。その平坦にした上面の上に、
図6に示すように、CNF分散液を噴霧や散布によって膜状に付着する。型枠1内部のセメント組成物5は、上面をCNF分散液膜7で覆う。
【0017】
5)型枠の振動
セメント組成物5の全面をCNF分散液膜4、7で被覆した後、
図7に示すように、振動台2を作動し、静止していた型枠1を振動する。振動で、型枠内部のセメント組成物5を締め固める一方、型枠の内面と上面のCNF分散液膜4、7に流動性を生じさせる。流動性が生じたCNF分散液膜4、7は、膜の形態が崩れ、CNF分散液が型枠内部のセメント組成物5の表面部に侵入して混入する。振動台2は、振動の振幅、周波数や時間をセメント組成物5の締め固めとCNF分散液の混入に適するように設定する。
【0018】
6)蒸気養生
CNF分散液を表面部に混入したセメント組成物入り型枠1は、
図8に示すように、養生槽8に入れ、蒸気養生を行う。養生槽8は、
図9に示すように、温度を変化させる。常温、昇温、高温と降温を経て再び常温にする。昇温時と高温時に蒸気を供給する。CNF分散液を表面部に混入したセメント組成物5は、常温養生し、昇温蒸気養生して高温蒸気養生する。そして、自然放熱、自然冷却して常温に戻る。
【0019】
7)脱 型
CNF分散液を表面部に混入したセメント組成物5は、養生によって硬化した後、脱型する。
図10に示すように、CNF分散液を表面部に混入したセメント成形体9を得る。
【0020】
8)付 記
型枠1に入れるセメント組成物5は、主成分がセメント、水と細骨材であると、モルタルのセメント成形体が得られる。セメント、水、細骨材と粗骨材であると、コンクリートのセメント成形体が得られる。セメントと水であると、セメントペーストのセメント成形体が得られる。また、鉄筋を埋没すると、鉄筋モルタル、鉄筋コンクリートのセメント成形体が得られる。
【0021】
[変形例]
本発明は、上記の実施形態に限定されない。次のような変形が例示される。
1.上記の実施形態において、セメント成形体は、プレキャストであるが、現場打ちにする。
2.上記の実施形態において、原材料のセメント組成物は、主成分が、セメント、水と細骨材、又は、セメント、水、細骨材と粗骨材であるが、フライアッシュや高炉スラグのような混和材やAE剤のような混和剤を添加する。
3.上記の実施形態において、型枠1を載せる作業台兼用の振動台2を用いたが、型枠1の外側面に取り付ける振動装置を用いる。
4.上記の実施形態において、養生は、蒸気養生を用いたが、オートクレープ養生、又は、常温養生や水中養生を用いる。
5.上記の実施形態において、養生は、型枠1を入れる養生槽8を用いたが、型枠1を覆い包む養生シートを用いる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の製造法は、土木業界や建築業界において実施される。本発明で得られるセメント成形体は、土木や建築の構造物の部材に使用される。
【符号の説明】
【0023】
1 型枠
2 作業台兼用の振動台
3 型枠の離型剤
4 CNF分散液膜
5 セメント組成物
6 トレミー管
7 CNF分散液膜
8 養生槽
9 セメント成形体、プレキャストコンクリート体