(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072310
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】金属管および金属管の受口内面の塗装方法
(51)【国際特許分類】
F16L 58/10 20060101AFI20220510BHJP
B05D 7/22 20060101ALI20220510BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220510BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20220510BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
F16L58/10
B05D7/22 C
B05D7/24 301B
B05D1/36 Z
B05D7/14 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020181673
(22)【出願日】2020-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨田 直岐
(72)【発明者】
【氏名】明渡 健吾
(72)【発明者】
【氏名】柳谷 仁志
(72)【発明者】
【氏名】安東 尚紀
【テーマコード(参考)】
3H024
4D075
【Fターム(参考)】
3H024EA04
3H024EC04
3H024ED05
3H024EE03
4D075AE04
4D075BB23X
4D075CA33
4D075DA19
4D075DA33
4D075DB01
4D075DC05
4D075EA02
4D075EA05
4D075EB22
4D075EB33
(57)【要約】
【課題】受口内面の防食性に優れ、かつ水質衛生性を保ち、ゴム輪収容部の規定寸法を満たした金属管を提供する。
【解決手段】管軸方向の一端に、少なくともゴム輪を収容するための凹部であるゴム輪収容部21を有する受口2が設けられた管内外径略一定の直管部3を有する金属管1であって、受口内面2aに、受口内面2a全域Cに施される粉体塗料により形成される第1の層、管路に流れる流体と接触しない領域である受口開口端2bからゴム輪収容部21のゴム輪21bの装着される領域にかけての受口内面2aの領域Aに前記第1の層の上から施される液体塗料により形成される第2の層から構成される塗膜を備える金属管1、ならびに(1)前記金属管1を加熱し、領域Cに粉体塗料を塗装して第1の層を形成する工程、および(2)工程(1)の後、領域Aに液体塗料を塗装して第2の層を形成する工程を含む塗装方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管軸方向の一端に、少なくともゴム輪を収容するための凹部であるゴム輪収容部を有する受口が設けられた管内外径略一定の直管部を有する金属管であって、
受口内面に、
受口内面全域に施される粉体塗料により形成される第1の層、
管路に流れる流体と接触しない領域に前記第1の層の上から施される液体塗料により形成される第2の層
から構成される塗膜を備える金属管。
【請求項2】
前記管路に流れる流体と接触しない領域が、受口開口端からゴム輪収容部のゴム輪の装着される領域にかけての受口内面の領域である請求項1記載の金属管。
【請求項3】
前記粉体塗料がエポキシ樹脂粉体塗料である請求項1または2記載の金属管。
【請求項4】
前記液体塗料が、樹脂成分としてアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、またはエポキシエステル系樹脂を含有する液体塗料である請求項1~3のいずれか1項に記載の金属管。
【請求項5】
管軸方向の一端に、少なくともゴム輪を収容するための凹部であるゴム輪収容部を有する受口が設けられた管内外径略一定の直管部を有する金属管の受口内面の塗装方法であって、
(1)前記金属管を加熱し、受口内面全域に粉体塗料を塗装して第1の層を形成する工程、および
(2)工程(1)の後、管路に流れる流体と接触しない領域に液体塗料を塗装して第2の層を形成する工程
を含む塗装方法。
【請求項6】
前記管路に流れる流体と接触しない領域が、受口開口端から前記ゴム輪収容部のゴム輪の装着される領域にかけての受口内面の領域である請求項5記載の塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受口内面に塗膜を有する金属管およびその塗装方法に関し、特に内面に凹凸が設けられた受口を有する鋳鉄管およびその塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上下水道などには、各種金属管が用いられている。これらの金属管の内周面には、その内面を保護するために、各種塗装が施される。特に、水道管に用いられる鋳鉄管においては、防食性および水質衛生性に優れた粉体塗装(例えば、エポキシ樹脂粉体塗装など)によって管内面塗装が直管部内面に施されていることが多い。
【0003】
これらの金属管は、
図2に示すように、一般に、管軸方向に一定の管径が続く直管部3を挟んで、管軸方向一端に挿し口4、他端に隣り合う他の金属管の挿し口が挿入される受口2を備える。この受口内面2aには、一般に、開口端側に管路を通る流体が金属管から漏れることを防止するゴム輪21bを収容する凹部であるゴム輪収容部21および直管部側にロックリング22bを収容する凹部であるロックリング収容部22などの凹凸が設けられている。
【0004】
このような凹凸部を備える受口内面の塗装については、直管部と同様に粉体塗装を行うと、粉体塗料が均一に塗布できず、塗装欠陥が発生しやすいため、従来、この受口内面2aの塗装としては、上述したように、直管部内面3aに管内を通過する水などによる腐食を防止することを目的として粉体塗装を行なった後、凹凸の多い受口内面2aには、ジンクリッチ系塗料による一次塗装と溶剤系合成樹脂塗料による二次塗装とを施すことにより防食性を確保している。
【0005】
また、特許文献1には、凹凸部分を含む受口内面に対し、粉体塗装用のガンを往復させて静電粉体塗装を行うことが記載されている。
【0006】
さらに、特許文献2には、受口のロックリング収容部内面に、直管部の内面に形成された粉体塗膜よりも硬度の低い粉体塗膜が形成された管体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-269243号公報
【特許文献2】特開2016-183734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1のように受口内面をすべて粉体塗装とする場合、防食性および水質衛生性には優れているが、塗装性には若干劣るため、受口内面の凹凸部に対して塗装すると、凹凸部の中でも特にゴム輪収容部に塗装欠陥が発生しやすく、赤錆の原因となる。塗装欠陥を発生させないためには膜厚を厚くすれば良いが、膜厚を厚くすると、凹凸部では規定寸法を満たさなくなることなどから膜厚増加による対応は難しい。
【0009】
さらに、特許文献2の方法では前記特許文献1と同様に粉体塗装のみの場合では塗装性は若干劣るため、該当する凹凸部に対して塗装すると、凹凸部の中でも特にゴム輪収容部に塗装欠陥が発生しやすいこと、および膜厚を厚くすれば規定寸法を満たさなくなること、という問題があり、溶剤塗料のみの塗装の場合では粉体塗装に比べ防食性が低下するという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、受口内面の防食性に優れ、かつ水質衛生性を保ち、ゴム輪収容部の規定寸法を満たした金属管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者らは、鋭意検討した結果、受口内面全域に粉体塗料により形成される層を設け、受口開口端からゴム輪収容部のゴム輪接触部位を含む領域、すなわちゴム輪により管路を通る流体から遮断される領域に、上記粉体塗料により形成された層の上から液体塗料を施すことにより形成される層を設けることにより、受口内面の防食性に優れ、かつ水質衛生性を保ち、ゴム輪収容部の規定寸法を満たした金属管を、管外面への粉体塗料の付着を抑えて提供できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、
[1]管軸方向の一端に、少なくともゴム輪を収容するための凹部であるゴム輪収容部を有する受口が設けられた管内外径略一定の直管部を有する金属管であって、
受口内面に、
受口内面全域に施される粉体塗料により形成される第1の層、
管路に流れる流体と接触しない領域に前記第1の層の上から施される液体塗料により形成される第2の層
から構成される塗膜を備える金属管、
[2]前記管路に流れる流体と接触しない領域が、受口開口端からゴム輪収容部のゴム輪の装着される領域にかけての受口内面の領域である上記[1]記載の金属管、
[3]前記粉体塗料がエポキシ樹脂粉体塗料である上記[1]または[2]記載の金属管、
[4]前記液体塗料が、樹脂成分としてアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、またはエポキシエステル系樹脂を含有する液体塗料である上記[1]~[3]のいずれかに記載の金属管、
[5]管軸方向の一端に、少なくともゴム輪を収容するための凹部であるゴム輪収容部を有する受口が設けられた管内外径略一定の直管部を有する金属管の受口内面の塗装方法であって、
(1)前記金属管を加熱し、受口内面全域に粉体塗料を塗装して第1の層を形成する工程、および
(2)工程(1)の後、管路に流れる流体と接触しない領域に液体塗料を塗装して第2の層を形成する工程
を含む塗装方法、ならびに
[6]前記管路に流れる流体と接触しない領域が、受口開口端から前記ゴム輪収容部のゴム輪の装着される領域にかけての受口内面の領域である上記[5]記載の塗装方法
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、管路を通る流体と接触する受口内面において、エポキシ樹脂粉体塗装のみを施し、受口開口端からゴム輪装着部の領域においてエポキシ樹脂粉体塗装に液体塗料を塗り重ねることにより、受口内面の防食性および水質衛生性が向上し、また液体塗料を塗り重ねる領域においては、エポキシ樹脂粉体塗装の塗膜に欠陥が生じていたとしてもその欠陥に液体塗料が入り込むことにより、エポキシ樹脂粉体塗装による膜厚が薄くても欠陥のない健全な塗膜とすることができる。これにより、ゴム輪収容部の規定寸法を満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施態様にかかる金属管の塗装区分を説明するための概略断面図である。
【
図2】一般的な水道管用の金属管の構造を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明は、上下水道管やガス管などに広く用いられる金属管(例えば鋳鉄管)1の受口2の受口内面2aに粉体塗料による第1の層および液体塗料により形成される第2の層から構成される塗膜を備えるものである。金属管1は、一例として、
図1に示すように、管内外径略一定の直管部3を挟んで、管軸方向の一端に受口2を、他端に挿し口4を備える。受口2には、ゴム輪を収容する凹部であるゴム輪収容部21と、ロックリングを収容する凹部であるロックリング収容部22とが設けられており、領域C(受口全域)には粉体塗料により第1の層が形成され、領域A(管路に流れる流体と接触しない領域)には第1の層の上から液体塗料により形成される第2の層が形成され、受口内面2aの塗膜を構成する。ゴム輪収容部21とロックリング収容部22とには、
図2に示すように、ゴム輪21bと、金属管1から他の金属管1が抜け出ることを抑制するロックリング22bおよびロックリング心出し用ゴム22cとが収容され、別の金属管の挿し口を差し込んだ際、ゴム輪が管外側に向けて圧迫され、
図1に示す領域Aには管路を通る流体が接触できないようになっている。逆に言えば、ロックリング収容部22およびゴム輪収容部21のゴム輪21bの直管部側外側を含む領域Bには管路を通る流体が侵入してくる場合がある。
【0016】
本明細書において、用語「ゴム輪」は、管路を通る流体が、外部に漏れ出ることを防ぐための部材であり、
図2に示すように、ゴム輪21bはゴム輪収容部21に嵌合することでゴム輪収容部内面21aに取り付けられ、受口2に他の金属管の挿し口4が差し込まれることにより、金属管1の受口2のゴム輪収容部内面21aと別の金属管の挿し口4の外面とを密着させる。
【0017】
本明細書において、「管路に流れる流体と接触しない領域」とは、例えば管体の受口に他の管体の挿し口が挿入された際にゴム輪などにより受口内面と挿し口外面とが密着されることにより、管路に流れる流体が侵入できない状態となった場合の、受口内面の管路を流れる流体から遮断された領域、すなわち受口開口端からその密着部分までの領域を意味する。例えば「管路に流れる流体と接触しない領域」は、「受口開口端からゴム輪収容部のゴム輪の装着される領域にかけての受口内面の領域」であり、具体的には、例えば
図1における領域Aのゴム輪により管路を通る流体に接触することのない領域が相当する。
【0018】
[第1の層]
金属管1の受口2の受口内面2aの全域Cに、粉体塗料、とりわけエポキシ樹脂粉体塗料により第1の層を形成する。第1の層は、受口内面塗装用の専用塗装装置にて粉体塗装して形成することができ、また、直管部から続いて粉体塗装して形成することもできる。この粉体塗装を行う前に、必要に応じて管内面を研磨、清掃などの素地調整を行うことが好ましい。
【0019】
第1の層の膜厚は、後述する第2の層を形成しない管路を通る流体が接触する領域Bと後述する第2の層を形成する管路を通る流体が接触しない領域Aとで同等なものとして、もしくは異なるものとしても良い。領域Bの膜厚は、防食性の観点から150μm以上が好ましく、200~600μmがより好ましい。また、領域Aの膜厚は、ゴム輪収容部の規定寸法を満たすという観点から、250μm未満が好ましく、150~200μmがより好ましい。領域Aの膜厚を抑えることで管外への粉体塗料の飛散を防ぐこともできる。
【0020】
金属管1は、塗装される粉体塗料、例えばエポキシ樹脂粉体塗料を溶融し、硬化させるために、通常、塗装前に加熱される。加熱方法は特に限定されるものではないが、例えばガス炉や電気炉などの加熱炉を用いて行われる。金属管1の加熱温度は、使用するエポキシ樹脂粉体塗料の種類や硬化時間などによって任意に決定されるものであるため特に限定されるものではないが、樹脂を溶融させ、樹脂と硬化剤とを架橋反応させるため、金属管1の表面温度は好ましくは150℃以上であり、より好ましくは170~270℃である。
【0021】
(粉体塗料)
次に、粉体塗料について説明する。本明細書において粉体塗料とは、粉末状の塗料のことを意味し、より具体的には、塗料中に有機溶剤や水を含まず、塗膜形成成分のみからなる粉末状の塗料を意味する。第1の層に用いる粉体塗料は、熱硬化性の粉体塗料であれば特に限定されるものではないが、水道管に適したものとして使用されていることから、特にエポキシ樹脂粉体塗料、具体的には日本水道協会規格JWWA G 112「水道用ダクタイル鋳鉄管内面エポキシ樹脂粉体塗装」に規定されているエポキシ粉体塗料を好適に用いることができる。
【0022】
エポキシ樹脂粉体塗料は、常温で固形のエポキシ樹脂、該エポキシ樹脂用の硬化剤、さらに必要に応じて各種顔料、添加剤などを含有する。
【0023】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルアミン型樹脂、複素環式エポキシ樹脂、多官能型エポキシ樹脂などが挙げられる。そのなかでも安全性の観点からビスフェノールFとエピクロロヒドリンから合成されるビスフェノールF型エポキシ樹脂が好適に採用される。
【0024】
硬化剤としては、エポキシ樹脂を硬化させる性質を有していれば、特に限定されることはないが、アミン系化合物、アミド系化合物、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、ヒドラジド系化合物、酸無水物、フェノール樹脂およびその誘導体などが挙げられる。そのなかでも、塗膜の防食性、可撓性、密着性および強度の観点から、アニリンを主体とした変性芳香族アミンアダクト、エチレンジアミンとベンゾニトリルを主体としたイミダゾール・イミダゾリン化合物、ヒドラジンと二塩基を主体としたヒドラジド、トリメリット酸とエチレングリコールを主体とした酸無水物が好適に採用される。
【0025】
顔料としては、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、黄色酸化鉄、フタロシアニンブルー、などの着色顔料や、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、タルクなどの体質顔料などが挙げられる。
【0026】
添加剤としては、充填剤、分散剤、表面調整剤などが挙げられ、必要に応じてエポキシ樹脂粉体塗料に配合することができる。
【0027】
エポキシ樹脂粉体塗料の製造方法は特に限定されず、例えばドライブレンド法や熱溶融錬合法により製造することができる。
【0028】
エポキシ樹脂粉体塗料の塗装方法は特に限定されるものではなく、例えば静電粉体塗装、回転吹付塗装などが挙げられる。受口内面の塗装方法としては、第一に、受口内面塗装用の専用塗装装置にて、領域Aと領域Bを同じ膜厚で塗装する方法があり、第二に、受口内面塗装用の専用塗装装置にて、領域Aにおける塗装装置の移動速度を領域Bと変えることにより、領域Aと領域Bを異なる膜厚で塗装する方法がある。
【0029】
[第2の層]
管路に流れる流体と接触しない領域として、金属管1の受口2の受口開口端2bからゴム輪収容部21のゴム輪の装着される領域にかけての受口内面2aの領域Aに、第1の層の上から液体塗料により第2の層を形成する。
【0030】
第2の層の膜厚は、防食性の観点から20μm以上が好ましく、20~100μmがより好ましく、30~70μmがさらに好ましい。また、第1の層と合わせた合計膜厚は、防食性およびゴム輪収容部の規定寸法を満たす観点から170~250μmが好ましく、200~250μmがより好ましい。
【0031】
金属管1は第1の層を形成する際、管が加熱されているため、液体塗料の突沸を防ぐといった観点から、第1の層が硬化したのち、金属管の内表面温度が60℃以下となってから液体塗料が塗装される。もちろん、外気温と同じ内表面温度であっても塗装することができる。また、液体塗料の塗装は、スプレー塗装や刷毛塗装、ローラー塗装など特に限定されるものではない。
【0032】
(液体塗料)
液体塗料は、第1の層に欠陥がある場合にそこに入り込むことのできる液体状の塗料であれば特に限定されるものではなく、樹脂成分を顔料や各種添加剤と共に有機溶媒に配合した溶剤系塗料、媒体を水系媒体とした水系塗料、溶剤を用いない無溶剤系塗料などを使用することができる。
【0033】
(溶剤系塗料)
溶剤系塗料は、樹脂成分として、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂、シクロペンタジエン樹脂、クマロンインデン樹脂、カルボキシル化アクリル変性SBR樹脂などを用いて有機溶剤を媒体とした塗料である。これらのアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂は、鋳鉄管の塗料として流通しているものなどを使用することができ、特に限定されるものではない。水道管に使用する場合には、例えば日本水道協会規格JWWA K 139「水道用ダクタイル鋳鉄管合成樹脂塗料」に規定されている合成樹脂塗料を好適に用いることができる。
【0034】
溶剤系塗料に使用される有機溶剤は、特に限定されるものではないが、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ブチルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチルなどが挙げられる。
【0035】
アクリル系樹脂としては、スチレン、酢酸ビニルまたはブタジエンを含むアクリレートもしくはメタクリレート共重合物などを使用することができる。
【0036】
アクリル系樹脂の溶剤系塗料としては、例えば、日本ペイント・インダストリアルコーティングス(株)製クリモトコートAC-1-SRグレー、日本ペイント・インダストリアルコーティングス(株)製クリモトコートAC-1グレーなどを使用することができる。
【0037】
エポキシ樹脂を主剤とする溶剤系塗料は、少なくとも主剤であるエポキシ樹脂、硬化剤、および上記有機溶剤とを含む。主剤と硬化剤とを分け、二液型としたものを用いることが好ましい。エポキシ樹脂は特に限定されるものではないが、ビスフェノール類とエピクロロヒドリンとの反応により得られるビスフェノール型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂に脂肪酸を反応させたもの、ノボラック型、脂環型、グリシジルアミン型、水添ビスフェノールA型などのエポキシ樹脂を主剤として用いることができる。そして、それに加えて必要に応じて、炭素数12または炭素数13のアルキル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパンなどのグリシジルエーテル、クマロンインデン樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、トルエン樹脂、石油樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ポリイミド樹脂などの樹脂類、モノグリシジルエーテル類、ジオクチルフタレート、ベンジルアルコールなどの反応性または非反応性の希釈剤を、単独または複数選んで、上記主剤と混合して用いることができる。
【0038】
硬化剤は、エポキシ樹脂に硬化反応を起こさせる化合物である。具体的な化合物としては、ポリアミドアミン類、ポリアミンエポキシ樹脂アダクト体、エポキシ樹脂アミンアダクト、脂肪族ポリアミン、変性ポリアミン、芳香族アミン、第三アミン、ヒドラジド、ジシアンジアミド、イミダゾール、酸無水物、ケチミン、酸末端ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、レゾール樹脂、アミノ樹脂、イソシアネート、ブロックイソシアネート、トリエチレンテトラミン変性物、メタキシレンジアミン変性物、イソフォロンジアミン変性物、ビス(パラアミノシクロヘキシル)メタン変性物、トルエンジイソシアネートの変性物などを、単独または複数で用いることができる。
【0039】
エポキシ樹脂を主剤とする溶剤系塗料の具体例としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピクロロヒドリンとビスフェノールAとの反応物)に石油樹脂(クマロン/スチレンの共重合体)を加え、種々の顔料および添加剤に、溶剤としてキシレン、エチルベンゼン、イソブタノール、メタノール、メチルイソブチルケトンおよびプロピレングリコールモノエチルエーテルを加えたものを主剤とし、ポリアミンとエポキシ樹脂とのアダクト体に溶剤としてキシレン、エチルベンゼン、イソブタノールおよびn-ブタノールを加えたものを硬化剤とする、大日本塗料(株)製のクリモトコートNT#100新Hグレーや、関西ペイント(株)製クリモトコートNT#100新などを使用することができる。
【0040】
(水系塗料)
水系塗料は、樹脂成分として、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、エポキシエステル系樹脂などを用い必要に応じてエマルジョンやディスパージョンなどの形態としたもの、例えばエポキシエステル系樹脂ディスパージョン、アクリル系樹脂エマルジョン、アクリル系樹脂ディスパージョンなどを水系媒体に配合した塗料である。
【0041】
水系媒体としては、水性溶媒、好ましくは水が用いられる。また、界面張力を調整するために少量の有機溶剤を配合しても良い。
【0042】
エポキシエステル系樹脂ディスパージョンは、不飽和脂肪酸変性エポキシエステル樹脂、末端カルボキシル基含有構造を有するビニル単量体およびその他のビニル単量体を塊状重合させて得られるビニル変性エポキシエステル樹脂を主成分とし、このビニル変性エポキシエステル樹脂を中和して得られるビニル変性エポキシエステル樹脂中和物の水性分散体である。エポキシエステル樹脂ディスパージョンは、耐腐食性を向上させるために水系塗料に配合される。エポキシエステル樹脂ディスパージョンの具体例としては、市販品として、WATERSOL EFD-5530(DIC(株)製)、WATERSOL EFD-5560(DIC(株)製)、WATERSOL EFD-5580(DIC(株)製)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
アクリル系樹脂エマルジョンは、強制乳化型の(メタ)アクリル重合体の水性樹脂分散体を主成分とするものである。強制乳化型とは、乳化剤を用いて強制的に乳化したもので、樹脂部分は基本的に自己乳化力を有しないものを意味し、本発明においてエマルジョンは強制乳化型の分散体という意味で用いる。アクリル系樹脂エマルジョンは、耐腐食性および乾燥性に優れた塗膜を形成するために水系塗料に配合される。アクリル系樹脂エマルジョンの具体例としては、サイビノールEC-7040(サイデン化学(株)製)、サイビノールX-211-168E(サイデン化学(株)製)、VONCORT EC-740EF(DIC(株)製)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
アクリル系樹脂ディスパージョンは、自己乳化型のビニル系重合体の水性樹脂分散体を主成分とし、常圧下の沸点が130~220℃の範囲内で、かつ20℃での水の溶解度が100以上の有機溶剤をアクリル系樹脂ディスパージョン中に15質量%以下含有する自己乳化型の水性分散体である。自己乳化型とは、樹脂骨格に何らかの親水性基を化学的に導入し、樹脂自体が乳化能を有することを意味し、本発明においてディスパージョンは自己乳化型の分散体という意味で用いる。アクリル系樹脂ディスパージョンは、耐腐食性と耐候性に優れた塗膜を形成するために水系塗料に配合される。アクリル系樹脂ディスパージョンの具体例としては、WATERSOL ACD-1110(DIC(株)製)などが挙げられる。
【0045】
水系塗料においては、上述のエポキシエステル樹脂ディスパージョン、アクリル系樹脂エマルジョン、アクリル系樹脂ディスパージョンを2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0046】
(無溶剤系塗料)
無溶剤系塗料は、樹脂成分として、エポキシ系樹脂を用い、溶剤を含まない塗料である。水道管に使用する場合には、例えば日本水道協会規格JWWA K 157「水道用無溶剤形エポキシ樹脂塗料塗装方法」に規定されている塗料を好適に用いることができる。
【0047】
(顔料)
液体塗料に用いる顔料としては、二酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、シアニンブルー、シアニングリーンなどの着色顔料;炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム、クレーなどの体質顔料などが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
また、顔料としては、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウムなどの防錆顔料を用いることもできる。なかでも防錆性能に優れるリン酸亜鉛およびリン酸カルシウムを用いることが好ましい。リン酸亜鉛の具体例としては、LFボウセイP-W-2、LFボウセイD-1、LFボウセイD-2、LFボウセイZP-S1、LFボウセイZP-HS、LFボウセイP-WF(以上、いずれもキクチカラー(株)製)や、EXPERT NP-500、EXPERT NP-520、EXPERT NP-530(以上、いずれも東邦顔料工業(株)製)などが挙げられる。リン酸カルシウムの具体例としては、LFボウセイCP-Z(キクチカラー(株)製)、EXPERT NP-1000、EXPERT NP-1007、EXPERT NP-1020C、EXPERT NP-1055C(以上、いずれも東邦顔料工業(株)製)、プロテクスYM-60、プロテクスYM-70(以上、いずれも太平化学産業(株)製)などが挙げられる。
【0049】
液体塗料には、その他必要に応じてシリコーンや有機高分子からなる消泡剤;シリコーンや有機高分子からなる表面調整剤;アマイドワックス、有機ベントナイトなどからなる粘性調整剤(タレ止め剤);シリカ、アルミナなどからなる艶消し剤;ポリカルボン酸塩などからなる分散剤;ベンゾフェノンなどからなる紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、フェノール系などの酸化防止剤;ワックスなど、公知の添加剤を用いることができる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0050】
[受口内面の塗装方法]
本発明の受口内面2aの塗装方法は、直管部3の一端に、少なくともゴム輪21bを収容するための凹部であるゴム輪収容部21を有する受口2を備える金属管1を加熱し、受口内面2a全域Cに粉体塗料を塗装して第1の層を形成する工程(1)、および工程(1)の後、管路に流れる流体と接触しない領域である受口開口端2bからゴム輪収容部21のゴム輪21bの装着される領域にかけての受口内面の領域Aに液体塗料を塗装して第2の層を形成する工程(2)を含む。
【0051】
工程(1)は、第1の層を形成するものであり、その塗装方法は、上述の粉体塗装に適したものであれば特に限定されるものではない。工程(1)においては、塗装領域中、直管部内面3aと受口内面2aの第2の層を形成しない領域Bと、第2の層を形成する領域Aとは塗膜の膜厚が同等もしくは異なっていても良く、異なっている場合には、第2の層を形成する領域Aに係る第1の層の膜厚は、第2の層を形成しない領域Bよりも薄くすることが好ましい。このため、受口内面塗装用の専用塗装装置にて、領域Aと領域Bを同じ膜厚で塗装することもできるが、領域Aにおける塗装装置の移動速度を領域Bと変えることにより、領域Aと領域Bを異なる膜厚(例えば領域Aを領域Bよりも薄い膜厚)で塗装することもできる。
【0052】
工程(2)は、第2の層を形成するものであり、その塗装方法は、特に限定されるものではなく、スプレーや刷毛、ローラーによって所望の膜厚に塗装することができる。
【0053】
[鋳鉄管外周面の塗装]
本発明では、
図1の符号1で示す金属管の金属管外周面1aは、従来公知の方法で塗装を行ってもよく、特開2010-209967号公報に記載の方法で塗装を行ってもよい。従来公知の方法で塗装を行う場合は、受口内面2aの第2の層の塗装の前後に行うとよい。また、特開2010-209967号公報に記載の方法で塗装を行う場合は、金属管外周面1aと受口内面2aの第2の層の塗装を同時に行ってもよい。
【実施例0054】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0055】
実施例1
鋳鉄管(φ250×5000mm)を270~330℃に加熱した。その後、エポキシ樹脂粉体塗料(JWWA G 112規格品、粉末)を用い、受口内面塗装用の専用塗装装置にて、領域Aと領域Bを目標膜厚200μmで粉体塗装を行い(第1の層)、その後続けて挿し口開口端内面から直部までの領域を目標膜厚300μm以上で粉体塗装を行った。次いで、受口開口端からゴム輪収容部のゴム輪接触領域まで、すなわちゴム輪により管路を通る流体から遮断される領域に、溶剤系二液性エポキシ樹脂塗料(JWWA K 139規格品、固形分49%)を目標膜厚50μmでスプレーにより塗装した(第2の層)。
【0056】
実施例2
鋳鉄管(φ250×5000mm)を270~330℃に加熱した。その後、エポキシ樹脂粉体塗料(JWWA G 112規格品、粉末)を用い、受口内面塗装用の専用塗装装置にて、領域Aにおける塗装装置の移動速度を領域Bよりも速くすることにより、領域Aを目標膜厚150μm、領域Bを目標膜厚300μmで粉体塗装を行い(第1の層)、その後続けて挿し口開口端内面から直部までの領域を目標膜厚300μm以上で粉体塗装を行った。次いで、受口開口端からゴム輪収容部のゴム輪接触領域まで、すなわちゴム輪により管路を通る流体から遮断される領域に、溶剤系二液性エポキシ樹脂塗料(JWWA K 139規格品、固形分49%)を目標膜厚50μmでスプレーにより塗装した(第2の層)。