(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070791
(43)【公開日】2022-05-13
(54)【発明の名称】ハイドロゲル保持用基材
(51)【国際特許分類】
D21H 13/24 20060101AFI20220506BHJP
【FI】
D21H13/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021016340
(22)【出願日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2020179697
(32)【優先日】2020-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光男
(72)【発明者】
【氏名】江角 真一
(72)【発明者】
【氏名】下里 瑞菜
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AF13
4L055AF27
4L055AF33
4L055AF47
4L055CD13
4L055CF03
4L055EA07
4L055EA40
4L055FA23
(57)【要約】
【課題】本発明は、ハイドロゲルを基材に塗布や含浸した際にハイドロゲルが十分に保持できる基材を提供することを目的とする。
【解決手段】主体合成繊維とバインダー合成繊維とを少なくとも含有する湿式不織布からなるハイドロゲル保持用基材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主体合成繊維とバインダー合成繊維とを少なくとも含有する湿式不織布からなるハイドロゲル保持用基材。
【請求項2】
主体合成繊維がポリエステル繊維であり、バインダー合成繊維が芯鞘型繊維であることを特徴とする請求項1記載のハイドロゲル保持用基材。
【請求項3】
主体合成繊維として、単繊維強度5.0cN/dtex以上の繊維を含有する請求項1又は2記載のハイドロゲル保持用基材。
【請求項4】
下記圧縮耐性TM/TOが0.7以上である請求項1~3のいずれか記載のハイドロゲル保持用基材。
圧縮耐性TM/TO:ハイドロゲル保持用基材を3枚重ね、圧縮変形速度を0.02mm/secとして、圧力50gf/cm2時における厚さTM(mm)を圧力0.5gf/cm2時における厚さTO(mm)で除した値。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロゲル保持用基材に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロゲルとは、水を内部に含む物質の総称である。ゲルとは「あらゆる液体に不溶な三次元構造を持つ高分子物質及びその膨潤体」であり、液体が水(水を意味する接頭語”ハイドロ”)の場合をハイドロゲルと呼ぶ。具体的には、コンニャク、寒天、ゼリーのようなものである。水溶性の多糖類(糖が結合してできた水溶性の高分子物質)やゼラチンなどのタンパク質が異なる分子の間で橋かけ(架橋)され、三次元構造を持ち、水に溶けないように(水不溶化)したものである。高分子物質が水に溶けるというのは、高分子物質と水との相互作用から説明できる。高分子物質自身が水を引きつける性質を持っているとき、高分子物質の周囲が水で囲まれ、高分子物質は水に溶けるようになる。ところが、水に溶ける高分子物質でも、高分子鎖が橋かけされ三次元網目構造をとると、水に溶けることができず、その網目構造の内部に多くの水を含んだ膨潤体となる。これがハイドロゲルである(非特許文献1)。
【0003】
ハイドロゲルは、基本的に水との親和性の高い高分子物質が水系媒体中で膨潤したものである。ハイドロゲルは、その用途に応じて、吸水性、膨潤性、保湿性、粘着性、導電性等の種々の特性を有しており、これらの特性を活かして土木建築、農芸、食品、医療、化粧品、電気等の広範囲の分野において利用されている。
【0004】
一般に架橋密度の低いハイドロゲルは、水に対して非常に高い膨潤率を有する。そのようなハイドロゲルは自重を支えられず、自立できないほどに強度が低下するため、疎水性の単量体を共重合することによって高分子物質の膨潤率を下げ、生体適合性を維持したまま強度を付与することが行われている(特許文献1)。
【0005】
例えば、特許文献2には、自重を支えられず、自立できないほどに強度が低下したハイドロゲルであっても、繊維基材に含浸すると形態を保持することができるだけでなく、従来のハイドロゲル材料にはない潤滑性を得られるとしている。
【0006】
例えば、特許文献3及び特許文献4には、中間基材として不織布を含むハイドロゲルシートにおいて、皮膚への粘着性にばらつきがあるという問題を解決するために、中間基材である不織布がハイドロゲルシートの内部でわずかに波打つことにより粘着性のばらつきが生じていることから、この波打つ程度を特定範囲内に制御することによって、粘着性のばらつきを抑制している。しかし、ハイドロゲルを塗布や含浸した際にハイドロゲルが均一に保持できる不織布の検討はされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2017-531737号公報
【特許文献2】特開2020-120825号公報
【特許文献3】特開2020-97216号公報
【特許文献4】特開2020-19842号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】再生医療、Vol.11、No.3、第57~59ページ、2012年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑み、ハイドロゲルを塗布や含浸した際にハイドロゲルを均一に保持できるハイドロゲル保持用基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段は下記のとおりである。
(1)主体合成繊維とバインダー合成繊維とを少なくとも含有する湿式不織布からなるハイドロゲル保持用基材。
(2)主体合成繊維がポリエステル繊維であり、バインダー合成繊維が芯鞘型繊維であることを特徴とする(1)記載のハイドロゲル保持用基材。
(3)主体合成繊維として、単繊維強度5.0cN/dtex以上の繊維を含有する(1)又は(2)記載のハイドロゲル保持用基材。
(4)下記圧縮耐性TM/TOが0.7以上である(1)~(3)のいずれか記載のハイドロゲル保持用基材。
圧縮耐性TM/TO:ハイドロゲル保持用基材を3枚重ね、圧縮変形速度を0.02mm/secとして、圧力50gf/cm2時における厚さTM(mm)を圧力0.5gf/cm2時における厚さTO(mm)で除した値。
【発明の効果】
【0011】
本発明のハイドロゲル保持用基材は、ハイドロゲルを塗布や含浸した際にハイドロゲルを均一に保持できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ポリエステル繊維(主体合成繊維)と芯鞘型繊維(バインダー合成繊維)を原料として湿式抄紙機で作製した湿式不織布からなるハイドロゲル保持用基材の表面写真である。
【
図2】スパンボンド法で作製したポリエステル乾式不織布からなるハイドロゲル保持用基材の表面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のハイドロゲル保持用基材について詳説する。
【0014】
本明細書において、「ハイドロゲル保持用基材」を「基材」と略記する場合がある。
【0015】
本発明において、ハイドロゲル保持用基材は、主体合成繊維とバインダー合成繊維とを少なくとも含有する湿式不織布からなる。湿式不織布からなる基材は、一般的な紙を製造する装置を用いて製造される。一般的には、繊維長20mm以下にカットされた主体合成繊維とバインダー合成繊維をパルパー分散装置で水に均一に分散して繊維分散液を調成し、円網抄紙機、長網抄紙機、傾斜ワイヤー抄紙機等の抄紙機の抄紙ワイヤー上に繊維分散液を流し込み、抄紙ワイヤー下に余分な分散水を除いて、抄紙ワイヤー上の繊維を抄き上げて乾燥して不織布を作製する。抄紙ワイヤー上に流し込む繊維分散液中の繊維の固形分濃度は0.001~0.5%であることが好ましく、繊維は抄紙ワイヤー上で均一に分散されて不織布を形成するため、湿式不織布からなる本発明の基材は、
図1に示すように繊維が均一に広がっており、地合が良いことから、ハイドロゲルを均一に保持することが可能となる。一方、スパンボンド法で作製した乾式不織布からなる基材は、繊維を均一に分散する工程がないことから、
図2に示すように基材を構成する繊維が多い箇所と少ない箇所が存在し、ハイドロゲルを均一に保持することができない。
【0016】
本発明において、ハイドロゲルの原料となる高分子物質としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドやポリアクリル酸等の水溶性高分子あるいはポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドやポリアクリル酸等の水溶性高分子の共重合体の架橋物からなるものや、アガロース、アルギン酸やゼラチン等の天然高分子等が挙げられる。ハイドロゲルは、前記高分子物質の含水率が高いこと、柔軟性が高いこと、生体との親和性が高いこと等の点で有用な素材であり、医療材料分野、環境分野、日用雑貨等に幅広く利用されている。
【0017】
ハイドロゲルは、単体では強度が弱く切れやすいために、強度の高い基材にハイドロゲルの原料となる高分子物質の溶液(ハイドロゲル溶液)を塗布や含浸することにより、ハイドロゲル単体の欠点を解消するものである。一般的には、ハイドロゲル溶液を所望の深さの容器に流し込み、電子線や紫外線を照射してハイドロゲルを形成する。そのため、生産性が悪いという問題を抱えている。
【0018】
本発明は、塗布や含浸する際にハイドロゲル溶液が基材に入り込みやすく、入り込んだハイドロゲル溶液を保持するとともに、塗布や含浸した状態下で圧縮されてもハイドロゲルを保持できる基材を見出した。
【0019】
本発明の基材において、主体合成繊維は湿式抄紙機で製造する際の加熱処理(例えば、乾燥処理、熱カレンダー処理等)によって、熱溶融しない繊維であり、基材の骨格を形成する繊維であり、強度とハイドロゲル溶液を保持するための空隙率をコントロールするための繊維である。主体合成繊維としては、ポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリアクリル系、ビニロン系、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ベンゾエート、ポリクラール、フェノール系などの繊維が挙げられる。特に、ポリエステル系繊維は、電子線や紫外線照射時の耐性が高く好ましい。また、断面形状がT型、Y型、三角等の異形断面を有する繊維も含有できる。
【0020】
主体合成繊維は基材の骨格を形成する繊維であり、基材の空隙率をコントロールするためには、基材が圧縮された際の変形を抑制することが必要となる。変形を抑制するためには、単繊維強度が高い繊維を選定することが好ましい。単繊維強度とは、JIS L 1015(2010年)に準じ、引張試験機を用いて、繊維のつかみ間隔を20mmとし、繊維が切断したときの荷重値である。主体合成繊維として、単繊維強度5.0cN/dtex以上の繊維を含有する場合、基材が圧縮された際の変形を抑制する効果を高くすることができる。主体合成繊維全体に対する単繊維強度5.0cN/dtex以上の主体合成繊維の比率は20~100質量%であることが好ましく、より好ましくは50~100質量%であり、さらに好ましくは100質量%である。20質量%未満の場合、圧縮時の変形を抑制する効果が小さい。
【0021】
主体合成繊維の繊維径は、3~30μmが好ましく、5~25μmがより好ましく、10~20μmがさらに好ましい。主体合成繊維の繊維径が30μmを超えた場合、基材の均一性が確保できなくなる場合がある。また、主体合成繊維の繊維径が3μm未満の場合、基材に塗布や含浸する際にハイドロゲル溶液が基材に入り込み難くなる場合がある。
【0022】
主体合成繊維の繊維長としては、1mm以上20mm以下が好ましく、3mm以上15mm以下がより好ましく、5mm以上10mm以下がさらに好ましい。繊維長が20mmを超えた場合、地合不良となる場合がある。一方、繊維長が1mm未満の場合には、基材の強度が低くなる場合がある。
【0023】
バインダー合成繊維は、基材を湿式抄紙機で製造する際の加熱処理(例えば、乾燥処理、熱カレンダー処理等)によって、熱溶融する性質を持ち、主体合成繊維とバインダー合成繊維の交点及びバインダー合成繊維同士の交点を接着して基材の強度を高める繊維である。バインダー合成繊維としては、芯鞘型繊維(コアシェルタイプ)、並列型繊維(サイドバイサイドタイプ)、放射状分割型繊維などの複合繊維が挙げられる。芯鞘型繊維としては、ポリプロピレン(芯)とエチレンビニルアルコール(鞘)の組み合わせ、ポリプロピレン(芯)と酢酸ビニルアルコール(鞘)の組み合わせ、ポリプロピレン(芯)とポリエチレン(鞘)の組み合わせ、高融点ポリエステル(芯)と低融点ポリエステル(鞘)の組み合わせ等が挙げられるが、基材の強度を高めるという点から、特に、高融点ポリエステル(芯)と低融点ポリエステル(鞘)の組み合わせからなる芯鞘型ポリエステル系バインダー合成繊維を使用することが好ましい。また、ポリエチレン等の低融点樹脂のみで構成される単繊維(全融タイプ)や、熱水可溶性ポリビニルアルコール系繊維のような熱水可溶性バインダー合成繊維は、加熱工程で皮膜を形成しやすいが、特性を阻害しない範囲で使用することができる。
【0024】
本発明の基材において、バインダー合成繊維の配合率は、基材を構成する全繊維に対して、20~80質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましく、30~60質量%がさらに好ましい。バインダー合成繊維の配合率が80質量%を超えると、基材の空隙が減少し、ハイドロゲル溶液の基材への入り込みが悪化する場合がある。バインダー合成繊維の配合率が20質量%未満である場合、基材の機械的強度が低くなる場合や、基材に毛羽立ちが発生する場合や、基材の圧縮耐性が低下しハイドロゲル溶液を保持できない場合がある。
【0025】
バインダー合成繊維の繊維径は、1~20μmが好ましく、3~18μmがより好ましく、5~15μmがさらに好ましい。バインダー合成繊維の繊維径が20μmを超えた場合、基材の均一性が確保できなくなる場合がある。また、バインダー合成繊維の繊維径が1μm未満の場合、繊維の安定製造が困難になる。
【0026】
バインダー合成繊維の繊維長としては、1mm以上15mm以下が好ましく、1mm以上10mm以下がより好ましく、1mm以上7mm以下がさらに好ましい。繊維長が15mmを超えた場合、地合不良となる場合がある。一方、繊維長が1mm未満の場合には、基材の空隙が減少し、ハイドロゲル溶液の基材への入り込みが悪化する場合がある。
【0027】
本発明の基材は、一般紙や湿式不織布を製造するための抄紙機、例えば、長網、円網、傾斜ワイヤー等の抄紙ワイヤーが単独で設置されている抄紙機、長網や傾斜ワイヤー等の同一の抄紙ワイヤー上に2つ以上のヘッドを有した2層以上の多層抄紙可能な抄紙機、抄紙ワイヤーの同種又は異種の2種以上がオンラインで設置されているコンビネーション抄紙機等により製造することができる。抄紙ワイヤー上で形成された湿紙は、エアードライヤー、ヤンキードライヤー、シリンダードライヤー、サクションドラム式ドライヤー、赤外方式ドライヤー等のドライヤーで乾燥させる。
【0028】
本発明の基材の坪量は、特に限定しないが、10~150g/m2が好ましく、15~120g/m2がより好ましく、20~100g/m2がさらに好ましい。150g/m2を超えると、ハイドロゲル溶液の基材への入り込みが悪化する場合があり、10g/m2未満であると、基材の強度が不足する場合や、ハイドロゲル溶液の保持量が少なくなる場合がある。
【0029】
本発明の基材の厚みは特に限定しないが、50~1000μmが好ましく、100~800μmがより好ましく、150~600μmがさらに好ましい。1000μmを超えると、ハイドロゲル溶液の基材への入り込みが悪化する場合があり、50μm未満であると、ハイドロゲル溶液の保持量が少なくなる場合がある。
【0030】
本発明の基材において、基材の密度は、0.05~0.6g/cm3であることが好ましく、0.1~0.5g/cm3がより好ましく、0.15~0.4g/cm3がさらに好ましい。密度が0.05g/cm3未満の場合、基材の圧縮耐性が低下し、ハイドロゲル溶液を保持できない場合があり、0.6g/cm3を超えると、ハイドロゲル溶液の基材への入り込みが悪化する場合がある。
【0031】
本発明において、基材の圧縮耐性とは、圧縮試験機KES-FB3(カトーテック株式会社製)を用いて圧縮特性を評価したときに、圧縮変形速度を0.02mm/secとして、圧力0.5gf/cm2時における厚さTO(mm)、圧力50gf/cm2時における厚さTM(mm)を計測して、TMをTOで除した値(TM/TO)によって評価し、値が1に近い程、圧縮耐性が高いことを意味する。
【0032】
本発明において、基材の圧縮耐性は0.7以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましく、0.85以上であることがさらに好ましい。基材の圧縮耐性が0.7以上である場合、ハイドロゲル溶液の基材への入り込みを良くするとともにハイドロゲル溶液の基材への保持を高めるという効果が得られる。圧縮耐性が0.7以上である基材は、例えば、基材において、基材を構成する全繊維に対してバインダー合成繊維の配合率を20質量%以上にする、主体合成繊維としてポリエステル繊維を用いる、バインダー合成繊維として芯鞘型繊維を用いる、基材の密度を0.15g/cm3以上にする、湿式抄紙法で製造する際に基材をヤンキードライヤーで乾燥する、湿式抄紙法で製造し、基材をヤンキードライヤーで乾燥する際に、ヤンキードライヤーから基材が出る直前にロールを基材に押し付ける、湿式抄紙法で製造する際に基材を複数のシリンダードライヤーで乾燥する等によって、得ることができる。
【0033】
本発明の基材には、必要に応じて基材の特性を阻害しない範囲で、架橋剤、撥水剤、分散剤、歩留り向上剤、紙力剤、染料等の添加剤を適宜配合することができる。また、基材には、機械的強度、耐水性を付与するために熱可塑性樹脂を含有させることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル系、酢酸ビニル系、エポキシ系、合成ゴム系、ウレタン系、ポリエステル系、塩化ビニル系、塩化ビニリデン系、ポリビニルアルコール系、澱粉系、フェノール樹脂等が挙げられ、これらを単独又は2種類以上を併用できる。
【実施例0034】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。なお、実施例中における部や百分率は断りのない限り、すべて質量によるものである。
【0035】
主体合成繊維1:繊維径8μm、繊維長3mm、単繊維強度3.5cN/dtex、アクリル繊維
【0036】
主体合成繊維2:繊維径7.4μm、繊維長5mm、単繊維強度4.5cN/dtex、延伸ポリエステル繊維(延伸PET繊維)
【0037】
主体合成繊維3:繊維径10.5μm、繊維長5mm、単繊維強度4.5cN/dtex、延伸PET繊維
【0038】
主体合成繊維4:繊維径17.5μm、繊維長5mm、単繊維強度4.5cN/dtex、延伸PET繊維
【0039】
主体合成繊維5:繊維径24.7μm、繊維長10mm、単繊維強度4.5cN/dtex、延伸PET
【0040】
主体合成繊維6:繊維径10.5μm、繊維長5mm、単繊維強度5.1cN/dtex、延伸PET繊維
【0041】
主体合成繊維7:繊維径17.5μm、繊維長10mm、単繊維強度5.6cN/dtex、延伸ポリエステル繊維
【0042】
バインダー合成繊維1:芯部がポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)であり、ジカルボン酸成分がテレフタル酸とイソフタル酸であり、ジオール成分がエチレングリコールとジエチレングリコールであり、軟化温度が75℃である非結晶性の共重合ポリエステルを鞘部とする、繊維径14.3μm、繊維長5mmの芯鞘型ポリエステル系バインダー合成繊維(PET芯鞘型繊維、ユニチカ社製メルティ(登録商標))
【0043】
バインダー合成繊維2:繊維径10μm、繊維長3mm、ポリビニルアルコール繊維(PVA繊維)
【0044】
(実施例1~10)
2m3の分散タンクに水を投入後、表1に示す比率(質量部)で配合し、濃度0.2%で5分間分散して、アジテーターによる撹拌のもと、均一な抄造用スラリー(濃度0.2%)を調成した。この抄造用スラリーを円網抄紙機による湿式抄紙法を用いて抄き上げ、130℃のヤンキードライヤーによって、バインダー合成繊維を接着させて不織布強度を発現させ、坪量40g/m2の湿式不織布からなる基材を作製した。
【0045】
(比較例1)
市販の坪量40g/m2のポリエチレンテレフタレートのスパンボンド乾式不織布を比較例1の基材とした。不織布表面を電子顕微鏡にて2000倍の倍率で写真を撮影し、ランダムに30本の繊維を選んで繊維径を計測し、平均繊維径を算出した結果、15.3μmであった。
【0046】
(比較例2)
市販の坪量40g/m2のポリプロピレンのメルトブローン乾式不織布を比較例2の基材とした。不織布表面を電子顕微鏡にて2000倍の倍率で写真を撮影し、ランダムに30本の繊維を選んで繊維径を計測し、平均繊維径を算出した結果、4.3μmであった。
【0047】
<評価>
実施例1~10及び比較例1~2の基材について、下記の評価を行い、坪量、厚み、圧縮耐性TM/TOの物性測定結果を表1に示した。また、地合、基材へのハイドロゲル溶液の浸透性、圧縮時のハイドロゲル溶液の保持性を評価し、結果を表2に示した。
【0048】
【0049】
【0050】
[坪量]
JIS P8124:2011に準拠して、坪量を測定した。
【0051】
[厚さと密度]
基材の厚さと密度は、JIS P8118:2014に準拠して測定した。
【0052】
[圧縮耐性(TM/TO)]
圧縮試験機KES-FB3(カトーテック株式会社製)を用いて、基材を3枚重ねて圧縮特性を評価した。圧縮変形速度は0.02mm/secとした。圧力0.5gf/cm2時における厚さTO(mm)、圧力50gf/cm2時における厚さTM(mm)を記録し、TMをTOで除した値(圧縮耐性TM/TO)を算出した。TM/TOの値が1に近い程、圧縮耐性が高く良好な基材である。
【0053】
[地合]
1枚の基材を黒紙の上にのせて、地合の均一性を評価した。
【0054】
評価基準
○:繊維の分布にばらつきがなく、地合が良好なレベル。
△:繊維の分布に一部ばらつきが見られるが、使用可能なレベル。
×:繊維の分布にばらつきが多く見られ、使用不可レベル。
【0055】
[基材へのハイドロゲル溶液の浸透性]
イオン交換水を800ml入れた2リットルの容器に、撹拌しながら平均重合度1700、ケン化度98.00~99.00%のポリビニルアルコール粉末(株式会社クラレ製、型番:28-98)200gを入れて蓋を閉めて、2時間撹拌しながら90℃以上の温水中で湯煎した後、室温に戻すことにより、PVA粉末が完全に溶解した20%のPVA水溶液を得た。このPVA水溶液をハイドロゲル溶液として、以下の方法でハイドロゲルシートを作製した。
【0056】
ONE STEP PROCESSOR(三菱製紙株式会社製)の、ガラス棒を入れたカラーパンにハイドロゲル溶液を注ぎ、基材をカラーパンのガラス棒の下を通して基材にハイドロゲル溶液を浸漬した後に、両端がスプリングリングで固定され回転する2本のゴムロール間に基材を通過させてハイドロゲルシートを作製し、基材へのハイドロゲル溶液の浸透性を評価した。
【0057】
評価基準
○:ハイドロゲル溶液が基材に均一に浸透しており、良好なレベル。
△:ハイドロゲル溶液が基材に浸透していない部分がわずかに観察されるが、使用可能なレベル。
×:ハイドロゲル溶液がほとんど浸透しておらず、使用不可レベル。
【0058】
[圧縮時のハイドロゲル溶液の保持性]
イオン交換水を800ml入れた2リットルの容器に、撹拌しながら平均重合度1700、ケン化度98.00~99.00%のPVA粉末(株式会社クラレ製、型番:28-98)200gを入れて蓋を閉めて、2時間撹拌しながら90℃以上の温水中で湯煎した後、室温に戻すことにより、PVA粉末が完全に溶解した20%のPVA水溶液を得た。このPVA水溶液をハイドロゲル溶液として、以下の方法でハイドロゲルシートを作製した。
【0059】
ONE STEP PROCESSOR(三菱製紙株式会社製)の、ガラス棒を入れたカラーパンにハイドロゲル溶液を注ぎ、基材をカラーパンのガラス棒の下を通して基材にハイドロゲル溶液を浸漬した後に、両端がスプリングリングで固定され回転する2本のゴムロール間に基材を通過させてハイドロゲルシートを作製した。ハイドロゲルシートを素早く10cm四方に裁断し、水平な机上に敷いた平滑なPETフィルム上にハイドロゲルシートをのせた後に、その上に10cm四方の平坦なガラス板をのせ、さらにガラス板と合わせて質量1.2kgになるように錘をのせたときの、ハイドロゲル溶液がエッジから漏れ出す様子を観察した。
【0060】
評価基準
◎:ハイドロゲル溶液が全く漏れ出していない、非常に良好なレベル。
〇:ハイドロゲル溶液が、一方向からわずかに漏れ出しているが良好なレベル。
△:ハイドロゲル溶液が、一方向から漏れ出しているが使用可能なレベル。
×:二方向、三方向又は四方向からハイドロゲル溶液が多く漏れ出しており、使用不可レベル。
【0061】
実施例1と実施例4の比較から、主体合成繊維がアクリル繊維である実施例1と主体合成繊維がPET繊維である実施例4を比較すると、圧縮耐性を示すTM/TOの値が実施例1は0.69であり、実施例4は0.80であり、主体合成繊維がPET繊維である実施例4の方が、圧縮耐性が高く、圧縮時のハイドロゲル溶液の保持性が良好であることが分かる。
【0062】
実施例2と実施例3の比較から、バインダー合成繊維の配合率が10%である実施例2のTM/TOの値は0.63であり、圧縮時のハイドロゲル溶液の保持性評価は△であったが、バインダー合成繊維の配合率が20%である実施例3のTM/TOの値は0.71であり、圧縮時のハイドロゲル溶液の保持性評価は〇で良好であった。しかし、実施例3の基材には、わずかな毛羽立ちが見られた。
【0063】
実施例3と実施例4の比較から、バインダー合成繊維の配合率が50%である実施例4のTM/TOの値は0.80であり、圧縮時のハイドロゲル溶液の保持性評価は〇で良好であり、実施例3と比較して、実施例4の基材に毛羽立ちが見られず、良好であった。
【0064】
実施例4と実施例9の比較から、バインダー合成繊維がPVA繊維である実施例9より、芯鞘型繊維である実施例4の方が基材へのハイドロゲル溶液の浸透性が良好であることが分かる。
【0065】
実施例4と実施例10の比較から、バインダー合成繊維の配合率が80%である実施例10よりも、バインダー合成繊維の配合率が50%である実施例4の方が、基材が厚く、基材へのハイドロゲル溶液の浸透性が優れていた。
【0066】
実施例5と実施例11の比較から、主体合成繊維の単繊維強度が4.5cN/dtexである実施例5よりも、主体合成繊維の単繊維強度が5.1cN/dtexである実施例11の方が、TM/TOが高く、圧縮時のハイドロゲル溶液の保持性評価は◎であり、非常に良好であった。
【0067】
実施例6と実施例12~14の比較から、主体合成繊維の単繊維強度が4.5cN/dtexである実施例6よりも、主体合成繊維として単繊維強度が5.6cN/dtexである繊維を含有している実施例12~14の方が、TM/TOが高く、圧縮時のハイドロゲル溶液の保持性評価は◎であり、非常に良好であった。実施例12~14の比較から、主体合成繊維全体に対する単繊維強度5.0cN/dtex以上の主体合成繊維の比率が高い方が、TM/TOが高く、1に近くなり、圧縮耐性が高かった。
【0068】
比較例1のスパンボンド乾式不織布からなる基材は、基材へのハイドロゲル溶液の浸透性、圧縮時のハイドロゲル溶液の保持性は良好であったが、地合が悪く、ハイドロゲル溶液が均一な厚さに浸透していなかった。比較例2のメルトブローン乾式不織布からなる基材は、地合は良好であったが、基材へのハイドロゲル溶液の浸透性、圧縮時のハイドロゲル溶液の保持性が悪く、使用不可レベルであった。