(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022007249
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】筒型リニアモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 41/03 20060101AFI20220105BHJP
【FI】
H02K41/03 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020110095
(22)【出願日】2020-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391002487
【氏名又は名称】学校法人大同学園
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】加納 善明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩介
(72)【発明者】
【氏名】袴田 眞一郎
(72)【発明者】
【氏名】芝原 大智
【テーマコード(参考)】
5H641
【Fターム(参考)】
5H641BB06
5H641BB14
5H641BB18
5H641GG03
5H641GG08
5H641HH02
5H641HH08
5H641HH11
5H641HH14
5H641HH16
(57)【要約】
【課題】推力を向上できる筒型リニアモータの提供である。
【解決手段】上記した目的を達成するため、本発明の筒型リニアモータ1は、軸方向にN極とS極とが交互に配置される筒状の界磁6と、筒状であって界磁6に対向する外周に設けられた環状のスロット4を有するコア3とスロット3に装着される巻線5とを有して界磁6の内方に配置されて界磁6に対して軸方向移動可能な電機子2とを備え、コア3が内周から開口して外周側へ向けて延びる複数の内周スリット3dを備えている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向にN極とS極とが交互に配置される筒状の界磁と、
筒状であって前記界磁に対向する内周或いは外周に設けられた環状のスロットを含むコアと、前記スロットに装着される巻線とを有し、前記界磁の内方或いは外方に配置されて前記界磁に対して軸方向移動可能な電機子とを備え、
前記コアは、
内周から開口して外周側へ向けて延びる複数の内周スリットを有する
ことを特徴とする筒型リニアモータ。
【請求項2】
前記コアは、外周から開口して内周側へ向けて延びる複数の外周スリットを有し、
前記外周スリットと前記内周スリットは、前記コアの周方向において交互に設けられるとともに、前記コアの周方向において重なるように形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の筒型リニアモータ。
【請求項3】
前記外周スリット或いは前記内周スリットの内方に、前記巻線のリード線が収容されている
ことを特徴とする請求項2に記載の筒型リニアモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒型リニアモータに関する。
【背景技術】
【0002】
筒型リニアモータは、スロットを備えた軸方向に並べて配置される複数のティースを外周に持つ筒型のコアとティース間のスロットに装着されるU相、V相およびW相の巻線を有する電機子と、電機子の外周に設けられた円筒形のヨークと軸方向にS極とN極とが交互に並ぶようにベースの内周に取付けられた複数の永久磁石とでなる固定子とを備えるものがある。
【0003】
このように構成された筒型リニアモータでは、電機子のU相、V相およびW相の巻線へ適宜通電すると、電機子が永久磁石に吸引されて電機子が可動子として固定子に対して軸方向へ駆動される(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
このような筒型リニアモータでは、永久磁石を備えた固定子内を電気伝導体であるコアが軸方向に移動するため、コアの移動による磁場の変化を妨げるようにコア内に渦電流が発生する。コアに渦電流が生じると永久磁石に対するコアの移動を妨げる力が発生し、この力は、筒型リニアモータの推力を減じてしまうので、渦電流の発生を抑制することが好ましい。
【0005】
コアの渦電流の発生を抑制する対策として、たとえば、外周から開口して内周側へ延びるスリットを複数備えたコアが提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特願2018-197259号公報
【特許文献2】特開2005-198497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようにコアに外周から開口するスリットを複数形成すると、コアが周方向でスリットによって分断されるため、その部分においてはコアに対して同心円状に発生する渦電流を低減できるが、コアの内周部は周方向で分断されずに連続しているので、内周部に生じる渦電流を低減できない。
【0008】
よって、特許文献2に開示されている筒型リニアモータのコアに外周から開口するスリットを設けても渦電流を十分に低減できないため、筒型リニアモータの推力を向上しがたいという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、推力を向上できる筒型リニアモータの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明の筒型リニアモータは、軸方向にN極とS極とが交互に配置される筒状の界磁と、筒状であって界磁に対向する内周或いは外周に設けられた環状のスロットを有するコアとスロットに装着される巻線とを備えて界磁の内方に配置されて界磁に対して軸方向移動可能な電機子とを備え、コアが内周から開口して外周側へ向けて延びる複数の内周スリットを備えることを特徴とする。
【0011】
このように構成された筒型リニアモータによれば、コアが界磁に対して軸方向に相対移動してもコア内での渦電流の発生を抑制できるので、コアに渦電流が発生するのに起因して推力が減じられるのを防止でき、推力を向上できる。
【0012】
また、筒型リニアモータは、コアが内周スリットに加えて、外周から開口して内周側へ向けて延びる複数の外周スリットを備えていて、外周スリットと内周スリットとがコアの周方向において交互に設けられるとともに、コアの周方向において重なるように形成されていてもよい。
【0013】
このように構成された筒型リニアモータによれば、コアが外周スリットと内周スリットとを備えていてコアが外周から内周まで全範囲に渡って同一円周上で連続せず分断されているので、コアに外周から内周に至る全範囲でコアの周方向で渦電流が発生するのを抑制できる。
【0014】
また、筒型リニアモータにおける外周スリット或いは内周スリットの内方に巻線のリード線が収容されてもよい。このように構成された筒型リニアモータによれば、巻線同士を結線するリード線をコアと界磁との間の狭い隙間に配置しなくて済むので、コアと界磁との径方向距離を短くでき、より一層推力を向上できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の筒型リニアモータによれば、推力を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施の形態における筒型リニアモータの縦断面図である。
【
図2】一実施の形態の筒型リニアモータのコアの拡大縦断面図である。
【
図3】一実施の形態の筒型リニアモータのコアの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態における筒型リニアモータ1は、
図1に示すように、筒状のコア3とコア3の外周に設けられるスロット4に装着される巻線5とを有する電機子2と、筒状であって内方に電機子2が軸方向へ移動自在に挿入されて軸方向にN極とS極とが交互に配置される界磁6とを備えて構成されている。
【0018】
以下、筒型リニアモータ1の各部について詳細に説明する。電機子2は、
図1および
図2に示すように、コア3と巻線5とを備えて構成されている。コア3は、円筒状のヨーク部3aと、環状であってヨーク部3aの外周に軸方向に間隔を空けて設けられる複数のティース3bと、ティース3b,3b間に設けられる複数のスロット4と、コア3の外周であるティース3bの外周端から内周側へ向けて延びてヨーク部3aにまでかけて形成される4つの外周スリット3cと、コア3の周方向で外周スリット3c,3c間に配置されてコア3の内周であるヨーク部3aの内周から開口して外周側へ向けて延びてティース3bにまでかけて形成される4つの内周スリット3dとを備え、電気伝導体である鉄で構成されている。
【0019】
筒状であって前記界磁に対向する内周或いは外周に環状のスロットを有するともに、外周から開口して内周側へ向けて延びる複数の外周スリットと、外周スリット間に配置される内周から開口して外周側へ向けて延びる複数の内周スリットとを具備するコアと、
本実施の形態では、
図1に示すように、ヨーク部3aの外周に7個の環状のティース3bが、軸方向に等間隔に並べて設けられており、ティース3b,3b間に巻線5が装着される空隙でなる6個のスロット4が形成されている。
【0020】
4つの外周スリット3cは、
図2および
図3に示すように、コア3に対して周方向で90度位相差をもって等間隔に設けられていて、外周スリット3cは、
図2および
図3に示すように、コア3の外周であるティース3bの外周端から開口してコア3の直径方向に沿って延びてコア3の内周側のヨーク部3aにまでかけて形成されており、コア3の軸方向ではティース3bを軸方向に貫通している。なお、本実施の形態では、外周スリット3cは、コア3の軸方向に沿って各ティース3bを軸方向に貫くとともに、ヨーク部3aの軸方向一端から他端へ通じている。
【0021】
4つの内周スリット3dは、
図2および
図3に示すように、コア3に対して周方向で90度位相差をもって等間隔に設けられていて、コア3の周方向であって隣り合う2つの外周スリット3c,3c間の中央に配置されている。外周スリット3cもまた、コア3の周方向であって隣り合う内周スリット3d,3d間の中央に配置されている。このように内周スリット3dと外周スリット3cは、コア3の周方向に交互に45度位相差をもって等間隔に設けられている。
【0022】
また、4つの内周スリット3dは、コア3の内周であるヨーク部3aの内周端から開口してコア3の直径方向に沿って延びてコア3の外周側のティース3bにまでかけて形成されており、コア3の軸方向ではティース3bを軸方向に貫通している。なお、本実施の形態では、内周スリット3dは、コア3の軸方向に沿って各ティース3bを軸方向に貫くとともに、ヨーク部3aの軸方向一端から他端へ通じている。
【0023】
本実施の形態の筒型リニアモータ1では、外周スリット3cがヨーク部3aまで形成され、内周スリット3dがティース3bまで形成されると、コア3を周方向に見た際に、外周スリット3cと内周スリット3dとによってコア3の肉が同一円周上で連続せず分断されるようになる。つまり、外周スリット3cと内周スリット3dとがコア3の周方向で互いに重なる位置まで形成されていれば、外周スリット3cと内周スリット3dとでコア3の肉が同一円周上で連続せず分断される。このように、外周スリット3cと内周スリット3dとでコア3の肉が同一円周上で連続せず分断するようにする場合、外周スリット3cの深さ(コア3の外周の開口端からコア3の内周側の終端までの長さ)と内周スリット3dの深さ(コア3の内周の開口端からコア3の外周側の終端までの長さ)を前述のようにコア3の周方向で重なるように設定すればよい。
【0024】
このように構成されたコア3は、前述したように、コア3を外周から内周の範囲で同一円周では必ず分断される構造となるため、コア3の周方向に生じる渦電流の発生を外周から内周に至るまで全範囲で抑制できる。なお、外周スリット3cがヨーク部3aまで形成され、内周スリット3dがティース3bまで形成されると、外周スリット3cと内周スリット3dとを迂回してコア3が連続する部分が周方向で大きく蛇行する格好となるのでコア3の周方向に生じる渦電流の発生をより効果的に抑制できる。また、コア3を軸方向から見たときの外周スリット3cと内周スリット3dの幅については、任意に設定できるが、幅が広くなるとコア3の容積が減少してコア3における磁路断面積が減少しやすくなるので可能な限り狭い方が好ましい。よって、外周スリット3cおよび内周スリット3dの幅は、0.5mm程度とするのが好ましい。
【0025】
なお、外周スリット3cおよび内周スリット3dの設置数は、複数であればよいので、2つ以上設けられればよく、周方向における配置もコア3に対して等間隔でなくともよいが、外周スリット3cおよび内周スリット3dがコア3の周方向に等間隔に設けられていると、界磁6の磁界の作用に対して周方向で偏りがなくなり、コア3に径方向の偏荷重が作用するのを防止できる。また、外周スリット3cおよび内周スリット3dのうち任意の1つについては、コア3の内周から外周に通じるスリットとしてもよい。
【0026】
つづいて、本実施の形態では、
図1中で隣り合うティース3b,3b同士の間には、空隙でなるスロット4が合計で6個設けられていて、スロット4には、巻線5が巻き回されて装着されている。巻線5は、U相、V相およびW相の三相巻線とされている。6個のスロット4には、
図1中左側からW相、U相、V相、W相、U相、V相の順で巻線5が装着されている。
【0027】
また、U相、V相およびW相の巻線5同士は、相毎に巻線5から引き出されるリード線5a同士を結線して直列に接続されており、各相の巻線5の終端のうち一端はリード線5bによって互いに接続され、前記終端のうち他端は図示しない外部電源に接続されるケーブル16に接続されている。そして、巻線5から引き出されるリード線5aは、コア3に設けた外周スリット3c内に収容されて巻線5の内周側に配置される。なお、U相のリード線5a、V相のリード線5aおよびW相のリード線5aは、1つの外周スリット3c内に収容されるのではなく、3つの外周スリット3cに別々に収容されてもよい。このように、各相のリード線5aを異なる外周スリット3c内に別々に収容すれば、異なる相の巻線5に接続されたリード線5aの絶縁が容易となる。
【0028】
また、相毎の各リード線5aは、内周スリット3dに収容されてもよい。なお、図示はしないが、コア3は、それぞれ一つのティース3bを持つように軸方向で分割された複数の環状のコア分割体を積層して形成されてもよい。
【0029】
このように、外周スリット3c内或いは内周スリット3d内に巻線5から引き出されるリード線5aを収容する場合、外周スリット3cおよび内周スリット3dのうちリード線5aを収容するスリットの幅については、リード線5aを収容しないスリットの幅よりも広くしてもよい。なお、外周スリット3cおよび内周スリット3dのうちリード線5aを収容するスリットの幅は、たとえば、3mm程度に設定すればよいが、リード線5aの線径に応じて適宜変更できる。また、外周スリット3cおよび内周スリット3dのうちリード線5aを収容するスリットの深さは、リード線5aを収容しないスリットの深さよりも短くしてもよい。このように、外周スリット3c或いは内周スリット3dのうちリード線5aを収容するスリットの幅を広く設定しても、リード線5aを収容しないスリットよりも深さを浅くすれば、外周スリット3cおよび内周スリット3dの設置によるコア3における磁路断面積の減少を抑制できる。
【0030】
そして、このように構成された電機子2は、出力軸である非磁性体で形成されたロッド11の外周に装着されている。具体的には、電機子2は、その
図1中で左端と右端とがロッド11に固定される環状のスライダ12,13によって保持されて、ロッド11に固定されている。
【0031】
また、本実施の形態では、界磁6は、軸方向に交互に積層されて挿入される環状の主磁極の永久磁石6aと環状の副磁極の永久磁石6bとを備えて構成されて筒状とされている。また、界磁6の外周には筒状のバックヨーク8が装着されている。界磁6とバックヨーク8は、円筒状の非磁性体のアウターチューブ7と、アウターチューブ7内に挿入される円筒状の非磁性体のインナーチューブ9との間に形成される環状隙間に収容されている。
【0032】
なお、
図1中で主磁極の永久磁石6aと副磁極の永久磁石6bに記載されている三角の印は、着磁方向を示しており、主磁極の永久磁石6aの着磁方向は径方向となっており、副磁極の永久磁石6bの着磁方向は軸方向となっている。主磁極の永久磁石6aと副磁極の永久磁石6bは、ハルバッハ配列で配置されており、界磁6の内周側では、軸方向にS極とN極が交互に現れるように配置されている。
【0033】
また、主磁極の永久磁石6aの軸方向長さL1は、副磁極の永久磁石6bの軸方向長さL2よりも長くなっており、本実施の形態では、0.2≦L2/L1≦0.5を満たすように、主磁極の永久磁石6aの軸方向長さL1と副磁極の永久磁石6bの軸方向長さL2が設定されている。主磁極の永久磁石6aの軸方向長さL1を長くすればコア3との間の主磁極の永久磁石6aとの間の磁気抵抗を小さくできコア3へ作用させる磁界を大きくできるので筒型リニアモータ1の質量推力密度を向上できる。
【0034】
また、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、永久磁石6a,6bの外周にバックヨーク8を設けている。バックヨーク8を設けない場合、副磁極の永久磁石6bの軸方向長さL2が短くなると主磁極の永久磁石6aの軸方向中央部分における磁石外部の磁気抵抗が増大し、界磁磁束が小さくなるため、主磁極の永久磁石6aの軸方向長さL1を長くする際の筒型リニアモータ1の推力向上度合が小さくなる。これに対して、永久磁石6a,6bの外周にバックヨーク8を設けると、磁気抵抗の低い磁路を確保できるので副磁極の永久磁石6bの軸方向長さL2の短縮に起因する磁気抵抗の増大が抑制される。よって、主磁極の永久磁石6aの軸方向長さL1を副磁極の永久磁石6bの軸方向長さL2よりも長くするとともに永久磁石6a,6bの外周に筒状のバックヨーク8を設けると筒型リニアモータ1の質量推力密度を大きく向上させ得る。バックヨーク8の肉厚は、主磁極の永久磁石6aの外部磁気抵抗の増大を抑制に適する肉厚に設定されればよい。
【0035】
なお、副磁極の永久磁石6bは、主磁極の永久磁石6aより高い保磁力を有する永久磁石とされている。永久磁石における残留磁束密度と保磁力は、互いに密接に関係しており、一般的に残留磁束密度を高めると保磁力は低くなり、保磁力を高めると残留磁束密度が低くなるという、互いに背反する関係にある。ハルバッハ配列では、副磁極の永久磁石6bには減磁方向に大きな磁界が印加されるため、副磁極の永久磁石6bの保磁力を高くして減磁を抑制し、大きな磁界をコア3に作用させ得るようにしている。対して、コア3に対して作用する磁界の強さは、主磁極の永久磁石6aの磁力線数に左右される。そのため、主磁極の永久磁石6aに高い残留磁束密度の永久磁石を使用して大きな磁界をコア3に作用させるようにしている。本実施の形態では、副磁極の永久磁石6bを主磁極の永久磁石6aよりも保磁力を高くするのに際して、副磁極の永久磁石6bの材料を主磁極の永久磁石6aの材料よりも保磁力が高い材料としている。よって、材料の選定によって、主磁極の永久磁石6aと副磁極の永久磁石6bの組合せを簡単に実現できる。なお、本実施の形態では、主磁極の永久磁石6aは、ネオジム、鉄、ボロンを主成分とする残留磁束密度が高い材料で構成され、副磁極の永久磁石6bは、前記材料にジスプロシウムやテリビウム等の重希土類元素の添加量を増やした減磁しにくい磁石で構成されている。
【0036】
また、固定子の内周側には、コア3が挿入されており、界磁6は、コア3に磁界を作用させている。なお、界磁6は、コア3の可動範囲に対して磁界を作用させればよいので、コア3の可動範囲に応じて永久磁石6a,6bの設置範囲を決定すればよい。したがって、アウターチューブ7とインナーチューブ9との環状隙間のうち、コア3に対向し得ない範囲には、永久磁石6a,6bを設置しなくともよい。なお、界磁6は、本実施の形態ではハルバッハ配列で積層される永久磁石6a,6bで構成されているが、内周にN極とS極とが交互に現れればよいので、ハルバッハ配列以外の配列で積層される永久磁石で構成されてもよい。
【0037】
また、アウターチューブ7、バックヨーク8およびインナーチューブ9の
図1中左端はキャップ14によって閉塞されており、アウターチューブ7、バックヨーク8およびインナーチューブ9の
図1中右端は環状のヘッドキャップ15によって閉塞されている。
【0038】
インナーチューブ9の内周には、スライダ12,13が摺接しており、スライダ12,13によって電機子2はロッド11とともに界磁6に対して偏心せずに軸方向へスムーズに移動できる。インナーチューブ9は、コア3の外周と各永久磁石10a,10bの内周との間のギャップを形成するとともに、スライダ12,13と協働してコア3の軸方向移動を案内する役割を果たしている。なお、インナーチューブ9は、非磁性体で形成されればよいが、合成樹脂で形成されると筒型リニアモータ1の推力密度向上効果が高くなる。インナーチューブ9を非磁性体の金属で製造すると、電機子2が軸方向へ移動する際にインナーチューブ9の内部に渦電流が生じて、電機子2の移動を妨げる力が発生してしまう。これに対して、インナーチューブ9を合成樹脂とすれば渦電流が生じないので筒型リニアモータ1の推力をより効果的に向上できるとともに、筒型リニアモータ1の質量を低減できる。なお、インナーチューブ9を合成樹脂とする場合、フッ素樹脂で製造すればスライダ12,13との間の摩擦および摩耗を低減できる。また、インナーチューブ9を他の合成樹脂で形成してもよく、また、摩擦および摩耗を低減するべく他の合成樹脂で形成されたインナーチューブ9の内周をフッ素樹脂でコーティングしてもよい。
【0039】
なお、キャップ14には、巻線5に接続されるケーブル16を外部の図示しない電源に接続するコネクタ14aを備えており、外部電源から巻線5へ通電できるようになっている。また、アウターチューブ7、バックヨーク8およびインナーチューブ9の軸方向長さは、コア3の軸方向長さよりも長く、コア3は、界磁6内の軸方向長さの範囲で
図1中左右へストロークできる。
【0040】
そして、たとえば、巻線5の界磁6に対する電気角をセンシングし、前記電気角に基づいて通電位相切換を行うとともにPWM制御により、各巻線5の電流量を制御すれば、筒型リニアモータ1における推力と電機子2の移動方向とを制御できる。なお、前述の制御方法は、一例でありこれに限られない。このように、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、電機子2が可動子であり、界磁6は固定子として振る舞う。また、電機子2と界磁6とを軸方向に相対変位させる外力が作用する場合、巻線5への通電、あるいは、巻線5に発生する誘導起電力によって、前記相対変位を抑制する推力を発生させて筒型リニアモータ1に前記外力による機器の振動や運動をダンピングさせ得るし、外力から電力を生むエネルギ回生も可能である。
【0041】
以上のように、本発明の筒型リニアモータ1は、軸方向にN極とS極とが交互に配置される筒状の界磁6と、筒状であって界磁6に対向する外周に設けられた環状のスロット4を有するコア3とスロット3に装着される巻線5とを有して界磁6の内方に配置されて界磁6に対して軸方向移動可能な電機子2とを備え、コア3が内周から開口して外周側へ向けて延びる複数の内周スリット3dを備えている。このように構成された筒型リニアモータ1では、巻線5に通電して界磁6に対して電機子2を軸方向へ駆動する場合、電気伝導体であるコア3が界磁6に対して相対移動するが、コア3が内周スリット3dを備えているので、内周スリット3dが設けられている範囲ではコア3が同一円周上で連続せず分断されるため、コア3の周方向で渦電流が発生するのを抑制できる。よって、このように構成された筒型リニアモータ1によれば、コア3が界磁6に対して軸方向に相対移動してもコア3内での渦電流の発生を抑制できるので、コア3に渦電流が発生するのに起因して推力が減じられるのを防止でき、推力を向上できる。
【0042】
また、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、コア3が内周スリット3dに加えて、外周から開口して内周側へ向けて延びる複数の外周スリット3cを備えており、外周スリット3cと内周スリット3dとがコア3の周方向において交互に設けられるとともに、コア3の周方向において重なるように形成されている。
【0043】
このように構成された筒型リニアモータ1によれば、コア3が外周スリット3cと内周スリット3dとを備えていてコア3が外周から内周まで全範囲に渡って同一円周上で連続せず分断されるので、コア3に外周から内周に至る全範囲でコア3を周方向で一周するように生じる渦電流の発生をも抑制できる。よって、このように構成された筒型リニアモータ1によれば、コア3が界磁6に対して軸方向に相対移動してもコア3内での渦電流の発生をより効果的に抑制できるので、コア3に渦電流が発生するのに起因して推力が減じられるのを防止でき、より効果的に推力を向上できる。
【0044】
また、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、外周スリット3c或いは内周スリット3dの内方に巻線5のリード線5aが収容されている。このように構成された筒型リニアモータ1では、巻線5同士を結線するリード線5aがコア3の外周スリット3c内或いは内周スリット3d内に収容されるので、リード線5aがコア3と界磁6との間の狭い隙間に配置しなくて済むので、コア3と界磁6との径方向距離を短くできる。よって、筒型リニアモータ1によれば、コア3において磁気飽和が生じにくくなるので、より一層推力を向上できる。
【0045】
なお、外周スリット3cおよび内周スリット3dは、
図1から
図3に示したところでは、コア3の直径方向に沿って直線形状で形成されているが、コア3の直径方向に対して斜めに傾斜する方向へ沿って形成されたり、コア3を軸方向から見て円弧状や途中で屈曲する形状等とされてもよい。コア3の周方向に沿った渦電流の発生を抑制するには、コア3が周方向の同一円周上で外周スリット3cと内周スリット3dとで連続せずに分断されればよい。したがって、本実施の形態の筒型リニアモータ1のように、外周スリット3cおよび内周スリット3dがコア3の直径方向に沿って直線形状で形成すると、外周スリット3cにおけるコア3の外周の開口から内周側端までの長さおよび内周スリット3dにおけるコア3の内周の開口から外周側端までの長さが短くて済む。外周スリット3cと内周スリット3dの長さが短くなれば、外周スリット3cと内周スリット3dを設けてもコア3の体積の減少を低減できるので、磁路断面積を確保しやすくなり、筒型リニアモータ1の推力の向上に有利となる。
【0046】
なお、コア3の外周スリット3cおよび内周スリット3dは、空隙とされているが、外周スリット3c内および内周スリット3d内を絶縁体で埋めてもよい。
【0047】
また、前述した筒型リニアモータ1では、界磁6の内周側に電機子2が設けられているが、筒型リニアモータを界磁の外周に筒状の電機子を設ける構造としてもよい。この場合は、コアは、筒状のヨークと、ヨークの内周に設けた複数のティースと、ヨークの外周からティースにかけて形成される外周スリット或いはティースの内周からヨークにかけて形成される内周スリット、または、外周スリットと内周スリットの両方を備えていればよい。このようにしても、コアの同一円周上に生じる渦電流の発生を抑制でき、外周スリットと内周スリットとコアの周方向で重なるように形成すればコアの同一円周上でコアの連続を分断でき、界磁に対してコアが軸方向に移動する際のコア内での渦電流の発生を効果的に抑制でき、筒型リニアモータの推力を向上できる。
【0048】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1・・・筒型リニアモータ、2・・・電機子、3・・・コア、3c・・・外周スリット、3c・・・内周スリット、4・・・スロット、5・・・巻線、5a,5b・・・リード線、6・・・界磁