(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070754
(43)【公開日】2022-05-13
(54)【発明の名称】電子機器
(51)【国際特許分類】
G06F 3/041 20060101AFI20220506BHJP
C01B 13/11 20060101ALI20220506BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20220506BHJP
G06F 3/044 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
G06F3/041 422
C01B13/11 G
H05H1/24
G06F3/041 480
G06F3/044 124
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020179996
(22)【出願日】2020-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】520272868
【氏名又は名称】武漢天馬微電子有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】特許業務法人藤央特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 哲史
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 浩史
(72)【発明者】
【氏名】杉本 大輔
【テーマコード(参考)】
2G084
4G042
【Fターム(参考)】
2G084AA14
2G084BB24
2G084CC19
2G084CC20
2G084CC34
2G084DD15
2G084HH05
2G084HH32
2G084HH56
4G042AA07
4G042CA01
4G042CB24
4G042CC04
4G042CC10
4G042CE04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】画像が観察される面や人体が接触する面を衛生に保つ電子機器を提供する。
【解決手段】電子機器は、透明絶縁基板310の一方の面に設けられた透明なX電極201及びY電極202と、X電極とY電極とを電気的に絶縁する絶縁膜203、312と、を有し、表示媒体の画像を示す面を覆う電極基板101と、電極基板101に接続され、X電極及びY電極に電圧を印加して当該電極間に電界を発生させる駆動回路と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明絶縁基板の一方の面に設けられた透明な第1電極および第2電極と、前記第1電極と前記第2電極とを電気的に絶縁する絶縁膜と、を有し、表示媒体の画像を示す面を覆うように構成される電極基板と、
前記電極基板に接続され、前記第1電極および前記第2電極に電圧を印加して当該電極間に電界を発生させる駆動回路と、
を有することを特徴とする電子機器。
【請求項2】
請求項1に記載の電子機器であって、
前記第1電極と前記第2電極とは、前記透明絶縁基板上の同一層に互いの端縁を対向させて配置される、
ことを特徴とする電子機器。
【請求項3】
請求項1に記載の電子機器であって、
前記透明絶縁基板上に、前記第2電極、前記絶縁膜、前記第1電極の順に積層して配置され、
前記第1電極の端縁の少なくとも一部は、平面視で前記第2電極の領域内に存在する、
ことを特徴とする電子機器。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の電子機器であって、
前記電極基板は、前記駆動回路からの印加電圧に応じて、前記電極基板上にオゾンを発生する、
ことを特徴とする電子機器。
【請求項5】
請求項4に記載の電子機器であって、
前記電極基板上の電界強度のピーク値が空気の絶縁破壊電界強度以上である、
ことを特徴とする電子機器。
【請求項6】
請求項5に記載の電子機器であって、
前記絶縁膜にかかる電界強度のピーク値が前記絶縁膜の絶縁破壊電界強度よりも小さい、
ことを特徴とする電子機器。
【請求項7】
請求項1に記載の電子機器であって、
第1接続部で接続された複数の特定形状の前記第1電極が第1方向に配列された第1電極群が、第2方向に互いに平行に延在し、
第2接続部で接続された複数の特定形状の前記第2電極が前記第2方向に配列された第2電極群が、前記第1方向に互いに平行に延在し、
前記第1電極群と前記第2電極群とは前記第1接続部および前記第2接続部で前記絶縁膜を介して積層されている、
ことを特徴とする電子機器。
【請求項8】
請求項7に記載の電子機器であって、
前記第1電極または前記第2電極のうち一方の電極の前記特定形状は、前記一方の電極の内部から外側に向かって突出した第1凸部分を有する形状であり、
前記第1電極または第2電極のうち他方の電極の前記特定形状は、前記第1凸部分の周囲を前記絶縁膜を介して覆う第1凹部分を有する形状である、
ことを特徴とする電子機器。
【請求項9】
請求項1に記載の電子機器であって、
前記電極基板の表面で生体を感知して信号を出力する検出部と、
前記検出部からの信号に基づいて、前記駆動回路を制御する制御回路と、
を有し、
前記制御回路は、前記検出部からの信号がない場合に、前記第1電極と前記第2電極の間に電圧を印加し、
前記電極基板は、前記駆動回路からの印加電圧に応じて、前記電極基板上にオゾンを発生する、
ことを特徴とする電子機器。
【請求項10】
透明絶縁基板の一方の面に設けられた透明な第1電極および第2電極と、前記第1電極と前記第2電極とを電気的に絶縁する第1絶縁膜と、を有する電極基板と、
画像を示す表示面が前記電極基板に覆われた表示媒体と、
前記電極基板に接続され、前記第1電極および前記第2電極に電圧を印加してオゾン発生源として駆動する第1駆動回路と、
前記電極基板に接続され、前記第1電極および前記第2電極に電圧を印加してタッチセンサとして駆動する第2駆動回路と、
前記第1駆動回路と前記第2駆動回路とを切り替える選択回路と、
を有することを特徴とする電子機器。
【請求項11】
請求項10に記載の電子機器であって、
前記電極基板上の電界強度のピーク値が空気の絶縁破壊電界強度以上である、
ことを特徴とする電子機器。
【請求項12】
請求項10に記載の電子機器であって、
前記第2駆動回路は、前記第1電極および前記第2電極に前記電極基板にオゾンを発生させない電圧を印加する、
ことを特徴とする電子機器。
【請求項13】
請求項10に記載の電子機器であって、
前記電極基板の接触面で触覚を提示可能に駆動する第3駆動回路を有し、
前記第1駆動回路、前記第2駆動回路、または前記第3駆動回路を選択する選択回路を有する、
ことを特徴とする電子機器。
【請求項14】
請求項13に記載の電子機器であって、
第1接続部で接続された複数の矩形状の前記第1電極が第1方向に配列された第1電極群が、第2方向に互いに平行に延在し、
第2接続部で接続された複数の特定形状の前記第2電極が前記第2方向に配列された第2電極群が、前記第1方向に互いに平行に延在し、
前記第1電極群と前記第2電極群とは前記第1接続部および前記第2接続部で前記第1絶縁膜を介して積層され、
前記第3駆動回路は、前記各第1電極群のうち外部から入力された対象領域に該当する特定の第1電極群に対して第1周波数の電圧信号を印加し、前記各第2電極群のうち前記対象領域に該当する特定の第2電極群に対して第2周波数の電圧信号を印加し、前記第1周波数および前記第2周波数の差の絶対値によって前記対象領域に電気的なうなり振動を発生させる、
ことを特徴とする電子機器。
【請求項15】
請求項1に記載の電子機器であって、
前記第1電極および前記第2電極の組み合わせは、前記電極基板に複数配列されており、
前記駆動回路は、前記複数の組み合わせのうちの一部の組み合わせを駆動する、
ことを特徴とする電子機器。
【請求項16】
請求項15に記載の電子機器であって、
前記駆動回路は、前記複数の組み合わせのうち第1組み合わせと第2組み合わせとを異なるタイミングで駆動する、
ことを特徴とする電子機器。
【請求項17】
請求項16に記載の電子機器であって、
前記駆動回路は、前記複数の組み合わせの中で、前記第1電極および前記第2電極のうち一方の電極を所定の走査方向に駆動する、
ことを特徴とする電子機器。
【請求項18】
請求項13に記載の電子機器であって、
前記第1絶縁膜上に配置され、互いに電気的に独立した複数の浮遊電極と、
前記複数の浮遊電極を覆う第2絶縁膜と、
を有することを特徴とする電子機器。
【請求項19】
透明絶縁基板の一方の面に設けられた透明な第1電極および第2電極と、前記第1電極と前記第2電極とを電気的に絶縁する絶縁膜と、を有する電極基板と、
前記電極基板に接続され、前記第1電極および前記第2電極に電圧を印加してオゾン発生源として駆動する第1駆動回路と、
前記電極基板に接続され、前記第1電極および前記第2電極に電圧を印加してタッチセンサとして駆動する第2駆動回路と、
前記第1駆動回路と前記第2駆動回路とを切り替える選択回路と、
を有することを特徴とする電子機器。
【請求項20】
請求項19に記載の電子機器であって、
制御対象に接続され、前記選択回路の選択制御と前記制御対象の制御とを実行する制御回路を有し、
前記制御回路は、前記第2駆動回路により前記タッチセンサとして駆動される前記電極基板から生体の接触を検出した検出信号が出力された場合、前記制御対象を制御する、
をことを特徴とする電子機器。
【請求項21】
請求項20に記載の電子機器であって、
前記制御回路は、前記タッチセンサの不使用時間帯に前記第1駆動回路に切り替え、前記不使用時間帯が経過すると前記第2駆動回路に切り替えるように前記選択回路を制御する、
ことを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1は、プラズマ放電を生じさせる交流高電圧による絶縁破壊を抑制する放電素子およびその製造方法を開示する。この放電素子は、絶縁基板と、電極と、絶縁膜と、を備えている。絶縁基板は、耐熱ガラスまたはセラミックスにより形成されている。電極は、絶縁基板上に形成され、交流高電圧が印加される。絶縁膜は、電極を被覆する。また、絶縁基板の電極と対向する表面側の放電開始電圧が、絶縁膜の電極と対向する表面側の放電開始電圧よりも低くなるように、絶縁基板および絶縁膜が形成されている。
【0003】
また、この放電素子において、オゾンを生成するときには、パッド3P1とパッド3P2に、外部電源を接続して交流高電圧を印加する。この放電素子では、放電開始電圧が、絶縁膜側の表面よりも絶縁基板側の表面の方が低くなるように構成されている。そのため、外部電源から印加する交流高電圧を徐々に上げていくと、絶縁基板側の表面で放電が開始されてプラズマが発生する。このプラズマにより、空気中の酸素が分解・結合してオゾンが生成される(下記特許文献1の段落[0031])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
表示装置や触覚提示装置のように人体が接触し得る電子機器について、人体が接触し得る箇所の殺菌を行うには、殺菌スプレーや、オゾン発生器のような殺菌装置を別途用意する必要がある。また、従来のオゾン発生源は、その形状のため、または、電極に用いられる金属により透過率が低い。したがって、当該オゾン発生源を上述した電子機器の人体が接触し得る箇所に取り付けることは困難である。
【0006】
本発明は、画像が観察される面や人体が接触する面を衛生に保つことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願において開示される発明の第1の側面となる電子機器は、透明絶縁基板の一方の面に設けられた透明な第1電極および第2電極と、前記第1電極と前記第2電極とを電気的に絶縁する第1絶縁膜と、を有し、表示媒体の画像を示す面を覆うように構成される電極基板と、前記電極基板に接続され、前記第1電極および前記第2電極に電圧を印加して当該電極間に電界を発生させる駆動回路と、を有することを特徴とする。
【0008】
本願において開示される発明の第2の側面となる電子機器は、透明絶縁基板の一方の面に設けられた透明な第1電極および第2電極と、前記第1電極と前記第2電極とを電気的に絶縁する第1絶縁膜と、を有する電極基板と、画像を示す表示面が前記電極基板に覆われた表示媒体と、前記電極基板に接続され、前記第1電極および前記第2電極に電圧を印加してオゾン発生源として駆動する第1駆動回路と、前記電極基板に接続され、前記第1電極および前記第2電極に電圧を印加してタッチセンサとして駆動する第2駆動回路と、前記第1駆動回路と前記第2駆動回路とを切り替える選択回路と、を有することを特徴とする。
【0009】
本願において開示される発明の第3の側面となる電子機器は、透明絶縁基板の一方の面に設けられた透明な第1電極および第2電極と、前記第1電極と前記第2電極とを電気的に絶縁する第1絶縁膜と、を有する電極基板と、前記電極基板に接続され、前記第1電極および前記第2電極に電圧を印加してオゾン発生源として駆動する第1駆動回路と、前記電極基板に接続され、前記第1電極および前記第2電極に電圧を印加してタッチセンサとして駆動する第2駆動回路と、前記第1駆動回路と前記第2駆動回路とを切り替える選択回路と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の代表的な実施の形態によれば、画像が観察される面や人体が接触する面を衛生に保つことができる。前述した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例1にかかる電子機器を示す図である。
【
図3】
図3は、オゾン発生原理を示す説明図である。
【
図4】
図4は、電極基板に電圧を印加したとき、発生する電界をシミュレーションしたモデルの説明図である。
【
図5】
図5は、注目領域内の電界強度分布を示すヒートマップである。
【
図6】
図6は、
図4のシミュレーション結果から観察位置付近の電界強度を分析した結果1の説明図である。
【
図7】
図7は、
図4のシミュレーション結果から観察位置付近の電界強度を分析した結果2を示す説明図である。
【
図8】
図8は、
図4のシミュレーション結果から観察位置付近の電界強度を分析した結果3を示す説明図である。
【
図9】
図9は、電極形状の変形例を示す説明図である。
【
図11】
図11は、実施例2にかかる電子機器の構成例を示すブロック図である。
【
図12】
図12は、実施例3にかかる電子機器の構成例を示すブロック図である。
【
図13】
図13は、実施例3にかかる電子機器の一例を示す斜視図である。
【
図14】
図14は、実施例4にかかる電子機器の構成例を示すブロック図である。
【
図15】
図15は、実施例5にかかる電子機器の走査例を示す説明図である。
【
図16】
図16は、実施例6にかかる電子機器を示す説明図である。
【
図17】
図17は、実施例6にかかる電子機器の構成例を示すブロック図である。
【
図18】
図18は、実施例7にかかる電子機器を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施例1~実施例7にかかる電子機器について説明する。実施例1~実施例7にかかる電子機器は、例えば、タッチセンサ、表示装置、表示パネルおよび触覚提示装置に適用可能である。また、以下に示す説明において、寸法、電圧、電界強度などの数値や材料は一例であり、実施可能な範囲であれば他の数値および他の材料でもよい。
【実施例0013】
図1は、実施例1にかかる電子機器を示す図であり、(A)は構成例を示すブロック図、(B)は構造を示す斜視図である。実施例1において、電子機器100Aは、例えば、液晶や有機EL等を用いた表示装置や写真等を収容して表示する表示パネルに適用可能である。電子機器100Aは、電極基板101と、駆動回路102と、制御回路103と、表示媒体104とを有する。電極基板101は、対向する2つの電極を1組以上有する基板であり、所定の電圧印加によりオゾンを発生する基板である。
【0014】
図2は、電極基板101の構造を示す図である。
図2(A)は、電極基板101の平面視図を示している。
図2(B)は、当該平面視図(A)における部分拡大図を示している。
図2(C)は、当該部分拡大図(B)のA-A´断面図を示している。電極基板101は、透明な支持基板310上に、X電極201と、Y電極202と、絶縁膜203と、を有する。
【0015】
なお、
図2(A)および(B)では、X電極201およびその配線を点線で示し、Y電極202およびその配線を実線で示す。X電極201およびY電極202は、透明電極であり、例えばITO(Indium Tin Oxide:インジウムスズ酸化物)を用いて形成することができる。これらX電極201およびY電極202の平面形状は、例えば、四角形(菱形や矩形)である。
【0016】
図1に戻り、駆動回路102は、所定の電圧をX電極201およびY電極202に印加することにより、電極基板101をオゾン発生源として駆動する。この電圧印加により、電極基板101の表面101aにオゾンが発生するため、電極基板101の表面101aが殺菌される。
【0017】
制御回路103は、駆動回路102による電圧印加を制御する。具体的には、例えば、制御回路103は、センサ(不図示)や人の操作のような外部入力に応じて、駆動回路102に、電極基板101への電圧印加を指示したり、電極基板101への電圧印加の停止を指示したりする。
【0018】
図1(B)に示すように、表示媒体104の画像を示す面は、電極基板101に覆われている。表示媒体104は、メニュー表や写真のように印刷された画像(手書きでもよい)が表示された媒体(第1表示媒体)でもよく、液晶表示装置や有機EL表示装置のように表示媒体104自身が画像を表示する媒体(第2表示媒体)でもよい。
【0019】
なお、先述のように、X電極201およびY電極202は透明電極である。そして、表示媒体104は、例えば、電極基板101と背面板105との間に挿入される。これにより、画像は表面101aから観察可能になる。なお、背面板105に替えて電極基板101を用いることにより、電子機器100Aの両面でオゾンを発生させることができる。
【0020】
次に、電極基板101の詳細を説明する。
図2(A)において、X電極201の配線およびY電極202の配線は、それぞれ端子301、302に接続される。端子301、302は駆動回路102(
図1参照)に接続される。
【0021】
X電極201およびY電極202の形状は、例えば、四角形(菱形や矩形)である。X電極201は、第1接続部であるブリッジ電極311X(
図2(B)参照)を介して、x方向に数珠状に連結されている。すなわち、X電極201がx方向に配列される。このように、電気的にx方向に接続されたX電極をX電極群と呼ぶ。x方向に数珠状に連結されたX電極群は、y方向に、例えば、2[mm]の間隔で配置されている。各X電極群は、y方向に互いに平行に延在する。
【0022】
Y電極202は、第2接続部であるブリッジ電極311Y(
図2(B)参照)を介して、y方向に数珠状に連結されている。すなわち、Y電極202がy方向に配列される。このように、電気的にY方向に接続されたY電極をY電極群と呼ぶ。y方向に数珠状に連結されたY電極群は、x方向に、例えば、2[mm]の間隔で配置されている。各Y電極群は、x方向に互いに平行に延在する。
【0023】
X電極群とY電極群とは、平面視した時に、第1接続部(ブリッジ電極311X)と第2接続部(ブリッジ電極311Y)が絶縁膜203を介して重なりあうように形成されている。
図2(C)に示すように、ブリッジ電極311Xとブリッジ電極311Yは、絶縁膜203によって絶縁される。換言すれば、X電極群とY電極群とは、絶縁膜203を介して立体交差するように構成される。また、X電極201とY電極202とは、平面視した時に、重ならないように形成されている。すなわち、X電極201とY電極202とが、平面視した時に隣り合う形状となっている。
【0024】
次に、
図2(C)を用いて製造手順を説明する。支持基板310は、例えば、ガラス基板のような透明絶縁基板である。まず、支持基板310の第1面310a上に、ブリッジ電極311XをITOのような透明導電膜によって形成する。次いで、ブリッジ電極311Xの上に絶縁膜203を、例えば、SiN(シリコン窒化膜)等により形成する。
【0025】
絶縁膜203は、ブリッジ電極311XとY電極202及びブリッジ電極311Yとを絶縁するようにブリッジ電極311Xを覆い、かつ、ブリッジ電極311XとX電極201とが接触するように、ブリッジ電極311Xを覆わないような形状に形成される。次いで、X電極201、Y電極202、ブリッジ電極311Y、配線および端子301,302を、透明導電膜によって一括して形成する。最後に絶縁膜312を、例えば、SiN(シリコン窒化膜)等により成膜し、端子301、302にコンタクトホールを形成する。
【0026】
上記のように構成した電極基板101の端子301、302に電圧を印加することによって、X電極群とY電極群の間に電界が発生する。発生した電界強度が空気の絶縁破壊レベルを超えると放電によりオゾンが発生する。絶縁膜312上におけるオゾンが発生する場所は、例えば、領域321に示すようなX電極201とY電極202との間である単層電極間、あるいは、領域322に示すような絶縁膜203を介するブリッジ電極311Xとブリッジ電極311Yの間である積層電極間である。
【0027】
図3は、オゾン発生原理を示す説明図である。
図3(A)は、
図2(B)に示した単層電極間の電界発生領域321でのオゾン発生原理を示し、
図3(B)は、
図2(C)に示した積層電極間の電界発生領域322でのオゾン発生原理を示す。信号電源401は、X電極201に電圧を印加する交流電源であり、信号電源402は、Y電極202に電圧を印加する交流電源である。
【0028】
例えば、信号電源401の出力をGNDとし、信号電源402の出力を所定の交流電圧とする。この場合、
図3(A)の単層電極間ではX電極201とY電極202との電位差により電界410が発生し、
図3(B)の積層電極間ではブリッジ電極311Xとブリッジ電極311Yとの電位差により電界420が発生する。絶縁膜312上の空気中における電界410、420の電界強度が所定値に達すると空気の絶縁破壊が起こる。空気の絶縁破壊が起こると無声放電が生じ、オゾンが発生する。
【0029】
図4は、電極基板101に電圧を印加したとき、発生する電界をシミュレーションしたモデルの説明図である。
図4のモデルは、
図3にオゾン発生原理を示した電極基板101の積層構造を簡略化した3次元モデルである。
図4においてz方向は電極基板101の平面に垂直となる方向であり、x方向はX電極201とブリッジ電極311Xが接続する方向であり、y方向はY電極202とブリッジ電極311Yが接続する方向である。
【0030】
図4(A)は、単層電極間の電界発生領域321の3次元シミュレーションモデルのxz断面を示す。すなわち、
図4(A)では、
図3(A)の電界発生領域321を包含する3次元領域を簡略化した3次元モデルを示している。
図4(B)は、積層電極間の電界発生領域322の3次元のシミュレーションモデルのxz断面を示す。すなわち、
図4(B)では、
図3(B)の電界発生領域322を包含する3次元領域を簡略化した3次元モデルを示している。単層電極間の電界発生領域321の3次元のシミュレーションモデルを単層電極モデルM1と称し、積層電極間の電界発生領域322の3次元のシミュレーションモデルを積層電極モデルM2と称す。
【0031】
単層電極モデルM1および積層電極モデルM2のいずれについても、空気、絶縁膜312、および支持基板310のそれぞれの比誘電率、厚さ、および単位は、表400に示す通りである。X電極201、Y電極202、絶縁膜312の厚さは、
図4中に示すとおりである。単層電極モデルM1のX電極201とY電極202の間隔、及び、積層電極モデルM2のX電極201とおよびブリッジ電極311Yの間隔を10umとし、各電極の幅は計算量の便宜上35umとした。また、図示しないが、単層電極モデルM1および積層電極モデルM2は、y方向に奥行きを有する3次元モデルである。
【0032】
X電極201およびブリッジ電極311Xの印加電圧をV1とし、Y電極202およびブリッジ電極311Yの印加電圧をV2とする。印加電圧V1をGNDに設定し、印加電圧V2を15[V]、30[V]、150[V]、600[V]とし、各3次元モデル(M1,M2)の内部に発生する電界強度のシミュレーションを実行した。結果については、各モデルy方向の中心点のxz面において、上述の10um間隔の電極を中心とした注目領域501、502で発生する電界分布を解析の対象とした。
【0033】
図5は、注目領域内の電界強度分布を示すヒートマップである。ヒートマップ511,512は、15[V]、30[V]、150[V]、600[V]のいずれかの値の電圧V2の条件(たとえば、V2=15)下における電界強度分布を俯瞰的に可視化したデータであり、注目領域501内、502内の電界強度を示す。
【0034】
ヒートマップ511,512において、電界強度は濃淡で表現され、色が濃いほど高電界である。
図5(A)に示す注目領域501内では、X電極201とY電極202との間でX電極201およびY電極202の向かい合う端部201a,202aに近いほど電界強度が高くなり、当該端部201a,202aで電界強度のピーク値(最大値)511a,511bをとる。
【0035】
一方、
図5(B)に示す注目領域502内では、X電極201に対向するブリッジ電極311Yの端部311Yaに近いほど電界強度が高くなり、当該端部311Yaで電界強度のピーク値(最大値)512aをとる。また、ヒートマップ511、512からわかるように、空気層の電界強度は支持基板310から離れるほど低くなる。
【0036】
図6は、
図4のシミュレーション結果から観察位置付近の電界強度を分析した結果1の説明図である。
図6は、
図5のように俯瞰的に示した電界強度分布ではなく、Y電極202およびブリッジ電極311Yの印加電圧V2=600Vとしたときの空気と絶縁膜312の界面を観察位置とした場合の電界強度分布を示す。
【0037】
図6(A)は単層電極モデルM1(注目領域501内)の結果1を示し、
図6(B)は積層電極モデルM2(注目領域502内)の結果1を示す。グラフ601,602は、絶縁膜312の界面における空気層の電界強度の電圧V2の依存性を示す。グラフ601,602の縦軸は、絶縁膜312の界面における空気層の電界強度[MV/m]である。横軸は、注目領域501、502と対応したx方向の位置であり、横軸座標の1.5E-05が、モデルM1,M2のx方向における中心位置である。
【0038】
すなわち、(A)において、横軸座標の1.0E-05がX電極201の端部201aの位置に対応し、横軸座標の2.0E-05がY電極202の端部202aの位置に対応し、その間隔は10[μm]である(
図7、
図8も同様)。同様に、(B)において、横軸座標の1.0E-05がX電極201の端部201aの位置に対応し、横軸座標の2.0E-05がブリッジ電極311Yの端部311Yaの位置に対応し、その間隔は10[μm]である(
図7、
図8も同様)。
【0039】
グラフ601,602の点線は、空気の絶縁破壊が発生する電界強度(3[MV/m])である。電界強度が3[MV/m]以上になると、電極基板101上にオゾンが発生する。グラフ601,602に示したように、Y電極202およびブリッジ電極311Yの印加電圧V2を高くするほど、電界強度も高くなる。各グラフ601,602より、V2=600Vでは、絶縁膜312の界面における空気層の電界強度は3[MV/m]より十分高く、オゾンが発生することがわかる。
【0040】
図7は、
図4のシミュレーション結果から観察位置付近の電界強度を分析した結果2を示す説明図である。
図7は、Y電極202およびブリッジ電極311Yの印加電圧V2=600Vとしたときの絶縁膜312の界面から距離ΔZ離れた空気層の位置を観察位置とした場合の空気層の電界強度分布を示す。
図7(A)は単層電極モデルM1(注目領域501内)の結果2を示し、
図7(B)は積層電極モデルM2(注目領域502内)の結果2を示す。
【0041】
グラフ701,702は、空気層の電界強度の絶縁膜312の界面からの距離ΔZ(観察位置)の依存性を示す。縦軸は電界強度[MV/m]であり、横軸は、グラフ601、602と同じく、注目領域501,502と対応したx方向の位置であり、横軸座標の1.5E-5が、モデルM1,M2のx方向における中心位置である。点線は、空気の絶縁破壊が発生する電界強度(3[MV/m])である。電界強度が3[MV/m]以上になると、電極基板101上にオゾンが発生する。
【0042】
グラフ701,702からわかるように、単層電極モデルM1と積層電極モデルM2のいずれにおいても、空気層の電界強度は、絶縁膜312の界面から離れるほど低くなるが、ΔZ=10μmにおいても3[MV/m]を十分に上回っている。つまり、電極基板101上にオゾンを発生させることが可能であることを示している。
【0043】
図8は、
図4のシミュレーション結果から観察位置付近の電界強度を分析した結果3を示す説明図である。
図8は、Y電極202およびブリッジ電極311Yの印加電圧V2=600Vとしたときの絶縁膜312内部の電界強度分布を示す。
【0044】
図8(A)は単層電極モデルM1(注目領域501内)の結果3を示し、
図8(B)は積層電極モデルM2(注目領域502内)の結果3を示す。
図8(A)の観察位置は、X電極201およびY電極202と絶縁膜312との界面であり、
図8(B)の観察位置は、X電極201およびブリッジ電極311Yのブリッジ電極311Xに対向する面と絶縁膜312との界面である。
【0045】
グラフ801,802は、観察位置において絶縁膜312にかかる電界強度の分布を示す。縦軸は、電界強度[MV/m]であり、横軸は、x方向における注目領域501,502と対応した位置であり、横軸座標の1.5E-05が、モデルM1,M2のx方向における中心位置である。
【0046】
本シミュレーションにおいて、単層電極モデルM1(注目領域501内)における電界強度は、X電極201,Y電極202間の間隔および印加電圧V2-V1の値により決まる。また、積層電極モデルM2(注目領域502内)における電界強度は、ブリッジ電極311X,311Y間の絶縁膜312の厚さおよび印加電圧V2-V1の値により決まる。
【0047】
グラフ801,802からわかるように、絶縁膜312にかかる電界強度は、単層電極モデルM1よりも積層電極モデルM2の方が大きくなっている。そして、積層電極モデルM2における電界強度は、本シミュレーションの条件下(|V2-V1|=600V、絶縁膜厚0.03μm)では700[MV/m]を下回っている。従って、例えば、絶縁破壊の電界強度が800[MV/m]のSiN(シリコン窒化膜)を絶縁膜312に用いれば、絶縁破壊が発生せず、オゾンを発生することが可能である。また、さらに絶縁破壊電界強度が高い絶縁膜、例えば、SiO2(シリコン酸化膜)や、SiNとSiO2の積層構造を適用することも可能である。
【0048】
図9は、電極形状の変形例を示す説明図である。本変形例のX電極901およびY電極902は、
図2(A)に示す四角形に比べて頂点数および辺数が多い形状となっている。具体的には、たとえば、X電極901は、矩形状の中心部910と、中心部910から中心部910の辺に沿って突出する4本の第1突出部911と、第1突出部911の突出方向に直交する方向に各第1突出部911の中途部から突出する4本の第2突出部912と、を有する。Y電極902も同様に、矩形状の中心部920と、中心部920から中心部920の辺に沿って突出する4本の第3突出部921と、第3突出部921の突出方向に直交する方向に各第3突出部921の中途部から突出する4本の第4突出部922と、を有する。
【0049】
X電極901は、例えば、X電極901およびY電極902が隣接する領域940において、中心部910の辺910aと、当該辺910aに直交する第1突出部911の辺911cと、当該辺911cに対向する第2突出部912の辺922bと、により、凹部941を形成する。凹部941には、Y電極902の第3突出部921が配置される。この第3突出部921の辺921a~921cと凹部941を構成する辺910a,911c,912cとが対向するため、四角形のX電極201に比べて、単層電極間の電界発生領域321が増加する。
【0050】
Y電極902も同様に、例えば、X電極901およびY電極902が隣接する領域930において、中心部920の辺920aと、当該辺920aに直交する第3突出部921の辺921cと、当該辺921cに対向する第4突出部922の辺922bと、により、凹部931を形成する。凹部931には、X電極901の第1突出部911が配置される。この第1突出部911の辺911a~911cと凹部931を構成する辺920a,921c,922cとが対向するため、四角形のY電極202に比べて、単層電極間の電界発生領域321が増加する。
【0051】
また、例えば、2つのX電極901と2つのY電極902とが隣接しあう領域950において、X電極901の各々は、X電極901の第2突出部912の先端辺912aが一方のY電極902の第4突出部922の側辺922cと対向し、側辺912cが一方のY電極902の第3突出部921の側辺922cと対向し、側辺912bが他方のY電極902の第3突出部921の先端辺922aと対向するように配置される。このため、四角形のX電極201に比べて、単層電極間の電界発生領域321が増加する。
【0052】
同様に、領域950において、Y電極902の各々は、Y電極902の第4突出部922の先端辺922aが一方のX電極901の第2突出部912の側辺912cと対向し、側辺922cが一方のX電極901の第1突出部911の側辺912cと対向し、側辺922bが他方のX電極901の第1突出部911の先端辺912aと対向するように配置される。このため、四角形のY電極202に比べて、単層電極間の電界発生領域321が増加する。このように、領域930,940,950において、単層電極間の電界発生領域321が増加するため、オゾン発生領域の拡大を図ることができる。
【0053】
また、電極形状は、
図2および
図9に示した形状に限らず、さらに別の形状であってもよい。単層電極の構造において、二つの電極間距離を狭めれば、発生する電界強度が大きくなり、オゾン発生に必要な電圧を下げることができる。つまり、低電力化が可能となる。しかしながら、単層電極の構造は、電極間距離を狭めるほど、同層の電極間ショートを防ぐために高い加工精度が要求されることになる。このため、加工の容易性から、低電力化には、例えば領域322のような積層電極の構造が望ましい。
【0054】
図10は、積層電極の構造を示す概念図であり、(A)は積層電極の構造の断面図を示し、(B)は積層電極の構造の平面図を示す。オゾンを発生させる電極1001と電極1002とは、絶縁膜1003を介して対向する。(B)の平面図において、電極1001のエッジ1001aは電極1002の領域内に存在する。つまり、オゾン発生に好適な積層電極の構造は、
図3の領域322に限定されるものではなく、2つの電極1001,1002が絶縁膜1003を介して積層され、かつ、一方の電極1001のエッジ1001aが平面視にて他方の電極1002の領域内に存在する構造である。
【0055】
実施例1によれば、駆動回路102は、電極基板101に電圧を印加したときに発生する電界強度が、空気の絶縁破壊電界強度以上でシリコン窒化膜SiNの絶縁破壊強度未満となるように、X電極201およびY電極202(または、ブリッジ電極311Xおよびブリッジ電極311Y)に電圧V1およびV2を印加する。これにより、絶縁膜312を破壊することなく、電極基板101の表面101aにオゾンを発生させることができる。また、
図9に示したように電極形状を変形することにより、オゾン発生領域が拡大するため、電極基板101の表面101aでの殺菌処理をより短時間でおこなうことができる。
【0056】
また、実施例1の電子機器100Aによれば、オゾンを発生させるX電極201およびY電極202は支持基板310の片側である第1面310aにのみ存在する。したがって、電極基板101の表面101aを殺菌することができる。また、第1面310aは、表示媒体104の画像が表示される表示面と対向する。したがって、電子機器100Aは、電極基板101から画像の観察が可能であり、かつ、電極基板101の表面101aと対向する表示媒体104の表示面も殺菌することができる。
つぎに、実施例2について説明する。実施例2は、実施例1の制御回路103に人感センサを接続した構成である。実施例2では、実施例1と同一構成には同一符号を付し、その説明を省略する。
制御回路103は、人感センサ1100からの検出信号に基づいて、駆動回路102を制御する。具体的には、例えば、制御回路103は、人感センサ1100からの検出信号がない場合に、オゾンが発生するようX電極201およびY電極202に電圧を印加する。一方、制御回路103は、人感センサ1100からの検出信号がある場合に、X電極201およびY電極202に電圧を印加しない。
このように、生体が電子機器100Bの電極基板101近傍に存在しない場合、人感センサ1100は制御回路103に当該生体の検出信号を出力せず、駆動回路102は、オゾンが発生するようX電極201およびY電極202に電圧を印加する。したがって、電子機器100Bは、生体が電子機器100Bの電極基板101近傍に存在しない場合に、電極基板101の表面101aを殺菌することができる。
一方、生体が電子機器100Bの電極基板101近傍に接近または接触すると、人感センサ1100が制御回路103に当該生体の検出信号を出力し、駆動回路102は、X電極201およびY電極202に電圧を印加しない。したがって、電子機器100Bは、生体が電子機器100Bの電極基板101近傍に存在する場合に、オゾンの発生を停止する。オゾンが人体に影響を与えない許容濃度として、例えば0.1ppmとする指標がある(「許容濃度等の勧告(2019年度)」、産衛誌2019、日本産業衛生学会)。人感センサ1100を用いて必要な時にだけオゾンを発生させるように制御することにより、許容濃度内でオゾンを発生させ、生体への影響を回避することができる。
なお、駆動回路102はオゾン発生量の異なる電極基板101の駆動条件を複数有し、人感センサ1100に応じた人の有無で、駆動条件を変更してもよい。例えば、駆動回路102は、人感センサ1100が人を検出した場合には、オゾン発生量が現状のオゾン発生量から低減し、人感センサ1100が人を検出していない場合には、現状のオゾン発生量が増加するように、電極基板101の駆動条件を変更する。これにより、人がないときに安全に殺菌しておき、かつ、人がいるときはオゾン発生を停止させるため、安全性および殺菌効率の向上を図ることができる。
また、人感センサ1100が人を検出した場合には、現状のオゾン発生量がしきい値以上であれば、しきい値未満となるように、人感センサ1100が人を検出していない場合には、現状のオゾン発生量がしきい値未満であれば、しきい値以上となるように、駆動回路102は、電極基板101の駆動条件を変更してもよい。