(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022071919
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】冷間圧延設備、冷間圧延方法、及び金属板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 27/10 20060101AFI20220510BHJP
B21B 45/02 20060101ALI20220510BHJP
B21B 1/22 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
B21B27/10 B
B21B45/02 310
B21B1/22 L
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020181050
(22)【出願日】2020-10-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 昇輝
(72)【発明者】
【氏名】大橋 美和
(72)【発明者】
【氏名】荒川 哲矢
(72)【発明者】
【氏名】松原 行宏
【テーマコード(参考)】
4E002
【Fターム(参考)】
4E002AD05
4E002BA01
4E002BB19
4E002BC02
4E002BC08
4E002CA08
4E002CA09
4E002CA20
(57)【要約】
【課題】水平方向のチャタリングが発生することを抑制可能な冷間圧延設備及び冷間圧延方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る冷間圧延設備は、複数の圧延スタンドを備える冷間タンデム圧延機と、冷間圧延タンデム機に圧延油を供給する圧延供給系統と、を備え、圧延供給系統は、第1エマルション圧延油を供給する第1圧延油供給系統と、第1エマルション圧延油より高濃度の第2エマルション圧延油を供給する第2圧延油供給系統と、を有し、下記数式(1)を満たすように、複数の圧延スタンドの内、少なくとも特定の圧延スタンドに対して、第1エマルション圧延油と第2エマルション圧延油が混合された混合圧延油が供給されることを特徴とする。0.6≦F2/F1≦1.4…(1)、F1:前記特定の圧延スタンドが備えるロールに対して圧延方向に作用する第1水平力、F2:前記特定の圧延スタンドの上流側に隣接して配置される上流側圧延スタンドが備えるロールに対して圧延方向に作用する第2水平力
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧延スタンドを備える冷間タンデム圧延機と、
前記冷間タンデム圧延機に圧延油を供給する圧延供給系統と、を備え、
前記圧延供給系統は、第1エマルション圧延油を供給する第1圧延油供給系統と、第1エマルション圧延油より高濃度の第2エマルション圧延油を供給する第2圧延油供給系統と、を有し、
下記数式(1)を満たすように、前記複数の圧延スタンドの内、少なくとも特定の圧延スタンドに対して、前記第1エマルション圧延油と前記第2エマルション圧延油が混合された混合圧延油が供給されることを特徴とする冷間圧延設備。
0.6≦F2/F1≦1.4…(1)
F1:前記特定の圧延スタンドが備えるロールに対して圧延方向に作用する第1水平力
F2:前記特定の圧延スタンドの上流側に隣接して配置される上流側圧延スタンドが備えるロールに対して圧延方向に作用する第2水平力
【請求項2】
前記第1水平力及び前記第2水平力が共に所定の基準値を超える場合、前記特定の圧延スタンド及び前記上流側圧延スタンドの双方に前記混合圧延油が供給され、
前記第1水平力及び前記第2水平力の内、前記第1水平力のみが所定の基準値を超える場合は、前記特定の圧延スタンドに前記混合圧延油が供給され、前記上流側圧延スタンドには前記混合圧延油が供給されないことを特徴とする請求項1に記載の冷間圧延設備。
【請求項3】
前記第1水平力及び前記第2水平力が共に所定の基準値を超える場合、及び前記第1水平力及び前記第2水平力の内、前記第1水平力のみが所定の基準値を超える場合、前記特定の圧延スタンドに前記混合圧延油が供給され、前記上流側圧延スタンドには前記混合圧延油が供給されないことを特徴とする請求項1に記載の冷間圧延設備。
【請求項4】
複数の圧延スタンドを備える冷間タンデム圧延機と、
前記冷間タンデム圧延機に圧延油を供給する圧延供給系統と、を備え、
前記圧延供給系統は、第1エマルション圧延油を供給する第1圧延油供給系統と、第1エマルション圧延油より高濃度の第2エマルション圧延油を供給する第2圧延油供給系統と、を有し、
下記数式(2)を満たすように、前記複数の圧延スタンドの内、少なくとも特定の圧延スタンドに対して、第1エマルション圧延油と第2エマルション圧延油が混合された混合圧延油が供給されることを特徴とする冷間圧延設備。
0.6≦F3/F1≦1.4…(2)
F1:前記特定の圧延スタンドが備えるロールに対して圧延方向に作用する第1水平力
F3:前記特定の圧延スタンドの過去の圧延実績に基づいて特定された第3水平力
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の冷間圧延設備により圧延対象材を冷間圧延することを特徴とする冷間圧延方法。
【請求項6】
請求項5に記載の冷間圧延方法により金属板とする圧延対象材を冷間圧延して金属板を製造することを特徴とする金属板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間圧延設備、冷間圧延方法、及び金属板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鋼板等の圧延対象材を圧延ロールによって冷間圧延する際には、圧延ロールに圧延油が供給される。圧延油は、圧延対象材と圧延ロールとの間に生ずる摩擦を低減させる潤滑剤(潤滑油)としての役割を担う。加えて、圧延油は、圧延時に生ずる摩擦発熱や加工発熱によって圧延対象材及び圧延ロールの温度が過度に上昇しないように圧延対象材及び圧延ロールを冷却する冷却剤としての役割も担う。冷間圧延時における圧延油の供給方式としては、圧延油を循環使用しない直接給油方式(ダイレクト方式)と、圧延油を循環使用する循環給油方式(リサーキュレーション方式)とが知られている。
【0003】
ところで、近年、軽量化による燃費抑制等を目的として、高強度でありながら薄ゲージである薄物硬質材のニーズが高まっている。ところが、高負荷となる冷間圧延時に従来の循環給油方式で圧延油を供給すると、潤滑不足になり、チャタリングと呼ばれる鉛直方向へのミル振動が100Hz~200Hz程度の周波数で発生することがある。チャタリングが発生すると、圧延対象材の厚みが周期的に変動する現象が生じやすくなるので、チャタリングの発生は高付加価値商品の生産性を阻害する要因となる。このような背景から、特許文献1,2には、潤滑不足に起因したチャタリングの発生を抑制する方法が提案されている。具体的には、特許文献1,2には、第1圧延油を供給する循環給油方式と、第1圧延油とは異なる第2圧延油を供給する直接給油方式とのハイブリッド潤滑方式において、第2圧延油の供給量を制御することにより、最終の圧延スタンドの摩擦係数が目標摩擦係数となるように制御する方法が記載されている。
【0004】
しかしながら、本発明の発明者らは、特許文献1,2に記載の方法によっても圧延対象材の厚みの変動が発生することを知見した。そして、その原因を調査したところ、鉛直方向のミル振動の周波数よりも低い数十Hz(30~100Hz程度)の周波数で生ずる水平方向へのミル振動(以下、本明細書において、「水平方向へのミル振動」を「水平振動」或いは「水平方向のチャタリング」と称することもある)に起因していることを知見した。水平振動が生ずる原因としては、近年の高負荷、且つ、高精度の形状制御が求められる冷間圧延に対応して、ワークロールと補助ロール(バックアップロール)との間に上下一対の中間ロールが設けられた6Hi型の圧延機が増えてきていることが挙げられる。
【0005】
圧延機の各種ロールは、それぞれの軸線方向の両端に取り付けられるロールチョックを介して、操作側及び駆動側に配置した左右のハウジングに据え付けられている。この際、ロールの交換作業を容易にするために、ロールチョックとハウジングとの間にはクリアランスが設けられる。ところが、このクリアランスをそのままにした状態で圧延を行うと、圧延時にロールに加わる力によってロールチョックの位置がずれる、いわゆるガタを生じる。このため、一般的には、ロールチョックとハウジングとの間のクリアランスを一方向側に埋めるために、ワークロール及び中間ロールを水平方向にオフセットして配置し、圧延荷重の一部を水平方向に作用させてワークロールの水平方向の位置を安定させている。一方で、高負荷に伴ってワークロールに作用する水平力が大きい、又はガタが解消されない場合は、ワークロールが水平方向に振動して厚みが周期的に変動する現象が生じやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-263772号公報
【特許文献2】特開2013-99757号公報
【特許文献3】特開2007-152352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した水平振動を解消する手段として、ロールチョックとハウジングとの間に発生するクリアランスを一方向側に埋めるために、ロールチョックとハウジングとの間にガタ吸収装置を配置し、ガタを吸収しながら圧延対象材を圧延することが考えられる(特許文献3参照)。しかしながら、冷間タンデム圧延機では毎分数千リットルの圧延油が供給されているために、ガタ吸収装置を配置したとしても、ガタ吸収装置が劣化・故障することにより水平振動が再発し、根本的な解決には至らない。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、水平方向のチャタリングが発生することを抑制可能な冷間圧延設備及び冷間圧延方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、金属板を歩留まりよく製造可能な金属板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者の発明者らは、冷間圧延に際し、水平方向のチャタリングを効果的に抑制するための圧延油の供給方法について鋭意検討した。本発明の発明者らは、鉛直方向のチャタリングの抑制に関し、チャタリングの発生源となる圧延スタンドだけでなく、その上流側に隣接する圧延スタンドとの圧延条件のバランスを一定の基準に基づいて適切に保つことで抑制することができるとの知見を有していた。そこで、水平方向のチャタリングを抑制するための圧延条件を規定する基準について、より詳細な検討を行った結果、隣接する2つの圧延スタンドに作用するロールの水平力の比を適切な範囲に保つことにより水平方向のチャタリングを抑制できるとの技術思想を想到するに至った。本発明は、このような知見に基づきなされたものである。
【0010】
本発明の第一の態様に係る冷間圧延設備は、複数の圧延スタンドを備える冷間タンデム圧延機と、前記冷間タンデム圧延機に圧延油を供給する圧延供給系統と、を備え、前記圧延供給系統は、第1エマルション圧延油を供給する第1圧延油供給系統と、第1エマルション圧延油より高濃度の第2エマルション圧延油を供給する第2圧延油供給系統と、を有し、下記数式(1)を満たすように、前記複数の圧延スタンドの内、少なくとも特定の圧延スタンドに対して、前記第1エマルション圧延油と前記第2エマルション圧延油が混合された混合圧延油が供給されることを特徴とする。
【0011】
0.6≦F2/F1≦1.4…(1)
F1:前記特定の圧延スタンドが備えるロールに対して圧延方向に作用する第1水平力
F2:前記特定の圧延スタンドの上流側に隣接して配置される上流側圧延スタンドが備えるロールに対して圧延方向に作用する第2水平力
【0012】
本発明の第一の態様に係る冷間圧延設備は、上記発明において、前記第1水平力及び前記第2水平力が共に所定の基準値を超える場合、前記特定の圧延スタンド及び前記上流側圧延スタンドの双方に前記混合圧延油が供給され、前記第1水平力及び前記第2水平力の内、前記第1水平力のみが所定の基準値を超える場合は、前記特定の圧延スタンドに前記混合圧延油が供給され、前記上流側圧延スタンドには前記混合圧延油が供給されないことを特徴とする。
【0013】
本発明の第一の態様に係る冷間圧延設備は、上記発明において、前記第1水平力及び前記第2水平力が共に所定の基準値を超える場合、及び前記第1水平力及び前記第2水平力の内、前記第1水平力のみが所定の基準値を超える場合、前記特定の圧延スタンドに前記混合圧延油が供給され、前記上流側圧延スタンドには前記混合圧延油が供給されないことを特徴とする。
【0014】
本発明の第二の態様に係る冷間圧延設備は、複数の圧延スタンドを備える冷間タンデム圧延機と、前記冷間タンデム圧延機に圧延油を供給する圧延供給系統と、を備え、前記圧延供給系統は、第1エマルション圧延油を供給する第1圧延油供給系統と、第1エマルション圧延油より高濃度の第2エマルション圧延油を供給する第2圧延油供給系統と、を有し、下記数式(2)を満たすように、前記複数の圧延スタンドの内、少なくとも特定の圧延スタンドに対して、第1エマルション圧延油と第2エマルション圧延油が混合された混合圧延油が供給されることを特徴とする。
【0015】
0.6≦F3/F1≦1.4…(2)
F1:前記特定の圧延スタンドが備えるロールに対して圧延方向に作用する第1水平力
F3:前記特定の圧延スタンドの過去の圧延実績に基づいて特定された第3水平力
【0016】
本発明に係る冷間圧延方法は、本発明に係る冷間圧延設備により圧延対象材を冷間圧延することを特徴とする。
【0017】
本発明に係る金属板の製造方法は、請求項5に記載の冷間圧延方法により金属板とする圧延対象材を冷間圧延して金属板を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る冷間圧延設備及び冷間圧延方法によれば、水平方向のチャタリングが発生することを抑制できる。また、本発明に係る金属板の製造方法によれば、金属板を歩留まりよく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態である冷間圧延設備の構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態である供給制御部の構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、水平力の演算方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である冷間圧延設備、冷間圧延方法、及び金属板の製造方法について説明する。ここで、本実施形態において用いられる圧延油は、石油系及びエマルション系のいずれの圧延油であってもよい。但し、一般的に、鉄鋼分野の冷間圧延油には高い冷却性能が求められることから、圧延油としてエマルション系の圧延油(エマルション圧延油)が用いられることが多い。このため、以下の実施形態では、圧延油としてエマルション圧延油(以下、単に「エマルション」とも記載する)を例に挙げて説明する。
【0021】
なお、エマルションとは、圧延油の粒子が水に安定して懸濁した状態の混合液体をいう。エマルションの性状は、その濃度及び平均粒子径によって特徴づけられる。エマルションの濃度とは、エマルション全質量中の油分質量の比率である。また、エマルションの平均粒子径とは、エマルション中の圧延油の平均粒子径である。また、エマルションを製造するためには界面活性剤を添加し、水中に油を乳化させる必要がある。界面活性剤の添加量は、圧延油量に対する質量濃度(対油濃度)で示される所定量である。そして、界面活性剤の添加後に、撹拌機及びポンプによるせん断を加えることによりエマルションの平均粒子径を調整する。エマルション圧延油としては、圧延油を温水等で濃度1~5質量%程度に希釈すると共に、界面活性剤を用いて水中に油が分散したO/Wエマルション状態となった圧延油(水中油滴型圧延油)を例示することができる。
【0022】
〔構成〕
まず、
図1を参照して、本発明の一実施形態である冷間圧延設備の構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態である冷間圧延設備の構成を示す模式図である。なお、以下の説明では、冷間圧延設備によって圧延される圧延対象材として、鋼板Sを例に挙げる。但し、圧延対象材は、アルミ板やその他の金属板であっても適用可能である。
【0023】
図1に示すように、本発明の一実施形態である冷間圧延設備100は、冷間タンデム圧延機200を備えている。冷間タンデム圧延機200は、鋼板Sの入側(
図1の紙面に向かって左側)から出側(
図1の紙面に向かって右側)に向かって順に第1圧延スタンド~第5圧延スタンド(#1STD~#5STD)の5機の圧延スタンドを有している。この冷間タンデム圧延機200において、隣り合う圧延スタンド間には、図示しないテンションロール及びデフロール、板厚計、形状計が適宜、設置されている。冷間タンデム圧延機200の構成や鋼板Sの搬送装置等は、特に限定されることはなく、適宜公知の技術を適用して構わない。
【0024】
冷間タンデム圧延機200の各圧延スタンドにはエマルション圧延油(以降の説明で「エマルション圧延油」を単に「圧延油」と称することがある)が供給される。本実施形態では、圧延油供給系統として、各圧延スタンドに圧延油を供給する第1圧延油供給系統2と、第4圧延スタンド(#4STD)及び第5圧延スタンド(#5STD)に圧延油を供給する第2圧延油供給系統14とが設けられている。
【0025】
冷間圧延設備100は、圧延油貯留タンクとして、ダーティタンク(回収用タンク)5及びクリーンタンク7を備え、これら圧延油貯留タンクに貯留されている圧延油が第1圧延油供給系統2及び第2圧延油供給系統14を通って各圧延スタンドに供給される。ダーティタンク5には、各圧延スタンドの下方に配置されたオイルパン10によって回収された圧延油、すなわち冷間圧延で使用された圧延油が戻り配管11を通って流入する。
【0026】
クリーンタンク7に貯留される圧延油は温水(希釈水)と圧延油の原液(界面活性剤が添加されている)とを混合することで形成された圧延油である。この混合された温水と圧延油の原液は、撹拌機12の撹拌羽の回転数を調整することによって、つまり撹拌度合を調整することにより、目的とする所望の平均粒子径や濃度範囲を有する圧延油とされる。圧延油の原液としては、通常の冷間圧延に用いられるものを利用できる。例えば天然油脂、脂肪酸エステル、炭化水素系合成潤滑油のいずれかを基油としたものを用いることができる。さらに、これらの圧延油には、油性向上剤、極圧添加剤、酸化防止剤等の通常の冷間圧延油に用いられる添加剤を加えてもよい。また、圧延油に添加される界面活性剤としては、イオン系及び非イオン系のいずれを用いてもよく、通常の循環給油方式のシステムで使用されるものを用いればよい。そして、圧延油の原液を、好ましくは濃度2~8質量%、より好ましくは濃度3~6.0質量%に希釈し、また前述したような界面活性剤を用いて水に油が分散したO/Wエマルション圧延油とすればよい。なお、その平均粒子径は、好ましくは15μm以下、より好ましくは3~10μmとする。
【0027】
操業開始以降は、ダーティタンク5に回収された圧延油は、鉄粉量制御装置等からなる鉄粉除去装置6を介してクリーンタンク7に供給される。ダーティタンク5に回収された圧延油には、圧延ロールと鋼板Sとの間の摩擦で発生した摩耗粉(鉄粉)が混ざっている。そこで、鉄粉除去装置6は、回収された圧延油の油溶鉄分がクリーンタンク7に貯留される圧延油として許容される油溶鉄分となるように摩耗粉を除去する。鉄粉除去装置6を介したダーティタンク5からクリーンタンク7へのエマルション圧延油の移動は、連続的に行われてもよいし、間欠的に行われてもよい。鉄粉除去装置6としては、電磁フィルターやマグネットセパレータ等のマグネットフィルターを用いて鉄粉を吸着して除去するものが好ましいが、これに限らない。鉄粉除去装置6は、遠心分離等の方法を用いた公知の装置であってもよい。
【0028】
ところで、冷間圧延設備100に供給された圧延油の一部は、鋼板Sによって系外に持ち出されたり蒸発によって失われたりする。このため、クリーンタンク7内の圧延油の貯留レベルや濃度が所定の範囲内となるように、圧延油の原液が原液タンク(不図示)から適宜補給(供給)される構成となっている。また、希釈のための温水も適宜クリーンタンク7に補給(供給)される。なお、クリーンタンク7内の第1エマルション圧延油13の貯留レベルや濃度は不図示のセンサで測定可能となっている。
【0029】
エマルションタンク19には、圧延油原油タンク22及び温水タンク23が接続されている。そして、圧延油原油タンク22に貯蔵されている圧延油原油及び温水タンク23内に貯蔵されている温水が、不図示のポンプや流量制御弁21を介してエマルションタンク19内へ送給されると共に、エマルションタンク19内で攪拌機20により混合される。エマルションタンク19内の圧延油の条件は、クリーンタンク7内の圧延油の条件と同一とすることが好ましい。また、エマルションタンク19内の第2エマルション圧延油15の平均粒径は、攪拌機20の攪拌羽の回転数を調整することにより10~30μmに調整され、その濃度は、3~20質量%の範囲内に調整される。
【0030】
次に、第1圧延油供給系統2及び第2圧延油供給系統14について詳細に説明する。なお、第1圧延油供給系統2及び第2圧延油供給系統14は共にダーティタンク5、鉄粉除去装置6、クリーンタンク7、及びクリーンタンク7から圧延油を吸い上げるポンプ8を有し、第1圧延油供給系統2と第2圧延油供給系統14とはポンプ8の下流側で分岐する。以降の説明では分岐点以降の構成を中心に説明する。なお、クリーンタンク7とポンプ8との間に異物除去のためのストレーナを配置してもよい。
【0031】
[第1圧延油供給系統]
第1圧延油供給系統2は、クリーンタンク7に一端部を接続した第1圧延油管路9(第1圧延油供給ライン)と、第1圧延油管路9の他端部(圧延機側)で分岐して、各圧延スタンドに対応する位置にそれぞれ配置された5組の潤滑用クーラントヘッダー3及び5組の冷却用クーラントヘッダー4を備えている。各潤滑用クーラントヘッダー3は、圧延スタンドの入側に配置され、それぞれに設けられたスプレーノズルからロールバイトに向けて潤滑油としての圧延油を噴射することにより、ロールバイトやワークロールに圧延油を供給する。冷却用クーラントヘッダー4は、圧延スタンドの出側に配置され、それぞれに設けられたスプレーノズルから圧延ロールに向けて圧延油を噴射することにより、圧延ロールを冷却する。
【0032】
この構成によって、第1圧延油供給系統2では、クリーンタンク7内の圧延油が、ポンプ8によって第1圧延油管路9に圧送される。以降、第1圧延油管路9に圧送され、各圧延スタンドに供給される圧延油を第1エマルション圧延油13とも称する。第1エマルション圧延油13は、第1圧延油管路9を通じて各圧延スタンドに配置された潤滑用クーラントヘッダー3及び冷却用クーラントヘッダー4に供給され、それぞれに設けられたスプレーノズルから噴射される構成となっている。また、圧延ロールに供給された第1エマルション圧延油13は、鋼板Sによって系外に持ち出されたり蒸発によって失われたりしたものを除いて、オイルパン10で回収され、戻り配管11を通じてダーティタンク5内に戻される。その後、ダーティタンク5内に貯留されたエマルション圧延油の一部が、上述の通り、冷間圧延により発生したエマルション圧延油中の油溶鉄分の一定量を除去するために、鉄粉除去装置6を介してクリーンタンク7内に戻される。
【0033】
以上の第1圧延油供給系統2の構成によって、摩耗粉の除去処理が行われた圧延油が圧延ロールに対し循環供給されることになる。すなわち、第1エマルション圧延油13は循環使用される。ここで、クリーンタンク7が従来の循環給油方式での循環用の圧延油タンクに対応し、上述のように適宜クリーンタンク7に圧延油の原液が補給(供給)される。
【0034】
[第2圧延油供給系統]
第2圧延油供給系統14は、一端部を第1圧延油管路9に接続した第2圧延油管路16と、一端部をエマルションタンク19に接続した第3圧延油管路24と、流量制御弁17と、潤滑用クーラントヘッダー25と、一端が流量制御弁17に接続され、他端が潤滑用クーラントヘッダー25に接続される混合圧延油管路26と、を備えている。
【0035】
エマルションタンク19には、圧延油原油タンク22及び温水タンク23が接続されている。そして、圧延油原油タンク22に貯蔵されている圧延油原油及び温水タンク23内に貯蔵されている温水が、ポンプ(不図示)及び流量制御弁21を介してエマルションタンク19内へ送給されると共に、エマルションタンク19内で攪拌機20により混合される。以降の説明でエマルションタンク19内の圧延油を第2エマルション圧延油15と称することもある。
【0036】
第2エマルション圧延油15の温度条件は、第1エマルション圧延油13の温度条件と同一条件とすることが好ましい。もっとも、後段の圧延スタンドでの鋼板Sの冷却能を向上させる観点から、図示しない冷却装置を介して第2エマルション圧延油15の温度を第1エマルション圧延油13よりも低温としてもよい。また、第2エマルション圧延油15における圧延油の濃度条件及び粒径条件は、第1エマルション圧延油13と同一である必要は無い。
【0037】
クリーンタンク7に貯留されている第1エマルション圧延油13は、ポンプ8の駆動によって、第2圧延油管路16を通じて流量制御弁17に供給される。また、第2エマルション圧延油15は、ポンプ18により第3圧延油管路24を通じて流量制御弁17に供給される。そして、第2エマルション圧延油15は、流量制御弁17内で第1エマルション圧延油13と混合され、所定のエマルション濃度を含有した第2エマルション圧延油15を含む混合圧延油が形成される。その混合圧延油が、混合圧延油管路26を通じて第4及び第5圧延スタンドの潤滑用クーラントヘッダー25に送られる。潤滑用クーラントヘッダー25は、鋼板Sの表面側及裏面側の両方に分岐して配置されることで、鋼板Sの表裏両面に向けて複数のスプレーノズルから所望の濃度の混合圧延油を噴射可能に構成されている。続いて、オイルパン10に回収された圧延油が戻り配管11を通じてダーティタンク5内に戻されることで循環使用される。
【0038】
なお、流量制御弁17は、第1エマルション圧延油13の流量に対する第2エマルション圧延油15の流量を制御するものであってもよい。また、混合部を構成する流量制御弁17を介さずに第2エマルション圧延油15を直接鋼板Sに供給してもよいが、より好ましくは第1エマルション圧延油13と第2エマルション圧延油15を混合したものを供給するとよい。
【0039】
以上の通り、流量制御弁17は、第1エマルション圧延油13と第2エマルション圧延油15とを混合する混合部を構成する。流量制御弁17の開度は、
図2に示す供給制御部27からの指令に応じて調整され、この調整によって第1エマルション圧延油13と第2エマルション圧延油15の混合比が調整される。
【0040】
〔混合圧延油の供給制御方法〕
次に、
図2を参照して、供給制御部による混合圧延油の供給制御方法(混合比の制御方法)について説明する。
【0041】
図2は、本発明の一実施形態である供給制御部の構成を示す模式図である。なお、供給制御部27は、1機又は隣接する2機の圧延スタンドにおいて水平振動が検出された場合に、水平振動に起因した鋼板Sの板厚変動の発生を抑制するものである。以下、第1及び第2制御方法として、第5圧延スタンドで水平振動が検出された場合を例として1機の圧延スタンドに水平振動が検出された場合について説明する。
【0042】
[第1制御方法]
図2に示すように、供給制御部27は、第1水平力演算部28、第2水平力演算部29、目標水平力設定部30、及び混合比制御部31を備えている。なお、供給制御部27は冷間タンデム圧延機に内蔵されていてもよいし、冷間タンデム圧延機と無線又は有線にて接続された操作盤に内蔵されていてもよい。ここで、操作盤は、冷間タンデム圧延機による圧延条件等をオペレータ自身が設定する際に用いられる操作部材である。また、一般に、水平振動は、相対的に圧延速度が速く、圧延負荷が高負荷となる冷間タンデム圧延機の後段で発生しやすいことから、本実施形態では第1水平力演算部28及び第2水平力演算部29をそれぞれ第4及び第5圧延スタンドに設けているが、これに限られるものではなく、全ての圧延スタンドに設けてもよい。
【0043】
第1制御方法では、第1水平力演算部28が、第4圧延スタンド(隣接圧延スタンド♯4STD)での水平力を演算する。この第4圧延スタンドは、最終圧延スタンドに隣接して上流側圧延スタンドを構成している。第1水平力演算部28は、例えば、ロールチョックやハウジング、プロジェクトブロック等に内蔵されたセンサやロードセルからロールの圧延方向に作用する水平力を測定する。
【0044】
第2水平力演算部29は、第1水平力演算部28と同様、第5圧延スタンド(最終圧延スタンド♯5STD)における圧延実績から第5圧延スタンドでの水平力を演算する。なお、水平力の演算のための情報取得は、第5圧延スタンドに鋼板Sが噛み込まれて第5圧延スタンドで圧延が開始される際に行われる。
【0045】
ここで、各圧延スタンドの水平力の内、第4圧延スタンドの水平力は、過去の圧延実績から鋼板Sの板厚に影響を与えない程度の弱い水平振動(過去の圧延実績に基づき特定される、第4圧延スタンドに対応付けられた所定の第1閾値より小さい振動)である。また、第5圧延スタンドの水平力は、過去の圧延実績から鋼板Sの板厚に影響を与える水平振動(過去の圧延実績に基づき特定される、第5圧延スタンドに対応付けられた所定の第2閾値より大きい振動)である。
【0046】
この場合、供給制御部27は、第5圧延スタンドに混合圧延油を供給することで水平振動に起因する鋼板Sの板厚変動を抑制する。具体的には、目標水平力設定部30が、第1水平力演算部28により演算された水平力F2と第2水平力演算部29により演算された水平力F1との比(水平力比F2/F1)を算出する。そして、目標水平力設定部30は、算出された水平力比F2/F1と目標水平力比(設定水平力比)とを比較し、その差分(偏差)をフィードバック制御量として混合比制御部31に伝達する。なお、目標水平力比は0.6以上1.4以下の範囲内で設定することが好ましい。
【0047】
水平力比F2/F1が上記範囲を超えると、第5圧延スタンドと第4圧延スタンドにおける圧延スタンド間の張力変動が不安定化し、発散することでチャタリングが発生しやすくなる。目標水平力比を0.6~1.4の何れとするかは限られるものではないが、オイルパン10によって回収される圧延油の濃度の変動を防ぐ観点から、水平力比の範囲の内、第1エマルション圧延油13に対する第2エマルション圧延油15の供給量が最小となる水平力比を目標水平力比として設定する。
【0048】
混合比制御部31は、水平力比F2/F1が目標範囲内となるように、第5圧延スタンドの入側に供給する第1エマルション圧延油13と第2エマルション圧延油15との圧延油の混合比を求め、求めた混合比の指令を第5圧延スタンドの流量制御弁17に供給する。
【0049】
[第2制御方法]
第2制御方法は、第1制御方法と概ね共通するが、水平力比の比較対象が第1制御方法と異なる。すなわち、第1制御方法では、鋼板Sの板厚に影響を与える水平振動が生じている第5圧延スタンドとその上流側に隣接して配置されている第4圧延スタンドとの水平力比が所定の範囲内となるように流量制御弁17を制御した。これに対して、第2制御方法では、第5圧延スタンドの現在の水平力F1と過去の圧延実績から特定される第5圧延スタンドの目標水平力(すなわち上記第2閾値)F3との比(水平力比F3/F1)が目標水平力比となるように第5圧延スタンドの流量制御弁17を制御する。
【0050】
[第3制御方法]
第3制御方法は、第1及び第2制御方法とは異なり、隣接する2機の圧延スタンドにおいて水平振動が検出された場合に、水平振動に起因した鋼板Sの板厚変動の発生を抑制するものである。以下、第3の制御方法として、第4圧延スタンド及び第5圧延スタンドにて水平振動が検出された場合を例に隣接する2機の圧延スタンドに水平振動が検出された場合について説明する。
【0051】
すなわち、第1水平力演算部28により演算された第4圧延スタンドの水平振動が所定の第1閾値より大きい値(大きい振動)であり、第2水平力演算部29により演算された第5圧延スタンドの水平振動が所定の第2閾値より大きい値である場合、供給制御部27は、第4及び第5圧延スタンドに混合圧延油を供給することで水平振動に起因する鋼板Sの板厚変動を抑制する。具体的には、目標水平力設定部30は、両圧延スタンドの水平力がそれぞれ閾値以下となり、且つ、両圧延スタンドの水平力比が目標水平力比となる制御量をフィードバック制御量として混合比制御部31に伝達する。目標水平力比は、第2制御方法と同様、0.6以上1.4以下の範囲内で設定することが好ましい。混合比制御部31は、第4圧延スタンドと第5圧延スタンドとの水平力比が目標範囲となるように、第4及び第5圧延スタンドの入側に供給する第1エマルション圧延油13と第2エマルション圧延油15の混合比を求め、求めた混合比の指令を第5圧延スタンドの流量制御弁17に供給する。
【0052】
[第4制御方法]
第4制御方法は第3制御方法と概ね共通するが、混合圧延油を供給する圧延スタンドが、2機の圧延スタンドの内、一方の圧延スタンドである点で異なる。すなわち、上述したようにオイルパン10により回収される圧延油の濃度が大きく変動すると、圧延油の消費量の増加を招くだけでなく、潤滑過多に伴う圧延スリップを誘発する恐れがある。これを防ぐには、2機の圧延スタンドにおいて鋼板Sの板厚に影響を与える水平振動が生じていても、一方の圧延スタンドに対して混合圧延油を供給することで鋼板Sの板厚変動を抑制できるのであれば、一方の圧延スタンドに対してのみ混合圧延油を供給することが望ましい。
【0053】
そこで、本制御方法では、第1水平力演算部28及び第2水平力演算部29により演算された水平力の内、絶対値が大きい水平力が検出された圧延スタンドに対して、混合圧延油を供給する。すなわち、目標水平力設定部30は、両圧延スタンドの水平力比が目標水平力比となる制御量をフィードバック制御量として混合比制御部31に伝達する。混合比制御部31は、第4圧延スタンドと第5圧延スタンドとの水平力比が目標範囲となるように、第5圧延スタンドの入側に供給する第1エマルション圧延油13と第2エマルション圧延油15との圧延油の混合比を求め、求めた混合比の指令を第5圧延スタンドの流量制御弁17に供給する。
【0054】
なお、圧延スタンドにおける水平力の演算は上記のように実測しても良いし、圧延実績より演算しても良い。圧延実績より演算する場合は、
図3に示すように圧延スタンドの各ロールに作用する力を合算することで演算することができる。例えば、6段圧延スタンドにおいて、上下ロール位置が対象である場合、以下に示す数式(1)~(4)を用いて定常圧延時のワークロールに作用する水平力Fwを演算する。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
ここで、FOWはロールオフセットに伴う水平力、FTWは入出側張力差に伴う力、FFWは軸受抵抗により発生する力、Pは圧延荷重、x0は中間ロール(IMR)とのオフセット量、RIはIMRロール径、RWはワークロール(WR)ロール径、Tfは前方張力、Tbは後方張力、μは軸受内摩擦係数、θ1はバックアップロール(BUR)とIMRとのオフセット角度、dBはBUR軸受内直径、DBはBUR直径を示す。
【0060】
なお、水平力を演算するロールは限定されないが、中間ロールやワークロールであることが望ましい。また、上下ロール個別の水平力を用いてもよいし、上下片方のロールのみを演算してもよい。また、潤滑不足が生じない軟質材を圧延対象材とした圧延や、低速圧延時、加減速部での圧延等、チャタリングが発生しにくいケースの場合は、フィードバック制御による圧延油の調整を行わなくともよい。すなわち、チャタリングが発生しにくいケースにおいては操業条件毎に設定された、或いは、チャタリングが発生しない全ての操業条件に共通する混合比を使用することとしてもよく、チャタリングが発生しやすい操業条件となった場合にのみフィードバック制御を実施しても同様の効果が得られる。
【0061】
また、第2エマルション圧延油15を混合した混合圧延油を供給する圧延スタンド(混合対象スタンド)は3機以上であってもよい。潤滑用クーラントヘッダー25が3機以上の圧延スタンドの各入側に設けられる場合、流量制御弁17は圧延スタンド毎に設けられてもよいし、複数の圧延スタンドに対して1つの流量制御弁17が設けられてもよい。例えば、最終(第5)圧延スタンドに対しては1つの流量制御弁17が設けられ、第3及び第4圧延スタンドに対しては共通する1つの流量制御弁17が設けられてもよい。この場合、水平力比は第3圧延スタンドと第4圧延スタンドの水平力比及び第4圧延スタンドと第5圧延スタンドとの水平力比が目標水平力比の範囲内であればよい。また、混合圧延油を供給する圧延スタンドには、最終圧延スタンドが含まれなくてもよい。また、冷間タンデム圧延機における圧延スタンドの機数は、5機に限られるものではなく、4機以下、或いは6機以上の圧延スタンドを有する冷間タンデム圧延機であってもよい。
【0062】
また、上記実施形態では水平振動を検出、演算し、この結果に応じて混合比制御部31が流量制御弁17を制御して第1エマルション圧延油13と第2エマルション圧延油15との圧延油の混合比を適切な混合比にすることとしたが、適切な混合比を不図示の表示画面等に表示し、流量制御弁17の操作はオペレータにより行われることとしてもよい。オペレータにより制御されることで適切な水平力比の範囲内でオペレータの裁量により第1エマルション圧延油13と第2エマルション圧延油15との圧延油の混合比を調整することができる。
【実施例0063】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0064】
本実施例では、
図1に示す冷間タンデム圧延機を用いて母材厚2.0mm、板幅1000mmの2.5mass%Si及び3mass%Siを含有する電磁鋼板用の素材鋼板を圧延対象材として仕上げ厚0.300mmまで、目標圧延速度を200mpm、600mpm、800mpm、1000mpmとして圧延した。ここで、電磁鋼板用の素材鋼板は硬質であり、低い圧延速度等で高負荷な圧延となった場合にチャタリングが発生しやすいことがわかっている。圧延油の原液としては、合成エステル油をベースに植物油脂が添加された基油に対して、油性剤及び酸化防止剤をそれぞれ1質量%ずつ添加し、また界面活性剤としてノニオン系界面活性剤を対油濃度で3質量%だけ添加したものを使用した。第1圧延油供給系統2から供給されて循環使用される第1エマルション圧延油13は、圧延油の濃度3.5質量%、平均粒子径5μm、温度55℃のエマルション圧延油に調製した。
【0065】
[実施例1,比較例1]
実施例1では、上記の2.5mass%Si素材を圧延対象材とし、第5圧延スタンドでのワークロールに対する水平力を算出し、第5圧延スタンドにてチャタリングが発生しなかった過去の水平力実績との比に基づいて、第1圧延油供給系統2と第2圧延油供給系統14から供給されるエマルション圧延油を混合した。目標水平力比は、第5圧延スタンドの過去水平力実績と第5圧延スタンドでの水平力との比が0.6以上1.4以下となるように設定した。一方、比較例1では、第4圧延スタンドと第5圧延スタンドでの水平力との比が1.4以上となるように目標水平力比を設定した。
【0066】
[実施例2,比較例2]
実施例2では、上記の2.5mass%Si素材を圧延対象材とし、第4及び第5圧延スタンドでのワークロールに対する水平力を算出し、算出された水平力比に基づいて、第1圧延油供給系統2と第2圧延油供給系統14から供給されるエマルション圧延油を混合した。目標水平力比は、第4及び第5圧延スタンドでの水平力との比が0.6以上1.4以下となるように設定した。一方、比較例2では、第4及び第5圧延スタンドでの水平力との比が0.6未満となるように目標水平力比を設定した。
【0067】
[実施例3,比較例3]
実施例3では、3.0mass%Si素材を圧延材とし、第4及び第5圧延スタンドでのワークロールに対する水平力を算出し、算出された水平力比に基づいて、第1圧延油供給系統2と第2圧延油供給系統14から供給されるエマルション圧延油を混合した。目標水平力比は、第4及び第5圧延スタンドでの水平力との比が0.6以上1.4以下となるように設定した。一方、比較例3では、第4及び第5圧延スタンドでの水平力との比が1.4以上となるように目標水平力比を設定した。
【0068】
[実施例4,比較例4]
実施例4では、3.0mass%Si素材を圧延材とし、第4圧延スタンド及び第5圧延スタンドでのワークロールに対する水平力を算出し、算出された水平力の比に基づいて第1圧延油供給系統2と第2圧延油供給系統14から供給されるエマルション圧延油を混合した。目標水平力比は、第4圧延スタンドでの水平力と第5圧延スタンドでの水平力との比が0.6以上1.4以下となるように設定した。一方、比較例4では、第4圧延スタンドでの水平力と第5圧延スタンドでの水平力との比が0.6未満となるように目標水平力の比を設定した。
【0069】
<評価>
以上のような圧延油供給を行って、各実施例及び比較例における低速から高速圧延を実施した場合の第4圧延スタンドと第5圧延スタンドのワークロールに作用した水平力の比とチャタリングの発生状況を確認した。その結果を以下の表1に示す。なお、表中における〇、△、×は以下のことを指す。
【0070】
〇:コイル全長にわたってチャタリング発生なし
△:コイル全長の一部に軽度のチャタリング発生(微小な板厚変動が発生)
×:チャタリング発生(過大な板厚変動が発生)
【0071】
表1に示すように、Si含有量が2.5mass%の鋼板に対する冷間圧延では、圧延スタンドでのワークロールに対する現在の水平力とチャタリングが発生しなかった過去水平力の実績値との比が0.6以上1.4以下となるように、第1圧延油供給系統2と第2圧延油供給系統14から供給されるエマルション圧延油を混合することにより、チャタリングの発生が抑制できることが確認された(実施例1)。
【0072】
また、Si含有量が2.5mass%の鋼板に対する冷間圧延では、第4圧延スタンドと第5圧延スタンドでのワークロールに対する水平力比が0.6以上1.4以下となるように第1圧延油供給系統2と第2圧延油供給系統14から供給されるエマルション圧延油を混合することにより、チャタリングの発生が抑制できることが確認された(実施例2)。さらに、Si含有量が3mass%の高強度電磁鋼板でも同様にチャタリングの発生を抑制できることが確認された(実施例3,4)。
【0073】
これに対して、水平力比が0.6未満又は1.4を超えた場合には、チャタリングが大量に発生し、表面品質及び板厚精度が低下することが確認された(比較例1~4)。
【0074】
以上のことから、本発明に基づく潤滑油供給方法を用いることにより、広範な圧延速度及び材料変形抵抗においても、後段圧延スタンドの圧延方向に作用するロールの水平力を適正な範囲に続けることが可能であり、安定して高い生産性と良好な形状、及び板厚精度を有する鋼板を製造できることが確認された。
【0075】
【0076】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。