IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横河電機株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社オメガシミュレーションの特許一覧 ▶ 東京瓦斯株式会社の特許一覧

特開2022-72361組成推定装置、組成推定方法、及び組成推定プログラム
<>
  • 特開-組成推定装置、組成推定方法、及び組成推定プログラム 図1
  • 特開-組成推定装置、組成推定方法、及び組成推定プログラム 図2
  • 特開-組成推定装置、組成推定方法、及び組成推定プログラム 図3
  • 特開-組成推定装置、組成推定方法、及び組成推定プログラム 図4
  • 特開-組成推定装置、組成推定方法、及び組成推定プログラム 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072361
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】組成推定装置、組成推定方法、及び組成推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 9/00 20060101AFI20220510BHJP
   G01N 25/36 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
G01N9/00 A
G01N25/36
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020181746
(22)【出願日】2020-10-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】500564507
【氏名又は名称】株式会社オメガシミュレーション
(71)【出願人】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】柏 良輔
(72)【発明者】
【氏名】石丸 新
(72)【発明者】
【氏名】三浦 眞太郎
(72)【発明者】
【氏名】濱 正造
(72)【発明者】
【氏名】村田 直紀
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AA03
2G040AB12
2G040BA04
2G040BA24
2G040BB01
2G040HA05
2G040ZA03
(57)【要約】
【課題】時々刻々変化する液化ガスの組成を推定することができる組成推定装置、組成推定方法、及び組成推定プログラムを提供する。
【解決手段】組成推定装置は、液化ガスの液密度又は熱量の計測値と液化ガスの組成の計測値とが含まれる実績データを用いて液化ガスの液密度又は熱量と液化ガスの組成との相関関係を示す近似式を算出する近似式算出部と、近似式算出部で算出された近似式を用い、液化ガスの液密度又は熱量の計測値から液化ガスの組成を推定する組成推定部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスの組成を推定する組成推定装置であって、
前記液化ガスの液密度又は熱量の計測値と前記液化ガスの組成の計測値とが含まれる実績データを用いて前記液化ガスの液密度又は熱量と前記液化ガスの組成との相関関係を示す近似式を算出する近似式算出部と、
前記近似式算出部で算出された前記近似式を用い、前記液化ガスの液密度又は熱量の計測値から前記液化ガスの組成を推定する組成推定部と、
を備える組成推定装置。
【請求項2】
前記近似式算出部は、前記実績データのうち、前記近似式に対する距離が予め設定された基準距離以上のものを除外したものを用いて、新たな前記近似式を算出する、請求項1記載の組成推定装置。
【請求項3】
前記近似式算出部は、前記実績データを複数のグループに分け、前記グループ毎に前記近似式を算出する、請求項1又は請求項2記載の組成推定装置。
【請求項4】
前記近似式算出部は、前記液化ガスの液密度又は熱量の大きさに応じて前記実績データを複数の領域に分割し、分割された前記領域毎に前記近似式を算出する、請求項1から請求項3の何れか一項に記載の組成推定装置。
【請求項5】
前記液化ガスの液密度又は熱量の計測値と、液化ガスプラントを模擬するシミュレータによって得られる前記液化ガスの液密度又は熱量の推定値との差が予め規定された閾値を超えた場合に、前記組成推定部に前記液化ガスの組成を推定させる実行部を備える、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の組成推定装置。
【請求項6】
前記実行部は、前記液化ガスの液密度又は熱量の計測値と、前記液化ガスの液密度又は熱量の推定値との差が予め規定された閾値を超えた場合に警告を発し、前記警告を発した後に前記液化ガスの組成を推定させる指示があったときに、前記組成推定部に前記液化ガスの組成を推定させる、請求項5記載の組成推定装置。
【請求項7】
液化ガスの組成を推定する組成推定方法であって、
前記液化ガスの液密度又は熱量の計測値と前記液化ガスの組成の計測値とが含まれる実績データを用いて前記液化ガスの液密度又は熱量と前記液化ガスの組成との相関関係を示す近似式を算出する近似式算出ステップと、
前記近似式算出ステップで算出された前記近似式を用い、前記液化ガスの液密度又は熱量の計測値から前記液化ガスの組成を推定する組成推定ステップと、
を有する組成推定方法。
【請求項8】
コンピュータを、液化ガスの組成を推定する組成推定装置として機能させる組成推定プログラムであって、
前記コンピュータを、
前記液化ガスの液密度又は熱量の計測値と前記液化ガスの組成の計測値とが含まれる実績データを用いて前記液化ガスの液密度又は熱量と前記液化ガスの組成との相関関係を示す近似式を算出する近似式算出手段と、
前記近似式算出手段で算出された前記近似式を用い、前記液化ガスの液密度又は熱量の計測値から前記液化ガスの組成を推定する組成推定手段と、
して機能させる組成推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成推定装置、組成推定方法、及び組成推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
LNG(Liquefied Natural Gas:液化天然ガス)は、メタンを主成分とし、エタン、プロパン、その他の炭化水素を含む混合物であり、その組成は産地によって異なっている。LNGの組成分析を行う場合には、例えば、液体クロマトグラフが用いられる。ここで、液体クロマトグラフは、分析及び精製装置の一種であり、物質の化学的相互作用や分子の大きさの違い等によって、混合成分を分離・定量する装置である。この液体クロマトグラフは、LNGの組成を求めることができるものの、分析に時間を要するため、即時性及び連続性が求められる用途には不向きである。
【0003】
以下の特許文献1には、計測したLNGの液密度を温度及び圧力の計測値を用いて補正し、予め求めておいた液密度と発熱量との相関関係から、LNGの発熱量を算出する方法が開示されている。また、以下の特許文献2には、LNGタンクのBOG(Boil off gas:自然入熱による気化ガス)量を推定し、BOG量の分だけメタンが減少したとみなした場合のLNGの組成割合を求めて、最終的にLNGの液密度を算出する方法が開示されている。尚、以下の特許文献3には、現実のプラントを模擬するプラント・シミュレータの一種であるトラッキング・シミュレータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-47071号公報
【特許文献2】特開2006-308384号公報
【特許文献3】特開2005-332360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、コンピュータ上でプラントを再現するデジタルツインという考え方が盛んになっている。例えば、上述した特許文献3に開示されたトラッキング・シミュレータ等のプラント・シミュレータを実際のLNGプラントに繋げ、LNGプラントを模擬することにより、オンラインでLNGプラントの運転支援に役立てようとする試みがなされている。
【0006】
ここで、プラント・シミュレータは、物理化学法則に基づいた計算によって成り立っているため、計算精度を保つためには、LNGプラントで扱われる物質の組成が正しく定義されている必要がある。しかしながら、前述した液体クロマトグラフは即時性に欠けるため、時々刻々変化する組成の変化を正確にプラント・シミュレータに取り込むことはできない。また、上述した特許文献1,2に開示された方法でも、時々刻々変化する組成の変化を正確に求めることはできない。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、時々刻々変化する液化ガスの組成を推定することができる組成推定装置、組成推定方法、及び組成推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様による組成推定装置は、液化ガスの組成を推定する組成推定装置(10)であって、前記液化ガスの液密度又は熱量の計測値と前記液化ガスの組成の計測値とが含まれる実績データを用いて前記液化ガスの液密度又は熱量と前記液化ガスの組成との相関関係を示す近似式を算出する近似式算出部(13)と、前記近似式算出部で算出された前記近似式を用い、前記液化ガスの液密度又は熱量の計測値から前記液化ガスの組成を推定する組成推定部(14)と、を備える。
【0009】
また、本発明の一態様による組成推定装置は、前記近似式算出部が、前記実績データのうち、前記近似式に対する距離が予め設定された基準距離以上のものを除外したものを用いて、新たな前記近似式を算出する。
【0010】
また、本発明の一態様による組成推定装置は、前記近似式算出部が、前記実績データを複数のグループに分け、前記グループ毎に前記近似式を算出する。
【0011】
また、本発明の一態様による組成推定装置は、前記近似式算出部が、前記液化ガスの液密度又は熱量の大きさに応じて前記実績データを複数の領域に分割し、分割された前記領域毎に前記近似式を算出する。
【0012】
また、本発明の一態様による組成推定装置は、前記液化ガスの液密度又は熱量の計測値と、液化ガスプラントを模擬するシミュレータによって得られる前記液化ガスの液密度又は熱量の推定値との差が予め規定された閾値を超えた場合に、前記組成推定部に前記液化ガスの組成を推定させる実行部(12)を備える。
【0013】
また、本発明の一態様による組成推定装置は、前記実行部が、前記液化ガスの液密度又は熱量の計測値と、前記液化ガスの液密度又は熱量の推定値との差が予め規定された閾値を超えた場合に警告を発し、前記警告を発した後に前記液化ガスの組成を推定させる指示があったときに、前記組成推定部に前記液化ガスの組成を推定させる。
【0014】
本発明の一態様による組成推定方法は、液化ガスの組成を推定する組成推定方法であって、前記液化ガスの液密度又は熱量の計測値と前記液化ガスの組成の計測値とが含まれる実績データを用いて前記液化ガスの液密度又は熱量と前記液化ガスの組成との相関関係を示す近似式を算出する近似式算出ステップ(S12、S14)と、前記近似式算出ステップで算出された前記近似式を用い、前記液化ガスの液密度又は熱量の計測値から前記液化ガスの組成を推定する組成推定ステップ(S24)と、を有する。
【0015】
本発明の一態様による組成推定プログラムは、コンピュータを、液化ガスの組成を推定する組成推定装置(10)として機能させる組成推定プログラムであって、前記コンピュータを、前記液化ガスの液密度又は熱量の計測値と前記液化ガスの組成の計測値とが含まれる実績データを用いて前記液化ガスの液密度又は熱量と前記液化ガスの組成との相関関係を示す近似式を算出する近似式算出手段(13)と、前記近似式算出手段で算出された前記近似式を用い、前記液化ガスの液密度又は熱量の計測値から前記液化ガスの組成を推定する組成推定手段(14)と、して機能させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、時々刻々変化する液化ガスの組成を推定することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態による組成推定装置の要部構成を示すブロック図である。
図2】本発明の一実施形態における領域分割法を説明するための図である。
図3】LNGに含まれる成分の一例を示す図である。
図4】本発明の一実施形態による組成推定装置の近似式算出時の動作例を示すフローチャートである。
図5】本発明の一実施形態による組成推定装置の組成推定時の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態による組成推定装置、組成推定方法、及び組成推定プログラムについて詳細に説明する。以下では、まず本発明の実施形態の概要について説明し、続いて本発明の実施形態の詳細について説明する。
【0019】
〔概要〕
本発明の実施形態は、時々刻々変化する液化ガス(例えば、LNG)の組成を推定することができるようにするものである。このように、液化ガスの組成を推定するのは、例えば、プラント・シミュレータによるオンラインでの液化ガスプラント(例えば、LNGプラント)の模擬を高い精度で行えるようにするためである。
【0020】
従来、液化ガスプラントを模擬するプラント・シミュレータは、オフラインでの訓練等に使用されていた。このようなプラント・シミュレータでは、例えば、液体クロマトグラフ等によって測定された液化ガスの組成が入力されて用いられていた。ここで、プラント・シミュレータを実際の液化ガスプラントに繋げてオンラインで使用しようとした場合に、時々刻々変化する液化ガスの組成をプラント・シミュレータに取り込む必要がある。
【0021】
しかしながら、前述した液体クロマトグラフは即時性に欠けるため、時々刻々変化する液化ガスの組成を取り込むことはできない。また、液体クロマトグラフは高価であるため、液化ガスを貯蔵するタンクの各々に液体クロマトグラフを設置すると飛躍的にコストが増大する。このため、現状では、タンクに入れる前の液化ガスの組成を液体クロマトグラフで計測し、タンク内に収容した後の液化ガスの組成変化をシミュレータで推定する方法が主流である。
【0022】
但し、長時間に亘ってシミュレータを稼働すると、液化ガスの実際の組成とシミュレータで推定される液化ガスの組成とが、外乱の影響によって乖離することがある。尚、ここにいう外乱とは、タンクに貯蔵された液化ガスが送出されること、タンクに液化ガスが戻されること、外気温や圧力の変化、組成が異なる液化ガスの受け入れ(タンクに対する受け入れ)が幾度も行われること等である。
【0023】
従って、プラント・シミュレータによるオンラインでの液化ガスプラントの模擬を高い精度で行うには、タンクに貯蔵されている液化ガスの組成と、プラント・シミュレータで推定される液化ガスの組成とのずれを補正する仕組みが必要になる。本発明の実施形態では、必ずといっていいほど計測されている液化ガスの液密度又は熱量を使用して、タンクに貯蔵された液化ガスの組成を推定するものである。ここで、液化ガスの液密度又は熱量と液化ガスの組成の相関関係は高いものも低いものもあり、液化ガスの産地によるばらつきもあるため、多量の実績データから液化ガスの液密度又は熱量と液化ガスの組成との相関関係を示す近似式を作成する。そして、上記の近似式を用いて、液化ガスの計測値から液化ガスの組成を推定するようにしている。
【0024】
つまり、本発明の実施形態では、まず、液化ガスの液密度又は熱量の計測値と液化ガスの組成の計測値とが含まれる実績データを用いて液化ガスの液密度又は熱量と液化ガスの組成との相関関係を示す近似式を求める。次に、求められた近似式を用い、液化ガスの液密度又は熱量の計測値から液化ガスの組成を推定する。これにより、時々刻々変化する液化ガスの組成を推定することができる。
【0025】
〔実施形態〕
〈組成推定装置の構成〉
図1は、本発明の一実施形態による組成推定装置の要部構成を示すブロック図である。図1に示す通り、本実施形態の組成推定装置10は、LNGプラント100を模擬するプラント・シミュレータ200に設けられ、プラント・シミュレータ200がLNGプラント100の模擬を高い精度で行うために必要となるLNGの組成を推定する。
【0026】
ここで、LNGプラント100は、例えば、ガス田で採取された天然ガスから不純物、環境汚染物質、水分等を除去し、不純物等が除去された天然ガスの冷却を行って液化することによりLNGを得るものである。LNGプラント100には、LNGを貯蔵するLNGタンク101が設けられている。LNGタンク101には、LNGタンク101に貯蔵されているLNGの液密度を計測する液密度計102が設置されている。
【0027】
プラント・シミュレータ200は、ネットワーク(図示省略)を介してLNGプラント100に接続されており、LNGプラント100で得られた測定データや制御データ等を取得してLNGプラント100を模擬する。プラント・シミュレータ200は、組成推定装置10及びシミュレータモデル20を備える。
【0028】
シミュレータモデル20は、模擬の対象であるLNGプラント100をモデル化したものである。このシミュレータモデル20には、LNGタンク101をモデル化したLNGタンクモデル21、液密度計102をモデル化した液密度計モデル22が設けられている。LNGプラント100から取得された測定データや制御データ等がシミュレータモデル20に入力されることで、LNGプラント100が模擬される。
【0029】
図1に示す通り、組成推定装置10は、データ入力部11、実行部12、近似式算出部13(近似式算出手段)、及び組成推定部14(組成推定手段)を備える。
【0030】
データ入力部11は、LNGの液密度の計測値とLNGの組成の計測値とが含まれる実績データを入力する。上記の実績データは、産地、組成等が異なる種々のLNGについて液密度と組成とを実際に計測して得られたデータである。LNGの液密度は、例えば、液密度計を用いて計測され、LNGの組成は、例えば、液体クロマトグラフを用いて計測される。尚、LNGの液密度は、LNGタンク101に設置された液密度計102を用いて計測されても良い。
【0031】
実行部12は、組成推定部14に対して、LNGの推定される組成を求める演算(以下、「組成推定演算」という)を実行させる。具体的に、実行部12は、LNGタンク101に設置された液密度計102で計測された液密度(以下、「実測値」という)と、LNGタンクモデル21に設置された液密度計モデル22で推定された液密度(以下、「推定値」という)とを比較する。そして、実行部12は、液密度の実測値と推定値との差が予め規定された閾値を超えた場合に、組成推定演算を組成推定部14に実行させる。
【0032】
ここで、実行部12は、組成推定演算を組成推定部14に実行させる前に、液密度の実測値と推定値との差が予め規定された閾値を超えた旨を示す警告を発するようにしても良い。例えば、実行部12は、上記の警告を表示装置300に表示するようにしてもよい。そして、実行部12は、上記の警告を発した後に、LNGプラント100の運転員からLNGの組成を推定させる指示があったときに、組成推定演算を組成推定部14に実行させるようにしても良い。或いは、実行部12は、上記の警告を発した後に、自動的に、組成推定演算を組成推定部14に実行させるようにしても良い。
【0033】
近似式算出部13は、データ入力部11から入力される実績データを用いて、LNGの液密度と組成との相関関係を示す近似式を算出して保持する。近似式算出部13は、例えば、プラント・シミュレータ200が動作する前(LNGプラント100の模擬を行う前)に上記の近似式を算出して保持する。近似式算出部13は、プラント・シミュレータ200の動作中にデータ入力部11から入力される実績データを用いて新たな近似式を算出し、保持している近似式を新たに算出された近似式に更新するようにしても良い。
【0034】
近似式算出部13は、近似式を算出した後に、異なる方法で近似式を再度算出することが可能である。近似式算出部13は、例えば、以下の3つの方法で近似式を再度算出することが可能である。近似式算出部13に近似式を再度算出させるか否かの指示、及び近似式算出部13に近似式を再度算出させる際に用いる方法の指定は、近似式算出部13に対するパラメータ設定により行う。
・外れ値除外法
・グループ化法
・領域分割法
【0035】
「外れ値除外法」は、実績データのうち、既に算出されている近似式に対する距離が予め設定された基準距離以上のものを除外したものを用いて、新たな近似式を算出する方法である。この方法で近似式を算出することで、近似式の精度を向上させることができる。
【0036】
「グループ化法」は、実績データを複数のグループに分け、グループ毎に近似式を算出する方法である。LNGは、産地毎の特性があり、産地毎に組成の配分がある程度偏っているため、実績データをグループ分けすることにより、近似式の精度を向上させることができる。
【0037】
「領域分割法」は、LNGの液密度に応じて実績データを複数の領域に分割し、分割された領域毎に近似式を算出する方法である。図2は、本発明の一実施形態における領域分割法を説明するための図である。尚、図2に示すグラフは、横軸に液密度[kg/m3]をとり、縦軸に熱量[MJ]をとってある。
【0038】
図2に示す通り、液密度が420~470[kg/m3]の範囲のデータが、実績データとしてデータ入力部11から入力されるとする。領域分割法では、このような実績データを、実績データの分布状況に応じて複数の領域に分割する。図2に示す例では、例えば、420~435[kg/m3]、435~446[kg/m3]、446~470[kg/m3]の3つの領域に分割する。そして、分割した3つの領域毎に近似式を算出する。このように、分割された3つの領域毎に近似式を算出することで、全領域で1つの近似式を算出する場合よりも、近似式の精度を向上させることができる。尚、領域の分割数は3に制限されることはなく、任意の数に分割することが可能である。
【0039】
ここで、LNGは、メタン(CH4)、エタン(C26)、プロパン(C38)、ブタン(C410)、ペンタン(C512)、窒素(N2)等を含んでおり、図3に示す通り、メタンが85%以上占めるのが特徴である。図3は、LNGに含まれる成分の一例を示す図である。図3(a)は、LNGに含まれるメタンの一例を示す図であり、図3(b)は、LNGに含まれるエタンを示す図である。尚、図3に示すグラフは、横軸に液密度[kg/m3]をとり、縦軸に組成割合[%]をとってある。
【0040】
図3(a)に示す通り、LNGに含まれるメタンの組成割合は、LNGの液密度が低くなるにつれて大きくなり、LNGの液密度が高くなるにつれて小さくなる傾向がある。これに対し、図3(b)に示す通り、LNGに含まれるエタンの組成割合は、LNGの液密度が高くなるにつれて大きくなり、LNGの液密度が低くなるにつれて小さくなる傾向がある。
【0041】
図3(a)に示す例において、LNGの液密度が420[kg/m3]近辺である場合には、LNGに含まれるメタンの組成割合は99[%]以上になる。このため、LNGの組成は、ほぼメタンであると特定できており、その熱量は、図2から、39.8[MJ/m3]程度であると推定される。
【0042】
つまり、図2,3を参照すると、LNGの液密度が低いほどメタンの組成割合が大きくなって他の組成の割合が小さくなり、LNGの液密度が高いほどメタンの組成割合が小さくなって他の組成の割合が大きくなる。言い換えると、LNGの液密度が高くなるほどLNGの組成の推定精度が低くなってしまうため、統計処理により妥当な組成割合を計算する必要がある。
【0043】
尚、上述した、外れ値除外法、グループ化法、及び領域分割法のうちの任意の2つの方法又は全ての方法を全て用いて新たな近似式を算出することも可能である。例えば、全ての方法を用いる場合には、実績データのうち、既に算出されている近似式に対する距離が基準距離以上のものを除外し(外れ値除外法)、産地毎に実績データをグループ分けし(グループ化法)、液密度に応じて実績データを複数の領域に分割し、各々の領域毎に近似式を算出する(領域分割法)。
【0044】
組成推定部14は、実行部12の指示に基づいて、前述した組成推定演算を実行する。具体的に、組成推定部14は、近似式算出部13で算出された近似式を用い、LNGタンク101に設置された液密度計102で計測された液密度(実測値)に合うようにシミュレータモデル20の液密度を変更したときのLNGの組成を推定する。尚、組成推定部14で推定されたLNGの組成は、シミュレータモデル20に入力される。LNGの組成が入力されたシミュレータモデル20は、プラント・シミュレータ200がLNGプラント100を模擬するために用いられる。
【0045】
このような組成推定装置10は、例えば、パーソナルコンピュータやワークステーション等のコンピュータにより実現される。組成推定装置10がコンピュータにより実現される場合において、組成推定装置10に設けられる各ブロック(データ入力部11、実行部12、近似式算出部13、及び組成推定部14)は、各々の機能を実現するためのプログラムが、コンピュータに設けられたCPU(中央処理装置)で実行されることによって実現される。つまり、組成推定装置10に設けられる各ブロックは、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することによって実現される。尚、組成推定装置10は、コンピュータによって実現されるプラント・シミュレータ200の一機能として実現されても良い。
【0046】
〈組成推定装置の動作〉
次に、組成推定装置の動作について説明する。組成推定装置10の動作は、前述した近似式を算出する際の動作と、LNGの組成を推定する際の動作とに大別される。以下では、前述した近似式算出時の動作と、LNGの組成推定時の動作とを順に説明する。
【0047】
《近似式算出時の動作》
図4は、本発明の一実施形態による組成推定装置の近似式算出時の動作例を示すフローチャートである。尚、図4に示すフローチャートの処理は、例えば、近似式の算出に用いられる実績データの準備が完了した後に、LNGプラント100の運転員から近似式の作成開始指示がなされることによって開始される。
【0048】
処理が開始されると、まず、実績データを組成推定装置10に入力する処理が、データ入力部11によって行われる(ステップS11)。次に、組成推定装置10に入力された実績データを用いて、予め入力されたパラメータ設定によるLNGの液密度とLNGの組成との相関関係を示す近似式を作成する処理が近似式算出部13によって行われる(ステップS12:近似式算出ステップ)。
【0049】
次いで、近似式算出部13に対するパラメータ設定変更がなされているか否かが近似式算出部13によって判断される(ステップS13)。つまり、近似式算出部13に近似式を再度算出させるか否かの指示、及び近似式算出部13に近似式を再度算出させる際に用いる方法の指定がなされているか否かが近似式算出部13によって判断される。
【0050】
近似式算出部13に対するパラメータ設定変更がなされていると近似式算出部13が判断した場合(ステップS13の判断結果が「YES」の場合)には、実績データを用いて近似式を作成する処理が再び近似式算出部13によって行われる(ステップS12)。但し、ここでは、パラメータ設定変更によって指示された方法(前述した、外れ値除外法、グループ化法、及び領域分割法の少なくとも1つ)を用いた近似式の作成が行われる。
【0051】
これに対し、近似式算出部13に対するパラメータ設定変更がなされていないと近似式算出部13が判断した場合(ステップS13の判断結果が「NO」の場合)には、作成した近似式を保持する処理が近似式算出部13によって行われる(ステップS14:近似式算出ステップ)。以上の処理が終了すると、図4に示す一連の処理が終了する。このようにして近似式の作成が行われる。
【0052】
《組成推定時の動作》
図5は、本発明の一実施形態による組成推定装置の組成推定時の動作例を示すフローチャートである。尚、図5に示すフローチャートの処理は、例えば、一定の時間間隔で繰り返し行われる。
【0053】
処理が開始されると、まず、LNGタンク101に設置された液密度計102で計測された液密度の実測値と、LNGタンクモデル21に設置された液密度計モデル22で推定された液密度の推定値とを取得する処理が実行部12によって行われる(ステップS21)。次に、取得した液密度の実測値と推定値との差を求め、この差が予め規定された閾値を超えたか否かを判断する処理が実行部12によって行われる(ステップS22)。
【0054】
液密度の実測値と推定値との差が閾値を超えていないと実行部12が判断した場合(ステップS22の判断結果が「NO」の場合)には、図5に示す一連の処理が終了する。これに対し、液密度の実測値と推定値との差が閾値を超えたと実行部12が判断した場合(ステップS22の判断結果が「YES」の場合)には、その旨を示す警告を発する処理が実行部12で行われる。例えば、警告を表示装置300に表示させる処理が実行部12で行われる(ステップS23)。
【0055】
次いで、組成推定演算を組成推定部14に実行させる処理が実行部12によって行われる。ここで、実行部12は、上記の警告を発した後に、LNGプラント100の運転員からLNGの組成を推定させる指示があったときに、組成推定演算を組成推定部14に実行させるようにしても良い。或いは、実行部12は、上記の警告を発した後に、自動的に、組成推定演算を組成推定部14に実行させるようにしても良い。
【0056】
このとき、LNGタンク101に貯蔵されているLNGの産地が特定できるのであれば、LNGプラント100の運転員は、組成推定装置10に対してLNGの産地を特定するようにしても良い。例えば、LNGプラント100の運転員が、予め複数用意された産地の候補から特定の産地を選択することによってLNGの産地を特定するようにしても良い。このような産地の特定を行うことで、組成推定部14で組成推定演算が実行されるときに、産地に適した近似式を用いることで、高い精度でLNGの組成を推定することが可能になる。
【0057】
続いて、組成推定演算が組成推定部14で実行される(ステップS24:組成推定ステップ)。具体的には、近似式算出部13で算出された近似式(図4のステップS14で保持された近似式)を用い、LNGタンク101に設置された液密度計102で計測された液密度の実測値に合うようにシミュレータモデル20の液密度を変更したときのLNGの組成を推定する処理が行われる。
【0058】
ここで、近似式算出部13で算出された近似式を用いて推定されたLNGの組成が100%にならない場合がある。このような場合には、推定されたLNGの組成の合計が100%になるように調整する処理が組成推定部14によって行われる。この処理では、例えば、各組成の上下限を設定して組成の合計が100%になるように調整する方法や、各組成に重み付けを行って組成の合計が100%になるように調整する方法が用いられる。
【0059】
前者の方法では、例えば、メタンについて上下限値として85~99.9%が設定される。そして、推定されたメタンの組成が設定された上下限値を逸脱している場合には、メタンの組成が上下限値に収まり、且つ組成の合計が100%になるようにメタンの組成が調整される。
【0060】
後者の方法では、例えば、メタンについては100%の重みが設定され、他の成分については0%の重みが設定されたとする。このときには、他の成分の調整を行うことなく、組成の合計が100%になるようにメタンの組成のみが調整される。また、例えば、メタンについては80%の重みが設定され、エタンについては20%の重みが設定されている場合において、近似式算出部13で算出された近似式を用いて推定されたLNGの組成が105%になったとする。このときには、メタンの組成を4%減ずるとともにエタンの組成を1%減ずることによって、組成の合計が100%になるように調整される。
【0061】
以上の処理が終了すると、推定された組成を出力して、シミュレータモデル20に入力させる処理が組成推定部14によって行われる(ステップS25)。これにより、シミュレータモデル20に新たに入力されたLNGの組成を用いたLNGプラント100の模擬が、プラント・シミュレータ200で行われる。
【0062】
以上の通り、本実施形態では、近似式算出部13が、LNGの液密度の計測値とLNGの組成の計測値とが含まれる実績データを用いてLNGの液密度と組成との相関関係を示す近似式を算出し、組成推定部14が、算出された近似式を用い、LNGの液密度の計測値からLNGの組成を推定するようにしている。これにより、時々刻々変化するLNGの組成を推定することができる。
【0063】
ここで、本実施形態では、LNGの液密度とLNGの組成との相関関係を示す近似式を用いて、LNGの液密度の計測値からLNGの組成を推定するようにしている。このため、液密度計102が設置されたLNGタンク101に貯蔵されたLNGの組成はもちろんのこと、LNGプラント内において液密度を計測可能な任意の箇所におけるLNGの組成を推定することが可能である。
【0064】
以上、本発明の一実施形態による組成推定装置、組成推定方法、及び組成推定プログラムについて説明したが、本発明は上記実施形態に制限される訳ではなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、LNGタンク101に受け入れる前のLNGの組成を液体クロマトグラフ等で計測できた場合(例えば、船上でLNGの組成を計測した場合)に、得られた組成を組成推定装置10に入力してLNGの組成の推定精度を高めるようにしても良い。
【0065】
また、上述した実施形態では、LNGの液密度とLNGの組成との相関関係を示す近似式を算出し、算出した近似式を用いてLNGの液密度の計測値からLNGの組成を推定するようにしていた。しかしながら、一般的に、液密度と熱量とは相関が高いことが知られている。このため、LNGの熱量とLNGの組成との相関関係を示す近似式を算出し、算出した近似式を用いてLNGの熱量の計測値からLNGの組成を推定するようにしても良い。
【0066】
また、上述した実施形態では、LNGプラント100のLNGタンク101に貯蔵されたLNGの組成を推定する例について説明した。しかしながら、本発明は、LNGの組成の推定に制限される訳ではなく、炭化水素を主成分とする液化ガスの組成の推定に適用することができる。このような液化ガスとしては、LNG以外に、例えば、LPG(Liquefied Petroleum Gas:液化石油ガス)が挙げられる。
【符号の説明】
【0067】
10 組成推定装置
12 実行部
13 近似式算出部
14 組成推定部
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2021-06-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスの組成を推定する組成推定装置であって、
組成が異なる種々の前記液化ガスについて、液密度又は熱量と組成とを実際に計測して得られるデータであって、前記液化ガスの液密度又は熱量の計測値と前記液化ガスの組成の計測値とが含まれる実績データを用いて前記液化ガスの液密度又は熱量と前記液化ガスの組成との相関関係を示す近似式を算出する近似式算出部と、
前記近似式算出部で算出された前記近似式を用い、前記液化ガスの液密度又は熱量の計測値から前記液化ガスの組成を推定する組成推定部と、
を備える組成推定装置。
【請求項2】
前記近似式算出部は、前記実績データのうち、前記近似式に対する距離が予め設定された基準距離以上のものを除外したものを用いて、新たな前記近似式を算出する、請求項1記載の組成推定装置。
【請求項3】
前記近似式算出部は、前記実績データを複数のグループに分け、前記グループ毎に前記近似式を算出する、請求項1又は請求項2記載の組成推定装置。
【請求項4】
前記近似式算出部は、前記液化ガスの液密度又は熱量の大きさに応じて前記実績データを複数の領域に分割し、分割された前記領域毎に前記近似式を算出する、請求項1から請求項3の何れか一項に記載の組成推定装置。
【請求項5】
前記液化ガスの液密度又は熱量の計測値と、液化ガスプラントを模擬するシミュレータによって得られる前記液化ガスの液密度又は熱量の推定値との差が予め規定された閾値を超えた場合に、前記組成推定部に前記液化ガスの組成を推定させる実行部を備える、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の組成推定装置。
【請求項6】
前記実行部は、前記液化ガスの液密度又は熱量の計測値と、前記液化ガスの液密度又は熱量の推定値との差が予め規定された閾値を超えた場合に警告を発し、前記警告を発した後に前記液化ガスの組成を推定させる指示があったときに、前記組成推定部に前記液化ガスの組成を推定させる、請求項5記載の組成推定装置。
【請求項7】
液化ガスの組成を推定する組成推定方法であって、
組成が異なる種々の前記液化ガスについて、液密度又は熱量と組成とを実際に計測して得られるデータであって、前記液化ガスの液密度又は熱量の計測値と前記液化ガスの組成の計測値とが含まれる実績データを用いて前記液化ガスの液密度又は熱量と前記液化ガスの組成との相関関係を示す近似式を算出する近似式算出ステップと、
前記近似式算出ステップで算出された前記近似式を用い、前記液化ガスの液密度又は熱量の計測値から前記液化ガスの組成を推定する組成推定ステップと、
を有する組成推定方法。
【請求項8】
コンピュータを、液化ガスの組成を推定する組成推定装置として機能させる組成推定プログラムであって、
前記コンピュータを、
組成が異なる種々の前記液化ガスについて、液密度又は熱量と組成とを実際に計測して得られるデータであって、前記液化ガスの液密度又は熱量の計測値と前記液化ガスの組成の計測値とが含まれる実績データを用いて前記液化ガスの液密度又は熱量と前記液化ガスの組成との相関関係を示す近似式を算出する近似式算出手段と、
前記近似式算出手段で算出された前記近似式を用い、前記液化ガスの液密度又は熱量の計測値から前記液化ガスの組成を推定する組成推定手段と、
して機能させる組成推定プログラム。