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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022071183
(43)【公開日】2022-05-13
(54)【発明の名称】哺乳動物細胞の保存液
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/04 20060101AFI20220506BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALN20220506BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20220506BHJP
【FI】
C12N1/04
C12N5/0775
C12N5/0783
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036343
(22)【出願日】2022-03-09
(62)【分割の表示】P 2021507298の分割
【原出願日】2020-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2019047852
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】515062289
【氏名又は名称】株式会社メガカリオン
(71)【出願人】
【識別番号】000149435
【氏名又は名称】株式会社大塚製薬工場
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】富塚 順子
(72)【発明者】
【氏名】重盛 智大
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 奈月
(72)【発明者】
【氏名】竹縄 太一
(72)【発明者】
【氏名】白川 智景
(72)【発明者】
【氏名】西村 益浩
(72)【発明者】
【氏名】藤田 泰毅
(72)【発明者】
【氏名】澤本 修
(57)【要約】
【課題】本発明は、間葉系幹細胞等の幹細胞又はT細胞等の免疫細胞を長期間保存するための保存液を提供することを課題とする。
【解決手段】10~5000mg/Lのナイアシン又はその塩、10~8000mg/Lのアスコルビン酸又はその塩、及びトレハロースを乳酸リンゲル液等の等張液中に含む、幹細胞又は免疫細胞を、0~40℃で、1~63日間保存する。上記等張液には、さらにデキストランを含めることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
10~5000mg/Lのナイアシン又はその塩、10~8000mg/Lのアスコルビン酸又はその塩、及びトレハロースを等張液中に含む、幹細胞又は免疫細胞を、0~40℃で、1~63日間保存するための、保存液。
【請求項2】
幹細胞が、間葉系幹細胞である、請求項1に記載の保存液。
【請求項3】
免疫細胞が、T細胞である、請求項1に記載の保存液。
【請求項4】
等張液が、乳酸リンゲル液である、請求項1~3のいずれかに記載の保存液。
【請求項5】
さらにデキストランを含む、請求項1~4のいずれかに記載の保存液。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の保存液を調製するための粉末製剤。
【請求項7】
10~5000mg/Lのナイアシン又はその塩、10~8000mg/Lのアスコルビン酸又はその塩、及びトレハロースを含む等張液中で、0~40℃で、1~63日間幹細胞又は免疫細胞を保存する工程を含む、幹細胞又は免疫細胞の保存方法。
【請求項8】
幹細胞が、間葉系幹細胞である、請求項7に記載の保存方法。
【請求項9】
免疫細胞が、T細胞である、請求項7に記載の保存方法。
【請求項10】
等張液が、乳酸リンゲル液である、請求項7~9のいずれかに記載の保存方法。
【請求項11】
等張液中にさらにデキストランを含む、請求項7~10のいずれかに記載の保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスコルビン酸若しくはその誘導体又はそれらの塩、及びトレハロースを等張液中に含む哺乳動物細胞の保存液や、該保存液を用いた哺乳動物細胞の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血小板製剤は、手術や創傷による出血時の他、血小板の減少を伴う患者に対して投与される。現在、血小板製剤は献血により得られた血液から製造されているが、人口構成の変化に伴って献血量が低減し、血小板製剤が不足することが懸念されている。
【0003】
また、献血の提供者が細菌等の感染症に罹患している場合、血液が細菌汚染されている可能性があるため、細菌汚染された血小板製剤の投与による感染症のリスクがある。このため、インビトロで血小板を製造する方法が開発され(非特許文献1)、安定的な大量生産のための様々な技術が確立されてきている(特許文献1及び2)。
【0004】
血小板製剤は、血小板を適切な保存液に混合して血液バッグ等に充填することによって製造される。血小板の形態及び機能は低温によって急激に変化することから、血小板製剤は室温(20~24℃)で振盪保存して使用される。しかし、保存中に血小板の機能低下などの種々の問題が起こることが知られており、長期間の保存は不可能であった。このため、血小板の機能低下を防ぎ、血小板製剤の保存期間の延長を可能にする保存液の開発が求められている。
【0005】
また、間葉系幹細胞は、骨髄、脂肪組織などに存在する体性幹細胞であり、骨、軟骨及び脂肪などに分化する能力を有する。このため、間葉系幹細胞は、移植治療における有望な細胞ソースとして注目されており、培養及び保存方法の開発が進められている(特許文献3及び4)。さらに最近、T細胞を利用した様々ながん免疫治療が開発され、臨床試験が行われている(非特許文献2)。しかし、T細胞を凍結保存すると、T細胞膜上のPD-1(免疫チェックポイント分子)の発現が顕著に低下することが報告されており(非特許文献3)、T細胞の非凍結保存方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2017/077964
【特許文献2】PCT/JP2018/034667
【特許文献3】WO2017/073656
【特許文献4】特開2018-153196
【0007】
【非特許文献1】Takayama et. al., 2008, Blood, 111: 5298-5306
【非特許文献2】Tyler et. al.,2013, Blood, 121: 308-317
【非特許文献3】Campbell et. al., 2009, Clin vaccine immunol, 16: 1648-53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、従来の保存液よりも保存性に優れ、哺乳動物細胞を長期間保存できる、新規保存液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねる中で、(1)アスコルビン酸(以下、「ビタミンC」又は「VC」と称する場合がある)を添加した等張液中で血小板を振盪保存すると、従来の血小板保存液よりも血小板の劣化が抑制されること、(2)ナイアシン(以下、「ビタミンB3」又は「VB3」と称する場合がある)をVCと組み合わせて等張液に添加すると、血小板の劣化がより効率的に抑制されること、(3)VC及びVB3を添加した等張液が、間葉系幹細胞、巨核球、T細胞等の他の哺乳動物細胞の非凍結保存にも有効であること、(4)上記のようなVC及びVB3による細胞保存効果がリボフラビン(ビタミンB2、以下「VB2」と称する場合がある)によって阻害されることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の事項により、特定されるとおりのものである。
[1]10~5000mg/Lのナイアシン又はその塩、10~8000mg/Lのアスコルビン酸又はその塩、及びトレハロースを等張液中に含む、幹細胞又は免疫細胞を、0~40℃で、1~63日間保存するための、保存液。
[2]幹細胞が、間葉系幹細胞である、上記[1]に記載の保存液。
[3]免疫細胞が、T細胞である、上記[1]に記載の保存液。
[4]等張液が、乳酸リンゲル液である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の保存液。
[5]さらにデキストランを含む、上記[1]~[4]のいずれかに記載の保存液。
[6]上記[1]~[5]のいずれかに記載の保存液を調製するための粉末製剤。
[7]10~5000mg/Lのナイアシン又はその塩、10~8000mg/Lのアスコルビン酸又はその塩、及びトレハロースを含む等張液中で、0~40℃で、1~63日間幹細胞又は免疫細胞を保存する工程を含む、幹細胞又は免疫細胞の保存方法。
[8]幹細胞が、間葉系幹細胞である、上記[7]に記載の保存方法。
[9]免疫細胞が、T細胞である、上記[7]に記載の保存方法。
[10]等張液が、乳酸リンゲル液である、上記[7]~[9]のいずれかに記載の保存方法。
[11]等張液中にさらにデキストランを含む、上記[7]~[10]のいずれかに記載の保存方法。
【0011】
関連発明は、(1)ナイアシン若しくはその誘導体又はそれらの塩、及び抗酸化剤を含む、哺乳動物細胞の保存液や、(2)抗酸化剤が、アスコルビン酸若しくはその誘導体又はそれらの塩である、上記(1)に記載の保存液や、(3)ナイアシン若しくはその誘導体又はそれらの塩の濃度が、1~10000mg/Lである、上記(1)又は(2)に記載の保存液や、(4)ナイアシン若しくはその誘導体又はそれらの塩の濃度が、30~3000mg/Lである、上記(1)又は(2)に記載の保存液や、(5)ナイアシン若しくはその誘導体又はそれらの塩の濃度が、120~1200mg/Lである、上記(1)又は(2)に記載の保存液や、(6)アスコルビン酸若しくはその誘導体又はそれらの塩の濃度が、1~10000mg/Lである、上記(2)~(5)のいずれか1項に記載の保存液や、(7)アスコルビン酸若しくはその誘導体又はそれらの塩の濃度が、30~6000mg/Lである、上記(2)~(5)のいずれか1項に記載の保存液や、(8)アスコルビン酸若しくはその誘導体又はそれらの塩の濃度が、300~3000mg/Lである、上記(2)~(5)のいずれか1項に記載の保存液や、(9)哺乳動物細胞を0~40℃で保存するための、上記(1)~(8)のいずれか1項に記載の保存液や、(10)ビタミンB2若しくはその誘導体又はそれらの塩を含まない、上記(1)~(9)のいずれか1項に記載の保存液や、(11)哺乳動物細胞が、血小板又は巨核球である、上記(1)~(10)のいずれか1項に記載の保存液や、(12)血小板が、以下の(A)及び(B)を含む方法により得られた精製血小板である、上記(11)に記載の保存液や、(A)巨核球の培養物を濃縮する濃縮工程;(B)得られた濃縮物から血小板を遠心分離する遠心分離工程;(13)さらにアルブミンを含む、上記(11)又は(12)に記載の保存液や、(14)アルブミンの濃度が、1.25~10%(w/v)である、上記(13)に記載の保存液や、(15)さらに糖を含む、上記(13)又は(14)に記載の保存液や、(16)糖が、ブドウ糖である、上記(15)に記載の保存液や、(17)血小板又は巨核球を、5~10日間保存するための、上記(11)~(16)のいずれか1項に記載の保存液に関する。
【0012】
さらに、関連発明は、(18)哺乳動物細胞が、幹細胞又は免疫細胞である、上記(1)~(10)のいずれか1項に記載の保存液や、(19)幹細胞が、間葉系幹細胞である、上記(18)に記載の保存液や、(20)免疫細胞が、T細胞である、上記(18)に記載の保存液や、(21)ナイアシン若しくはその誘導体又はそれらの塩、及び抗酸化剤を等張液中に含む、上記(18)~(20)のいずれか1項に記載の保存液や、(22)等張液が、乳酸リンゲル液である、上記(21)に記載の保存液や、(23)さらにトレハロースを含む、上記(21)又は(22)に記載の保存液や、(24)さらにデキストランを含む、上記(21)~(23)のいずれか1項に記載の保存液や、(25)幹細胞を、1~63日間保存するための、上記(18)~(24)のいずれか1項に記載の保存液や、(26)ナイアシン若しくはその誘導体又はそれらの塩、及び抗酸化剤を含む、上記(1)~(25)のいずれか1項に記載の保存液を調製するための粉末製剤に関する。
【0013】
また、関連発明は、(27)ナイアシン若しくはその誘導体又はそれらの塩、及び抗酸化剤を含む液中で、哺乳動物細胞を保存する工程を含む、哺乳動物細胞の保存方法や、(28)抗酸化剤が、アスコルビン酸若しくはその誘導体又はそれらの塩である、上記(27)に記載の方法や、(29)ナイアシン若しくはその誘導体又はそれらの塩の濃度が、1~10000mg/Lである、上記(27)又は(28)に記載の方法や、(30)ナイアシン若しくはその誘導体又はそれらの塩の濃度が、30~3000mg/Lである、上記(27)又は(28)に記載の方法や、(31)ナイアシン若しくはその誘導体又はそれらの塩の濃度が、120~1200mg/Lである、上記(27)又は(28)に記載の方法や、(32)アスコルビン酸若しくはその誘導体又はそれらの塩の濃度が、1~10000mg/Lである、上記(28)~(31)のいずれか1項に記載の方法や、(33)アスコルビン酸若しくはその誘導体又はそれらの塩の濃度が、30~6000mg/Lである、上記(28)~(31)のいずれか1項に記載の方法や、(34)アスコルビン酸若しくはその誘導体又はそれらの塩の濃度が、300~3000mg/Lである、上記(28)~(31)のいずれか1項に記載の方法や、(35)哺乳動物細胞を0~40℃で保存することを特徴とする、上記(27)~(34)のいずれか1項に記載の方法や、(36)液が、ビタミンB2若しくはその誘導体又はそれらの塩を含まないことを特徴とする、上記(27)~(35)のいずれか1項に記載の方法に関する。
【0014】
さらに、関連発明は、(37)哺乳動物細胞が、血小板又は巨核球である、上記(27)~(36)のいずれか1項に記載の方法や、(38)血小板が、以下の(A)及び(B)を含む方法により得られた精製血小板である、上記(37)に記載の方法や、(A)巨核球の培養物を濃縮する濃縮工程;(B)得られた濃縮物から血小板を遠心分離する遠心分離工程;(39)液中にさらにアルブミンを含む、上記(37)又は(38)に記載の方法や、(40)アルブミンの濃度が、1.25~10%(w/v)である、上記(39)に記載の方法や、(41)液中にさらに糖を含む、上記(39)又は(40)に記載の方法や、(42)糖が、ブドウ糖である、上記(41)に記載の方法や、(43)血小板又は巨核球を、5~10日間保存することを特徴とする、上記(37)~(42)のいずれか1項に記載の方法や、(44)哺乳動物細胞が、幹細胞又は免疫細胞である、上記(27)~(36)のいずれか1項に記載の方法や、(45)幹細胞が、間葉系幹細胞である、上記(44)に記載の方法や、(46)免疫細胞が、T細胞である、上記(44)に記載の方法や、(47)液が、等張液である、上記(44)~(46)のいずれか1項に記載の方法や、(48)等張液が、乳酸リンゲル液である、上記(47)に記載の方法や、(49)液中にさらにトレハロースを含む、上記(47)又は(48)に記載の方法や、(50)液中にさらにデキストランを含む、上記(47)~(49)のいずれか1項に記載の方法や、(51)幹細胞を、1~63日間保存することを特徴とする、上記(44)~(50)のいずれか1項に記載の方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来の保存液と比べ、保存中の哺乳動物細胞における機能や生存率の低下を効率的に抑制することができる。このため、本発明によれば、血小板等の凍結保存が困難な哺乳動物細胞を長期間保存することが可能となり、医療における良質な移植用細胞含有液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本願実施例において使用されたiPS細胞由来血小板の濃縮システムを示す模式図である。
図2】5日間保存後の血小板のAnnexin V陽性率、無刺激時P―Selectin陽性率、及びATR刺激時のPAC―1/P―Selectin陽性率に及ぼす、本発明の保存液の影響を示す図である。図中、「2.5%HSA BRS 20%ACD-A」及び「2.5%HSA BRS 10%ACD-A(GLU)」は従来の保存液を、「VC製剤添加10%ACD-A(GLU)(300mg/L)」、「VC製剤添加10%ACD-A(GLU)(1000mg/L)」、及び「VC製剤添加10%ACD-A(GLU)(3000mg/L)」は、300~3000mg/LのVCを含む本発明の保存液をそれぞれ示す。
図3】5日間保存後の血小板のAnnexin V陽性率に及ぼす、本発明の保存液の影響を示す図である。図中、「第1世代」は従来の保存液を、「第1世代+VC」は1000mg/LのVCを含む本発明の保存液を、「第1世代+VC,VB3(=第2世代)」は1000mg/LのVC及び400mg/Lのニコチン酸を含む本発明の保存液をそれぞれ示す。
図4】5日間保存後の血小板の乳酸産生に及ぼす、本発明の保存液の影響を示す図である。図中、「第1世代」は従来の保存液を、「第1世代+VC」は1000mg/LのVCを含む本発明の保存液を、「第1世代+VC,VB3(=第2世代)」は1000mg/LのVC及び400mg/Lのニコチン酸を含む本発明の保存液をそれぞれ示す。
図5】5日間保存後の血小板の回収率に及ぼす、VC及び/又はVB3(ニコチン酸)添加保存液の影響を示す図である。図中、「第1世代」は従来の保存液を、「+VC」は1000mg/LのVCを含む本発明の保存液を、「+VC,VB3M」は1000mg/LのVC及び400mg/Lのニコチン酸を含む本発明の保存液をそれぞれ示す。
図6】5又は10日間保存後の血小板サンプルの乳酸濃度及びpHに及ぼす、本発明の保存液の影響を示す図である。図中、「第1世代」は従来の保存液を、「第1世代+VC」は1000mg/LのVCを含む本発明の保存液を、「第2世代(第1世代+VC+VB3)」は1000mg/LのVC及び400mg/Lのニコチン酸を含む本発明の保存液をそれぞれ示す。
図7】5又は10日間保存後の血小板のAnnexin V陽性率、無刺激時P―Selectin陽性率、及びATR刺激時のPAC―1/P―Selectin陽性率に及ぼす、本発明の保存液の影響を示す図である。図中、「第1世代」は従来の保存液を、「第1世代+VC」は1000mg/LのVCを含む本発明の保存液を、「第2世代(第1世代+VC+VB3)」は1000mg/LのVC及び400mg/Lのニコチン酸を含む本発明の保存液をそれぞれ示す。
図8】5又は10日間保存後の血小板サンプル中の血小板回収率に及ぼす、本発明の保存液の影響を示す図である。図中、「第1世代」は従来の保存液を、「第1世代+VC」は1000mg/LのVCを含む本発明の保存液を、「第2世代(第1世代+VC+VB3)」は1000mg/LのVC及び400mg/Lのニコチン酸を含む本発明の保存液をそれぞれ示す。また、図中、「plt/mL」はサンプル中の血小板濃度を、「%」は血小板回収率をそれぞれ示す。
図9】5又は10日間保存後の血小板の凝集能に及ぼす、本発明の保存液の影響を示す図である。この実験では刺激剤としてTRAP-6を用いた。図中、「新規保存液」は1000mg/LのVCと400mg/Lのニコチン酸を含む本発明の保存液を示す。
図10】5又は10日間保存後の血小板の凝集能に及ぼす、本発明の保存液の影響を示す図である。この実験では刺激剤としてCollagenを用いた。図中、「新規保存液」は1000mg/LのVCと400mg/Lのニコチン酸を含む本発明の保存液を示す。
図11】5又は10日間保存後の血小板の凝集能に及ぼす、本発明の保存液の影響を示す図である。この実験では刺激剤としてADPを用いた。図中、「新規保存液」は1000mg/LのVCと400mg/Lのニコチン酸を含む本発明の保存液を示す。
図12】5又は10日間保存後の血小板の凝集能に及ぼす、本発明の保存液の影響を示す図である。この実験では刺激剤としてCollagen/ADPを用いた。図中、「新規保存液」は1000mg/LのVCと400mg/Lのニコチン酸を含む本発明の保存液を示す。
図13】5日間保存後の血小板のAnnexin V陽性率、無刺激時P―Selectin陽性率、及びATR刺激時のPAC―1/P―Selectin陽性率に及ぼす、本発明の保存液の影響を示す図である。図中、「第1世代」は従来の保存液を、「第2世代(ニコチン酸(400mg/L)」は1000mg/LのVC及び400mg/Lのニコチン酸を含む本発明の保存液を、「第2世代(ニコチンアミド(400mg/L)」は1000mg/LのVC及び400mg/Lのニコチンアミドを含む本発明の保存液をそれぞれ示す。
図14】5日間保存後の血小板のAnnexin V陽性率、無刺激時P―Selectin陽性率、及びATR刺激時のPAC―1/P―Selectin陽性率に及ぼす、本発明の保存液の影響を示す図である。この実験では、添加剤を含まないVC試薬を使用した。図中、「第1世代」は従来の保存液を、「第1世代VC試薬」は1000mg/LのVCを含む本発明の保存液をそれぞれ示す。
図15】5日間保存後の血小板のAnnexin V陽性率、無刺激時P―Selectin陽性率、及びATR刺激時のPAC―1/P―Selectin陽性率に及ぼす、本発明の保存液及び既知保存液の影響を比較した結果を示す図である。図中、「新規血小板保存液」は1000mg/LのVC及び400mg/Lのニコチン酸を含む本発明の保存液を、「日赤血小板保存液」はACD-A液及び重炭酸リンゲル液を約1対20で混和した保存液をそれぞれ示す。
図16】本発明の保存液を用いて調製された血小板サンプルによる止血効果を示す図である。図中、「Vehicle」は本発明の保存液のみ(血小板を含まない)を投与されたマウスを、「Platelets」は本発明の保存液を用いて調製された血小板サンプルを投与されたマウスをそれぞれ示す。
図17】間葉系幹細胞の生存率及び生細胞回収率に及ぼす、本発明の保存液の影響を示す図である。図中、「+溶媒」とはCSP-01溶液に水を添加した保存液を、「+VC+ニコチン酸」とはCSP-01溶液に1000mg/LのVC及び400mg/Lのニコチン酸を含む本発明の保存液をそれぞれ示す。
図18】巨核球のAnnexin V陰性率に及ぼす、本発明の保存液の影響を示す図である。図中、「第1世代」は従来の保存液を、「第2世代」は1000mg/LのVC及び400mg/Lのニコチン酸を含む本発明の保存液をそれぞれ示す。
図19】48時間保存後のT細胞の生存率及び生細胞回収率に及ぼす、本発明の保存液の影響を示す図である。
図20】24又は48時間保存後のT細胞の生存率及び生細胞回収率に及ぼす、本発明の保存液の影響を示す図である。
図21】血小板のAnnexin V陽性率に及ぼすVB2の影響を示す図である。図中、「第1世代」は従来の保存液を、「第1世代+水溶性ビタミン」はVB2を含む9種の水溶性ビタミンを含む本発明の保存液を、「第1世代+水溶性ビタミン(VB2除く)」はVB2を含まない8種の水溶性ビタミンを含む本発明の保存液をそれぞれ示す。
図22】血小板の無刺激時P―Selectin陽性率、及びATR刺激時のPAC―1/P―Selectin陽性率に及ぼす、VB2の影響を示す図である。図中、「第1世代」は従来の保存液を、「第1世代+水溶性ビタミン」はVB2を含む9種の水溶性ビタミンを含む本発明の保存液を、「第1世代+水溶性ビタミン(VB2除く)」はVB2を含まない8種の水溶性ビタミンを含む本発明の保存液をそれぞれ示す。
図23】間葉系幹細胞の生存率及び生細胞回収率に及ぼす、本発明の保存液の影響を示す図である。図中、「+溶媒」とはCSP-01溶液に水を添加した保存液を、「+VC+ニコチン酸」とはCSP-01溶液に1000mg/LのVC及び400mg/Lのニコチン酸を添加した本発明の保存液をそれぞれ示す。
図24】間葉系幹細胞の生存率及び生細胞回収率に及ぼす、本発明の保存液の影響を示す図である。図中、「CSP-01+VC+ニコチン酸」とは、CSP-01溶液に1000mg/LのVC及び400mg/Lのニコチン酸を添加した本発明の保存液を、「乳酸リンゲル液+VC+ニコチン酸」とは、乳酸リンゲル液に1000mg/LのVC及び400mg/Lのニコチン酸を添加した本発明の保存液をそれぞれ示す。
図25】間葉系幹細胞の生存率及び生細胞回収率に及ぼす、本発明の保存液の影響を示す図である。図中、「CSP-01+VC+ニコチン酸」とは、CSP-01溶液に1000mg/LのVC及び400mg/Lのニコチン酸を添加した本発明の保存液を、「CSP-01+VC」とは、CSP-01溶液に1000mg/LのVCを添加した本発明の保存液を、「CSP-01+ニコチン酸」とは、CSP-01溶液に400mg/Lのニコチン酸を添加した本発明の保存液をそれぞれ示す。
図26】幼若ブタ骨髄間葉系幹細胞の生存率及び生細胞回収率に及ぼす、本発明の保存液の影響を示す図である。図中、「無添加」とはCSP-01溶液を示し、「+VC+ニコチン酸」とは、CSP-01溶液に1000mg/LのVC及び400mg/Lのニコチン酸を添加した本発明の保存液を示す。
図27】T細胞の生存率に及ぼす本発明の保存液の影響を示す図である。図中、「Pre」とは、保存開始前のT細胞の生存率を示す。また、図中、「LR」とは乳酸リンゲル液を示し、さらに、「GLC」は80mg/dLのグルコースを、「VC」は1000mg/LのVCを、ニコチン酸は400mg/Lのニコチン酸をそれぞれ示す。
図28】T細胞生細胞回収率に及ぼす本発明の保存液の影響を示す図である。また、図中、「LR」とは乳酸リンゲル液を示す。さらに、「GLC」は80mg/dLのグルコースを、「VC」は1000mg/LのVCを、「ニコチン酸」は400mg/Lのニコチン酸をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の哺乳動物細胞の保存液(以下、「本発明の保存液」と称する場合がある)は、ナイアシン類及び/又は抗酸化剤を含むものであって、「哺乳動物細胞の保存」という用途に限定されたものであれば特に制限されない。また、本発明の粉末製剤としては、本発明の保存液を調製するためのものであれば特に制限されず、さらに、本発明の哺乳動物細胞の保存方法としては、本発明の保存液中で、哺乳動物細胞を保存する工程を含むものであれば特に制限されない。 すなわち、本発明の保存液とは、哺乳動物細胞と混合した場合に上記保存効果を奏する溶液を意味し、本発明の保存液には、保存対象細胞を未だ含まない保存液の態様の他、保存対象細胞を既に含む保存液の態様も包含される。また、本発明の保存液は、哺乳動物細胞の保存のための有効成分として、ナイアシン類を単独で含むものであっても、抗酸化剤を単独で含むものであってもよいが、ナイアシン類と抗酸化剤とを組み合わせて含むものであることが好ましい。以下、ナイアシン類及び/又は抗酸化剤を「本発明の必須保護成分」という場合がある。さらに、本発明の保存液又は粉末製剤を調製するための添加剤もまた本発明に含まれる。本発明の添加剤としては、本発明の必須保護成分を必ず含む。本発明の添加剤には、後述する「任意の有効成分」は含まなくてもよい。
【0018】
上記「ナイアシン類」におけるナイアシン(VB3)とは、ニコチン酸及び/又はニコチンアミドを意味する。すなわち、上記本発明の保存液は、ニコチン酸を含む保存液、ニコチンアミドを含む保存液、及び、ニコチン酸及びニコチンアミドを含む保存液のいずれであってもよいが、ニコチン酸を含む保存液であることが好ましい。また、ナイアシン(VB3)は、化学合成等による既知方法により製造することができるが、市販品を用いることもできる。例えば、ニコチン酸注射製剤(トーアエイヨー社製)、ニコチンアミド(富士フイルム和光純薬社製)等の市販品を挙げることができる。
【0019】
上記「ナイアシン類」におけるナイアシン誘導体としては、特に制限されないが、例えば、トコフェロールニコチン酸エステル、ニセリトロール、ニコモール、イノシトールヘキサニコチン酸エステル、2-クロロニコチンアミド、6-メチルニコチンアミド、6-アミノニコチンアミド、N-メチルニコチンアミド、N,N-ジメチルニコチンアミド、N-(ヒドロキシメチル)ニコチンアミド、キノリン酸イミド、ニコチンアニリド、N-ベンジルニコチンアミド、N-エチルニコチンアミド、ニフェナゾン、ニコチンアルデヒド、イソニコチン酸、メチルイソニコチン酸、チオニコチンアミド、ニアラミド、2-メルカプトニコチン酸、ニアプラジン、ニコチン酸メチル、ニコチン酸ナトリウム等を好適に挙げることができる。さらに、上記「ナイアシン類」における「ナイアシン又はその誘導体の塩」としては、特に制限されないが、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩アンモニウム塩、トリアルキルアミン塩等の有機塩基塩、塩酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩、酢酸塩等の有機酸塩等を好適に挙げることができる。
【0020】
また、上記「抗酸化剤」としては、特に制限されないが、例えば、アスコルビン酸(VC)、スーパーオキシドジスムターゼ1、スーパーオキシドジスムターゼ2、スーパーオキシドジスムターゼ3、グルタチオン、リポ酸、エピガロカテキンガラート、クルクミン、メトラニン、ヒドロキシチロソール、ユビキノン、カタラーゼ、ビタミンE、尿酸等、それらの誘導体、又はそれらの塩を好適に挙げることができ、中でも、アスコルビン酸(VC)若しくはその誘導体又はそれらの塩(以下、「アスコルビン酸類」と総称する場合がある)を好適に挙げることができ、アスコルビン酸(VC)を特に好適に挙げることができる。アスコルビン酸(VC)は、化学合成等による既知方法により製造することができるが、市販品を用いることもできる。例えば、アスコルビン酸注射液(沢井製薬社製)、L(+)-アスコルビン酸標準品(富士フイルム和光純薬社製)等の市販品を挙げることができる。
【0021】
上記「アスコルビン酸類」におけるアスコルビン酸(VC)の誘導体としては、特に制限されないが、例えば、アスコルビン酸2-リン酸、アスコルビン酸2-硫酸、アスコルビル-2-グルコシド、アスコルビル-6-グルコシド等を好適に挙げることができる。さらに、上記「アスコルビン酸類」におけるアスコルビン酸(VC)又はその誘導体の塩としては、特に制限されないが、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩アンモニウム塩、トリアルキルアミン塩等の有機塩基塩、塩酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩、酢酸塩等の有機酸塩等を好適に挙げることができる。
【0022】
本発明の保存液に含まれるナイアシン類の濃度としては、例えばニコチン酸換算で、1~10000mg/Lの範囲内であればよく、具体的には、10~5000mg/L、20~8000mg/L、30~6000mg/L、30~4000mg/L、30~3000mg/L、30~2000mg/L、30~1500mg/L、30~1200mg/Lを例として挙げることができるが、中でも、120~1200mg/Lの範囲内であることが好ましい。
【0023】
本発明の保存液に含まれる、アスコルビン酸類の濃度としては、例えばアスコルビン酸換算で、1~10000mg/Lの範囲内であればよく、例えば、10~8000mg/L、20~7000mg/L、30~6000mg/L、30~5000mg/L、30~4000mg/L、30~3000mg/L、50~3000mg/L、100~3000mg/L、を挙げることができるが、中でも、300~3000mg/Lの範囲内であることが好ましい。
【0024】
また、本発明の保存液は、本発明の必須保護成分を等張液中に含むものであってもよい。上記「等張液」としては、体液や細胞液の浸透圧とほぼ同じになるようにナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン等によって塩濃度又は糖濃度等を調整した等張液であれば特に制限されず、具体的には、生理食塩水や、緩衝効果のある生理食塩水(リン酸緩衝生理食塩水[Phosphate buffered saline;PBS]、トリス緩衝生理食塩水[Tris Buffered Saline;TBS]、HEPES緩衝生理食塩水等)、リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液等を挙げることができるが、中でも、重炭酸リンゲル液又は乳酸リンゲル液であることが好ましい。等張液は、既知の組成に基づいて製造することができるが、市販品を用いることもできる。市販のものとしては、例えば、大塚生食注(生理食塩液、大塚製薬工場社製)、リンゲル液「オーツカ」(リンゲル液、大塚製薬工場社製)、ラクテック(登録商標)注(乳酸リンゲル液、大塚製薬工場社製)、ヴィーン(登録商標)F輸液(酢酸リンゲル液、扶桑薬品工業社製)、ビカネイト(登録商標)輸液(重炭酸リンゲル液、大塚製薬工場社製)等の市販品を挙げることができる。本明細書において「等張」とは、浸透圧が250~380mOsm/Lの範囲内であることを意味する。
【0025】
さらに、本発明の保存液は、哺乳動物細胞の保存のための任意の有効成分として、アルブミン又は糖を含んでいてもよい。本明細書において「任意の有効成分」とは、含んでもよいし含まなくてもよい成分のことを意味する。また、アルブミン及び/又は糖を「本発明の任意保護成分」という場合がある。上記「アルブミン」としては、例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)、ウシ血清アルブミン(BSA)、ウシ胎児血清アルブミン(FBS)等を挙げることができるが、HSAであることが好ましい。上記本発明の保存液にアルブミンを含む場合、アルブミンの濃度としては、0.1~30(w/v)%の範囲内であればよく、例えば、1.0~20(w/v)%、1.0~15(w/v)%、1.0~10(w/v)%、1.25~10(w/v)%、1.25~7.25(w/v)%、1.5~5.0(w/v)%、1.5~2.5(w/v)%、2.0~2.5(w/v)%を挙げることができる。
【0026】
上記「糖」としては、例えば、ブドウ糖(グルコース)、トレハロース、デキストラン、ヒドロキシエチルデンプン等を挙げることができる。上記本発明の保存液にブドウ糖を含む場合、ブドウ糖の濃度としては、1~10000mg/Lの範囲内であればよく、例えば、10~8000mg/L、20~6000mg/L、30~6000mg/L、40~6000mg/L、50~6000mg/L、100~6000mg/L、200~6000mg/L、500~6000mg/L、1000~6000mg/L、2000~6000mg/L、2000~5000mg/Lを挙げることができる。上記本発明の保存液にトレハロースを含む場合、トレハロースの濃度としては、0.1~100g/L、5~80g/L、20~60g/Lを挙げることができる。上記本発明の保存液にデキストランを含む場合、デキストランの濃度としては、0.1~100g/L、5~80g/L、40~70g/Lを挙げることができる。上記本発明の保存液にヒドロキシエチルデンプンを含む場合、ヒドロキシエチルデンプンの濃度としては、1~500g/L、10~100g/Lを挙げることができる。
【0027】
本発明の保存液は、(a)ビタミンB2(VB2、リボフラビンともいう)若しくはその誘導体又はそれらの塩(以下、「ビタミンB2類」と称する場合がある)、(b)培地若しくはその必須成分、又は(c)細胞分化促進剤を含まないものであることが好ましい。上記(a)の「ビタミンB2類」におけるビタミンB2の誘導体としては、例えば、フラビンモノヌクレオチド、フラビンアデニンジヌクレオチド、リボフラビンテトラブチレイト、酪酸リボフラビン、リン酸リボフラビン(リボフラビンリン酸エステル)等を挙げることができ、ビタミンB2又はその誘導体の塩としては、例えば、ナトリウム塩等を挙げることができる。
【0028】
上記(b)の「培地」とは、インビトロ環境下において細胞の維持及び増殖に必要な栄養素を提供する細胞培養用溶液を意味し、例えば、イーグル最少必須(EME)培地、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、TC199培地、アルファ-最少必須培地(α-MEM)、RPMI1640、Ham-F-12、E199、MCDB、レイボヴィッツL-15、ウィリアムE培地等を挙げることができる。また、上記(b)の「培地の必須成分」とは、水性栄養素及び電解液、グリコサミノグリカン、脱腫脹剤、エネルギー源、緩衝剤、抗酸化剤、膜安定剤、抗生物質(若しくは抗真菌剤)、ATP前駆物質、細胞栄養補助剤、及び/又はpH指示薬を意味し、例えば、上記「水性栄養素及び電解液」としては、上記培地から選択される1又は2以上の培地を、上記「グリコサミノグリカン」としては、硫酸コンドロイチン、硫酸デルマタン、硫酸デルマチン、硫酸ヘパリン、硫酸ヘパラン、硫酸ケラチン、硫酸ケラタン、又はヒアルロン酸を、上記「脱腫脹剤」としては、デキストラン、硫酸デキストラン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、酢酸ポリビニル、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、又はカルボキシプロピルメチルセルロースを、上記「エネルギー源」としては、ピルベート、シュークロース、フルクトース、又はデキストロースを、上記「緩衝剤」としては、炭酸水素塩緩衝液又はHEPES緩衝液を、上記「抗酸化剤」としては、2-メルカプトエタノール、グルタチオン、又はα-トコフェロールを、上記「膜安定剤」としては、ビタミンA、レチン酸、エタノールアミン、ホスホエタノールアミン、セレン、又はトランスフェリンを、上記「抗生物質及び/又は抗真菌剤」としては、アンホテリシン-B、硫酸ゲンタマイシン、硫酸カナマイシン、硫酸ネオマイシン、ナイスタチン、ペニシリン、トブラマイシン、又はストレプトマイシンを、上記「ATP前駆物質」としては、アデノシン、イノシン、又はアデニンを、上記「細胞栄養補助剤」としては、コレステロール、L-ヒドロキシプロリン、d-ビオチン、カルシフェロール、ナイアシン、p-アミノ安息香酸、塩酸ピリドキシン、ビタミンB12、Fe(NO、又は非必須アミノ酸を、上記「pH指示薬」としてはフェノールレッドを、それぞれ挙げることができる。
【0029】
上記(c)の「細胞分化促進剤」とは、分化能を有する細胞から所望の型の細胞を得るために培地等に添加される薬剤を意味し、例えば、レチノール、ビタミンD2、ビタミンD3、ビタミンK、レチノイン酸、亜鉛、亜鉛化合物、カルシウム、カルシウム化合物、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、L-グルタミン、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、プロリン、非必須アミノ酸(NEAA)、β-メルカプトエタノール、ジブチルサイクリックアデノシン一リン酸(db-cAMP)、モノチオグリセロール(MTG)、プトレシン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヒポキサンチン、アデニン、フォルスコリン、シロスタミド、3-イソブチル-1-メチルキサンチン、5-アザシチジン、ピルベート、オカダ酸、リノール酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、抗凝固剤クエン酸デキストロース製剤A(ACDA)、EDTA二ナトリウム、酪酸ナトリウム、グリセロホスフェート、G418、ゲンタマイシン、ペントキシフィリン(1-(5-オキソヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン)、インドメタシン、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)等を挙げることができる。上述の通り、本発明において、ナイアシン類、及び抗酸化剤(アスコルビン酸類を含む)は、哺乳動物細胞の保存のために用いられており、分化促進剤として用いられるものではない。
【0030】
本発明の保存液の対象となる「哺乳動物細胞」とは、哺乳動物に由来する生きた細胞であれば特に制限されず、生物個体から得られた初代細胞であっても、初代細胞を一世代または複数世代培養して増殖させた細胞であってもよいが、具体的には、疾患・外傷の治療等に用いられる血小板や、その製造に使用される巨核球の他、再生医療・免疫療法等に用いられる幹細胞や免疫細胞等を好適に例示することができる。また、上記「哺乳動物」としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ等のウサギ目、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄目、イヌ、ネコ等のネコ目、ヒト、サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を例示することができ、中でも、ヒトを好適に例示することができる。
【0031】
上記「血小板」とは、血液中の細胞成分の一つであり、CD41a及びCD42bが陽性である細胞成分を意味する。本発明の保存液の対象となる血小板は、哺乳動物の血液(全血)から赤血球及び白血球を除去することによって得られた濃縮血小板であっても、インビトロにおいて培養した巨核球から人工的に製造された精製血小板であってもよいが、精製血小板であることが好ましい。上記精製血小板の製造方法としては、特に制限されないが、(A)巨核球の培養物を濃縮する濃縮工程;及び(B)得られた濃縮物から血小板を遠心分離する遠心分離工程;の工程(A)及び(B)を含む方法を好適に例示することができる。また、かかる血小板製造方法にも用いられる「巨核球」は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、核移植ES細胞(ntES細胞)、生殖性幹細胞(EG細胞)、体性幹細胞、胚性腫瘍細胞等の多能性細胞から誘導することができる他、骨髄、臍帯血、末梢血等から単離した造血幹細胞、造血前駆細胞、CD34陽性細胞、巨核球・赤芽球前駆細胞、巨核球前駆細胞等から誘導することもできる。
【0032】
また、上記「幹細胞」とは、自己複製能及び分化・増殖能を有する未熟な細胞を意味する。幹細胞には、分化能力に応じて、多能性幹細胞(pluripotent stem ce11)、複能性幹細胞(multipotent stem ce11)、単能性幹細胞(unipotent stem ce11)等の亜集団が含まれる。多能性幹細胞とは、それ自体では個体になることができないが、生体を構成する全ての組織や細胞へ分化し得る能力を有する細胞を意味し、複能性幹細胞とは、全ての種類ではないが、複数種の組織や細胞へ分化し得る能力を有する細胞を意味し、単能性幹細胞とは、特定の組織や細胞へ分化し得る能力を有する細胞を意味する。本発明の保存液の保存対象となる幹細胞は、多能性幹細胞、複能性幹細胞、及び単能性幹細胞のいずれであってもよく、例えば、iPS細胞、ES細胞、ntES細胞、EG細胞等の多能性幹細胞や、間葉系幹細胞、造血系幹細胞、神経系幹細胞、骨髄幹細胞、生殖幹細胞等の体性幹細胞を挙げることができるが、中でも、間葉系幹細胞であることが好ましい。間葉系幹細胞は、哺乳動物の骨髄、脂肪組織、末梢血、臍帯血等から公知の一般的な方法で採取することができる他、骨髄穿刺後の造血幹細胞等の培養、継代によりヒト間葉系幹細胞を単離することができる。なかでも、ヒト骨髄由来の間葉系幹細胞や幼若ブタ骨髄由来の間葉系幹細胞を好適に例示できる。
【0033】
さらに、上記「免疫細胞」とは、血液やリンパ液中に存在する、免疫システムに関与する細胞を意味する。本発明の保存液の保存対象となる免疫細胞としては、例えば、T細胞、マクロファージ、樹状細胞、B細胞、NK細胞、好中球、好酸球、ミエロイド由来抑制細胞(MDSC)等を挙げることができるが、中でも、T細胞であることが好ましい。「T細胞」とは、表面にT細胞受容体(TCR)と称される抗原受容体を発現している細胞を意味し、例えば、CD8陽性細胞である細胞傷害性T細胞、CD4陽性細胞であるヘルパー/制御性T細胞、ナイーブT細胞(CD45RA+CD62L+細胞)、セントラルメモリーT細胞(CD45RA-CD62L+細胞)、エフェクターメモリーT細胞(CD45RA-CD62L-細胞)、及びターミナルエフェクターT細胞(CD45RA+CD62L-細胞)が挙げられる。T細胞は、哺乳動物の末梢血、リンパ節、骨髄、胸腺、脾臓、臍帯血等から公知の一般的な方法で採取することができる他、市販品を用いることもできる。
【0034】
本発明の保存液は、哺乳動物を非凍結状態で保存するために使用することができる。本発明を用いて哺乳動物細胞を保存する際の温度は、保存対象細胞の種類に応じて適切な温度を任意に選択することができるが、0~40℃の範囲内であることが好ましい。例えば、本発明の保存液を用いて血小板や巨核球を保存する際の温度は、好ましくは15~30℃であり、さらに好ましくは20~24℃であり、最も好ましくは21~23℃である。また、本発明の保存液を用いて間葉系幹細胞やT細胞を保存する際の温度は、好ましくは1~38℃であり、さらに好ましくは1~30℃であり、特に好ましくは1~15℃であり、最も好ましくは1~5℃である。さらに、本発明を用いて哺乳動物細胞を保存する際の温度は、0~40℃の範囲内で変化させることもできる。例えば、以下の実施例でも示されるように、本発明の保存液を用いてT細胞を保存する際には、低温(例えば、1~5℃、好ましくは5℃)で一定期間保存した後に、室温(例えば、20~26℃、好ましくは22~25℃、より好ましくは25℃)でさらに数時間保存することができる。また、本発明の保存液は、哺乳動物細胞を数時間~数十日間保存するために用いることができる。保存期間は、保存対象細胞の種類によって異なるが、以下の実施例に示されるように、血小板や巨核球であれば1~15日間、好ましくは1~10日間、間葉系幹細胞であれば1~63日間、好ましくは1~35日間、より好ましくは1~30日間、より好ましくは1~28日間、さらに好ましくは1~14日間、T細胞であれば1~30日間、好ましくは1~14日間、より好ましくは1~2日間、さらに好ましくは30時間保存することができる。
【0035】
本発明の保存液は、哺乳動物細胞を哺乳動物に投与するという用途に使用されてもよい。すなわち、本発明の保存液と哺乳動物細胞とを含む混合液を所定の条件下で保存した後に、該混合液を哺乳動物の生体内へそのまま投与(例えば、静脈投与)することもできる。このため、本発明の保存液は、哺乳動物の生体内に投与した時に、哺乳動物の生体に悪影響を及ぼし得る成分を含まないことが好ましい。かかる「悪影響を及ぼし得る成分」としては、例えば、ポリビニルピロリドン、2-メルカプトエタノール、オカダ酸、酪酸ナトリウム、G418等を挙げることができる。
【0036】
本発明の一態様として、本発明の必須保護成分を含む哺乳動物劣化抑制剤を挙げることができる。かかる劣化抑制剤は、さらに本発明の任意保護成分を含むものであってもよい。本発明の哺乳動物劣化抑制剤は、上記等張液に添加して本発明の保存液を調製するために使用できる他、既知の哺乳動物保存液に添加してその保存性を高めるために用いることもできる。また、本発明は、本発明の保存液又は粉末製剤が封入された哺乳動物細胞保存容器にも関する。本発明の保存容器としては、哺乳動物細胞の懸濁液を注入した後に無菌性を保つことができる容器であればどのような形態であってもよく、例えば、血液バッグ、輸液バッグ、シリンジ、アンプル、バイアル等を挙げることができるが、血液バッグであることが好ましい。
【0037】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない
【実施例0038】
[iPS細胞由来血小板の作製]
PCT/JP2018/034667に記載の方法に従ってiPS細胞由来血小板を作製した。具体的な手順を以下の(1-1)~(1-12)に示す。
【0039】
(1-1)iPS細胞からの造血前駆細胞の調製
Takayamaら(J.Exp.Med.,2010,vol.13,2817-2830)の方法に従って、ヒトiPS細胞(TKDN SeV2及びNIH5:センダイウイルスを用いて樹立されたヒト胎児皮膚繊維芽細胞由来iPS細胞)から血球細胞への分化培養を実施した。詳細には、ヒトES/iPS細胞コロニーを、20ng/mLのVEGF(R&D SYSTEMS社製)存在下で、C3H10T1/2フィーダ細胞と共に14日間共培養して造血前駆細胞(Hematopoietic Progenitor Cells;HPC)を作製した。上記培養は、37℃、20%O2、5%CO2の条件で実施した。
【0040】
(1-2)遺伝子導入システム
遺伝子導入システムは、レンチウイルスベクターシステムを利用した。レンチウイルスベクターは、Tetracycline制御性のTet-on(登録商標)遺伝子発現誘導システムベクターである。LV-TRE-mOKS-Ubc-tTA-I2G(Kobayashiら、Cell,2010,vol.142,No.5,787-799)のmOKSカセットを、c-MYC、BMI1、又はBCL-xLに組み替えることで作製した。c-MYC、BMI1、又はBCL-xLが導入されたベクターを、それぞれ、LV-TRE-c-Myc-Ubc-tTA-I2G、LVTRE-BMI1-Ubc-tTA-I2G、及びLV-TRE-BCL-xL-Ubc-tTA-I2Gとした。c-MYC、BMI1、及びBCL-xLウイルスは、293T細胞へ上記レンチウイルスベクターで遺伝子導入することにより作製した。得られたウイルスを目的の細胞に感染させることによって、c-MYC、BMI1、及びBCL-xL遺伝子が目的の細胞のゲノム配列に導入される。安定的にゲノム配列に導入されたこれらの遺伝子は、培地にドキシサイクリン(clontech#631311)を加えることによって強制発現させることができる。
【0041】
(1-3)造血前駆細胞へのc-MYC及びBMI1ウイルスの感染
予めC3H10T1/2フィーダ細胞を播種した6well plate上に、上記(1-1)の方法で得られたHPCを5×10cells/wellとなるように播種し、BMI1ウイルス及びc-MYCウイルスを用いたレンチウイルス法にてc-MYC及びBMI1を強制発現させた。このとき、細胞株1種類につき6 wellずつ使用した。具体的には、それぞれMOI(multiplicity of infection)20となるように培地中にウイルス粒子を添加し、スピンインフェクション(32℃、900rpm、60分間遠心)で感染させた。上記スピンインフェクションは、12時間おきに2回実施した。培地は、基本培地(15% Fetal Bovine Serum(GIBCO社製)、1% Penicillin-Streptomycin-Glutamine(GIBCO社製)、1% Insulin,Transferrin,Selenium Solution(ITS-G)(GIBCO社製)、0.45mmol/L 1-Thioglycerol(Sigma-Aldrich社製)、50μg/mL L-AscorbicAcid(Sigma-Aldrich社製)を含有するIMDM(Sigma-Aldrich社製))に、50ng/mL Human thrombopoietin(TPO)(R&D SYSTEMS社製)、50ng/mL Human Stem Cell Factor(SCF)(R&D SYSTEMS社製)及び2μg/mL Doxycycline(DOX、clontech社製、#631311)を添加した培地に(以下、「分化培地」と称する)、さらに、Protamineを最終濃度が10μg/mLとなるように添加して用いた。
【0042】
(1-4)巨核球自己増殖株の作製及び維持培養
上記(1-3)の方法でc-MYC及びBMI1ウイルスの感染を実施した日を感染0日目として、以下の通りに、c-MYC遺伝子及びBMI1遺伝子が導入されたHPCを培養することで、巨核球自己増殖株をそれぞれ作製した。c-MYC遺伝子及びBMI1遺伝子の強制発現は、培地に1μg/mL DOXを添加することにより実施した。
感染2日目~感染11日目:
感染2日目に、ピペッティングにて上記の方法で得られたウイルス感染済み血球細胞を回収し、1200rpm、5分間遠心操作を行って上清を除去した後、新しい分化培地で懸濁して新しいC3H10T1/2フィーダ細胞上に播種した(6well plate)。感染9日目に同様の操作をすることによって継代を実施した。上記再播種時は、細胞数を計測後、1×10cells/2mL/wellとなるようにC3H10T1/2フィーダ細胞上に播種した(6well plate)。
感染12日目~感染13日目:
感染2日目と同様の操作を実施した。細胞数を計測後3×10cells/10mL/100mm dishとなるように、C3H10T1/2フィーダ細胞上に播種した(100mm dish)。
感染14日目:
ウイルス感染済み血球細胞を回収し、細胞1.0×10個あたり、2μLの抗ヒトCD41a-APC抗体(BioLegend社製)、1μLの抗ヒトCD42b-PE抗体(eBioscience社製)、及び1μLの抗ヒトCD235ab-pacific blue抗体(BioLegend社製)をそれぞれ用いて、上記血球細胞と抗体とを反応させた。上記反応後、FACS Verse(商標)(BD Biosciences社製)を用いて解析した。感染14日目において、CD41a陽性率が50%以上である細胞を、巨核球自己増殖株とした。
【0043】
(1-5)巨核球自己増殖株へのBCL-xLウイルス感染
上記感染14日目の巨核球自己増殖株に、BCL-xLウイルスを用いたレンチウイルス法にてBCL-xLを遺伝子導入した。MOI 10になるように培地中にウイルス粒子を添加し、スピンインフェクション(32℃、900rpm、60分間遠心)で感染させた。BCL-xL遺伝子の強制発現は、培地に1μg/mL DOXとなるようにDO
Xを添加することにより実施した。
【0044】
(1-6)巨核球不死化株の作製及び維持培養
感染14日目~感染18日目:
上記(1-5)の方法で得られたBCL-xL遺伝子を導入した巨核球自己増殖株を回収し、1200rpm、5分間遠心操作を行った。上記遠心後、沈殿した細胞を新しい分化培地で懸濁した後、新しいC3H10T1/2フィーダ細胞上に2×10cells/2mL/wellとなるように播種した(6well plate)。
感染18日目(継代):
BCL-xL遺伝子を導入後の巨核球自己増殖株を回収し、細胞数を計測後、3×10cells/10mL/100mm dishとなるように播種した。
感染24日目(継代):
BCL-xL遺伝子を導入後の巨核球自己増殖株を回収し、細胞数を計測後、1×10cells/10mL/100mm dishとなるように播種した。以後、4-7日毎に同様にして継代を行い、維持培養を行った。なお、継代時には、新たな分化培地に懸濁の上、播種した。
感染24日目にBCL-xLを遺伝子導入した巨核球自己増殖株を回収し、細胞1.0×10個あたり、2μLの抗ヒトCD41a-APC抗体(BioLegend社製)、1μLの抗ヒトCD42b-PE抗体(eBioscience社製)、及び1μLの抗ヒトCD235ab-Pacific Blue抗体(Anti-CD235ab-PB;BioLegend社製)を用いて免疫染色した後に、FACS Verse(商標)を用いて解析した。そして、感染24日目において、CD41a陽性率が50%以上である株を不死化巨核球細胞株とした。感染後24日以上増殖することができたこれらの細胞を、不死化巨核球細胞株SeV2-MKCL及びNIH5-MKCLとした。得られたSeV2-MKCL及びNIH5-MKCLを、10cmディッシュ(10mL/ディッシュ)で静置培養した。培地は、IMDMを基本培地として、以下の成分を加えた(濃度は終濃度)。培養条件は、27℃、5%COとした。
FBS(シグマ社製、#172012、lot.12E261) 15%
L-Glutamin(Gibco社製、#25030-081) 2mmol/L
ITS(Gibco社製、#41400-045) 100倍希釈
MTG(monothioglycerol、sigma社製、#M6145-25ML) 450μmol/L
アスコルビン酸(sigma社製、#A4544) 50μg/mL
Puromycin(sigma社製、#P8833-100MG) 2μg/mL
SCF(和光純薬社製、#193-15513) 50ng/mL
TPO様作用物質 200ng/mL
【0045】
(1-7)巨核球の培養物の生産
DOXを含まない培地で培養することで強制発現を解除した。具体的には、上記(1-6)の方法で得た不死化巨核球細胞株(SeV2-MKCL及びNIH5-MKCL)を、PBS(-)で2度洗浄し、下記血小板生産培地に懸濁した。細胞の播種密度は、1.0×10cells/mLとした。そして、上記血小板生産培地存在下で6日間培養して、血小板を産生させることにより、巨核球の培養物を生産させた。また、上記血小板生産培地は、IMDMを基本培地として、以下の成分を加えた(濃度は、終濃度)。
human plasma 5%
L-Glutamin(Gibco社製、#25030-081) 4mmol/L
ITS(Gibco社製、#41400-045) 100倍希釈
MTG(monothioglycerol、sigma社製、#M6145-25ML) 450μmol/L
アスコルビン酸(sigma社製、#A4544) 50μg/mL
SCF(和光純薬社製、#193-15513) 50ng/mL
TPO様作用物質 200ng/mL
ADAM阻害剤 15μmol/L
GNF351(Calbiochem社製、#182707) 500nmol/L
Y39983(Chemscene LLC社製、#CS-0096) 500nmol/L
Urokinase 5U/mL
低分子heparin(SANOFI社製、クレキサン) 1U/mL
【0046】
(1-8)巨核球の培養物の濃縮
上記(1-7)で得られた巨核球の培養物から、血小板を製造(精製)した。なお、同様の精製を2回実施した。具体的には、上記(1-7)で得られた巨核球の培養物について、培養物バッグに導入した。そして、上記培養物バッグについて、図1のように、濃縮システムに接続した。図1において、洗浄保存液バッグ1及び2は、洗浄保存液を含む。上記洗浄保存液は、ビカネイト輸液(大塚製薬社製)に20%ACD及び2.5%ヒト血清アルブミンを添加し、NaOHでpH7.2に調整したものを使用した。そして、下記表1にしたがって、中空糸膜(プラズマフローOP、旭化成メディカル社製)を用いて、上記巨核球の培養物を濃縮し、得られた巨核球の培養物の濃縮液を貯蔵バッグに回収した。
【0047】
【表1】
【0048】
(1-9)培養物の遠心分離
まず、無菌接合装置を用いて、ACP215ディスポーザブルセットの廃液バッグを回収用バッグに置換した。上記回収用バッグは、ハイカリックIVHバッグ(テルモ社製、HC-B3006A)を用いた。次に、上記巨核球の培養物の濃縮液に対して10%量のACD-A液(テルモ社製)を添加した。上記添加後、ACD-A液を添加した濃縮液を、細胞バッグに注入した。上記細胞バッグは、ハイカリックIVHバッグ(テルモ社製、HC-B3006A)を用いた。
さらに、無菌接合装置を用いて、ACD-A液を添加した培養物を含む細胞バッグをACP215ディスポーザブルセットに接合した。そして、ACP215をサービスモードで立ち上げ、回転数を2500rpm(350×g)にセットした。ACP215をスタートさせ、上記細胞バッグ中の培養物を約100mL/minで分離ボウルに導入した。上記分離ボウルより流出する液体成分は、回収バッグに回収した。上記細胞バッグ中の培養物の全量を分離ボウルに導入後、さらに500mLの洗浄保存液を上記分離ボウルに導入した。上記分離ボウルに上記洗浄保存液を導入後、遠心を止めてチューブシーラーを用いて回収液(血小板を含む回収された液体成分)を含む回収バッグを切り離した。
新しいACP215ディスポーザブルセットに、上記無菌接合装置を用いて回収液(血小板を含む)を含んだ回収バッグを接合した。ACP215を通常モードで立ち上げた。プログラム設定はWPCを選択し、機器の指示に従い、上記回収バッグを接合したACP215ディスポーザブルセットをセットした。なお、回収液を含んだ回収バッグはスタンドに設置した。
次に、ACP215の遠心速度を5000rpm(1398.8×g)に変更し、遠心をスタートさせた。上記分離ボウルへ上記回収液が導入され始めたとき、自動注入から手動注入に変更した。具体的には、上記回収液を約100mL/minの導入速度で上記分離ボウルに導入した。上記回収液全量を分離ボウルに添加後、さらに500mLの洗浄保存液を追加した。
【0049】
(1-10)培養物の洗浄
洗浄は、ACP215のプログラムに従って、2000mLの上記洗浄保存液で洗浄した。
【0050】
(1-11)培養物の回収
ACP215のプログラムに従って、200mLの洗浄済み培養物(血小板を含む)を血小板製剤バッグに回収した。
【0051】
(1-12)培養物の分離
上記血小板製剤バッグについて、上記中空糸膜を用いて、常法により血小板を分離し、回収用バッグに回収した。
【実施例0052】
[血小板保存液へのビタミンCの添加]
(2-1)血小板保存液の調製
重炭酸リンゲル液(ビカネイト輸液;大塚製薬工場社製)(塩化ナトリウム 5.84g/L、塩化カリウム 0.30g/L、塩化カルシウム水和物 0.22g/L、塩化マグネシウム 0.20g/L、炭酸水素ナトリウム 2.35g/L、及びクエン酸ナトリウム水和物 0.20g/L)に、ヒト血清アルブミン製剤(HSA;CSLベーリング社製)、及び、血液保存液(ACD-A液;テルモ社製)(クエン酸ナトリウム水和物 2.20W/V%、クエン酸水和物、0.80W/V%、及びブドウ糖 2.20W/V%)を加えた溶液を調製した。本明細書においては、当該溶液を「第1世代保存液」ともいう。また、第1世代保存液にVC製剤(添加剤を含む注射製剤;沢井製薬社製)を加えた溶液を調製した。本明細書においては、当該溶液を「VC添加保存液」ともいう。各保存液における上記添加剤の最終濃度を以下の表2に示す。また、いずれの保存液も1MのNaOHによりpH7.3±0.1となるように調整し、使用時まで1時間以上インキュベートした(遮光下、室温、5%CO)。
【0053】
【表2】
【0054】
(2-2)各保存液を用いた血小板サンプルの作製
実施例1により得られた培養物に含まれる血小板の濃度を、FACSにより測定した。必要量の血小板を含む培養物を分取してACD-A液(10v/v%)及びPEG1(終濃度2μM;Cayman Chemical Company社製)を添加し、12分間の遠心分離(1200×g、22℃)を行った。上清を除去した後に、ペレットに上記(2-1)で調製した保存液を加え、均一な懸濁液となるように穏やかに懸濁した(血小板濃度:約0.3×10plts/mL)。各懸濁液を24ウェルプレートに播種して最長5日間水平振盪保存(遮光下、22度、50rpm)した後に、以下の(2-3)及び(2-4)の実験に供した。
【0055】
(2-3)血小板サンプルのAnnexin V陽性率
Annexin Vは血小板の劣化(活性化)の指標の一つであり、陽性率が高い場合には血小板が劣化している、又は異常であると評価される。そこで、上記(2-2)により得られた血小板サンプルにおけるAnnexin V陽性率を測定し、各保存液による血小板の劣化抑制効果を調べた。
具体的には、上記(2-2)により得られた血小板サンプルをAnnexin Buffer(Beckton Dickinson社製)で500倍希釈し、3本の遠心管に分注した(それぞれ、ネガティブコントロール、ポジティブコントロール、及び無刺激サンプル)。ネガティブコントロールサンプルにはEDTAを、ポジティブコントロールサンプルにはIonomycinをそれぞれ添加した後に、全てのサンプルを抗CD41抗体(BioLegend社製)及びAnnexin V(Beckton Dickinson社製)により染色した(遮光下、室温、20分間)。染色後に、Annexin Bufferを加えて速やかにFACSで測定した。ネガティブコントロールにおけるiPS血小板(CD41分画)中のAnnexin V陽性率を1.0±0.1%とし、無刺激サンプルにおけるAnnexin V陽性率を算出した。
結果を図2の上段に示す(いずれも、5日間保存後血小板サンプルから得られた結果)。血小板(CD41分画)のAnnexin V陽性率は、第1世代保存液を用いた場合には60.5±0.3~64.4±0.1%であったのに対し、VC添加保存液を用いた場合には53.9±2.1~56.7±1.8%であり、VC添加により低下することが明らかとなった。これらの結果から、300~3000mg/LのVCを添加することによって、血小板保存液の血小板劣化抑制作用が改善することが明らかとなった。
【0056】
(2-4)血小板サンプルの無刺激時P―Selectin陽性率、及びATR刺激時のPAC―1/P―Selectin陽性率
P―Selectinは血小板の劣化(活性化)の指標の一つであり、無刺激時のP―Selectin陽性率が高い場合には血小板が劣化又は異常であると評価される。そこで、上記(2-2)により得られた血小板サンプルにおけるP―Selectin陽性率を測定し、各保存液による血小板の劣化抑制効果を調べた。
また、血小板機能の保存状態を知るために、血小板活性化剤であるアデノシン二リン酸(ADP)及びトロンビン受容体活性化ペプチド-6(TRAP-6)により各血小板サンプルを刺激した時の、PAC-1及びP―Selectin陽性率を調べた(以下、ADP及びTRAP-6の組合せを「ATR」と称する場合がある)。
具体的には、上記(2-2)により得られた血小板サンプルをTyroad HEPES Buffer(THB)により500倍希釈し、3本の遠心管に分注した(それぞれ、ネガティブコントロール、ポジティブコントロール、及び無刺激サンプル)。ポジティブコントロールサンプルにADP(Sigma社製、終濃度20μM)及びTRAP-6(BACHEM社製、終濃度30μM)の混合液を添加し、刺激後のポジティブコントロールサンプル及び無刺激サンプルを、抗CD41抗体(BioLegend社製)、抗P―Selectin抗体(BioLegend社製)、及び抗PAC-1抗体(Beckton Dickinson社製)により染色した(遮光下、室温、30分間)。また、ネガティブコントロールサンプルは、抗CD41抗体(BioLegend社製)、抗P―Selectin抗体のアイソタイプコントロール抗体(BioLegend社製)、及び抗PAC-1抗体のアイソタイプコントロール抗体(BioLegend社製)により染色した(遮光下、室温、30分間)。染色後のサンプルに1%パラホルムアルデヒドを加えて固定し(遮光下、4℃、30分以上)、その後24時間以内にFACSによりP―Selectin及び/又はPAC―1陽性率を測定した。解析の際には、ネガティブコントロールサンプルにおけるiPS血小板(CD41分画)中の、P-Selectin陽性率及びPAC-1陽性率が1.0±0.1%以下となるようにゲーティングを行った。
【0057】
図2の中段に無刺激時P―Selectin陽性率を、図2の下段にATR刺激時PAC―1/P―Selectin陽性率をそれぞれ示す(いずれも、5日間保存後血小板サンプルから得られた結果)。無刺激の血小板(CD41分画)におけるP―Selectin陽性率は、第1世代保存液を用いた場合には33.2±0.3~45.6±1.2%であったのに対し、VC添加保存液を用いた場合には13.0±0.2~19.7±1.1%であり、VC添加により低下することが明らかとなった。また、P―Selectin陽性率の低下は、VC添加濃度に依存する傾向が認められた。これらの結果から、300~3000mg/LのVCを添加することによって、血小板保存液の血小板劣化抑制作用が改善することが示された。
また、ATR刺激後の血小板(CD41分画)におけるPAC―1/P―Selectin陽性率は、第1世代保存液を用いた場合には17.6~20.8%であったのに対し、VC添加保存液を用いた場合には23.9~26.9%であり、VC添加により上昇することが明らかとなった。これらの結果から、300~3000mg/LのVCを添加することによって、血小板保存液の血小板機能維持作用が改善することが示された。
【実施例0058】
[血小板保存液へのVC及びVB3の添加]
(3-1)血小板保存液の調製
VC添加保存液にニコチン酸(ニコチン酸注射製剤;トーアエイヨー社製)を添加した溶液を調製した。なお、上述の通り、本願明細書において、「VB3」はニコチン酸及び/又はニコチンアミドを意味するが、実施例3~5、及び8~13ではVB3としてニコチン酸が使用されており、実施例6ではVB3としてニコチン酸又はニコチンアミドが使用されている。また、本明細書においては、VC添加保存液にVB3(ニコチン酸又はニコチンアミド)を添加した溶液を「VC/VB3添加保存液」又は「第2世代保存液」ともいう。各保存液における、上記添加剤の最終濃度は以下の表3に示す通りである。また、いずれの保存液も1MのNaOHによりpH7.3±0.1となるように調整し、使用時まで1時間以上インキュベートした(遮光下、室温、5%CO)。
【0059】
【表3】
【0060】
(3-2)各保存液を用いた血小板サンプルの作製
実施例1に記載の方法によって作製したiPS細胞由来血小板製剤に、上記(3-1)で調製した保存液を加え、均一な懸濁液となるように穏やかに懸濁した(血小板濃度:約0.3×10plts/mL)。各懸濁液を直ちに、又は24ウェルプレートに播種して最長5日間水平振盪保存(遮光下、22度、50rpm)した後に、以下の(3-3)~(3-5)の実験に供した。
【0061】
(3-3)血小板サンプルのAnnexin V陽性率
実施例2の(2-3)に記載の方法によって、上記(3-2)により得られた血小板サンプル(5日間保存後)におけるAnnexin V陽性率を測定し、各保存液による血小板の劣化抑制効果を調べた。
結果を図3に示す。血小板(CD41分画)のAnnexin V陽性率は、第1世代保存液を用いた場合には61.4±1.9%、VC添加保存液を用いた場合には46.3±0.7%、VC/VB3添加保存液を用いた場合には44.3±0.5%であった。これらの結果から、VCとVB3を組み合わせて使用することによって、VCのみと比較して、血小板の劣化がより強く抑制されることが明らかとなった。
【0062】
(3-4)血小板サンプルの乳酸産生
保存中の血小板製剤では嫌気的代謝により乳酸が産生されており、乳酸濃度の上昇に伴ってpHが低下し、結果として血小板の劣化が起こることが知られている。そこで、上記(3-2)により得られた血小板サンプルにおける乳酸濃度を測定し、各保存液による乳酸産生抑制作用を調べた。
具体的には、上記(3-2)により得られた血小板サンプル(5日間保存後)を、1.5mLチューブに入れて遠心した(1200×g、22℃、10分間)。上清を回収して新しいチューブに入れ、測定まで-80℃で凍結保存した。N-アッセイL LACニットーボー(ニットーボーメディカル株式会社製)及び自動分析装置7180(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、上記上清中の乳酸濃度を測定した。
結果を図4に示す。サンプル上清中の乳酸濃度は、第1世代保存液を用いた場合には0.35±0.01g/L、VC添加保存液を用いた場合には0.16±0.01g/L、VC/VB3添加保存液を用いた場合には0.13±0.01g/Lであった。これらの結果から、VCとVB3を組み合わせて使用することによって、VCのみと比較して、保存中の血小板における嫌気的代謝がより強く抑制されることが明らかとなった。
【0063】
(3-5)血小板サンプルの血小板回収率
保存時における血小板の活性化は、容器への付着や、凝集塊の形成を引き起こし、血小板回収率低下の原因となると考えられている。そこで、上記(3-2)により得られた、保存前及び保存後の血小板サンプルにおける血小板濃度を測定し、各保存液による回収率の変化を調べた。
具体的には、上記(3-2)で作製した血小板サンプル(保存前、及び5日間保存後)をTHBにより500倍希釈し、TruCOUNTチューブ(Beckton Dickinson社製)に分注した。抗CD41抗体(BioLegend社製)及び抗CD42b抗体(BioLegend社製)により染色し(遮光下、室温、20分間)、再度THBを加えた後にFACSで測定した。TruCOUNTチューブのビーズカウント値に基づいて、CD41細胞(血小板)の濃度を算出した。各血小板サンプルについて、保存前の血小板濃度を分母とし、保存後の血小板濃度を分子として、回収率を算出した。
結果を図5に示す。血小板の回収率は、第1世代保存液を用いた場合には102.0±4.2%、VC添加保存液を用いた場合には101.1±6.8%、VC/VB3添加保存液を用いた場合には99.9±3.9%であった。これらの結果から、VC及び/又はVB3を添加しても、回収率に差が認められないことが明らかとなった。
【実施例0064】
[血小板保存液へのVC及びニコチン酸の添加]
(4-1)血小板保存液の調製と、血小板サンプルの作製
第1世代保存液(20%のACD-A液を含む)に、VC製剤(1000mg/L、沢井製薬社製)を添加し、VC添加保存液を調製した。また、当該VC添加保存液にニコチン酸(400mg/L、トーアエイヨー社製)を添加し、第2世代保存液を調製した。各溶液のpHは7.3±0.1となるように調整した。以下の表4に、本実施例で使用した第2世代保存液の組成を示す。
【0065】
【表4】
【0066】
実施例1に記載の方法によって作製したiPS細胞由来血小板製剤に、上記保存液(第1世代保存液、VC添加保存液、又は第2世代保存液)を加え、均一な懸濁液となるように穏やかに懸濁した(血小板濃度:約1.0×10plts/mL)。各懸濁液を直ちに、又は血液保存バッグに充填して5若しくは10日間水平振盪保存(遮光下、22℃、50rpm)した後に、以下の(4-2)~(4-4)の実験に供した。
【0067】
(4-2)血小板サンプルの乳酸濃度及びpH
上記(2-4)でも述べたように、保存中の血小板製剤では嫌気的代謝により乳酸が産生されており、それがpHの低下の原因となることが知られている。本実験では、上記(4-1)により得られた血小板サンプルにおける乳酸濃度及びpHを測定し、各保存液による乳酸産生抑制作用を調べた。
具体的には、上記(4-1)により得られた血小板サンプル(保存前、5日間保存後、及び10日間保存後)を1.5mLチューブに入れ、細胞培養用分析装置FLEX(Nova Biomedical社製)により、乳酸濃度及びpHを測定した。
結果を図6に示す。図6の左グラフに示すように、乳酸濃度はいずれの保存液を用いた場合でも経時的に上昇していたが、第2世代保存液を用いたサンプルでは上昇の程度が最も低かった。また、図6の右グラフに示すように、pHはいずれの保存液を用いた場合でも経時的に低下していたが、第2世代保存液を用いたサンプルでは低下の程度が最も低く、10日間保存後でも中性に保たれていた。
【0068】
(4-3)血小板サンプルの無刺激時P―Selectin陽性率、及びATR刺激時のPAC―1/P―Selectin陽性率
実施例2の(2-4)でも述べたように、P―Selectinは血小板の劣化マーカーとして知られており、また、ATR(ADP/TRAP-6)刺激時のPAC―1/P―Selectinは血小板の反応性マーカーとして知られている。そこで本実験では、実施例2の(2-4)に記載の方法によって、上記(4-1)により得られた血小板サンプルにおける無刺激時のP―Selectin陽性率、及びATR刺激時のPAC―1/P―Selectin陽性率を測定し、各保存液による血小板の劣化抑制効果を調べた。
図7の左に無刺激時P―Selectin陽性率を、図7の右にATR刺激時PAC―1/P―Selectin陽性率をそれぞれ示す。P―Selectin陽性率は、第1世代保存液を用いた場合、保存前(Day1)が18.0%であったのに対し、5日間保存後(Day5)では33.0%、10日間保存後(Day10)では31.1%と上昇していた。一方、VC添加保存液を用いた場合、5及び10日間保存後のP―Selectin陽性率はいずれも第1世代保存液を用いた場合と比較して低く、それぞれ26.2%(Day5)及び24.4%(Day10)であった。また、第2世代保存液を用いた場合、5及び10日間保存後のP―Selectin陽性率は、VC添加保存液を用いた場合よりもさらに低く、それぞれ24.2%(Day5)及び19.3%(Day10)であった。以上の結果から、第2世代保存液を使用することによって、10日間保存後でも血小板の劣化が抑制されることが明らかとなった。
また、ATR刺激PAC―1/P―Selectin陽性率は、第1世代保存液を用いた場合、保存前(Day1)では43.4%であったのに対し、5日間保存後(Day5)では34.5%、10日間保存後(Day10)では5.9%と急激に低下していた。一方、VC添加保存液、又は第2世代保存液を用いた場合、ATR刺激PAC―1/P―Selectin陽性率は、5日間保存後(Day5)では第1世代保存液を用いた場合と同程度(それぞれ、35.9%及び35.3%)であったが、10日間保存後(Day10)では第1世代保存液よりも顕著に高い値を示した(それぞれ、19.4%及び19.9%)。以上の結果から、VC添加保存液、又は第2世代保存液を使用することによって、10日間保存後でも血小板の反応性が維持されることが明らかとなった。
【0069】
(4-4)血小板サンプルの血小板回収率
上記(3-5)に記載の方法によって、上記(4-1)により得られた血小板サンプルにおける血小板濃度及び回収率を測定した。
結果を図8に示す。第1世代保存液を用いた場合の血小板回収率は、5日間保存後(Day5)では85.4%、10日間保存後(Day10)では86.8%であった。一方、VC添加保存液、又は第2世代保存液を用いた場合には、10日間保存後(Day10)でも血小板回収率が90%以上であった(それぞれ、90.0%及び91.4%)。これらの結果は、VC添加保存液、又は第2世代保存液を使用することによって、保存時の血小板活性化が抑制されるという上記(4-3)の結果と一致するものである。
【実施例0070】
[血小板サンプルの凝集能]
(5-1)保存液及び血小板サンプルの調製
実施例3の(3-1)に記載の方法によって、第1世代保存液及び第2世代保存液を調製した。実施例1に記載の方法によって作製したiPS細胞由来血小板製剤に、上記保存液を加え、均一な懸濁液となるように穏やかに懸濁した(血小板濃度:約1.0×10plts/mL)。各懸濁液を直ちに、又は血液保存バッグに充填して5若しくは10日間水平振盪保存(遮光下、22度、50rpm、)した後に、以下の(5-2)の実験に供した。
【0071】
(5-2)血小板サンプルの凝集能測定
上記(5-1)により得られた血小板サンプルを遠心して(1200×g、室温、10分間)、上清を除去した。5%ACD-Aを含む重炭酸リンゲル液を加えて、細胞濃度が1.0×10plts/mlとなるように懸濁した。得られた懸濁液をヒト血漿/CaCl溶液(コスモ・バイオ社製)により希釈し、以下の表5に示す刺激剤を添加して刺激した。刺激後の各サンプルの凝集率を、血小板凝集能測定装置PRP313M(タイヨウ社製)により測定した。
【0072】
【表5】
【0073】
図9~12に、刺激剤としてTRAP-6、Collagen、ADP、及びCollagen/ADPを用いた結果をそれぞれ示す。第1世代保存液を用いた血小板サンプルの最大凝集率は、いずれの刺激剤を用いた場合でも、5~10日間の保存中に大幅に低下することが明らかとなった(図9~12の「従来保存液(Day10)」)。一方、このような凝集率の急激な低下は、第2世代保存液を用いた血小板サンプルでは認められなかった(図9~12の「新規保存液(Day10)」)。以上の結果から、第2世代保存液を使用することによって、保存中の血小板の凝集能(止血能)が10日以上維持できることが明らかとなった。
【実施例0074】
[保存液へのニコチン酸又はニコチンアミドの添加]
(6-1)保存液及び血小板サンプルの調製
第1世代保存液(20%のACD-A液を含む)に、VC(1000mg/L)と、ニコチン酸(400mg/L;富士フイルム和光純薬社製)又はニコチンアミド(400mg/L;富士フイルム和光純薬社製)とを添加し、1M NaOHを用いてpH7.3±0.1となるように調整した。以下、第1世代保存液にVC及びニコチン酸を添加した保存液を「第2世代保存液(ニコチン酸)」と、第1世代保存液にVC及びニコチンアミドを添加した保存液を「第2世代保存液(ニコチンアミド)」と、それぞれ称する場合がある。
実施例1に記載の方法によって作製したiPS細胞由来血小板製剤に、上記保存液を加え、均一な懸濁液となるように穏やかに懸濁した(血小板濃度:約0.3×10plts/mL)。各懸濁液を直ちに、又は24ウェルプレートに播種して5日間水平振盪保存(遮光下、22度、50rpm)した後に、以下の(6-2)及び(6-3)の実験に供した。
【0075】
(6-2)血小板サンプルのAnnexin V陽性率の変化
実施例2の(2-3)に記載の方法によって、上記(6-1)により得られた血小板サンプルにおけるAnnexin V(劣化マーカー)陽性率を測定し、各保存液による血小板の劣化抑制効果を調べた。
結果を図13の上段に示す。図中、「Day1」は保存前のサンプルを、「第1世代」、「第2世代(ニコチン酸)」、「第2世代(ニコチンアミド)」は5日間保存後のサンプルをそれぞれ示す。血小板(CD41分画)のAnnexin V陽性率は、ニコチン酸を添加した保存液では38.2±0.3%であり、ニコチンアミドを添加した保存液では38.5±0.3%であった。これらの値はいずれも、第1世代保存液を用いた場合(53.1±0.4%)よりも低かった。これらの結果から、広くビタミンB3(ニコチン酸及び/又はニコチンアミド)でも、保存中の血小板の劣化が抑制されることが明らかとなった。
【0076】
(6-3)血小板サンプルの無刺激時P―Selectin陽性率、及びATR刺激時のPAC―1/P―Selectin陽性率に及ぼす各保存液の影響
実施例2の(2-4)に記載の方法によって、上記(6-1)により得られた血小板サンプルにおける無刺激時のP―Selectin(劣化マーカー)陽性率、及びATR刺激時のPAC―1/P―Selectin(反応性マーカー)陽性率を測定し、各保存液による血小板の劣化抑制効果を調べた。
図13の中段に無刺激時P―Selectin陽性率を、図13の下段にATR刺激時PAC―1/P―Selectin陽性率をそれぞれ示す。P―Selectin陽性率は、第1世代保存液を用いた場合、保存前(Day1)の11.6%から5日間保存後(Day5)の28.3±0.5%へと上昇していた。一方、ニコチン酸又はニコチンアミドを添加した第2世代保存液を用いた場合には、5日間保存後でも9.4±0.2%~10.6±0.2%と低く抑えられていた。
また、ATR刺激PAC―1/P―Selectin陽性率は、第1世代保存液を用いた場合には33.9±2.4%であったが、ニコチン酸又はニコチンアミドを添加した第2世代保存液を用いた場合には41.6±0.8%~41.2±1.9%であった。これらの結果から、ニコチン酸又はニコチンアミドにより保存中の血小板の反応性が維持されることが明らかとなった。
【実施例0077】
[保存液へのVC単独添加]
(7-1)保存液及び血小板サンプルの調製
上記実施例2~6では、「VC」として沢井製薬社製のVC製剤を用いた。当該VC製剤には、ピロ亜硫酸ナトリウム、L-システイン塩酸塩一水和物及びベンジルアルコールからなる添加物が含まれていることから、これら添加物が実験結果に影響していないかを、以下の実験により確認した。
第1世代保存液(20%のACD-A液を含む)に、VC試薬(添加剤を含まないVC;1000mg/L、富士フイルム和光純薬社製)を添加し、pH7.3±0.1となるように調整した。以下、かかる保存液を「第1世代保存液(VC試薬)」と称する場合がある。実施例1に記載の方法によって作製したiPS細胞由来血小板製剤に、上記保存液を加え、均一な懸濁液となるように穏やかに懸濁した(血小板濃度:約0.3×10plts/mL)。各懸濁液を直ちに、又は24ウェルプレートに播種して5日間水平振盪保存(遮光下、22度、50rpm)した後に、以下の(7-2)及び(7-3)の実験に供した。
【0078】
(7-2)血小板サンプルのAnnexin V陽性率
実施例2の(2-3)に記載の方法によって、上記(7-1)により得られた血小板サンプルにおけるAnnexin V(劣化マーカー)陽性率を測定し、各保存液による血小板の劣化抑制効果を調べた。
結果を図14の上段に示す(Day1は保存前のサンプルを、第1世代及び第1世代VC試薬は5日間保存後のサンプルをそれぞれ示す)。血小板(CD41分画)のAnnexin V陽性率は、第1世代保存液を用いた場合(53.1±0.4%)よりも、第1世代VC試薬を用いた場合(38.9±0.4%)の方が低かった。これらの結果から、VCのみの添加(VB3を含まない)により、保存中のiPS由来血小板の劣化が抑制されることが明らかとなった。
【0079】
(7-3)血小板サンプルの無刺激時P―Selectin陽性率、及びATR刺激時のPAC―1/P―Selectin陽性率
実施例2の(2-4)に記載の方法によって、上記(7-1)により得られた血小板サンプルにおける無刺激時のP―Selectin(劣化マーカー)陽性率、及びATR刺激時のPAC―1/P―Selectin(反応性マーカー)陽性率を測定し、各保存液による血小板の劣化抑制効果を調べた。
図14の中段に無刺激時P―Selectin陽性率を、図14の下段にATR刺激時PAC―1/P―Selectin陽性率をそれぞれ示す。無刺激時P―Selectin陽性率は、第1世代保存液を用いた場合(28.3±0.5%)よりも、第1世代VC試薬を用いた場合(9.5±0.4%)の方が低かった。これらの結果から、VCのみの添加により、保存中のiPS由来血小板の劣化が抑制されることが明らかとなった。
また、ATR刺激PAC―1/P―Selectin陽性率は、第1世代保存液を用いた場合(33.9±2.4%)よりも、第1世代VC試薬を用いた場合(38.2±1.6%)の方が高かった。これらの結果から、VC試薬のみの添加により、保存中のiPS由来血小板の反応性が維持されることが明らかとなった。すなわち、VCの添加効果は、沢井製薬社製のVC製剤に含まれる添加剤によるものではないことが明らかになった。
【実施例0080】
[日赤血小板洗浄液との比較]
(8-1)保存液及び血小板サンプルの調製
ビカネイト輸液に、以下の表6に示す添加剤を添加して、第2世代保存液を調製した。また、既知の血小板保存液(日本赤十字社、照射洗浄血小板-LR「日赤」の添付文書、2016年3月、及び、Japanese Journal of Transfusion and Cell Therapy, Vol. 59.No. 3 59(3):492―498, 2013)と同じ組成の溶液を調製した。本明細書においては、当該既知の保存液を「日赤血小板洗浄液」ともいう。いずれの保存液も1MのNaOHによりpH7.3±0.1となるように調整し、使用時まで1時間以上インキュベートした(遮光下、室温、5%CO)。実施例1に記載の方法によって作製したiPS細胞由来血小板製剤に、上記保存液を加え、均一な懸濁液となるように穏やかに懸濁した(血小板濃度:約1.0×10plts/mL)。各懸濁液を直ちに、又は血液保存バッグに充填して5日間水平振盪保存(遮光下、22度、50rpm)した後に、以下の(8-2)及び(8-3)の実験に供した。
【0081】
【表6】
【0082】
(8-2)血小板サンプルのAnnexin V陽性率
実施例2の(2-3)に記載の方法によって、上記(8-1)により得られた血小板サンプルにおけるAnnexin V(劣化マーカー)陽性率を測定し、各保存液による血小板の劣化抑制効果を調べた。
結果を図15上段の上段に示す(「Day1」は保存前のサンプルを、「Day5」は5日間保存後のサンプルをそれぞれ示す)。血小板(CD41分画)のAnnexinV陽性率は、日赤血小板洗浄液を用いた場合(73.9%)よりも、第2世代保存液を用いた場合(49.3%)の方が低かった。これらの結果から、第2世代保存液により、保存中のiPS由来血小板の劣化が抑制されることが明らかとなった。
【0083】
(8-3)血小板サンプルの無刺激時P―Selectin陽性率、及びATR刺激時のPAC―1/P―Selectin陽性率
実施例2の(2-4)に記載の方法によって、上記(8-1)により得られた血小板サンプルにおける無刺激時のP―Selectin(劣化マーカー)陽性率、及びATR刺激時のPAC―1/P―Selectin(反応性マーカー)陽性率を測定し、各保存液による血小板の劣化抑制効果を調べた。
図15の中段に無刺激時P―Selectin陽性率を、図15の下段にATR刺激時PAC―1/P―Selectin陽性率をそれぞれ示す。無刺激時P―Selectin陽性率は、日赤血小板洗浄液を用いた場合(30.4%)よりも、第2世代保存液を用いた場合(16.5%)の方が低かった。これらの結果から、iPS由来血小板の保存において第2世代保存液は、日赤血小板洗浄液により優れた劣化抑制効果を奏することが明らかとなった。
また、ATR刺激PAC―1/P―Selectin陽性率は、日赤血小板洗浄液を用いた場合(9.8%)よりも、第2世代保存液を用いた場合(24.8%)の方が高かった。これらの結果から、iPS由来血小板の保存において第2世代保存液は、日赤血小板洗浄液により優れた機能維持効果を奏することが明らかとなった。
【実施例0084】
[血小板減少症モデルマウスを用いた止血試験]
(9-1)血小板サンプルの調製
実施例1に記載の方法によって作製したiPS細胞由来血小板製剤に、第2世代保存液を加え、均一な懸濁液となるように穏やかに懸濁した(血小板濃度:約1.0×10plts/mL)。各懸濁液を直ちに、又は血液保存バッグに充填して水平振盪保存(遮光下、22度、50rpm、10日間)した後に、以下の(9-2)の実験に供した。
【0085】
(9-2)止血試験
血小板減少症モデルNOGマウスの尾静脈内に、上記(9-1)により得られた血小板サンプルを投与した(マウス1匹あたり200μL(2×10plts))。投与10分後、注射針を用いて腹側の尾動脈に切創を作製した。切創は1個体あたり1か所とした。切創からの出血を確認した後に、切創箇所を含む尾先端部を37℃の生理食塩水に漬けて、止血までの時間を測定した。測定時間は最大600秒とした。また、対照群(Vehicle)として、第2世代保存液のみ(血小板を含まない)を用いて同様の試験を行った。
結果を図16に示す。Vehicle投与群では全てのマウスにおいて、600秒間以内での止血は認められなかった。一方、血小板投与群では、止血までの時間は平均で391秒であり、最も短い個体では130秒であった。これらの結果から、本発明の第2世代保存液により保存されたiPS細胞由来血小板が止血効果を有することが明らかとなった。
【実施例0086】
[ヒト間葉系幹細胞の保存]
(10-1)間葉系幹細胞保存液の調製
乳酸リンゲル液(ラクテック輸液;大塚製薬工場社製)に、3%トレハロース及び5%デキストランを添加した(以下、かかる溶液を「CSP-01溶液」と称する場合がある。特開2012-115253、及びWO2014/208053参照)。上記CSP-01溶液に、VC製剤(1000mg/L、沢井製薬社製)及びニコチン酸(400mg/L、トーアエイヨー社製)を加え、間葉系幹細胞保存液を調製した。また、CSP-01溶液に、VC及びニコチン酸に代えて蒸留水(大塚蒸留液;大塚製薬工場社製)を加えたコントロール保存液を調製した。
【0087】
(10-2)間葉系幹細胞の保存
上記(10-1)により調製した保存液を用いてヒト骨髄由来間葉系幹細胞(Lonza社製)を懸濁した(5×10細胞/mL)。懸濁液を5℃で24、48、96、及び168時静置した後に、顕微鏡を用いて全細胞数及び死細胞数を計測した。各時点での細胞生存率(%)及び生細胞回収率(%)を以下の式1及び2を用いて算出した。
【0088】
[式1]
細胞生存率(%)=(全細胞数-死細胞数)/全細胞数×100
【0089】
[式2]
生細胞回収率(%)=各時点の生存細胞数/懸濁直後(保存前)の生存細胞数×100
【0090】
結果を図17に示す。コントロール保存液を用いた場合、細胞生存率及び生細胞回収率は48時間保存後に急激に低下することが明らかとなった。一方、VC及びニコチン酸添加保存液を用いた場合には、細胞生存率及び生細胞回収率の大幅な低下は認められず、168時間後でも保存前と同程度で維持されることが明らかとなった。これらの結果から、VC及びニコチン酸は、間葉系幹細胞の保存においても優れた効果を奏することが示された。
【実施例0091】
[iPS細胞由来巨核球の保存]
(11-1)iPS細胞由来巨核球の調製
実施例1により得られた培養物に含まれる血小板の濃度を、FACSにより測定した。必要量の培養物を分取してACD-A液(10v/v%)及びPEG1(終濃度2μM;Cayman Chemical Company社製)を添加し、12分間の遠心分離(1200×g、22℃、ブレーキ最小)を行った。上清を除去した後に、ペレットに第1世代又は第2世代保存液を加え、均一な懸濁液となるように穏やかに懸濁した(血小板濃度:約1.3×10plts/mL)。各懸濁液を直ちに、又は血液保存バッグに充填して5又は10日間水平振盪保存(遮光下、22度、50rpm)した後に、以下の(11-2)の実験に供した。
【0092】
(11-2)巨核球サンプルのAnnexin V陰性率
Annexin Vは、アポトーシス細胞における細胞膜の変化(フォスファチジルセリンの細胞膜外側への表出)を検出するプローブとしても知られている。そこで、上記(11-1)により得られた巨核球サンプルにおけるAnnexin V陰性率を測定し、各保存液による巨核球のアポトーシス抑制効果を調べた。
具体的には、上記(11-1)により得られた巨核球サンプル(巨核球及び血小板を含む培養物)をAnnexin Buffer(Beckton Dickinson社製)で500倍希釈し、3本の遠心管に分注した(それぞれ、ネガティブコントロール、ポジティブコントロール、及び無刺激サンプル)。ネガティブコントロールサンプルにはEDTAを、ポジティブコントロールサンプルにはIonomycinをそれぞれ添加した後に、全てのサンプルを抗CD41抗体(BioLegend社製)及びAnnexin V(Beckton Dickinson社製)により染色した(遮光下、室温、20分間)。染色後に、Annexin Bufferを加えて速やかにFACSで測定した。得られたFSC(前方散乱光)及びSSC(側方散乱光)の値に基づき血小板と巨核球とを区分した。そして、ネガティブコントロールにおけるiPS血小板(CD41分画)中のAnnexin V陽性率を1.0±0.1%とし、無刺激サンプルにおける巨核球のAnnexin V陰性率を算出した。
結果を図18に示す(「Day1」は保存前のサンプルを、「Day5」は5日間保存後のサンプルを、「Day10」は10日間保存後のサンプルをそれぞれ示す)。Annexin V陰性率は、第1世代保存液を用いたサンプルでも、第2世代保存液を用いたサンプルでも、経時的に低下した。しかし、第2世代保存液を用いた場合には、第1世代保存液を用いた場合よりも、Annexin V陰性率の低下が抑制されることが明らかとなった。これらの結果から、第2世代保存液を用いたサンプルにおいては、アポトーシスを起こしていない、細胞膜が安定した生細胞がより高い割合で含まれることが示された。したがって、本実施例により、第2世代保存液がiPS細胞由来巨核球の保存にも有効であることが示された。
【実施例0093】
[T細胞の保存]
(12-1)T細胞保存液の調製
乳酸リンゲル液(ラクテック輸液;大塚製薬工場社製)に3%トレハロースを添加した(以下、かかる溶液を「CSP-11溶液」と称する場合がある)。上記CSP-11溶液に、VC製剤(1000mg/L、沢井製薬社製)及び/又はニコチン酸(400mg/L、トーアエイヨー社製)を加え、以下の4種類のT細胞保存液を調製した。
CSP-11
CSP-11+VC
CSP-11+ニコチン酸
CSP-11+VC+ニコチン酸
【0094】
(12-2)T細胞の保存
市販の凍結CD8陽性T細胞(ベリタス社製)を融解して、リンパ球培養培地(LGM3、Lonza社製)で洗浄した後に、約1時間インキュベートした(37℃、5%CO)。必要量のCD8陽性T細胞を分取して、10分間の遠心分離(300×g、室温)を行った。上清を取り除いた後に、TLY CULTUREキット25(GCリンフォテック社製)を用いて細胞を浮遊させ、37℃、5%CO条件下で培養して増殖させた(T細胞濃度:約1.1×10cells/5ml)。拡大培養開始から7日後に、CSP-11溶液で細胞を洗浄して、ステムフルチューブ(住友ベークライト社製)に分注し、10分間の遠心分離(300×g、室温)を行った。上清を取り除いた後に、上記(12-1)で調製した保存液を加えて懸濁した(T細胞濃度:約5×10cells/1ml)。各ステムフルチューブから20μLの細胞懸濁液を分取し、20μLトリパンブルー(gibco社製)を混合し、ワンセルカウンター(バイオメディカルサイエンス社製)を用いて生存率を測定した(1ヵ所の細胞計数部の四隅の細胞計数室のエリアの合計細胞数及び死細胞数を計測した)。また、上記細胞懸濁液を5℃で48時間保存した後に、同様に生存率を測定した。
【0095】
結果を図19に示す。保存前の生存率は、各保存液の間で差が認められなかった(図19)。一方、48時間保存後では、VC単独、又はVC及びニコチン酸を添加した保存液を用いた方が、生存率が有意に高いことが明らかとなった(図19)。さらに、VC単独と比較して、VC及びニコチン酸を添加した保存液を用いた方が、有意に高い生存率を示した。したがって、本発明の保存液はT細胞の冷蔵保存にも有効であることが示された。
【実施例0096】
[T細胞の保存]
(13-1)T細胞保存液の調製
CSP-01溶液に、VC製剤(1000mg/L、沢井製薬社製)、ニコチン酸(400mg/L、トーアエイヨー社製)、及び/又はグルコース(80mg/dL、大塚製薬工場社製)を加え、以下の4種類のT細胞保存液を調製した。
CSP-01
CSP-01+VC+ニコチン酸
CSP-01+グルコース
CSP-01+グルコース+VC+ニコチン酸
【0097】
(13-2)T細胞の保存
市販の凍結CD8陽性T細胞(ベリタス社製)を融解して、リンパ球培養培地(LGM3、Lonza社製)で洗浄した後に、約6時間インキュベートした(37℃、5%CO)。必要量のCD8陽性T細胞を分取して、10分間の遠心分離(300×g、室温)を行った。上清を取り除いた後に、TLY CULTUREキット25(GCリンフォテック社製)を用いて細胞を浮遊させ、37℃、5%CO条件下で培養して増殖させた(T細胞濃度:約1.2×10cells/5ml)。拡大培養開始から6日後に、3%トレハロース含有乳酸リンゲル液で細胞を洗浄して、ステムフルチューブ(住友ベークライト社製)に分注し、10分間の遠心分離(300×g、室温)を行った。上清を取り除いた後に、上記(12-1)で調製した保存液を加えて懸濁した(T細胞濃度:約5×10cells/1ml)。各ステムフルチューブから20μLの細胞懸濁液を分取し、20μLトリパンブルー(gibco社製)を混合し、ワンセルカウンター(バイオメディカルサイエンス社製)を用いて生存率を測定した(1ヵ所の細胞計数部の四隅の細胞計数室のエリアの合計細胞数及び死細胞数を計測した)。また、上記細胞懸濁液を5℃で24又は48時間保存した後に、同様に生存率を測定した。得られた各時点での生存率から、以下の式3を用いて生細胞回収率を算出した。
【0098】
[式3]
生細胞回収率(%)=(保存後の生細胞数)÷(保存前の生細胞数)×100
【0099】
結果を図20に示す。保存前の生存率は、各保存液の間で差が認められなかった(図20の左グラフ)。一方、24及び48時間保存後では、VC及びニコチン酸を添加した保存液を用いた方が、生存率及び生細胞回収率が高いことが明らかとなった(図20の中央及び右グラフ)。したがって、本発明の保存液はT細胞の冷蔵保存にも有効であることが示された。また、VC及びニコチン酸に加え、グルコースを添加することにより、生存率および生細胞回収率が向上する傾向にあることが明らかとなった。
【実施例0100】
[VB2による阻害作用]
(14-1)水溶性ビタミン群を添加した保存液の調製
第1世代保存液(20%のACD-A液を含む)に、水溶性ビタミン群(B1、VB2、VB3、VB5、VB6、VB7、VB9、VB12、及びVC)を添加した(以下、かかる保存液を「第1世代+水溶性ビタミン」と称する場合がある)。また、第1世代保存液(20%のACD-A液を含む)に、上記水溶性ビタミン群からVB2を除いた群(B1、VB3、VB5、VB6、VB7、VB9、VB12、及びVC)を添加した(以下、かかる保存液を「第1世代+水溶性ビタミン(VB2除く)」と称する場合がある)。いずれの保存液も、1M NaOHを用いてpH7.3±0.1となるように調整した。
実施例1に記載の方法によって作製したiPS細胞由来血小板製剤に、上記保存液を加え、均一な懸濁液となるように穏やかに懸濁した(血小板濃度:約0.3×10plts/mL)。各懸濁液を直ちに、又は24ウェルプレートに播種して5日間水平振盪保存(遮光下、22度、50rpm)した後に、以下の(13-2)及び(13-3)の実験に供した。
【0101】
(14-2)血小板サンプルのAnnexin V陽性率の変化
実施例2の(2-3)に記載の方法によって、上記(14-1)により得られた血小板サンプルにおけるAnnexin V(劣化マーカー)陽性率を測定し、各保存液による血小板の劣化抑制効果を調べた。
結果を図21に示す。図中、「Day1」は保存前のサンプルを、「Day5」は5日間保存後のサンプルをそれぞれ示す。5日間保存後の血小板(CD41分画)のAnnexin V陽性率は、第1世代保存液を用いた場合には、52.0%であったのに対し、水溶性ビタミン群を添加した保存液では43.0%に低下していた。また、Annexin V陽性率は、水溶性ビタミン群(VB2除く)を添加した保存液ではさらに低下しており、40.3%であった。これらの結果から、VC及びVB3による血小板劣化抑制効果が、VB2により阻害される可能性が示された。
【0102】
(14-3)血小板サンプルの無刺激時P―Selectin陽性率、及びATR刺激時のPAC―1/P―Selectin陽性率に及ぼす各保存液の影響 実施例2の(2-4)に記載の方法によって、上記(14-1)により得られた血小板サンプルにおける無刺激時のP―Selectin(劣化マーカー)陽性率、及びATR刺激時のPAC―1/P―Selectin(反応性マーカー)陽性率を測定し、各保存液による血小板の劣化抑制効果を調べた。
図22の左側に無刺激時P―Selectin陽性率を、図22の右側にATR刺激時PAC―1/P―Selectin陽性率をそれぞれ示す。P―Selectin陽性率は、第1世代保存液を用いた場合、保存前(Day1)の27.4%から5日間保存後(Day5)の42.9%へと上昇していた。一方、5日間保存後のP―Selectin陽性率は、水溶性ビタミン群を添加した保存液を用いた場合には34.9%と低く抑えられており、水溶性ビタミン群(VB2除く)を添加した保存液を用いた場合には24.0%とさらに低く抑えられていた。
また、ATR刺激PAC―1/P―Selectin陽性率は、第1世代保存液を用いた場合、保存前(Day1)の35.6%から5日間保存後(Day5)の32.4%へと低下していた。一方、水溶性ビタミン群を添加した保存液を用いた場合には、5日間保存後でも36.8%であった。さらに、水溶性ビタミン群(VB2除く)を添加した保存液を用いた場合には、5日間保存後に43.0%と上昇することが明らかとなった。これらの結果から、VC及びVB3による血小板機能維持効果が、VB2により阻害される可能性が示された。
【実施例0103】
[ヒト間葉系幹細胞の長期保存]
(15-1)間葉系幹細胞保存液の調製
実施例10の(10-1)の記載に従ってCSP-01溶液を調製した。かかるCSP-01溶液に、VC製剤(1000mg/L、沢井製薬社製)及びニコチン酸(400mg/L、トーアエイヨー社製)を加え、間葉系幹細胞保存液を調製した。また、CSP-01溶液に、VC及びニコチン酸に代えて、溶媒である蒸留水(大塚蒸留液;大塚製薬工場社製)を加えたコントロール保存液を調製した。
【0104】
(15-2)間葉系幹細胞の保存
上記(15-1)により調製した保存液を用いてヒト骨髄由来間葉系幹細胞(Lonza社製)を懸濁した(5x10細胞/mL)。懸濁液を5℃で、1、2、4、7、14、21、28、35及び63日静置した後に、顕微鏡を用いて全細胞数及び死細胞数を計測した。各時点での細胞生存率(%)及び生細胞回収率(%)は、実施例10の(10-2)に記載の式1及び2を用いて算出した。
【0105】
結果を図23に示す。コントロール保存液(図中では「+溶媒」)を用いた場合、細胞生存率及び生細胞回収率は2日間の保存後に急激に低下することが明らかとなった。一方、VC及びニコチン酸添加保存液(図中では「+VC+ニコチン酸」)を用いた場合には、細胞生存率及び生細胞回収率の急激な低下は認められず、35日後でも保存前と同程度で維持されることが明らかとなった。また、VC及びニコチン酸添加保存液を用いた場合は、コントロール保存液と比較して、63日間保存後でも細胞生存率及び生細胞回収率が有意に高いことが示された。これらの結果から、VC及びニコチン酸は、間葉系幹細胞の長期間の保存においても優れた効果を奏することが示された。
【実施例0106】
[ヒト間葉系幹細胞の長期保存]
(16-1)間葉系幹細胞保存液の調製
CSP-01溶液又は乳酸リンゲル液(ラクテック輸液;大塚製薬工場社製)に、VC製剤(1000mg/L、沢井製薬社製)及びニコチン酸(400mg/L、トーアエイヨー社製)を加え、以下の4種の間葉系幹細胞保存液を調製した。
CSP-01
CSP-01+VC+ニコチン酸
乳酸リンゲル液
乳酸リンゲル液+VC+ニコチン酸
【0107】
(16-2)間葉系幹細胞の保存
上記(16-1)により調製した保存液を用いてヒト脂肪由来間葉系幹細胞(Lonza社製)を懸濁した(5x10細胞/mL)。懸濁液を5℃で7、14、21及び28日静置した後に、顕微鏡を用いて全細胞数及び死細胞数を計測した。各時点での細胞生存率(%)及び生細胞回収率(%)は、実施例10の(10-2)に記載の式1及び2を用いて算出した。
【0108】
結果を図24に示す。CSP-01又は乳酸リンゲル液のみを用いた場合には、細胞生存率及び生細胞回収率は7日間保存後の時点において著しく低下した。一方、VC及びニコチン酸を添加した保存液を用いた場合には、細胞生存率及び生細胞回収率の低下は抑制されることが明らかとなった。特に、CSP-01+VC+ニコチン酸を用いた場合には、28日間保存後でも、細胞生存率及び生細胞回収率がいずれも高く維持されることが明らかとなった。また、乳酸リンゲル液+VC+ニコチン酸を用いた場合には、14日間保存後でも、細胞生存率及び生細胞回収率がいずれも高く維持されることが明らかとなった。これらの結果から、VC及びニコチン酸は、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞の長期保存においても優れた効果を奏することが示された。
【実施例0109】
[ヒト間葉系幹細胞の長期保存]
(17-1)間葉系幹細胞保存液の調製
CSP-01溶液に、VC製剤(1000mg/L、沢井製薬社製)及び/又はニコチン酸(400mg/L、トーアエイヨー社製)を加え、さらに炭酸水素ナトリウム製剤(メイロン静注8.4%、大塚製薬工場社製)を加えてpHを7.0~7.3に調整した。また、コントロール保存液として、CSP-01溶液に、炭酸水素ナトリウム製剤(メイロン静注8.4%、大塚製薬工場社製)を加えてpHを7.0~7.3に調整した。以上のようにして、以下の4種の間葉系幹細胞保存液を調製した。
CSP-01
CSP-01+VC
CSP-01+ニコチン酸
CSP-01+VC+ニコチン酸
【0110】
(17-2)間葉系幹細胞の保存
上記(17-1)により調製した保存液を用いてヒト脂肪由来間葉系幹細胞(Lonza社製)を懸濁した(5x10細胞/mL)。懸濁液を5℃で7、14、21及び28日静置した後に、顕微鏡を用いて全細胞数及び死細胞数を計測した。各時点での細胞生存率(%)及び生細胞回収率(%)は、実施例10の(10-2)に記載の式1及び2を用いて算出した。
【0111】
結果を図25に示す。CSP-01+ニコチン酸を用いた場合、細胞生存率及び生細胞回収率はコントロール(CSP-01)と同様に直線的に低下した。一方、CSP-01+VCを用いた場合には、細胞生存率及び生細胞回収率の低下は有意に抑制された。さらに、CSP-01+VC+ニコチン酸を用いた場合には、細胞生存率及び生細胞回収率はより顕著に改善された。これらの結果から、間葉系幹細胞の長期保存において、VCは単独でも有効であるが、VCとニコチン酸とを併用することにより、さらに優れた効果を発揮することが示された。
【実施例0112】
[幼若ブタ骨髄間葉系幹細胞の保存]
(18-1)間葉系幹細胞保存液の調製
CSP-01溶液に、VC製剤(1000mg/L、沢井製薬社製)及びニコチン酸(400mg/L、トーアエイヨー社製)を加え、間葉系幹細胞保存液(CSP-01+VC+ニコチン酸)を調製した。また、コントロール保存液として、CSP-01溶液にのみを用いた。
【0113】
(18-2)間葉系幹細胞の保存
Nishimuraら(Xenotransplantation. 2019 May;26(3):e12501.)の方法に従って、幼若ブタ骨髄由来間葉系幹細胞(np間葉系幹細胞)を作製した。かかるnp間葉系幹細胞を、上記(18-1)により調製した保存液を用いて懸濁した(5x10細胞/mL)。懸濁液を5℃で7、14、21及び28日静置した後に、顕微鏡を用いて全細胞数及び死細胞数を計測した。各時点での細胞生存率(%)及び生細胞回収率(%)は、実施例10の(10-2)に記載の式1及び2を用いて算出した。
【0114】
結果を図26に示す。CSP-01+VC+ニコチン酸を用いた場合には、コントロール(CSP-01)と比較して、いずれの保存期間においてもnp間葉系幹細胞の生存率及び生細胞回収率が改善された。また、CSP-01+VC+ニコチン酸により、28日間保存後でもnp間葉系幹細胞の生存率及び生細胞回収率が高く維持されることが明らかとなった。これらの結果から、VC及びニコチン酸を添加した保存液は、np間葉系幹細胞の保存においても優れた効果を奏することが示された。
【実施例0115】
[T細胞の保存]
(19-1)T細胞保存液の調製
乳酸リンゲル液(ラクテック輸液;大塚製薬工場社製)に、VC製剤(1000mg/L、沢井製薬社製)、ニコチン酸(400mg/L、トーアエイヨー社製)、及び/又はグルコース(80mg/dL、大塚製薬工場社製)を加え、以下の8種類のT細胞保存液を調製した。
LR
LR+グルコース
LR+VC
LR+ニコチン酸
LR+VC+ニコチン酸
LR+VC+グルコース
LR+ニコチン酸+グルコース
LR+VC+ニコチン酸+グルコース
【0116】
(19-2)T細胞の保存
市販の凍結CD8陽性T細胞(ベリタス社製)を融解して、リンパ球培養培地(LGM3、Lonza社製)で洗浄した後に、1時間インキュベートした(37℃、5%CO)。必要量のCD8陽性T細胞を分取して、10分間の遠心分離(300×g、室温)を行った。上清を取り除いた後に、TLY CULTUREキット25(GCリンフォテック社製)を用いて細胞を浮遊させ、37℃、5%CO条件下で培養して増殖させた(T細胞濃度:約8×10cells/5ml)。拡大培養開始から7日後に、PBS(-)で細胞を洗浄して、ステムフルチューブ(住友ベークライト社製)に分注し、10分間の遠心分離(300×g、室温)を行った。上清を取り除いた後に、上記(19-1)で調製した保存液を加えて懸濁した(T細胞濃度:約5×10cells/1ml)。上記細胞懸濁液を5℃で24時間保存した時点、及び、その後さらに25℃で6時間保存した時点(合計30時間保存後)で、顕微鏡を用いて全細胞数及び死細胞数を計測した。各時点での細胞生存率(%)及び生細胞回収率(%)は、実施例10の(10-2)に記載の式1及び2を用いて算出した。
【0117】
保存後のT細胞生存率を図27に示す。図27の上グラフに示すように、5℃で24時間保存後の生存率は、LR保存液と比較して、VC添加保存液(LR+VC、LR+VC+ニコチン酸、LR+VC+グルコース、及びLR+VC+ニコチン酸+グルコース)を用いた場合に有意に上昇することが明らかとなった。また、図27の下グラフに示すように、5℃で24時間+25℃で6時間保存後の生存率は、LR保存液と比較して、VC及びグルコース添加保存液(LR+VC+グルコース、及びLR+VC+ニコチン酸+グルコース)を用いた場合に有意に上昇し、さらに、VC及びニコチン酸添加保存液(LR+VC+ニコチン酸)を用いた場合に上昇傾向が認められた。
【0118】
保存後のT細胞の生細胞回収率を図28に示す。図28の上グラフに示すように、5℃で24時間保存後の生細胞回収率は、LR保存液と比較して、VC添加保存液(LR+VC、LR+VC+ニコチン酸、LR+VC+グルコース、及びLR+VC+ニコチン酸+グルコース)を用いた場合に有意に上昇することが明らかとなった。中でも、VCとグルコースを組み合わせて添加した保存液(LR+VC+グルコース、及びLR+VC+ニコチン酸+グルコース)において、より顕著な生細胞回収率改善作用が認められた。また、図28の下グラフに示すように、5℃で24時間+25℃で6時間保存後の生細胞回収率は、LR保存液と比較して、VC及びグルコース添加保存液(LR+VC+グルコース、及びLR+VC+ニコチン酸+グルコース)を用いた場合に有意に上昇し、さらに、VC及びニコチン酸添加保存液(LR+VC+ニコチン酸)を用いた場合に上昇傾向が認められた。
【0119】
以上の結果から、T細胞を5℃で保存した後に、25℃に温度を変化させてさらに保存するという、実際のT細胞移植を想定した条件においては、VC及びニコチン酸の組合せの使用により、それぞれを単独で使用するよりも、生存率及び生細胞回収率がともに向上することが示された。また、VC及びグルコースを組み合わせて使用することにより、生存率及び生細胞回収率がより向上することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明によれば、血小板の機能を維持したまま少なくとも10日間振盪保存することが可能であるため、疾患や創傷治療のための血小板製剤の作製に有用である。また、本発明によれば、間葉系幹細胞、巨核球、T細胞などの非凍結保存においても、長期間の保存が可能となるため、再生医療等における移植医療分野やがん治療分野で有用である。
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