(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022071701
(43)【公開日】2022-05-16
(54)【発明の名称】模擬臓器モデル
(51)【国際特許分類】
G09B 23/32 20060101AFI20220509BHJP
G09B 9/00 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
G09B23/32
G09B9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020180799
(22)【出願日】2020-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】508195545
【氏名又は名称】イービーエム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】朴 栄光
【テーマコード(参考)】
2C032
【Fターム(参考)】
2C032CA03
2C032CA06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】従来のシミュレータや臓器モデルと比較して、簡便かつ平易に術者が使用できる、模擬臓器モデルを提供する。
【解決手段】模擬臓器モデル本体1と、この模擬臓器モデル本体の内部に配置された偏心回転体2と、この偏心回転体を駆動する駆動部3とを有し、偏心回転体を模擬臓器モデル本体に対して相対的に回転駆動し、偏心回転体の表面と模擬臓器モデル本体とを直接摺動させることで、この摺動に係る模擬臓器モデル本体の周期的反復動作を再現する模擬臓器モデル。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
模擬臓器モデル本体と、
この模擬臓器モデル本体の内部に配置された偏心回転体と、
を有し、
前記偏心回転体を模擬臓器モデル本体に対して相対的に回転駆動し、当該偏心回転体の表面と前記模擬臓器モデル本体の一面とを直接摺動させることで、この摺動に係る前記模擬臓器モデル本体の部分の周期的反復動作を再現する
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【請求項2】
請求項1記載の手術手技訓練用模擬臓器モデルにおいて、
前記偏心回転体の回転数は上記模擬臓器モデルで模擬する拍動数と一致するものである
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【請求項3】
請求項2記載の模擬臓器モデルにおいて、
前記回転数は15rpm~60rpmである
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【請求項4】
請求項1記載の模擬臓器モデルにおいて、
さらに、上記偏心回転体を駆動する駆動部を有する
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【請求項5】
請求項4記載の模擬臓器モデルにおいて、
前記駆動体は模擬臓器モデル本体の内部に配置されている
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【請求項6】
請求項4記載の模擬臓器モデルにおいて、
前記駆動体を模擬臓器モデル本体に固定する固定手段を有する
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【請求項7】
請求項4記載の模擬臓器モデルにおいて、
前記駆動体は模擬臓器モデル本体の外部に配置されており、
前記駆動体と前記偏心回転体は可撓性を有する軸で接続されている
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【請求項8】
請求項4記載の模擬臓器モデルにおいて、
前記駆動体は、定格電圧が12V以下の電気モータである
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【請求項9】
請求項1記載の模擬臓器モデルにおいて、
前記偏心回転体の前記模擬臓器モデルと摺動する外表面の形状は、接線を外表面の他の位置と交差しない形状を有するものである
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【請求項10】
請求項1記載の模擬臓器モデルにおいて、
前記偏心回転体の回転軸と直行する方向の長軸長と短軸長の比は1/2以上である
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【請求項11】
請求項1記載の模擬臓器モデルにおいて、
前記偏心回転体の偏心率は、1/2以上である
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【請求項12】
請求項1記載の模擬臓器モデルにおいて、
上記模擬臓器モデル本体は、食肉用家畜由来の動物臓器である
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【請求項13】
請求項12記載の模擬臓器モデルにおいて、
前記食肉用家畜由来の動物臓器は、ブタ、ヒツジである
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【請求項14】
請求項1記載の模擬臓器モデルにおいて、
前記模擬臓器モデル本体は、心臓、肺臓、食道、胃、小腸、大腸、血管である
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【請求項15】
請求項1における模擬臓器モデルにおいて、
前記模擬臓器モデル本体は、弾性素材により形成された人工的模擬臓器モデルである
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【請求項16】
請求項1における模擬臓器モデルにおいて、
前記回転駆動体を1または2以上同時に用いることで、位相の異なる挙動を再現することを特徴とする模擬臓器モデル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に外科手術手技の訓練に用いる模擬臓器モデルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
(模擬臓器を用いた手術手技訓練)
従来、主に若手医師の執刀経験不足を補うため、模擬臓器モデルを用いた手術手技訓練が行われている。
【0003】
このような手術手技訓練は、以下に説明するように、ウェットラボと呼ばれるブタなどの動物臓器や、ドライラボと呼ばれるシミュレータなどの人工的模擬臓器、臓器モデルを用いるものがある。また、数は少ないがアニマルラボと呼ばれる、ブタ等の生きた動物を用いた訓練も行われている。
【0004】
(Off-JT)
ここで、これらウェットラボ、ドライラボなどは、実際の患者を対象とした臨床業務とは異なる時間、環境にて行うことから、Off-the-job training (OffーJT)と総称される。
【0005】
OffーJTは、患者にリスクのない状況で外科医の手術技能を教育、外科医を育成するための手段として急速に普及が進んでいる。日本では、心臓血管外科専門医認定機構により、心臓血管外科専門医取得に際しては30時間のOffーJT経験が義務付けられている。
【0006】
(ドライラボ)
OffーJTの手段としては、ドライラボの普及が加速的に進んでいるが、生体組織の性状や解剖の再現性には課題がある。そのため、ドライラボによる反復的基礎訓練の後に、臨床により近似したウェットラボ環境での高度なトレーニングを行うことが一般的となっている。
【0007】
(ウェットラボ)
ウェットラボ用の動物臓器は、衛生面、安全面から、野生動物は不適であり、食肉用途の家畜臓器が好適であり、主にブタなどの食肉用家畜臓器が用いられている。特に心臓血管外科では、重量と寸法が類似していることからブタ心臓が訓練用に用いられている。また、消化器外科では、ブタ胃や大腸が用いられ、呼吸器外科では、ブタ心肺が用いられる。
【0008】
(アニマルラボ)
一方、アニマルラボは、生きた動物を用いる最もハイエンドな訓練方法である。
【0009】
アニマルラボでは、主にブタを用いる。生体を用いることにより、血液循環、出血、呼吸、薬物への生体反応、解剖学的再現性といったメリットを有する。特に生体由来の心拍動、呼吸、消化管の運動、挙動は、手術手技を修練する上で重要な要素となっている。
【0010】
しかしながらアニマルラボは、倫理面、安全面、コスト面から極めて限局された活用となっており、日常的訓練には不適である。
【0011】
そこで、従来から、ウェットラボに対して、生体特有の運動や挙動を訓練対象臓器に付与する工夫が行われている。
【0012】
(模擬心臓の内腔を加圧して駆動するタイプの従来技術)
まず、模擬心臓の内腔を加圧して駆動するタイプの従来技術として、特開2006ー276258号公報、第6629002号公報、特開2012ー203016号公報、特許第5810250号公報に開示された技術がある。これらの文献に開示された技術は、心臓モデルやブタ心臓内腔の作動流体を加圧・減圧することで、心臓拍動挙動を再現するものである。
【0013】
また、特開2020-091306号公報には、対象臓器内腔を作動流体で満たし、血行動態や造影剤の拡散を再現した技術が開示されているが、この技術は対象臓器への運動付与を目的としない。
【0014】
(模擬心臓全体を駆動するタイプの従来技術)
また、模擬心臓全体を駆動するタイプの従来技術として、特開2005-2020267号公報に開示された技術がある。この技術は、回転駆動手段と揺動手段を組み合わせた外部駆動装置を用いて、対象模擬臓器全体に運動を付与するものである。
【0015】
(模擬心臓全体の一部を駆動するタイプの従来技術)
さらに、模擬心臓の一部を駆動するタイプの従来技術として、特開2014-142535号公報に開示されたものがある。この技術は、回転駆動体と回転体を接続し、回転体を胃モデルに接触させることで、胃内部のぜんどう運動を再現するものである。
【0016】
このように、対象臓器を駆動するためには、内部を作動流体で満たし、加減圧を行う方法、外部駆動手段により模擬臓器全体に運動を付与する方法、外部駆動手段により、模擬臓器の内部に目的とする運動を付与する方法が先行技術としてある。
【0017】
外科手術の中でも心臓外科手術、腹腔鏡手術、胸腔鏡手術や、臨床検査の中でも消化管内視鏡検査などは、特定臓器の拍動、運動が手技に及ぼす影響が大きい。よって当該手技の訓練シミュレータには、挙動の再現が求められる。
【0018】
手術トレーニングは、新型コロナ感染症の拡大などから、少人数で簡易に行う必要がある。シミュレータの準備、使用に際して、大勢のマンパワーを用いることはできず、平易かつ簡潔な構造で必要十分な機能を有する模擬臓器モデルが求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上記の従来技術による臓器駆動方法は、いずれも複雑かつ取り扱いに注意を要する構成となっている。例えば、作動流体の加減圧による対象臓器の駆動においては、機密の確保が大きな課題であり、作動流体の漏出を確実に防ぐことは難しく、常にシミュレータを整備担当者が管理する必要が生じる。また、外部駆動手段による臓器モデルの駆動も、機械的に複雑な構成であり、簡便とは言えない。
【0020】
例えば心臓外科においては、心拍動下冠動脈バイパス手術をトレーニングするために、ブタ等動物心臓を拍動させることが求められる。これには、前記従来技術によるブタ心臓の内部加減圧等駆動方法があるが、装置が大型かつ複雑であり、使用者である医師が単独で用いることができない問題がある。コロナ禍においても、専門学会が主導する手術手技審査会など、手術訓練へのニーズは存在しており、簡便かつ平易な構造による、拍動・挙動が再現されたウェットラボの実現が求められている。
【0021】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、従来のシミュレータや臓器モデルと比較して、簡便かつ平易に術者が使用できる、模擬臓器モデルを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
発明者は、手術手技訓練において実際の心臓や消化管等ヒト臓器の挙動の再現性を向上させるべく試行錯誤したところ、ブタ等動物臓器、及び模擬臓器に対する再現性の高い挙動付与手段に関する知見を得、実際に試作品を作成して鋭意開発をしたところ、本発明を完成するに至ったものである。
【0023】
すなわち、本願発明の主要な観点によれば、以下の構成が提供される。
【0024】
(1) 模擬臓器モデル本体と、
この模擬臓器モデル本体の内部に配置された偏心回転体と、
を有し、
前記偏心回転体を模擬臓器モデル本体に対して相対的に回転駆動し、当該偏心回転体の表面と前記模擬臓器モデル本体の一面とを直接摺動させることで、この摺動に係る前記模擬臓器モデル本体の部分の周期的反復動作を再現する
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【0025】
(2) 前記(1)記載の手術手技訓練用模擬臓器モデルにおいて、
前記偏心回転体の回転数は上記模擬臓器モデルで模擬する拍動数と一致するものである
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【0026】
(3) 前記(2)記載の模擬臓器モデルにおいて、
前記回転数は15rpm~60rpmである
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【0027】
(4) 前記(1)記載の模擬臓器モデルにおいて、
さらに、上記偏心回転体を駆動する駆動部を有する
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【0028】
(5) 前記(4)記載の模擬臓器モデルにおいて、
前記駆動体は模擬臓器モデル本体の内部に配置されている
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【0029】
(6) 前記(4)記載の模擬臓器モデルにおいて、
前記駆動体を模擬臓器モデル本体に固定する固定手段を有する
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【0030】
(7) 前記(4)記載の模擬臓器モデルにおいて、
前記駆動体は模擬臓器モデル本体の外部に配置されており、
前記駆動体と前記偏心回転体は可撓性を有する軸で接続されている
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【0031】
(8) 前記(4)記載の模擬臓器モデルにおいて、
前記駆動体は、定格電圧が12V以下の電気モータである
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【0032】
(9) 前記(1)記載の模擬臓器モデルにおいて、
前記偏心回転体の前記模擬臓器モデルと摺動する外表面の形状は、接線を外表面の他の位置と交差しない形状を有するものである
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【0033】
(10) 前記(1)記載の模擬臓器モデルにおいて、
前記偏心回転体の回転軸と直行する方向の長軸長と短軸長の比は1/2以上である
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【0034】
(11) 前記(1)記載の模擬臓器モデルにおいて、
前記偏心回転体の偏心率は、1/2以上である
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【0035】
(12) 前記(1)記載の模擬臓器モデルにおいて、
上記模擬臓器モデル本体は、食肉用家畜由来の動物臓器である
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【0036】
(13) 前記(12)記載の模擬臓器モデルにおいて、
前記食肉用家畜由来の動物臓器は、ブタ、ヒツジである
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【0037】
(14) 前記(1)記載の模擬臓器モデルにおいて、
前記模擬臓器モデル本体は、心臓、肺臓、食道、胃、小腸、大腸、血管である
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【0038】
(15) 前記(1)における模擬臓器モデルにおいて、
前記模擬臓器モデル本体は、弾性素材により形成された人工的模擬臓器モデルである
ことを特徴とする模擬臓器モデル。
【0039】
(16) 前記(1)における模擬臓器モデルにおいて、
前記回転駆動体を1または2以上同時に用いることで、位相の異なる挙動を再現することを特徴とする模擬臓器モデル。
【0040】
なお、この発明の上記以外の特徴は、以下の発明の実施形態の項及び図面に開示される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1は、この発明の一実施形態にかかる模擬臓器モデルを示す概略構成図。
【0042】
【
図2】
図2は、同じく、模擬臓器モデル駆動ユニットの埋め込みを示す説明図。
【0043】
【
図3】
図3は、同じく、模擬臓器モデル駆動ユニットを示す概略構成図。
【0044】
【
図4】
図4は、同じく、偏心回転体の形状を示す概略図。
【0045】
【
図5】
図5は、同じく、模擬臓器モデル駆動ユニットの埋め込み工程を示す説明図。
【0046】
【
図6】
図6は、同じく、模擬臓器モデル駆動ユニットの埋め込み工程を示す説明図。
【0047】
【
図7】
図7は、同じく、模擬臓器モデル駆動ユニットの変形例を示す概略構成図。
【0048】
【
図8】
図8は、同じく、模擬臓器モデルの変形例を示す概略構成図。
【0049】
【
図9】
図9は、同じく、模擬臓器モデルの第2の実施形態を示す概略構成図。
【0050】
【
図10】
図10は、同じく、模擬臓器モデル駆動ユニットの変形例を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明の一実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【0052】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態として、本発明を、心臓血管外科における冠動脈バイパス手術手技の訓練を行うための模擬臓器モデルに適用した例を説明する。
【0053】
冠動脈バイパス手術は2mm程度の冠動脈を縫合する手技であり、特に人工心肺を用いずに心拍動下にて行う術式をオフポンプ冠動脈バイパス手術という。この実施形態は、冠動脈バイパス手術の中でも特にオフポンプ冠動脈バイパス手術手技を訓練するための模擬臓器モデルである。
【0054】
以下、詳細に説明する。
【0055】
(模擬臓器モデル本体)
図1中、符号1は、手術手技の訓練対象となる模擬臓器モデル本体である。そして、この模擬臓器モデル本体1の内部には、この模擬臓器モデル本体1を変位動作させるための偏心回転体2及びこの偏心回転体を回転駆動するための駆動部3とからなる臓器駆動ユニット4が埋め込まれている。
【0056】
この模擬臓器モデル本体1は、この第1の実施例では、ブタ心臓の一部である。
【0057】
図2に示すように、この模擬臓器モデル本体1(ブタ心臓)の心尖部を図に符号Aで示すように切開し新内壁の一部を切除することで、前記偏心回転体及び駆動部を埋め込むためのスペース14を形成し、そのスペース14に図に矢印で示すように上記臓器駆動ユニット4を挿入するように構成されている。
【0058】
(偏心回転体)
図3は、臓器駆動ユニット4を示す概略構成図である。
【0059】
まず、前記偏心回転体2は、この第1の実施形態では、略半円球状(キノコの傘形状)の回転体本体5と、この本体5の中心軸Bと所定寸法ずれた位置の偏心軸Cに取り付けられた偏心回転中心軸6とを有する。
【0060】
前記回転体本体5は、前記回転中心軸6が導出された側の一面5aと、上記模擬臓器モデル本体1の内腔表面と接する円球状の外表面5bとを有する。この外表面5bは、模擬臓器モデル本体1と直接接触するようになっており、かつ、回転駆動された際に上記スペース14の内腔表面と摺動して回転し続ける必要がある。このため、上記偏心回転体2の外表面5bは、滑らかな、何ら出っ張りや引っ掛かりがない、スムーズな面として形成されている。
【0061】
この偏心回転体2の形状を、本実施形態の形状(
図4(a))を用いて説明すると、以下のようになる。
【0062】
(1)接線Tが外表面5bの他の位置に干渉しない
(2)外表面5bの一部に凹部があっても良いが、凸部が設けられていることは好ましくない
(3)回転軸と直行する方向の長軸長と短軸長の比は1/2以上(この
図4(a)の例は真円なので短軸=長軸なので比は1)
(4)偏心率(S/L)は、1/2以上
また、偏心回転体2の寸法は、模擬臓器モデル本体1の寸法と適合するように設計されていることが好ましい。この例(ブタ心臓)の場合は、中心軸Bと直行する方向の外径が40mmの真円、中心軸Bに沿う方向の厚さは20mmである。そして、上記偏心回転中心軸6は、本来の中心軸Bから10mm外側に偏心した位置の偏心軸Cに沿って取り付けられている。
【0063】
この偏心回転体2の寸法や外表面5bの形状は、上記した条件を満たす限り、模擬臓器モデル本体1の寸法や臓器種別、変位させたい部位の形状や位置に応じて適宜設計可能である。また、上記偏心中心軸を取り付ける位置、すなわち、偏心回転体の偏心挙動を決定する取り付け位置も同様に適宜決定可能である。
【0064】
例えば、
図4(b)に示すように、この偏心回転体2は、断面楕円形の形状であっても良い。この場合、上記偏心回転中心軸6は、この偏心回転体2の中心軸に沿って配置されていても良い。
【0065】
また、この偏心回転体2の製造方法や材質は適宜のものを採用することができるが、この例では、FDM方式の3次元プリンタを用いて作成したもので、ABSフィラメントを用いて製造されている。
【0066】
(駆動体)
次に、この実施形態における駆動部3は、小型の直流減速ギアドモータであり、
図3(b)に示すように、上記偏心回転中心軸6に直結されたものである。
【0067】
具体的には、この駆動部3は、直流12V直流モータ8に1:75の減速比を有する減速ギアヘッド9が取り付けられ、この減速ギアヘッド9から出力軸として前記偏心回転中心軸6が導出されている。
【0068】
このことで、例えば前記偏心回転体2の回転数を一般的心拍数と同値に設定することができる。この例では、減速ギアヘッド9からの減速回転数は心臓の拍動数に合わせて毎分60回転(60rpm)に設定されている。
【0069】
また、前記駆動部3は、例えばABS樹脂製の外装・ハウジング10に収められ、血液や組織液からの保護がされている。さらに、ポリエチレンやポリ塩化ビニデン製フィルムで駆動部3と偏心回転体2とを覆うことで、上記偏心回転体2を含むユニット4全体の保護を行うことがさらに好ましい。
【0070】
(駆動体の固定)
また、前記駆動部3により偏心回転体2を駆動する際に、この駆動部3自体が回転してしまうことを防止するために、この駆動部3を模擬臓器モデル本体1内に固定することが重要である。
【0071】
この実施形態では、前記駆動ユニット4(駆動部3と偏心回転体2)を模擬臓器モデル本体1に設けた挿入口(
図2)からその内部のスペース14に設置し(
図5)、設置後、上記切開した挿入口を、
図6に示すように縫合糸やステープラー等で閉鎖する。このことで、この閉鎖に伴う心筋組織からの外力により、駆動部3を上記模擬臓器モデル本体1内に固定することができる。
【0072】
なお、模擬臓器モデル本体1として動物臓器を用いる場合、サイズや組織性状には個体差がある。例えば、比較的大きい動物心臓に当該駆動ユニット4を設置する場合に駆動部3自身が回転してしまい、偏心回転体2と模擬臓器モデル本体1との間の摺動が正常に機能しないことも考えられる。この場合には、前記駆動部3が模擬臓器モデル1内で固定されやすいように、前記駆動部3のハウジング10に引っ掛かりとなる突起を設けたり、
図7に示すように固定用のステー15等の構造体を追加してこのステー15を用いて模擬臓器モデル本体1に固定することが好ましい。なお、このステー15の固定は、縫合糸やステープラーで行えばよい。
【0073】
(給電及び動作仕様)
Off-JTによる手術手技訓練は、簡便かつ、最小限の構成で行うことができることが重要である。典型的には、例えばオフィスのデスクトップでも行える構成を有することが好ましい。
【0074】
このため、この実施形態では、上記直流モータ8を動作させるのに、一般的AC-DC変換電源ではなく、
図3(b)に示すように昇圧回路16を介在させることでUSBコネクタ17を採用している。
【0075】
この例では前記駆動部3への給電は、前記USBコネクタを5V・12Wの電気容量を有するUSB電源に接続することにより行う。USB電源は、モバイルバッテリーなど世界的にどこでも入手可能であり、小型である。しかしながら出力電圧が5Vであるため、この例では、昇圧回路16により12Vに昇圧を行う構成としている。
【0076】
(動作例)
上述した構成からなる模擬臓器モデル1を、USBコネクタ17を用いて電源に接続すると。前記偏心回転中心軸6を介して偏心回転体2が60回/分で回転する。このことにより、偏心回転体2の外表面5bが心臓内腔のスペース14の内面に密着した状態を保ちながら摺動することで、心筋部が前記偏心回転体2の外表面5bの形状に追従し、前記偏心軸の偏心率/偏心量に応じて周期的に反復変位することになる。
【0077】
この実施形態では、モータの一回転360度において、180度と0度の位相での比較を行ったところ、心筋表面における法線方向の変異は約3mmとなった。
【0078】
この実施形態では、冠動脈バイパス手術トレーニングにおいて最も頻度の高いトレーニング箇所である左冠動脈前下行枝の直下に前記偏心回転体が配置されるように、前記駆動部3及び偏心回転体2の位置及び姿勢を調整されている。このことで、冠動脈前下行枝において特異的かつ局所的に約3mmの周期的反復運動を得ることができる。
【0079】
また、この実施形態では、駆動ユニット4全体が模擬臓器モデル本体1内に完全に埋め込まれており、一見すると装置の存在自体も認知できないことから、視覚的にも自然であり、非常にリアリティの高い拍動心臓モデルを得ることができる。
【0080】
(変形例)
上記の例では模擬臓器モデル本体はブタ心臓(320g)であったが、ヒツジ心臓等を用いる場合には、模擬臓器モデル本体は比較的小型(120g)であり、この場合、駆動体本体を埋め込むスペースを作成することは困難である。
【0081】
この実施形態は、模擬臓器モデル本体1として上記ヒツジの心臓を用いるものであり、
図8い示すように、偏心回転体2のみを模擬臓器モデル本体1内に埋め込み、偏心回転体2に取り付けられた偏心回転中心軸6は、可撓性を有する直径6mmの樹脂保護膜付きフレキシブルシャフト18を用いて延長されて模擬臓器モデル本体1外に導出され、駆動部3に接続されてなるものである。
【0082】
この状態で前記駆動部3を動作させると、上記フレキシブルシャフト18を介して偏心回転体2が心臓内腔で偏心回転させることができる。このことで、偏心回転体2の外表面5bが心臓内腔を摺動するから、心筋外面において周期性反復動作を得ることができる。
【0083】
このような呼吸性挙動を再現する場合、上記駆動体の駆動回転数としては10~30rpm、好ましくは15rpmであることが好ましい。
【0084】
なお、通常心拍を再現する場合には60rpm~120rpm、頻脈・不整脈200~300rpmであることが好ましい。
【0085】
(第2の実施形態)
この第2の実施形態は、胸腔鏡下における肺門部血管に対する手術手技を模擬する模擬臓器モデルを提供するものである。
【0086】
近年、内視鏡外科手術の発展が著しく、消化器外科のみならず胸部外科や脳神経外科にも内視鏡手術が適応されるようになってきている。内視鏡手術は、対象臓器に呼吸器性の挙動や、脈拍由来の挙動が付与されるため、手術の難易度が高い。したがって、効果的な手術トレーニングを行うには、模擬臓器モデルにそれらの挙動の再現が求められる。
【0087】
図19に示すように、この実施形態では模擬臓器モデル本体1’は、肺門部血管19を含むブタ心肺の一部である。この例では、この模擬臓器モデル本体1’の上記肺門部血管19の裏側に対応する位置を切開して上記駆動ユニット4’を埋め込むためのスペースを形成している。
【0088】
そして、この実施形態では、前記偏心回転体2’は、軸方向に沿う寸法15mm、軸に直行する方向の径10mmの断面形状が円形の円柱形状を有する。そして、この円柱形状の偏心回転体2’の偏心した位置から回転中心軸6を導出し駆動部3に接続されている。このように構成された駆動ユニット4’は、前記模擬臓器モデル本体1’のスペース内に埋め込まれ、上記スペースを設けた切開位置を閉じることによって上記駆動部3を固定する。
【0089】
このような構成によれば、この駆動体ユニット4’を毎分60回転で駆動部3を駆動することで、偏心回転体2を駆動することができ、偏心回転体2の表面と肺門部血管の裏側の面を摺動させることができる。このことで、肺門部血管の内壁を毎分60回、上下に約4mmの振幅で、周期性反復運動させることができる。
【0090】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は上記一実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々変形可能である。
【0091】
例えば、上記模擬臓器モデル本体1、1’は、動物由来の臓器であったが、シリコンやジェル等の人工材料で形成したものであっても良い。
【0092】
また、上記一実施形態では、単一の駆動体ユニット4、4’のみを模擬臓器モデル本体1、1’に埋め込んでいたが、2以上のユニット4、4’を埋め込んで複合的な動作を与えるようになっていても良い。
【0093】
さらに、上記回転体2の外表面の形状は模擬臓器モデル本体1、1’の内面に引っかからないスムーズな形状である必要があり、凹凸が形成されていることは好ましくないことはすでに述べた。ただし、
図10に示すように、周方向ではなく、軸方向に沿う方向に凹凸21が形成されていることについては問題がない。
【0094】
また、上記一実施形態では、上記駆動ユニット4を直接模擬臓器モデル本体1の内面と直接接触させていたが、例えば潤滑剤や潤滑部材を介在させても良い。潤滑部材としては例えばフレキシブル材料からなるバッグを上記模擬臓器モデルの内面に密着させた状態を挿入しておき、このバッグ内に上記駆動ユニット4を配置するようにしても良い。また、この際、バッグの内面に潤滑剤を塗布しておいても良い。
【符号の説明】
【0095】
1…模擬臓器モデル本体
2…偏心回転体
3…駆動部
4…臓器駆動ユニット
5…回転体本体
5a…一面
5b…外表面
6…偏心回転中心軸
8…直流モータ
9…減速ギアヘッド
10…ハウジング
14…スペース
15…ステー
16…昇圧回路
17…コネクタ
18…フレキシブルシャフト
19…肺門部血管
21…凹凸