(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022007091
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】嚥下運動計測装置及び嚥下運動計測方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20220105BHJP
【FI】
A61B5/11 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020109812
(22)【出願日】2020-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】別所 侑亮
(72)【発明者】
【氏名】太田 雅史
(72)【発明者】
【氏名】才藤 栄一
(72)【発明者】
【氏名】田辺 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】稲本 陽子
(72)【発明者】
【氏名】柴田 斉子
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VB09
4C038VB31
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】 被験者の性別や年齢を問わず、被験者の嚥下運動を計測することができる嚥下運動計測装置を提供する。
【解決手段】 嚥下時に生じる喉頭の運動に基づいて被験者の嚥下運動を計測する装置であって、被験者の喉頭部の体表に接触させるシート状のセンサと、前記センサの一部を被験者の喉頭部の体表に押し付ける押し当て具と、前記センサの検出部の変形量を計測する計測器とを含み、前記シート状のセンサは、被験者の喉頭の運動に追従して面方向に変形可能な薄層形状の検出部と、当該センサの面方向内の一方向において前記検出部の両側に位置する押圧領域とを有し、前記押し当て具は、前記押圧領域を被験者の喉頭部の体表に押し付けるための第1接触部と、被験者の喉頭部の体表以外の部分で当該被験者と接触する第2接触部とを有する、嚥下運動計測装置。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
嚥下時に生じる喉頭の運動に基づいて被験者の嚥下運動を計測する装置であって、
被験者の喉頭部の体表に接触させるシート状のセンサと、前記センサの一部を被験者の喉頭部の体表に押し付ける押し当て具と、前記センサの検出部の変形量を計測する計測器とを含み、
前記シート状のセンサは、被験者の喉頭の運動に追従して面方向に変形可能な薄層形状の検出部と、当該センサの面方向内の一方向において前記検出部の両側に位置する押圧領域とを有し、
前記押し当て具は、前記押圧領域を被験者の喉頭部の体表に押し付けるための第1接触部と、被験者の喉頭部の体表以外の部分で当該被験者と接触する第2接触部とを有する、嚥下運動計測装置。
【請求項2】
前記センサは、シート状の誘電層と、前記誘電層のおもて面及び裏面のそれぞれに前記誘電層を挟んで少なくとも一部が対向するように形成された第1電極層及び第2電極層とを有し、前記第1電極層と前記第2電極層との対向する部分を検出部とする静電容量型センサである、請求項1に記載の嚥下運動計測装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の嚥下運動計測装置を用いた嚥下運動計測方法であって、
(1)前記センサの前記面方向内の一方向がほぼ水平方向となるように、当該センサを被験者の喉頭部の体表に接触させ、
(2)前記押し当て具の第1接触部によって、前記センサの前記押圧領域を被験者の喉頭部の体表に押し付けるとともに、前記押し当て具の第2接触部を、被験者の喉頭部の体表以外の部分に接触させ、
(3)前記(1)及び(2)の状態を維持しながら、被験者の嚥下運動によって生じる甲状軟骨の運動による当該センサの検出部の変形量を計測し、計測結果に基づいて被験者の嚥下運動を計測する、嚥下運動計測方法。
【請求項4】
前記押し当て具の第2接触部と被験者との接触部分は、当該被験者の鎖骨及びその近傍部分の体表である、請求項3に記載の嚥下運動計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嚥下運動計測方法と、この計測方法に適した嚥下運動計測装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や福祉の現場においては、患者の嚥下機能を評価するために嚥下運動を計測することが求められている。
被験者の嚥下運動を計測する手法として、特許文献1はシート状の静電容量センサを用いた方法を提案している。
【0003】
具体的には、被験者の喉頭部の体表にシート状の静電容量型センサを接触させ、被験者が食塊を嚥下する際に生じる喉頭の運動による上記静電容量型センサの静電容量変化を計測し、計測結果に基づいて被験者の嚥下運動を計測する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された嚥下運動の計測方法は、被験者の性別や年齢によっては、嚥下運動を計測しにくいことがあった。
特許文献1の計測方法は、体表の喉頭隆起部に静電容量型センサを接触させ、嚥下運動時に喉頭隆起(甲状軟骨)が上下動することによって生じる体表の変形を静電容量型センサで測定して嚥下運動を計測している。そのため、甲状軟骨に起因する喉頭部の体表の隆起が乏しい女性や小児が被験者である場合には、嚥下運動を確実に計測することが困難であった。
また、特許文献1の計測方法は、被験者の体表の喉頭隆起部に静電容量型センサを接触させて計測を行っているため、計測時に、体表の変形に伴ってセンサの接触位置にズレが生じることがあり、計測時に上記接触位置にズレが生じると測定結果の正確性が損なわれることがあった。
本発明者らは、このような状況のもと、被験者の性別や年齢を問わず、嚥下運動を確実に計測することができる手法を検討し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の嚥下運動計測装置は、
嚥下時に生じる喉頭の運動に基づいて被験者の嚥下運動を計測する装置であって、
被験者の喉頭部の体表に接触させるシート状のセンサと、上記センサの一部を被験者の喉頭部の体表に押し付ける押し当て具と、上記センサの検出部の変形量を計測する計測器とを含み、
上記シート状のセンサは、被験者の喉頭の運動に追従して面方向に変形可能な薄層形状の検出部と、当該センサの面方向内の一方向において上記検出部の両側に位置する押圧領域とを有し、
上記押し当て具は、上記押圧領域を被験者の喉頭部の体表に押し付けるための第1接触部と、被験者の喉頭部の体表以外の部分で当該被験者と接触する第2接触部とを有する。
【0007】
本発明の嚥下運動計測装置によれば、シート状のセンサを被験者の喉頭部の体表に接触させた後、上記センサが有する押圧領域を上記押し当て具によって被験者に押し付けた状態で計測を行うことができる。そのため、被験者が甲状軟骨に起因する喉頭部の体表の隆起が乏しい女性や小児であっても、嚥下運動を確実に計測することができる。
更に、上記嚥下運動計測装置によれば、押し当て具が有する第2接触部を、被験者の喉頭部の体表以外の部分に接触させ、この状態で計測を行うことができるため、上記センサの被験者の喉頭部の体表への押し付け状態を安定させて、より正確な計測を行うことができる。
【0008】
上記嚥下運動計測装置において、
上記センサは、シート状の誘電層と、上記誘電層のおもて面及び裏面のそれぞれに上記誘電層を挟んで少なくとも一部が対向するように形成された第1電極層及び第2電極層とを有し、上記第1電極層と上記第2電極層との対向する部分を検出部とする静電容量型センサである、ことが好ましい。
このような構成を備えた静電容量型センサは、嚥下運動によって生じる被験者の喉頭部の体表の動きを、被験者の嚥下運動を阻害することなく測定するのに適している。また、上記静電容量型センサは、出力ドリフトが少ない点でも上記嚥下運動計測装置が備えるセンサとして好適である。
【0009】
本発明の嚥下運動計測方法は、
上記嚥下運動計測装置を用いた嚥下運動計測方法であって、
(1)上記センサの上記面方向内の一方向がほぼ水平方向となるように、当該センサを被験者の喉頭部の体表に接触させ、
(2)上記押し当て具の第1接触部によって、上記センサの上記押圧領域を被験者の喉頭部の体表に押し付けるとともに、上記押し当て具の第2接触部を、被験者の喉頭部の体表以外の部分に接触させ、
(3)上記(1)及び(2)の状態を維持しながら、被験者の嚥下運動によって生じる甲状軟骨の運動による当該センサの検出部の変形量を計測し、計測結果に基づいて被験者の嚥下運動を計測する。
【0010】
本発明の嚥下運動計測方法によれば、被験者の喉頭部の体表にセンサを所定の向きで接触させ、上記センサの押圧領域を被験者の喉頭部の体表に押し付けながら計測を行う。これによって、被験者の喉頭部の体表に甲状軟骨の存在による皮膚の隆起が表れやすくなり、甲状軟骨に起因する喉頭部の体表の隆起が乏しい女性や小児が被験者であっても、嚥下運動を確実に計測することができる。
更に、上記嚥下運動計測方法では、上記押し当て具の第2接触部を、被験者の喉頭部の体表以外の部分に接触させた状態で計測を行う。そのため、上記センサの被験者の喉頭部の体表への押し付け状態が安定し、より正確な計測を行うことができる。
【0011】
上記嚥下運動計測方法において、
上記押し当て具の第2接触部と被験者との接触部分は、当該被験者の鎖骨及びその近傍部分の体表である、ことが好ましい。
被験者が楽な姿勢を維持したまま、被験者に不快感を与えることなく、容易にセンサの押し付け状態を安定させるのに適している。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被験者の性別や年齢を問わず、被験者の嚥下運動を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)は、第1実施形態に係る嚥下運動計測装置が備える静電容量型センサの一例を示す斜視図である。(b)は、
図1(a)に示した静電容量型センサの裏面図である。
【
図2】(a)は、
図1に示した静電容量型センサに含まれるセンサ素子の一例を示す斜視図である。(b)は、
図2(a)のA-A線断面図である。
【
図3】第1実施形態に係る嚥下運動計測装置が備える押し当て具を示す斜視図である。
【
図4】(a)及び(b)は、第1実施形態に係る嚥下運動計測装置を用いて被験者の嚥下運動を計測する方法を説明するための図である。
【
図5】(a)は、第2実施形態に係る嚥下運動計測装置が有するセンサ素子を示す斜視図である。(b)は、
図5(a)のB-B線断面図である。
【
図6】第3実施形態に係る嚥下運動計測装置を模式的に示す図である。
【
図7】
図6に示した嚥下運動計測装置が備える静電容量型センサの一例を示す図であり、(a)は正面図、(b)は裏面図である。
【
図8】(a)は、
図7に示した静電容量型センサに含まれるセンサ素子の一例を示す斜視図である。(b)は、
図8(a)のC-C線断面図である。
【
図9】
図6に示した嚥下運動計測装置を用いて被験者の嚥下運動を計測する方法を説明するための図である。
【
図10】実施例における計測結果を示す図であり、(a)には「固定部との接触有り、1回目」の計測結果を示し、(b)には「固定部との接触無し、1回目」の計測結果を示す。
【
図11】実施例における計測結果を示す図であり、(a)には「固定部との接触有り、2回目」の計測結果を示し、(b)には「固定部との接触無し、2回目」の計測結果を示す。
【
図12】実施例における評価結果をまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、
図1~9は、本発明の実施形態の把握を容易にするための図であり、各部材の寸法比率は、必ずしも実際の寸法比率を正確に反映したものではない。
【0015】
(第1実施形態)
本実施形態に係る嚥下運動計測装置は、被験者の喉頭部の体表に接触させる静電容量型センサと、上記静電容量型センサの一部を被験者の喉頭部の体表に押し付ける押し当て具と、上記静電容量型センサにおける静電容量の変化を計測する計測器とを備え、上記静電容量型センサと上記押し当て具とが、別々の部材として構成されている装置である。
【0016】
図1(a)は、本実施形態に係る嚥下運動計測装置が備える静電容量型センサの一例を示す斜視図である。
図1(b)は、
図1(a)に示した静電容量型センサの裏面図である。
図2(a)は、
図1に示した静電容量型センサに含まれるセンサ素子の一例を示す斜視図である。
図2(b)は、
図2(a)のA-A線断面図である。
図3は、本実施形態に係る嚥下運動計測装置が備える押し当て具を示す斜視図である。
図4(a)及び(b)は、本実施形態に係る嚥下運動計測装置を用いて被験者の嚥下運動を計測する方法を説明するための図である。
【0017】
本実施形態の嚥下運動計測装置は、
図1に示す静電容量型センサ2と、
図3に示す押し当て具30と、静電容量型センサ2と電気的に接続された計測器(図示せず)と、計測器で取得したデータを表示する表示器(図示せず)とを備える。
【0018】
静電容量型センサ2は、
図1に示すように、2つのセンサ本体20(20A、20B)と、センサ本体20A、20Bを所定の離間距離を有する状態で保持する保持部材23、24とを備える。更に、静電容量型センサ2は、片面に静電容量型センサ2を被験者に装着するための粘着層25を備える。静電容量型センサ2はシート状を有し、その一部は可逆的に変形可能である。
センサ本体20は、センサ素子10と、センサ素子10の両面に積層された絶縁素材からなる被覆部材21a、21bとを有する。
【0019】
センサ素子10は、
図2(a)及び
図2(b)に示すように、誘電層、電極層、電極接続部などを備えた積層体である。
センサ素子10は、帯状を有し、長手方向(図中、左右方向)に伸縮可能に構成されている。
センサ素子10は、伸縮性を有するシート状の誘電層11と、誘電層11のおもて面に形成された第1電極層12Aと、誘電層11の裏面に形成された第2電極層12Bと、第1電極層12Aに連結された上記長手方向に延びる第1配線13Aと、第2電極層12Bに連結された上記長手方向に延びる第2配線13Bとを備える。
誘電層11は、ウレタンゴム等のエラストマーを含むエラストマー組成物からなる。第1電極層12A、第2電極層12B、第1配線13A及び第2配線13Bは、いずれも、例えば、カーボンナノチューブ等の導電材料を含む導電性組成物からなる。
【0020】
センサ素子10は、非伸縮性の樹脂シート17の上面に銅箔からなる2つの電極接続部16A、16Bが形成されたシート状の接続部材18を備えている。センサ素子10では、第1配線13Aと電極接続部16A、及び、第2配線13Bと電極接続部16Bがそれぞれ導電性接着剤14A、14Bを介して接続されている。
誘電層11の表側及び裏側のそれぞれには、第1電極層12A及び第2電極層12Bを覆うように表側保護層15A及び裏側保護層15Bが形成されている。電極接続部16A、16Bのそれぞれには、計測器と接続するためのリード線22が半田付けされている。更に、リード線22の各電極接続部16A、16Bの反対側の端部には接続端子29(
図1(a)参照)が設けられている。
【0021】
第1電極層12Aと第2電極層12Bとは、同一の平面視形状を有しており、誘電層11を挟んで第1電極層12Aと第2電極層12Bとは全体が対向している。センサ素子10では、第1電極層12Aと第2電極層12Bとの対向した部分が検出部19となる。
上記センサ素子において、第1電極層と第2電極層とは、必ずしも誘電層を挟んでその全体が対向している必要はなく、少なくともその一部が対向していればよい。
【0022】
センサ素子10において、誘電層11は長手方向(図中、左右方向)に伸縮可能であり、更に、誘電層11が変形した際には、その変形に追従して第1電極層12A及び第2電極層12B、並びに、表側保護層15A及び裏側保護層15Bも変形することができる。
そのため、センサ素子10では、検出部19の静電容量が誘電層11の変形量(電極層の面積変化)と相関をもって変化する。
よって、上記検出部の静電容量の変化を検出することで、被験者の甲状軟骨の移動によるセンサ素子10の変形量を検出することができる。
また、センサ素子10において、平面視した際に樹脂シート17と重なる部分は、上記長手方向(センサ素子10の面方向)に実質的に伸縮することができない。
【0023】
なお、センサ素子10は、裏面側であって、長手方向の一端側(
図2(a)中、左右方向の右側)にのみ非伸縮性の部材を備えているが、本実施形態に係るセンサ素子は、センサ素子の裏面側であって、長手方向の他端側(
図2(a)中、左右方向の左側)にも非伸縮性の部材(例えば、樹脂シート)を備えていてもよい。この場合、長手方向他端側の非伸縮性部材は、センサ素子の厚さ方向で、検出部と重ならない位置に設けられる。
【0024】
図1に戻って、センサ素子10の両面には、伸縮性の布生地からなる被覆部材21(21a、21b)が設けられている。被覆部材21は、長手方向の長さがセンサ素子10の長手方向の長さよりも長い2枚の伸縮性布生地からなる。センサ素子10は、この2枚の布生地同士の間に挟み込まれている。被覆部材21を設けることによりセンサ素子10を保護することができる。
なお、本発明の実施形態において、被覆部材21はセンサ素子10の片面側のみ(表側のみ、又は、裏側のみ)に設けられていてもよい。また、本発明の実施形態では、被覆部材21が設けられておらず、センサ素子10の裏側保護層15B及び表側保護層15Aが露出していても良い。
【0025】
静電容量型センサ2は、2つのセンサ本体20A、20Bを備えている。
センサ本体20A、20Bのそれぞれは、長手方向両端部が保持部材23、24で固定されている。
保持部材23は、布生地からなる2枚の非伸縮性部材23a、23bで構成される。センサ本体20A、20Bのそれぞれの一方の端部は、2枚の非伸縮性部材23a、23bの間に挟み込まれて固定されている。
保持部材24は、保持部材23と同様、非伸縮性部材24a、24bで構成されている。センサ本体20A、20Bのそれぞれの他方の端部は、2枚の非伸縮性部材24a、24bの間に挟み込まれて固定されている。
保持部材23、24はいずれもセンサ本体20A、20Bの厚さ方向において、センサ本体20A、20Bのそれぞれが有するセンサ素子10の検出部19と重ならない位置に設けられている。
従って、静電容量型センサ2では、センサ本体20の長手方向(
図1(b)中、左右方向)において、センサ素子10の検出部19の両側に押圧領域となる保持部材23、24が設けられている。
【0026】
本実施形態の嚥下運動計測装置が備える押し当て具30は、
図3に示すように、被験者本人や計測者等が把持するための把持部33と、把持部33の先端側に設けられた二股部31と、把持部33から二股部31とは異なる方向に延びるT字状の固定部34とを備えている。
二股部31は、静電容量型センサ2の保持部材23、24を被験者の喉頭部の体表に押し付けるために設けられており、先端側が分岐した形状を有し、それぞれの先端には静電容量型センサ2を被験者に押し付けるための押付け片32A、32Bを備えている。
固定部34は、嚥下運動を計測する際に、押し当て具30による静電容量型センサ2の押し付け状態を安定させるために設けられており、被験者に接触させて押し当て具30を安定させるための接触片34Aと、接触片34Aと把持部33とを連結するための部材であって、接触片34A側と反対側の端部が把持部33に固定された連結片34Bとを有する。ここで、連結片34Bは、把持部33とのなす角度が調整可能に構成されている。そのため、押し当て具30は被験者の体形等を考慮して固定部34の把持部33bに対する向きを調節することができる。
【0027】
押し当て具30は、押付け片32A、32Bのそれぞれを静電容量型センサ2の保持部材23、24に接触させ、この状態で押し当て具30を被験者の体表側に押し込むように力を加えることで保持部材23、24を被験者の喉頭部の体表に押し付けるとともに、固定部34の接触片34Aを被験者の鎖骨付近の部分に接触させることによって静電容量型センサ2の被験者の体表への押し付け状態を安定させる。
押し当て具30では、二股部31がセンサの押圧領域を被験者の喉頭部の体表に押し付けるための第1接触部となり、固定部34が被験者の喉頭部の体表以外の部分で当該被験者と接触する第2接触部となる。
【0028】
本実施形態の嚥下運動計測装置において、計測器(図示せず)は、例えば、静電容量Cを周波数信号に変換するためのシュミットトリガ発振回路、周波数信号Fを電圧信号Vに変換するF/V変換回路、及び、電源回路を備える。
上記計測器は、静電容量型センサ2の検出部の静電容量Cを電圧信号Vとして表示器に送信することができる。
上記嚥下運動計測装置において、表示器(図示せず)は、例えば、モニター、演算回路、記憶部等を備える。上記表示器は、上記計測器で計測された上記静電容量の変化をモニターに表示させたり、上記静電容量の変化を記録データとして記憶部に記憶したりすることができる。
【0029】
次に、嚥下運動計測装置を用いた嚥下運動の計測方法について、
図4を参照しながら説明する。
本実施形態では、
図4(a)(b)に示すように、嚥下運動計測装置の静電容量型センサ2を当該静電容量型センサ2が備える粘着層25によって被験者の喉頭部の体表に貼り付けて計測を行う。
静電容量型センサ2は、例えば、センサ本体20Aの検出部が被験者の喉頭部の体表の舌骨に対応する位置と重畳し、センサ本体20Bの検出部が被験者の喉頭部の体表の甲状軟骨に対応する位置と重畳するように、被験者の喉頭部の体表に貼り付ける。
ここで、喉頭部の体表の舌骨に対応する位置とは、喉頭部の体表において舌骨と最も近い位置をいい、喉頭部の体表の甲状軟骨に対応する位置とは、喉頭部の体表において甲状軟骨と最も近い位置をいう。従って、本実施形態の場合、静電容量型センサ2は、センサ本体20Aの検出部がその厚さ方向で舌骨に対応する位置と重なり、センサ本体20Bの検出部がその厚さ方向で甲状軟骨に対応する位置と重なるように、被験者の喉頭部の体表に貼り付けられる。
【0030】
静電容量型センサ2は、センサ本体20の長手方向(
図1(b)中、左右方向)がほぼ水平方向となるように、被験者の喉頭部の体表に貼り付ける。
本実施形態では、上記静電容量型センサとして、静電容量型センサの面方向内の一方向(静電容量型センサ2ではセンサ本体の長手方向)に沿って、押圧領域、検出部及び押圧領域がこの順に並んで設けられた静電容量型センサを採用し、上記面方向内の一方向がほぼ水平方向となるように、静電容量型センサを被験者の喉頭部の体表に接触させて、嚥下運動の計測を行う。
ここで、上記面方向内の一方向がほぼ水平方向になるとは、上記面方向内の一方向が、基本的立位姿勢にある被験者の左右方向とほぼ一致する方向にあることを意味する。
また、上記面方向内の一方向と上記被験者の左右方向とほぼ一致していればよく、両者は少しずれていてもよい。このとき、両者のずれは、上記面方向内の一方向と上記被験者の左右方向とのなす角で30°以下であればよい。上記面方向内の一方向と上記被験者の左右方向とのなす角は、20°以下が好ましく、10°以下がより好ましい。
【0031】
続いて、
図3に示した押し当て具30を保持し、押し当て具30の固定部34(接触片34A)を被験者の鎖骨付近に接触させつつ、静電容量型センサ2の保持部材23、24のそれぞれと押し当て具30の二股部31とを接触させる。このとき、押し当て具30を保持するのは、被験者であってもよいし、計測者であってもよい。
本実施形態では、押し当て具30の固定部34を被験者の鎖骨付近に接触させた状態のまま、押し当て具30の二股部31によって、静電容量型センサ2の保持部材23、24(押圧領域)を被験者の体表に押し付け、この状態で被験者の嚥下運動を計測する。
【0032】
具体的には、例えば、被験者に固形物、半固形物、液体等の食塊、唾液等を嚥下してもらい、その際に生じる喉頭部の運動を計測する。
この場合、最初に挙上し、最大挙上位置に一旦とどまった後、下降する甲状軟骨の動きによるセンサ本体20A及び20Bの変形(静電容量が変化)を検出し、得られた静電容量の変化に基づいて、被験者の嚥下運動を計測する。
【0033】
本発明の実施形態において、静電容量型センサ2を被験者の体表に押し付けるために押し当て具30に加える力は、被験者の嚥下運動による甲状軟骨の動きを上記検出部の静電容量の変化として検出することができ、かつ被験者の自然な嚥下運動を阻害しない力であればよい。
【0034】
具体的には、例えば、静電容量型センサ2を被験者の体表に押し付けることによって当該静電容量型センサ2の検出部を初期状態から伸長させた際に、上記検出部の静電容量を初期状態から0.4~16%の増加率で増大させるような力であることが好ましい。被験者の嚥下運動を正確に計測するのに適した範囲だからである。
一方、上記検出部の静電容量の増加率が0.4%未満では、被験者が女性や小児の場合、被験者の喉頭部における体表の隆起が乏しく、嚥下運動を計測することが困難な場合がある。また、上記検出部の静電容量の増加率が16%を超えると、静電容量型センサ2の体表への押し付け力が強すぎて、被験者の自然な嚥下運動を阻害する場合がある。
【0035】
本発明の実施形態において、静電容量型センサの初期状態とは、当該静電容量型センサを被験者の喉頭部の体表に密着させただけの状態(静電容量型センサを被験者の喉頭部の体表に密着させ、かつ当該静電容量型センサの押圧領域を体表に押し付ける力を加えていない状態)をいう。
また、上記静電容量型センサにおける上記検出部の静電容量の初期状態からの増加率とは、「初期状態における静電容量型センサの検出部の静電容量」に対する「(初期状態から伸長した後の上記検出部の静電容量)と(初期状態における上記検出部の静電容量)との差」の割合(百分率)をいう。
【0036】
本実施形態の計測方法では、静電容量型センサ2の押圧領域(保持部材23、24)を被験者の体表に押し付けることで、喉頭部の体表に甲状軟骨の存在による皮膚の隆起が表れやすくなる。そのため、通常状態では、体表に甲状軟骨による隆起がほとんど見られない女性や子供を被験者とする場合であっても嚥下運動を計測することができる。
本実施形態の計測方法では、被験者が男性であっても嚥下運動を計測することができる。
【0037】
本実施形態の計測方法では、押し当て具30の固定部134を、被験者の喉頭部の体表以外の部分に接触させた状態で嚥下運動の計測を行う。
そのため、計測中に静電容量型センサ2の押し付け状態が変動することを抑制することができる。計測中に押し付け状態が変動すると、それによって静電容量が変動し、計測ノイズとなるが、本実施形態のように押し当て具30の固定部134を、被験者に接触させることで押し当て具30の押し付け状態が安定し、より正確な計測が可能となる。
本発明の実施形態において、押し当て具30の固定部34を、被験者に接触させる際に加える力は特に限定されず、計測時に、固定部34の接触位置にズレが生じることがなく、かつ被験者に不快感を与えることがない程度の力であればよい。
【0038】
本実施形態において、静電容量型センサ2を喉頭部の体表に接触させる場合、センサ素子10の誘電層11が無伸長状態ではなく、予め少し伸長した状態(以下、プリテンション状態ともいう)の静電容量型センサ2を喉頭部の体表に接触させてもよい。この場合、上記プリテンション状態から誘電層11が収縮するように甲状軟骨が運動した場合もその運動を計測することができる。
なお、上記プリテンション状態の静電容量型センサを被験者の喉頭部の体表に接触させた場合は、このプリテンション状態を上述した静電容量型センサの初期状態とする。
【0039】
本実施形態において、センサ素子10の検出部19の形状・サイズは特に限定されないが、平面視矩形状で、長辺の長さ(使用時に水平方向となる向きの長さ)が10~100mmで、短辺の長さが5~30mmであることが好ましい。このようなサイズの検出部19を有するセンサ素子10は、嚥下運動を計測するのに好適である。
【0040】
(第2実施形態)
本実施形態は、嚥下運動の計測に使用する嚥下運動計測装置が第1実施形態と異なる。
具体的には、静電容量型センサが備えるセンサ素子として、センサ素子10に代えて、
図5(a)、(b)に示したセンサ素子40を使用する。センサ素子40は、誘電層(第1誘電層)及びその両面に形成された第1電極層及び第2電極層に加えて、第2誘電層及び第3電極層を備えている。
図5(a)は、本実施形態に係る嚥下運動計測装置が有するセンサ素子を示す斜視図である。(b)は、
図5(a)のB-B線断面図である。
【0041】
図5(a)、(b)に示すセンサ素子40は、伸縮性を有するシート状の第1誘電層41Aと、第1誘電層41Aのおもて面に形成された第1電極層42Aと、第1誘電層41Aの裏面に形成された第2電極層42Bと、第1誘電層41Aの表側に第1電極層42Aを覆うように積層された第2誘電層41Bと、第2誘電層41Bのおもて面に形成された第3電極層42Cとを備える。
また、センサ素子40は、第1電極層42Aに連結された第1配線43Aと、第2電極層42Bに連結された第2配線43Bと、第3電極層42Cに連結された第3配線43Cとを備える。
ここで、第3配線43Cの一部は、第2配線43B上に積層され、第2配線43Bと一体化されている。
【0042】
更に、センサ素子40は、銅箔からなる2つの電極接続部46A、46Bが非伸縮性の樹脂シート47上に形成された接続部材48を備え、第1配線43Aと電極接続部46A、並びに、一体化された第2配線43B及び第3配線43Cと電極接続部46Bがそれぞれ導電性接着剤44A、44Bを介して接続されている。
また、センサ素子40は、第1誘電層41Aの裏側及び第2誘電層41Bの表側のそれぞれに裏側保護層45B及び表側保護層45Aが形成されている。電極接続部46A、46Bのそれぞれには、計測器と接続するためのリード線52が半田付けされている。
【0043】
センサ素子40において、第1~第3電極層42A~42Cは、同一の平面視形状を有している。第1電極層42Aと第2電極層42Bとは第1誘電層41Aを挟んで全体が対向しており、第1電極層42Aと第3電極層42Cとは第2誘電層41Bを挟んで全体が対向している。
センサ素子40では、第1電極層42Aと第2電極層42Bとの対向した部分、及び、第1電極層42Aと第3電極層42Cとの対向した部分が検出部49となり、第1電極層42Aと第2電極層42Bとの対向した部分の静電容量と第1電極層42Aと第3電極層42Cとの対向した部分の静電容量との和を検出部49の静電容量とする。
【0044】
このような構成を備えたセンサ素子40を用いて嚥下運動の計測を行う場合、第2電極層42Bと第3電極層42Cとが電気的に接続されているため、導体である生体(被験者)を発生源とするノイズによって生じる測定誤差を低減することができる。
そのため、センサ素子40を用いることによって、より精度よく、被験者の嚥下運動を計測することができる。
【0045】
(第3実施形態)
本実施形態に係る嚥下運動計測装置は、被験者の喉頭部の体表に接触させる静電容量型センサと、上記静電容量型センサの一部を被験者の喉頭部の体表に押し付ける押し当て具と、上記静電容量型センサにおける静電容量の変化を計測する計測器とを備え、上記静電容量型センサと上記押し当て具とが一体化されている。
図6は、本実施形態に係る嚥下運動計測装置を模式的に示す図である。
図7は、
図6に示した嚥下運動計測装置が備える静電容量型センサの一例を示す図であり、(a)は正面図、(b)は裏面図である。
図8(a)は、
図7に示した静電容量型センサに含まれるセンサ素子の一例を示す斜視図であり、
図8(b)は、
図8(a)のC-C線断面図である。
図9は、
図6に示した嚥下運動計測装置を用いて被験者の嚥下運動を計測する方法を説明するための図である。
【0046】
本実施形態に係る嚥下運動計測装置101は、
図6に示すように、押し当て具130に、静電容量型センサ102と、計測器103とが一体化されている。計測器103は、図示しない表示器と無線接続されている。
計測器103は、第1実施形態と同様、静電容量型センサ102の検出部の静電容量Cを電圧信号Vに変換し、表示器に送信できるように構成されている。
上記表示器は、第1実施形態と同様、上記計測器で計測された静電容量の変化をモニターに表示させたり、記録データとして記憶部に記憶したりできるように構成されている。
【0047】
押し当て具130は、被験者本人や計測者等が把持するための把持部133と、把持部133の先端側に設けられた二股部131と、把持部133の中間部分から延びるT字状の固定部134とを備えている。
二股部131は、静電容量型センサ102を保持するとともに、静電容量型センサ102の保持部材123、124を被験者の喉頭部の体表に押し付けるために設けられている。
二股部131は、把持部133の先端側に連結された基部131Aと、基部131Aから突出した2つの板状の突出部131B、131Cとを有し、突出部131B、131Cは略平行に配置されている。
二股部131の基部131Aは、把持部133に対する取り付け角度(把持部の長手方向と、二股部における突出部の突出方向とのなす角度)が調整可能に取り付けられている。
突出部131Bの外側面(突出部131Cに対向する側と反対側の面)には、静電容量型センサ102を二股部131で保持するための凸部231が設けられており、突出部131Cの外側面(突出部131Bに対向する側と反対側の面)には静電容量型センサ102を二股部131で保持するためのスナップボタンの凹側金具(図示せず)が設けられている。二股部131で静電容量型センサ102を保持する手法については後述する。
【0048】
固定部134は、嚥下運動を計測する際に、押し当て具130による静電容量型センサ102の押し付け状態を安定させるために設けられている。固定部134は、被験者に接触させて押し当て具130を安定させるための接触片134Aと、接触片134Aと把持部133とを連結するための部材であって、接触片134A側と反対側の端部が把持部133に固定された連結片134Bとからなる。
連結片134Bは、柱状の把持部133の長手方向に沿ってスライド可能で、かつ、把持部133の長手方向と連結片134Bの長手方向とのなす角度が調整可能に取り付けられている。従って、連結片134Bは被験者の体形等を考慮して把持部133に対する位置や向きを調節することでき、固定部134は、把持部133に対して適切な位置に、適切な向きで取り付けることができる。
押し当て具130では、二股部131がセンサの押圧領域を被験者の喉頭部の体表に押し付けるための第1接触部となり、固定部134が被験者の喉頭部の体表以外の部分で当該被験者と接触する第2接触部となる。
【0049】
嚥下運動計測装置101は、二股部131で静電容量型センサ102を保持した状態のまま、当該静電容量型センサ102を被験者の喉頭部に接触させることができ、この状態から押し当て具130を被験者の体表側に押し込むように力を加えることで、静電容量型センサ102の保持部材123、124を被験者の喉頭部の体表に押し付けることができる。このとき、固定部134の接触片134Aを被験者の鎖骨とその周辺部分に接触させることもでき、接触片134Aを被験者に接触させることによって静電容量型センサ102の被験者の体表への押し付け状態を安定させることができる。
【0050】
静電容量型センサ102は、
図7、8に示すように、センサ素子140(
図8参照)と、センサ素子140のおもて面および裏面のそれぞれ全体を覆うように設けられたエラストマー製シート(被覆部材)121と、被覆部材121で被覆されたセンサ素子140の長手方向両端部を保持する保持部材123、124とを備える。
静電容量型センサ102はシート状を有し、その一部は可逆的に変形可能である。
【0051】
センサ素子140は、
図8(a)及び
図8(b)に示すように、誘電層、電極層、電極接続部などを備えた積層体である。
センサ素子140は、5か所の検出部149を有するセンサ素子であり、第2実施形態におけるセンサ素子40を長手方向に直交する方向に沿って5個並べて一体化したような形状を有している。
即ち、センサ素子140は、伸縮性を有するシート状の第1誘電層141Aと、第1誘電層141Aのおもて面に形成された5本のストライプ状の第1電極層142Aと、第1誘電層141Aの裏面に形成された5本のストライプ状の第2電極層142Bと、第1誘電層141Aの表側に第1電極層142Aを覆うように積層された第2誘電層141Bと、第2誘電層141Bのおもて面に形成された5本のストライプ状の第3電極層142C(142C1~142C5)とを備える。
また、センサ素子140は、第1電極層142Aに連結された第1配線143Aと、第2電極層142Bに連結された第2配線143Bと、第3電極層142Cに連結された第3配線143Cとを備える。
ここで、第3配線143Cの一部は、第2配線143B上に積層され、第2配線143Bと一体化されている。
【0052】
更に、センサ素子140は、銅箔からなる2つの電極接続部146A、146Bを1対の電極接続対146として、5対の電極接続対146が非伸縮性の樹脂シート147上に形成された接続部材148を備えている。第1配線143Aのそれぞれ、並びに、一体化された第2配線143B及び第3配線143Cのそれぞれは、導電性接着剤144A、144Bを介して各電極接続対146の電極接続部146A、146Bに接続されている。
また、センサ素子140は、第1誘電層141Aの裏側及び第2誘電層141Bの表側のそれぞれに裏側保護層145B及び表側保護層145Aが形成されている。電極接続部146A、146Bのそれぞれには、計測器103と接続するためのリード線122が半田付けされている。
【0053】
センサ素子140では、厚さ方向において、第1電極層142Aと第2電極層142Bとの対向した部分、及び、第1電極層142Aと第3電極層142Cとの対向した部分が検出部149となり、センサ素子140は5か所の検出部149を有している。
センサ素子140の各検出部149では、第1電極層142Aと第2電極層142Bとの対向した部分の静電容量、及び、第1電極層142Aと第3電極層142Cとの対向した部分の静電容量との和を検出部の静電容量とする。
【0054】
なお、センサ素子140は、裏面側であって、長手方向の一端側(
図8(a)中、左右方向の右側)にのみ非伸縮性の部材を備えているが、本実施形態に係るセンサ素子は、センサ素子の裏面側であって、長手方向の他端側にも非伸縮性の部材(例えば、樹脂シート)を備えていてもよい。この場合、長手方向他端側の非伸縮性部材は、センサ素子の厚さ方向で、検出部と重ならない位置に設けられる。
【0055】
図7に戻って、センサ素子140の表側にはエラストマー製シートからなる被覆部材121aが設けられ、センサ素子140の裏側にはエラストマー製シートからなる被覆部材121bが設けられている。被覆部材121a、121bは同一素材からなり、それぞれセンサ素子の伸縮を阻害しない柔軟性を有しセンサ素子140の表側及び裏側に貼り付けられている。
なお、本発明の実施形態において、被覆部材121はセンサ素子140の片面側のみ(表側のみ、又は、裏側のみ)に設けられていてもよい。この場合、被覆部材121は、被験者と接触する側にのみ設けられていることが好ましい。
更に、本発明の実施形態では、被覆部材121が設けられておらず、センサ素子140の裏側保護層145B及び表側保護層145Aが露出していても良い。
【0056】
静電容量型センサ102は、更に長手方向両端部が保持部材123、124で固定されている。
保持部材123は、布生地からなる2枚の非伸縮性部材123a、123bで構成される。両面に被覆部材121が貼り付けられたセンサ素子140の一方の端部(
図7中、左側)は、2枚の非伸縮性部材123a、123bの間の一部分に挟み込まれて固定されている。
更に、保持部材123の厚さ方向でセンサ素子140と重複しない部分には、貫通孔125が設けられている。
【0057】
保持部材124は、保持部材123と同様、非伸縮性部材124a、124bで構成されている。両面に被覆部材121が貼り付けられたセンサ素子140の他方の端部(
図7中、右側)は、2枚の非伸縮性部材124a、124bの間の一部分に挟み込まれて固定されている。
更に、保持部材124の厚さ方向でセンサ素子140と重複しない部分には、スナップボタンの凸側金具126がカシメ固定されている。
【0058】
保持部材123、124はいずれもセンサ素子140の検出部149と厚さ方向で重ならない位置に設けられている。
従って、静電容量型センサ102では、センサ素子140の長手方向(
図7中、左右方向)において、センサ素子140の検出部149の両側に押圧領域となる保持部材123、124が設けられている。
【0059】
静電容量型センサ102は、表側を被験者と接触する側とし、保持部材123に設けられた貫通孔125を、押し当て具130の突出部131Bの外側面に設けられた凸部231に引っ掛けるともに、保持部材124に設けられたスナップボタンの凸側金具126と押し当て具130の突出部131Cの外側面に設けられたスナップボタンの凹側金具とを嵌め合わせることで、押し当て具130の二股部131に取り付ける。
このとき、静電容量型センサ102は、プリテンション状態で二股部131に取り付けてもよい。
押し当て具130の二股部131に取り付けられた静電容量型センサ102は、リード線122及び接続端子129を介して計測器103と接続する。
【0060】
次に、嚥下運動計測装置を用いた嚥下運動の計測方法を説明する。
図9は、押し当て具の使用方法を含む、嚥下運動の計測方法を説明する図である。
本実施形態では、
図9に示すように、嚥下運動計測装置の静電容量型センサ102を被験者の喉頭部の体表に接触させるとともに、押し当て具130の固定部134(接触片134A)を被験者の鎖骨付近に接触させる。
このとき。押し当て具130を保持するのは、被験者であってもよいし、計測者であってもよい。
【0061】
静電容量型センサ102は、例えば、センサ素子140の検出部の1つが被験者の喉頭部の体表の舌骨に対応する位置、及び、センサ素子140の検出部の他の1つが被験者の喉頭部の体表の甲状軟骨に対応する位置と重畳するように、被験者の喉頭部の体表に接触させる。
本実施形態の静電容量型センサ102は、5つの検出部を備えているため、高精度な位置合わせを行う必要がなく、簡単な位置合わせで、嚥下運動の計測が可能な位置に静電容量型センサ102を接触させることができる。
また、静電容量型センサ102は、センサ素子140の長手方向(
図7中、左右方向)がほぼ水平方向となるように、被験者の喉頭部の体表に接触させる。
【0062】
続いて、静電容量型センサ102及び押し当て具130の接触片134Aを被験者に接触させた状態のまま、押し当て具130を被験者側に押し込むことによって、静電容量型センサ102の保持部材123、124のそれぞれを被験者の喉頭部の体表に押し付け、この状態で被験者の嚥下運動を計測する。
【0063】
本実施形態でも第1実施形態と同様、最初に挙上し、最大挙上位置に一旦とどまった後、下降する甲状軟骨の動きによるセンサ素子140(各検出部149)の変形(静電容量が変化)を検出し、得られた静電容量の変化に基づいて、被験者の嚥下運動を計測する。
【0064】
本実施形態において、静電容量型センサ102を被験者の体表に押し付けるために押し当て具130に加える力は、被験者の嚥下運動による甲状軟骨の動きを上記検出部の静電容量の変化として検出することができ、かつ被験者の自然な嚥下運動を阻害しない力であればよく、好ましい押し付け力は、第1実施形態と同様である。
また、押し当て具130の固定部134を、被験者に接触させる際に加える力は、計測時に固定部134の接触位置にズレが生じることがなく、かつ被験者に不快感を与えることがない程度の力であればよい。
【0065】
本実施形態の計測方法では、通常状態では体表に甲状軟骨による隆起がほとんど見られない女性や子供を被験者とする場合であっても嚥下運動を計測することができる。勿論、被験者が男性であっても嚥下運動を計測することができる。
【0066】
また、本実施形態の計測方法では、押し当て具130の固定部134を、被験者の鎖骨付近など、被験者の喉頭部の体表以外の部分に接触させた状態で嚥下運動の計測を行うため、計測中に静電容量型センサ102の押し付け状態が変動することを抑制することができる。その結果、計測中に押し付け状態が変動することによるノイズが減少し、より正確な嚥下運動の計測が可能となる。
【0067】
本実施形態において、センサ素子140の各検出部149の形状・サイズは特に限定されないが、平面視矩形状で、長辺の長さ(使用時に水平方向となる向きの長さ)が10~100mmで、短辺の長さが5~15mmであることが好ましい。このようなサイズの検出部149を有するセンサ素子140は、嚥下運動を計測するのに好適である。
【0068】
本実施形態では、検出部の数が5箇所であるセンサ素子140を用いて嚥下運動の計測を行うため、検出部の数が2ヵ所である静電容量型センサを用いて計測を行う場合(第1、第2実施形態)に比べて、精度良く嚥下運動を計測することができる。
また、本実施形態のセンサ素子140は、第2実施形態のセンサ素子と同様、第1~第3電極層142A~142Cを有し、第2電極層142Bと第3電極層142Cとが電気的に接続されているため、導体である生体(被験者)を発生源とするノイズによって生じる測定誤差を低減することができる。
そのため、より精度良く、被験者の嚥下運動を計測するのに適している。
【0069】
(他の実施形態)
第1~第3実施形態の嚥下運動計測装置は、静電容量型センサとして、複数の検出部を有する静電容量型センサを採用しているが、本発明の実施形態に係る嚥下運動計測装置が備える静電容量型センサは、検出部の個数が1個であってもよい。この場合、静電容量型センサを接触させる位置は、被験者の喉頭部の体表における甲状軟骨や舌骨の存在に起因する体表の隆起が検知される位置であればよい。
また、検出部の個数が1個である静電容量型センサを複数個併用してもよい。
【0070】
第1~第3の実施形態に係る嚥下運動計測装置の構成部材は適宜組み合わせて採用してもよい。
例えば、第1実施形態において、センサとして、第3実施形態で採用したような5箇所の検出部を有する静電容量型センサを採用してもよい。また、例えば、第3実施形態において、センサとして、第1実施形態で採用したような二つのセンサ本体を保持部材を用いて一体化したような静電容量型センサを採用してもよい。
【0071】
本発明の実施形態において、嚥下運動計測装置が備えるセンサは、抵抗式歪みセンサであってもよい。
上記抵抗式歪みセンサとしては、例えば、伸縮性を有する帯状の基材と、この基材に積層され、上記基材の長手方向に引き揃えられる複数のカーボンナノチューブを含む検出層と、上記検出層の両端部に配設される一対の電極とを有するシート状の抵抗式歪みセンサを用いることができる。
このようなシート状の抵抗式歪みセンサを用いて、被験者の嚥下運動を計測する場合は、被験者の喉頭部の体表に上記シート状の抵抗式歪センサを接触させ、嚥下運動によって生じる甲状軟骨の運動による上記抵抗式歪みセンサの抵抗値の変化を計測して被験者の嚥下運動を計測すればよい。
なお、上記静電容量型センサと上記抵抗式歪みセンサとを比較すると、上記静電容量型センサには、出力ドリフトが少ないという利点がある。
【0072】
上記センサは、嚥下時に生じる被験者の喉頭部の体表の動きに追随して伸縮することができるセンサであって、被験者の喉頭部の体表に接触させることができるセンサであれば、上記静電容量型センサや上記抵抗式歪みセンサ以外のセンサであってもよい。
【0073】
本発明の実施形態において、押し当て具が有する固定部(第2接触部)の被験者との接触位置は、被験者の喉頭部の体表以外の部分あればよく、被験者の鎖骨及びその近傍部分の以外の体表であってもよい。
上記固定具は、被験者の皮膚に直接接触してもよいし、衣服等を介して被験者の体表に接触してもよい。
【0074】
以下、上記嚥下運動計測装置の構成部材について説明する。
[センサ]
<静電容量型センサ>
<<誘電層>>
上記誘電層はエラストマー組成物からなるシート状物である。上記誘電層は、その表裏面の面積が変化するように可逆的に変形することができる。本発明において、シート状の誘電層の表裏面とは、誘電層のおもて面及び裏面を意味する。
上記エラストマー組成物としては、例えば、エラストマーと、必要に応じて他の任意成分とを含有するものが挙げられる。
上記エラストマーとしては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、水素添加ニトリルゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
上記エラストマーは、ウレタンゴム、シリコーンゴムが好ましい。永久歪み(または永久伸び)が小さいからである。
また、上記エラストマー組成物は、エラストマー以外に、可塑剤、酸化防止剤、老化防止剤、着色剤等の添加剤、誘電性フィラー等を含有してもよい。
【0075】
上記誘電層の平均厚さは10~1000μmが好ましい。この場合、上記誘電層は、喉頭部の体表の変形に追従して変形するのに適している。上記平均厚さは、30~200μmがより好ましい。
上記誘電層は、その表裏面の面積が無伸長状態から30%以上増大するように変形可能であることが好ましい。上記静電容量型センサの押圧領域を喉頭部の体表に押し付ける際に、喉頭部の体表の変形に追従して変形するのに適しているからである。
ここで、30%以上増大するように変形可能であるとは、荷重をかけて面積を30%増大させても破断することがなく、かつ、荷重を解放すると元の状態に復元する(即ち、弾性変形範囲にある)ことを意味する。
なお、上記誘電層の面方向に変形可能な範囲は誘電層の設計(材質や形状等)により制御することができる。
【0076】
<<電極層>>
上記電極層(第1電極層~第3電極層)は、導電材料を含有する導電性組成物からなる。
各電極層は通常同一の材料を用いて形成されるが、必ずしも同一材料を用いる必要はない。
上記導電材料としては、例えば、カーボンナノチューブ、導電性カーボンブラック、グラファイト、金属ナノワイヤー、金属ナノ粒子、導電性高分子等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
上記導電材料としては、カーボンナノチューブや、金属ナノワイヤーなどアスペクト比が大きいものが好ましい。誘電層の変形に追従して変形する電極層の形成に適しているからである。
【0077】
上記導電性組成物は、上記導電材料以外に、例えば、導電材料のつなぎ材料として機能するバインダー成分や、各種添加剤を含有してもよい。
上記添加剤としては、例えば、導電材料のための分散剤、バインダー成分のための架橋剤、加硫促進剤、加硫助剤、老化防止剤、可塑剤、軟化剤、更には着色剤等が挙げられる。
【0078】
<<保護層>>
上記センサ素子は、上記保護層(表側保護層及び裏側保護層)を備えていてもよい。上記保護層を設けることにより、電極層等を外部から電気的に絶縁することができる。また、上記保護層を設けることにより、センサ素子の強度や耐久性を高めることができる。
上記保護層の材質としては、例えば、上記誘電層の材質と同様のエラストマー組成物等が挙げられる。
【0079】
<<接続部材>>
上記接続部材は、シート状の基材と、上記基材の上面に形成された複数の電極接続部とからなる。
上記シート状の基材としては、例えば、樹脂フィルムや樹脂板、不織布等の布生地等を使用することができる。上記シート状の基材は、上記伸縮性基材が伸縮しても実質的に伸縮(変形)しないものが好ましい。当該基材が容易に変形すると、電極接続部等が破断する等の不都合が発生しやすくなるからである。
上記樹脂フィルムや樹脂板の樹脂材料としては特に限定されず、例えば、PET等のポリエステル、硬質ポリ塩化ビニル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)等が挙げられる。
【0080】
上記電極接続部としては、例えば、銅箔等の金属箔からなるもの等が挙げられる。更に、上記電極接続部は銅箔以外にも、例えば、金属材料からなる印刷層やメッキ層であってもよい。
上記電極接続部は、例えば、接着剤を用いて上記基材に固定されている。
【0081】
上記電極接続部は、電極層に接続された配線(第1~第3配線)と導電性接着剤を介して電気的に接続されている。上記導電性接着剤としては特に限定されず、従来公知の導電性接着剤を使用することができ、市販品も使用することができる。
なお、上記電極層に接続された配線としては、例えば、上記電極層と同様の導電性組成物からなるものが挙げられる。
【0082】
このような構成を備えたセンサ素子は、例えば、特開2016-90487号公報に記載されたセンサシートの作製方法と同様の方法を用いて、誘電層の表裏面に電極層と保護層とが積層された部材を作製した後、上記接続部材を取り付け、その後、電極層(配線)と電極接続部とを電気的に接続することにより製造することができる。
【0083】
<被覆部材>
上記被覆部材は、上記センサ素子の周囲に設けられた絶縁性の部材である。
上記被覆部材としては、例えば、伸縮性を有する布生地や、エラストマー組成物からなる部材(エラストマー製シートなど)が挙げられる。上記被覆部材は、伸縮異方性を有する部材であってもよい。
上記伸縮性を有する布生地は特に限定されず、織物であってもよいし、編物であってもよく、更には不織布であってもよい。
上記エラストマー組成物としては、上記誘電層の材質と同様のものが例示できる。
上記被覆部材は、自己の粘着性によってセンサ素子に貼り付けられていてもよいし、粘着剤を用いてセンサ素子に貼り付けられていてもよい。
上記被覆部材、及び上記粘着剤は、上記誘電層の伸縮を阻害しない柔軟性が必要である。
【0084】
<保持部材>
上記保持部材は、例えば、センサ本体やセンサ素子の両端部等に設けられた非伸縮性の部材である。
上記保持部材としては、例えば、従来公知の非伸縮性の布生地や、非伸縮性の樹脂フィルム等が挙げられる。
上記保持部材は、上記センサ本体やセンサ素子の厚さ方向において、センサ素子の検出部と重ならない位置に設けられている。
また、上記保持部材は、静電容量型センサの面方向内の一方向においてセンサ素子の検出部を両側から挟み込むような位置に設けられていることが好ましい。この場合、保持部材を上記押し当て具によって体表に押し付ける上記押圧領域とするのに適している。
【0085】
<押し当て具>
上記押し当て具の形状は特に限定されず、静電容量型センサの検出部の両側の押圧領域を、被験者の喉頭部の体表に押し付け可能に構成されるとともに、計測時に、鎖骨とその近傍部分の体表など被験者の喉頭部の体表以外の部分で当該被験者と接触する第2接触部を有していればよい。
上記押し当て具の材質は、押し付け時に変形しない硬質のものがよく、例えば、ABS樹脂、PLA樹脂などの樹脂、アルミニウムやステンレス等の金属などが挙げられる。これらは適宜組み合わせてもよい。
上記押し当て具の寸法は、静電容量型センサの寸法や被験者の寸法に応じて適宜選択すればよい。
【0086】
<計測器>
上記計測器は、上記静電容量型センサと電気的に接続されている。上記計測器は、上記静電容量型センサが備える上記検出部の静電容量を計測する。上記静電容量を計測する方法としては従来公知の方法を用いることができる。そのため、上記計測器は、必要となる静電容量測定回路、演算回路、増幅回路、電源回路等を備える。
上記静電容量を計測する方法(回路)としては、例えば、自動平衡ブリッジ回路を利用したCV変換回路(LCRメータなど)、反転増幅回路を利用したCV変換回路、半波倍電圧整流回路を利用したCV変換回路、シュミットトリガ発振回路を用いたCF発振回路、シュミットトリガ発振回路とF/V変換回路とを組み合わせて用いる方法等が挙げられる。
【0087】
<表示器>
上記表示器により上記嚥下運動計測装置の使用者は、上記静電容量の変化(及びこれに基づく嚥下運動に関する情報)をリアルタイムで確認することができる。
上記表示器は、モニター、演算回路、増幅回路、電源回路等を備える。
上記表示器は、静電容量の計測結果を記憶するために、RAM、ROM、HDD等の記憶部を備えていてもよい。
なお、上記記憶部は、上記計測器が備えていてもよい。
上記表示器としては、パソコン、スマートフォン、タブレット等の端末機器を利用してもよい。
また、上記嚥下運動計測装置において、計測器と表示器との接続は無線で行われてもよいし、有線で接続されていてもよい。
【実施例0088】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
ここでは、
図6~8に示した嚥下運動計測装置を作製し、押し当て具が有する固定部を被験者に接触させた状態で嚥下運動の計測を行うことの効果を検証した。
【0089】
以下の手法で、嚥下運動計測装置を用意した。
<センサ素子>
まず、
図8に示したセンサ素子140を作製した。
(1)誘電層の作製
ポリオール(パンデックスGCB-41、DIC社製)100質量部に対して、可塑剤(ジオクチルスルホネート)40重量部と、イソシアネート(パンデックスGCA-11、DIC社製)17.62重量部とを添加し、アジテータで90秒間撹拌混合し、誘電層用の原料組成物を調製した。
次に、原料組成物を2枚の保護フィルムの間に挟み込んだ状態で搬送しつつ、加熱装置(架橋炉)内で加熱した。ここでは、炉内温度70℃、炉内時間30分間の条件で架橋硬化させ、保護フィルム付きの所定厚みのロール巻シートを得た。その後、70℃に調節した炉で12時間後架橋させ、ポリエーテル系ウレタンエラストマーからなる厚さ100μmのシートを作製した。
得られたウレタンシートを所定のサイズに裁断し、2枚の誘電層(第1誘電層141A及び第2誘電層141B)を作製した。第1誘電層141Aは、ウレタンシートを40mm×75mm×厚さ100μmに裁断し、更に5か所を4mm×5mm×厚さ100μmのサイズで切り落として作製した。第2誘電層141Bは、ウレタンシートを、40mm×70mm×厚さ100μmに裁断して作製した。
【0090】
作製した誘電層について、切断時伸び(%)は505%、比誘電率は5.8であった。
上記切断時伸びは、JIS K 6251に準拠して測定した。このとき、引張速度は500mm/minとした。
上記比誘電率は、20mmΦの電極で誘電層を挟み、LCRハイテスタ(日置電機社製、3522-50)を用いて計測周波数1kHzで静電容量を測定した後、電極面積と測定試料の厚さから算出した。
【0091】
(2)電極層材料の調製
大陽日酸社製の高配向カーボンナノチューブ(層数4~12層、繊維径10~20nm、繊維長さ150~300μm、炭素純度99.5%)30mgをイソプロピルアルコール(IPA)30gに添加し、ジェットミル(ナノジェットパル JN10-SP003、常光社製)を用いて湿式分散処理を施し、2倍に希釈して濃度0.05重量%のカーボンナノチューブ分散液を得た。
【0092】
(3)保護層の作製
裁断寸法を変更した以外は、上述した(1)誘電層の作製と同様の方法を用いて、ポリエーテル系ウレタンエラストマー製で、40mm×75mm×厚さ100μmの裏側保護層145Bと、40mm×70mm×厚さ100μmの表側保護層145Aとを作製した。
【0093】
(4)センサ素子の作製
(a)上記(3)の工程で作製した裏側保護層45Bの片面(表面)に、離型処理されたPETフィルムに所定の形状の開口部が形成されたマスク(図示せず)を貼り付けた。
上記マスクには、第2電極層及び第2配線に相当する開口部が5箇所形成されており、各開口部のサイズは、第2電極層に相当する部分が、幅5mm×長さ50mm、第2配線に相当する部分が幅1.5mm×長さ9.5mmである。
【0094】
次に、上記(2)の工程で調製したカーボンナノチューブ分散液を単位面積(cm2)あたりの塗布量が0.223gとなるようにエアブラシを用いて塗布した。続いて、100℃で10分間乾燥させ、第2電極層142B及び第2配線143Bを形成した。その後、マスクを剥離した。
【0095】
(b)第2電極層142Bの全体と第2配線143Bの一部とを被覆するように、上記(1)の工程で作製した第1誘電層141Aを裏側保護層145B上に積層した。
更に、第1誘電層141Aの表側に、上記工程(a)で採用した手法と同様の手法を用いてカーボンナノチューブ分散液を塗布し、乾燥させることによって所定の位置(第2電極層142B及び第1電極層142Aを平面視した際に、両者が重なる位置)に第1電極層142A及び第1配線143Aを形成した。
【0096】
(c)第1電極層142Aの全体と第1配線143Aの一部とを被覆するように、上記(1)の工程で作製した第2誘電層141Bを第1誘電層141A上に積層した。
更に、第2誘電層141Bの表側に、上記工程(a)で採用した手法と同様の手法を用いてカーボンナノチューブ分散液を塗布し、乾燥させることによって所定の位置(第3電極層142C及び第1電極層142Aを平面視した際に、両者が重なる位置)に第3電極層142C(142C1~142C5)及び第3配線143Cを形成した。
このとき、第3配線143Cは、第2配線143Bと一体化されるように所定の形状のマスクを介して塗布液をスプレーコートで塗布し、その後、乾燥させて形成した。
【0097】
(d)第3電極層142C及び第3配線143Cを形成した第2誘電層141Bの表側に、第3電極層142Cの全体と第3配線143Cの一部とを被覆するように、上記(3)の工程で作製した表側保護層145Aを積層した。
【0098】
(e)PETシート147の上面に5対の電極接続対146(銅箔からなる各5つの電極接続部146A、146B)が形成されたシート状の接続部材148を作製した。接続部材148を裏側保護層の裏面側に接着剤を用いて固定した。このとき、接続部材148は、検出部149とPETシート147とが厚さ方向で重ならず、かつ、5箇所の各検出部149の縁部とPETシート147の縁部とが厚さ方向で重なる位置に固定した。
その後、第1配線143Aと電極接続部146A、並びに、第2配線143B及び第3配線143Cと電極接続部146B、をそれぞれ導電性接着剤144A、144Bを用いて接続した。
次に、電極接続部146A、146Bのそれぞれにリード線122を半田付けした。更に、リード線122の各電極接続部146A、146Bの反対側の端部には接続端子129を取り付けてセンサ素子140を完成した。
このセンサ素子140は、長手方向の長さ(
図8(b)中、L5)が90mmである。
【0099】
<静電容量型センサ>
図7に示した静電容量型センサ2を作製した。
(1)裁断寸法を変更した以外は、上述した誘電層の作製と同様の方法を用いて、ポリエーテル系ウレタンエラストマー製で、50mm×90mm×厚さ100μmに裁断したエラストマー製シートを2枚用意した。このエラストマー製シートは、長手方向(
図7中、左右方向)の長さがセンサ素子140と同一で、短手方向(
図7中、上下方向)の長さがセンサ素子140よりも長くなるように設計している。
【0100】
このエラストマー製シート(被覆部材121)をセンサ素子140の表側全体及び裏側全体に貼り付けた。これにより、センサ素子140は、2枚の被覆部材121a、121bによって、裏面側・表面側から挟み込まれることになる。被覆部材121の貼り付けは、エラストマー製シートが備える粘着力によって行った。
図7(b)中、L4が90mm、L6が40mmである。
【0101】
(2)保持部材123、124を構成する非伸縮性部材として、ナイロン6製の非伸縮性の布を30mm×50mmに裁断したものを4枚用意した。
次に、この非伸縮性の布を2枚1組にして、各組の非伸縮性の布同士の間の一部に、2枚の被覆部材121に挟まれたセンサ素子140の長手方向の端部が介在するように、各非伸縮性の布をアクリル樹脂系の粘着剤層を備える布用両面テープを用いて固定し、保持部材123、124を設けた。
ここでは、保持部材123、124と検出部149とが厚さ方向で重ならず、各検出部の平面寸法として5mm×50mmが確保されるように、各組の非伸縮性の布を互いに50mm離間した状態で固定した。よって、
図7(a)中、L1が50mm、L2が50mm、L3が30mmである。
【0102】
続いて、保持部材123にはハトメを用いて2つの貫通孔125を形成し、保持部材124にはスナップボタンの凸側金具126を2つカシメ固定した。
最後に、リード線122のセンサ素子140と反対側の端部に接続端子129を取り付けて静電容量型センサ102を完成した。
【0103】
<嚥下運動計測装置>
下記の方法で、嚥下運動計測装置101を組み立てた。
(1)
図6に示した形状の押し当て具130を用意した。
押し当て具130の寸法は、把持部133の長さL11が約200mm、二股部131の基部から先端までの距離L12が約100mm、固定部を構成する連結片134Bの長さL13が約80mm、固定部を構成する接触片134Aの長さL14が約150mmである。
【0104】
(2)上述した方法で作製した静電容量型センサ102を押し当て具130に取り付けた。
ここでは、保持部材123に設けられた貫通孔125を、押し当て具130の突出部131Bの外側面に設けられた凸部231に引っ掛けるともに、保持部材124に設けられたスナップボタンの凸側金具126と押し当て具130の突出部131Cの外側面に設けられたスナップボタンの凹側金具とを嵌め合わせることで、静電容量型センサ102を押し当て具130の二股部131に取り付けた。このとき、静電容量型センサ102は、検出部149が予め5mm伸長したプリテンション状態で押し当て具130に取り付けた。
【0105】
(3)押し当て具130に、CV変換回路を備えた計測器103を固定した。この計測器103は、リード線122及び接続端子129を介して静電容量型センサ102と接続した。
また、計測器103と表示器としてのタブレット(図示せず)とBluetooth(登録商標)で無線接続し、計測器103で取得された計測結果は、タブレットで記憶した。
【0106】
<検証>
同一の被験者を対象に、試験例1(1回目)→試験例2(1回目)→試験例1(2回目)→試験例2(2回目)の順番で試験を行った。従って、試験例1、2はそれぞれ2回ずつ行っている。
(試験例1)
健康な成人男性を被験者とした。
被験者自身で嚥下運動計測装置101を持ち、静電容量型センサ102を被験者の喉頭部に押し当てるとともに、押し当て具130が備える固定部134を被験者の鎖骨及びその周辺の部分に接触させた。
被験者は、嚥下運動計測装置101を動かすことなく、嚥下運動計測装置101を同じ位置で保持し続けるように努めた。このとき、表示器(タブレット)の画面は、被験者に見せないようにした。
ここで、計測時間は30秒間とし、データのサンプリング周波数は60Hzとした。
【0107】
(試験例2)
固定部134の向きを調節して、固定部134を被験者に接触させず、静電容量型センサだけを被験者自身の喉頭部に押し当てた以外は、試験例1と同様にして、30秒間計測を行った。
【0108】
計測された電圧値に対して下記(i)及び(ii)の処理を実施し、伸び量の計測値として算出した。
(i) 0秒~5秒までの全検出部の電圧平均値を算出し、実測値から、算出された平均値を引き算した。
(ii) (i)の処理後の電圧値に係数を乗じて、伸び量(mm)とした。
取得した伸び量の変化は、
図10、11にグラフで示した。
図10、11において、CH1~CH5はそれぞれ静電容量型センサ102の5箇所の検出部に対応し、静電容量型センサ102を被験者に接触させた状態で、上方側の検出部から順にCH1、CH2・・・に対応している。
【0109】
次に、取得した伸び量の変化について、試験毎に5箇所の検出部のそれぞれで、0秒~5秒までの伸び量の平均値と、25秒~30秒までの伸び量の平均値とを算出した。
その後、0秒~5秒までの伸び量の平均値、及び25秒~30秒までの伸び量の平均値のそれぞれについて、検出部間の平均値の差分を全ての検出部間において絶対値で算出し、得られた差分の総和を求め、各試験における変化量の合計とした。
結果を
図12に示した。
この評価では、上記変化量の合計が少ないほど、嚥下運動計測装置のセンサが安定した状態で被験者の喉頭部に押し当てられていることを意味する。
従って、
図12に示した結果から、固定部134を被験者に接触させた状態で計測を行うことで、センサの押し当て状態が安定することが明らかとなった。