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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022071687
(43)【公開日】2022-05-16
(54)【発明の名称】対物レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/02 20210101AFI20220509BHJP
   G02B 21/02 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
G02B7/02 A
G02B21/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020180772
(22)【出願日】2020-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100182936
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】堀場 大輝
(72)【発明者】
【氏名】池上 岳士
【テーマコード(参考)】
2H044
2H087
【Fターム(参考)】
2H044AA02
2H044AA03
2H044AA05
2H044AA14
2H044AA17
2H044AA18
2H044AA19
2H087KA09
2H087LA01
2H087NA07
2H087PA06
2H087PA07
2H087PA18
2H087PB07
2H087PB08
2H087QA01
2H087QA07
2H087QA13
2H087QA21
2H087QA25
2H087QA26
2H087QA32
2H087QA42
2H087QA46
(57)【要約】
【課題】レンズの歪を抑制可能な対物レンズを提供する。
【解決手段】対物レンズ100は、対物胴110と、対物胴110内に配置された複数のレンズ部組と、対物胴110に固定された押さえ環190と、を備える。複数のレンズ部組の各々は少なくともレンズとレンズを保持するレンズ保持枠を含む。押さえ環190は、対物レンズ100の光軸方向に沿って複数のレンズ部組を対物胴110に押し付ける。複数のレンズ部組のうちの少なくとも1つのレンズ保持枠180は、弾性部材である接着剤183と、接着剤183を挟んだ状態で固定される複数の部材である被固定部材181とレンズ保持部材182を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズであって、
対物胴と、
前記対物胴内に配置された複数のレンズ部組であって、前記複数のレンズ部組の各々は少なくともレンズと前記レンズを保持するレンズ保持枠を含む、前記複数のレンズ部組と、
前記対物胴に固定された押さえ部材であって、前記対物レンズの光軸方向に沿って前記複数のレンズ部組を前記対物胴に押し付ける前記押さえ部材と、を備え、
前記複数のレンズ部組のうちの少なくとも1つのレンズ部組は、弾性部材と、前記弾性部材を挟んだ状態で固定される複数の部材と、を含む第1のレンズ保持枠を含む
ことを特徴とする対物レンズ。
【請求項2】
請求項1に記載の対物レンズにおいて、
前記弾性部材は、前記複数の部材の間に、前記対物レンズの径方向に介在する
ことを特徴とする対物レンズ。
【請求項3】
請求項2に記載の対物レンズにおいて、
前記弾性部材は、前記複数の部材の間に、前記対物レンズの前記光軸方向に介在しない
ことを特徴とする対物レンズ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の対物レンズにおいて、
前記弾性部材は、前記複数の部材よりも低い弾性率を有する
ことを特徴とする対物レンズ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の対物レンズにおいて、
前記弾性部材は、前記複数の部材を互いに接着する第1の接着剤である
ことを特徴とする対物レンズ。
【請求項6】
請求項5に記載の対物レンズにおいて、さらに、
前記第1のレンズ保持枠と前記第1のレンズ保持枠が保持するレンズとを互いに接着する第2の接着剤を含み、
前記第1の接着剤は、前記第2の接着剤の弾性率よりも低い弾性率を有する
ことを特徴とする対物レンズ。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の対物レンズにおいて、さらに、
前記第1のレンズ保持枠と前記第1のレンズ保持枠が保持するレンズとを互いに接着する第2の接着剤を含み、
前記第1の接着剤の接着面積は、前記第2の接着剤の接着面積よりも広い
ことを特徴とする対物レンズ。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の対物レンズにおいて、
前記第1のレンズ保持枠を含むレンズ部組は、
前記複数のレンズ部組のうちの最も前記押さえ部材側に置かれたレンズ部組であり、
他のレンズ部組と前記押さえ部材との間に挟まれた状態で固定される
ことを特徴とする対物レンズ。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の対物レンズにおいて、
前記第1のレンズ保持枠は、さらに、前記第1のレンズ保持枠に生じる歪を吸収する凹部を有する
ことを特徴とする対物レンズ。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の対物レンズにおいて、
前記複数の部材の少なくとも1つは、前記レンズを固定する部材である
ことを特徴とする対物レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示は、対物レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
顕微鏡対物レンズでは、対物胴内で積層された複数のレンズ部組を押さえ環を用いて対物胴に押し付けることで、複数のレンズ部組が対物胴内に固定される。レンズ部組を押さえ環でしっかりと固定することで、外部からの振動や衝撃によるレンズ部組の変位を抑制することができるため、対物レンズの性能劣化を抑制することができる。
【0003】
一方で、押さえ環によってレンズ部組へ加える押圧力は、レンズ保持枠を変形させてしまうことがある。さらに、レンズ部組を構成するレンズ保持枠の変形は、レンズ保持枠に固定されたレンズを変形させることがあり、その結果として、レンズに歪が生じてしまう。
【0004】
このような課題に関連する技術は、例えば、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載の対物レンズでは、レンズ保持枠に設けた薄肉部の変形を利用することで歪を吸収する。これにより、押さえ環によって生じる押圧力に起因したレンズの歪を軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平7-26810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、レンズ保持枠に必要な剛性を確保するためにはレンズ保持枠を際限なく薄くすることはできない。このため、レンズ保持枠の薄肉化によって得られるレンズの歪の軽減効果にも限界がある。特に、比較的小さな応力で歪が生じるコバ面(cut end surface)が薄いレンズでは、レンズの歪を十分に抑制することが難しい。
【0007】
以上のような実情を踏まえ、本発明の一側面に係る目的は、レンズの歪を抑制可能な対物レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係る対物レンズは、対物胴と、前記対物胴内に配置された複数のレンズ部組であって、前記複数のレンズ部組の各々は少なくともレンズと前記レンズを保持するレンズ保持枠を含む、前記複数のレンズ部組と、前記対物胴に固定された押さえ部材であって、前記対物レンズの光軸方向に沿って前記複数のレンズ部組を前記対物胴に押し付ける前記押さえ部材と、を備え、前記複数のレンズ部組のうちの少なくとも1つのレンズ部組は、弾性部材と、前記弾性部材を挟んだ状態で固定される複数の部材と、を含む第1のレンズ保持枠を含む。
【発明の効果】
【0009】
上記の態様によれば、レンズの歪を抑制可能な対物レンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態に係る対物レンズ100の断面図である。
図2】第2の実施形態に係る対物レンズ200の断面図である。
図3】第3の実施形態に係る対物レンズ300の断面図である。
図4】第4の実施形態に係る対物レンズ400の断面図である。
図5】第5の実施形態に係る対物レンズ500の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1の実施形態>
図1は、本実施形態に係る対物レンズ100の断面図である。図1には、光軸1に沿った面における対物レンズ100の断面が示されている。図1に示される対物レンズ100は、顕微鏡用の対物レンズであり、特に限定しないが、例えば、結像レンズと組み合わせて試料の拡大像を形成する無限遠補正型の対物レンズである。
【0012】
対物レンズ100は、対物胴110と、対物胴110の軸方向に沿って対物胴110内に配置された複数のレンズ部組(レンズ部組121、レンズ部組122、レンズ部組123、レンズ部組124、レンズ部組125、レンズ部組126)を備えている。対物レンズ100は、さらに、対物胴110に固定された押さえ環190を備える。
【0013】
対物胴110は、円筒形状を有する筒状部材であり、内部に複数のレンズ部組を収容する。対物胴110の軸方向とは、円筒の中心軸に沿った方向のことであり、対物レンズ100の光軸1の方向とおよそ一致している。対物胴110の材料は、特に限定しないが、例えば、真鍮である。対物胴110は、外側表面に、雄ねじが形成された螺合部111を有している。螺合部111が顕微鏡のレボルバに螺合することで、対物レンズ100が顕微鏡に固定される。なお、螺合部111は、対物レンズ100を顕微鏡に接続するための接続部の一例である。対物レンズ100と顕微鏡の間を接続する方法は、螺合に限らず、他の方法で接続されてもよい。
【0014】
各レンズ部組は、レンズ(レンズL1、レンズL2、レンズL3、レンズL4、レンズL5、レンズL6)と、レンズを保持するレンズ保持枠(レンズ保持枠130、レンズ保持枠140、レンズ保持枠150、レンズ保持枠160、レンズ保持枠170、レンズ保持枠180)を含む。レンズの部材は、特に限定しないが、例えば、光学ガラスである。レンズとレンズ保持枠は、図示しない接着剤によって互いに接着されている。なお、各レンズ部組に含まれるレンズは、例えばレンズL1のような単レンズであってもよく、レンズL3のような複数のレンズ(レンズL3a、レンズL3b、レンズL3c)が接合された接合レンズであってもよい。
【0015】
複数のレンズ部組は、対物胴110内において対物胴110の軸方向、即ち、光軸1の方向、に積層して配置され、押さえ環190によって対物胴110内に固定される。
【0016】
押さえ環190は、対物胴110に固定される押さえ部材の一例である。押さえ環190の材料は、特に限定しないが、例えば、真鍮である。押さえ環190は、対物胴110の内側面に形成された雌ねじに螺合することで、対物レンズ100の光軸1の方向に沿って複数のレンズ部組を対物胴110(より具体的には、対物胴110の物体側端部に形成された凸部)に押し付ける。対物胴110に螺合した押さえ環190が複数のレンズ部組(より具体的には、複数のレンズ保持枠)を押圧して押圧力を作用させることで、押さえ環190と対物胴110(の凸部)が対物胴110内に積層された複数のレンズ部組を狭持し、その結果、複数のレンズ部組が対物胴110内でしっかりと固定される。
【0017】
一方で、押圧力を受けたレンズ保持枠が変形すると、その変形がレンズに伝わり、レンズに歪が生じる虞がある。そこで、本実施形態に係る対物レンズ100では、複数のレンズ部組のうち最も押さえ環190側に置かれたレンズ部組126を構成するレンズ保持枠180の構成を工夫している。
【0018】
なお、最も押さえ環190側に置かれたレンズ部組126とは、押さえ環190と他のレンズ部組125との間に挟まれた状態で固定されるレンズ部組のことであり、最も押さえ環190に近い位置に置かれたレンズ部組である。従って、スペーサなどが介在しない場合には、押さえ環190に直接接触するレンズ部組である。
【0019】
最も押さえ環190に近い位置に置かれたレンズ部組126に含まれるレンズ保持枠180の構成を工夫した理由は、押圧力による変形が生じやすいためであり、後述する変形抑制効果が最も高く発揮されると推定されるためである。ただし、以下で説明する工夫は、他のレンズ保持枠に対して行われてもよく、また、複数のレンズ保持枠に対して行われもよい。以下、レンズ保持枠180の構成について詳述する。
【0020】
対物レンズ100では、レンズ保持枠180を除くレンズ保持枠が単一の要素から構成されているのに対して、レンズ保持枠180は、複数の要素を組み合わせて構成されている。より具体的には、対物レンズ100の第1のレンズ保持枠であるレンズ保持枠180は、接着剤183と、接着剤183を挟んだ状態で固定される複数の部材(被固定部材181、レンズ保持部材182)と、を含んでいる。
【0021】
接着剤183は、弾性部材の一例であり、複数の部材(被固定部材181、レンズ保持部材182)の弾性率よりも低い弾性率を有している。接着剤183は、複数の部材を互いに接着する第1の接着剤である。なお、レンズ保持部材182とレンズL6の間にも図示しない接着剤が存在する。この図示しない接着剤は、レンズ保持部材182とレンズL6を互いに接着する第2の接着剤である。第1の接着剤と第2の接着剤は、図1に示すように、第1の接着剤の接着面積が第2の接着剤の接着面積よりも広い関係にあることが望ましい。被固定部材181、レンズ保持部材182の材料は、特に限定しないが、例えば、真鍮である。
【0022】
以上のように構成された対物レンズ100では、押さえ環190からの押圧力によって被固定部材181が変形したとしても被固定部材181とレンズ保持部材182の間の接着剤183がその変形を吸収することができる。このため、レンズ保持枠180の変形がレンズL6に伝わりにくくなるため、その結果として、レンズL6の歪を十分に抑制することができる。従って、対物レンズ100によれば、押さえ環190を用いてしっかりとレンズ部組を固定した場合であっても、レンズの歪によって生じる光学性能の劣化を回避して、設計通りの高い結像性能と偏光性能を維持することができる。即ち、耐衝撃性と光学性能を両立することができる。また、接着剤183を弾性部材として利用することで、弾性部材として板バネや弾性ゴムリングを用いる場合に比べて、材料費が安くなり、かつ、組立作業性も向上する。このため、製造コストを抑えることもできる。
【0023】
また、レンズL6をレンズ保持部材182に固定する接着剤(第2の接着剤)とは別に、被固定部材181とレンズ保持部材182の間に弾性部材(第1の接着剤である接着剤183)を設けることで、レンズL6の形状によらず、変形を吸収するのに十分な空間を確保することが可能となる。このため、対物レンズ100を構成する各レンズの形状によらず、上述した効果を発揮することができる。例えば、レンズL6のようなコバ面の薄いレンズを含むレンズ部組では、レンズ自体が変形しやすいことに加えて、第2の接着剤の接着面積が狭いため第2の接着剤での変形吸収効果も小さい。このため、レンズ保持枠内で変形を吸収する上記の構成は特に効果的である。
【0024】
さらに、接着剤183(第1の接着剤)の接着面積を第2の接着剤の接着面積よりも広くすることで、より大きな吸収効果が期待できる。従って、レンズの歪に起因する光学性能の劣化をより確実に回避することができる。
【0025】
<第2の実施形態>
図2は、本実施形態に係る対物レンズ200の断面図である。図2には、光軸1に沿った面における対物レンズ200の断面が示されている。図2に示される対物レンズ200も、図1に示す対物レンズ100と同様に、顕微鏡用の対物レンズである。対物レンズ200は、レンズ部組123の代わりにレンズ部組223を含む点と、レンズ部組126のかわりにレンズ部組226を含む点とを除き、対物レンズ100と同様である。
【0026】
レンズ部組223は、レンズ保持枠150の代わりにレンズ保持枠250を含む点がレンズ部組123とは異なる。レンズ保持枠250は、板バネ253と、板バネ253を挟んだ状態で固定される複数の部材(被固定部材251、レンズ保持部材252)を含んでいる。なお、板バネ253を挟んだ状態で固定される複数の部材とは、対物胴110とレンズL3がレンズ保持枠250を挟んで動かないように固定していればよく、必ずしもレンズ保持枠250の要素(被固定部材251、レンズ保持部材252、板バネ253)が接着剤などで互いに結合されていることを要しない。板バネ253は、弾性部材の一例であり、複数の部材(被固定部材251、レンズ保持部材252)の弾性率よりも低い弾性率を有している。
【0027】
レンズ部組226は、レンズ保持枠180の代わりにレンズ保持枠280を含む点がレンズ部組126とは異なる。レンズ保持枠280は、弾性ゴムリング283と、ビス284と、弾性ゴムリング283を挟んだ状態でビス284によって固定される複数の部材(被固定部材281、レンズ保持部材282)と、ビス284を含んでいる。なお、弾性ゴムリング283は、弾性部材の一例であり、複数の部材(被固定部材281、レンズ保持部材282)の弾性率よりも低い弾性率を有している。
【0028】
レンズ保持枠250とレンズ保持枠280のどちらにおいても、弾性部材(板バネ253、弾性ゴムリング283)は、複数の部材の間に対物レンズ200の径方向に介在し、軸方向には介在しない。即ち、径方向にのみ介在している。なお、径方向とは、対物レンズ200の光軸と直交する方向である。
【0029】
以上のように構成された対物レンズ200によっても、弾性部材(板バネ253、弾性ゴムリング283)によって、押さえ環190の押圧力によって生じるレンズ保持部材の変形が吸収され、レンズの歪を抑制することができる。従って、対物レンズ100と同様に、耐衝撃性と光学性能を両立することができる。
【0030】
また、光軸方向のレンズの位置ずれは光学性能を大幅に劣化させる可能性があるが、対物レンズ200では、弾性部材が複数の部材の径方向にのみ介在しているため、弾性部材が温度変化によって膨張又は収縮した場合であっても、光軸方向へのレンズの移動を防止することができる。このため、対物レンズ200によれば、押さえ環190の押圧力に起因する光学性能の劣化に加えて、温度変化に起因する光学性能の劣化も抑制することができる。
【0031】
さらに、対物レンズ200では、弾性部材が複数の部材の径方向にのみ介在し、光軸方向には介在していないので、例えば、不均一な温度変化によって弾性部材の周方向の一部が膨張又は収縮した場合であっても、被固定部材(被固定部材251、被固定部材281)に対してレンズ保持部材(レンズ保持部材252、レンズ保持部材282)がチルトし、その結果として、光軸がずれるといった事態の発生を抑制することができる。このため、対物レンズ200によれば、押さえ環190の押圧力に起因する光学性能の劣化に加えて、温度変化に起因するレンズのチルトにより生じる光学性能の劣化も抑制することができる。
【0032】
<第3の実施形態>
図3は、本実施形態に係る対物レンズ300の断面図である。図3には、光軸1に沿った面における対物レンズ300の断面が示されている。図3に示される対物レンズ300も、図1に示す対物レンズ100と同様に、顕微鏡用の対物レンズである。対物レンズ300は、レンズ部組126の代わりにレンズ部組326を含む点を除き、対物レンズ100と同様である。
【0033】
レンズ部組326は、レンズ保持枠180の代わりにレンズ保持枠380を含む点がレンズ部組126とは異なる。レンズ保持枠380は、接着剤(接着剤384、接着剤385)と、接着剤を挟んだ状態で固定される複数の部材(被固定部材381、レンズ保持部材382、中間部材383)を含んでいる。より具体的には、接着剤384は、被固定部材381と中間部材383の間に径方向に介在し、被固定部材381と中間部材383を互いに接着している。また、接着剤385は、中間部材383とレンズ保持部材382の間に径方向に介在し、中間部材383とレンズ保持部材382を互いに接着している。
【0034】
以上のように構成された対物レンズ300によっても、弾性部材(接着剤384、接着剤385)によって、押さえ環190の押圧力によって生じるレンズ保持部材の変形が吸収され、レンズの歪を抑制することができる。従って、対物レンズ100と同様に、耐衝撃性と光学性能を両立することができる。
【0035】
また、対物レンズ300では、レンズ保持枠380が中間部材383を備え、中間部材383が接着剤(接着剤384、接着剤385)によって挟まれている。レンズ保持枠380をこのような構成とすることで、押さえ環190からの押圧力による被固定部材381の変形を被固定部材381と中間部材383の間の接着剤384で吸収しきれない場合であっても、中間部材383とレンズ保持部材382の間の接着剤385で吸収することができる。このため、対物レンズ300によれば、レンズ保持枠が弾性部材を1つだけ有している場合よりもレンズの歪をさらに軽減することが可能である。従って、本実施形態の構成は、コバ面の薄いレンズなど低い剛性を有するレンズのためのレンズ保持枠に、特に好適である。
【0036】
また、対物レンズ300では、弾性部材が複数の部材の径方向にのみ介在しているため、弾性部材が温度変化によって膨張又は収縮した場合であっても、光軸方向へのレンズの移動を防止することができる。このため、対物レンズ300によれば、対物レンズ200と同様に、押さえ環190の押圧力に起因する光学性能の劣化に加えて、温度変化に起因する光学性能の劣化も抑制することができる。
【0037】
<第4の実施形態>
図4は、本実施形態に係る対物レンズ400の断面図である。図4には、光軸1に沿った面における対物レンズ400の断面が示されている。図4に示される対物レンズ400も、図1に示す対物レンズ100と同様に、顕微鏡用の対物レンズである。対物レンズ400は、レンズ部組126のかわりにレンズ部組426を含む点を除き、対物レンズ100と同様である。
【0038】
レンズ部組426は、レンズ保持枠180の代わりにレンズ保持枠480を含む点がレンズ部組126とは異なる。レンズ保持枠480は、レンズL6とレンズ保持部材182の間に接着剤183と異なる弾性率を有する接着剤481を含む点が、レンズ保持枠180とは異なる。接着剤481は、レンズ保持部材182とレンズL6を互いに接着する第2の接着剤であり、接着剤183よりも高い弾性率を有している。即ち、第1の接着剤と第2の接着剤は、第1の接着剤が第2の接着剤の弾性率よりも低い弾性率を有する関係にある。より具体的には、接着剤183は、例えば、シリコーン系の接着剤であり、接着剤481は、例えば、エポキシ系の接着剤である。さらに、第1の接着剤と第2の接着剤は、図4に示すように、第1の接着剤の接着面積が第2の接着剤の接着面積よりも広い関係にあることが望ましい。
【0039】
以上のように構成された対物レンズ400によっても、弾性部材(接着剤183)によって、押さえ環190の押圧力によって生じるレンズ保持部材の変形が吸収され、レンズの歪を抑制することができる。従って、対物レンズ100と同様に、耐衝撃性と光学性能を両立することができる。
【0040】
また、対物レンズ400では、レンズ保持枠480を構成する複数の部材に挟まれた弾性部材である接着剤183と、レンズL6を固定するための接着剤481を異ならせることで、レンズL6のようなコバ面の薄いレンズをしっかりと保持しつつ、押さえ環190の押圧力に起因するレンズの歪を軽減して高い光学性能を実現することができる。より詳細には、接着剤183の弾性率が接着剤481の弾性率よりも低いことで、接着剤183の高い柔軟性によって被固定部材181の変形を十分に吸収し、レンズL6の歪を抑制することができる。さらに、接着剤183の接着面積が接着剤481の接着面積よりも広いことで、より確実にレンズL6の歪を抑制することができる。また、接着剤481の弾性率が接着剤183の弾性率よりも高いことで、接着剤481の高い接着力によってコバ面の薄いレンズをしっかりと保持することができる。
【0041】
<第5の実施形態>
図5は、本実施形態に係る対物レンズ500の断面図である。図5には、光軸1に沿った面における対物レンズ500の断面が示されている。図5に示される対物レンズ500も、図1に示す対物レンズ100と同様に、顕微鏡用の対物レンズである。対物レンズ500は、レンズ部組123のかわりにレンズ部組523を含む点と、レンズ部組126のかわりにレンズ部組526を含む点を除き、対物レンズ100と同様である。
【0042】
レンズ部組523は、レンズL13aとレンズL13bからなる接合レンズであるレンズL13と、レンズ保持枠550とを含んでいる。レンズ保持枠550は、弾性部材の一例である接着剤553と、接着剤553を挟んだ状態で固定される複数の部材(被固定部材551、レンズ保持部材552)を含んでいる。さらに、レンズ保持部材552は、レンズ保持枠550に生じる歪を吸収する凹部550aを有している。
【0043】
レンズ部組526は、レンズ保持枠180の代わりにレンズ保持枠580を含む点がレンズ部組126とは異なる。レンズ保持枠580は、弾性部材の一例である接着剤583と、接着剤583を挟んだ状態で固定される複数の部材(被固定部材581、レンズ保持部材582)を含んでいる。さらに、被固定部材581は、レンズ保持枠580に生じる歪を吸収する凹部580aを有している。
【0044】
レンズ保持枠550とレンズ保持枠580のどちらにおいても、弾性部材(接着剤553、接着剤583)は、複数の部材の間に対物レンズ500の径方向に介在し、軸方向には介在しない。即ち、径方向にのみ介在している。
【0045】
以上のように構成された対物レンズ500によっても、弾性部材(接着剤553、接着剤583)によって、押さえ環190の押圧力によって生じるレンズ保持部材の変形が吸収され、レンズの歪を抑制することができる。従って、対物レンズ100と同様に、耐衝撃性と光学性能を両立することができる。
【0046】
また、対物レンズ500では、レンズ保持枠(レンズ保持枠550、レンズ保持枠580)は、弾性部材とともに凹部を有している。凹部によって薄肉化されたレンズ保持枠の部分(以降、薄肉部)は、例えば、特許文献1に記載されるように、押さえ環190の押圧力によって生じる変形を吸収する効果を有している。弾性部材と凹部の両方を有することで、一方で吸収しきれない変形を他方で吸収することができる。具体的には、レンズ保持枠550では、接着剤553で吸収しきれない被固定部材551の変形を凹部550aで吸収することでレンズL13の歪を抑制することができる。また、レンズ保持枠580では、凹部580aで吸収しきれない被固定部材581の変形を接着剤583で吸収することでレンズL6の歪を抑制することができる。従って、対物レンズ500によれば、押さえ環190の押圧力に起因する光学性能の劣化を確実に抑制し、高い光学性能を維持することができる。
【0047】
また、対物レンズ500では、弾性部材が複数の部材の径方向にのみ介在しているため、弾性部材が温度変化によって膨張又は収縮した場合であっても、光軸方向へのレンズの移動を防止することができる。このため、対物レンズ500によれば、対物レンズ200、対物レンズ300と同様に、押さえ環190の押圧力に起因する光学性能の劣化に加えて、温度変化に起因する光学性能の劣化も抑制することができる。
【0048】
上述した実施形態は、発明の理解を容易にするために具体例を示したものであり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。上述の実施形態を変形した変形形態および上述した実施形態に代替する代替形態が包含され得る。つまり、各実施形態は、その趣旨および範囲を逸脱しない範囲で構成要素を変形することが可能である。また、1つ以上の実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより、新たな実施形態を実施することができる。また、各実施形態に示される構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよく、または実施形態に示される構成要素にいくつかの構成要素を追加してもよい。さらに、各実施形態に示す処理手順は、矛盾しない限り順序を入れ替えて行われてもよい。即ち、本発明の対物レンズは、特許請求の範囲の記載を逸脱しない範囲において、さまざまな変形、変更が可能である。
【0049】
本明細書において、名詞を修飾する“第1の”、“第2の”などの用語は、名詞で表現される要素の量又は順序を限定するものではない。これらの用語は、2つ以上の要素間を区別するために用いられ、それ以下でもそれ以上でもない。従って、“第1の”と“第2の”要素が特定されていることは、“第1の”要素が“第2の”要素に先行することを意味するものではなく、また、“第3の”要素の存在を否定するものでもない。
【符号の説明】
【0050】
1・・・光軸、100、200、300、400、500・・・対物レンズ、110・・・対物胴、111・・・螺合部、121~126、223、226、326、426、523、526・・・レンズ部組、130、140、150、160、170、180、250、280、380、480、550、580・・・レンズ保持枠、181、251、281、381、551、581・・・被固定部材、182、252、282、382、552、582・・・レンズ保持部材、183、384、385、481、553、583・・・接着剤、190・・・押さえ環、253・・・板バネ、283・・・弾性ゴムリング、284・・・ビス、383・・・中間部材、550a、580a・・・凹部、L1~L6、L3a~L3c、L13、L13a、L13b・・・レンズ
図1
図2
図3
図4
図5