(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072516
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】幹細胞の検出装置、幹細胞の検出システム、幹細胞の検出方法および幹細胞の検出プログラム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20220510BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
C12M1/34 B
C12Q1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020181994
(22)【出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮地 克真
(72)【発明者】
【氏名】眞田 歩美
(72)【発明者】
【氏名】堀田 美佳
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴亮
(72)【発明者】
【氏名】浦田 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 統
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 靖司
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB11
4B029FA15
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS36
4B063QS39
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】幹細胞を非侵襲的に検出することや簡易に精度良く検出すること。
【解決手段】幹細胞の検出装置が提供される。幹細胞の検出装置は、細胞を含む対象物の3次元画像データを取得する画像データ取得部と、3次元画像データおよび予め定められた幹細胞の形態特徴量を用いて対象物に含まれる幹細胞を検出する幹細胞検出部と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞の検出装置であって、
細胞を含む対象物の3次元画像データを取得する画像データ取得部と、
前記3次元画像データおよび予め定められた幹細胞の形態特徴量を用いて前記対象物に含まれる幹細胞を検出する幹細胞検出部と、を備える検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の検出装置において、
前記形態特徴量は、細胞の縦寸法と横寸法との比、および、細胞の面積の少なくともいずれか一方であり、
前記幹細胞検出部は、前記3次元画像データに含まれる細胞の縦寸法と横寸法との比、および、細胞の面積の少なくともいずれか一方を決定し、決定された前記縦寸法と横寸法との比、および面積の少なくともいずれか一方に対応する前記形態特徴量を用いて幹細胞を検出する、検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の検出装置において、
前記対象物は皮膚であり、
前記画像データ取得部は、前記皮膚の深さ方向に連続する複数の断層画像データを前記3次元画像データとして取得する、検出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の検出装置において、
前記幹細胞検出部は、前記複数の断層画像データに含まれる細胞の形態を特定し、特定した前記細胞の形態を用いて、前記3次元画像データに含まれる細胞の縦寸法と横寸法との比(縦寸法/横寸法)、および細胞の面積の少なくともいずれか一方を決定し、決定された前記縦寸法と横寸法との比、および面積の少なくともいずれか一方に対応する前記形態特徴量を用いて幹細胞を検出する、検出装置。
【請求項5】
請求項4に記載の検出装置において、
前記幹細胞検出部は、前記複数の断層画像データのそれぞれにおいて細胞膜に相当する複数の点群を特定し、特定した複数の点群を用いて前記皮膚の基底膜に接する前記細胞の形態を特定する、検出装置。
【請求項6】
請求項5に記載の検出装置において、
前記幹細胞検出部は、特定した前記細胞の形態において、前記基底膜に対して垂直な方向を第1軸とし、前記第1軸の長さを縦寸法として取得し、前記第1軸と直交する第2軸の長さを横寸法として取得する、検出装置。
【請求項7】
請求項2から請求項6のいずれか一項に記載の検出装置において、
前記細胞の面積は90~180μm2である、検出装置。
【請求項8】
請求項2から請求項7のいずれか一項に記載の検出装置において、
幹細胞は、楕円体形状を有しており、
前記細胞の縦寸法と横寸法との比(縦寸法/横寸法)は、1.4~2.4である、検出装置。
【請求項9】
幹細胞を検出するための検出システムであって、
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の検出装置と、
前記3次元画像データを撮像する撮像装置と、
前記検出装置により検出された幹細胞の検出結果を出力する出力装置と、
を備える、検出システム。
【請求項10】
幹細胞の検出方法であって、
細胞を含む対象物の3次元画像データを取得し、
前記3次元画像データおよび予め定められた幹細胞の形態特徴量を用いて前記対象物に含まれる幹細胞を検出すること、を備える検出方法。
【請求項11】
幹細胞を検出する検出プログラムであって、
細胞を含む対象物の3次元画像データを取得するための機能と、
前記3次元画像データおよび予め定められた幹細胞の形態特徴量を用いて前記対象物に含まれる幹細胞を検出するための機能と、をコンピュータによって実現させる、検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、幹細胞の検出技術に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞の解析に際しては、生検を採取し、染色処理を行った上で解析する方法が一般的に用いられている。人の表皮にも幹細胞は含まれており、人の表皮は表皮幹細胞の増殖と分化によって周期的に細胞が生まれ変わるターンオーバーにより恒常性が維持されている。表皮幹細胞は加齢や紫外線による光老化の影響によって数が減少していくことが知られている。表皮幹細胞の減少は、表皮の菲薄化やターンオーバーの遅延、恒常性異常の原因となり、しわやくすみといった老化症状を誘発する。従来、表皮幹細胞を検出し、解析する方法として、生検を採取して解析する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2018/074606号
【0004】
しかしながら、生検の採取は、採取部位における侵襲性が高いという問題や、抗体を用いる生検の染色は時間を要し、また、安定性に欠けるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、幹細胞を非侵襲的に検出することや簡易に精度良く検出することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の少なくとも一部を解決するために、本開示は以下の種々の態様を採る。
【0007】
第1の態様は、幹細胞の検出装置を提供する。第1の態様に係る検出装置は、細胞を含む対象物の3次元画像データを取得する画像データ取得部と、前記3次元画像データおよび予め定められた幹細胞の形態特徴量を用いて前記対象物に含まれる幹細胞を検出する幹細胞検出部と、を備える。
【0008】
第1の態様に係る検出装置によれば、対象物の3次元画像データおよび予め定められた幹細胞の形態特徴量を用いて対象物に含まれる幹細胞を検出するので、幹細胞を非侵襲的に検出することや簡易に精度良く検出することができる。
【0009】
第1の態様に係る検出装置において、前記形態特徴量は、細胞の縦寸法と横寸法との比、および、細胞の面積の少なくともいずれか一方であり、前記幹細胞検出部は、前記3次元画像データに含まれる細胞の縦寸法と横寸法との比、および、細胞の面積の少なくともいずれか一方を特定し、対応する前記形態特徴量を用いて幹細胞を検出しても良い。この場合には、幹細胞の検出を簡易に実行できると共に、検出精度を向上させることができる。
【0010】
第1の態様に係る検出装置において、前記対象物は皮膚であり、前記画像データ取得部は、前記皮膚の深さ方向に連続する複数の断層画像データを前記3次元画像データとして取得しても良い。この場合には、皮膚に含まれる細胞の形態と幹細胞の形態特徴量との対比を効率良く実行することができる。
【0011】
第1の態様に係る検出装置において、前記幹細胞検出部は、前記複数の断層画像データに含まれる細胞の形態を特定し、特定した前記細胞の形態を用いて、前記3次元画像データに含まれる細胞の縦寸法と横寸法との比(縦寸法/横寸法)、および細胞の面積の少なくともいずれか一方を決定し、決定された前記縦寸法と横寸法との比、および面積の少なくともいずれか一方に対応する前記形態特徴量を用いて幹細胞を検出しても良い。この場合には、幹細胞の検出精度を更に向上させることができる。
【0012】
第1の態様に係る検出装置において、前記幹細胞検出部は、前記複数の断層画像データのそれぞれにおいて細胞膜に相当する複数の点群を特定し、特定した複数の点群を用いて前記皮膚の基底膜に接する前記細胞の形態を特定しても良い。また、第1の態様に係る検出装置において、特定した前記細胞の形態において、前記基底膜に対して垂直な方向を第1軸とし、前記第1軸の長さを縦寸法として取得し、前記第1軸と直交する第2軸の長さを横寸法として取得しても良い。この場合には、細胞の形態を簡易に特定することができる。
【0013】
第1の態様に係る検出装置において、前記細胞の面積は90~180μm2であっても良い。この面積の範囲は、幹細胞の形態特徴量を示しており、幹細胞の検出精度を向上させることができる。
【0014】
第1の態様に係る検出装置において、幹細胞は、楕円体形状を有しており、前記細胞の縦寸法と横寸法との比(縦寸法/横寸法)は、1.4~2.4であっても良い。この縦横比の範囲は、楕円体形状の幹細胞の形態特徴量を示しており、幹細胞の検出精度を向上させることができる。
【0015】
第2の態様は、幹細胞を検出するための検出システムを提供する。第2の態様に係る検出システムは、第1の態様に係る検出装置と、前記3次元画像データを撮像する撮像装置と、前記検出装置により検出された幹細胞の検出結果を出力する出力装置と、を備える。第2の態様に係る検出システムによれば、対象物の3次元画像データおよび予め定められた幹細胞の形態特徴量を用いて対象物に含まれる幹細胞を検出するので、幹細胞を非侵襲的に検出することや簡易に精度良く検出することができる。
【0016】
第3の態様は、幹細胞の検出方法を提供する。第3の態様に係る検出方法は、細胞を含む対象物の3次元画像データを取得し、前記3次元画像データおよび予め定められた幹細胞の形態特徴量を用いて前記対象物に含まれる幹細胞を検出すること、を備える。
【0017】
第3の態様に係る検出方法によれば、対象物の3次元画像データおよび予め定められた幹細胞の形態特徴量を用いて対象物に含まれる幹細胞を検出するので、幹細胞を非侵襲的に検出することや簡易に精度良く検出することができる。
【0018】
第4の態様は、幹細胞を検出する検出プログラムを提供する。第4の態様に係る検出プログラムは、細胞を含む対象物の3次元画像データを取得するための機能と、前記3次元画像データおよび予め定められた幹細胞の形態特徴量を用いて前記対象物に含まれる幹細胞を検出するための機能と、をコンピュータによって実現させる。
【0019】
第4の態様に係る検出プログラムによれば、対象物の3次元画像データおよび予め定められた幹細胞の形態特徴量を用いて対象物に含まれる幹細胞を検出するので、幹細胞を非侵襲的に検出することや簡易に精度良く検出することができる第4の態様に係る検出プログラムは、コンピュータ読み取り可能な媒体、たとえば、CD、DVD、ブルーレイディスク、半導体メモリに格納されていても良い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1の実施形態に係る検出装置および検出システムの一例を示す説明図。
【
図2】第1の実施形態に係る検出装置を機能部によって示す説明図。
【
図3】第1の実施形態に係る検出装置の機能的な内部構成を示すブロック図。
【
図4】免疫組織化学染色法を用いて得られる顕微鏡細胞画像の一例を示す説明図。
【
図5】第1の実施形態において用いられる幹細胞と非幹細胞の各種形態を示す説明図。
【
図6】第1の実施形態において用いられる幹細胞の形態特徴量を特定するために用いられた条件の一例を示す説明図。
【
図7】面積に関する予測幹細胞存在率と実測値との比較結果の一例を示す説明図。
【
図8】縦横比に関する予測幹細胞存在率と実測値との比較結果の一例を示す説明図。
【
図9】面積および縦横比の組み合わせに関する予測幹細胞存在率と実測値との比較結果の一例を示す説明図。
【
図10】第1の実施形態に係る検出装置によって実行される幹細胞検出処理の各処理ステップを示すフローチャート。
【
図11】撮像装置により得られた3次元画像データの概念を示す説明図。
【
図12】第1の実施形態における細胞の形態特定の手法を示す説明図。
【
図13】第1の実施形態に係る検出装置を用いて得られた年代別の表皮幹細胞の予測幹細胞存在率の分布を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
従来、組織内部の幹細胞を解析する方法として、例えば、皮膚組織を採取し、薄切化した後、表皮幹細胞特異的に発現するマーカータンパク質に対する抗体を用いて免疫組織化学染色を行い、皮膚内部の表皮幹細胞を解析する方法が一般的に知られている。しかしながら、生検の採取を伴うため侵襲性が高く、染色に用いる抗体は高価であり、免疫組織化学染色は煩雑な方法であり、さらには検体間での染色のバラつきや、抗体のロット差など、解析の安定性も高くないという問題がある。
【0022】
本願発明者等は、これらの問題を解決すべく幹細胞の解析方法を鋭意検討した結果、免疫組織化学染色を用いて幹細胞を解析することで、組織中の表皮幹細胞は固有の細胞形態(細胞サイズ、縦横比)を保持していることを見出し、幹細胞特有の形態パラメータを特定した。表皮の深さ方向に連続する断層画像を撮像して得られる3次元画像データと、特定した形態パラメータとを用いて表皮基底層に存在する細胞の形態を定量することが可能であることを発見した。以下に、本開示に係る検出装置、検出システム、検出方法、並びに検出プログラムについて、図面を参照しつつ、実施形態に基づいて説明する。
【0023】
第1の実施形態:
図1は、第1の実施形態に係る幹細胞の検出装置および検出システムの一例を示す。検出システム100は、少なくとも、検出装置10、40および撮像装置20を備えている。検出装置10は、図示するデスクトップ型コンピュータや図示しないノート型コンピュータといったコンピュータ10Pとして実現されても良く、タブレット端末10Tとして実現されてもよい。コンピュータ10Pは出力装置としての表示装置31と有線または無線により接続され得る。タブレット端末10Tは表示部32を備えている。検出装置40は、サーバコンピュータ40として実現されてもよい。検出装置40がサーバコンピュータ40として実現される場合、撮像装置20により得られた撮像データはネットワークNTを介してサーバコンピュータ40に送信され、サーバコンピュータ40によって検出された幹細胞の検出結果は、ネットワークNTを介してコンピュータ10Pまたはタブレット端末10Tに送信され、表示装置31または表示部32に検出結果が表示される。ネットワークNTは、インターネットやイントラネットであり、コンピュータ10P、タブレット端末10Tおよび撮像装置20は、有線または無線によってネットワークNTに接続されている。コンピュータ10Pおよびタブレット端末10Tと撮像装置20とは有線または無線にて接続され得る。無線による接続は、例えば、WIFI(登録商標)やBLUETOOTH(登録商標)といった近距離無線通信規格に準拠する無線通信により実現される。
【0024】
撮像装置20は、非侵襲的な表皮基底層に存在する細胞の解析を可能にする撮像装置であり、非侵襲で皮膚内部構造の3次元画像データを撮像することができる。撮像装置20は、表皮の深さ方向の断層画像、すなわち、深さ方向の異なる複数の深さに対応するスライス画像を連続的に撮像し、出力できる撮像装置である。本実施形態において、3次元画像データは、表皮の深さ方向の断層画像データ、深さ方向に連続するスライス画像データである。本実施形態における撮像装置20としては、共焦点レーザー顕微鏡が用いられる。撮像装置20としてはこの他に、磁気共鳴画像(MRI)装置、光干渉断層撮影(FF-OCT、LC-OCT、SS-OCT、SD-OCT)装置、多光子顕微鏡、第2高調波発生光顕微鏡、光音響顕微鏡、光超音波顕微鏡、共焦点ラマン顕微鏡、光干渉顕微鏡(OCM)、集束イオンビーム走査型電子顕微鏡などが用いられ得る。
【0025】
表示装置31および表示部32には、検出結果が表示される。検出結果は、例えば、幹細胞の数を数値やグラフで表す表示、対象者の年齢に応じた平均的な幹細胞数に対する対象者の幹細胞数の百分率の表示、組織中における幹細胞の分布の表示を含み得る。
【0026】
図2は第1の実施形態に係る検出システム100を機能部によって示す説明図である。検出装置10は、画像データ取得部F1および幹細胞検出部F2を備えている。画像データ取得部F1は、3次元画像データを撮像可能な撮像装置20と有線または無線にて接続されており、撮像装置20から3次元画像データを取得する。幹細胞検出部F2は、画像データ取得部F1によって取得された3次元画像データを用いて幹細胞を含む細胞の形態を決定し、予め定められた幹細胞の形態特徴量を用いて対象物に含まれる幹細胞を検出する。幹細胞検出部F2によって検出された幹細胞の検出結果は、出力装置である表示装置31または表示部32に対して出力される。
【0027】
図3は第1の実施形態に係る検出装置10の機能的な内部構成を示すブロック図である。検出装置10は、中央処理装置(CPU)101、メモリ102、入出力インタフェース103、および図示しないクロック発生器を備えている。CPU101、メモリ102、入出力インタフェース103およびクロック発生器は内部バス104を介して双方向に通信可能に接続されている。メモリ102は、3次元画像データを用いて細胞の形態を決定し、予め定められた幹細胞の形態特徴量を用いて対象物に含まれる幹細胞を検出するための幹細胞検出プログラムPr1を不揮発的且つ読み出し専用に格納するメモリ、例えばROMと、CPU101による読み書きが可能なメモリ、例えばRAMとを含んでいる。メモリ102の不揮発的且つ読み書き可能な領域は、検出対象となる種々の幹細胞の形態特徴量を格納するための形態特徴量記憶領域102aを含んでいる。CPU101、すなわち、検出装置10は、メモリ102に格納されている幹細胞検出プログラムPr1を読み書き可能なメモリに展開して実行することによって、画像データ取得部F1および幹細胞検出部F2として機能する。なお、CPU101は、単体のCPUであっても良く、各プログラムを実行する複数のCPUであっても良く、あるいは、複数のプログラムを同時実行可能なマルチタスクタイプあるいはマルチスレッドタイプのCPUであっても良い。なお、画像データ取得部F1および幹細胞検出部F2は、論理回路としてハードウェア的に実現されても良い。
【0028】
入出力インタフェース103は、検出装置10と、他の各種装置とを接続するために用いられる物理的および論理的な無線または有線のインタフェースであり、たとえば、USB端子、LAN端子、シリアルバス端子といった公知の端子または各無線プロトコルに準じた無線受信部として実現され得る。第1の実施形態において、入出力インタフェース103には、例えば液晶パネルを有する表示部32、表示装置31、撮像装置20がそれぞれ信号線を介してまたは無線により接続されている。なお、表示装置31に代えて、または、表示装置31と共に、印刷媒体、例えば、紙に対して推定された印象を出力、すなわち、印刷する印刷装置が備えられても良い。
【0029】
幹細胞の形態特徴量の特定:
皮膚幹細胞、より具体的には、表皮幹細胞の解析のために市販されている皮膚組織(KAC社)を4%PFAにより固定し、パラフィンブロックの作製を行い、ミクロトームにて組織切片の作製を行った。作製した切片に対して脱パラフィン処理を行った後、表皮幹細胞のマーカー遺伝子であるCD271に対する一次抗体(Origene社)と蛍光標識した二次抗体を用いて免疫組織化学染色を行った。組織切片の染色像をライカ社の蛍光顕微鏡を用いて撮像して染色画像を取得し、メタモルフ社の画像解析ソフトウェアを用いて、表皮の基底層に存在するCD271陽性の表皮幹細胞とCD271陰性の表皮角化細胞の形態特徴量を特定した。より具体的には、各細胞の縦寸法aおよび横寸法bを測定した。
図4には、表皮幹細胞SCを例に取った細胞形態の特定が模式的に示されており、縦寸法aは、基底膜BLに対して垂直に伸ばした細胞の縦直線の長さの最大値として求められ、横寸法bは縦直線に対して直交する横直線の長さの最大値として求められた。なお、
図4は組織切片において皮膚の深さ方向に平行な面で切断された断面を示す染色画像と明視野画像とのフュージョン画像を模式的に示している。表皮幹細胞SCおよび非表皮幹細胞OCの形態特徴量は、組織切片に含まれる複数の幹細胞および細胞の形態特徴量の平均値として求められた。測定結果は
図5に示すとおりである。
図5に示すとおり、表皮幹細胞SCと非表皮幹細胞OCとを比較すると、表皮幹細胞SCに固有の形態特徴量として平均面積および平均縦横比が存在することが見出された。すなわち、表皮幹細胞SCの平均面積は109.5μm
2であるのに対して、非表皮幹細胞OCの平均面積は89.0μm
2であり、20μm
2程度の差が存在し、平均面積は、表皮幹細胞SCの形態と特徴付ける特徴量として技術的意義を有する。平均面積は、公知の画像解析プログラムを用いて算出した。また、表皮幹細胞SCの平均縦横比(a/b)は1.64であるのに対して、非表皮幹細胞OCの平均縦横比(a/b)は1.08であり、0.6程度の差が存在し、平均縦横比(a/b)は表皮幹細胞SCの形態と特徴付ける特徴量として技術的意義を有する。なお、表皮幹細胞SCの平均縦横比(a/b)が示すように、表皮幹細胞SCは楕円体形状を有する細胞であり、免疫組織化学染色に依存することなく、楕円体形状という幾何学的特徴を用いて細胞が表皮幹細胞SCであるか否かを判断することができる。この点において、細胞の縦横比の形態特徴量は、表皮幹細胞SCの形態を反映する特徴量である。
【0030】
細胞の形態特徴量を用いて予測した表皮幹細胞の存在率と実測値との比較:
特定した表皮幹細胞の形態特徴量である、平均縦横比(a/b)および平均面積を用いて、表皮幹細胞の分布の解析を検証した。先ず、皮膚組織(KAC社)を用いた組織切片に対して、CD271に対する一次抗体および二次抗体を用いた免疫組織化学染色を行った。染色された表皮幹細胞の染色画像と明視野画像を撮影し、フュージョン画像を作成した。これら画像中の表皮基底層に存在する全ての細胞数に対するCD271陽性である表皮幹細胞の数を目視にてカウントし、基底層に存在する幹細胞の存在率(基底層に存在する表皮幹細胞の数/基底層に存在する全細胞の数)を解析した結果、20%の存在率が得られた。次に、明視野画像(ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色等でも可)の基底層の細胞形態を定量し、形態特徴量を用いて表皮幹細胞を特定する条件として、
図6に示す条件1~条件21の各条件を定量値に適用して表皮幹細胞の予測存在率を求めた。なお、
図6に示す条件1~条件21は一例であり、他の条件が用いられても良い。
【0031】
形態特徴量を用いて得られた表皮幹細胞の予測存在率と実測値(20%)とを比較して、条件1~条件21の各条件における表皮幹細胞の特定精度について検証を行った。検証の結果は、
図7~
図9に示すとおりであり、各図において精度表は、精度評価A:実測値からの差異±2%以下、精度評価B:実測値からの差異±2%より大きく±5%以下、精度評価C:実測値からの差異±5%より大きく10%以下、精度評価D:実測値からの差異10%より大であり、精度評価は、A(最も高い)>B>C>D(最も低い)である。
図7は、面積を条件とする条件1~条件7を適用した場合における検証結果を示している。
図7に示すとおり、面積を条件とする場合、面積は90~180μm
2であることが好ましく、精度評価C以上の条件2~条件6において表皮幹細胞の特定が可能であり、好ましくは精度評価B以上の条件3~条件5並びに最も好ましくは精度評価Aである条件4において表皮幹細胞を精度高く特定可能であった。
図8に示すとおり、縦横比を条件とする場合、縦横比は1.4~2.4であることが好ましく、精度評価C以上である条件9~条件13において表皮幹細胞の特定が可能であり、好ましくは精度評価B以上である条件10~条件12、最も好ましくは精度評価Aである条件11において表皮幹細胞を精度高く特定可能であった。さらに、
図9に示すとおり、面積と縦横比の両条件を組み合わせることで、条件16~条件20の5条件が精度評価B以上の条件に該当し、条件17~条件19の3条件が精度評価Aの条件に該当することが検証でき、より精度の高い表皮幹細胞の検出が可能であることが示された。
【0032】
第1の実施形態に係る検出装置10によって実行される、細胞の形態と表皮幹細胞の形態特徴量とを用いる表皮幹細胞の検出処理について説明する。
図10は第1の実施形態に係る検出装置10によって実行される幹細胞の検出処理の各処理ステップを示すフローチャートである。より具体的には、CPU101が、幹細胞検出プログラムPr1を実行することによって実現される。
【0033】
検出の対象物、すなわち、対象者の皮膚領域に対して、撮像装置20の撮像部が近接させられる。より具体的には、撮像装置20である共焦点レーザー顕微鏡の対物レンズが検出の対象となる皮膚領域に近接され、1.2mm×0.5mm四方の皮膚領域が撮像され、深さ約0.3mmの皮膚内部の3次元画像データが撮像される。CPU101は、撮像装置20から、撮像された3次元画像データを取得する(ステップS100)。本実施形態において、皮膚の深さ方向における3次元画像データは、
図11に示すように、最も真皮側における断層画像LG1から最も表皮側における断層画像LG20までの20枚の断層画像に対応するデータにより構成されている。細胞を含む断層画像、例えば、断層画像LG6、LG11、LG14に示すように、細胞の外郭、すなわち、細胞膜に相当する点群あるいは点列CDが得られる。したがって、全ての断層画像に含まれる点列CDを用いることによって、以下に述べるように、細胞の形態が立体的に特定され得る。皮膚内部における各細胞の向きは一定ではないが、立体的に細胞の形態を特定することによって、ばらつきの少ない細胞の形態特徴量の決定を実現することができる。なお、少なくとも、表皮幹細胞は、基底膜BLを起点として、皮膚の深さ方向に長軸を備える形態を有している。
【0034】
CPU101は、3次元画像データを用いて、基底膜BLに接する細胞の形態、すなわち細胞体の形態を特定する(ステップS102)。具体的には、複数の断層画像に含まれる細胞膜に対応する点列CDを用いて、基底膜BLに対して垂直な方向を第1軸として決定し、一細胞の細胞膜に対応する全点列に対して、第1軸の方向が固定された細胞体の表面までの距離の二乗平均が最小になるような細胞体を特定し、中心位置を通る第1軸以外の他の軸を求める。第1軸の長さおよび他の軸のそれぞれの長さを導出し、2番目に長い軸を第2軸に決定し、細胞の形態を特定する。細胞は、球体、楕円体、あるいは近似球体といった形態を有しており、少なくとも1番目に長い軸と2番目に長い軸を決定することによって、
図12に示すように、細胞の形態が決定される。より具体的には、第1軸および第2軸を通る平面によって切断された断面形状を決定し、第1軸の長さ、すなわち縦寸法および第2軸の長さ、すなわち、横寸法を求めることができる。既述の通り、表皮幹細胞は、楕円体形状を有しており、断面は楕円形を示す。CPU101は、第1軸の長さを細胞の縦寸法a、第2軸の長さを横寸法bとして取得する(ステップS104)。CPU101は、取得した縦寸法aおよび横寸法bを用いて細胞の縦横比a/bおよび細胞の面積 (π×(a/2)×(b/2) ) を算出する。
【0035】
CPU101は、算出した縦横比a/bおよび面積の少なくともいずれか一方を用いて表皮幹細胞を検出する(ステップS106)。具体的には、CPU101は、予め定められた表皮幹細胞の形態特徴量、すなわち、楕円体形状を有し、楕円形状の断面を有する表皮幹細胞の形態特徴量を示す縦横比a/bおよび面積の少なくともいずれか一方を用いて、形態が特定された細胞が有する、対応する縦横比a/bおよび面積の少なくともいずれか一方を用いて、前述の条件2~条件6、条件9~条件13、条件16~条件20のうち求められる精度に応じて決定され得る条件を満たす細胞を表皮幹細胞として検出する。CPU101は、検出結果を出力して(ステップS108)、本処理ルーチンを終了する。検出結果は、表示装置31または表示部32に表示されても良く、印刷装置を介して媒体に印刷されても良い。表示または印刷される検証結果は、例えば、検出された表皮幹細胞の数であっても良く、皮膚細胞中における表皮幹細胞の比率である予測幹細胞存在率であっても良く、対象者の年齢または年齢層における標準値に対する増減の割合や比率であっても良い。また、表示や印刷の形態は、数値であっても良く、グラフであっても良い。
【0036】
第1の実施形態に係る検出装置10を用いて加齢による表皮幹細胞の減少を検証した。具体的には、20代、40代、60代の被験者8名ずつに対して、共焦点レーザー顕微鏡を用いて皮膚の3次元画像データを取得し、条件18を適用して表皮幹細胞を検出し、皮膚細胞中における表皮幹細胞の比率である予測幹細胞存在率を求めた。検出結果は
図13に示す通りであり、加齢によって表皮幹細胞が徐々に減少することを検証することができた。
【0037】
以上述べたように、第1の実施形態に係る検出装置10によれば、皮膚の3次元画像データを用いて皮膚組織における細胞を特定し、表皮幹細胞の形態特徴量を用いて、表皮幹細胞を検出することができる。したがって、非侵襲的に、簡易に、精度良く表皮幹細胞を検出することができる。すなわち、本願発明者等が見出した、表皮幹細胞が有する特徴的な形態を適用して、皮膚細胞の形態と対比することによって、免疫組織化学染色を用いた検出手法における、侵襲性、煩雑さ、ロット間のバラつきといった影響を受けることなく、安価で簡便かつ、精度が高い表皮幹細胞の解析が可能となった。
【0038】
皮膚の幹細胞を高い精度で検出することによる利点は以下の通りである。人の皮膚は、大きく分けて表皮・真皮・皮下組織の3層構造をとっている。これらの3つの層のうち、最外層に位置する表皮は、皮膚の最も外側に位置する組織であり、外界から身体を防御する重要な役割、すなわち、バリア機能を提供している。表皮は、成熟段階の異なる複数の層である、基底層、有棘層、顆粒層および角質層により構成されている。表皮の大部分は主に表皮角化細胞(ケラチノサイト)により構成されており、表皮角化細胞は、表皮の最下層である基底層に存在する表皮幹細胞を起点として、幹細胞の自己複製分裂と分化をしながら成熟することで供給されている。表皮の恒常性は、表皮幹細胞の増殖と分化を原動力としたターンオーバーにより、周期的に細胞が生まれ変わることで維持されている。表皮幹細胞は加齢や紫外線による光老化の影響を受けることで、数が減少し、枯渇していくことが知られており、表皮幹細胞の数の減少は、表皮の菲薄化やターンオーバーの遅延、恒常性異常の原因となり、シワやくすみ等の老化症状を誘導すると考えられている。したがって、表皮幹細胞を精度良く検出することによって、表皮の菲薄化やターンオーバーの遅延、恒常性異常を予見することが可能となり、ターンオーバーの遅延の抑制や防止のための手法や化粧品、医薬品の開発や、開発結果の有用性の検証を簡易且つ短時間にて図ることができる。
【0039】
第1の実施形態に係る検出装置10を用いれば、重篤な皮膚創傷や火傷の治療を行う際に、患者の表皮細胞を採取し、その細胞から再構成させた自家培養表皮を移植する再生医療における培養表皮の品質や生着率を向上させることができる。すなわち、培養表皮の品質や生着率は採取する組織の幹細胞の状態に依存するが、第1の実施形態に係る検出装置10を用いれば、組織の採取前に、その部位の幹細胞を非侵襲的に高精度で検出、解析することができる。
【0040】
その他の実施形態:
(1)上記実施形態においては、幹細胞を検出する対象物として対象者の皮膚を撮像装置20により撮像して得られる3次元画像データが用いられているが、対象者から取得した組織切片を撮像して得られる3次元画像データが用いられても良い。この場合には、免疫組織化学染色を行うことなく簡易かつ短時間で幹細胞を検出することが可能となる。また、上記実施形態においては、幹細胞を検出する対象物として皮膚が用いられているが、対象物としてはこの他に、血液や摘出された臓器が用いられても良い。これらの場合には、既述の手法によって、予め幹細胞の形態特徴量を特定し、対象物を撮像することにより得られた3次元画像データを用いて特定された細胞と形態特徴量とを用いることによって表皮幹細胞と同様にして、幹細胞を検出することができる。
【0041】
以上、種々の実施形態に基づき本開示について説明してきたが、上記した実施の形態は、本開示の理解を容易にするためのものであり、本開示を限定するものではない。本開示は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本開示にはその等価物が含まれる。
【符号の説明】
【0042】
10…検出装置、100…検出システム、101…中央演算処理装置(CPU)、102…記憶部、20…撮像装置、F1…画像データ取得部、F2…幹細胞検出部。