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特開2022-71958プラズマ処理装置及びプラズマ処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022071958
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置及びプラズマ処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/02 20060101AFI20220510BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
C23C14/02 A
H05H1/46 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020181110
(22)【出願日】2020-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】508022207
【氏名又は名称】コミヤマエレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104776
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100119194
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 明夫
(72)【発明者】
【氏名】久保 博義
【テーマコード(参考)】
2G084
4K029
【Fターム(参考)】
2G084AA07
2G084AA13
2G084BB11
2G084CC02
2G084CC11
2G084CC33
2G084DD01
2G084DD11
2G084DD38
2G084FF02
2G084GG07
2G084HH02
2G084HH11
2G084HH30
2G084HH47
4K029AA11
4K029BA04
4K029BA05
4K029BA08
4K029BD02
4K029CA05
4K029FA02
4K029FA05
4K029KA01
(57)【要約】
【課題】樹脂表面の濡れ性を改善させて、樹脂の密着性をより向上させることができるプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法を提供する。
【解決手段】樹脂1表面にプラズマを照射し、表面の濡れ性を改善するプラズマ処理装置において、樹脂1を保持する保持部4と、保持部1に取り付けられて、所定の移動方向に沿って保持部1を往復移動させる移動体5と、樹脂1の表面から樹脂1を構成する原子の少なくとも一部を脱離及び/又は吸着させるためのガスをチャンバに導入するガス導入部と、導入されたガスをプラズマ化して樹脂の表面に照射するプラズマ発生部3とを備え、移動体5の移動方向Aに対して、プラズマの照射方向Pが斜めになるように設定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂表面にプラズマを照射し、表面の濡れ性を改善するプラズマ処理装置において、
樹脂を保持する保持部と、
該保持部に取り付けられて、所定の移動方向に沿って前記保持部を往復移動させる移動体と、
前記樹脂の表面から前記樹脂を構成する原子の少なくとも一部を脱離及び/又は吸着させるためのガスをチャンバに導入するガス導入部と、
導入された前記ガスをプラズマ化して前記樹脂の表面に照射するプラズマ発生部とを備え、
前記移動体の前記移動方向に対して、前記プラズマの照射方向が斜めになるように設定することを特徴するプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記プラズマ発生部は、前記保持部の前記移動方向の往路側及び復路側の少なくとも2方向に、前記プラズマの前記照射方向を変化させる構成を備え、
前記保持部の往復移動のそれぞれにおいて、前記プラズマの前記照射方向を前記移動方向とは逆方向に向けて傾斜させるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記プラズマ発生部の前記プラズマの前記照射方向の角度を、前記移動体の前記移動方向や移動位置に依存して任意に可変可能に構成されたことを特徴とする請求項2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記樹脂は平面形状の状態で前記保持部に配設されることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記プラズマの照射を、前記樹脂の表面から前記樹脂を構成する原子の少なくとも一部を脱離させる脱離工程の中で用いるように構成することを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つに記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
樹脂表面にプラズマを照射し、表面の濡れ性を改善するプラズマ処理方法において、
樹脂を保持する保持工程と、
該保持工程において保持された前記樹脂を所定の移動方向に沿って往復移動させる移動工程と、
前記樹脂の表面から前記樹脂を構成する原子の少なくとも一部を脱離及び/又は吸着させるためのガスをチャンバに導入するガス導入工程と、
導入された前記ガスをプラズマ化して前記樹脂の表面に照射するプラズマ発生工程とを備え、
該プラズマ発生工程において、前記移動体の前記移動方向に対して、前記プラズマの照射方向が斜めになるように設定することを特徴するプラズマ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ照射で樹脂の表面処理を行うプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回路基板の基材として、従来のポリイミドに代わって、低誘電の液晶ポリマー(LCP:Liquid Crystal Polymer)またはポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene:PTFE)などのフッ素樹脂が使われ始めている。しかし、LCPまたはPTFEは、配線材として使われる銅との密着性が悪いという問題がある。このため、回路基板の基材の表面を化学的に荒らしたり、基材に密着させる銅箔の表面に凹凸を形成したりして、基材と銅の物理的な密着度を向上させることが行われている。
【0003】
ここで、基材の表面を化学的に荒らして基材の表面に銅を形成した場合、基材の表面の粗さが原因で、回路基板の伝送損失が大きくなってしまう。また、接着剤を用いて基材の表面に銅を貼り付けた場合、接着層自体が回路基板の伝送損失の原因となってしまう。また、メッキによって基材表面に銅を形成した場合、基材と銅の密着度が十分に得られない。これに対して、PTFE基材に大気プラズマを照射して表面を活性化させ、PTFE基材中のフッ素を、空気中の水分に由来するヒドロキシル基に置換し、PTFE基材の表面に銅を密着させて、PTFE基材と銅の積層体を得る方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-225099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の表面処理に対して、さらなる密着性の向上が求められるようになってきており、その対策が求められていた。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、樹脂表面の濡れ性を改善させて、樹脂の密着性をより向上させることができるプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプラズマ処理装置は、樹脂表面にプラズマを照射し、表面の濡れ性を改善するプラズマ処理装置において、樹脂を保持する保持部と、該保持部に取り付けられて、所定の移動方向に沿って前記保持部を往復移動させる移動体と、前記樹脂の表面から前記樹脂を構成する原子の少なくとも一部を脱離及び/又は吸着させるためのガスをチャンバに導入するガス導入部と、導入された前記ガスをプラズマ化して前記樹脂の表面に照射するプラズマ発生部とを備え、前記移動体の前記移動方向に対して、前記プラズマの照射方向が斜めになるように設定することを特徴する。
【0008】
また、本発明のプラズマ処理装置は、前記プラズマ発生部は、前記保持部の前記移動方向の往路側及び復路側の少なくとも2方向に、前記プラズマの前記照射方向を変化させる構成を備え、前記保持部の往復移動のそれぞれにおいて、前記プラズマの前記照射方向を前記移動方向とは逆方向に向けて傾斜させるように構成されたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明のプラズマ処理装置は、前記プラズマ発生部の前記プラズマの前記照射方向の角度を、前記移動体の前記移動方向や移動位置に依存して任意に可変可能に構成されたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明のプラズマ処理装置は、前記樹脂は平面形状の状態で前記保持部に配設されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明のプラズマ処理装置は、前記プラズマの照射を、前記樹脂の表面から前記樹脂を構成する原子の少なくとも一部を脱離させる脱離工程の中で用いるように構成することを特徴とする。
【0012】
また、本発明のプラズマ処理方法は、樹脂表面にプラズマを照射し、表面の濡れ性を改善するプラズマ処理方法において、樹脂を保持する保持工程と、該保持工程において保持された前記樹脂を所定の移動方向に沿って往復移動させる移動工程と、前記樹脂の表面から前記樹脂を構成する原子の少なくとも一部を脱離及び/又は吸着させるためのガスをチャンバに導入するガス導入工程と、導入された前記ガスをプラズマ化して前記樹脂の表面に照射するプラズマ発生工程とを備え、該プラズマ発生工程において、前記移動体の前記移動方向に対して、前記プラズマの照射方向が斜めになるように設定することを特徴する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、樹脂を保持する保持部に取り付けられた移動体の移動方向に対して、プラズマの照射方向が斜めになるように設定することで、プラズマによる表面の凹凸が移動方向に沿って流れるように形成されて凹凸が小さくなるため、伝送損失を悪化させることなく樹脂の密着性をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に係る積層体の製造方法のフローチャートである。
図2】同実施の形態に係るプラズマ処理装置の基本構成を示す断面模式図である。
図3】同実施の形態に係るプラズマ処理装置の第1設定パターンの説明模式図である。
図4】同実施の形態に係るプラズマ処理装置の第2設定パターンの説明模式図である。
図5】プラズマ処理装置を用いて表面処理した樹脂表面の画像であって、(a)本発明の実施の形態に係るプラズマ処理装置を用いて第1設定パターンで処理した画像、(b)本発明の実施の形態に係るプラズマ処理装置を用いて第2設定パターンで処理した画像、(c)従来のプラズマ処理装置の照射方向を斜めにしないで処理した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について、図1図5を用いて説明する。
【0016】
まず、樹脂(積層体)の製造方法の全体について説明すると、樹脂を電子基板などに適用するためには、樹脂の疎水表面を親水化する必要がある。図1は、本発明の実施の形態に係る積層体の製造方法の各工程をフローで示している。積層体の製造方法のうち、前半の二工程は樹脂表面親水化方法である。この実施形態の樹脂表面親水化方法は、脱離工程S10と導入工程S20を備えている。脱離工程S10では、樹脂の疎水表面にプラズマを照射して、樹脂の表面から樹脂を構成する原子の少なくとも一部を脱離させる。すなわち、脱離工程S10では、樹脂の疎水表面をプラズマで、特にプラズマ中のイオンで分子結合を切り、樹脂の表面を活性化している。
【0017】
樹脂としては、疎水表面を有するものであれば特に制限がないが、PTFEなどのフッ素樹脂、ポリイミド、またはLCPが挙げられる。フッ素樹脂の場合、フッ素と炭素を含んでおり、樹脂の疎水表面から脱離する原子がフッ素であることが好ましい。本発明の実施の形態における表面改質処理(S10とS20の工程)によって樹脂の疎水表面が大きく親水化されるからである。また、母材となるフッ素を含む樹脂は、絶縁性が高く、電気基板として優れているからである。ポリイミドやLCP樹脂の場合、芳香族ポリエステルを含んでおり、樹脂の疎水表面から脱離する原子が酸素や炭素であってもよい。プラズマは、窒素およびアルゴンの少なくとも一方を含んでいることが好ましい。窒素またはアルゴンのイオンによって、樹脂の表面から樹脂を構成する原子が脱離しやすいからである。
【0018】
導入工程S20では、脱離工程S10を経た樹脂の表面にヒドロキシルラジカルを照射して、樹脂の表面にヒドロキシル基(-OH)を導入する。ヒドロキシル基が導入された樹脂の表面は親水性が高い。例えば、水蒸気をプラズマ化して、このプラズマ中のヒドロキシルラジカルを、脱離工程S10を経た樹脂の表面に照射する。脱離工程S10および導入工程S20が減圧状態で行われ、脱離工程S10の後、減圧状態が維持されたまま導入工程S20が行われることが好ましい。脱離工程S10で樹脂の表面が活性化された状態を維持したまま、樹脂の表面にヒドロキシル基が導入できるからである。なお、導入工程S20を経た樹脂の表面は、親水性が長期間、例えば数週間にわたって維持される。このため、導入工程S20の後に樹脂を大気開放しても問題ない。
【0019】
脱離工程S10が0.1Pa以上0.4Pa以下の第一圧力で行われ、導入工程が、第一圧力の30%以上50%以下の第二圧力で行われることが好ましい。脱離工程S10で、プラズマ中のイオンおよびラジカルの進行方法が制御しやすいからであり、導入工程S20で、樹脂の表面にイオンがほとんど照射されなくなり、ヒドロキシルラジカルが樹脂の表面に照射されやすくなるからである。導入工程は、樹脂の温度150℃以上300℃以下にして行われることが好ましい。ヒドロキシル基と樹脂の表面の化学反応が促進され、ヒドロキシル基が樹脂の表面に強固に導入されるからである。
【0020】
ここまでの樹脂表面親水化方法で得られた樹脂を電子基板に用いる場合、樹脂の表面に金属を、例えば銅を付着させたい。そこで、金属ターゲットにプラズマ、イオン、またはラジカルを照射し、金属ターゲットから放出された金属を樹脂の表面に薄く蒸着させる。すなわち、本実施の形態の積層体の製造方法は、脱離工程S10と、導入工程S20と、蒸着工程S30を備えている。つまり、本実施の形態の積層体の製造方法は、前記した樹脂表面親水化方法の後に、蒸着工程S30を備えている。脱離工程S10と導入工程S20は、前記した樹脂表面親水化方法での各工程と同じなので、脱離工程S10と導入工程S20の説明を省略する。
【0021】
蒸着工程S30では、導入工程S20を経た樹脂の表面に金属膜を蒸着する。金属膜の蒸着は、例えば、CVD法またはPVD法(スパッタリング)によって行う。金属膜としては、銅膜、銀膜、または金膜などが挙げられる。蒸着工程では、導入工程S20の後に大気開放された樹脂を用いてもよい。しかし、生産性を向上させるため、および各種汚染物が樹脂に付着するのを抑えるため、減圧状態が維持されたまま導入工程S20と蒸着工程S30を行うことが好ましい。
【0022】
蒸着された金属膜の表面には、同じ金属のメッキ加工または熱圧着加工が行いやすい。すなわち、本実施の形態の積層体の製造方法は、蒸着工程S30の後に、被覆工程S40をさらに備えていてもよい。被覆工程S40は、蒸着された金属膜の表面に、この金属膜を構成する金属と同じ金属から構成される金属層をさらに被覆する。金属膜の表面に金属層を被覆する方法としては、蒸着工程S30の後の積層体の金属膜と金属層を合わせて熱圧着する方法、または蒸着工程S30の後の積層体の金属膜に金属層をメッキで形成する方法などが挙げられる。
【0023】
また、蒸着工程S30の工程を省き、被覆工程S40のメッキ加工をしても良い。この場合、樹脂表面は導体になっていないため、化学的に薄いCu膜(100~400nm程度)を付けるために、無電解メッキを行う。その後、数十μmメッキを形成するために、電解メッキを行う。
【0024】
本実施の形態の積層体は、樹脂の疎水表面に存在する原子の一部がヒドロキシル基に置換された樹脂基材と、樹脂基材の表面に形成された金属蒸着膜を備えている。そして、樹脂基材の表面の水との接触角が10°以下である。このため、樹脂基材の表面と金属蒸着膜が強固に密着する。樹脂基材の表面の水との接触角は、6°以下であることがより好ましい。本実施の形態の積層体は、金属蒸着膜の表面に、金属蒸着膜を構成する金属と同じ金属から構成される金属層をさらに備えていてもよい。樹脂がポリテトラフルオロエチレンであり、ヒドロキシル基に置換される原子がフッ素であってもよい。また、樹脂が全芳香族ポリエステルを含む液晶ポリマーであってもよい。
【0025】
図2は、本実施の形態の樹脂表面親水化方法に使用できるプラズマ処理装置の基本構成を示している。プラズマ処理装置は、樹脂としての被処理部材1の表面にプラズマを照射し、表面の濡れ性を改善するものであり、真空チャンバ2と、ファインプラズマガン(FPG)3と、被処理部材1を保持する保持部としての保持台4と、この保持台4に取り付けられて所定の移動方向Aに沿って保持台4を往復移動させる移動体5と、第一DC電源9と、第二DC電源8を備えている。図2では保持台4の上に被処理部材1が乗っているが、保持台4の上方に浮かせて被処理部材1を配置しても良い。FPG3と被処理部材1との距離に比べて、保持台4と被処理部材1との距離が近くなるように配置されている。
【0026】
真空チャンバ2は、アルミニウム合金またはステンレスなどの金属から構成され、グランド10に接続されている。FPG3は、真空チャンバ2内の上部に配置されている。FPG3は、被処理部材1の表面から樹脂を構成する原子の少なくとも一部を脱離及び/又は吸着させるためのガスを導入するガス導入部(不図示)から真空チャンバ2内に導入された処理ガスをプラズマ化して被処理部材1の表面に照射するプラズマ発生部である。なお、本実施の形態では、被処理部材1は平面形状の状態で保持台4に配設されている。
【0027】
FPG3は、例えば国際公開第2014/175702号に記載されているものが採用できる。保持台4は、FPG3と略対向するように、FPG3の下方に設置されている。保持台4は、金属製または電極であり、樹脂としての被処理部材1を保持する。第一DC電源9は、保持台4に接続されている。第二DC電源8は、FPG3に接続されている。
【0028】
真空チャンバ2内を排気ポンプ(不図示)で減圧しながら、ガス導入部から真空チャンバ2内に窒素、アルゴン、酸素、または水蒸気などの処理ガスを導入し、真空チャンバ2内を所定の圧力、例えば0.1Pa以上0.4Pa以下の0.3Paに調整する。この状態で第二DC電源8からFPG3に第二DC電圧を印加すると、FPG3で処理ガスのプラズマが生成する。
【0029】
このとき、真空チャンバ2内の圧力が高過ぎると、例えば0.4Paを超えると、処理ガスがグロー放電状態になり、プラズマ中のイオン7およびラジカル6の進行方向が制御できない。これに対して、真空チャンバ2内の圧力が適切な範囲であれば、処理ガスの暗放電状態を維持し、イオン7およびラジカル6の進行方向が制御できる。そこで、真空チャンバ2内の圧力を、例えば0.1Pa以上0.4Pa以下に調整する。
【0030】
また、本実施の形態のプラズマ処理装置におけるプラズマ発生部としてのFPG3は、プラズマの照射方向Pが、移動体5の移動方向Aに対して直交する方向(図2における下方向)から斜めになるように設定されている。これにより、被処理部材1におけるプラズマによる表面の凹凸が移動方向Aに沿って流れるように形成されて凹凸が小さくなるため、樹脂表面の濡れ性が改善して、樹脂の密着性をより向上させることができる。
【0031】
また、本実施の形態のプラズマ処理装置におけるFPG3は、図3に示すように、保持台4の移動方向Aの往路側(図3(a))及び復路側(図3(b))の少なくとも2方向に、プラズマの照射方向Pを変化させる構成を備えている。ここでは、第1設定パターンとして、図3(a),(b)に示すように、保持台4の往復移動のそれぞれにおいて、プラズマの照射方向Pを移動方向Aとは逆方向に向けて傾斜させるように構成されている。
【0032】
なお、本実施の形態のプラズマ処理装置におけるFPG3は、第2設定パターンとして、図4(a),(b)に示すように、保持台4の往復移動のそれぞれにおいて、プラズマの照射方向Pを移動方向Aと同方向に向けて傾斜させるように構成しても良い。
【0033】
また、本実施の形態のFPG3のプラズマの照射方向Pの角度を、移動体5の移動方向Aや移動位置に依存して任意に可変可能に構成させるようになっていても良い。さらに、センサによる保持台4の位置情報や、移動体5の移動制御プログラム等により、保持台4の現在の位置を把握して追尾し、自動的にプラズマの照射方向Pを適度な傾斜角度となるように常に調整するようになっていても良い。また、移動体5の移動方向Aとプラズマの照射方向Pとの傾斜角度は、移動体5の移動速度やFPG3の高さ位置等に応じて適宜決定すれば良い。
【0034】
プラズマ処理装置を用いて脱離工程S10を行う場合、以下の手順で行う。まず、樹脂である被処理部材1を保持台4で保持し、ガス導入部から真空チャンバ2内に処理ガスである窒素および/またはアルゴンを入れ、排気ポンプで真空チャンバ2内の圧力を0.1Pa以上0.4Pa以下の0.3Paに調整する。つぎに、第一DC電源9をOFFのままで、すなわち保持台4を接地した状態で、第二DC電源8をONにする。
【0035】
そして、移動体5により保持台4を移動方向Aに沿って往復移動させながら、適度な傾斜角度に設定されたFPG3で処理ガスのプラズマが生成され、方向性があるイオンおよびラジカルが被処理部材1に照射される。そして、主にイオンの衝撃によって、被処理部材1の表面から原子が脱離する。イオンに方向性があるので、被処理部材1の表面から効率よく原子を脱離させられる。なお、脱離した原子のほとんどは、排気ポンプによって、真空チャンバ2外に排出される。脱離した原子の一部は、真空チャンバ2内で浮遊しているか、浮遊後に真空チャンバ2の内壁または真空チャンバ2内の部品に付着する。しかし、本実施形態では、一般的なグロー放電の条件より真空チャンバ2内の圧力が低いので、チャンバ2内に浮遊している不純物がほとんどない。このため、被処理部材1の汚染が抑えられる。
【0036】
前記したプラズマ処理装置と同様の処理装置を用いて導入工程S20を行う場合、以下の手順で行う。なお、脱離工程S10と導入工程S20は、別々の処理装置で行うことが好ましい。脱離工程S10を行った処理装置と同じ処理装置で導入工程S20を行うと、すなわち、同じ処理装置で、脱離工程S10の後に導入工程S20を行うと、脱離工程S10で被処理部材1の表面から脱離した成分が真空チャンバ2内に付着し、その後の導入工程S20で、この付着物が浮遊して、被処理部材1の表面に付着するおそれがあるからである。脱離工程S10に由来する浮遊物の影響が少なければ、脱離工程S10と導入工程S20を同じ処理装置で行ってもよい。
【0037】
まず、脱離工程S10を経た被処理部材1を保持台4で保持する。2つの処理装置の間に真空予備室を設けるなどして、脱離工程S10を行った処理装置から大気開放せずに、導入工程S20を行う処理装置に被処理部材1を移動させることが好ましい。つぎに、ガス導入部から真空チャンバ2内に、水および/または水蒸気を含む処理ガスを導入する。処理ガスは水蒸気であることが好ましい。ヒドロキシルラジカル6が生成されやすいからである。
【0038】
そして、真空チャンバ2内の圧力が脱離工程S10での圧力の30%以上50%以下となるように、排気ポンプで真空チャンバ2内の圧力を調整する。導入工程S20での圧力が脱離工程S10での圧力の30%以上50%以下であるため、処理ガスのプラズマ中でヒドロキシルラジカル6が多く生成する。つぎに、第一DC電源9と第二DC電源8をONにする。FPG3と接地された真空チャンバ2の電位差によって、処理ガスのプラズマが生成する。
【0039】
このとき、第一DC電源9からの電圧は、第二DC電源8からの電圧より小さいことが好ましく、第二DC電源8からの電圧の40%以上で、第二DC電源8からの電圧より小さいことがさらに好ましい。FPG3と保持台4の電位差を小さくすることによって、処理ガスのプラズマ中からヒドロキシルラジカル6を多く抽出して、被処理部材1に照射できるからである。すなわち、真空チャンバ2が接地されているため、FPG3と真空チャンバ2との電位差は、FPG3と保持台4の電位差より大きい。このため、処理ガスのプラズマ中のほとんどのイオン7は、FPG3から保持台4の方向ではなく、FPG3から真空チャンバ2の方向に移動する。残ったプラズマ中の極性がないヒドロキシルラジカル6は、被処理部材1に照射される。
【0040】
ヒドロキシルラジカル6を被処理部材1に照射することによって、被処理部材1の表面にヒドロキシル基が導入される。しかも、被処理部材1にイオン7がほとんど照射されないので、イオンの衝撃によって被処理部材1の表面に導入されたヒドロキシル基が再び脱離するのを抑えられる。このように、被処理部材1の表面には安定した親水性が付与される。ヒドロキシル基の導入によって、ヒドロキシル基が被処理部材1の表面と化学結合している。
【0041】
なお、この処理装置においても、前記したプラズマ処理装置と同様に、FPG3は、プラズマの照射方向Pが、移動体5の移動方向Aに対して直交する方向(図2における下方向)から斜めになるように設定されている。
【0042】
また、このFPG3も、図3に示すように、保持台4の移動方向Aの往路側(図3(a))及び復路側(図3(b))の少なくとも2方向に、プラズマの照射方向Pを変化させる構成を備えていても良い。ここでは、図3(a),(b)に示すように、保持台4の往復移動のそれぞれにおいて、プラズマの照射方向Pを移動方向Aとは逆方向に向けて傾斜させるように構成されている。
【0043】
なお、本実施の形態のFPG3は、図4(a),(b)に示すように、保持台4の往復移動のそれぞれにおいて、プラズマの照射方向Pを移動方向Aと同方向に向けて傾斜させるように構成しても良い。
【0044】
また、本実施の形態のFPG3のプラズマの照射方向Pの角度を、移動体5の移動方向Aや移動位置に依存して任意に可変可能に構成させるようになっていても良い。さらに、センサによる保持台4の位置情報や、移動体5の移動制御プログラム等により、保持台4の現在の位置を把握して追尾し、自動的にプラズマの照射方向Pを適度な傾斜角度となるように常に調整するようになっていても良い。
【実施例0045】
(脱離工程)
接地されたステンレス製のチャンバ内で、ファインプラズマガン(FPG)(Finesolution Co., Ltd.製、Linear type ion beam source FPG-L040S)(以下同様)を用いて、チャンバ内圧力0.3Pa、FPGに供給する電力300W、処理ガスが窒素またはアルゴンの条件で、市販されているA4判のフッ素樹脂基板に脱離工程を行った。
(導入工程)
接地されたステンレス製のチャンバ内で、ファインプラズマガン(FPG)を用いて、チャンバ内圧力0.15Pa、FPGに供給する電力300W処理ガスが水蒸気の条件で、基板を保持する保持台に印可する電圧をFPGに印可する電圧より低くして、脱離工程を経た基板に導入工程を行った。
【0046】
ここで、脱離工程の際に、従来のように、保持台4の往復移動のそれぞれにおいて、FPG3からのプラズマの照射方向Pを移動方向Aに対して直交方向に向けた(傾斜させない)ときの画像を図5(c)に示す。
【0047】
また、脱離工程の際に、図3(a),(b)に示すように、保持台4の往復移動のそれぞれにおいて、FPG3からのプラズマの照射方向Pを移動方向Aとは逆方向に向けて傾斜させたときの画像を図5(a)に示す。図5(a)に示すように、FPG3からのプラズマの照射方向Pを移動方向Aとは逆方向に向けて傾斜させると、プラズマによる表面の凹凸が移動方向Aに沿って流れるように形成されて、図3(c)に比べて凹凸が小さくなるため、樹脂表面の濡れ性が改善して、樹脂の密着性をより向上させることができる。
【0048】
また、脱離工程の際に、図4(a),(b)に示すように、保持台4の往復移動のそれぞれにおいて、FPG3からのプラズマの照射方向Pを移動方向Aと同方向に向けて傾斜させたときの画像を図5(b)に示す。図5(b)に示すように、FPG3からのプラズマの照射方向Pを移動方向Aと同方向に向けて傾斜させても、プラズマによる表面の凹凸が移動方向Aに沿って流れるように形成されて、図3(c)に比べて凹凸が小さくなるため、樹脂表面の濡れ性が改善して、樹脂の密着性をより向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法は、高速大容量の情報を通信する携帯電話に用いる回路基板に利用される。フッ素樹脂の比誘電率は空気の次に低いので、フッ素樹脂基板は、高周波基板の素材に特に適している。フッ素樹脂を用いた回路基板は、他の一般的な素材を用いた回路基板と比べて、高周波電流を流しても比誘電率および誘電正接が低く、誘電損失が小さい。
【0050】
本発明のプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法をフッ素樹脂基板に適用した場合、基板の親水性が向上し、銅配線との密着性が向上でき、高周波数帯での使用に耐えうる回路基板が提供できる。この高周波数帯での使用に適用できる技術は、携帯電話本体にとどまらず、携帯電話の基地局に使われる基板、家庭内、工場内、もしくは地域専用の通信用の基板、または自動車もしくはドローンなどの自動運転に用いられるミリ波レーダー用の基板にも適用でき、応用範囲は広い。
【符号の説明】
【0051】
S10:脱離工程、 S20:導入工程、 S30:蒸着工程、 S40:被覆工程、 1:被処理部材(樹脂)、 2:真空チャンバ、 3:ファインプラズマガン(FPG)、 4:保持台(保持部)、5:移動体、 6:ラジカル(ヒドロキシルラジカル)、 7:イオン、 8:第二DC電源、 9:第一DC電源、 10:グランド、 A:移動方向、 P:プラズマ照射方向
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図2
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図5