(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072473
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】振動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
B06B 1/04 20060101AFI20220510BHJP
【FI】
B06B1/04 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020181932
(22)【出願日】2020-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000112565
【氏名又は名称】フォスター電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 義一
(72)【発明者】
【氏名】飛鳥川 孝史
(72)【発明者】
【氏名】千葉 雄介
(72)【発明者】
【氏名】後藤 元
(72)【発明者】
【氏名】原 晃
(72)【発明者】
【氏名】山上 憲
(72)【発明者】
【氏名】笹沼 起史
【テーマコード(参考)】
5D107
【Fターム(参考)】
5D107AA16
5D107BB08
5D107CC09
5D107CC10
5D107FF10
(57)【要約】
【課題】 可動子の振幅を均一にすることができ、振動異常や異音の発生がない優れた振動特性を有する振動アクチュエータを提供する。
【解決手段】
中心軸が振動軸線Oとなる筒状のケース2と、ケース2に設けられたコイル21と、コイル21によりケース2の振動軸線Oに沿って振動する可動子4と、外周部がケース2に固定され、内周部が可動子4に固定され、可動子4を振動軸線方向Oに往復動可能に支持する2本の板ばね5とから成る。2本の前記板ばね5は、可動子4の振動軸線O方向に対する可動子4の中心からを基準に対となっている。2本の前記板ばね5は、可動子4の静止状態において付勢する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸が振動軸線となる筒状のケースと、
前記ケースに設けられたコイルと、
前記コイルにより前記ケースの振動軸線に沿って振動する可動子と、
外周部が前記ケースに固定され、内周部が前記可動子に固定され、前記可動子を振動軸線方向に往復動可能に支持する2本の板ばねと、
を有し、
2本の前記板ばねは、
前記可動子の振動軸線方向に対する前記可動子の中心を基準に対となっていて、
前記可動子の静止状態において付勢することを特徴とする振動アクチュエータ。
【請求項2】
前記可動子の中心から前記板ばねと可動子との固定位置間の距離と、前記可動子の中心から前記板ばねと前記ケースとの固定位置間の距離が異なる、
ことを特徴とする請求項1に記載の振動アクチュエータ。
【請求項3】
前記板ばねは、
無負荷状態において平板状である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の振動アクチュエータ。
【請求項4】
前記ケースと前記可動子に取り付けられた状態において、前記板ばねが、前記振動軸線方向に対して外向きに撓んでいることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の振動アクチュエータ。
【請求項5】
前記ケースと前記可動子に取り付けられた状態において、前記板ばねが、前記振動軸線方向に対して内向きに撓んでいることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の振動アクチュエータ。
【請求項6】
前記可動子の中心から前記板ばねと可動子との固定位置間の距離と、前記可動子の中心から前記板ばねと前記ケースとの固定位置間の距離が、2本の前記板ばねにおいて等しく、
前記板ばねは、
板ばね単体に対する無負荷状態において、前記内周部と前記外周部が振動軸線方向に対して異なる位置にあり、
前記ケースと前記可動子に固定された状態において、前記内周部と前記外周部が振動軸線方向に対して同位置の平板状である請求項1に記載の振動アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動アクチュエータに関し、特に、携帯電話やスマートフォン等の携帯端末、ゲーム機のコントローラ等に用いられる小型で軽量の振動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、携帯電話等の通信機器において、着信やアラームを人に知らせる方法として振動アクチュエータ(又は、振動モータ)を用いた振動による通知方法がある。そして、近年では、映画やゲーム、VR(Virtual Reality:仮想現実)の分野においても、例えば、アクションシーンの演出効果や、プレーヤーに対するフィードバック手段の一つとして振動アクチュエータが用いられており、振動により人の触覚を刺激することによってリアリティを向上させている。
【0003】
振動アクチュエータには、偏心錘をモータによって回転させて慣性力により振動を発生させる方法を用いるものもある。しかし、回転モータを利用した方法は、偏心錘の慣性力により振動を発生させるため、偏心錘が回転を始め振動が触感として得られるまでの反応が鈍く、リアリティが損なわれるという欠点があった。
【0004】
そこで、よりリアルな触感を得るためのアクチュエータとして、例えば、特許文献1に示すように、ボイスコイル型アクチュエータを採用する場合がある。かかる振動アクチュエータでは、筒状のケース内にマグネットを有する可動子を配置すると共に、可動子の周囲にはケースに固定されたコイルを配置し、そのコイルに通電することにより可動子をケース内で往復動させている。その場合、ケースに対して可動子を往復動可能に支持するために、複数の腕部を備えた円盤状の板ばねが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、可動子と板ばねとは錘部分で固定される。すなわち、重量が大きく振動特性に大きな影響を与える錘と、それを支持する板ばねとを直接固定することが、所望の振動特性を得るためには好ましい。そのため、従来技術では、錘の中心に軸を突出させ、その軸を板ばねの中心部に設けた貫通孔内に挿入し、板ばねの表面から突出した軸の先端を加締めることで、錘と板ばねとを固定している。
【0007】
しかし、このように単に可動子と板ばねを固定しただけでは、板ばねは重力の影響を受け、可動子の静止状態において、一定の方向に撓んでしまう。すなわち、可動子を2本の板ばねで固定すると、重力の負荷により、板ばねの一方が振動軸線方向に対してその中心から外向きに撓み、他方が振動軸線方向に対してその中心から内向きに撓んだ状態となる。また、アクチュエータが傾いている場合には、2本の板ばねはその傾きに応じて不均一に撓んでしまう。
【0008】
このように板ばねの撓みが不均一な状態、つまり、可動子が振動軸線の中心からずれている状態で、アクチュエータを駆動させると、板ばねには均等な重力配分がなされず、振幅の均一性を保つことができない。特に、板ばねは、渦巻き状に配置された複数の腕部とその間の切欠部を有することから、周方向に均等な剛性を有する。そのため、可動子の静止状態において周方向に均等な重力配分とすることは難しい。
【0009】
また、一般的には、板ばねは、金属板をプレス加工などすることにより製造される。近年のアクチュエータの小型化の要求から、非常に薄い板ばねを成型することが求められるが、プレス加工により、個体差も発生してしまう。また、プレス加工に用いる金属板自体の裏表や、プレス加工の際に圧力が加わる方向などによっても、板ばねに撓みが生じてしまう。このように製造上生じた板ばねの撓みは、例え僅かな誤差であったとしても、可動子の振動特性に与える影響は大きい。すなわち、撓みが生じたままの板ばねの状態で組立時に可動子と板ばねを固定すると、可動子の静止状態において、可動子が振動軸線の中心からずれた状態となる。この状態でアクチュエータを駆動させると、重量面でのアンバランスが生じてしまい、アクチュエータの制御が困難となってしまうといった問題があった。
【0010】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものである。本発明の目的は、可動子の振幅を均一にすることができ、振動異常や異音の発生がない優れた振動特性を有する振動アクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の振動アクチュエータは、次のような構成を有する。
(1)中心軸が振動軸線となる筒状のケース。
(2)前記ケースに設けられたコイル。
(3)前記コイルにより前記ケースの振動軸線に沿って振動する可動子。
(4)外周部が前記ケースに固定され、内周部が前記可動子に固定され、前記可動子を振動軸線方向に往復動可能に支持する2本の板ばね。
(5)2本の前記板ばねは、前記可動子の振動軸線方向に対する前記可動子の中心を基準に対となっている。
(6)2本の前記板ばねは、前記可動子の静止状態において付勢する。
【0012】
本発明において、次のような構成を採用することができる。
(1)前記可動子の中心から前記板ばねと可動子との固定位置間の距離と、前記可動子の中心から前記板ばねと前記ケースとの固定位置間の距離が異なる。
(2)前記板ばねは、無負荷状態において平板状である。
(3)前記ケースと前記可動子に取り付けられた状態において、前記板ばねが、前記振動軸線方向に対して外向きに撓んでいる。
(4)前記ケースと前記可動子に取り付けられた状態において、前記板ばねが、前記振動軸線方向に対して内向きに撓んでいる。
(5)前記可動子の中心から前記板ばねと可動子との固定位置間の距離と、前記可動子の中心から前記板ばねと前記ケースとの固定位置間の距離が、2本の前記板ばねにおいて等しく、前記板ばねは、板ばね単体に対する無負荷状態において、前記内周部と前記外周部が振動軸線方向に対して異なる位置にあり、前記ケースと前記可動子に固定された状態において、前記内周部と前記外周部が振動軸線方向に対して同位置の平板状である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、可動子の振幅を均一にすることができ、振動異常や異音の発生がない優れた振動特性を有する振動アクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態の全体構成を示す分解斜視図である。
【
図2】第1実施形態の全体構成を示す振動軸線方向で切断した断面図である。
【
図3】第1実施形態におけるケース本体、錘、板ばね及び制振部材の分解斜視図である。
【
図4】第1実施形態におけるケース本体、錘、板ばね及び制振部材が組み合わされた状態の斜視図である。
【
図5】第1実施形態において、三角形の軸孔及び中心軸の角と、貫通孔又はリブの位置関係を示す平面図である。
【
図7】第1実施形態におけるケース本体、錘、板ばね及び制振部材について、(a)組み合わせ前の状態、(b)組み合わせ時の状態、(c)固定後の状態を示す断面図である。
【
図8】第2実施形態におけるケース本体、錘、板ばね及び制振部材について、(a)組み合わせ前の状態、(b)組み合わせ時の状態、(c)固定後の状態を示す断面図である。
【
図9】第3実施形態におけるケース本体、錘、板ばね及び制振部材について、(a)組み合わせ前の状態、(b)組み合わせ時の状態、(c)固定後の状態を示す断面図である。
【
図10】従来技術におけるケース本体、錘、板ばね及び制振部材の状態について、(a)組み合わせ前の状態、(b)組み合わせ時の状態、(c)固定後の状態を示す断面図である。
【
図11】他の実施形態の全体構成を示す振動軸線方向で切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
以下、
図1及び
図2を用いて第1実施形態の振動アクチュエータ1について説明する。本実施形態の振動アクチュエータ1は、その振動軸線O方向1/2の箇所において中心軸と直交する対称面(
図2の符号S)を境界として、同一形状の部材を設けたものである。そこで、各部材の構成については、対称形の一方の構成のみを説明し、他方については特別に必要がない限りは同一の符号を付すことで説明は省略する。また、「可動子の中心」という場合には、可動子における振動軸線O方向の中心、具体的には振動軸線Oと対称面Sとの交点をいい、振動軸線Oを軸心とする内外方向については、振動軸線Oを基準として内周或いは外周と表現する。
【0016】
振動アクチュエータ1は、主に、中心軸が振動軸線Oとなる円筒状のケース2と、ケース2の内部に設けられたケース側電磁駆動部3と、ケース側電磁駆動部3により振動可能な可動子4と、可動子4をそれぞれケース2に対して弾性支持する板ばね5を備えている。
【0017】
ケース2は、円筒状のケース本体10と、その両端開口を閉じるカバーケース11、及びケース本体10の開口部近傍の内周部分に設けられたインナーガイド12を備えている。本実施形態において、ケース本体10、カバーケース11及びインナーガイド12は、それぞれABS等の樹脂材料からなるが、樹脂材料に限定されるものでない。ケース本体10の外面には、図示しないリード線が接続されるターミナル13が形成されている。
【0018】
電磁駆動部は、ケース側電磁駆動部3と、ケース本体10内に往復動自在に支持された可動子側電磁駆動部とからなる。
【0019】
ケース側電磁駆動部3は、ケースに固定されたヨーク20と、コイル21を備える。すなわち、ケース2には、その内周に沿って配置された円筒状の軟磁性材料でなるヨーク20と、ヨーク20の内周にヨーク20と電気的に絶縁された状態で取り付けられたコイル21が設けられている。
【0020】
コイル21はヨーク20の内周に沿って巻回され、可動子4の外周部に対して所定の間隔を保って配置されている。振動時における可動子4とコイル21との接触を防止するため、コイル21の可動子4側の表面を覆うように、ケース本体10の内周にインナーガイド12が固定され、インナーガイド12の内周面と可動子4の外周面に隙間が設けられている。コイル21はターミナル13からの通電により磁場を発生可能である。コイル21は組み立てに際して、接着剤等によりヨーク20やインナーガイド12に仮止めしてもよい。また、コイル21はケース2の外部で巻回したものをケース本体10に挿入し、ヨーク20やインナーガイド12に接着固定してもよい。
【0021】
可動子4は、円筒状のケース2の中心軸方向である振動軸線Oに沿って振動するように、ケース本体10内に配置されている。可動子4は、円板状のマグネット30と、マグネット30の表面に配置された円板状のポールピース31と、ポールピース31の表面に配置される錘32とを有している。これらのうち、マグネット30と、ポールピース31が、可動子側電磁駆動部を構成している。
【0022】
マグネット30は、その着磁方向が振動軸線O方向である。ポールピース31は、軟磁性材料でなり、マグネット30の磁気吸着力及び接着剤等により、マグネット30に取り付けられている。
図2に示すように、ポールピース31には、中央部に振動軸線Oに沿った貫通孔311が形成されており、対応する錘32には中央部に振動軸線Oに沿った中央突起部321が形成されている。中央突起部321が貫通孔311に挿入される。圧入又は嵌合によってポールピース31と錘32が一体化されてもよい。マグネット30、ポールピース31、及び錘32は、上述した磁気吸着力や接着剤、挿入、圧入、嵌合による取り付けに限定されるものではなく、ねじ止め等の機械的手段やその他の手段により固定することにより、一体化してもよい。
【0023】
図2に示すように、可動子4において、マグネット30の外形は、ポールピース31、錘32の外形よりも径方向に小さい。つまり、ポールピース31と錘32の外周が可動子4において最も外周側に位置しており、コイル21の内周と最も接近している。
【0024】
図2及び
図3に示すように、錘32は非磁性体からなり、振動軸線O方向に延びる円柱部322と、円柱部322の根元部分(振動軸線O側)から外周側に広がった円盤状の底部323を備えている。
【0025】
錘32における円柱部322の先端中央部には、振動軸線O方向に突出した多角形の中心軸324が設けられる。例えば、錘32の中心軸324は、120度の間隔で角及び辺がある正三角形であり、角は円弧状に形成される。円盤状の底部323の外周縁には板ばね5側に立ち上がった縁部325が設けられると共に、底部323の表面には、円柱部322の根元部分から縁部325に達する3本のリブ326が120度間隔で放射状に設けられている。
【0026】
このリブの326の位置は、三角形をした中心軸324の角の位置と対応付けられており、錘32と板ばね5との振動特性を考慮して最適の角度に設定されている。すなわち、中心軸324の角の位置によって、錘32と板ばね5との周方向の角度が決定されるが、板ばね5には腕部と切欠部というように錘32を支持する剛性が異なる箇所がある。一方、錘32も3本のリブ326の存在により、周方向の重量配分が均一でないことから、板ばね5の剛性の不均等と錘32の各部の重量バランスを考慮して、振動むらの発生が少ない状態となるように、中心軸324の角の位置とリブ326の位置を設定する。本実施形態においては、
図5(b)に示すように、中心軸324の3つの角と、リブ326の位置との間に、振動軸線Oを基準として60度の角度のずれを有するように、中心軸324とリブ326が配置される。
【0027】
板ばね5は、金属の一枚ないし複数枚の板ばねで構成されており、例えば本実施形態ではステンレスの薄板を加工したものを使用している。板ばね5の材料は、金属に限らず樹脂や繊維を含む複合素材であってもよい。また、板ばね5の材料は、耐久性及び可撓性に優れた材料が望ましい。
【0028】
図4に示すように、板ばね5の内周部中心には、錘32の中心軸324が嵌合される多角形の軸孔50が設けられている。例えば、この軸孔50は、120度の間隔で角又は辺がある正三角形であり、角は円弧状に形成される。この軸孔50を利用して、板ばね5は錘32と連結されている。すなわち、正三角形に形成された軸孔50に、同じく正三角形に形成された錘32の中心軸324を挿通することで、板ばね5に対する錘32の位置合わせがなされる。そして、板ばね5の表面から突出した中心軸324が治具によって加熱又は加圧されて押し潰されることで、錘32の表面と板ばね5が重ね合わされた状態で加締められている。板ばね5と錘32との固定手段は加締めに限定されるものではなく、多角形の中心軸324と軸孔50を備えていれば、ねじ止めや接着等の他の方法により固定(連結)することもできる。
【0029】
図4に示すように、板ばね5は、その内周部に設けられた支持部51から外周方向へ渦巻き状に延びる3本の腕部52を有している。各腕部52は振動軸線Oの回りに120度間隔で等間隔に設けられている。各腕部52の外周端は、板ばね5の外周部にケース本体10の内周に沿って設けられた環状の枠部53に連結されている。
【0030】
前記のように本実施形態において、2つの板ばね5は、外周部がケース2に固定され、内周部が可動子4に固定され、可動子4を振動軸線O方向に往復動可能に支持するように設けられている。2つの板ばね5は、可動子4の中心から等距離の離間した箇所に、対称形に設けられているこれら2つの板ばね5の各腕部52の渦巻き方向は互いに逆方向になっている。これにより、アクチュエータの振動時において、可動子4は、2つの板ばね5から各々逆方向のトルクを受けるため、振動軸線O方向に往復動しても、振動軸線O回りに回転しない。
【0031】
図3及び
図4に示すように、円筒状をしたケース本体10の端面には、ケース本体10の径方向内側に突出したフランジ部14が設けられ、このフランジ部14に振動軸線O方向に伸びる3本の突起部15が120度間隔で設けられている。板ばね5の外周の枠部53には、突起部15が挿入される3つの貫通孔54が120度間隔で設けられている。この場合、
図5(a)に示すように、錘32の三角形をした中心軸324の3つの角及び板ばね5に設けられた三角形の軸孔50の3つの角と、板ばね5に設けられた3つの貫通孔54の位置との間に、振動軸線Oを基準として30度の角度のずれを有するように、板ばね5の軸孔50と3つの貫通孔54が配置される。
【0032】
本実施形態では、
図7(a)に示すように、無負荷状態において平板状の板ばね5を、振動軸線O方向に対して外向きに撓むように固定するため、ケース2と可動子4の高さ(振動軸線方向の長さ)を変えている。すなわち、
図7(c)に示すように、可動子4の振動軸線O方向の端面を板ばね5の内周部の取付面とすると、この可動子4の端面から対称面Sまでの距離をL1とする。一方、ケース本体10の端面に設けられたフランジ部14の表面を板ばね5の外周部の取付面とすると、フランジ14の表面から対称面Sまでの距離をL2とする。そして、ケース2と可動子4の高さをL1>L2となるように設定する。つまり、可動子4の中心から板ばね5と可動子4との固定位置間の距離L1と、可動子4の中心から板ばね5とケース2との固定位置間の距離L2が、可動子4の両側に配置された2本の板ばね5において等しく異なっている。なお、板ばね5の撓む方向に関して、「外向き」とは、板ばね5の内周部中心が凸状になるように、ケース本体10の開口部側に、弓なりに曲がることを意味する。一方、「内向き」とは、板ばね5の内周部中心が凹状になるように、可動子4の中心側に弓なりに曲がることを意味する。
【0033】
ケース2と可動子4の高さをL1>L2とした状態において、ケース2と可動子4に平板状の板ばね5が固定されている。具体的には、板ばね5の内周部は、板ばね5に形成された軸孔50に、錘32の中心軸324を挿通し、板ばね5の外周部は、板ばね5に形成された貫通孔54に、ケース本体10に設けられた突起部15を挿通した状態では、
図7(b)に示すように、板ばね5の内周部は、可動子4の端面に当接する。しかし、L1>L2であるため、平板状の板ばね5は、板ばね5の内周部が可動子4の端面に当接すると、板ばね5の外周部は、ケース本体10の端面に達せず、離間した状態となる。なお、組立前後のケース本体、錘、板ばね及び制振部材の様子を説明するため、
図7において、(a)組み合わせ前の状態、(b)組み合わせ時の状態、(c)固定後の状態を示す断面図を用いているが、実際の製品の組立時には、
図7(c)の状態に固定されればよく、必ずしも
図7(b)の状態を経由する必要はない。
【0034】
この状態で、板ばね5の表面から突出した中心軸324が治具によって加熱又は加圧されて押し潰されることで、可動子4の表面と板ばね5が重ね合わされた状態で加締められる。一方、ケース本体10に設けられた各突起部15が各貫通孔54に挿入された状態で、板ばね5の外周部をフランジ14の表面と密着するように押圧しながら、各突起部15の先端が治具を用いて加熱又は加圧し、押し潰すことにより、ケース本体10の端面に板ばね5の外周部が重ね合わされた状態で加締められる。ケース本体10と板ばね5の外周部との固定手段は加締めに限定されるものではなく、ねじ止めや接着等の他の方法により固定することもできる。
【0035】
このように構成されたケース2と可動子4の高さL1>L2の関係により、板ばね5は、ケース2と可動子4に固定された状態においては、
図7(c)に示すように、内周部が外周部よりも振動軸線O方向に対して外向きに撓んでいる。すなわち、無負荷状態において平板状の2本の板ばね5は、ケース2と可動子4に取り付けられた状態において、振動軸線O方向に対して外向きに撓んだ状態で固定される。そのため、2本の板ばね5の弾性力により可動子4に対して内向きの付勢力が働く。このため、可動子4の静止状態において、2本の板ばね5は、可動子4を振動軸線O方向の内側に引っ張り、可動子4の中心を基準として同一方向に付勢し、可動子4は振動軸線O方向の中央に位置する。なお、「付勢」とは、板ばね5にエネルギが蓄積されている状態、つまり無負荷状態時と比較して形状が変形している状態をいう。また、無負荷状態とは板ばね5にエネルギが蓄積されていない状態、つまり形状が変形していない状態をいう。
【0036】
このように構成された板ばね5は、振動軸線O方向及び対称面Sの面方向において所定の範囲で弾性変形可能である。なお、この所定の範囲は、振動アクチュエータ1として通常に使用した場合の可動子4の振幅範囲に相当する。従って、所定の範囲は、少なくとも板ばね5がケース2に接触しない範囲であり、板ばね5の弾性変形の限界を超えない範囲である。
【0037】
本実施形態において、板ばね5には、その振動特性を制御する制振部材41が設けられている。制振部材41は、
図3に示すように、板ばね5の支持部51から各腕部52の一定の範囲までの形状に沿った外形の板状をなし、板ばね5の一面に固定されている。制振部材41は、板ばね5上に積層された、接着剤でなる第1接着層と、PE(ポリエチレン)でなるPE層と、接着剤でなる第2接着層と、エラストマでなるエラストマ層とからなっている。エラストマとしては、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)が適切であるが、これに限定するものではない。制振部材41の弾性変形、具体的には、PE層や接着剤層のずり変形、エラストマ層の曲げ変形により、板ばね5の制振を行う。制振部材41と板ばね5との固定手段は、上記の接着によるものに限定されず、樹脂製の制振部材41を板ばね5に熱溶着する等、その他の固定手段を用いてもよい。
【0038】
[1-2.実施形態の作用]
以上のように構成された振動アクチュエータ1は、コイル21に通電していない状態において、
図2に示すように、可動子4が、2本の板ばね5により可動子4の中心を基準として同一方向に付勢され、振動軸線O方向の中央に位置している。すなわち、
図7(c)に示すように、ケース2と可動子4に取り付けられた状態において、2本の板ばね5は、振動軸線Oに対して外向きに撓むように配置されている。そのため、可動子4の静止状態において、可動子4は、2本の板ばね5により可動子4の中心を基準として内向きに付勢される。2本の板ばね5は可動子4の振動軸線O方向に対する可動子4の中心から等距離の離間した箇所に設けられているため、可動子4には2本の板ばね5から均等に付勢力が加わる。その結果、可動子4の静止状態において、可動子4は、振動軸線O方向の中央に位置する。
【0039】
可動子4を振動させる際には、ターミナル13を介して、コイル21に、交互に逆極性の磁界を発生する向きに交流を通電させる。すなわち、コイル21の隣り合う部分に同極が発生するようになっている。例えば、
図6に示す極性の場合、可動子4には実線矢印Aで示す振動軸線O方向の他側(
図6における下方)への推力が発生し、コイル21へ流す電流を反転させれば、可動子4には点線矢印Bで示す振動軸線O方向の一側(
図6における上方)への推力が発生する。このように、コイル21に交流を通電させれば、可動子4は板ばね5による付勢力を両側から受けながら、振動軸線Oに沿って均等に振幅する。
【0040】
[1-3.実施形態の効果]
(1)本実施形態における振動アクチュエータ1によれば、2本の板ばね5は、可動子4の振動軸線O方向に対する可動子4の中心から等距離の離間した箇所に設けられ、可動子4の静止状態において、可動子4をその中心を基準として同一方向、すなわち2つの板ばね5が可動子4をその中心方向に付勢している。
図10に示すように、従来の技術では、無負荷状態において平板状の2本の板ばね5を、ケース2と可動子4に固定された状態において、内周部と外周部が振動軸線O方向に対して同位置の平板状となるように固定していた。そのため、板ばね5は単にケース2と可動子4に固定されているにすぎず、板ばね5は重力などの影響を受け、可動子の静止状態において、一定の方向に撓んでしまい、可動子4を振動軸線Oの中心に位置させることができなかった。本発明では、可動子4の静止状態において、可動子4を振動軸線Oの中心に位置することができるため、アクチュエータを駆動した時に、可動子4の振幅を均一にすることが可能となり、優れた振動特性を得ることができる。
【0041】
(2)本実施形態における振動アクチュエータ1は、2本の板ばね5が、ケース2と可動子4に固定された状態において、振動軸線O方向に対して外向きの同一方向に撓んでいるため、板ばね5の弾性力により可動子4を振動軸線Oの中心に配置することが可能となる。そのため、振動アクチュエータ1に外部から衝撃が加わった場合でも、可動子4を振動軸線Oの中心に保つことが可能となり、耐衝撃性が向上する。また、振動アクチュエータ1が傾いた場合でも、可動子4を振動軸線Oの中心に配置することができるので、摺動音などによる異音発生を抑制することができる。
【0042】
(3)無負荷状態において平板状の板ばね5を、外向きに撓むように固定するため、ケース2と可動子4の高さを変えている。つまり、可動子4の高さが高いと板ばね5は外向きに突出し、ケース2の高さの方が高いと板ばね5は内向きに凹んだ状態になる。そのため、板ばね5は、無負荷状態において平板状でよいため、プレスによる打ち抜きが容易である。また、板ばね5に表裏がなかった場合、どちら側からケース2や可動子4に固定してもよいので、板ばね5の方向管理が不要で自動化に適している。
【0043】
(4)本実施形態における振動アクチュエータ1は、可動子4に錘32を設けることにより、錘32と板ばね5の成分から導かれる固有共振周波数で、大きな振動出力が得られる。
【0044】
[2.第2実施形態]
第2実施形態は、ケース2と可動子4に取り付けられた状態において、板ばね5が、振動軸線O方向に対して内向きに撓んでいる構成である。第2実施形態は、ケース2と可動子4の高さが第1実施形態と異なり、他の構成は第1実施形態と同一の構成である。以下、第1実施形態と同一の構成の説明は省略し、ケース2と可動子4の高さについて説明する。
【0045】
本実施形態では、
図8(a)に示すように、無負荷状態において平板状の板ばね5を、振動軸線O方向に対して内向きに撓むように固定するため、第1実施形態とは逆に、ケース2と可動子4の高さをL1<L2となるように設定する。
【0046】
ケース2と可動子4の高さをL1<L2とすると、板ばね5を可動子4とケース本体10に組み合わせた状態では、
図8(b)に示すように、板ばね5の内周部は、可動子4の表面から離間した状態となる。その状態で、
図8(c)に示すように、板ばね5の内周部を可動子4の表面に向かって押圧しながら、中心軸324と各突起部15の先端を治具を用いて加熱又は加圧し、押し潰すことにより、可動子4の表面に板ばね5を重ね合わせた状態で、加締められる。
【0047】
このように構成されたケース2と可動子4の高さL1<L2の関係により、板ばね5は、ケース2と可動子4に固定された状態において、内周部が外周部よりも振動軸線O方向に対して内向きに撓んでいる。すなわち、無負荷状態において平板状の2本の板ばね5は、ケース2と可動子4に取り付けられた状態において、振動軸線O方向に対して内向きに撓んだ状態で固定される。このように構成された第2実施形態では、2本の板ばね5の弾性力により可動子4に対して外向きの付勢力が働く。このため、可動子4の静止状態において、2本の板ばね5は、可動子4を振動軸線O方向の外側に引っ張り、可動子4の中心を基準として同一方向に付勢し、可動子4は振動軸線O方向の中央に位置する。
【0048】
第2実施形態における振動アクチュエータ1は、可動子4の上下の端部がケース2の縁よりも低い位置に来るため、可動子4や板ばね5の周方向の中心部がケース本体10の端部から突出することがなく、ケース本体10によって確実に保護される利点がある。
【0049】
[3.第3実施形態]
第3実施形態は、可動子4の中心から板ばね5と可動子4との固定位置間の距離L1と、可動子4の中心から板ばね5とケース2との固定位置間の距離L2が、2本の板ばね5において等しいものである。また、板ばね5は、板ばね5単体に対する無負荷状態において、内周部と外周部が振動軸線O方向に対して異なる位置にあり、ケース2と可動子4に固定された状態において、内周部と外周部が振動軸線O方向に対して同位置の平板状の構成である。
【0050】
第3実施形態に用いる板ばね5は、
図9(a)に示すように、無負荷状態において、内周部と外周部が振動軸線O方向に対して異なる位置にある。例えば本実施形態ではステンレスの薄板を加工して、無負荷状態において凸状又は凹状の山型の板ばね5となるように加工する。
【0051】
無負荷状態において凸状又は凹の板ばね5を、ケース2と可動子4に固定された状態において、内周部と外周部が振動軸線O方向に対して同位置の平板状の構成にするため、第3実施形態では、ケース2と可動子4の高さL1,L2をL1=L2と等しく固定する。つまり、可動子4の中心から板ばね5と可動子4との固定位置間の距離L1と、可動子4の中心から板ばね5とケース2との固定位置間の距離L2が、2本の板ばね5において等しくなっている。
【0052】
ケース2と可動子4の高さをL1=L2とした状態において、
図9(b)に示すように、ケース2と可動子4に板ばね5を組み合わせると、板ばね5の内周部は、可動子4の端面に対して離間した状態となる。
【0053】
この状態で、
図9(c)に示すように、板ばね5の内周部を押圧しながら、可動子4の端面とケース本体10のフランジ部14の表面に板ばね5を平板状に重ね合わせて加締めて固定する。
【0054】
このように構成された第3実施形態では、平板状に圧縮された2本の板ばね5の弾性力により可動子4に対して外向きの付勢力が働く。可動子4の静止状態において、2本の板ばね5は、可動子4を振動軸線O方向の外側に引っ張り、可動子4の中心を基準として同一方向に付勢するため、可動子4は振動軸線O方向の中央に位置する。
【0055】
第3実施形態における振動アクチュエータ1は、板ばね5をあらかじめ外反りの山型にプレスしておくため、ケース2と可動子4の高さL1,L2は等しい等しいので、両者の製造、或いは組み立て時における管理は簡単である。また、板ばね5の表裏の向きが分かり易くなる。
なお、第3実施形態は、板ばね5をあらかじめ外反りに変形させたが、内反りに変形させてもよい。その場合、第2実施形態と同様に、可動子4を振動軸線O方向の外側に引っ張るように機能する。
【0056】
[4.他の実施形態]
以上のように、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、発明の範囲を限定することを意図しておらず、以下に列記するように、発明の要旨を逸脱しない範囲で、そのほかの様々な形態で実施されることが可能であり、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。そして、これら実施形態、それらの組合せ、更にはそれらの変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。以下は、本発明に包含される実施形態の例である。
【0057】
(1)例えば、上記実施形態では、ケース2と可動子4の高さを変えているが、ケース2と可動子4の高さは変えずに、ケース2と板ばね5の間又は可動子4と板ばね5の間に別部材を挿入させることにより、2本の板ばね5の固定位置を変え、板ばね5の弾性力により可動子4を付勢するようにしてもよい。
【0058】
(2)上記実施形態では、可動子4を支持する板ばね5は、渦巻き状の腕部52を有するが、その他の板ばねを用いてもよい。例えば、曲線だけでなく直線を組み合わせた変則的な渦巻き状、十字状や卍状の板ばねを用いてもよい。この場合、インナーガイドも板ばねの形状に沿った形状とすることが望ましい。
【0059】
(3)上記実施形態のケース2は円筒状をなしており、可動子4は略円柱状をなしているが、ケース及び可動子の形状はこれに限られるものではなく、多角形やその他の形状であってもよい。
【0060】
(4)上記実施形態では、板ばね5は制振部材41を有しているが、必ずしも制振部材を有していなくてもよい。
【0061】
(5)ポールピース31と錘32とを一体化するには、
図2のように、ポールピース31の貫通孔311に錘32の中央突起部321を挿入する代わりに、
図11に示すように、ポールピース31に中央突起部319を設け、錘32に凹部329を設けて、凹部329内に中央突起部319を挿入、圧入或いは嵌合することもできる。
【符号の説明】
【0062】
1 振動アクチュエータ
2 ケース
3 ケース側電磁駆動部
4 可動子
5 板ばね
11 カバーケース
12 インナーガイド
13 ターミナル
14 フランジ部
15 突起部
20 ヨーク
21 コイル
30 マグネット
31 ポールピース
32 錘
322 円柱部
324 中心軸
41 制振部材
50 軸孔
54 貫通孔