(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022071547
(43)【公開日】2022-05-16
(54)【発明の名称】複合材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 39/20 20060101AFI20220509BHJP
C01B 39/24 20060101ALI20220509BHJP
C01B 39/14 20060101ALI20220509BHJP
A01N 25/08 20060101ALI20220509BHJP
A01N 43/40 20060101ALI20220509BHJP
A01N 33/12 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
C01B39/20
C01B39/24
C01B39/14
A01N25/08
A01N43/40 101K
A01N33/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020180575
(22)【出願日】2020-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】391066490
【氏名又は名称】日本ゼトック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】濱本 祥吾
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 みずき
(72)【発明者】
【氏名】中山 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 泰久
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 剛一
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 多加子
【テーマコード(参考)】
4G073
4H011
【Fターム(参考)】
4G073BA63
4G073BB05
4G073BB06
4G073BB07
4G073BB44
4G073BB46
4G073BB48
4G073BB58
4G073BC05
4G073BD16
4G073CZ02
4G073CZ03
4G073CZ05
4G073CZ17
4G073DZ04
4G073DZ08
4G073FA30
4G073FB30
4G073FE20
4G073FF06
4G073UA20
4G073UB33
4H011AA01
4H011AA03
4H011BB04
4H011BB09
4H011BC20
4H011DA01
(57)【要約】
【課題】新規な複合材料を提供すること、当該複合材料を利用した、良好な抗菌作用を有する抗菌剤を提供すること、および当該複合材料の製造方法を提供すること。
【解決手段】セラミックスと、該セラミックスに固定化された複素環式第4級アンモニウム化合物とを含む、複合材料およびその製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複素環式第4級アンモニウム化合物を、セラミックスに固定化させてなることを特徴とする、複合材料。
【請求項2】
前記セラミックスがゼオライトである、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記複素環式第4級アンモニウム化合物が、以下の構造式(1)で示される、請求項1または2に記載の複合材料。
(式(1)中、Z
1、Z
2、及びZ
3は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい、ハロゲン及び炭素数1~8のアルコキシ基からなる群から選択される置換基であり、nは3~20である)
【請求項4】
前記セラミックスがゼオライトであって、前記ゼオライトを構成するケイ素原子及びアルミニウム原子のモル比[ケイ素原子]:[アルミニウム原子]が100:0~1:1.5である、請求項1~3のいずれかに記載の複合材料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の複合材料の製造方法であって、以下の工程:
(1)複素環式第4級アンモニウム化合物を有機溶媒に溶解する工程、
(2)前記工程(1)で得られた溶解物にセラミックスを添加し混合する工程、及び
(3)前記工程(2)で得られた混合物を加熱し、前記複素環式第4級アンモニウム化合物を前記セラミックスに固定化して前記複合材料を得る工程、
を含む、前記製造方法。
【請求項6】
前記有機溶媒が、トルエン及びアセトンからなる群より選択される、請求項5に記載の複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記有機溶媒がトルエンである、請求項5に記載の複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記工程(3)の加熱の温度が60~100℃である、請求項5~7のいずれかに記載の複合材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれかに記載の複合材料を含む、抗菌及び/又は抗ウイルス剤。
【請求項10】
請求項9に記載の抗菌及び/又は抗ウイルス剤を、対象となる菌及び/又はウイルスの生息領域または生息の可能性がある領域に適用する、ヒトに適用することを除く、抗菌及び/又は抗ウイルス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料およびその新規製造方法に関する。より具体的には、本発明は、有機無機複合材料、これを含む抗菌及び/又は抗ウイルス剤、これらの製造方法、並びにこれらを使用した抗菌及び/又は抗ウイルス方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康に対する意識の高まりから、様々な分野で抗菌や抗ウイルスへの関心が高まっている。一般的な抗菌剤や抗ウイルス剤としては、次亜塩素酸などの酸化剤や第4級アンモニウム化合物などの有機化合物系抗菌又は抗ウイルス剤、銀イオンなどの無機系抗菌又は抗ウイルス剤などが利用されている。これらの抗菌剤や抗ウイルス剤は環境中に有効成分を放出することで抗菌・抗ウイルス作用を発揮する。その一方で、抗菌剤や抗ウイルス剤が環境中に放出されると、本来の抗菌・抗ウイルス作用が漸減してしまう。このため有効成分が環境中に流出しにくい、非溶出型抗菌又は抗ウイルス剤の開発が望まれている。
有機化合物を無機化合物に化学修飾する方法として、シランカップリング剤を用いる手法が汎用される。シランカップリング剤はY~CH2SiZ3の一般式で表され、Yは有機質に対して反応性があるビニル基、エポキシ基、およびアミノ基等であり、Zはアルコキシ基やハロゲンなどの加水分解性置換基であり、これら加水分解性置換基の脱離に伴って金属などの無機質と強い化学結合を形成すると考えられている。シランカップリング剤を活用とした非溶出型抗菌剤としては、特許文献2のように、抗菌性能を示す直鎖型第4級アンモニウム化合物のような抗菌性有機化合物を無機材料と結合した複合材料が知られている。一方で、複素環式第4級アンモニウム部分を持つアルコキシシランを無機材料に複合化させた非溶出型抗菌剤は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-209241号公報
【特許文献2】特表2011-525524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、新規な複合材料を提供することであり得る。
本発明の目的は、当該複合材料の新規製造方法を提供することであり得る。
本発明の目的は、良好な抗菌及び/又は抗ウイルス作用を有する抗菌及び/又は抗ウイルス剤を提供することであり得る。
本発明の目的は、環境中に放出されても有効成分が環境中に流出しにくい、抗菌及び/又は抗ウイルス作用が持続する抗菌及び/又は抗ウイルス剤を提供することであり得る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
鋭意検討の結果、発明者らはゼオライトなどのセラミックスに複素環式第4級アンモニウム化合物のような有機化合物を固定化させてなる複合材料、およびその新規製造方法を確立するとともに、当該複合材料が優れた抗菌及び/又は抗ウイルス作用を有することを見出した。より具体的に、本発明は以下の態様であり得る。
〔1〕
複素環式第4級アンモニウム化合物を、セラミックスに固定化させてなることを特徴とする、複合材料。
〔2〕
前記セラミックスがゼオライトである、前記〔1〕に記載の複合材料。
〔3〕
前記複素環式第4級アンモニウム化合物が、以下の構造式(1)で示される、前記〔1〕または〔2〕に記載の複合材料。
(式(1)中、Z
1、Z
2、及びZ
3は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい、ハロゲン及び炭素数1~8のアルコキシ基からなる群から選択される置換基であり、nは3~20である)
〔4〕
前記セラミックスがゼオライトであって、前記ゼオライトを構成するケイ素原子及びアルミニウム原子のモル比[ケイ素原子]:[アルミニウム原子]が100:0~1:1.5である、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の複合材料。
〔5〕
前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の複合材料の製造方法であって、以下の工程:
(1)複素環式第4級アンモニウム化合物を有機溶媒に溶解する工程、
(2)前記工程(1)で得られた溶解物にセラミックスを添加し混合する工程、及び
(3)前記工程(2)で得られた混合物を加熱し、前記複素環式第4級アンモニウム化合物を前記セラミックスに固定化して前記複合材料を得る工程、
を含む、前記製造方法。
〔6〕
前記有機溶媒が、トルエン及びアセトンからなる群より選択される、前記〔5〕に記載の複合材料の製造方法。
〔7〕
前記有機溶媒がトルエンである、前記〔5〕に記載の複合材料の製造方法。
〔8〕
前記工程(3)の加熱の温度が60~100℃である、前記〔5〕~〔7〕のいずれかに記載の複合材料の製造方法。
〔9〕
前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の複合材料を含む、抗菌及び/又は抗ウイルス剤。
〔10〕
前記〔9〕に記載の抗菌及び/又は抗ウイルス剤を、対象となる菌及び/又はウイルスの生息領域または生息の可能性がある領域に適用する、ヒトに適用することを除く、抗菌及び/又は抗ウイルス方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一態様により、新規な複合材料を提供することができる。
本発明の一態様により、当該複合材料の新規製造方法を提供することができる。
本発明の一態様により、良好な抗菌及び/又は抗ウイルス作用を有する抗菌及び/又は抗ウイルス剤を提供することができる。
本発明の一態様により、環境中に放出されても有効成分が環境中に流出しにくい、抗菌及び/又は抗ウイルス作用が持続する抗菌及び/又は抗ウイルス剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[複合材料]
本発明は、複素環式第4級アンモニウム化合物を、セラミックスに固定化させてなる複合材料であり得る。以下、複合材料の好ましい態様を詳細に説明する。なお、以下で例示する好ましい態様やより好ましい態様等は、「好ましい」や「より好ましい」等の表現にかかわらず適宜相互に組み合わせて使用することができる。また、数値範囲の記載は例示であって、各範囲の上限と下限並びに実施例の数値とを適宜組み合わせた範囲も好ましく使用することができる。さらに、「含有する」又は「含む」等の用語は、「本質的になる」や「のみからなる」と読み替えてもよい。
上記セラミックスは、無機材料であり、抗菌及び/又は抗ウイルス性の有効成分として使用され得る有機材料と固定化ないしは複合化され、複合材料、より適確には有機無機複合材料を形成する。従って、上記セラミックスは、有効成分となる有機材料の支持体として用いられ得る。好ましいセラミックスとしては、例えばガラス、チタニア、アルミナ、ジルコニア、ゼオライト、フェライト、ムライト、ベントナイト、モンモリロナイト、カオリン、シリカ等を挙げることができるが、好ましくはゼオライトである。ここで、セラミックスが有する細孔の大きさは、例えばガス吸着法で測定した場合、例えば0.25~10nm、好ましくは0.3~5nm、より好ましくは0.35~2nm、さらに好ましくは0.35~1nm、並びにこれらの上限下限の組み合わせの範囲である。また、セラミックスの平均粒子径は、例えばd50%メジアン径、レーザー回折・散乱法を用いて測定した場合、例えば0.01~100μm、好ましくは0.1~50μm、より好ましくは0.5~20μm、さらに好ましくは1~10μm、並びにこれらの上限下限の組み合わせの範囲である。
ゼオライトとしては、FAU型ゼオライト(例えば、細孔径:約0.74nmのもの)、X型ゼオライト(例えば、細孔径:約0.74nmのもの)、Y型ゼオライト(例えば、細孔径:約0.74nmのもの)、LTA型ゼオライト(例えば、細孔径:約0.42nmのもの)、およびCHA型ゼオライト(例えば、細孔径:約0.38nmのもの)等を挙げることができる。
【0008】
前記ゼオライトを構成するケイ素原子及びアルミニウム原子のモル比[ケイ素原子Si]:[アルミニウム原子Al]は、例えば、100:0~1:1.5、好ましくは10000:1~1:1.3、より好ましくは1000:1~1:1、さらに好ましくは500:1~10:1であることが適当である。
複素環式第4級アンモニウム化合物とは、少なくとも1つの炭素原子及び少なくとも1つの第4級の窒素原子を含む複素環式化合物を言う。ここで複素環式第4級アンモニウム化合物は、置換基を有していてもいなくてもよい、飽和又は不飽和の芳香族環式化合物であってもよく、若しくは、置換基を有していてもいなくてもよい、飽和又は不飽和の脂環式化合物であってもよい。ここで、環は、例えば3~10員環、好ましくは5~8員環、より好ましくは5~6員環であることが適当である。また、当該環は単環でも、インドールやカルバゾールのような、別の炭素環や複素環と融合した融合環であってもよい。複素環を構成する第4級の窒素原子は、複素環中に少なくとも1つ存在し、好ましくは1~4、より好ましくは1~3存在し、窒素以外の、例えば酸素や硫黄などの他のヘテロ原子を含んでいてもよい。具体的な複素環としては、例えば、ピロリジン環、ピロール環、イミダゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、ピリジン環、ピペラジン環、ピラジン環、ピリミジン環、インドール環、キノリン環、及びカルバゾール環等を挙げることができる。
【0009】
複素環式第4級アンモニウム化合物は、複素環式第4級アンモニウムを含む化合物であれば、低分子量化合物(分子量1万未満)の他、分子量が1万以上の高分子であってもよいが、例えば、一般式P-Q-Yで表される化合物であり得る。該一般式中Pは以下の式[1]で表される基(式[1]中、R1~R3のうちの隣接する少なくとも2つの基(R1~R3)は互いに結合して第4級アンモニウム基と共に上述の複素環を形成し、R4はQとの結合(単結合)である)、例えば置換基を有してもよいピリジニウム基、イミダゾリウム基、チアゾリウム基、オキサゾリウム基等の含窒素官能基を表す。Qは炭素数3~20、好ましくは8~18、より好ましくは11~16の直鎖又は分岐鎖の、飽和又は不飽和の二価のアルキル基を表す。一般式中Yはセラミックスと結合を形成し得る官能基、例えばトリクロロシラン基、トリアルコキシシラン基(ここで、アルコキシ基は、例えば炭素数1~5、好ましくは炭素数1~2のアルコキシ基である)、またはホスホン酸基を表す。一般式P-Q-Yで表される化合物のうち、P-Q-の部分が親水性基として作用することが好ましい。
さらに、一般式中Pは、例えば以下の式[2]~[4]のいずれかで表わされる基であってもよい。
【0010】
【0011】
式[2]~[4]中、R5、R7、及びR8は、Qとの結合(単結合)であることが好ましい。R6は、例えばメチル基、エチル基、エチレン基及びプロピレン基等の飽和又は不飽和の、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~6の炭化水素基、アミノ(-NH2)基やメチルアミノ基(-CH2NH2)等の一部が前記炭化水素基で置換されていてもよいアミノ基を含む塩基性基、または一部が前記炭化水素基で置換されていてもよいカルボキシ基やスルホン酸基などを含む酸性基であることが好ましい。また、R9は、例えば水素原子、メチル基、エチル基、エチレン基及びプロピレン基等の飽和又は不飽和の、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~6の炭化水素基、アミノ(-NH2)基やメチルアミノ基(-CH2NH2)等の一部が前記炭化水素基で置換されていてもよいアミノ基を含む塩基性基、または一部が前記炭化水素基で置換されていてもよいカルボキシ基やスルホン酸基などを含む酸性基であり得る。また、式[2]中、mは、例えば0~5の範囲内の整数、好ましくは0~1の範囲内の整数であり得る。
【0012】
好ましい複素環式第4級アンモニウム化合物の一つであるトリアルコキシシラン基を持つ複素環式第4級アンモニウム化合物としては、非アルコキシシラン部分の末端が親水性の複素環式第4級アンモニウム化合物であることが好ましく、例えば、非アルコキシシラン部分の末端がピリジニウム基、イミダゾリニウム基等を含む化合物等を挙げることができる。より好ましい複素環式第4級アンモニウム化合物は、以下の式(1)で示される化合物であってもよい。
【0013】
【0014】
式(1)中、Z1、Z2、及びZ3は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい、ハロゲン及び炭素数1~8のアルコキシ基からなる群から選択される置換基、好ましくは炭素数2~4のアルコキシ基からなる群から選択される置換基である。複素環式第4級アンモニウム化合物とセラミックスとの反応性及び当該反応から生成する加水分解生成物(ハロゲン化水素、メタノール、エタノール等)の安全性の面から見て、より好ましくはZ1、Z2、及びZ3は、メトキシ基又はエトキシ基から選択される置換基である。nは3~20、好ましくは8~18、より好ましくは11~16である。さらに好ましい複素環式第4級アンモニウム化合物は、以下の式(2)で示される化合物であってもよい。
【0015】
【0016】
式(2)中、Z1、Z2、及びZ3は、上記式(1)で記載したとおりであり、nは3~20、好ましくは8~18、より好ましくは11~16であり、Xはアニオンであり、例えば、ハロゲン、硫酸(SO4H)、硝酸(NO3)、カルボン酸類、リン酸類であり、好ましくはハロゲンである。ここでカルボン酸類とは、カルボン酸から水素がとれた一価のマイナスイオンを意味し、例えば、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、フマル酸イオン、マレイン酸イオン等が挙げられる。リン酸類とは、リンのオキソ酸から水素がとれた一価~三価のマイナスイオンを意味し、例えば、リン酸二水素イオン、リン酸水素イオン、リン酸イオン、ピロリン酸のイオン(P2O7H3)、メタリン酸のイオン(PO3)等の無機リン酸イオン、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート等の有機リン酸イオン等を挙げることができる。なお、Xが二価又は三価のマイナスイオンである場合、式(2)中の「X-」の表記は「X2-」又は「X3-」と読み替えることとし、かつ、残りの複素環式第4級アンモニウム化合物部分が2つ又は3つ組み合わされた形を取る。式(2)で示される化合物として特に好ましくは、Z1、Z2、及びZ3はいずれもメトキシ基又はエトキシ基であり、nは8~14であり、Xはハロゲンである。式(2)で示される化合物として殊更好ましくは、Z1、Z2、及びZ3はいずれもエトキシ基であり、nは10~12であり、Xは塩素又は臭素である。
複素環式第4級アンモニウム化合物として、特に好ましくは、1-[11-(トリエトキシシリル)ウンデシル]ピリジン-1-イウム クロライド(UPC試薬、式(3)、1-[11-(triethoxysilyl)undecyl]pyridine-1-ium chloride)、1-[16-(トリエトキシシリル)セチル]ピリジン-1-イウム クロライド(1-[16-(triethoxysilyl)cetyl]pyridine-1-ium chloride)を挙げることができる。
【0017】
【0018】
上記複素環式第4級アンモニウム化合物は、上記セラミックスに固定化される。理論に縛られることはないが、ここでいう固定化は、有機材料としての複素環式第4級アンモニウム化合物が無機材料としてのセラミックス表面上または細孔内に化学的または物理的に固定化されていること、より具体的には、ゼオライトのようなセラミックスの表面または細孔内に、複素環式第4級アンモニウム化合物が化学的または物理的に固定化されている状態と考えられる。ここで言う化学的な固定化は、共有結合等を指す。ここで言う物理的な固定化は、通常知られている物理吸着が含まれるが、例えば、ファンデルワールス力による吸着が含まれる。
さらに、上記式(1)~(3)のような複素環式第4級アンモニウム化合物を使用する場合に考え得る固定化の状態として、複素環式第4級アンモニウム化合物が(a)セラミックスに結合する場合、(b)隣接する複素環式第4級アンモニウム化合物に結合する場合、(c)複素環式第4級アンモニウム化合物のSiに結合する-OH基が一部残存する場合、の3つの結合/非結合様式の組み合わせを挙げることができる。より具体的な仮想事例として、複素環式第4級アンモニウム化合物がセラミックス表面上に、例えば、以下の(I)~(III)のように化学的に固定化されている状態を図示できる。
【0019】
【0020】
上記式(I)は、複素環式第4級アンモニウム化合物のSiに結合する全てのアルコキシ基が、すべてセラミックス表面上の酸素原子等と結合又は縮合して結合・固定化されている状態である。式(II)及び(III)は、複素環式第4級アンモニウム化合物のSiに結合する一部がヒドロキシ基として残存する場合である。式(II)及び(III)中の当該ヒドロキシ基は互いに縮合反応を起こし、Si-O-Siという結合も形成し得ると考えられる。上記固定化状態はあくまでも例示であり、当該状態に限られるものではない。
【0021】
上記複合材料は、このように、無機材料としてのセラミックスと、該セラミックスに固定化された有機材料としての複素環式第4級アンモニウム化合物とを含む、有機無機複合材料であると言える。ここでセラミックスの含有量の上限値は、該複合材料の全質量に対し、例えば99.9質量%以下、好ましくは99.5質量%以下、より好ましくは99.0質量%以下、さらに好ましくは98.5質量%以下、特に好ましくは98.2質量%以下、殊更好ましくは98.0質量%以下であることが適当である。一方、このセラミックスの含有量の下限値は特に規定する必要はないが、安定した固定化のためにも、例えば70質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは94.0質量%以上、さらに好ましくは95.0質量%以上、特に好ましくは96.0質量%以上であることが適当である。好ましいセラミックスの含有量の範囲は、これらセラミックスの含有量の上限値および下限値からなるいずれの範囲を選択してもよい。上記セラミックスの含有量の上限値以下の量であれば、セラミックスと複素環式第4級アンモニウム化合物との結合(固定化)が十分に行われる。上記セラミックスの含有量の下限値以上の量であれば、複素環式第4級アンモニウム化合物が結合するセラミックス表面上の化学結合サイトが飽和することもないので好ましい。
【0022】
また複素環式第4級アンモニウム化合物の含有量の下限値は、複素環式第4級アンモニウム化合物の結合量の制御を容易にするためにも、該複合材料の全質量に対し、例えば0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上、特に好ましくは1.8質量%以上、殊更好ましくは2.0質量%以上であることが適当である。一方、この複素環式第4級アンモニウム化合物の含有量の上限値は特に規定する必要はないが、安定した固定化のためにも、例えば30質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは6.0質量%以下、さらに好ましくは5.0質量%以下、特に好ましくは4.0質量%以下であることが適当である。好ましい複素環式第4級アンモニウム化合物の含有量の範囲は、これら複素環式第4級アンモニウム化合物の含有量の下限値および上限値からなるいずれの範囲を選択してもよい。なお、ここで言う「複素環式第4級アンモニウム化合物の含有量」は、上記式(I)~(III)のように、複合材料中に複素環式第4級アンモニウム化合物が化学結合して固定化されている場合は、複素環式第4級アンモニウム化合物に換算した場合の含有量を意味し得る。
【0023】
上記複合材料は、上記有機材料および無機材料の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、かつ、上記セラミックスに固定化できる限り、他の材料を含むことができる。例えば、上記複素環式第4級アンモニウム化合物以外のシラン化合物、メチルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物等を挙げることができる。このような他の材料を含める場合は、その含有量が、上記複合材料全量に対し、例えば0.01~20質量%、好ましくは、0.1~10質量%、より好ましくは1~5質量%であることが適当である。
【0024】
[複合材料の製造方法]
本発明は、上記複合材料の新規製造方法であり得る。具体的には、以下の3つの工程:
(1)複素環式第4級アンモニウム化合物を有機溶媒に溶解する工程、
(2)上記工程(1)で得られた溶解物にセラミックスを添加し混合する工程、及び
(3)上記工程(2)で得られた混合物を加熱し、該複素環式第4級アンモニウム化合物を該セラミックスに固定化して前記複合材料を得る工程、
を含む、上記複合材料の製造方法であり得る。以下、各工程について詳説する。
【0025】
(1)複素環式第4級アンモニウム化合物を有機溶媒に溶解する工程
まず、複素環式第4級アンモニウム化合物を有機溶媒に溶解する。複素環式第4級アンモニウム化合物の詳細は上述したとおりである。有機溶媒は、複素環式第4級アンモニウム化合物を溶解できるものであればいかなる有機溶媒でもよいが、例えば、トルエン、キシレン、アセトン、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ベンゼン、クロロホルム、ジエチルエーテル、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノール、酢酸等を挙げることができるが、好ましくはトルエン、アセトン、および2-プロパノールであり、より好ましくはトルエンおよびアセトンである。有機溶媒は、複素環式第4級アンモニウム化合物を溶解できる量で使用すればよいが、例えば、複素環式第4級アンモニウム化合物100mgに対し、溶媒を例えば1~500g、好ましくは10~300g、より好ましくは20~100g、さらに好ましくは30~50g使用することが適当である。
【0026】
(2)上記工程(1)で得られた溶解物にセラミックスを添加し混合する工程
ここで添加されるセラミックスの詳細は上述したとおりである。セラミックスの添加量は、複素環式第4級アンモニウム化合物を十分に固定化できる量であればよいが、例えば、[セラミックス]:[複素環式第4級アンモニウム化合物]の質量比で、例えば200:1~1:1、好ましくは100:1~5:1、より好ましくは50:1~10:1、特に好ましくは25:1~15:1である。この質量比は、最終的に得られる複合材料中の質量比であってもよい。
【0027】
(3)上記工程(2)で得られた混合物を加熱し、該複素環式第4級アンモニウム化合物を該セラミックスに固定化する工程
ここで加熱は、セラミックスと複素環式第4級アンモニウム化合物との固定化が行われる温度であればよいが、加熱温度の下限として、例えば30℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは60℃以上であり、加熱温度の上限として、例えば130℃以下、好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは80℃以下であることが適当である。加熱温度は、これらの加熱温度の上限下限を組み合わせた温度範囲であってもよく、例えば、40~120℃が好ましく、より好ましくは60~100℃である。
加熱時間は、例えば1~120時間、好ましくは5~60時間、より好ましくは10~30時間、特に好ましくは20時間±5時間であることが適当である。
この工程(3)で進行する固定化反応の考え得る一態様は、セラミックスと複素環式第4級アンモニウム化合物の縮合反応(加水分解反応)又はシランカップリング反応である。なお、反応により加水分解生成物(ハロゲン化水素、メタノール、エタノール等)が副生成する。具体的な反応スキームの一例は、以下の通りである(スキーム1)。
【0028】
【0029】
本発明の複合材料の新規製造方法は、さらに以下の任意工程を含むことができる。
(4)上記工程(3)で得られた加熱混合物を冷却し、ろ過し、有機溶媒で洗浄し、乾燥する工程、
(5)上記工程(4)で得られた乾燥物をさらに水洗し、再乾燥する工程。
以下、各任意工程について説明する。
(4)上記工程(3)で得られた加熱混合物を冷却し、ろ過し、有機溶媒で洗浄し、乾燥する工程
工程(3)で得られた加熱混合物は、室温(JIS Z8703:1983でいう常温20℃±15℃と同義)まで冷却され、例えば吸引ろ過機を用いてろ過し、濾物をアセトン、トルエン、エタノール等の有機溶媒で洗浄する。有機溶媒の種類は、上述の工程(1)で列挙した有機溶媒を使用し得る。このようにして洗浄して得られた濾物を例えば50~200℃、好ましくは80~150℃、より好ましくは100℃±10℃で、乾燥するのに十分な時間、例えば1~48時間、好ましくは6~24時間、より好ましくは12時間±2時間乾燥する。
(5)上記工程(4)で得られた乾燥物をさらに水洗し、再乾燥する工程
工程(4)で得られた乾燥物は、さらに水で洗浄し、さらに再乾燥される。再乾燥の温度および時間は、上記工程(4)と同様であってもよい。
【0030】
[複合材料の用途]
本発明の複合材料は、主に抗菌剤及び/又は抗ウイルス剤の用途に使用し得る。特に、本発明の複合材料により、抗菌及び/又は抗ウイルス効果が長期間持続する持続性抗菌及び/又は抗ウイルス剤として使用し得る。また、本発明の複合材料により、高い再利用性を持つ抗菌及び/又は抗ウイルス剤として使用し得る。ここで、「抗菌及び/又は抗ウイルス」とは、病原体の増殖(繁殖)を抑制することを意味し、「抑制」とは病原体を殺菌、殺ウイルス、抗菌、及び抗ウイルス(増殖抑制)することを意味する。「菌」としては、真菌、細菌等の広義の菌を含むが、例えば、大腸菌、サルモネラ、レジオネラ、およびヘリコバクター等のグラム陰性菌、ブドウ球菌、肺炎球菌、ジフテリア菌、ボツリヌス菌等のグラム陽性菌、カビ、カンジダ等の真菌等を挙げることができる。ウイルスとしては、単純ヘルペスウイルスやインフルエンザウイルス等、エンベロープを持つウイルス等を挙げることができる。ここで「持続性」とは、複合材料を同一領域に作用させた際、その領域において長期にわたって抗菌及び/又は抗ウイルス作用を発揮することを意味する。また、「再利用性」とは、複合材料を抗菌及び/又は抗ウイルス剤等として使用した後に回収し、再び使用した際にも抗菌及び/又は抗ウイルス作用を発揮することを意味する。
【0031】
[抗菌及び/又は抗ウイルス剤]
本発明は、上記複合材料を含む抗菌及び/又は抗ウイルス剤にも関する。抗菌及び/又は抗ウイルス剤は、菌及び/又はウイルスを抑制するために必要な量で上記複合材料を含むが、例えば、抗菌及び/又は抗ウイルス剤の全質量に対し、複合材料の下限値が、例えば50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上であることが適当であり、複合材料の上限値は、特に規定する必要はないものの、例えば90質量%以下、好ましくは95質量%以下、より好ましくは98質量%以下、特に好ましくは100質量%以下である。抗菌及び/又は抗ウイルス剤に含まれる複合材料の量の範囲は、これらの上限下限の組み合わせであってもよい。
特に、抗菌及び/又は抗ウイルス剤に含まれる複合材料の量は、有効成分である複素環式第4級アンモニウム化合物が菌及び/又はウイルスを抑制するために必要な量であるべきである。抗菌及び/又は抗ウイルス剤に含まれる複素環式第4級アンモニウム化合物の量は上述したとおりであるが、例えば0.05質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.25質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは1.0質量%以上、殊更好ましくは1.5質量%以上となる量であることが適当である。一方、抗菌及び/又は抗ウイルス剤に含まれる複素環式第4級アンモニウム化合物の上限値は特に規定する必要はないが、例えば30質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8.0質量%以下、さらに好ましくは7.0質量%以下、特に好ましくは6.0質量%以下であることが適当である。
【0032】
当該抗菌及び/又は抗ウイルス剤には、他の抗菌及び/又は抗ウイルス成分を加えてもよい。本発明で使用され得る他の抗菌及び/又は抗ウイルス成分は、例えば、カチオン性抗菌及び/又は抗ウイルス剤、アニオン性抗菌及び/又は抗ウイルス剤、ノニオン性抗菌及び/又は抗ウイルス剤、両性抗菌及び/又は抗ウイルス剤、金属イオン系抗菌及び/又は抗ウイルス剤等を使用することができる。カチオン性抗菌及び/又は抗ウイルス剤としては、例えばベンザルコニウム塩、セチルピリジニウム塩、ジセチルジメチルアンモニウム塩等を挙げることができる。アニオン性抗菌及び/又は抗ウイルス剤としては、例えば、安息香酸塩、ラウロイルサルコシン塩、ラウリル硫酸塩等を挙げることができる。ノニオン性抗菌及び/又は抗ウイルス剤としては、例えば、フェノール系抗菌及び/又は抗ウイルス剤であるイソプロピルメチルフェノール、トリクロサン、ヒノキチオール、フェノール、チモール、オイゲノール、ビスフェノール等を挙げることができる。両性抗菌及び/又は抗ウイルス剤としては、例えばドデシルジアミノエチルグリシン等を挙げることができる。金属イオン系抗菌及び/又は抗ウイルス剤としては、例えば銀イオン、銅イオン、亜鉛イオン等を挙げることができる。これらの他の抗菌及び/又は抗ウイルス成分は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
当該他の抗菌及び/又は抗ウイルス成分の含有量は、本発明の抗菌及び/又は抗ウイルス剤全体の質量に対して、例えば0.005~5質量%、好ましくは0.008~2質量%、より好ましくは0.01~1質量%であることが適当である。
また、上記複素環式第4級アンモニウム化合物と当該他の抗菌及び/又は抗ウイルス成分との質量比は、例えば100:1~1:100、好ましくは50:1~1:50、より好ましくは10:1~1:20であることが適当である。
【0033】
上記抗菌及び/又は抗ウイルス剤は、抗菌及び/又は抗ウイルス性能の向上及び使用性の向上を目的に、本発明の効果を損なわない範囲で、分散媒や増粘剤等の他の添加剤を適宜配合することができる。例えば複合材料の分散媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン、ベンゼン、トルエン等の無極性溶媒、または水を、単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。また、当該分散媒として、上述した複素環式第4級アンモニウム化合物を溶解できる各種有機溶媒を使用してもよい。分散媒の配合量は上記抗菌及び/又は抗ウイルス剤全体に対して一般的に50~95質量%である。また、増粘剤としては、例えば、カラギーナン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース誘導体、アルギン酸ナトリウムなどのアルカリ金属アルギネート、キサンタンガム、トラガカントガム、アラビアガムなどのガム類、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウムなどの合成増粘剤、シリカゲル、アルミニウムシリカゲル、ビーガムなどの無機増粘剤などが挙げられる。増粘剤の配合量は上記抗菌及び/又は抗ウイルス剤全量に対して一般的に0.5~10質量%である。
【0034】
[抗菌及び/又は抗ウイルス方法]
本発明は、抗菌及び/又は抗ウイルス剤を、対象となる菌及び/又はウイルスの生息領域または生息の可能性がある領域に適用することにより、当該領域の菌及び/又はウイルスを抑制する方法にも関する。具体的には、上記抗菌及び/又は抗ウイルス剤を目的の場所や領域に混合、散布、塗布、スプレー等することにより、菌やウイルスを抑制、減少、除去することができる。なお、これらの場所や領域には、ヒトを含む動物の皮膚組織等、金属、プラスチック、木材、ガラス等の表面が挙げられる。なお、ヒト及び/又は非ヒト動物は、抗菌及び/又は抗ウイルス方法の対象から除かれていてもよい。適用される抗菌及び/又は抗ウイルス剤の量は、例えば、当該表面1cm2あたり、0.01~2g、好ましくは0.05~1.5g、より好ましくは0.1~1gであることが適当である。
以下、本発明の複合材料等の具体的な実施例について説明するが、当該実施例は本発明の範囲を限定する意図ではないことを確認的に明記しておく。なお、以下の実施例において、特に断りがない限り、配合量の単位は質量%である。
【実施例0035】
[試薬]
ここで使用した試薬の詳細は以下の通りである。
・UPC試薬:1-[11-(トリエトキシシリル)ウンデシル]ピリジン-1-イウム クロライド(1-[11-(triethoxysilyl)undecyl]pyridine-1-ium chloride、以下式(3))
【0036】
【0037】
・FAU型ゼオライト(Si/Al=250、水素イオン担持型、細孔径0.74nm、平均粒子径6μm)
・Y型ゼオライト(Si/Al=2.7、ナトリウムイオン担持型、細孔径0.74nm、平均粒子径7μm)
・LTA型ゼオライト(Si/Al=1、ナトリウムイオン担持型、細孔径0.42nm、平均粒子径3μm)
・CHA型ゼオライト(Si/Al=15、ナトリウムイオン担持型、細孔径0.38nm、平均粒子径1μm)
(なお、上記ゼオライトの細孔径はガス吸着法で測定し、平均粒子径はd50%メジアン径、レーザー回折・散乱法を用いて測定した値である。)
【0038】
[実験1]複合材料の合成(溶媒と温度の関係)
以下の要領で複合材料を合成した。
1.トルエン、アセトン、及び2-プロパノールのいずれかの有機溶媒117gにUPC試薬0.35gを溶解した。
2.上記工程1で得られた溶解物にFAU型ゼオライト7gを添加し、40℃、60℃、80℃、又は100℃のいずれかの温度で20時間加熱した。
3.上記工程2で加熱した混合物を室温(25℃)まで冷却し、吸引ろ過機を使用してろ過し、得られた濾物をアセトン350mLで洗浄し、100℃で一晩(12時間)乾燥した。乾燥物の一部を取出し、サンプルAとした。
4.工程3で乾燥した乾燥物(サンプルAを除く)をさらに水350mLで洗浄し、100℃で一晩(12時間)乾燥した。乾燥物の一部を取出し、サンプルBとした。
得られたサンプルBにつき、以下の合成、TGおよび総合評価の3つの視点から評価を行い、結果を表1にまとめた。それぞれの評価方法および基準は以下の通りである。
【0039】
[固定化]
サンプルBの固定化評価は溶媒に対するUPC試薬の溶解可否、及び固定化生成物の色調に基づいて行った。
◎(非常に良い):工程1~4の固定化生成物が、白色粉末であった
○(良い):工程1~4の固定化生成物が、白色に近い粉末であった
×(悪い):工程1~4の固定化生成物が褐色~黒色粉末であった、又は溶媒にUPC試薬が溶解しなかった
[TG]
サンプルBの熱重量測定(TG)試験を行った。試験は、リガク社製Thermo Plus Evoを用いて、空気雰囲気で粉末を室温(25℃)から1000℃まで加熱し、200℃から700℃におけるサンプル質量の減少率を測定した。
◎(非常に良い):ゼオライトに対するUPC試薬の固定化が進行した
○(良い):ゼオライトに対するUPC試薬の固定化が進行したが、一部にゼオライトに対するUPC試薬以外の物質の固定化がみられた
×(悪い):ゼオライトに対するUPC試薬の固定化が進行しなかった
[総合評価]
サンプルBの総合評価を固定化後の評価およびTGの結果に基づいて行った。
◎(非常に良い):[固定化]及び[TG]の評価結果がいずれも◎(非常に良い)
○(良い):[固定化]及び[TG]の評価結果のいずれかが◎(非常に良い)以外の評価結果
×(悪い):[固定化]及び[TG]の評価結果がいずれも×(悪い)
【0040】
【0041】
表1において、2-プロパノールを有機溶媒として用いた各試験では、TGの試験から、2-プロパノールと思われる物質がゼオライトに固定化されている可能性が示唆されたが、UPC試薬の固定化も十分に確認された。2-プロパノールを有機溶媒として用いた各試験では、2-プロパノールの固定化とUPC試薬の固定化は競争的関係にあると考えられる。
【0042】
[実験2]複合材料の合成(固定化の程度)
ゼオライトの種類、溶媒の種類、および工程1の温度を表2の通りにそれぞれ変更した以外は上記[実験1]を繰り返して複合材料を得た。得られたサンプルAおよびBについて、実験1と同じ熱重量測定(TG)試験を行い、各サンプル全体の質量に対して固定化された複素環式第4級アンモニウム化合物(UPC試薬)の量(UPC試薬に換算した量、ゼオライト100g当たりの質量g)を測定した。結果を以下の表2に示す。
【0043】
【0044】
表2においてサンプルAとサンプルBの複素環式第4級アンモニウム化合物(UPC試薬)の質量割合を対比すると、多少の誤差はあるものの、水洗の前(サンプルA)と水洗の後(サンプルB)とで質量割合に差が少ないことから、UPC試薬の脱離が起こっていないか、ごく僅かであること、つまり、UPC試薬がゼオライトに結合し、固定化されていることが確認できる。また、サンプルBの複素環式第4級アンモニウム化合物(UPC試薬)の絶対量(質量%)を見ると、ゼオライト、溶媒および温度等の各条件を変更しても、UPC試薬の結合の程度およびUPC試薬の固定化量に大きな違いがないことが確認できる。
【0045】
[実験3]殺菌試験(単回曝露)
大腸菌(E.coli NBRC3972)に対する殺菌試験(単回曝露)を以下の通り行い、残存生菌数を測定した。
1. ゼオライトの種類、溶媒の種類、および工程1の温度を表3の通りにそれぞれ変更した以外は、上記[実験1]を繰り返して複合材料(サンプルB)を得た。
2.SCD培地(富士フィルム和光純薬社製)にて前培養した大腸菌(E.coli NBRC3972)を生理食塩水にて試験開始時の菌液濃度が5×105~5×106CFU/mLとなるように希釈し、大腸菌液を得た。
3.工程1で得られた複合材料(サンプルB)0.6gに対し、工程2で得た大腸菌液20mLを添加し、試験溶液とした。
4.工程3で得られた試験溶液を、電動シェーカー(タイテック製、パーソナル11)を用いて60分間連続的に撹拌した。
5.工程4で撹拌した試験溶液を1mL採取し、LP希釈液(富士フィルム和光純薬社製)9mLに添加し、さらにLP希釈液で10倍ずつ段階希釈することで、試験溶液から101倍~105倍に希釈された生菌数試験液をそれぞれ作製した。
6.上記101倍から105倍に希釈された生菌数試験液それぞれ1mLを用いて、トリプチケースソイ寒天培地(ベクトン・ディッキンソン社製)に混合して乾固させ、32.5℃の恒温槽で培養した後、生育したコロニーを計数し、計測に用いたシャーレの希釈率(上記101倍~105倍)をかけることで試験溶液1mL中の残存生菌数(CFU/mL)を測定した。
7.ブランク(3-1)は複合材料等を一切添加せず、上記工程2で得た大腸菌液20mLそのものを試験溶液として、上記実験3の工程4~6を同様に実施した試験群である。
【0046】
【0047】
上記表3の結果から理解できるように、ブランクに比べ、各種ゼオライトを使用した場合に残存する生菌数が低く抑えられていた。特にFAU型ゼオライトと溶媒としてトルエンを用いた場合、各温度で優れた殺菌作用が示された。
【0048】
[実験4]非複素環式第4級アンモニウム固定化複合材料の合成
参考例として、非複素環式第4級アンモニウム化合物であるオクタデシル ジメチル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウム クロライド(Octadecyl dimethyl[3-(trimethoxysilyl)propyl]ammonium chrolide、以下式)の72%メタノール溶液(gelest社製)(以下ODACl試薬と表記)を用いて、以下の要領で非複素環式第4級アンモニウム化合物を固定化した複合材料を合成した。
(ODACl試薬)
【0049】
1.トルエン79.7gにODACl試薬0.33g(第4級アンモニウム化合物として0.2376g)を溶解した。
2.上記工程1で得られた溶解物にFAU型ゼオライト5gを添加し、80℃で20時間加熱した。
3.上記工程2で加熱した混合物を室温(25℃)まで冷却し、吸引ろ過機を使用してろ過し、得られた粉体をアセトン350mLで洗浄し、100℃で一晩(12時間)乾燥した。乾燥物の一部を取出し、サンプルAとした。
4.工程3で乾燥した乾燥物(サンプルAを除く)をさらに水350mLで洗浄し、100℃で一晩(12時間)乾燥した。乾燥物の一部を取出し、サンプルBとした。
【0050】
[実験5]殺菌試験(繰り返し曝露)
大腸菌(E.coli NBRC3972)に対する殺菌試験(繰り返し曝露)を以下の通り行い、残存生菌数を測定した。
1.ゼオライトの種類、溶媒の種類、および工程1の温度を表4の通りにそれぞれ変更した以外は、上記[実験1]を繰り返して複合材料(サンプルB)を得た。
2.工程1で得られた複合材料(サンプルB)0.6gに対し、実験3の工程2で得たものと同じ大腸菌液20mL添加し、試験液1とした。
3.試験液1を、電動シェーカー(タイテック製、パーソナル11)を用いて60分間連続的に撹拌した。
4.工程3で撹拌した試験液1を1mL採取し、LP希釈液(富士フィルム和光純薬社製)9mLに添加することで生菌液1を作製した。
5.残りの試験液1を遠心分離し、液相を除去することで、処理後粉末1を得た。
6.処理後粉末1に上記工程2で使用したものと同じ大腸菌液を20mL添加し、試験液2とした。
7.試験液2を、電動シェーカー(タイテック製、パーソナル11)を用いて60分間連続的に撹拌した。
8.工程7で撹拌した試験液2を1mL採取し、LP希釈液(富士フィルム和光純薬社製)9mLに添加することで生菌液2を作製した。
9.残りの試験液2を遠心分離し、液相を除去することで。処理後粉末2を得た。
10.処理後粉末2に上記工程2で使用したものと同じ大腸菌液を20mL添加し、試験液3とした。
11.試験液3を、電動シェーカー(タイテック製、パーソナル11)を用いて60分間連続的に撹拌した。
12.工程11で撹拌した試験液3を1mL採取し、LP希釈液(富士フィルム和光純薬社製)9mLに添加することで生菌液3を作製した。
13.生菌液1~3を用い、実験3の工程6と同様にリプチケースソイ寒天培地で培養後、生育コロニーを計数することで残存生菌数を測定した。
14.ブランク(表4中5-1)は、複合材料等を一切添加せず、上記実験3の工程2で得た大腸菌液20mLそのものを試験液1として、上記実験5の工程3~13を同様に実施した。
15.参考例として、上記工程2の複合材料(サンプルB)0.6gの代わりに、UPC試薬0.02g(表4中5-4)又はFAU型ゼオライト0.6g(表4中5-5)を使用し上記実験5の工程2~13を同様に実施した。
16.同様に参考例として、上記工程2の複合材料(サンプルB)0.6gの代わりに、実験4で合成した非複素環式第4級アンモニウム固定化複合材料のサンプルB0.6g(表4中5-6)を使用し、上記実験5の工程2~13を同様に実施した。
【0051】
【0052】
上記表4の結果の、特に大腸菌に3回曝露させた試験液3の結果から理解できるように、参考例やブランクに比べ、本発明の複合材料を使用した場合に残存する生菌数が低く抑えられていた。従って複素環式第4級アンモニウム化合物のような抗菌性の有効成分をセラミックスのような無機材料に固定化することにより、生菌液に繰り返し曝露しても抗菌性が持続でき、かつ抗菌剤の再利用性が向上することが確認できた。
また、上記表4の5-3及び5-6の試験結果から理解できるように、複素環式第4級アンモニウム化合物を固定化した複合材料は、非複素環式第4級アンモニウム化合物を固定化した複合材料に比べて、大腸菌に対するより優れた抗菌力及び再利用性を示すことが確認できた。