(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072028
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】多検体自動回転粘度計
(51)【国際特許分類】
G01N 11/14 20060101AFI20220510BHJP
【FI】
G01N11/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020181221
(22)【出願日】2020-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】595005617
【氏名又は名称】ジャスコエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(74)【代理人】
【識別番号】100188260
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 愼二
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】工藤 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 光男
(72)【発明者】
【氏名】吉川 和浩
(57)【要約】
【課題】多検体の連続粘度測定が可能でシンプルな装置構成の回転粘度計を提供する。
【解決手段】多検体用の回転粘度計は、ローター11付きのスピンドル12、当該スピンドル12の回転駆動用モーター13、および、ローター11に作用するトルクを検出するトルク検出部を有する検出ヘッド1と、複数のサンプル容器31を保持したサンプルラック3と、サンプルラック3に隣接して配置されるローター11用の洗浄槽4と、サンプルラック3の上方位置および洗浄槽4の上方位置のいずれの位置へも検出ヘッド1を移動可能で、かつ、検出ヘッド1を昇降可能に構成されたブリッジ型のXYZ軸移動装置2と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピンドルに固定されたローターをサンプル容器内の検体に沈めた状態で回転させて、当該ローターの表面に作用するトルクを検出し、当該トルク検出値に基づいて検体の粘度を測定する回転粘度計であって、
ローター付きのスピンドル、当該スピンドルの回転駆動部、および、前記ローター表面のトルクを検出するトルク検出部を有する検出ヘッドと、
複数のサンプル容器を配置するサンプルエリアと、
前記サンプルエリアに隣接して配置されるローター用の洗浄槽と、
前記複数のサンプル容器の上方位置および前記洗浄槽の上方位置のいずれの位置へも前記検出ヘッドを移動可能で、かつ、前記検出ヘッドを昇降可能な検出ヘッド移動装置と、
を備えることを特徴とする多検体用の回転粘度計。
【請求項2】
請求項1記載の多検体用の回転粘度計において、
前記洗浄槽は、前記ローターが内部に入っている状態で当該洗浄槽の開口部を開閉可能な蓋を有することを特徴とする多検体用の回転粘度計。
【請求項3】
請求項2記載の多検体用の回転粘度計において、
前記洗浄槽の蓋は、
前記開口部の半分を覆う第1カバー部材と、
前記開口部の残り半分を覆う第2カバー部材と、
前記第1および第2カバー部材を前記開口部上でスライド可能に保持する本体部材と、
前記第1および第2カバー部材をそれぞれ開位置と閉位置の間でスライド移動させるカバー駆動部と、を有し、
前記第1および第2カバー部材が閉位置にある状態で、それぞれの前記開口部の中心位置に対応する部分に、前記スピンドルの横断面に対応する大きさの溝部が形成されており、
前記第1および第2カバー部材が閉位置にある状態では、それぞれの前記溝部によって形成された前記スピンドル用の孔を有することを特徴とする多検体用の回転粘度計。
【請求項4】
請求項3記載の多検体用の回転粘度計において、
前記洗浄槽の蓋は、さらに、前記スピンドル用の前記孔を塞ぐ閉塞手段を有することを特徴とする多検体用の回転粘度計。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の多検体用の回転粘度計において、
前記洗浄槽のノズルから、霧状の洗浄液、蒸発させた洗浄液、または、蒸気に混合させた洗浄液を噴射する洗浄液供給装置を備えることを特徴とする多検体用の回転粘度計。
【請求項6】
請求項5記載の多検体用の回転粘度計において、
前記洗浄液供給装置は、前記洗浄液を複数種類の洗浄液のうちの1つに切り替える洗浄液切替部を有することを特徴とする多検体用の回転粘度計。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の多検体用の回転粘度計において、前記洗浄槽内に乾燥用ガスを供給する乾燥用ガス供給装置を備えることを特徴とする多検体用の回転粘度計。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の多検体用の回転粘度計において、
前記洗浄槽のノズルの高さに合わせて前記洗浄槽に挿入された前記ローターの高さを変化させるローター高さ制御部を有することを特徴とする多検体用の回転粘度計。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の多検体用の回転粘度計において、
前記スピンドル移動装置は、
前記ローターから垂れ落ちる検体を受ける受け皿と、
前記受け皿の位置を前記ローターの下方位置または退避位置に切り替える受け皿移動装置と、を有することを特徴とする多検体用の回転粘度計。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の多検体用の回転粘度計において、
前記スピンドル移動装置は、
前記サンプル容器の蓋の着脱部と、
前記蓋の着脱部を前記検出ヘッドとは独立して昇降する蓋の着脱部昇降装置と、を有する
ことを特徴とする多検体用の回転粘度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の粘度を測定する回転粘度計に関し、特に、複数の検体を順次、自動的に連続測定する多検体自動回転粘度計の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に回転粘度計は、サンプル容器の検体中に円筒状や円板状などのローターを浸した状態にして、ローターを一定速度で回転させて、ローター表面に作用するトルクを検出し、検体の粘度を得るものである。このような回転粘度計を用いた測定は、十分に広くないサンプル容器の開口部にローターを出し入れする作業を伴い、また、1つの検体の測定後、次の検体の測定までにローターを洗浄し乾燥させる作業も伴うため、検体数が増えるほど手間を要して測定者を拘束する。また、サンプル容器内でのローター位置のばらつき、および、ローターの洗浄・乾燥の不足は、測定誤差の原因になる。
【0003】
複数検体の粘度測定の自動化は、上記のような課題を解決できる可能性があり、以前から注目されてきた。
【0004】
例えば、特許文献1に、粉体の溶液化から粘度測定までの一連の作業を自動的に行なう自動粘度測定装置が開示されている。明細書の4頁左上欄~5頁左上欄の記載によると、この装置は、サンプル収納ラック(J)から試料瓶(3)を挟持して移動する搬送手段(A)と、ローター(25)を備えた回転形粘度計(26)と、ローター(25)を洗浄するローター洗浄装置(M)と、ローター洗浄装置(M)を移動させる移動機構(36)と、を備えている。搬送手段(A)は、試料瓶(3)を回転形粘度計(26)の下方に設置された恒温槽(30)まで搬送し、回転計粘度計(26)は、恒温槽(30)中の試料瓶(3)内の検体の粘度を測定し、粘度測定後に、移動機構(36)がローター洗浄装置(M)を回転形粘度計(26)の位置まで移動させてローターを洗浄する構成になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の装置構成では、試料瓶を搬送させる装置(搬送手段A)とローター洗浄装置を移動させる装置(移動機構36)の両方が必要であり、可動機構が多いため、装置構成の簡略化を検討する余地があった。本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、多検体の連続粘度測定が可能でシンプルな装置構成の多検体自動回転粘度計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の多検体用の回転粘度計は、
スピンドルに固定されたローターをサンプル容器内の検体に沈めた状態で回転させて、当該ローターの表面に作用するトルクを検出し、当該トルク検出値に基づいて検体の粘度を測定する回転粘度計であって、
ローター付きのスピンドル、当該スピンドルの回転駆動部、および、前記ローター表面のトルクを検出するトルク検出部を有する検出ヘッドと、
複数のサンプル容器を配置するサンプルエリアと、
前記サンプルエリアに隣接して配置されるローター用の洗浄槽と、
前記複数のサンプル容器の上方位置および前記洗浄槽の上方位置のいずれの位置へも前記検出ヘッドを移動可能で、かつ、前記検出ヘッドを昇降可能な検出ヘッド移動装置と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、検出ヘッド移動装置は、検出ヘッドを測定対象のサンプル容器の上に移動し下降することで、ローターをサンプル容器の検体中に沈めて粘度測定できる状態にすることができる。粘度測定後、ローターをサンプル容器から引き上げて、検出ヘッドを洗浄槽の上に移動し下降することで、ローターを洗浄槽に挿入して洗浄できる状態にすることができる。さらに、洗浄後は、次の測定対象のサンプル容器に対して検出ヘッドを移動することができる。このように、検出ヘッド移動装置を備えたシンプルな装置構成で、多検体の連続粘度測定が可能になった。
【0009】
また、前記洗浄槽は、前記ローターが内部に入っている状態で当該洗浄槽の開口部を開閉可能な蓋を有することが好ましい。
【0010】
ここで、洗浄槽にローターが入っている状態で蓋の開閉が可能であるとは、ローターを保持するスピンドルが洗浄槽の内部から外部に出ている状態で、蓋が開口部を閉じることができることを指す。この構成によれば、上記の開閉可能な蓋によって、洗浄槽の開口部は、ローターが内部に挿入された状態でも閉じられるため、ローターを洗浄する際に、洗浄液やローターに付着していた検体などが開口部から外部に放出されることを防止することができる。
【0011】
また、前記洗浄槽の蓋は、
前記開口部の半分を覆う第1カバー部材と、
前記開口部の残り半分を覆う第2カバー部材と、
前記第1および第2カバー部材を前記開口部上でスライド可能に保持する本体部材と、
前記第1および第2カバー部材をそれぞれ開位置と閉位置の間でスライド移動させるカバー駆動部と、を有し、
前記第1および第2カバー部材が閉位置にある状態で、それぞれの前記開口部の中心位置に対応する部分に、前記スピンドルの横断面に対応する大きさの溝部が形成されており、
前記第1および第2カバー部材が閉位置にある状態では、それぞれの前記溝部によって形成された前記スピンドル用の孔を有することが好ましい。
【0012】
また、前記洗浄槽の蓋は、さらに、前記スピンドル用の前記孔を塞ぐ閉塞手段を有することが好ましい。
【0013】
ローター洗浄後に洗浄槽を洗浄する際、洗浄槽の蓋にスピンドル用の孔が形成されていると、その孔から洗浄液などが外部に放出されてしまう。これに対して、蓋に閉塞手段を設ければ、蓋のスピンドル用の孔が塞がれて、洗浄液などの放出を防ぐことができる。
【0014】
また、前記回転粘度計は、前記洗浄槽のノズルから、霧状の洗浄液、蒸発させた洗浄液、または、蒸気に混合させた洗浄液を噴射する洗浄液供給装置を備えることが好ましい。
【0015】
ここで、蒸発させた洗浄液とは、水やアルコールなどの洗浄液の蒸気を示す。また、蒸気に混合させた洗浄液として、水蒸気に各種の有機溶剤や洗剤を混合させたものが例示される。この構成によれば、洗浄液供給装置が、霧状の洗浄液、洗浄液の蒸気、または、蒸気に混合させた洗浄液を洗浄槽に噴射してローターを洗浄するので、洗浄能力が高まり、洗浄液を液状のままで洗浄する場合よりも、洗浄液の使用量が1/10程度の少量になる。
【0016】
また、前記洗浄液供給装置は、前記洗浄液を複数種類の洗浄液のうちの1つに切り替える洗浄液切替部を有することが好ましい。
【0017】
この構成によれば、洗浄液切替部によって、複数種類の検体を含む多検体測定であっても、それぞれの検体に応じた適切な洗浄液を選択することができる。または、洗浄の最後に比較的揮発性の高い有機溶剤を選択することで、後の乾燥工程が迅速に進み、多検体の測定時間の短縮化を図ることができる。
【0018】
また、前記回転粘度計は、前記洗浄槽内に乾燥用ガスを供給する乾燥用ガス供給装置を備えることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、乾燥用ガス供給装置によって洗浄槽内での乾燥処理が可能になる。従って、一度、ローターを洗浄槽内に挿入すれば、洗浄と乾燥の両方の動作が実行されるので、多検体の測定時間の短縮化を図ることができる。
【0020】
また、前記回転粘度計は、前記洗浄槽のノズルの高さに合わせて前記洗浄槽に挿入された前記ローターの高さを変化させるローター高さ制御部を有することが好ましい。
【0021】
この構成によれば、洗浄槽内でローターを回転させながら上下移動させることで、ローターを含むスピンドルの全体を偏りなく洗浄することができる。
【0022】
また、前記スピンドル移動装置は、前記ローターから垂れ落ちる検体を受ける受け皿と、前記受け皿の位置を前記ローターの下方位置または退避位置に切り替える受け皿移動装置と、を有することが好ましい。
【0023】
この構成によれば、サンプル容器から引き上げられたローターから検体が垂れ落ちることに起因する他の検体やサンプル容器の汚染を防止することができる。
【0024】
また、前記スピンドル移動装置は、前記サンプル容器の蓋の着脱部と、前記蓋の着脱部を前記検出ヘッドとは独立して昇降する蓋の着脱部昇降装置と、を有することが好ましい。
【0025】
この構成によれば、蓋によってサンプル容器内の検体の揮発を抑制することができ、また、粘度測定の際にサンプル容器の蓋を自動的に着脱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態の多検体自動回転粘度計の全体構成を示す図である。
【
図2】前記回転粘度計の洗浄液供給装置を示す図であり、(A)は霧状の洗浄液を使用する場合の例であり、(B)は蒸気に混合させた洗浄液を利用する場合の例である。
【
図3】前記回転粘度計の洗浄槽の蓋の分解図である。
【
図4】前記洗浄槽の蓋の開閉動作を示す平面図であり、(A)は開状態を示し、(B)はローター洗浄時の閉状態を示し、(C)はスピンドル用の孔の閉塞状態を示す。
【
図5】前記回転粘度計のサンプル容器の蓋の着脱装置の構成を示す図である。
【
図6】前記回転粘度計の垂れ落ち防止装置の構成を示す図である。
【
図7】前記回転粘度計を用いた多検体の自動測定方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の一実施形態に係る多検体自動回転粘度計(以下、回転粘度計と呼ぶ)の全体構成を
図1に基づいて説明する。この回転粘度計は、検出ヘッド1、XYZ軸移動装置2、サンプルラック3、洗浄槽4、洗浄液供給装置5、制御装置6を主要構成として備え、ブリッジ型のXYZ軸移動装置2に取付けられた検出ヘッド1を、サンプルラック3に配置したサンプル容器31の上に移動させてサンプル容器31内の検体の粘度を測定し、測定後に洗浄槽4においてローター11の洗浄・乾燥を実行し、続けて次のサンプル容器31の検体を測定するように構成されている。
【0028】
<検出ヘッド>
検出ヘッド1は、ローター11付きの金属製スピンドル12(両者は一体に形成されていてもよい。)と、このスピンドル12の回転駆動用モーター13と、ローター11表面に作用するトルクを検出するトルク検出部(図示しない)を有し、ローター11をサンプル容器31内の液状の検体に沈められた状態で回転させた際のトルクを検出し、そのトルク検出値を制御装置6に送るように構成されている。制御装置6に設けられる検出信号処理部は、読み取ったトルク検出値に基づいて検体の粘度を算出する。
【0029】
<ブリッジ型のXYZ軸移動装置>
XYZ軸移動装置2は、一対のY軸レール21と、ブリッジ移動体22と、X軸スライダー23と、検出ヘッド昇降装置24とを備える。一対のY軸レール21は、サンプルエリアのサンプルラック3およびこれに隣接する洗浄槽4を挟むように設置されている。ブリッジ移動体22は、Y軸レール21によってY軸方向に進退する一対の脚部と22A、一対の脚部22Aを連結する梁部22Bとを有し、全体を門型に形成されている。X軸スライダー23は、梁部22Bに沿ってスライド可能に構成されている。検出ヘッド昇降装置24は、X軸スライダー23に支持されている上下方向のZ軸案内部24Aと、このZ軸案内部によって昇降可能な検出ヘッド保持部24Bとを有し、検出ヘッド保持部24Bに検出ヘッド1が保持されている。
【0030】
上記のようにXYZ軸移動装置2は、Y軸方向に進退するブリッジ移動体22、X軸方向にスライドするX軸スライダー23、Z方向に昇降する検出ヘッド保持部24Bを含み、これらの可動部分にはそれぞれモーター等の駆動装置が設けられ、制御装置6によって駆動制御される。制御装置6のヘッド移動制御部は、ブリッジ移動体22およびX軸スライダー23の可動範囲において、サンプルラック3および洗浄槽4の上方の任意の位置に検出ヘッド1を位置決めすることができる。検出ヘッド1は、登録されたサンプル容器31の位置情報に基づいて、測定対象のサンプル容器31の真上、および、洗浄槽4の真上に正確に位置決めされる。
【0031】
さらに、制御装置6は、検出ヘッド昇降装置24によって、測定対象のサンプル容器31または洗浄槽4の上方位置から検出ヘッド1を下降し、ローター11をサンプル容器31内または洗浄槽4内に挿入し、正確な高さ位置で停止させることができる。
【0032】
なお、
図1のXYZ軸移動装置2は、検出ヘッド移動装置の一例に過ぎず、その他、マニピュレーターなどのロボットアームを用いてもよい。また、サンプルラック3を用いず、サンプルエリアに複数のサンプル容器31を配置するだけでもよい。
【0033】
<洗浄液供給装置>
洗浄液供給装置5は、(i)ローター11を洗浄液に浸ける、(ii)ローター11に洗浄液を当てる、(iii)洗浄液を霧状にしてローター11に吹き付ける、(iv)蒸気にした洗浄液、または、水蒸気などの蒸気に混合させた洗浄液をローター11に吹き付ける、の4通りの洗浄方法のうちの1以上の組合せに対応する構成になっている。例えば、洗浄方法(ii)を水で実行する場合、水道水の供給源を電磁弁を介して洗浄槽4のノズルに接続したものを用いれば、洗浄液供給装置5を簡単に構成することができる。
【0034】
洗浄方法(iii)を実行する場合、洗浄槽4に、霧状の洗浄液および乾燥用ガスを噴射するポートと、噴射された洗浄液およびローターから落ちた汚れ(検体)を排出するポートとを設けたものを用いる。
図2(A)に示す洗浄液供給装置5の具体例では、圧縮された乾燥用ガスの供給源51が洗浄槽4のノズル41に接続されている。その乾燥用ガスの供給経路の途中にT字部52があり、洗浄液の供給経路に接続されている。洗浄液として、複数の有機溶剤、複数の洗剤および水の中から1つを選択できるように、それぞれのタンク(54,55・・・)が切替バルブ53を介して、T字部52に接続されている。切替バルブ53は、制御装置6からの制御信号を受け、検体の種類に応じた洗浄液をT字部52に導入するように流路を切り換える。洗浄時は、選択された洗浄液がT字部52で乾燥用ガスと混合され、霧状になってノズル41から噴射される。なお、乾燥時は、切替バルブ53を停止状態にして、乾燥用ガスをそのまま洗浄槽4に供給する。
【0035】
また、洗浄方法(iv)を実行する場合、洗浄槽4に、蒸気にした洗浄液、または、蒸気に混合させた洗浄液を噴射するポートと、噴射された洗浄液およびローターから落ちた汚れ(検体)を排出するポートと、乾燥用ガスの供給ポートとを設けたものを用いる。
図2(B)に示す洗浄液供給装置5の具体例では、水蒸気の供給源56(例えば、ポンプと加熱部で構成される)が洗浄槽4のノズル42に接続されている。その水蒸気の供給経路の途中にT字部57があり、洗浄液である有機溶剤のタンク54に接続されている。洗浄時は、有機溶剤がT字部57で水蒸気と混合されてノズル42から噴射される。なお、
図2(A)と同様に、切替バルブを設けて複数の洗浄液から選択可能に構成してもよい。乾燥時は、乾燥用ガスの供給源51からの乾燥用ガスが水蒸気とは別の供給経路を流れてノズル43から洗浄槽4内に供給される。
【0036】
乾燥用ガスとしては、除湿された圧縮ガスを用いるとよい。例えば、乾燥空気のガスボンベからの乾燥空気をレギュレータ―およびストップバルブを介して受け取るようにしてもよい。あるいは、コンプレッサの吐出口に除湿機構を接続して、除湿された圧縮空気を受け取るようにしてもよい。
【0037】
<洗浄槽の蓋>
洗浄槽4の円形の開口部には、洗浄液の飛散防止用の密閉性の高い開閉式の蓋7が固定されている。蓋7の構成の一例を
図3および
図4に示す。
図3の蓋7は、4層構造であり、第1層と第4層の板材71,74が、第2層と第3層の構成部材を挟持して固定する。上下の板材71,74の中央には、ローターの直径よりも大きい円形開口71A,74Aが同芯の位置に形成されている。第2層と第3層には、蓋7の開閉機構が設けられている。
【0038】
第2層は、第2層の左半分を占めるスペーサー72Aと、第2層の右端の棒状のスペーサー72Bと、半円形の板部材(半円部材)72とを有し、2つのスペーサー72A,72Bは固定され、半円部材72は小型モーター等のカバー駆動部によって後述の
図4に示す「開位置・閉位置・孔閉塞位置」の3つの位置に移動可能に設けられている。
【0039】
半円部材72の半径寸法は、その上の円形開口71Aの半径寸法よりも大きい。半円部材72が閉位置にある状態では、半円部材72が円形開口71Aの右半分を塞ぐように位置する。また、半円部材72の弦に相当する側面には、スピンドルの軸が入る程度の溝部72Dが形成されている。
【0040】
スペーサー72Aには、U字状の切欠き72Cがあり、その幅は半円部材72の直径よりも広い。そして、閉位置にある半円部材72は、その一部が切欠き72Cに入った状態になる。
【0041】
第3層は、第3層の右半分を占めるスペーサー73Aと、第3層の左端の棒状のスペーサー73Bと、半円形の板部材(半円部材)73とを有し、2つのスペーサー73A,73Bは固定され、半円部材73は小型モーター等のカバー駆動部によって後述の
図4に示す「開位置・閉位置」の2つの位置に移動可能に設けられている。
【0042】
半円部材73の半径寸法は、半円部材72と同じ。半円部材73が閉位置にある状態では、半円部材73が下の円形開口74Aの左半分を塞ぐように位置する。また、半円部材73の弦に相当する側面には、スピンドルの軸が入る程度の溝部73Dが形成されている。
【0043】
スペーサー73Aには、半円形の切欠き73Cがあり、その半径は円形開口74Aの半径と同じ。そして、閉位置にある半円部材73は、ちょうど切欠き73Cの開口部を塞ぐように位置している。また、第2層、第3層のスペーサー72A,72B,73A,73Bは、開閉部品である2つの円形部材72,73を上下別々の層に配置するために役立ち、このようにして、2つの開閉部品は、同一面に配置されず、高さ方向にオフセットした状態で、一部が重なるように配置される。
【0044】
以上のように構成された蓋7の開閉動作を
図4(A)~(C)に示す。
【0045】
<閉位置>
図4(B)は、半円部材72,73の閉位置を示し、それぞれの一部が互いに重なっていて、1つの完全な円形を形成している。つまり、半円部材72,73は、それぞれの元の形状の円を当該円の中心からオフセットした弦で切断したような形状を有し、正確な半円よりも面積が広い。そして、2枚の半円部材72,73からなる円形は、第1層と第4層の円形開口71A,74Aを十分に覆うことができる大きさである。
【0046】
閉位置においては、例えば第4層の円形開口74Aの左半分は第3層の円形部材73で覆われ、右半分はスペーサー73Aによって半円形の切欠き73Cと連通している。そして、この連通している部分は、第2層の円形部材72で覆われる。従って、第4層の円形開口74A(つまり、洗浄槽4の円形開口部に連通する部分)は、これらの部材によって、第1層の円形開口71Aとは空間的に遮断されて、霧や高温の水蒸に対する密閉性を備えることができる。
【0047】
なお、閉位置では、2枚の半円部材72,73は、それぞれが有する溝部72D,73Dによってスピンドルの軸が通る孔を形成する。つまり、洗浄槽4にローターが挿入された状態では、スピンドルの軸がこの孔を埋めることになる。
【0048】
<開位置>
2枚の半円部材72,73を上下に通る軸Cが、第1層と第4層の各板材71,74に固定されている。この軸Cは、半円部材72,73の重なり部分の円周近傍に設けられ、半円部材72,73は、軸Cを中心にそれぞれスイングして、
図4(A)に示す開位置まで移動するように構成されている。開位置では、2枚の半円部材72,73が移動した結果、第1層と第4層の円形開口71A,74Aの覆いが無くなって、ローターがこれらの円形開口71A,74Aを通って自由に行き来することができる。
【0049】
開位置でローターを挿入した後、2枚の半円部材72,73を閉位置に移動させれば、上記のスピンドル用の孔にスピンドルの軸が収まり、ローターが挿入された状態でもスピンドルと干渉することなく蓋を閉じることができる。
【0050】
<スピンドル用の孔の閉塞位置>
図4(C)に、半円部材72の孔閉塞位置を示す。なお、半円部材73の位置は閉位置と同じである。半円部材72は、
図4(B)の位置よりもさらに半円部材73との重なりが大きくなる方向にスイングして、スピンドルの軸が通る孔を完全に塞ぐ。しかも、この孔閉塞位置においても、2枚の半円部材72,73は円形開口74Aを覆っている。これによって、ローターが洗浄槽にない状態では、スピンドルの軸の孔が完全に塞がれるので、ローターの洗浄後、洗浄槽の壁面や蓋の内側に残った検体などを洗浄する際に、霧状や蒸気状の洗浄液がスピンドル用の孔から漏れないようにすることができる。
【0051】
本実施形態の蓋7を用いれば、洗浄槽の蓋を自動的に開閉させることが可能となり、ローターの洗浄時間を最短化できる。
【0052】
なお、孔閉塞位置まで半円部材72を移動させる代わりに、そのスピンドル用の孔を塞ぐ閉塞手段を設けてもよい。例えば、孔を塞ぐ位置(前進位置)と孔を開く位置(後退位置)にスライド可能な小蓋を用いるとよい。その小蓋は、スピンドルが無い状態では、バネ力等で前進位置に維持されるように付勢されており、スピンドルがある状態ではスピンドルの軸部に押されて後退するように構成されるとよい。
【0053】
<サンプル容器の蓋の着脱>
多検体の連続測定を行う場合は、一連の測定の実行に時間が掛かる。特に、検体が揮発性成分を含む場合は、その成分の揮発によって粘度が変化しないようにサンプル容器に蓋をする。そのため、本実施形態の回転粘度計は、
図5に示すように、粘度測定時にサンプル容器31の蓋32を外すため、蓋の着脱装置8を備えている。
【0054】
図5の蓋の着脱装置8は、蓋32の着脱作用部としての磁石81と、磁石81を先端に固定したロッド83を昇降させる昇降装置82と、制御装置に設けられた蓋用の昇降制御部とを有する。磁石81は、蓋が磁石につく素材(磁性体)の場合に適する。なお、蓋32が樹脂製など磁石につかない場合は、磁石81に代えて、吸盤(バキュームリフター)を用いて蓋32を掴み、また、蓋32を放すようにする。この場合、吸盤と蓋32の間の空気を吸ったり、空気を送ったりするためのポンプとその制御装置が必要になる。
【0055】
磁石の昇降装置82は、検出ヘッド保持部24Bに保持されている。蓋32の着脱の際は、検出ヘッド昇降装置24が、検出ヘッド1をサンプル容器と干渉しない高さまで退避させて、磁石の昇降装置82が磁石だけを昇降させる。これによって、検出ヘッド1が他のサンプル容器32等と干渉することがなく、多数のサンプル容器32を密に配置することができる。
【0056】
<ローターからの垂れ落ち防止>
多検体の連続測定を行う場合は、粘度測定後、ローターを洗浄槽まで移動させる際に、他のサンプル容器の上方を通るため、ローターに付着する液状の検体が垂れ落ちて、他の検体の汚染(クロスコンタミネーション)が生じてしまうことがある。または、サンプルラックが汚れてしまうことがある。そのため、本実施形態の回転粘度計は、
図6に示す垂れ落ち防止装置9を備えている。
図6の垂れ落ち防止装置9は、受け皿91と、受け皿91を保持するアーム92と、受け皿91をスイングさせるスイング装置93と、制御装置に設けられた受け皿用のスイング制御部とを有する。
【0057】
受け皿91の位置は、スイング装置93によって、ローター11の下方位置とオフセット位置のいずれかの位置に切り換えられる。なお、装置のコンパクト化のため、受け皿91のオフセット位置はできる限りローター11に近い方がよく、スイング装置93は、磁石の昇降装置82と同様、検出ヘッド保持部24Bに保持されるとよい。この場合、受け皿91をオフセット位置までスイングさせた後、受け皿91を退避位置まで上昇させて、サンプル容器との干渉を回避させる必要がある。よって、受け皿のスイング装置93に昇降機能を設けるか、別途、スイング装置93ごと昇降させる昇降装置を設けるとよい。
【0058】
受け皿91がローター11の下方位置にセットされていれば、ローターから垂れ落ちる検体を受け皿91が受けるので、他の検体の汚染などを防止できる。また、受け皿91に活性炭などの吸着剤や、シリカゲル、吸水性ポリマーなどの吸水剤をカートリッジとして入れておくことで、サンプルや有機溶剤の臭気成分などの臭いが広がるのを防止することができる。
【0059】
<多検体の粘度測定方法>
本実施形態の回転粘度計を使った多検体の粘度測定方法を
図7を使って説明する。以下の手順は、制御装置6による測定用ソフトウェアの実行によって進められる。まず、手順S1で、ユーザーは、実行された測定用ソフトウェアの案内に従って、サンプルラック3のサンプル容器31の位置情報、検体の種類、測定条件、ローター11の洗浄条件などの設定項目を入力装置および表示装置を使って登録する。次に、手順S2で、XYZ軸移動装置2によって検出ヘッド1が1番目のサンプル容器31の上に移動する。
【0060】
次に、手順S3で、1番目のサンプル容器に対して登録された測定条件で粘度測定を実行する。粘度測定は、まず、サンプル容器の蓋32を外す(蓋の着脱装置8が磁石81を蓋32に接するまで下げて、蓋32に磁石81がついたら、蓋32とともに磁石81を引き上げる)。次に、ローター11がサンプル容器32の上に移動する。次に、垂れ落ち防止装置9によって受け皿91が退避位置に移動する。ここで、XYZ軸移動装置2によって検出ヘッド1が下降して、ローター11がサンプル容器32の検体中に浸入する。そして、検出ヘッド1によってローター11が登録された回転数で回転し、そのトルクの検出値に基づいて制御装置6が検体の粘度を算出する。粘度の算出後、検出ヘッド1が上昇し、受け皿91がローター11の下にセットされる。次に、サンプル容器31に蓋32をする(XYZ軸移動装置2によって磁石81がサンプル容器31の上に移動して、磁石81が蓋32とともに引き下げられて、サンプル容器31の開口部に蓋32をする。その状態で、XYZ軸移動装置2が磁石81を水平方向に移動させると、蓋32から磁石81が外れる。その後、磁石81が上昇する。以上の動作によって、1番目のサンプル容器31の検体の粘度測定動作が完了する。
【0061】
次に、手順S4で、検出ヘッド1が洗浄槽4の上に移動し、手順S5で、登録された洗浄条件、または、検体の種類に応じた洗浄条件でローター11の洗浄・乾燥が実行される。洗浄は、まず、受け皿91が退避位置に移動する。次に、洗浄槽の蓋7が孔閉塞状態から開状態になる(小型モーターの駆動などによる)。次に、ローター11が下降して、洗浄槽4の中に入り、洗浄槽の蓋7が閉状態になる。ここで、洗浄液供給手段5による洗浄液の噴射が開始されて、ローター11が洗浄される。
図2に示すように、洗浄液の噴射中に、ローター11が回転すれば、偏りなく洗浄を実行することができる。さらに、制御装置6に、洗浄槽4内でのローター11の高さをノズル41,42の位置に対して制御する高さ制御部を設けるとよい。そうすれば、洗浄液の噴射中に、ローター11が回転しながら昇降して、ローター11付きスピンドル12の全体をくまなく洗浄することができる。
【0062】
また、
図2(A)の洗浄液供給手段5を用いる場合は、切替バルブ53の動作によって検体の種類に応じた洗浄液を選択することができる。例えば、洗浄の最後に揮発性の高い有機溶剤を吹き付けることで、後の乾燥工程を迅速に行なうことができる。なお、洗浄方法は、上述の洗浄方法(i)~(iv)のうちの1以上の組合せを採用できる。この中で、粘性の高い検体に対しては、洗浄方法(ii)~(iv)が効果的である。水で洗える検体に対しては洗浄方法(ii)を用いるとよい。洗浄方法(iii),(iv)は、洗浄方法(ii)と比べて洗浄液の量を1/10程度に抑えることができるため、洗浄液に有機溶剤を使用する場合や、検体数が特に多い場合に非常に有用である。一般的に高い溶解力を持つ高温高圧の水蒸気を使用するのがよい。水蒸気は高温であるため、乾燥時間も短い。また、T字部で水蒸気によって有機溶剤や洗剤を吸い上げて霧状にして、水蒸気と混合させたものを噴射させれば、落ちにくい検体(水には溶けない油、塗料など)も落とすことができる。しかし、検体が加熱によって硬化する熱硬化性樹脂を含む場合の洗浄には洗浄方法(iii)が適している。
【0063】
手順S5で、ローター11の洗浄が終了したら、乾燥用ガスのみを洗浄槽4に供給してローター11を乾燥させる。このようにして、洗浄後のローターを迅速に乾燥させることができる。乾燥用ガスの風圧でローター11に残留する液滴を吹き飛ばしつつ乾燥させる方法が、効率的である。一方、コンプレッサにより加圧した空気をそのまま吹き付けると洗浄槽4内で結露した水がローター11に吹き付けられたり、洗浄槽11内の湿度が高くなって乾燥し難くなったりすることがあるため、除湿された圧縮ガスを用いるのが最適である。また、除湿後の圧縮ガスは、洗浄で高温水蒸気を使用した場合にローター11を元の温度に冷却する役割も果たす。
【0064】
乾燥が終了したら、洗浄槽の蓋7が開状態になり、検出ヘッド1が上昇してローター11が洗浄槽4から出る。次に、受け皿91がローター11の下方位置にセットされ、これと同時に、洗浄槽の蓋7が孔閉塞状態になる。
【0065】
手順S6で、次の測定対象の検体の有無を判断し、次の測定対象がある場合は、手順S2~S5を繰り返すとともに、その粘度測定中に洗浄槽4を洗浄することで、多検体自動測定の総測定時間の短縮化を図ることができる(手順S7)。全ての測定対象の測定が完了したら、洗浄槽を洗浄し、検体の自動連続粘度測定が終了する(手順S8)。
【0066】
以上の手順によれば、多種多様な検体の粘度測定の自動化が可能になる。
【符号の説明】
【0067】
1 検出ヘッド
11 ローター
12 スピンドル(ローター付スピンドル)
13 回転駆動用モーター(回転駆動部)
2 XYZ軸移動装置(検出ヘッド移動装置)
21 Y軸レール
22 ブリッジ移動体
23 X軸スライダー
24 検出ヘッド昇降装置
3 サンプルラック(サンプルエリアに配置)
31 サンプル容器
32 サンプル容器の蓋
4 洗浄槽
41,42,43 ノズル
5 洗浄液供給装置
51 乾燥用ガス供給源(乾燥用ガス供給装置)
52,57 T字部
53 切替バルブ(洗浄液切替部)
56 水蒸気供給源
6 制御装置
7 洗浄槽の蓋
71,74 板材(本体部材)
71A,74A 円形開口
72 半円部材(第1カバー部材)
72A,72B,73A,73B スペーサー
72C U字形の切欠き
72D,73D 溝部
73 半円部材(第2カバー部材)
73C 半円形の切欠き
8 蓋の着脱装置
81 磁石(蓋の着脱部)
82 磁石の昇降装置(蓋の着脱部昇降装置)
9 垂れ落ち防止装置
91 受け皿
93 受け皿スイング装置(受け皿移動装置)