(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070767
(43)【公開日】2022-05-13
(54)【発明の名称】グラム陰性菌増殖抑制芳香剤組成物及び芳香剤
(51)【国際特許分類】
A61L 9/01 20060101AFI20220506BHJP
A61L 9/012 20060101ALI20220506BHJP
C11B 9/00 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
A61L9/01 V
A61L9/012
C11B9/00 K
C11B9/00 J
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020180027
(22)【出願日】2020-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000208086
【氏名又は名称】大洋香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085316
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 三雄
(74)【代理人】
【識別番号】100171572
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100213425
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 正憲
(74)【代理人】
【識別番号】100221707
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100221718
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 誠悟
(72)【発明者】
【氏名】金谷 秀治
(72)【発明者】
【氏名】足立 尚也
(72)【発明者】
【氏名】清水 宏
【テーマコード(参考)】
4C180
4H059
【Fターム(参考)】
4C180AA10
4C180AA13
4C180EB02Y
4C180EB03X
4C180EB06Y
4C180EB08Y
4C180EB18Y
4C180FF01
4H059BA19
4H059BA20
4H059BB02
4H059BB14
4H059BB45
4H059DA09
4H059DA14
4H059EA06
4H059EA36
(57)【要約】
【課題】 臭い戻りのもととなる臭い物質自体を軽減させる、若しくは消臭する効果が得られるが、臭い発生のもととなるグラム陰性菌の増殖を抑えることができる香気組成物を提供する。
【解決手段】 2-ヒドロキシベンズアルデヒド、トランス-2-ヘキセナール、及び、n-デカナールを含有するグラム陰性菌増殖抑制芳香剤組成物により、グラム陰性菌に対して相乗的な増殖抑制効果を示すグラム陰性菌増殖抑制芳香剤組成物及び芳香剤を提供することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-ヒドロキシベンズアルデヒド、トランス-2-ヘキセナール、及び、n-デカナールを含有するグラム陰性菌増殖抑制芳香剤組成物。
【請求項2】
前記2-ヒドロキシベンズアルデヒドの含有量が0.1~10質量%、トランス-2-ヘキセナールの含有量が0.1~20質量%、及び、n-デカナールの含有量が0.1~5.0%である請求項1に記載のグラム陰性菌増殖抑制芳香剤組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のグラム陰性菌増殖抑制芳香剤組成物を1~50重量%含有する液状組成物が、香気透過性膜を用いて構成されてなる収容体に収容されてなり、前記香気透過性膜を通して前記グラム陰性菌増殖抑制芳香剤組成物が揮散可能であることを特徴とする芳香剤。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のグラム陰性菌増殖抑制芳香剤組成物を1~50重量%含有するゲル状芳香剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラム陰性菌に対して増殖抑制効果を示す揮発性のグラム陰性菌増殖抑制芳香剤組成物、及び芳香剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、共働き世帯の増加による夜間に洗濯を行う必要性が増えたこと、及び、ベランダなどの住居スペース外での規制が厳しく洗濯物が干しにくいなどの居住環境の変化が生じていることなどにより、洗濯物の部屋干しが行われる機会が増加している。また、住居建物の気密性が高くなったことに伴って、住居内における空気の循環性が低くなっている。
【0003】
このような暮らしの習慣や環境の変化に伴って、部屋干しされ、生乾きの状態が残る洗濯物からの臭い戻りや、湿気の高いクローゼットに収納された衣服からの臭い戻りが問題となってきている。
【0004】
このような問題に対し、特許文献1には、皮脂に由来の脂肪酸を臭気原因であるとし、アルカリ緩衝能を有する剤と水溶性多価金属塩を用いて脂肪酸をスカム化させることで脂肪酸の揮発を抑制し、異臭を低減させる方法の記載がある。また、特許文献2には、特定の加水分解性を有するエステル化合物によって消臭効果を発揮し得る水性衣料防臭処理剤が記載されている。
【0005】
ところで、洗濯されたはずの衣服から生じる臭い戻りの原因は、洗濯された衣服に残った皮脂や湿気がある環境で増殖するグラム陰性菌であるといわれている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-308026号公報
【特許文献2】特開2001-192969号公報
【特許文献3】特表2008-514827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来技術によっては、発生した臭い物質自体を軽減させる、若しくは消臭する効果が得られるが、臭い発生のもととなるグラム陰性菌の増殖を抑えることができるものではない。また、芳香剤成分自体が特定の組み合わせからなる組成物を構成することで、グラム陰性菌の増殖を抑制する効果を示す芳香剤組成物はこれまでに明らかとされていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、上記課題を解決する手段として本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 2-ヒドロキシベンズアルデヒド、トランス-2-ヘキセナール、及び、n-デカナールを含有するグラム陰性菌増殖抑制芳香剤組成物。
〔2〕 前記2-ヒドロキシベンズアルデヒドの含有量が0.1~10質量%、トランス-2-ヘキセナールの含有量が0.1~20質量%、及び、n-デカナールの含有量が0.1~5.0%である〔1〕に記載のグラム陰性菌増殖抑制芳香剤組成物。
〔3〕 〔1〕または〔2〕に記載のグラム陰性菌増殖抑制芳香剤組成物を1~50重量%含有する液状組成物が、香気透過性膜を用いて構成されてなる収容体に収容されてなり、前記香気透過性膜を通して前記グラム陰性菌増殖抑制芳香剤組成物が揮散可能であることを特徴とする芳香剤。
〔4〕 〔1〕または〔2〕に記載のグラム陰性菌増殖抑制芳香剤組成物を1~50重量%含有するゲル状芳香剤。
【0009】
ここで、本発明が増殖抑制効果を発揮するグラム陰性菌は限定するわけではないが、Escherichia coli、Pseudomonas aeruginosaおよびKlebsiella pneumoniaeを包含する。下記実施例では、抗菌効果試験のために、Escherichia coliおよびStaphylococcus aureusを選択した。しかしながら、他のグラム陰性菌に対しても、下記実施例によって説明した抗菌効果と同等の抗菌効果を示すであろうということが、本発明の範囲内であることは理解されるべきである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、グラム陰性菌に対して相乗的な増殖抑制効果を示すグラム陰性菌増殖抑制芳香剤組成物及び芳香剤を提供することができる。
【0011】
特に、本発明によれば、従来香気成分として知られるトランス-2-ヘキセナールとの相乗効果により、芳香剤成分自体に抗菌効果を有する芳香剤を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】グラム陰性菌増殖抑制効果を試験するためのシャーレの構成の概略を示す縦断面図である。
【
図2】容器4の全体形状の概略を示す斜視図である。
【
図3】液体芳香剤の形態におけるグラム陰性菌増殖抑制芳香剤組成物の効果検証における液体芳香剤1とソイビーン・カゼイン寒天培地Eとの位置関係を側方から見た様子を示す容器4の縦断面図である。
【
図4】ゲル状芳香剤9の形態におけるグラム陰性菌増殖抑制芳香剤組成物の効果検証において、容器4を横倒しとし、底面6に配置されたゲル状芳香剤9とソイビーン・カゼイン寒天培地Eとの位置関係を上から見た様子を示す容器4の横断面図である。
【実施例0013】
以下、試験例などにより本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。なお、本実施例における表中の各成分の含有量を示す数値は重量%で示されているものとする。
【0014】
〔空間におけるグラム陰性菌の増殖抑制効果検証〕
図1に示すように、シャーレ容体Bが直径90mm×高さ20mmであるシャーレ容器A(ポリスチレン製)を用意し、シャーレ容器Aを倒置した後、フタCの裏側に直径30mmのろ紙を中央に設置し、マイクロピペットにて、表1に示す試料を100μlずつしみ込ませた。
【0015】
【0016】
次に、シャーレ容体Bの内側底部に滅菌したソイビーン・カゼイン寒天培地E(SCD培地:ニッスイ製薬)を分注し、これを固化させた。滅菌リン酸緩衝液(pH7.0)に前培養を行ったグラム陰性菌(Escherichia coli)菌液を1×106cfu/mlになるように菌分散液Fを作製し、固化したソイビーン・カゼイン寒天培地Eの表面に、ガラス棒を使用して100μl塗工した。
【0017】
ろ紙Dを設置したシャーレのフタCに、寒天培地を分注したシャーレ容体Bを嵌め合わせた後、25℃の恒温槽にて48時間培養を行った。その後、シャーレ内のグラム陰性菌の生育度合いを、目視で確認すると共に、判定はグラム陰性菌の生育阻止円の直径(mm)を生育阻止円幅として測定して行った。なお、ソイビーン・カゼイン寒天培地全面で生育を阻止している時は「>90mm」と示した。
また、阻止円の周縁の外側領域にあたるグラム陰性菌が生育している部分が存在する場合について、グラム陰性菌の生育状態の評価を、シャーレ容体B内の寒天培地Eの表面積を基準とする生育阻止円の面積に基づいて行った。以上の試料に基づく化合物蒸気のグラム陰性菌増殖抑制効果を表2に示す。
【0018】
グラム陰性菌増殖抑制効果の評価基準
◎:完全にグラム陰性菌の増殖を抑制している。
〇:グラム陰性菌は生育しているが面積1/4以上で生育阻止円が確認できる。
△:グラム陰性菌は生育しているが面積1/4より小さい範囲で生育阻止円が確認できる。
×:ブランクと同程度のコロニーの大きさ(生育阻止円幅0mm)に成長している。
【0019】
【0020】
表2の結果から、完全にグラム陰性菌の増殖を抑制している効果が確認されたのは、2-ヒドロキシベンズアルデヒド、トランス-2-ヘキセナール、およびn-デカナールを併用した実施例1のみであった。一方、それぞれ単独、もしくは各2化合物を併用(比較例4~6)してグラム陰性菌の増殖抑制効果を確認したが、完全にはグラム陰性菌の増殖を抑制することができなかった。なお、溶剤にはジプロピレングリコールジメチルエーテルを用いた。
【0021】
〔液体芳香剤の形態における収納容器内空間用抗カビ剤の効果検証〕
表3に示した処方箋に従って調製した液体芳香剤1を、香気透過性膜であるポリエチレン製透過膜2が一端面に設けられてなる容器3に3.2ml充填した。ポリエチレン製透過膜2は、液体芳香剤1の全ては透過させないが、揮発した本発明に係る組成物成分は透過させて揮散させることができる微細孔構造を備える。その芳香剤1を
図2に示す内寸が横幅40cm、奥行き20cm、高さ55cmである約45Lの容積を有するポリプロピレン製の蓋付きの容体4を用意し、
図3に示すように芳香剤1を充填した容器3を、容体4の蓋5の裏面中央に取り付けた。さらに、容体4の底面6にあらかじめ調製しておいたグラム陰性菌菌液(菌分散液F)100μlを表面に塗工したソイビーン・カゼイン寒天培地Eを収容してなる前記シャーレ容体Bを設置し、25℃の環境下に置いた。設置2日(48時間)後にシャーレ容体Bと共に寒天培地Eを取り出して、前記「グラム陰性菌増殖抑制効果の評価方法」と同一の評価基準によりグラム陰性菌に対する生育状態の評価を行った。なお、評価対象としたグラム陰性菌には、Escherichia coliを用いた。
【0022】
【表3】
表3の結果から、完全にグラム陰性菌の増殖を抑制しているのは、2-ヒドロキシベンズアルデヒド、トランス-2-ヘキセナール、およびn-デカナールを併用した実施例2の液体芳香剤のみであった。一方、2-ヒドロキシベンズアルデヒド、トランス-2-ヘキセナール、またはn-デカナールの単独、または2種類併用による比較例10、比較例11、比較例12においては、完全にグラム陰性菌の増殖を抑制することはできなかった。表3の結果から、本発明によれば、約45Lという容積を有する閉鎖空間内で50cm以上離隔した位置でのグラム陰性菌に対する増殖抑制効果を発揮することが明らかとなった。また、容体4を用いた本検討は、実際の芳香剤の使用条件にも近い条件であり、本発明が実用にも優れた効果を示すことが明らかとなった。
【0023】
〔ゲル状芳香剤の形態における収納容器内空間用抗カビ剤の効果検証〕
表4に示した処方箋に従って調製したゲル状芳香剤9を内径43mm、高さ53mmのガラス瓶10に50g充填した。その芳香剤9が充填され、口部が開口されたガラス瓶10を、
図4に示すように、横倒しとした容器4の底面6に設置し、その周囲にあらかじめ調製しておいたグラム陰性菌菌液(菌分散液F)100μlを表面に塗工したソイビーン・カゼイン寒天培地Eを収容してなる前記シャーレ容体Bを設置し、25℃の環境下に置いた。設置2日(48時間)後にシャーレ容体Bと共に寒天培地Eを取り出して、前記「グラム陰性菌増殖抑制効果の評価方法」と同一の評価基準によりグラム陰性菌に対する生育状態の評価を行った。なお、評価対象としたグラム陰性菌には、Escherichia coliとPseudomonas aeruginosaを用いた。
【0024】
【0025】
表4の結果から、グラム陰性菌Escherichia coliとPseudomonas aeruginosaを完全に増殖抑制したのは、2-ヒドロキシベンズアルデヒドとトランス-2-ヘキセナール、およびn-デカナールを併用した実施例3であった。一方、2-ヒドロキシベンズアルデヒドとトランス-2-ヘキセナール、およびn-デカナールを併用していない比較例13は、寒天培地全体に菌の生育を確認した。これにより、本発明はゲル状の芳香剤としても抗菌効果を発揮することが明らかとなった。