(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022071785
(43)【公開日】2022-05-16
(54)【発明の名称】硬化膜を有する基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B05D 3/06 20060101AFI20220509BHJP
C08F 2/00 20060101ALI20220509BHJP
C08F 2/50 20060101ALI20220509BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220509BHJP
C09D 4/02 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
B05D3/06 Z
C08F2/00 C
C08F2/50
B05D7/24 302P
C09D4/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020180962
(22)【出願日】2020-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐内 康之
(72)【発明者】
【氏名】二宮 健
【テーマコード(参考)】
4D075
4J011
4J038
【Fターム(参考)】
4D075BB42Z
4D075BB56Y
4D075CA02
4D075CA13
4D075CA18
4D075CA47
4D075DA03
4D075DA06
4D075DA07
4D075DB01
4D075DB02
4D075DB07
4D075DB13
4D075DB31
4D075DB38
4D075DB43
4D075DB47
4D075DB48
4D075DB50
4D075EA07
4D075EB22
4D075EB56
4D075EC37
4D075EC54
4J011CA01
4J011CA02
4J011CA04
4J011CA05
4J011QA02
4J011QA03
4J011QA06
4J011QA13
4J011QA15
4J011QA17
4J011QA23
4J011QA24
4J011QA33
4J011QA34
4J011QA39
4J011QA45
4J011QA46
4J011QB14
4J011QB16
4J011QB20
4J011QB24
4J011SA01
4J011SA22
4J011SA23
4J011SA24
4J011SA25
4J011SA26
4J011SA28
4J011SA29
4J011SA32
4J011SA34
4J011SA38
4J011SA52
4J011SA61
4J011SA63
4J011SA64
4J011SA78
4J011TA07
4J011UA01
4J011VA01
4J011VA06
4J011VA09
4J011WA02
4J038FA121
4J038FA131
4J038FA141
4J038JA33
4J038KA04
4J038KA06
4J038MA13
4J038MA14
4J038PA17
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】簡便な方法により、短時間で硬化膜を形成することができ、得られる硬化膜が硬化収縮の問題がなく、さらに密着性、耐溶剤及び耐熱性に優れる活性エネルギー線硬化型組成物の提供。
【解決手段】下記活性エネルギー線硬化型組成物を基材に塗工した後、活性エネルギー線を照射する硬化膜を有する基材の製造方法。
◆活性エネルギー線硬化型組成物
下記(A)成分及び(B)成分を含み、(A)成分及び(B)成分の合計量100重量%中に、(A)成分を60~99.99重量%と(B)成分を0.01~40重量%含有する活性エネルギー線硬化型組成物。
(A)成分:1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物
(B)成分:水素引抜き型光重合開始剤
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記活性エネルギー線硬化型組成物を基材に塗工した後、活性エネルギー線を照射する硬化膜を有する基材の製造方法。
◆活性エネルギー線硬化型組成物
下記(A)成分及び(B)成分を含み、(A)成分及び(B)成分の合計量100重量%中に、(A)成分を60~99.99重量%と(B)成分を0.01~40重量%含有する活性エネルギー線硬化型組成物。
(A)成分:1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物
(B)成分:水素引抜き型光重合開始剤
【請求項2】
前記(A)成分が、アルキル基及び1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物/又は及び脂環式基及び1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物である請求項1に記載の硬化膜を有する基材の製造方法。
【請求項3】
前記(B)成分が、ベンゾフェノン系化合物である請求項1又は請求項2に記載の硬化膜を有する基材の製造方法。
【請求項4】
酸素の非存在下に活性エネルギー線を照射する請求項1~請求項3のいずれか1項に硬化膜を有する基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線硬化型組成物を使用した硬化膜を有する基材の製造方法に関し、活性エネルギー線硬化型組成物、当該組成物の使用方法及びコーティング剤に関する技術分野に属する。
尚、本明細書においては、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を(メタ)アクリロイル基と表し、アクリレート及び/又はメタクリレートを(メタ)アクリレートと表す。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化型組成物は、活性エネルギー線の照射により速硬化性を有し、さらに、有機溶剤を必要としないため、塗工後に乾燥工程が不要でエネルギー的に有利であるうえ、有機溶剤が環境に飛散するものでないため、環境問題が改善されたものとして、工業的に種々の用途に使用されている。
【0003】
活性エネルギー線硬化型組成物において、コーティング剤として使用する場合には、表面硬度、耐熱性、及び耐溶剤性等の高いコーティング性能を実現するために、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物〔以下、「多官能(メタ)アクリレート」という〕(即ち、架橋性モノマー)が配合されてきた。
多官能(メタ)アクリレートを配合することで、得られる硬化膜は高度に架橋された重合体構造を有するため、前記した性能が達成される。
【0004】
しかしながら、多官能(メタ)アクリレートを含む組成物は、活性エネルギー線の照射で重合するに際して、架橋反応によりゲル化を引き起こすという問題を有するものであった。
又、ゲル化を起こさず硬化膜が得られた場合においても、硬化収縮を引き起こし、その結果、硬化膜と基材の接着力が低下したり、コーティング後の物品に歪みが生じる問題を有するものであった。
【0005】
硬化収縮の程度を最小限に抑えるために、多官能(メタ)アクリレートは、好ましくは、組成物の配合割合を低下させるか、全く含まないことが考えられる。しかしながら、多官能(メタ)アクリレートに代え、(メタ)アクリロイル基を1個有する化合物〔以下、「単官能(メタ)アクリレート」という〕のみを含む組成物では、架橋反応が起こらないため、硬化膜の性能が低下してしまう。
例えば、非特許文献1では、単官能(メタ)アクリレートと光開裂型光重合開始剤を含む組成物が検討されている。
しかしながら、当該組成物を使用して紫外線照射により硬化膜を製造した場合、重合率を100%近傍まで高くしても、得られる重合体は架橋しないため、上記した硬化膜の物性は不十分なものであった。
【0006】
一方、単官能(メタ)アクリレートに、多官能(メタ)アクリレートを添加した組成物を使用する検討も行われている(非特許文献2、同3)。
しかしながら、これら文献に記載された組成物では、ごく少量でも多官能(メタ)アクリレートを配合すると、10%以下の重合率でゲル化してしまうという問題を有するものであった。さらに、硬化膜が得られたとしても、基材との密着性が低下してしまうものであった。
【0007】
従って、活性エネルギー線硬化型組成物を使用して、高い物理的特性と低い硬化収縮度の両方を備えた硬化膜を得るためには、多官能(メタ)アクリレート以外の代替成分を使用するか、又は、他の手段により硬化膜を製造する方法を検討する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】SANAI,Y. et al., Chain-End Lactonization of Polyacryates Prepared by Photopolymerization, J.Polym.Sci.: Part A: Polym. Chem. 2014, 52, 1161-1171
【非特許文献2】Gordon,M. et al., Diffusion and gelation in polyaddition. I. Vindication of the classical network theory of gelation, J.Polym.Sci. 1956, 21, 27-37
【非特許文献3】Matsumoto, A. et al., Discussion of "greatly delayed gelation from theory in free-radical cross-linking multivinyul polymerization accompanied by microgel formation" based on multivinyl polymerization, Macromolecules 2010, 43, 6834-62.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、簡便な方法により、短時間で硬化膜を形成することができ、得られる硬化膜が硬化収縮の問題がなく、さらに密着性、耐溶剤及び耐熱性に優れる活性エネルギー線硬化型組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するためには、1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物と水素引抜き型光重合開始剤を特定割合で含む組成物を基材に塗工した後、活性エネルギー線を照射する硬化膜を有する基材の製造方法が有効であることを見出し、本発明を完成した。
以下、本発明を詳細に説明する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、簡便な方法により、短時間で硬化膜を形成することができ、得られる硬化膜が硬化収縮の問題がなく、さらに密着性、耐溶剤及び耐熱性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、下記活性エネルギー線硬化型組成物を基材に塗工した後、活性エネルギー線を照射する硬化膜を有する基材の製造方法に関する。
◆活性エネルギー線硬化型組成物
下記(A)成分及び(B)成分を含み、(A)成分及び(B)成分の合計量100重量%中に、(A)成分を60~99.99重量%と(B)成分を0.01~40重量%含有する活性エネルギー線硬化型組成物。
(A)成分:1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物
(B)成分:水素引抜き型光重合開始剤
以下、活性エネルギー線硬化型組成物、硬化膜を有する基材の製造方法、並びに硬化膜を有する基材の用途について説明する。
【0013】
1.活性エネルギー線硬化型組成物
本発明の製造方法では、下記(A)成分及び(B)成分を含み、(A)成分及び(B)成分の合計量100重量%中に、(A)成分を60~99.99重量%と(B)成分を0.01~40重量%含有する活性エネルギー線硬化型組成物を使用する。
(A)成分:1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物
(B)成分:水素引抜き型光重合開始剤
以下、(A)成分、(B)成分、及び活性エネルギー線硬化型組成物について説明する。
【0014】
1-1.(A)成分
(A)成分は、1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物である。
2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物の場合には、活性エネルギー線照射による重合初期から架橋反応が起こるため、ゲル化が起こってしまったり、得られる硬化膜に硬化収縮が起こってしまう。
【0015】
(A)成分の具体例としては、(メタ)アクリロイル基を1個有する化合物であれば種々の化合物を使用することができ、(メタ)アクリロイル基を1個有するアクリレート(以下、「単官能(メタ)アクリレート」という)が好ましい。
単官能(メタ)アクリレートの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチルアクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート及びステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等の脂環式基を有する単官能(メタ)アクリレート;
エチルカルビトール(メタ)アクリレート及び2-エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート等のアルキルカルビトールアクリレート等のアルコキシアルキル基を有する単官能(メタ)アクリレート;並びに
ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、o-フェニルフェノキシ(メタ)アクリレート及びp-クミルフェノールエチレン(メタ)アクリレート等の芳香族単官能(メタ)アクリレート
等が挙げられる。
【0016】
(A)成分としては、官能基を有する化合物も使用することができる。この場合の官能基の例としては、親水性基が好ましく、カルボキシル基、水酸基等の及びアミド基が挙げられる。
カルボキシル基を有する化合物としては、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
水酸基を有する化合物としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート及びヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキルアクリレート等が挙げられる。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートにおけるアルキル基の炭素数としては、2~8が好ましい。
アミド基を有する化合物の例としては、アクリルアミド等が挙げられる。
親水性基を有する(メタ)アクリレートを使用することで、得られる硬化膜に親水性又は水溶性を付与することができる。
【0017】
(A)成分としては、硬化性が要求される場合には、アクリレートを使用することが好ましい。
メタクリレートを使用すると、活性エネルギー線照射における重合速度が低下することに加え、(B)成分がメタクリレート中のエステルのアルキル基以外にメタクリロイル基のα位のメチル基から水素原子を引き抜き、重合を開始する場合もある。メタクリロイル基のα位から水素原子を引き抜いて重合が起こるとメタクリレートの末端に形成される二重結合は重合活性が低いものとなり好ましくない。
従って、メタクリレートを使用する場合は、アクリレートとメタクリレートの合計100重量%中に、40重量%以下とすることが好ましく、20重量%以下がさらに好ましい。
【0018】
後記に反応機構を示す通り、本発明では、(B)成分の存在下に(A)成分に活性エネルギー線を照射することにより、(A)成分のエステル基に隣接する水素原子を引き抜くことで開始ラジカルを生成し、中間体である末端に(メタ)アクリロイル基を有する重合体(以下、単に「中間体」という)が生成する。
(A)成分としては、硬化性が要求される場合には、アクリレートを使用することが好ましい。一方、得られる硬化膜に、高いガラス転移温度(以下、「Tg」という)が要求される場合には、メタクリレートを使用することが好ましい。
さらに、(A)成分としては、(A)成分のエステル基に隣接する水素原子を有する置換基を有することもあるアルキルアクリレート及び脂環式基を有するアクリレートが好ましく、アルキルアクリレートが硬化性に優れる点でより好ましい。
【0019】
又、硬化膜に物理物性が要求される場合は、(A)成分として硬化物のTgが50℃以上の(メタ)アクリレートを使用することが好ましく、より好ましくは60℃以上である。
具体例としては、イソボルニルアクリレート(文献値のTg:94℃)、ジシクロペンタニルアクリレート〔昭和電工マテリアルズ(株)カタログ値のTg:120℃〕、ジシクロペンテニルアクリレート〔昭和電工マテリアルズ(株)カタログ値のTg:120℃〕、アクリロイルモルホリン〔KJケミカルズ(株)カタログ値のTg:145℃〕等が挙げられる。
尚、本発明においてTgとは、示差走査熱量計(DSC)を用いて10℃/分の昇温速
度で測定した値を意味し、△T-温度曲線においてガラス転移温度中間点(Tmg)にお
ける値を意味する。
【0020】
以下、本発明の反応機構について説明する。
本発明者らの検討によれば、活性エネルギー線により励起された(B)成分が(A)成分から水素原子を引き抜くことにより生成した(A)成分のラジカルから重合が開始することで、中間体として、重合体の末端に(メタ)アクリロイル基を導入できるものと推定している。
下記に、(A)成分として(A1)アルキルアクリレートを使用し、(B)成分として(B1)ベンゾフェノンを使用した場合の反応式を示す。
下記式において、(A1)のRはアルキル基から水素原子を除いた残基、(B1)-Rは、(A1)から水素原子を引き抜くことにより生成した(B1)のラジカル、及び(A1)-Rは、これにより生成した(A)のラジカルを意味する。
【0021】
【0022】
(A)成分中の水素原子としては、(A)成分のエステル基の酸素原子に隣接する水素原子が引き抜かれることによる重合開始が支配的であると考えられる。上記式では、(A1)-Rがこれに該当する。
【0023】
上記で生成した(A)成分のラジカルが別の(A)成分のアクリロイル基と反応して重合が進行し、成長ラジカルを形成する。
上記の式の反応を例に挙げると、下記式の通り(A1)-Rが、(A1)のアクリロイル基と反応して重合が進行し、成長ラジカルを形成する。
【0024】
【0025】
(B)成分は、前記した通り、(A)成分中のエステル基の酸素に隣接する水素原子を優先的に引き抜くことで開始ラジカルを生成し、重合を開始するものであるが、エーテルや水酸基に隣接するメチレンの水素原子も引き抜かれやすいことが知られている。本発明らの検討によれば、これらの反応が起こると、活性エネルギー線照射工程において、高分子鎖のこれらの官能基を含むユニットにおいても水素引抜とそれにともなう分岐や架橋反応が生起することが分かった。
従って、(A)成分中に含まれるエーテル基含有(メタ)アクリレートや水酸基含有(メタ)アクリレートの割合は、(A)成分中に50重量%以下とすることが好ましく、より好ましくは30重量%以下であり、特に好ましくは10重量%以下である。この割合を50重量%未満とすることで、低い重合率におけるゲル化の発生を防止し、硬化膜を得ることができる。
【0026】
本発明では、重合反応において中間体を生成し、中間体がさらに重合することにより、硬化膜を得ることができる。
このため得られる硬化膜に、多官能(メタ)アクリレートを配合した場合と同様に、各種硬化膜物性に優れる硬化膜を得ることができる。
【0027】
1-2.(B)成分
(B)成分は、水素引抜き型光重合開始剤である。
(B)成分の存在下に(A)成分に活性エネルギー線を照射することにより、(A)成分のエステル基に隣接する水素原子を引き抜くことで開始ラジカルを生成し、中間体として末端に(メタ)アクリロイル基を有する反応性重合体を製造することができる。
(B)成分とは異なる、例えば1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン等の開裂型の光重合開始剤を用いると、末端にアクリロイル基を含有しない重合体が得られてしまい、反応性重合体として使用することができない。
【0028】
(B)成分としては、
ベンゾフェノン、2-メチルベンゾフェノン、3-メチルベンゾフェノン、4-メチルベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、4-(メチルフェニルチオ)フェニルフェニルメタン、メチル-2-ベンゾフェノン、1-[4-(4-ベンゾイルフェニルスルファニル)フェニル]-2-メチル-2-(4-メチルフェニルスルフォニル)プロパン-1-オン、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン及び4-メトキシ-4’-ジメチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;
ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル及びベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン系化合物;並びに
チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、1-クロロ-4-プロピルチオキサントン、3-[3,4-ジメチル-9-オキソ-9H-チオキサントン-2-イル-オキシ]-2-ヒドロキシプロピル-N,N,N―トリメチルアンモニウムクロライド及びフルオロチオキサントン等のチオキサントン系化合物等が挙げられる。
これら化合物以外にも、ベンジルケタール、アントラキノン、エチルアントラキノン、フェナントレンキノン、キサントン、及びヒドロキシアセトフェノン等が挙げられる。
又、(B)成分としては、これらの化合物以外にも、水素引き抜き反応と開裂反応の両方を起こす光重合開始剤を使用することもできる。当該光重合開始剤の例としては、ベンゾイルぎ酸アルキルが例示され、具体的には、ベンゾイルぎ酸メチル、ベンゾイルぎ酸エチル、ベンゾイルぎ酸プロピル、及びベンゾイルぎ酸ブチル等が挙げられる。
(B)成分としては、これら化合物の中でもベンゾフェノン系化合物が好ましい。
【0029】
(B)成分としては、前記した化合物と増感剤を組合わせて使用することもできる。
増感剤の例としては、脂肪族アミン及び芳香族アミン等が挙げられる。芳香族アミンとしては、ジエチルアミノフェノン、ジメチルアミノ安息香酸エチル及びジメチルアミノ安息香酸イソアシル等が挙げられる。
しかしながら、本発明において重要なことは、(B)成分が(A)成分のエステル基に隣接する水素原子を引き抜いて重合を開始することであり、これら増感剤から水素が引き抜かれて重合が開始された場合、得られる重合体は末端に増感剤由来の構造を持つこととなり、中間体に(メタ)アクリロイル基を導入することができない。
従って、これら増感剤は、重合速度を高める必要がある場合等においてやむを得ず使用するに留めることが好ましく、使用する場合においても最少量の使用量にとどめることが好ましい。したがって、増感剤の配合割合としては、(B)成分100重量部に対して10重量部以下とすることが好ましい。
【0030】
1-3.組成物
本発明の製造方法では、前記(A)成分及び(B)成分を必須成分とする組成物を使用する。
本発明で使用する組成物は、(A)成分及び(B)成分の合計量100重量%中に、(A)成分を60~99.99重量%と(B)成分を0.01~40重量%の割合で含有する。
(A)成分の割合が60重量%に満たない場合は、得られる硬化膜中に残存する多量の(B)成分が、各種用途で使用する場合に着色やブリードの原因となることがある。
逆に(A)成分の割合が99.99重量%を超えると、活性エネルギー線照射時の重合速度が遅くなりすぎ、生産性が悪くなる他、これを補うために照射強度を高くするとエネルギーコストが不利になるうえ、光源から発生する熱の影響により組成物の温度が高くなり、(メタ)アクリロイル基と異なる重合活性が低い二重結合が導入された重合体の割合が多くなってしまい、得られる中間体の反応性が低下してしまい、その結果、最終的に得られる硬化膜の表面硬度や耐熱性が低下してしまう。
(A)成分及び(B)成分の割合としては、(A)成分及び(B)成分の合計量100重量%中に、(A)成分を80~99重量%及び(B)成分を1~20重量%の割合で含むことが好ましく、より好ましくは(A)成分を85~99重量%及び(B)成分を1~15重量%である。
【0031】
組成物の製造方法としては、常法に従えば良く、例えば、(A)及び(B)成分、必要に応じてその他の成分を撹拌混合して製造することができる。
【0032】
本発明で使用する組成物は、硬化性成分として、本発明の効果を害しない範囲で、必要に応じて多官能不飽和化合物及び(A)成分以外のエチレン性不飽和基を1個有する化合物〔以下、「(A)’成分」という〕を少量併用しても良い。
【0033】
多官能不飽和化合物としては、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物〔以下、「多官能(メタ)アクリレート」という〕が好ましい。
多官能(メタ)アクリレートとしては、ビスフェノールFエチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールZエチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートモノステアレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート、
ペンタエリスリトールのトリ又はテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンのトリ又はテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのペンタ又はヘキサ(メタ)アクリレート等のポリオールポリ(メタ)アクリレート;
ポリオールアルキレンオキサイド付加物のポリ(メタ)アクリレート;
イソシアヌル酸アルキレンオキサイド付加物のトリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
尚前記における、アルキレンオキサイド付加物の例としては、エチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物、並びに、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
又、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートやエポキシ(メタ)アクリレート等のオリゴマーも使用することができる。
【0034】
(A)’成分としては、スチレン、(メタ)アリル化合物及びビニルエーテル等を挙げることができる。
【0035】
多官能不飽和化合物又は/及び(A)’成分を併用する場合の割合としては、(A)成分、多官能不飽和化合物又は/及び(A)’成分の合計100重量%中に、多官能不飽和化合物又は/及び(A)’成分が0.001~10重量%で含むことが好ましい。
【0036】
本発明の組成物は、基材への塗工性を改善する等の目的で、有機溶剤を含むことができる。
【0037】
有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール及びブタノール等のアルコール化合物;エチレングリコールモノメチルエーテル及びプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノエーテル化合物;ダイアセトンアルコール等のアセトンアルコール;ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族化合物;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル化合物;アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン化合物;ジブチルエーテル等のエーテル化合物;並びにN-メチルピロリドン等が挙げられる。
これらの中でも、アルキレングリコールモノエーテル化合物、ケトン化合物が好ましく、アルキレングリコールモノエーテル化合物がより好ましい。
【0038】
有機溶剤の含有割合は、硬化性成分の合計量100重量部に対して、10~1,000重量部であることが好ましく、50~500重量部であることがより好ましく、50~300重量部であることがさらに好ましい。上記範囲であると、組成物を塗工に適当な粘度とすることができ、後記する公知の塗布方法で組成物を容易に塗布することができる。
尚、活性エネルギー線を照射する工程で組成物中に有機溶剤が残存していると、(B)成分(光重合開始剤)が(A)成分の(メタ)アクリレートではなく、有機溶剤から水素を引き抜き、反応性を持たないポリマーが生成するおそれがある。従って、有機溶剤は活性エネルギー線照射前に乾燥により除去することが好ましい。
【0039】
組成物には、前記以外にも、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料・染料、シランカップリング剤、表面改質剤及びポリマー等を配合することができる。
【0040】
2.硬化膜を有する基材の製造方法
本発明は、前記した組成物を、基材に塗布した後、活性エネルギー線を照射射する硬化膜を有する基材の製造方法に関する。
以下、製造方法の詳細について説明する。
【0041】
基材を構成する材料としては、種々の材料を使用することができ、金属、ガラス、プラスチック及び木材等が挙げられる。
金属としては、アルミニウム及び鉄等が挙げられる。
プラスチックの具体例としては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、エポキシ樹脂及びポリウレタン樹脂等が挙げられる。
プラスチックとしては、離型処理されたプラスチックも使用することができる。当該プラスチックとしては、プラスチックに離型剤が処理されたものが好ましく、シリコーン処理ポリエチレンテレフタレートフィルム、表面未処理ポリエチレンテレフタレートフィルム、表面未処理シクロオレフィンポリマーフィルム及び表面未処理OPPフィルム(ポリプロピレン)等が挙げられる。
【0042】
本発明の組成物の基材への塗工方法としては、常法に従えば良い。
例えば、バーコート、ロールコート、スピンコート、ディップコート、グラビアコート、フローコート及びスプレーコート等が挙げられる。
【0043】
基材の形状としては、目的に応じて適宜選択すれば良く、板状及びベルト状が挙げられ、空間部を有する基材に場合は、凹部を有する形状、及び板に堰を有する形状等が挙げられる。
【0044】
本発明の組成物として、有機溶剤を含む場合は、基材に塗工した後、加熱・乾燥させ、有機溶剤を蒸発させることが好ましい。
乾燥温度は、適用する基材が変形等の問題を生じない温度以下であれば特に限定されるものではない。好ましい加熱温度としては、40~100℃である。乾燥時間は適用する基材及び加熱温度によって適宜設定すれば良く、好ましくは0.5~20分である。
溶剤系は加熱
【0045】
本発明の組成物を重合・硬化させるための活性エネルギー線としては、紫外線、可視光線及び電子線等が挙げられるが、紫外線が好ましい。
紫外線照射装置としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、UV無電極ランプ、及びLED等が挙げられる。
照射エネルギーは、活性エネルギー線の種類や配合組成に応じて適宜設定すべきもので
あるが、一例として高圧水銀ランプを使用する場合を挙げると、UV-A領域の照射エネ
ルギーで100~5,000mJ/cm2が好ましく、200~1,000mJ/cm2がより好ましい。
【0046】
活性エネルギー線の照射においては、(A)成分として酸素により重合阻害が大きい脂環式アクリレートやメタクリレートを使用する場合は、酸素の非存在下に活性エネルギー線を照射することが好ましい。
酸素の非存在下に活性エネルギー線を照射する方法としては、基材に組成物を塗工し、活性エネルギー線照射装置に窒素ガス等の不活性ガスを供給して不活性ガス雰囲気下で活性エネルギー線を照射する方法、及び基材に組成物を塗工した後、塗工面に他の基材を重ね非空気(酸素)雰囲気下とし、活性エネルギー線を照射する方法等が挙げられる。
【0047】
3.用途
本発明の製造方法により得られた硬化膜を有する基材は、種々の用途に使用可能である。
例えば、組成物として、コーティング剤、インキ、パターン形成剤及び接着剤等を使用した場合には、これら硬化膜が基材に形成された材料が得られる。
例えば、組成物として、コーティング剤を使用した場合は、被覆材及び塗装品が得られる。組成物として、インキを使用した場合には印刷物品が得られる。
本発明は、組成物としてコーティング剤を使用した硬化膜を有する基材の製造方法に好ましく使用することができる。
コーティング剤としては、ハードコート用途として好ましく使用でき、基材としては、タッチセンサに用いられるプラスチックフィルム、偏光子保護フィルムや反射防止フィルムに用いられるプラスチックフィルム、スマートフォンやタブレット用保護フィルム、家電製品や自動車内外装部品に用いられる樹脂成型品等が挙げられる。
【実施例0048】
以下に、実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
尚、以下の各例における「部」は重量部、「%」は重量%を意味する。
【0049】
1.中間体の確認
1)参考例1
(A)成分のラウリルアクリレート〔大阪有機(株)製〕97部と(B)成分のベンゾフェノン3部とを室温で撹拌及び混合し、組成物を得た。
得られた組成物をアルミ箔〔住軽アルミ箔(株)製マイホイル、膜厚12μm〕上に、バーコーター#16を用いて組成物の膜厚が100μmとなるよう塗工した。
次いで、高圧水銀ランプ〔アイグラフィックス(株)製アイ紫外硬化用電源装置 形式UB032-5B〕を用い、UV-A強度70mW/cm2〔フュージョン製 POWER PUCK IIで測定〕にて紫外線照射を行った。
照射時間3秒、5秒、10秒、20秒、及び30秒で得られた硬化膜をスパーテルで回収した。
得られた重合体の重量を測定した後、ドライアイス/アセトンで冷却し、重合体に対して10~15重量倍の混合溶液〔メタノール/水=85/15(体積比)〕を用いて洗浄した。尚、洗浄操作前の重合体を冷却した理由は、得られた重合体は低分子量であるため、混合溶液中に重合体が溶解してしまうことを防止するためのである。尚、得られた重合体が数g以下の場合は、洗浄操作を3回繰り返した。
洗浄後の重合体を、減圧下(1,000Pa)30℃で24時間乾燥させた。
照射時間10秒、20秒、及び30秒で得られた硬化膜を混合溶液で洗浄及び乾燥させて得られた重合体(以下、それぞれ「重合体1-1」、「重合体1-2」、「重合体1-3」という)を使用して、下記の方法の方法に従い各種物性を測定した。それらの結果を、表1に示す。
【0050】
(1)物性評価
(1-1)アクリロイル基の確認
得られた重合体1-1~同1-3について、1H NMR〔JEOL(株)製商品名:JNM-ECA 400を使用〕を測定した結果、アクリロイル基に基づくピークが確認され、アクリロイル基を有する重合体であることを確認した。
MALDI-TOFMS装置〔日本電子(株)製商品名:SpiralTOF JMS-S3000〕を使用して得られた重合体の質量数のピークを用いて構造の帰属を行い、この結果からもアクリロイル基が導入されていることを確認した。
さらに、これら重合体とイソシアネート化合物を反応させたものをMALDI-TOFMS分析し、得られた質量数のピークを用いて構造の帰属をした結果、水酸基を有する重合体を含むものであることを確認した。
【0051】
(1-2)重合率
各紫外線照射時間で得られた重合体について、混合溶液洗浄・乾燥後の重合体の重量を測定し、下式に基づき重合率(重量法)を計算した。
重合率(重量法)(%)=(精製後の重合体重量/組成物の重量)×100
【0052】
(1-3)Mw
得られた重合体1-1~同1-3について、下記条件でGPCを測定しMwを測定した。
・装置:Waters(株)製 GPC システム名 1515 2414 717P RI
・カラム:東ソー(株)製TSKgel SuperMultiporeHZ-M(細孔多分散型充填剤)×4本
・カラム温度:40℃
・溶離液:THF
・検出器:RI
【0053】
【0054】
2)参考例2
参考例1と同様の組成物を使用し、参考例1と同様のアルミ箔上に、バーコーター#16を用いて組成物の膜厚が100μmとなるよう塗工した。さらに、この塗膜上に膜厚60μmのポリプロピレンフィルム〔サン・トックス(株)製、商品名:サントックス-OP〕で被覆してラミネートとすることで、空気界面から組成物への酸素供給を遮断した。
次いで、参考例1と同様の装置を使用し、及び同様の紫外線照射条件で紫外線照射を行った。
照射時間5秒、8秒、及び12秒で得られた硬化膜をスパーテルで回収し、参考例1と同様の方法で、混合溶液による洗浄及び乾燥を行った。
又、照射時間5秒、8秒、及び12秒で得られた硬化膜を混合溶液で洗浄及び乾燥させて得られた重合体(以下、それぞれ「重合体2-1」、「重合体2-2」、「重合体2-3」という)を使用して、参考例1と同様の方法で各種物性を測定した。それらの結果を表2に示す。下記に特記事項を記載した。
【0055】
(1)物性評価
(1-1)アクリロイル基の確認
得られた重合体2-1~同2-3について、1H NMRを測定した結果、アクリロイル基に基づくピークが確認され、アクリロイル基を有する重合体であることを確認した。
又、MALDI-TOFMSによる測定結果によっても、アクリロイル基が導入されていることを確認した。
【0056】
(1-2)重合率
得られた重合体2-1~同2-3について、前記と同様の方法で重合率(重量法)を測定した。
【0057】
(1-3)Mw
得られた重合体2-1~同2-3について、前記と同様の方法でMwを測定した。
【0058】
【0059】
3)参考比較例1
(A)成分のラウリルアクリレート〔大阪有機(株)製〕95部と(B)成分と異なる光重合開始剤である1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(IGM RESINS B.V.社製、商品名Omnirad184)5部とを室温で撹拌混合し、組成物を得た。
得られた組成物を使用し、参考例1と同じ方法でアルミ箔に塗工した後に、参考例1と同様の条件で紫外線を60秒照射した。
得られた重合体をスパーテルで回収し、メタノールを用いて3回洗浄した。重量法により得られた重合率は92%であった。
1H NMRを測定した結果、アクリロイル基に基づくピークが確認されなかった。
又、MALDI-TOFMSによる測定結果によっても、アクリロイル基が導入されていないことを確認した。
【0060】
2.硬化膜を有する基材の製造方法
1)実施例1
(A)成分のイソボルニルアクリレート〔大阪有機(株)製。以下、「IBXA」という。〕48.5gと(B)成分のベンゾフェノン1.5gとを室温で3時間撹拌及び混合し、組成物を得た。
【0061】
得られた組成物をPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム〔東洋紡(株)製コスモシャイン(登録商標)A-4360、膜厚100μm〕上に、バーコーター#16を用いて組成物の膜厚が20μmとなるよう塗工した。
塗工後の基材は、紫外線を透過するための窓として石英ガラスプレートを備えた容器に入れた。
次いで、中圧水銀ランプ〔60W/cm中圧水銀灯、アイグラフィックス(株)製アイ紫外硬化用電源装置 形式UB032-5B〕を用い、UV-A強度70mW/cm2〔フュージョン製 POWER PUCK IIで測定〕にて、実施例1の組成物は80秒間、実施例2の組成物は30秒、比較例1の組成物は30秒紫外線照射を行った。
得られた硬化膜を有する基材について、以下の通り、重合率、耐熱性、耐溶剤性、密着性、及びカールを評価した。それらの結果を、表3に示す。
【0062】
(1)物性評価
(1-1)重合率(重量法)
重合率を、重量法により測定した。
得られた組成物をシクロオレフィンポリマーフィルム〔日本ゼオン(株)製ゼオノア(登録商標)、膜厚100μm〕上に、バーコーター#16を用いて組成物の膜厚が20μmとなるよう塗工した。
次いで、前記と同様の紫外線照射条件で紫外線照射し、硬化膜を得た。
得られた硬化膜をスパーテルで回収し、重量を測定した。
未反応モノマーを除去するため、沈殿剤としてメタノールを使用し、回収した硬化膜をメタノールに入れ、再沈殿を行った。再沈殿後の硬化膜の重量を測定した。
得られた硬化膜について、再沈殿前後の硬化膜の重量を測定し、下式に基づき重合率(重量法)を計算した。
重合率(重量法)(%)=(再沈殿後の硬化膜重量/組成物の重量)×100
【0063】
(1-2)耐熱性
耐熱性の指標として、DSCによる硬化物のTg(ガラス転移温度)の測定を行った。
Tgの測定には、DSC 214 Polyma(NETZSCH-Geratebau GmbH)を用い、測定中の試料の酸化を防ぐために窒素雰囲気下にて測定を行った。
まず、得られた硬化膜を有する基材を使用して10℃/分にて25℃から150℃に昇温し、150℃にて5分保持した後に、-10℃/分にて-20℃まで冷却した。次いで、10℃/分にて150℃まで昇温し、二度目の昇温における加熱曲線の変曲点からTgを求めた。
【0064】
(1-3)耐溶剤性
得られた硬化膜を有する基材の表面に、2-プロパノールをしみこませた不織布〔BEMCOT(登録商標) 旭化成(株)製〕にて、荷重2.0Nで2回擦ったのちに、ヘイズ値を測定し、試験前後のヘイズ値の差(ΔH)から耐溶剤性を評価した。
ΔHが小さいほど耐溶剤性が良好であることを示す。ヘイズ値の測定は、JIS K7136に従い、ヘイズメーター NDH 2000(日本電色工業(株))を用いた。
【0065】
(1-4)密着性
得られた硬化膜を有する基材を使用して、JIS K5400-5-6に従い、碁盤目剥離試験を行った。25個の升目を作製し、テープにて剥離試験を行い剥がれずに残ったマス目を数えた。25であれば、全く剥がれがないことを表す。
【0066】
(1-5)カール
得られた組成物を使用し、前記と同様の方法で東洋紡(株)製PETフィルムコスモシャインA-4360に塗工した後、前記と同様の条件で紫外線照射を行い、膜厚20μmの硬化膜層を形成した。
これを5cm角に裁断し、四隅の浮き上がり高さを測定した。比較例2はフィルム全体がカールして高さを測定できなかったため、10mm以上と記載した。
【0067】
2)実施例2
(A)成分のIBXAの49.0gと(B)成分のベンゾイルギサンメチル(IGM Resins B.V.社製、商品名:Omnirad MBF)1.0gとを室温で3時間撹拌及び混合し、組成物を得た。
得られた組成物を使用し、実施例1と同様の方法で基材に塗工し、実施例1と同様の方法及び条件で紫外線を照射して、硬化膜を有する基材を製造した。
当該基材を使用して、実施例1と同様に評価した。それらの結果を表3に示す。
【0068】
3)比較例1
参考比較例1で調製した組成物を使用した。
得られた組成物を使用し、実施例1と同様の方法で基材に塗工し、実施例1と同様の方法及び条件で紫外線を照射して、硬化膜を有する基材を製造した。
当該基材を使用して、実施例1と同様に評価した。それらの結果を表3に示す。
【0069】
4)比較例2
ジペンタエリスリトールペンタ及びヘキサアクリレートの混合物〔東亞合成(株)製、商品名:アロニックスM402〕97部と(B)成分のベンゾフェノン3部とを室温で3時間撹拌及び混合し、組成物を得た。
得られた組成物を使用し、実施例1と同様の方法で基材に塗工し、実施例1と同様の方法及び条件で紫外線を照射して、硬化膜を有する基材を製造した。
当該基材を使用して、実施例1と同様に評価した。それらの結果を表3に示す。
【0070】
【0071】
実施例1及び同2の結果から明らかな通り、本発明の製造方法によれば、硬化性に優れ、得られる硬化膜は、カールが少ない硬化収縮の問題がないもので、さらに耐熱性、耐溶剤、及び密着性に優れるものであった。
一方、(B)成分と異なる光重合開始剤を含む組成物を使用した比較例1の製造方法では、硬化性に優れ、得られる硬化膜は、カールが少ない硬化収縮の問題がないもので、さらに密着性に優れるものであったが、耐熱性及び耐溶剤性が低下してしまった。
又、(A)成分に代え多官能アクリレートを含む組成物を使用した比較例2の製造方法では、得られる硬化膜は、耐熱性及び耐溶剤性に優れるものであったが、硬化性がやや低下し、カールが大きい硬化収縮の問題が発生し、さらに密着性が大きく低下してしまった。
本発明の製造方法は、硬化膜を有する基材の製造に有用であり、活性エネルギー線硬化型組成物として、コーティング剤、インキ、パターン形成剤及び接着剤等を使用して得られた硬化膜を有する物品等の様々な用途に使用することができる。