(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022071953
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】高周波コネクタ
(51)【国際特許分類】
H01P 1/202 20060101AFI20220510BHJP
H01P 1/212 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
H01P1/202
H01P1/212
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020181101
(22)【出願日】2020-10-29
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 聡
【テーマコード(参考)】
5J006
【Fターム(参考)】
5J006HA01
5J006JA01
5J006JA02
5J006JA03
5J006JA04
5J006LA21
5J006NA08
(57)【要約】
【課題】高周波モジュールが放出するスプリアスや高次高調波を抑制しつつも、高周波モジュールの大型化等の問題を回避する。
【解決手段】この高周波コネクタは、高周波モジュールが放出するスプリアス及び高次高調波を除去するフィルタを備える。高周波コネクタは、筐体と、筐体の入力側から出力側に向かって筐体の中を延びる中心導体と、中心導体の周囲に誘電体を介して設けられる導体とを備える。導体はフィルタとして機能する。導体は、その位置を中心導体に対し相対的に調整可能に構成され得る。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波モジュールが放出するスプリアス及び高次高調波を除去するフィルタを備えた、高周波コネクタ。
【請求項2】
筐体と、
前記筐体の入力側から出力側に向かって前記筐体の中を延びる中心導体と、
前記中心導体の周囲に誘電体を介して設けられる導体と
を備え、
前記導体がフィルタとして機能する、請求項1に記載の高周波コネクタ。
【請求項3】
前記導体は、その位置を前記中心導体に対し相対的に調整可能に構成された、請求項2に記載の高周波コネクタ。
【請求項4】
前記フィルタは、2つのインダクタとの間に、前記2つのインダクタを直列的に導通しないキャパシタを備え、これにより前記フィルタにハイパスフィルタ特性を与える、請求項1に記載の高周波コネクタ。
【請求項5】
前記フィルタは、インダクタと、前記インダクタと並列な浮遊容量とにより並列共振回路を構成し、これにより前記フィルタにローパスフィルタ特性を与える、請求項4に記載の高周波コネクタ。
【請求項6】
前記フィルタは、オープンスタブとして機能するインダクタと、前記インダクタと接地端子との間に生成される寄生容量とを備え、これにより前記フィルタにローパスフィルタ特性を与える、請求項1に記載の高周波コネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
同軸ケーブルのような高周波信号を伝送するための伝送線を高周波モジュール等に接続するための部材として、高周波コネクタが用いられている。同軸ケーブルは、マイクロ波やミリ波まで広帯域の信号を伝送可能であり、高周波コネクタと同軸ケーブルが接続された場合、高周波コネクタは、同様に広帯域な周波数範囲をカバーすることができる。
【0003】
図1は、従来の同軸コネクタ(高周波コネクタ)の一例を示している。この
図1の構造は、ELF帯~EHF帯の長波帯から、デシミリ波帯まで利用されるコネクタの一般的な構造の例である。なお、
図1の構造は、いわゆるバルクヘッドタイプであるが、本発明がこれに限定される趣旨ではない。
【0004】
図1の同軸コネクタは、コネクタ筐体1を備え、コネクタ筐体1は、接続対象である製品の一部である製品筐体5に対してナット4により取り付けられ得る。中心導体6は、コネクタ筐体1に設けられ、削られた空間に挿入された誘電体2により固定されている。
【0005】
コネクタ筐体1は、その外周にネジ部S1を有しており、このネジ部S1を介してコネクタ筐体1が同軸ケーブルやアンテナと接続される。
図1に示す従来の同軸コネクタは、接続対象の製品の筐体内に存在する高周波モジュール、あるいは高周波ICより出力された搬送波電力を製品筐体5の外へと伝送し、アンテナへ供給する。
【0006】
図1に例示されるような従来の同軸コネクタは、様々な用途に対応可能とするため、比較的広帯域な特性を有するよう設計される。また、同軸コネクタが接続される同軸ケーブルも、比較的広帯域の信号を伝送可能に構成されている。同軸コネクタと同軸ケーブルを接続した際、やはり広帯域な周波数範囲をカバーすることになる。
【0007】
しかし、アンテナが同軸ケーブルにより
図1に示すような同軸コネクタに接続される場合、アンテナが送受信可能な電波は狭帯域に限定されるため、高周波モジュール及び同軸コネクタが扱う周波数帯も狭帯域になる。
【0008】
高周波モジュールは、その内部で不要信号(スプリアス)や高次高調波を発生させるため、そのようなスプリアスや高次高調波を外部へ放出する虞がある。スプリアスや高次高調波の発生は、周囲にある他の装置の動作に悪影響を与える虞があり、通信機器では信号の干渉現象を生じさせる。
【0009】
このため、高周波モジュール内において、スプリアスや高次高調波の除去するための回路(フィルタ等)を搭載するよう回路設計が行われる。しかし、スプリアスや高次高調波の除去のための回路を高周波モジュール内に搭載する場合、高周波モジュールの基板サイズが大きくなり、高周波モジュールが全体として大型化するという問題がある。また、高周波モジュールにスプリアスや高次高調波の除去のための回路を搭載することは、高周波モジュールにおける設計工数や評価工数を増加させることになり、コストの増大の原因となり得る。また、高周波モジュールにスプリアスや高次高調波の除去のための回路を搭載する場合、そのような高周波モジュールの故障率が上がってしまうこと、複数の高周波モジュールの間の部品特性のバラつきを考慮する必要があることなどの問題がある。
【0010】
このように、高周波モジュールにおいてスプリアスや高次高調波を除去するための回路を搭載することは、様々な問題を生じさせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、高周波モジュールが放出するスプリアスや高次高調波を抑制しつつも、高周波モジュールの大型化等の問題を回避することができる高周波コネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、本発明に係る高周波コネクタは、高周波モジュールが放出するスプリアス及び高次高調波を除去するフィルタを備えた高周波コネクタという点に特徴を有している。
【0014】
本発明に係る高周波コネクタは、筐体と、前記筐体の入力側から出力側に向かって前記筐体の中を延びる中心導体と、前記中心導体の周囲に誘電体を介して設けられる導体とを備え、前記導体がフィルタとして機能するよう構成することができる。また、ここでの導体は、その位置を前記中心導体に対し相対的に調整可能に構成され得る。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高周波モジュールが放出するスプリアスや高次高調波を抑制しつつも、高周波モジュールの大型化等の問題を回避することができる高周波コネクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】従来の同軸コネクタ(高周波コネクタ)の一例を示している。
【
図2】高周波回路における一般的な問題を、高周波フロントエンド回路を例として説明する回路図である。
【
図3】実施の形態に係る高周波コネクタ22Aを説明する回路図である。
【
図4】
図3の高周波回路において発生し得るスプリアス又は高次高調波の信号の一例を模式的に説明するグラフである。
【
図5】高周波コネクタ22Aの構成例を示す斜視図である。
【
図6】高周波コネクタ22AのS21パラメータの周波数特性の一例を示している。
【
図7】高周波コネクタ22AのS11、S22パラメータの周波数特性の一例を示している。
【
図8】高周波コネクタ22Aの反射係数とインピーダンスの関係の一例を示すスミスチャートである。
【
図9】
図5の構造を有する高周波コネクタ22Aの等価回路の一例である。
【
図10】第2の実施の形態の高周波コネクタ22A’を説明する斜視図である。
【
図11】
図5の構造を有する高周波コネクタ22A’の等価回路の一例である。
【
図12】高周波コネクタ22A’のS21パラメータの周波数特性の一例を示している。
【
図13】高周波コネクタ22AのS11パラメータの周波数特性の一例を示している。
【
図14】高周波コネクタ22AのS22パラメータの周波数特性の一例を示している。
【
図15】高周波コネクタ22Aの反射係数とインピーダンスの関係の一例を示すスミスチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本開示の原理に則った実施形態と実装例を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示を限定的に解釈するために用いられるものではない。本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味においても限定するものではない。
【0018】
本実施形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0019】
まず、実施の形態の説明の前に、高周波回路における一般的な問題を、
図2に示す高周波フロントエンド回路を例として説明する。
【0020】
図2に示す高周波フロントエンド回路は、製品筐体23の内部に設置された基板SB上に形成され、同軸ケーブル21及び同軸コネクタ(又はアダプタ)22により外部と接続されている。高周波フロントエンド回路は、基板SB上に高周波IC7を備えている。高周波IC7内で生成された信号は搬送波に乗せられ差動出力される。出力された高周波信号は、平衡・不平衡変換器(バラン)8でシングルモードに変換され、それ以降の不平衡回路へと送られる。バラン8から出力された高周波信号は、送信(以降、Tx)と受信(以降、Rx)を切り替える高周波スイッチ9へ入力され、送信時はTx側配線10へ切り替えられる(
図2は送信時の状態)。
【0021】
Tx側配線10を通る高周波信号は、パワーアンプ12で増幅され、高周波IC7内のミキサ(スーパーヘテロダインか、ダイレクトコンバージョンかは不問)で生成された不要信号成分であるスプリアスを除去するために、フィルタ13を通過し、高周波スイッチ9と連動した高周波スイッチ14に入力される。
【0022】
高周波スイッチ14を通った高周波信号は、フィルタ15を通り、高周波コネクタ20に送られる。なお、フィルタ13、15は、ローパスフィルタ(LPF: Low Pass Filter)、ハイパスフィルタ(HPF: High Pass Filter)、バンドパスフィルタ(BPF: Band Pass Filter)、帯域除去フィルタ(BEF: Band Elimination Filter)などであり得る。
【0023】
基板SB上を準TEMモードで伝送される高周波信号は、高周波コネクタ20にてTEモードとなり、同軸ケーブル21、同軸コネクタ22へ伝送される。
図2では、コネクタ22は製品筐体23にバルクヘッドで取り付けられている様子が図示されている。コネクタ22はその先に更に同軸ケーブル(図示せず)を介してアンテナ、無線中継器、端末等に接続される。
図2に示す製品全体の無線通信特性を評価する場合には、コネクタ22は、スペクトラムアナライザ、シグナルジェネレータ、シグナルアナライザ、オシロスコープなどに接続され得る。
【0024】
一方、受信側(Rx)の動作原理を以下に示す。製品筐体23に固定されたコネクタ22に入力された高周波信号は、同軸ケーブル21、高周波コネクタ20に、基板SB上において準TEMモードの信号として入力される。その高周波信号はMSL(Microstrip Line)やCPW(Coplanar Waveguide)、又はストリップ線などで設計されて設けられた信号線19を経てフィルタ15を通過し、高周波スイッチ14を通り、プリアンプ16に入力され、増幅される。
【0025】
プリアンプ16から出力される増幅信号は、スプリアスを取り除くため、更にフィルタ17に入力され、その後高周波線11を経て、その後高周波スイッチ9からバラン8を介して高周波IC7に入力され、復調される。
【0026】
この
図2に示す回路は、送信信号、及び受信信号のスプリアスの除去のため、フィルタ13、15、17を備えている。しかし、このようなフィルタは、面積が大きく、高周波回路の大型化の原因となり得る。
【0027】
[第1の実施の形態]
図3を参照して、第1の実施の形態の高周波コネクタ22Aを説明する。本実施の形態に係る高周波コネクタ22Aは、スプリアスや高次高調波を除去するためのフィルタ回路をその内部に備えている。このため、高周波フロントエンド回路においては、
図2に示すようなフィルタ回路(例:
図2のフィルタ回路13、15、17)の全部又は一部を省略することが可能となり(
図3参照)、高周波フロントエンド回路の面積を縮小することができる。
【0028】
図4において、
図3の高周波回路において発生し得るスプリアス又は高次高調波の信号の一例を模式的に説明する。
図4のグラフにおいて、横軸は周波数を表し、縦軸は高周波信号の電力を表している。
図4の左側のグラフの高周波信号は、高周波IC7で生成されたフィルタリング前の信号である。
【0029】
図4の左側のグラフにおいて、スペクトル24はキャリア信号であり、25~28はスプリアスまたは高次高調波のスペクトルを表している。このスペクトル25~28は不要信号成分であり、周辺機器や自分自身に対して悪影響を及ぼす可能性が懸念される。
【0030】
各国電波法では、各種計測値の閾値が絶対値として法律に定められ、EMC(Electro Magnetic Compatibility)に準拠した環境試験が行われるが、このような計測値の判定や環境試験に、これらのスプリアスや高次高調波が悪影響を及ぼす。このため、高周波回路設計者は、スプリアスや高次高調波については、これらの閾値を常に意識しながら設計する必要がある。
【0031】
図4の右側のグラフは、高周波コネクタ22Aのフィルタ回路により適用されるマスク33の一例を示している。
図4の右側のグラフにおいて、キャリア信号のスペクトル24は、左側のグラフと同一である。このマスク33は、
図2の送信経路のフィルタ13及び15によるリジェクション効果を与えると共に、
図2の受信経路のフィルタ15及びフィルタ17のリジェクション効果を与える。一般的には不要信号のリジェクション効果は送信経路も受信経路も同等と考えることができる。
【0032】
マスク33は、様々な事情に起因するスプリアスや高次高調波に従って設定される。マスク33が定められると、スプリアスや高次高調波のスペクトル29、30、31、32を抑圧することができる。マスク33は、キャリア信号のスペクトル24に悪影響を及ぼさないような周波数特性を有するように設計される。スペクトル29、30、31、32を抑圧するマスクを高周波コネクタ22Aで実現することができる場合、高周波フロントエンド回路におけるフィルタ13、15、17は、少なくとも一部を省略することができる。すなわち、高周波モジュール内で発生するスプリアス又は高次高調波成分の除去のための回路は、高周波モジュール内に搭載する必要がないため、基板サイズ、または高周波モジュールのサイズ、製品サイズ、製品高さ等を小さくすることが可能である。
【0033】
高周波コネクタ22Aの構成例を
図5の斜視図に示す。また、
図6~
図8は、この高周波コネクタ22Aのシミュレーションの結果を示している。更に、
図9は、この高周波コネクタ22Aの高周波等価回路を示す。この
図5の高周波コネクタ22Aは、一例として、5Gミリ波に対応した28GHz帯信号用のカットオフ周波数に調整されているものとする。ただし、この
図5の高周波コネクタは、フィルタ機能を有する高周波コネクタの一例として提示されるものであり、本発明がこの例に限定されるものではない。本実施の形態、及び本発明は、フィルタ機能を有する高周波コネクタ全般に関連するものであることは、後述の説明から明らかになる。
【0034】
この高周波コネクタ22Aは、一例として、コネクタ筐体41と、第1接続部42と、第2接続部43と、中心導体44と、導体45とを備えている。コネクタ筐体41は、高周波コネクタ22Aの本体部であり、内部に中心導体44及び導体45を含んでいる。
【0035】
第1接続部42は、高周波コネクタ22Aの接続対象の装置の筐体に挿入されて、当該接続対象の装置と接続される部分である。第1接続部42は、
図1の従来のコネクタの如く、接続対象に螺合するためのネジ溝を備えてもよい。第2接続部43は、接続対象のもう一方の装置の筐体に挿入されて、当該接続対象と接続される部分である。
【0036】
中心導体44は、第1接続部42と第2接続部43との間に接続され、コネクタ筐体41を接続方向(入力側と出力側を結ぶ方向)に延びるよう配置される。導体45は、この中心導体44の外周において、間に誘電体を介して配置される。誘電体、導体45、及び中心導体44は一体としてインダクタ又はキャパシタを構成し、前述のフィルタ(LCフィルタ)として機能する。導体45は、
図5に示すように、中心導体44の長手方向に沿って複数配置されていてもよいし、単数であってもよい。また、導体45は、図示のようなリング状の導体であってもよいし、それ以外の形状(矩形、螺旋形状、その他)であってもよい。導体45の位置は、図示しない位置調整機構により適宜調整することができる。導体45の位置が変化することにより、フィルタの特性が変化する。
【0037】
高周波コネクタ22A内に形成されるフィルタは、RCフィルタ、RLフィルタ、LCフィルタ、RLCフィルタ、又はこれらの組合せであってよい。以下の説明では、フィルタは主にLCフィルタであるとして説明をするが、これは例示に過ぎない。
【0038】
図6は、高周波コネクタ22AのS21パラメータの周波数特性の一例を示しており、
図7は、高周波コネクタ22AのS11、S22パラメータの周波数特性の一例である。また、
図8は、高周波コネクタ22Aの反射係数とインピーダンスの関係の一例を示すスミスチャートである。
【0039】
また、フィルタの周波数特性は不問であり、シングルバンドフィルタであってもよいし、マルチバンドフィルタであってもよく、周波数特性が動的に可変可能とされていてもよい。フィルタの種類も不問であり、バンドパスフィルタ、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、帯域除去フィルタのいずれであってもよく、段数も不問である。
【0040】
さらに、フィルタの実現方法(分布定数、集中定数、導波管への応用、基板を用いた実現等)も特定のものに限定されない。フィルタのコネクタタイプ(SMA、3.5mm、2.4mm、1.85mm、N、BNC、TNC等)も、特定のものには限定されない。またアダプタと呼ばれるコネクタタイプ変換コネクタの種類(雄/雌の変換アダプタ)についても特定のものには限定されない。
【0041】
図5の構造を有する高周波コネクタ22Aの等価回路の一例を
図9に示し、この
図9を用いて、この高周波コネクタ22Aの動作を説明する。
図5の高周波コネクタ22Aは、前述のように、導体45、誘電体、及び中心導体44により、インダクタ及びキャパシタが構成され、これにより高周波コネクタ22A内にLCフィルタが形成されている。
図9はこのLCフィルタの等価回路の一例である。この等価回路は、入力端子と出力端子の間に直列接続されるインダクタL1~L12及びキャパシタC5、並びにこれらと並列に接続されるキャパシタC1~C9を含んでいる。
【0042】
このような等価回路を有する高周波コネクタにおいて、入力端子より信号電圧Viが印加される。信号電圧Viの印加により、交流電流が入力抵抗Riから出力インピーダンスRlに向かって流れる。印加された信号は、例えば50Ωのような目標値を持つ整合対象となる回路インピーダンス、またはそれ以外のインダクタL1を経て、更に容量性の大きいインダクタL2に印加される。
【0043】
インダクタL2は、同じインダクタンス値、または異なるインダクタンス値を持つインダクタL3とインダクタL4とを介して出力端子に接続される。インダクタL3のインダクタンス値に特別な制限は含まれない。
【0044】
この時、インダクタL2~L4間に、そのインダクタンス成分実現の構造上の理由から、インダクタL3がある一定の距離を隔てて位置しており、そのため両インダクタL2とL4の間には、インダクタL3と並列に浮遊容量が形成される。その浮遊容量が、インダクタL3と並列なキャパシタC1、C2として
図9では表現されている。
【0045】
同様に、インダクタL4~L6間に、インダクタL5がある一定の距離を隔てて位置しており、そのため両インダクタL4とL6の間には、インダクタL5と並列に浮遊容量が形成される。その浮遊容量が、インダクタL5と並列なキャパシタC3、C4として
図9では表現されている。
【0046】
インダクタL6を通過した信号は、インダクタL6と直列的に導通していない物理環境を持つインダクタL7に、L6-L7間の浮遊容量であるキャパシタC5を介して伝達される(ハイパスフィルタ特性の構築(1))。
【0047】
インダクタL7~L12の構造は、浮遊容量であるキャパシタC5を境にインダクタL1~L6と対称になっており、キャパシタC5を境に入出力対称の回路が構成される。SパラメータS11とS22、S21とS22の対称化により、本実施の形態のコネクタを利用する際の入出力特性の同一化を図ることができる。
【0048】
インダクタL7に伝達された交流信号は、同一、または異なるインダクタンス値を持つインダクタL9に対して、任意のインダクタンス値を持つインダクタL8を介して伝達される。インダクタL8と並列に浮遊容量としてのキャパシタC6、C7が形成される。
【0049】
インダクタンスL9は、同一、または異なるインダクタンス値を持つインダクタL11に対して、任意のインダクタンス値を持つインダクタL10を介して接続されている。インダクタL11は、50Ωのような負荷インピーダンスの目標値を持つ整合対象となる回路インピーダンス、またはそれ以外のインダクタンス値を持つインダクタL12に接続され、信号は伝達される。この時の回路の負荷インピーダンスは、
図9の場合Rlと表現されている。主に実例を挙げるならば、
図9の入力インピーダンスRi、また出力インピーダンスRlは、いずれも50Ω、又は75Ωである。
【0050】
前述のように、インダクタL2とL4の間、インダクタL4とL6の間、インダクタL7とL9の間、及びインダクタL9とL11の間には、浮遊容量C1+C2、C3+C4、C6+C7、C8+C9が存在する。これらの浮遊容量は、並列に接続されるインダクタL3、L5、L8、L10と共に並列共振回路を構成する(ローパスフィルタ特性の構築(2))。
【0051】
図5の高周波コネクタ22Aは、
図9の等価回路構造を有することにより、入出力段直近のインダクタンスL1、L12を含め、共振現象に基づく所定の共振周波数を有している。
図9の等価回路は、Ri~L12の計13段の多段フィルタ構造を有しており、上述のように、ハイパスフィルタとローパスフィルタの特性を併せ持つことにより、全体として超広帯域バンドパスフィルタの機能を有している。
【0052】
図9に示す各インダンクタのインダクタンス、また浮遊容量の値を適切に選定し、共振周波数を変化させることで、低域側カットオフ周波数、広域側カットオフ周波数を任意の値に設定することができる。バンドパスフィルタ特性が得られるような設計を行う代わりに、ローパスフィルタのみの特性を有するもの、ハイパスフィルタのみの特性を有するもの、帯域除去フィルタの特性を得るような設計を行うことができるのは言うまでもない。また、段数にも制約がないため、より急峻なフィルタ特性を希望する際は、より多段のフィルタとすることで所望のスカート特性を得ることができる。
【0053】
(効果)
本実施の形態の効果を以下に説明する。本実施の形態の高周波コネクタ22Aは、その内部にフィルタリング機能を有していることにより、高周波装置における試験時間の短縮を図ることができる。従来は、高周波モジュール内にフィルタを設けるか、または高周波モジュールの外にコネクタとは別にフィルタデバイスを設けるなどする必要があった。本実施の形態によれば、そのような高周波モジュール内のフィルタデバイスが不要になるため、高周波モジュールでの試験項目に掛かる時間を短縮することができる。そのため、高周波モジュールに要するコストを低減することができる。また、高周波モジュールの内部構造が簡素化される結果、故障率を低減することができる。
【0054】
また、本実施の形態の高周波コネクタによれば、アンテナと高周波モジュールを接続した場合に、所望の主信号以外の信号を放射し、自身の無線通信ネットワークや、あるいは他の無線通信ネットワークに外乱を与えることを抑制することができ、これにより、複数の異なるネットワークの共存による干渉等の問題を軽減することができる。本実施の形態のコネクタを介して信号を放射することにより、帯域外不要輻射のレベルを著しく軽減することができ、アンテナ放射後の輻射電力に対して帯域外信号電力を小さくすることが可能となる。
【0055】
また、本実施の形態の高周波コネクタによれば、高周波モジュールから出力信号を取り出す際に必ず必要なコネクタに、各アプリケーションに特化するフィルタリング機能を持たせることができ、EMCの対策が取りやすく、開発工数を削減することが可能になる。電磁妨害(EMI)や放射感受性(EMS)試験等に課せられる試験方法に関し、被試験機器(EUT)からの/EUTへの不要出力信号の授受はEMC試験結果に著しく影響を及ぼすが、このような不要出力信号を高周波コネクタにおいて除去することが可能になる。
【0056】
なお、本実施形態に係るフィルタ機能を有するコネクタに用いるフィルタ設計理論には特に制約はない。例えば、チェビシェフ型(Chebyshev filter)、バタワース型(Butterworth Filter)など、またCRLH(Composite Right and Left Handed)、メタマテリアル技術を応用した設計理論を用いることでも実現が可能である。
【0057】
また、高周波特性を有するために使用される導体材料、樹脂材料も、特定のものには限定されない。例えば、胴体部分に黄銅、銀、金、アルミ等、樹脂部分にポリエチレン、ポリエチレンテフタレート、ポリカーボネート、テフロンなどを用いることができるが、これらは一例であり、特定の材料へ限定されるものではない。
【0058】
[第2の実施の形態]
次に、
図10を参照して、第2の実施の形態の高周波コネクタ22を説明する。この高周波コネクタ22A’は、第1の実施の形態の高周波コネクタ22Aに代えて使用され得る。
図10は、高周波コネクタ22A’の概略構成を説明する斜視図であり、
図11は、
図10の高周波コネクタ22A’の等価回路図である。また、
図12~
図15は、等価回路の解析結果を示すグラフである。
【0059】
この第2の実施形態の高周波コネクタ22A’も、第1の実施の形態と同様に、スプリアスや高次高調波を除去するためのフィルタ回路をその内部に備えている。このため、高周波フロントエンド回路においては、
図2に示すようなフィルタ回路の全部又は一部を省略することが可能となり、高周波フロントエンド回路の面積を縮小することができる。
図10に示すように、この高周波コネクタ22A’は、一例として、中心導体211と、誘電体212と、筐体213と、導体214とを備えている。
図10は、高周波コネクタ22A’の本体部を図示しており、第1接続部及び第2接続部の図示は省略されている。
【0060】
中心導体211は、図示しない第1接続部と第2接続部との間に接続され、筐体213を接続方向(入力側と出力側を結ぶ方向)に延びるよう配置される。導体214は、この中心導体211の外周において、誘電体212を介して配置される。誘電体212、導体214、及び中心導体211は一体としてインダクタ又はキャパシタを構成し、前述のフィルタとして機能する。導体214は、
図10に示すように、中心導体211の長手方向に沿って複数配置されていてもよいし、単数であってもよい。また、導体214は、図示のようなリング状の導体であってもよいし、それ以外の形状(矩形、螺旋形状、その他)であってもよい。導体214の位置は、図示しない位置調整機構により適宜調整することができる。導体214の位置が変化することにより、フィルタの特性が変化する。
【0061】
図10及び
図11に例示した高周波フィルタは、LCフィルタを内部に備えるものであるが、これは一例であり、LCフィルタの代わりに、RCフィルター、RLフィルター、LCフィルター、RLCフィルターを内部に備えてもよい。また、フィルタの周波数特性は不問であり、シングルバンドフィルタであってもよいし、マルチバンドフィルタであってもよく、周波数特性が動的に可変可能とされていてもよい。フィルタの種類も不問であり、バンドパスフィルタ、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、帯域除去フィルタのいずれであってもよく、段数も不問である。
【0062】
図10の高周波フィルタ22A’の動作について、
図11の等価回路図を参照して説明する。高周波コネクタ22Aの入力端子より信号電圧Viが印加される。信号電圧Viの印加により、交流電流が入力抵抗Riから出力インピーダンスRoに向かい流れる。印加された信号電圧Viは、例えば50Ωのような目標値を持つ整合対象となる回路インピーダンス、またはそれ以外のインダクタンス成分L1を経て、更に異なるまたは同一のインダクタンス成分L2に導体損失R1を介して印加される。
【0063】
インダクタL1は交流的にオープンスタブとして機能するため、浮遊容量C2がインダクタL1と接地端子SGとの間に形成される。また、インダクタL1とL2の間には、互いの導体間に浮遊容量C1が発生する。
【0064】
インダクタL2に伝達された交流信号は、次のインダクタL3へ導体損失R2を介して伝送される。インダクタL2とL3の間にも、互いの導体間に浮遊容量C3が形成される。また、インダクタL2は交流的にオープンスタブとして機能するため、浮遊容量C4がインダクタL2と接地端子SGとの間に形成される。また、インダクタL3も同様に交流的にオープンスタブとして機能するため、容量C5がインダクタL3と接地端子SGとの間に形成される。
【0065】
インダクタL3に伝達された交流信号は、次のインダクタL5へ、インダクタンス成分L4及び導体損失R4を介して伝送される。インダクタL5は、インダクタL3と同じか、または異なるインダクタンス値を有する。インダクタンス成分L4は、回路の特性インピーダンスとは異なるインダクタンス成分を中心導体に有する。また、インダクタL3とL5の間には浮遊容量C6が形成される。
【0066】
インダクタL5に伝達された交流信号は、次のインダクタL6へ、導体損失R5を介して伝送される。インダクタL5もまた交流的にオープンスタブとして機能するため、浮遊容量C8がインダクタL5と接地端子SGとの間に形成される。また、インダクタL5とL6の間には、互いの導体間に浮遊容量C7が発生する。
【0067】
インダクタL6に伝達された交流信号は、次のインダクタL7へ、導体損失R6を介して伝送される。インダクタL6もまた交流的にオープンスタブとして機能するため、浮遊容量C10がインダクタL6と接地端子SGとの間に形成される。また、インダクタL6とL7との間には浮遊容量C9が形成される。インダクタL7は、その中心導体に導体損失R7を有すると共に、交流的にオープンスタブとして機能するため、浮遊容量C11をインダクタL7と接地端子SGとの間に有する。
【0068】
特性調整と回路のQ値を向上させる目的もある浮遊容量C1、C3、C6、C7、C9を除外して考えた場合、
図11の等価回路は、L1+C2、L2+C4、L3+C5、L4、L5+C8、L6+C10、L7+C11で構成される13次ローパスフィルタ(Low Pass Filter)と見ることが出来る。ただし、寄生容量成分である、その他のインダクタンス、かつキャパシタンス成分を考慮に入れることにより、より高次のローパスフィルタとして扱うことが出来る。
【0069】
カットオフ周波数は、
図11の等価回路内に示す各インダンクタンス値、また浮遊容量値を適切に選定することにより、上記共振周波数が変化し、自由に設計することが可能である。また、
図11の等価回路図においては、ローパスフィルタの構造で設計を行ったが、ローパスフィルタのみの特性を有するもの、ハイパスフィルタのみの特性を有するもの、バンドエリミネーションフィルタの特性を有するものなどの構成で設計できることは言うまでもない。また、段数に制約がないため、より急峻なフィルタ特性を希望する際はより多段にすることで所望のスカート特性を得ることができる。
【0070】
図12は、高周波コネクタ22A’のS21パラメータの周波数特性の一例を示しており、
図13は、高周波コネクタ22A’のS11パラメータの周波数特性の一例である。また、
図14は、高周波コネクタ22A’のS22パラメータの周波数特性の一例である。
図15は、高周波コネクタ22A’の反射係数とインピーダンスの関係の一例を示すスミスチャートである。
【0071】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0072】
1…コネクタ筐体、 2…誘電体、 4…ナット、 5…製品筐体、 6…中心導体、 7…高周波IC、 8…平衡・不平衡変換器(バラン)、 9、14…高周波スイッチ、 10…Tx側配線、 11…高周波線、 12…パワーアンプ、 13、15、17…フィルタ、 16…プリアンプ、 19…信号線、 20…高周波コネクタ、 21…同軸ケーブル、 22、22A…高周波コネクタ、 23…製品筐体、 24…スペクトル、 25~28、29~32…スペクトル、 33…マスク、 41…コネクタ筐体、 42…第1接続部、 43…第2接続部、 44…中心導体、 45…導体。