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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072541
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】鉄心の電磁界解析方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/20 20200101AFI20220510BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20220510BHJP
【FI】
G06F17/50 612G
G06F17/50 680Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020182037
(22)【出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】井上 博貴
(72)【発明者】
【氏名】大村 健
(72)【発明者】
【氏名】千田 邦浩
【テーマコード(参考)】
5B046
5B146
【Fターム(参考)】
5B046AA07
5B046JA01
5B046JA10
5B046KA05
5B046KA06
5B146AA21
5B146DJ01
5B146DJ04
5B146DL02
5B146DL08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】鉄心の磁気特性をより正確かつ簡便に予測できる鉄心の電磁界解析方法を提供する。
【解決手段】電磁界解析を行う鉄心は、複数枚の磁性体を積層してなる鉄心の三次元のコア形状に基づいて生成した二次元のコア形状において、二次元のコア形状は、三次元のコア形状での磁性体同士が接合するラップ部に相当する部分に、鉄心素材である磁性体の透磁率とは透磁率が異なる磁性体を挿入する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の磁性体を積層してなる鉄心の電磁界解析方法であって、
前記電磁界解析方法は、三次元のコア形状に基づいて生成した二次元のコア形状において電磁界解析を行う解析方法であり、
前記二次元のコア形状においては、
前記三次元のコア形状での前記磁性体同士が接合するラップ部に相当する部分に、
鉄心素材である前記磁性体の透磁率とは透磁率が異なる磁性体を挿入することを特徴とする、鉄心の電磁界解析方法。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄心の電磁界解析方法において、
前記二次元のコア形状において挿入する磁性体の透磁率を、
鉄心内の磁化状態の実測データに、当該磁性体を挿入して解析した解析結果を合わせこむことにより決定することを特徴とする、鉄心の電磁界解析方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鉄心の電磁界解析方法において、
前記二次元のコア形状において挿入する磁性体の透磁率が真空の透磁率よりも大きいことを特徴とする、鉄心の電磁界解析方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の鉄心の電磁界解析方法において、
三相励磁の変圧器の鉄心の磁気特性を予測することを特徴とする、鉄心の電磁界解析方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の鉄心の電磁界解析方法において、
電磁界解析に用いる鉄心の材料磁性として、磁界強度Hと磁束密度Bをベクトル量として扱う磁性データベースを用いることを特徴とする、鉄心の電磁界解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄心の電磁界解析方法に関する。本発明は、特に、電気機器鉄心、主に変圧器鉄心の磁気特性を解析する電磁界解析方法に関し、より具体的には鋼板同士が接合するラップ部を含む変圧器鉄心の磁気特性を解析する電磁界解析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄の磁化容易軸である<001>方位が鋼板の圧延方向に高度に揃った結晶組織を有する方向性電磁鋼板は、特に電力用変圧器の鉄心材料として用いられている。変圧器鉄心として要求されることは種々あるが、特に重要なのは鉄損が小さいことである。
【0003】
その観点で、鉄心素材である方向性電磁鋼板に要求される特性としても、鉄損値が小さいことは重要である。また、変圧器における励磁電流を減らして銅損を低減するためには、磁束密度が高いことも必要である。この磁束密度は、磁化力800A/mのときの磁束密度B(T)で評価され、一般に、Goss方位への方位集積度が高いほど、Bは大きくなる。磁束密度の大きい電磁鋼板は一般にヒステリシス損が小さく、鉄損特性上でも優れる。変圧器鉄損を小さくする為には、一般には鉄心素材(以下、単に「素材」ともいう)である方向性電磁鋼板の鉄損を小さくすれば良いと考えられる。実際に、単相励磁の巻鉄心変圧器においては素材鉄損と変圧器鉄損がほぼ一致することから、素材の鉄損を小さくすることによって変圧器鉄損を小さくすることができる。
【0004】
しかし、特に、3脚または5脚を有する三相励磁の変圧器では、素材鉄損と比べて変圧器における鉄損が大きくなることが知られている。変圧器の鉄心として電磁鋼板が使用された場合の鉄損値(変圧器鉄損)の、エプスタイン試験で得られる素材の鉄損値に対する比を、一般にビルディングファクタ(BF)またはディストラクションファクタ(DF)と呼ぶ。つまり、3脚または5脚を有する三相励磁の変圧器では、BFが1を超えるのが一般的である。
【0005】
さらに、三相励磁の変圧器では、鉄心素材の鉄損低減が、必ずしも変圧器の鉄損低減に結びつかないことが指摘されている。特に、Bが1.88T以上のGoss方位への集積度が高い素材(高配向性方向性電磁鋼板:HGO)を用いた鉄心では、鉄心素材の磁気特性が良好であっても、変圧器自体の磁気特性は逆に劣化する場合もあることが知られている。このことは、磁気特性に優れる方向性電磁鋼板を製造しても、それが変圧器の実機特性に活かしきれていないことを意味している。また、磁束密度B以外の鉄心素材の特性についても、鉄心素材である鋼板に形成された被膜の張力の大きさや、磁区細分化処理の有無などの種々の特性変化でBFが変化する。また、変圧器鉄心の形状や、鉄心素材である鋼板の積層ラップ方式の違いによってもBFは変化し、変圧器の鉄損は変化する。
【0006】
変圧器の鉄心における鉄損を最大限に低減させるよう、鉄心材料の選定や鉄心形状の設計をするためには、その結果たる変圧器鉄損を予測することが必要である。しかしながら、上述したように変圧器における種々の条件にて変圧器鉄損は変化するため、その予測は容易ではない。
【0007】
予測する手法としては、過去に製造した変圧器における鉄損の試験結果、又は実変圧器を模擬して縮小サイズにて作製したモデル変圧器などを試験した場合の鉄損結果等をデータベース化し、解析的あるいは経験的に予測する方法がある。
【0008】
例えば、特許文献1では、変圧器鉄損を従属変数とし、鉄心幅寸法、鉄心窓幅寸法、鉄心窓長さ寸法、鉄心積高さ寸法、鉄心の板厚寸法および素材鉄損値、素材磁化特性値を独立変数として、重回帰および重相関分析を行い、この分析で得られた重回帰式を用いて変圧器鉄損を推定する方法が開示されている。
【0009】
また、電磁界数値シミュレーションにより、変圧器鉄損を推定する手法も一般的である。Maxwell方程式を有限要素法で解析する電磁界数値シミュレーションは、メッシュモデルの作成、有限要素法による時間解析、その結果の分析を含めた一連の数値解析ツールが、ソフトウェアとして市販されている。
【0010】
但し、シミュレーション精度を上げようとした場合、使用する電磁特性を適切に選ぶ必要がある。例えば、特許文献2には、二次元的磁気特性を基にした磁界強度Hと磁束密度Bをベクトル量とした磁界解析手法が開示されている。
【0011】
また、計算する対象によっては、解析メッシュが膨大で、計算コストが大きくかかる場合もある。例えば、特許文献3には、三次元の解析モデルを、適切に二次元の解析モデルとすることで、計算コストを減らす方法が開示されている。
【0012】
また前述したように、変圧器鉄心の積層ラップ方式は変圧器のBFに大きな影響を与える。例えば、特許文献4には、数値解析において、鉄心の各部の磁束密度が正弦波となるように、鉄心の積層ラップ部に磁気特性の異なる挿入物質を設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭62-75351号公報
【特許文献2】特許第4065166号公報
【特許文献3】特許第5090859号公報
【特許文献4】特開昭59-141208号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】川崎製鉄技報、No29、P14(1992)
【非特許文献2】電気学会マグネティクス研究会資料、MAG-04-224、P27-31(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1に開示されている従来の重回帰分析による変圧器鉄損推定方法では、分析の基となるデータ数が少ない場合、統計誤差が大きくなるため、ある材料、ある鉄心形状設計における正確な変圧器鉄損を推定するためには、多数の素材、多数の鉄心形状の異なる変圧器を製作し、鉄損値を評価したデータベースが必要であった。
【0016】
また、特許文献2~4に開示されている手法、つまり電磁界数値シミュレーションにより、変圧器鉄損を推定する従来手法にも課題がある。特許文献2は、解析に用いる磁気特性が二次元的であるために、解析も二次元で行う必要があり、三次元的な鋼板の積層ラップ構造を考慮することはできない。また、特許文献3の方法でも、三次元的な鋼板の積層ラップ構造を考慮していない。特許文献4の方法では、積層ラップ部に磁気特性の異なる挿入物質を設けることで、積層ラップ構造を模擬しているが、BFが大きくなる三相励磁の変圧器においては、鉄心の各部の磁束密度が正弦波とならないため、特許文献4の方法では正確な変圧器の磁気特性を予測することはできない。
【0017】
本発明は上記の課題に鑑み、鉄心の磁気特性をより正確かつ簡便に予測できる鉄心の電磁界解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
変圧器鉄心等、複数枚の磁性体を積層してなる鉄心の磁気特性を予測するには、実験結果からのデータベースからの推定よりは、電磁界解析による数値シミュレーションの方が、予測精度やそれを基にした設計最適化などの応用性の観点で優れる。
【0019】
さらに、電磁界解析による数値シミュレーションを行う場合には、計算コストの優位性や、二次元的磁気特性を基にした電磁界解析の適用を考えた場合、三次元のコア形状に基づいた二次元の解析モデルを用いることは有利である。変圧器鉄心等、複数枚の磁性体を積層してなる鉄心内には、その巻き線を施す生産過程から、鋼板同士を接合させるラップ部を設けることが一般的である。さらに、その接合ラップ部は、鉄心の磁気特性に大きな影響を及ぼす。接合ラップ部の構造は、三次元的であるために二次元の解析モデルでは表現することができない。
【0020】
そこで、三次元構造である接合ラップ部を、二次元の解析モデルの中で何かしらの方法で表現する必要がある。三次元構造である接合ラップ部は、例えば図1に示す90°接合部のように鋼板にラップ部を設けることで、面間方向の磁束渡りを引き起こし、鋼板をただ突き合わせる構造に比べ、鉄心内の磁束の流れをスムーズにしている。一方で、この磁束渡りは面直方向の磁化であるため、鋼板面内に渦電流が生じ、接合部がないところに比べると接合ラップ部での実効的な透磁率は減少することとなる。
【0021】
そういった観点では、特許文献4に示されるように、二次元の解析モデルにおいて接合ラップ部に磁気特性の異なる挿入物質を設けることで、前記の実効的な透磁率の減少を評価することは有効な手段である。しかし、前記したように特許文献4に示されるような、鉄心の各部の磁束密度が正弦波となるように、鉄心の積層ラップ部に磁気特性の異なる挿入物質を設ける手段では、三相励磁の変圧器の磁気特性を正しくシミュレートすることはできない。
【0022】
三相励磁の変圧器中では、局所的な磁束波形歪みが生じることが知られている。例えば、図2に示すように、脚部の幅方向端の部分では磁束波形の歪みが生じる。図2に三相三脚鉄心内における、ある瞬間(U脚、V脚が励磁されW脚が励磁されていない瞬間)における磁束流れの模式図を示す。U脚、V脚間の磁束流れとは別に、励磁されていないW脚にも磁束の流れ込みが生じる。これは方向性電磁鋼板といった透磁率の異方性が大きい材料を鉄心素材として用いた場合に顕著である。例えば図2は、方向性電磁鋼板の磁化容易方向RD(圧延方向)を長手とした鉄心を考えているが、RDに磁束が流れやすいためにW脚にも磁束が流れ込むこととなる。本来励磁されていない(W脚は平均としてはB=0T)瞬間に、磁束の流れ込みが生じるため、脚部の幅方向端の部分では磁束波形の歪みが生じる。さらに、励磁脚以外への磁束の流れ込みは、図3のようにヨーク中央部における回転磁束を生じさせる。この磁束波形の歪みと回転磁束は、変圧器鉄心の鉄損を増加させる要因である。
【0023】
接合部の磁気抵抗は、励磁脚以外への磁束の流れ込みに関連する。接合部の磁気抵抗が小さい場合、メインの磁束流れであるU、V脚間の磁束流れが阻害されないため、W脚への磁束の流れ込みは小さくなる。
【0024】
そのため、特許文献4に示されるような、鉄心の各部の磁束密度が正弦波となるように、鉄心の積層ラップ部に磁気特性の異なる挿入物質を設ける方法で解析モデルを作成した場合、上記の励磁脚以外への磁束の流れ込みを失くすように、接合部の磁気抵抗を極めて小さくするように磁気特性の異なる挿入物質を設定するため、現実の状況とは乖離してしまう。
【0025】
そこで、二次元の解析モデルにおいて接合ラップ部に磁気特性の異なる挿入物質を設ける際に、鉄心内の磁化状態の実測データに、解析結果を合わせこむことにより決定することが重要であると考えられた。具体的には、鉄心内の磁化状態の実測データ、特に励磁脚以外への磁束の流れ込みや、磁束波形の歪み、回転磁束を実測データと合わせるように、三次元のコア形状における鋼板同士が接合するラップ部を、二次元のコア形状においては鉄心素材とは透磁率が異なる磁性体を挿入することで表現することで、変圧器鉄心等、複数枚の磁性体を積層してなる鉄心の磁気特性を正確に数値解析にて予測することができる。
【0026】
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
[1]複数枚の磁性体を積層してなる鉄心の電磁界解析方法であって、
前記電磁界解析方法は、三次元のコア形状に基づいて生成した二次元のコア形状において電磁界解析を行う解析方法であり、
前記二次元のコア形状においては、
前記三次元のコア形状での前記磁性体同士が接合するラップ部に相当する部分に、
鉄心素材である前記磁性体の透磁率とは透磁率が異なる磁性体を挿入することを特徴とする、鉄心の電磁界解析方法。
[2]前記[1]に記載の鉄心の電磁界解析方法において、
前記二次元のコア形状において挿入する磁性体の透磁率を、
鉄心内の磁化状態の実測データに、当該磁性体を挿入して解析した解析結果を合わせこむことにより決定することを特徴とする、鉄心の電磁界解析方法。
[3]前記[1]または[2]に記載の鉄心の電磁界解析方法において、
前記二次元のコア形状において挿入する磁性体の透磁率が真空の透磁率よりも大きいことを特徴とする、鉄心の電磁界解析方法。
[4]前記[1]~[3]のいずれかに記載の鉄心の電磁界解析方法において、
三相励磁の変圧器の鉄心の磁気特性を予測することを特徴とする、鉄心の電磁界解析方法。
[5]前記[1]~[4]のいずれかに記載の鉄心の電磁界解析方法において、
電磁界解析に用いる鉄心の材料磁性として、磁界強度Hと磁束密度Bをベクトル量として扱う磁性データベースを用いることを特徴とする、鉄心の電磁界解析方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明の鉄心の電磁界解析方法によれば、鉄心の磁気特性をより正確かつ簡便に予測することができる。
【0028】
本発明の鉄心の電磁界解析方法は、電気機器鉄心、主に変圧器鉄心の鉄損等の磁気特性を解析するのに適しており、特に鋼板同士が接合するラップ部を含む変圧器鉄心の磁気特性をより正確かつ簡便に解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】接合ラップ部(90°接合部)における面間方向の磁束渡りを説明する模式図である。
図2】三相三脚鉄心内における、ある瞬間(U脚、V脚が励磁されW脚が励磁されていない瞬間)における磁束流れを示す模式図である。
図3】ヨーク中央部において生じる回転磁束を説明する模式図である。
図4】ラップ部に挿入する磁性体の領域を説明する説明図である。
図5】実施例1において電磁界解析を行った三相三脚変圧器鉄心を示す模式図である。
図6】実施例1において電磁界解析を行った鉄心形状を示す模式図である。
図7】実施例2において電磁界解析を行った接合形式を示す模式図である。
図8】実施例2において電磁界解析を行った鉄心形状を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0031】
本発明の電磁界解析方法では、三次元のコア形状(三次元の鉄心形状)に基づいて、二次元のコア形状(二次元の鉄心形状)を生成し、前記生成した二次元のコア形状において電磁界解析(数値解析)を行う。
【0032】
本発明に適用する電磁界解析の方法については、Maxwell方程式を有限要素法で解析する手法が一般的ではあるが、これに限定されるものではない。有限要素法の他にも、境界要素法などの他の離散化解析手法を用いても良い。詳細な形状情報を参照し、解析できる手法が適する。
【0033】
三次元のコア形状に基づいて、二次元のコア形状を生成する方法について説明する。二次元のコア形状は、三次元のコア形状を代表した、鉄心内の主要な磁気回路を含む面の形状の、実寸法形あるいはその相似形状であることが適する。例えば、所定の形状に切断した鋼板を積層することによって鉄心を形成する積鉄心型の変圧器鉄心においては、その積層した鋼板と平行な面の形状の実寸法形あるいはその相似形状とすればよい。また変圧器鉄心では、コイル内の鉄心の占積率を高めるために、幅方向長さが異なる鋼板を組み合わせて、なるべく鉄心脚の断面が円形となるように設計する場合があるが、その場合は最も多くの磁束が流れるであろう、鋼板幅が最大となる面での鉄心形状の実寸法形あるいはその相似形状とすればよい。また、鋼板を周方向に積層した巻鉄心変圧器においては、磁気回路の方向となる周方向と平行な面の鉄心形状の実寸法形あるいはその相似形状とすればよい。
【0034】
次に、三次元のコア形状における鋼板同士が接合するラップ部を、二次元のコア形状において表現する方法について説明する。図4に示すように、三次元のコア形状におけるラップ部に相当する部分に、鋼板同士の突き合わせ部と平行に鉄心素材の透磁率とは透磁率が異なる磁性体を挿入し、前記磁性体の領域を設ける。
【0035】
この磁性体領域の長さは、三次元コア形状に鋼板同士のラップ代の長さを反映させる必要はない。例えば、変圧器鉄心においては鋼板同士を数mm程度の重なり代(ラップ代)をもって、積層させるのが一般的であるが、本発明手法における電磁界解析モデルにおいては、数十μm~数mm程度の中で、鉄心内の磁化状態の実測データに、解析結果を合わせこむことにより決定される。前記領域の長さの上限や下限は特に規定しないが、例えば有限要素法による解析においては、適切な計算メッシュを設定できる長さであれば良い。
【0036】
挿入する磁性体の透磁率の設定方法について説明する。挿入する磁性体の透磁率は、鉄心内の磁化状態の実測データに、前記磁性体を挿入して解析した解析結果を合わせこむことにより決定される。鉄心内の磁化状態の実測データとは、励磁脚以外への磁束の流れ込みや、磁束波形の歪み、回転磁束等を指す。鉄心内の磁化状態の実測データは、探針法(非特許文献1)や、探りコイルなど既知の方法で実測することができる。測定の際には、鉄心幅や鉄心長さに対し十分に狭い領域を測定する(探針法では探針間隔、探りコイルではコイル大きさ)。具体的には測定領域の大きさは、鉄心幅の1/10以下程度の大きさが好ましい。鉄心内で磁束波形は様々に変化しており、大きい領域で測定すると、磁束波形が平均化されてしまい、正確な鉄心内の磁化状態が把握できない。
【0037】
励磁脚以外への磁束の流れ込みは、図2に示したような、U脚、V脚が励磁されW脚が励磁されていない瞬間における、W脚の中心高さの幅端部における磁化の大きさを指標とする。また、磁束波形の歪みは各脚の中心高さの幅端部における以下の(1)式で表される波形率を指標とする。回転磁束は例えば図3に示したような、U脚、V脚が励磁されW脚が励磁されていない瞬間における、V-W間のヨーク中央部における幅方向の磁束密度を指標とする。
【0038】
【数1】
【0039】
ここで、(1)式における(dB/dt)は局所磁束密度B(T)を時間t(秒)で微分した値、(dB/dt)rmsは(dB/dt)の二乗平均の値、(dB/dt)aveは(dB/dt)の単純平均の値を指す。
【0040】
挿入する磁性体の透磁率の設定に用いる、鉄心内の磁化状態の実測データの指標は、上記した励磁脚以外への磁束の流れ込み、磁束波形の歪み、回転磁束の3つの指標の内、1つ以上を用いることが好ましい。またこの3つの指標を複数組み合わせることがより好ましい。また、これ以外の指標を用いることも特に制限しない。
【0041】
挿入する磁性体の透磁率や異方性については制限はないが、透磁率については真空の透磁率よりも大きいことが望ましい。挿入する磁性体の透磁率を真空の透磁率以下に設定すると、二次元の解析モデルでは接合部での磁気抵抗が過大となり、実測データに解析結果を合わせこむことが難しくなる場合がある。三次元の解析モデルでは、鉄心面外に磁束が漏れて、それが三次元的な磁気回路を作って適度な磁気抵抗となるのに対し、二次元の解析モデルでは鉄心面外に磁束が漏れることができないため、そういった三次元的な磁気回路を作ることができず、磁気抵抗が過大となりがちである。よって、挿入する磁性体の透磁率は真空の透磁率よりも大きく設定することが望ましい。
【0042】
挿入する磁性体の透磁率の設定は、ラップ接合部のラップ形式(ステップラップ、交互積みなど)、ラップ代長さ、ラップ段数、ラップごとの積層枚数などのラップ接合方法に大きく依存する。ラップ接合方法が同じである場合、鉄心形状、鉄心材料(鉄心素材)の磁性が異なっても、挿入する磁性体の透磁率の設定には大きな影響を及ぼさない。つまり、ある鉄心形状、鉄心特性において、特定のラップ接合方法における二次元の解析モデルにおける挿入する磁性体の透磁率を合わせこめば、その透磁率の設定を、鉄心形状、鉄心材料の磁性が変わってもそのまま電磁界解析に使うことができる。
【0043】
電磁界解析に用いる、積層鉄心の材料磁性は、磁界強度Hと磁束密度Bの関係をベクトル量として扱う磁性データベースを用いるのが望ましい。特に異方性の強い方向性電磁鋼板を使った、変圧器等の積層鉄心の磁化特性を予測するのに好適である。
【0044】
本発明の電磁界解析方法は、励磁磁束密度、周波数に関わらず適用することができる。また、鉄心内で回転磁束や波形歪みが生じやすく、従前の方法では変圧器鉄損の予測が困難な三相励磁の変圧器鉄心において特に効果が大きいが、単相励磁の変圧器鉄心やリアクトルなど他の積層鉄心設計においても適用できる。
【実施例0045】
実施例1を基に具体的に本発明による電磁界解析方法及び効果を説明する。
【0046】
<実施例1>
0.23mm厚の方向性電磁鋼板(23P090、エプスタイン試験による鋼板鉄損W17/50:0.86W/kg)を鉄心素材(鉄心材料)として用いた、図5に示す三相三脚変圧器鉄心の電磁界解析を行った。
【0047】
図5に示す三相三脚変圧器鉄心を製作し、1.7T/50Hzの励磁条件にて三相励磁を行って、実測の変圧器鉄損の測定したところ、表1の通りであった。さらに鉄心全面を5mmピッチで二方向に探針間に生じる起電圧を測定し、鉄心内の磁化状態を実測した。前記の定義にて、励磁脚以外への磁束の流れ込み、磁束波形の歪み(波形率)、回転磁束を求めた。表1の通りであった。
【0048】
【表1】
【0049】
次に、同寸法での二次元のコア形状を設定し、三次元のコア形状における接合ラップ部に相当する部分に30μmの長さ領域において、表2に示す透磁率の条件を等方に設定し電磁界解析を行った。あらかじめ鉄心材料(方向性電磁鋼板)の磁気特性を二次元単板磁気測定装置(非特許文献2)にて測定し、磁界強度Hと磁束密度Bの関係をベクトル量として求め、その材料磁気特性を電磁界解析には用いた。
【0050】
電磁界解析の結果、それぞれの解析条件(透磁率条件)にて、鉄心状態として励磁脚以外への磁束の流れ込み、磁束波形の歪み(波形率)、回転磁束について表2の結果が得られた。実測の鉄心内の磁化データ(表1)と比較すると、条件3の設定透磁率3.2×10-5H/mが最も鉄心内の磁化データを再現するのに適することが判明した。
【0051】
【表2】
【0052】
この設定透磁率を使って、上記と同様に、図6に示す鉄心形状について電磁界解析を行い、変圧器鉄損を導出した。鉄心形状、励磁条件以外の材料特性等の解析条件は同じである。励磁条件は表3に示すように、励磁周波数50Hz、励磁磁束密度1.0~1.9Tについて解析を行った。一方、図6に示す鉄心形状の変圧器鉄心を製作し、同励磁条件にて、変圧器鉄損測定を実施した。接合ラップ形式は、設定透磁率を求めた場合と同じ形式である。
【0053】
表3に、変圧器鉄心を製作し実測した場合と、本発明の手法による電磁界解析結果の比較を示すが、いずれの励磁条件、鉄心形状においても、実測と電磁界解析での結果の差は3%以内であり、精度よく予測できている。
【0054】
【表3】
【0055】
<実施例2>
図7のような接合ラップ形式(接合形式1~3)を有する、三相三脚変圧器鉄心の電磁界解析を行った。
【0056】
まず、接合形式1~3それぞれの接合部を有する鉄心形状A(図8参照)の三相三脚変圧器鉄心を0.23mm厚の方向性電磁鋼板(23P090、エプスタイン試験による鋼板鉄損W17/50:0.86W/kg)を鉄心素材として用いて製作した。実施例1と同様の方法にて、三次元のコア形状における接合ラップ部に挿入する磁性体の設定透磁率の適正値を求めた。(ただし、挿入する磁性体の領域については、実施例1とは異なり接合ラップ部に相当する部分に50μmの長さ領域で、鉄心素材とは透磁率の異なる磁性体領域を設定した)。求められた適切な設定透磁率は、接合形式1では2.1×10-5H/m、接合形式2では7.8×10-5H/m、接合形式3では2.5×10-4H/mであった。
【0057】
引き続いて得られた各接合形式における設定透磁率を使って、図8の鉄心形状A、E、Fについて、0.23mm厚の方向性電磁鋼板(23P090、エプスタイン試験による鋼板鉄損W17/50:0.86W/kg)及び0.27mm厚の磁区細分化処理方向性電磁鋼板(27R085、エプスタイン試験による鋼板鉄損W17/50:0.83W/kg)をそれぞれ鉄心素材(鉄心材料)として用いた場合について、電磁界解析を行って、変圧器鉄損を求めた。あらかじめ各鉄心材料の磁気特性を二次元単板磁気測定装置にて測定し、磁界強度Hと磁束密度Bの関係をベクトル量として求め、その材料磁気特性を電磁界解析には用いた。三次元のコア形状における接合ラップ部に50μmの長さ領域に各接合形式における設定透磁率の磁性体を挿入した。表4に、変圧器鉄心を製作し実測した場合と、本発明の手法による電磁界解析結果の比較を示すが、いずれの励磁条件、鉄心形状においても、実測と電磁界解析での結果の差は3%以内であり、精度よく予測できている。
【0058】
発明例に対する比較として、ラップ接合部に鉄心素材(鉄心材料)とは透磁率が異なる磁性体を挿入しない場合、同様に電磁界解析を行って、変圧器鉄損を求めた。表4に、変圧器鉄心を製作し実測した場合と、磁性体を挿入しないこと以外は発明例と同様の手法による電磁界解析結果の比較を示す。いずれの励磁条件、鉄心形状においても、発明例と比べて実測と電磁界解析での結果の差が大幅に大きくなった。
【0059】
【表4】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8