(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022071524
(43)【公開日】2022-05-16
(54)【発明の名称】認知機能検査システム、認知機能検査装置、および認知機能検査プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20220509BHJP
G16H 50/30 20180101ALI20220509BHJP
【FI】
A61B10/00 H
G16H50/30
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020180545
(22)【出願日】2020-10-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】518262305
【氏名又は名称】日本テクトシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168952
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 壮一郎
(72)【発明者】
【氏名】増岡 厳
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA04
(57)【要約】
【課題】被検者に対して認知機能検査を実施すること。
【解決手段】
検査端末100は、複数の2桁の数字を一定の時間間隔で音声により出力する数字出力手段と、数字出力手段によって数字が1つ出力されるごとに認知機能検査の被検者によって発話された回答音声の入力を受け付ける音声入力受付手段と、音声入力受付手段によって入力を受け付けた回答音声に基づく被検者の回答が、被検者が回答した直前に数字出力手段によって出力された数字の2つ前に出力された数字と一致する場合に、被検者の回答は正答であると判定する正誤判定手段と、正誤判定手段によって被検者の回答が2つ連続して正答であると判定された場合に、被検者の認知機能を評価するための得点にあらかじめ設定された点数を加点する加点手段とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
認知機能検査のために使用される認知機能検査システムであって、
複数の2桁の数字を一定の時間間隔で音声により出力する数字出力手段と、
前記数字出力手段によって数字が1つ出力されるごとに、認知機能検査の被検者によって発話された回答音声の入力を受け付ける音声入力受付手段と、
前記音声入力受付手段によって入力を受け付けた前記回答音声に基づく被検者の回答が、被検者が回答した直前に前記数字出力手段によって出力された数字の2つ前に出力された数字と一致する場合に、被検者の回答は正答であると判定する正誤判定手段と、
前記正誤判定手段によって被検者の回答が2つ連続して正答であると判定された場合に、被検者の認知機能を評価するための得点にあらかじめ設定された点数を加点する加点手段とを備えることを特徴とする認知機能検査システム。
【請求項2】
請求項1に記載の認知機能検査システムにおいて、
前記正誤判定手段は、前記音声入力受付手段によって入力を受け付けた前記回答音声のデータをテキストデータに変換し、変換後のテキストデータを正答データと照合することにより正答または誤答を判定することを特徴とする認知機能検査システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の認知機能検査システムにおいて、
前記数字出力手段は、あらかじめ設定された数の2桁の数字の音声出力を1セットとし、これをあらかじめ設定されたセット数行うことを特徴とする認知機能検査システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の認知機能検査システムにおいて、
前記加点手段は、認知機能検査のために設定されているその他の課題についても被検者の回答結果に基づく加点を行って、課題ごとに被検者の認知機能を評価するための得点を算出することを特徴とする認知機能検査システム。
【請求項5】
請求項4に記載の認知機能検査システムにおいて、
前記加点手段によって課題ごとに算出された被検者の得点に基づいて、被検者の認知機能を評価するための評価値を算出する評価値算出手段をさらに備えることを特徴とする認知機能検査システム。
【請求項6】
請求項5に記載の認知機能検査システムにおいて、
前記評価値算出手段によって算出された前記評価値とあらかじめ設定されている被検者判別用の閾値とを比較することにより、被検者を認知機能の評価結果に応じて判別する判別手段をさらに備えることを特徴とする認知機能検査システム。
【請求項7】
請求項6に記載の認知機能検査システムにおいて、
前記判別手段は、被検者を健常、軽度認知障害、および軽度の認知症の3段階で判別することを特徴とする認知機能検査システム。
【請求項8】
認知機能検査のために使用される認知機能検査装置であって、
複数の2桁の数字を一定の時間間隔で音声により出力する数字出力手段と、
前記数字出力手段によって数字が1つ出力されるごとに認知機能検査の被検者によって発話された回答音声の入力を受け付ける音声入力受付手段と、
前記音声入力受付手段によって入力を受け付けた前記回答音声に基づく被検者の回答が、被検者が回答した直前に前記数字出力手段によって出力された数字の2つ前に出力された数字と一致する場合に、被検者の回答は正答であると判定する正誤判定手段と、
前記正誤判定手段によって被検者の回答が2つ連続して正答であると判定された場合に、被検者の認知機能を評価するための得点にあらかじめ設定された点数を加点する加点手段とを備えることを特徴とする認知機能検査装置。
【請求項9】
請求項8に記載の認知機能検査装置において、
前記正誤判定手段は、前記音声入力受付手段によって入力を受け付けた前記回答音声のデータをテキストデータに変換し、変換後のテキストデータを正答データと照合することにより正答または誤答を判定することを特徴とする認知機能検査装置。
【請求項10】
請求項8または9に記載の認知機能検査装置において、
前記数字出力手段は、あらかじめ設定された数の2桁の数字の音声出力を1セットとし、これをあらかじめ設定されたセット数行うことを特徴とする認知機能検査装置。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか一項に記載の認知機能検査装置において、
前記加点手段は、認知機能検査のために設定されているその他の課題についても被検者の回答結果に基づく加点を行って、課題ごとに被検者の認知機能を評価するための得点を算出することを特徴とする認知機能検査装置。
【請求項12】
請求項11に記載の認知機能検査装置において、
前記加点手段によって課題ごとに算出された被検者の得点に基づいて、被検者の認知機能を評価するための評価値を算出する評価値算出手段をさらに備えることを特徴とする認知機能検査装置。
【請求項13】
請求項12に記載の認知機能検査装置において、
前記評価値算出手段によって算出された前記評価値とあらかじめ設定されている被検者判別用の閾値とを比較することにより、被検者を認知機能の評価結果に応じて判別する判別手段をさらに備えることを特徴とする認知機能検査装置。
【請求項14】
請求項13に記載の認知機能検査装置において、
前記判別手段は、被検者を健常、軽度認知障害、および軽度の認知症の3段階で判別することを特徴とする認知機能検査装置。
【請求項15】
認知機能検査のために使用される認知機能検査プログラムであって、
複数の2桁の数字を一定の時間間隔で音声により出力する数字出力手順と、
前記数字出力手順で数字が1つ出力されるごとに認知機能検査の被検者によって発話された回答音声の入力を受け付ける音声入力受付手順と、
前記音声入力受付手順で入力を受け付けた前記回答音声に基づく被検者の回答が、被検者が回答した直前に前記数字出力手順で出力した数字の2つ前に出力された数字と一致する場合に、被検者の回答は正答であると判定する正誤判定手順と、
前記正誤判定手順で被検者の回答が2つ連続して正答であると判定した場合に、被検者の認知機能を評価するための得点にあらかじめ設定された点数を加点する加点手順とをコンピュータに実行させるための認知機能検査プログラム。
【請求項16】
請求項15に記載の認知機能検査プログラムにおいて、
前記正誤判定手順は、前記音声入力受付手順で入力を受け付けた前記回答音声のデータをテキストデータに変換し、変換後のテキストデータを正答データと照合することにより正答または誤答を判定することを特徴とする認知機能検査プログラム。
【請求項17】
請求項15または16に記載の認知機能検査プログラムにおいて、
前記数字出力手順は、あらかじめ設定された数の2桁の数字の音声出力を1セットとし、これをあらかじめ設定されたセット数行うことを特徴とする認知機能検査プログラム。
【請求項18】
請求項15~17のいずれか一項に記載の認知機能検査プログラムにおいて、
前記加点手順は、認知機能検査のために設定されているその他の課題についても被検者の回答結果に基づく加点を行って、課題ごとに被検者の認知機能を評価するための得点を算出することを特徴とする認知機能検査プログラム。
【請求項19】
請求項18に記載の認知機能検査プログラムにおいて、
前記加点手順で課題ごとに算出した結果の被検者の得点に基づいて、被検者の認知機能を評価するための評価値を算出する評価値算出手順をさらに有することを特徴とする認知機能検査プログラム。
【請求項20】
請求項19に記載の認知機能検査プログラムにおいて、
前記評価値算出手順で算出した前記評価値とあらかじめ設定されている被検者判別用の閾値とを比較することにより、被検者を認知機能の評価結果に応じて判別する判別手順をさらに有することを特徴とする認知機能検査プログラム。
【請求項21】
請求項20に記載の認知機能検査プログラムにおいて、
前記判別手順は、被検者を健常、軽度認知障害、および軽度の認知症の3段階で判別することを特徴とする認知機能検査プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知機能検査システム、認知機能検査装置、および認知機能検査プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
次のような軽度の認知機能障害の推定システムが知られている。この推定システムでは、被検者の音声データを用いて軽度の認知機能障害の有無を推定する(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の軽度の認知機能障害の推定システムのように、軽度認知障害(MCI)の有無を推定するためには、検査の被検者が、健常、軽度認知障害、および認知症のいずれに該当するかを精度高く判別する必要がある。このために行う検査のための課題の一つに、被検者に対して数字を続けて提示し、現在提示している数字のいくつか(n個)前に提示された数字を答えさせるn-back課題とよばれるものがある。このn-back課題では、提示する数字の桁数と、いくつ前の数字を答えさせるかによって難易度を変化させることができるが、従来は、提示する桁数を何桁にし、いくつ前の数字を答えさせると軽度認知障害の判別精度を高くすることができるかについては何ら検討されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による認知機能検査システムは、認知機能検査のために使用され、複数の2桁の数字を一定の時間間隔で音声により出力する数字出力手段と、数字出力手段によって数字が1つ出力されるごとに認知機能検査の被検者によって発話された回答音声の入力を受け付ける音声入力受付手段と、音声入力受付手段によって入力を受け付けた回答音声に基づく被検者の回答が、被検者が回答した直前に数字出力手段によって出力された数字の2つ前に出力された数字と一致する場合に、被検者の回答は正答であると判定する正誤判定手段と、正誤判定手段によって被検者の回答が2つ連続して正答であると判定された場合に、被検者の認知機能を評価するための得点にあらかじめ設定された点数を加点する加点手段とを備えることを特徴とする。
本発明による認知機能検査装置は、認知機能検査のために使用され、複数の2桁の数字を一定の時間間隔で音声により出力する数字出力手段と、数字出力手段によって数字が1つ出力されるごとに認知機能検査の被検者によって発話された回答音声の入力を受け付ける音声入力受付手段と、音声入力受付手段によって入力を受け付けた回答音声に基づく被検者の回答が、被検者が回答した直前に数字出力手段によって出力された数字の2つ前に出力された数字と一致する場合に、被検者の回答は正答であると判定する正誤判定手段と、正誤判定手段によって被検者の回答が2つ連続して正答であると判定された場合に、被検者の認知機能を評価するための得点にあらかじめ設定された点数を加点する加点手段とを備えることを特徴とする。
本発明による認知機能検査プログラムは、認知機能検査のために使用され、複数の2桁の数字を一定の時間間隔で音声により出力する数字出力手順と、数字出力手順で数字が1つ出力されるごとに認知機能検査の被検者によって発話された回答音声の入力を受け付ける音声入力受付手順と、音声入力受付手順で入力を受け付けた回答音声に基づく被検者の回答が、被検者が回答した直前に数字出力手段によって出力された数字の2つ前に出力された数字と一致する場合に、被検者の回答は正答であると判定する正誤判定手順と、正誤判定手順で被検者の回答が2つ連続して正答であると判定した場合に、被検者の認知機能を評価するための得点にあらかじめ設定された点数を加点する加点手順とをコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、n-back課題で被検者に提示する数字の桁数を2桁とし、被検者が回答した直前に出力された数字の2つ前に出力された数字と一致する場合に正答と判定するようにした。この方法は出願人の事前の検証により軽度認知障害の判別精度を高くすることができることがわかっている。さらに、被検者の回答が2つ連続して正答である場合に、被検者の得点に加点をするようにしたので、課題内容を正しく理解して正答した可能性が高い被検者に得点を加点することができるため、さらに認知機能の評価精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】検査端末100の一実施の形態の構成を示すブロック図である。
【
図2】n-back課題の方法を検討するために行った解析結果を示す図である。
【
図3】検査端末100で実行される処理の流れを示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施の形態における認知機能検査システムは、認知機能検査の被検者に対して認知機能検査のための課題を出力し、課題に対する被検者からの回答の入力を受け付け、入力された回答に基づいて被検者の認知機能の評価を行うために利用される。本実施の形態では、後述するように、認知機能検査の被検者に対して認知機能検査のための課題を生成して出力する課題出力処理と、課題に対する被検者からの回答の入力を受け付ける回答入力受付処理と、入力された回答に基づいて被検者の認知機能を評価して、その評価に基づいて被検者を判別するための判別処理を認知機能検査装置として動作する検査端末上で行う構成とする。
【0009】
検査端末は、例えば、スマートフォン、タブレット端末、またはパソコンなどが用いられる。
図2は、本実施の形態における検査端末100として、スマートフォンを用いた場合の一実施の形態の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、検査端末100は、タッチパネル101と、マイク102と、制御装置103と、スピーカー104とを備えている。
【0010】
タッチパネル101は、液晶パネル等の表示装置とタッチパッドのような位置入力装置を組み合わせた電子部品であり、画面上の表示を押すことで機器を操作することができる入力装置である。例えば、検査端末100の操作者は、液晶パネル上に表示されたボタンやメニュー等の表示項目を指やタッチペンを用いてタッチまたはスライドさせることにより、検査端末100を操作することができる。タッチパネル101は、操作者によるタッチやスライドといった操作を検出して、その検出信号を制御装置103へ出力する。
【0011】
マイク102は、発話者による発話音声を入力するための集音装置である。マイク102から入力されたアナログデータは、制御装置103でデジタル信号に変換される。
【0012】
制御装置103は、CPU、メモリ、およびその他の周辺回路によって構成され、検査端末100の全体を制御する。なお、制御装置103を構成するメモリは、例えばSDRAM等の揮発性のメモリやフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリを含む。揮発性のメモリは、CPUがプログラム実行時にプログラムを展開するためのワークメモリや、データを一時的に記録するためのバッファメモリとして使用される。また、不揮発性のメモリには、検査端末100を動作させるためのファームウェアや種々のアプリケーションを動作させるためのソフトウェアのプログラムデータが記録される。本実施の形態では、以下に説明する処理を実行するためのプログラムは不揮発性のメモリに記録されている。なお、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリは、不図示のカードスロットに挿入されたメモリカードなどの外部の記憶媒体を利用するようにしてもよい。
【0013】
スピーカー104は、音声を出力するための出力装置である。
【0014】
本実施の形態における検査端末100では、認知機能検査の被検者は、スピーカー104から出力される課題に発話により回答することによって認知機能の検査を受けることができる。制御装置103は、被検者による回答結果を採点し、採点結果に基づいて被検者の認知機能を評価する。そして、制御装置103は、被検者の認知機能の評価結果に基づいて被検者を判別する。すなわち、制御装置103は認知機能評価に基づいて被検者を判別する。なお、本実施の形態における認知機能検査の受検者は、例えば、認知機能の検査を必要とする人物、例えば高齢者を想定する。また、検査端末100が利用される場所は、高齢者の認知機能検査を行う必要がある施設、例えば医療機関、金融機関、または運転免許更新センターなどが想定される。以下、本実施の形態における検査端末100で実行される処理について説明する。
【0015】
被検者は、検査端末100を操作して認知機能検査を開始する。認知機能検査の開始方法は特に限定されないが、本実施の形態では、例えば、制御装置103は、認知機能検査を実行するためのアプリケーションの実行が指示されると、タッチパネル101に「検査をはじめる」ボタンを表示した画面を表示し、被検者によって「検査をはじめる」ボタンがタッチされたことを検出すると認知機能検査を開始する。なお、検査の開始方法としては、例えば検査を行う医師や医療従事者などが検査端末100を操作して検査を開始し、被検者は音声教示を聞いて回答するようにしてもよい。
【0016】
本実施の形態では、認知機能検査のための課題は質問形式でスピーカー104から音声で出力するものとし、被検者は質問に対して発話により回答する。被検者によって発話された内容は、発話音声としてマイク102から入力される。制御装置103は、マイク102を介して入力された音声データに基づいて被検者の回答内容を特定し、採点および認知機能の評価を行う。このように、本実施の形態では、認知機能検査のための課題音声はスピーカー104から出力されるため、被検者または検査の実施担当者は、あらかじめスピーカー104から出力される音声の音量を調節することができるようにしてもよい。
【0017】
本実施の形態では、認知機能検査のために被検者に課す課題は、時間見当識、文章の記憶、およびn-backの課題で構成される。時間見当識の課題は、被検者に検査実施日、すなわち今日の日付を質問し、今日の日付を年、月、日、および曜日で答えてもらうという課題である。文章の記憶の課題は、文章を出力して被検者に記憶してもらい、被検者に同じ文章を発話してもらうという課題である。文章の記憶の課題には、記憶した文章を即時に回答してもらう即時再生と、記憶後に時間を空けて回答してもらう遅延再生がある。本実施の形態では、文章の記憶の即時再生を「文章の記憶(即時再生)」と表記し、文章の記憶の遅延再生を「文章の記憶(遅延再生)」と表記する。n-backの課題は、複数の数字を一定の時間間隔で連続して出力し、被検者に、数字が1つ出力されるごとに、最後に出力された数字からあらかじめ指定した数だけ前に出力された数字を遡って答えてもらうという課題である。
【0018】
時間見当識の課題では、制御装置103は、被検者に対して今日の日付を回答してもらうための質問を音声出力する。出力される音声は、例えば、「今日の日付を伺います。ピッと鳴ったらお答えください。今日は、西暦で何年、何月、何日、何曜日ですか?」のような内容になる。制御装置103は、被検者によって回答された今日の西暦年、月、日、および曜日の発話音声のデータがマイク102を介して入力されると、被検者による発話内容を特定して採点を行う。例えば、制御装置103は、音声データをテキストデータに変換するための公知のプログラムを利用して被検者による発話内容をテキスト化し、テキスト化した内容を正答データと照合することにより正答または誤答を判定して採点を行う。本実施の形態では、採点は、課題ごとに正答数に応じた得点を算出するものとする。例えば、時間見当識の課題では、被検者によって回答された西暦年、月、日、および曜日の4つの要素が正誤判定の対象となり、要素ごとに正答の場合は1点、誤答の場合は0点が配点されている。制御装置103は、被検者の回答内容が正答の場合には被検者の得点に1点を加算する。これにより、時間見当識の課題では、正誤判定結果に応じて0点~4点が被検者の得点として算出される。
【0019】
文章の記憶(即時再生)の課題では、制御装置103は、被検者に対して文章を出力し、出力内容を記憶して同じ文章を発話してもらうための質問を音声出力する。出力される音声は、例えば、「これからある文章を言います。よく聞いて、覚えてください。私が読み終えてピッと鳴ったらできるだけ正確に繰り返してください。」のようなアナウンスに続けて課題とする文章が出力されることになる。制御装置103は、被検者によって回答された文章の発話音声のデータがマイク102を介して入力されると、被検者による発話内容を特定して採点を行う。例えば、制御装置103は、音声データをテキストデータに変換するための公知のプログラムを利用して被検者による発話内容をテキスト化し、テキスト化した内容を正答データと照合することにより正答または誤答を判定して採点を行う。
【0020】
本実施の形態では、例えば、文章の中に採点対象となる複数の要素を含めておき、1つの要素ごとに内容を正確に答えられた場合に正答と判定する。例えば、出力される文章をある人物が買い物をした内容を表す文章とし、この文章の中に採点対象となる要素として、買い物をした人物の氏名、購入した曜日、購入した品物、購入した数を含めるようにし、購入した品物を3つとする。この場合、文章の中に含まれる、購入者の姓、購入者の名、購入日の曜日、品物1の名前、品物1の購入数、品物2の名前、品物2の購入数、品物3の名前、品物3の購入数、および最後に付される「買いました」の言葉の合計10の要素が採点対象となる。なお、ここで出力する文章は、あらかじめ不揮発性のメモリに記録されていてもよいし、制御装置103があらかじめ設定されたアルゴリズムに基づいて自動生成するようにしてもよい。
【0021】
文章の記憶(即時再生)の課題に対しては、要素ごとに被検者の回答内容が正答である場合には1点、誤答である場合には0点が配点されており、制御装置103は、被検者の回答内容が正答の場合には被検者の得点に1点を加算する。例えば、上記のように文章の中に採点対象となる要素が10個含まれている場合には、要素ごとに正誤の判定が行われ、各要素の正誤に基づいて0点から10点が被検者の得点となる。なお、本実施の形態では、課題として同一の文章を3回出力し、被検者は文章が1回出力されるごとにその文章を回答するようにし、文章の記憶(即時再生)の課題においては、文章に含まれる各要素の正誤判定結果に応じて、1回目の回答の点数、2回目の回答の点数、および3回目の回答の点数がそれぞれ0点から10点の間で算出されることになる。
【0022】
制御装置103は、文章の記憶(即時再生)の課題で出力した文章を後述する文章の記憶(遅延再生)の課題でも回答する必要があることを被検者に通知するために、「今の文章は、あとでもう一度言っていただきます。覚えておいてください。」のような案内を文章の記憶(即時再生)の課題の最後に音声出力する。
【0023】
n-backの課題については、本実施の形態では、2桁の数字を12個出力して、被検者に、数字が1つ出力されるごとに2つ前に出力された数字を答えてもらうものとする。そして、12個の数字を1セットとして、これを2セット行うものとする。本実施の形態では、制御装置103は、n-backの課題の出力に当たり、出力する2桁の数字は、1の位が0の数を除く81個の整数の中から、前後5個の出力数字と1の位と10の位が重複しないようにランダムに選択する。このように出力する数字を設定することにより、問題の難易度を概ね一定に保つことができる。また、制御装置103は、出力する12個の数字は検査実施のたびに全てランダムに選択する。これにより被検者が繰り返し検査を受ける場合に、被検者の事前学習を防いで検査結果の精度を向上させることができる。また、被検者の事前学習を防ぐためには、前回の検査で出力した内容を記録しておき、これと重複しない数字を出力する方法も考えられるが、本実施の形態のように検査実施のたびにランダムに選択するようにすれば、前回の検査内容を記録しておく必要もない。
【0024】
n-backの課題では、制御装置103は、例えば、「次は、数字の問題です。これから、2桁の数字を一定の間隔で読み上げます。私がひとつ読み終えるごとに、最後に聞いた数字の、2つ前に聞いた数字を、大きな声で繰り返してください。できるだけ間を飛ばさないようにしてください。」「それでは始めます。2つ前に聞いた数字を言っていってください。」のようなアナウンスに続けて、1セット目の数字の出力を開始する。制御装置103は、1セット目は、例えば「57 81 78 46 23 15 69 32 75 43 86 14」のような12個の数字を出力対象として設定してこれらを順番に出力していく。このとき、制御装置103は、1つの数字を出力した後に被検者による回答の時間を確保するために、1つの数字を出力してから次の数字を出力するまでの間にあらかじめ設定された時間、例えば2~3秒程度の間隔を空ければよい。
【0025】
また、2セット目のn-backの課題の開始に当たっては、制御装置103は、例えば、「では、もう少し続けます。2つ前に聞いた数字を言っていってください。」のようなアナウンスに続けて、2セット目の数字の出力を開始する。制御装置103は、2セット目は、例えば「33 52 29 46 71 68 53 25 49 31 27 16」のような12個の数字が出力される。このときも制御装置103は、1つの数字を出力した後に被検者による回答の時間を確保するために、1つの数字を出力してから次の数字を出力するまでの間に間隔を空ければよい。
【0026】
被検者は、このように順番に出力される数字に対して、一つの数字が出力されるごとに、最後に出力された数字の2つ前に出力された数字を発話により回答する。例えば、上記の1セット目の例では、3番目に「78」の数字が出力されたら、被検者はその2つ前に出力された数字、すなわち1番目に出力された「57」を口頭で回答する。その後、同様に4番目の数字が出力されたタイミングで2番目に出力された数字を回答し、5番目の数字が出力されたタイミングで3番目に出力された数字を回答するというように、被検者は数字の出力が終わるまで、出力された数字の2つ前に出力された数字を回答していく。そして、12番目の数字が出力されたときに被検者が10番目の数字を回答することより、n-backの課題の1セットが終了することになる。制御装置103は、1セット目のn-backの課題が終了した場合は、続けて1セット目と同様の方法で2セット目のn-backの課題を実施する。
【0027】
制御装置103は、被検者によって回答された数字の音声のデータがマイク102を介して入力されると、被検者による発話内容を特定して採点を行う。例えば、制御装置103は、音声データをテキストデータに変換するための公知のプログラムを利用して被検者による発話内容をテキスト化し、テキスト化した内容を正答データと照合することにより正答または誤答を判定して採点を行う。
【0028】
n-backの課題に対しては、被検者が2つ連続して正しい数字を回答できた場合には1点、2つ連続して正しい数字を回答できなかった場合には0点が配点されており、制御装置103は、この配点基準に従って被検者が2つ連続して正しい数字を回答できた場合に被検者の得点に1点を加算する。上記のように12個の数字を出力する場合には、正誤判定の対象は3番目から12番目の10要素となるが、2つ連続して正しい数字を回答できた場合に被検者の得点に1点を加算する場合、採点対象になるのは9要素となる。
【0029】
すなわち、1番目と2番目の数字を連続して正解した場合、2番目と3番目の数字を連続して正解した場合、3番目と4番目の数字を連続して正解した場合、4番目と5番目の数字を連続して正解した場合、5番目と6番目の数字を連続して正解した場合、6番目と7番目の数字を連続して正解した場合、7番目と8番目の数字を連続して正解した場合、8番目と9番目の数字を連続して正解した場合、および9番目と10番目の数字を連続して正解した場合に得点が加算されることになり、12個の数字の出力に対して0点から9点が被検者の得点として算出されることになる。なお、本実施の形態では、上述したように12個の数字を1セットとして、これを2セット行うようにしたので、n-backの課題においては0点から18点が被検者の得点として算出される。
【0030】
文章の記憶(遅延再生)の課題では、制御装置103は、被検者に対して上述した文章の記憶(即時再生)の課題で出力した文章を思い出して発話してもらうための質問を音声出力する。出力される音声は、例えば、「先ほど、ある文章を覚えていただきました。ピッと鳴ったら、もう一度言ってください。思い出せる範囲でよいので、言ってください。」のような内容になる。制御装置103は、被検者によって回答された文章の発話音声のデータがマイク102を介して入力されると、被検者による発話内容を特定して採点を行う。例えば、制御装置103は、音声データをテキストデータに変換するための公知のプログラムを利用して被検者による発話内容をテキスト化し、テキスト化した内容を正答データと照合することにより正答または誤答を判定して採点を行う。
【0031】
文章の記憶(遅延再生)の課題においても、文章の記憶(即時再生)と同様に要素ごとに被検者の回答内容が正答である場合には1点、誤答である場合には0点が配点されている。制御装置103は、文章に含まれる採点対象の要素ごとに正誤の判定を行い、被検者の回答内容が正答の場合には被検者の得点に1点を加算する。例えば、上記のように文章の記憶(即時再生)の課題で採点対象となる要素が10個含まれている文章を出力した場合には、文章の記憶(遅延再生)の課題では被検者によって回答された文章における各要素の正誤判定結果に応じて0点から10点が被検者の得点として算出される。
【0032】
制御装置103は、上記の処理によって課題ごとに算出した被検者の点数に基づいて、被検者の認知機能を評価する。そして、制御装置103は、被検者の認知機能の評価結果に基づいて被検者が健常であるか軽度認知障害(MCI)であるか認知症であるかを判別するものとする。ここで認知症の重症度は軽度の認知症、中等度の認知症、および高度の認知症に分類することができるが、本実施の形態では、軽度の認知症以上の場合は認知症と判別できるため、認知機能の評価結果に応じて被検者を健常、軽度認知障害、軽度の認知症の3段階で判別するものとする。
【0033】
制御装置103は、被検者の認知機能を評価するために、例えば次式(1)により認知機能評価用の評価値を算出する。なお、次式(1)において、s1は時間見当識の課題における得点、s2は文章の記憶(即時再生)の課題における1回目の得点、s3は文章の記憶(即時再生)の課題における2回目の得点、s4は文章の記憶(即時再生)の課題における3回目の得点、s5はn-backの課題における得点、s6は文章の記憶(遅延再生)の課題における得点である。
評価値=(-0.61×s1)+(0.08×s2)+(-0.16×s3)+(-0.16×s4)+(-0.51×s5)+(-0.05×s6)+3.72 ・・・(1)
【0034】
本実施の形態では、認知症の重症度を示すための指標として用いられている公知のCDR(Clinical Dementia Rating)を用いて被検者の認知症の評価結果を判別するものとする。CDRは公知であるため詳細な説明を省略するが、CDR0は健常、CDR0.5は認知機能低下の疑いがある軽度認知障害、CDR1は軽度の認知症、CDR2は中等度の認知症、CDR3は高度の認知症にそれぞれ相当する。
【0035】
制御装置103は、式(1)により算出された評価値が0未満の場合にCDR0と判別し、評価値が0以上かつ0.5未満の場合にCDR0.5と判別し、評価値が0.5以上の場合にCDR1以上と判別する。これによって、本実施の形態では、被検者の各課題の得点に基づいて、被検者を健常、軽度認知障害、および軽度の認知症の3段階で判別することができる。
【0036】
制御装置103は、被検者の認知機能の評価結果に基づく判別結果をタッチパネル101に出力して表示する。これによって、被検者や認知機能検査の実施担当者は、被検者に対して実施した認知機能検査の結果として、被検者の認知機能評価に基づく判別結果を画面上で確認することができる。
【0037】
なお、本実施の形態では、n-backの課題では、上述したように、2桁の数字を12個出力して、被検者に、数字が1つ出力されるごとに2つ前に出力された数字を答えてもらうようにした。本実施の形態では、このように2桁の数字を用いて2つ前に出力された数字を答えさせる方法を2桁2backと呼ぶ。ここでは、本実施の形態においてn-backの課題の方法として2桁2backを採用した理由について説明する。
【0038】
n-backの課題においては、例えば出力する数字を1桁とする場合や3桁以上にする方法なども考えられる。このように、出力する数字を何桁にするかによって課題の難易度が変化し、一般的には被検者が覚える桁数が増えるほど難易度が上がるものと考えられる。このため、あまり出力する数字の桁数を大きくしてしまうと、被検者が健常、軽度認知障害、および認知症のどの場合でも難易度が高すぎて正答するのが難しくなってしまい、認知機能検査としての精度が低下してしまうことになる。一方で出力する数字の桁数を1桁にしてしまうと難易度が低くなってしまい、軽度認知障害の被検者は正答できてしまう可能性がある。そうすると、健常と軽度認知障害とで得点の差がなくなってしまう可能性があるため、健常と軽度認知障害の判別精度が低下してしまう可能性がある。そこで、出願人は、出力する数字の桁数を変えながら実験を行った結果、数字の桁数を2にすると軽度認知障害の判別精度を向上できることを発見した。
【0039】
また、n-backの課題においては、例えば1つ前に出力された数字を答えてもらう方法や3つ以上前に出力された数字を答えてもらう方法なども考えられる。このように、いくつ前の数字を答えてもらうかによって課題の難易度が変化し、一般的には遡る数が大きくなるほど難易度が上がるものと考えられる。このため、あまり遡る数を大きくしてしまうと、被検者が健常、軽度認知障害、および認知症のどの場合でも難易度が高すぎて正答するのが難しくなってしまい、認知機能検査としての精度が低下してしまうことになる。一方で出力された数字の一つ前の数字を答えてもらう1backにしてしまうと難易度が低くなってしまい、軽度認知障害の被検者は正答できてしまう可能性がある。そうすると、健常と軽度認知障害とで得点の差がなくなってしまう可能性があるため、健常と軽度認知障害の判別精度が低下してしまう可能性がある。そこで、出願人は、被検者に遡ってもらう数を変えながら実験を行った結果、これを2にすると軽度認知障害の判別精度を向上できることを発見した。このように、出願人による実験の結果、n-backの課題においては、出力する数字の桁数を2桁にし、被検者に2つ前の数字に遡って答えてもらうと健常、軽度認知障害、および認知症の判別精度が向上することから、本実施の形態ではn-backの課題として2桁2backを採用することにした。
【0040】
また、本実施の形態では、n-backの課題の採点において、被検者が2つ連続して正しい数字を回答できた場合に被検者の得点に1点を加算するようにした。ここで、n-backの課題の採点において、被検者が1つの数字を回答できた場合や3つ以上の数字を連続して回答できた場合に被検者の得点に1点を加算する方法も考えられる。しかしながら、出願人の検討によると、3つ以上の数字を連続して回答できた場合に被検者の得点に1点を加算するようにすると、採点基準が厳しくなりすぎて被検者が健常、軽度認知障害、および認知症のどの場合でも得点するのが難しくなってしまい、認知機能検査の精度が低下してしまう可能性があることがわかった。また、被検者が1つの数字を回答できた場合に被検者の得点に1点を加算するようにすると、被検者は常に1つの数字だけを覚えておけば一定数は正答できてしまうという問題が生じることがわかった。
【0041】
例えば、上記の1セット目のように「57 81 78 46 23 15 69 32 75 43 86 14」の数字を出力対象としたときに、被検者は1番目の「57」を覚えておき、2番目の数字が出力されたとき、および3番目の数字が出力されたときに、いずれも覚えておいた「57」と答える。あるいは、被検者は2番目の数字が出力されたときには何も答えずに、3番目の数字が出力されたときに覚えておいた「57」と答える。この場合、3番目の数字が出力されたときの回答は「57」が正答となるため1点が加算される。
【0042】
その後、被検者は覚えておいた数字を回答した3番目の数字のタイミングで、そのときに出力された「78」を覚えておけば5番目の数字が出力されたときに正答することができる。その後も同様に、5番目の「23」を覚えておけば7番目の数字が出力されたときに正答することができ、7番目の「69」を覚えておけば9番目の数字が出力されたときに正答することができ、9番目の「75」を覚えておけば11番目の数字が出力されたときに正答することができる。本実施の形態における12個の数字を出力する例では、被検者がこの方法をとれば、トータル9点のうち5点を得ることが可能となる。そして、この5点は、ルール通りに2つ前の数字をきちんと回答しようとした結果のものなのか、上記のように数字を1つおきに覚えて回答した結果のものなのかを採点結果から把握することはできないことも問題となる。
【0043】
このような方法で得た5点も上述した認知機能の評価対象となってしまうため、被検者が1つの数字を回答できた場合に被検者の得点に1点を加算するようにすると、被検者が上記のように数字を1つおきに覚えて回答した場合に、本来は認知症と判別されるべき被検者が軽度認知障害と判別されたり、本来は軽度認知障害と判別されるべき被検者が健常と判別されたりするなどの不都合を生じる可能性がある。
【0044】
これに対して、本実施の形態のように被検者が2つの数字を連続して回答できた場合に被検者の得点に1点を加算するようにすれば、上記のように被検者が1つおきに数字を覚えて、1つおきに正答した場合には加点の対象とはならないため、被検者の認知機能の判別精度を向上させることができる。また、このように被検者の回答が2つ連続して正答である場合に被検者の得点に加点をするようにすれば、課題内容を正しく理解して正答した可能性が高い被検者に得点を加点することができるため、被検者の認知機能を精度高く評価することができ、評価結果に基づく被検者の判別精度の向上にもつなげることができる。
【0045】
図2は、桁数を1桁にして2つ前の数字を回答してもらう課題(1桁の2-back課題)において被検者が1つの数字を正しく回答できたときに得点を加算する場合、桁数を1桁にして2つ前の数字を回答してもらう課題(1桁の2-back課題)において被検者が2つの数字を連続して正しく回答できたときに得点を加算する場合、桁数を2桁にして2つ前の数字を回答してもらう課題(2桁の2-back課題)において被検者が1つの数字を正しく回答できたときに得点を加算する場合、および桁数を2桁にして2つ前の数字を回答してもらう課題(2桁の2-back課題)において被検者が2つの数字を連続して正しく回答できたときに得点を加算する場合のそれぞれの場合において、健常と軽度認知障害の判別精度を検証するために行った解析の結果を示す図である。
【0046】
図2においては、
図2(A)は1桁の2-back課題において、被検者が1つの数字を正しく回答できたときに得点を加算する場合を示している。
図2(B)は2桁の2-back課題において、被検者が1つの数字を正しく回答できたときに得点を加算する場合を示している。
図2(C)は、1桁の2-back課題において、被検者が2つの数字を連続して正しく回答できたときに得点を加算する場合を示している。
図2(D)は2桁の2-back課題において、被検者が2つの数字を連続して正しく回答できたときに得点を加算する場合を示している。なお、
図2に示す各図においては、縦軸は得点を示し、横軸は認知症の重症度を示すための指標として用いられるCDRである。横軸では、CDRとして、健常を示す0と、認知機能低下の疑いがある軽度認知障害を示す0.5がとられている。
【0047】
図2(A)と
図2(B)を比較すると、
図2(A)では、軽度認知障害よりも健常の方が得点が高い傾向にあるものの、軽度認知障害の中にも高得点を獲得している人物がいることがわかる。また、
図2(B)では、軽度認知障害よりも健常の方が得点が高い傾向にあり、軽度認知障害の中にも高得点を獲得している人物がいるものの、軽度認知障害の最高得点が
図2(A)よりも低下していることがわかる。このように、桁数が1桁から2桁に増えると、課題の難易度が上がるため、健常と軽度認知障害の得点差が生じやすくなり、軽度認知障害の判別精度を向上できる可能性があることがわかる。
【0048】
また、
図2(C)と
図2(D)を比較すると、
図2(C)では、軽度認知障害よりも健常の方が得点が高い傾向にあるものの、軽度認知障害の中にも高得点を獲得している人物がいることがわかる。また、
図2(D)では、軽度認知障害よりも健常の方が得点が高く、かつ軽度認知障害の得点は全体的に低い傾向にあることがわかる。この場合も、桁数が1桁から2桁に増えると、課題の難易度が上がるため、健常と軽度認知障害の得点差が生じやすくなり、軽度認知障害の判別精度を向上できる可能性があることがわかる。
【0049】
次に、
図2(A)と
図2(C)を比較すると、いずれも軽度認知障害よりも健常の方が得点が高い傾向にあり、軽度認知障害については
図2(A)よりも
図2(C)の方が全体的に得点が低下していることがわかる。また、
図2(B)と
図2(D)を比較すると、いずれも軽度認知障害よりも健常の方が得点が高い傾向にあり、軽度認知障害については
図2(B)よりも
図2(D)の方が全体的に得点が低下していることがわかる。これは、加点する基準が1つの数字を正解した場合から2つの数字を連続して正解した場合に変わることによって課題の難易度が上がるため、健常と軽度認知障害の得点差が生じやすくなり、健常と軽度認知障害の判別精度が向上していることを意味していると考えられる。
【0050】
出願人は、この
図2に示す検証結果も踏まえて、2桁の2-back課題を採用すれば、軽度認知障害と健常を区別できる可能性が高く、軽度認知障害の判別精度が向上すると判断したため、本実施の形態におけるn-back課題として、2桁の2back課題を採用することにした。
【0051】
なお、
図2に基づく上記の結論は、図中に示されているt値およびp値からも明らかである。なお、統計学におけるt値やp値は公知であるためここでは詳細な説明は省略するが、t値は次式(2)により算出され、p値は次式(3)により算出される。
【数1】
【数2】
【0052】
t値は比較するデータの差を示す値である。また、p値はt値から得られ、得られたデータの希少性に関する値である。p値は小さいほど希少であることを意味し、一般的にp値が5%または1%以下の場合に帰無仮説(知りたい事実と反対の主張)を偽として棄却して対立仮説H1を採択するものである。なお、式(2)において、M1とM2は2標本のそれぞれの平均を表し、s1とs2は2標本のそれぞれの標準偏差を表し、n1とn2は2標本のそれぞれのサンプルサイズを示している。また、式(3)において、tはサンプルサイズのt統計量を表し、tDFは自由度がDFのt分布のランダム変数を表し、μ1とμ2は2標本のそれぞれの母平均を表している。
【0053】
また、
図2に示すCohen’s dは2標本の平均値がどれだけ離れているかを表す効果量を表し、次式(4)により算出される。なお、Cohen’s dは、目安として、d=0.20で効果量小、d=0.50で効果量中、d=0.80で効果量大とする。次式(4)において、M1とM2は2標本のそれぞれの平均を表し、SD1とSD2は2標本のそれぞれの標準偏差を表している。
【数3】
【0054】
図3は、本実施の形態における検査端末100で実行される処理の流れを示すフローチャートである。
図3に示す処理は、上述したように、認知機能検査を実行するためのアプリケーションの画面上で「検査をはじめる」ボタンがタッチされると起動するプログラムとして、制御装置103によって実行される。
【0055】
ステップS10において、制御装置103は、上述した時間見当識の課題を提示するための音声をスピーカー104を介して出力する。その後、ステップS20へ進む。
【0056】
ステップS20では、制御装置103は、上述したように、マイク102を介して被検者が回答した今日の日付の音声データが入力されたか否かを判断する。ステップS20で肯定判断した場合には、ステップS30へ進む。
【0057】
ステップS30では、制御装置103は、上述したように、入力された音声データをテキストデータに変換し、その内容を正答データと照合することにより正答または誤答を判定して、正答の場合には被検者の得点に時間見当識の課題に割り当てられている得点を加算することによって採点を行う。その後、ステップS40へ進む。
【0058】
ステップS40では、制御装置103は、上述した文章の記憶(即時再生)の課題を提示するための音声をスピーカー104を介して出力する。その後、ステップS50へ進む。
【0059】
ステップS50では、制御装置103は、上述したように、マイク102を介して被検者が回答した文章の音声データが入力されたか否かを判断する。ステップS50で肯定判断した場合には、ステップS60へ進む。
【0060】
ステップS60では、制御装置103は、上述したように、入力された音声データをテキストデータに変換し、その内容を正答データと照合することにより正答または誤答を判定して、正答の場合には被検者の得点に文章の記憶(即時再生)の課題に割り当てられている得点を加算することによって採点を行う。その後、ステップS70へ進む。なお、上述したように文章を複数回、例えば3回出力する場合は、出力する回数に応じてステップS40からステップS60の処理が繰り返される。
【0061】
ステップS70では、制御装置103は、上述したn-backの課題を提示するための音声をスピーカー104を介して出力する。その後、ステップS80へ進む。
【0062】
ステップS80では、制御装置103は、上述したように、マイク102を介して被検者が回答した数字の音声データが入力されたか否かを判断する。ステップS80で肯定判断した場合には、ステップS90へ進む。
【0063】
ステップS90では、制御装置103は、上述したように、入力された音声データをテキストデータに変換し、その内容を正答データと照合することにより正答または誤答を判定して、被検者が2つ連続して正しい数字を答えられた場合には被検者の得点にn-backの課題に割り当てられている得点を加算することによって採点を行う。その後、ステップS100へ進む。
【0064】
ステップS100では、制御装置103は、n-backの課題として出力する全ての数字の出力が完了したか否かを判断する。なお、制御装置103は、上述した例では、12個の数字の出力を完了した場合に、ステップS100で肯定判断する。
【0065】
ステップS100で否定判断した場合にはステップS70へ戻り、次の数字の音声を出力してステップS80へ進む。これに対して、ステップS100で肯定判断した場合には、ステップS110へ進む。なお、上述したようにn-backの課題を2セット行う場合は、ステップS70からステップS100の処理が2回繰り返される。
【0066】
ステップS110では、制御装置103は、上述した文章の記憶(遅延再生)の課題を提示するための音声をスピーカー104を介して出力する。その後、ステップS120へ進む。
【0067】
ステップS120では、制御装置103は、上述したように、マイク102を介して被検者が回答した文章の音声データが入力されたか否かを判断する。ステップS120で肯定判断した場合には、ステップS130へ進む。
【0068】
ステップS130では、制御装置103は、上述したように、入力された音声データをテキストデータに変換し、その内容を正答データと照合することにより正答または誤答を判定して、正答の場合には被検者の得点に文章の記憶(遅延再生)の課題に割り当てられている得点を加算することによって採点を行う。その後、ステップS140へ進む。
【0069】
ステップS140では、制御装置103は、上述したように、式(1)を用いて認知機能評価用の評価値を算出し、算出した評価値をあらかじめ設定されている被検者判別用の閾値と比較することによって、被検者を健常、軽度認知障害、および軽度の認知症の3段階で判別する。その後、処理を終了する。
【0070】
以上説明した実施の形態によれば、以下のような作用効果を得ることができる。
(1)検査端末100では、制御装置103は、複数の2桁の数字を一定の時間間隔で音声により出力し、数字を1つ出力するごとに認知機能検査の被検者によって発話された回答音声の入力を受け付け、入力を受け付けた回答音声に基づく被検者の回答が、最後に出力した数字、すなわち被検者が回答した直前に出力された数字の2つ前に出力された数字と一致する場合に、被検者の回答は正答であると判定し、被検者の回答が2つ連続して正答であると判定した場合に、被検者の認知機能を判定するための得点にあらかじめ設定された点数を加点するようにした。これによって、認知機能検査において軽度認知障害の判別精度を高くすることができる。また、被検者の回答が2つ連続して正答である場合に、被検者の得点に加点をするようにしたので、課題内容を正しく理解して正答した可能性が高い被検者に得点を加点することができるため、さらに認知機能の評価精度を向上させることができる。
【0071】
(2)制御装置103は、入力を受け付けた回答音声のデータをテキストデータに変換し、変換後のテキストデータを正答データと照合することにより正答または誤答を判定するようにした。これによって、被検者は、口頭で回答するだけで認知機能検査を受けることができる。さらに、課題の出力も音声で行うようにしたので、検査官と被検者が対面で検査を行う必要もなくなる。例えば、認知機能検査装置100として動作可能な端末を被検者に貸与すればリモートでの認知機能検査も可能となる。
【0072】
(3)制御装置103は、認知機能検査のために設定されているその他の課題、すなわち時間見当識、文章の記憶(即時再生)、および文章の記憶(遅延再生)の各課題についても出題を行い、被検者の回答結果に基づく加点を行って、課題ごとに被検者の認知機能を評価するための得点を算出するようにした。そして、算出した結果の被検者の得点に基づいて被検者の認知機能を評価し、評価結果に基づいて被検者を判別するようにした。これによって、時間見当識、文章の記憶(即時再生)、n-back、および文章の記憶(遅延再生)の検査結果に基づいて精度高く被検者の認知機能を評価することができる。さらに、n-backの課題として2桁2backを採用したことにより、軽度認知障害の判別精度も向上させている。
【0073】
(4)制御装置103は、式(1)を用いて算出した評価値とあらかじめ設定されている被検者判別用の閾値とを比較することにより、被検者を認知機能の評価結果に応じて判別するようにした。これによって、評価値と被検者判別用の閾値とを比較するという簡易な処理により高速に被検者の認知機能を評価することができる。また、評価値を算出するための計算式と被検者判別用の閾値を適正に設定することにより、被検者の判別精度を向上することができる。
【0074】
(5)制御装置103は、被検者を健常、軽度認知障害、および軽度の認知症の3段階で判別するようにした。これによって、被検者の認知機能について3段階で判別して利用者に提示することができる。
【0075】
―変形例―
なお、上述した実施の形態の認知機能検査システムは、以下のように変形することもできる。
(1)上述した実施の形態では、認知機能検査システムは、認知機能検査の被検者に対して認知機能検査のための課題を生成して出力する課題出力処理と、課題に対する被検者からの回答の入力を受け付ける回答入力受付処理と、入力された回答に基づいて被検者の認知機能を評価して被検者を判別する判別処理を検査端末100上で行う構成とした。しかしながら認知機能検査システムの構成はこれに限定されない。例えば、課題出力処理と回答入力受付処理を被検者が操作する検査端末上で実行し、判別処理は検査端末と通信回線を介して接続されたサーバーやパソコンなどの判別用装置で実行するようにしてもよい。あるいは、上述した実施の形態のように被検者が直接検査端末100を操作するのではなく、被検者は自宅の電話や自身が所持する携帯電話を介して音声で課題の提示を受けるようにしてもよい。この場合、被検者による回答音声のデータは電話の通話音声として検査端末100に入力されるため、検査端末100は上述した実施の形態と同様に採点処理を行って被検者の認知機能を評価することができる。この電話を用いた構成を採用すれば、被検者は検査会場に赴かなくても電話により認知機能検査を受けることができる。
【0076】
(2)上述した実施の形態では、被検者はタッチパネル101に表示された「検査をはじめる」ボタンにタッチすることによって検査開始を指示して検査を開始する例について説明した。しかしながら、被検者に関する情報を特定した上で検査を実施する必要がある場合には、検査開始に当たり、被検者の氏名、生年月日、性別などの必要情報をタッチパネル101上で入力するようにしてもよい。この場合、制御装置103は、被検者の認知機能を評価して評価結果に応じて被検者を判別した場合には、その判別結果と被検者に関する情報とを関連付けて不揮発性のメモリに記録するようにすればよい。
【0077】
(3)上述した実施の形態では、文章の記憶(即時再生)の課題では、課題として文章を3回出力する例について説明した。しかしながら、文章を出力する回数は3回に限定されない。例えば、3回以外にした方が被検者の認知機能の評価精度や被検者の判別精度が向上する可能性がある場合には、認知機能の評価精度や被検者の判別精度を向上させることができる回数にすればよい。
【0078】
(4)上述した実施の形態では、n-backの課題の課題では、12個の数字を順番に出力するようにして、これを2セット行う例について説明した。しかしながら、出力する数字の数や、課題を提示するセット数はこれに限定されない。例えば、上述した実施の形態に示した方法以外に被検者の認知機能の評価精度や被検者の判別精度が向上する方法がある場合には、12個の数字で2セット以外の方法で課題を出力してもよい。
【0079】
(5)上述した実施の形態では、制御装置103は、被検者の判別結果をタッチパネル101に出力して表示する例について説明した。しかしながら、被検者の判別結果の出力方法はこれに限定されない。例えば、制御装置103は、被検者の判別結果を不揮発性のメモリに出力して記録してもよいし、通信回線を介して外部の装置に送信してもよい。あるいは、有線または無線により接続されたプリンターに出力して判定結果をプリントアウトしてもよい。
【0080】
なお、本発明の特徴的な機能を損なわない限り、本発明は、上述した実施の形態における構成に何ら限定されない。また、上述の実施の形態と複数の変形例を組み合わせた構成としてもよい。
【符号の説明】
【0081】
100 検査端末
101 タッチパネル
102 マイク
103 制御装置
104 スピーカー