(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022071690
(43)【公開日】2022-05-16
(54)【発明の名称】アルミニウム材の加工方法及び加工品
(51)【国際特許分類】
B21D 11/20 20060101AFI20220509BHJP
C23C 4/16 20160101ALI20220509BHJP
【FI】
B21D11/20 B
C23C4/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020180778
(22)【出願日】2020-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】泊 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】今村 美速
【テーマコード(参考)】
4K031
【Fターム(参考)】
4K031AA01
4K031DA03
4K031DA07
4K031GA02
(57)【要約】
【課題】フランジとウェブとを有するアルミニウムの押出材からなるアルミニウム材に対して容易にかつ精度よく曲げ加工を施すことが可能なアルミニウム材の加工方法及び加工品を提供する。
【解決手段】断面視においてフランジ21,23に対して交差する方向にウェブ25,27が形成されたアルミニウムまたはアルミニウム合金の押出材からなるアルミニウム材Wに曲げ加工を施すアルミニウム材Wの加工方法であって、アルミニウム材Wを曲げる曲げ加工予定位置Pにおいて、曲げ方向の内側となるフランジ21に被入熱部Hを設定し、フランジ21における被入熱部Hを加熱・溶融させてビードBを形成することにより、アルミニウム材Wに被入熱部Hの凝固・収縮による熱ひずみを付与してフランジ21を内側として曲げる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面視においてフランジに対して交差する方向にウェブが形成されたアルミニウムまたはアルミニウム合金の押出材からなるアルミニウム材に曲げ加工を施すアルミニウム材の加工方法であって、
前記アルミニウム材を曲げる曲げ加工予定位置において、曲げ方向の内側となる前記フランジに被入熱部を設定する工程と、
前記フランジにおける前記被入熱部を加熱・溶融させてビードを形成することにより、前記アルミニウム材に熱ひずみを付与して前記フランジを内側として曲げる工程と、
予め設定した曲げ量となるまで入熱を継続する工程と、を有する、
アルミニウム材の加工方法。
【請求項2】
前記フランジに対して前記アルミニウム材の押出方向に沿う前記被入熱部を設定する、
請求項1に記載のアルミニウム材の加工方法。
【請求項3】
前記フランジに対して前記アルミニウム材の押出方向と交差する方向に沿う前記被入熱部を設定する、
請求項1または請求項2に記載のアルミニウム材の加工方法。
【請求項4】
前記アルミニウム材における前記曲げ予定位置以外の部分に、押出方向に沿うリブを形成しておく、
請求項1~3のいずれか一項に記載のアルミニウム材の加工方法。
【請求項5】
前記リブを曲げの内側となる前記フランジに成形し、
前記曲げ予定位置において前記リブにスリットを形成し、
前記ビードを形成して曲げた際に前記スリットにおいて前記リブの端面同士を当接させて曲げを規制する、
請求項4に記載のアルミニウム材の加工方法。
【請求項6】
前記曲げ予定位置において前記フランジに接合用アルミニウム材の端面を突き当て、前記接合用アルミニウム材を全周にわたって前記フランジに隅肉溶接し、前記フランジにおける接合用アルミニウム材の端面の突き当て箇所の全周を前記被入熱部として前記ビードを形成する、
請求項1~5のいずれか一項に記載のアルミニウム材の加工方法。
【請求項7】
溶加材を供給しながら前記被入熱部に前記ビードを形成する、
請求項1~6のいずれか一項に記載のアルミニウム材の加工方法。
【請求項8】
前記被入熱部への入熱によって曲げる前記アルミニウム材の変位量を変位計測器によって計測し、
予め設定した前記アルミニウム材の曲げの目標値と、前記変位計測器の計測値とを比較し、
前記計測値が前記目標値に対して許容公差範囲内となった時点で前記被入熱部への入熱を終了させる、
請求項1~7のいずれか一項に記載のアルミニウム材の加工方法。
【請求項9】
断面視においてフランジに対してウェブが交差する方向に形成されたアルミニウムまたはアルミニウム合金の押出材からなるアルミニウム材の加工品であって、
前記フランジはビードを有し、前記ビードの形成箇所を境に前記フランジを内側として押出方向と交差する方向へ湾曲している、
加工品。
【請求項10】
前記フランジは、前記ビードが形成された曲げ箇所以外に、押出方向に沿うリブを有する、
請求項9に記載の加工品。
【請求項11】
前記曲げ箇所において、前記リブの端面同士が突き合わされている、
請求項10に記載の加工品。
【請求項12】
前記フランジは、接合用アルミニウム材が全周にわたって隅肉溶接され、前記フランジにおける接合用アルミニウム材の端面の突き当て箇所の全周に前記ビードを有する、
請求項9~11のいずれか一項に記載の加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム材の加工方法及び加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、パネルを成形する成形方法として、ステンレス鋼からなる板材に補強材をレーザ溶接することにより、入熱による歪みエネルギーによって板材を湾曲させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、開発が進展している電力により駆動する車両(電気自動車、ハイブリッド自動車等を含む)に搭載する電池システムは、多数のバッテリー(電池、電池セル)を、構造材を接合して作製されたフレームに収納されている。このフレームは、高強度であるとともに軽量化が要求されるため、フレームを構成する構造材として、例えば、フランジとウェブとを有する角筒状の押出材からなる高剛性のアルミニウム材が用いられる。そして、これらのアルミニウム材を所定の形状となるように曲げ加工して互いに接合することにより、フレームが作製される。
【0005】
ところで、フランジとウェブとを有する押出材からなるアルミニウム材は、剛性が高いため、板材を熱によって湾曲させる特許文献1に記載の成形方法では、十分に曲げ加工を施すことが困難である。
【0006】
このため、アルミニウム材に曲げ加工を施すためには、ダイやクランプによって支持したアルミニウム材を電動または油圧によってプレスして機械的に曲げる大掛かりな曲げ加工設備が必要であった。また、両端をクランプすることが困難な短尺のアルミニウム材では、曲げ加工設備を用いても曲げ加工を行うことが困難であった。
【0007】
そこで本発明は、フランジとウェブとを有するアルミニウムの押出材からなるアルミニウム材に対して容易にかつ精度よく曲げ加工を施すことが可能なアルミニウム材の加工方法及び加工品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記構成からなる。
(1) 断面視においてフランジに対して交差する方向にウェブが形成されたアルミニウムまたはアルミニウム合金の押出材からなるアルミニウム材に曲げ加工を施すアルミニウム材の加工方法であって、
前記アルミニウム材を曲げる曲げ加工予定位置において、曲げ方向の内側となる前記フランジに被入熱部を設定する工程と、
前記フランジにおける前記被入熱部を加熱・溶融させてビードを形成することにより、前記アルミニウム材に熱ひずみを付与して前記フランジを内側として曲げる工程と、
予め設定した曲げ量となるまで入熱を継続する工程と、を有する、
アルミニウム材の加工方法。
このアルミニウム材の加工方法によれば、曲げ加工予定位置に設定した曲げ方向の内側となるフランジの被入熱部を、加熱・溶融させてビードを形成する。これにより、断面視においてフランジに対して交差する方向にウェブが形成された高剛性の押出材からなるアルミニウム材に対して適切に熱ひずみを付与し、フランジを内側として曲げることができる。したがって、アルミニウム材がフランジとウェブとを有する高剛性の押出材であっても、大掛かりな機械や器具を用いることなく、高剛性のアルミニウム材に対して高精度に曲げ加工を施すことができる。
(2) 断面視においてフランジに対してウェブが交差する方向に形成されたアルミニウムまたはアルミニウム合金の押出材からなるアルミニウム材の加工品であって、
前記フランジはビードを有し、前記ビードの形成箇所を境に前記フランジを内側として押出方向と交差する方向へ湾曲している、
加工品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フランジとウェブとを有するアルミニウムの押出材からなるアルミニウム材に対して容易にかつ精度よく曲げ加工を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る加工方法によって加工されるアルミニウム材の斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る加工方法を説明する図であって、(A)は加工前のアルミニウム材の斜視図、(B)は加工後のアルミニウム材の斜視図である。
【
図3】第2実施形態に係る加工方法を説明する図であって、(A)は加工前のアルミニウム材の斜視図、(B)は加工後のアルミニウム材の斜視図である。
【
図4】第3実施形態に係る加工方法を説明する図であって、(A)は加工前のアルミニウム材の斜視図、(B)は加工後のアルミニウム材の斜視図である。
【
図5】第4実施形態に係る加工方法を説明する図であって、(A)は加工前のアルミニウム材の斜視図、(B)は加工後のアルミニウム材の斜視図である。
【
図6】第5実施形態に係る加工方法を説明する図であって、(A)は加工前のアルミニウム材の斜視図、(B)は加工後のアルミニウム材の斜視図である。
【
図7】アルミニウム材に曲げ加工を行う際の制御の仕方を説明するフローチャートである。
【
図8】アルミニウム材に曲げ加工を行う際の制御の仕方を説明するアルミニウム材の斜視図である。
【
図9】本発明が適用な断面形状のアルミニウム材の例を示す図であって、(A)~D)は、それぞれアルミニウム材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(第1実施形態)
まず、第1実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る加工方法によって加工されるアルミニウム材Wの斜視図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る加工方法によって加工するアルミニウム材Wは、矩形の中空断面を有する角筒状のアルミニウムまたはアルミニウム合金を素材とした中空押出材から構成される。なお、本実施形態に係る加工方法によって加工するアルミニウム材Wの断面形状としては角筒状に限らない。以下、角筒状のアルミニウム押出材からなるアルミニウム材Wを例にとって説明する。
【0013】
このアルミニウム材Wは、その長手方向が押出方向Aとされて成形された厚みが2~5mm程度の押出材である。アルミニウム材Wとして使用されるアルミニウム合金の種類は、強度が優れて、より薄肉化が可能である点で、JIS乃至AAで言う5000系、6000系、7000系などのアルミニウム合金が適用される。これらアルミニウム合金の中空押出形材は、鋳造(DC鋳造法や連続鋳造法)、均質化熱処理、熱間押出、溶体化および焼入れ処理、必要により人工時効処理、などの調質処理を適宜組み合わせて製造される。
【0014】
アルミニウム材Wは、互いに対向配置された一対のフランジ21,23と、これらのフランジ21,23の両縁部に一体に成形された一対のウェブ25,27とを有している。
【0015】
本実施形態に係る加工方法では、このアルミニウム材Wを、その押出方向Aの略中央位置において、一方のフランジ21側を内側として曲げ加工する。
【0016】
次に、このアルミニウム材Wに曲げ加工を施す加工方法について説明する。
図2は、第1実施形態に係る加工方法を説明する図であって、(A)は加工前のアルミニウム材Wの斜視図、(B)は加工後のアルミニウム材Wである加工品WAの斜視図である。
【0017】
図2の(A)に示すように、真直状態のアルミニウム材Wを用意する。そして、アルミニウム材Wの曲げ加工予定位置Pを設定する。そして、この曲げ加工予定位置Pにおける曲げの内側とするフランジ21に被入熱部Hを設定する。ここでは、被入熱部Hとして、一方のフランジ21におけるウェブ25,27が連設された両縁部において押出方向Aに沿った二か所に設定する。
【0018】
次に、
図2の(B)に示すように、各被入熱部Hに入熱する。この被入熱部Hへの入熱は、例えば、アークやレーザ等を用いることができる。そして、この被入熱部Hを加熱・溶融してビードBを形成する。なお、この被入熱部Hへの入熱は、溶加材を付加してもよい。
【0019】
このように、被入熱部Hへ入熱することにより、この被入熱部HにビードBを形成する。すると、アルミニウム材Wには、被入熱部Hが設けられたフランジ21側で、被入熱部Hの凝固・収縮による熱ひずみが付与される。これにより、アルミニウム材Wには、フランジ21側を内側とした曲げ力が曲げ加工予定位置Pに付与され、アルミニウム材Wは、曲げ加工予定位置Pで曲げられる。このとき、アルミニウム材Wに対してビードBを押出方向Aに沿って形成するので、アルミニウム材Wは、曲げ加工予定位置Pにおいて緩やかに湾曲した状態に曲げられた加工品WAとされる。被入熱部Hへの入熱は、予め設定した所望の曲げ量となるまで継続する。
【0020】
このように、本実施形態に係るアルミニウム材の加工方法によれば、曲げ加工予定位置Pに設定した曲げ方向の内側となるフランジ21の被入熱部Hを、加熱・溶融させてビードBを形成する。これにより、断面視においてフランジ21に対して交差する方向にウェブ25,27が形成された高剛性の押出材からなるアルミニウム材Wに対して適切に熱ひずみを付与し、フランジ21を内側として曲げることができる。したがって、アルミニウム材Wがフランジ21,23とウェブ25,27とを有する高剛性の押出材であっても、大掛かりな機械や器具を用いることなく、高剛性のアルミニウム材Wに対して高精度に曲げ加工を施すことができる。
【0021】
そして、この加工方法によって加工された加工品WAによれば、フランジ21に形成されたビードBの形成箇所を境にフランジ21を内側として押出方向Aと交差する方向へ曲げられている。これにより、フランジ21,23とウェブ25,27とを有する高剛性の押出材からなるアルミニウム材Wを用い、例えば、バッテリトレイや車両用のバンパー等の曲げ部分を有する構造体を容易に作製することができる。
【0022】
次に、他の実施形態である第2~第5実施形態について説明する。なお、上記第1実施形態と同一構成部分等は同一符号を付して説明を省略する。
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態に係る加工方法を説明する図であって、(A)は加工前のアルミニウム材Wの斜視図、(B)は加工後のアルミニウム材Wの斜視図である。
【0023】
図3の(A)に示すように、第2実施形態においても真直状態のアルミニウム材Wを用意する。そして、このアルミニウム材Wにおける曲げ加工予定位置Pを設定する。この曲げ加工予定位置Pにおいて、曲げの内側とするフランジ21に被入熱部Hを設定する。このとき、被入熱部Hを押出方向Aと交差する幅方向に沿って設定する。ここでは、被入熱部Hを複数(本例では2本)設定する。
【0024】
次に、
図3の(B)に示すように、各被入熱部Hに、アークやレーザ等によって入熱し、被入熱部Hを溶融してビードBを形成する。
【0025】
このように、被入熱部Hへ入熱することにより、この被入熱部HにビードBを形成すると、この被入熱部Hが設けられたフランジ21側で被入熱部Hの凝固・収縮による熱ひずみが付与される。これにより、アルミニウム材Wには、フランジ21側を内側とした曲げ力が曲げ加工予定位置Pに付与され、アルミニウム材Wは、曲げ加工予定位置Pで曲げられる。このとき、ビードBを押出方向Aと交差する幅方向に沿って形成するので、アルミニウム材Wは、特に、曲げ加工予定位置Pが小さい曲率半径で曲げられた加工品WAとされる。被入熱部Hへの入熱は、予め設定した所望の曲げ量となるまで継続する。
【0026】
(第3実施形態)
図4は、第3実施形態に係る加工方法を説明する図であって、(A)は加工前のアルミニウム材Wの斜視図、(B)は加工後のアルミニウム材Wの斜視図である。
【0027】
図4の(A)に示すように、第3実施形態では、補強リブ31を有する真直状態のアルミニウム材Wを用意する。補強リブ31は、アルミニウム材Wのフランジ21に設けられている。これらの補強リブ31は、アルミニウム材Wを押出成形する際に、押出方向Aに沿ってフランジ21の表面側に一体に成形される。これらの補強リブ31は、その長手方向の中間部において、その一部が除去されている。
【0028】
第3実施形態では、アルミニウム材Wの補強リブ31が除去された長手方向の中間部に曲げ加工予定位置Pを設定する。そして、この曲げ加工予定位置Pにおいて、曲げの内側とするフランジ21に被入熱部Hを設定する。このとき、被入熱部Hを押出方向Aと交差する幅方向に沿って設定する。
【0029】
次に、
図4の(B)に示すように、各被入熱部Hに、アークやレーザ等によって入熱し、被入熱部Hを溶融してビードBを形成する。
【0030】
このように、被入熱部Hへ入熱することにより、この被入熱部HにビードBを形成すると、この被入熱部Hが設けられたフランジ21側で被入熱部Hの凝固・収縮による熱ひずみが付与される。これにより、アルミニウム材Wには、フランジ21側を内側とした曲げ力が曲げ加工予定位置Pに付与され、アルミニウム材Wは、曲げ加工予定位置Pで曲げられる。このとき、ビードBを押出方向Aと交差する幅方向に沿って形成するので、アルミニウム材Wは、特に、曲げ加工予定位置Pが小さい曲率半径で曲げられた加工品WAとされる。被入熱部Hへの入熱は、予め設定した所望の曲げ量となるまで継続する。
【0031】
しかも、アルミニウム材Wは、曲げられた箇所以外の補強リブ31を有する部分が、補強リブ31によって剛性が高められている。したがって、第3実施形態によれば、アルミニウム材Wを曲げ加工予定位置Pで局所的に曲げることができる。
【0032】
(第4実施形態)
図5は、第4実施形態に係る加工方法を説明する図であって、(A)は加工前のアルミニウム材Wの斜視図、(B)は加工後のアルミニウム材Wの斜視図である。
【0033】
図5の(A)に示すように、第4実施形態においても、補強リブ31を有する真直状態のアルミニウム材Wを用意する。このアルミニウム材Wでは、長手方向の中間部において、補強リブ31にスリット33を形成する。
【0034】
第4実施形態では、アルミニウム材Wの補強リブ31にスリット33を形成した長手方向の中間部に曲げ加工予定位置Pを設定する。そして、この曲げ加工予定位置Pにおいて、曲げの内側とするフランジ21に被入熱部Hを設定する。このとき、被入熱部Hを押出方向Aと交差する幅方向に沿って設定する。
【0035】
次に、
図5の(B)に示すように、各被入熱部Hに、アークやレーザ等によって入熱し、被入熱部Hを溶融してビードBを形成する。
【0036】
このように、被入熱部Hへ入熱することにより、この被入熱部HにビードBを形成すると、この被入熱部Hが設けられたフランジ21側で被入熱部Hの凝固・収縮による熱ひずみが付与される。これにより、アルミニウム材Wには、フランジ21側を内側とした曲げ力が曲げ加工予定位置Pに付与され、アルミニウム材Wは、曲げ加工予定位置Pで曲げられる。このとき、ビードBを押出方向Aと交差する幅方向に沿って形成するので、アルミニウム材Wは、曲げ加工予定位置Pが小さい曲率半径で曲げられた加工品WAとされる。
【0037】
また、アルミニウム材Wは、曲げられた箇所以外の補強リブ31を有する部分が、補強リブ31によって剛性が高められている。したがって、第4実施形態の場合も、アルミニウム材Wを曲げ加工予定位置Pで局所的に曲げることができる。
【0038】
さらに、第4実施形態では、補強リブ31のスリット33において、補強リブ31の端面35同士が突き当たる。これにより、アルミニウム材Wは、補強リブ31のスリット33における端面35同士が突き当たることで、曲げ加工予定位置Pでの曲げ加工が規制される。したがって、補強リブ31に形成するスリット33における端面35の間隔を調整することにより、アルミニウム材Wの曲げ量を制御することができる。
【0039】
(第5実施形態)
図6は、第5実施形態に係る加工方法を説明する図であって、(A)は加工前のアルミニウム材Wの斜視図、(B)は加工後のアルミニウム材Wの斜視図である。
【0040】
図6の(A)に示すように、第5実施形態では、真直状態のアルミニウム材Wを用意するともに、このアルミニウム材Wに接合させる接合用アルミニウム材41を用意する。この接合用アルミニウム材41としては、例えば、矩形の中空断面を有する角筒状のアルミニウムまたはアルミニウム合金を素材とした押出材を用いる。
【0041】
そして、この接合用アルミニウム材41を接合させる位置を、アルミニウム材Wにおける曲げ加工予定位置Pに設定し、このアルミニウム材Wの曲げ加工予定位置Pにおけるフランジ21に接合用アルミニウム材41の端面を突き当てる。この状態において、端面を突き当てた接合用アルミニウム材41の突き当て箇所における周囲を被入熱部Hに設定する。このように設定した被入熱部Hは、押出方向Aに沿った二か所及び押出方向Aと交差する幅方向に沿った二か所となる。
【0042】
次に、
図6の(B)に示すように、各被入熱部Hに、アークやレーザ等によって入熱し、被入熱部Hを溶融してビードBを形成する。これにより、接合用アルミニウム材41の端部の四辺をアルミニウム材Wのフランジ21に隅肉溶接して接合させる。
【0043】
このように、接合用アルミニウム材41を接合して被入熱部Hへ入熱することにより、この被入熱部HにビードBを形成すると、この被入熱部Hが設けられたフランジ21側で被入熱部Hの凝固・収縮による熱ひずみが付与される。これにより、アルミニウム材Wには、接合用アルミニウム材41が接合されたフランジ21側を内側とした曲げ力が曲げ加工予定位置Pに付与され、アルミニウム材Wは、曲げ加工予定位置Pで曲げられた加工品WAとされる。被入熱部Hへの入熱は、予め設定した所望の曲げ量となるまで継続する。
【0044】
次に、アルミニウム材に曲げ加工を行う際の制御の仕方について説明する。なお、ここでは、スリット33が形成された補強リブ31を備えるアルミニウム材Wを曲げる場合(第4実施形態例)を例にとって、
図7に示すフローチャートに沿って説明する。
【0045】
図8は、アルミニウム材Wに曲げ加工を行う際の制御の仕方を説明するアルミニウム材Wの斜視図である。
図8に示すように、曲げ加工の制御を行う際には、変位計測器51を用いる。この変位計測器51は、例えば、レーザ変位センサ等の非接触式の変位センサである。そして、一端Wa側を支持したアルミニウム材Wに対して、他端Wb側における曲げ方向内方側に変位計測器51を配置させ、フランジ21の変位の検出を可能とする。
【0046】
この状態において、アルミニウム材Wの形状(
図8における点線参照)が初期形状であるとし、変位計測器51を初期状態に設定する(ステップS1)。次に、変位計測器51による変位計測を開始させる(ステップS2)。
【0047】
この状態において、アルミニウム材Wの曲げの内側となるフランジ21の幅方向に沿って設定した被入熱部Hに、アークやレーザ等によって入熱する。これにより、被入熱部Hを溶融してビードBを形成し、アルミニウム材Wに被入熱部Hの凝固・収縮による熱ひずみを付与する(ステップS3)。
【0048】
このとき、変位計測器51によってアルミニウム材Wの他端Wb側の変位量を常に計測する。そして、この変位計測器51の計測値が、アルミニウム材Wの他端Wbの予め設定した目標値に対して許容公差内に入るまでアルミニウム材Wへの入熱を継続する(ステップS4)。
【0049】
そして、変位計測器51の計測値が目標値に対して許容公差内に入ったら、アルミニウム材Wへの入熱を終了し、加工完了とする(ステップS5)。
【0050】
このように、変位計測器51を用いてアルミニウム材Wの加工を制御すれば、アルミニウム材Wの曲げ加工を精密に行うことができ、より正確に目標形状に加工することができる。
【0051】
なお、上記実施形態では、角筒状の閉断面のアルミニウム押出材からなるアルミニウム材Wを例にとって説明したが、本発明は、フランジ及びウェブを備えたものであれば閉断面に限らず他の断面形状を有するアルミニウム材に適用可能である。
【0052】
次に、本発明が適用な断面形状のアルミニウム材Wの例について説明する。
図9は、本発明が適用な断面形状のアルミニウム材Wの例を示す図であって、(A)~D)は、それぞれアルミニウム材Wの斜視図である。
【0053】
図9の(A)に示すアルミニウム材Wは、一対のフランジ21,23の間に一つのウェブ29を有している。このウェブ29は、フランジ21,23の幅方向の中央部に一体に成形されており、これにより、アルミニウム材Wは、H状の断面形状を有している。
【0054】
図9の(B)に示すアルミニウム材Wは、一つのフランジ21に一つのウェブ27が一体に成形されている。このウェブ27は、フランジ21の幅方向の中央部に設けられており、これにより、アルミニウム材Wは、T状の断面形状を有している。
【0055】
図9の(C)に示すアルミニウム材Wは、一つのフランジ21に二つのウェブ25,27が一体に成形されている。これらのウェブ25,27は、フランジ21の幅方向の両縁部に設けられ、これにより、アルミニウム材Wは、コ状の断面形状を有している。
【0056】
図9の(D)に示すアルミニウム材Wは、一つのフランジ21に一つのウェブ29が一体に成形されている。このウェブ29は、フランジ21の幅方向の一方の縁部に設けられており、これにより、アルミニウム材Wは、L状の断面形状を有している。
【0057】
これらの
図9の(A)~(D)に示すアルミニウム材Wにおいても、曲げ加工予定位置Pを設定し、この曲げ加工予定位置Pにおいて、曲げの内側とするフランジ21に被入熱部Hを設定する。そして、この被入熱部Hに入熱することにより、フランジ21側を内側として高精度に曲げ加工を施すことができる。
【0058】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0059】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 断面視においてフランジに対して交差する方向にウェブが形成されたアルミニウムまたはアルミニウム合金の押出材からなるアルミニウム材に曲げ加工を施すアルミニウム材の加工方法であって、
前記アルミニウム材を曲げる曲げ加工予定位置において、曲げ方向の内側となる前記フランジに被入熱部を設定する工程と、
前記フランジにおける前記被入熱部を加熱・溶融させてビードを形成することにより、前記アルミニウム材に熱ひずみを付与して前記フランジを内側として曲げる工程と、
予め設定した曲げ量となるまで入熱を継続する工程と、を有する、アルミニウム材の加工方法。
このアルミニウム材の加工方法によれば、曲げ加工予定位置に設定した曲げ方向の内側となるフランジの被入熱部を、加熱・溶融させてビードを形成する。これにより、断面視においてフランジに対して交差する方向にウェブが形成された高剛性の押出材からなるアルミニウム材に対して適切に熱ひずみを付与し、フランジを内側として曲げることができる。したがって、アルミニウム材がフランジとウェブとを有する高剛性の押出材であっても、大掛かりな機械や器具を用いることなく、高剛性のアルミニウム材に対して高精度に曲げ加工を施すことができる。
【0060】
(2) 前記フランジに対して前記アルミニウム材の押出方向に沿う前記被入熱部を設定する、(1)に記載のアルミニウム材の加工方法。
このアルミニウム材の加工方法によれば、曲げ加工予定位置において、アルミニウム材を押出方向に沿って比較的緩やかな湾曲状に曲げることができる。
【0061】
(3) 前記フランジに対して前記アルミニウム材の押出方向と交差する方向に沿う前記被入熱部を設定する、(1)または(2)に記載のアルミニウム材の加工方法。
このアルミニウム材の加工方法によれば、曲げ加工予定位置において、アルミニウム材を比較的小さな曲率半径で曲げることができる。
【0062】
(4) 前記アルミニウム材における前記曲げ予定位置以外の部分に、押出方向に沿うリブを形成しておく、(1)~(3)のいずれか一つに記載のアルミニウム材の加工方法。
このアルミニウム材の加工方法によれば、リブを形成した部分の剛性を高めることができる。これにより、曲げが不要な箇所にリブを設けて不要な曲げを抑えつつ、曲げ予定位置を局所的に曲げることができる。
【0063】
(5) 前記リブを曲げの内側となる前記フランジに成形し、
前記曲げ予定位置において前記リブにスリットを形成し、
前記ビードを形成して曲げた際に前記スリットにおいて前記リブの端面同士を当接させて曲げを規制する、(4)に記載のアルミニウム材の加工方法。
このアルミニウム材の加工方法によれば、スリットの端面同士を当接させて曲げを規制することにより、目標の曲げ量で精密に曲げることができる。
【0064】
(6) 前記曲げ予定位置において前記フランジに接合用アルミニウム材の端面を突き当て、前記接合用アルミニウム材を全周にわたって前記フランジに隅肉溶接し、前記フランジにおける接合用アルミニウム材の端面の突き当て箇所の全周を前記被入熱部として前記ビードを形成する、(1)~(5)のいずれか一つに記載のアルミニウム材の加工方法。
このアルミニウム材の加工方法によれば、アルミニウム材に接合用アルミニウム材を接合させた構造体を作製しつつ、接合箇所においてアルミニウム材を曲げることができる。これにより、アルミニウム材と接合用アルミニウム材とから構成され、アルミニウム材に曲げ部分が形成された、例えば、バッテリトレイや車両用のバンパー等を容易に作製することができる。
【0065】
(7) 溶加材を供給しながら前記被入熱部に前記ビードを形成する、(1)~(6)のいずれか一つに記載のアルミニウム材の加工方法。
このアルミニウム材の加工方法によれば、溶加材を供給しながらビードを形成することにより、アルミニウム材の被入熱部に入熱してアルミニウム材を良好に曲げることができる。
【0066】
(8) 前記被入熱部への入熱によって曲げる前記アルミニウム材の変位量を変位計測器によって計測し、
予め設定した前記アルミニウム材の曲げの目標値と、前記変位計測器の計測値とを比較し、
前記計測値が前記目標値に対して許容公差範囲内となった時点で前記被入熱部への入熱を終了させる、(1)~(7)のいずれか一つに記載のアルミニウム材の加工方法。
このアルミニウム材の加工方法によれば、変位計測器を用いてアルミニウム材の曲げ加工を制御することにより、アルミニウム材の曲げ加工を精密に行うことができ、目標形状に加工することができる。
【0067】
(9) 断面視においてフランジに対してウェブが交差する方向に形成されたアルミニウムまたはアルミニウム合金の押出材からなるアルミニウム材の加工品であって、
前記フランジはビードを有し、前記ビードの形成箇所を境に前記フランジを内側として押出方向と交差する方向へ湾曲している、加工品。
この加工品によれば、フランジに形成されたビードの形成箇所を境にフランジを内側として押出方向と交差する方向へ曲げられている。これにより、フランジとウェブとを有する高剛性の押出材からなるアルミニウム材を用い、曲げ部分を有する構造体を容易に作製することができる。
【0068】
(10) 前記フランジは、前記ビードが形成された曲げ箇所以外に、押出方向に沿うリブを有する、(9)に記載の加工品。
この加工品によれば、フランジに形成されたビードの形成箇所が局所的に曲げられたアルミニウム材を用い、曲げ部分を有する構造体を容易に作製することができる。また、アルミニウム材にリブが形成されているので、さらに強度の高い構造体を作製することができる。
【0069】
(11) 前記曲げ箇所において、前記リブの端面同士が突き合わされている、(10)に記載の加工品。
この加工品によれば、曲げ箇所でリブの端面同士が突き合わされたアルミニウム材を用い、曲げ部分を有する構造体を容易に作製することができる。また、アルミニウム材にリブが形成されているので、さらに強度の高い構造体を作製することができる。
【0070】
(12) 前記フランジは、接合用アルミニウム材が全周にわたって隅肉溶接され、前記フランジにおける接合用アルミニウム材の端面の突き当て箇所の全周に前記ビードを有する、(9)~(11)のいずれか一つに記載の加工品。
この加工品によれば、接合用アルミニウム材が接合されて曲げられたアルミニウム材を用い、例えば、バッテリトレイや車両用のバンパー等の強度を要する構造体を作製することができる。
【符号の説明】
【0071】
21,23 フランジ
25,27,29 ウェブ
31 補強リブ
33 スリット
35 端面
41 接合用アルミニウム材
51 変位計測器
A 押出方向
B ビード
H 被入熱部
P 曲げ加工予定位置
W アルミニウム材
WA 加工品