(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022071097
(43)【公開日】2022-05-13
(54)【発明の名称】アレルゲン活性の抑制剤およびその用途
(51)【国際特許分類】
A61K 31/353 20060101AFI20220506BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20220506BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
A61K31/353
A23L33/10
A61P37/08
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031570
(22)【出願日】2022-03-02
(62)【分割の表示】P 2020081491の分割
【原出願日】2015-07-24
(31)【優先権主張番号】P 2014151095
(32)【優先日】2014-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】512020464
【氏名又は名称】株式会社プロテクティア
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100194515
【弁理士】
【氏名又は名称】南野 研人
(72)【発明者】
【氏名】開發 邦宏
(72)【発明者】
【氏名】田中 伸幸
(57)【要約】 (修正有)
【課題】安全性を維持し且つアレルゲン活性を抑制できる新たな有効物質を提供する。
【解決手段】化学式(1)で表されるエピガロカテキンガレート誘導体を含む薬剤を調製する。これはアレルゲンの活性を抑制する活性抑制剤として使用できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で表されるエピガロカテキンガレート誘導体、もしくはその異性体またはそれらの塩を含むことを特徴とするアレルゲンのアレルゲン活性の抑制剤:
【化1】
前記化学式(1)において、
R
1~R
6は、
それぞれ水素原子、ハロゲン、ナトリウム、カリウムまたは直鎖もしくは分枝状の飽和もしくは不飽和アシル基であり、同一でも異なっていてもよく、
前記アシル基は、さらに1または複数の置換基で置換されていてもよく、
前記R
1~R
6の少なくとも1つが前記アシル基であり、
R
7~R
16は、水素原子、ハロゲン、ナトリウムまたはカリウムであり、同一でも異なっていてもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルゲン活性を抑制するアレルゲン活性の抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー反応は、一般に、外来物質がアレルゲンとなり引き起こされる過剰な免疫反応である。近年では、特に、ダニおよび花粉等のアレルゲンによってアレルギー症状を引き起こす患者の数が著しく増加している。このため、アレルギー反応を抑制する有効物質の探索は、非常に重要視されている。
【0003】
アレルギー反応は、例えば、次の機序で起こると考えられている。まず、ダニの死骸、糞および花粉等に由来するタンパク質(アレルゲン)が、ヒトの鼻および喉等の粘膜に付着し、リンパ球により異物として認識される。そして、前記リンパ球は、前記アレルゲンを異物として認識すると、IgE抗体を産生し、産生された前記IgE抗体は、肥満細胞の表面のレセプターに結合して提示される。これによって、その後、同じタンパク質が前記粘膜に付着すると、前記タンパク質がアレルゲンとして前記肥満細胞上の前記IgE抗体に作用し、前記肥満細胞からヒスタミン等の化学物質が放出される。そして、これらの化学物質が、アレルギー反応を惹起して、くしゃみ、鼻水・鼻づまり、目のかゆみ、目の充血および涙目等のアレルギー症状を引き起こす。
【0004】
近年、前記アレルギー反応の抑制物質として、カテキン(特許文献1)およびメチル化カテキン類等が報告されている。これらの抑制物質の作用機序は、IgE受容体であるFcεRIの発現抑制等であり、一連のアレルギー反応における一部の反応工程を抑制するものである(非特許文献1)。
【0005】
しかしながら、本願発明者らが確認したところ、実際には、前述のようなカテキンおよびメチル化カテキンでは、アレルゲンによるアレルギー反応の発生を十分に抑制できないことがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Fujimura Y、Tachibana H、Yamada K、「A Tea Catechin Suppresses the Expression of the High-Affinity IgE Receptor FcεRI in Human Basophilic KU812 Cells」、Journal of Agricultural and Food Chemistry、2001年4月、第49巻、第5号、p.2527-2531
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、安全性を維持し且つアレルゲンの活性を抑制できる新たな有効物質の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明のアレルゲン活性の抑制剤は、下記化学式(1)で表されるエピガロカテキンガレート(EGCG)の誘導体、もしくはその異性体またはそれらの塩を含むことを特徴とする。
【化1】
前記化学式(1)中、
R
1~R
6、R
12およびR
14は、それぞれ水素原子、ハロゲン、ナトリウム、カリウムまたは直鎖もしくは分枝状の飽和もしくは不飽和アシル基であり、同一でも異なっていてもよく、前記アシル基は、さらに1または複数の置換基で置換されていてもよく、前記R
1~R
6、R
12およびR
14の少なくとも1つが前記アシル基であり、R
7~R
11、R
13、R
15およびR
16は、水素原子、ハロゲン、ナトリウムまたはカリウムであり、同一でも異なっていてもよい。
【0010】
本発明のアレルゲン活性の抑制方法は、アレルゲンに前記本発明のアレルゲン活性の抑制剤を接触させることを特徴とする。
【0011】
本発明のアレルギー反応の抑制方法は、被検体に前記本発明のアレルゲン活性の抑制剤を投与することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アレルギー反応を、安全且つ効果的に防止できる。このため、本発明は、医療分野、食品衛生分野等において、有用といえる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例1において、ダニアレルゲンに対するEGCG誘導体のアレルゲン活性抑制効果を示すグラフである。
【
図2】本発明の実施例1において、スギアレルゲンに対するEGCG誘導体のアレルゲン活性抑制効果を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施例1において、スギアレルゲンに対するメチル化EGCGのアレルゲン活性抑制効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<アレルゲン活性の抑制剤>
本発明のアレルゲン活性の抑制剤(以下、「活性抑制剤」ともいう。)は、前述のように、下記化学式(1)で表されるエピガロカテキンガレートの誘導体、もしくはその異性体またはそれらの塩を含むことを特徴とする。
【化2】
前記化学式(1)中、
R
1~R
6、R
12およびR
14は、それぞれ水素原子、ハロゲン、ナトリウム、カリウムまたは直鎖もしくは分枝状の飽和もしくは不飽和アシル基であり、同一でも異なっていてもよく、前記アシル基は、さらに1または複数の置換基で置換されていてもよく、前記R
1~R
6、R
12およびR
14の少なくとも1つが前記アシル基であり、R
7~R
11、R
13、R
15およびR
16は、水素原子、ハロゲン、ナトリウムまたはカリウムであり、同一でも異なっていてもよい。
【0015】
なお、前記化学式(1)において、「A~D」は、エピガロカテキンガレートにおける各環の表記である。本発明において、以下、エピガロカテキンガレート、は「EGCG」といい、EGCGの誘導体は、「EGCG誘導体」という。
【0016】
本発明において、「アレルゲン活性の抑制」とは、例えば、アレルゲン本来の活性が抑制されていることの他、アレルゲン活性の失活等であってもよい。
【0017】
本発明において、EGCG誘導体には、例えば、前記化学式(1)で表される化合物の塩、互変異性体、立体異性体、光学異性体、幾何異性体等の異性体、異性体混合物も含まれる。前記塩とは、特に制限されず、例えば、無機酸塩、有機酸塩、無機塩基塩、有機塩基塩、酸性または塩基性アミノ酸塩等があげられる。前記異性体は、例えば、各種クロマトグラフィー等の従来公知の分離方法により、精製することも可能である。また、本発明において、前記EGCG誘導体は、例えば、前記化学式(1)で表される化合物を、酸化、還元、加水分解、抱合等の代謝をうけて、生成する化合物も含む。
【0018】
R1~R6において、前記アシル基の主鎖長は、特に制限されないが、例えば、カルボニル炭素を含み原子数6~18であり、好ましくは12~18であり、より好ましくは12、16または18であり、特に好ましくは、12である。なお、前記アシル基の主鎖長とは、アシル基において最も長い鎖の原子数をいい、例えば、前記炭素原子の他に、窒素原子、硫黄原子、リン原子、酸素原子、ホウ素原子等を含んでもよい。前記アシル基の主鎖長は、例えば、飽和であっても不飽和であってもよい。
【0019】
R1~R6において、前記アシル基の原子数は、特に制限されない。前記アシル基の原子数(例えば、炭素原子数)は、例えば、カルボニル炭素を含み2~20であり、好ましくは4~20、より好ましくは8~18、12~18であり、具体的に、例えば、8、12、16または18が好ましい。なお、前記アシル基が、さらに前記置換基で置換されている場合、前記炭素原子数は、例えば、前記置換基の炭素原子数を含まない数であることが好ましい。また、前記不飽和アシル基は、例えば、シスでもトランスでもよい。
【0020】
前記アシル基としては、特に限定されないが、例えば、ホルミル基(C1)、アセチル基(C2)、プロピオニル基(C3)、ブチリル基(C4)、イソブチリル基(C4)、バレリル基(C5)、イソバレリル基(C5)、ピバロイル基(C5)、ヘキサノイル基(C6)、2-エチルヘキシル基(C8)、オクタノイル基(C8)、ゲラノイル基(3,7-ジメチルオクタ-2,6-ジエノイル基)(C10)、トランス-8-メチル-6-ノネノイル基(C10)、ウンデカノイル基(C11)、ラウロイル基(ドデカノイル基)(C12)、トリデカノイル基(C13)、12-(ジメチルアミノ)ラウロイル基(12-(ジメチルアミノ)ドデカノイル基)(C14)、ファルネソイル基(3,7,11-トリメチルドデカ-2,6,10-トリエノイル基(C15)、パルミトイル基(ヘキサデカノイル基)(C16)、ヘプタデカノイル基(C17)、ステアロイル基(オクタデカノイル基)(C18)、リノレイル基(C18)、リノレニル基(C18)、ノナデカノイル基(C19)、エイコサノイル基(イコサノイル基)(C20)等があげられる。なお、列挙したアシル基のかっこ内の「C」は、カルボニル炭素を含む炭素原子数を示す。
【0021】
前記アシル基の中でも、例えば、下記化学式に示すアシル基等が特に好ましい。下記アシル基のうち不飽和アシル基における不飽和結合の位置は、これらには制限されない。具体例として、トランス-8-メチル-ノネノイル基(C10)の不飽和結合(二重結合)は、以下に示す6位には制限されず、例えば、2~5位および7位のいずれであってもよい。
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
前記アシル基の種類は、特に制限されず、前述のように、不飽和のアシル基、飽和のアシル基のいずれであってもよい。前記アシル基における不飽和結合の数は、特に制限されないが、例えば、1、2、3である。
【0026】
前記化学式(1)において、例えば、R1~R6、R12およびR14のうち、または、R1~R6のうち、いずれか1カ所のみが前記アシル基でもよいし、いずれか2カ所以上が前記アシル基でもよい。2カ所以上が前記アシル基の場合、各部位における前記アシル基は、例えば、同じでもよいし、異なってもよい。前記化学式(1)において、前記アシル基以外のRは、特に制限されず、例えば、水素原子が好ましい。
【0027】
前記化学式(1)において、R1~R6、R12およびR14のうち、または、R1~R6のうち、アシル基の部位は、特に制限されない。具体例として、例えば、B環のR1およびR2ならびにD環のR5およびR6のうち少なくとも1カ所が前記アシル基を有することが好ましく、特に、R1、R2、R5およびR6のうちいずれか1カ所が前記アシル基を有することが好ましい。この際、他のRは、特に制限されず、例えば、水素原子であることが好ましい。
【0028】
また、前記化学式(1)において、B環のR1、R2およびR3のうち少なくとも1カ所が前記アシル基であることが好ましく、より好ましくは、B環のR1、R2およびR3のうち1カ所のみがアシル基であることが好ましい。前記化学式(1)において、D環のR4、R5およびR6のうち少なくとも1カ所が前記アシル基であることが好ましく、より好ましくは、D環のR4、R5およびR6のうち1カ所のみがアシル基であることが好ましい。
【0029】
前記化学式(1)において、B環は、例えば、B環とC環との間の単結合を軸に回転する。このため、R1にアシル基を有する誘導体は、例えば、R3にアシル基を有する誘導体と実質的に同一である。また、前記化学式(1)において、D環は、例えば、D環とエステルとの間の単結合を軸に回転する。このため、R6にアシル基を有する誘導体は、例えば、R4にアシル基を有する誘導体と実質的に同一である。
【0030】
前記化学式(1)において、「R
7~R
11、R
13、R
15およびR
16」、または、「R
7~R
16」は、前述のように、水素原子、ハロゲン、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)であり、同一でも異なっていてもよく、例えば、下記化学式(2)に示すように、水素原子であることが好ましい。下記化学式(2)において、例えば、R
1~R
6のいずれが前記アシル基であってもよい。具体例として、例えば、R
1~R
6のうち、いずれか1カ所のみまたは2カ所以上が、前述したアシル基であることが好ましく、より好ましくは、R
1、R
2、R
5およびR
6のうち、いずれか1カ所のみまたは2カ所以上が、前述したアシル基であることが好ましい。
【化6】
【0031】
前記化学式(1)のR1~R6において、前記アシル基は、前述のように、1または複数の置換基で置換されてもよく、具体的には、例えば、前記アシル基の水素原子が、前記置換基で置換されてもよい。前記置換基は、特に制限されず、例えば、アルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基およびジアルキルアミノ基等があげられる。
【0032】
前記アルキル基は、例えば、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝アルキル基があげられ、好ましくはメチル基である。また、前記アルキルアミノ基におけるアルキル基としては、例えば、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝アルキル基があげられ、好ましくはメチルアミノ基である。前記ジアルキルアミノ基におけるアルキル基としては、例えば、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝アルキル基があげられ、好ましくはジメチルアミノ基である。これらは、同一でも異なっていてもよい。
【0033】
置換基等が鎖状構造を有する基の場合、具体的に、例えば、アルキル基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルコキシ基、カルボキシアルキル基、アルコキシカルボニルアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケノキシアルキル基等の場合、特に制限されず、直鎖状でも分枝状でもよい。置換基等の一部に鎖状構造を含む場合、例えば、置換アルキル基または置換アリール基等における置換基が鎖状構造を含む場合も同様である。置換基等に異性体が存在する場合、特に制限されず、どの異性体でもよい。例えば、単に「プロピル基」という場合、n-プロピル基およびイソプロピル基のどちらでもよく、単に「ブチル基」という場合、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基およびtert-ブチル基のいずれでもよく、単に「ナフチル基」という場合、1-ナフチル基および2-ナフチル基のどちらでもよい。
【0034】
本発明において、「ハロゲン」とは、任意のハロゲン元素を指す。前記ハロゲンは、例えば、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素があげられる。また、本発明において、「アルキル基」とは、特に限定されない。前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等があげられる。アルキル基を構造中に含む基またはアルキル基から誘導される基(アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルコキシ基、カルボキシアルキル基、アルコキシカルボニルアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケノキシアルキル基等)についても同様である。
【0035】
本発明における前記EGCG誘導体が、例えば、前記式(1)または前記式(2)において、R1、R2、R5およびR6のうち、いずれか1カ所のみに前記アシル基を有する場合、前記アシル基は、例えば、以下のようなアシル基が好ましい。この場合、R1、R2、R5およびR6のうち、前記アシル基以外は、例えば、水素、ハロゲン、および、Na、K等のアルカリ金属等があげられる。
【0036】
第1の形態として、前記アシル基が直鎖の飽和アシル基の場合、例えば、主鎖の炭素数は、8~18の範囲、12~18の範囲が好ましく、具体例としては、主鎖の炭素数12、16または18のアシル基があげられる。第1の形態は、例えば、アレルゲンがダニおよび花粉等に適している。
【0037】
第2の形態として、前記アシル基が不飽和アシル基の場合、例えば、主鎖の炭素数は、12~18の範囲が好ましく、不飽和結合は、二か所に-C=C-を有することが好ましく、具体例としては、主鎖の炭素数が18であり、二か所に-C=C-を有するアシル基があげられる。第2の形態は、例えば、アレルゲンがダニおよび花粉等に適している。
【0038】
第3の形態として、前記アシル基が分岐の飽和アシル基の場合、例えば、主鎖の炭素数は、6~20の範囲が好ましく、分岐鎖の炭素数は、1~4の範囲が好ましく、分岐鎖の数は、1~3が好ましく、具体例としては、主鎖の炭素数が6であり、分岐鎖の炭素数が1であり、分岐鎖の数が2であるアシル基があげられる。
【0039】
本発明における前記EGCG誘導体が、例えば、前記式(1)または前記式(2)において、R1、R2、R5およびR6のうち、いずれか2カ所のみに前記アシル基を有する場合、前記アシル基は、例えば、以下のようなアシル基が好ましい。この場合、R1、R2、R5およびR6のうち、前記アシル基以外は、例えば、水素、ハロゲン、および、Na、K等のアルカリ金属等があげられる。
【0040】
第4の形態として、前記アシル基が直鎖の飽和アシル基の場合、例えば、2カ所の各アシル基は、主鎖の炭素数が、8~18の範囲が好ましく、具体例としては、主鎖の炭素数8のアシル基があげられる。第4の形態は、例えば、アレルゲンがダニおよび花粉等に適している。
【0041】
本発明におけるEGCG誘導体は、例えば、1種類でもよいし、2種類以上を併用してもよい。例えば、R1~R6のうち異なる部位にアシル基を有する2種類以上のEGCG誘導体でもよいし、異なるアシル基を有する2種類以上のEGCG誘導体でもよい。具体例として、B環のR1が前記アシル基であるEGCG誘導体、R2が前記アシル基であるEGCG誘導体、R3が前記アシル基であるEGCG誘導体のうち、いずれか2種類以上、または、3種類全てを含む混合物であってもよく、D環のR4が前記アシル基であるEGCG誘導体、R5が前記アシル基であるEGCG誘導体、R6が前記アシル基であるEGCG誘導体のうち、いずれか2種類以上、または、3種類全てを含む混合物であってもよい。また、B環のR1~R3の少なくともいずれかが前記アシル基であるEGCG誘導体と、D環のR4~R6の少なくともいずれかが前記アシル基であるEGCG誘導体との混合物であってもよい。
【0042】
本発明の活性抑制剤は、前述のようにアレルゲンに対して使用できる。前記アレルゲンは、例えば、ヒトおよび非ヒト動物に対してアレルギー反応を引き起こす原因となるものであり、特に制限されない。前記アレルゲンの具体例は、例えば、ハウスダスト、花粉、昆虫由来タンパク質ならびに植物由来タンパク質等があげられる。ハウスダストは、例えば、動物の皮膚(フケを含む);ダニ、その虫体、その死骸およびその糞;カビならびに細菌等があげられる。前記動物は、例えば、ヒト、またはイヌおよびネコ等の非ヒト動物があげられる。前記ダニは、例えば、コナヒョウヒナニ等のヒョウヒダニ(チリダニ)類、ケナガコナダニ等のコナダニ類、フトツメダニ等のツメダニ類、イエダニ等のイエダニ類等があげられる。前記花粉は、例えば、スギ等のヒノキ科、ブタクサおよびヨモギ等のキク科、マツ等のマツ科、イネ等のイネ科等の植物の花粉があげられる。前記昆虫由来タンパク質は、例えば、ゴキブリ等のタンパク質があげられる。前記植物由来タンパク質は、例えば、ダイズ、卵、牛乳等のタンパク質があげられる。
【0043】
本発明の活性抑制剤は、例えば、アレルギー反応の発症の予防ならびにアレルギー反応の治療に使用することができる。具体的には、例えば、アレルゲンと前記活性抑制剤とを接触させることによって、前記アレルゲンの活性を抑制し、その結果、アレルギー反応の発症の抑制等を行うことができる。
【0044】
本発明の活性抑制剤は、前記EGCG誘導体を含んでいればよく、その形態は何ら制限されない。前記形態としては、例えば、溶液や分散液等の液体、固体、粉末等があげられる。また、剤形は、特に制限されず、例えば、使用方法に応じて適宜設定でき、例えば、液剤、カプセル剤、錠剤、粒剤(細粒剤)、散剤等があげられる。
【0045】
前記使用方法としては、例えば、アレルギー反応を生じる可能性がある被検体に前記活性抑制剤を投与する方法があげられる。前記被検体は、例えば、アレルゲンによりアレルギー反応を生じる可能性がある動物である。前記投与方法は、特に制限されず、非経口投与、経口投与があげられる。前記非経口投与としては、例えば、経皮投与、腹腔内投与、静脈注射等の静脈内投与、筋肉投与、皮下注射等の皮下投与、直腸投与等があげられ、好ましくは、経皮投与である。前記経皮投与は、特に制限されず、例えば、皮膚の他、粘膜等も含まれる。本発明の活性抑制剤は、例えば、これらの投与形態に応じて、例えば、前記EGCG誘導体を含む塗り薬、点鼻薬、鼻腔塗布薬、鼻腔洗浄薬、口腔洗浄薬、うがい薬、舌下剤、内服薬、手指等の消毒剤等として投与でき、また、EGCG誘導体もしくはそれを含む溶液または分散液として、ネブライザー、吸引器、注射等を用いて投与できる。また、前記EGCG誘導体またはそれを含む粉末として、例えば、ネブライザー、吸引器等を用いて投与できる。
【0046】
前記動物は、例えば、ヒト、または非ヒト動物があげられる。前記非ヒト動物は、例えば、ブタ、フェレット、ラット、マウス、ウシ等の非ヒト哺乳類、アヒル、ニワトリ等の鳥類等があげられる。
【0047】
前記本発明の活性抑制剤は、例えば、前記動物等の被検体とアレルゲンとが接触する前に、前記被検体と接触させてもよいし、前記被検体と前記アレルゲンとが接触した後に、前記被検体と接触させてもよい。アレルゲン活性の抑制により前記被検体におけるアレルギー反応の発症をより効果的に抑制できることから、前者のように、前記被検体と前記アレルゲンとが接触する前に、前記被検体と前記活性抑制剤とを接触させることが好ましい。
【0048】
前記使用方法としては、その他に、例えば、アレルゲンが存在する可能性がある被検体を前記活性抑制剤で処理する方法があげられ、前記被検体は、例えば、アレルゲンが存在する可能性がある環境であり、後述するようなものが例示される。この場合、本発明の活性抑制剤は、例えば、前記EGCG誘導体を含む手洗い剤、ふき取り剤、洗濯剤等の洗浄剤の形態があげられる。このように、本発明の活性抑制剤によって、例えば、手および机等、アレルゲンが存在すると思われる箇所を処理することで、存在するアレルゲンの活性を抑制し、アレルギー反応の発症の予防を図ることも可能である。また、本発明の活性抑制剤を、例えば、衣類;布団および枕等の寝具;畳、カーペット、机、椅子、ベッド等の家具、ならびにマスク等に担持させてもよい。その他にも、本発明の活性抑制剤で、例えば、エアコンまたは空気洗浄機中のフィルターを処理してもよい。この場合、例えば、本発明の活性抑制剤を前記フィルターに担持させてもよいし、本発明の活性抑制剤で前記フィルターを洗浄してもよい。
【0049】
また、前記被検体は、例えば、前記動物の生体そのものでもよいし、前記生体から採取した細胞および組織、それらの培養物でもよい。前記被検体が、例えば、前記細胞、組織等の場合、前記活性抑制剤の投与方法は、特に制限されず、例えば、培地等への添加があげられる。
【0050】
本発明の活性抑制剤において、前記EGCG誘導体の含有量は、特に制限されず、例えば、使用目的や使用方法に応じて適宜決定できる。本発明の活性抑制剤がうがい薬の場合、例えば、一回あたり10~100μmolの前記EGCG誘導体を含むことが好ましい。また、本発明の活性抑制剤が点鼻薬の場合、例えば、一回あたり10~100μmolの前記EGCG誘導体を含むことが好ましい。
【0051】
本発明の活性抑制剤は、例えば、その剤形や使用方法に応じて、適宜、添加剤や基剤等をさらに含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、乳化剤、界面活性剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤、吸収促進剤等があげられる。これらの添加割合は、特に制限されず、前記EGCG誘導体の効果を損なわない範囲で添加することができる。
【0052】
本発明の活性抑制剤は、さらに、その他の抗アレルゲン活性を有する剤を含んでもよく、具体例としては、例えば、タンニン酸等の有機系抗アレルゲン剤、ゼオライト、銀等の無機系抗アレルゲン剤等があげられる。また、これらは、本発明の活性抑制剤に含まれてもよいし、本発明の活性抑制剤と併用してもよい。
【0053】
本発明におけるEGCG誘導体の製造方法は、特に制限されない。前記方法としては、例えば、有機合成法、酵素等を利用する化学合成法等、従来公知の方法が採用できる。前記酵素を利用する化学合成法としては、特に制限されないが、例えば、WO2007/105280に開示された、リパーゼを利用する方法があげられる。すなわち、有機溶媒中、EGCGとアシル基供与体とを基質としてリパーゼにより酵素反応を行い、EGCGをアシル化する方法である。この方法によれば、例えば、EGCGを選択的にアシル化することができる。なお、以下に、一例として、リパーゼを使用する方法を例示するが、本発明は、EGCG誘導体の製造方法には、何ら制限されない。
【0054】
前記リパーゼとしては、例えば、IUB No.3.1.1.3.のリパーゼが使用できる。具体例として、Aspergillus niger等のAspergillus属由来リパーゼ;Candida rugosa、Candida cylindracea、Candida antarctica等のCandida属由来リパーゼ;Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas cepacia、Pseudomonas stutzeri等のPseudomonas属由来リパーゼ;Alcaligenes属由来リパーゼ;Burkholderia cepacia等のBurkholderia属由来リパーゼ;ブタ膵臓由来のリパーゼ等があげられる。これらは、従来公知の方法により調製することもできるが、例えば、Lipase AS“AMANO”、Lipase AYS“AMANO”、Lipase PS“AMANO”、Lipase AK“AMANO”20、Lipase AH“AMANO”(全て商品名:天野エンザイム社製)、Lipase MY、Lipase OF、Lipase PL、Lipase PLC、Lipase PLG、Lipase QLM、Lipase QLC、Lipase QLG、Lipase SL、Lipase TL(全て商品名:名糖産業社製)、Lipase PPL、L4777 Lipase acrylic resin from Candida Antarctica、L3126 Lipase from porcine pancreas(全て商品名:シグマアルドリッチ社製)等の市販品も使用できる。なお、各市販品の物理化学的性質は、それぞれの商品説明書に記載の通りであり、同様の物理化学的性質を示す酵素も同様に使用できる。
【0055】
また、以下に示すような(1)~(8)の何れかの物理化学的特性および酵素学的特性を有するリパーゼであってもよい。
(1)分子量35,000、等電点4.10(例えば、Aspergillus niger由来)
(2)分子量64,000、等電点4.30、80℃10分間の処理で不活性化(例えば、Candida rugosa由来)
(3)至適pH8、至適温度60℃、pH4~10の範囲で特に安定、70℃以下で特に安定(例えば、Pseudomonas fluorescens由来)
(4)分子量60,000、至適pH6~7、pH安定性3~8、至適温度40~50℃、37℃以下において溶液状態で特に安定(例えば、Candida cylindracea由来、Candida rugosa由来)
(5)分子量30,000、等電点4.5、至適pH8~9.5、pH安定性7~10、至適温度50℃、40℃以下において特に安定(例えば、Alcaligenes属由来)
(6)分子量31,000、等電点4.9、至適pH7~9、pH安定性6~10、至適温度65~70℃、50℃以下において特に安定(例えば、Alcaligenes属由来)
(7)分子量31,000、等電点5.2、至適pH7~9、pH安定性6~10、至適温度65~70℃、60℃以下において特に安定(例えば、Pseudomonas cepacia由来、Burkholderia cepacia由来)
(8)分子量27,000、等電点6.6、至適pH7~8、pH安定性6~9、至適温度50℃、40℃以下において特に安定(例えば、Pseudomonas stutzeri由来)
【0056】
前記有機溶媒としては、特に制限されず、例えば、アセトニトリル、アセトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が使用できる。また、例えば、疎水性を示すパラメータ(logP値)が-0.35~0.28の範囲の有機溶媒でもよく、このような有機溶媒としては、前述のアセトニトリル(logP値:-0.45~0.19)、アセトン(logP値:-0.16~0.19)、DMF(logP値:-1.01~0.28)、DMSO(logP値:-1.35~0.28)があげられる。これらの他にも、前記パラメータを満たす従来公知の溶媒が使用できる。前記logPは、溶媒固有の値であるため、当該技術分野における当業者であれば、前記パラメータを満たす溶媒を選択することが可能である。なお、logPとは、目的物質をオクタノールと水との混合溶液に添加し、平衡に達した時のオクタノール層と水層とにおける前記目的物質の濃度比を常用対数で表示したものであり、前述のように、物質の疎水性を示すパラメータとして一般的である。
【0057】
本発明において、アシル基(R-CO-)供与体としては、例えば、カルボン酸ビニルエステル(R-CO-O-CH=CH2)があげられる。なお、前記アシル基としては、前述のような直鎖もしくは分枝状の飽和もしくは不飽和アシル基があげられる。
【0058】
前記酵素反応溶液にDMFを用いた場合、EGCGの添加割合は、特に制限されないが、例えば、0.2~100mmol/Lであり、好ましくは0.5~50mmol/L、より好ましくは0.5~20mmol/Lである。アシル基供与体の添加割合は、特に制限されず、例えば、反応液におけるEGCGの添加割合に応じて適宜決定できる。具体例として、EGCGとアシル基供与体との添加割合(モル比)は、例えば、1:1~1:10であり、好ましくは1:1~1:5、より好ましくは1:1~1:3である。また、反応液におけるリパーゼの添加割合は、例えば、EGCGやアシル基供与体の添加割合、リパーゼの比活性等に応じて適宜決定でき、特に制限されないが、例えば、EGCG1mmol/Lに対して、例えば、500~50,000U/Lであり、好ましくは500~5,000U/L、より好ましくは1,000~2,500U/Lである。
【0059】
酵素反応の条件は特に制限されないが、反応温度は、例えば、45~75℃の範囲である。前記反応時間は、例えば、基質や酵素の量によって適宜決定でき、特に制限されないが、例えば、30分~24時間(1440分)であり、好ましくは1時間(60分)~3時間(180分)、より好ましくは1.5時間(90分)~3時間(180分)である。
【0060】
前記反応液には、さらに、塩基性触媒を添加してもよい。前記塩基性触媒としては、例えば、トリエチルアミン等の3級アミン、ピリジン等があげられる。反応液における塩基性触媒の添加割合は、特に制限されないが、例えば、5~720mmol/Lであり、好ましくは12~240mmol/L、より好ましくは12~48mmol/Lである。
【0061】
EGCGにおいて前記アシル基が導入される位置は、例えば、使用するリパーゼの種類によって選択できる。また、EGCGに導入するアシル基の数は、例えば、使用する有機溶媒の種類や反応時間によって決定することが可能である。例えば、有機溶媒の疎水性が相対的に高い程(親水性が相対的に低い程)、導入されるアシル基の数を相対的に低減でき、有機溶媒の親水性が相対的に高い程(疎水性が相対的に低い程)、導入されるアシル基の数を相対的に増加できる。また、二種類以上の有機溶媒を混合して用いることによっても、導入されるアシル基の数を調節することができる。具体例としては、例えば、1個のアシル基を導入する際には、アセトニトリル等を使用することが好ましく、例えば、1~2個のアシル基を導入する際には、アセトン、アセトニトリル等を使用することが好ましく、例えば、3~5個のアシル基を導入する際には、DMSO、DMF等を使用することが好ましい。
【0062】
さらに、同じ有機溶媒を用いる場合でも、温度時間や反応温度の制御と組合せること等によって、導入するアシル基数を調節することもできる。以下にその例を示すが、これには限定されない。DMFを使用する場合、例えば、反応温度を約57℃~約70℃の範囲に設定し、反応温度を長くする(例えば、約3~5時間)ことによって、EGCGに2個のアシル基が選択的に導入された誘導体を優先的に得ることができ、他方、反応温度を低下させ(例えば、57℃から約5℃低い温度)、反応時間を短くする(例えば、約1~3時間)ことによって、1個のアシル基を選択的に導入することができる。また、アセトンとDMFを同量(質量)混合した混合溶媒を使用することによっても、EGCGに1個のアシル基を選択的に導入することができる。
【0063】
また、導入するアシル基の数は、反応液に前述の塩基性触媒を添加することによって増加させることができる。この場合、EGCGにおけるどの部位にアシル基がさらに導入されるかは、例えば、リパーゼの位置選択性に依存する。
【0064】
前記酵素反応によるEGCG誘導体の収率は、例えば、反応温度を相対的に高く設定することによって、相対的に向上させることができる。反応温度は、通常、前述のように、45~75℃であるが、収率向上の点から、好ましくは57~75℃であり、より好ましくは57~70℃である。特に、反応温度が、57~70℃の場合、前記EGCGアシル化誘導体の収率は、約35~45%を実現することが可能である。なお、前記収率とは、反応に使用したEGCGを100%とした場合のEGCGアシル化誘導体(例えば、全モノアシル化誘導体)の割合(変換効率)を意味する。
【0065】
本発明において、EGCG誘導体は、例えば、前述のように、いずれか一種類を用いてもよいし、二種類以上の混合物を用いてもよい。前記混合物から一種類のEGCG誘導体を単離する場合は、例えば、クロマトグラフィー等を用いる従来公知の方法により、調製可能である。
【0066】
<アレルゲン活性の抑制方法>
本発明のアレルゲン活性の抑制方法は、前述のように、アレルゲンに前記本発明の活性抑制剤を接触させることを特徴とする。本発明の抑制方法は、前記本発明の活性抑制剤を使用することが特徴であって、その他の構成や条件等は、何ら制限されない。前記本発明の活性抑制剤およびその使用方法等は、例えば、前述と同様であり、全て援用できる。
【0067】
本発明において、前記アレルゲンと前記活性抑制剤の接触方法は、特に制限されない。前述ように、例えば、被検体に投与して、前記動物が有する前記アレルゲンと前記活性抑制剤を接触させてもよいし、前記アレルゲンが存在する可能性がある被検体を前記活性抑制剤で処理することにより、前記アレルゲンと前記活性抑制剤とを接触させてもよい。前者において、前記被検体は、例えば、前述のような、動物(ヒトまたは非ヒト動物)であり、後者において、前記被検体は、例えば、アレルゲンが存在する可能性がある環境であり、具体例として、前述の衣類、寝具等の例示が援用できる。
【0068】
<アレルギー反応の抑制方法>
本発明のアレルギー反応の抑制方法は、前述のように、被検体に前記本発明の活性抑制剤を投与することを特徴とする。本発明は、前記本発明の活性抑制剤を使用することが特徴であって、その他の構成や条件等は、何ら制限されない。前記本発明の活性抑制剤およびその使用方法等は、例えば、前述と同様であり、全て援用できる。また、本発明のアレルギー反応の抑制方法は、例えば、前記本発明のアレルゲン活性の抑制方法における記載も援用できる。
【0069】
本発明のアレルギー反応の抑制方法は、例えば、前記本発明の活性抑制剤を投与することにより、前記被検体におけるアレルギー反応に由来する疾患を治療できる。このため、本発明のアレルギー反応の抑制方法は、例えば、アレルギー性疾患の治療方法ということもできる。本発明において、「治療」は、例えば、前記疾患の予防、前記疾患の改善、前記疾患の予後の改善の意味を含み、いずれでもよい。
【0070】
前記アレルギー性疾患は、特に制限されず、例えば、花粉症、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、動物アレルギー、食物アレルギー、ゴキブリ等の昆虫に対する昆虫アレルギー、ハウスダストアレルギー等があげられる。
【0071】
前記被検体に対する前記活性抑制剤の投与時期は、特に制限されず、例えば、アレルゲンと接触する前でもよいし、アレルゲンと接触した後でもよい。
【0072】
<アレルギー活性の抑制剤の使用>
本発明は、アレルギー反応を抑制するための前記本発明の活性抑制剤の使用、アレルギー性疾患を治療するための前記本発明の活性抑制剤の使用である。また、本発明は、アレルギー反応用医薬の製造のための前記本発明の活性抑制剤の使用、アレルギー性疾患用医薬の製造のための前記本発明の活性抑制剤の使用である。
【実施例0073】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記実施例により制限されない。
【0074】
化合物として、実施例に該当するアシル化EGCG誘導体、比較例に該当するEGCGおよびメチル化カテキンを準備した。
【0075】
(1)アシル化EGCG誘導体
下記化学式(2)において、R
1~R
6のいずれか一カ所または二か所が以下のアシル基であるEGCG誘導体を使用した(全て、プロテクティア社製)。なお、アシル基以外のR
1~R
6は、水素原子とした。
【化7】
【0076】
【0077】
EGCG-C12、EGCG-C16、EGCG-C18、EGCG-C18DEおよびEGCG-EHは、それぞれ、R1のアシル化誘導体、R2のアシル化誘導体、R5のアシル化誘導体およびR6のアシル化誘導体の4種類の混合物である。また、EGCG-C8×2は、R1とR5とのアシル化誘導体、R1とR6とのアシル化誘導体、R2とR5とのアシル化誘導体、R2とR6とのアシル化誘導体、R1とR2とのアシル化誘導体、R1とR3とのアシル化誘導体、R4とR5とのアシル化誘導体およびR4とR6とのアシル化誘導体の8種類の混合物である。
【0078】
(2)EGCG
前記化学式(2)において、R1~R6が全て水素原子(非アシル基)である天然型のEGCG(商品名サンフェノンEGCG、太陽化学株式会社製)を使用した。
【0079】
(3)メチル化カテキン
前記式(2)において、R5のみがメチル基(非アシル基)であるモノメチル化カテキン(プロテクティア社製)、および、R2およびR5がメチル基であるジメチル化カテキン(プロテクティア社製)を用いた。なお、メチル基以外のR1~R6は、水素原子とした。
【0080】
[実施例1]
アシル化EGCG誘導体について、各種アレルゲンに対する活性抑制能を確認した。
(1)ダニアレルゲン活性の抑制試験
コナヒョウダニ抽出物(商品名Mite Extract Df、コスモ・バイオ社製)を、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオン未含有のDulbeccoリン酸生理緩衝液(D-PBS(-)、和光純薬製)で終濃度100μg/mLになるよう希釈して、ダニアレルゲン溶液を調製した。また、10mmol/Lの前記アシル化EGCG誘導体を含むDMSO溶液を、リン酸生理緩衝液(PBS)で終濃度111μmol/Lになるよう希釈して、実施例サンプルを調製した。
【0081】
前記ダニアレルゲン溶液50μLと前記サンプル450μLとをチューブ内で混合し、これを室温で2時間インキュベートした。その後、前記混合液に残存するダニアレルゲン活性を、ダニアレルゲン測定用ELISAキット(商品名ダニアレルゲン(Derf1)測定キット、ニチニチ製薬社製)を用いて測定した。前記キットによる測定は、使用説明書に従って行った。
【0082】
また、コントロールは、前記実施例サンプルに代えてPBSまたは1%DMSO溶液(以下、1%DMSOという)をコントロールサンプルとして使用し、同様にして、ダニアレルゲン活性を測定した。比較例は、前記実施例サンプルに代えて天然EGCGを比較例サンプルとして使用し、同様にしてサンプルを調製して、ダニアレルゲン活性を測定した。
【0083】
そして、前記コントロールのダニアレルゲン活性を100%として、前記実施例および比較例のダニアレルゲン活性の相対値(%)をそれぞれ算出し、これをダニアレルゲン活性残存率(%)とした。本実施例においては、1サンプルごとに2回の測定を個別に行い、平均値を結果とした。
【0084】
これらの結果を、
図1に示す。
図1は、ダニアレルゲンのアレルゲン活性残存率(%)を示すグラフである。
図1において、Y軸が、アレルゲン活性残存率(%)であり、C12は、EGCG-C12、C16は、EGCG-C16、C18は、EGCG-C18、C18DEは、EGCG-C18DE、EHは、EGCG-EH、C8×2は、EGCG-C8×2の結果を示す。
図1において、ダニアレルゲン活性残存率が低いほど、サンプルによるダニアレルゲンの活性抑制効果が優れることを意味する。
図1に示すように、天然のEGCGは、ダニアレルゲンに対して活性抑制効果をほとんど示さなかったのに対し、EGCG誘導体(C12、C16、C18、C18DE、EH、C8×2)は、それぞれ、ダニアレルゲンに対して有意な活性抑制効果を示した。中でも、C12およびC18DEは、ダニアレルゲンに対する非常に優れた活性抑制効果を示し、特にC12は、ダニアレルゲン活性を約10%にまで抑制しており、極めて優れていることがわかった。
【0085】
(2)スギアレルゲン活性の抑制試験
スギ花粉抗原(商品名精製スギ花粉抗原 Cryj1、フナコシ社製)を、前記D-PBS(-)で終濃度500ng/mLになるよう希釈して、スギアレルゲン溶液を調製した。また、前記(1)で調製した、前記アシル化EGCG誘導体の実施例サンプルを使用した。
【0086】
前記スギアレルゲン溶液50μLと前記サンプル450μLとをチューブ内で混合し、これを室温で2時間インキュベートした。その後、前記混合液に残存するスギアレルゲン活性を、スギ花粉抗原測定用ELISAキット(商品名スギ花粉抗原(Cryj1)測定キット、ニチニチ製薬社製)を用いて測定した。前記キットによる測定は、使用説明書に従って行った。また、コントロールおよび比較例は、前記(1)と同様とした。
【0087】
これらの結果を、
図2に示す。
図2は、スギアレルゲンのアレルゲン活性残存率(%)を示すグラフである。
図2において、Y軸が、アレルゲン活性残存率(%)であり、C12は、EGCG-C12、C16は、EGCG-C16、C18は、EGCG-C18、C18DEは、EGCG-C18DE、C8×2は、EGCG-C8×2の結果を示す。
図1において、スギアレルゲン活性残存率が低いほど、サンプルによるスギアレルゲンに対する活性抑制効果が優れることを意味する。
図2に示すように、天然のEGCGは、スギアレルゲンに対する活性抑制効果をほとんど示さなかったのに対し、EGCG誘導体(C12、C16、C18、C18DE、C8×2)は、それぞれ、スギアレルゲンに対して有意な活性抑制効果を示した。
【0088】
また、比較例として、前記アシル化EGCG誘導体にかえて、抗アレルギー効果が報告されている前記メチル化カテキンを用いて、スギアレルゲンに対する活性抑制能を確認した。この比較例サンプルは、前記アシル化EGCG誘導体に代えて、前記メチル化カテキン(モノメチル化カテキンまたはジメチル化カテキン)を使用し、終濃度を50μmol/Lまたは100μmol/Lとした以外は、前記実施例サンプルと同様にして調製した。そして、前記比較例サンプルを用いて、前述と同様にして、スギアレルゲン活性を測定し、アレルゲン活性残存率を求めた。なお、アレルゲン活性残存率は、1%DMSOのアレルゲン活性を100%として、相対値(%)を求めた。
【0089】
これらの結果を、
図3に示す。
図3は、スギアレルゲン活性残存率(%)を示すグラフである。
図3において、Y軸が、アレルゲン活性残存率(%)であり、mM EGCGは、モノメチル化カテキン、dM EGCGは、ジメチル化カテキンであり、μM(μmol/L)は、サンプルにおけるメチル化カテキンの濃度を示す。
図3において、スギアレルゲン活性残存率が低いほど、スギアレルゲンに対する活性抑制効果が優れることを意味する。
図3に示すように、メチル化カテキンは、いずれの濃度においても、アレルゲン活性残存率が100%を超え、アレルゲンに対する活性抑制効果を示さなかった。