(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072263
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】ドグクラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 11/04 20060101AFI20220510BHJP
【FI】
F16D11/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020181614
(22)【出願日】2020-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大橋 悠介
(72)【発明者】
【氏名】北村 太一
(72)【発明者】
【氏名】桂 斉士
【テーマコード(参考)】
3J056
【Fターム(参考)】
3J056AA03
3J056AA62
3J056BA04
3J056BB15
3J056CC04
3J056DA02
(57)【要約】
【課題】ドグクラッチでは、任意のタイミングでトルク接続状態を切り替えることができる。
【解決手段】第1回転体10と、第2回転体20と、切替機構50と、を備える。第1回転体10は、第1ドグ歯12を有する。第2回転体20は、第2ドグ歯22を有する。第2ドグ歯22は、第1ドグ歯12と係合する。切替機構50は、第1切替部材51と、第2切替部材52と、カム機構110と、を有する。第1切替部材51は、回転可能に配置される。第2切替部材52は、第1切替部材51に対して軸方向第1側に配置される。第2切替部材52は、第1回転体10に係合し軸方向に移動可能に配置される。カム機構110は、第1切替部材51の回転を第2切替部材52の軸方向の移動に変換する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ドグ歯を有し、軸方向に移動可能かつ回転可能に配置された第1回転体と、
前記第1ドグ歯と係合する第2ドグ歯を有し、前記第1回転体に対して相対回転可能であり、前記第1回転体に対して軸方向第2側に配置された第2回転体と、
回転可能に配置される第1切替部材と、前記第1切替部材に対して軸方向第1側に配置されかつ前記第1回転体に係合し軸方向に移動可能に配置される第2切替部材と、前記第1切替部材の回転を前記第2切替部材の軸方向の移動に変換するカム機構と、を有する切替機構と、
を備える、
ドグクラッチ。
【請求項2】
前記第1切替部材は、係止部を有し、
前記第2切替部材は、前記係止部に係合して前記第1切替部材の相対回転をロックする被係止部を有する、
請求項1に記載のドグクラッチ。
【請求項3】
前記係止部は、前記第1切替部材の軸方向第1側を向く面において回転可能に配置された球を含み、
前記被係止部は、前記第2切替部材の軸方向第2側を向く面に形成された第1凹部を含み、
前記球は、前記第1凹部に係合する、
請求項2に記載のドグクラッチ。
【請求項4】
前記被係止部は、周方向において前記第1凹部と間隔をあけて配置されている第2凹部を含み、
前記第2切替部材は、前記第1凹部と前記第2凹部との間において周方向に延びるスロープを有する、
請求項3に記載のドグクラッチ。
【請求項5】
前記第2切替部材を収容するケースをさらに備え、
前記第2切替部材は、前記ケースに回転不能に軸方向に移動可能である係合する廻り止めツメを有する、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のドグクラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドグクラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
駆動源の出力軸と、車両等の駆動軸との間にトルクの伝達を断続するクラッチが用いられている。クラッチの種類のひとつとして、ドグクラッチがある。ドグクラッチは、相対回転可能な第1回転体及び第2回転体のそれぞれに、ドグクラッチの歯(以下、ドグ歯という)を有する。ドグクラッチは、ドグ歯同士を係合させることでトルクを伝達する。また、ドグクラッチは、第1回転体と第2回転体とを軸方向において互いに離れるように移動させて、ドグ歯同士の係合を解除することで、トルク遮断状態にする。
【0003】
ドグクラッチに過大なトルクが入力される場合がある。そこで、特許文献1(特開2017-227226号公報)及び特許文献(特開2015-96759号公報)は、ドグ歯に斜面を有することにより、過大なトルクを逃がしてトルク遮断状態にすることができるドグクラッチを提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-227226号公報
【特許文献2】特開2015-96759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2のドグクラッチでは、トルク遮断状態にするタイミングは、過大なトルクが入力されるときに限られている。つまり、特許文献1及び特許文献2のドグクラッチでは、任意のタイミングでトルク接続状態を切り替えることができない。
【0006】
本発明の課題は、ドグクラッチにおいて、任意のタイミングでトルク接続状態を切り替えることができることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の一側面に係るドグクラッチは、第1回転体と、第2回転体と、切替機構と、を備える。第1回転体は、第1ドグ歯を有する。第1回転体は、軸方向に移動可能かつ回転可能に配置されている。第2回転体は、第2ドグ歯を有する。第2ドグ歯は、第1ドグ歯と係合する。第2回転体は、前記第1回転体に対して相対回転可能である。第2回転体は、第1回転体に対して軸方向第2側に配置されている。切替機構は、第1切替部材と、第2切替部材と、カム機構と、を有する。第1切替部材は、回転可能に配置される。第2切替部材は、第1切替部材に対して軸方向第1側に配置される。第2切替部材は、第1回転体に係合し軸方向に移動可能に配置される。カム機構は、第1切替部材の回転を第2切替部材の軸方向の移動に変換する。
【0008】
このドグクラッチでは、第1切替部材が回転すると、カム機構が第1切替部材の回転を第2切替部材の軸方向の移動に変換する。これにより、第2切替部材が軸方向第1側に移動する。第2切替部材は第1回転体に係合しているため、移動した第2切替部材が第1回転体を軸方向第1側に移動して、第1回転体を第2回転体から軸方向に移動させる。これにより、第1ドグ歯と第2ドグ歯との係合を解除することができる。つまり、第1切替部材を回転させることにより任意のタイミングでトルク遮断状態にすることができる。
【0009】
(2)好ましくは、第1切替部材は、係止部を有する。第2切替部材は、被係止部を有する。被係止部は、係止部に係合して第1切替部材の相対回転をロックする。この場合、トルク接続状態において係止部と被係止部とが係合しているため、予期せず第1切替部材と第2切替部材とが離れるのを防止できる。つまり、予期しない第1ドグ歯及び第2ドグ歯の係合状態の切り替えを抑制できる。
【0010】
(3)好ましくは、係止部は、球を含む。球は、第1切替部材の軸方向第1側を向く面において回転可能に配置されている。被係止部は、第1凹部を含む。第1凹部は、第2切替部材の軸方向第2側を向く面に形成されている。この場合、第1切替部材と第2切替部材とが離れていく間に、球が回転するため、第1切替部材と第2切替部材とをさらにスムーズに離すことができる。
【0011】
(4)好ましくは、被係止部は、第2凹部を含む。第2凹部は、周方向において第1凹部と間隔をあけて配置されている。第2切替部材は、スロープを有する。スロープは、第1凹部と第2凹部との間において周方向に延びる。
【0012】
(5)好ましくは、ドグクラッチは、ケースをさらに備える。ケースは、第2切替部材を収容する。第2切替部材は、廻り止めツメを有する。廻り止めツメは、ケースに回転不能に係合する。廻り止めツメは、軸方向に移動可能である。この場合、第2切替部材が回転するのを防止できる。
【発明の効果】
【0013】
以上のような本発明のドグクラッチでは、任意のタイミングでトルク接続状態を切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】第1回転体を軸方向の第2側からみた斜視図。
【
図3A】第1回転体10の軸方向第2側からの軸方向視したときの第1ドグ歯12の一部を示す図。
【
図3B】有効半径R
mにおいて軸方向に平行な断面で第1ドグ歯12を切断した場合の第1ドグ歯12の断面図。
【
図4】第2回転体を軸方向の軸方向第1側からみた斜視図。
【
図5】第1回転体と第2回転体とが係合した状態を示す図。
【
図6】第1ドグ歯と第2ドグ歯とが係合する状態を示す簡略図。
【
図7】切替機構の第1切替部材を軸方向第1側からみた斜視図。
【
図8】切替機構の第2切替部材を軸方向第2側からみた斜視図。
【
図9】切替機構の第1切替部材と第2切替部材との斜視図。
【
図10】切替機構の第1切替部材と第2切替部材とが係合している状態を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[全体構成]
図1に、本発明の一実施形態によるドグクラッチ100を示している。
図1の斜視図において、O-O線が回転軸線である。なお、以下の説明において、「軸方向」とは回転軸Oが延びる方向を示し、
図1の左側を「軸方向第1側」、
図1の右側を「軸方向第2側」とする。また、「径方向」とは、回転軸Oを中心とした円の半径方向を意味する。「周方向」とは、回転軸Oを中心とした円の周方向を意味する。また、
図1の回転軸Oを中心とした反時計回りの方向を「正回転側」、時計回りの方向を「負回転側」とする。
【0016】
ドグクラッチ100は、駆動源と駆動輪との間でトルクを伝達したり、その伝達を遮断したりするように構成されている。ドグクラッチ100は、第1回転体10と、第2回転体20と、を備える。ドグクラッチ100は、第3回転体30をさらに備える。
【0017】
ドグクラッチ100は、複数の付勢部材40と、切替機構50と、検知機構60と、スプリングシート70と、ケース80と、第1側ケース92と、切替機構用スプリングシート91と、切替機構用付勢部材53と、軸受機構90と、をさらに備える。軸方向第1側から、第1側ケース92、切替機構用スプリングシート91、切替機構用付勢部材53、軸受機構90、スプリングシート70、付勢部材40、第1回転体10、第3回転体30、第2回転体20、切替機構50、検知機構60、ケース80、の順に並んでいる。
【0018】
切替機構用スプリングシート91、切替機構用付勢部材53、軸受機構90、スプリングシート70、付勢部材40、第1回転体10、第3回転体30、第2回転体20、切替機構50、検知機構60は、第1側ケース92とケース80とによって画定される空間に収納される。
【0019】
[第1回転体10]
第1回転体10は、回転可能に配置されている。第1回転体10は、軸方向に移動可能である。
【0020】
図1及び
図2を参照して、第1回転体10は、本体部11と、複数の第1ドグ歯12と、複数の突起部17と、を有している。本体部11は、円環状であり、中央部に孔を有している。
【0021】
第1ドグ歯12は、本体部11の外周部から軸方向第2側に突出している。第1ドグ歯12は、互いに周方向に間隔をあけて配置されている。
【0022】
第1ドグ歯12は、一対の垂直面13と、第1傾斜面14と、第3傾斜面15と、を含む。
【0023】
垂直面13は、本体部11に対して垂直かつ軸方向第2側に延びる。垂直面13は、周方向を向く。一対の垂直面13のうち、一方は、第1ドグ歯12の周方向の正回転側を向き、他方は、負回転側を向く。
【0024】
第1傾斜面14は、周方向の正回転側を向きつつ、軸方向第2側に向くように傾斜している。第1傾斜面14はさらに、径方向外側を向いている。第1傾斜面14は、垂直面13から軸方向第2側に延びる。
【0025】
第1傾斜面14は、回転軸Oを中心とした仮想らせん面の一部によって構成されている。詳細には、第1傾斜面14は、第1ドグ歯12の内周面に沿ったらせん曲線の一部である曲線と、第1ドグ歯12の外周面に沿ったらせん曲線の一部である曲線と、これらの曲線と交わりかつ回転軸Oに向かう2本の直線とで画定される面である。第1傾斜面14は、曲面でもよいし、平面でもよい。第1ドグ歯12の内周面に沿ったらせん曲線は、第1ドグ歯12の外周面に沿ったらせん曲線の一部である曲線よりも傾きが大きい。
【0026】
図3A及び
図3Bを参照して、第1ドグ歯12の形状を説明する。
図3Aは、軸方向第2側から軸方向視したときの第1ドグ歯12の一部を示す。R
mは第1ドグ歯12の有効半径、R
1は第1ドグ歯12の内周面を画定する円の半径、R
2は第1ドグ歯12の外周面を画定する円の半径である。
図3A中の1点鎖線は、第1傾斜面14の正回転側直線と第3傾斜面15の負回転側直線に対する二等分線(以下、傾斜面の二等分線ともいう)である。βは前述の傾斜面の二等分線と第1傾斜面14の正回転側直線の角度、γ
1は傾斜面の二等分線と第1傾斜面14の負回転側直線の角度である。
【0027】
図3Bは、任意の半径Rにおいて軸方向に平行な断面での第1ドグ歯12の断面図である。hは第1傾斜面14の軸方向の長さ、W
1は任意の半径Rにおける第1傾斜面14の周方向の長さである。なお、
図3Bにおいて、第1ドグ歯12の垂直面13は省略している。任意の半径Rにおける断面図において、第1傾斜面14が軸方向に対してなす角度αは、式(1)のとおりである。特に有効半径R
mのときの角度αを第1傾斜面14の角度α
mという。
【0028】
【0029】
第1傾斜面14は、第1傾斜面14の角度αが上記の式(1)を満たす複数の線を連続的につないだ面である。
【0030】
第3傾斜面15は、周方向の負回転側を向きつつ、軸方向第2側に向くように傾斜している。第3傾斜面15はさらに、径方向外側を向いている。第3傾斜面15は、垂直面13から軸方向第2側に延びる。第3傾斜面15の形状は、第1傾斜面14と同様である。第3傾斜面15は、第1傾斜面14と同様に回転軸Oを中心とした仮想らせん面の一部によって構成されている。
【0031】
図1及び
図2を参照して、突起部17は、本体部11の外周部から軸方向第1側に延びる。突起部17は、本体部11の外周部に配置されている。突起部17は、互いに周方向に間隔をあけて配置されている。
【0032】
[第2回転体20]
図1、
図4及び
図5を参照して、第2回転体20は、図示しないトルク出力軸と一体的に回転する。第2回転体20は、出力軸に取り付けられている。第2回転体20は、第1回転体10と同軸上で相対回転可能である。第2回転体20は、本体部21と、複数の第2ドグ歯22と、を有している。本体部21は、円板状である。本体部21は、中央部に孔を有している。
【0033】
第2ドグ歯22は、本体部21の外周部から軸方向第1側に突出している。第2ドグ歯22は、互いに周方向に間隔をあけて配置されている。
【0034】
第2ドグ歯22は、第1ドグ歯12と係合する。第2ドグ歯22は、第2傾斜面23と、第4傾斜面24と、を含む。
【0035】
第2傾斜面23は、周方向の負回転側を向きつつ、軸方向第1側に向くように傾斜している。第2傾斜面23はさらに、径方向内側を向いている。第2傾斜面23は、本体部21から軸方向第1側に延びる。第2傾斜面23が、第1傾斜面14に当接することで、第1ドグ歯12と第2ドグ歯22とが係合する。
【0036】
第2傾斜面23は、回転軸Oを中心とした仮想らせん面の一部によって構成されている。詳細には、第2傾斜面23は、第2ドグ歯22の内周面に沿ったらせん曲線の一部である曲線と、第2ドグ歯22の外周面に沿ったらせん曲線の一部である曲線と、これらの曲線と交わりかつ回転軸Oに向かう2本の直線と、で画定される面である。第2傾斜面23は、曲面でもよいし、平面でもよい。第2ドグ歯22の内周面に沿ったらせん曲線は、第2ドグ歯22の外周面に沿ったらせん曲線の一部である曲線よりも傾きが大きい。
【0037】
第4傾斜面24は、周方向の正回転側を向きつつ、軸方向第1側に向くように傾斜している。第4傾斜面24はさらに、径方向内側を向いている。第4傾斜面24は、本体部21から軸方向第1側に延びる。第4傾斜面24は、第3傾斜面15に当接する。
【0038】
第4傾斜面24の形状は、第2傾斜面23と同様である。第4傾斜面24は、第2傾斜面23と同様に回転軸Oを中心とした仮想らせん面の一部によって構成されている。
【0039】
[第3回転体30]
図1を参照して、第3回転体30は、第2回転体20に対して相対回転可能に配置されている。第3回転体30は、軸方向に移動しない。第3回転体30は、図示しないトルク入力軸に取り付けられている。第3回転体30は、筒状部31と、複数の歯32と、フランジ部33と、を有する。
【0040】
筒状部31は、第1回転体10の本体部11の孔を軸方向に貫通し、軸方向第1側に延びる。
【0041】
フランジ部33は、円環状である。フランジ部33は、第1回転体10と第2回転体20との間に配置されている。フランジ部33は、筒状部31の外周面から径方向外側に延びる。フランジ部33は、筒状部31の軸方向第2側に形成してもよい。
【0042】
歯32は、フランジ部33の外周面から径方向外側に突出する。歯32は、フランジ部33の外周面に互いに間隔をあけて配置されている。好ましくは、歯32は、周方向に等間隔で配置されている。歯32は、第1回転体10の垂直面13に係合する。歯32は、第1回転体10の互いに隣り合う一対の第1ドグ歯12の隙間に配置されている。歯32の高さ(歯32の径方向の長さ)は、第1回転体10の垂直面13の径方向の長さと略同じである。
【0043】
[付勢部材40]
付勢部材40のそれぞれは、第1回転体10のそれぞれの突起部17に取り付けられる。付勢部材40は、第1回転体10と、スプリングシート70と、の間に配置される。スプリングシート70は、軸受機構90に支持されている。付勢部材40は、コイルスプリングである。
【0044】
付勢部材40は、第1回転体10を軸方向第2側に付勢する。つまり、付勢部材40は、軸方向第2側に向かう荷重(プリロード)を第1回転体10に付与する。これにより、第1ドグ歯12及び第2ドグ歯22が予期せず軸方向に相対的に移動するのを防止できる。詳細には、以下のとおりである。
【0045】
図6は、第1ドグ歯12と、第2ドグ歯22と、が係合している部分(以下、係合部ともいう)を示す簡略図である。入力側が第1ドグ歯12、出力側が第2ドグ歯22である。入力側からトルクTが入力されると、係合部にはトルクTに応じた垂直抗力Nが入力される。垂直抗力Nと、第1傾斜面14の角度α
mと、第1ドグ歯12の数nと、有効半径R
mと、トルクTと、の関係は式(2)のとおりである。
【0046】
【0047】
このとき、垂直抗力Nの軸方向の成分は、第1ドグ歯12と第2ドグ歯22との係合を妨げる力となる。
【0048】
ここで、第1ドグ歯12と第2ドグ歯22との係合面には、摩擦力が発生する。静摩擦係数をμとすれば、係合面には摩擦力μNが働く。この摩擦力μNの軸方向の成分は、第1ドグ歯12と第2ドグ歯22との係合を維持しようとする力となる。そのため、垂直抗力Nの軸方向の成分と、摩擦力μNの軸方向の成分と、の大きさが等しければ、第1ドグ歯12と第2ドグ歯22との係合が外れることはない。
【0049】
しかしながら、実際には、入力トルクによる係合を妨げる力のほうが大きくなる。そこで、付勢部材40により、入力側の第1回転体10にプリロードPを入力する。プリロードPは、第1ドグ歯12と第2ドグ歯22との係合を維持させるための力である。そのため、プリロードPは、垂直抗力Nの軸方向の成分と、摩擦力μNの軸方向の成分と、の合力と等しいか、または合力より大きい必要がある。したがって、プリロードPの大きさは式(3)のとおりである。
【0050】
【0051】
式(3)を満たすプリロードP1を入力すれば、係合面に発生する係合を妨げる力よりもプリロードP1のほうが大きくなる。そのため、係合が意図せず外れることがない。
【0052】
さらに、過大なトルクを逃がす際には、第1ドグ歯12は係合面を駆け上がるように滑る。このとき、プリロードP1を発生させている付勢部材40は、ドグの高さh分だけたわむことになる。つまり、過大なトルクが完全に遮断される瞬間、つまりドグの係合が完全に外れる瞬間には、伝達トルクT1を伝達できるプリロードP1以上のプリロードP2が係合面に発生している。つまり、伝達トルクT1よりも大きいトルクT2を伝達していることになる。このトルクT2を遮断トルクと考えれば、ドグクラッチ100をトルクリミッターとしても作用させることができる。さらに、プリロードP1とP2、ドグの高さhより、プリロードを発生させる付勢部材40のバネ定数kは、式(4)のとおりである。
【0053】
【0054】
なお、第1ドグ歯12と第2ドグ歯22とが滑っている状態におけるトルクを計算する際には、動摩擦係数を用いるべきである。しかしながら、過大なトルクを逃がすことを目的とし、動摩擦係数が静摩擦係数より小さいため、目標の遮断トルクよりも実際の遮断トルクが小さくなることを許容している。
【0055】
[切替機構50]
図1、
図7~
図10、
図12及び
図13を参照して、切替機構50は、第2回転体20の軸方向第2側に配置されている。切替機構50は、第1ドグ歯12及び第2ドグ歯22の係合状態を切り替える。つまり、切替機構50は、トルク接続状態を制御する。切替機構50は、第1切替部材51と、第2切替部材52と、カム機構110を有する。
【0056】
第1切替部材51は、回転可能に配置されている。
【0057】
第1切替部材51は、本体部511と、操作部512と、係止部513と、を有する。本体部511は、円環状である。操作部512は、本体部511の外周面から径方向外側に延びる。本実施形態においては、操作部512は1個である。操作部512は、レバーである。係止部513は、本体部511の軸方向第1側の面に周方向において間隔をあけて配置されている。本実施形態においては、係止部513は3個である。係止部513は、凹部513Aと、突起部513Bと、鋼球54と、を有する。凹部513Aに、鋼球54が配置される。鋼球54は、凹部513A内において回転可能に配置されている。鋼球54の一部は、凹部513Aから突出している。
【0058】
第2切替部材52は、第1切替部材51に対して軸方向第1側に配置されている。第2切替部材52は、軸方向に移動可能である。第2切替部材52は、回転不能である。
【0059】
第2切替部材52は、本体部521と、複数の廻り止めツメ524と、内側フランジ525と、を有する。本体部521は、円環状である。本体部521は、複数の被係止部522と、複数のスロープ523と、を含む。
【0060】
被係止部522は、複数の第1凹部522Aを含む。第1凹部522Aは、周方向に互いに間隔をあけて配置されている。本実施形態においては、第1凹部522Aは3個である。第1凹部522Aは、第2切替部材52の軸方向第2側を向く面に形成されている。この第1凹部522Aに、鋼球54が係合する。第1切替部材51の係止部513と、第2切替部材52の第1凹部522Aと、鋼球54を介して係合することにより、第1切替部材51の相対回転をロックする。つまり、第1切替部材51と第2切替部材52との係合状態を維持する。これにより、切替機構50が意図せず作動するのを抑制する。
【0061】
被係止部522は、複数の第2凹部522Bをさらに含む。第2凹部522Bは、第1凹部522Aよりも軸方向第2側に配置されている。第2凹部522Bは、周方向に互いに間隔をあけて配置されている。本実施形態においては、第2凹部522Bは3個である。第2凹部522Bは、第2切替部材52の軸方向第2側を向く面に形成されている。この第2凹部522Bに、鋼球54が係合する。第1切替部材51の係止部513と、第2切替部材52の第2凹部522Bと、鋼球54を介して係合することにより、第1切替部材51の相対回転をロックする。つまり、第1切替部材51と第2切替部材52とが離れている状態を維持する。これにより、切替機構50が意図せず戻るのを抑制する。
【0062】
第1凹部522Aと第2凹部522Bとの間にスロープ523が形成されている。スロープ523は、周方向に延びる。このスロープ523上を鋼球54が転動することにより、トルク接続状態の制御をスムーズに行うことができる。
【0063】
廻り止めツメ524は、本体部521の外周面から径方向外側に突出する。本実施形態において、廻り止めツメ524は3個である。廻り止めツメ524は、第1側ケース92に回転不能に係合する。そのため、第2切替部材52は、回転軸Oを中心として回転しない。廻り止めツメ524は、第1側ケース92に対して、軸方向に移動可能に係合する。
【0064】
切替機構用付勢部材53は、第1回転体10よりも軸方向第1側に配置され、第2切替部材52に軸方向第2側に向かうプリロードを付与する。これにより、係止部513と被係止部522とを係合させておくことができる。また、トルク接続状態において、第2切替部材52と第1回転体10とが接触しないように保持できる。切替機構用付勢部材53は、ウェイブスプリングである。切替機構用付勢部材53は、切替機構用スプリングシート91により支持されている。
【0065】
内側フランジ525は、第2切替部材52の内周面に配置されている。内側フランジ525は、第2切替部材52の軸方向第2側に配置されている。内側フランジ525は、円環状である。第2切替部材52は、内側フランジ525において、第1回転体10に係合している。詳細には、内側フランジ525は、第1側の面において、第1回転体10の本体部11の外周部に当接する。
【0066】
カム機構110は、第1切替部材51の回転を第2切替部材52の軸方向の移動に変換する。カム機構110は、第1切替部材51の係止部513の鋼球54と、第2切替部材52のスロープ523と、からなる。
【0067】
[検知機構60]
図11を参照して、検知機構60は、第1切替部材51と、ケース80と、の間に配置されている。検知機構60は、第1切替部材51の回転を検知して、トルクの断接を検知する。トルク遮断状態を検知したときにトルクを停止させる。これにより、エネルギー消費を抑えることができる。検知機構60は、マイクロスイッチである。マイクロスイッチは、ケース80にビス止めされている。
【0068】
[動作及び作用]
駆動源から入力されたトルクは、トルク入力軸を介して第3回転体30に伝達され、第3回転体30から第1回転体10に伝達される。
【0069】
第1回転体10には、軸方向第2側に向かうプリロードが付勢部材40により付与されている。そのため、第1ドグ歯12及び第2ドグ歯22が予期せず軸方向に相対的に移動するのを抑制できる。トルク伝達状態では、第1回転体10と第2回転体20とは、第1ドグ歯12と第2ドグ歯22において係合している。このため、第1回転体10に伝達されたトルクは、第2回転体20に伝達される。そして、第2回転体20に伝達されたトルクは、トルク出力軸に伝達される。
【0070】
一方、入力されるトルクが大きくなりすぎると、第1傾斜面14と第2傾斜面23とが滑る。これにより、第1回転体10が軸方向第1側に移動し、第1ドグ歯12と第2ドグ歯22との係合が解除される。
【0071】
なお、本実施形態では、トルク入力軸からのトルクは、第1回転体10に直接伝達されるのではなく、第3回転体30を介して第1回転体10に伝達される。すなわち、第3回転体30がトルク入力軸に取り付けられており、第1回転体10はトルク入力軸に取り付けられていない。このため、第1ドグ歯12と第2ドグ歯22との係合が解除される際に第1回転体10が軸方向に移動しても、トルク入力軸が移動することはない。
【0072】
第1回転体10と第2回転体20とが離れる間、第1傾斜面14及び第2傾斜面23はらせん面状の軌跡を描く。この間、第1傾斜面14及び第2傾斜面23は、回転軸を中心とした仮想らせん面の一部によって構成されているため回転軸を中心とした仮想らせん面の一部同士が面接触しながら移動する。これにより、面圧が急激に変化するのを抑制でき、第1傾斜面14及び第2傾斜面23の外周部で面圧が大きくなるのを抑制できる。その結果、第1ドグ歯12及び第2ドグ歯22の摩耗を低減することができる。
【0073】
トルクが過大な状態が解除されると、付勢部材40の作用により、第1ドグ歯12と第2ドグ歯22とは、係合状態に復帰する。
【0074】
ドグクラッチ100は、第1回転体10が第1ドグ歯12の周方向の負回転側に第3傾斜面15を有している。また、第2回転体20が第2ドグ歯22の周方向の負回転側に第4傾斜面24を有している。そのため、トルクの入力方向が負回転側に変わっても、過大なトルクを逃がすことができる。
【0075】
また、ドグクラッチ100は、切替機構50を有する。そのため、操作部512を手動で操作すれば第1回転体10と第2回転体20とを軸方向に離すことができる。つまり、任意のタイミングでトルク接続状態を制御できる。詳細には、次のとおりである。
【0076】
切替機構50は、第1切替部材51と第2切替部材52とを有する。切替機構50が作動していない状態では、第1切替部材51と第2切替部材52とは、鋼球54を介して、係止部513と、被係止部522と、で係合している。
図12を参照して、切替機構50の第1切替部材51の操作部512を操作すると、切替機構50の第1切替部材51が第2切替部材52に対して相対回転する。第2切替部材52は第1側ケース92に廻り止めされているため第1切替部材51が軸方向第1側に移動する。このとき、鋼球54が外れ、係止部513の軸方向第1側の面と、第1凹部522Aと、が離れる。
【0077】
図13を参照して、鋼球54が第2切替部材52のスロープ523上を転動し、第1切替部材51と第2切替部材52とがスムーズに軸方向に相対的に移動する。第2切替部材52は、軸方向第1側に移動する間に第1回転体10の本体部11の軸方向第1側の面において、内側フランジ525が第1回転体10の本体部11の外周部を軸方向第1側に向かって押圧する。これにより、第1回転体10が第2回転体20に対して軸方向に移動する。
【0078】
また、操作部512を戻すことで、第1切替部材51を元の位置に戻すことができる。これにより、第1回転体10への押圧が解除され、第1ドグ歯12と第2ドグ歯22とを係合させることができる。つまり、任意のタイミングでトルク接続状態を制御することができる。
【0079】
以上のように、切替機構50は、第1回転体10を第2回転体20に対して移動させて第1ドグ歯12及び第2ドグ歯22の係合状態を切り替えることができる。つまり、切替機構50は、任意のタイミングでトルク接続状態を制御することができる。
【0080】
[他の実施形態]
本発明は、以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形または修正が可能である。
【0081】
変形例1
上記実施形態では、第1ドグ歯12の周方向の正回転側に第1傾斜面14を有し、第1ドグ歯12の周方向の負回転側に第3傾斜面15を有していたが、特にこれに限定されない。例えば、第1傾斜面14及び第3傾斜面15のいずれか一方にのみ配置されていてもよい。第2傾斜面23も及び第4傾斜面24についても同様である。
【0082】
変形例2
上記実施形態では、第1ドグ歯12の周方向の正回転側と、負回転側と、の両方を向いた第1傾斜面14と、第3傾斜面15と、の形状は同じであったが、特にこれに限定されない。例えば、第1傾斜面14と、第3傾斜面15と、で異なる形状であってもよい。第2ドグ歯22の第2傾斜面23と、第4傾斜面24と、についても同様である。
【0083】
変形例3
上記実施形態では、第3回転体30がトルク入力軸に接続され、第2回転体20がトルク出力軸に接続されていたが、特にこれに限定されない。例えば、第3回転体30がトルク出力軸に接続され、第2回転体20がトルク入力軸に接続されていてもよい。
【0084】
変形例4
上記実施形態では、切替機構50において、鋼球54を第2切替部材52のスロープ523上を移動させたが、特にこれに限定されない。例えば、第1切替部材51の軸方向第2側の面にもスロープを配置して、第1切替部材51のスロープと、第2切替部材52のスロープ523と、を相対移動させてもよい。また、切替機構50は、カム機構であってもよい。
【0085】
変形例5
上記実施形態では、切替機構50の係止部513と被係止部522A,522Bとを係合させるために鋼球54を用いたが、特にこれに限定されない。例えば、係止部513と被係止部522A,522Bとを突起にして、互いを係合させてもよい。また、鋼球54ではなく、例えば樹脂の球などを用いてもよい。
【0086】
変形例6
上記実施形態では、第1切替部材51が鋼球54を有し、第2切替部材52がスロープ523を有したが、特にこれに限定されない。例えば、第1切替部材51がスロープを有し、第2切替部材52が鋼球54を有してもよい。
【0087】
変形例7
上記実施形態では、第1回転体10にプリロードを付与する付勢部材40は、コイルスプリングであったが、特にこれに限定されない。例えば、付勢部材40は、ダイヤフラムスプリング、または、ウェイブスプリングである。
【0088】
変形例8
上記実施形態では、切替機構50の操作部512はレバーであったが、特にこれに限定されない。例えば、操作部512は、ソレノイドや空気圧機構、または、油圧機構などのアクチュエータである。
【符号の説明】
【0089】
10 第1回転体
12 第1ドグ歯
14 第1傾斜面
20 第2回転体
22 第2ドグ歯
23 第2傾斜面
30 第3回転体
40 付勢部材
50 切替機構
60 検知機構
100 ドグクラッチ