(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070732
(43)【公開日】2022-05-13
(54)【発明の名称】画像形成装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/325 20060101AFI20220506BHJP
B41J 29/46 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
B41J2/325 A
B41J29/46 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020179962
(22)【出願日】2020-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000208743
【氏名又は名称】キヤノンファインテックニスカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】特許業務法人大塚国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(72)【発明者】
【氏名】寺田 徹也
【テーマコード(参考)】
2C061
2C065
【Fターム(参考)】
2C061AQ04
2C061HJ10
2C061HK11
2C061HK14
2C061HK18
2C061HV04
2C061HV23
2C061HV26
2C061HV32
2C061HV44
2C065AA01
2C065AE06
2C065DA36
2C065DA38
(57)【要約】
【課題】測定用の抵抗を設けることなく電池の容量を推定可能な画像形成装置を提供する。
【解決手段】プリンタ(画像形成装置)は、制御部200と、プリンタが動作するための電源として使用される電池203と、搬送される記録媒体に熱転写により画像を形成するサーマルヘッド103とを有する。制御部200は、電池203とサーマルヘッド103とを接続し、サーマルヘッド103に流れる電流を測定する。制御部200は、測定で得られた電流の測定値に基づいて電池203の内部抵抗値Rbを取得し、当該内部抵抗値に基づいて電池203の容量を推定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成装置であって、
前記画像形成装置の電源として使用される電池と、
搬送される記録媒体の表面に熱転写により画像を形成するサーマルヘッドを有する画像形成手段と、
前記電池と前記サーマルヘッドとを接続し、前記サーマルヘッドに流れる電流を測定する測定手段と、
前記測定手段による測定で得られた前記電流の測定値に基づいて前記電池の内部抵抗値を取得し、当該内部抵抗値に基づいて前記電池の容量を推定する第1推定手段と、
を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記画像形成手段による画像形成が行われる際には、前記電池の出力電圧を所定電圧に変換して前記サーマルヘッドへ出力する電圧変換器を介して、前記電池と前記サーマルヘッドとが接続され、前記測定手段による測定が行われる際には、前記電圧変換器を介さずに、前記電池と前記サーマルヘッドとが直接接続される
ことを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記測定手段は更に、前記電池の閉回路電圧を測定し、
前記第1推定手段は、前記測定手段による測定で得られた前記閉回路電圧の測定値と前記電流の測定値とに基づいて、前記容量を推定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記電池と前記サーマルヘッドとの間のラインに設けられ、電圧を検知する電圧検知手段と、
前記電圧検知手段と前記サーマルヘッドとの間のラインに設けられ、前記電池と前記サーマルヘッドとの接続のスイッチングを行うスイッチと、を更に備え、
前記測定手段は、
前記スイッチがオフの状態で前記電圧検知手段によって検知される電圧を前記閉回路電圧として測定し、
前記スイッチがオンの状態で前記電圧検知手段によって検知される電圧に基づいて前記電流を測定する
ことを特徴とする請求項3に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記測定手段は、前記スイッチがオンの状態で前記電圧検知手段によって検知される電圧と、前記サーマルヘッドの抵抗値とに基づいて、前記電流の測定値を求める
ことを特徴とする請求項4に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記サーマルヘッドは、画像信号に従って選択的に通電される複数の抵抗体を有し、
前記測定手段は、前記測定において通電される抵抗体の平均抵抗値が所定値となるように、前記測定における前記複数の抵抗体への通電を制御する
ことを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記第1推定手段は更に、前記閉回路電圧と前記電池の充電率との関係を示す特性を用いて、前記閉回路電圧の測定値に対応する充電率を取得し、前記容量と前記充電率とに基づいて前記電池の残容量を推定する
ことを特徴とする請求項3乃至6のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項8】
印刷ジョブの実行時の使用電力量を推定する第2推定手段と、
前記第1推定手段によって推定された前記残容量と、前記第2推定手段によって推定された前記使用電力量とを比較し、当該比較の結果に基づいて、前記画像形成手段による画像形成を制御する制御手段と、を更に備える
ことを特徴とする請求項7に記載の画像形成装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記比較の結果に基づいて、前記印刷ジョブの実行のために前記残容量が不足すると判定すると、前記印刷ジョブの実行を停止する
ことを特徴とする請求項8に記載の画像形成装置。
【請求項10】
前記第2推定手段は、実行対象の印刷ジョブごとに、前記印刷ジョブにおける印字率、前記記録媒体の搬送方向の印字長、印刷モード、及び印刷部数のうちの少なくとも1つに基づいて、前記使用電力量を推定する
ことを特徴とする請求項8又は9に記載の画像形成装置。
【請求項11】
前記印刷モードは、前記記録媒体の切断動作を行うか否か、及び前記記録媒体の加熱動作を行うか否かを示す
ことを特徴とする請求項10に記載の画像形成装置。
【請求項12】
搬送される記録媒体の表面に熱転写により画像を形成するサーマルヘッドを有する画像形成手段と、画像形成装置の電源として使用される電池と、を備える画像形成装置の制御方法であって、
前記電池と前記サーマルヘッドとを接続し、前記サーマルヘッドに流れる電流を測定する測定工程と、
前記測定で得られた前記電流の測定値に基づいて前記電池の内部抵抗値を取得し、当該内部抵抗値に基づいて前記電池の容量を推定する工程と、
を含むことを特徴とする画像形成装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置等の電子機器に使用される二次電池は、通常、充電の繰り返しに伴う性能劣化に起因して内部抵抗値が上昇する。その結果、電池の容量を正しく検知することが難しくなる。このため、例えば特許文献1では、測定用に設けた抵抗(ダミーロード抵抗)に電流を流すことで電池の内部抵抗値を測定し、内部抵抗値に基づいて電池の残量を判定する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述のような従来技術では、電池の内部抵抗値の測定のためにダミーロード抵抗を設けることが必要であり、これは装置の大型化及び複雑化を招く。
【0005】
そこで、本発明は、測定用の抵抗を設けることなく電池の容量を推定可能な画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る画像形成装置は、前記画像形成装置の電源として使用される電池と、搬送される記録媒体の表面に熱転写により画像を形成するサーマルヘッドを有する画像形成手段と、前記電池と前記サーマルヘッドとを接続し、前記サーマルヘッドに流れる電流を測定する測定手段と、前記測定手段による測定で得られた前記電流の測定値に基づいて前記電池の内部抵抗値を取得し、当該内部抵抗値に基づいて前記電池の容量を推定する第1推定手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、測定用の抵抗を設けることなく電池の容量を推定可能な画像形成装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】プリンタの概略的なハードウェア構成例を示す断面図
【
図7】印刷ジョブ実行時のプリンタの動作の例を示す図
【
図8】印刷ジョブ実行時のプリンタの動作の例を示す図
【
図9】印刷ジョブに従った印刷処理の手順を示すフローチャート
【
図10】電池容量の推定処理(S102)の手順を示すフローチャート
【
図11】使用電力量の推定処理(S103)の手順を示すフローチャート
【
図12】印刷判定処理(S104)の手順を示すフローチャート
【
図13】抵抗体の使用制御の手順を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<画像形成装置>
図1は、本発明の一実施形態に係る画像形成装置の一例であるプリンタ100の概略的なハードウェア構成例を示す断面図である。プリンタ100は、操作部102、サーマルヘッド103、媒体加熱器104、インクリボンカードリッジ105、搬送ローラ対106、搬送ローラ107、媒体センサ108、先端センサ109、プラテンローラ112、及び切断部114を有している。操作部102は、ユーザに情報を表示する表示部121とユーザからの指示を受け付ける入力部122とを有している。プラテンローラ112は、サーマルヘッド103に対向する位置に配置されている。
【0011】
プリンタ100は、搬送される記録媒体に熱転写により画像を形成するサーマルヘッド103を有する画像形成部を備えている。本実施形態では、サーマルヘッド103は、挿入口110から挿入されて搬送路を搬送されるチューブ状の記録媒体Mに画像を形成する。チューブ状の記録媒体Mは、ユーザによって手動で搬送路の挿入口110から挿入される。記録媒体Mの先端は、円筒形状の媒体加熱器104の内部を通過し、搬送ローラ対106に突き当てられ、搬送ローラ対106により挟持される。媒体加熱器104は、低温環境下において、記録媒体Mの表面(記録面)を加熱するヒータである。
【0012】
媒体センサ108は、媒体加熱器104の出口と搬送ローラ対106との間に配置されており、記録媒体Mの有無を検知する。媒体センサ108は、例えば、発光素子と受光素子とを有してもよい。発光素子から受光素子に向かって出力される光が記録媒体Mによって遮断されるか否かによって、媒体センサ108の検知信号が変化する。また、搬送路において、搬送ローラ107と排出口111との間には先端センサ109が設けられている。記録媒体Mの先端が搬送路のどこにあるかは、媒体センサ108と先端センサ109との検知結果に基づいて判定される。
【0013】
サーマルヘッド103は、インクリボンカードリッジ105に装填されているインクリボンの裏面側からインクリボンを記録媒体Mに対して押圧する。これにより、チューブ状の記録媒体Mの表面の一部(記録面)がほぼ平面となる。サーマルヘッド103は多数の熱源(発熱体素子)を有している。サーマルヘッド103は、画像信号に従って複数の熱源を選択的に通電し、インクリボンを溶融させ、チューブ状の記録媒体Mの表面にインクを転写する。なお、サーマルヘッド103は、プラテンローラ112から離間した退避位置と、プラテンローラ112に対して記録媒体M(及びインクリボン)を押圧する印刷位置との間で移動可能に構成されている。
【0014】
搬送ローラ107は、プラテンローラ112と協働して記録媒体Mを搬送し、排出口111から記録媒体Mを排出する。搬送ローラ107と排出口111との間には切断部114が設けられている。記録媒体Mは、切断部114によって必要に応じて切断処理が行われた後に排出口111から排出される。
【0015】
<制御構成>
図2は、プリンタ100の制御構成の一例を示すブロック図である。制御部200は、制御部200は、内部バスで互いに接続されたCPU、ROM及びRAMを含む。ROMにはプリンタ100の制御プログラムが格納されている。RAMはCPUのワークエリアとして機能する。制御部200は、マイクロコンピュータで構成されてもよい。
【0016】
制御部200は、制御部200と接続された各デバイスの動作を制御する。制御部200には、操作部102(表示部121及び入力部122)、サーマルヘッド103、媒体加熱器104、媒体センサ108、先端センサ109、切断部114、モータドライバ201及び202、電池203、並びに電圧測定部204が接続されている。また、制御部200は、操作部102(入力部122)から入力された指示及び画像情報(印刷データ)の受付を受け付けたり、ユーザに対する情報を操作部102(表示部121)に表示したりする。
【0017】
制御部200は、パーソナルコンピュータ等の外部装置と接続可能であってもよく、外部装置から指示及び画像情報を受信してもよい。また、RAMカードやUSB等の外部記憶装置がプリンタ100に装着可能であってもよく、そのような外部記憶装置に格納されたデータを制御部200が使用してもよい。
【0018】
モータドライバ201は、搬送用モータ211の動作を制御する。搬送用モータ211は、搬送ローラ対106及び搬送ローラ107を駆動するモータである。モータドライバ202は、ヘッド用モータ212の動作を制御する。ヘッド用モータ212は、サーマルヘッド103を、上述の退避位置と印刷位置との間で移動させるモータである。搬送用モータ211及びヘッド用モータ212は、例えばステッピングモータで構成される。電池203は、プリンタ100が動作するための電源として使用され、充電可能な二次電池で構成される。電圧測定部204は、
図3を用いて後述するように、電池203とサーマルヘッド103との間のライン上で電圧の測定を行う。
【0019】
<電圧測定部>
図3は、電圧測定部204の接続構成の一例を示す図である。電圧測定部204は、電池203とサーマルヘッド103との間に接続されている。電池203は、内部抵抗Rbと電源DCとで構成される。電圧測定部204は、電圧検知器301と、DC-DC(電圧変換器)302及び303と、スイッチS1~S4とを有している。スイッチS1~S4は、例えば、それぞれFETで構成される。
【0020】
電池203とサーマルヘッド103との間のラインには、電圧を検知する電圧検知器301が配置される。また、電圧検知器301とサーマルヘッド103との間のラインには、電池203とサーマルヘッド103との接続のスイッチングを行うスイッチS1が配置される。また、スイッチS1とサーマルヘッド103との間に、スイッチS2~S4がそれぞれ配置された並列の3つのラインが接続される。DC-DC302は、スイッチS1とS2との間に接続される。DC-DC303は、スイッチS1とS3との間に接続される。制御部200は、スイッチS1のオン/オフを制御するとともに、スイッチS2~S3のいずれかがオンになるようにスイッチS2~S3のオン/オフを制御する。具体的には、制御部200はスイッチS1~S4を以下のように制御する。
【0021】
(1)印刷を実行する際には、制御部200は、スイッチS1及びS2をオンにすることで、電池203からDC-DC302を介してサーマルヘッド103へ電圧を供給する。このとき、電池203から出力された電圧は、DC-DC302によって印刷用の所定の電圧に昇圧されて、サーマルヘッド103に印加される。
(2)サーマルヘッド103の抵抗値Rsの検知を行う際には、制御部200は、スイッチS1及びS3をオンにすることで、電池203からDC-DC303を介してサーマルヘッド103へ電圧を供給する。このとき、電池203から出力された電圧は、DC-DC302によって抵抗値Rsの検知用の所定の電圧に降圧されて、サーマルヘッド103に印加される。
(3)電池203の容量を推定(サーマルヘッド103に流れる電流を測定)する際には、制御部200は、スイッチS1及びS4をオンにすることで、DC-DC302及び302を介さずに電池203をサーマルヘッド103に直接接続する。
【0022】
このように、画像形成部による画像形成が行われる際には、電池203の出力電圧を所定電圧に変換してサーマルヘッド103へ出力する電圧変換器(DC-DC302)を介して、電池203とサーマルヘッド103とが接続される。一方、サーマルヘッド103に流れる電流の測定が行われる際には、当該電圧変換器(DC-DC302)を介さずに、電池203とサーマルヘッド103とが直接接続される。スイッチS1~S4は、このように電池203とサーマルヘッド103との接続の切り替えを行う接続切替部として機能する。
【0023】
後述する電池容量の推定処理(S102)において、制御部200は、スイッチS1がオフの状態で電圧検知器301によって検知される電圧を、電池203の閉回路電圧V1として測定する。また、制御部200は、スイッチS1(及びS4)がオンの状態で電圧検知器301によって検知される電圧に基づいて、サーマルヘッド103に流れる電流を測定する。
【0024】
<サーマルヘッド>
図4は、サーマルヘッド103の構成例を示す図である。サーマルヘッド103は、128個の抵抗体R1~R128と、各抵抗体への通電を制御する制御回路401とを有する。なお、各抵抗体は、基準値(公称値)から誤差範囲内の抵抗値を有する。本例では、各抵抗体は、基準値Rref(例えば800Ω)から±15%の範囲内の抵抗値を有するものとする。制御回路401は、制御部200から出力されるDATA信号に従って、抵抗体R1~R128に電流を流す。DATA信号は、それぞれ各抵抗体に対応する128ビットで構成されている。
【0025】
制御回路401は、DATA信号の各ビットに従って、対応する抵抗体に電流を流す(通電する)か否かを設定する。DATA信号は、CLOCK信号に同期している。制御回路401は、CLOCK信号のパルスの立ち上がりエッジにおいてDATA信号からデータ(ビット)を順に取り込むことで、抵抗体R1~R128のそれぞれに通電するか否かを設定する。制御回路401は、制御部200からLATCH信号が出力されると、抵抗体R1~R128に対する通電設定を確定する。その後、制御回路401は、確定した通電設定に従って、制御部200から出力されるSTROBE信号がオンである間に抵抗体R1~R128に対する通電を行う。
【0026】
<電池の特性>
図5は、電池203の特性として、充電率(SOC:State Of Charge)-閉回路電圧(OCV:Open Circuit Voltage)特性(SOC-OCV特性)の例を示している。このSOC-OCV特性は、充電率と、電池203の負荷に接続されていない状態の電圧(即ち、閉回路電圧)との関係を示す。充電率とは、電池203が完全に充電された状態における電気容量に対する、充電されている電気量(放電された電気量を除いた電気量)の割合に相当する。電池203の閉回路電圧を検知し、検知した電圧に対応する充電率を、SOC-OCV特性を使用して求めることにより、電池203の充電率を推定できる。本実施形態では、後述するように、
図5に示すSOC-OCV特性を使用して電池203の充電率を推定し、更に電池203の容量を推定する。
【0027】
図6は、電池203のサイクル寿命特性の例を示しており、電池203の充電回数と電池203の容量[mAh]との関係、及び、電池203の充電回数と電池203の内部抵抗値Rbとの関係を示している。一般に、充電の繰り返しに伴う電池の劣化に起因して、
図6に示すように、電池203の容量は充電回数の増加に従って電池203の内部抵抗値Rbが徐々に増加して、電池203の容量が徐々に減少する。本実施形態では、後述するように、電池203の内部抵抗値Rbを検知(測定)し、測定した内部抵抗値に基づいて、
図6に示すサイクル寿命特性を使用して電池203の容量を推定する。
【0028】
<印刷ジョブ実行時の動作>
図7及び
図8は、印刷ジョブの実行時のプリンタ100の動作の例を示す図である。
図7は、印刷ジョブにおける印刷部数が1部である例を、
図8は、印刷ジョブにおける印刷部数が3部である例を示しており、各動作のタイミングを示している。
図7及び
図8において、「搬送」は、搬送ローラ対106及び搬送ローラ107がチューブ状の記録媒体Mを搬送する動作を行うタイミングを示す。「印字」は、サーマルヘッド103が記録媒体Mに画像を形成する動作を行うタイミングを示す。「カット」は、画像の形成が行われた記録媒体Mを切断部114が切断する動作を行うタイミングを示す。「加熱」は、記録媒体Mの柔軟性を維持するために媒体加熱器104が記録媒体Mを加熱する動作を行うタイミングを示す。
【0029】
図7及び
図8に示すように、印刷ジョブの実行に関連する各動作は、チューブ状の記録媒体Mの搬送タイミングに合わせてそれぞれ実行される。また、搬送路におけるサーマルヘッド103と切断部114との間の距離に応じて、サーマルヘッド103による画像形成後に切断部114による記録媒体Mの切断が行われるタイミングが変化する。更に、サーマルヘッド103(の各抵抗体)に流れる電流は、
図7及び
図8に示す画像形成動作に合わせて変化する。したがって、(
図11を参照して後述する)印刷ジョブ実行時の使用電力量を推定する処理では、印刷ジョブの実行に関連する各動作を考慮して使用電力量を推定する必要がある。
【0030】
<フローチャート:印刷処理>
図9は、プリンタ100における印刷処理の手順を示すフローチャートである。プリンタ100において操作部102を介して印刷ジョブの実行指示をユーザから受け付けると、制御部200は、
図9の手順に従って印刷ジョブの実行を開始する。まずS101で、制御部200は、サーマルヘッド103を退避位置から印刷位置に移動させてプラテンローラ112に対して記録媒体M(及びインクリボン)を押圧するよう、ヘッド用モータ212を駆動する。印刷位置へのサーマルヘッド103の移動が完了すると、制御部200はS102へ処理を進める。
【0031】
S102で、制御部200は、電池203の容量を推定する処理を、
図10に示す手順で実行し、S103へ処理を進める。S103で、制御部200は、印刷ジョブ実行時の使用電力量を推定する処理を、
図11に示す手順で実行し、処理をS104へ進める。なお、S103の処理は、S102の処理より先に実行されてもよいし、S102の処理と並列に実行されてもよい。
【0032】
S104で、制御部200は、S102において推定された電池203の残容量と、S103において推定された使用電力量とを比較し、その比較結果に基づいて、印刷処理を実行するか否かを判定する処理を行う。印刷処理を実行すると判定すると、制御部200は、S105で、印刷ジョブに従って記録媒体Mに画像を形成する印刷処理を開始する。
【0033】
印刷処理の開始後、S106で、制御部200は、電池203の出力電圧が所定電圧まで低下したか否かを判定し、出力電圧が所定電圧まで低下した場合にはS108へ処理を進め、出力電圧が所定電圧まで低下していない場合にはS107へ処理を進める。この所定電圧は、二次電池として構成されている電池203の使用限界に相当する最低電圧に対してある程度のマージンを加えた電圧として、電池203の過放電を防ぐために予め定められている。電池203に過放電が生じて残容量が0に至ると、電池203は深放電状態となり、電池を構成するセルが劣化して回復不能になる。S106の処理は、電池203がこのような状態に至ることを防ぐために行われる。
【0034】
電池203の出力電圧が所定電圧まで低下した場合、制御部200は、S108で、実行中の印刷処理を停止し、S109で、バックアップ処理を行い、
図9の手順による処理を終了する。なお、バックアップ処理は、例えば、ユーザによって入力部122から入力されたデータ等のバックアップを行う処理、及び、電池切れを示すメッセージを表示部121に表示する処理を含む。
【0035】
一方、S107で、制御部200は、印刷処理を終了するか否かを判定する。制御部200は、印刷ジョブに従った画像の形成が完了すると、印刷処理を終了すると判定し、
図9の手順による処理を終了する。制御部200は、印刷ジョブに従った画像の形成を継続する場合には、S106に処理を戻すことで、S106の処理を繰り返す。
【0036】
●電池容量の推定処理
図10は、S102における電池容量の推定処理の手順を示すフローチャートである。制御部200は、電圧測定部204及びサーマルヘッド103を使用して、電池203の容量(電池容量)及び残容量を推定する。
【0037】
まずS111で、制御部200は、電圧測定部204に設けられたDC-DC302及び303に出力を停止し、S112へ処理を進める。なお、制御部200は、DC-DC302及び303の出力を停止する代わりに、各DC-DCに接続されているスイッチS2及びS3をオフにしてもよい。
【0038】
S112で、制御部200は、スイッチS1をオフにして、電圧検知器301によって検知される電圧を測定し、得られた測定値を閉回路電圧(OCV)V1として取得する。その後、S113で、制御部200は、スイッチS1及びS4をオンにして、電池203からスイッチS1及びS4を介してサーマルヘッド103に電流を流す(通電する)。このとき、サーマルヘッド103が有する複数の抵抗体(抵抗体R1~R128)のうち、後述する
図13の処理により決定された抵抗体に対して通電される。サーマルヘッド103に通電した状態で、制御部200は、電圧検知器301によって検知される電圧を測定し、得られた測定値を電圧V2として取得する。電圧V2は、サーマルヘッド103に印加される電圧に相当する。
【0039】
制御部200は、電圧V2に基づいて、サーマルヘッド103に流れる電流を測定する。当該電流は、サーマルヘッド103の抵抗値Rsに基づいてV2/Rsと求められる。
なお、サーマルヘッド103の抵抗値Rsは、後述するように、S113において使用された抵抗体の抵抗値に平均値に相当し、基準値Rrefに等しくなるように定められている。S114で、制御部200は、閉回路電圧V1、電圧V2及びサーマルヘッド103に流れる電流の測定値(V2/Rs)に基づいて、次式を用いて電池203の内部抵抗値Rbを取得する。
V1-V2=(V2/Rs)*Rb
このようにして、サーマルヘッド103に流れる電流の測定値に基づいて、電池203の内部抵抗値が取得(測定)される。
【0040】
電池203の内部抵抗値Rbを取得すると、次にS115で、制御部200は、電池203のサイクル寿命特性(
図6)を用いて、電池203の現在の容量Yを推定する。具体的には、制御部200は、内部抵抗値Rbに対応する充電回数を求め、更に当該充電回数に対応する容量を求める。このようにして、制御部200は、電池203の現在の(全体の)容量Yを推定できる。なお、電池203のサイクル寿命特性(
図6)及びSOC-OCV特性(
図5)を示すデータは、制御部200内のROMに予め格納されており、当該ROMから読み出されて使用される。
【0041】
その後S116で、制御部200は、S112において測定された閉回路電圧(OCV)V1に基づいて、電池203のSOC-OCV特性(
図5)を用いて、充電率(SOC)を求めることで、電池203の充電率nを推定する。更にS117で、制御部200は、電池の現在の容量Yと充電率nとに基づいて、電池203の現在の残容量Z(=n*Y)を推定し、
図10の手順による処理(S102)を終了し、処理をS103へ進める。
【0042】
●使用電力量の推定処理
図11は、S103における使用電力量の推定処理の手順を示すフローチャートである。本実施形態では、制御部200は、実行対象の印刷ジョブごとに、当該印刷ジョブにおける印字率、記録媒体Mの搬送方向の印字長、印刷モード、及び印刷部数のうちの少なくとも1つに基づいて、使用電力量を推定する。
【0043】
まずS121で、制御部200は、印刷ジョブに含まれる印刷データに基づいて、サーマルヘッド103による画像形成における印字率αを取得する。なお、印字率は、記録媒体Mの記録面における画像形成が可能な領域内における、画像が形成される(インクが転写される)領域の割合に相当する。
【0044】
S122で、制御部200は、印刷ジョブにおける、媒体加熱器104による記録媒体Mの加熱動作(予備加熱動作)のための予備加熱設定を確認することで、予備加熱に要する時間θ及び電力Dの設定を取得する。なお、予備加熱動作を行わないことが設定されている場合、時間θ及び電力Dは0に設定される。
【0045】
S123で、制御部200は、印刷ジョブにおける印刷モードを確認することで、切断部114による切断回数mと、切断動作に要する電力Cとを取得する。なお、切断動作を行わない印刷モードが使用される場合には、切断回数m及び電力Cは0に設定される。更にS124で、制御部200は、印刷ジョブにおける印刷設定を確認することで、記録媒体Mの搬送方向における1部当たりの印字長βと、印刷部数εとを取得する。なお、S121~S124の処理は、任意の順序で実行されることが可能である。
【0046】
その後S125で、制御部200は、S121~S124において取得されたパラメータ値に基づいて、印刷ジョブ実行時の使用電力量Wbを推定する。使用電力量Wb[Wb]は、次式により求められる。
Wb=[{α*(β/A)*B}+(m*C)]*ε+[ε*θ*D]
なお、Aは印刷速度、Bは、サーマルヘッド103の消費電力である。制御部200は、使用電力量Wbを推定すると、
図11の手順による処理(S103)を終了し、処理をS104へ進める。
【0047】
●印刷判定処理
図12は、S104における印刷判定処理の手順を示すフローチャートである。まずS131で、制御部200は、S102(
図10)の処理で得られた、電池203の残容量Z(=n*Y)の推定結果と、S103(
図11)の処理で得られた、使用電力量Wbの推定結果とを比較する。ここで、制御部200は、使用電力量Wbとの比較を可能にするために、次式により電池203の残容量Zを電力量Wa[Wb]に換算する。
Wa=V1*Z*τ
なお、τは、DC-DC302による電圧の変換効率である。これにより、制御部200は、電池203の残容量Zに対応する電力量Wa[Wh]と、使用電力量Wb[Wh]と比較する。
【0048】
S131における比較結果に基づいて、S132で、制御部200は、印刷ジョブの実行のために電池203の残容量Zが不足するか否かを判定する。制御部200は、Wa≧Wbである場合、電池203の残容量Zは不足しないと判定し、S133へ処理を進める。S133で、制御部200は、印刷が可能であることを示す通知を表示部121に表示し、
図12の手順による処理(S104)を終了し、処理をS105へ進める。
【0049】
一方、制御部200は、Wa<Wbである場合、電池203の残容量Zが不足すると判定し、S132からS134へ処理を進める。S134で、制御部200は、電池203の残容量Zが不足していることを示す通知を表示部121に表示し、それでも印刷処理を行うか否かをユーザに確認する。S135で、制御部200は、入力部122から入力されたユーザの指示に基づいて、印刷処理を実行するか否かを判定する。制御部200は、印刷処理を実行する場合には、
図12の手順による処理(S104)を終了し、処理をS105へ進める。一方、制御部200は、印刷処理を実行しない場合には、
図12及び
図9の手順による処理を終了することで印刷ジョブの実行を停止する。
【0050】
<フローチャート:抵抗体の使用制御>
図13は、サーマルヘッド103の複数の抵抗体(抵抗体R1~R128)のうちで、電池容量の推定処理(S102)におけるS113で使用される抵抗体を決定するための、抵抗体の使用制御の手順を示すフローチャートである。S113で使用される抵抗体は、プリンタ100の工場出荷時に予め定められており、このため抵抗体の使用数Nも予め定められている(例えば、N=80)。しかし、サーマルヘッド103に使用される各抵抗体の抵抗値は時間の経過とともに変化する。このため、ある程度の期間が経過するごとに、各抵抗体の抵抗値の変化に応じて、S113で使用される抵抗体を決定し直すのが望ましい。
【0051】
そこで、本実施形態では、制御部200は、サーマルヘッド103に流れる電流の測定において通電される抵抗体の平均抵抗値Raveが所定値(基準値Rref)となるように、当該測定における複数の抵抗体への通電を制御する。具体的には、制御部200は、所定部数の画像の形成が行われるごとに、
図13の手順による制御を実行することで、S113で使用される抵抗体を決定し直す。
【0052】
制御部200は、所定部数の画像の形成が行われるごとに、印刷ジョブの実行開始時に、
図13の手順による制御を実行する。まずS141で、制御部200は、S2及びS4をオフにし、スイッチS1及びS3をオンにして、電池203からスイッチS1、DC-DC303及びスイッチS3を介してサーマルヘッド103の各抵抗体に順に通電する。更に、制御部200は、各抵抗体に通電した状態で、電圧検知器301によって検知される電圧を測定することで、抵抗体に流れる電流の値を測定し、その測定結果に基づいて抵抗体の抵抗値を取得する。これにより、制御部200は、
図14に示すように、抵抗体R1~R128の抵抗値を取得する。
【0053】
次にS142で、制御部200は、S141における測定結果に基づいて、
図14に示すように、抵抗体R1~R128を抵抗値の昇順又は降順に並べ替えたリストを生成し、当該リストにより、抵抗体テーブルを更新する。抵抗体テーブルは、ROM又はRAMに格納された状態で保持されている。
【0054】
更にS143で、制御部200は、抵抗体R1~R128を抵抗値のうちの最大抵抗値が基準値Rref(例えば800Ω)を下回るか否かを判定し、下回る場合にはS144に処理を進める。S144で、制御部200は、S113における抵抗体の使用数NをF個減らし(即ち、N=N-F)、処理をS147へ進める。一方、最大抵抗値が基準値Rrefを下回らない場合にはS143からS145へ処理を進める。S145で、制御部200は、抵抗体R1~R128を抵抗値のうちの最小抵抗値が基準値Rref(例えば800Ω)を上回るか否かを判定し、上回る場合にはS146に処理を進める。S146で、制御部200は、S113における抵抗体の使用数NをF個増やし(即ち、N=N+F)、処理をS147へ進める。一方、最小抵抗値が基準値Rrefを上回らない場合にはS145からS147へ処理を進める。
【0055】
S147で、制御部200は、抵抗体テーブルにおいて、連続するN個の抵抗体から成る範囲として、その範囲に含まれる抵抗体の平均抵抗値Raveが基準値Rrefに等しくなる範囲を特定する。制御部200は更に、特定した範囲を、S113における使用範囲として定めることで、抵抗体テーブルにおける抵抗体の使用範囲を調整する。例えば、制御部200は、連続するN個の抵抗体から成る範囲を、当該範囲についての平均抵抗値Raveが基準値Rrefに近づくようにシフトさせることで、そのような調整を行う。
【0056】
最後にS148で、制御部200は、S147における調整後の使用範囲に含まれるN個の抵抗体を、S113において使用する抵抗体として決定し、
図13の手順による処理を終了する。このようにして、サーマルヘッド103の抵抗値が一定になるように抵抗体の使用制御を行うことで、電池203の容量の推定精度を向上させることが可能である。
【0057】
なお、
図13の例では、サーマルヘッド103の抵抗値が一定になるように抵抗体の使用制御が行われているが、サーマルヘッド103の抵抗値が可変であっても、
図10乃至
図12の手順により電池203の容量を推定することは可能である。
【0058】
以上説明したように、本実施形態のプリンタ100(画像形成装置)において、制御部200は、電池203とサーマルヘッド103とを接続し、サーマルヘッド103に流れる電流を測定する。制御部200は、測定で得られた電流の測定値に基づいて電池203の内部抵抗値Rbを取得し、当該内部抵抗値に基づいて電池203の容量を推定する。このように、本実施形態によれば、電池203の内部抵抗値Rbの測定用の抵抗を設けることなく、電池203の容量を推定することが可能な画像形成装置を提供できる。
【0059】
また、電池203の内部抵抗値Rbに基づいて電池203の容量を推定することで、電池の性能劣化による内部抵抗値Rbの上昇に起因した電池容量の推定精度の劣化を避けることが可能である。
【0060】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0061】
100:プリンタ、103:サーマルヘッド、200:制御部、203:電池、204:電圧測定部、301:電圧検知器