(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072620
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】走間板厚変更における張力変動予測方法、走間板厚変更方法、鋼帯の製造方法、走間板厚変更における張力変動予測モデルの生成方法、及び走間板厚変更における張力変動予測装置
(51)【国際特許分類】
B21B 37/26 20060101AFI20220510BHJP
B21B 37/48 20060101ALI20220510BHJP
G05B 13/02 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
B21B37/26
B21B37/48 D
G05B13/02 Q
G05B13/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020182167
(22)【出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 和真
【テーマコード(参考)】
4E124
5H004
【Fターム(参考)】
4E124AA07
4E124AA08
4E124BB02
4E124BB03
4E124BB06
4E124CC01
4E124CC02
4E124CC03
4E124CC05
4E124CC06
4E124DD19
4E124EE01
4E124EE17
4E124FF01
5H004GA14
5H004GB03
5H004JA03
5H004KD31
5H004KD61
(57)【要約】
【課題】先行材と後行材との板厚差や変形抵抗差が大きい場合に適用される2段階の走間板厚変更において、先行材の圧延から中間ステップを経て後行材の圧延に移行する際の張力変動を精度よく予測可能な走間板厚変更における張力変動予測方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る走間板厚変更における張力変動予測方法であって、先行材の圧延操業パラメータから選択した1以上のパラメータ、後行材の圧延操業パラメータから選択した1以上のパラメータ、及び中間ステップの圧延操業パラメータから選択した1以上のパラメータを入力データとし、先行材の圧延から後行材の圧延への移行過程における張力変動情報を出力データとする、機械学習により学習された張力変動予測モデルを用いて、先行材の圧延から後行材の圧延への移行過程における張力変動量を予測するステップを含むことを特徴とする。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先行材と後行材との接合部を有する被圧延材を圧延するタンデム圧延機の、前記先行材の圧延から中間ステップを経て前記後行材の圧延に移行する走間板厚変更における張力変動予測方法であって、
前記先行材の圧延操業パラメータから選択した1以上のパラメータ、前記後行材の圧延操業パラメータから選択した1以上のパラメータ、及び前記中間ステップの圧延操業パラメータから選択した1以上のパラメータを入力データとし、前記先行材の圧延から前記後行材の圧延への移行過程における張力変動情報を出力データとする、機械学習により学習された張力変動予測モデルを用いて、前記先行材の圧延から前記後行材の圧延への移行過程における張力変動量を予測するステップを含むことを特徴とする走間板厚変更における張力変動予測方法。
【請求項2】
前記先行材の圧延から前記後行材の圧延への移行過程は、前記先行材の圧延から前記中間ステップへ移行する第1走変部と、前記中間ステップから前記後行材の圧延へ移行する第2走変部とを含み、前記入力データは、更に、前記接合部と前記第1走変部及び前記第2走変部との位置関係を表す走変位置設定パラメータを含むことを特徴とする請求項1に記載の走間板厚変更における張力変動予測方法。
【請求項3】
前記先行材の圧延操業パラメータには、前記先行材の板厚、板幅、変形抵抗、及び前記先行材に対して設定されるロールギャップのうちの少なくとも一つが含まれ、前記後行材の圧延操業パラメータには、前記後行材の板厚、板幅、変形抵抗、及び前記後行材に対して設定されるロールギャップのうちの少なくとも一つが含まれることを特徴とする請求項1又は2に記載の走間板厚変更における張力変動予測方法。
【請求項4】
前記中間ステップの圧延操業パラメータには、前記中間ステップに対して設定されるロールギャップが含まれることを特徴とする請求項1~3のうち、いずれか1項に記載の走間板厚変更における張力変動予測方法。
【請求項5】
請求項1~4のうち、いずれか1項に記載の走間板厚変更における張力変動予測方法を用いて、前記先行材の圧延から前記後行材の圧延への移行過程における張力変動量を予測し、予測した張力変動量が小さくなるように前記中間ステップの圧延操業パラメータから選択した1以上の操業パラメータを再設定するステップを含むことを特徴とする走間板厚変更方法。
【請求項6】
先行材と後行材との接合部を有する被圧延材を圧延するタンデム圧延機の、前記先行材の圧延から中間ステップを経て前記後行材の圧延に移行する走間板厚変更を用いた鋼帯の製造方法であって、
前記先行材の圧延操業パラメータから選択した1以上のパラメータ、前記後行材の圧延操業パラメータから選択した1以上のパラメータ、及び前記中間ステップの圧延操業パラメータから選択した1以上のパラメータを入力データとし、前記先行材の圧延から前記後行材の圧延への移行過程における張力変動情報を出力データとする、機械学習により学習された張力変動予測モデルを用いて、前記先行材の圧延から前記後行材の圧延への移行過程における張力変動量を予測するステップと、
予測した張力変動量が小さくなるように、前記中間ステップの圧延操業パラメータから選択した1以上の操業パラメータを再設定するステップと、
を含むことを特徴とする鋼帯の製造方法。
【請求項7】
先行材と後行材との接合部を有する被圧延材を圧延するタンデム圧延機の、前記先行材の圧延から中間ステップを経て前記後行材の圧延に移行する走間板厚変更における張力変動予測モデルの生成方法であって、
少なくとも前記先行材の圧延操業パラメータの操業実績データから選択した1以上の操業実績データ、前記後行材の圧延操業パラメータの操業実績データから選択した1以上の操業実績データ、及び前記中間ステップの圧延操業パラメータの操業実績データから選択した1以上の操業実績データを入力実績データとし、前記入力実績データに基づく前記先行材の圧延から前記後行材の圧延への移行過程における張力変動情報を出力実績データとした、複数の学習用データを取得するステップと、
取得した複数の学習用データを用いた機械学習によって、走間板厚変更における張力変動予測モデルを生成するステップと、
を含むことを特徴とする走間板厚変更における張力変動予測モデルの生成方法。
【請求項8】
前記機械学習として、ニューラルネットワーク、決定木学習、ランダムフォレスト、及びサポートベクター回帰から選択される手法が用いられることを特徴とする請求項7に記載の走間板厚変更における張力変動予測モデルの生成方法。
【請求項9】
先行材と後行材との接合部を有する被圧延材を圧延するタンデム圧延機の、前記先行材の圧延から中間ステップを経て前記後行材の圧延に移行する走間板厚変更における張力変動予測装置であって、
前記先行材の圧延操業パラメータから選択した1以上のパラメータ、前記後行材の圧延操業パラメータから選択した1以上のパラメータ、及び前記中間ステップの圧延操業パラメータから選択した1以上のパラメータを入力データとし、前記先行材の圧延から前記後行材の圧延への移行過程における張力変動情報を出力データとする、機械学習により学習された張力変動予測モデルを用いて、前記先行材の圧延から前記後行材の圧延への移行過程における張力変動量を予測する予測部を備えることを特徴とする走間板厚変更における張力変動予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走間板厚変更における張力変動予測方法、走間板厚変更方法、鋼帯の製造方法、走間板厚変更における張力変動予測モデルの生成方法、及び走間板厚変更における張力変動予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、冷間圧延工程では、先行被圧延材(以降「先行材」と表記)と後行被圧延材(以降「後行材」と表記)とをタンデム圧延機の入側で接合(溶接が代表的な手段)し、先行材と後行材とを連続した金属帯としてタンデム圧延機で冷間圧延する。そして、タンデム圧延機の出側において冷間圧延が完了した金属帯を製品単位の位置で切断し、切断された金属帯をテンションリールで順次巻き取る。
【0003】
このように先行材と後行材とが接合された被圧延材を複数の圧延スタンドを有するタンデム圧延機で冷間圧延する際、硬度、母板厚、及び仕上げ厚のうちのいずれかが先行材と後行材とで異なる場合、先行材と後行材とをそれぞれ目標の板厚に圧延すると共に、ライン停止をせずに歩留まりを向上させるために、連続圧延中に接合点の前後で圧延条件を変化させる「走間板厚変更」(以下、「走変」と略称する場合がある)が実施される。通常、走間板厚変更は、接合点が通過するタイミングに合わせて一回のみ行われる。
【0004】
ところが、接合点前後で板厚の変更量が大きい場合には、接合点が各圧延スタンドを通過する際の張力変動が大きくなり、板破断や絞込み等が発生することがある。このため、接合点の前後に中間ステップ(中間板厚部)を設けることにより、過大な張力変動を抑える技術が提案されている。例えば特許文献1には、先行材と後行材の板厚差が大きい場合、2段階の走間板厚変更を行うことが記載されている。また、特許文献1には、中間ステップの板厚設定は、一回当たりの板厚変更量の上限値を規定しながら、板厚変更量が上限値以下である場合には、全体の板厚変更量の1/2だけ変更することが記載されている。さらに、特許文献2には、先行材と後行材の断面積が大きく変化する場合、先行材と後行材の定常状態における張力設定値に基づいて中間ステップの板厚を決定することが記載されている。
【0005】
一方、近年は高張力鋼等の高強度鋼板の製造量が増え、変形抵抗の大きな鋼板と小さな鋼板とをそれぞれ先行材と後行材として接合して連続圧延を行うことが多くなっている。このように接合点前後で板厚変更量だけでなく変形抵抗差が大きい場合には、張力変動が極めて大きくなるため、板破断や絞込み等が発生する場合が増えている。このような背景から、特許文献3には、変形抵抗差がある場合に2段階の走間板厚変更を行う方法が記載されている。詳しくは、特許文献3に記載の方法は、2段階の走間板厚変更の2段目のロールギャップ変更量が小さくなるように中間ステップの板厚を設定し、先行材と後行材の接合点より前の段階で先行材の板厚を中間板厚まで変更した後に、接合点が圧延機を通過するタイミングで後行材の目標板厚に変更する。
【0006】
一方、特許文献4には、通常の1段階の走間板厚変更に対して、走間板厚変更時の張力変動予測手段として、走間板厚変更時の張力変動を教師データとして学習したニューラルネットワークによる張力変動予測モデルを用いる方法が記載されている。特許文献4に記載の方法は、学習によって生成した張力変動予測手段に基づき張力変動の値を予測し、ロールギャップ及びロール周速の設定値を先行材のパススケジュールから後行材のパススケジュールへ変更する走間板厚変更時間(以下、「走変時間」と呼ぶ)を再設定することにより、張力変動を抑制する。また、特許文献4には、ニューラルネットワークの入力には、走変時間、板厚変更時のロールギャップ変更量、圧下位置制御応答、主機速度制御応答、鋼種、板厚、板幅等が用いられることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-136117号公報
【特許文献2】特開平10-192936号公報
【特許文献3】特開2018-176197号公報
【特許文献4】特開平10-249423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、先行材の圧延から後行材の圧延に移行する際の中間ステップの板厚設定を一律に決定するものであり、走間板厚変更中の張力変動を低減するという観点からは改善の余地がある。一方、特許文献2に記載の方法は、先行材と後行材の接合点が圧延機を通過する際の過渡的な張力変動を考慮するものではないため、必ずしも張力変動を抑制できない。
【0009】
なお、特許文献1,2に記載の方法は、中間ステップにおける板厚の決定方法に多少の違いはみられるものの、いずれも走間板厚変更における板厚変更量を大きくするための方法であり、接合点を挟んで変形抵抗が大きく変化する状況までは想定していない。これに対して、特許文献3に記載の方法は、先行材と後行材とで変形抵抗差がある場合にも適用できる方法であるが、中間ステップにおける板厚設定は、ロールギャップ変更量を最小化する条件から算出している。これは、圧延機のアクチュエータ動作に関する条件を指標とするもので、必ずしも板厚や張力の変動挙動とは対応せず、張力変動を抑制する観点からは改善の余地がある。一方、特許文献4に記載の方法は、通常の1段階の走間板厚変更を対象としているため、先行材と後行材との板厚差や変形抵抗差が大きい場合には必ずしも張力変動を抑制できない。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、先行材と後行材との板厚差や変形抵抗差が大きい場合に適用される2段階の走間板厚変更において、先行材の圧延から中間ステップを経て後行材の圧延に移行する際の張力変動を精度よく予測可能な走間板厚変更における張力変動予測方法、走間板厚変更方法、鋼帯の製造方法、走間板厚変更における張力変動予測モデルの生成方法、及び走間板厚変更における張力変動予測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る走間板厚変更における張力変動予測方法は、先行材と後行材との接合部を有する被圧延材を圧延するタンデム圧延機の、前記先行材の圧延から中間ステップを経て前記後行材の圧延に移行する走間板厚変更における張力変動予測方法であって、前記先行材の圧延操業パラメータから選択した1以上のパラメータ、前記後行材の圧延操業パラメータから選択した1以上のパラメータ、及び前記中間ステップの圧延操業パラメータから選択した1以上のパラメータを入力データとし、前記先行材の圧延から前記後行材の圧延への移行過程における張力変動情報を出力データとする、機械学習により学習された張力変動予測モデルを用いて、前記先行材の圧延から前記後行材の圧延への移行過程における張力変動量を予測するステップを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る走間板厚変更における張力変動予測方法は、上記発明において、前記先行材の圧延から前記後行材の圧延への移行過程は、前記先行材の圧延から前記中間ステップへ移行する第1走変部と、前記中間ステップから前記後行材の圧延へ移行する第2走変部とを含み、前記入力データは、更に、前記接合部と前記第1走変部及び前記第2走変部との位置関係を表す走変位置設定パラメータを含むことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る走間板厚変更における張力変動予測方法は、上記発明において、前記先行材の圧延操業パラメータには、前記先行材の板厚、板幅、変形抵抗、及び前記先行材に対して設定されるロールギャップのうちの少なくとも一つが含まれ、前記後行材の圧延操業パラメータには、前記後行材の板厚、板幅、変形抵抗、及び前記後行材に対して設定されるロールギャップのうちの少なくとも一つが含まれることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る走間板厚変更における張力変動予測方法は、上記発明において、前記中間ステップの圧延操業パラメータには、前記中間ステップに対して設定されるロールギャップが含まれることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る走間板厚変更方法は、本発明に係る走間板厚変更における張力変動予測方法を用いて、前記先行材の圧延から前記後行材の圧延への移行過程における張力変動量を予測し、予測した張力変動量が小さくなるように前記中間ステップの圧延操業パラメータから選択した1以上の操業パラメータを再設定するステップを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明に係る鋼帯の製造方法は、先行材と後行材との接合部を有する被圧延材を圧延するタンデム圧延機の、前記先行材の圧延から中間ステップを経て前記後行材の圧延に移行する走間板厚変更を用いた鋼帯の製造方法であって、前記先行材の圧延操業パラメータから選択した1以上のパラメータ、前記後行材の圧延操業パラメータから選択した1以上のパラメータ、及び前記中間ステップの圧延操業パラメータから選択した1以上のパラメータを入力データとし、前記先行材の圧延から前記後行材の圧延への移行過程における張力変動情報を出力データとする、機械学習により学習された張力変動予測モデルを用いて、前記先行材の圧延から前記後行材の圧延への移行過程における張力変動量を予測するステップと、予測した張力変動量が小さくなるように、前記中間ステップの圧延操業パラメータから選択した1以上の操業パラメータを再設定するステップと、を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る走間板厚変更における張力変動予測モデルの生成方法は、先行材と後行材との接合部を有する被圧延材を圧延するタンデム圧延機の、前記先行材の圧延から中間ステップを経て前記後行材の圧延に移行する走間板厚変更における張力変動予測モデルの生成方法であって、少なくとも前記先行材の圧延操業パラメータの操業実績データから選択した1以上の操業実績データ、前記後行材の圧延操業パラメータの操業実績データから選択した1以上の操業実績データ、及び前記中間ステップの圧延操業パラメータの操業実績データから選択した1以上の操業実績データを入力実績データとし、前記入力実績データに基づく前記先行材の圧延から前記後行材の圧延への移行過程における張力変動情報を出力実績データとした、複数の学習用データを取得するステップと、取得した複数の学習用データを用いた機械学習によって、走間板厚変更における張力変動予測モデルを生成するステップと、を含むことを特徴とする。
【0018】
本発明に係る走間板厚変更における張力変動予測モデルの生成方法は、上記発明においいて、前記機械学習として、ニューラルネットワーク、決定木学習、ランダムフォレスト、及びサポートベクター回帰から選択される手法が用いられることを特徴とする。
【0019】
本発明に係る走間板厚変更における張力変動予測装置は、先行材と後行材との接合部を有する被圧延材を圧延するタンデム圧延機の、前記先行材の圧延から中間ステップを経て前記後行材の圧延に移行する走間板厚変更における張力変動予測装置であって、前記先行材の圧延操業パラメータから選択した1以上のパラメータ、前記後行材の圧延操業パラメータから選択した1以上のパラメータ、及び前記中間ステップの圧延操業パラメータから選択した1以上のパラメータを入力データとし、前記先行材の圧延から前記後行材の圧延への移行過程における張力変動情報を出力データとする、機械学習により学習された張力変動予測モデルを用いて、前記先行材の圧延から前記後行材の圧延への移行過程における張力変動量を予測する予測部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、先行材と後行材との板厚差や変形抵抗差が大きい場合に適用される2段階の走間板厚変更において、先行材の圧延から中間ステップを経て後行材の圧延に移行する際の張力変動を精度よく予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明が適用される冷間連続圧延設備の構成例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、被圧延材の出側板厚とロールギャップとの関係を示す図である。
【
図3】
図3は、通常の走間板厚変更における被圧延材の出側板厚とロールギャップとの関係を説明するための図である。
【
図4】
図4は、本実施形態の2段階の走間板厚変更を説明するための図である。
【
図5】
図5は、タンデム圧延機におけるロールギャップ及びロール周速の設定計算の流れを説明するための図である。
【
図6】
図6は、走変位置設定パラメータを説明するための図である。
【
図7】
図7は、本実施形態の2段階の走間板厚変更の流れを示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、スタンド間張力の変動挙動の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明の一実施形態である張力変動予測モデルの生成方法を示す図である。
【
図10】
図10は、本発明の一実施形態である張力変動予測方法及び張力変動の低減方法を説明するための図である。
【
図11】
図11は、本発明の一実施形態である張力変動予測装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0023】
〔冷間連続圧延設備の構成〕
まず、
図1を参照して、本発明が適用される冷間連続圧延設備の構成例について説明する。
【0024】
図1は、本発明が適用される冷間連続圧延設備の構成例を示す模式図である。なお、
図1では、冷間連続圧延設備に附帯する他の装置(例えば入側の巻戻機、溶接機、及びルーパ、並びに出側の切断機及び巻取機等の装置)については図示を省略している。
【0025】
図1に示すように、本発明が適用される冷間連続圧延設備1は、タンデム圧延機2、タンデム圧延機2を制御する圧延制御コントローラ(PLC)3、及び圧延制御コントローラ3を含む冷間連続圧延設備1を管理する制御用計算機(プロセスコンピュータ)4を備えている。
【0026】
タンデム圧延機2は、被圧延材5の通板方向の入側から順に第1圧延スタンド2A~第5圧延スタンド2Eを有する連続式冷間タンデム圧延機である。各圧延スタンドには、ワークロール21、ワークロール21のロール周速を変更する電動機であるロール周速制御装置22、及び上下のワークロール21のロールギャップを変更する圧下制御装置23が設置されている。また、各圧延スタンドの下側のバックアップロールの下部にはロードセルからなる圧延荷重検出器24が設けられている。さらに、各圧延スタンドには、圧下位置を検出する圧下位置検出器25が設けられている。さらに、各圧延スタンド間には、被圧延材5の張力を検出する張力計26が設けられている。さらに、第1圧延スタンド2Aの出側及び第5圧延スタンド2Eの出側には、被圧延材5の板厚を検出する板厚計27が設けられている。
【0027】
圧延制御コントローラ3は、圧延荷重検出器24で検出される圧延荷重や張力計26からの張力等の圧延操業データを所定のサンプリング周期で収集し、それを制御用計算機4に出力する。また、圧延制御コントローラ3は、制御用計算機4から取得した各値に基づいて各圧延スタンドのロール周速制御装置22及び圧下制御装置23を制御するための処理を実行する。また、圧延制御コントローラ3は、先行材と後行材との接合部のトラッキングを行う他、被圧延材5上の指定された位置についてもトラッキングを行う機能を有する。これにより、圧延制御コントローラ3は、接合点を含む被圧延材5の予め設定された位置がタンデム圧延機の各圧延スタンドを通過するタイミングで、所定の差分指令値をロール周速制御装置22や圧下制御装置23等の制御装置に出力する。
【0028】
制御用計算機4は、後述する圧延スケジュール及び走間板厚変更部(走変部)を設定し、走間板厚変更部に対応する各圧延スタンドのロールギャップ及びロール周速の差分指令値を生成する。また、制御用計算機4は、上位計算機から与えられる母材寸法や製品目標寸法等の情報に従って、先行材及び後行材のパススケジュール、各圧延スタンドの圧延荷重及び先進率の予測値、並びにロールギャップ及びロール周速の設定値を計算する。また、2段階の走間板厚変更(2段走変)を実行する場合には、制御用計算機4は、中間ステップを設定し、中間ステップに対応するロールギャップ及びロール周速の設定値を計算する。これにより、先行材から中間ステップへ移行する第1走変部におけるロールギャップ及びロール周速の変更量(差分指令値)、及び中間ステップから後行材へ移行する第2走変部におけるロールギャップ及びロール周速の変更量(差分指令値)が算出される。さらに、制御用計算機4は、先行材と後行材との接合部と第1走変部及び第2走変部との関係を表す走変位置設定パラメータを設定する。そして、制御用計算機4は、算出されるこれらの値を下位の圧延制御コントローラ3に設定する。
【0029】
〔ロールギャップと板厚との関係について説明〕
次に、
図2~
図4を参照して、先行材、後行材、及び中間ステップにおけるロールギャップの変更ステップについて説明する。
【0030】
まず、
図2を参照して、圧延機のロールギャップと被圧延材5の板厚との一般的な関係について述べる。圧延機では、被圧延材に付与する圧延荷重の反力によって全体が縦方向に変形し、予め設定されたロールギャップが広がる。このため、所定の板厚の被圧延材を得るためには、圧延荷重と圧延機の変形量を考慮してロールギャップSを設定しなければならない。
【0031】
図2は、圧延機の入側板厚がHである被圧延材を圧延した場合における被圧延材の出側板厚hとロールギャップSとの関係を示す図である。
図2に示すように、圧延機の変形は弾性変形であるため、ロールギャップは圧延荷重Pに対して概ね線形に広がる。この特性を圧延機の弾性特性曲線という。一方、種々の出側板厚hを仮定して2次元圧延理論から算出される圧延荷重Pを結んだ曲線を圧延材料の塑性特性曲線と呼ぶ。実際の圧延では、それらの圧延荷重が釣り合う条件から被圧延材の出側板厚hが決定される。
【0032】
次に、
図3を参照して、通常の走間板厚変更(1段走変)における出側板厚hとロールギャップSとの関係を説明する。
図3は、先行材の入側板厚がH1、後行材の入側板厚がH2であって、先行材が硬質材、後行材が軟質材の例をしている。
図3に示すように、通常の走間板厚変更では、先行材に対しては、目標の出側板厚h1が得られるようにロールギャップSを第1ロールギャップS1に設定する。接合点が圧延スタンドを通過すると、塑性特性曲線は、先行材(硬質材)の塑性特性曲線から、後行材(軟質材)の塑性特性曲線に遷移する。これにより、ロールギャップS1を保持した状態で弾性特性曲線と塑性特性曲線との交点が点aから点bに遷移する。その結果、接合点が圧延スタンドを通過すると後行材の出側板厚はhcに変化する。一方、後行材に対しては、ロールギャップを第2ロールギャップS2に変更すると、弾性特性曲線と塑性特性曲線との交点が点bから点cに遷移し、後行材の出側板厚が目標板厚であるh2となり、走間板厚変更が完了する。
【0033】
通常の走間板厚変更では、接合点が圧延スタンドに到達したタイミングに合わせて、ロールギャップの変更指令が出される。しかしながら、ロールギャップの変更には一定の時間を要するため、ロールギャップの変更(ロールギャップS1からロールギャップS2)が完了するよりも前に接合点の通過が完了するのが通常である。従って、接合点通過前後の板厚変動は、過渡的にはh1→hc→h2に近い経路となる。このような過渡的な板厚変動により、各圧延スタンドにおけるマスフローバランスが変化し、大きな張力変動が発生する。特に、接合点を挟んで塑性特性曲線が大きく変化する場合に、板厚変動(h1→hc)が顕著になる。先行材と後行材の変形抵抗が異なる場合に大きな張力変動が生じるのはこのためである。
【0034】
これに対して、
図4は、本実施形態の2段階の走間板厚変更(2段走変)を説明するための図である。
図4に示すように、本実施形態の2段階の走間板厚変更では、まず、先行材については目標の出側板厚h1が得られるようにロールギャップSが第1ロールギャップS1に設定され、後行材については目標の出側板厚h2が得られるように第2ロールギャップS2が設定される。2段走変では、さらに、中間ステップにおける中間ロールギャップScが設定される。中間ステップとは、先行材から後行材の圧延に移行する過程において、第1ロールギャップS1及び第2ロールギャップS2とは異なるロールギャップで圧延を行う工程(ロールギャップ保持工程)をいう。また、先行材の圧延から中間ステップに移行する過程を第1走変工程と呼び、中間ステップから後行材の圧延に移行する過程を第2走変工程と呼ぶこととする。
【0035】
図4に示す例では、先行材の圧延中に第1走変工程を実行すると、ロールギャップの変更(S1→Sc)により、弾性特性曲線と塑性特性曲線との交点が点aから点bに遷移する。これにより、圧延スタンド出側の板厚がh1→hc1に変化する。また、この状態で接合点が圧延スタンドを通過すると、接合点の前後で塑性特性曲線が変化するため、弾性特性曲線と塑性特性曲線との交点が点bから点cに遷移する。これにより、圧延スタンド出側の板厚がhc1→hc2に変化する。その後、第2走変工程を実行すると、ロールギャップ変更(Sc→S2)により、弾性特性曲線と塑性特性曲線との交点が点cから点dに遷移する。これにより、圧延スタンド出側の板厚がhc2→h2に変化し、走間板厚変更が完了する。
【0036】
2段走変では、圧延スタンド出側の過渡的な板厚変化は、h1→hc1→hc2→h2であり、中間ステップを設定しない1段走変における過渡的な板厚変化h1→hc’→h2に比べて、移行過程における板厚変化が小さく、マスフロー変動が抑制される。このため、張力変動が緩和される。本発明は、このような2段走変を前提としながら、走間板厚変更時の張力変動を予測し、その張力変動がより小さくなるように制御する。
【0037】
〔ロールギャップの設定計算〕
次に、
図5を参照して、タンデム圧延機におけるロールギャップの設定計算の流れについて説明する。
【0038】
図5は、タンデム圧延機におけるロールギャップ及びロール周速の設定計算の流れを説明するための図である。タンデム圧延機におけるロールギャップの設定計算は、制御用計算機4が、上位計算機から与えられる母材寸法や製品目標寸法等の情報に従って、被圧延材のパススケジュールを設定し、各圧延スタンドの圧延荷重を算出し、対応するロールギャップの設定値を計算するものである。なお、パススケジュールとは、タンデム圧延機の各スタンドにおける出側板厚をいう。
【0039】
具体的には、タンデム圧延機におけるロールギャップの設定計算では、まず、制御用計算機4が、被圧延材のパススケジュールから、計算対象の圧延スタンドにおける被圧延材の入側板厚H及び出側板厚hを取得し、2次元圧延理論を用いて例えば以下に示す数式(1)を用いて圧延荷重の予測値Pを求める。ここで、Pは圧延荷重(kN)、Hは入側板厚(mm)、hは出側板厚(mm)、bは板幅(mm)、kmは被圧延材の平均変形抵抗(MPa)、R’は扁平ロール半径(mm)、QPは圧下力関数、μは摩擦係数である。なお、扁平ロール半径R’はHitchcockのロール扁平式が適用され、2次元圧延理論による荷重計算との連立解から求められる。
【0040】
【0041】
次に、制御用計算機4は、このようにして算出された圧延荷重の予測値Pを用いて、例えば以下に示す数式(2)によりロールギャップの設定値Sを求める。ここで、Kは、タンデム圧延機の弾性特性曲線の傾きを表すミル定数(kN/mm)、δはタンデム圧延機毎に設定される定数である。
【0042】
【0043】
制御用計算機4は、以上の計算をタンデム圧延機の全圧延スタンドに対して実行することにより圧延スタンド毎にロールギャップの設定値Sを決定する。なお、任意の圧延スタンドに対するロールギャップの設定値はSと表記するが、圧延スタンド毎のロールギャップの設定値についてはS(i)のようにi番目の圧延スタンドにおけるロールギャップであることを表す。
【0044】
2段階の走間板厚変更におけるロールギャップの設定計算は、設定対象の被圧延材がタンデム圧延機の第1圧延スタンドを通過する前に行われる。通常は、先行材の圧延を行っている途中に、後行材のロールギャップの設定計算及び中間ステップのロールギャップの設定計算の両方を実行する。その際、先行材のロールギャップの設定計算は既に完了している状態であり、制御用計算機4内の記憶装置には先行材のロールギャップ設定値S1が保持されている。
【0045】
図5に示すように、後行材のロールギャップ設定値S2は、上位計算機から与えられる後行材の母材寸法や製品目標寸法等の情報に従って、後行材の出側板厚h2を設定し、各圧延スタンドの圧延荷重P2を算出し、数式(1)及び数式(2)を用いて算出することにより求められる。一方、中間ステップのロールギャップの設定値Scは、通常は先行材の母材寸法と製品目標寸法等の情報に従って、中間ステップにおける出側板厚hc1を設定し、これに基づいて各圧延スタンドの圧延荷重Pc1を算出し、数式(1)及び数式(2)を用いて算出することにより求められる。但し、後行材の母材寸法や製品目標寸法等の情報に基づいて、中間ステップにおけるパススケジュールhc2が設定されてもよい。設定計算の方法は同様である。
【0046】
以上により、先行材のロールギャップ設定値S1、後行材のロールギャップ設定値S2、及び中間ステップにおけるロールギャップ設定値Scが決定される。次に、制御用計算機4は、第1走変工程におけるロールギャップの変更量ΔS1及び第2走変工程におけるロールギャップの変更量ΔS2を以下に示す数式(3)及び数式(4)により算出する。
【0047】
【0048】
【0049】
これらは、差分指令値とも呼ばれ、走間板厚変更時の制御目標値として圧延制御コントローラ3に送られる。ここまでの計算は、第1走変工程の開始前に実行する。但し、制御用計算機4内の記憶装置に保持されている先行材のロールギャップ設定値S1は、先行材の設定計算において算出された値を用いる場合と、先行材の圧延中にロールギャップの実績値を圧延制御コントローラ3が収集し(ロックオンと呼ばれる)、その値をロールギャップS1として改めて記憶装置に保持させる場合もある。先行材の最新の圧延状態を反映した設定値となるからである。
【0050】
また、中間ステップにおけるロールギャップScを設定する際には、中間ステップにおけるパススケジュールhc1を必ずしも設定しておく必要はない。ロールギャップの設定値Scを例えば以下に示す数式(5)により設定してもよい。但し、αは任意の定数である。
【0051】
【0052】
すなわち、ロールギャップScは、任意の値に設定することができ、必ずしもロールギャップS1とロールギャップS2の中間値とする必要はない。ロールギャップS2がロールギャップS1よりも大きい場合、ロールギャップScはロールギャップS1の値よりも小さくて構わない。また、ロールギャップS2の値よりも大きくて構わない。先行材と後行材との目標板厚や変形抵抗差に応じて、張力変動を小さくするための中間ステップにおけるロールギャップの設定値Scは、必ずしもロールギャップS1とロールギャップS2の中間値とならない場合があるからである。但し、通常はロールギャップS1とロールギャップS2の間の値としてロールギャップScの設定値を設定することが好ましい。その場合には数式(5)におけるαの値は0~1.0の範囲内となる。
【0053】
〔ロール周速の設定計算〕
次に、
図5を参照して、各圧延スタンドのロール周速の設定計算の流れについて説明する。
【0054】
ロール周速の設定計算は、ロールギャップの設定計算と同じタイミングで実行される。なお、ロール周速とはタンデム圧延機のワークロールの周速を表す。具体的には、制御用計算機4は、被圧延材のパススケジュールに基づいて、2次元圧延理論により各圧延スタンドの先進率fsの予測値を算出する。先進率は、例えばBland&Fordの先進率式から求めることができる。このときタンデム圧延機のロール周速は、定常状態において以下の数式(6)に示すマスフロー一定則を満足する必要がある。
【0055】
【0056】
ここで、iは圧延スタンド番号、VR(i)は第i圧延スタンドのロール周速(mm/s)、h(i)は第i圧延スタンドの出側板厚(mm)、fs(i)は第i圧延スタンドの先進率(-)を示す。これは、任意の圧延スタンドのロール周速が決まれば、他の圧延スタンドのロール周速が数式(6)により決定されることを意味する。通常は、走間板厚変更を行う際の圧延速度は、最終圧延スタンドのロール周速で概ね100~400m/minの範囲で予め設定されており、他の圧延スタンドのロール周速もこれにより決定される。
【0057】
2段階の走間板厚変更におけるロール周速の設定計算でも、ロールギャップの設定計算と同様に、後行材のロール周速の設定計算及び中間ステップのロール周速の設定計算を行う際には、先行材のロール周速の設定計算は既に完了した状態にあり、制御用計算機4内の記憶装置に先行材のロール周速の設定値VR1が保持されている。そして、
図5に示すように、後行材のロール周速の設定値VR2は、後行材のパススケジュールh2を設定し、各圧延スタンドの先進率fs2を算出し、予め設定された圧延スタンドのロール周速を基準として数式(6)を用いることにより算出される。一方、中間ステップのロール周速の設定値VRcも、先行材に対する中間ステップのパススケジュールhc1が設定されている場合に、各圧延スタンドの先進率fsc1を算出することにより求められる。
【0058】
以上により、先行材のロール周速の設定値VR1、後行材のロール周速の設定値VR2、及び中間ステップにおけるロール周速の設定値VRcが決定される。次に、制御用計算機4は、第1走変工程におけるロール周速の変更量ΔVR1及び第2走変工程におけるロール周速の変更量ΔVR2を以下に示す数式(7)及び数式(8)により算出する。
【0059】
【0060】
【0061】
これらの値(差分値)は、走間板厚変更時の制御目標値として、圧延制御コントローラ3に送られる。ここまでの計算は、第1走変工程の開始前に実行する。但し、制御用計算機4内の記憶装置に保持されている先行材のロール周速設定値VR1に代えて、先行材の圧延中にロール周速の実績値を圧延制御コントローラ3が収集して(ロックオンと呼ばれる)、その実績値をロール周速VR1として改めて記憶装置に保持させる場合がある。ロックオンによりロール周速の設定値を更新する場合には、ロールギャップの更新と同時に行う。また、中間ステップのロールギャップScを数式(5)の例のように任意に設定する場合は、そのロールギャップScを用いて先行材を圧延すると想定した場合に算出される各圧延スタンドの出側板厚を予め算出する。具体的には、数式(1)及び数式(2)式を連立させた解として求められる出側板厚hc1を予め算出し、上記の方法により中間ステップのロール周速の設定値VRcを求めればよい。
【0062】
〔走変位置設定パラメータ〕
次に、
図6を参照して、本実施形態の走変位置設定パラメータについて説明する。
【0063】
本実施形態の2段階の走間板厚変更では、接合部と第1走変部及び第2走変部との位置関係を表す走変位置設定パラメータを用いる。走変位置設定パラメータは、接合部、第1走変部、及び第2走変部の3つの位置関係を特定するためのパラメータであるが、接合部が圧延スタンドを通過するタイミングと、第1走変工程及び第2走変工程を実行する時間的な関係を特定するためのパラメータでもある。
【0064】
図6は、走変位置設定パラメータを説明するための図であり、先行材と後行材とが接合部(接合点)Wにおいて接合されている状態を表す。
図6に示す例では、先行材の尾端側であって、接合点Wよりも上流側に第1走変部がある。また、後行材の先端側に第2走変部がある。第1走変部は、先行材の圧延から中間ステップへの移行部であり、ロールギャップの変更量ΔS1及びロール周速の変更量ΔVR1の変更開始から終了までの区間を示している。一方、第2走変部は、中間ステップから後行材の圧延への移行部であり、ロールギャップの変更量ΔS2及びロール周速の変更量ΔVR2の変更開始から終了までの区間を示している。なお、第1走変工程を実行する時間を第1走変時間、第2走変工程を実行する時間を第2走変時間と称する。
【0065】
走間板厚変更を実行するためのロールギャップ及びロール周速の変更に要する走変時間(第1走変時間及び第2走変時間)は、以下のようにして決定される。すなわち、各圧延スタンドのロールギャップの変更速度は、圧下装置が油圧圧下又は電動圧下であるかによって異なるが、例えば油圧圧下で0.5~2mm/Sec、電動圧下で0.2~0.8mm/Secのように設定される。このとき、各圧延スタンドのロールギャップ変更に要する時間は、ロールギャップ変更量ΔSの絶対値をロールギャップの変更速度で除した値(|ΔS|÷ロールギャップの変更速度)により算出することができる。但し、走変時間を全ての圧延スタンドで統一することにより張力変動を低減できるため、圧延スタンド毎に求められる走変時間のうち最も長い走変時間を採用する。実際のタンデム圧延機における走変時間としては概ね0.2~2.5Sec程度となるのが通常である。なお、走変時間は先行材及び後行材の圧延条件毎に決定してもよいが、固定値として制御用計算機4に予め設定しておいてもよい。
【0066】
図6における第1走変部及び第2走変部の長さは、予め設定されていてもよいが、第1走変時間及び第2走変時間が上記のようにして算出される場合には、被圧延材の圧延機入側における搬送速度から走変時間を被圧延材の長さに換算し、それを第1走変部及び第2走変部の長さとして決定してもよい。一方、接合部の長さ(搬送方向の長さ)は、タンデム圧延機の入側において概ね1~100mm程度である。例えば接合部の長さが10mmの場合に、タンデム圧延機入側の搬送速度が60m/minと仮定すると、接合部が第1圧延スタンド2Aを通過する時間は0.01Secと極めて短い。すなわち、第1走変部及び第2走変部に比べて接合部の長さは短いことから、第1走変部及び第2走変部に対して接合部の長さを実用上は無視して接合「点」と呼ぶ場合がある。
【0067】
ここで、本実施形態における走変位置設定パラメータは、接合点Wと第1走変部の距離、及び接合点Wと第2走変部との距離により定義することができる。例えば、接合点Wを基準として第1走変部の開始点(第1走変工程の開始位置)Bとの距離、及び接合点Wと第2走変部の開始点(第2走変工程の開始位置)Eとの距離を走変位置設定パラメータとする。これにより、接合点Wがタンデム圧延機を通過するタイミングに基づき、第1走変部及び第2走変部がタンデム圧延機を通過するタイミングを特定することができる。但し、走変位置設定パラメータとしては、接合点W、第1走変部、及び第2走変部の位置関係を特定できる任意のパラメータを用いることができる。
【0068】
また、走変位置設定パラメータは、接合部との位置関係ではなく時間の関係により定義することもできる。具体的には、接合点Wがタンデム圧延機を通過するタイミングに対して、第1走変工程の開始タイミングとの時間差、及び接合点Wがタンデム圧延機を通過するタイミングに対して第2走変工程の開始タイミングとの時間差を用いてもよい。これにより、接合点Wがタンデム圧延機を通過するタイミングと、第1走変部及び第2走変部がタンデム圧延機を通過するタイミングを特定できる。距離により特定する場合と時間差により特定する場合とは、被圧延材のタンデム圧延機入側の搬送速度を用いれば相互に変換することができる。従って、本実施形態の走変位置設定パラメータは、接合点Wの通過と第1走変工程及び第2走変工程のタイミングを時間により特定する場合を含むものとする。
【0069】
なお、走変位置設定パラメータとして接合点Wとの距離を用いる場合に、以下のような条件であることが好ましい。まず、第1走変工程が完了した後に接合点Wがタンデム圧延機に到達するように、第1走変部の開始点Bの位置を設定する。また、第2走変部の開始点Eは、接合点Wがタンデム圧延機に通過した後に位置するように設定する。但し、第2走変部の開始点Eを接合点Wと一致させるように設定しても構わない。タンデム圧延機を接合点Wが通過するタイミングに合わせて、第2走変工程を開始しても、接合点Wの通過時間が短いため、全体としては
図4に示す経路a→b→c→dに近い経路を経由することになる。
【0070】
〔走間板厚変更方法〕
次に、
図7を参照して、本実施形態の2段階の走間板厚変更の制御フローを説明する。
【0071】
図7は、本実施形態の2段階の走間板厚変更の流れを示すフローチャートである。タンデム圧延機の入側において、先行材と後行材との接合点が認識され、接合点のトラッキングが開始される。トラッキングは、圧延制御コントローラ3において行われ、接合点Wが第1圧延スタンド2Aよりも上流側の位置からタンデム圧延機出側でコイルが切断されるまでの間行われ、各圧延スタンドを接合点が通過するタイミングで制御指令が出力される。接合点Wに対応する位置にトラッキングのためのセンサ検出用の貫通穴が穿孔される場合がある。
【0072】
本実施形態では、接合点Wを基準として、走変位置設定パラメータにより特定される、第1走変部の開始点B及び第2走変部の開始点Eについてもトラッキングが行われる。走変位置設定パラメータが時間によって定義される場合には、タンデム圧延機の入側の搬送速度を用いて第1走変部の開始点B及び第2走変部の開始点Eを特定し、トラッキングを実行する。なお、第1走変部の開始点Bと接合点Wとの距離及び第2走変部の開始点Eと接合点Wとの距離は、タンデム圧延機の入側の位置においていずれも5m以下が好ましく、1m以下であることがより好ましい。但し、第2走変部の開始点Eと接合点Wとが一致する場合もある。
【0073】
本実施形態では、タンデム圧延機の圧延スタンドでは先行材の圧延を行っている状態で、先行材の第1走変部の開始点Bが圧延スタンドに到達するまでは目標板厚がh1となるようにロールギャップS1で圧延が行われる。その後、
図7に示すように、第1走変部の開始点Bが圧延スタンドに到達すると(ステップST1:Yes)、第1走変工程が実行され、ロールギャップをS1からScに変更する動作が開始される(ステップST2)。その後、第1走変部の終了点が圧延スタンドを通過するタイミングで、中間ステップにおけるロールギャップScへの移行が完了する。次に、第1走変工程が完了してから、第2走変部の開始点Eが圧延スタンドに到達するまではロールギャップをScに保持する。これをロールギャップ保持工程と呼ぶ。
【0074】
その後、第2走変部の開始点Eが圧延スタンドに到達した段階で(ステップST3:Yes)、第2走変工程が実行され、ロールギャップをScからS2に変更する(ステップST4)。第2走変部の終了点が圧延スタンドを通過するタイミングでは(ステップST5:Yes)、既に接合点も通過しており、後行材のロールギャップがS2に移行した段階でその圧延スタンドにおける走間板厚変更が完了する。タンデム圧延機においては、以上のステップST1~ST5を第1圧延スタンドから最終圧延スタンドまで実行し、最終圧延スタンドにおける走間板厚変更が完了したとき、タンデム圧延機における走間板厚変更が終了して、通常の連続圧延に移行する。
【0075】
なお、第1走変部の開始点Bと第2走変部の開始点Eについて、タンデム圧延機の入側から出側にかけて随時トラッキングする方法ではなく、接合点Wのトラッキング情報を基準として、タイマーにより第1走変工程の開始タイミング及び第2走変工程の開始タイミングを設定する場合もある。この場合も、接合点Wのトラッキング情報を参照すれば、走変位置設定パラメータにより第1走変工程と第2走変工程の開始タイミングを特定することができる。
【0076】
〔先行材の圧延から後行材の圧延への移行過程における張力変動情報〕
次に、
図8を参照して、先行材の圧延から後行材の圧延への移行過程における張力変動情報について説明する。
【0077】
本実施形態における2段階の走間板厚変更方法によれば、通常の1段階の走間板厚変更方法に比べて張力変動を抑制することができる。但し、先行材と後行材との変形抵抗差が大きい場合には、接合部が圧延機を通過する前後で張力変動が発生する。
【0078】
図8は、上から順に第2スタンド入側張力(#1-#2)、第3スタンド入側張力(#2-#3)、第4スタンド入側張力(#3-#4)、及び第5スタンド入側張力(#4-#5)の変動を時系列で表したものである。
図8に示すように、第1走変部、接合部、及び第2走変部が下流側の圧延スタンドに移動する毎に、それぞれの圧延スタンドで張力変動が生じている。スタンド間張力の実績データは、タンデム圧延機2に設置された張力計26により収集されたものである。
【0079】
本実施形態では、このような張力変動に関して、先行材の圧延から後行材の圧延への移行過程における張力変動情報を用いる。具体的には、走間板厚変更が実行される圧延スタンドにおいて、第1走変工程の開始から第2走変工程の終了までの間で発生した張力変動に基づいて張力変動情報を生成する。張力変動情報は、時系列の張力データから、第1走変工程の開始から第2走変工程の終了までの間の張力の最大値、最小値、及びそれらの第1走変工程の開始前の張力値との差等、走間板厚変更過程における圧延スタンド間張力の変動挙動を表す任意の指標を用いることができる。従って、第1走変工程の開始から第2走変工程の終了までの間の張力の最大振幅や、第1走変工程の開始から第2走変工程の終了までの間の平均値を用いてもよい。
【0080】
なお、
図8からわかるように、走間板厚変更過程における張力変動は、ロールギャップを変更する圧延スタンドの入側で生じやすいため、張力変動情報として、入側張力の時系列データから生成する張力情報を用いることが好ましい。さらに、張力変動情報を、第1走変工程における張力変動と第2走変工程における張力変動とに区分して、それぞれの工程における張力変動の値を生成して、それらのいずれか又は両方を張力変動情報としてもよい。このとき、圧延スタンド間張力の絶対値だけでなく、被圧延材の単位断面積当たりの張力(ユニット張力と呼ばれることがある。)を用いてもよい。さらに、時系列の張力データを2次元のグラフで表した図形情報を張力変動情報としても構わない。
【0081】
<張力変動予測モデルの生成方法>
次に、
図9を参照して、本発明の一実施形態である張力変動予測モデルの生成方法について説明する。
【0082】
図9は、本発明の一実施形態である張力変動予測モデルの生成方法を示す図である。
図9に示すように、本発明の一実施形態である張力変動予測モデルの生成方法では、まず、先行材の圧延操業パラメータの操業実績データ、後行材の圧延操業パラメータの操業実績データ、及び中間ステップの圧延操業パラメータの操業実績データが張力変動予測モデル生成部32のデータベース32aに蓄積される。圧延操業パラメータの詳細については後述するが、タンデム圧延機の操業を統括する制御用計算機4が有する実績データ、及び圧延制御コントローラ3により収集した実績データから制御用計算機4に送られた実績データがデータベース32aに送られる。なお、データベース32aには、必要に応じて走変位置設定パラメータの実績データを蓄積してもよい。
【0083】
また、タンデム圧延機2に設置された張力計26により収集される時系列の張力データは、張力変動情報演算部31において、第1走変工程の開始から第2走変工程の終了までの間における張力変動情報に変換され、先行材及び後行材のコイル番号に対応付けられた情報としてデータベース32aに送られる。なお、張力変動情報演算部31を制御用計算機4に設け、張力計26による計測データを取得した圧延制御コントローラ3から制御用計算機4に送られる時系列の張力データを用いて張力変動情報に変換してもよい。
【0084】
先行材の圧延操業パラメータの操業実績データ、後行材の圧延操業パラメータの操業実績データ、及び中間ステップの圧延操業パラメータの操業実績データは、被圧延材となるコイル毎のデータ群であるが、それぞれの圧延スタンド毎のデータセットに分割することができる。すなわち、特定の圧延スタンドにおける先行材、後行材、及び中間ステップの圧延操業パラメータの操業実績データから構成されるデータセットである。このデータセットに、対応する圧延スタンドの張力変動情報を組み合わせることで、張力変動予測モデルの生成に必要な学習用データが蓄積される。また、このようなデータセットには、対応する圧延スタンドの走変位置設定パラメータを組み入れてもよい。
【0085】
本実施形態の張力変動予測モデルの生成に用いるデータベース32aのデータセット数としては、300個以上が好ましく、より好ましくは1000個以上である。本実施形態では、このようにして作成されたデータベース32aを用いて、機械学習部32bが、少なくとも先行材の圧延操業パラメータの操業実績データから選択した1以上の操業実績データと、後行材の圧延操業パラメータの操業実績データから選択した1以上の操業実績データと、中間ステップの圧延操業パラメータの操業実績データから選択した1以上の操業実績データとを入力実績データとして取得し、その入力実績データに基づく先行材の圧延から後行材の圧延への移行過程における張力変動情報を出力実績データとした、複数の学習用データを取得して、取得した複数の学習用データを用いた機械学習によって、走間板厚変更における張力変動予測モデル33を生成する。また、機械学習部32bは、入力データとして、更に、走変位置設定パラメータの操業実績データを取得するようにしてもよい。
【0086】
機械学習の方法は、公知の学習方法を適用すればよく、実用上十分な張力変動の予測精度が得られれば、いずれの機械学習モデルでよい。例えば、ディープラーニング、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)、リカレントニューラルネットワーク(RNN)等を含むニューラルネットワークによる公知の機械学習手法が用いられてよい。他の手法としては、決定木学習、ランダムフォレスト、サポートベクター回帰、ガウス過程等が例示できる。また、複数のモデルを組み合わせたアンサンブルモデルが用いられてよい。また、張力変動予測モデル33は、最新の学習データを用いて、適宜更新すればよい。タンデム圧延機における長期的な操業条件の変化にも対応できるからである。
【0087】
〔先行材及び後行材の圧延操業パラメータ〕
次に、本実施形態の先行材及び後行材の圧延操業パラメータについて説明する。
【0088】
本実施形態における先行材と後行材の圧延操業パラメータには、先行材及び後行材の定常圧延状態を表す任意の操業パラメータを用いることができる。具体的には被圧延材の板厚、板幅、変形抵抗、圧延荷重、先進率等、ロールギャップ又はロール周速の設定計算にかかわるパラメータを用いることができる。また、ロールギャップやロール周速を圧延操業パラメータとしてもよい。なお、それらのパラメータは操業中の実績値を用いても、設定計算で算出された設定値を用いてもよい。その他にも、先行材及び後行材の上流工程である熱延工程における操業実績データや酸洗工程における操業実績データを用いてもよい。これらは、タンデム圧延機による冷間圧延を実行する被圧延材の変形抵抗や摩擦係数に影響を与える因子だからである。
【0089】
それらの中で、先行材の圧延操業パラメータとして、板厚、板幅、変形抵抗、及び先行材に対して設定されるロールギャップの少なくとも一つを含むことが好ましい。また、後行材の圧延操業パラメータとして、板厚、板幅、変形抵抗、及び先行材に対して設定されるロールギャップの少なくとも一つを含むことが好ましい。先行材のロールギャップS1と後行材のロールギャップS2の設定計算に直接的に影響を与えるパラメータだからである。また、先行材と後行材とで同種のパラメータを用いることがより好ましい。先行材と後行材との圧延操業パラメータについて、同種のパラメータを用いることで、張力変動の予測精度が向上するからである。なお、先行材と後行材との圧延操業パラメータについて同種のパラメータを用いる場合に、先行材の圧延操業パラメータと後行材の圧延操業パラメータの差分値を用いてもよい。圧延操業パラメータの差分値により走間板厚変更中の張力変動を精度よく予測できる場合が多いからである。
【0090】
〔中間ステップの圧延操業パラメータ〕
次に、本実施形態の中間ステップの圧延操業パラメータについて説明する。
【0091】
中間ステップにおける圧延操業パラメータとしては、先行材から後行材に移行する中間ステップにおける圧延状態を表す任意の操業パラメータを用いることができる。具体的には、中間ステップにおけるロールギャップScやロール周速VRcの実績値又は設定値を用いることができる。さらに、中間ステップにおける先行材をロールギャップScで圧延した場合の板厚hc1や、後行材をロールギャップScで圧延した場合の板厚hc2等も中間ステップにおける圧延操業パラメータに用いることができる。
【0092】
それらの中で、中間ステップにおける圧延操業パラメータは、中間ステップに対して設定されるロールギャップScを含むことが好ましい。
図4からわかるように、中間ステップにおけるロールギャップScは、先行材に対するロールギャップS1と後行材に対するロールギャップS2との組み合わせにより、走間板厚変更過程の板厚変動挙動に影響を与え、結果として張力変動に大きな影響を与えるからである。
【0093】
さらに、中間ステップの圧延操業パラメータとして、先行材及び後行材の圧延操業パラメータと同種の操業パラメータを選択し、先行材、中間ステップ、及び後行材の3者の間の差分値を圧延操業パラメータに含めてもよい。走間板厚変更における張力変動は、第1走変部、第2走変部、及び接合部での圧延条件の変化によって生じることと対応付けられるため、張力変動の予測精度が向上するからである。
【0094】
〔走変位置設定パラメータ〕
次に、本実施形態の走変位置設定パラメータについて説明する。
【0095】
走変位置設定パラメータは、先行材と後行材との接合部と第1走変工程を実行する第1走変部及び第2走変工程を実行する第2走変部との位置関係を表すパラメータであり、圧延スタンドの通過に関する時間的関係を表す場合もある。このとき、第1走変部と接合部が近い位置関係にある場合、第1走変部において発生した張力変動により、接合部が圧延スタンドを通過する際の張力変動が影響を受ける。また、第2走変部と接合部が近い位置関係にある場合や第2走変部と接合部が重複する位置関係にある場合にも、接合部が圧延スタンドを通過する際の張力変動と第2走変工程における張力変動とが相互に影響を与えることにより、張力変動が変化する。
【0096】
第1走変部、接合点、及び第2走変部がそれぞれ十分離れていれば、
図4に示す例では、弾性特性曲線と塑性特性曲線との交点がa→b→c→dの順で遷移することになる。ところが、それらが一部重複すると、例えば交点の軌跡がa→b→c→dの経路からずれることによって、張力変動挙動が変化する。通常は、先行材の尾端部と後行材の先端部とに生成する板厚外れ(オフゲージ)を短くするために、第1走変部と第2走変部とを近接させるのが有利なため、これにより張力変動の挙動が変化する。
【0097】
〔張力変動予測方法及び張力変動の低減方法〕
次に、
図10を参照して、本発明の一実施形態である張力変動予測方法及び張力変動の低減方法について説明する。
【0098】
図10は、本発明の一実施形態である張力変動予測方法及び張力変動の低減方法を説明するための図である。
図10に示すように、本実施形態では、上記のようにして生成した走間板厚変更における張力変動予測モデル33を用いて、先行材の圧延から後行材の圧延への移行過程における張力変動量を予測する。具体的には、タンデム圧延機において後行材への走間板厚変更を開始する前の段階であって、後行材及び中間ステップに対する設定計算が完了した段階で張力変動量の予測を行う。また、後行材への走間板厚変更を開始する前の段階であって、走変位置設定パラメータの設定が完了した段階であってもよい。
【0099】
後行材及び中間ステップの設定計算が完了し、走変位置設定パラメータの設定が完了した段階では、既に先行材の圧延操業パラメータの設定値又は実績値が取得できる状態にある。そこで、先行材の圧延操業パラメータとして、設定計算で算出した設定値又は先行材の圧延中に取得される実績値を張力変動予測モデル33の入力に用いる。一方、後行材及び中間ステップにおける圧延操業パラメータとしては、設定計算において算出された設定値を張力変動予測モデル33の入力に用いる。また、必要に応じて走変位置設定パラメータの設定値を入力に含める。以上により、先行材の圧延から後行材の圧延への移行過程における張力変動情報を、走間板厚変更を開始する前に予測することが可能となる。従って、予測される張力変動情報に基づき、必要に応じて圧延条件を再設定する等、張力変動を低減し、板破断等の操業トラブルを未然に防止するための対策をとることができる。
【0100】
一方、本実施形態の走間板厚変更方法として、以上のようにして予測した張力変動量が小さくなるように、中間ステップの圧延操業パラメータを再設定することができる。中間ステップの圧延操業パラメータは、第1走変工程の開始から第2走変工程の開始までの移行過程における板厚変化に影響を与え、結果として張力変動に大きな影響を与えるからである。例えば
図4に示す例おいて、弾性特性曲線と塑性特性曲線との交点の移行過程に影響を与え、中間ステップにおける板厚hc1、hc2に影響を与えることにより、張力変動挙動が変化する。なお、再設定する操業パラメータは、中間ステップの圧延操業パラメータ以外にも、走変位置設定パラメータを再設定してもよい。第1走変部、第2走変部と接合部との位置関係を変更することで張力変動の挙動が変化し得るからである。
【0101】
ところで、上記のような中間ステップにおける圧延操業パラメータの再設定は、圧延スタンド毎に張力変動量を予測し、予測された張力変動量が小さくなるように圧延スタンド毎に行うことができる。但し、必ずしも全ての圧延スタンドで中間ステップにおける圧延操業パラメータを再設定する必要はない。例えば、後段の圧延スタンドは板破断等の操業トラブルが発生しやすいため、そのような圧延スタンドに対してのみ適用してもよい。また、特定の圧延スタンドにおける張力変動量ではなく、各圧延スタンドの張力変動の予測値について、全ての圧延スタンドに対する絶対値の和又はべき乗和を算出し、その値が小さくなるように中間ステップにおける圧延操業パラメータを再設定してもよい。
【0102】
さらに、以上の手順により再設定された中間ステップの圧延操業パラメータに対して、改めて張力変動予測モデル33を用いた張力変動量の予測を実行し、タンデム圧延機の走間板厚変更についての操業条件設定部40が、予測される張力変動量が予め設定された張力変動の上限値よりも小さくなるまで、中間ステップの圧延操業パラメータの再設定を行ってもよい。本実施形態では、以上のようにして再設定された中間ステップの圧延操業パラメータを用いて、中間ステップにおけるロールギャップおよびロール周速の設定計算を改めて実行し、その後、第1スタンドの走間板厚変更が開始される。
【0103】
<張力変動予測装置>
次に、
図11を参照して、本発明の一実施形態である張力変動予測装置の構成について説明する。
【0104】
図11は、本発明の一実施形態である張力変動予測装置の構成を示す図である。
図11に示すように、本発明の一実施形態である張力変動予測装置50は、取得部50a、記憶部50b、予測部50c、及び出力部50dを備えている。
【0105】
取得部50aは、例えば、機械学習部32bによって生成された張力変動予測モデル33を張力変動予測モデル生成部32から取得可能な任意のインタフェースを含む。例えば、取得部50aは、張力変動予測モデル33を張力変動予測モデル生成部32から取得するための通信インタフェースを含んでよい。この場合、取得部50aは、機械学習部32bから所定の通信プロトコルで張力変動予測モデル33を受信してよい。また、取得部50aは、例えば制御用計算機4からタンデム圧延機の走間板厚変更に関する操業条件を取得する。例えば、取得部50aは、操業条件を取得するための通信インタフェースを含んでよい。
【0106】
記憶部50bには、少なくとも1つの半導体メモリ、少なくとも1つの磁気メモリ、少なくとも1つの光メモリ、又はこれらのうち少なくとも2種類の組み合わせが含まれる。記憶部50bは、例えば、主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能する。記憶部50bは、張力変動予測装置50の動作に用いられる任意の情報を記憶する。記憶部50bは、例えば、取得部50aにより張力変動予測モデル生成部32から取得された張力変動予測モデル33、取得部50aにより制御用計算機4から取得された操業条件、及び予測部50cにより予測された張力変動情報を記憶する。例えば、記憶部50bは、システムプログラム及びアプリケーションプログラム等を記憶してよい。
【0107】
予測部50cは、1つ以上のプロセッサを含む。本実施形態において「プロセッサ」は、汎用のプロセッサ、又は特定の処理に特化した専用のプロセッサであるが、これらに限定されない。予測部50cは、張力変動予測装置50を構成する各構成部と通信可能に接続され、張力変動予測装置50全体の動作を制御する。予測部50cは、例えば、PC(Personal Computer)又はスマートフォン等の任意の汎用の電子機器であり得る。予測部50cは、これらに限定されず、1つ又は互いに通信可能な複数のサーバ装置であってよいし、張力変動予測装置50に専用の他の電子機器であってよい。予測部50cは、取得部50aを介して取得した操業条件及び張力変動予測モデル生成部32から取得した張力変動予測モデル33に基づいて、張力変動情報の予測値を算出する。
【0108】
出力部50dは、予測部50cから供給された張力変動情報の予測値をタンデム圧延機の走間板厚変更についての操業条件設定部40(
図10参照)に供給する。また、出力部50dは、情報を出力してユーザに通知する1つ以上の出力インタフェースを含んでいてよい。出力用インタフェースは、例えばディスプレイである。ディスプレイは、例えばLCD又は有機ELディスプレイである。出力部50dは、張力変動予測装置50の動作によって得られるデータを出力する。出力部50dは、張力変動予測装置50に備えられる代わりに、外部の出力機器として張力変動予測装置50に接続されてよい。接続方式としては、例えば、USB、HDMI(登録商標)、又はBluetooth(登録商標)等の任意の方式を用いることができる。例えば、出力部50dは、情報を映像で出力するディスプレイ、又は情報を音声で出力するスピーカ等であるが、これらに限定されない。例えば、出力部50dは、予測部50cによって予測された張力変動量の予測値をユーザに対して提示する。ユーザは、出力部50dにより提示された張力変動情報の予測値に基づいて、タンデム圧延機の走間板厚変更に関する操業条件を適切に設定可能である。
【実施例0109】
次に、本発明の実施例について説明する。本実施例では、
図1に示した5つの圧延スタンドを有する冷間タンデム圧延機であるタンデム圧延機2を用いた。タンデム圧延機2の仕様は以下の通りである。なお、圧延荷重検出器24、圧下位置検出器25、張力計26、及び板厚計27は、
図1に示す位置に設けた。
【0110】
最高ライン速度:2000mpm(m/min)
ワークロール径:500~600mmφ
バックアップロール径:1300~1400mmφ
【0111】
そして、上記実施形態の張力変動予測方法に従って、以下のような条件で走間板厚変更時の張力変動予測を行った。すなわち、先行材の圧延操業パラメータとして、各圧延スタンドの出側板厚、変形抵抗、及び圧延荷重を選択した。また、後行材の圧延操業パラメータについても、各圧延スタンドの出側板厚、変形抵抗、及び圧延荷重を選択した。一方、中間ステップにおける圧延操業パラメータとしては、中間ステップにおける先行材をロールギャップScで圧延した場合の板厚hc1を選択した。なお、本実施例では、走変位置設定パラメータについては、タンデム圧延機入側において、接合部と第1走変部の開始点Bの距離を1.0m、接合部と第2走変部の開始点Eの距離を0mと固定した。また、学習用データとして、操業実績データを1000本分用意し、モデル作成用(学習用)のデータとして900本使用し、残り100本で各圧延スタンドの張力変動の予測精度を検証した。その結果、モデル予測精度(実績/予測)は標準偏差で0.08であった。これにより、走間板厚変更を実施する前に圧延スタンド間の張力変動を予測することができ、走間板厚変更を開始する前に中間ステップにおけるロールギャップを再設定することで、板破断や絞り込みによる操業トラブルが10%低減した。
【0112】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。