(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072471
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】振動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
B06B 1/04 20060101AFI20220510BHJP
【FI】
B06B1/04 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020181930
(22)【出願日】2020-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000112565
【氏名又は名称】フォスター電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 義一
(72)【発明者】
【氏名】飛鳥川 孝史
(72)【発明者】
【氏名】千葉 雄介
(72)【発明者】
【氏名】後藤 元
(72)【発明者】
【氏名】原 晃
(72)【発明者】
【氏名】山上 憲
(72)【発明者】
【氏名】笹沼 起史
【テーマコード(参考)】
5D107
【Fターム(参考)】
5D107AA16
5D107BB08
5D107CC09
5D107CC10
5D107FF10
(57)【要約】
【課題】 板ばねと錘との位置決めが容易で、振動異常や異音の発生がない優れた振動特性を有する振動アクチュエータを提供する。
【解決手段】
筒状のケース2と、ケース2に設けられたコイル21と、コイル21によりケース2の振動軸線Oに沿って振動する可動子4と、外周部がケース2に固定され、内周部が可動子4に固定された板ばね5とから成る。可動子4には、振動軸線O方向に突出した多角形の中心軸324が設けられている。板ばね5は、内周部中心に設けられ、中心軸324が嵌合される多角形の軸孔50を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のケースと、
前記ケースに設けられたコイルと、
前記コイルにより前記ケースの振動軸線に沿って振動する可動子と、
外周部が前記ケースに固定され、内周部が前記可動子に固定された板ばねと、
前記可動子に設けられ、前記振動軸線方向に突出した多角形の中心軸と、
前記板ばねの内周部中心に設けられ、前記中心軸が嵌合される多角形の軸孔と、
を有することを特徴とする振動アクチュエータ。
【請求項2】
前記可動子が、マグネットと、錘を備え、
前記中心軸が前記錘の中心部に設けられている請求項1に記載の振動アクチュエータ。
【請求項3】
前記板ばねが、前記外周部と前記内周部との間に、等間隔で設けられた3本の腕部を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の振動アクチュエータ。
【請求項4】
前記中心軸が三角形であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の振動アクチュエータ。
【請求項5】
前記ケースには、120度間隔で配置され、振動軸線方向に伸びる突起部が設けられ、
前記板ばねの外周部には、前記突起部が挿入される貫通孔が120度間隔で設けられている
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかにに記載の振動アクチュエータ。
【請求項6】
前記振動軸線を基準として、前記中心軸の角と前記貫通孔との間に30度の角度のずれを有するように配置されている
ことを特徴とする請求項5に記載の振動アクチュエータ。
【請求項7】
前記中心軸及び前記軸孔の角は、円弧状に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の振動アクチュエータ。
【請求項8】
前記板ばねは、前記外周部と前記内周部との間に設けられた複数本の腕部を備え、
前記ケースと前記板ばねの外周部が等間隔で配置され、振動軸線方向に伸びる複数の突起部によって固定され、
前記板ばねの外周部には、前記突起部が挿入される複数の貫通孔が等間隔で設けられ、
前記腕部の数、前記中心軸の角の数、及び前記貫通孔の数が等しい、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の振動アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動アクチュエータに関し、特に、携帯電話やスマートフォン等の携帯端末、ゲーム機のコントローラ等に用いられる小型で軽量の振動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、携帯電話等の通信機器において、着信やアラームを人に知らせる方法として振動アクチュエータ(又は、振動モータ)を用いた振動による通知方法がある。そして、近年では、映画やゲーム、VR(Virtual Reality:仮想現実)の分野においても、例えば、アクションシーンの演出効果や、プレーヤーに対するフィードバック手段の一つとして振動アクチュエータが用いられており、振動により人の触覚を刺激することによってリアリティを向上させている。
【0003】
振動アクチュエータには、偏心錘をモータによって回転させて慣性力により振動を発生させる方法を用いるものもある。しかし、回転モータを利用した方法は、偏心錘の慣性力により振動を発生させるため、偏心錘が回転を始め振動が触感として得られるまでの反応が鈍く、リアリティが損なわれるという欠点があった。
【0004】
そこで、よりリアルな触感を得るためのアクチュエータとして、例えば、特許文献1に示すように、ボイスコイル型アクチュエータを採用する場合がある。かかる振動アクチュエータでは、筒状のケース内にマグネットを有する可動子を配置すると共に、可動子の周囲にはケースに固定されたコイルを配置し、そのコイルに通電することにより可動子をケース内で往復動させている。その場合、ケースに対して可動子を往復動可能に支持するために、複数の腕部を備えた円盤状の板ばねが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、可動子と板ばねとは錘部分で固定される。すなわち、重量が大きく振動特性に大きな影響を与える錘と、それを支持する板ばねとを直接固定することが、所望の振動特性を得るためには好ましい。そのため、従来技術では、錘の中心に断面が円形の軸を突出させ、その軸を板ばねの中心部に設けた円形の貫通孔内に挿入し、板ばねの表面から突出した軸の先端を加締めることで、錘と板ばねとを固定している。
【0007】
しかし、このような円形の軸と貫通孔との組み合わせでは、錘と板ばねとの周方向の位置決めが不可能なことから、板ばねと錘の位置合わせが正確にできない。特に、板ばねは、渦巻き状に配置された複数の腕部とその間の切欠部を有することから、周方向に均等な剛性、すなわち弾力係数を持たない。一方、錘についても、製造上の誤差などにより、その全周囲において必ずしも均等な重量配分が確保されるものではなく、非常に微小な差とは言え、周方向で重量面でのアンバランスが生じることがある。また、錘自体の強度を向上させるなどの目的で、錘の表面に放射状にリブを設けたり、錘の外周壁部に軸方向に伸びる複数のリブを所定の間隔で設けたりすることもあり、必ずしも周方向に均等な重量配分ではないこともある。
【0008】
このようなアンバランスは、板ばねの腕部或いは切欠部の所定の位置に錘を固定することで、板ばねの剛性の不均等と相殺させることが可能である半面、錘と板ばねの固定位置によっては両者の不均等が相俟って、可動子の異常振動や異音発生を招く恐れがある。しかし、前記のような従来技術では、円形の軸を同じく円形の貫通孔に挿入していたため、周方向の位置決めができず、板ばねの腕部或いは切欠部の所定の位置に錘を固定することが不可能であった。
【0009】
同様なことは、板ばねとケースとの固定部分についてもいえる。板ばねはその外周部の複数個所、例えば3か所でケースに加締め或いはねじ止め等の手段で固定されているが、固定部分と単に両者が接触しているだけの部分とでは板ばねに加わる押圧力が異なる。そのため、可動子の振動時に板ばねの外周部に加わる応力も周方向で不均等となることから、板ばねの固定部分と錘との周方向の位置決めも可動子の振動特性に与える影響が大きい。しかし、従来技術では、板ばねに対する錘の周方向の位置決めが不可能なことから、板ばねのケースに対する固定部分と錘との周方向の位置決めができず、組み立てられた製品ごとに錘とケースとの重量配分にばらつきが生じ、製品である振動アクチュエータの性能が均質化できない問題もあった。
【0010】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものである。本発明の目的は、板ばねと錘との位置決めが容易で、振動異常や異音の発生がない優れた振動特性を有する振動アクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の振動アクチュエータは、次のような構成を有する。
(1)筒状のケース。
(2)前記ケースに設けられたコイル。
(3)前記コイルにより前記ケースの振動軸線に沿って振動する可動子。
(4)外周部が前記ケースに固定され、内周部が前記可動子に固定された板ばね。
(5)前記可動子に設けられ、前記振動軸線方向に突出した多角形の中心軸。
(6)前記板ばねの内周部中心に設けられ、前記中心軸が嵌合される多角形の軸孔。
【0012】
本発明において、次のような構成を採用することができる。
(1)前記可動子が、マグネットと、錘を備え、前記中心軸が前記錘の中心部に設けられている。
(2)前記板ばねが、前記外周部と前記内周部との間に、等間隔で設けられた3本の腕部を有する。
(3)前記中心軸が三角形である。
(4)前記ケースには、120度間隔で配置され、振動軸線方向に伸びる突起部が設けられ、前記板ばねの外周部には、前記突起部が挿入される貫通孔が120度間隔で設けられている。
(5)前記振動軸線を基準として、前記中心軸の角と前記貫通孔との間に30度の角度のずれを有するように配置されている。
(6)前記中心軸及び前記軸孔の角は、円弧状に形成されている。
(7)前記板ばねは、前記外周部と前記内周部との間に設けられた複数本の腕部を備え、前記ケースと前記板ばねの外周部が等間隔で配置され、振動軸線方向に伸びる複数の突起部によって固定され、前記板ばねの外周部には、前記突起部が挿入される複数の貫通孔が等間隔で設けられ、前記腕部の数、前記前記中心軸の角の数、及び前記貫通孔の数が等しい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、板ばねと錘との位置決めが容易で、振動異常や異音の発生がない優れた振動特性を有する振動アクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態の全体構成を示す分解斜視図である。
【
図2】第1実施形態の全体構成を示す振動軸線方向で切断した断面図である。
【
図3】第1実施形態におけるケース本体、錘、板ばね及び制振部材の分解斜視図である。
【
図4】第1実施形態におけるケース本体、錘、板ばね及び制振部材が組み合わされた状態の斜視図である。
【
図5】第1実施形態において、三角形の軸孔及び中心軸の角と、貫通孔又はリブの位置関係を示す平面図である。
【
図7】他の実施形態の全体構成を示す振動軸線方向で切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
以下、
図1及び
図2を用いて第1実施形態の振動アクチュエータ1について説明する。本実施形態の振動アクチュエータ1は、その振動軸線O方向1/2の箇所において中心軸と直交する対称面(
図2の符号S)を境界として、同一形状の部材を設けたものである。そこで、各部材の構成については、対称形の一方の構成のみを説明し、他方については特別に必要がない限りは同一の符号を付すことで説明は省略する。また、「可動子の中心」という場合には、可動子における振動軸線O方向の中心、具体的には振動軸線Oと対称面Sとの交点をいい、振動軸線Oを軸心とする内外方向については、振動軸線Oを基準として内周或いは外周と表現する。
【0016】
振動アクチュエータ1は、主に、外殻をなす円筒状のケース2と、ケース2の内部に設けられたケース側電磁駆動部3と、ケース側電磁駆動部3により振動可能な可動子4と、可動子4をそれぞれケース2に対して弾性支持する板ばね5を備えている。
【0017】
ケース2は、円筒状のケース本体10と、その両端開口を閉じるカバーケース11、及びケース本体10の開口部近傍の内周部分に設けられたインナーガイド12を備えている。本実施形態において、ケース本体10、カバーケース11及びインナーガイド12は、それぞれABS等の樹脂材料からなるが、樹脂材料に限定されるものでない。ケース本体10の外面には、図示しないリード線が接続されるターミナル13が形成されている。
【0018】
電磁駆動部は、ケース側電磁駆動部3と、ケース本体10内に往復動自在に支持された可動子側電磁駆動部とからなる。
【0019】
ケース側電磁駆動部3は、ケースに固定されたヨーク20と、コイル21を備える。すなわち、ケース2には、その内周に沿って配置された円筒状の軟磁性材料でなるヨーク20と、ヨーク20の内周にヨーク20と電気的に絶縁された状態で取り付けられたコイル21が設けられている。
【0020】
コイル21はヨーク20の内周に沿って巻回され、可動子4の外周部に対して所定の間隔を保って配置されている。振動時における可動子4とコイル21との接触を防止するため、コイル21の可動子4側の表面を覆うように、ケース本体10の内周にインナーガイド12が固定され、インナーガイド12の内周面と可動子4の外周面に隙間が設けられている。コイル21はターミナル13からの通電により磁場を発生可能である。コイル21は組み立てに際して、接着剤等によりヨーク20やインナーガイド12に仮止めしてもよい。また、コイル21はケース2の外部で巻回したものをケース本体10に挿入し、ヨーク20やインナーガイド12に接着固定してもよい。
【0021】
可動子4は、円筒状のケース2の中心軸方向である振動軸線Oに沿って振動するように、ケース本体10内に配置されている。可動子4は、円板状のマグネット30と、マグネット30の表面に配置された円板状のポールピース31と、ポールピース31の表面に配置される錘32とを有している。これらのうち、マグネット30と、ポールピース31が、可動子側電磁駆動部を構成している。
【0022】
マグネット30は、その着磁方向が振動軸線O方向である。ポールピース31は、軟磁性材料でなり、マグネット30の磁気吸着力及び接着剤等により、マグネット30に取り付けられている。
図2に示すように、ポールピース31には、中央部に振動軸線Oに沿った貫通孔311が形成されており、対応する錘32には中央部に振動軸線Oに沿った中央突起部321が形成されている。中央突起部321が貫通孔311に挿入される。圧入又は嵌合によってポールピース31と錘32が一体化されてもよい。マグネット30、ポールピース31、及び錘32は、上述した磁気吸着力や接着剤、挿入、圧入、嵌合による取り付けに限定されるものではなく、ねじ止め等の機械的手段やその他の手段により固定することにより、取り付けてもよい。
【0023】
図2に示すように、可動子4において、マグネット30の外形は、ポールピース31、錘32の外形よりも径方向に小さい。つまり、ポールピース31と錘32の外周が可動子4において最も外周側に位置しており、コイル21の内周と最も接近している。
【0024】
図2及び
図3に示すように、錘32は非磁性体からなり、振動軸線O方向に延びる円柱部322と、円柱部322の根元部分(振動軸線O方向中央側)から振動軸線Oの外周方向に広がった円盤状の底部323を備えている。
【0025】
錘32における円柱部322の先端中央部には、振動軸線O方向に突出した多角形の中心軸324が設けられる。例えば、錘32の中心軸324は、120度の間隔で角及び辺がある正三角形であり、角は円弧状に形成される。円盤状の底部323の外周縁には板ばね5側に立ち上がった縁部325が設けられると共に、底部323の表面には、円柱部322の根元部分から縁部325に達する3本のリブ326が120度間隔で放射状に設けられている。
【0026】
このリブの326の位置は、三角形をした中心軸324の角の位置と対応付けられており、錘32と板ばね5との振動特性を考慮して最適の角度に設定されている。すなわち、中心軸324の角の位置によって、錘32と板ばね5との周方向の角度が決定されるが、板ばね5には腕部と切欠部というように錘32を支持する剛性が異なる箇所がある。一方、錘32も3本のリブ326の存在により、周方向の重量配分が均一でないことから、板ばね5の剛性の不均等と錘32の各部の重量バランスを考慮して、振動むらの発生が少ない状態となるように、中心軸324の角の位置とリブ326の位置を設定する。本実施形態においては、
図5(b)に示すように、中心軸324の3つの角と、リブ326の位置との間に、振動軸線Oを基準として60度の角度のずれを有するように、中心軸324とリブ326が配置される。
【0027】
板ばね5は、金属の一枚ないし複数枚の板ばねで構成されており、例えば本実施形態ではステンレスの薄板を加工したものを使用している。板ばね5の材料は、金属に限らず樹脂や繊維を含む複合素材であってもよい。また、板ばね5の材料は、耐久性及び可撓性に優れた材料が望ましい。
【0028】
図4に示すように、板ばね5の内周部中心には、錘32の中心軸324が嵌合される多角形の軸孔50が設けられている。例えば、この軸孔50は、120度の間隔で角又は辺がある正三角形であり、角は円弧状に形成される。この軸孔50を利用して、板ばね5は錘32と連結されている。すなわち、正三角形に形成された軸孔50に、同じく正三角形に形成された錘32の中心軸324を挿通することで、板ばね5に対する錘32の位置合わせがなされる。そして、板ばね5の表面から突出した中心軸324が治具によって加熱・加圧されて押し潰されることで、錘32の表面と板ばね5が重ね合わされた状態で加締められている。板ばね5と錘32との固定手段は加締めに限定されるものではなく、多角形の中心軸324と軸孔50を備えていれば、ねじ止めや接着等の他の方法により固定(連結)することもできる。
【0029】
図4に示すように、板ばね5は、その内周部に設けられた支持部51から外周方向へ渦巻き状に延びる3本の腕部52を有している。各腕部52は振動軸線Oの回りに120度間隔で等間隔に設けられている。各腕部52の外周端は、板ばね5の外周部にケース本体10の内周に沿って設けられた環状の枠部53に連結されている。
【0030】
前記のように本実施形態において、対称面を境界として2つの板ばね5が対称形に設けられている。これら2つの板ばね5の各腕部52の渦巻き方向は互いに逆方向になっている。これにより、アクチュエータの振動時において、可動子4は、2つの板ばね5から各々逆方向のトルクを受けるため、振動軸線O方向に往復動しても、振動軸線O回りに回転しない。
【0031】
図3及び
図4に示すように、円筒状をしたケース本体10の端面には、ケース本体10の径方向内側に突出したフランジ部14が設けられ、このフランジ部14に振動軸線O方向に伸びる3本の突起部15が120度間隔で設けられている。板ばね5の外周の枠部53には、突起部15が挿入される3つの貫通孔54が120度間隔で設けられている。この場合、
図5(a)に示すように、錘32の三角形をした中心軸324の3つの角及び板ばね5に設けられた三角形の軸孔50の3つの角と、板ばね5に設けられた3つの貫通孔54の位置との間に、振動軸線Oを基準として30度の角度のずれを有するように、板ばね5の軸孔50と3つの貫通孔54が配置される。
【0032】
各突起部15が各貫通孔54に挿入された状態で、各突起部15の先端が治具を用いて加熱・加圧し、押し潰すことにより、ケース本体10の端面に板ばね5の枠部53が重ね合わされた状態で加締められている。枠部53と板ばね5との固定手段は加締めに限定されるものではなく、ねじ止めや接着等の他の方法により固定することもできる。
【0033】
このように構成された板ばね5は、振動軸線O方向及び対称面Sの面方向において所定の範囲で弾性変形可能である。なお、この所定の範囲は、振動アクチュエータ1として通常に使用した場合の可動子4の振幅範囲に相当する。従って、所定の範囲は、少なくとも板ばね5がケース2に接触しない範囲であり、板ばね5の弾性変形の限界を超えない範囲である。
【0034】
本実施形態において、板ばね5には、その振動特性を制御する制振部材41が設けられている。制振部材41は、
図3に示すように、板ばね5の支持部51から各腕部52の一定の範囲までの形状に沿った外形の板状をなし、板ばね5の一面に固定されている。制振部材41は、板ばね5上に積層された、接着剤でなる第1接着層と、PE(ポリエチレン)でなるPE層と、接着剤でなる第2接着層と、エラストマでなるエラストマ層とからなっている。エラストマとしては、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)が適切であるが、これに限定するものではない。制振部材41の弾性変形、具体的には、PE層や接着剤層のずり変形、エラストマ層の曲げ変形により、板ばね5の制振を行う。制振部材41と板ばね5との固定手段は、上記の接着によるものに限定されず、樹脂製の制振部材41を板ばね5に熱溶着する等、その他の固定手段を用いてもよい。
【0035】
[1-2.実施形態の作用]
以上のように構成された振動アクチュエータ1は、コイル21に通電していない状態において、
図2に示すように、板ばね5で支持される可動子4が、振動軸線O方向の中央に位置している。
【0036】
可動子4を振動させる際には、ターミナル13を介して、コイル21に、交互に逆極性の磁界を発生する向きに交流を通電させる。即ち、コイル21の隣り合う部分に同極が発生するようになっている。例えば、
図6に示す極性の場合、可動子4には実線矢印Aで示す振動軸線O方向の他側(
図6における下方)への推力が発生し、コイル21へ流す電流を反転させれば、可動子4には点線矢印Bで示す振動軸線O方向の一側(
図6における上方)への推力が発生する。このように、コイル21に交流を通電させれば、可動子4は板ばね5による付勢力を両側から受けながら、振動軸線Oに沿って振動する。
【0037】
可動子4に発生する推力は、基本的にはフレミングの左手の法則に基づいて与えられる推力に準じられる。本実施形態では、対称形の配置された2つのコイル21がケース2に固定されているので、マグネット30等が取り付けられた可動子4に2つのコイル21に発生する力の反力としての推力も発生する。
【0038】
そのため、振動軸線O方向に働く推力と、マグネット30の磁束の対称面S方向に働く推力を受け、錘32には、振動軸線Oを中心として回転する力が加わる。その際、錘32に設けられた正三角形の中心軸324の角が、錘32の回転止めとなり、可動子4は振動軸線Oに沿って振動する。
【0039】
[1-3.実施形態の効果]
(1)本実施形態における振動アクチュエータ1によれば、正三角形に形成された軸孔50に、同じく正三角形に形成された錘32の中心軸324を挿通することで、板ばね5に対する錘32の位置合わせがなされる。よって、部品の組立が容易にでき、部品の位置合わせ不良を要因とする可動子の振動異常を抑制することができる。特に、腕部と切欠部という周方向の剛性が異なる部分を備えた板ばね5と、同じくリブ326のように周方向に重量バランスの異なる錘32とを、常に一定の角度、例えば
図5(b)に示す60度の角度で位置決めすることが可能となることから、組み立てられた製品毎にばらつきが生じることがない。また、板ばね5各部の剛性の不均等と錘32のアンバランスを相殺させることで、可動子4を振動軸線Oに沿って直線的に移動させることが可能となり、優れた振動特性を得ることができる。
【0040】
(2)本実施形態における振動アクチュエータ1は、板ばね5に設けられた腕部52の数と、中心軸324の角の数が同一であることから、中心軸324を軸孔50にどの角度で挿入しても、腕部52と錘32との周方向の位置関係が等しくなる。そのため、錘32に製造上或いはリブ326に起因する微小なアンバランスがあっても、それらのアンバランスと腕部52との位置関係が変わることがなく、錘32と板ばね5との組立精度の安定化を図ることができる。
【0041】
(3)錘32には三角形をした中心軸324が設けられると共に、板ばね5の外周の枠部53には、ケース本体10の突起部15が挿入される3つの貫通孔54が120度間隔で設けられている。そのため、板ばね5とケース本体10との固定部分と、板ばね5に固定された錘32との位置関係が常に一定に保持されることになり、ケース本体10に対する錘32の取り付け角度のばらつきがなくなる。その結果、ケース本体10内における錘32の重心バランスが安定化し、可動子4の振動のばらつきがなくなる。
【0042】
(4)板ばね5に設けられた3つの貫通孔54の位置との間に、
図5(a)に示すとおり、振動軸線Oを基準として30度の角度のずれを有するように、板ばね5の軸孔50と3つの貫通孔54が配置されている。そのため、板ばね5とケース本体10との加締め部分が、中心軸32の角と一致することがなくなり、静止したケース本体10に固定されている板ばね5の枠部53と、高速で往復動する板ばね5の支持部51との間のストレスが、中心軸32の角の部分に集中することがない。その結果、長期間にわたって使用した場合でも、中心軸32の角の部分から加締め箇所に亀裂が生じることが防止され、製品の長寿命化が達成できる。
【0043】
(5)錘32の中心軸324と板ばね5の軸孔50が正三角形で、かつ、中心軸324及び軸孔50の角は、円弧状に形成されているため、中心軸324を加締めた際に、角部分に対する応力の集中が防止され、加締め部分を中心軸324の周方向で均等に押し潰すことが可能になり、錘32と板ばね5とを強固に結合できる。
【0044】
(6)本実施形態における振動アクチュエータ1は、可動子4に錘32を設けることにより、錘32と板ばね5の成分から導かれる固有共振周波数で、大きな振動出力が得られる。
【0045】
[2.他の実施形態]
以上のように、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、発明の範囲を限定することを意図しておらず、以下に列記するように、発明の要旨を逸脱しない範囲で、そのほかの様々な形態で実施されることが可能であり、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。そして、これら実施形態、それらの組合せ、更にはそれらの変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。以下は、本発明に包含される実施形態の例である。
【0046】
(1)例えば、上記実施形態における軸孔50、錘32の中心軸324は正三角形に形成されているが、これに限られるものではない。厳密な正三角形ではなくてもよく、3つの辺と3つの角を有した略三角形状でも良い。また、三角形の種類を問わないだけでなく、四角形などの他の多角形であってもよい。腕部52は3本、突起部15と貫通孔54の数は3個形成されているが、板ばね5の腕部52の数、中心軸324の角の数、及び貫通孔54の数が等しいものであればよい。
【0047】
(2)三角形の軸孔50及び中心軸324の角と、リブ326や貫通孔54の角度のずれを30度又は60度としたが、両者の角度のずれを等しくしてもよい。軸孔50及び中心軸324を四角形等の他の多角形とした場合には、多角形の中心角の1/2や1/3の角度分ずらせることが好ましい。
【0048】
(3)上記実施形態では、板ばね5は制振部材41を有しているが、必ずしも制振部材を有していなくてもよい。
【0049】
(4)上記実施形態のケース2は円筒状をなしており、可動子4は略円柱状をなしているが、ケース及び可動子の形状はこれに限られるものではなく、多角形やその他の形状であってもよい。
【0050】
(5)上記実施形態では、可動子4を支持する板ばね5は、渦巻き状の腕部52を有するが、その他の板ばねを用いてもよい。例えば、曲線だけでなく直線を組み合わせた変則的な渦巻き状、十字状や卍状の板ばねを用いてもよい。この場合、インナーガイドも板ばねの形状に沿った形状とすることが望ましい。
【0051】
(5)ポールピース31と錘32とを一体化するには、
図2のように、ポールピース31の貫通孔311に錘32の中央突起部321を挿入する代わりに、
図7に示すように、ポールピース31に中央突起部319を設け、錘32に凹部329を設けて、凹部329内に中央突起部319を挿入、圧入或いは嵌合することもできる。
【符号の説明】
【0052】
1 振動アクチュエータ
2 ケース
3 ケース側電磁駆動部
4 可動子
5 板ばね
11 カバーケース
12 インナーガイド
13 ターミナル
14 フランジ部
15 突起部
20 ヨーク
21 コイル
30 マグネット
31 ポールピース
32 錘
322 円柱部
323 底部
324 中心軸
326 リブ
41 制振部材
50 軸孔
51 支持部
52 腕部
53 枠部
54 貫通孔