(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072411
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】乾燥物の製造方法、および乾燥装置
(51)【国際特許分類】
F26B 5/06 20060101AFI20220510BHJP
F26B 11/16 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
F26B5/06
F26B11/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020181823
(22)【出願日】2020-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000149310
【氏名又は名称】株式会社大川原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100107102
【弁理士】
【氏名又は名称】吉延 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100164242
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 直人
(74)【代理人】
【識別番号】100172498
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】杉本 隼人
(72)【発明者】
【氏名】保崎 有香
(72)【発明者】
【氏名】山賀 徹志
【テーマコード(参考)】
3L113
【Fターム(参考)】
3L113AA07
3L113AB07
3L113AC13
3L113AC21
3L113AC58
3L113AC67
3L113BA36
3L113DA10
(57)【要約】
【課題】凍結物を乾燥させて乾燥物を得る乾燥物の製造方法、および凍結物を凍結させたまま乾燥を開始する乾燥装置に関し、乾燥時間を短縮しつつ被処理物の濃縮度を向上させる。
【解決手段】液体中に被処理物が分散した分散液を凍結させ凍結物を得る凍結工程(ステップS2)と、凍結物を凍結させたまま乾燥を開始し、乾燥物を得る乾燥工程(ステップS4)とを有し、乾燥工程(ステップS4)が、凍結物を動かしながらその凍結物に電磁波を照射し、その該凍結物を昇華させる工程である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中に被処理物が分散した分散液を凍結させ凍結物を得る凍結工程と、
前記凍結物を凍結させたまま乾燥を開始し、乾燥物を得る乾燥工程とを有し、
前記乾燥工程が、前記凍結物を動かしながら該凍結物に電磁波を照射し、該凍結物を昇華させる工程であることを特徴とする乾燥物の製造方法。
【請求項2】
前記凍結工程が、前記分散液をブライン液によって凍結させる工程であり、
前記凍結工程が完了した後であって前記乾燥工程を開始する前に、前記ブライン液を濾過することで、該ブライン液を前記凍結物から分離する分離工程を有することを特徴とする請求項1記載の乾燥物の製造方法。
【請求項3】
前記凍結工程が、前記分散液を攪拌しながら凍結させる工程であることを特徴とする請求項1又は2記載の乾燥物の製造方法。
【請求項4】
前記凍結工程が、前記分散液を供給口から前記ブライン液中に吐出し、吐出した該分散液を該ブライン液によって凍結させる工程であることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項記載の乾燥物の製造方法。
【請求項5】
液体中に被処理物が分散した分散液を凍結させた凍結物を収納する容器と、
前記容器に収納されている前記凍結物を凍結させたまま乾燥を開始する乾燥手段と、
前記乾燥手段によって乾燥されている前記凍結物を前記容器内で動かす凍結物可動部と、
前記乾燥手段によって乾燥されている前記凍結物に電磁波を照射する照射部とを備えたことを特徴とする乾燥装置。
【請求項6】
前記照射部は、前記容器内で動いている状態の前記凍結物に電磁波を照射するものであることを特徴とする請求項5記載の乾燥装置。
【請求項7】
前記凍結物可動部は、前記容器を動かすことで該容器に収納されている前記凍結物を該容器内で動かすものであることを特徴とする請求項5又は6記載の乾燥装置。
【請求項8】
前記凍結物可動部は、前記容器に収納されている前記凍結物を攪拌するものであることを特徴とする請求項5又は6記載の乾燥装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結物を乾燥させて乾燥物を得る乾燥物の製造方法、および凍結物を凍結させたまま乾燥を開始する乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体への分散性が優れる材料は、食品、化粧品、医療品、または塗料等の分野への応用が期待されている。ところが、その材料(以下、被処理物という。)を液体に均質に分散させた分散液として安定させるためには、被処理物に対して数倍から数百倍の質量の液体が必要になる場合があり、腐敗防止、保存スペースの確保、保存および輸送コストの増大等、種々の問題がある。この問題を解決するために、分散液中の液体を蒸発させて被処理物を乾燥させる技術(例えば、特許文献1等)が提案されている。被処理物を乾燥させるにあたっては、乾燥させた被処理物を液体に再度分散させたとき、乾燥前と同程度の状態に戻すことができる良好な復元性が求められる。
【0003】
特許文献1に記載された技術は、水分の蒸発温度が20℃~40℃になる程度に減圧した状態で分散液にマイクロ波を照射し、分散液中の水分を蒸発させて被処理物を濃縮させる技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、良好な復元性を維持するために、被処理物の濃度が10質量%程度の濃縮しかできず、90質量%もの水分が依然として残っている。これは、被処理物の凝集を抑えながら分散液中の水分を蒸発させることがいかに難しいかの現れであり、特許文献1の技術では、乾燥物を得るには至っていない。
【0006】
また、特許文献1の中でも乾燥時間の短縮が望まれているように、乾燥時間は短ければ短いほど好ましい。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、乾燥時間の短縮が可能であり、被処理物の凝集が抑制され、再分散時の復元性が良好な乾燥物の製造方法および乾燥装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を解決する本発明の乾燥物の製造方法は、
液体中に被処理物が分散した分散液を凍結させ凍結物を得る凍結工程と、
前記凍結物を凍結させたまま乾燥を開始し、乾燥物を得る乾燥工程とを有し、
前記乾燥工程が、前記凍結物を動かしながら該凍結物に電磁波を照射し、該凍結物を昇華させる工程であることを特徴とする。
【0009】
本発明の乾燥物の製造方法では、前記凍結物を凍結させたまま乾燥を開始するため、被処理物は凍結・固定化されていることから、被処理物同士が接近することはなく、凝集が生じにくい。また、仮に凍結物に凝集が生じていたとしても、電磁波を照射することによって、その凝集の主な原因の水素結合を切断することが期待できる。さらには、前記乾燥工程において前記凍結物が融解してしまい液体が生じたとしても電磁波によって液体分子が振動し、被処理物が凝集することが妨げられる。また、前記乾燥工程において前記凍結物に電磁波を照射することで氷晶が振動し、昇華速度が速まり乾燥時間が短縮される。しかも、前記凍結物を動かしながら該凍結物に電磁波を照射することで、電磁波が該凍結物に均一に照射され、電磁波を照射することによって得られる上述の各種作用が偏りなく及ぶ。また、前記凍結物に昇華熱が均一に与えられるようになり、乾燥時間がさらに短縮される。
【0010】
この点につき、さらに詳しく説明する。前記凍結物を凍結させたまま乾燥させる技術として棚式真空凍結乾燥技術が知られているが、棚式真空凍結乾燥機に用いる多数のトレイには前記分散液を数十mmの厚さで充填するため、手間がかかる。また、前記分散液が充填されたトレイは、温度制御の可能な棚の上に載置され、該分散液は凍結されて凍結物になる。その後、トレイの下面から加熱され、トレイの上面側になる表面側の一面のみが被処理物の蒸発面としての露出面になり、この一面からのみ昇華した水蒸気が抜ける。乾燥が進み、氷晶が昇華することで蒸発面が下がっていくと、氷晶がなくなった微細な隙間を水蒸気が通る際の圧力差(抵抗)で氷晶の温度が上昇してしまう。さらに、蒸発面までの伝熱抵抗によっても氷晶の温度が上昇してしまう。このため、氷晶の凍結状態を維持するため昇華熱の温度(加熱温度)を抑制しながら行わねばならず、乾燥に時間がかかる。ここで説明した棚式真空凍結乾燥は被処理物を動かすことのない静的な乾燥であるといえる。
【0011】
一方、前記凍結物を動かしながら乾燥を行う前記乾燥工程における乾燥は動的な乾燥であるといえる。この動的な乾燥では、被処理物における、水蒸気を逃がすことができる露出面を広く確保することができ、上記圧力差(抵抗)が小さくなる。また、均一に昇華熱が与えられることから、伝熱抵抗も大きなものとはなりにくい。これらのことから、昇華熱の温度(加熱温度)を高くすることができ、乾燥時間が短くなる。
【0012】
以上説明したように、本発明の乾燥物の製造方法によれば、乾燥時間を短縮しつつ、被処理物の凝集が抑えられる結果、被処理物の濃縮度を向上させることができる。
【0013】
なお、前記乾燥工程は、減圧下で乾燥を行う工程である。すなわち、減圧下において凍結物の水分が昇華により気体化するように加熱する工程である。この乾燥工程は、前記凍結物が収納されている容器を動かすことで該凍結物を該容器内で動かす工程であってもよい。例えば、前記容器を回転、揺動、あるいは振動させる工程であってもよい。あるいは、前記乾燥工程は、前記容器に収納されている前記凍結物を直接動かすものであってもよい。
【0014】
また、前記容器内の圧力(真空圧力)が高い状態(真空度が低い状態)で電磁波を照射すると前記凍結物が融解する恐れがあることから、電磁波の照射は、該容器内の圧力が所定の値(例えば、300Pa)まで低下してから開始するようにすることが好ましい。
【0015】
また、電磁波は、周波数が数MHz以上数十GHz以下のものであってもよく、例えば、短波や極超短波であってもよい。すなわち、高周波やマイクロ波であってもよい。
【0016】
また、
前記凍結工程が、前記分散液をブライン液によって凍結させる工程であり、
前記凍結工程が完了した後であって前記乾燥工程を開始する前に、前記ブライン液を濾過することで、該ブライン液を前記凍結物から分離する分離工程を有することを特徴としてもよい。
【0017】
ここにいうブライン液とは、前記液体すなわち前記分散液の液体成分よりも凝固点が低い液体のことをいう(以下、同じ)。
【0018】
例えば、水に被処理物が分散した分散液をゆっくりと凍結させた場合は、水は、水分子以外を異物として排除しながら純水な氷として凍結するため氷晶が大きく成長し、片や排除されて濃縮された分散液中で被処理物が凝集してしまうと考えられる。一方、前記凍結工程によれば、前記分散液が前記ブライン液によってごく短時間に凍結され、ナノサイズ又はミクロンサイズの氷晶になり、被処理物は凝集する前に凍結・固定化されることから、被処理物同士が接近することはなく、凝集は生じにくい。
【0019】
また、前記分離工程によって、前記ブライン液は、前記乾燥工程での残留が問題にならない程度にまで容易に除去することができ、乾燥工程をより効率的に行うことができる。分離したブライン液は再利用することが可能である。
【0020】
なお、前記凍結工程が、前記分散液を揮発性のブライン液によって凍結させる工程であってもよい。
【0021】
前記乾燥工程において、前記ブライン液が気化し、被処理物中には残留しない。
【0022】
また、
前記凍結工程が、前記分散液を攪拌しながら凍結させる工程であることを特徴としてもよい。
【0023】
こうすることで、前記分散液は均一に冷却され、また凝集もしにくくなる。
【0024】
さらに、
前記凍結工程が、前記分散液を供給口から前記ブライン液中に吐出し、吐出した該分散液を該ブライン液によって凍結させる工程であることを特徴としてもよい。
【0025】
なお、前記凍結工程が、紐状の凍結物を得る工程であってもよく、前記凍結工程が、前記分散液を攪拌しながら凍結させる工程であれば、前記凍結物は短い紐状のものになる。
【0026】
また、前記凍結工程が、液体中にセルロースナノファイバーが分散したCNF分散液を凍結させる工程であってもよい。
【0027】
すなわち、
液体中にセルロースナノファイバーが分散したCNF分散液をブライン液によって凍結させCNF分散液凍結物を得る凍結工程と、
前記CNF分散液凍結物を凍結させたまま乾燥を開始する乾燥工程とを有することを特徴とする乾燥物の製造方法であってもよい。
【0028】
この乾燥物の製造方法によれば、前記凍結工程において、前記CNF分散液が前記ブライン液によって短時間のうちに凍結されることでCNFの凝集が抑えられ、前記乾燥工程において、この凍結状態のままCNF分散液凍結物を乾燥させることで、凝集が抑えられたCNFの乾燥物が得られる。
【0029】
なお、前記凍結工程は、乾燥工程に使用する容器とは別の容器中のブライン液中でCNF分散液を凍結させる工程であってもよい。
【0030】
また、前記液体は水であってもよいし、CNFを凝集せずに分散させ、ブライン液により急速に凍結し得るものであれば水以外の液体であってもよい。例えば、水と凝固点が異なる液体であってもよいし、水に添加物が添加された液体であってもよい。もちろん該添加物は、後述するセルロースナノファイバーの乾燥物の製造方法を実施することで気化する物質であることが好ましいが、乾燥されたCNFの利用・用途の妨げにならない成分であればこの限りでない。
【0031】
上記目的を解決する本発明の乾燥装置は、
液体中に被処理物が分散した分散液を凍結させた凍結物を収納する容器と、
前記容器に収納されている前記凍結物を凍結させたまま乾燥を開始する乾燥手段と、
前記乾燥手段によって乾燥されている前記凍結物を前記容器内で動かす凍結物可動部と、
前記乾燥手段によって乾燥されている前記凍結物に電磁波を照射する照射部とを備えたことを特徴とする。
【0032】
本発明の乾燥装置によれば、前記乾燥手段が、前記凍結物を凍結させたまま乾燥を開始するため、被処理物は凍結・固定化されていることから、被処理物同士が接近することはなく、凝集が生じにくい。また、仮に凍結物に凝集が生じていたとしても、前記照射部が電磁波を照射することによって、その凝集の主な原因の水素結合を切断することが期待できる。さらには、乾燥途中で前記凍結物が溶けて液体が生じたとしても電磁波によって液体分子が振動し、被処理物が凝集することが妨げられる。また、前記照射部が前記凍結物に電磁波を照射することで氷晶が振動し、昇華速度が速まり乾燥時間が短縮される。しかも、前記凍結物可動部により前記凍結物を動かしながら乾燥することで動的な乾燥になる。この動的な乾燥では、上述したように、被処理物における、水蒸気を逃がすことができる露出面を広く確保することができ、氷晶がなくなった微細な隙間を水蒸気が通る際の圧力差(抵抗)が小さくなる。また、均一に昇華熱が与えられることから、伝熱抵抗も大きなものとはならない。これらのことから、昇華熱の温度(加熱温度)を高くすることができ、乾燥時間が短くなる。本発明の乾燥装置によっても、乾燥時間を短縮しつつ、被処理物の凝集が抑えられる結果、被処理物の再分散時の復元性を良好とするができる。
【0033】
なお、前記凍結物可動部は、前記容器に収納されている前記凍結物を直接動かすものであってもよい。
【0034】
また、前記凍結物は、前記乾燥手段によって乾燥が続けられている状態で、前記容器内で動かされることと、電磁波を照射されることが、タイミングをズラして行われてもよい。例えば、前記容器内で動かされることと電磁波を照射されることが交互に行われてもよい。
【0035】
また、
前記照射部は、前記容器内で動いている状態の前記凍結物に電磁波を照射するものであることを特徴としてもよい。
【0036】
すなわち、前記乾燥手段によって乾燥されている凍結物は、前記容器内で動かされるとともに電磁波が照射される。なお、前記照射部は、電磁波を間欠的に照射したり、電磁波の出力を絞って連続照射したり、通常出力用の照射部の他に低出力用の照射部を設けておくことが好ましい。電磁波を常時通常出力で照射すると凍結物が融解してしまう恐れがある。
【0037】
また、
前記凍結物可動部は、前記容器を動かすことで該容器に収納されている前記凍結物を該容器内で動かすものであることを特徴としてもよい。
【0038】
例えば、前記凍結物可動部は、前記容器を回転、揺動、あるいは振動させるものであってもよい。
【0039】
また、
前記凍結物可動部は、前記容器に収納されている前記凍結物を攪拌するものであることを特徴としてもよい。
【0040】
あるいは、
前記容器は、
内部にブライン液を貯留する本体部と、
前記本体部の外周を覆い、熱媒体が供給されるジャケットとを備え、
前記本体部は、熱媒体が前記ジャケットに供給されることで前記ブライン液を冷却可能なものであることを特徴としてもよい。
【0041】
また、
前記本体部に貯留されたブライン液に、前記分散液を供給する供給口を備えたことを特徴としてもよい。
【0042】
さらに、
前記供給口と前記本体部に貯留されたブライン液とは相対的な位置関係を変化させながら該ブライン液に前記分散液が供給されるものであることを特徴としてもよい。
【0043】
例えば、前記供給口が、移動しながら前記分散液を供給するものであってもよいし、前記供給口は固定され、前記本体部が回転、揺動、あるいは振動している状態で該分散液が供給されてもよいし、前記供給口も前記本体部も移動することで前記位置関係を変化させながら該分散液が供給されてもよい。
【0044】
こうすることで、前記分散液が前記ブライン液中で一箇所に集まらないようにすることができ、該分散液と該ブライン液とが効率的に熱伝達されて凍結時間がより短くなり好ましい。
【0045】
なお、前記ブライン液に前記分散液が供給される全期間にわたって、前記位置関係を変化させながら該分散液が供給される態様であってもよいし、前記ブライン液に前記分散液が供給される部分的な期間に限って、該位置関係を変化させながら該分散液が供給される(例えば、間欠的に供給される)態様であってもよい。
【0046】
また、
前記供給口が、前記ブライン液中に供給した前記分散液の単位質量当りの表面積が0.20m2/kg以上になるように該分散液を供給するものであることを特徴としてもよい。
【0047】
前記ブライン液中に供給した前記分散液の単位質量当りの表面積が0.20m2/kg未満であると、供給した該分散液と該ブライン液との熱伝達の効率が低くなりすぎて、短時間のうちの凍結が難しくなる。
【0048】
なお、前記ブライン液中に供給した該分散液の形状に限定はなく、球状、紐状、円筒状、滴状、螺旋状、貝殻状、蝶状、薄板状等であってもよい。また、前記分散液は、前記ブライン液中に供給された時の形状のまま凍結するので、得られる乾燥した被処理物のその後の利用における利便性に配慮して、凍結時の形状を選択するのが好ましい。
【0049】
また、
前記本体部の内部で前記ブライン液を濾過し前記凍結物を該本体部の内部に残す濾材を備えたことを特徴としてもよい。
【0050】
なお、前記濾材は、前記本体部の内部に配置されたものであってもよいし、該本体部の内部に出し入れ自在なものであってもよい。また、濾材を有する濾過装置が前記本体部に外付けされた態様であってもよい。
【0051】
また、
前記濾材は、前記分散液が凍結するまで前記分散液と接触しない位置に配置されたものであることを特徴としてもよい。
【0052】
例えば、前記供給口は、前記ブライン液の液面よりも上方に設けられたものであり、前記濾材は、前記ブライン液を貯留する前記本体部の底部に配置されたものであり、該供給口から供給された前記分散液は前記底部に到達する前に凍結することで、前記濾材が該分散液と接触しない態様であってもよい。また、前記本体部が上下反転可能なものであり、前記濾材は、前記供給口から前記分散液が供給されている間は前記ブライン液の液面よりも上方(前記本体部の上部)に配置され、該濾材が該分散液と接触せず、該分散液の供給が終了した後(供給された該分散液の全てが凍結した後)に、前記本体部が上下反転し、該濾材は、該ブライン液の液面よりも下方(前記本体部の下部)に配置される態様であってもよい。あるいは、前記濾材が前記本体部の内部に出し入れ自在なものであり、前記濾材は、前記供給口から前記分散液が供給されている間は該本体部の内部から取り出され、該濾材が該分散液と接触せず、該分散液の供給が終了した後(供給された該分散液の全てが凍結した後)に、該濾材が該本体部の内部に入れられ、該濾材は、該ブライン液の液面よりも下方(前記本体部の下部)に配置される態様であってもよい。
【0053】
前記濾材が、前記分散液と接触しない位置に配置されていることで、該分散液が凍結する前に濾材をすり抜けたり、濾材中で該分散液が凍結して濾過の妨げになることを防ぐことができる。
【0054】
さらには、以上説明した前記容器が、液体中にセルロースナノファイバーが分散したCNF分散液を凍結させたCNF分散液凍結物を収納するものであってもよい。
【発明の効果】
【0055】
本発明によれば、乾燥時間を短縮が可能であり、被処理物の凝集が抑制され、再分散時の復元性が良好な乾燥物の製造方法および乾燥装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】第1実施形態の乾燥システムの系統図である。
【
図2】CNFの乾燥物の製造方法を示すフロチャートである。
【
図3】CNF分散液が凍結した様子を模式的に示す図である。
【
図4】低温恒温槽の設定温度の昇温プログラムを示すグラフである。
【
図6】第2実施形態の乾燥システムの系統図である。
【
図7】CNF分散液を供給している間の容器の態様を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、図面を用いて、本発明の一実施形態の乾燥装置が組み込まれた乾燥システムについて詳細に説明する。以下に説明する乾燥システムは、液体中に一例としてCNF(セルロースナノファイバー)が分散したCNF分散液を乾燥させるシステムである。
【0058】
図1は、第1実施形態の乾燥システムの系統図である。
【0059】
図1に示す乾燥システムD1では、本発明の一実施形態に相当する乾燥装置1と、濾液受容器3と、コールドトラップ5と、冷凍機6を備えている。
【0060】
図1に示す乾燥装置1は、容器10、この容器10内を減圧する真空ポンプ11、および低温恒温槽20を有する。真空ポンプ11は、
図1に示す乾燥システムD1の下流側に設けられている。低温恒温槽20と真空ポンプ11を併せたものが乾燥手段の一例に相当する。
【0061】
図1では、容器10の内部が見えるように容器10を縦方向に断面した様子を模式的に示している。この容器10は、支柱10Sによって支持されており、本体部100と、本体部100の上端を覆う上部蓋体110と、回転駆動する攪拌手段である螺旋リボン122と、本体部100の内部空間を覆うジャケット130とを有する。本体部100は、円筒状の上部101と、その上部101から離れるにつれて漸次縮径する逆円錐状部102から構成されている。本体部100の下端、すなわち逆円錐状部102の下端には、排出口1001が設けられており、その排出口1001は、開閉可能な排出用蓋体140によって塞がれている。
【0062】
上部蓋体110には、投入口111が設けられている。
図1では、この投入口111にCNF分散液を供給する供給管111Pが接続されている。供給管111Pには供給バルブ111Vが設けられている。また、投入口111からは供給チューブ111Tが延びている。この供給チューブ111Tの先端になる供給口1110は、本体部100の内部で開口し、CNF分散液の単位質量当りの表面積である比表面積が0.2m
2/kg以上となる開口形状であり、開口方向はブライン液Bの液面を指向している。また、供給口1110の形状は限定されず、ブライン液B中に供給されたCNF分散液の形状が、球状、円筒状、円盤状、滴状、螺旋状、貝殻状、薄板状、蝶状、星形、薄いフレーク状、波形、ひねり形、角柱状等となる形状のものであってもよい。あるいは、供給口1110は、CNF分散液を噴霧可能なノズルを備えるものであってもよい。供給チューブ111Tは、螺旋リボン122を回転駆動する際には取り外しても構わない。
【0063】
上部蓋体110には、排気口112も設けられている。この排気口112には排気フィルタ113を介して排気路112Pが接続されている。したがって、排気フィルタ113を通過した気体が、排気路112Pに入り込む。この排気路112Pの下流側にはコールドトラップ5が設けられ、さらに、その下流側には真空ポンプ11が設置されている。
【0064】
上部蓋体110には、ガラス窓114も設けられている。このガラス窓114には石英ガラスが嵌め込まれており、ガラス窓114から電磁波が、本体部100の内部に向けて照射される。ここにいう電磁波とは、周波数が数MHz以上数十GHz以下のものであってもよく、例えば、短波や極超短波であってもよい。すなわち、高周波やマイクロ波であってもよい。より具体的には、13.56MHzの高周波であってもよいし、915MHzのマイクロ波あるいは2450MHzのマイクロ波であってもよい。
【0065】
図1に示す本体部100には、ブライン液Bが貯留されている。このブライン液Bは、CNF分散液中の液体(本実施形態では水)よりも凝固点が低い揮発性のものであって、具体的には、エタノールが用いられている。なお、エタノールに代えて、融点-30℃以下、沸点100℃未満のパラフィン類、脂環式炭化水素、アルコール類、エーテル類などの有機化合物(例えば、ヘキサン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、2,2-ジメチルブタン、2,3-ジメチルブタン、シクロヘキセン、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、アリルアルコール、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アクロレイン、アセトン、メチルエチルケトン、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、トリエチルアミン、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル等)を用いてもよい。
【0066】
また、逆円錐状部102の周壁の下部には、濾液排出口1021が形成されている。この濾液排出口1021には濾過部材1022が設置されている。濾過部材1022は、ブライン液Bを濾過するものであって、ここでは金網が用いられている。なお、濾過部材1022としては、金網の他に、ろ布製、積層材製、セラミック製等、ブライン液Bの特性に応じて最適のものを使用することができる。濾液排出口1021に接続された管路は濾液受容器3に接続されている。濾液排出口1021と濾液受容器3との間には遮断バルブV2が設けられている。また、濾液受容器3は、遮断バルブV3を介して排気路112Pに連通している。
【0067】
螺旋リボン122は全体が樹脂製であって、駆動軸121から放射状に突出した複数本の棒状の支え部材に支持され、本体部100の内周壁近傍にそって周回する、下方に向けて先細りとなる螺旋状のものである。この螺旋リボン122は、駆動軸121が軸周りに回転することで回転駆動する。駆動軸121はシールされて上部蓋体110を貫通し、駆動装置123で駆動され、螺旋リボン122を回転させる。螺旋リボン122の回転により、本体部100内に貯留されているブライン液Bおよび投入口111から供給されたCNF分散液に循環流動を生じさせる。なお、螺旋リボン122に用いる樹脂としては、例えば、エンジニアリングプラスチックや繊維強化プラスチック(FRP)等があげられる。
【0068】
本体部100の内部空間を覆うジャケット130には、熱媒体供給路131と熱媒体回収路132が接続されている。すなわち、低温恒温槽20から延びた熱媒体供給路131の先端は、ジャケット130の下部に接続されている。一方、先端が低温恒温槽20につながった熱媒体回収路132の後端は、ジャケット130の上部に接続されている。低温恒温槽20では、熱媒体を設定温度に保持している。熱媒体は、ブライン液Bと同じものであれば、濾液受容器3に回収されたブライン液Bを使い回しすることができる。もちろん熱媒体が、ブライン液Bとは異なるものであっても構わない。少なくとも熱媒体はCNF分散液中の液体よりも凝固点が低いものであればよく、揮発性のものである必要はない。その熱媒体は、熱媒体供給路131を通ってジャケット130に供給された後、ジャケット130から熱媒体回収路132を通して回収され低温恒温槽20に戻されるといった循環を繰り返す。ジャケット130に熱媒体を循環供給することにより、本体部100を外側から調温してその内部の温度を所望の温度に調整することができる。
【0069】
続いて、
図1に示す乾燥システムD1を用いて、CNF分散液を乾燥させCNFの乾燥物を製造する方法について説明する。
【0070】
図2は、CNFの乾燥物の製造方法を示すフロチャートである。
【0071】
まず、ブライン液B準備工程(ステップS1)が実施される。このブライン液B準備工程では、上部蓋体110に設けられた投入口111から、内部が空の本体部100にブライン液B(ここではエタノール)を供給する。濾液排出口1021の下流に設けられた遮断バルブV2,V3は閉塞された状態である。ブライン液B準備工程では、投入口111に供給チューブ111Tは取り付けられていないが、ブライン液Bは、供給チューブ111Tを取り付け、後述する凍結工程でCNF分散液を供給し終えた状態で供給チューブ111Tの先端になる供給口1110が浸らない高さまで供給し貯留する。例えば、ブライン液Bの液量としては、逆円錐状部102の上端に達する程度の液量になる。本体部100の内部へのブライン液Bの供給が終了すると、本体部100の内部を密閉状態に保ったまま、その内部に貯留されたブライン液Bを、CNF分散液の凝固点以下になる所望の冷却温度まで冷却する。この冷却は、低温恒温槽20に上記冷却温度に応じた設定温度(ここでは-30℃)を設定し、低温恒温槽20でその設定温度まで冷却された熱媒体をジャケット130に循環供給することで行われる。なお、冷却の際、螺旋リボン122を回転させても構わない。また、詳しくは後述の乾燥工程で説明するコールドトラップ5、冷凍機6を動作させ、本ブライン準備B工程(及び後述の凍結工程と分離工程)で排気路112Pに流入する気化したブライン液Bはトラップされ、非凝縮ガスは、不図示の排気経路で大気圧下で排気される。
【0072】
本体部100には、本体部100の内部に貯留されたブライン液Bの温度を測定する温度計(不図示)が設けられており、ブライン液Bが上記冷却温度まで冷却されると、凍結工程(ステップS2)が実施される。この凍結工程では、CNF分散液をブライン浸漬により急速凍結する。凍結工程の実施中も、上記設定温度まで冷却された熱媒体がジャケット130に循環供給され続ける。また、凍結工程の実施中は、2つの遮断バルブV2,V3は閉塞されている。この凍結工程では、まず、投入口111に、供給管111Pを接続するとともに供給チューブ111Tも取り付ける。次いで、CNF分散液の供給管111Pの供給バルブ111Vを開き、上記冷却温度まで冷却されたブライン液Bの中にCNF分散液を供給し、CNF分散液を短時間で凍結させる。CNF分散液の凍結時間は短い時間であればあるほど好ましい。供給口1110から供給された紐状のCNF分散液は、ブライン液Bの液面から入って、下部に設置された濾過部材1022に到達する前に凍結する。すなわち、ブライン液Bの液面から入ったCNF分散液が、液体のまま濾過部材1022に到達しない程度の深さ量だけ、ブライン液Bが貯留されている。このため、濾過部材1022の目がCNF分散液に分散しているCNFで詰まってしまうことが防がれている。
【0073】
凍結工程では、螺旋リボン122には、一例であるが、駆動軸121の中に供給チューブ111Tを通し、駆動軸121に供給口1110を設けることで、螺旋リボン122を回転駆動させながらブライン液Bの中にCNF分散液を供給することも可能である。この場合、螺旋リボン122を回転駆動しても、駆動軸121に設けた供給口がブライン液Bにつからないようにブライン液Bの貯留量を調整する。螺旋リボン122を回転駆動させながらCNF分散液を供給することによって、CNF分散液を攪拌しながら凍結させることができ、CNF分散液は均一に冷却され、また凝集もしにくくなる。撹拌の速度が速い場合、紐状のCNF分散液はブライン液B中で短紐状となり、より素早く均一に冷却される。このように、螺旋リボン122を回転させることによって、ブライン液Bを撹拌し、冷却温度の保持と給液されたCNF分散液の凍結品を破砕,分散させることができるが、破砕が必要ない場合は、螺旋リボン122の回転駆動は行わない。
【0074】
CNF分散液の供給が終了した段階で供給管111Pの供給バルブ111Vは閉じられる。
【0075】
図3は、CNF分散液が凍結した様子を模式的に示す図である。ここでは、わかりやすいように、ブライン液にCNF分散液を薄い層状に流し込んだ場合に起きる凍結の様子を模式的に示す。
【0076】
図3(a)はCNF分散液を緩慢凍結(例えば、30分程度かけてゆっくりと凍結)させた場合の凍結後の状態を示す模式図であり、同図(b)はCNF分散液を急速凍結(例えば、5分程度で凍結)させた場合の凍結後の状態を示す模式図である。
【0077】
ブライン液にCNF分散液を流し込むと、まず、大部分を占める水の部分から凍結が始まり氷晶が形成される。前述の従来の棚式真空凍結乾燥機で、CNF分散液を薄い層状に流し込んで緩慢凍結させた場合には、模式的には
図3(a)に示すような大きな氷晶FSになる。白色で表した氷晶FSが大きく成長するために、広範囲に存在していたCNFは氷晶FSに追いやられて黒色で表した縦線状に集められると考えられる。
図3(a)に示す黒色の縦線はCNFが高濃度に含まれる濃厚液部RSに相当する。このように、緩慢凍結では、凍結時、異物を排除する性質がある水は、純粋な氷(氷晶FS)としてゆっくり大きく育ち、CNFが集まり濃厚液部RSが形成されると考えられる。
【0078】
一方、急速凍結では、急速に水が凍結する。急速に水が凍結した様子を、
図3(a)と同じ拡大倍率で模式的に表現すれば、大きな氷晶は見られず、
図3(b)に示すように一面全体に微細な氷晶が分散する模式図となる。しかしながら、丸で囲んだ部分を拡大して見れば、左下に示すように、CNF間に微細な氷晶FSが分散している。急速凍結では、氷晶FSは細かくなり、氷晶FS間の濃厚液部RSの領域も狭くなると考えられる。丸で囲んだ部分の一部をさらに拡大して見れば、右横の四角内に示すように、CNF間に微細な氷晶FSが分散し、一方、CNFは独立した繊維の状態で、固定化されている。このため、急速凍結の方が凝集が生じにくいと考えられる。
【0079】
なお、凍結工程では、電磁波を照射すると、CNF分散液中の水分子が振動し続け、熱が発生する一方で、氷結晶の成長を阻害し、細かい氷結晶になる。このため、同じように、氷晶FS間の濃厚液部RSの領域が狭くなり、CNFは独立した繊維の状態で固定化され、凝集が生じにくくなることが期待される。また、CNFの繊維自身も振動し、この点からも凝集が生じにくくなることが期待される。したがって、凍結工程においても、後述する乾燥工程における電磁波の照射よりも出力を下げる等して熱の発生を抑えながら、電磁波の照射を行うようにしてもよい。
【0080】
凍結工程における、ブライン液B中へのCNF分散液の供給は、供給チューブ111Tの先端になる、開口直径4mmの円形状の供給口1110から行われる。本実施形態におけるCNF分散液は、CNFの濃度が2質量%前後であってゲル状の粘着性の強いものである。このため、供給口1110から供給されるCNF分散液の形状は、直径4mmの紐状になる。紐状のCNF分散液は、供給の仕方によって、短紐状にも長紐状にもすることができる。
【0081】
ブライン液B中でCNF分散液が凍結し、CNF分散液凍結物がブライン液B中に生じると分離工程(ステップS3)が実施される。この分離工程を開始する前に供給チューブ111Tを取り外し、螺旋リボン122の回転駆動を行ってもよい。こうすることで、紐状のCNF分散液凍結物を細かく切断することができる。ただし、濾過部材1022の目よりも細かく切断することがないようにする必要がある。
【0082】
この分離工程の実施中も、上記設定温度まで冷却された熱媒体がジャケット130に循環供給され続ける。分離工程では、CNF分散液凍結物を生じさせたブライン液Bを濾過することで、ブライン液BをCNF分散液凍結物から分離する。濾過にあたっては、これまで閉じていた2つの遮断バルブV2,V3を開放し、ブライン液Bの自重によってブライン液Bを濾過する。なお、濾過時間の短縮のため、投入口111から本体部100の内部に加圧空気を導入してもよい。固体であるCNF分散液凍結物は、濾過部材1022の目を通過することができず、液体であるブライン液Bのみが、濾過部材1022の目を通過して濾液受容器3内へと流れ込む。濾液受容器3内に回収されたブライン液Bは再利用することができる。ブライン液Bの濾過が完了すると、本体部100の内部は、CNF分散液凍結物が残った状態になる。
【0083】
次いで、乾燥工程(ステップS4)が実施される。乾燥工程では、低温恒温槽20の設定温度を徐々に上げていき、ジャケット130に供給する熱媒体の温度を徐々に高め、CNF分散液凍結物に昇華熱を付与してCNF分散液凍結物を昇華させる。すなわち、CNF分散液凍結物を凍結させたまま乾燥を開始するが、乾燥途中にCNF分散液凍結物が融けださないように、熱媒体の温度、すなわち低温恒温槽20の設定温度を管理する。低温恒温槽20の設定温度の昇温プログラムについては詳しくは後述する。
【0084】
また、濾液排出口1021と濾液受容器3の間に設けられた遮断バルブV2を閉鎖し、濾液排出口1021と排気路112Pの間に設けられた遮断バルブV3も閉鎖する。この乾燥工程は、真空ポンプ11の駆動を開始することでスタートする。真空ポンプ11が駆動されると、本体部100の内部において生じた気体が吸引される。すなわち、本体部100の内部においては、CNF分散液凍結物を昇華させることによって蒸気が生じている。また、濾過後の本体部100の内部にブライン液が僅かにでも残っている場合は、本体部100の内部において生じた気体には、蒸気の他、揮発性のブライン液Bが気化した気体も含まれる。本体部100の内部で生じた気体は、排気フィルタ113で微粉が除去された後、排気路112Pを通ってコールドトラップ5に引き込まれる。コールドトラップ5では、冷凍機6から冷媒が循環供給されており、コールドトラップ5を通過する気体は凝結され、氷になる。
【0085】
本実施形態では、本体部100の内部において生じた気体は、水蒸気であり、濾過で取り切れなかった揮発性のブライン液がわずかに残っていた場合にはブライン液が気化したものも含まれるが、微量であり、通常は問題とはならない。また、脱臭など除去装置も不要である。さらに、コールドトラップ5において回収した氷は廃液として処理する手間も生じない。加えて、低沸点溶剤を主体とした排気ガスではなく、水蒸気であるため、超低温対応の冷凍機は不要で一般的な冷凍機で足りる。これらのことから、本実施形態の乾燥システムD1は、低コストなシステムになる。
【0086】
図4は、低温恒温槽の設定温度の昇温プログラムを示すグラフである。この
図4では、横軸が経過時間(単位は時間)を表し、縦軸は、低温恒温槽20に設定する温度を表す。
【0087】
ブライン液B準備工程(ステップS1)では、-30℃に設定し、本体部100の内部は大気圧と同じ圧力である。凍結工程(ステップS2)及び分離工程(ステップS3)でも-30℃を維持し、本体部100の内部は大気圧と同じ圧力である。すなわち
図4に示す大気圧レベルの範囲がブライン液B準備~分離工程に相当する。
【0088】
乾燥工程(ステップS3)では、真空ポンプ11の駆動を開始し、まず、低温加熱が18時間行われる。真空ポンプ11の駆動を開始することで、本体部100の内部の圧力は110Pa程度まで減少し、低温加熱が行われている間、本体部100の内部の圧力は110Pa程度に維持される。低温加熱は、最初の6時間30分、-30℃を維持した後、第1昇温ステップを開始する。第1昇温ステップでは、第1目標温度まで段階的に昇温を行う。本実施形態では、第1目標温度は-12℃であり、1時間ごとに3℃ずつ昇温を行うことを6回繰り返し、低温恒温槽20の温度は最終的に18℃高くなる。低温加熱では第1昇温ステップが完了すると、6時間30分の間-12℃を維持する。低温加熱が終了すると、第2昇温ステップを開始する。第2昇温ステップでは、第2目標温度まで段階的に昇温を行う。本実施形態では、第2目標温度は20℃であり、30分強ごとに約3℃ずつ昇温を行うことを11回繰り返し、低温恒温槽20の温度は最終的に第1目標温度よりも32℃高くなる。この第2昇温ステップが完了すると、仕上げ乾燥が開始される。仕上げ乾燥では、低温恒温槽20の設定温度を20℃に維持する。この仕上げ乾燥の開始と同時に、真空ポンプ11の吸引量を大きくするなどの制御で、本体部100の内部の圧力を下げ、所定の水分まで乾燥する。
【0089】
乾燥工程では、螺旋リボン122の回転駆動と、ガラス窓114からの電磁波の照射が行われる。螺旋リボン122は、乾燥工程の開始(真空ポンプ11の駆動開始)と同時に回転駆動を開始し、乾燥工程が終了するまで回転駆動を継続する。回転速度は、20回転/分の一定速度である。電磁波の照射では、2450MHzのマイクロ波をガラス窓114から本体部100の内部へ照射する。照射開始のタイミングは、乾燥工程の開始後であって、本実施形態では第2昇温ステップの開始と同時のタイミングになる。電磁波の照射が開始されると、乾燥工程が終了するまで間欠的に照射を継続する。例えば、数分程度照射した後、数分程度の間隔をあけて、また数分程度照射することを繰り返す。なお、本体部100の内部の圧力(真空圧力)が高い状態(真空度が低い状態)で電磁波を照射するとCNF分散液凍結物が融解する恐れがあることから、照射開始のタイミングは、真空ポンプ11の吸引量を大きくするタイミング(第2昇温ステップの終了と同時のタイミング)であってもよい。あるいは、乾燥工程の開始と同時に電磁波の照射も開始し、乾燥途中にCNF分散液凍結物が融解しないように電磁波の出力を調整しながら、電磁波の照射を行うようにしてもよい。さらには、電磁波の照射期間と螺旋リボン122の回転駆動期間を完全にずらしたり、部分的に重なるようにしてもよい。
【0090】
本実施形態の乾燥工程では、CNF分散液を凍結させたまま乾燥を開始するため、CNFは凍結・固定化されていることから、CNF同士が接近することはなく、凝集が生じにくい。また、仮にCNF分散液凍結物に凝集が生じていたとしても、電磁波を照射することによって、その凝集の主な原因の水素結合を切断することが期待できる。さらには、乾燥工程においてCNF分散液凍結物が融解してしまい液体が生じたとしても電磁波によって液体分子が振動し、CNFが凝集することが妨げられる。また、乾燥工程においてCNF分散液凍結物に電磁波を照射することで氷晶が振動し、昇華速度が速まり乾燥時間が短縮される。しかも、螺旋リボン122を回転駆動させながら電磁波を照射することで、CNF分散液凍結物を直接動かしながらそのCNF分散液凍結物に電磁波を照射していることになり、電磁波がCNF分散液凍結物に均一に照射され、電磁波を照射することによって得られる各種作用がCNF分散液凍結物に偏りなく及ぶ。また、CNF分散液凍結物を動かすことによって、そのCNF分散液凍結物に昇華熱が均一に与えられるようになり、乾燥時間がさらに短縮される。
【0091】
乾燥工程の完了は、本体部100の内部の温度あるいは圧力が管理値よりも低くなる、あるいは平衡状態になったり、コールドトラップ5の冷却温度が低下することなどにより確認され、乾燥工程の終了時には、真空ポンプ11と冷凍機6を停止させる。こうして、CNF分散液凍結物は乾燥され、本体部100の内部は、CNFの乾燥物が残った状態になる。
【0092】
最後に、取出工程(ステップS5)が実施され、本体部100の内部からCNFの乾燥物が取り出される。この取出工程では、本体部100内を大気圧に戻し、排出口1001を塞いでいた排出用蓋体140を開け、排出口1001からCNFの乾燥物を取り出す。
【0093】
図5は、
図1に示す容器の変形例を示す図であり、不図示の構成要素は
図1と同じものである。以下の説明では、これまで説明した構成要素と同じ名称の構成要素には同じ符号を付して説明する。
【0094】
図5には、容器10を構成する、本体部100と、攪拌羽根125と、ジャケット130が示されている。この
図5では、本体部100の周壁100aが示されており、ジャケット130はその周壁100aの外側に配置されている。また、
図5に示す容器10では、上部蓋体110およびその上部蓋体110に設けられた投入口111、排気口112、排気フィルタ113、およびガラス窓114は図示省略されているが、
図1に示す容器10と同じく、
図5に示す容器10にもこれらの構成要素は備えられている。
【0095】
この
図5では、容器10の本体部100の内部が見えるように本体部100を縦方向に断面した様子を示している。この変形例の容器10は、
図1に示す螺旋リボン122に代えて攪拌羽根125が設けられている。
図5に示す攪拌羽根125は、パドル形状のものであって、駆動軸121から放射状に突出した金属製アーム126の先端部分に羽根板状の樹脂製パドル部材127がボルト128によって、羽根板の面が水平方向を向くように(峰が垂直方向を向くように)固定されている。すなわち、羽根板の面が垂直になるように固定されている。なお、この様な方向に限らず、回転方向に対して面を傾斜させ、面に沿ってCNF分散液凍結物が上方に掻き上げられる様にしても構わない。樹脂製パドル部材127における、容器10の周壁100aの内面に対向した外周縁1271は、その内面から所定間隔(
図5中の間隔L1参照)をあけて内面に沿って傾斜した形状である。金属製アーム126は、同じ高さ位置で180度対向するように駆動軸121から突出している。すなわち、同じ高さ位置には2つの樹脂製パドル部材127が設けられている。なお、回転方向に間隔をあけて3つ以上の樹脂製パドル部材127を設けてもよい。
【0096】
また、高さ方向に見ると、樹脂製パドル部材127は回転方向に90度ずらして設けられている。
図5では、一番上の樹脂製パドル部材127が左右それぞれに位置しており、その下の樹脂製パドル部材127が紙面手前と奥側(不図示)それぞれに位置しており、さらにその下の樹脂製パドル部材127が左右それぞれに位置している。このように、上下方向に隣り合う異なる高さ位置で、樹脂製パドル部材127を回転方向にずらして配置することで、被攪拌物すなわち上述の実施形態であればCNF分散液凍結物が攪拌羽根125とともに供回りしてしまうことを抑えることができる。
【0097】
また、樹脂製パドル部材127は上下方向にわずかに重なっている。すなわち、一番上の樹脂製パドル部材127の下縁の高さ位置よりも、その下の樹脂製パドル部材127の上縁の高さ位置の方が高い(
図5中の間隔L2参照)。さらに、金属製アーム126の上下方向の間隔L3は、下方へいくほど狭くなっている。樹脂製パドル部材127は、本体部100内での撹拌の均一性が得られるように適宜の面積や形状が選定されて構わない。特に一番下方の樹脂製パドル部材127は、本体部100の底部に生じやすいデッドスペースをできるだけ低減するために、
図5に示す様に、本体部100の底面100Bにまで近接し、且つ駆動軸121の下端121Bを超えて下方まで延在する形状としている。
【0098】
図1に示す螺旋リボン122は、全体が樹脂製のものであったが、全体を金属製にすることも考えられる。
図1における容器10にしても
図5に示す容器10にしてもその内周面は金属製である。このため、螺旋リボン122の全体を金属製にしてしまうと、容器10の内周面と螺旋リボン122の外周縁の間隔が金属どうしで近接することになり、電磁波を照射した場合に、この間隔で放電が生じる恐れがある。螺旋リボン122が金属製である場合は、この間隔を拡げることで、電磁波を照射した場合に、この間隔で生じることがある放電を抑えることができる。一方、
図5に示す攪拌羽根125では、金属どうしの間隔は、金属製アーム126の先端と容器10の内周面との間隔になり、この間隔が広く、放電の発生を抑えやすい。すなわち、樹脂製パドル部材127の外周縁1271を容器10の内周面近傍に配置することができ、攪拌能力を低下させずに、攪拌羽根125の金属部分と容器10の内周面との間隔を広くとることが可能である。しかも、金属製アーム126を長さが異なるものに取り替えることで、攪拌羽根125の金属部分と容器10の内周面との間隔(金属どうしの間隔)を調整することができ、その間隔調整は容易である。また、放電を抑えるだけでなく、攪拌能力の調整のために、攪拌羽根125の外周縁と容器10の内周面との間隔を調整することができれば好ましい。螺旋リボン122ではその間隔調整が困難であるのに対して、樹脂製パドル部材127では、金属製アーム126へのボルト固定位置を変更することで、その間隔調整を行うことができることから、間隔調整は容易であって、製造上の寸法精度も螺旋リボン122ほど高いものは求められないですむ。
【0099】
なお、樹脂製パドル部材127に用いる樹脂として、例えば、エンジニアリングプラスチックやFRP等があげられる。さらに、金属製アーム126やボルト128においてもこれらを樹脂(例えば、エンジニアリングプラスチックやFRP等)製のものに置き換え、適宜の手段で駆動軸121に固定する構成であっても構わない。
【0100】
図6は、第2実施形態の乾燥システムの系統図である。
【0101】
図6に示す乾燥システムD2では、本発明の一実施形態に相当する乾燥装置7と、濾液受容器3と、シールケース4と、コールドトラップ5と、冷凍機6を備えている。
【0102】
図6に示す乾燥装置7は、容器70、この容器70内を減圧する真空ポンプ11、低温恒温槽20、この容器70を回転駆動するモータ72、水平方向に延在し回転中心になる供給側支持軸731と排出側支持軸732、供給側支持軸731を軸支する供給側軸受741、および排出側支持軸732を軸支する排出側軸受742を有する。真空ポンプ11は、
図6に示す乾燥システムD2の下流側に設けられている。低温恒温槽20と真空ポンプ11を併せたものが乾燥手段の一例に相当する。また、供給側支持軸731とモータ72の出力軸それぞれにはスプロケット(図示省略)が備えられ、両者のスプロケットの間にチェーン75が捲回されている。この構成により、容器70は、上下反転、一方向あるいは両方向への連続回転、回転途中での静止、適宜の角度範囲での揺動が可能である。もちろん回転や揺動時においては、その動きを妨げる固定配管は外されており、固定配管を必要とする工程時において該固定配管は接続される。なお、固定配管の代わりに可撓性の配管部材を用いて、配管された状態で揺動等を可能とすることもできる。固定配管が外された状態では、本体部700側との接続部に設けられているバルブは閉止された状態とされる。また、容器70に振動を与えるようにしてもよい。容器70の詳しい動作については後述する。
【0103】
図6に示す容器70は、初期姿勢の状態の一例である。初期姿勢の容器70は、上部が先細り状に形成された中空円筒状の本体部700と、本体部700の下端を開閉可能に塞ぐ蓋部710を有する。本体部700における先細りの先端には先端開口部701が形成されている。この先端開口部701には遮断バルブV5が接続されている。
図6に示す本体部700には、
図1を用いた説明の中で記載したブライン液Bと同じブライン液Bが貯留される。
【0104】
蓋部710の下部には濾液排出口711が形成されている。濾液排出口711に接続された管路は二股に分岐しており、一方は、濾液受容器3に接続されている。濾液排出口711と濾液受容器3との間には遮断バルブV6が設けられている。また、蓋部710と本体部700との間にはフィルタ支持材720が設けられ、このフィルタ支持材720の上面にフィルタ730が設置されている。
【0105】
さらに、
図6に示す初期姿勢の容器70の上方には、本体部700の内部に加圧ガスを供給する加圧手段702が設けられている。また、容器70には、本体部700の内部空間を覆うようにジャケット740が設けられている。供給側支持軸731の内部には、電磁波の経路が形成されている。本体部700の内周壁には、供給側支持軸731が接続した箇所にガラス窓700gが設けられている。このガラス窓700gには石英ガラスが嵌め込まれており、供給側支持軸731の内部を通ってきた電磁波は、このガラス窓700gを通って、本体部700の内部に進む。本体部700の内部には、ガラス窓700gから、ブライン液Bの液面に向かって延びる照射路700pが設けられており、電磁波は、この照射路700pの先端からブライン液Bの液面に向けて照射される。ここで照射される電磁波も、
図1を用いた説明の中で記載した電磁波と同じ電磁波である。
【0106】
排出側支持軸732の内部には往路7321と復路7322が形成されている。往路7321の先端はジャケット740内の、フィルタ支持材720の近傍まで配され、後端はロータリージョイント732aを用いて低温恒温槽20に接続されている。また、復路7322の先端もロータリージョイント732aを用いて低温恒温槽20に接続されており、後端はジャケット740内の、遮断バルブV5の近傍まで配されている。低温恒温槽20では、熱媒体を設定温度に保持している。この熱媒体も、
図1を用いた説明の中で記載した熱媒体と同じ熱媒体である。熱媒体は、往路7321を通ってジャケット740に供給された後、ジャケット740から復路7322を通して回収され低温恒温槽20に戻されるといった循環を繰り返す。ジャケット740に熱媒体を循環供給することにより、本体部700を外側から調温してその内部の温度を所望の温度に調整することができる。
【0107】
さらに、排出側支持軸732の内部には被乾燥物であるCNF分散液を本体部700の内部に供給する供給路7323(例えば、鋼製のパイプ配管)が形成されている。
【0108】
なお、CNF分散液の供給路7323を、熱媒体が循環する往路7321及び復路7322あるいはジャケット740の温度の影響を受け難い位置(例えば、供給側支持軸731の内部)に設けてもよい。こうすることで、CNF分散液の供給時において供給路7323内で凍結してしまうことを防止することができる。
【0109】
CNF分散液の供給路7323の先端になる供給口7324は、本体部700の内部で開口し、CNF分散液の単位質量当りの表面積である比表面積が0.2m2/kg以上となる開口形状であり、開口方向はブライン液Bの液面を指向している。また、供給口7324の形状は限定されず、ブライン液B中に供給されたCNF分散液の形状が、球状、円筒状、円盤状、滴状、螺旋状、貝殻状、薄板状、蝶状、星形、薄いフレーク状、波形、ひねり形、角柱状等となる形状のものであってもよい。あるいは、供給口7324は、CNF分散液を噴霧可能なノズルを備えるものであってもよい。
【0110】
また、排出側支持軸732の内部には排出路7325も形成されている。この排出路7325は、本体部700の内部とシールケース4を連通する経路である。本体部700の内部には排気フィルタ703が設けられており、この排気フィルタ703を通過した気体が、排出路7325に入り込むみ、ロータリージョイント732aを経てシールケース4内に至る。シールケース4の下流側にはコールドトラップ5が設けられ、さらに、その下流側には真空ポンプ11が設置されている。尚、上述の供給路7323は該排出路7325内を通り、排気フィルタ703の一部を適宜のシール構造を介して貫通し、供給口7324が本体部700内に臨んでいる。
【0111】
また、濾液排出口711に接続された、二股に分岐した管路の他方は、遮断バルブV7を介して排出路7325に連通している。
【0112】
続いて、
図6に示す乾燥システムD2を用いて、CNF分散液を乾燥させCNFの乾燥物を製造する方法について説明する。
【0113】
まず、ブライン液B準備工程(
図2に示すステップS1と同じステップ)が実施される。このブライン液B準備工程では、本体部700における先端開口部701の手前に設けられた遮断バルブV5を開放する。次いで、先端開口部701から、内部が空の本体部700にブライン液B(ここではエタノール)を供給する。濾液排出口711の下流に設けられた遮断バルブV6,V7は閉塞された状態である。ブライン液Bは、供給口7324、照射路700pの先端開口、及び排気フィルタ703がブライン液Bで浸らない近傍まで満たされており、後述する凍結工程が完了した段階でも浸ることのない液量である。なお、初期姿勢の容器70を上下反転し、蓋部710を開けて本体部700の内部にブライン液Bを供給し、蓋部710を閉めた後、容器70の姿勢を初期姿勢に戻してもよい。あるいは、CNF分散液を供給する供給路7323を利用して、供給路7323からブライン液Bを供給してもよい。本体部700の内部へのブライン液Bの供給が終了すると、本体部700の内部を密閉状態に保ったまま、その内部に貯留されたブライン液Bを、CNF分散液の凝固点以下になる所望の冷却温度まで冷却する。この冷却は、低温恒温槽20に上記冷却温度に応じた設定温度(例えば、-30℃)を設定し、低温恒温槽20でその設定温度まで冷却された熱媒体をジャケット740に循環供給することで行われる。
【0114】
本体部700には、本体部700の内部に貯留されたブライン液Bの温度を測定する温度計(不図示)が設けられており、ブライン液Bが上記冷却温度まで冷却されると、凍結工程(
図2に示すステップS2と同じステップ)が実施される。この凍結工程では、CNF分散液をブライン浸漬により急速凍結する。なお、凍結工程の実施中も、上記設定温度まで冷却された熱媒体がジャケット740に循環供給され続ける。また、凍結工程の実施中は、3つの遮断バルブV5,V6,V7、加圧手段702の経路のバルブ7021はいずれも閉塞される。凍結工程では、CNF分散液の供給路7323のバルブ7325を開き、上記冷却温度まで冷却されたブライン液Bの中にCNF分散液を供給し、CNF分散液を短時間で凍結させる。ここでも、CNF分散液の凍結時間は、
図3を用いて説明したように短い時間であればあるほど好ましい。CNF分散液の供給が終了した段階で供給路7323のバルブ7325は閉じられる。
【0115】
凍結工程における、ブライン液B中へのCNF分散液の供給は、
図6に示す供給路7323の先端の開口直径2mmの円形状の供給口7324から行われる。第2実施形態におけるCNF分散液も、CNFの濃度が2質量%前後であってゲル状の粘着性の強いものである。このため、供給口7324から供給されるCNF分散液の形状は、直径2mmの紐状になる。紐状のCNF分散液は、供給の仕方や本体部700を動かしたりするなどして短紐状にも長紐状にもすることができる。
【0116】
そのためCNF分散液を供給している間、モータ72を駆動させて容器70を回転あるいは揺動させてブライン液Bを流動させて、CNF分散液とブライン液Bとの熱伝達の効率を高めることが好ましい。
【0117】
図7は、CNF分散液を供給している間の容器の態様を示した図である。
【0118】
図7(a)は、容器70を回転させながら、供給口7324からCNF分散液を給液している様子を示す図である。容器70を回転することで、ブライン液Bを動かし、ブライン液Bの冷却、及びCNF分散液の凍結を促進する。CNF分散液の給液は、容器70を間欠的に回転させながら行ってもよいが、容器70の回転を停止させて行ってもよい。
【0119】
図7(b)は、容器70が振動している様子を示す図である。振動は、例えば容器70にバイブレータを取り付けることで発生させることができる。
図7(b)に示す容器70に貯留されたブライン液Bの液面は波立っている。この
図7(b)にも、フィルタ支持材720の上面に設置されたフィルタ730が示されている。
図7(b)では不図示の供給口から供給された紐状のCNF分散液は、ブライン液Bの液面から入って、底部にあるフィルタ730に到達する前に凍結する。すなわち、ブライン液Bの液面から入ったCNF分散液が、液体のままフィルタ730に到達しない程度の深さ量だけ、ブライン液Bが貯留されている。このため、フィルタ730の目がCNF分散液に分散しているCNFで詰まってしまうことが防がれている。
【0120】
図7(c)は、供給側支持軸731と排出側支持軸732を中心として容器70が揺動している様子を示す図である。容器70は、振動よりも大きく動いており、この
図7(c)では、容器70は右側に傾いた状態と左側に傾いた状態を交互に繰り返す。ブライン液Bの貯留量との関係により、容器70の傾き角度が大きすぎると、ブライン液Bの液面からフィルタ730までの距離が短くなり、CNF分散液が凍結する前にフィルタ730に到達してしまうため、容器70の傾き角度は一定角度以内に調整される。
【0121】
容器70を回転、あるいは振動させたり揺動させることで、ブライン液B中へ供給されたCNF分散液が一箇所にかたまらずにブライン液B中に拡がり、CNF分散液とブライン液Bとの接触面積が大きくなってCNF分散液の冷却が促進される。ブライン液Bも動いていることから、ブライン液BとCNF分散液の相対速度として捉えることができ、相対速度は速い方が、CNF分散液が早く凍結し、好ましい。
【0122】
なお、容器70を動かさずにCNF分散液の供給口7324を動かしてもよく、容器70と供給口7324をともに動かし両者の相対的な位置関係を変化させるようにしてブライン液BにCNF分散液を供給するようにしてもよい。
【0123】
図7(d)は、初期姿勢の容器70が180度反転(上限反転)した反転姿勢の容器を示す図である。
【0124】
上述のブライン液準備工程(
図2に示すステップS1と同じステップ)において容器70を初期姿勢から
図7(d)に示す反転姿勢にし、蓋部710を開けてブライン液Bを供給した後、反転姿勢のままブライン液Bを上記冷却温度まで冷却した上で、凍結工程を実施する。反転姿勢では、フィルタ730はブライン液Bの液面より上に配置されており、未凍結のCNF分散液がフィルタ730に接することはない。この反転姿勢でも、
図7(b)に示すように容器70を振動させたり、同図(c)に示すように容器70を揺動させることが好ましい。また、容器70を連続的に回転させながら、あるいは間欠的に回転させながらCNF分散液を供給する運転であっても構わない。CNF分散液のいずれの供給時においても、フィルタ730には凍結完了前の状態のCNF分散液が接触することはなく、また、供給口7324及び排気フィルタ703がブライン液Bで浸らない状態で凍結工程は行われる。容器70の揺動や回転を行いながら、あるいは供給口7324も動かしながらCNF分散液を供給するのは、CNF分散液を速やかに凍結完了させるためであり、ブライン液Bとの熱伝達効率の向上を目的としている。また、一か所にCNF分散液を集積させずにブライン液B中に広く散在させるためでもある。熱伝達効率は、ブライン液B中でのブライン液BとCNF分散液との相対速度として捉えることができ、ブライン液Bがジャケット740中の熱媒体により充分除熱される限りは、相対速度は速い方がより好ましい。
【0125】
ブライン液B中でCNF分散液が凍結し、CNF分散液凍結物がブライン液B中に生じると、
図6に示す様に初期姿勢の状態で分離工程(
図2に示すステップS3と同じステップ)が実施される。容器70の回転中や、振動中や、揺動中に取り外されていた加圧手段702の配管は容器70に接続され、同じく濾液受容器3とバルブV6とを繋ぐ固定配管も容器70に接続される。なお、この分離工程の実施中も、上記設定温度まで冷却された熱媒体がジャケット740に循環供給され続ける。分離工程では、CNF分散液凍結物を生じさせたブライン液Bを濾過することで、ブライン液BをCNF分散液凍結物から分離する。濾過にあたっては、これまで閉じていた3つの遮断バルブV5,V6,V7、加圧手段702の経路のバルブ7021のうち、濾液受容器3手前の遮断バルブV6を開放し、
図6に示す加圧手段702経路のバルブ7021を開き、本体部700の内部に加圧空気を導入する。本体部700の内部では、ブライン液Bが加圧(0より大きく0.01MPaG以下の圧力が付与)され、ブライン液Bが濾過される。なお、必要に応じて、フィルタ730下方の空間を減圧するようにしてもよいし、加圧も減圧も行わずにろ過を行うようにしてもよい。固体であるCNF分散液凍結物はフィルタ730の目を通過することができず、液体であるブライン液Bのみが、フィルタ730の目を通過して濾液受容器3内へと流れ込む。濾液受容器3内に回収されたブライン液Bは再利用することができる。ブライン液Bの濾過が完了すると、本体部700の内部は、CNF分散液凍結物が残った状態になる。
【0126】
次いで、乾燥工程(
図2に示すステップS4と同じステップ)が実施される。乾燥工程では、低温恒温槽20の設定温度を徐々に上げていき、ジャケット740に供給する熱媒体の温度を徐々に高め、CNF分散液凍結物に昇華熱を付与してCNF分散液凍結物を昇華させる。すなわち、CNF分散液凍結物を凍結させたまま乾燥を開始するが、乾燥途中にCNF分散液凍結物が融けださないように加熱温度を設定する。また、濾液排出口711と濾液受容器3の間に設けられた遮断バルブV6を閉鎖し、濾液排出口711と排出路7325の間に設けられた遮断バルブV7を開放する。さらに、真空ポンプ11を駆動し、本体部700の内部において生じた気体を吸引する。すなわち、本体部700の内部においては、CNF分散液凍結物を昇華させることによって蒸気が生じている。また、濾過後の本体部700の内部にブライン液が僅かにでも残っている場合は、本体部700の内部において生じた気体には、蒸気の他、揮発性のブライン液Bが気化した気体も含まれる。本体部700の内部で生じた気体は、排気フィルタ703で微粉が除去された後、排出路7325を通ってシールケース4に引き込まれる。また、この気体は、濾液排出口711からも排出路7325を通ってシールケース4に引き込まれる。シールケース4を通過した気体は、コールドトラップ5に引き込まれる。コールドトラップ5では、冷凍機6から冷媒が循環供給されており、コールドトラップ5内で気体は凝結され、氷になる。
【0127】
本体部700の内部において生じた気体は、水蒸気であり、濾過で取り切れなかった揮発性のブライン液がわずかに残っていた場合にはブライン液が気化したものも含まれるが、微量であり、通常は問題とはならない。また、脱臭など除去装置も不要である。さらに、回収した氷は廃液として処理する手間も生じない。加えて、低沸点溶剤を主体とした排気ガスではなく、水蒸気であるため、超低温対応の冷凍機は不要で一般的な冷凍機で足りる。これらのことから、第2実施形態の乾燥システムD2も、低コストなシステムになる。
【0128】
乾燥工程では、電磁波の照射も行われる。ここでの電磁波の照射も、2450MHzのマイクロ波が照射される。このマイクロ波は、ガラス窓700gを通って、照射路700pの先端からブライン液Bの液面に向けて間欠的に照射される。電磁波の照射開始のタイミングは、
図1に示す乾燥システムD1の乾燥工程における電磁波の照射開始のタイミングで説明したことと同じであるため、ここでの説明は省略する。
【0129】
また、
図7を用いて説明した各種の態様で容器70を動かすことでCNF分散液凍結物を動かしながら電磁波を照射してもよい。ただし、この場合には、濾液排出口711と濾液受容器3を結ぶ配管を外す必要がある。
【0130】
乾燥工程の完了は、容器70内の温度あるいは真空圧力が平衡状態になったり、コールドトラップ5の冷却温度が低下することなどにより確認され、乾燥工程の終了時には、遮断バルブV7を閉塞し、真空ポンプ11と冷凍機6を停止させる。次いで、遮断バルブV5を開放し、容器70内を大気圧に戻す。こうして、CNF分散液凍結物は乾燥され、本体部700の内部は、CNFの乾燥物が残った状態になる。
【0131】
最後に、取出工程(
図2に示すステップS5と同じステップ)が実施され、本体部700の内部からCNFの乾燥物が取り出される。この取出工程では、本体70を反転姿勢にして先端開口部701からCNFの乾燥物を取り出してもよいし、初期姿勢のまま蓋部710を開け、フィルタ730ごとCNFの乾燥物を取り出してもよい。
【0132】
本発明は上述の実施形態に限られることなく特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変更を行うことができる。例えば、上述の実施形態ではCNF分散液を乾燥させたが、CNF分散液に限らず、炭素ナノ粒子、金属ナノ粒子、セラミックナノ粒子等を液体に分散した分散液を乾燥させる技術にも適用することができる。
【0133】
なお、以上説明した各実施形態の記載にのみ含まれている構成要件であっても、その構成要件を、他の実施形態に適用してもよい。
【符号の説明】
【0134】
D1,D2 乾燥システム
1,7 乾燥装置
10,70 容器
100,700 本体部
114,700g ガラス窓
1022 濾過部材
1110,7324 供給口
121 駆動軸
122 螺旋リボン
123 駆動装置
125 攪拌羽根
126 金属製アーム
127 樹脂製パドル部材
130 ジャケット
730 フィルタ
72 モータ
11 真空ポンプ
20 低温恒温槽
3 濾液受容器
5 コールドトラップ
6 冷凍機
B ブライン液