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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070778
(43)【公開日】2022-05-13
(54)【発明の名称】炒め調理用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20220506BHJP
   A23D 7/01 20060101ALI20220506BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20220506BHJP
   A23L 7/109 20160101ALN20220506BHJP
【FI】
A23D7/00 504
A23D7/01
A23L7/10 E
A23L7/109 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020180045
(22)【出願日】2020-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】吉田 晶
(72)【発明者】
【氏名】松浦 佳紀
【テーマコード(参考)】
4B023
4B026
4B046
【Fターム(参考)】
4B023LE22
4B023LK05
4B023LL01
4B023LL04
4B023LP07
4B026DC01
4B026DC06
4B026DG01
4B026DG02
4B026DG03
4B026DG04
4B026DG05
4B026DG06
4B026DG07
4B026DG08
4B026DG09
4B026DG10
4B026DG12
4B026DG13
4B026DG15
4B026DK03
4B026DK04
4B026DK05
4B026DK10
4B026DL05
4B026DL06
4B026DL07
4B026DL10
4B026DP01
4B026DX05
4B046LA02
4B046LC17
4B046LC20
4B046LG10
4B046LG11
4B046LG14
4B046LG23
4B046LG51
4B046LP80
(57)【要約】
【課題】食材と混合しやすい分散性を有し、炒め調理する際に加熱器への張り付きや焦げ付きを防止しながら、炒めた香ばしい匂いを付与しうる調味料を提供する。
【解決手段】(A)ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルからなる群から選択される1種以上、(B)レシチン、(C)水性調味料及び(D)食用油脂を含む炒め調理用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルからなる群から選択される1種以上、
(B)レシチン、
(C)水性調味料及び
(D)食用油脂
を含む炒め調理用組成物。
【請求項2】
油中水型乳化組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(A)が少なくともポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
(A)がポリグリセリン縮合リシノール酸エステルである、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
(C)が、醤油、味噌、醤類、ソース類、ならびに畜産物、水産物、野菜、果物及びハーブ類の水及び/又はアルコールによる抽出エキスからなる群から選択される少なくとも1種のいずれかである、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
(D)が、植物油脂、動物油脂及びそれらのエステル交換油からなる群から選択される少なくとも1種の食用油脂である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
(D)が、サフラワー油、ぶどう油、大豆油、ひまわり油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、えごま油、あまに油、なたね油、こめ油、落花生油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、やし油、キャノーラ油、サラダ油及びそれらのエステル交換油からなる群から選択される少なくとも1種の植物油脂である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
(D)が、牛脂、豚脂、鶏脂、羊脂、鯨油、乳脂及びそれらのエステル交換油からなる群から選択される少なくとも1種の動物油脂である、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
(A)の重量が、(D)に対して0.01~30重量%である、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
(B)の重量が、(D)に対して0.01~40重量%である、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
(C)と(D)の重量比が、8:2~1:9である、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
炒め感を増強するための、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物を含有する食品。
【請求項14】
食品が米飯である、請求項13に記載の食品。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物を添加して食材を炒める工程を含む、食品の製造方法。
【請求項16】
炒める温度が、400℃以下である、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
食材が米飯である、請求項15又は16に記載の製造方法。
【請求項18】
請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物を添加する工程を含む、食材の炒め感増強方法。
【請求項19】
食材が米飯である、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の乳化剤、レシチン、水性調味料及び食用油脂を含む、調理時の焦げ付き等を抑制しながら香ばしい匂いを付与しうる炒め調理用組成物、当該組成物を使用した食品及びその製造方法、ならびに食材への炒め調理感の増強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品のおいしさは味だけでなく匂いや食感も重要な要素である。中華料理などの高温で短時間炒める調理法では、香ばしい香りは食欲をそそるだけでなく味にも関係している。しかしながら高温度帯(400℃以上)で食材と一緒に調味料を炒める場合には、食材の種類や量によって、鍋などに張り付くために焦げついて風味を低下させるという問題や、短時間で炒める場合には、調味料の分散性によって、まんべんなく分散して均一な味付けをすることが困難になるなど生産性が悪化するという問題があった。
一方、焦げつきを避けるために低温で調理すると香ばしい香りが低下することもあり、炒め調理に適した調味料の開発が望まれている。
【0003】
これまでに、調理時の調理器具と食材との剥離性を向上させることができるレシチンを炒め調理用調味料に配合することが知られている(特許文献1)。しかしながら、レシチンを配合した油脂組成物を用いて炒め調理を行うと味や臭いに影響が生じたり、炒め調理時の熱によって加熱着色が生じてしまうという問題があり、レシチンを使用しないでHLBの異なる乳化剤を組み合わせることで当該付着性を抑制し食材を炒め調理することも報告されている(特許文献2、3)。一方、レシチンの加熱着色抑制のためにポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含むレシチン含有油脂組成物の使用(特許文献4)や加熱調理時に油に飛びはねがなく摂取カロリー低減を目的としたポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含むレシチン含有油中水型エマルジョンの使用(特許文献5)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-89186号公報
【特許文献2】特開2019-150068号公報
【特許文献3】特開2016-101138号公報
【特許文献4】特開2007-68462号公報
【特許文献5】特開平1-187052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
食材と混合しやすい分散性を有し、炒め調理する際に加熱器への張り付きや焦げ付きを防止しながら、炒めた香ばしい匂いを付与しうる調味料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の乳化剤及びレシチンを食用油脂と水性調味料に加えた組成物が、分散性に優れ、高温帯(400℃以上)で炒めなくても、炒めた香ばしい匂いが付与され、焦げ付きも抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
【0007】
[1](A)ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルからなる群から選択される1種以上、
(B)レシチン、
(C)水性調味料及び
(D)食用油脂
を含む炒め調理用組成物。
[2]油中水型乳化組成物である、[1]に記載の組成物。
[3](A)が少なくともポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを含む、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4](A)がポリグリセリン縮合リシノール酸エステルである、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5](C)が、醤油、味噌、醤類、ソース類、ならびに畜産物、水産物、野菜、果物及びハーブ類の水及び/又はアルコールによる抽出エキスからなる群から選択される少なくとも1種のいずれかである、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6](D)が、植物油脂、動物油脂及びそれらのエステル交換油からなる群から選択される少なくとも1種の食用油脂である、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7](D)が、サフラワー油、ぶどう油、大豆油、ひまわり油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、えごま油、あまに油、なたね油、こめ油、落花生油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、やし油、キャノーラ油、サラダ油及びそれらのエステル交換油からなる群から選択される少なくとも1種の植物油脂である、[6]に記載の組成物。
[8](D)が、牛脂、豚脂、鶏脂、羊脂、鯨油、乳脂及びそれらのエステル交換油からなる群から選択される少なくとも1種の動物油脂である、[6]に記載の組成物。
[9](A)の重量が、(D)に対して0.01~30重量%である、[1]~[8]のいずれかに記載の組成物。
[10](B)の重量が、(D)に対して0.01~40重量%である、[1]~[9]のいずれかに記載の組成物。
[11](C)と(D)の重量比が、8:2~1:9である、[1]~[10]のいずれかに記載の組成物。
[12]炒め感を増強するための、[1]~[11]のいずれかに記載の組成物。
[13][1]~[12]のいずれかに記載の組成物を含有する食品。
[14]食品が米飯である、[13]に記載の食品。
[15][1]~[12]のいずれかに記載の組成物を添加して食材を炒める工程を含む、食品の製造方法。
[16]炒める温度が、400℃以下である、[15]に記載の製造方法。
[17]食材が米飯である、[15]又は[16]に記載の製造方法。
[18][1]~[12]のいずれかに記載の組成物を添加する工程を含む、食材の炒め感増強方法。
[19]食材が米飯である、[18]に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低温でも香ばしい匂いを米飯等に付与しうる調味料を提供することができる。
本発明によれば、炒め前後や炒め中に食材に本発明の組成物を添加することで、食材・調味料の炒め感を増加させつつ加熱器との剥離性も良好にすることができ焦げを抑制できる。
本発明の組成物は分散性もよく食材に容易に混合でき、また安定性にも優れているので調理性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、以下の(A)~(D)を含む炒め調理用組成物に関する(以下本発明の組成物と略することもある):
(A)ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルからなる群から選択される1種以上、
(B)レシチン、(C)水性調味料及び(D)食用油脂。
【0010】
本発明において、「炒め調理」とは、鍋などの加熱器に油を熱し、食材を入れて混ぜながら加熱する調理方法を意味する。
料理の材料である食材としては、米飯、麺類等の澱粉系食材、野菜、畜産物や水産物等の肉系食材等、炒め調理に適する食材であれば限定されない。
本発明の組成物は、炒め調理の際に、油と一緒に、又は油の代わりに使用することができ、さらには食材にあらかじめ添加してから炒め調理に供したり、炒めた食材に添加して使用することができる。
【0011】
本発明における(A)は、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル又はそれらの混合物であり、1種でも2種以上の混合物であってもよい。
【0012】
ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(以下PGPRと略することもある)のグリセリン重合度は、通常4~10、好ましくは6~10である。
【0013】
PGPRには種々のエステル化度のものが含まれているが、本明細書においては、それらの平均エステル化度をPGPRのエステル化度とする。なおエステル化度とはポリグリセリン中の水酸基のうち、何%がエステル化されているかを示す指標であり、水酸基価、けん化価から計算できる。PGPRの平均エステル化度は、通常10%以上であり、好ましくは15%以上である。上限は、通常60%以下であり、好ましくは45%以下、さらに好ましくは30%以下である。
【0014】
PGPRのリシノレイン酸縮合度の下限は、通常5であり、好ましくは5.5である。上限は、通常8であり、好ましくは7であり、さらに好ましくは6.5である。ここで「PGPRのリシノレイン酸縮合度」とは、リシノレイン酸が脱水縮合している割合をいう。PGPRには種々の縮合度のリシノレイン酸が含まれているが、本明細書においては、それらの平均縮合度をPGPRのリシノレイン酸縮合度とする。
PGPRのHLBは、通常0~6、好ましくは2~4である。
【0015】
ソルビタン脂肪酸エステルにおける、構成脂肪酸としては、本発明の効果を損なわなければ特に限定されないが、例えば炭素数6~24、好ましく12~22、より好ましくは14~20の直鎖の飽和又は不飽和脂肪酸が挙げられ、具体的には、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などの1種又は2種以上の脂肪酸が挙げられる。
ソルビタン脂肪酸エステルの例としては、モノステアリン酸ソルビタンエステル、モノオレイン酸ソルビタンエステル、ジステアリン酸ソルビタンエステル、トリステアリン酸ソルビタンエステルが挙げられる。
ソルビタン脂肪酸エステルのHLBは、通常2~8.6、好ましくは3~7である。
【0016】
ショ糖脂肪酸エステルにおける、構成脂肪酸としては、本発明の効果を損なわなければ特に限定されないが、例えば炭素数6~24、好ましくは12~22の直鎖の飽和又は不飽和脂肪酸が挙げられ、具体的には、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エルカ酸、ベヘニン酸などの1種又は2種以上の脂肪酸が挙げられる。構成脂肪酸は、乳化のさせやすさの観点から、不飽和脂肪酸がより好ましい。
ショ糖脂肪酸エステルのHLBは、通常0~8、好ましくは0~6、さらに好ましくは0~5である。
【0017】
香ばしい香りの増強作用や加熱器への張り付きや焦げ抑制の観点からは、(A)は、少なくともポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを含むことが好ましく、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルがより好ましい。
【0018】
本発明において(A)の化合物は、公知の方法で合成したものでも市販のものでも使用することができる。
【0019】
本発明における(B)としては、卵黄等の動物原料から得られるレシチンや大豆や菜種等の油糧種子から得られるレシチン、それらの酵素処理レシチンや酵素分解レシチン、分別レシチン、高純度レシチン等が挙げられる。本発明の効果を損なわない限りいずれのレシチンでも使用できる。
【0020】
本発明における(C)としては、水分をベースとする調味料であれば特に限定されないが、通常水を少なくとも30重量%以上含有し、水と混合することができる調味料を意味する。具体的な水性調味料としては、醤油、味噌、醤類、ソース類、ならびに畜産物、水産物、野菜、果物及びハーブ類の水及び/又はアルコールによる抽出エキスが挙げられる。
【0021】
醤油としては、濃口醤油、淡口醤油、たまり醤油、再仕込醤油、白醤油等が挙げられる。これらの醤油は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0022】
味噌としては、赤味噌、白味噌、仙台味噌、八丁味噌、麦味噌、米味噌等が挙げられる。これらの味噌は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0023】
醤類としては、肉醤、魚醤、草醤、穀醤、豆板醤、甜麺醤、芝麻醤、炸醤、XO醤等が挙げられる。これらの醤類は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0024】
ソース類としては、ウスターソース、中濃ソース、ケチャップ、トマトソース等が挙げられる。これらのソース類は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0025】
畜産物、水産物、野菜、果物及びハーブ類の水及び/又はアルコールによる抽出エキスとしては、水性であれば特に限定されないが、Brixが10以上のエキスを用いるのが好ましい。これらの抽出エキスは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0026】
本発明における(C)は、香ばしい匂いを付与するという観点から、醤油、味噌、醤類、ソース類、畜産物抽出エキスが好ましく、醤油、醤類、ソース類、畜産物抽出エキスがより好ましい。これらの水性調味料は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0027】
また(C)に含まれる塩濃度は、調理する食品や調理の種類によって適宜決定されるが、乳化を安定させる観点から、(C)の総重量に対して、通常30重量%以下であり、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。塩濃度は、「(C)に含まれるナトリウム量(g)×2.54×100÷(C)の重量(g)」により算出できる。当該塩濃度は、食塩や水を添加すること等により調整できる。
【0028】
本発明における(D)としては、食用として供せられる油脂であれば特に限定されず、通常、植物油脂及び動物油脂が挙げられ、前記油脂をエステル交換したエステル交換油等も使用することができる。
植物油脂としては、サフラワー油、ぶどう油、大豆油、ひまわり油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、えごま油、あまに油、なたね油、こめ油、落花生油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、やし油、キャノーラ油、サラダ油等が挙げられる。
動物油脂としては、牛脂、豚脂、鶏脂、羊脂、鯨油、乳脂等が挙げられる。
なかでも常温で液体であるため取り扱いが容易で、安価である点で、植物油脂が好ましい。
これらの食用油脂は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。ただし、匂い強度、分散性の観点から、融点が50℃以上の硬化油を実質的に含まないことが望ましく、(A)がポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの場合に融点が50℃以上の硬化油を実質的に含まないことがより望ましい。融点50℃以上の硬化油を実質的に含まないとは、組成物の総量に対する当該硬化油の重量が、0.1重量%未満、好ましくは、0.05重量%以下、より好ましくは0.01重量%以下、さらに好ましくは0.001重量%以下を意味し、前記硬化油を全く含まない組成物が最も好ましい。
【0029】
本発明の組成物のpHは、通常2~12程度であり、乳化を安定させる観点から、好ましくは4~10である。当該pHは、例えば、後述の酸味料やpH調整剤等を添加すること等により調整できる。
【0030】
本発明の組成物は、水性調味料を油相で被覆することで、好ましい匂い強度と焦げの抑制を両立させる観点から、油中水型乳化組成物が好ましい、「油中水型乳化組成物」とは、水相原料が水滴として油相中に略均一に分散している油中水型の乳化構造を有する組成物をいう。
【0031】
本発明において、(A)の重量は、組成物の総重量に対して、通常0.01~15重量%であり、好ましくは0.02~10重量%、より好ましくは0.04~5重量%である。
【0032】
本発明において、(B)の重量は、組成物の総重量に対して、通常0.1~7重量%であり、好ましくは0.2~6重量%、より好ましくは0.4~5重量%である。
【0033】
本発明において、(C)の重量は、組成物の総重量に対して、通常2~85重量%であり、好ましくは3~80重量%、より好ましくは4~75重量%である。
【0034】
本発明において、(D)の重量は、組成物の総重量に対して、通常14~97重量%であり、好ましくは19~96重量%、より好ましくは24~95重量%である。
【0035】
本発明において、(A)の重量は、(D)の総重量に対して、通常0.01~30重量%であり、好ましくは0.05~20重量%、より好ましくは0.1~15重量%である。
【0036】
本発明において、(B)の重量は、(D)の総重量に対して、通常0.01~40重量%であり、好ましくは0.05~20重量%、より好ましくは0.1~15重量%である。
【0037】
本発明において、(C)と(D)の重量比は、通常8:2~1:9であり、好ましくは7:3~2:8である。
【0038】
本発明の組成物を食品に適用する量は、食品の種類や食品の量等によって適宜決定されるが、食品の総重量に対して、通常1~70重量%、好ましくは2~60重量%、より好ましくは4~50重量%の量で使用される、特に米飯の場合には、米飯の総重量に対して、通常1~50重量%、好ましくは2~40重量%、より好ましくは4~30重量%の量で使用される。
【0039】
本発明の組成物は、炒め調理時に食品に付与される炒め感を増強するために使用することができる。
「炒め感」とは、炒めるなど食材を加熱調理する時に得られる調理感を意味し、具体的には調味料や油の加熱時の香ばしい匂いや風味、肉や野菜の焼き感を意味する。
【0040】
本発明の組成物は、本発明の目的を損なうものでなければ、食品の分野において通常用いられる他の原材料を更に含有してもよい。そのような他の原材料としては、例えば、酸味料、pH調整剤、糖類、たん白加水分解物、(A)(B)以外の乳化剤、増粘剤、香料、香辛料、香辛料抽出物等の水相原料;(C)以外の調味料、親油性のある香料、香味油等の油相原料等が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の乳化調味料は、これらの他の原材料の1種又は2種以上を適宜選択して添加することができる。
【0041】
酸味料としては、例えば、食酢(酢酸)、クエン酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、リン酸、あるいは柑橘類の果汁等が挙げられる。食酢としては、例えば、醸造酢、合成酢等が挙げられる。果実酢も用いてもよい。また、柑橘類の果汁としては、ユズ、ベニユ、ハナユ、無核ユズ、ユコウ、スダチ、カボス、ダイダイ、レモン、ライム、シークワーサー等の果汁が挙げられる。これらの酸味料は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0042】
pH調整剤としては、DL-リンゴ酸や乳酸ナトリウム等が挙げられる。これらのpH調整剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0043】
糖類としては、例えば、グラニュー糖、果糖ぶどう糖液糖、上白糖、中白糖、三温糖、白ザラ糖、中ザラ糖、水飴、ぶどう糖果糖液糖等が挙げられる。これらの糖類は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0044】
(A)(B)以外の乳化剤としては、例えば、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、キラヤ抽出物、グリセリン脂肪酸エステル、植物性ステロール、スフィンゴ脂質、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、大豆サポニン、胆汁末、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ユッカフォーム抽出物、ポリソルベート20/60/65/80、卵類(卵黄、卵白、全卵、液卵)等が挙げられる。これらの乳化剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0045】
増粘剤としては、例えば、澱粉、糊料、ぺクチン、キサンタンガム、グアガム、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、モナトウガム、アラビアガム、トラガントガム、カードラン、プルラン、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン等が挙げられる。これらの増粘剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0046】
香料としては、例えば、メントール、ペパーミントフレーバー、オレンジフレーバー、マスタードオイル、ゴマフレーバー、ジンジャーフレーバー、ガーリックフレーバー等が挙げられる。これらの香料は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0047】
香辛料としては、例えば、香味野菜、胡椒(例えば、黒胡椒、白胡椒又は青胡椒(グリーンペッパー)の粉砕物等)、山椒、クミン、クローブ、シナモン、ナツメグ、唐辛子、アニス、オールスパイス、オレガノ、コリアンダー、ターメリック、タイム、ディル、バジル、パセリ、バニラ、マスタード、ミント、ローズマリー、ローレル等が挙げられる。香味野菜としては、例えば、生姜、にんにく、たまねぎ、ねぎ、ニラ、セリ、茗荷、セロリ、しそ、みつば、わさび等が挙げられる。これらの香辛料は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0048】
香辛料抽出物としては、例えば、カラシナ、胡椒、ごま、シナモン、タマネギ、ニンニク、バジル、パプリカ、ローズマリー、ワサビ等より抽出したものが挙げられる。これらの香辛料抽出物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0049】
(C)以外の調味料としては、例えば、塩、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等が挙げられる。これらの調味料は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0050】
親油性のある香料としては、例えば、バラ油、ラベンダー油、ベルガモット油、シナモン油、レモン油、ハッカ油等が挙げられる。これらの親油性のある着香料は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0051】
香味油としては、例えば、生姜、にんにく、たまねぎ、ねぎ、ニラ、セリ、茗荷、セロリ、しそ、みつば、わさび等の香味野菜を上記の食用油脂に漬け込んで(必要に応じて加熱してもよい)、香味を移しこんだものが挙げられる。
【0052】
本発明の組成物の粘度は、炒め調理の前に食材にあらかじめ混合しやすいという分散性の観点から、粘度が低いことが望ましい。例えば15℃において、通常50Pa・s以下であり、より好ましくは25Pa・s以下、さらに好ましくは、10Pa・s以下で使用される。
本発明の組成物の粘度は、15℃においてC型回転式粘度計(東機産業社製、型番TVC-7)等を用いて測定される。
粘度の調整方法は特に制限されず、例えば、原材料を撹拌する際に、撹拌部(例、羽根等)の形状、回転数、撹拌時間、各成分の量、水滴の平均粒子径、水相と油相の比率、配合する油脂の融点等を適宜設定することにより所望の値に調整できる。
【0053】
本発明の組成物は、製造方法に特に制限はなく、既知の手法を適宜組み合わせて製造することができる。例えば、原材料を混合し、必要に応じ粗乳化した後に、油中水型乳化食品の分野において通常用いられる乳化機(例、コロイドミル、ホモミキサー、スティックミキサー、ディスパーミキサー、ホモジナイザー等)を用いて乳化することにより製造することができる。混合、撹拌及び乳化は、加圧、減圧、常圧下で実施することができる。
【0054】
本発明の組成物は、通常の炒め調理の用途であれば特に制限なく食材に使用できるが、米飯、麺類等の澱粉系食材、野菜、畜産物や水産物等の肉系食材等、炒め調理に適する食材であれば限定されない。
食品としては、炒飯等の米飯、焼きそばや焼うどん等の麺類、野菜炒め等の野菜類、焼豚等の肉類の炒め物等が挙げられる。なかでも組成物が食材と均一に混合しやすい観点から米飯が好ましい。また組成物を水相と油相に分離させず、均一に食材中に浸透させる観点から、焼豚などの肉類の炒め物が好ましい。
【0055】
本発明の別の態様としては、本発明の組成物を含有する食品が挙げられる(本発明の食品と略することもある)。
食品の例としては、前記の食材に本発明の組成物を含んでいれば特に限定されないが、前述の食品が挙げられる。
また本発明の食品としては、本発明の組成物を食材に添加し、食前に炒めて食する半加工食品の形態であっても、あるいは本発明の組成物を用いて炒め調理した形態であってもよい。また前記食品の冷凍品であってもよい。
【0056】
本発明の別の態様としては、本発明の組成物を添加して食材を炒める工程を含む、食品の製造方法が挙げられる(以下本発明の製造方法と略することもある)。
本発明の製造方法は、本発明の組成物を添加して食材を炒める工程を含むものであれば特に制限はなく、自体公知の食品の製造工程を適宜組み合わせて用いてよい。例えば、食材が米飯の場合、本発明の組成物を炊飯された米飯にあらかじめ添加させる工程を含んでもよい。
食品とは、農産物、畜産物、水産物等の食材を種々の処理加工、特に炒め調理により製造された食品を意味する。
本発明の組成物を添加するタイミングは、本発明の効果を損なわなければ特に限定されないが、上記のように炒める前に食材に直接添加する、炒める前に加熱器に添加する(油と一緒に又は油の代わりに添加する)、炒める途中で添加する、炒め調理終了時に添加する、などが挙げられる。加熱器への張り付きや焦げ付きを抑制し、並びに好ましい匂いを増強させる観点から、炒める前に食材に直接添加する、又は炒める前に加熱器に添加するのが好ましい。
【0057】
食材を炒める温度は、加熱器への張り付きや焦げを考慮すると、通常400℃以下であり、好ましくは370℃以下、より好ましくは350℃以下である。下限は食材を加熱することができる温度であれば特に限定されないが、通常100℃以上、好ましくは150℃以上である。上記温度範囲であれば、高温で炒めた時の炒め調理感と同様又はそれ以上の調理感を付与することができる。
【0058】
食材を炒める時間は、食材の種類や量ならびに加熱器の大きさによって変化するので特に限定されないが、通常15分以下であり、好ましくは10分以下である。炒める時間の下限は食材に火が通れば特に限定されないが、通常30秒以上、好ましくは1分以上である。その他本発明の製造方法における各種定義及び好適範囲は既述に準ずる。
【0059】
本発明の組成物を、食材に用いて炒めることにより、当該食品において炒め感等の調理感を増強することができる。従って、本発明は、本発明の組成物を添加する工程を含む、食品の炒め感増強方法も提供する。各種定義及び好適範囲は既述に準ずる。
「食品の炒め感増強」とは、本来高温で得られる食品の炒め感と同等又はそれ以上に高めることを意味する。
【0060】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例0061】
(サンプルの調製)
油相原料(PGPR、レシチン、植物油(キャノーラ油))及び水相原料(醤油、水)を、表1に示す配合量で、T50 digital ULTRA TURRAX(IKAジャパン社)を使用し、回転数8000rpmで5分間撹拌してW/O液(油中水型乳化組成物)を作製した。
【0062】
【表1】
【0063】
(炒飯の作製)
200gの炊飯米に対して、15重量%のW/O液(30g)を炊飯米に添加して少量の油を添加した鍋に投入し、200℃2分間炒めて炒飯を作製した。作製した炒飯について、3人の専門パネルが匂い強度、焦げ、分散性及び安定性について以下の基準で評価し、各々の点数の平均を計算し表に示す。
【0064】
評価基準
(匂い強度)
5:調味料の香ばしい匂いが非常に強い
4:調味料の香ばしい匂いが強い
3:調味料の香ばしい匂いがやや強い
2:調味料の香ばしい匂いが弱い
1:調味料の香ばしい匂いが非常に弱い
【0065】
(焦げ)
5:炒め器に焦げが発生せず、かつ張り付きがなく炒めることが出来る
4:炒め器に焦げが発生せず、張り付きがわずかで炒めることが出来る
3:炒め器に焦げが発生せず、炒め器へやや張り付きがあるが炒めることが出来る
2:炒め器にわずかな焦げが発生、かつ張り付きが生じ炒めることがやや難しい
1:炒め器に焦げが発生、かつ張り付きが生じ炒めることが難しい
【0066】
(分散性)粘度
5:液状であり混合しやすい
4:わずかに粘度があるが混合しやすい
3:やや粘度が高いが混合しやすい
2:粘度が高く混合しづらい
1:流動性が無くゲルに近い物性で混合が困難
【0067】
(安定性)分離
5:液体が均一で分離が見られない
4:液表面が一部不均一だが、分離は見られない
3:わずかに分離が見られる
2:やや分離が見られる
1:完全に分離している
【0068】
(試験例1)
表2に記載の配合に従ってW/O液を調製し、炊飯米に対して15重量%になるように添加して、上記炒飯の作製の方法に従い調理した炒飯を上記の評価基準に従い評価した。結果を表3に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
(試験例2)
調製例2の配合に、Aに表4に記載の乳化剤を使用してW/O液を調製し、炊飯米に対して15重量%になるように添加して、上記炒飯の作製の方法に従い、調理した炒飯を上記の評価基準に従い評価した。結果を表4に示す。
【0072】
【表4】
【0073】
(試験例3)
調製例2の配合に、表5に記載の量のPGPR及び植物油を使用してW/O液を調製し、炊飯米に対して15重量%になるように添加して、上記炒飯の作製の方法に従い、調理した炒飯を上記の評価基準に従い評価した。結果を表6に示す。
【0074】
【表5】
【0075】
【表6】
【0076】
(試験例4)
調製例3の配合のうち植物油と水の配合量を変えて、水相と油相の重量比を変化させたW/O液を調製した。なおPGPRは植物油の重量に対して1%になるように添加した。得られたW/O液を炊飯米に対して15重量%になるように添加して、上記炒飯の作製の方法に従い、調理した炒飯を上記の評価基準に従い評価した。結果を表7に示す。
【0077】
【表7】
【0078】
(試験例5)
調製例3の配合のうち水相中の醤油の配合量を変えてW/O液を調製した。得られたW/O液を炊飯米に対して15重量%になるように添加して、上記炒飯の作製の方法に従い、調理した炒飯を上記の評価基準に従い評価した。結果を表8に示す。塩濃度の有効範囲は水の総重量に対して2.5~12.5重量%であることが確認された。
【0079】
【表8】
【0080】
(試験例6)
調製例2の配合に従いW/O液を調製した。得られたW/O液をうどん、野菜(肉入り)及び豚肉の総重量に対して15重量%になるように添加し、それぞれ加熱し調理した:焼うどん(200℃3分加熱)、野菜炒め(200℃3分加熱)及び焼き豚(200℃2~3分加熱)。加熱調理後、上記の評価基準に従い評価した。結果を表9に示す。
【0081】
【表9】
【0082】
(試験例7)
表10に記載の配合量に従いW/O液を調製した。150gの炊飯米に対して、10重量%のW/O液(15g)を炊飯米に添加し少量の油を添加した鍋に投入し、200℃40秒間炒めて炒飯を作製した。作製した炒飯について、3人の専門パネルが匂い強度、焦げ、分散性、安定性及び粘度について上記の基準で評価し、各々の点数の平均を計算し表11に示す。なお粘度は、15℃においてC型回転式粘度計(東機産業社製、型番TVC-7)を用いて測定し、測定不可とは粘度が50Pa・s以上を意味する。
【0083】
【表10】
【0084】
【表11】
【産業上の利用可能性】
【0085】
炒める際に加熱器への張り付きや焦げを抑制するので効率よく調理でき、かつ高温調理で得られる炒め感を手軽に食品に付与しうる調味料を提供することができる。