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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022071224
(43)【公開日】2022-05-16
(54)【発明の名称】ゴルフクラブ
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/04 20150101AFI20220425BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20220425BHJP
【FI】
A63B53/04 F
A63B102:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020175877
(22)【出願日】2020-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】591002382
【氏名又は名称】株式会社遠藤製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 元成
(74)【代理人】
【識別番号】100139789
【氏名又は名称】町田 光信
(74)【代理人】
【識別番号】100168468
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 曜
(72)【発明者】
【氏名】笠原 信行
(72)【発明者】
【氏名】岡田 誠
(72)【発明者】
【氏名】須田 千里
【テーマコード(参考)】
2C002
【Fターム(参考)】
2C002AA03
2C002CH01
2C002MM04
(57)【要約】
【課題】反発係数を低下させることなく、フェース部材の耐久性を向上させたゴルフクラブを提供する。
【解決手段】図5(a)のフェース部材3は、フェース部材3の裏面37のインパクトエリア38の外側に、閉じた環状に連続的な波形曲線の溝52が形成されたものである。連続的な波形曲線の溝52は、フェース面(表面)31側のスコアライン36と平行になる部分が無い。また、連続的な波形曲線の溝52は、トウ23(一側縁32)側、及びトップ21(上縁34)側が、フェース部材3の裏面37が接するヘッド本体2の取付け面27と重なる位置に形成されている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフクラブの本体であるヘッド本体と、
前記ヘッド本体に溶接により固定され、かつ表面にスコアラインが形成されているボールが打撃されるフェース部材と
を有するゴルフクラブにおいて、
前記フェース部材の裏面には、少なくとも前記フェース部材のインパクトエリアの下部に、前記スコアラインと交差する方向の連続的な波形曲線の溝が形成されている
ことを特徴とするゴルフクラブ。
【請求項2】
請求項1に記載のゴルフクラブにおいて、
前記波形曲線は、弧と弧、又は、弧と直線を連結した曲線である
ことを特徴とするゴルフクラブ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のゴルフクラブにおいて、
前記溝は、前記フェース部材の裏面の前記インパクトエリアの外側に形成されている
ことを特徴とするゴルフクラブ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のゴルフクラブにおいて、
前記インパクトエリアは、前記フェース部材の表面の重心点を中心とした直径25mmの円である
ことを特徴とするゴルフクラブ。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のゴルフクラブにおいて、
前記ゴルフクラブのトウ側、及びトップ側に形成された前記溝は、前記フェース部材の裏面が接して固定された前記ヘッド本体の取付け面と重なる位置に形成されている
ことを特徴とするゴルフクラブ。
【請求項6】
請求項3に記載のゴルフクラブにおいて、
前記溝は、前記インパクトエリアを囲むように、連続する閉じた環状に形成されている
ことを特徴とするゴルフクラブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反発係数を大きくして耐久性を確保したゴルフクラブに関する。特に、フェース部の反発係数を低下させずに、フェース部の耐久性を向上させたゴルフクラブに関する。
【背景技術】
【0002】
ウッド、アイアンで飛距離を追及する場合、用具の技術的な面から言えば、反発係数(COR)を大きくする方法がある。反発係数を大きくする手段としては、ボールとのインパクトでフェース部を撓み易くする方法がある。アイアン型ゴルフクラブにおいて、フェース部材の裏面の上下等に溝を形成して、ボールのインパクト時に、フェース部材が撓むようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1及び2)。また、フェース部材でボールが当る円形領域(インパクトエリア)を除いた裏面に、スコアラインに平行に溝を形成したものが提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-44445号
【特許文献2】特開2012-90680号
【特許文献3】特開2019-80846号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、反発係数を高くするには、フェース部材の板厚を薄くする方法が採用され、その薄肉化のために高強度、高硬度な材料がヘッド部材に用いられている。このような高強度、高硬度な材料を用いたゴルフクラブのフェース部材は、硬度が高いこともあり、スコアラインに沿って割れが発生して、耐久性に問題が生じることがある。特に、前述した従来のフェース部材の裏面の溝は、スコアラインに平行に形成されていると、応力集中が起こりフェース部材が割れることになるので、ゴルフクラブとして問題が発生する。
本発明の目的は、反発係数を低下させることなく、フェース部材の耐久性を向上させたゴルフクラブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記課題を解決するために、次の手段を採る。
即ち、本発明1のゴルフクラブは、ゴルフクラブの本体であるヘッド本体と、前記ヘッド本体に溶接により固定され、かつ表面にスコアラインが形成されているボールが打撃されるフェース部材とを有するゴルフクラブにおいて、前記フェース部材の裏面には、少なくとも前記フェース部材のインパクトエリアの下部に、前記スコアラインと交差する方向の連続的な波形曲線の溝が形成されていることを特徴とする。
【0006】
本発明2のゴルフクラブは、本発明1において、前記波形曲線は、弧と弧、又は、弧と直線を連結した曲線であることを特徴とする。
本発明3のゴルフクラブは、本発明1又は2において、前記溝は、前記フェース部材の裏面の前記インパクトエリアの外側に形成されていることを特徴とする。
本発明4のゴルフクラブは、本発明1又は2において、前記インパクトエリアは、前記フェース部材の表面の重心点を中心とした直径25mmの円であることを特徴とする。
【0007】
本発明5のゴルフクラブは、本発明1又は2において、前記ゴルフクラブのトウ側、及びトップ側に形成された前記溝は、前記フェース部材の裏面が接して固定された前記ヘッド本体の取付け面と重なる位置に形成されていることを特徴とする。
本発明6のゴルフクラブは、本発明3において、前記溝は、前記インパクトエリアを囲むように、連続する閉じた環状に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のゴルフクラブは、フェース部材の裏面に、少なくともフェース部材のインパクトエリアの下部に、スコアラインと交差する方向の連続的な波形曲線の溝が形成されているため、反発係数を向上させつつ、フェース部材の耐久性を向上させることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施の形態のゴルフクラブを示す正面図である。
図2図2は、図1のゴルフクラブの分解斜視図である。
図3図3は、図1の縦断面図である。
図4図4は、従来のフェース部材の裏面を示す正面図であり、図4(a)は裏面に溝が無いフェース部材の正面図とCOR(反発係数)、最大応力(GPa:ギガパスカル)を示し、図4(b)は裏面の外縁に沿って環状に溝が形成されたフェース部材の正面図とCOR、最大応力を示す。
図5図5は、本発明の実施の形態のフェース部材の裏面を示す正面図であり、図5(a)はインパクトエリアの外側に、閉じた環状に連続的な波形曲線の溝が形成されたフェース部材の正面図とCOR、最大応力を示す。図5(b)はインパクトエリアの外側に、トップ側に連続的な波形曲線の溝が形成され、トップ側以外の裏面の外縁に沿って環状に溝が形成されたフェース部材の正面図とCOR、最大応力を示す。図5(c)はインパクトエリアの外側に、ソール側に連続的な波形曲線の溝が形成され、ソール側以外の裏面の外縁に沿って環状に溝が形成されたフェース部材の正面図とCOR、最大応力を示す。
図6図6は、本発明の実施の形態のフェース部材の裏面を示す正面図であり、図6(a)はインパクトエリアの外側に、環状に断続的で外側に凸の弧状の溝が形成されたフェース部材の正面図とCOR、最大応力を示す。図6(b)はインパクトエリアの外側に、環状に断続的で内側に凸の弧状の溝が形成されたフェース部材の正面図とCOR、最大応力を示す。
図7図7は、本発明の実施の形態のフェース部材の裏面を示す正面図であり、図7(a)はインパクトエリアの内側に入り込むように、ソール側にだけ、波の高さが高く、連続的な波形曲線の溝が形成されたフェース部材の正面図とCOR、最大応力を示す。図7(b)はインパクトエリアの外側に、ソール側にだけ、波の高さが低く、連続的な波形曲線の溝が形成されたフェース部材の正面図とCOR、最大応力を示す。図7(c)は図5(a)の溝が2列形成されたフェース部材の正面図とCOR、最大応力を示す。
図8図8は、本発明の実施の形態のフェース部材の裏面を示す正面図であり、図8(a)は図5(c)の溝が2列形成されたフェース部材の正面図とCOR、最大応力を示す。図8(b)は図7(a)の波形曲線の波長を短くしたフェース部材の正面図とCOR、最大応力を示す。図8(c)は図7(b)の溝を上下反転した溝を図7(b)の溝に重ねたフェース部材の正面図とCOR、最大応力を示す。
図9図9は、本発明の他の実施の形態のフェース部材の裏面を示す正面図で、ドライバーに適用した例であり、図9(a)はインパクトエリアの外側に、ソール側にだけ、連続的な波形曲線の溝が形成されたフェース部材の正面図を示す。図9(b)はインパクトエリアの外側に、トップ側、トウ側、ソール側に連続的な波形曲線の溝が形成されたフェース部材の正面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施の形態のゴルフクラブを示す正面図、図2図1のゴルフクラブの分解斜視図、図3図1の縦断面図である。図1図3は、本発明の実施の形態のゴルフクラブを示すものであり、アイアンゴルフクラブに適用した例を示すものである。ヘッド1は、ヘッド本体2とシャフト41からなる。ヘッド1には、前面にゴルフボール(図示せず)を打撃するためのフェース面(表面)31が形成され、このフェース面31の上部にトップ21、下部にソール22、一側にトウ23、他側にヒール42を形成している。そしてヒール42の上部に、シャフト41を取り付けるホーゼル43を有している。このホーゼル43に、シャフト41の下端が連結して固定されている。ヘッド1のヘッド本体2の背面中央に、キャビティと称される背面凹部25が形成されている。この背面凹部25の下部には削られたような底面凹部26が形成されている(図3参照)。
【0011】
ヘッド1は、図2に示すように、フェース面31を有する板材のフェース部材3と、このフェース部材3の裏面側に配置されるヘッド本体2の二部材を一体化したものである。フェース部材3とヘッド本体2とは、異なる材料によって形成されている。ヘッド本体2の素材は、本発明の実施の形態では機械構造用炭素鋼(S20C等)である。フェース部材3の素材は、圧延によって造られた板状のSEA8655MOD(クロムモリブデン鋼)で、板厚は1.95mmである。ヘッド本体2は、下部にソール22を形成すると共に、上部にトップ21を形成し、一側にはトウ23を形成すると共に他側にホーゼル43を形成している。更に、ヘッド本体2には、ヒール42側を除いて、前面にはフェース部材3を取り付けるために、フェース部材3の厚みと同等の深さを形成する段部24が形成され、この段部24を含んで、フェース部材3の取付け面27が形成されている。
【0012】
更に、ヘッド本体2には、背面凹部25の他に底面凹部26も形成されている(図3参照)。フェース部材3の一側縁32及び上縁34、下縁35は、ヘッド本体2のトウ23側の前縁23A、トップ21の前縁21A及びソール22の前縁22Aと同じ大きさに形成されている。また、フェース部材3の他側縁33は、段部24と同じ大きさに形成されている。そして、フェース部材3の裏面37を取付け面27に当接させ、ヘッド本体2の前記トウ23側の前縁23A、トップ21の前縁21A及びソール22の前縁22Aのそれぞれに、フェース部材3の一側縁32、上縁34及び下縁35のそれぞれの裏面側をそれぞれ揃えて突き合せる。この突き合せ部を溶接し(図3)、この溶接部28によって、フェース部材3をヘッド本体2に固着している。尚、フェース部3の他側縁33は、ヘッド本体2の段部24に突き合わせて、この突き合わせ部も溶接して固着している。このようにして、フェース部材3をヘッド本体2に固着した後、或いはその前にフェース部材3の表面(フェース面)31には、トウ、ヒール方向にスコアライン36が上下多段に形成されており、そしてヘッド1は研磨や鍍金等を施された後に、ホーゼル43にシャフト41が接着剤等により連結、固定される。本発明の実施の形態のヘッド本体2、フェース部材3の主要寸法は図2に示す通りである。
【0013】
図4は、従来のフェース部材3の裏面37を示す正面図であり、図4(a)は裏面37に溝が無いフェース部材3の正面図とCOR(反発係数)、最大応力(GPa:ギガパスカル)を示し、図4(b)は裏面37の外縁に沿って環状の溝51がプレスで成形されたフェース部材3の正面図とCOR、最大応力を示す。図4に示すように、シミュレーションソフトでシミュレーションした結果は、図4(a)のフェース部材3のCORは0.819、最大応力は2.963(GPa)であり、図4(b)のフェース部材3のCORは0.821、最大応力は3.1(GPa)であった。図4(a)、図4(b)のシミュレーション結果から、フェース部材3の裏面37に溝を形成することでCORを向上させることができることが分かった。また、図4(b)のフェース部材3のように、裏面37の外縁に沿って環状の溝51を形成した場合には、COR(反発係数)を向上させることができるが、最大応力が大きくなるので、耐久性が低下してしまうことが分かった。従って、図4(a)、図4(b)のシミュレーション結果から、目標とするCOR(反発係数)を0.821、目標とする最大応力を2.963(GPa)に設定した。
【0014】
図5図6は、フェース部材3の裏面37のインパクトエリア38の外側に種々の形状の溝をプレスで成形して、シミュレーションソフトでCOR(反発係数)と最大応力(GPa)をシミュレーションした結果を示す。フェース部材3の板厚は1.95mm、溝の幅は1.5mm、溝の深さ0.75mmである。図5図6で、裏面37の外縁に沿って形成された二点鎖線は背面凹部25の外周であり、取付け面27の輪郭線でもある。また、一点鎖線の円はインパクトエリア38を表している。本発明の実施の形態のインパクトエリア38は、フェース面(表面)31にショットマーカー(白い粉)を吹きかけた状態で、標準直径のゴルフボールをヘッドスピード40m/sで、フェース面31の重心点(ヘッド本体2の重心からフェース面31へ下した垂線との交点)に打撃した時の打痕であって、フェース部材3のフェース面(表面)31の重心点を中心とした直径が約25mmの円である。このインパクトエリア38は、ゴルフボールを打撃したときの弾性変形の跡とも言える。
【0015】
図5(a)のフェース部材3は、フェース部材3の裏面37のインパクトエリア38の外側に、閉じた環状に連続的な波形曲線の溝52が形成されたものである。連続的な波形曲線の溝52は、フェース面(表面)31側のスコアライン36と平行になる部分が無い。また、連続的な波形曲線の溝52は、トウ23(一側縁32)側、及びトップ21(上縁34)側が、フェース部材3の裏面37が接するヘッド本体2の取付け面27と重なる位置に形成されている。図5(a)のフェース部材3のCORは、0.8197、最大応力は2.857(GPa)であって、COR(反発係数)を向上させつつ、最大応力が小さくなるので、図4(a)の溝の無いフェース部材3よりも耐久性が向上することが分かった。
【0016】
図5(b)のフェース部材3は、フェース部材3の裏面37のインパクトエリア38の外側に、トップ21(上縁34)側に連続的な波形曲線の溝53Aが形成され、トップ21(上縁34)側以外の裏面37の外縁に沿って環状の溝53Bが形成されたものである。図5(b)のフェース部材3のCORは、0.8209で、COR(反発係数)を図4(b)と同等まで向上させることができる。しかし、環状の溝53Bには、ソール22(下縁35)側にスコアライン36と平行になる部分がある。従って、最大応力は3.871(GPa)であって、耐久性が目標値よりも大きく低下するため、採用するには適当ではないことが分かった。
【0017】
図5(c)のフェース部材3は、フェース部材3の裏面37のインパクトエリア38の外側に、ソール22(下縁35)側に連続的な波形曲線の溝54Aが形成され、ソール22(下縁35)側以外の裏面37の外縁に沿って環状の溝54Bが形成されたものである。環状の溝54Bには、スコアライン36と平行になる部分はない。従って、図5(c)のフェース部材3のCORは、0.8198、最大応力は2.903(GPa)であって、COR(反発係数)を向上させつつ、最大応力が小さくなるので、図4(a)の溝の無いフェース部材3よりも耐久性が向上することが分かった。
【0018】
図6(a)のフェース部材3は、フェース部材3の裏面37のインパクトエリア38の外側に、環状に断続的で外側に凸の弧状の溝55が形成されたものである。図6(a)のフェース部材3のCORは、0.8195で、COR(反発係数)は目標値よりも低く、最大応力は3.186(GPa)であって、耐久性が低下するため、採用するには適当ではないことが分かった。
【0019】
図6(b)のフェース部材3は、フェース部材3の裏面37のインパクトエリア38の外側に、環状に断続的で内側に凸の弧状の溝56が形成されたものである。図6(b)のフェース部材3の最大応力は2.918(GPa)であって、耐久性は低下しないが、CORは、0.8192で、COR(反発係数)は目標値よりも低いため、採用するには適当ではないことが分かった。図4から図6のフェース部材3のCOR(反発係数)と最大応力(GPa)のシミュレーション結果から、インパクトエリア38の下部のスコアライン36の下端付近に溝を入れる場合には、スコアライン36に平行にならないように連続した溝を入れれば、CORと耐久性を両立できることが分かった。
【0020】
シミュレーションの評価が良かった図5(a)のフェース部材3と、比較用として図4(b)のフェース部材3を製作し、現物でCOR(反発係数)と耐久性を試験した。COR(反発係数)は、フェース面(表面)31にゴルフボールを当て、跳ね返ったゴルフボールのスピードを測定した。耐久性試験は、標準直径のゴルフボールをヘッドスピード40m/sでフェース面(表面)31に当て、フェース部材3の損傷状態を観察した。その結果、図4(b)のフェース部材3のCORが0.8209、図5(a)の実物のフェース部材のCORが0.8194で、上記したシミュレーション結果とほぼ一致した。また、耐久性試験では、図4(b)の実物のフェース部材3は、約500発でスコアライン36の最下端にひび割れが入り、図5(a)の実物のフェース部材3は、約1000発でスコアライン36の最下端にひび割れが入ったことから見て、耐久性が2倍向上したことが判明した。
【0021】
図4から図6のフェース部材3のCOR(反発係数)と最大応力(GPa)のシミュレーション結果から、スコアライン36に平行にならないように連続した溝を入れれば、CORと耐久性を両立できることが分かったが、COR(反発係数)をさらに向上させることができる溝の形状が無いか、図7から図8に示すように、フェース部材3の裏面37に種々の形状の溝をプレスで成形して、COR(反発係数)と最大応力(GPa)をシミュレーションソフトでシミュレーションした。フェース部材3の板厚は1.95mm、溝の幅は1.5mm、溝の深さ0.75mmである。
【0022】
図7(a)のフェース部材3は、フェース部材3の裏面37のインパクトエリア38の内側に入り込むように、ソール22(下縁35)側にだけ、波の高さが高く、連続的な波形曲線の溝61が形成されたものである。図7(a)のフェース部材3の最大応力は3.277(GPa)であって、耐久性が目標値よりも低下し、CORは、0.817で、目標値よりも低いため、採用するには適当ではないことが分かった。
【0023】
図7(b)のフェース部材3は、フェース部材3の裏面37のインパクトエリア38の外側に、ソール22(下縁35)側にだけ、波の高さが低く、連続的な波形曲線の溝62が形成されたものである。図7(b)のフェース部材3のCORは、0.8192、最大応力は2.892(GPa)であって、COR(反発係数)を向上させつつ、耐久性が向上することが分かった。
【0024】
図7(c)のフェース部材3は、フェース部材3の裏面37のインパクトエリア38の外側に、閉じた環状に連続的な2列の波形曲線の溝63が形成されたものであり、図5(a)の溝52を2列にしたものである。図7(c)のフェース部材3のCORは、0.8198、最大応力は2.988(GPa)であって、溝を2列にすることで、COR(反発係数)を向上させつつ、耐久性が向上することが分かった。
【0025】
図8(a)のフェース部材3は、フェース部材3の裏面37のインパクトエリア38の外側に、ソール22(下縁35)側に連続的な2列の波形曲線の溝64Aが形成され、ソール22(下縁35)側以外の裏面37の外縁に沿って環状の2列の溝64Bが形成されたものであり、図5(c)の溝54A、54Bを2列にしたものである。図8(a)のフェース部材3のCORは、0.820、最大応力は2.9953(GPa)であって、溝を2列にすることで、COR(反発係数)を向上させつつ、耐久性が向上することが分かった。
【0026】
図8(b)のフェース部材3は、フェース部材3の裏面37のインパクトエリア38の外側に、ソール22(下縁35)側にだけ、波の高さが低く、波長の短い連続的な波形曲線の溝65が形成されたものであり、図7(b)の連続的な波形曲線の溝62の波長を短くしたものである。図8(b)のフェース部材3のCORは、0.820、最大応力は2.988(GPa)であって、波形曲線の波長や形状を工夫すれば、COR(反発係数)を向上させつつ、耐久性が向上することが分かった。
【0027】
図8(c)のフェース部材3は、フェース部材3の裏面37のインパクトエリア38の外側に、ソール22(下縁35)側にだけ、波の高さが低く、連続的な波形曲線の溝を上下反転して重ねた溝66が形成されたものである。図8(c)のフェース部材3のCORは、0.820、最大応力は2.9953(GPa)であって、波形曲線の波長や形状を工夫すれば、COR(反発係数)を向上させつつ、耐久性が向上することが分かった。
【0028】
図9は、本発明の他の実施の形態のフェース部材7の裏面77を示す正面図で、金属製のドライバーに適用した例である。図9(a)に示すように、図示しないドライバーのヘッド本体に溶接して固定されるフェース部材7の裏面77には、インパクトエリア78の外側に、下縁(ソール)75側にだけ、連続的な波形曲線の溝67がプレスで成形されている。図9(b)はフェース部材7の裏面77に、インパクトエリア78の外側に、上縁(トップ)74側、一側縁(トウ)72側、下縁(ソール)75側に連続的な波形曲線の溝68がプレスで成形されている。連続的な波形曲線の溝67、68の幅は1.5mm、溝の深さ0.75mmである。図9(a)、図9(b)で示したドライバー等のウッドクラブ、ユーティリティ等においても、フェース部材7の裏面77に連続的な波形曲線の溝67、68を形成することで、COR(反発係数)を向上させつつ、耐久性を向上させることができる。
【0029】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はこの実施例に限定されることはない。例えば、前述した実施例では、アイアンとドライバーに適用した例について説明したが、他のウッドに適用してもよい。
【符号の説明】
【0030】
1…ヘッド
2…ヘッド本体
21…トップ
21A…前縁
22…ソール
22A…前縁
23…トウ
23A…前縁
24…段部
25…背面凹部
26…底面凹部
27…取付け面
28…溶接部
3…フェース部材
31…表面(フェース面)
32…一側縁
33…他側縁
34…上縁
35…下縁
36…スコアライン
37…裏面
38…インパクトエリア
41…シャフト
42…ヒール
43…ホーゼル
51…環状の溝
52…連続的な波形曲線の溝
53A…連続的な波形曲線の溝
53B…環状の溝
54A…連続的な波形曲線の溝
54B…環状の溝
55…断続的で外側に凸の弧状の溝
56…断続的で内側に凸の弧状の溝
61…連続的な波形曲線の溝
62…連続的な波形曲線の溝
63…連続的な2列の波形曲線の溝
64A…連続的な2列の波形曲線の溝
64B…環状の2列の溝
65…波長の短い連続的な波形曲線の溝
66…連続的な波形曲線の溝を上下反転して重ねた溝
67…連続的な波形曲線の溝
68…連続的な波形曲線の溝
7…フェース部材
72…一側縁
74…上縁
75…下縁
77…裏面
78…インパクトエリア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9