(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070845
(43)【公開日】2022-05-13
(54)【発明の名称】浸透促進方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/06 20060101AFI20220506BHJP
A61K 8/67 20060101ALI20220506BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20220506BHJP
A61K 8/36 20060101ALI20220506BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20220506BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220506BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20220506BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220506BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20220506BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20220506BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20220506BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20220506BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20220506BHJP
A61K 31/375 20060101ALI20220506BHJP
A61K 31/728 20060101ALI20220506BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20220506BHJP
A61K 8/9794 20170101ALI20220506BHJP
【FI】
A61K8/06
A61K8/67
A61K8/73
A61K8/36
A61K8/37
A61Q19/00
A61K9/107
A61K47/10
A61K47/12
A61K47/14
A61K47/44
A61P17/14
A61P17/16
A61K31/375
A61K31/728
A61K8/9789
A61K8/9794
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175349
(22)【出願日】2021-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2020179940
(32)【優先日】2020-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】児玉 敬
(72)【発明者】
【氏名】久保 大空
(72)【発明者】
【氏名】ツェ メイン ツェメイ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076BB31
4C076CC09
4C076CC18
4C076CC24
4C076DD01
4C076DD37N
4C076DD41N
4C076DD46N
4C076DD47N
4C076FF34
4C083AC081
4C083AC091
4C083AC251
4C083AC261
4C083AC341
4C083AC371
4C083AC391
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4C083AC421
4C083AC422
4C083AC442
4C083AD311
4C083AD332
4C083AD641
4C083BB01
4C083CC02
4C083CC28
4C083CC37
4C083DD33
4C083EE12
4C083EE22
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA18
4C086EA20
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA63
4C086NA11
4C086ZA89
4C086ZA92
(57)【要約】
【課題】水溶性有効成分の適用対象部位への浸透を促進するための方法を提供することを目的とする。
【解決手段】(A)水溶性有効成分、(B)対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Raが8(MPa)
1/2以下であり、水素結合項δHが3.5(MPa)
1/2以上である油、(C)界面活性剤、及び、(D)水を混合すること、並びに、得られた混合物を可溶化することを含む方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水溶性有効成分、
(B)対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Raが8(MPa)1/2以下であり、水素結合項δHが3.5(MPa)1/2以上である油、
(C)界面活性剤、及び、
(D)水を混合すること、並びに、得られた混合物を可溶化することを含む、(A)成分の対象部位への浸透を促進する方法。
【請求項2】
(A)成分が、(A-1)ムコ多糖、その分解物及びそれらの塩、並びに(A-2)アスコルビン酸、その誘導体及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(A)成分の重量平均分子量が3000以上である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
(B)成分が、トリアセチン、コハク酸ジエトキシエチル、モノカプリル酸プロピレングリコール、コハク酸ビスエトキシジグリコール、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸ビスエトキシジグリコール、イソステアリン酸ポリグリセリル-2、オレイン酸グリセリル、ジカプリル酸プロピレングリコール、クエン酸トリエチル、オレイルアルコール、セバシン酸ジエチル、オリーブ油、コメヌカ油、ステアロイル乳酸、アジピン酸ジイソプロピル、ヒドロキシステアリン酸2-エチルヘキシル、オレイン酸、ジ(カプリル酸/カプリン酸)プロパンジオール、2-オクチルドデカノール、イソステアリン酸、メドウフォーム油、乳酸オクチルドデシル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、トリカプリリン、ジヘプタン酸ネオペンチルグリコール、コハク酸ジエチルヘキシル、セバシン酸ジイソプロピル、及び、カプリルヒドロキサム酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記可溶化が、乳化である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記乳化が、O/W型の乳化である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記対象部位が、皮膚、爪、又は毛髪である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記対象部位が、皮膚の角質層、顆粒層、及び、有棘層である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
(A)水溶性有効成分
(B)対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Raが8(MPa)1/2以下であり、水素結合項δHが3.5(MPa)1/2以上である油、
(C)界面活性剤、及び、
(D)水
を含有する、前記水溶性有効成分の対象部位への浸透を促進するための、乳化組成物。
【請求項10】
(B)対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Raが8(MPa)1/2以下であり、分子間の水素結合項δHが3.5(MPa)1/2以上である油、
(C)界面活性剤、及び、
(D)水
を含有する、(A)水溶性有効成分の皮膚への浸透を促進するための、乳化組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸透促進方法に関し、さらに詳しくは、外用組成物に含有される水溶性有効成分の、皮層等の対象部位への浸透を促進する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料や育毛剤等の外用組成物に含有される有効成分は多種知られており、肌や頭皮等の皮膚、毛髪、爪等に適用される。これらの適用対象部位のうち、例えば、皮膚の構造に関しては、表皮と真皮に大別されるが、外用組成物の有効成分では、特に表皮における浸透性が問題となる。
【0003】
皮膚表皮の構造は、更に、外界面から順に角質層、顆粒層、有棘層、及び、基底層に大別され、それぞれの層において、ケラチノサイトの形態や、特徴的な細胞等が異なる。
【0004】
外界にはアレルゲン等の有害物質も存在することから、外界から皮膚内部への浸透は高度に制御されている。浸透の制御には、例えば、顆粒層におけるタイトジャンクションが皮膚のバリア機能を担う重要な要素として知られている。
【0005】
皮膚バリア機能を担う要素としては、他に皮脂膜、細胞間脂質(セラミド等)、天然保湿因子(フィラグリン等)、コーニファイドセルエンベロープ(インボルクリン、ロリクリン等)等が知られており、角層内部の水分の蒸散を防ぎ、且つ、アレルゲン、細菌等の異物の侵入を防いでいる。
【0006】
また、爪においても、角化した細胞が80~90層に層状形成しており、その構成成分はハードケラチンであることが知られている。ハードケラチンは、毛髪の外層を覆う成分でもある(非特許文献1)。よって、爪や毛髪のバリア機能も高く、有効成分を対象部位へ到達させることが難しい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】島村剛ら著、「ルリコナゾール爪外用液のin vitro爪透過性試験およびスライス阻止円法による爪中薬物濃度分布および抗真菌活性評価」日本医真菌学会雑誌、第57巻、J19~25頁、2016年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このようなバリア機能に関連する要素は、外界からの異物侵入を効果的に防いでいる反面で、外用組成物の有効成分の浸透も抑制する障壁となり得る。
【0009】
特に水溶性の有効成分は、親油性のバリアによって浸透を抑制されやすいため、皮膚への浸透技術の開発が求められているものの、十分に有効な技術の報告は未だなされていない。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、水溶性有効成分の適用対象部位への浸透を促進するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(A)水溶性有効成分と共に用いられる油分の種類によって、対象部位への浸透性が大きく異なるものの、その油分の選定に際しては、個々に成分の浸透性を測定しなければならず、過度の試行錯誤を要していた。このような課題に鑑み、鋭意検討を行った結果、油分の選定には、特定の尺度を用いることが有用であることが新たに見出された。具体的には、(B)対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Raと、水素結合項δhとを一定の範囲に設定した油を用いて、(A)水溶性有効成分を、(C)界面活性剤、及び、(D)水と混合及び可溶化することにより、(A)成分の対象部位への浸透を促進できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記に掲げる方法及び組成物を提供する。
[1]
(A)水溶性有効成分、
(B)対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Raが8(MPa)1/2以下であり、水素結合項δHが3.5(MPa)1/2以上である油、
(C)界面活性剤、及び、
(D)水を混合すること、並びに、得られた混合物を可溶化することを含む、(A)成分の対象部位への浸透を促進する方法。
【0013】
[2]
(A)成分が、(A-1)ムコ多糖、その分解物及びそれらの塩、並びに(A-2)アスコルビン酸、その誘導体及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種である、[1]に記載の方法。
【0014】
[3]
(A)成分の重量平均分子量が3000以上である、[1]又は[2]に記載の方法。
【0015】
[4]
(B)成分が、トリアセチン、コハク酸ジエトキシエチル、モノカプリル酸プロピレングリコール、コハク酸ビスエトキシジグリコール、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸ビスエトキシジグリコール、イソステアリン酸ポリグリセリル-2、オレイン酸グリセリル、ジカプリル酸プロピレングリコール、クエン酸トリエチル、オレイルアルコール、セバシン酸ジエチル、オリーブ油、コメヌカ油、ステアロイル乳酸、アジピン酸ジイソプロピル、ヒドロキシステアリン酸2-エチルヘキシル、オレイン酸、ジ(カプリル酸/カプリン酸)プロパンジオール、2-オクチルドデカノール、イソステアリン酸、メドウフォーム油、乳酸オクチルドデシル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、トリカプリリン、ジヘプタン酸ネオペンチルグリコール、コハク酸ジエチルヘキシル、セバシン酸ジイソプロピル、及びカプリルヒドロキサム酸からなる群より選択される少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれか1に記載の方法。
【0016】
[5]
前記可溶化が、乳化である、[1]~[4]のいずれか1に記載の方法。
【0017】
[6]
前記乳化が、O/W型の乳化である、[5]に記載の方法。
【0018】
[7]
前記対象部位が、皮膚、爪、又は毛髪である、[1]~[6]のいずれか1に記載の方法。
【0019】
[8]
前記対象部位が、皮膚の角質層、顆粒層、及び、有棘層である、[1]~[7]のいずれか1に記載の方法。
【0020】
[9]
(A)水溶性有効成分
(B)対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Raが8(MPa)1/2以下であり、水素結合項δHが3.5(MPa)1/2以上である油、
(C)界面活性剤、及び、
(D)水
を含有する、前記水溶性有効成分の対象部位への浸透を促進するための、乳化組成物。
【0021】
[10]
(B)対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Raが8(MPa)1/2以下であり、分子間の水素結合項δHが3.5(MPa)1/2以上である油、
(C)界面活性剤、及び、
(D)水
を含有する、(A)水溶性有効成分の皮膚への浸透を促進するための、乳化組成物。
【発明の効果】
【0022】
本発明の方法によれば、水溶性有効成分の浸透性を個々に測定することなく、(B)対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Raと、水素結合項δHとが一定の範囲である油を簡便に選定することができ、(A)水溶性有効成分の適用対象部位への浸透を効果的に促進することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、実施例1における組成物を皮膚モデルに適用した結果を示す皮膚モデルの断面写真である。
【
図2】
図2は、実施例2における組成物を皮膚モデルに適用した結果を示す皮膚モデルの断面写真である。
【
図3】
図3は、実施例3における組成物を皮膚モデルに適用した結果を示す皮膚モデルの断面写真である。
【
図4】
図4は、実施例4における組成物を皮膚モデルに適用した結果を示す皮膚モデルの断面写真である。
【
図5】
図5は、比較例1における組成物を皮膚モデルに適用した結果を示す皮膚モデルの断面写真である。
【
図6】
図6は、比較例2における組成物を皮膚モデルに適用した結果を示す皮膚モデルの断面写真である。
【
図7】
図7は、比較例3における組成物を皮膚モデルに適用した結果を示す皮膚モデルの断面写真である。
【
図8】
図8は、実施例5における組成物を皮膚モデルに適用した結果を示す皮膚モデルの断面写真である。
【
図9】
図9は、比較例4における組成物を皮膚モデルに適用した結果を示す皮膚モデルの断面写真である。
【
図10】
図10は、実施例6における組成物を皮膚モデルに適用した結果を示す皮膚モデルの断面写真である。
【
図11】
図11は、比較例5における組成物を皮膚モデルに適用した結果を示す皮膚モデルの断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[(A)水溶性有効成分の対象部位への浸透を促進する方法]
本発明の方法は、(A)水溶性有効成分の対象部位への浸透を促進する方法であり、
(A)水溶性有効成分、
(B)対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Raが8(MPa)1/2以下であり、水素結合項δHが3.5(MPa)1/2以上である油、
(C)界面活性剤、及び、
(D)水
を混合すること、並びに、得られた混合物を可溶化することを含む。
【0025】
[(A)水溶性有効成分]
皮膚、爪、毛髪等の適用対象部位には、上述の通り、バリア機能が備わっており、特に水溶性の有効成分を浸透させることが困難である。
このような(A)成分としては、水溶性の医薬品又は化粧品などの有効成分であれば特に制限されない。(A)成分としては、例えば、浸透性が課題となり得る成分が好ましく、医薬品、医薬部外品又は化粧品に使用できる任意の水溶性の有効成分が挙げられる。(A)成分としては、1種又は2種以上の成分を用いることが可能である。
【0026】
医薬品に使用できる水溶性の有効成分としては、例えば、ヘパリン類似物質、コンドロイチン硫酸エステル及びその分解物等の保湿剤、ケトプロフェン、ロキソプロフェン、ジクロフェナク、インドメタシン、ウフェナマート等の抗炎症剤、ルリコナゾール、ラノコナゾール、ケトコナゾール、テルビナフィン、リラナフタート、及びブテナフィン等の抗真菌剤、カルプロニウム等の育毛剤等が挙げられる。
【0027】
医薬部外品や化粧品に使用できる水溶性の有効成分としては、例えば、ヒアルロン酸及びその分解物、コラーゲン及びその分解物、プロテオグリカン及びその分解物、植物由来タンパク質及びその分解物、並びにそれらの誘導体等の保湿剤、ニコチン酸、パントテン酸、及びそれらの誘導体(ニコチン酸アミド、パンテノール等)等のビタミンB類、アスコルビン酸、及びその誘導体(3-O-エチルアスコルビン酸等)等のビタミンC類、トラネキサム酸、及びアルブチン等の美白剤、グリチルリチン酸、及びアラントイン等の抗炎症剤、サリチル酸等の角質軟化剤、アゼライン酸等の殺菌剤、ピロロキノリンキノン等の抗酸化剤、ショウキョウエキス、センブリエキス、ニンジンエキス等の育毛剤、酸性染毛剤、塩基性染毛剤、HC染毛剤、並びにメラニン染毛剤等の染毛剤等が挙げられる。
【0028】
(A)成分は上記の成分には限定されないが、(A)成分としては、例えば、(A-1)ムコ多糖、その分解物及びそれらの塩、(A-2)アスコルビン酸、その誘導体及びそれらの塩、コラーゲン及びその分解物、プロテオグリカン及びその分解物、植物由来タンパク質及びその分解物、ニコチン酸、その誘導体及びそれらの塩、トラネキサム酸、グリチルリチン酸、並びにアゼライン酸からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0029】
((A-1)ムコ多糖、その分解物、それらの塩)
ムコ多糖類及びその分解物としては、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸エステル、ヘパリン、ヘパリン硫酸、ヘパラン硫酸、ケラト硫酸、ヘパリン類似物質(ヘパリノイド)、それらの分解物などが挙げられる。
【0030】
本明細書において、塩は薬理学的又は生理学的に許容されるものであれば用いることができ、無機塩基との塩では、ナトリウム塩、カリウム塩のようなアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩のような金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。また、有機塩基との塩では、メチルアミン塩、トリエチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、モルホリン塩、ピペラジン塩、ピロリジン塩、トリピリジン塩、ピコリン塩のような有機アミン塩などが挙げられる。
【0031】
ムコ多糖、その分解物及びそれらの塩の中でも、本発明の効果を奏する観点から、ヒアルロン酸、その分解物及びそれらのナトリウム塩、コンドロイチン硫酸エステル、その分解物及びそれらのナトリウム塩、ヘパリン、その分解物、並びに、ヘパリン類似物質及びその分解物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、ヒアルロン酸及びその分解物のナトリウム塩、コンドロイチン硫酸エステル及びその分解物のナトリウム塩、並びに、ヘパリン類似物質及びその分解物からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。後述の実施例において、(A)水溶性有効成分の種類や分子量にかかわらず、(B)対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Raが8(MPa)1/2以下であり、水素結合項δHが3.5(MPa)1/2以上である油を用いた場合には、(A)水溶性有効成分の対象部位への浸透が顕著に促進されることが見出されている。
【0032】
((A-2)アスコルビン酸、その誘導体、それらの塩)
アスコルビン酸は、通常L体のものを指す。また、アスコルビン酸の塩も使用できる。アスコルビン酸の塩は、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸マグネシウム、アスコルビン酸カルシウムなどが挙げられる。
【0033】
アスコルビン酸誘導体は、化粧品、医薬部外品、又は医薬品において外用組成物の成分として公知のものが利用できる。アスコルビン酸誘導体及びその塩としては、特に限定されないが、例えば、デヒドロアスコルビン酸;3-O-エチルアスコルビン酸(VCエチル)、2-O-エチルアスコルビン酸、3-O-セチルアスコルビン酸等のアスコルビン酸アルキルエステル;テトライソパルミチン酸アスコルビル(テトラ2-ヘキシルデカン酸アスコルビル)、パルミチン酸アスコルビル、ジパルミチン酸アスコルビル、ステアリン酸アスコルビル、L-アスコルビン酸ジオレート、L-アスコルビン酸トリステアレート、アスコルビン酸トリパルミテート、アスコルビン酸トリオレート等のアシルアスコルビン酸;グリセリルアスコルビン酸(2-グリセリルアスコルビン酸、3-グリセリルアスコルビン酸、ヘキシル3-グリセリルアスコルビン酸、ミリスチル3-グリセリルアスコルビン酸等)、ビスグリセリルアスコルビン酸(2-O,3-O-ビスグリセリルアスコルビン酸等)、アルキルグリセリルアスコルビン酸(3-ラウリルグリセリルアスコルビン酸等)等のアスコルビン酸グリセリンエステル;アスコルビン酸グルコシド(VCグルコシド)(アスコルビン酸-2-グルコシド(AA2G)等)等のアスコルビン酸配糖体;アスコルビルリン酸、イソステアリルアスコルビルリン酸、パルミチン酸アスコルビルリン酸等のアスコルビン酸モノリン酸エステル;アスコルビン酸ジリン酸エステル;アスコルビン酸トリリン酸エステル;アスコルビン酸硫酸エステル;(アスコルビル/トコフェリル)リン酸、マレイン酸アスコルビルトコフェリル等のアスコルビン酸トコフェロール誘導体;アスコルビン酸メチルシラノール等のアスコルビン酸シリコーン、又はこれらの塩などが挙げられる。アスコルビン酸誘導体の塩としては、アスコルビルリン酸マグネシウム(リン酸-L-アスコルビルマグネシウム)、アスコルビルリン酸ナトリウム、アスコルビン酸モノリン酸エステルナトリウム、アスコルビン酸ジリン酸エステルナトリウム、アスコルビン酸トリリン酸エステルナトリウム、アスコルビン酸-2-硫酸エステルナトリウムなどが挙げられる。
【0034】
アスコルビン酸及びその誘導体の中でも、本発明の効果を奏する観点から、アスコルビン酸、グリセリルアスコルビン酸(2-グリセリルアスコルビン酸、3-グリセリルアスコルビン酸、ヘキシル3-グリセリルアスコルビン酸、ミリスチル3-グリセリルアスコルビン酸等)、エチルアスコルビン酸(3-O-エチルアスコルビン酸等)、及びアスコルビン酸グルコシド(アスコルビン酸-2-グルコシド等)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、グリセリルアスコルビン酸(2-グリセリルアスコルビン酸、3-グリセリルアスコルビン酸、ヘキシル3-グリセリルアスコルビン酸、ミリスチル3-グリセリルアスコルビン酸等)、及びエチルアスコルビン酸(3-O-エチルアスコルビン酸等)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。後述の実施例において、(A)水溶性有効成分の種類や分子量にかかわらず、(B)対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Raが8(MPa)1/2以下であり、水素結合項δHが3.5(MPa)1/2以上である油を用いた場合には、(A)水溶性有効成分の対象部位への浸透が顕著に促進されることが見出されている。
【0035】
(A)成分は上記の成分には限定されないが、(A)成分の重量平均分子量が、例えば、100以上であってもよく、200以上であってもよく、300以上であってもよく、1000以上であってもよく、3000以上であってもよく、5000以上であってもよく、1万以上であってもよく、5万以上であってもよく、10万以上であってもよい。また、1000以下であってもよく、2000以下であってもよく、3000以下であってもよく、1万以下であってもよく、3万以下であってもよく、5万以下であってもよく、10万以下であってもよく、50万以下であってもよく、200万以下であってもよい。
【0036】
(A)成分の含有量は、(A)成分の種類、他の成分の種類や含有量、製剤の形態等によって適宜変更され限定はされないが、例えば、0.0001~10質量%であることが好ましく、0.0005~8質量%であることがより好ましく、0.001~5質量%であることが更に好ましい。本明細書において、含有量は、少なくとも(A)~(D)成分を混合し、可溶化した後に得られた組成物全量に対する値である。
【0037】
[(B)対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Raが8(MPa)1/2以下であり、水素結合項δHが3.5(MPa)1/2以上である油]
本明細書において、ハンセン溶解度パラメーターとは、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解度パラメーターを、分散項(δD)、分極項(δP)、水素結合項(δH)の3成分に分割し、3次元空間に表したものである。分散項(δD)は分散力による効果、分極項(δP)は双極子間力による効果、水素結合項(δH)は水素結合力による効果を示す。
【0038】
ハンセン溶解度パラメーターの定義と計算は、Charles M.Hansen著「Hansen Solubility Parameters;A Users Handbook(CRC Press,2007)」に記載されている。また、コンピュータソフトウェア「Hansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)」を用いることにより、文献にパラメーター値の記載がない成分に関しても、その化学構造からハンセン溶解度パラメーターを推算することができる。本発明では、文献にパラメーター値の記載がある成分については、その値を用い、文献にパラメーター値の記載がない成分に関しては、HSPiP 5th Edition 5.0.04を用いて推算したパラメーター値を用いる。
【0039】
これらのハンセン溶解度パラメーターのうち、本発明では、適用する「対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Ra」と、「水素結合項δh」とを尺度として、好適な油を選別することができる。
【0040】
[対象部位]
適用する対象部位は、(A)水溶性有効成分の種類や用途、組成物の用途等によって変更され、限定はされないが、例えば、(A)水溶性有効成分の浸透性が問題となり得るバリア機能を有する部位(組織)であることが好ましい。
【0041】
バリア機能を有する部位としては、特に限定はされないが、例えば、皮膚、爪、又は、毛髪等が挙げられる。本明細書において、バリア機能とは、角層(角質層)等を有することから、(A)水溶性有効成分の浸透が抑制される機能をいう。上述の通り、皮膚の表皮では、構造上、外界面から順に角層(角質層)、顆粒層、有棘層、及び、基底層に大別され、皮脂膜、細胞間脂質(セラミド等)、天然保湿因子(フィラグリン等)、コーニファイドセルエンベロープ(インボルクリン、ロリクリン等)等が角層内部の水分の蒸散を防ぎ、且つ、アレルゲン、細菌等の異物の侵入を防いでいる。また、顆粒層におけるタイトジャンクションが皮膚のバリア機能を担う重要な要素として働いている。
【0042】
また、爪では、角化した細胞が80~90層に層状形成しており、その構成成分はハードケラチンであることが知られている。ハードケラチンは、毛髪の外層を覆う成分でもあり、爪や毛髪においてもバリア機能が働いている。
【0043】
このようなバリア機能は、生体防御や外部刺激を抑えるために必要な機能である一方で、有効成分の浸透を抑制する一因ともなる。
【0044】
「対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Ra」は、「対象部位」のハンセン溶解度パラメーター値を、分散項(δD)、分極項(δP)、水素結合項(δH)の3成分により(δD1、δP1、δH1)と表し、「油」のハンセン溶解度パラメーター値を(δD2、δP2、δH2)と表すと、その距離Ra(Distance)は、下記式(1)により、算出することが可能である。
【0045】
【0046】
ここで、対象部位のハンセン溶解度パラメーター値(δD、δP、δH)は、例えば、皮膚であれば、(17、8、8)に設定する。皮膚のハンセン溶解度パラメーター値は、「S.Abbott, An integrated approach to optimizing skin delivery of cosmetic and pharmaceutical actives, International Journal of Cosmetic Science, 2012, 34, 217-222」に記載されている。
【0047】
油のハンセン溶解度パラメーター値と対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Raは、8(MPa)1/2以下とすることができ、7(MPa)1/2以下であることが好ましく、6(MPa)1/2以下であることがより好ましく、5(MPa)1/2以下であることが更に好ましく、4(MPa)1/2以下であることが特に好ましい。
【0048】
また、油の水素結合項δHは、3.5(MPa)1/2以上とすることができ、4(MPa)1/2以上であることが好ましく、5(MPa)1/2以上であることがより好ましく、6(MPa)1/2以上であることがさらに好ましく、7(MPa)1/2以上であることが特に好ましい。
【0049】
(B)成分として好適な油は、適用する対象部位等によって変更され、上記数値範囲を満たす油であれば特に限定はされない。適用する対象部位が、皮膚である場合、(B)成分は、例えば、トリアセチン、コハク酸ジエトキシエチル、モノカプリル酸プロピレングリコール、コハク酸ビスエトキシジグリコール、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸ビスエトキシジグリコール、イソステアリン酸ポリグリセリル-2、オレイン酸グリセリル、ジカプリル酸プロピレングリコール、クエン酸トリエチル、オレイルアルコール、セバシン酸ジエチル、オリーブ油、コメヌカ油、ステアロイル乳酸、アジピン酸ジイソプロピル、ヒドロキシステアリン酸2-エチルヘキシル、オレイン酸、ジ(カプリル酸/カプリン酸)プロパンジオール、2-オクチルドデカノール、イソステアリン酸、メドウフォーム油、乳酸オクチルドデシル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、トリカプリリン、ジヘプタン酸ネオペンチルグリコール、コハク酸ジエチルヘキシル、セバシン酸ジイソプロピル、及び、カプリルヒドロキサム酸からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、
トリアセチン、コハク酸ジエトキシエチル、モノカプリル酸プロピレングリコール、コハク酸ビスエトキシジグリコール、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸ビスエトキシジグリコール、イソステアリン酸ポリグリセリル-2、オレイン酸グリセリル、ジカプリル酸プロピレングリコール、クエン酸トリエチル、オレイルアルコール、セバシン酸ジエチル、オリーブ油、コメヌカ油、ステアロイル乳酸、アジピン酸ジイソプロピル、ヒドロキシステアリン酸2-エチルヘキシル、オレイン酸、及び、ジ(カプリル酸/カプリン酸)プロパンジオールからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、
トリアセチン、コハク酸ジエトキシエチル、モノカプリル酸プロピレングリコール、コハク酸ビスエトキシジグリコール、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸ビスエトキシジグリコール、イソステアリン酸ポリグリセリル-2、オレイン酸グリセリル、及び、ジカプリル酸プロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。
【0050】
(B)成分の含有量は、(B)成分の種類、他の成分の種類や含有量、製剤の形態等によって適宜変更され限定はされないが、例えば、0.001~50質量%であることが好ましく、0.005~40質量%であることがより好ましく、0.01~30質量%であることが更に好ましい。
【0051】
(A)成分に対する(B)成分の含有比率は、(A)成分や(B)成分の種類、他の成分の種類や含有量、製剤の形態等によって適宜変更され限定はされないが、例えば、(A)成分1質量部に対して、(B)成分の含有量が、1~1000質量部であることが好ましく、5~500質量部であることがより好ましく、10~100質量部であることが更に好ましい。また、例えば、(A)成分1質量部に対して、(B)成分の含有量が、1~500質量部、1~100質量部、1~50質量部、1~20質量部であってもよい。
【0052】
[(C)界面活性剤]
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤の何れも使用できる。
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ソルビタンモノイソステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ペンタ-2-エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン、及びテトラ-2-エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタンのようなソルビタン脂肪酸エステル類;
モノステアリン酸グリセリル、及びモノステアリン酸グリセリンリンゴ酸のようなグリセリン脂肪酸エステル類;
モノステアリン酸ポリグリセリル、モノイソステアリン酸ポリグリセリル、ジイソステアリン酸ポリグリセリル、モノラウリン酸ポリグリセリル、モノオレイン酸ポリグリセリル、モノミリスチン酸ポリグリセリルのようなポリグリセリン脂肪酸エステル類;
モノステアリン酸ポリグリセリル、モノイソステアリン酸ポリグリセリル、ジイソステアリン酸ポリグリセリル、モノラウリン酸ポリグリセリル、モノオレイン酸ポリグリセリル、及びグリセリン脂肪酸エステルのようなポリグリセリン脂肪酸類;
モノステアリン酸プロピレングリコールのようなプロピレングリコール脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40(HCO-40)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50(HCO-50)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60(HCO-60)、及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油80などのポリオキシエチレン硬化ヒマシ油のような硬化ヒマシ油誘導体;
モノラウリル酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノステアリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(ポリソルベート80)、及びイソステアリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタンのようなポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレンモノヤシ油脂肪酸グリセリル;グリセリンアルキルエーテル;
アルキルグルコシド;
ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテルのようなポリオキシアルキレンアルキルエーテル;並びに
ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体、ラウリルPEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、及びPEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコンのようなシリコーン系界面活性剤な等が挙げられる。
【0053】
また、例えば、レシチン(水素添加レシチンを含む)のようなグリセロリン脂質、ポリオキシアルキレンアルキル(又はアルケニル)エーテル硫酸塩、アルキル(又はアルケニル)硫酸塩、高級脂肪酸塩、エーテルカルボン酸塩、アミドエーテルカルボン酸塩、アルキルリン酸エステル塩、N-アシルアミノ酸塩、ポリオキシアルキレン脂肪酸アミドエーテル硫酸塩、アシル化イセチオン酸塩、及びアシル化タウレート等のアニオン性界面活性剤; 例えば、アルキレンオキサイドが付加していてもよい、直鎖又は分岐鎖の長鎖アルキル基を有するモノ又はジ長鎖アルキル第4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤;並びに
例えば、カルボベタイン、スルホベタイン、イミダゾリニウムベタイン、及びアミドベタイン等の両性界面活性剤も使用することができる。
【0054】
界面活性剤のHLB値は、特に限定されるものではないが、本発明の効果を顕著に奏する観点から、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3以上がさらに好ましい。また、19以下が好ましく、18以下がより好ましく、17以下がさらに好ましく、16以下がさらにより好ましく、15以下が最も好ましい。
界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できるが、可溶化(乳化を含む)の安定性の観点から、2種以上を組み合わせて使用することが好ましく、HLB値が1以上8以下である界面活性剤(C-1)を1種以上とHLB値が8超19以下である界面活性剤(C-2)を1種以上とを組み合わせて使用することがより好ましい。ここで、「HLB値」とは親水性と疎水性のバランスを示す値(Hydrophile-Lipophile Balance)であり、界面活性剤の適応性の目安となるものである。
【0055】
HLB値が1以上8以下である界面活性剤(C-1)としては、例えば、モノステアリン酸ソルビタン(HLB値:4.5)、モノイソステアリン酸グリセリル(HLB値:4)、モノステアリン酸グリセリル(HLB値:3)、及び、モノステアリン酸プロピレングリコール(HLB値:3.5)からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0056】
HLB値が8超19以下である界面活性剤(C-2)としては、例えば、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20EO、HLB値:14.9)、ポリオキシエチレンフィトステロール(20EO、HLB値:15.5)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル(20EO、4PO、HLB値:16.5)、及び、モノイソステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20EO、HLB値:15.0)からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0057】
界面活性剤の中でも、本発明の効果を顕著に奏する観点から、非イオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤が好ましい。
【0058】
界面活性剤の含有量は、組成物の全量に対して、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上がさらに好ましい。上記範囲であれば、界面活性剤の作用が十分に得られる。
また、界面活性剤の含有量は、組成物の全量に対して、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましくい。
【0059】
[(D)水]
本発明では、水溶性有効成分の適用部位への浸透性の観点から、水を含有させることが好ましい。水は、純水に限られず、イオン交換水等、生体への適用が可能な水であればよい。
【0060】
水の含有量は、本発明の効果を顕著に奏する観点から、例えば、外用組成物全量に対して、好ましくは、1~95質量%、より好ましくは、10~90質量%、更に好ましくは、20~80質量%、特に好ましくは、30~70質量%である。
【0061】
[調製方法]
本発明において、上記(A)成分~(D)成分、並びに、所望により他の有効成分、基剤、添加物等を混合する混合工程、及び、得られた混合物を可溶化する可溶化工程を含むことにより、得られた組成物を対象部位へ適用した場合の(A)成分の浸透促進作用を得ることが可能となる。
【0062】
上記混合工程においては、公知の混合方法が用いられ、特に限定はされず、各成分の混合時の撹拌速度、撹拌時間、撹拌時の温度条件等は、各成分の特性に合わせて、適宜設定され得る。
【0063】
上記可溶化工程においては、公知の可溶化方法が用いられ、特に限定はされない。可溶化方法としては、限定はされないが、乳化処理が好ましく用いられ得る。本明細書において、可溶化とは、水溶性成分と油性成分のいずれかがもう一方に分散又は溶解されている状態をいう。
【0064】
乳化処理の方法としては、上記(A)成分~(D)成分、並びに、所望により他の有効成分、基剤、添加剤等を混合した混合物を、例えば、ホモミキサーで処理する方法が挙げられる。また、当該混合物を、ホモミキサーよりも強力なエネルギーをかけられる乳化機(例えば、マイクロフルイダイザー、超音波乳化機、高圧乳化機(高圧ホモジナイザー)など)等を用い、強力なエネルギーで乳化処理する方法等も用いることが可能である。
【0065】
なお、上記(A)成分~(D)成分と、他の有効成分や基剤等の各種成分との全量を乳化処理してもよいし、場合によっては、含有成分のうち一部のみを乳化処理した後に、残りの成分をさらに配合することも可能である。全量を乳化処理するか、一部のみを乳化処理した後に残りの成分を配合するかは、配合する原料により適宜選択すればよい。
【0066】
このようにして得られる乳化組成物は水中油型及び油中水型のいずれにもなりうるが、水中油型(O/W型)であることが好ましい。一般的に(D)成分である水の含有量が組成物100重量%に対して40重量%以上の時には水中油型となる傾向がある。
【0067】
上記混合工程や、可溶化工程の他、本発明では、ろ過工程、加熱工程、及び殺菌工程等の他の工程を更に含んでもよい。
【0068】
上記(A)成分~(D)成分に加え、用途あるいは剤形に応じて、医薬品、医薬部外品、又は化粧品等の分野に通常使用され得る成分を適宜配合しても良い。配合できる成分としては、特に制限されないが、例えば、基剤又は担体、粘度調整剤、酸化防止剤、保存剤、pH調整剤、キレート剤、安定化剤、刺激軽減剤、防腐剤、着色剤、分散剤、香料等の添加剤を配合することができる。なお、これらの成分は1種単独で、または2種以上を任意に組み合わせて配合することができる。
【0069】
[用途]
本発明の方法を用いて組成物を調製することにより、(A)成分である水溶性有効成分の対象部位への浸透を促進する作用を当該組成物に付与することが可能となる。すなわち、水溶性有効成分は、通常、適用部位における親油性のバリアによって浸透を抑制されやすいところ、(B)対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Raと、水素結合項δhとを一定の範囲に設定した油を用いることにより、(A)成分の対象部位への浸透を促進させることが可能となる。
【0070】
別の実施態様において、本発明で得た知見を活用することにより、(A)水溶性有効成分を、対象部位への浸透を抑制することも可能である。有効成分によっては、表皮の角質層や爪、毛髪等の上層に留めたい成分や、浸透を抑制した方がよい成分もあることから、本発明の知見を活用することにより、適用部位での有効成分の浸透性や所望の部位での滞留性をコントロールすることが可能となる。このような対象部位への浸透抑制作用については、例えば、後述の[実施例]における比較例2、3等を参照することができる。対象部位への浸透抑制作用を目的とする別の実施態様においても、(A)水溶性有効成分、(C)界面活性剤、(D)水の種類や量・比等については、上記[(A)水溶性有効成分の対象部位への浸透を促進する方法]と同様である。
【0071】
(A)水溶性有効成分を、対象部位への浸透を抑制させる場合、限定はされないが、例えば、(B)成分の油の選定に際して、対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Raが7(MPa)1/2以上であり、水素結合項δHが3.5(MPa)1/2未満である油を基準とすることができる。
【0072】
すなわち、当該別の実施態様においては、
(A)水溶性有効成分、
(B)対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Raが7(MPa)1/2以上であり、水素結合項δHが3.5(MPa)1/2未満である油、
(C)界面活性剤、及び、
(D)水を混合すること、並びに、得られた混合物を可溶化することを含む、(A)成分の対象部位への浸透を抑制する方法、を提供することも可能である。
【0073】
(A)水溶性有効成分を、対象部位への浸透を抑制させる場合、限定はされないが、対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Raは、8(MPa)1/2以上とすることがより好ましい。
【0074】
(A)水溶性有効成分を、対象部位への浸透を抑制させる場合、限定はされないが、限定はされないが、水素結合項δHは、3(MPa)1/2以下とすることがより好ましい。
【0075】
対象部位への浸透抑制作用を目的とする別の実施態様において、(B)成分として好適な油は、適用する対象部位等によって変更され、上記数値範囲を満たす油であれば特に限定はされない。適用する対象部位が、皮膚である場合、(B)成分は、例えば、コレステロールエステル、オレイン酸フィトステリル、ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)、ミリスチン酸イソプロピル、及び、流動パラフィンからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【実施例0076】
次に、実施例や試験例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例や試験例に限定されるものではない。
【0077】
(試験例1.各種油における溶解度パラメーター値の算出)
以下の試験方法に従い、各種油における溶解度パラメーター値を算出した。
【0078】
[試験方法]
以下の手順に従い、各種油における溶解度パラメーター値を計算により求めた。
HSPiP(5th edition 5.0.04)のDIYプログラムにおけるY-MB法にて、各種油のSmiles式を入力し、HSP値を算出した。HSPiP Master Dataに収載されている油についてはそのHSP値を採用した。
なお、油が混合物の場合は代表的な構成成分の構造式から推算した。
オリーブ油、コメヌカ油、メドウフォーム油については、各構成脂肪酸の組成比を基に溶解度パラメーターを推算した。
また、流動パラフィンについては、試験に用いたものの平均分子量が483であったため、炭素数34の飽和炭化水素化合物であるn-テトラトリアコンタン(分子量:479)の溶解度パラメーターを近似値として採用した。
各種油における溶解度パラメーター値を表1に示す。
【0079】
【0080】
(試験例2.3次元培養皮膚モデルを用いた、水溶性有効成分の浸透性確認試験1)
(試験製剤の調製)
水溶性有効成分として分子量の異なるヒアルロン酸ナトリウムを用い、皮膚へ適用した場合の浸透性への影響を確認した。
表2~表5に記載の各種油剤成分、ステアリン酸グリセリル、イソステアリン酸PEG-20ソルビタン、及び水を混合し、乳化させた後、フルオレセインアミン標識ヒアルロン酸ナトリウムを添加し、試験製剤を調製した。
【0081】
【0082】
[試験方法]
(3次元培養皮膚モデルを用いた浸透性評価方法)
上記の試験製剤を人工皮膚モデル(LabCyte EPI-MODEL12,株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング製)の表面に塗布し、閉鎖系塗布条件にて30分間浸透させた後、人工皮膚モデルの表面をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄し、表面に残った試験製剤を除去した。24時間後、人工皮膚モデルの組織をホルマリンで固定し、表皮内に浸透したフルオレセインアミン標識ヒアルロン酸ナトリウムを蛍光顕微鏡を用いて定量した。各試験製剤における評価結果を表3~表5に併せて示す。3次元培養皮膚モデルにおける各試験製剤の浸透の程度を示す写真を、
図1~12に示す。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
表3、及び、
図1~8に示す通り、(B)対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Raが8(MPa)
1/2以下であり、水素結合項δHが3.5(MPa)
1/2以上である油を用いた場合には、(A)水溶性有効成分の対象部位への浸透が顕著に促進された(実施例1~4)。一方、上記(B)成分の条件を満たさない油を用いた場合には、(A)水溶性有効成分の対象部位への浸透が抑制された(比較例1~3)。これらの結果により、上記(B)成分の条件を調整し油を選定することにより、(A)水溶性有効成分の対象部位への浸透をコントロールすることが可能であることが示された。
【0087】
表4、表5、及び、
図9~
図12に示す通り、(A)水溶性有効成分の分子量にかかわらず、(B)対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Raが8(MPa)
1/2以下であり、水素結合項δHが3.5(MPa)
1/2以上である油を用いた場合には、(A)水溶性有効成分の対象部位への浸透が顕著に促進された(実施例5~6)。(B)対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Raが8(MPa)
1/2以下であり、水素結合項δHが3.5(MPa)
1/2以上である油を用いることにより、皮膚バリア機能を担っている角質層や角質細胞間脂質との親和性が高まり、(A)水溶性有効成分が浸透しやすくなったと考えられる。一般的には、水溶性有効成分の皮膚等への浸透性には、各成分の分子量が大きく影響するものと考えられるが、「対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Ra」と「水素結合項δH」とを特定の数値範囲に設定した油を用いることで、分子量の影響を抑えて皮膚等への浸透性を向上させたことは意外な結果であった。
【0088】
(試験例3.3次元培養皮膚モデルを用いた、水溶性有効成分の浸透性確認試験2)
(試験製剤の調製)
水溶性有効成分として、フルオレセインアミン標識ヒアルロン酸ナトリウムに替え、グリセリルアスコルビン酸又は3-O-エチルアスコルビン酸を終濃度1%で用いたこと以外は、試験例2と同様に試験製剤を調製した。
【0089】
[試験方法]
(3次元培養皮膚モデルを用いた浸透性評価方法)
上記の試験製剤を人工皮膚モデル(LabCyte EPI-MODEL12,株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング製)の表面に塗布し、閉鎖系塗布条件にて30分間浸透させた後、人工皮膚モデルの表面をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄し、表面に残った試験製剤を除去した。24時間後、人工皮膚モデルの底部側の溶液を回収し、内標準物質を含む水溶液を用いて5倍希釈した後、遠心分離を行い、上清を回収した。回収した上清に含まれる水溶性有効成分を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて定量した。なお、HPLCでは、オクタデシルシリル化シリカゲルを充填したカラムを用いた。グリセリルアスコルビン酸を含む各試験製剤における評価結果を表6に、3-O-エチルアスコルビン酸を含む各試験製剤における評価結果を表7に示す。
【0090】
【0091】
【0092】
表6及び7に示す通り、(A)水溶性有効成分が低分子化合物であっても、(B)対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Raが8(MPa)1/2以下であり、水素結合項δHが3.5(MPa)1/2以上である油を用いた場合には、(A)水溶性有効成分の対象部位への浸透が顕著に促進された(実施例7~9)。(B)対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Raが8(MPa)1/2以下であり、水素結合項δHが3.5(MPa)1/2以上である油を用いることにより、皮膚バリア機能を担っている角質層や角質細胞間脂質との親和性が高まり、(A)水溶性有効成分が浸透しやすくなったと考えられる。一般的には、水溶性有効成分の皮膚等への浸透性には、各成分の分子量が大きく影響するものと考えられるが、「対象部位のハンセン溶解度パラメーター値との距離Ra」と「水素結合項δH」とを特定の数値範囲に設定した油を用いることで、低分子の化合物についても、特定の数値範囲から外れる油を使用した場合と比較して、皮膚等への浸透性を向上させたことは意外な結果であった。