(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022071306
(43)【公開日】2022-05-16
(54)【発明の名称】補強材及び補強構造
(51)【国際特許分類】
E21D 11/04 20060101AFI20220509BHJP
E04C 5/07 20060101ALI20220509BHJP
E04C 5/04 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
E21D11/04 Z
E04C5/07
E04C5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020180192
(22)【出願日】2020-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000164438
【氏名又は名称】九州電力株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000201490
【氏名又は名称】前田工繊株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594162722
【氏名又は名称】西技工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】池田 博嗣
(72)【発明者】
【氏名】山田 智規
(72)【発明者】
【氏名】長崎 道明
(72)【発明者】
【氏名】出蔵 貴司
(72)【発明者】
【氏名】辻 総一朗
【テーマコード(参考)】
2D155
2E164
【Fターム(参考)】
2D155CA03
2D155KB07
2D155KB11
2D155KB15
2D155LA16
2E164AA05
2E164CB12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】導水路トンネルの補強材及び補強構造を提供する。
【解決手段】内部に水が導入され、覆工コンクリートに水圧が作用する導水路トンネルの補強構造に用いる補強材1であって、並列配置した複数の第1帯体10及び第2帯体20を交差して格子状に形成し、導水路トンネルの覆工コンクリート面の軸方向に沿って配設される第1帯体10の軸剛性が、導水路トンネルの覆工コンクリート面2の周方向に沿って配設される第2帯体20の軸剛性より小さいものである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に水が導入され、覆工コンクリートに水圧が作用する導水路トンネルの補強構造に用いる補強材であって、
並列配置した複数の第1帯体及び第2帯体を交差して格子状に形成し、前記導水路トンネルの軸方向に沿って配設される前記第1帯体の軸剛性が、前記導水路トンネルの周方向に沿って配設される前記第2帯体の軸剛性より小さいことを特徴とする補強材。
【請求項2】
請求項1に記載の補強材において、
前記第1帯体が、複数層に束ねた第1連続繊維と当該第1連続繊維に含侵した固化樹脂とで形成され、前記第2帯体が、複数層に束ねた第2連続繊維と当該第2連続繊維に含侵した前記固化樹脂とで形成され、
前記第1帯体及び前記第2帯体の交点において、前記第1連続繊維と前記第2連続繊維とが相互に積層して前記固化樹脂によって一体化されている補強材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の補強材において、
前記第1連続繊維が前記第2連続繊維より弾性係数が小さい素材である補強材。
【請求項4】
請求項3に記載の補強材において、
前記第1連続繊維がガラス繊維であり、前記第2連続繊維が炭素繊維である補強材。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の補強材において、
前記第1連続繊維の弾性係数と前記第2連続繊維の弾性係数が同一であり、前記第1帯体の長手方向に直交する断面積が、前記第2帯体の長手方向に直交する断面積より小さい補強材。
【請求項6】
内部に水が導入され、覆工コンクリートに水圧が作用する導水路トンネルの補強構造であって、
前記覆工コンクリートの面上に展設した前記請求項1ないし5のいずれかに記載の補強材と、
前記補強材を前記覆工コンクリート面上に固定する固定手段と、
前記補強材及び前記固定手段を前記覆工コンクリート面上に一体に埋設した被覆層とを備える補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導水路トンネルの補強材に関し、特に内部に水が導入され、内壁面である覆工コンクリートに水圧が作用する導水路トンネルの補強材等に関する。
【背景技術】
【0002】
インフラの老朽化や耐震基準の高度化に伴い、トンネルや高架橋等の既設のコンクリート構造物を補強する技術が多数開発されている。特許文献1及び2には、コンクリート面上に繊維製の格子状補強材を展張して固定し、ポリマーセメントモルタル等でコンクリート面に一体化させて補強する、コンクリート構造物の補強工法が開示されている。
【0003】
また、特許文献3には、壁面を補強するための縦細帯体と横細帯体とが格子状に連結されてなる補強用格子部材であって、縦細帯体と横細帯体とには熱可塑性合成樹脂材が含浸されており、縦細帯体と横細帯体とが複数の太糸よりなり、該縦細帯体の太糸のうち少なくとも一本が他の太糸より曲げ剛性の大きい補強太糸となっている補強用格子部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62-153449号公報
【特許文献2】特開2004-300757号公報
【特許文献3】特許第4386446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水力発電で用いられる導水路には無圧トンネルと圧力トンネルとがあるが、無圧トンネルの場合は水深に応じた水圧がトンネル内壁面の覆工コンクリートに作用する。一方で、圧力トンネルは内部が水で充填され内壁面である覆工コンクリートの全周に径方向の水圧が作用する。いずれの導水路トンネルにおいても、長年の水圧によるダメージや経年劣化などを考慮して補強などが必要になるケースがある。特に水力発電における導水路トンネルでは、高い強度と安全性の確保が重要であると共に、非常に大規模な補強工事となるため掛かるコストや労力を少しでも抑えることが望まれる。
【0006】
無圧トンネルの場合、トンネル内の水深が深い程、下方の覆工コンクリートに係る径方向からの内水圧が大きくなり、この内水圧に相当する応力により覆工コンクリートがダメージを受けてしまう可能性がある。一方で、トンネル内壁面の覆工コンクリートの軸方向に掛かる内水圧に対応する応力は作用しない。
【0007】
圧力トンネルの場合、圧力トンネルの長さが相当に長いと、水力発電で発電機などに不具合が生じると弁が瞬時に閉じてしまうことでトンネル内に水撃作用が生じ、トンネル内壁面である覆工コンクリートの径方向に数m~数十mの内水圧の上昇が生じる場合がある。このため、トンネル内壁面の覆工コンクリートの径方向には内水圧上昇分の応力が作用することとなる。一方で、トンネル内壁面の覆工コンクリートの軸方向に掛かる内水圧上昇に対応する応力については取水口が開放されているため作用しない。
【0008】
つまり、補強材において導水路トンネル内壁面の覆工コンクリートの周方向に対しては大きい軸剛性が要求されるが、軸方向に対しては大きい軸剛性が必要とされない。
【0009】
引用文献1及び2に示す技術は、縦横の各帯体が同一素材かつ同一断面積の繊維からなるため、より高い要求性能を満たすために、軸剛性及び曲げ剛性の高い繊維素材を選択せざるを得ない。その結果、上記のような導水路トンネルに用いる場合において繊維素材が過剰性能となり、要求性能に対し製品全体の価格が割高になってしまう。
【0010】
また、縦横両方向において曲げ剛性が高い場合、コンクリート面の湾曲や不陸へ追従しにくく、補強材とコンクリート面との間に隙間が生じやすくなり、これによって、ポリマーセメントモルタルの吹付け時にバタつきが生じるほか、ポリマーセメントモルタルのかぶり厚が不均一となり、施工精度が低下するおそれがある。
【0011】
引用文献3に示す技術は、格子状の縦と横とで曲げ剛性を異ならせるものである。ここで、水力発電で用いられる導水路トンネルに要求される性能は、上述したように、トンネルの径方向に掛かる内水圧に相当する応力に対して十分な補強を行うと共に、トンネルの軸方向に掛かる内水圧に相当する応力に対しては補強が不要であるものであり、引用文献3に示す技術は導水路トンネルに適用するのに適した性能にはなっていないという課題を有する。
【0012】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、導水路トンネル内の覆工コンクリートの補強に適した補強材及び補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る補強材は、内部に水が導入され、覆工コンクリートに水圧が作用する導水路トンネルの補強構造に用いる補強材であって、並列配置した複数の第1帯体及び第2帯体を交差して格子状に形成し、前記導水路トンネルの軸方向に沿って配設される前記第1帯体の軸剛性が、前記導水路トンネルの周方向に沿って配設される前記第2帯体の軸剛性より小さいものである。
【0014】
このように、本発明に係る補強材においては、並列配置した複数の第1帯体及び第2帯体を交差して格子状に形成し、導水路トンネルの軸方向に沿って配設される前記第1帯体の軸剛性が、前記導水路トンネルの周方向に沿って配設される前記第2帯体の軸剛性より小さいため、導水路トンネルにおいて負荷が大きい径方向からの内水圧に起因する応力を軸剛性が大きい第2帯体で補強することができると共に、軸方向に沿っては軸剛性が小さい第1帯体が配設されることで、軸方向への過剰性能を抑制し、要求性能に対し製品全体の価格を適正にすることができるという効果を奏する。
【0015】
また、相対的に剛性が小さい第1帯体は、導水路トンネル内壁面の覆工コンクリート面の湾曲や不陸へ追従しやすいため、補強材の浮き上がりを防いで、ポリマーセメントモルタル吹付け時のバタつきや、かぶり厚の不均一を回避することができるという効果を奏する。
【0016】
本発明に係る補強材は必要に応じて、前記第1帯体が、複数層に束ねた第1連続繊維と当該第1連続繊維に含侵した固化樹脂とで形成され、前記第2帯体が、複数層に束ねた第2連続繊維と当該第2連続繊維に含侵した前記固化樹脂とで形成され、前記第1帯体及び前記第2帯体の交点において、前記第1連続繊維と前記第2連続繊維とが相互に積層して前記固化樹脂によって一体化されているものである。
【0017】
このように、本発明に係る補強材においては、前記第1帯体が、複数層に束ねた第1連続繊維と当該第1連続繊維に含侵した固化樹脂とで形成され、前記第2帯体が、複数層に束ねた第2連続繊維と当該第2連続繊維に含侵した前記固化樹脂とで形成されているため、それぞれの繊維に含侵した樹脂がモルタルなどの高アルカリから繊維を守ることができ、補強材の劣化を防止することができるという効果を奏する。また、第1帯体及び第2帯体の交点において、前記第1連続繊維と前記第2連続繊維とが相互に積層して前記固化樹脂によって一体化されているため、それぞれの第1帯体及び第2帯体の配置間隔を適正に維持して展設することができるという効果を奏する。
【0018】
本発明に係る補強材は必要に応じて、前記第1連続繊維が前記第2連続繊維より弾性係数が小さい素材とするものである。
【0019】
このように、本発明に係る補強材においては、第1連続繊維が第2連続繊維より弾性係数が小さい素材とするため、第1帯体の軸剛性を第2帯体の軸剛性より小さく形成することができ、導水路トンネルに求められる要求を適正に満たすことができるという効果を奏する。
【0020】
本発明に係る補強材は必要に応じて、第1連続繊維がガラス繊維であり、第2連続繊維が炭素繊維とするものである。
【0021】
このように、本発明に係る補強材においては、第1連続繊維がガラス繊維であり、第2連続繊維が炭素繊維とするため、断面積を同一として第1帯体の弾性係数を第2帯体の弾性係数より小さく形成することで結果的に軸剛性を小さくすることができ、導水路トンネルの軸方向への過剰性能を抑制し、要求性能に対し製品全体の価格を適正にすることができるという効果を奏する。
【0022】
本発明に係る補強材は必要に応じて、前記第1連続繊維の弾性係数と前記第2連続繊維の弾性係数が同一であり、前記第1帯体の長手方向に直交する断面積が、前記第2帯体の長手方向に直交する断面積より小さいものである。
【0023】
このように、本発明に係る補強材においては、前記第1連続繊維の弾性係数と前記第2連続繊維の弾性係数が同一であり、前記第1帯体の長手方向に直交する断面積が、前記第2帯体の長手方向に直交する断面積より小さいため、第1帯体の軸剛性を第2帯体の軸剛性より小さく形成することができ、導水路トンネルに求められる要求を適正に満たすことができるという効果を奏する。
【0024】
本発明に係る補強構造は、内部に水が導入され、覆工コンクリートに水圧が作用する導水路トンネルの補強構造であって、前記覆工コンクリートの面上に展設した前記請求項1ないし5のいずれかに記載の補強材と、前記補強材を前記覆工コンクリート面上に固定する固定手段と、前記補強材及び前記固定手段を前記覆工コンクリート面上に一体に埋設した被覆層とを備えるものである。
【0025】
このように、本発明に係る補強構造においては、導水路トンネルの覆工コンクリート面上に展設した前記補強材と、前記補強材を前記覆工コンクリート面上に固定する固定手段と、前記補強材及び前記固定手段を前記覆工コンクリート面上に一体に埋設した被覆層とを備えるため、導水路トンネルに求められる補強の要求を適正に満たすことができるという効果を奏する。また、相対的に剛性が小さい第1帯体は、覆工コンクリート面の湾曲や不陸へ追従しやすいため、補強材の浮き上がりを防ぐことで、ポリマーセメントモルタル吹付け時のバタつきや、かぶり厚の不均一を回避することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】第1の実施形態に係る補強材を適用可能な水力発電システムの構成を示す模式図である。
【
図2】第1の実施形態に係る補強材の全体斜視図である。
【
図3】第1の実施形態に係る補強材の第1帯体及び第2帯体の構造を示す拡大図である。
【
図4】第1の実施形態に係る補強材で導水路トンネルを補強した場合の補強構造を示す図である。
【
図5】第1の実施形態に係る補強材を用いた補強構造の施工方法を示すフローチャートである。
【
図6】第2の実施形態に係る補強材の第1帯体及び第2帯体の構造を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る導水路トンネルの補強材について、
図1ないし
図5を用いて説明する。本実施形態に係る補強材は水力発電システムにおける導水路トンネルの内壁面となる覆工コンクリートを補強するものである。
【0028】
図1は、本実施形態に係る補強材を適用可能な水力発電システムの構成を示す模式図である。水力発電システム5は、ダム52により水が貯水された貯水池51の水を導水路トンネル53及び鉄管55内に導き、それらの中を流通させて低い位置に落とし、その位置エネルギーで水車56を廻し、水車56に接続する発電機57を回転させることで電気を生成する。
図1における水力発電システム5の導水路トンネル53は無圧トンネル又は圧力トンネルとなっており、導水路トンネル53の途中位置にはサージタンク54が配設されている。このサージタンク54は、水車56や発電機57が緊急停止することで導水路トンネル53内の水が急にせき止められたり、逆に開放する際に生じる内水圧を緩和するものである。
【0029】
このような水撃作用が発生した場合には、導水路トンネル53(特に圧力トンネルの場合)の覆工コンクリート全周に径方向に大きな内水圧が作用することとなる。一方で、導水路トンネル53の軸方向は取水口が貯水池51で開放されているため水撃作用による内水圧が掛からない。すなわち、導水路トンネル53においては、当該導水路トンネル53の軸方向には水撃作用が発生した場合であっても内壁面となる覆工コンクリートに応力が掛からず、導水路トンネル53の軸方向に垂直な径方向には大きな内水圧が掛かり、それに伴い覆工コンクリートの周方向に応力が作用するため、覆工コンクリートの軸方向に垂直な周方向を強固に補強することが求められる。以下、このような覆工コンクリートの補強に適した補強材の構成について説明する。
【0030】
図2は、本実施形態に係る補強材の全体斜視図、
図3は、本実施形態に係る補強材の第1帯体及び第2帯体の構造を示す拡大図である。本実施形態に係る補強材1は、複数に束ねた繊維に固化樹脂12を含侵させた第1連続繊維11を複数層に積層して形成される第1帯体10と、同様に複数に束ねた繊維に固化樹脂22を含侵させた第2連続繊維21を複数層に積層して形成される第2帯体10とを備え、それぞれ並列配置された複数の第1帯体10と第2帯体20とが直交して格子状に形成されている。
【0031】
第1連続繊維11と第2連続繊維21とは、それぞれの交点において交差積層(クロスラミネート)することで高い交点強度を保って一体的に連結されている。固化樹脂12(22)は、第1連続繊維11(第2連続繊維22)を固めて一体化させるマトリックス樹脂である。
【0032】
なお、ここでは固化樹脂12(22)として、ビニルエステル樹脂を用いるが、これに限らず例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂等のその他の熱硬化性樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂であってもよい。
【0033】
本実施形態においては、第1連続繊維11を形成する繊維をガラス繊維とし、第2連続繊維12を形成する繊維を炭素繊維とする。上述したように、導水路トンネル53の覆工コンクリートを補強する場合には、導水路トンネル53の軸方向は不要であり周方向に強固な補強が求められる。そのため、導水路トンネル53の軸方向に沿っては軸剛性が小さい第1帯体10を配設し、導水路トンネル53の周方向に沿っては軸剛性が大きい第2帯体20を配設する。
【0034】
ここで軸剛性について説明する。軸剛性は部材に対する引張力又は圧縮力が作用した場合の変形を表すものであり、一般的には以下の式で求められる。
【0035】
【0036】
Kは軸剛性、Eは弾性係数、Aは部材の断面積、Lは部材の長さである。すなわち上記式から、弾性係数が小さいガラス繊維が採用された第1帯体10を導水路トンネル53の覆工コンクリートの軸方向に沿って配設し、弾性係数が大きい炭素繊維が採用された第2帯体20を導水路トンネル53の覆工コンクリートの周方向に沿って配設することで、覆工コンクリートの軸方向への過剰性能を抑制しつつ周方向への適正な補強を実現することが可能となる。
【0037】
なお、第1連続繊維11はガラス素材以外に、例えばポリエステル繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維等であってもよい。すなわち、少なくとも第2帯体20の配置間隔を維持できる程度の軸剛性を有し、第2連続繊維21より弾性係数が小さい素材であればよい。また、第2連続繊維21は炭素繊維以外に、例えばアラミド繊維、バサルト繊維、PBO繊維等であってもよい。すなわち、ある程度強い軸剛性を有し、第1連続繊維11より弾性係数が大きい素材であればよい。
【0038】
次に、上記補強材1を用いた導水路トンネル53の補強構造について説明する。
図4は、本実施形態に係る補強材で導水路トンネルを補強した場合の補強構造を示す図である。
図4において、補強構造Aは、導水路トンネル53の内壁面となる覆工コンクリート面2上に補強材1を展張し、複数の固定手段3で固定し、補強材1の表面を被覆層4で被覆した構造となっている。
【0039】
固定手段3は、補強材1を覆工コンクリート面2に固定するものであり、例えばプレート状の支圧部材3aと心棒打込み式のアンカー材3bとを組み合わせたものを用いることができる。支圧部材3aによって補強材1の第1帯体10や第2帯体20を覆工コンクリート面2に押止した状態で、支圧部材3aの中央孔に挿通したアンカー材3bを覆工コンクリート面2に打ち込むことで、支圧部材3aを介して補強材1を覆工コンクリート面2に固定する。
【0040】
なお、固定手段3は、支圧部材3aとアンカー材3bとの組み合わせに限らず、例えば支圧部材3aを用いずにアンカー材3bのみで直接固定してもよい。すなわち、覆工コンクリート面2上に補強材1を確実に固定できる手段であればよい。
【0041】
被覆層4は、補強材1と固定手段3を覆工コンクリート面2上に埋め込んで一体化させる層である。本実施形態においては、被覆層4として、例えばポリマーセメントモルタルを用いることができる。なお、被覆層4はポリマーセメントモルタルに限らず、その他のセメント系増厚材を用いるようにしてもよい。
【0042】
ここで、補強構造Aにおいて複数の補強材1を覆工コンクリート面2上に並列する場合の補強材1間の重複部分について詳細に説明する。本実施形態においては、第1帯体10及び第2帯体20で形成される格子の寸法を(5cm×5cm)又は(10cm×10cm)程度とし、全体寸法を(2m×3m)程度とする。
図4に示すように、補強材1同士の重ね継手となる重複領域Rは、格子で2升すなわち第1帯体10が3本分重なることで約1400N/mm
2の引張荷重(交点強度)を確保できることが開示されている。
【0043】
つまり、本実施形態においては、上述した理由から導水路トンネル53の軸方向に並列する複数の補強材1間においては重複領域Rを必要としないが、周方向に並列する複数の補強材1間においては重複領域Rを形成することで、補強材1の継手部分の強度を確保することが可能となっている。
【0044】
なお、上記に示した格子寸法及び全体寸法はあくまで一例であり、この寸法に限定されるものではない。また、重複領域Rにおける格子寸法とそれ以外の領域(以下、非重複領域という)における格子寸法とは異なる寸法であってもよく、重複領域Rの格子寸法が非重複領域の格子寸法よりも小さい寸法であることが望ましい。そうすることで、必要となる材料の量を削減することが可能となる。
【0045】
さらに、重複領域Rの格子寸法は補強材1間で重ね合わせるため、共通した均一の寸法であることが望ましいが、非重複領域の格子寸法は補強に必要となる軸剛性に応じて均一でなくてもよい。
【0046】
次に、補強構造Aを構築する施工方法について説明する。
図5は、本実施形態に係る補強材を用いた補強構造の施工方法を示すフローチャートである。まず、施工箇所となる覆工コンクリート面2上の油脂、汚れ、脆弱層などの除去を高圧洗浄機等を用いて行う(S1)。洗浄された覆工コンクリート面2上に、第1帯体10を導水路トンネル53の軸方向に沿って、第2帯体20を導水路トンネル53の周方向に沿って補強材1を配置する(S2)。覆工コンクリート面2上におけるアンカーを打ち込む位置に複数のアンカー孔を穿設する(S3)。穿設したアンカー孔に対応する位置の第1帯体10及び/又は第2帯体20に固定手段3の支圧部材3aを当接させた状態で、アンカー材3bの先端を支圧部材3aの中央孔に通してアンカー孔内に挿入する(S4)。アンカー材3bの芯棒を打撃して先端部を拡張し、覆工コンクリート面2にアンカー材3bを固定する(S5)。同様の作業を、補強材1上の全てのアンカー材3bに対して行い、補強材1を覆工コンクリート面2に固定する(S6)。S7の分岐において次の補強材1を固定する場合(Yesの場合)は、既に固定した補強材1の隣の領域において、S2~S7の作業を繰り返して施工対象となる覆工コンクリート面2を補強材1で覆ってゆく。このとき、上述したように導水路トンネル53の軸方向に沿った重複領域Rが形成されるように次の補強材1を配置する。そして、S7の分岐において次の補強材1を固定しない場合(Noの場合)は、配置した補強材1の上からポリマーセメントモルタルを吹き付けて被覆層4を形成し(S8)、処理を終了する。以上の工程により覆工コンクリート面2に補強構造Aが構築される。
【0047】
このように、本実施形態に係る補強材においては、並列配置した複数の第1帯体10及び第2帯体20を交差して格子状に形成し、導水路トンネル53の軸方向に沿って配設される第1帯体10の軸剛性が、導水路トンネル53の周方向に沿って配設される第2帯体20の軸剛性より小さいため、導水路トンネル53において負荷が大きい径方向からの内水圧に起因する応力を軸剛性が大きい第2帯体20で補強することができると共に、軸方向に沿っては軸剛性が小さい第1帯体10が配設されることで、軸方向への過剰性能を抑制し、要求性能に対し製品全体の価格を適正にすることができる。
【0048】
また、相対的に剛性が小さい第1帯体10は、導水路トンネル53内壁面の覆工コンクリート面2の湾曲や不陸へ追従しやすいため、補強材1の浮き上がりを防いで、ポリマーセメントモルタル吹付け時のバタつきや、かぶり厚の不均一を回避することができる。
【0049】
さらに、第1帯体10が、複数層に束ねた第1連続繊維11と当該第1連続繊維11に含侵した固化樹脂12とで形成され、第2帯体20が、複数層に束ねた第2連続繊維21と当該第2連続繊維21に含侵した固化樹脂22とで形成されているため、それぞれの繊維に含侵した樹脂がモルタルなどの高アルカリから繊維を守ることができ、補強材1の劣化を防止することができる。また、第1帯体10及び第2帯体20の交点において、第1連続繊維11と第2連続繊維21とが相互に積層して固化樹脂12,22によって一体化されているため、それぞれの第1帯体10及び第2帯体20の配置間隔を適正に維持して展設することができる。
【0050】
さらにまた、第1連続繊維11が第2連続繊維12より弾性係数が小さい素材とするため、第1帯体10の軸剛性を第2帯体20の軸剛性より小さく形成することができ、導水路トンネル53に求められる要求を適正に満たすことができる。
【0051】
さらにまた、第1連続繊維11をガラス繊維とし、第2連続繊維12が炭素繊維とすることで、断面積を同一として第1帯体10の弾性係数を第2帯体20の弾性係数より小さく形成することで結果的に軸剛性を小さくすることができ、導水路トンネル53の軸方向への過剰性能を抑制し、要求性能に対し製品全体の価格を適正にすることができる。
【0052】
さらにまた、補強構造Aにおいて導水路トンネル53の覆工コンクリート面2上に展設した補強材1と、補強材1を覆工コンクリート面2上に固定する固定手段3と、補強材1及び固定手段3を覆工コンクリート面2上に一体に埋設した被覆層4とを備えるため、導水路トンネル53に求められる補強の要求を適正に満たすことができる。また、相対的に剛性が小さい第1帯体10は、覆工コンクリート面2の湾曲や不陸へ追従しやすいため、補強材1の浮き上がりを防ぐことで、ポリマーセメントモルタル吹付け時のバタつきや、かぶり厚の不均一を回避することができる。
【0053】
(本発明の第2の実施形態)
本実施形態に係る補強材について
図6を用いて説明する。本実施形態に係る補強材において前記第1の実施形態に係る補強材と異なるのは、第1連続繊維11と第2連続繊維21とが同一の素材であり、それぞれの連続繊維の断面積を異ならせていることである。なお、本実施形態において前記第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0054】
図6は、本実施形態に係る補強材の第1帯体及び第2帯体の構造を示す拡大図である。
図6において、第1連続繊維11と第2連続繊維21とは同一の炭素繊維からなるが、それぞれの断面積(各帯体の長手方向に直交する断面の面積)が異なる。
図6(A)は第1連続繊維11の幅を小さくすることで断面積を小さくし、
図6(B)は第1連続繊維11の積層数を少なくすることで断面積を小さくしている。いずれの場合においても、第1連続繊維11からなる第1帯体10の断面積が、第2連続繊維21からなる第2帯体20の断面積より小さくなっている。このことは、上記の式(1)からも明らかなように、断面積Aが小さい第1帯体10の軸剛性が、第2の帯体20の軸剛性よりも小さくなることとなる。
【0055】
したがって、導水路トンネル53の軸方向に沿っては軸剛性が小さい第1帯体10を配設し、導水路トンネル53の周方向に沿っては軸剛性が大きい第2帯体20を配設することで、第1の実施形態の場合と同様の効果を得ることができる。また、第1帯体10と第2帯体20とで同一の素材を用いるため、製造工程を簡素化して生産効率を上げることができる。
【符号の説明】
【0056】
1 補強材
10 第1帯体
11 第1連続繊維
12 固化樹脂
20 第2帯体
21 第2連続繊維
22 固化樹脂
A 補強構造
2 覆工コンクリート面
3 固定手段
3a 支圧部材
3b アンカー材
4 被覆層
5 水力発電システム
51 貯水池
52 ダム
53 導水路トンネル
54 サージタンク
55 鉄管
56 水車
57 発電機