(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022007131
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】工作機械の精度診断装置及び精度診断方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/18 20060101AFI20220105BHJP
G05B 19/18 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
B23Q15/18
G05B19/18 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020109879
(22)【出願日】2020-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】溝口 祐司
【テーマコード(参考)】
3C001
3C269
【Fターム(参考)】
3C001KA05
3C001KB09
3C001TA01
3C001TB02
3C001TB10
3C001TC03
3C269AB31
3C269BB03
3C269CC02
3C269EF10
3C269EF22
3C269MN16
3C269MN28
3C269PP02
(57)【要約】
【課題】熱変位による精度変化を診断でき、工作機械の座標の補正値等について、変位補正のための測定を行う適切なタイミングを指示可能な工作機械の精度診断装置及び精度診断方法を提供する。
【解決手段】精度診断装置7は、使用環境や運転動作によって変化する温度を計測する機体温度センサ4及び気温センサ5とを備えた5軸マシニングセンタ1において、温度基準値104を記録する温度基準値記録部103を備え、機体温度センサ4及び気温センサ5とによって計測された温度データ101を取得し、所定時間あたりの温度の変化の大きさから導出される第1変化指標(第1温度指標106)と、現在の温度と温度基準値104とから導出される第2変化指標(第2温度指標107)とに基づいて、5軸マシニングセンタ1の精度の変化を診断する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置環境や運転動作によって変化する変化量を計測する変化量検出部を備えた工作機械において、前記工作機械の精度を診断する工作機械の精度診断装置であって、
前記変化量の基準値を記録する変化量基準値記録部を備え、
前記変化量検出部によって計測された前記変化量を取得し、
所定時間あたりの前記変化量の変化の大きさから導出される第1変化指標と、現在の前記変化量と前記基準値とから導出される第2変化指標とに基づいて、前記工作機械の前記精度の変化を診断することを特徴とする工作機械の精度診断装置。
【請求項2】
前記第1変化指標に基づいて前記精度の変化を診断して第1診断結果を導出し、前記第2変化指標に基づいて前記精度の変化を診断して第2診断結果を導出する精度診断部を備えることを特徴とする請求項1に記載の工作機械の精度診断装置。
【請求項3】
前記第1変化指標を基に、前記変化量が前記工作機械の前記精度へ与える影響の大きさを数値化した第1精度スコアと、前記第2変化指標を基に、前記変化量が前記工作機械の前記精度へ与える影響の大きさを数値化した第2精度スコアとを算出する精度スコア算出部を備えることを特徴とする請求項2に記載の工作機械の精度診断装置。
【請求項4】
前記精度診断部は、所定の閾値に基づき、前記第1精度スコアから前記第1診断結果を導出し、前記第2精度スコアから前記第2診断結果を導出することを特徴とする請求項3に記載の工作機械の精度診断装置。
【請求項5】
前記第1診断結果と前記第2診断結果とを報知する診断結果報知手段を備えることを特徴とする請求項2乃至4の何れかに記載の工作機械の精度診断装置。
【請求項6】
前記第1診断結果と前記第2診断結果との組み合わせにより、前記工作機械の前記精度を確保するための精度対策を判断する精度対策判断手段を備えることを特徴とする請求項2乃至5の何れかに記載の工作機械の精度診断装置。
【請求項7】
前記精度対策判断手段で判断した前記精度対策に従い、前記工作機械での加工又は前記変化量検出部による前記変化量の計測を行うプログラムを実行又は中止する精度対策実行部を備えることを特徴とする請求項6に記載の工作機械の精度診断装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の工作機械の精度診断装置において、
前記精度対策判断手段は、前記第1診断結果及び前記第2診断結果を良又は不良で表し、
前記第1診断結果が不良の場合には、再び良となるまで前記工作機械での加工及び計測を開始しない又は中断することを判断し、
前記第1診断結果が良であり、かつ前記第2診断結果が不良の場合には、前記工作機械での加工及び計測を開始又は継続する前に、前記工作機械の座標の補正値の再設定を行うことを判断することを特徴とする工作機械の精度診断装置。
【請求項9】
請求項6または7に記載の工作機械の精度診断装置において、
前記精度対策判断手段は、前記第1診断結果及び前記第2診断結果を良又は不良で表し、
前記第1診断結果と前記第2診断結果の何れかが不良の場合に、前記工作機械の座標の補正値の再設定を行うことを判断することを特徴とする工作機械の精度診断装置。
【請求項10】
請求項6または7に記載の工作機械の精度診断装置において、
前記精度対策判断手段は、前記第1診断結果及び前記第2診断結果を良又は不良で表し、
前記第2診断結果が不良で、かつ前記第1診断結果が良である場合に、工作機械の精度を校正するための測定に適したタイミングであると判断することを特徴とする工作機械の精度診断装置。
【請求項11】
前記変化量は、温度であることを特徴とする請求項1乃至10の何れかに記載の工作機械の精度診断装置。
【請求項12】
設置環境や運転動作によって変化する変化量を計測する変化量検出部を備えた工作機械において、前記工作機械の精度を診断する工作機械の精度診断方法であって、
前記変化量検出部から前記変化量を取得し、
前記変化量と予め設定された基準値との所定時間あたりの変化の大きさから導出される第1変化指標と、現在の前記変化量と前記基準値との差から導出される第2変化指標とに基づいて、前記工作機械の前記精度の変化を診断することを特徴とする工作機械の精度診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械が置かれた環境及び運動動作による工作機械の精度への影響を診断する工作機械の精度診断装置及び精度診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械を用いてワークの加工を行う場合、工作機械の設置環境における温度の変化や運転中の発熱により、工作機械の様々な部位が熱変形する。その結果、主軸とワークの相対的な位置の変化、すなわち工作機械に熱変位が生じて、ワークの加工等の精度が悪化することがある。工作機械の熱変位を抑制する方法として、例えば、工作機械の構造体(以下、機体ともいう)各部に温度センサを取り付け、測定した温度に基づいて工作機械の熱変位の量を計算し、算出された熱変位の量に応じて軸移動量を変化させる熱変位補正が広く用いられている。しかし、熱変位補正の精度には限界があり、温度変化が大きい場合には誤差が生じる。
温度変化が大きい場合の対策として、特許文献1には、熱変位補正の誤差は、特に急激な温度変化が生じる場合に大きくなるため、機体の温度変化の速度から工作機械のワーク加工精度変化への影響度を算出し、算出された影響度を基に工作機械の状態を診断する方法が開示されている。
また、長時間使用する場合には、徐々に機体の温度が変化していき、使用開始前に対して温度が大きく変化して熱変位補正の誤差が大きくなる場合がある。このような場合の公知の対策方法として、工作機械の座標の補正値、例えばワーク原点オフセット値、工具長オフセット値等を再度測定して、それらの値を更新することで、誤差を吸収し精度を維持する方法が知られている。他には、特許文献2に、回転テーブルを割り出して複数の角度でテーブル上の被測定治具の位置を測定することにより、幾何学的な誤差やスケーリングエラーを同定して補正を行うことで機械の精度を維持する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-136846号公報
【特許文献2】特許第6295070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1で開示された方法は、急激な温度変化が生じていることを検知でき、工作機械が設置環境の良否判定や、数分~1時間程度の比較的短い時間で終了する加工や計測について開始するかどうかを判断することに有効といえる。しかし、長い時間をかけて徐々に温度が変化することで変位が大きくなる状況には対応が難しい。
一方、長い時間をかけて徐々に温度が変化することで変位が大きくなる状況においては、上記した公知の対策方法及び特許文献2で開示された方法が有用といえる。しかし、変位補正のための測定をいつ実施するかについては、作業者が経験に基づいて判断する必要があるため、当該測定が必要なタイミングで測定を実施できなかったり、過剰な頻度で測定を行ってしまったりする。そのため、生産性が低下する等の問題が生じる可能性がある。さらに、特許文献2に記載の方法は、複数の角度で回転テーブル上の被測定治具の位置の測定を行うため、測定に時間がかかるため、温度が急激に変化している状況で測定を行うと、測定中に熱変位が生じ、測定精度が悪化する可能性がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、温度変化が急激な場合も、徐々に温度が変化する場合も、熱変位による精度変化を診断でき、さらにワーク原点オフセット値及び工具長オフセット値等の工作機械の座標の補正値等について、変位補正のための測定を行う適切なタイミングを指示可能な工作機械の精度診断装置及び精度診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、使用環境や運転動作によって変化する変化量を計測する変化量検出部を備えた工作機械において、工作機械の精度を診断する精度診断装置であって、変化量の基準値を記録する変化量基準値記録部を備え、変化量検出部によって計測された変化量を取得し、所定時間あたりの変化量の変化の大きさから導出される第1変化指標と、現在の変化量と基準値とから導出される第2変化指標とに基づいて、工作機械の精度の変化を診断することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、上記構成において、第1変化指標に基づいて精度の変化を診断して第1診断結果を導出し、第2変化指標に基づいて精度の変化を診断して第2診断結果を導出する精度診断部を備えることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、上記構成において、第1変化指標を基に、変化量が工作機械の精度へ与える影響の大きさを数値化した第1精度スコアと、第2変化指標を基に、変化量が工作機械の精度へ与える影響の大きさを数値化した第2精度スコアとを算出する精度スコア算出部を備えることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、上記構成において、精度診断部は、所定の閾値に基づき、第1精度スコアから第1診断結果を導出し、第2精度スコアから第2診断結果を導出することを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、上記構成において、第1診断結果と第2診断結果とを報知する診断結果報知手段を備えることを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、上記構成において、第1診断結果と第2診断結果との組み合わせにより、工作機械の精度を確保するための精度対策を判断する精度対策判断手段を備えることを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、上記構成において、精度対策判断手段で判断した精度対策に従い、工作機械での加工又は変化量検出部による変化量の計測を行うプログラムを実行又は中止する精度対策実行部を備えることを特徴とする。
請求項8に記載の発明は、上記構成において、精度対策判断手段は、第1診断結果及び第2診断結果を良又は不良で表し、第1診断結果が不良の場合には、再び良となるまで工作機械での加工や計測を開始しない又は中断することを判断し、第1診断結果が良であり、かつ第2診断結果が不良の場合には、工作機械での加工や計測を開始又は継続する前に工作機械の座標の補正値の再設定を行うことを判断することを特徴とする。
請求項9に記載の発明は、上記構成において、精度対策判断手段は、第1診断結果及び第2診断結果を良又は不良で表し、第1診断結果と第2診断結果との何れかが不良の場合に、工作機械の座標の補正値の再設定を行うことを判断することを特徴とする。
請求項10に記載の発明は、上記構成において、精度対策判断手段は、第1診断結果及び第2診断結果を良または不良で表し、第2診断結果が不良で、かつ第1診断結果が良である場合に、工作機械の精度を校正するための測定に適したタイミングであると判断することを特徴とする。
請求項11に記載の発明は、上記構成において、変化量は、温度であることを特徴とする。
請求項12に記載の発明は、設置環境や運転動作によって変化する変化量を計測する変化量検出部を備えた工作機械において、精度を診断する精度診断方法であって、変化量検出部から変化量を取得し、変化量と予め設定された基準値との所定時間あたりの変化の大きさから導出される第1変化指標と、現在の変化量と基準値との差から導出される第2変化指標とに基づいて、工作機械の精度の変化を診断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1及び12に記載の発明によれば、工作機械の設置環境や運転動作によって変化する変化量に基づいて導出される第1変化指標と第2変化指標とを利用することで、急激な変化と徐々に起こる変化との何れの状況に対しても工作機械の精度を診断することができる。
請求項2に記載の発明によれば、上記効果に加えて、第1変化指標及び第2変化指標の両方を診断することで、急激な変化が起こっているか否か、長期的な変化が起こっているか否かをそれぞれ診断することができる。
請求項3に記載の発明によれば、上記効果に加えて、精度スコアとして連続的な値を提示することで、工作機械の精度が良いか悪いかではなく、その精度がどの程度安定しているかを把握できる。
請求項4に記載の発明によれば、上記効果に加えて、精度の安定性を加味した上で、工作機械の精度の良否を診断できる。
請求項5に記載の発明によれば、上記効果に加えて、第1変化指標及び第2変化指標のそれぞれの診断結果を報知することで、急激な変化が起こっているか否か、長期的な変化が起こっているか否かを作業者が知ることができる。
請求項6に記載の発明によれば、上記効果に加えて、第1診断結果と第2診断結果とを組み合わせて工作機械の精度を確保するための対策を判断することで、工作機械の精度確保のために何をすれば良いかを判断できる。また、急激な変化と長期的な変化との何れが生じた場合にも、工作機械の精度を確保するための対策を適切に判断できる。
請求項7に記載の発明によれば、上記効果に加えて、自動的に工作機械の精度を確保しながら加工や測定を行えるため、生産性を向上できる。
請求項8に記載の発明によれば、上記効果に加えて、現在の変化速度の大小により加工及び計測等を開始するかどうかを判断し、前回の座標の補正値の設定からの変化の大小により工作機械の座標の補正値の再設定を行う適切なタイミングを判断することで、加工及び計測等の精度を確保することができる。
請求項9に記載の発明によれば、上記効果に加えて、現在の変化速度の大小及び前回の座標の補正値の設定からの変化の大小により、工作機械の座標の補正値の再設定を行う適切なタイミングを判断し、特に量産加工において精度と生産性の確保を両立できる。
請求項10に記載の発明によれば、上記効果に加えて、前回の校正からの変化の大小により測定が必要かどうかを判断し、現在の変化速度の大小により誤差が小さい測定が行えるかを判断することで、工作機械の精度を校正するための測定に適したタイミングを判断できる。
請求項11に記載の発明によれば、上記効果に加えて、工作機械の精度の変化の多くは熱変位によって生じるため、熱変位の影響による工作機械の精度変化を診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】本発明の精度診断装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】(a)は温度基準値の更新の様子を表すグラフ、(b)は第1温度指標の変化を表すグラフ、(c)は第1精度スコアの変化を表すグラフ、(d)は第2温度指標の変化を表すグラフ、(e)は第2精度スコアの変化を表すグラフである。
【
図4】精度の診断結果を表示する画面の例を示す説明図である。
【
図5】加工時間の長いワークを加工する場合において、加工開始とワーク原点設定のタイミングを判断するためのフローチャートである。
【
図6】加工時間の短いワークを繰り返し加工する場合において、加工開始とワーク原点設定のタイミングを判断するためのフローチャートである。
【
図7】精度を校正するための測定を行う場合において、測定実施のタイミングを判断するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の工作機械を示す説明図である。なお、
図1は、カバー及びその他の設備を省略しているが、実際の機械は、カバー及びその他の設備を備えるものである。
工作機械である5軸マシニングセンタ1は、主軸2を備える。主軸2は、図示しない工具を装着してワークの加工を行う。また、タッチプローブ等の位置計測センサ3を装着して測定を行うこともできる。
【0010】
また、5軸マシニングセンタ1は、変化量検出部としての機体温度センサ4及び気温センサ5と、記録装置6と、精度診断装置7と、表示装置8と、制御装置9とを備える。
工作機械の精度の変化の多くは熱変位によって生じるため、変化量として温度を用いることで、熱変位の影響による精度変化を診断することができる。
機体温度センサ4は、機体の温度を測定し、気温センサ5は、機体周辺の気温を測定する。機体温度センサ4及び気温センサ5によって測定された温度情報は、記録装置6に取り込まれ、記録される。
精度診断装置7は、記録装置6に取り込まれた温度情報を基に、温度変化による5軸マシニングセンタ1の精度への影響を診断する。
表示装置8は、例えば、操作盤であり、精度診断装置7による診断結果を、画面に表示する。なお、表示装置8での診断結果に加え、図示しない警告灯及びブザー等を用いて作業者に報知するようにしても良い。
制御装置9は、精度診断装置7から送られる診断結果を基に5軸マシニングセンタ1の精度を確保するための対策を判断し、判断された対策に基づいてワークの加工や計測動作を制御する。
【0011】
次に、精度診断装置7について、詳しく説明する。
図2は、本発明の精度診断装置7の構成を示すブロック図である。
精度診断装置7は、温度基準値記録部103、温度指標算出部105、精度スコア算出部108、精度スコア表示部111、精度診断部112、許容範囲設定部116、精度対策判断部117、精度対策教示部118、精度対策実行部120及び診断結果報知部122を備える。
【0012】
精度診断装置7の機能を以下で説明する。
まず、精度診断装置7が、機体温度センサ4及び気温センサ5によって測定され、記録装置6に記録された温度情報である温度データ101を取得する。取得した温度データ101は、温度基準値記録指令102を受けて、温度基準値104として、温度基準値記録部103に記録される。なお、温度基準値記録指令102は、5軸マシニングセンタ1の操作盤及び画面を操作することで指令されるようにしても良いし、あるプログラムコードを実行することで指令されるようにしても良い。また、電源投入及び所定のパラメータの書き換え等の特定の動作と連動して自動的に指令されるようにしても良い。温度基準値104は、温度基準値記録指令102によらず、ワークの加工及び測定前に予め設定しても良い。
【0013】
次に、温度指標算出部105が、第1変化指標としての第1温度指標106と、第2変化指標としての第2温度指標107とを算出する。
第1温度指標106は、例えば、温度の変化速度である。第1温度指標106は、式1を用いて算出される。以下の式では、θは測定した温度の値を表し、Θは算出された温度指標を表す。記録装置6から温度データ101として現在の温度θ(t)と所定の時間Δt前の温度θ(t-Δt)とを取得し、現在の温度θ(t)と所定の時間Δt前の温度θ(t-Δt)との差分を取って算出される単位時間当たりの温度変化速度θ(t)を換算することで、第1温度指標Θ1(t)(106)が算出される。
【0014】
【0015】
式1は、変化速度の計算方法の一例であり、他の公知の数値微分法を用いることもできる。例えば、特許文献1に開示されているように、機体温度と周囲気温から近似的に変化速度を求めることができる。なお、個々では第1温度指標(106)を温度の変化速度としているが、第1温度指標(106)は、短時間での温度変化の激しさを表す指標であれば良く、温度変化速度以外にも、所定時間内での最大値と最小値の差等を第1温度指標(106)としても良い。
【0016】
第2温度指標107は、温度基準値104(θ0)と現在の温度θ(t)との差である。第2温度指標107は、式2を用いて算出される。
【0017】
【0018】
続いて、精度スコア算出部108が、第1温度指標106を基に第1精度スコア109を算出すると共に、第2温度指標107を基に第2精度スコア110を算出する。第1精度スコア109及び第2精度スコア110は、例えば、式3を用いて算出される。
【0019】
【0020】
式3では、精度スコアSn(t)を、Smin~Smaxの間の値で表している。第1温度指標106の絶対値の大きさが、定数ΘAより大きい時に第1精度スコア109は最も悪くなり、定数ΘBよりも小さい時に第1精度スコア109は最も良くなる。同様に、第2温度指標107の値の大きさが、定数ΘAより大きい時に第2精度スコア110は最も悪くなり、定数ΘBよりも小さい時に第2精度スコア110は最も良くなる。
なお、式3は、各精度スコア109,110を算出するための計算方法の一例であり、各精度スコア109,110の算出には、公知の別の式を用いても良い。
【0021】
式1~3を用いて、ある温度変化に対する第1精度スコア109及び第2精度スコア110の変化を算出した例を
図3(a)~(e)に示す。
図3(a)は、温度基準値104の更新の様子を表すグラフである。実線は、温度の時間変化を表している、また、破線は、温度基準値104を表している。この例では、0時間と3時間が経過した時点とで、温度基準値記録指令102が指令され、その時点での温度θ(t)が温度基準値θ
0(104)として記録されている。温度基準値θ
0(104)は、温度基準値記録指令102が指令されたタイミングでステップ状に変化する。
【0022】
図3(b)は、第1温度指標Θ
1(t)(106)の変化を表すグラフである。ここでは、式1に従い、温度θ(t)の数値微分を行い、第1温度指標Θ
1(t)(106)を算出した。
図3(a)に示すように、0~1時間では緩やかに温度が降下するため、第1温度指標Θ
1(t)(106)は、マイナスの値となっている。一方、2~4時間では、温度が大きく上昇するため、第1温度指標Θ
1(t)(106)は、プラスの値となっている。
【0023】
図3(c)は、第1精度スコア109の変化を表すグラフである。ここでは、式3におけるS
maxを100、S
minを0としている。温度変化が小さく、5軸マシニングセンタ1の精度が安定している時は、精度スコアS(t)が100となる。一方、温度変化が大きく、精度が不安定になるほど精度スコアS(t)が0に近付くように、10刻みの値として精度スコアS(t)を算出した。ここでは、精度診断部112が、第1精度スコア109が60以上を良として判断し、50以下を不良として診断している。なお、良否を判断するための閾値(後述する許容範囲115)は、許容範囲設定部116によって設定される。
図3(a)に示すように、0~2時間の温度変化度合いが緩やかな場合には、第1精度スコア109は100を示し、2~4時間の温度が急激に上がっていく場合には、第1精度スコア109の数値が下がっていることを示している。
【0024】
図3(d)は、第2温度指標Θ
2(t)(107)の変化を表すグラフである。式2に従い、第2温度指標Θ
2(t)(107)を、温度θ(t)と温度基準値θ
0(104)との差として算出した。温度基準値記録指令102が指令されたタイミング、即ち、0時間と3時間が経過した時点とで、温度θ(t)と温度基準値θ
0(104)とは等しくなるため、それぞれの時点において、第2温度指標Θ
2(t)(107)の値は0となっている。
【0025】
図3(e)は、第2精度スコア110の変化を表すグラフである。ここでは、第1精度スコア109と同様に、式3におけるS
maxを100、S
minを0としている。ここでは、精度診断部112が、第2精度スコア110が60以上を良として判断し、50以下を不良として診断している。なお、良否を判断するための閾値(後述する許容範囲115)は、許容範囲設定部116によって設定される。
図3(d)に示すように、0時間と3時間が経過した時点とでは、それぞれの時点における温度θ(t)と温度基準値104との差が0であるため、第2精度スコア110は100を示す。一方、時間が経過して温度が変化するにつれて、第2精度スコア110の値は低下している。
【0026】
算出された第1精度スコア109及び第2精度スコア110は、現在のワークの加工及び計測の精度の良否を判断する目安となる。そのため、精度スコア表示部111は、精度スコアを表示装置8に表示する。また、精度診断部112は、現在の5軸マシニングセンタ1の精度の良否の診断を行う。許容範囲設定部116は、例えば、操作盤上での数値の入力及びプログラム等を通して、第1精度スコア109及び第2精度スコア110の許容範囲115を設定する。なお、許容範囲115は、許容範囲設定部116によって任意に変更することができる。精度診断部112は、設定された許容範囲115と、第1精度スコア109及び第2精度スコア110それぞれとを比較して診断を行う。診断結果は、第1精度スコア109に対する診断結果を第1診断結果113とし、第2精度スコア110に対する診断結果を第2診断結果114とする。
【0027】
精度対策判断部117は、第1診断結果113の良否及び第2診断結果114の良否の組み合わせによって、5軸マシニングセンタ1の精度を補正するための精度対策が必要か否かを判断する。また、精度対策が必要な場合は、どのような精度対策を行うかを判断する。精度対策判断部117で判断された精度対策を作業者に教示して行わせる場合、精度対策教示部118は、表示装置8にメッセージ119として出力する。一方、精度対策判断部117で判断された精度対策を自動的に5軸マシニングセンタ1に実行させる場合、精度対策実行部120は、制御指令121を出力する。
【0028】
メッセージ119は、第1診断結果113及び第2診断結果114それぞれの結果に応じて作成される。例えば、第1診断結果113が不良の場合、加工及び計測を中断することを示す。また、例えば、第2診断結果114が不良の場合、ワーク原点等の座標の補正値を再測定することなどの必要な精度対策を示す。この時、メッセージ119をより強く示すためにアラームを表示する等しても良い。特に、診断の結果が精度の悪化を示すものである場合、精度対策教示部118によるメッセージ119の表示に加え、精度対策実行部120にプログラムによる5軸マシニングセンタ1の動作停止の制御指令121を出力するようにしても良い。なお、精度対策教示部118によるメッセージ119の出力は、表示装置8に限定されず、作業者が所有する端末等への通知メールでもよい。また、警告灯の点灯及びアラーム等、文字による出力以外でも良い。
【0029】
制御指令121は、第1診断結果113及び第2診断結果114それぞれの結果に応じて作成される。例えば、第1診断結果113が不良の場合、加工及び計測を中断する制御指令121が作成される。また、例えば、第2診断結果114が不良の場合、ワーク原点等の座標の補正値を再測定することなどの必要な精度対策を実行するための制御指令121が作成される。作成された制御指令121は、制御装置9へ出力される。制御装置9は、入力された制御指令121に従い、必要な5軸マシニングセンタ1の制御を自動的に実行する。
【0030】
診断結果報知部122は、第1診断結果113及び第2診断結果114を表示装置8に表示することにより報知する。診断結果の表示は、第1診断結果113及び第2診断結果114それぞれの良否が分かるようにする。また、診断結果の報知方法は表示装置8による表示に限定されず、作業者が所有する端末等への通知メールでも良い。また、警告灯の点灯及びアラーム等、文字による出力以外でも良い。さらに、第1診断結果113及び第2診断結果114との良否の組み合わせによって、報知方法を変えてもよい。例えば、第1診断結果113が悪化した場合には、表示装置8への表示に加えてアラームを発生するようにし、第2診断結果114が悪化した場合には、表示装置8への表示のみとするようにしても良い。さらに、第1診断結果113と第2診断結果114との両方が悪化した場合のみアラームを発生し、それ以外のときは表示装置8への表示のみとするようにしても良い。
【0031】
図4は、精度スコア表示部111、許容範囲設定部116、精度対策教示部118を設けた表示装置8の画面表示の一例である。
第1精度スコア109及び第2精度スコア110それぞれの数値と、それらの大きさを視覚的に表すバーグラフが表示されている。また、第1精度スコア109及び第2精度スコア110それぞれについて、許容範囲設定部116で設定された許容範囲115が表示されている。さらに、第1精度スコア109及び第2精度スコア110それぞれについて、精度対策教示部118によって作成されたメッセージ119が表示されている。このように、一つの画面上に、精度スコア、許容範囲115及びメッセージ119を表示することで、視覚的に5軸マシニングセンタ1の精度及び精度の診断基準を把握することができる。なお、表示する情報は上記のものに限定されず、例えば、
図3に示すようなグラフを表示しても良いし、主軸回転数等の5軸マシニングセンタ1の動作を示す情報を表示しても良い。
【0032】
以下、判断例1~3を用いて、精度対策判断部117の精度対策の判断方法及び行う精度対策を、説明する。
【0033】
判断例1は、例えば1時間以上の比較的長い時間の加工や機上計測を行う場合を想定したものである。
図5は、加工時間の長いワークを加工する場合において、加工開始とワーク原点設定のタイミングを判断するためのフローチャートである。即ち、判断例1における精度対策判断部117の判断方法及び行う精度対策を示すフローチャートである。判断例1における診断のタイミングは、主にワークの加工や機上計測の開始時に実行される。
【0034】
加工及び機上計測にかかる時間が長いほど、加工及び機上計測の精度は、温度変化による熱変位の影響を受けやすくなる。また、温度が急激に変化している状態で加工及び機上計測を開始すると、熱変位の影響を大きく受けてしまうため、加工及び機上計測を高精度に行いたい場合は、温度変化が緩やかになるまで待ってから開始するほうが良い。温度変化が緩やかになった後でワーク原点等の座標補正値を測定・設定して加工及び機上計測を開始すれば、それらを高精度に行うことができる。
【0035】
まず、第1精度スコア109が、許容範囲115の範囲内にあるか否かをチェックする(S11)。第1精度スコア109が、許容範囲115の範囲内である場合、即ち温度変化が緩やかである場合には、S13へ進む。一方、第1精度スコア109が、許容範囲115の範囲内にない場合、即ち温度変化が急激である場合には、加工及び計測の精度が悪化する可能性があるため、S12へ進み、第1精度スコア109が許容範囲115の範囲内となるまで加工及び計測を開始しない。
次に第2精度スコア110が、許容範囲115の範囲内にあるか否かをチェックする(S13)。第2精度スコア110が、許容範囲115の範囲内にある場合、S16へ進み、直ちに加工又は計測を開始する。第2精度スコア110が、許容範囲115の範囲内にない場合、即ち前回温度基準値104を設定した時点からの温度変化が大きい場合には、S14へ進み、ワーク原点等の座標の補正値を測定して設定する。例えば、位置計測センサ3であるタッチプローブを用いてワークの原点位置等を測定し、ワーク原点オフセット値等を更新する。そして、その時点での温度を温度基準値104として記録する(S15)。この処理により、現在温度と温度基準値104との差は0となるため、第2精度スコア110が、許容範囲115の範囲内に収まり、精度良好な状態となる。その後、加工又は計測を開始する(S16)。
【0036】
このような処理は、ワークの加工及び機上計測の開始時にだけ行うようにしても良いし、ワークの加工及び機上計測開始時に加え、加工途中及び機上計測途中の所定のタイミングでも行うようにしても良い。加工途中及び機上計測途中の所定のタイミングでも上述の処理を行う場合は、S12では、第1精度スコア109が許容範囲115の範囲内となるまで加工又は機上計測を中断し、第1精度スコア109が許容範囲115の範囲内に入った際に、加工又は機上計測を再開することになる。
【0037】
また、判断例1では、精度対策実行部120によって自動的に精度対策を実行することを想定しているが、精度対策教示部118による教示に従って、作業者が必要な精度対策を実行しても良い。その場合、S12では、作業者に対し、精度対策教示部118によって、現在は激しい温度変化があるため温度変化が緩やかになるまで待つ必要がある旨のメッセージ119を表示装置8に表示したり、アラームを鳴らしたりする等して教示する。S14では、座標の補正値を測定して設定する必要がある旨を教示する。
上述のように適宜精度対策を実行することで、加工及び機上計測の精度を確保できる。
【0038】
判断例2は、ワーク1つ当たりの加工時間が、例えば数分から1時間以内と比較的短く、同一の加工を繰り返し行う量産加工の場合を想定したものである。
図6は、加工時間の短いワークを繰り返し加工する場合において、加工開始とワーク原点設定のタイミングを判断するためのフローチャートである。即ち、判断例2における精度対策判断部117の判断方法及び行う精度対策を示すフローチャートである。判断例2における診断のタイミングは、1つ又は所定の数のワークの加工終了毎に実行される。
【0039】
量産加工では、精度だけではなく、短時間で大量にワークを加工する生産性も要求される。そこで、精度確保に必要最低限のタイミングで工具長オフセット及びワーク原点等の座標補正値の測定を行えるように診断を行う。温度が急激に変化している状態では、短時間でも精度が悪化する可能性があるため、1つのワークを加工する毎に診断を行う必要がある。一方、温度変化が緩やかな場合では、前回の診断からの温度変化が大きくなった際に診断を行う。
【0040】
まず、第1精度スコア109が許容範囲115の範囲内であるかをチェックする(S21)。第1精度スコア109が、許容範囲115の範囲内である場合、即ち温度変化が緩やかな場合には、S22へ進む。一方、第1精度スコア109が、許容範囲115の範囲内にない場合、即ち温度変化が急激である場合には、短時間であっても精度が悪化する可能性があるため、S23へ進み、工具長オフセット及びワーク原点等の座標補正値を測定して設定する。そして、その時点での温度を温度基準値104として記録する(S24)。この処理により、温度変化が急激な場合でも、ワークの加工精度のばらつきを最小限に抑えることができる。その後、次のワークの加工を開始する(S25)。
【0041】
次に、温度変化が緩やかな場合は、第2精度スコア110が、許容範囲115の範囲内にあるか否かをチェックする(S22)。第2精度スコア110が、許容範囲115の範囲内にない場合、即ち前回工具長オフセット及びワーク原点等の座標補正値を測定して設定した時点からの温度変化が大きい場合には、長時間使用している間に徐々に生じた温度変化により制度が悪化する可能性があるため、再度座標補正値を測定して設定する(S23)。そして、その時点での温度を温度基準値104として記録する(S24)。この処理により、現在温度と温度基準値104との差は0となるため、第2精度スコア110が、許容範囲115の範囲内に収まり、精度良好な状態となる。その後、次のワークの加工を開始する(S25)。
【0042】
S23での測定は、精度対策実行部120によって制御装置9へ指令を出力することにより、タッチプローブ等の位置計測センサ3によって機械が自動的に行うようにしても良いし、精度対策教示部118によるメッセージ119等で測定が必要な旨を教示して、作業者に行わせるようにしても良い。
上述のように、温度が急激に変化する場合も、温度が徐々に変化する場合も、適切なタイミングで工具長オフセット及びワーク原点等の座標補正値の測定を行うことで、精度の確保と生産性とを両立できる。
【0043】
判断例3は、工作機械の精度を校正するための測定を想定したものである。
図7は、精度を校正するための測定を行う場合において、測定実施のタイミングを判断するためのフローチャートである。即ち、判断例3における精度対策判断部117の判断方法及び行う精度対策を示すフローチャートである。
【0044】
5軸マシニングセンタ1では、回転軸の中心位置、直進軸のスケールの位置決め、直進軸同士の傾き等の誤差パラメータを測定し、それぞれに応じた補正を行うことで精度を校正する。しかし、様々な誤差パラメータを測定し、校正を行うには長い時間が必要となる。例えば、誤差パラメータの測定中に温度が急激に変化した場合、測定誤差が大きくなり、十分な校正による精度改善の効果が得られない。また、校正を頻繁に実施することで高い精度を確保できるが、測定している間は生産が行えないため、必要最低限のタイミングで測定を行う必要がある。そこで、精度診断装置7は、精度改善と生産性とを両立した上で、精度を校正するための測定を行う最適なタイミングを判断する。
【0045】
まず、第2精度スコア110が、許容範囲115の範囲内であるか否かをチェックする(S31)。第2精度スコア110が、許容範囲115の範囲内である場合、即ち前回校正を実施した時点からの温度変化が小さい場合は、校正を実施する必要がないと判断し、測定を実行しない(S32)。一方、第2精度スコア110が、許容範囲115の範囲内にない場合、即ち、前回校正を実施した時点からの温度変化が大きい場合は、校正を実施する必要があると判断する。しかし、急激な温度変化が生じている最中に校正を行うと測定誤差が大きくなってしまうため、第1精度スコア109が許容範囲115の範囲内にあるか否かをチェックし(S33)、温度変化の状態を確認する。第1精度スコア109が、許容範囲115の範囲内にない場合、即ち急激な温度変化が生じている場合は、即座に校正を実施することはせず、温度変化が緩やかになり、第1精度スコア109が許容範囲115の範囲内となった時点で校正を実施するようにする。第1精度スコア109が、許容範囲115の範囲内にある場合、温度変化が緩やかなため、精度良く誤差パラメータの測定を行えるため、誤差パラメータの測定を実施して校正を適用する(S35)。そして、その時点での温度を温度基準値104として記録する(S36)。この処理により、現在温度と温度基準値104との差は0となるため、第2精度スコア110が、許容範囲115の範囲内に収まり、精度良好な状態となる。
【0046】
S35での測定は、精度対策実行部120によって制御装置9へ指令を出力することにより、タッチプローブ等の位置計測センサ3によって機械が自動的に行うようにしても良いし、精度対策教示部118によるメッセージ119等で測定が必要な旨を教示して、作業者に行わせるようにしても良い。
上述のように工作機械の精度を校正するための測定を実施する最適なタイミングを判断することができるため、精度改善と生産性とを両立することができる。
【0047】
上記形態の精度診断装置7は、使用環境や運転動作によって変化する温度を計測する機体温度センサ4及び気温センサ5とを備えた5軸マシニングセンタ1において、温度基準値104を記録する温度基準値記録部103を備え、機体温度センサ4及び気温センサ5とによって計測された温度データ101を取得し、所定時間あたりの温度の変化の大きさから導出される第1変化指標(第1温度指標106)と、現在の温度と温度基準値104とから導出される第2変化指標(第2温度指標107)とに基づいて、5軸マシニングセンタ1の精度の変化を診断する。
このようにして構成される精度診断装置7によれば、5軸マシニングセンタ1の設置環境や運転動作によって変化する温度に基づいて導出される第1温度指標106と第2温度指標107とを利用することで、急激な温度変化と徐々に起こる温度変化との何れの状況に対しても5軸マシニングセンタ1の精度を診断することができる。
【0048】
また、精度診断装置7は、第1温度指標106に基づいて5軸マシニングセンタ1の精度の変化を診断して第1診断結果113を導出し、第2温度指標107に基づいて5軸マシニングセンタ1の精度の変化を診断して第2診断結果114を導出する精度診断部112を備える。
よって、第1温度指標106及び第2温度指標107の両方を診断することで、急激な温度変化が起こっているか否か、長期的な温度変化が起こっているか否かをそれぞれ診断することができる。
【0049】
また、精度診断装置7は、第1温度指標106を基に、温度が5軸マシニングセンタ1の精度へ与える影響の大きさを数値化した第1精度スコア109と、第2温度指標107を基に、温度が5軸マシニングセンタ1の精度へ与える影響の大きさを数値化した第2精度スコア110とを算出する精度スコア算出部108を備える。
よって、第1精度スコア109及び第2精度スコア110として連続的な値を提示することで、5軸マシニングセンタ1の精度が良いか悪いかではなく、その精度がどの程度安定しているかを把握できる。
【0050】
また、精度診断部112は、許容範囲115に基づき、第1精度スコア109から第1診断結果113を導出し、第2精度スコア110から第2診断結果114を導出する。
よって、5軸マシニングセンタ1の精度の安定性を加味した上で、5軸マシニングセンタ1の精度の良否を診断できる。
【0051】
また、精度診断装置7は、第1診断結果113と第2診断結果114との組み合わせにより、5軸マシニングセンタ1の精度を確保するための精度対策を判断する精度対策判断部117を備える。
よって、第1診断結果113と第2診断結果114とを組み合わせて5軸マシニングセンタ1の精度を確保するための対策を判断することで、5軸マシニングセンタ1の精度確保のために何をすれば良いかを判断できる。また、急激な温度変化と長期的な温度変化との何れが生じた場合にも、5軸マシニングセンタ1の精度を確保するための対策を適切に判断できる。
【0052】
また、精度診断装置7は、精度対策判断部117で判断した精度対策に従い、5軸マシニングセンタ1での加工又は機体温度センサ4及び気温センサ5による温度の計測を行うプログラムを実行又は中止する精度対策実行部120を備える。
よって、自動的に5軸マシニングセンタ1の精度を確保しながら加工や測定を行えるため、生産性を向上できる。
【0053】
以上は、本発明を図示例に基づいて説明したものであり、その技術範囲はこれに限定されるものではない。例えば、工作機械は、5軸マシニングセンタ以外のものでも良い。
また、変化指標の基となる変化量は、温度に限定されず、例えば、負荷値等でも良い。
【符号の説明】
【0054】
1・・5軸マシニングセンタ、4・・機体温度センサ、5・・気温センサ、6・・記録装置、7・・精度診断装置、8・・表示装置、103・・温度基準値記録部、105・・温度指標算出部、108・・精度スコア算出部、112・・精度診断部、116・・許容範囲設定部、117・・精度対策判断部、118・・精度対策教示部、120・・精度対策実行部。
【手続補正書】
【提出日】2021-07-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項7
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項7】
前記精度対策判断手段で判断した前記精度対策に従い、前記工作機械での加工又は機上計測を行うプログラムを実行又は中止する精度対策実行部を備えることを特徴とする請求項6に記載の工作機械の精度診断装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項8
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項8】
請求項6又は7に記載の工作機械の精度診断装置において、
前記精度対策判断手段は、前記第1診断結果及び前記第2診断結果を良又は不良で表し、
前記第1診断結果が不良の場合には、再び良となるまで前記工作機械での加工及び機上計測を開始しない又は中断することを判断し、
前記第1診断結果が良であり、かつ前記第2診断結果が不良の場合には、前記工作機械での加工及び機上計測を開始又は継続する前に、前記工作機械の座標の補正値の再設定を行うことを判断することを特徴とする工作機械の精度診断装置。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本発明は、工作機械が置かれた環境及び運転動作による工作機械の精度への影響を診断する工作機械の精度診断装置及び精度診断方法に関する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、使用環境や運転動作によって変化する変化量を計測する変化量検出部を備えた工作機械において、工作機械の精度を診断する精度診断装置であって、変化量の基準値を記録する変化量基準値記録部を備え、変化量検出部によって計測された変化量を取得し、所定時間あたりの変化量の変化の大きさから導出される第1変化指標と、現在の変化量と基準値とから導出される第2変化指標とに基づいて、工作機械の精度の変化を診断することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、上記構成において、第1変化指標に基づいて精度の変化を診断して第1診断結果を導出し、第2変化指標に基づいて精度の変化を診断して第2診断結果を導出する精度診断部を備えることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、上記構成において、第1変化指標を基に、変化量が工作機械の精度へ与える影響の大きさを数値化した第1精度スコアと、第2変化指標を基に、変化量が工作機械の精度へ与える影響の大きさを数値化した第2精度スコアとを算出する精度スコア算出部を備えることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、上記構成において、精度診断部は、所定の閾値に基づき、第1精度スコアから第1診断結果を導出し、第2精度スコアから第2診断結果を導出することを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、上記構成において、第1診断結果と第2診断結果とを報知する診断結果報知手段を備えることを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、上記構成において、第1診断結果と第2診断結果との組み合わせにより、工作機械の精度を確保するための精度対策を判断する精度対策判断手段を備えることを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、上記構成において、精度対策判断手段で判断した精度対策に従い、工作機械での加工又は機上計測を行うプログラムを実行又は中止する精度対策実行部を備えることを特徴とする。
請求項8に記載の発明は、上記構成において、精度対策判断手段は、第1診断結果及び第2診断結果を良又は不良で表し、第1診断結果が不良の場合には、再び良となるまで工作機械での加工や機上計測を開始しない又は中断することを判断し、第1診断結果が良であり、かつ第2診断結果が不良の場合には、工作機械での加工や機上計測を開始又は継続する前に工作機械の座標の補正値の再設定を行うことを判断することを特徴とする。
請求項9に記載の発明は、上記構成において、精度対策判断手段は、第1診断結果及び第2診断結果を良又は不良で表し、第1診断結果と第2診断結果との何れかが不良の場合に、工作機械の座標の補正値の再設定を行うことを判断することを特徴とする。
請求項10に記載の発明は、上記構成において、精度対策判断手段は、第1診断結果及び第2診断結果を良または不良で表し、第2診断結果が不良で、かつ第1診断結果が良である場合に、工作機械の精度を校正するための測定に適したタイミングであると判断することを特徴とする。
請求項11に記載の発明は、上記構成において、変化量は、温度であることを特徴とする。
請求項12に記載の発明は、設置環境や運転動作によって変化する変化量を計測する変化量検出部を備えた工作機械において、精度を診断する精度診断方法であって、変化量検出部から変化量を取得し、変化量と予め設定された基準値との所定時間あたりの変化の大きさから導出される第1変化指標と、現在の変化量と基準値との差から導出される第2変化指標とに基づいて、工作機械の精度の変化を診断することを特徴とする。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0041
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0041】
次に、温度変化が緩やかな場合は、第2精度スコア110が、許容範囲115の範囲内にあるか否かをチェックする(S22)。第2精度スコア110が、許容範囲115の範囲内にない場合、即ち前回工具長オフセット及びワーク原点等の座標補正値を測定して設定した時点からの温度変化が大きい場合には、長時間使用している間に徐々に生じた温度変化により精度が悪化する可能性があるため、再度座標補正値を測定して設定する(S23)。そして、その時点での温度を温度基準値104として記録する(S24)。この処理により、現在温度と温度基準値104との差は0となるため、第2精度スコア110が、許容範囲115の範囲内に収まり、精度良好な状態となる。その後、次のワークの加工を開始する(S25)。