(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072114
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】人体用害虫忌避組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 37/46 20060101AFI20220510BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20220510BHJP
A01N 25/30 20060101ALI20220510BHJP
A01N 37/02 20060101ALI20220510BHJP
A01N 25/04 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
A01N37/46
A01P17/00
A01N25/30
A01N37/02
A01N25/04 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020181377
(22)【出願日】2020-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(71)【出願人】
【識別番号】000185363
【氏名又は名称】小池化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】久田 祐士
(72)【発明者】
【氏名】小見 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 健太
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 和夫
(72)【発明者】
【氏名】今井 洋子
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 佳那
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AC06
4H011BA05
4H011BA06
4H011BB06
4H011BC06
4H011DA16
(57)【要約】
【課題】有効成分としてブチルアセチルアミノプロピオン酸エチルを含有する、長期安定性に優れた人体用害虫忌避組成物を提供すること。
【解決手段】(A)乳化剤、(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチル、(C)カプリン酸プロピレングリコール及び/又はジカプリン酸プロピレングリコール、及び(D)水を含有し、前記(A)乳化剤が、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体、または、水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子より選択される1種以上であることを特徴とする、人体用害虫忌避組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)乳化剤、
(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチル、
(C)カプリン酸プロピレングリコール及び/又はジカプリン酸プロピレングリコール、及び
(D)水を含有し、
前記(A)乳化剤が、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体、または、水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子より選択される1種以上であることを特徴とする、
人体用害虫忌避組成物。
【請求項2】
(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチルを、
(C)カプリン酸プロピレングリコール及び/又はジカプリン酸プロピレングリコールに溶解し、
この溶液を(D)水に混合する際に、(A)乳化剤を使用して乳化させ、
前記(A)乳化剤が、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体、または、水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子より選択される1種以上であることを特徴とする、
人体用害虫忌避組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体用害虫忌避組成物及び当該人体用害虫忌避組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人体用害虫忌避剤の有効成分として、ディート、イカリジン、ユーカリ油などが知られている(例えば、特許文献1等)。これら有効成分を各種製剤中に均一、かつ、安定に保持させるため、アルコールや界面活性剤などの溶解助剤が使用されているが、皮膚刺激やベタツキの原因となるほか、有効成分の皮膚吸収の原因となることもある。人体用害虫忌避剤の子供への使用を考えると、これらの刺激やベタツキの改善や、さらには有効成分の皮膚吸収を防止することが望まれている。
一方、溶解助剤を用いることなく所期の有効成分を製剤中に均一に保持させる技術が検討されており、その1つに三相乳化技術が知られている(例えば、特許文献2等)。
ところが忌避効果を得るため有効成分としてブチルアセチルアミノプロピオン酸エチルを使用する際に、三相乳化技術を利用しようとすると、経時的に乳化系が崩れ、前記有効成分を製剤中に安定に維持することが難しいという課題が見いだされた。
しかしながら、この課題を解決する有効な手段は未だ報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-277196号公報
【特許文献2】特開2010-110685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記のような状況を鑑みてなされたものであり、有効成分としてブチルアセチルアミノプロピオン酸エチルを含有する、長期安定性に優れた人体用害虫忌避組成物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、(A)乳化剤、詳しくは、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体または水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子より選択される1種以上、(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチル及び、(C)カプリン酸プロピレングリコール及び/又はジカプリン酸プロピレングリコールを併用することにより、長期安定性に優れた人体用害虫忌避組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0006】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.(A)乳化剤、
(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチル、
(C)カプリン酸プロピレングリコール及び/又はジカプリン酸プロピレングリコール、及び
(D)水を含有し、
前記(A)乳化剤が、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体、または、水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子より選択される1種以上であることを特徴とする、
人体用害虫忌避組成物。
2.(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチルを、
(C)カプリン酸プロピレングリコール及び/又はジカプリン酸プロピレングリコールに溶解し、
この溶液を(D)水に混合する際に、(A)乳化剤を使用して乳化させ、
前記(A)乳化剤が、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体、または、水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子より選択される1種以上であることを特徴とする、
人体用害虫忌避組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の人体用害虫忌避組成物は、有効成分である(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチルの安定な乳化系を長期間にわたり維持するため、長期安定性に優れた人体用害虫忌避製剤とすることができる。
さらに、本発明の人体用害虫忌避組成物は、溶解助剤の併用の必要がないので、皮膚刺激やベタツキを抑えて使用感を向上させることができ、さらには、有効成分の皮膚吸収をも防止することができるので、子供やペットにも好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例における「三相乳化安定性確認試験」の、25℃保管条件下での1カ月保管後の外観写真を示す図である。
【
図2】実施例における「三相乳化安定性確認試験」の、「サイクル」条件下での1カ月保管後の外観写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の人体用害虫忌避組成物及び当該人体用害虫忌避組成物の製造方法について詳細に説明する。
【0010】
本発明の人体用害虫忌避組成物は、特定の(A)乳化剤を含有するものである。
<(A)成分>
本発明における(A)乳化剤は、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体(以下、「閉鎖小胞体」ということがある。)、または、水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子(以下、「重縮合ポリマーの粒子」ということがある。)より選択される1種以上のものである。
本発明における閉鎖小胞体または重縮合ポリマーの粒子は、乳化性能に極めて優れているため、これを含有する組成物において、(D)水の量は20~99重量%の範囲から幅広く選択することができ、乳化の形態や(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチルの量に応じて適宜設定することができる。閉鎖小胞体又は重縮合ポリマーの粒子の量は、(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチルの量に応じて適宜設定されてよく、特に限定されないが、合計で0.0001重量%以上、5重量%以下であってよく、好ましくは1.0重量%以下、より好ましくは0.75重量%以下という少量でも、乳化状態を維持することができる。なお、上記量は、いずれも固形分含量である。また、乳化の構造は、O/W型のエマルション構造がより好ましい。
【0011】
本発明における閉鎖小胞体は、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成される。閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質としては、下記の一般式(1)で表されるポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体を採用するとよい。
【0012】
【化1】
式中、エチレンオキシドの平均付加モル数であるEは、3~100である。Eの上限は50が好ましく、40がより好ましい。また、Eの下限は5が好ましい。
【0013】
さらに、本発明における閉鎖小胞体は、リン脂質やリン脂質誘導体等を採用してもよい。リン脂質としては、下記の一般式(2)で示される構成のうち、炭素鎖長12のDLPC(1,2-Dilauroyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-choline)、炭素鎖長14のDMPC(1,2-Dimyristoyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-choline)、炭素鎖長16のDPPC(1,2-Dipalmitoyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-choline)が採用可能である。
【化2】
【0014】
また、下記の一般式(3)で示される構成のうち、炭素鎖長12のDLPG(1,2-Dilauroyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-glycerol)のNa塩又はNH
4塩、炭素鎖長14のDMPG(1,2-Dimyristoyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-glycerol)のNa塩又はNH
4塩、炭素鎖長16のDPPG(1,2-Dipalmitoyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-glycerol)のNa塩又はNH
4塩を採用してもよい。
【化3】
両親媒性物質としては、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウム、ポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。また、両親媒性物質は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
本発明の重縮合ポリマーの粒子における重縮合ポリマーは、特に限定されず、天然高分子または合成高分子のいずれであってもよく、用途に応じて適宜選択されてよい。ただし、安全性に優れ、一般的に安価である点で、天然高分子が好ましく、乳化機能に優れる点で以下に述べる糖ポリマーがより好ましい。なお、粒子とは、重縮合ポリマーが単粒子化したもの、またはその単粒子同士が連なったもののいずれも包含する一方、単粒子化される前の凝集体(網目構造を有する)は包含しない。重縮合ポリマーは、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
上記糖ポリマーは、セルロース、デンプン等のグルコシド構造を有するポリマーである。例えば、リボース、キシロース、ラムノース、フコース、グルコース、マンノース、グルクロン酸、グルコン酸等の単糖類の中からいくつかの糖を構成要素として微生物が産生するもの、キサンタンガム、アラビアガム、グァーガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、フコイダン、クインスシードガム、トラガントガム、ローカストビーンガム、ガラクトマンナン、カードラン、ジェランガム、フコゲル、カゼイン、ゼラチン、デンプン、コラーゲン、シロキクラゲ多糖類等の天然高分子、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、セルロース結晶体、デンプン・アクリル酸ナトリウムグラフト重合体、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の半合成高分子、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸塩、ポリエチレンオキシド等の合成高分子が挙げられる。糖ポリマーは、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
糖ポリマー粒子としては、寒天等の多糖類混合物、疎水変性アルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、グァーガムまたはこれらの塩を用いることが好ましい。
【0016】
本発明の人体用害虫忌避組成物における(A)乳化剤は、乳化状態が安定化しやすく、ヒトや動物に対する安全性が高いことより、疎水変性アルキルセルロースが特に好ましい。
疎水変性アルキルセルロースは、水溶性セルロースエーテル誘導体に、疎水性基を導入した化合物であり、下記一般式(4)で表される。
【化4】
式中、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9及びR
10は、それぞれ水素原子、炭素数1~4のアルキル基、-[CH
2CH
2O]
mH、-[CH
2CH(CH
3)O]
mH、-CH
2CH(OH)CH
2O-A、-[CH
2CH(OH)CH
2O]
m-A、又は、-[CH
2CH
2O]
mCH
2CH(OH)CH
2O-Aから選択される1種以上の基であるが、すべて同時に水素原子、又は、炭素数1~4のアルキル基である場合を除き、必ず、-CH
2CH(OH)CH
2O-A、-[CH
2CH(OH)CH
2O]
m-A、-[CH
2CH
2O]
mCH
2CH(OH)CH
2O-Aから選択される1種以上の基を含有する。n’は50~5000の整数、mは1~10の整数、Aは疎水性基を示す。
本発明の人体用害虫忌避組成物に配合する(A)乳化剤として、一般式(4)で表される疎水変性アルキルセルロースが好ましく、中でも、式中「A」で表される疎水性基として、アルキル基が好ましく、炭素数10~28のアルキル基がより好ましく、特に、炭素数14~22のアルキル基が好ましく、具体的にはステアロイル基が最も好ましい。
【0017】
一般式(4)の式中「A」で表される疎水性基がステアロイル基である疎水変性アルキルセルロースの具体例として、例えば、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロースが挙げられる。この化合物は、サンジェロースの商品名で大同化成工業株式会社から市販されており、このような市販品を本発明の人体用害虫忌避組成物の配合成分(A)として使用することも可能である。その配合量は、害虫忌避スプレー全量に対し、好ましくは、0.001重量%以上、1.0重量%以下であり、より好ましくは、0.005重量%以上、0.5重量%以下であり、さらに好ましくは、0.01重量%以上、0.1重量%以下である。この配合量の範囲であれば、(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチルの安定な乳化系を長期間にわたり維持することができるため好適である。
本発明の人体用害虫忌避組成物を調製するにあたっては、通常汎用される界面活性剤を配合しても良いが、(A)乳化剤以外には、界面活性剤を含有しないことが好ましい。
【0018】
本発明の人体用害虫忌避組成物は、有効成分として(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチルを含有するものである。
<(B)成分>
本発明における(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチルは、下記化学構造を有する化合物である。化学名は3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステルであり、害虫忌避成分として公知の化合物である。
【化5】
本発明の人体用害虫忌避組成物に配合される(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチルの含有量は、使用目的や使用する場所等に応じて適宜決定すればよいが、人体用害虫忌避組成物全量に対して、3~30重量%含有することが好ましく、5~20重量%含有することがより好ましい。
【0019】
本発明の人体用害虫忌避組成物は、(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチル以外の有効成分として、本発明の効果を阻害しない範囲において、害虫忌避成分から選択される1種以上の成分を含有してもよい。含有してもよい害虫忌避成分としては、例えば、ディート、2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボン酸1-メチルプロピルエステル(以下、「イカリジン」と称する。)等の合成化合物のほか、p-メンタン-3,8-ジオール、ジメチルフタレート、ユーカリプトール、α-ピネン、ゲラニオール、シトロネラール、カンファー、リナロール、カラン-3,4-ジオール等の植物精油由来の天然成分等が挙げられる。
【0020】
本発明の人体用害虫忌避組成物は、有効成分として(C)カプリン酸プロピレングリコール及び/又はジカプリン酸プロピレングリコールを含有するものである。
<(C)成分>
本発明における(C)カプリン酸プロピレングリコール、ジカプリン酸プロピレングリコールは、下記化学構造を有する化合物である。
【化6】
本発明の人体用害虫忌避組成物に配合される(C)カプリン酸プロピレングリコール及び/又はジカプリン酸プロピレングリコールの含有量は、使用目的や使用する場所等に応じて適宜決定すればよいが、人体用害虫忌避組成物全量に対して、1~30重量%含有することが好ましく、5~20重量%含有することがより好ましい。
【0021】
本発明の人体用害虫忌避組成物は、有効成分として(D)水を含有するものである。
<(D)水>
本発明における(D)水は、精製水、イオン交換水、蒸留水等だけでなく、配合した各成分に含まれる水分をも含み、人体用害虫忌避組成物に含まれる全水分を意味する。(D)水の量は、人体用害虫忌避組成物全量に対して20~99重量%の範囲から幅広く選択することができ、乳化の形態や(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチルの量に応じて適宜選択することができる。
【0022】
<スプレー剤>
本発明の人体用害虫忌避組成物は、(A)乳化剤、(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチル、(C)カプリン酸プロピレングリコール及び/又はジカプリン酸プロピレングリコール及び(D)水のほか、本発明の効果を阻害しない範囲において必要な製剤助剤を使用して製剤化し、得られた液剤をスプレー容器に充填することにより、スプレー剤として使用することができる。スプレー容器としては、液体製剤を容易に充填でき、スプレー剤として機能するものであればよいが、汎用性やスプレー精度の高さを考慮すると、以下の3つのスプレー容器が好ましい。
(1)噴霧可能なポンプ式ノズルを装着したミスト式スプレー容器:このスプレー容器は、大気圧でスプレーでき、加圧ガスなどを必要とせず、かつ容器構造も比較的単純であるので安全性が高く、携帯用に向くスプレー容器である。構造は吸い上げ式のチューブを装着した押し出しポンプ式のノズルと、これを固定し、内容物を充填するねじ式容器からなる。
(2)トリガー式スプレー容器:この容器は、内容物を充填する容器本体の口部にピストル状のトリガー式スプレー装置が装着されたものであり、大気圧でスプレーを操作でき、スプレー容器として汎用性の高いものである。ここでいうトリガー式スプレー容器には、スプレー機能を高めるために、トリガー式スプレー容器の一部を改良したものも全て含まれる。
(3)エアゾール式スプレー容器:この容器は、容器内へ噴射剤を充填することによって、上記2つのスプレー容器では実現できない連続スプレーを可能とするものである。ここでいうエアゾール式スプレー容器には、エアゾール式容器の噴射装置部分に改良を施したもの等もすべて含まれる。一般的に本スプレー容器を用いたスプレーでは、大気圧下で実施する上記2つのスプレー容器に比べ、より細かな霧が可能となる。
特に、本発明の人体用害虫忌避組成物を虫除けスプレーとして使用する場合には、使い勝手がよいことから、(1)ミスト式スプレー容器または(2)トリガー式スプレー容器が好適である。
【0023】
本発明の人体用害虫忌避組成物は、上述のエアゾール式スプレー容器に充填して使用することも可能である。その際、エアゾール式スプレー容器に充填する液剤に使用する液体担体としては、(D)水が必須成分であり、液体担体として次にあげる有機溶剤を、エマルションを壊さない範囲で併用して配合することもできる。
好ましい有機溶剤としては、脂肪酸エステル系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、ヘテロ環系溶剤、エステル系溶剤、及びアルコール系溶剤から選ばれる1種又は2種以上が挙げられ、具体的には、乳酸エチル、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ブチルプロピレンジグリコール、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、スルホラン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-オクチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、炭酸プロピレン、メタノール、エタノール、イソプロパノール等があげられるが、これらに限定されない。中でも、N-メチル-2-ピロリドン、エタノール、イソプロパノール、炭酸プロピレンが適している。
【0024】
本発明の人体用害虫忌避組成物を、上述のエアゾール式スプレー容器に充填する場合に使用する噴射剤としては、公知のものを広く使用することができ、例えば液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル、炭酸ガス、窒素ガス等を挙げることができる。この人体用害虫忌避組成物においては、噴射剤量が害虫忌避スプレー全体の10~95容量%、特に30~90容量%とし、原液(成分(A)、(B)、(C)及び、(D)や製剤助剤等の総量)が全体の90~5容量%、特に70~10容量%とすることができる。本発明の人体用害虫忌避組成物を製造するに際しては、この分野で慣用されている方法を広く使用し得る。そのうち代表的な方法としては、(A)乳化剤、(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチル、(C)カプリン酸プロピレングリコール及び/又はジカプリン酸プロピレングリコール及び(D)水や必要に応じてその他の液体担体や配合成分を添加し、必要ならば加熱(30~50℃)混合して均一な溶液を作製した後、防錆剤、防腐剤等を加え、得られる原液をエアゾール式スプレー容器に入れ、噴射剤を充填して製品とする方法等を挙げることができる。このようにして得られる本発明の人体用害虫忌避組成物は、長期間過酷な条件下においても安定で、均一な状態を維持することができ、所望する時にワンタッチで微粒子として空気中に噴射し得る。
【0025】
<ウェットティッシュ剤>
本発明の人体用害虫忌避組成物は、(A)乳化剤、(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチル、(C)カプリン酸プロピレングリコール及び/又はジカプリン酸プロピレングリコール及び(D)水のほか、本発明の効果を阻害しない範囲において必要な製剤助剤を使用して製剤化し、得られた液剤を支持体に含浸させることにより、ウェットティッシュ剤として使用することができる。
ウェットティッシュ剤として皮膚に適用するには、支持体の目付量は20~80g/m2が、厚さは0.1~5mm程度のものが好ましい。支持体としては、ネル、綿、絹、ポリエステル、ナイロン、これらを素材としたもの等の織布;ポリエステル、ポリオレフィン、ナイロン、綿、レーヨン、ビニロン、セルロース、これらを素材としたもの等の不織布;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル等を発泡させたシート状の樹脂発泡体等を用いることができる。
本発明の人体用害虫忌避組成物をウェットティッシュ剤として使用する際は、目的とする害虫忌避効果を得るために、上記支持体に、本発明の人体用害虫忌避組成物を1~10ml/g保持させることが好ましい。
【0026】
<その他薬効成分>
本発明の人体用害虫忌避組成物を、虫除けスプレーや虫除けウェットティッシュ剤として使用する場合には、ヒトの皮膚に間接的または直接的に触れることもあるため、皮膚に潤いを与えるなどの薬効成分を、エマルションを壊さない範囲で適宜配合してもよい。これら薬効成分としては、アボカドエキス、アマチャエキス、アルテアエキス、アルニカエキス、アンズエキス、アンズ核エキス、イチョウエキス、ウイキョウエキス、ウコンエキス、ウーロン茶エキス、エチナシ葉エキス、オウバクエキス、オオムギエキス、オランダカラシエキス、オレンジエキス、加水分解コムギ末、加水分解シルク、カモミラエキス、カロットエキス、カワラヨモギエキス、カルカデエキス、キウイエキス、キナエキス、キューカンバーエキス、グアノシン、クマザサエキス、クルミエキス、グレープフルーツエキス、クレマティスエキス、酵母エキス、コンフリーエキス、コケモモエキス、サイコエキス、サイタイ抽出液、サルビアエキス、サボンソウエキス、ササエキス、サンザシエキス、シイタケエキス、ジオウエキス、シコンエキス、シナノキエキス、シモツケソウエキス、ショウブ根エキス、シラカバエキス、スギナエキス、スイカズラエキス、セイヨウキズタエキス、セイヨウサンザシエキス、セイヨウニワトコエキス、セイヨウノコギリソウエキス、セイヨウハッカエキス、ゼニアオイエキス、センブリエキス、タイソウエキス、タイムエキス、チョウジエキス、チガヤエキス、トマトエキス、納豆エキス、ノバラエキス、ハイビスカスエキス、バクモンドウエキス、パセリエキス、パリエタリアエキス、ヒキオコシエキス、ビサボロール、フキタンポポエキス、フキノ蜂蜜、トウエキス、ブクリョウエキス、ブッチャーブルームエキス、ブドウエキス、プロポリス、ヘチマエキス、ペパーミントエキス、ボダイジュエキス、ホップエキス、マツエキス、マロニエエキス、ミズバショウエキス、ムクロジエキス、モモ葉エキス、ヤグルマギクエキス、ユーカリエキス、リンゴエキス、レタスエキス、レンゲソウエキス、ローズエキス、ローズマリーエキス、ローマカミツレエキス等が挙げられる。
【0027】
本発明の人体用害虫忌避組成物は、虫除けとしてヒトの皮膚や衣類に直接噴霧または塗布して使用するか、蚊などの吸血昆虫を忌避したい空間に噴霧して使用する。特に、本発明の人体用害虫忌避組成物は、虫除けスプレーとして使用することが好適である。
【実施例0028】
以下、製剤例及び試験例等により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
まず、本発明の(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチルに対する溶解性に優れ、(D)水に対して不溶の油剤である成分(C)を見出す検討を行った。なお、実施例において、特に明記しない限り、部は重量部を意味する。
【0029】
<油剤スクリーニング>
下記油剤a~iの9種類について、下記検討項目(1)~(3)について、室温(25℃)条件下において検討を行い、下記評価基準により各油剤を評価した。
(1)油剤と(D)水とを重量比1:1で混合し、その溶解性を目視で確認した。
(2)油剤と(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチルとを、重量比1:1で混合し、その溶解性を目視で確認した。
(3)上記(2)と水とを重量比1:1で混合し、その溶解性を目視で確認した。
[油剤a~i]
油剤a:ポリエチレングリコール(PEG-12)とメチルポリシロキサンとの共重合体(モメンティブ社製)
油剤b:オリーブオイル(日本サーフェクタンス工業社製)
油剤c:ミリスチン酸イソプロピル(三光化学工業社製)
油剤d:モノカプリン酸プロピレングリコール(日本サーフェクタンス工業社製)
油剤e:ジカプリン酸プロピレングリコール(日本サーフェクタンス工業社製)
油剤f:サフラワーオイル(日本サーフェクタンス工業社製)
油剤g:トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル(日本サーフェクタンス工業社製)
油剤h: スクワランオイル(岸本特殊肝油工業所製)
油剤i: ホホバオイル(日光ケミカル社製)
[評価基準]
検討項目(1)、(2)の評価基準
〇:溶解した
×:分離した
検討項目(3)の評価基準
〇:上記(2)と水の境界線は明確である
△:上記(2)と水の境界線はあるが、それぞれの層に僅かな溶け込みがある
×:上記(2)と水の境界線がないか、各成分の大きな偏在がある
総合評価の評価基準
〇:本発明の成分(C)として適している
×:本発明の成分(C)として適していない
検討項目(1)~(3)の評価結果と、総合評価結果を表1にまとめて示す。なお、表1中の「-」は、検討項目(2)の評価結果が「×」であったため、検討項目(3)を実施しなかったことを意味している。
【0030】
【0031】
表1に示すように、油剤dである「モノカプリン酸プロピレングリコール」と、油剤eである「ジカプリン酸プロピレングリコール」は、本発明の(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチルに対する溶解性に優れ、(D)水に対して不溶であることが確認でき、本発明の成分(C)として適していることが明らかとなった。これ以外の油剤は、上記検討項目(3)において、「×」評価となり、本発明の成分(C)として適さない油剤であることが確認された。
【0032】
<三相乳化安定性確認試験>
(1)試験検体の調製
試験検体(a)
(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチル10.0重量部を、(C)ジカプリン酸プロピレングリコール10.0重量部に溶解し、この溶液を、製剤助剤(防腐剤、pH調整剤)1.2重量部及び(D)精製水に混合させる際に、(A)疎水変性ヒドロキシプロピルメチルセルロース0.05重量部を使用して乳化させ、全体量が100重量部の試験検体(a)を得た。
試験検体(b)
(C)ジカプリン酸プロピレングリコールを、(C)カプリン酸プロピレングリコールに代えた以外は、試験検体(a)と同様に乳化させて、全体量が100重量部の試験検体(b)を得た。
比較試験検体(c)
(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチル10.0重量部を、製剤助剤(防腐剤、pH調整剤)1.2重量部及び(D)精製水に混合させる際に、(A)疎水変性ヒドロキシプロピルメチルセルロース0.05重量部を使用して乳化させ、全体量が100重量部の比較試験検体(c)を得た。
【0033】
(2)安定性確認試験方法
上記試験検体(a)、(b)と比較試験検体(c)を、25℃保管条件下及び、「5℃23時間→温度上昇(1時間)→40℃23時間→温度低下(1時間)→5℃23時間・・」という保管条件を繰り返す「サイクル」条件下、2つの保管条件下においてそれぞれ1カ月保管し、外観性状を目視確認した。
[評価基準]
〇:乳化系が安定である
×:乳化系が安定ではない
試験検体(a)、(b)と比較試験検体(c)の評価結果を、表2にまとめて示す。
また、各条件下での1カ月保管後の外観写真を、
図1(25℃保管条件下)、
図2(「サイクル」条件下)に示す。
図1、2ともに、左から試験検体(a)、(b)、比較試験検体(c)を示す。
【0034】
【0035】
表2に示すように、本発明の具体例である試験検体(a)、(b)は、25℃保管条件下及び「サイクル」条件下何れにおいても、コアセルベーション(乳化不安定化による油水分離ではなく、個々の乳化粒子の比重差による見掛上の液層の違い)が視認され、良好な乳化状態が維持されていることが確認された。
一方、本発明の具体例ではない比較試験検体(c)は、25℃保管条件下では乳化系の安定性に問題ないが、サイクル条件下では油成分が不安定化して沈降し、乳化系の安定性に大きな問題があることが確認された。
これらの結果より、本発明の人体用害虫忌避組成物は、安定な乳化系を長期間にわたり維持出来ることが明らかとなった。
【0036】
<三相乳化忌避剤エマルションの加水分解耐性試験>
(1)試験検体
上記「三相乳化安定性確認試験」における試験検体(a)を使用した。
(2)安定性確認試験方法
上記試験検体(a)を、50℃、40℃、25℃、5℃での保管条件及び、「5℃で23時間→温度上昇(1時間)→40℃23時間→温度低下(1時間)→5℃で23時間・・」という条件を繰り返す「サイクル」条件下において、3カ月、4カ月、8カ月後の本発明の成分(B)の残存量を液クロマトグラフィー(GC-2014:島津製作所社製、OV-17:GLサイエンス社製)により分析するとともに、試験検体のpHをpH計(LAQUA F-71S:堀場製作所社製)により確認した。
その結果を、表3にまとめて示す。なお、表3中の「-」は、未実施を意味する。
【0037】
【0038】
表3に示すように、本発明の人体用害虫忌避組成物の具体例である試験検体(a)は、室温(25℃)や低温下(5℃)において、有効成分である(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチルとpHが長期間にわたり安定であることが確認された。
この結果より、本発明の人体用害虫忌避組成物は、安定な乳化系を長期間にわたり維持し、長期安定性に優れることが明らかとなった。
本発明の人体用害虫忌避組成物は、(B)ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチルと(C)カプリン酸プロピレングリコール及び/又はジカプリン酸プロピレングリコールとを併用し、本発明の(A)乳化剤を用いることにより、安定な乳化系を長期間にわたり維持するため、長期安定性に優れた人体用害虫忌避製剤とすることができ有用である。