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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022007092
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】コモンモードノイズ抑制部材
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/00 20060101AFI20220105BHJP
   H01F 1/14 20060101ALI20220105BHJP
   H01F 10/16 20060101ALI20220105BHJP
   H01F 27/36 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
H01F17/00 C
H01F1/14 ZNM
H01F10/16
H01F27/36 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020109813
(22)【出願日】2020-06-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.刊行物に発表 発行者名:The Japan Society of Applied Physics 刊行物名:Japanese Journal of Applied Physics,vol.58,080902(2019)、第1~4頁 発行年月日:令和1年7月11日 2.ウェブサイトにおいて発表 掲載アドレス:https://iopscience.iop.org/article/10.7567/1347-4065/ab2d8d 掲載年月日:令和1年6月27日
(71)【出願人】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】室賀 翔
(72)【発明者】
【氏名】田中 元志
【テーマコード(参考)】
5E041
5E049
5E070
【Fターム(参考)】
5E041AA11
5E041AA14
5E041AA17
5E041CA06
5E041NN06
5E049AA01
5E049AA04
5E049AA07
5E049BA27
5E049DB04
5E070AB08
5E070AB10
5E070BA11
5E070CB04
5E070CB12
5E070DA17
(57)【要約】      (修正有)
【課題】回路基板の実装の妨げとならず、差動線路を伝送するコモンモードノイズを抑制しつつ、GHz帯域以上の周波数帯域においても通信品質を良好に維持できるコモンモードノイズ抑制部材を提供する。
【解決手段】平面型の磁性体Dは、差動線路A、Bに近接配置されたコモンモードノイズ抑制部材であって、強磁性共鳴周波数を有し、コモンモード電流により生じる磁界エネルギーが平面型の磁性体Dの強磁性共鳴損失により熱に変換される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動線路を伝送するコモンモードノイズを抑制するためのコモンモードノイズ抑制部材であって、前記差動線路に近接配置された平面型の磁性体を備え、前記平面型の磁性体は強磁性共鳴周波数を有し、コモンモード電流により生じる磁界エネルギーが前記平面型の磁性体の強磁性共鳴損失により熱に変換されることを特徴とするコモンモードノイズ抑制部材。
【請求項2】
前記差動線路の通信周波数帯域で、前記差動線路のディファレンシャルモードの透過係数が前記差動線路のコモンモードの透過係数より大きい請求項1に記載のコモンモードノイズ抑制部材。
【請求項3】
前記平面型の磁性体は、コモンモードノイズ抑制周波数で強磁性共鳴現象を発現する磁性膜、磁性微粒子成形体、又は、磁性シートである請求項1または2に記載のコモンモードノイズ抑制部材。
【請求項4】
前記平面型の磁性体は、Ni-Fe、Fe-Si、Fe-Si-Al、Fe-Cu-Si、Fe-B-P、Fe-Si-B-C、Co-Fe-B、Co-Zr-Nb、Co-Cr-Nb、Co-Zr-O、Co-Zl-Oから選択される1または複数の材料で構成されている請求項3に記載のコモンモードノイズ抑制部材。
【請求項5】
前記平面型の磁性体は、厚みが、10nm~500μmである請求項1乃至4のいずれか1項に記載のコモンモードノイズ抑制部材。
【請求項6】
前記平面型の磁性体と前記差動線路との間隔が、10nm~200μmである請求項1乃至5のいずれか1項に記載のコモンモードノイズ抑制部材。
【請求項7】
差動線路を伝送するコモンモードノイズを抑制するための方法であって、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のコモンモードノイズ抑制部材を選択し、前記差動線路に近接配置する、コモンモードノイズを抑制するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線路を伝送するコモンモードノイズを抑制するためのコモンモードノイズ抑制部材に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器内の信号伝送は、2本の線路(差動線路)を1組として、それぞれの線路に同振幅で逆位相の信号を伝送するディファレンシャルモード(差動)伝送が用いられる。しかし、予期せぬ浮遊容量等によって他の配線や回路と結合してノイズが重畳することにより、また、ディファレンシャルモード信号の非対称性により、コモンモード(同相)ノイズが発生する場合がある。このようなコモンモードノイズは、機器の小型・薄型化、信号の高周波化、他周波数動作化によって顕在化するとともに、対策が困難になっている。
【0003】
従来のコモンモードフィルタは、差動線路を構成する2本の線路それぞれに接続された磁性インダクタ間の磁気結合を用いて、コモンモードノイズに対してのみ高いインピーダンスを発生させることで、コモンモード伝送を妨げることが可能である。しかし、コモンモードフィルタを用いたノイズ対策のためには実装用のフットプリント(占有面積)が必要である。また、従来のコモンモードフィルタは、ノイズエネルギー自体は減衰させず反射させるため、反射したエネルギーが新たなノイズ問題の原因となる可能性がある。さらに、GHz帯域以上の周波数帯域では高い透磁率をもつ磁性材料の実現が難しい。
【0004】
また、ディファレンシャルモード伝送用の2本の線路それぞれにフェライトや磁性微粒子を利用した磁性インダクタを接続するコモンモードチョークコイル(例えば、非特許文献1)が公知であるが、ノイズ対策のためには素子実装用の電極や空間が必要である。
【0005】
また、特許文献1では、単線回路から放射される電磁波を遮断するためのノイズ抑制部材が開示され、特許文献2では複合磁性材料を用いた電磁雑音吸収体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013/197328号公報
【特許文献2】特開2004/95937号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】三屋 康宏、ノイズ対策の基礎(第13回)、村田製作所技術記事、https://article.murata.com/ja-jp/article/basics-of-noise-countermeasures-lesson-13、2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、回路基板の実装の妨げとならず、差動線路を伝送するコモンモードノイズを抑制しつつ、GHz帯域以上の周波数帯域においても通信品質を良好に維持できるコモンモードノイズ抑制部材を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一つの態様は、差動線路を伝送するコモンモードノイズを抑制するためのコモンモードノイズ抑制部材であって、差動線路に近接配置された平面型の磁性体を備え、平面型の磁性体は強磁性共鳴周波数を有し、コモンモード電流により生じる磁界エネルギーが磁性体の強磁性共鳴損失により熱に変換されることを特徴とするコモンモードノイズ抑制部材である。
さらに、差動線路の通信周波数帯域で、差動線路のディファレンシャルモードの透過係数が差動線路のコモンモードの透過係数より大きいことを特徴とする。
【0010】
また、平面型の磁性体は、コモンモードノイズ抑制周波数で強磁性共鳴現象を発現する磁性膜、磁性微粒子成形体、又は、磁性シートが好ましい。その材料として、Ni-Fe、Fe-Si、Fe-Si-Al、Fe-Cu-Si、 Fe-B-P、Fe-Si-B-C、Co-Fe-B、Co-Zr-Nb、Co-Cr-Nb、Co-Zr-O、Co-Zl-Oから選択される1または複数の材料で構成されていることが好ましい。さらに、平面型の磁性体は、厚みが、10nm~500μmであってもよい。さらに、平面型の磁性体と差動線路との間隔が、10nm~200μmであってもよい。
【0011】
本発明の他の態様は、差動線路を伝送するコモンモードノイズを抑制するための方法であって、上記に記載のコモンモードノイズ抑制部材を選択し、差動線路に近接配置する、コモンモードノイズを抑制するための方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、回路基板の実装の妨げとならず、差動線路を伝送するコモンモードノイズを抑制しつつ、GHz帯域以上の周波数帯域においても通信品質を良好に維持できるコモンモードノイズ抑制部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明のコモンモードノイズ抑制部材を差動線路に近接配置した状態を示す斜視図である。
図2図2は、本発明のコモンモードノイズ抑制部材を差動線路に近接配置した状態を示す断面図である。
図3図3は、コモンモードノイズ抑制部材となる磁性体内部の磁束分布を模式的に示す断面図である。図3(a)は、ディファレンシャルモード、図3(b)はコモンモードである。
図4図4は、Co-Zr-Nb軟磁性膜を配置した差動線路に、ディファレンシャルモードが生じた場合、コモンモードが生じた場合の実効的な比透磁率を、Co-Zr-Nb軟磁性膜の磁性体固有の比透磁率と比較して示す図である。
図5図5は、差動線路上にCo-Zr-Nb軟磁性膜を配置した場合と配置しない場合との、ディファレンシャルモードおよびコモンモードの透過係数の周波数特性を示す図である。
図6図6は、差動線路上にCo-Zr-Nb軟磁性膜を配置した場合と配置しない場合との、ディファレンシャルモードおよびコモンモードの反射係数の周波数特性を示す図である。
図7図7(a)および図7(b)は、導体線路Aおよび導体線路Bの距離dsを変化させて差動線路上に膜厚tmの磁性膜を配置した場合の、コモンモード抑制周波数の電磁界解析値のコンター図と実測値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態のコモンモードノイズ抑制部材を図面に基づいて説明する。なお、本発明の範囲は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、ディファレンシャルモード信号を伝送する差動線路上およびディファレンシャルモード信号を取り扱う回路上で、何の制限もなく効果を奏するコモンモードノイズ抑制部材である。
また、本明細書における数値範囲の上限値及び下限値は、本発明が特定する数値範囲内
から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本
発明の均等範囲に包含するものとする。
【0015】
図1は、本発明のコモンモードノイズ抑制部材を差動線路に近接配置した状態を示す斜視図であり、図2はその断面図である。図1に示すように、基板C上に、互いに平行した導体線路Aおよび導体線路Bが差動線路として配置されている。ディファレンシャルモード信号を伝送する差動線路上に、磁性体Dを近接して配置する。図1における矢印はコモンモード信号の伝送方向を表している。磁性体Dが、本発明の実施形態のコモンモードノイズ抑制部材を成している。
【0016】
図3は、コモンモードノイズ抑制部材となる磁性体D内部の、導体線路Aおよび導体線路Bからなる差動線路を伝送するディファレンシャルモード信号およびコモンモード信号から形成される磁束分布を模式的に示す断面図である。図3(a)に示すように、ディファレンシャルモードは、一方が紙面に垂直に奥から手前へ、他方が手前から奥へ、電流が流れる差動であり、図3(b)に示すように、コモンモードは、紙面に垂直に手前から奥へ、電流が流れる同相である。電流により形成される磁性体Dの磁界(磁場)は、ディファレンシャルモードとコモンモードとで異なる。よって、磁性体D内部の磁束分布も、ディファレンシャルモードとコモンモードとで異なる。磁性体Dが磁化した状態では磁性体内部に反磁界が発生するが、磁束の経路が異なると、磁性体D内部で生じる反磁界の大きさが異なる。
【0017】
また、差動線路から磁場を付与された磁性体Dは、特定の周波数で強磁性共鳴をし、磁気損失するが、その強磁性共鳴損失の大きさおよび損失が最大となる強磁性共鳴周波数は、磁性体の材料特性に加え、磁性体の形状や磁性体と線路・回路の位置関係によって決定される反磁界の影響を受け変化することが知られている。すなわち、ディファレンシャルモードとコモンモードとで磁性体内部に発生する反磁界の大きさが異なることで、磁性体の強磁性共鳴損失の大きさおよび損失が最大となる強磁性共鳴周波数が異なる。
さらに、強磁性共鳴損失では、コモンモードノイズエネルギー自体を反射させるのではなく、コモンモードノイズエネルギーを磁性体Dに共鳴吸収されることにより熱に変換し、損失させることが可能なため、新たなノイズ問題を生じる可能性が小さい。
【0018】
図4は、Co-Zr-Nb軟磁性膜を配置した差動線路に、ディファレンシャルモードが生じた場合、コモンモードが生じた場合の実効的な比透磁率を、Co-Zr-Nb軟磁性膜の磁性体固有の比透磁率と比較して示す図である。Co-Zr-Nb軟磁性膜は、コモンモードノイズ抑制部材の一例である。図4に示したように、磁性体固有では、比透磁率(Relative Permeability)が0.1GHzにおいて700程度、強磁性共鳴周波数foは1.1GHzである。強磁性共鳴周波数において、磁性体の比透磁率実部は0となり、虚部は最大になる。ここで、虚部は磁性体によるエネルギー吸収を表す。
【0019】
実効的な強磁性共鳴周波数fは、磁性体の形状や磁性体と線路・回路の位置関係によって決定される反磁界のため、材料固有の強磁性共鳴周波数と比較して高い周波数帯域にシフトすることが知られている。また、実効的な強磁性共鳴周波数fは,式(1)により求められることが知られている。
【0020】
【数1】
ここで、μは真空の透磁率である。また、γはジャイロ磁気定数、Mは飽和磁化、Hは異方性磁界であり、これらは材料固有の定数である。Hd_cはコモンモード電流から生じる磁界により磁性体内部で生じる反磁界を表す。ここで、Hd_cは、材料固有の飽和磁化Mと、磁性体の寸法および回路との位置関係で決定する反磁界係数Nd_cとの積で求められる。
コモンモードが生じた場合の実効的な強磁性共鳴周波数fをコモンモードノイズ抑制周波数ともいう。図4におけるコモンモードノイズ抑制周波数は、2.3GHz程度である。
【0021】
差動線路におけるノイズフィルタの評価には、公知のミックスドSパラメータを用いる。図1の導体線路Aおよび導体線路Bにおいて、ミックスドモードSパラメータにより、コモンモードおよびディファレンシャルモードの応答は、|Scc21|はコモンモードのポート1からポート2への透過係数、|Sdd21|はディファレンシャルモードのポート1からポート2への透過係数、|Scc11|はコモンモードのポート1からポート1への反射係数、|Sdd11|はディファレンシャルモードのポート1からポート1への反射係数、で表される。
【0022】
通信周波数帯域、および/又は、コモンモードノイズを抑制したい周波数帯域で、ディファレンシャルモードの透過係数|Sdd21|がコモンモードの透過係数|Scc21|より大きければ、コモンモードノイズ抑制部材として採用することが可能である。効果的にコモンモードノイズを抑制する観点から、コモンモードの挿入損失が大きいことが好ましい。また、ディファレンシャルモードの波形歪等を抑える観点から、ディファレンシャルモードの挿入損失が小さいことが好ましい。
|Sdd21|に対する|Scc21|の比は、個々の設計で要求されるノイズ抑制量や周波数の目標値を考慮して、1未満の値を特に制限なく選択することが可能であるが、ノイズ抑制効果の観点から、0.7程度以下が好ましい。|Sdd21|に対する|Scc21|の比が、0.7程度以下であれば、ノイズ抑制効果は3dB以上となる。
|Sdd21|に対する|Scc21|の比は、小さいほど好ましいが、例えば、0.001程度あれば、十分大きなノイズ抑制効果を達成できているといえる。
上記の周波数帯域で、コモンモードの抑制効果がディファレンシャルモードと比較して大きくなることで、コモンモードノイズ抑制に対する有用性がある。
本発明のコモンモードノイズ抑制部材により、帯域除去フィルタとして、コモンモードノイズ抑制周波数帯域で、ディファレンシャルモード信号の減衰を抑えつつ、選択的にコモンモードノイズを抑制することが可能である。
【0023】
本発明のコモンモードノイズ抑制部材の材料は、強磁性共鳴損失を発現する既存の磁性材料を、特に限定されず用いることが可能である。GHz帯域以上の周波数帯域で、強磁性共鳴損失を発現する磁性材料であればよく、1GHz程度~15GHz程度の周波数帯域において、コモンモードノイズを抑制することが可能である。
【0024】
コモンモードノイズ抑制部材の材料は、コモンモードノイズ抑制周波数で強磁性共鳴現象を発現する軟磁性材料が好ましい。材料は特に限定されないが、例えば、Ni-Fe、Fe-Si、Fe-Si-Al、Fe-Cu-Si、 Fe-B-P、Fe-Si-B-C、Co-Fe-B、Co-Zr-Nb、Co-Cr-Nb、Co-Zr-O、Co-Zl-O等の磁性膜、フェライトや磁性微粒子、磁性微粒子を含む磁性微粒子成形体、磁性シート等が挙げられる。また、これらを複数種類組み合わせても良い。
【0025】
コモンモードノイズ抑制部材の形状は、回路における狭小な空間への実装を考慮すると平面型が好ましい。平面型であれば、ノイズ対策素子を実装するための電極や面積・空間を確保する必要がなく、回路基板の実装の妨げとならない。平面型の磁性体Dの厚さtm、線路および回路と磁性体の距離d、および、平面型の磁性体Dの大きさは、コモンモードノイズ抑制量の目標値や周波数、適用する線路や回路の形状、コモンモードノイズ抑制部材の透磁率などに依存するため、これらの値に応じて適切に選択することが好ましい。
例えば、平面型の磁性体Dの厚さtmは、10nm程度~500μm程度が好ましい。また、線路および回路と磁性体の距離dは、10nm程度~200μm程度が好ましい。また、平面型の磁性体Dの大きさは、差動線路の延伸方向に沿う長さ100μm程度~100mm程度、差動線路の幅方向に沿う長さ100μm程度~100mm程度が好ましい。平面型の磁性体Dの長さはコモンモードノイズ抑制量の目標値に応じて選択でき、幅は少なくとも差動線路を覆う大きさであれば良い。
【0026】
本実施形態にかかるコモンモードノイズ抑制部材の製造方法は、何の制限もなく周知の製造方法を用いることができる。
例えば、蒸着、めっき(化学、電気)、スパッタリング等の薄膜プロセスにより磁性膜を製造する方法が挙げられる。スパッタリングでは、スパッタリングさせる基板の種類は周知の基板材料から特に限定されずに用いることができる。例えば、シリコン基板、ガラス基板など各種セラミック基板等を用いることが可能である。スパッタリングは、例えば、RF照射で行われる。準備した基板にスパッタリングを行うことで、所望の組成を有する軟磁性膜等を成膜する。スパッタリング時の成膜速度および成膜時間を制御することにより、所望の厚さの軟磁性膜が得られる。
また、磁性微粒子成形体とは、磁性微粒子を含む平面型の成形体であればよく、磁性微粒子複合材料を含め、周知の材料を何の制限もなく用いることができる。磁性微粒子の大きさは10nm程度~100μm程度である。磁性微粒子は、例えば、機械的な粉砕、アトマイズ法等により得られる。磁性微粒子成形体の製造方法としては、例えば、磁性微粒子を絶縁性被覆した後バインダー中に分散させ圧縮成形し焼結する方法、薄膜プロセスによる磁性微粒子を含む膜生成方法、磁性微粒子と樹脂によるシート作成方法等が挙げられる。
また、例えば、磁性シートの製造方法としては、軟磁性金属等の磁性体粉末(扁平状粉末)と樹脂を混ぜた原料をカレンダーロール等でプレスしてシート状にする乾式法、軟磁性金属の粉末と樹脂、溶剤の混合液を基材に塗布する湿式法等が挙げられる。なお、磁性シートの薄型化には、塗布工法による湿式法が好ましい。
【0027】
また、図1において、平面型の磁性体Dは、差動線路の上に近接配置されていたが、本発明の効果を奏する範囲であれば、その配置場所に制限はなく、平面型の磁性体Dは差動線路に近接配置されていればよい。例えば、リジッド基板では、基板の上、及び/又は、下に配置してもよく、フレキシブル基板では、基板を巻くように配置してもよい。なお、基板を巻くように磁性体を配置する場合であっても、差動線路を被覆する部分が、概ね平面であればよい。
【0028】
コモンモードノイズの抑制部材として、磁性体の材料特性、形状や磁性体と線路・回路の位置を適切に設計することで、所望の周波数帯域で十分なコモンモードノイズ抑制効果を得ることが可能となる。
【実施例0029】
図1および図2に示すように、比誘電率9.8の低温同時焼成セラミックス製(LTCC)基板C上に、2本の差動線路であるマイクロストリップライン(MSL)からなる導体線路Aおよび導体線路Bを配置した。マイクロストリップライン1本の特性インピーダンスは50Ωである。導体線路Aおよび導体線路Bは、信号線幅ws=100μm、厚さts=3μm、長さ10mmとし、導体線路Aおよび導体線路Bの距離ds=50μmとして並行に配置した。2本の差動線路から距離d=50μm程度で近接するよう磁性体Dを配置した。磁性体Dは、差動線路の延伸方向に沿う長さ4mm*差動線路の幅方向に沿う長さ10mmの平面型の一軸磁気異方性の磁性体膜で、厚さ100nmのSiO基板Eの上にRFスパッタリング法により、(250nmのCo85ZrNb12膜層)/(10nmのSiO層)を4層成膜し、作製した。すなわち、磁性体Dの厚さtmに該当するCo-Zr-Nb磁性膜の総厚は、1.04μmである。
ネットワークアナライザ(N5244A、Keysight Tech.)を用いて、磁性体DのミックスドSパラメータを計測した。ネットワークアナライザより、-5dBmの電力を2本の差動線路のポート1から入力し、ポート1で反射信号を検出し、2本の差動線路のポート2で透過信号を検出した。1本の線路の特性インピーダンスは50Ωである。
【0030】
図5は、差動線路上にCo-Zr-Nb膜を配置した場合と配置しない場合の、ディファレンシャルモードおよびコモンモードにおける透過係数の周波数特性の測定結果を示す図である。
Co-Zr-Nb膜を配置した場合のディファレンシャルモードの透過係数|Sdd21|は、約3GHzで極小値をとり、ディファレンシャルモードの抑制効果が極大となった。一方で、Co-Zr-Nb膜を配置した場合のコモンモードの透過係数|Scc21|は、約2GHzで極小値をとり、コモンモードの抑制効果が極大となった。
これより、0.8GHzから2.5GHz程度の周波数範囲で、コモンモードの抑制効果がディファレンシャルモードと比較して大きくなり、コモンモードノイズ抑制に対する有用性が実験的に示されている。
【0031】
図6は、差動線路上にCo-Zr-Nb膜を配置した場合と配置しない場合の、ディファレンシャルモードおよびコモンモードにおける反射係数の周波数特性の測定結果を示す図である。
コモンモードノイズ抑制周波数帯域である約2.3GHzにおいて、Co-Zr-Nb膜を配置していない場合と配置した場合とで、コモンモードノイズの反射係数|Scc11|およびディファレンシャルモードの反射係数|Sdd11|に大きな変化がないことがわかる。
すなわち、本発明のコモンモードノイズ抑制部材によって、新たなノイズ問題を生じていないことが実験的に示されている。
【0032】
図7(a)および図7(b)は、導体線路Aおよび導体線路Bの距離dsの差動線路上に膜厚tmの磁性膜を配置した場合の、コモンモード抑制周波数の電磁界解析値のコンター図と実測値を示す図である。 磁性膜として、図7(a)では、Co-Zr-Nb軟磁性膜を、図7(b)では、Co-Zr-O軟磁性膜を用いた。電磁界解析は、3次元電磁界(EM)シミュレーションソフトウェアであるAnsys社のHFSSを使用し、実験で用いた線路の寸法および導電率、誘電率ならびに軟磁性膜の寸法および透磁率を用いてコモンモードノイズ抑制効果が最大となる周波数を算出した。
図7(a)および図7(b)より、線路の寸法や磁性材料の寸法および材料を選択することで、コモンモードノイズ抑制周波数を制御することが可能であることが示されている。つまり、本発明のコモンモードノイズの抑制部材は、磁性体の材料特性、形状や磁性体と線路・回路の位置を適切に設計し、所望の周波数でコモンモードノイズ抑制効果を得ることが可能であるといえる。
【符号の説明】
【0033】
導体線路 A B
基板 C
磁性体 D
ガラス板 E
グラウンド F
ポート 1 2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7