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特開2022-70904インク用エマルション組成物及び水性インク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070904
(43)【公開日】2022-05-13
(54)【発明の名称】インク用エマルション組成物及び水性インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/38 20140101AFI20220506BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20220506BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
C09D11/38
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016103
(22)【出願日】2022-02-04
(62)【分割の表示】P 2017547627の分割
【原出願日】2016-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2015215302
(32)【優先日】2015-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016145144
(32)【優先日】2016-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 桂丈
(72)【発明者】
【氏名】清水 慎介
(72)【発明者】
【氏名】三澤 俊太
(72)【発明者】
【氏名】柵木 順哉
(72)【発明者】
【氏名】樋口 比呂子
(57)【要約】
【課題】
分散液の保存安定性が良く、インク組成物として利用した場合も、安定性が良好であり、更に長期に保存した場合にもインクの物性に変化を生じない、インク用エマルション組成物の提供。
【解決手段】
(A)染料及び/又は顔料、(B)スチレン-(メタ)アクリル共重合体、及び(C)下記式(1)で表される化合物を含有し、(C)下記式(1)で表される化合物の含有率が0.18質量%を超えるインク用エマルション組成物。
【化1】
[式(1)中、tは1乃至5を表す。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)染料及び/又は顔料、(B)スチレン-(メタ)アクリル共重合体、及び(C)下記式(1)で表される化合物を含有し、(C)下記式(1)で表される化合物の含有率が0.18質量%を超えるインク用エマルション組成物。
【化1】
[式(1)中、tは1乃至5を表す。]
【請求項2】
前記成分(A)が、分散染料、油溶性染料、及び建染染料から選ばれる少なくとも1種類の染料である請求項1に記載のインク用エマルション組成物。
【請求項3】
前記成分(A)が、C.I.ディスパースイエロー54、C.I.ディスパースオレンジ25、C.I.ディスパースレッド60、C.I.ディスパースブルー72、359、360、C.I.ディスパースブラウン26、27及びC.I.ソルベントオレンジ60から選ばれる少なくとも1種類の染料である請求項1又は2に記載のインク用エマルション組成物。
【請求項4】
前記成分(B)の重量平均分子量が、1000以上20000以下である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のインク用エマルション組成物。
【請求項5】
前記成分(B)のガラス転移点が、45℃以上135℃以下である請求項1乃至4のいずれか一項に記載のインク用エマルション組成物。
【請求項6】
前記成分(B)が、下記式(2)又は(3)の骨格を分子内に有するスチレン-アクリル共重合体である請求項1乃至5のいずれか一項に記載のインク用エマルション組成物。
【化2】
[式(2)において、n乃至nは1~30の整数を表す。]
【化3】
[式(3)において、m及びmは1~43の整数を表す。]
【請求項7】
前記成分(C)において、tが2である請求項1乃至6のいずれか一項に記載のインク用エマルション組成物。
【請求項8】
さらに(D)分子内にアミノ基とスルホ基の両置換基を有する化合物を含有する請求項1乃至7のいずれか一項に記載のインク用エマルション組成物。
【請求項9】
前記成分(D)が、下記式(4)で表される化合物である請求項8に記載のインク用エマルション組成物。
【化4】
[式(4)中、Rは、置換基を有しても良いアルキレン基、アルキリデン基、アリーレン基を表す。]
【請求項10】
さらに(E)水溶性有機溶剤を含有する請求項1乃至9のいずれか一項に記載のインク用エマルション組成物。
【請求項11】
前記成分(E)が、分子内にヒドロキシ基を1以上有する水溶性有機溶剤である請求項10に記載のインク用エマルション組成物。
【請求項12】
前記成分(A)の数平均粒子径が10~500nmである請求項1乃至11のいずれか一項に記載のインク用エマルション組成物。
【請求項13】
アルカリ性水溶液を用いて中和溶解させる工程を有する請求項1乃至12のいずれか一項に記載のインク用エマルション組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載のインク用エマルション組成物、及び(F)消泡剤を含有するインク用分散液組成物。
【請求項15】
前記成分(F)がノニオン界面活性剤である請求項14に記載のインク用分散液組成物。
【請求項16】
さらに(G)防腐剤を含有する請求項14又は15に記載のインク用分散液組成物。
【請求項17】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載のインク用エマルション組成物、又は請求項14乃至16のいずれか一項に記載のインク用分散液組成物を含有する水性インク。
【請求項18】
さらに(H)下記式(5)で表される化合物を含有する請求項17に記載の水性インク。
【化5】
[式(5)中、sは1乃至5を表す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非常に保存安定性が高い新規なインク用エマルション組成物及びそれを用いた水性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリントは情報のデジタル化が進む中で、オフィス、家庭用の印刷機として広く普及しているが、近年では更に商業印刷やテキスタイルプリント等への応用展開も数多く進められている。そしてインクジェットのプリントの用途が広がっていくのに伴い、インクに用いる着色材も従来の酸性染料あるいは直接染料などの水溶性染料から、分散染料や顔料等の水不溶性色材など用途に応じて様々な色材が使用されるようになってきた。
【0003】
一方、分散染料はポリエステル等の疎水性繊維の工業染色に広く利用されており、水不溶性の染料を染浴中あるいは色糊中に分散させ、染色に使用される。染料は高温条件下、繊維内部へ分散状態で浸透拡散し、繊維染料間の水素結合や分子間力等により染着する。染料の分散性、特に高温での分散性が劣ると、高温染浴中で染料の凝集が生じ、繊維上でスペック(染色時に分散不良の染料等が繊維に点状に付着し、染色対象物に汚れを生じる現象)を発生しやすい。この為、従来、繊維染色用には高温分散性の優れる分散剤、例えばリグニンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物類、アルキルナフタレンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物類、クレオソート油スルホン酸のホルムアルデヒド縮合物などのアニオン系分散剤が主に使用されてきた。
【0004】
そして分散染料を用いたポリエステル繊維のインクジェットプリントも行われており(非特許文献1、非特許文献2)、主に繊維へ染料インクを付与(プリント)した後、スチーミング等の熱処理により染料を染着させるダイレクトプリント法と、専用の転写紙に染料インクを付与(プリント)した後、熱により染料を転写紙側から繊維側へ昇華転写させる熱転写プリント法が実用化されている。これらのプリントに用いる分散染料インクの分散化には、従来工業染色用に使用されているアニオン系分散剤が利用されている(特許文献1、特許文献2)。しかし、本発明者らの検討では、これらのアニオン系分散剤では、分散液での沈降安定性に問題があり、更にそれをインク化した後、インクの吐出安定性にも問題がある事が分かった。また特許文献3には式1で示される分散剤が用いられており、吐出安定性は良好であるが、依然沈降安定性(保存安定性)に問題がある事が分かった。
【0005】
今後、インクを用いた印刷方法の使用分野を拡大すべく、インクジェット記録に用いられるインク組成物及びそれによって着色された着色体には、高発色であり、耐光性、耐水性などの各種堅牢性が良いことが求められている。また、インクジェット記録に用いられるインク組成物には、インクとして長期間安定であることや、乾燥した時に再び水に溶解又は分散できることが強く求められている。
【0006】
特に分散染料には、長期において安定であることが求められる。一般にインク中で分子としてではなく、粒子として分散状態で存在している染料は、染料粒子の凝集によって経時的に沈降現象が生じることが知られていている。そのため、インク中で濃度勾配が生じ、初期の印字特性が得られなかったり、最悪の場合、凝集した粒子がノズルに詰まり、吐出できない状態となってしまったりする問題がある。
【0007】
そのためインク組成物として用いた場合に、各種堅牢性が良く、印刷して得られる画像の濃度が高く、保存安定性が良好なインク組成物の開発が求められているが、まだ十分な性能を有するものが少ないのが現状である。
【0008】
顔料を用いたインクジェットインク組成物には、特許文献6のインクが挙げられる。これは、高分子分散剤を用いて分散液を調製したインク組成物である。また、特許文献5には、自己分散型の顔料を用いたインク組成物が開示されている。
【0009】
近年、自己集合型の顔料を用いたマイクロカプセル顔料が広く検討されており、上記課題を解決できる手段として幅広く検討がなされており、特許文献8にはその製造方法が開示されている。しかし、いずれのインク組成物も未だ市場の要求を十分に満足する製品を提供するに至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9-291235号公報
【特許文献2】特開平8-333531号公報
【特許文献3】特開2003-246954号公報
【特許文献4】特許第3534395号公報
【特許文献5】特許第4016483号公報
【特許文献6】特許第4078679号公報
【特許文献7】国際公開第2010/013651号
【特許文献8】特許第2675956号公報
【特許文献9】特許第3839829号公報
【特許文献10】国際公開第2014/129322号
【特許文献11】国際公開第2013/115071号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】日本画像学会誌,第41巻,第2号,p68~p74(2002)
【非特許文献2】染織経済新聞,2004年1月28日号,18頁~21頁
【非特許文献3】改訂4版化学工学辞典,46頁~47頁
【非特許文献4】DICTechnicalReviewNo.10/2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来における上記課題を解決し、分散液の保存安定性が良く、インク組成物として利用した場合も、安定性が良好であり、更に長期に保存した場合にもインクの物性に変化を生じない、インク用エマルション組成物を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意研究の結果、染料及び/又は顔料、スチレン-アクリル共重合体、及びプロピレングリコール系溶剤を含有するエマルション液で非常に高いインク安定性を実現することを見出し、本発明に至ったものである。
【0014】
即ち、本発明は、以下1)~18)に関する。
1)
(A)染料及び/又は顔料、(B)スチレン-(メタ)アクリル共重合体、及び(C)下記式(1)で表される化合物を含有し、(C)下記式(1)で表される化合物の含有率が0.18質量%を超えるインク用エマルション組成物。
【0015】
【化1】
【0016】
[式(1)中、tは1乃至5を表す。]
2)
前記成分(A)が、分散染料、油溶性染料、及び建染染料から選ばれる少なくとも1種類の染料である1)に記載のインク用エマルション組成物。
3)
前記成分(A)が、C.I.ディスパースイエロー54、C.I.ディスパースオレンジ25、C.I.ディスパースレッド60、C.I.ディスパースブルー72、359、360、C.I.ディスパースブラウン26、27及びC.I.ソルベントオレンジ60から選ばれる少なくとも1種類の染料である1)又は2)に記載のインク用エマルション組成物。
4)
前記成分(B)の重量平均分子量が、1000以上20000以下である1)乃至3)のいずれか一項に記載のインク用エマルション組成物。
5)
前記成分(B)のガラス転移点が、45℃以上135℃以下である1)乃至4)のいずれか一項に記載のインク用エマルション組成物。
6)
前記成分(B)が、下記式(2)又は(3)の骨格を分子内に有するスチレン-アクリル共重合体である1)乃至5)のいずれか一項に記載のインク用エマルション組成物。
【0017】
【化2】
【0018】
[式(2)において、n乃至nは1~30の整数を表す。]
【0019】
【化3】
【0020】
[式(3)において、m及びmは1~43の整数を表す。]
7)
前記成分(C)において、tが2である1)乃至6)のいずれか一項に記載のインク用エマルション組成物。
8)
さらに(D)分子内にアミノ基とスルホ基の両置換基を有する化合物を含有する1)乃至7)のいずれか一項に記載のインク用エマルション組成物。
9)
前記成分(D)が、下記式(4)で表される化合物である8)に記載のインク用エマルション組成物。
【0021】
【化4】
【0022】
[式(4)中、Rは、置換基を有しても良いアルキレン基、アルキリデン基、アリーレン基を表す。]
10)
さらに(E)水溶性有機溶剤を含有する1)乃至9)のいずれか一項に記載のインク用エマルション組成物。
11)
前記成分(E)が、分子内にヒドロキシ基を1以上有する水溶性有機溶剤である10)に記載のインク用エマルション組成物。
12)
前記成分(A)の数平均粒子径が10~500nmである1)乃至11)のいずれか一項に記載のインク用エマルション組成物。
13)
アルカリ性水溶液を用いて中和溶解させる工程を有する1)乃至12)のいずれか一項に記載のインク用エマルション組成物の製造方法。
14)
1)乃至12)のいずれか一項に記載のインク用エマルション組成物、及び(F)消泡剤を含有するインク用分散液組成物。
15)
前記成分(F)がノニオン界面活性剤である14)に記載のインク用分散液組成物。
16)
さらに(G)防腐剤を含有する14)又は15)に記載のインク用分散液組成物。
17)
1)乃至12)のいずれか一項に記載のインク用エマルション組成物、又は14)乃至16)のいずれか一項に記載のインク用分散液組成物を含有する水性インク。
18)
さらに(H)下記式(5)で表される化合物を含有する17)に記載の水性インク。
【0023】
【化5】
【0024】
[式(5)中、sは1乃至5を表す。]
【発明の効果】
【0025】
本発明により、非常に保存安定性にすぐれたインク用エマルション組成物が得られ、これを利用することで、水不溶性色材の水性分散液及びインク組成物を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のエマルション組成物とは、相互に溶解しない2種の液体を強く撹拌した時に生じる混合物で、例えば水の中に油が乳化したもの、または油の中に水が乳化したものである。
【0027】
[成分(A)染料及び/又は顔料]
本発明における成分(A)は、染料及び/又は顔料である。
上記染料とは、適当な染色法によって繊維に染着する有機色素であり、例えば、直接染
料、建染染料、硫化染料、分散染料、塩基性染料、ナフトール染料、酸性染料、酸性媒染
染料、媒染染料、油溶性染料、反応染料、可溶性建染染料、硫化建染染料、酸化染料等で
ある。
具体的には、C.I.DisperseYellowとしては、3、4、5、7、8、9、13、23、24、30、33、34、39、42、44、49、50、51、54、56、58、60、63、64、66、68、71、74、76、79、82、83、85、86、88、90、91、93、98、99、100、104、114、116、118、119、122、124、126、135、140、141、149、160、162、163、164、165、179、180、182、183、186、192、198、199、200、202、204、210、211、215、216、218、224、237等が挙げられる。同様に、C.I.DisperseOrangeとしては、1、1:1、3、5、7、11、13、17、20、21、23、24、25、25:1、29、30、31、32、33、37、38、42、43、44、45、47、48、49、50、53、54、55、56、57、58、59、61、66、71、73、76、78、80、86、89、90、91、93、96、97、118、119、127、130、139、142等が挙げられる。同様に、C.I.DisperseRedとしては、1、4、5、7、11、12、13、15、17、27、43、44、50、52、53、54、55、55:1、56、58、59、60、65、70、72、73、74、75、76、78、81、82、86、88、90、91、92、93、96、103、105、106、107、108、110、111、113、117、118、121、122、126、127、128、131、132、134、135、137、143、145、146、151、152、153、154、157、158、159、164、167、169、177、179、181、183、184、185、188、189、190、191、192、200、201、202、203、205、206、207、210、221、224、225、227、229、239、240、257、258、277、278、279、281、283、288、298、302、303、310、311、312、320、323、324、328、359、362、364等が挙げられる。更には、C.I.ディスパースバイオレット1、4、8、11、17、23、26、27、28、29、31、33、35、36、38、40、43、46、48、49、50、51、52、56、57、59、61、63、69、77,97、C.I.ディスパースグリーン9、C.I.ディスパースブラウン1、2、4、9、13、19、26、27、C.I.ディスパースブルー3、5、7、9、14、16、19、20、26、26:1、27、35、43、44、54、55、56、58、60、62、64、64:1、71、72、72:1、73、75、77、79、79:1、81、82、83、87、91、93、94、95、64:1、96、102、106、108、112、113、115、118、120、122、125、128、130、131、139、141、142、143、145、146、148、149、153、154、158、165、165:1、165:2、167、171、173、174、176、181、183、185、186、187、189、197、198、200、201、205、207、211、214、224、225、257、259、266、267、270、281、284、285、287、288、291、293、295、297、301、315、330、333、334、339、341、353、354、358、359、360、364、365、366、368、C.I.ディスパースブラック1、3、10、24、C.I.SolventYellow114、C.I.SolventOrange60、67、C.I.SolventRed146、C.I.ソルベントブルー36、63、83、105、111、等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
上記顔料とは、水、有機溶剤等に不溶の白色または有色の紛体であり、有機顔料と無機
顔料がある。本発明においては、有機顔料であっても無機顔料であっても良いが、有機顔
料である場合が好ましい。
具体的には、C.I.ピグメントイエロー74、120、128、138、151、185、217、C.I.ピグメントオレンジ13、16、34、43、C.I.ピグメントレッド122、146、148、C.I.ピグメントバイオレット19、23、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:5、15:6、C.I.ピグメントグリーン7、8等を挙げることができる。
【0029】
なお、本発明においては、染料がより好ましく、分散染料、油溶性染料、及び建染染料
から選ばれる少なくとも1種類の染料がより一層好ましい。また、上記染料のうち、熱転
写適性のある染料としては、C.I.ディスパースイエロー51、54、60、71、82、211、C.I.ディスパースオレンジ5、7、20、23、24、25、25:1、C.I.ディスパースレッド4、11、50、53、59、60、239、240、364、C.I.ディスパースバイオレット8、11、17、26、27、28、36、C.I.ディスパースブルー3、5、26、35、55、56、72、81、91、108、334、359、360、366、C.I.ディスパースブラウン26、27、C.I.ソルベントイエロー114、C.I.ソルベントオレンジ60、67、C.I.ソルベントレッド146、C.I.ソルベントブルー36、63、83、105、111等を挙げることができ、さらに好ましくは、C.I.ディスパースイエロー54、C.I.ディスパースオレンジ25、C.I.ディスパースレッド60、C.I.ディスパースブルー72,359,360、C.I.ディスパースブラウン26,27、C.I.ソルベントオレンジ60等であり、特に好ましくはC.I.ディスパースイエロー54、C.I.ディスパースオレンジ25、C.I.ディスパースレッド60である。
【0030】
これらの色材は粉末状あるいは塊状の乾燥色材でも、ウエットケーキやスラリーでも良
く、色材合成中や合成後に色材粒子の凝集を抑える目的で界面活性剤等の分散剤が少量含
有されたものであっても良い。市販のこれらの色材には、工業染色用、樹脂着色用、イン
キ用、トナー用、インクジェット用などのグレードがあり、製造方法、純度、顔料の粒径
等がそれぞれ異なる。粉砕後の凝集性を抑えるには色材としてはより粒子の小さいものが
好ましく、また分散安定性及びインクの吐出精度への影響から、できるだけ不純物などの
少ないものが好ましい。染料においては、ブルー系染料を主体にオレンジ系染料及びレッ
ド系染料を配合する事でブラック用の色材として用いることができる。また色調調製の範
囲内で他の水不溶性色材を少量含んでも良い。
【0031】
前記の染料は配合しても良く、例えばブラックインクの調製においては、ブルー染料を
主体にオレンジ染料、及びレッド染料を適宜配合してブラック色に調色し、これをブラッ
ク染料として用いることができる。また、例えばブルー、オレンジ、レッド、バイオレッ
ト、又はブラック等の色調を、より好みの色調に微調製する目的で複数の染料を配合して
も良い。
【0032】
本発明のインク用エマルション組成物中の成分(A)の含有率は、0.1~30質量%の範囲が好ましく、5~20質量%の範囲が更に好ましい。インク用エマルション組成物中の成分(A)の含有率が上記範囲内の場合、組成物の保存安定性や沈降性が優れる。
【0033】
[成分(B)スチレン-(メタ)アクリル共重合体]
本発明における成分(B)スチレン-(メタ)アクリル共重合体は、スチレン系モノマーと(メタ)アクリル系モノマーの共重合体である。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び/又は「メタクリル」の意味を表す。これらの共重合体の具体例としては、(α‐メチル)スチレン‐アクリル酸共重合体、(α‐メチル)スチレン‐アクリル酸‐アクリル酸エステル共重合体、(α‐メチル)スチレン‐メタクリル酸共重合体、(α‐メチル)スチレン‐メタクリル酸‐アクリル酸エステル共重合体、(α‐メチル)スチレン‐(無水)マレイン酸共重合体、アクリル酸エステル‐(無水)マレイン酸共重合体、(α‐メチル)スチレン‐アクリル酸エステル‐(無水)マレイン酸共重合体、アクリル酸エステル‐アリルスルホン酸エステル共重合体、アクリル酸エステル‐スチレンスルホン酸共重合体、(α‐メチル)スチレン‐メタクリルスルホン酸共重合体、ポリエステル‐アクリル酸共重合体、ポリエステル‐アクリル酸‐アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル‐メタクリル酸共重合体、ポリエステル‐メタクリル酸‐アクリル酸共重合体エステル;等が挙げられる。これらの中では芳香族炭化水素基を含む化合物がスチレンのものが好ましい。
なお、(α‐メチル)スチレンとは、本明細書においてα‐メチルスチレン、及びスチレンを含む意味として用いる。
【0034】
本発明における成分(B)の具体例としては、JoncrylRTM52J、57J、60J、63J、70J、JDX-6180、HPD-196、HPD96J、PDX-6137A、6610、JDX-6500、JDX-6639、PDX-6102B、PDX-6124(BASF製)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。なお、本明細書において上付きのRTMは登録商標を意味する。
【0035】
本発明における成分(B)としては、重量平均分子量が、1000~20000である場合が好ましく、2000~19000が更に好ましく、4000~17000が特に好ましい。重量平均分子量が小さくなりすぎると、昇華性染料に対する分散安定化力が低下し、大きくなりすぎると、昇華性染料を分散する能力が低下し、またインクの粘度が高くなりすぎる場合があり好ましくない。前記スチレン-アクリル酸系共重合体の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミッションクロマトグラフ)法で測定する。
また、成分(B)として用いられるスチレン-(メタ)アクリル共重合体のガラス転移温度は45℃~135℃である場合が好ましく、55℃~120℃がさらに好ましく、60~110℃が特に好ましい。
さらに、成分(B)として用いられるスチレン-(メタ)アクリル共重合体の酸価は50~250mgKOH/gである場合が好ましく、100~250mgKOH/gがさらに好ましく、150~250mgKOH/gである場合が特に好ましい。酸価が小さくなりすぎると、水に対する樹脂の溶解性が悪くなり、また昇華性染料に対する分散安定化力が劣る傾向にあり、酸価が大きくなりすぎると、水性媒体との親和性が強くなり、印字後の画像ににじみが発生し易い傾向があり好ましくない。樹脂の酸価は、樹脂1gを中和するのに要するKOHのmg数を表し、JIS-K3054に従って測定する。
【0036】
本発明における成分(B)スチレン-(メタ)アクリル共重合体としては、上記式(2)及び/又は(3)で表される骨格を分子内に有するものが好ましい。上記式(2)におけるn乃至nは1~30の整数を表す。また、上記式(3)におけるm及びmは1 ~43の整数を表す。
【0037】
以上から、好ましい成分(B)のスチレン-(メタ)アクリル共重合体の具体例としては、Joncryl67(重量平均分子量=12,500、酸価=213)、678(重量平均分子量=8,500、酸価=215)、682(重量平均分子量=1,700、酸価=230)、683(重量平均分子量=8,000、酸価=160)、690(重量平均分子量=16,500、酸価=240)等である。
【0038】
本発明のインク用エマルション組成物は、色素の分散時に2種類のスチレン-アクリル共重合体分散剤を使用して作製することもできる。
【0039】
本発明のエマルション組成物は、例えば、以下の方法で製造するのが好ましい。
【0040】
スチレン-アクリル共重合体を水溶性有機溶剤に投入し、温度を90-120℃に昇温して溶解させ、スチレン-アクリル共重合体溶解液を作製する。さらにスチレン-アクリル共重合体を水と懸濁させ、そこへ中和剤を投入し、温度を80-95℃に昇温して中和溶解液を作製する。そうして作製されたスチレン-アクリル共重合体溶解液と中和溶解液を、着色剤と混合・分散することで、着色体を含むスチレン-アクリル共重合体エマルション組成物を製造することができる。
【0041】
また、染料及び/又は顔料を含むスチレン-アクリル共重合体エマルション組成物は、例えば、以下の方法で製造することも好ましい。
スチレン-アクリル共重合体を水溶性有機溶剤に投入し、温度を90-120℃に昇温してスチレン-アクリル共重合体溶解液を作製する。そこへ中和剤及び水を投入して、温度を下げて乳化(エマルション又はマイクロエマルション)液とし、そうして作製されたエマルション液と染料及び/又は顔料を混合・分散することで、当該染料及び/又は顔料を含むスチレン-アクリル共重合体エマルション組成物を製造することができる。
ここで、水溶性有機溶剤としては、例えば、グリセリン(沸点:290℃)、エチレングリコール、プロピレングリコール(沸点:188℃)、ジプロピレングリコール(沸点:230℃)、ブチルカルビトール(沸点:231℃)、メチルトリグリコール、トリエチレングリコール、ブチルトリグリコール、ブチルカルビトールアセテート(沸点:247℃)、ジエチレングリコール、1,5ペンタジオール、1,6ヘキサンジオール、1,2-ヘキサンジオール、メチルジグリコール、トリプロピレングリコール、メタノール(沸点:64℃)、エタノール(沸点:78℃)、1-プロパノール(沸点:97℃)、2-プロパノール(沸点:82℃)、1,2-メトキシエタン(沸点:93℃)、テトラヒドロフラン(沸点:66℃)、p-ジオキサン(沸点:101℃)等が挙げられる。これらの水溶性有機溶剤は1種類を使用しても良く、また複数組み合わせることも出来る。
【0042】
染料及び/又は顔料と混合させる前のインク用エマルション組成物は中和剤によって中和してから水と混合させて作製する為、中和剤を用いる必要がある。
中和剤としては、例えばアルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、脂肪族アミン化合物及びアルコールアミン化合物などが挙げられる。
【0043】
アルカリ金属の水酸化物としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが挙げられる。アルカリ土類金属の水酸化物として、例えば水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化ストロンチウム等が挙げられる。中和剤は、好ましくは、アルカリ金属の水酸化物であり、より好ましくは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムであり、さらに好ましくは、水酸化カリウムである。
【0044】
アルコールアミン化合物としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン及びN-メチルジエタノールアミンが挙げられるが、好ましくは3級アミン類であり、さらに好ましくは、トリエタノールアミンである。
【0045】
脂肪族アミン化合物としては、例えばアンモニア、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン及びトリエチルアミンが挙げられるが、好ましくはアンモニア又はトリエチルアミンである。
【0046】
これらの中和剤は1種類を使用しても良く、また複数組み合わせることも出来る。
【0047】
使用するエマルション液の量は、染料及び/又は顔料に対して質量基準で、10%~200%が好ましく、より好ましくは10%~150%であり、20%~100%が特に好ましい。
【0048】
染料及び/又は顔料をエマルション液と混合し、分散を行う工程において、分散する方法としては、サンドミル(ビーズミル)、ロールミル、ボールミル、ペイントシェーカー、超音波分散機、マイクロフルイダイザー等を用いる方法が挙げられるが、これらの中でもサンドミル(ビーズミル)が好ましい。またサンドミル(ビーズミル)における色材の粉砕においては、径の小さいビーズを使用する、ビーズの充填率を大きくすること等により粉砕効率を高めた条件で処理することが好ましく、更に粉砕処理後に濾過、遠心分離などで素粒子を除去することが好ましい。またインク用エマルション組成物によっては発泡性を有するものもあるので、粉砕効率を高める点で粉砕時の泡立ち性をできるだけ抑えた粉砕条件とするのが好ましく、場合によってはシリコーン系、アセチレンアルコール系等の消泡剤等を、顔料粉砕時に極微量添加使用しても良い。但し、消泡剤には分散・微粒子化を阻害するものもあり、微粒子化や分散後の安定性に影響を及ぼさないものを使用する必要がある。
【0049】
分散化後あるいは濾過等の後処理後、少量の水で分散液を稀釈し、所望の色材濃度に調整できる。
【0050】
本発明のインク用エマルション組成物は、成分(A)の数平均粒子径が10~500nmである場合が好ましい。成分(A)の数平均粒子径が10~500nmの場合、組成物の保存安定性や沈降性が優れる。なお、本発明において、数平均粒子径は、動的光散乱式粒度分布測定装置や小角X線散乱法に従って測定する。
【0051】
本発明のインク用エマルション組成物において、上述した成分(B)の含有率は、成分(A)に対して、5~250質量%の範囲が好ましく、20~150質量%の範囲が更に好ましい。インク用エマルション組成物中の成分(B)の含有率が上記範囲内の場合、組成物の保存安定性や沈降性が優れる。
【0052】
[成分(C)式(1)で表される化合物]
本発明のインク用エマルション組成物が含有する上記式(1)で表される化合物はプロピレングリコール系の化合物である。式(1)中、tは1~5の整数を表し、好ましくは1~3の整数、更に好ましくは1又は2である。具体的には、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールが挙げられる。
【0053】
本発明のインク用エマルション組成物において、成分(C)の含有率は、0.18質量%を超える。成分(C)の含有率が0.18質量%以下では、組成物の保存安定性を十分に向上させることができない。
また、本発明のインク用エマルション組成物において、成分(C)の含有率は、1~60質量%の範囲が好ましく、10~30質量%の範囲が更に好ましい。インク用エマルション組成物中の成分(C)の含有率が上記範囲内の場合、O/W型のエマルション組成を保つことが出来るため、コア-シェル型の色素分散液が作製可能となり、結果として、安定性向上に寄与する。
【0054】
[成分(D)分子内にアミノ基とスルホ基の両置換基を有する化合物]
本発明の成分(D)は、分子内にアミノ基とスルホ基の両置換基を有する化合物である。この化合物は、上記成分(B)のカルボキシ基とイオン的に結合し、末端スルホ基を有するように振る舞い、これによって安定性が向上しているものと考えられる。
成分(D)としては、上記式(4)で表される化合物が好ましい。上記式(4)におけるRは、置換基を有しても良いアルキレン基、置換基を有しても良いアルキリデン基、置換基を有しても良いアリーレン基を表す。
置換基を有しても良いアルキレン基とは、飽和又は不飽和であり、鎖状又は環状の(好ましくはC1-C20)アルキレン基であり、複素原子を有しても良い。例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基、ノルボルニレン基、アダマンチレン基等を挙げることができ、好ましくは(C1-C10)アルキレン基であり、更に好ましくは(C1-C5)アルキレン基であり、特に好ましくは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基である。また、有しても良い置換基としては、例えばハロゲン原子;シアノ基;ヒドロキシ基;カルボキシ基;スルホ基;スルファモイル基;(C1-C4)アルコキシ基;ヒドロキシ基、(C1-C4)アルコキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基で置換された(C1-C4)アルコキシ基;N-アルキルアミノスルホニル基;N-フェニルアミノスルホニル基;ホスホ基;ニトロ基;アシル基;ウレイド基;アシルアミノ基、(C1-C4)アルコキシ基、スルホ基及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基で置換されたアシルアミノ基等で置換された(C1-C6)アルキル基等が挙げられる。
置換基を有しても良いアルキリデン基とは、飽和又は不飽和であり、鎖状又は環状の(好ましくはC1-C20)アルキリデン基であり、複素原子を有しても良い。例えば、エチリデン基、プロピリデン基、ブチリデン基、シクロペンチリデン基、シクロへキシリデン基、ノルボルニリデン基、アダマンチリデン基等を挙げることができ、好ましくは(C1-C10)アルキリデン基であり、更に好ましくは(C1-C5)アルキリデン基であり、特に好ましくは、エチリデン基、プロピリデン基である。なお、有しても良い置換基は、上記アルキレン基と同じである。
置換基を有しても良いアリーレン基とは、(好ましくはC1-C20)アリーレン基であり、複素原子を有しても良い。例えば、フェニレン基、チエニレン基、ピロリレン基等を表すが、例えばナフチレン基、アントラニレン基、フェナントリレン基、キノリレン基の様に2以上の環構造が縮環していても良い。なお、有しても良い置換基は、上記アルキレン基と同じである。
また、R中にはエステル構造(-COO-)、エーテル構造(-O-)、ケト構造(-(C=O)-)を有してもよい。
上記式(4)で表される化合物として、具体的には、タウリン、4-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸、ヒドロキシルアミノスルホン酸、5-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸、ヒドロキシルアミノスルホン酸、6-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸、ヒドロキシルアミノスルホン酸、3-アミノ-2,7-ナフタレンジスルホン酸、2-アミノ-1,4-ベンゼンスルホン酸、4-アミノベンゼンスルホン酸等が挙げられる。
【0055】
本発明のインク用エマルション組成物において、成分(D)の含有率は、0.1~40質量%の範囲が好ましく、1~20質量%の範囲が更に好ましい。インク用エマルション組成物中の成分(D)の含有率が上記範囲内の場合、スルホ基の影響による溶媒和によってインク用エマルション組成物の安定性が向上する。
【0056】
[成分(E)水溶性有機溶剤]
本発明のインク用エマルション組成物は、さらに(E)水溶性有機溶剤を含有しても良い。水溶性有機溶剤の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等の(C1~C4)アルコール;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド;2-ピロリドン、ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルピロリジン-2-オン等のラクタム;1,3-ジメチルイミダゾリジン-2-オン、1,3-ジメチルヘキサヒドロピリミド-2-オン等の環式尿素類; アセトン、メチルエチルケトン、2-メチル-2-ヒドロキシペンタン-4-オン等のケトン又はケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,6-ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール(式(1)で表わされ、tが5以下のものを除く)、チオジグリコール、ジチオジグリコール等のC2-C6アルキレン単位を有するモノ、オリゴ、若しくはポリアルキレングリコール又はチオグリコール;トリメチロールプロパン、グリセリン、ヘキサン-1,2,6-トリオール等のポリオール(好ましくはトリオール);エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールの(C1~C4)アルキルエーテル;γ-ブチロラクトン;ジメチルスルホキシド;等が挙げられる。これらの有機溶剤は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
ここで、「成分(E)水溶性有機溶剤」は、「成分(C)式(1)で表される化合物」以外の水溶性有機溶剤を指す。
なお、上記の水溶性有機溶剤にはトリメチロールプロパン等のように、常温で固体の物質も含まれているが、これらは固体であっても水溶性を示し、水に溶解させた場合には水溶性有機溶剤と同じ目的で使用することができるため、便宜上、本明細書においては水溶性有機溶剤の範疇に記載する。
成分(E)は、分子内にヒドロキシ基を1以上有する水溶性有機溶剤である場合が好ましい。
本発明のインク用エマルション組成物において、成分(E)の含有率は、1~60質量%の範囲が好ましく、10~30質量%の範囲が更に好ましい。インク用エマルション組成物中の成分(E)の含有率が上記範囲内の場合、O/W型のエマルション組成を保つことが出来るため、コア-シェル型の色素分散液が作製可能となり、結果として、安定性向上に寄与する。
【0057】
[成分(F)消泡剤]
上記インク用エマルション組成物に、さらに(F)消泡剤を加えたインク用分散液組成
物とすることもできる。
消泡剤は、溶液の泡を消したり、あるいは起泡を抑制する作用をもつ物質であり、例えば揮発性が小さく拡散力の大きい油状物質( 高級アルコール等) やノニオン界面活性剤が挙げられる。
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系;2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール等のアセチレングリコール(アルコール)系;日信化学社製、商品名サーフィノール104、105、82、465、オルフィンSTG等;ポリグリコールエーテル系(例えばSIGMA-ALDRICH社製のTergitol15-S-7等);等が挙げられる。
このうち好ましくは、アセチレングリコール系消泡剤であり、更に好ましくは、日信化学社製、商品名サーフィノール104、105、82、465である。
本発明のインク用分散液組成物において、成分(F)の含有率は、0.01~0.5質量%の範囲が好ましく、0.05~0.3質量%の範囲が更に好ましい。インク用分散液組成物中の成分(F)の含有率が上記範囲内の場合、分散化工程時に発生する泡の消泡効果がある為、分散化が効率的に進み、かつ分散安定性へ悪影響を及ぼさない。
【0058】
[成分(G)防腐剤]
上記インク用エマルション組成物に、さらに(G)防腐剤を加えたインク用分散液組成物とすることもできる。
防腐剤の例としては、例えば有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリールスルホン系、ヨードプロパギル系、ハロアルキルチオ系、ニトリル系、ピリジン系、8-オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系又は無機塩系等の化合物が挙げられる。有機ハロゲン系化合物の具体例としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられ、ピリジンオキシド系化合物の具体例としては、例えば2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウムが挙げられ、イソチアゾリン系化合物としては、例えば1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンマグネシウムクロライド、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンカルシウムクロライド、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンカルシウムクロライド等が挙げられる。その他の防腐剤の具体例として、無水酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム又は安息香酸ナトリウム、アーチケミカル社製、商品名プロクセルRTMGXL(S)やプロクセルRTMXL-2(S)等が挙げられる。
本発明のインク用分散液組成物において、成分(G)の含有率は、0.01~0.5質量%の範囲が好ましく、0.1~0.3質量%の範囲が更に好ましい。インク用分散液組成物中の成分(G)の含有率が上記範囲内の場合、防菌作用があり、増粘などを抑えることが出来る。
【0059】
[その他の成分について]
本発明のインク用エマルション組成物は、成分(A)乃至(G)以外に、防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、水溶性高分子化合物、色素溶解剤、酸化防止剤、界面活性剤等を含有しても良い。
【0060】
(防黴剤)
防黴剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン-1-オキシド、p-ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン及びその塩等が挙げられる。防黴剤を用いる場合は、エマルション組成物中に0.02~1.00質量%使用するのが好ましい。
【0061】
(pH調整剤)
pH調整剤としては、調製されるインクに悪影響を及ぼさずに、インクのpHをおおよそ5~11の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。その具体例としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウム(アンモニア水);、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;酢酸カリウム等の有機酸のアルカリ金属塩;ケイ酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム等の無機塩基等が挙げられる。
【0062】
(キレート試薬)
キレート試薬の具体例としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0063】
(防錆剤)
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグルコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール又はジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等が挙げられる。
【0064】
(水溶性紫外線吸収剤)
水溶性紫外線吸収剤としては、例えば、スルホン化したベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾ-ル系化合物、サリチル酸系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物が挙げられる。
【0065】
(水溶性高分子化合物)
水溶性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン又はポリイミン等が挙げられる。
【0066】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、例えば、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。前記有機系の褪色防止剤の例としては、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、複素環類等が挙げられる。
【0067】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等の公知の界面活性剤が挙げられる。
アニオン界面活性剤としては、アルキルスルホン酸塩、アルキルカルボン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N-アシルアミノ酸及びその塩、N-アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。
本発明においては、アニオン系界面活性剤を含有する場合が特に好ましい。その中でも、特にスルホ琥珀酸が好ましく、具体的にはジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等である。
【0068】
カチオン界面活性剤としては、2-ビニルピリジン誘導体、ポリ4-ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。
【0069】
両性界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、イミダゾリン誘導体等が挙げられる。
【0070】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系;2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール等のアセチレングリコール(アルコール)系;日信化学社製、商品名サーフィノール104、105、82、465、オルフィンSTG等;ポリグリコールエーテル系(例えばSIGMA-ALDRICH社製のTergitol15-S-7等);等が挙げられる。
上記のインク調製剤は、それぞれ単独又は混合して用いられる。
【0071】
前記シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。市販品として入手できるものの具体例としては、例えば、いずれもビックケミー社製の、BYK-347(ポリエーテル変性シロキサン);BYK-345、BYK-348(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン);等が挙げられる。
【0072】
前記フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸系化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物等が挙げられる。市販品として入手できるものの具体例としては、例えば、ZonylTBS、FSP、FSA、FSN-100、FSN、FSO-100、FSO、FS-300、CapstoneFS-30、FS-31(DuPont社製);PF-151N、PF-154N(オムノバ社製);等が挙げられる。
【0073】
本発明のインク用エマルション液は、STEM像上の各粒子に同心の外接円と内接円を適用した時、該内接円の直径が5nm以上、300nm未満であり、かつ該同心の外接円と内接円の半径の差で定義される真円度が20nm以下である粒子を該エマルション組成物中に過半数以上を含む場合が好ましい。
【0074】
本発明のインク用エマルション組成物は、保存安定性に極めて優れる。従って、水性インク、特にインクジェット用水性インクとすると、優れた吐出安定性も実現できる。
水性インクとする場合上記染料及び/又は顔料が、水性インク中へ色材純分として0.3~10質量量%の範囲で含有するのが好ましい。
また、上記防腐剤、防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、水溶性高分子化合物、色素溶解剤、酸化防止剤、界面活性剤等を添加して水性インク化しても良い。
【0075】
本発明の水性インクのpHとしては、保存安定性を向上させる目的で、pH5~11が好ましく、pH7~10がより好ましい。本発明のインク組成物のpH、表面張力は後記するようなpH調整剤、界面活性剤で適宜調整することが可能である。
【0076】
[成分(H)式(5)で表される化合物]
本発明の水性インクは、更に(H)上記式(5)で表される化合物を含有してもよい。
上記式(5)中、sは平均重合度であり、1~5を表す。この平均重合度は、小数点以下1桁目を四捨五入した数値で記載する。式(5)で表される化合物の具体例としては、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン等の化合物、及びこれらの混合物が挙げられる。ヘキサグリセリン及びヘプタグリセリンの重合度は、それぞれ6及び7であるが、これらを単独で使用せず、より小さい重合度のものとの混合物として使用するとき、その混合物の平均重合度が上記の範囲であれば、本発明の水性インクに該混合物を含有しても良い。また、例えばグリセリンが50%、トリグリセリンが50%の混合物であれば、平均重合度sは2となるが、グリセリンの含有量が大きいと、昇華転写時に煙等が発生し、転写染色における作業環境の視野悪化等の問題が生じる。このため、式(5)で表される化合物中の、グリセリンの含有量は、ガスクロマトグラフ法基準(ピークの面積比)で通常10%以下、好ましくは8%以下であり、下限は分析機器の検出限界以下、すなわち0%で良い。式(5)で表される化合物の市販品としては、例えば、いずれも阪本薬品工業株式会社製、商品名グリセリン(平均重合度s=1)、商品名ジグリセリンS(平均重合度s=2)、商品名ポリグリセリン#310(s=4)等が挙げられる。
本発明の水性インクにおいて、成分(H)の含有率は、5~60質量%の範囲が好ましく、10~40質量%の範囲が更に好ましい。水性インク中の成分(H)の含有率が上記範囲内の場合、インクの保存安定性に優れ、昇華転写時での煙発生が少ない。
【0077】
本発明の水性インクは、各種分野において使用することができるが、筆記用水性インク、水性印刷インク、情報記録インク、捺染等に好適であり、インクジェット記録用インクとして用いることが特に好ましい。
【実施例0078】
以下実施例により本発明を更に詳細に説明するが、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。実施例において部は質量部を、%は質量%をそれぞれ意味する。
【0079】
[エマルション液1]
48%水酸化ナトリウム(3.7部)、イオン交換水(96.3部)、プロピレングリコール(60部)へJoncryl 683(BASF社製、式(2)の骨格を分子内に有するスチレン-(メタ)アクリル共重合体、重量平均分子量=8,000、ガラス転移点=75℃、酸価=160mgKOH/g)40部を投入し、90―120℃に昇温して5時間撹拌することにより、Joncryl 683のエマルション液1を得た。
【0080】
[エマルション液2]
48%水酸化ナトリウム(4.1部)、イオン交換水(95.9部)、プロピレングリコール(60部)へJoncryl 690(BASF社製、式(3)の骨格を分子内に有するスチレン-(メタ)アクリル共重合体、重量平均分子量=16,500、ガラス転移点=102℃、酸価=240mgKOH/g)40部を投入し、90―120℃に昇温して5時間撹拌することにより、Joncryl 690のエマルション液2を得た。
【0081】
[エマルション液3]
Joncryl 690(BASF社製、式(3)の骨格を分子内に有するスチレン-(メタ)アクリル共重合体、重量平均分子量=16,500、ガラス転移点=102℃、酸価=240mgKOH/g)40部をプロピレングリコール(60部)へ投入し、90―120℃に昇温して5時間撹拌することにより、Joncryl 690の40%溶解液を得た。その後70―90℃に温度を下げて、そこへ48%水酸化ナトリウム(4.1部)を投入し、1時間撹拌後イオン交換水(180部)、サーフィノール104(日信化学工業株式会社製)0.1部を投入し、70―95℃に保って1 時間撹拌することにより、Joncryl 690のエマルション液(A)を得た。
得られたエマルション液(A)を0.2mm径ガラスビーズを用いてサンドミルにて、冷却下、約15時間分散化処理を行った。分散処理後、ガラス繊維濾紙GC-50(東洋濾紙株式会社製、フィルターの孔径0.5μm)で濾過し、粒子サイズの大きい成分を除去したJoncryl 690のエマルション液3を得た。
【0082】
[エマルション液4]
48%水酸化ナトリウム(3.1部)、イオン交換水(96.9部)、プロピレングリコール(60部)へJoncryl 678(BASF社製、式(2)の骨格を分子内に有するスチレン-(メタ)アクリル共重合体、重量平均分子量=8,500、ガラス転移点=85℃、酸価=215mgKOH/g)40部を投入し、90―120℃に昇温して5時間撹拌することにより、Joncryl 678のエマルション液4を得た。
【0083】
[エマルション液5]
48%水酸化カリウム(4.3部)、イオン交換水(95.7部)、プロピレングリコール(60部)へJoncryl 678(BASF社製、式(2)の骨格を分子内に有するスチレン-(メタ)アクリル共重合体、重量平均分子量=8,500、ガラス転移点=85℃、酸価=215mgKOH/g)40部を投入し、90―120℃に昇温して5時間撹拌することにより、Joncryl 678のエマルション液5を得た。
【0084】
[エマルション液6]
48%水酸化リチウム(1.9部)、イオン交換水(98.1部)、プロピレングリコール(60部)へJoncryl 678(BASF社製、式(2)の骨格を分子内に有するスチレン-(メタ)アクリル共重合体、重量平均分子量=8,500、ガラス転移点=85℃、酸価=215mgKOH/g)40部を投入し、90―120℃に昇温して5時間撹拌することにより、Joncryl 678のエマルション液6を得た。
【0085】
[水溶液1]
Joncryl 690(BASF社製、式(3)の骨格を分子内に有するスチレン-(メタ)アクリル共重合体、重量平均分子量=16,500、ガラス転移点=102℃、酸価=240mgKOH/g)40部、48%水酸化ナトリウム(6.8部)、イオン交換水(153.0部)、プロクセルGXL(アーチケミカル社製)0.1部、サーフィノール104(日信化学工業株式会社製)0.1部を混合し、70―95℃に昇温して10時間撹拌することにより、Joncryl 690の20%水溶液1を得た。
【0086】
[実施例1~26、比較例1~6]インク用分散液組成物の調製
下記表1乃至6に記載の各成分の混合物に0.2mm径ガラスビーズを加え、サンドミルにて水冷下、約15時間分散処理を行った。得られた液にイオン交換水を加え、液の総質量中における染料の含有量が15%となるように調製した。得られた液をガラス繊維ろ紙GC-50(ADVANTEC社製)で濾過し、実施例、比較例のインク用分散液組成物を得た。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
【表5】
【0092】
【表6】
【0093】
なお、表中の数字は「部数」であり、略号は、以下の通りである。
Or25:C.I.ディスパースオレンジ25
R60:C.I.ディスパースレッド60
B360:C.I.ディスパースブルー360
B359:C.I.ディスパースブルー359
Y54:C.I.ディスパースイエロー54
B77:C.I.ディスパースブルー77
10%SF104PG:サーフィノール104をプロピレングリコールで10%濃度に希釈したもの
サーフィノール104:アセチレングリコール界面活性剤(エアープロダクツジャパン(株)社製)、消泡剤
プロクセルGXL:防腐剤(ロンザ社製)
【0094】
[評価結果]
実施例1~26、比較例1~6について、以下試験を行い表7乃至12にまとめた。
[粒径変化試験・沈降性の確認]
初期及び60℃で1週間保存した各インク用分散液組成物中の着色剤(成分(A))のメディアン径(D50、数平均粒子径)をMICRO TRAC UPA EX150(マイクロトラックベル株式会社製)を用いて測定した。
【0095】
また、60℃で1週間保存した各インク用分散液組成物について、沈降物の有無を目視で確認し、以下基準で評価を行った。
○:沈降が確認されない
△:沈降が僅かに確認される
×:沈降が相当程度確認される
【0096】
なお、STEM(走査透過型電子顕微鏡)で観察したところ、実施例のインク用分散液組成物中の染料とスチレン-(メタ)アクリル共重合体は、コア層が染料であり、シェル層がスチレン-(メタ)アクリル共重合体である、コア-シェル構造を形成していたのに対し、比較例のインク用分散液組成物中の染料とスチレン-(メタ)アクリル共重合体は、コア-シェル構造を形成していなかった。
【0097】
【表7】
【0098】
【表8】
【0099】
【表9】
【0100】
【表10】
【0101】
【表11】
【0102】
【表12】
【0103】
上記結果から、実施例1~26はいずれも粒度に大きな変化がなく、保存安定性が非常に優れる水準であった。一方、比較例1~6はいずれも粒子径の増加が見られた。
以上より、本発明の実施例のインクはいずれも分散安定性に優れている事がわかった。一方、比較例はいずれも分散安定性に劣っていた。
【0104】
[実施例27~33、比較例7~10]インク組成物の調製
上記の実施例、比較例で調製したインク用分散液組成物に、更に表13~14に記載の成分を混合して、インク組成物を得た。
【0105】
【表13】
【0106】
【表14】
【0107】
なお、表中の数字は「部数」であり、略号は、以下の通りである。
ジグリセリンS:式(5)で表され、sが2である化合物、阪本薬品工業株式会社製、グリセリン含有量0.5%
サーフィノール420:界面活性剤、日信化学工業株式会社製
【0108】
[評価結果]
実施例27~33、比較例7~10について、上記の方法で、沈降性を評価し、表15~16にまとめた。
【0109】
【表15】
【0110】
【表16】
【0111】
上記結果から、実施例はいずれも沈降は確認されず、粒度に大きな変化はなく、保存安定性は非常に優れる水準であった。一方、比較例はいずれも沈降が確認され、更に比較例8では分散液の分離が確認された。
以上より、本発明の実施例のインクはいずれも分散安定性に優れている事がわかった。一方、比較例はいずれも分散安定性に劣っていた。
【0112】
[エマルション液7]
48%水酸化ナトリウム(3.1部)、イオン交換水(96.9部)、ジプロピレングリコール(式(1)で表され、tが2の化合物)(60部)へJoncryl678(BASF社製、式(2)の骨格を分子内に有するスチレン-(メタ)アクリル共重合体、重量平均分子量=8,500、ガラス転移点=85℃、酸価=215mgKOH/g)40部を投入し、90―120℃に昇温して5時間撹拌することにより、Joncryl678のエマルション液7を得た。
【0113】
[実施例34]インク用分散液組成物の調製
下記表17に記載の各成分の混合物に0.2mm径ガラスビーズを加え、サンドミルにて水冷下、約15時間分散処理を行った。得られた液にイオン交換水を加え、液の総質量中における染料の含有量が15%となるように調製した。得られた液をガラス繊維ろ紙GC-50(ADVANTEC社製)で濾過し、実施例のインク用分散液組成物を得た。
【0114】
【表17】
【0115】
なお、表中の数字は「部数」である。
R60:C.I.ディスパースレッド60
10%SF104PG:サーフィノール104をプロピレングリコールで10%濃度に希釈したもの
サーフィノール104:アセチレングリコール界面活性剤(エアープロダクツジャパン(株)社製)、消泡剤
プロクセルGXL:防腐剤(ロンザ社製)
【0116】
[評価結果]
実施例34について、上記の方法で、沈降性を評価し、表18にまとめた。
【0117】
【表18】
【0118】
上記結果から、実施例34も沈降は確認されず、粒度に大きな変化はなく、保存安定性は非常に優れる水準であった。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明のインク用エマルション組成物及び水性インク組成物は、保存安定性が高く、特にインクジェット用水性インクにとして非常に有用である。