(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022071278
(43)【公開日】2022-05-16
(54)【発明の名称】酢酸ナトリウム結晶
(51)【国際特許分類】
C07C 53/10 20060101AFI20220509BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20220509BHJP
A23L 3/3508 20060101ALI20220509BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20220509BHJP
A01N 37/02 20060101ALI20220509BHJP
A01N 25/12 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
C07C53/10
A23L29/00
A23L3/3508
A01P3/00
A01N37/02
A01N25/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020180148
(22)【出願日】2020-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】吉川 隆一
(72)【発明者】
【氏名】服部 桂祐
【テーマコード(参考)】
4B021
4B035
4H006
4H011
【Fターム(参考)】
4B021MC01
4B021MK19
4B021MP01
4B035LC01
4B035LC16
4B035LG06
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB03
4H006BS10
4H011AA02
4H011BB06
4H011DA02
4H011DG01
(57)【要約】
【課題】マスキング成分によらずに酢酸ナトリウムに起因する酸味を抑制する。
【解決手段】Cu・Kαを線源とした粉末X線回折測定において、
2θ=9.0±0.2°の回折ピークの積分強度をIaとし、
2θ=23.0°±0.2°の回折ピークの積分強度をIbとし、
2θ=30.0°±0.2°の回折ピークの積分強度をIcとしたとき、
(Ib+Ic)/Iaが0.7以上である、酢酸ナトリウム結晶。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu・Kαを線源とした粉末X線回折測定において、
2θ=9.0±0.2°の回折ピークの積分強度をIaとし、
2θ=23.0°±0.2°の回折ピークの積分強度をIbとし、
2θ=30.0°±0.2°の回折ピークの積分強度をIcとしたとき、
(Ib+Ic)/Iaが0.7以上である、酢酸ナトリウム結晶。
【請求項2】
請求項1に記載の酢酸ナトリウム結晶を有効成分とする食品用製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸ナトリウム結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸ナトリウムは、静菌効果があることから、食品用日持ち向上剤として用いられる他、酸味料、pH調整剤又は調味料として、惣菜、ハム・ソーセージ、水産練り製品、漬物等、広範囲の食品に用いられている。また、酢酸ナトリウムは、弱酸性~酸性下で静菌効果が増大するため、pHを低下させる作用のある素材とともに製剤化して使用するのが一般的である。しかし、このような製剤を使用すると、酢酸ナトリウムに起因する特有の強い酸味が出ることから、食品への添加量が多すぎるとその風味を損ねるため使用に制限がある。
【0003】
そこで、酢酸ナトリウムの静菌効果を低下させずにその問題を改善する方法として、食品添加用保存料及びスクラロースを含有することを特徴とする味質が改良された保存料(特許文献1)、酢酸、酢酸ナトリウム、アジピン酸の群から選ばれる1種又は2種以上を混合した有機酸類に、マルチトール及び/又はエリスリトールを組合せた粉末状の食品保存改良剤(特許文献2)、鰹節から抽出して得られる鰹節抽出物を有効成分として含有することを特徴とする酸味抑制剤(特許文献3)、トレハロース、アジピン酸、pH調整剤(但し、炭酸塩を除く)およびカルシウム塩を含有することを特徴とする食品用日持ち向上剤(特許文献4)、ラカンカ抽出物、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を含有する酢酸ナトリウム用呈味改善剤(特許文献5)等が提案されている。
【0004】
しかし、これら方法は、いずれも酢酸ナトリウムに起因する酸味をマスキングする成分を使用するため、その成分が食品の風味に影響を与える可能性も検討する必要があり、必ずしも好ましいとはいえない。従って、マスキング成分によらずに酢酸ナトリウムに起因する酸味を抑制できればより簡便であるが、そのような発想はこれまでに存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-175668号公報
【特許文献2】特開2003-144115号公報
【特許文献3】特開2008-278790号公報
【特許文献4】特開2010-022270号公報
【特許文献5】特開2020-014457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、マスキング成分によらずに酢酸ナトリウムに起因する酸味を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、酢酸ナトリウムの結晶型を変化させた新規な酢酸ナトリウム結晶を用いることにより、上記課題が解決されることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0008】
即ち、本発明は、次の(1)~(3)を包含する。
(1)Cu・Kαを線源とした粉末X線回折測定において、
2θ=9.0°±0.2°の回折ピークの積分強度をIaとし、
2θ=23.0°±0.2°の回折ピークの積分強度をIbとし、
2θ=30.0°±0.2°の回折ピークの積分強度をIcとしたとき、
(Ib+Ic)/Iaが0.7以上である、酢酸ナトリウム結晶。
(2)前記(1)に記載の酢酸ナトリウム結晶を有効成分とする食品用製剤。
(3)前記(Ib+Ic)/Iaが0.7未満の酢酸ナトリウム結晶に対し、エネルギーを加える工程を有する前記(1)に記載の酢酸ナトリウム結晶の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の酢酸ナトリウム結晶は、従来の酢酸ナトリウム結晶に比べ酸味が抑制されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】酢酸ナトリウム結晶(試作品1)の粉末X線回折パターンを示す図である。
【
図2】酢酸ナトリウム結晶(試作品2)の粉末X線回折パターンを示す図である。
【
図3】酢酸ナトリウム結晶(試作品3)の粉末X線回折パターンを示す図である。
【
図4】酢酸ナトリウム結晶(試作品4)の粉末X線回折パターンを示す図である。
【
図5】酢酸ナトリウム結晶(試作品5)の粉末X線回折パターンを示す図である。
【
図6】酢酸ナトリウム結晶(試作品6)の粉末X線回折パターンを示す図である。
【
図7】酢酸ナトリウム結晶(試作品7)の粉末X線回折パターンを示す図である。
【
図8】酢酸ナトリウム結晶(試作品8)の粉末X線回折パターンを示す図である。
【
図9】酢酸ナトリウム結晶(試作品9)の粉末X線回折パターンを示す図である。
【
図10】酢酸ナトリウム結晶(試作品10)の粉末X線回折パターンを示す図である。
【
図11】酢酸ナトリウム結晶(市販品)の粉末X線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の酢酸ナトリウム結晶は、Cu・Kαを線源とした粉末X線回折測定において、2θ=9.0°±0.2°の回折ピークの積分強度をIaとし、
2θ=23.0°±0.2°の回折ピークの積分強度をIbとし、
2θ=30.0°±0.2°の回折ピークの積分強度をIcとしたとき、
(Ib+Ic)/Iaが0.7以上、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは2.0以上となるような粉末X線回折パターンが認められる。(Ib+Ic)/Iaが0.7未満であると、酸味の抑制が不十分であるため好ましくない。
【0012】
尚、粉末X線回折のピークは、回折角2θ(°)で表される。このピーク値は、通常プラスマイナス0.2°の測定誤差を有しうる。
【0013】
前記粉末X線回折パターンは、自体公知の方法に従って測定することができる。具体的には例えば、以下の条件の粉末X線回折法により測定することができる。粉末X線回折装置は市販されているので、粉末X線回折はその説明書に従って行われてよい。
<測定条件>
線源:Cu・Kα
X線管電流:15mA
X線管電圧:40kV
走査範囲:2θ=2.0~60.0°
スキャンスピード:20.000°/分
スキャンステップ:0.02°
走査モード:連続
測定サンプルの前処理:16メッシュスルー26メッシュオンの粒子を選択
【0014】
本発明の酢酸ナトリウム結晶は、前記(Ib+Ic)/Iaが0.7未満の酢酸ナトリウム結晶に対し、加熱処理により伝導電熱を付与する方法、撹拌により摩擦熱を発生させる方法、電子線により振動エネルギーを付与する方法(例えば、電子レンジ加熱)等の方法でエネルギーを加えることにより製造できる。酢酸ナトリウム結晶に加える単位質量当たりエネルギー量としては、例えば、1~15J/g、好ましくは4~12J/g、より好ましくは7~10J/g、更に好ましくは8~10J/gの範囲内である。
【0015】
エネルギーを加える対象の酢酸ナトリウム結晶は、前記(Ib+Ic)/Iaが0.7未満の酢酸ナトリウム結晶であって、医薬品、食品、化粧料等の分野で一般的に使用されているものであれば良く、含水状態又は無水物のいずれを使用してもよいが、水分蒸発によるエネルギーのロスがない観点から、無水物がより好ましい。
【0016】
加熱処理によりこのような範囲内でエネルギーを加える条件としては、例えば、加熱温度80℃の場合、加熱時間が4~32時間、好ましくは10~25時間であり、加熱温度90℃の場合、加熱時間が2~16時間、好ましくは5~9時間である。また、加熱手段としては、上記条件で酢酸ナトリウム結晶の加熱を行える方法であれば公知の加熱手段を制限なく使用でき、例えば、乾熱滅菌機、造粒乾燥機、送風定温恒温機、熱風乾燥機、回転式乾燥機等を使用できる。
【0017】
ここで、加熱温度をn(℃)に設定した加熱手段を用いて加熱処理することにより酢酸ナトリウム結晶に加えられる単位質量当たりエネルギー量En[J/g]は、下記式(1)に従って算出することができる。
En = ln(an×tn+bn)+cn×(Tn-tn)・・・(1)
an:温度nでの昇温係数1
tn:加熱開始から酢酸ナトリウム結晶が温度nに達するまでの時間[s]
bn:温度nでの昇温係数2
cn:温度nの加熱手段において消費される酢酸ナトリウム結晶の単位質量当たり電力[W/g]
Tn:温度nでの加熱時間[s]
【0018】
尚、上記式(1)は、加熱手段における各加熱温度での消費エネルギー量[Ws]のデータ及び加熱温度nの加熱手段内に放置した酢酸ナトリウム結晶の経時的温度変化のデータ及び公知の物理法則に基づき導くことができる。
【0019】
本発明の酢酸ナトリウム結晶は、上記のようにして得られた酢酸ナトリウム結晶のみをそのまま食品用製剤として用いても良いし、本発明の目的・効果を阻害しない範囲で該酢酸ナトリウム結晶と他の任意の成分を配合した食品用製剤として調製しても良い。後者の場合、本発明の酢酸ナトリウム結晶の含有量は、食品用製剤全体に対して、例えば10質量%以上であってもよく、30質量%以上であってもよい。また、この場合、本発明の酢酸ナトリウム結晶の含有量の上限値に特に制限はないが、例えば90質量%とすることができる。該食品用製剤は、より具体的には、日持ち向上剤として用いられる他、酸味料、pH調整剤又は調味料等として、広範囲の食品に用いられる。食品はどのようなものであってもよいが、例えば、はんぺん、蒲鉾、竹輪、魚肉ソーセージ等の水産練り製品類;ハム、ソーセージ、ハンバーグ、肉団子等の畜肉加工食品類;コロッケ、魚フライ、玉子焼き、餃子、シュウマイ、春巻、和え物、煮物、焼き物等の惣菜類;ポテトサラダ、マカロニサラダ等のサラダ類;生麺、茹で麺、蒸し麺等の麺類;白飯、炒飯、ちまき、おにぎり等の米飯類;もち類;フラワーペースト、カスタードクリーム等のクリーム類;小豆餡、いも餡、栗餡等の餡類;大福餅、麩饅頭、スポンジケーキ等の和・洋菓子類;蒸しパン、中華饅頭等の蒸し物類;タレ、麺つゆ、ソース等の調味料類;サンドイッチの具材等のフィリング類;ジャム等の果実加工品類;コンソメスープ、ポタージュスープ等のスープ類;味噌漬け、醤油漬け、たくあん、浅漬け等の漬物類;魚介類の塩蔵品、干物、燻製品等の珍味類;いくら、明太子、数の子等の魚卵加工品類;もずく、生のり等の海藻類等である。
【0020】
日持ち向上剤として用いる場合、上記のようにして得られた酢酸ナトリウム結晶を単独で用いる他、無機酸及び/又はその塩、有機酸及び/又はその塩、アミノ酸、グリセリン脂肪酸エステル等の食品用乳化剤、リゾチーム、チアミンラウリル硫酸塩、ポリリジン又はしらこ蛋白等を配合することができる。
【0021】
上記無機酸及び/又はその塩としては、例えばピロリン酸四カリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、ポリリン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム又はリン酸二水素ナトリウム等が挙げられる。これら無機酸及び/又はその塩は、1種のみを用いても良く、2種以上を組合せて用いても良い。
【0022】
上記有機酸としては、例えばアジピン酸、クエン酸、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、酒石酸、乳酸、酢酸、フマル酸、リンゴ酸又はコハク酸等が挙げられる。また有機酸の塩としては、食品添加物として認可されている前記有機酸のナトリウム塩又はカリウム塩等が挙げられる。これら有機酸及び/又はその塩は、1種のみを用いても良く、2種以上を組合せて用いても良い。
【0023】
上記アミノ酸としては、例えばグリシン、アラニン、シスチン、スレオニン、バリン、リジンまたはアルギニン等が挙げられ、好ましくはグリシン又はアラニンである。これらアミノ酸は、1種のみを用いても良く、2種以上を組合せて用いても良い。
【0024】
上記食品用乳化剤としては、例えば炭素数8~14の飽和脂肪酸をその構成脂肪酸とするグリセリン脂肪酸モノエステル、ジグリセリン脂肪酸モノエステル又はトリグリセリン脂肪酸モノエステル等が挙げられる。
【0025】
本発明の食品用製剤は、製剤の剤形のまま、又は適量の水に溶かして、食品に添加して使用することができる。添加時期に特に制限はないが、原料配合時に添加することが好ましい。食品に対する添加量は、食品の100質量%中の本発明の食品用製剤の含有量が0.01~10質量%、好ましくは0.1~5質量%、より好ましくは0.3~3質量%となるように調整することが好ましい。
【0026】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0027】
[酢酸ナトリウム結晶(試作品1)の製造]
粉末状の酢酸ナトリウム結晶(無水酢酸ナトリウム;大東化学社製;市販品)100gをステンレス製トレーに入れて薄く広げ、該トレーをアルミ箔で密封し、送風定温恒温機(型式:DN400;ヤマト科学社製)を用いて80℃にて4時間加熱処理した。処理した酢酸ナトリウム結晶をトレーごと蓄冷剤に乗せて冷却し、酢酸ナトリウム結晶(試作品1)を得た。また、この加熱処理により酢酸ナトリウム結晶に加えられた単位質量当たりエネルギー量は7.15J/gであった。
【0028】
[酢酸ナトリウム結晶(試作品2)の製造]
加熱時間を6時間としたこと以外は、試作品1の製造と同様に実施し、酢酸ナトリウム結晶(試作品2)を得た。また、この加熱処理により酢酸ナトリウム結晶に加えられた単位質量当たりエネルギー量は7.69J/gであった。
【0029】
[酢酸ナトリウム結晶(試作品3)の製造]
加熱時間を8時間としたこと以外は、試作品1の製造と同様に実施し、酢酸ナトリウム結晶(試作品3)を得た。また、この加熱処理により酢酸ナトリウム結晶に加えられた単位質量当たりエネルギー量は8.24J/gであった。
【0030】
[酢酸ナトリウム結晶(試作品4)の製造]
加熱時間を14時間としたこと以外は、試作品1の製造と同様に実施し、酢酸ナトリウム結晶(試作品4)を得た。また、この加熱処理により酢酸ナトリウム結晶に加えられた単位質量当たりエネルギー量は9.87J/gであった。
【0031】
[酢酸ナトリウム結晶(試作品5)の製造]
加熱時間を20時間としたこと以外は、試作品1の製造と同様に実施し、酢酸ナトリウム結晶(試作品5)を得た。また、この加熱処理により酢酸ナトリウム結晶に加えられた単位質量当たりエネルギー量は11.51J/gであった。
【0032】
[酢酸ナトリウム結晶(試作品6)の製造]
加熱時間を24時間としたこと以外は、試作品1の製造と同様に実施し、酢酸ナトリウム結晶(試作品6)を得た。また、この加熱処理により酢酸ナトリウム結晶に加えられた単位質量当たりエネルギー量は12.6J/gであった。
【0033】
[酢酸ナトリウム結晶(試作品7)の製造]
加熱時間を32時間としたこと以外は、試作品1の製造と同様に実施し、酢酸ナトリウム結晶(試作品7)を得た。また、この加熱処理により酢酸ナトリウム結晶に加えられた単位質量当たりエネルギー量は14.78J/gであった。
【0034】
[酢酸ナトリウム結晶(試作品8)の製造]
加熱時間を7時間とし、且つ加熱温度を90℃としたこと以外は、試作品1の製造と同様に実施し、酢酸ナトリウム結晶(試作品8)を得た。また、この加熱処理により酢酸ナトリウム結晶に加えられた単位質量当たりエネルギー量は8.23J/gであった。
【0035】
[酢酸ナトリウム結晶(試作品9)の製造]
加熱時間を10時間とし、且つ加熱温度を90℃としたこと以外は、試作品1の製造と同様に実施し、酢酸ナトリウム結晶(試作品9)を得た。また、この加熱処理により酢酸ナトリウム結晶に加えられた単位質量当たりエネルギー量は9.15J/gであった。
【0036】
[酢酸ナトリウム結晶(試作品10)の製造]
加熱時間を14時間とし、且つ加熱温度を90℃としたこと以外は、試作品1の製造と同様に実施し、酢酸ナトリウム結晶(試作品10)を得た。また、この加熱処理により酢酸ナトリウム結晶に加えられた単位質量当たりエネルギー量は10.37J/gであった。
【0037】
ここで、試作品1~7の製造において加熱温度80℃にて酢酸ナトリウム結晶に加えられた単位質量当たりエネルギー量E80[J/g]、及び試作品8~10の製造において加熱温度90℃にて酢酸ナトリウム結晶に加えられた単位質量当たりエネルギー量E90[J/g]は、前記式(1)から派生する下記式(2)及び(3)に従って算出した。
E80 = ln(948.1×t80+10.073)+0.0079×(T80-t80)・・・(2)
t80:加熱開始から酢酸ナトリウム結晶が80℃に達するまでの時間[s]
T80:80℃での加熱時間[s]
E90 = ln(895.78×t90+8.964)+0.0089×(T90-t90)・・・(3)
t90:加熱開始から酢酸ナトリウム結晶が90℃に達するまでの時間[s]
T90:90℃での加熱時間[s]
【0038】
[粉末X線回折パターンの測定]
酢酸ナトリウム結晶(試作品1~10)及び加熱処理をしていない市販の酢酸ナトリウム結晶(無水酢酸ナトリウム;大東化学社製;市販品)についてX線回折装置「SmartLab」(リガク社製)を用いて以下の条件により粉末X線回折パターンを測定した。得られた測定結果を、Rigaku Data Analysis Software PDXL version2.0.3.0を用いて解析し、2θ=9.0°±0.2°の回折ピークの積分強度(Ia)、2θ=23.0°±0.2°の回折ピークの積分強度(Ib)、2θ=30.0°±0.2°の回折ピークの積分強度(Ic)及び(Ib+Ic)/Iaをそれぞれ求めた。その結果を加熱処理によって酢酸ナトリウム結晶に加えられた単位質量当たりエネルギー量[J/g]とともに表1に示す。また、酢酸ナトリウム結晶(試作品1~10及び市販品)の粉末X線回折パターンをそれぞれ
図1~11に示す。
<測定条件>
線源:Cu・Kα
X線管電流:15mA
X線管電圧:40kV
走査範囲:2θ=2.0~60.0°
スキャンスピード:20.000°/分
スキャンステップ:0.02°
走査モード:連続
測定サンプルの前処理:16メッシュスルー26メッシュオンの粒子を選択
【0039】
【0040】
[官能評価試験]
(1)食品用製剤の調製
酢酸ナトリム結晶(試作品1~10及び市販品のうちいずれか)66.7質量部に42%酢酸33.3質量部を加えて均一になるまで混合し、食品用製剤1~11をそれぞれ得た。
【0041】
(2)コンソメスープについての官能評価試験
固形のコンソメスープの素(商品名:洋風スープの素 コンソメ;味の素社製)5.3gを水400gに溶解し、コンソメスープを調製した。得られたコンソメスープ25gに対し、食品用製剤(1~11のうちいずれか)0.25gを添加して溶解し、pH5.3のコンソメスープ1~11を得た。また、何も添加していないコンソメスープをコンソメスープ12とした。これらコンソメスープの先味の酸味(口に入れた瞬間に感じる酸味)を評価するため、市販品の酢酸ナトリウム結晶を用いて調製した食品用製剤11を添加したコンソメスープ11の先味の酸味を「0:先味の酸味が非常に強い」、何も添加していないコンソメスープ12の先味の酸味を「10:先味の酸味を殆ど感じない」とする基準点を設定し、コンソメスープ1~10について「0」~「10」の数値範囲内で評価した。また、先味の酸味の強さがコンソメスープ11とコンソメスープ12の中央であると感じた場合は評点が「5」になるように評価した。評価は5名のパネラーで行い、評点の平均値を求めた。結果を表2に示す。
【0042】
【0043】
表2の結果から明らかなように、本発明の酢酸ナトリウム結晶(試作品1~10)を用いた食品用製剤1~10を添加したコンソメスープ1~10は、市販品の酢酸ナトリウム結晶を用いた食品用製剤11を添加したコンソメスープ11と比較して酸味が抑制されていた。
【0044】
[静菌効果の確認試験]
コンソメスープ1~12にバチルス・サブチルス(Bacillus subtils)を植菌し、30℃で7日間保管した後の一般生菌数を測定した。一般生菌数の測定方法は、公定法(食品衛生検査指針)に従って行った。また、コンソメスープ1~12に植菌した直後についても同様に一般生菌数を測定し、初発数とした。尚、30℃で7日間保管した後の一般生菌数が初発数と同程度であった場合に静菌効果があると判断した。結果を表3に示す。
【0045】
【0046】
表3の結果から、酢酸ナトリウム結晶(試作品1~10)を用いた食品用製剤1~10を添加したコンソメスープ1~10は、市販品の酢酸ナトリウム結晶を用いた食品用製剤11を添加したコンソメスープ11と比較して静菌効果において差がなかった。従って、本発明の酢酸ナトリウム結晶は、食品に与える酸味を抑制できるだけでなく、市販品の酢酸ナトリウム結晶と同様、日持ち向上剤として使用可能であることが確認された。