(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072633
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】給紙用ローラおよび給紙装置
(51)【国際特許分類】
B65H 3/06 20060101AFI20220510BHJP
【FI】
B65H3/06 330A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020182185
(22)【出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 浩稔
(72)【発明者】
【氏名】山口 和志
(72)【発明者】
【氏名】今村 渉
【テーマコード(参考)】
3F343
【Fターム(参考)】
3F343FA02
3F343FB01
3F343FC01
3F343FC04
3F343FC14
3F343FC23
3F343GA01
3F343GB01
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3F343GD01
3F343JA11
3F343JA12
3F343JA14
3F343KB05
3F343KB16
3F343KB17
(57)【要約】
【課題】片持ち支持構造で長期間使用しても、偏摩耗に起因する用紙の搬送不良が起こりにくい給紙用ローラ、またそのような給紙用ローラを備えた給紙装置を提供する。
【解決手段】軸体51が一端にて支持される片持ち構造を有し、弾性体層52が、回転軸5Aに沿って両端に、支持端53と自由端54とを備え、回転軸5Aに直交する断面の外径が、支持端53よりも自由端54において大きく、自由端54を含む領域に、回転軸5Aに沿って、自由端54に向かうほど、直線状または内凸状に外径が広がった、裾広がり部57を有する、給紙用ローラ50とする。また、回転駆動され、用紙を搬送するフィードローラと、フィードローラに圧接されるとともに、トルクリミッタが取り付けられ、用紙の重送を抑えるリタードローラと、を備え、フィードローラとリタードローラの少なくとも一方が、上記給紙用ローラ50として構成される、給紙装置とする。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体と、前記軸体の外周に形成された弾性体層とを有し、給紙装置に備えられ、回転軸を中心として回転する給紙用ローラであって、
前記給紙用ローラは、前記軸体が一端にて前記給紙装置に支持される片持ち支持構造を有し、
前記弾性体層は、前記回転軸に沿って両端に、前記軸体が前記給紙装置に支持される方の端部である支持端と、前記軸体が前記給紙装置に支持されない方の端部である自由端とを備え、
前記弾性体層は、前記回転軸に直交する断面の外径が、前記支持端よりも前記自由端において大きく、
前記自由端を含む領域に、前記回転軸に沿って、前記自由端に向かうほど、直線状または内凸状に外径が広がった、裾広がり部を有する、給紙用ローラ。
【請求項2】
前記回転軸に沿って、前記支持端と前記自由端の間の中央の位置から、前記自由端までにわたる領域を少なくとも含んで、前記裾広がり部が形成されている、請求項1に記載の給紙用ローラ。
【請求項3】
前記弾性体層は、前記裾広がり部よりも前記回転軸に沿って支持端側に、前記裾広がり部よりも前記回転軸に沿った外径の変化が小さい直筒部を、前記裾広がり部と連続して有する、請求項1または請求項2に記載の給紙用ローラ。
【請求項4】
前記回転軸に直交する前記弾性体層の断面の外径を、前記支持端においてD1、前記回転軸に沿って前記支持端と前記自由端の間の中央の位置においてD2、前記自由端においてD3として、
|D2-D1|≦0.05mm、かつ
0.05mm<D3-D2≦0.50mm
である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の給紙用ローラ。
【請求項5】
前記弾性体層の表面のJIS-A硬度が30度以上、80度以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の給紙用ローラ。
【請求項6】
回転駆動され、用紙を搬送するフィードローラと、
前記フィードローラに圧接されるとともに、トルクリミッタが取り付けられ、前記用紙の重送を抑えるリタードローラと、を備え、
前記フィードローラと前記リタードローラの少なくとも一方が、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の給紙用ローラとして構成される、給紙装置。
【請求項7】
前記フィードローラと前記リタードローラが、ともに、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の給紙用ローラとして構成される、請求項6に記載の給紙装置。
【請求項8】
前記フィードローラと前記リタードローラの両方において、前記弾性体層の表面のJIS-A硬度が30度以上、80度以下である、請求項6または請求項7に記載の給紙装置。
【請求項9】
前記リタードローラの前記弾性体層の表面の硬度が、前記フィードローラの前記弾性体層の表面の硬度よりも、JIS-A硬度で、5度以上大きい、請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の給紙装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、プリンター、ファクシミリなどの画像形成装置に備えられる給紙装置の構成部材として好適に用いられる給紙用ローラ、およびそのような給紙用ローラを備えた給紙装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を採用する複写機、プリンター、ファクシミリなどの画像形成装置において、用紙を供給する給紙装置に、給紙用ローラが備えられる。給紙用ローラは、一般に、ゴム架橋体などの弾性材料によって円筒状に形成され、その周面が用紙との接触面となる。この種の給紙用ローラは、用紙を搬送する際に、他の部材との間で押し当てを受け、面圧(ニップ圧)が作用した状態で回転される場合が多く、用紙の搬送を繰り返す間に、給紙用ローラの表面に、摩耗が生じやすい。
【0003】
例えば、電子写真方式の画像形成装置において、回転駆動されるフィードローラ(紙送りローラ)と、トルクリミッタが取り付けられ、フィードローラに圧接されるリタードローラ(分離ローラ)との組を有し、用紙の重送を抑制する機能を備えた給紙装置が用いられる。この場合に、フィードローラとリタードローラが、互いに圧接された状態で回転することにより、いずれか一方または両方のローラの表面に摩耗が生じやすい。このように、給紙用ローラの表面に摩耗が生じると、用紙に対する外周面の接触面積の減少や摩擦係数の低下が起こり、給紙用ローラをそれほど長期にわたって使用していなくても、用紙の搬送不良を生じる場合がある。
【0004】
給紙用ローラの表面の摩耗による搬送不良を抑制する手段として、給紙用ローラの表面に、凹凸パターン形状を付すことで、長期にわたって高い摩擦係数を維持することが、図られる場合がある。例えば特許文献1には、紙送りローラの軸方向と平行に複数本の凸条および凹溝を形成したものが記載されている。また、搬送不良を抑制する別の手段として、例えば特許文献2に記載されるように、ロール軸の支持構造に関する工夫もなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-065907号公報
【特許文献2】特開平10-212044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように、給紙用ローラの表面に、所定の凹凸形状を形成する等の対策により、表面の摩擦係数の低下の抑制に、ある程度の効果は発揮されるものの、表面の摩耗が起こりやすい条件で給紙用ローラを使用する場合を想定して、摩擦係数の低下をさらに効果的に抑制することが望まれる。例えば、近年、灰分の多い安価な用紙や、充填材を多く含む粗悪紙等の低品質用紙が普及している。それら灰分や充填材を多く含む用紙を用いた場合に、給紙時に紙粉や汚れが発生し、それら紙粉や汚れ、また充填材に含まれる脂肪族成分が、給紙用ローラの表面に付着しやすい。すると、給紙用ローラと用紙との間の摩擦係数の低下につながり、用紙の搬送不良が起こりやすくなる。
【0007】
低品質紙を用いた際の紙粉や汚れの付着は、給紙用ローラの表面への凹凸形状の形成により、ある程度抑制することができるが、面圧がローラ全体に均一性高く作用していないと、面圧の高い箇所から、摩耗が進行し(偏摩耗)、凹凸形状が摩滅してしまう。すると、凹凸形状によって紙粉や汚れの付着を抑制する効果が低くなってしまい、また、表面の摩擦係数の低下を避けられなくなる。その結果、用紙の搬送不良が発生しやすくなる。
【0008】
特許文献2にも記載されるように、給紙用ローラが片持ち支持構造とされる場合には、用紙の搬送時の負荷によって、給紙用ローラにたわみが発生しやすい。このため、用紙に対して給紙用ローラの周面が均等に接触しない状態に陥り、ローラ周面の軸方向の一端側が先に摩耗していく偏摩耗が発生しやすい。よって、片持ち支持される給紙用ローラにおいては、特に、偏摩耗に起因する表面の摩擦係数の低下が起こりやすく、その結果として、それほど長期間の使用を経なくても、用紙の搬送不良が発生しやすくなる。
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、片持ち支持構造で長期間使用しても、偏摩耗に起因する用紙の搬送不良が起こりにくい給紙用ローラ、またそのような給紙用ローラを備えた給紙装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明にかかる給紙用ローラは、軸体と、前記軸体の外周に形成された弾性体層とを有し、給紙装置に備えられ、回転軸を中心として回転する給紙用ローラであって、前記給紙用ローラは、前記軸体が一端にて前記給紙装置に支持される片持ち支持構造を有し、前記弾性体層は、前記回転軸に沿って両端に、前記軸体が前記給紙装置に支持される方の端部である支持端と、前記軸体が前記給紙装置に支持されない方の端部である自由端とを備え、前記弾性体層は、前記回転軸に直交する断面の外径が、前記支持端よりも前記自由端において大きく、前記自由端を含む領域に、前記回転軸に沿って、前記自由端に向かうほど、直線状または内凸状に外径が広がった、裾広がり部を有する。
【0011】
ここで、前記回転軸に沿って、前記支持端と前記自由端の間の中央の位置から、前記自由端までにわたる領域を少なくとも含んで、前記裾広がり部が形成されているとよい。また、前記弾性体層は、前記裾広がり部よりも前記回転軸に沿って支持端側に、前記裾広がり部よりも前記回転軸に沿った外径の変化が小さい直筒部を、前記裾広がり部と連続して有するとよい。前記回転軸に直交する前記弾性体層の断面の外径を、前記支持端においてD1、前記回転軸に沿って前記支持端と前記自由端の間の中央の位置においてD2、前記自由端においてD3として、|D2-D1|≦0.05mm、かつ0.05mm<D3-D2≦0.50mmであるとよい。前記弾性体層の表面のJIS-A硬度が30度以上、80度以下であるとよい。
【0012】
本発明にかかる給紙装置は、回転駆動され、用紙を搬送するフィードローラと、前記フィードローラに圧接されるとともに、トルクリミッタが取り付けられ、前記用紙の重送を抑えるリタードローラと、を備え、前記フィードローラと前記リタードローラの少なくとも一方が、前記本発明にかかる給紙用ローラとして構成される。
【0013】
ここで、前記フィードローラと前記リタードローラが、ともに、前記本発明にかかる給紙用ローラとして構成されるとよい。また、前記フィードローラと前記リタードローラの両方において、前記弾性体層の表面のJIS-A硬度が30度以上、80度以下であるとよい。前記リタードローラの前記弾性体層の表面の硬度が、前記フィードローラの前記弾性体層の表面の硬度よりも、JIS-A硬度で、5度以上大きいとよい。
【発明の効果】
【0014】
上記発明にかかる給紙用ローラは、片持ち支持構造を有しており、弾性体層が、給紙装置に支持されない自由端を含む領域に、裾広がり部を有している。一般に、片持ち支持構造をとる給紙用ローラにおいては、他の部材との間に押し当てを受けた際に、片持ち支持された支持端側において、自由端側よりも、大きな面圧が作用し、弾性体層の表面が摩耗を受けやすいが、本発明にかかる給紙用ローラにおいては、自由端側に裾広がり構造を有していることにより、他の部材との間で、相互に押し当てる面圧を受けた際に、支持端側と自由端側の面圧の差が大きくなりにくい。そのため、支持端側において偏摩耗が発生しにくく、長期間使用しても、偏摩耗に起因する用紙の搬送不良が発生しにくい。
【0015】
ここで、回転軸に沿って、支持端と自由端の間の中央の位置から、自由端までにわたる領域を少なくとも含んで、裾広がり部が形成されている場合、また、弾性体層が、裾広がり部よりも回転軸に沿って支持端側に、裾広がり部よりも回転軸に沿った外径の変化が小さい直筒部を、裾広がり部と連続して有する場合には、支持端側への面圧の集中を、効果的に緩和することができる。
【0016】
回転軸に直交する弾性体層の断面の外径を、支持端においてD1、回転軸に沿って支持端と自由端の間の中央の位置においてD2、自由端においてD3として、|D2-D1|≦0.05mm、かつ0.05mm<D3-D2≦0.50mmである場合には、面圧の均一化、およびそれによる偏摩耗の抑制に、特に高い効果が得られる。
【0017】
弾性体層の表面のJIS-A硬度が30度以上、80度以下である場合には、給紙用ローラの表面の摩耗を効果的に抑制できるとともに、用紙の削れ等、用紙へのダメージを避けやすくなる。
【0018】
上記発明にかかる給紙装置においては、相互に圧接されるフィードローラとリタードローラの少なくとも一方が、片持ち支持されて、弾性体層が自由端側に裾広がり部を有した、上記の本発明にかかる給紙用ローラとして構成されている。そのため、その裾広がり部を有するローラ、また他方のローラにおいて、支持端側への面圧の不均一な分布による偏摩耗が抑えられる。その結果、偏摩耗に起因する用紙の搬送不良を避けながら、給紙装置を長期にわたって使用し続けることが可能となる。
【0019】
ここで、フィードローラとリタードローラが、ともに、上記の本発明にかかる給紙用ローラとして構成される場合には、フィードローラ、リタードローラともに、偏摩耗を効果的に抑制することができ、長期にわたって用紙の搬送不良を起こさずに、用紙の供給を継続することができる。
【0020】
また、フィードローラとリタードローラの両方において、弾性体層の表面のJIS-A硬度が30度以上、80度以下である場合には、フィードローラ、リタードローラともに、表面の摩耗を効果的に抑制できるとともに、用紙の削れ等、用紙へのダメージを避けやすくなる。
【0021】
リタードローラの弾性体層の表面の硬度が、フィードローラの弾性体層の表面の硬度よりも、JIS-A硬度で、5度以上大きい場合には、リタードローラとフィードローラの間の摩擦係数が大きくなり、給紙装置において、高い搬送性が得られやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる給紙装置を示す模式図である。フィードローラおよびリタードローラの自由端側から見た状態を示している。
【
図2】
図1に示す給紙装置について、フィードローラおよびリタードローラの近傍の構造を示す模式図である。フィードローラおよびリタードローラの周面の正面から見た状態を示している。
【
図3】
図1に示す給紙装置の紙送り動作を示す図である。
図3(a)は、1枚の用紙がローラ間に到着する前の状態を示したものであり、
図3(b)は、1枚の用紙がローラ間に到着したときの動作を示したものである。
【
図4】
図1に示す給紙装置の紙送り動作を示す図である。
図4(a)は、2枚の用紙がローラ間に到着する前の状態を示したものであり、
図4(b)は、2枚の用紙がローラ間に到着したときの動作を示したものである。
【
図5】本発明の一実施形態にかかる給紙用ローラの形状を示す模式図である。周面の正面から見た状態を示している。
【
図6】フィードローラおよびリタードローラとして従来一般の給紙用ローラを備えた給紙装置を示す模式図である。
【
図7】ローラ形状を変化させて、面圧の分布とローラの耐久性を評価した結果を表形式で表示する図である。
【
図8】ローラ表面の面圧分布の測定結果の例を示す図であり、(a)は分布の均一性が高い場合、(b)は分布の均一性が低い場合を示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態にかかる給紙用ローラ、および給紙装置について詳細に説明する。本発明の実施形態にかかる給紙用ローラを用いて、本発明の実施形態にかかる給紙装置を構成することができる。本発明の実施形態にかかる給紙用ローラは、給紙装置に備えられるものであれば、その具体的な種類や用途を限定されるものではないが、以下では、画像形成装置の給紙装置に備えられるフィードローラおよびリタードローラが、本発明の実施形態にかかる給紙用ローラとして構成される形態を中心に説明する。最初に、給紙装置全体の概略について説明した後に、給紙用ローラの詳細について説明する。
【0024】
[給紙装置]
まず、本発明の一実施形態にかかる給紙装置の概略について説明する。
【0025】
本発明の一実施形態にかかる給紙装置1は、電子写真方式の複写機、プリンター、ファクシミリなどの画像形成装置に備えられる。
図1,2に示すように、給紙装置1は、フィードローラ10(紙送りローラ)と、リタードローラ20(分離ローラ)と、を備える。フィードローラ10およびリタードローラ20は、それぞれ筒状の部材として形成されており、並列に配置されている。本明細書において、フィードローラ10およびリタードローラ20の回転軸1A,2Aに沿った方向を、軸方向(a方向)とする。
【0026】
フィードローラ10は、軸体11と、軸体11の外周に形成された弾性体層12と、を有する。リタードローラ20は、軸体21と、軸体21の外周に形成された弾性体層22と、を有する。フィードローラ10は、図示しない駆動源(モータ)からの動力を受けて回転駆動され、用紙Pを搬送する機能を有する。リタードローラ20は、ばね等より構成された付勢部材29により、所定の圧力でフィードローラ10に圧接される。また、リタードローラ20には、図示しないトルクリミッタが内蔵され、用紙Pの搬送方向(矢印p1の方向)と反対の方向にブレーキトルクが付与されるように構成されている。リタードローラ20は、用紙Pの重送、つまり複数の用紙Pを重ねて供給する現象を抑制する機能を有する。
【0027】
図2に示すように、本実施形態にかかる給紙装置1において、フィードローラ10およびリタードローラ20はいずれも、片持ち支持構造を有しており、軸方向aに沿って一端で、軸体11,21が給紙装置1に支持されている。そして、弾性体層12,22が、両端に、支持端13,23と、自由端14,24とを有している。支持端13,23は、軸体11,21が給紙装置1に支持される方の端部であり、自由端14,24は、軸体11,21が給紙装置1に支持されない方の端部である。また、フィードローラ10およびリタードローラ20は、それぞれ、外径が、支持端13,23よりも自由端14,24において大きくなっており、さらに、軸方向aに沿って、自由端14,24側に向かうほど外径が広がった、裾広がり部17,27を有している。このように、自由端側に裾広がり部を有する本発明の実施形態にかかる給紙用ローラの構造については、後に詳しく説明する。給紙装置1において、リタードローラ20は、フィードローラ10に圧接されているが、
図2においては、裾広がり部17,27の構造を強調して表示するとともに、圧接によるフィードローラ10およびリタードローラ20の弾性変形を除去して表示している。
【0028】
給紙装置1において、搬送される用紙Pは、給紙カセット30内に積載されている。積載された用紙Pの上面には、引込ローラ40(ピックアップローラ)の表面が摩擦接触しており、引込ローラ40によって、給紙カセット30からフィードローラ10に向けて用紙Pを順に繰り出すように構成されている。引込ローラ40は、軸体41と、軸体41の外周に形成された弾性体層42と、を有する。引込ローラ40は、図示しない連結部材(ギアやタイミングベルトなど)によってフィードローラ10の駆動に連動して回転するように構成されている。
【0029】
フィードローラ10の回転駆動に伴い、引込ローラ40が回転し、給紙カセット30からフィードローラ10に向けて用紙Pが1枚ずつ繰り出される。
図3(a)に示すように、フィードローラ10は、用紙Pが到着する前から回転駆動している。フィードローラ10に圧接されるリタードローラ20は、フィードローラ10の回転に伴い、フィードローラ10とリタードローラ20の間(ローラ間)の摩擦力により、ブレーキトルクに逆らって従動回転する。繰り出された1枚の用紙Pがローラ間に到着すると、
図3(b)に示すように、ローラ間を通って用紙Pが搬出される。
【0030】
給紙カセット30からフィードローラ10に向けて用紙Pが2枚繰り出されたときには、
図4(a)に示すように、用紙P1,P2が到着する前においては、フィードローラ10は回転駆動し、リタードローラ20は、フィードローラ10の回転に伴い、ブレーキトルクに逆らって従動回転する。繰り出された2枚の用紙P1,P2がローラ間に到着すると、
図4(b)に示すように、リタードローラ20は2枚の用紙P1,P2を介してフィードローラ10に接触する状態となる。2枚の用紙P1,P2の間に働く摩擦力は小さいため、ブレーキトルクによってリタードローラ20はフィードローラ10の回転には従動せず、停止する。これにより、フィードローラ10に接触する用紙P1はフィードローラ10の回転に伴い、ローラ間を通って搬出される一方で、リタードローラ20に接触する用紙P2は搬出されない。これにより、用紙Pの重送が抑えられる。
【0031】
上記のように、本給紙装置1においては、フィードローラ10とリタードローラ20の両方が、片持ち支持構造をとって、かつ裾広がり部17,27を有している。しかし、必ずしも、それら両方が裾広がり部を有するものでなくてもよく、フィードローラ10とリタードローラ20の少なくとも一方が、片持ち支持構造をとり、かつ裾広がり部を有していればよい。片持ち支持された一方のローラのみが裾広がり部を有する場合に、他方のローラは、片持ち支持構造をとっていても、軸方向両端を給紙装置1に支持された両持ち支持構造をとっていてもよい。また、その他方のローラの形状は、どのようなものであってもよいが、
図6に示すローラ91,92のような、軸方向aに沿って外径が一定のストレート構造を有するものであることが好ましい。
【0032】
[裾広がり部を有する給紙用ローラ]
次に、本発明の一実施形態にかかる、裾広がり部を備えた給紙用ローラ50(以下、単にローラと称する場合がある)について、詳細に説明する。上記の給紙装置1においては、フィードローラ10およびリタードローラ20が、それぞれ本発明の一実施形態にかかる給紙用ローラ50として構成されている。
【0033】
本発明の一実施形態にかかる給紙用ローラ50は、給紙装置の構成部材として用いられるものであり、回転軸5Aを中心として回転する筒状の部材として形成されている。
図5に示すように、給紙用ローラ50は、軸体51と、軸体51の外周に形成された弾性体層52と、を有する。以下、ローラ50の形状に関する説明は、弾性体層52の形状を指すものとする。
【0034】
ローラ50は、一端が支持端53となり、他端が自由端54となっている。ローラ50は、支持端53において、直接または間接的に、軸体51を、給紙装置1に支持される。一方、自由端54においては、軸体51が給紙装置1に支持されず、開放された状態に保持される。つまり、ローラ50は、片持ち支持構造を有している。
【0035】
ローラ50は、筒形状を有しているが、直円筒形状ではなく、軸方向aに沿って、外径に分布を有している。つまり、軸方向aに沿った各位置において、回転軸5Aに直交する断面が、円形ではあるが、その円の外径が、軸方向aに沿って、少なくも一部の領域で変化する。
【0036】
具体的には、ローラ50において、軸方向にaに直交する断面の外径が、支持端53よりも自由端54において大きくなっている。かつ、ローラ50は、軸方向aに沿って、自由端54を含む領域に、裾広がり部57を有している。裾広がり部57は、軸方向aに沿って自由端54側に向かうほど、ローラ50の外径、つまり回転軸5Aに直交する断面の外径が大きくなった、裾広がり形状(拡径形状)を有している。より詳細には、裾広がり部57における裾広がり形状は、ラッパ状となっている。つまり、自由端54に向かうほど、直線状、または内凸形状に、ローラ50の外径が広がっている。このラッパ状の裾広がり形状は、
図5のようにローラ50を周面の正面から見た状態において、あるいは軸方向aに沿った断面において、周面の輪郭形状として、分かりやすく認識することができる。
【0037】
ローラ50において、軸方向aに沿って、自由端54を含む領域に、裾広がり部57が形成されていれば、その裾広がり部57が占める領域の大きさや、裾広がり部57以外の領域の形状は、特に指定されるものではない。
図5に示したローラ50においては、軸方向aに沿って、自由端54側の一部を占める領域にのみ、裾広がり部57が形成されており、支持端53側には、ストレート形状の直筒部56が形成されている。裾広がり部57と直筒部56は、軸方向aに沿って、滑らかに連続している。
【0038】
図6に、従来一般の給紙装置9のフィードローラ91とリタードローラ92として示すように、従来一般の給紙用ローラは、全体が、ストレート形状、つまり直円筒形状に形成されていた。このようなストレート形状の給紙用ローラ91,92を片持ち支持し、周面の一方向から接圧が加えられると、軸方向aに沿って、支持端91a,92a側には大きな面圧(ニップ圧)が作用する一方、自由端91b,92b側に向かうと、面圧が小さくなる。このような不均一な面圧を受けた状態で、ローラ91,92が回転すると、自由端91b,92b側に比べて、支持端91a,92a側で表面の摩耗が激しく起こり、偏摩耗が起こる。ローラ91,92の摩耗が進行すると、ローラ91,92の表面の凹凸構造の摩滅や、紙粉や汚れの付着が起こりやすくなり、搬送対象の用紙Pとの間に、十分な摩擦係数を保てなくなる。よって、偏摩耗が起こることで、用紙Pの搬送不良が生じやすくなる。
【0039】
一方で、
図5に示すように、本実施形態にかかる給紙用ローラ50は、外径が支持端53よりも自由端54において大きくなっているとともに、自由端54に向かって外径が広がった裾広がり部57を有していることにより、片持ち支持して周面の一方向から接圧が加えられても、支持軸aに沿って支持端53側の領域に、面圧が集中しにくい。ストレート形状である場合と比較して、軸方向aに沿って、各部に面圧が分散され、支持端53側から自由端54側まで、面圧が均一性高く作用する。そのため、ローラ50を長期にわたって使用し続けても、偏摩耗が発生しにくい。よって、用紙Pとの間の摩擦係数を高めるために、表面に設けた凹凸構造等、ローラ50の初期状態を、長期にわたって維持しやすい。その結果、長期にわたって、ローラ50と用紙Pの間の摩擦係数を高い状態に維持し、偏摩耗に起因する用紙Pの搬送不良が発生しにくい状態に保つことができる。
【0040】
上記で説明した給紙装置1においては、フィードローラ10とリタードローラ20は、少なくとも一方が、裾広がり部57(17,27)を有する本実施形態にかかる給紙用ローラ50であればよい。フィードローラ10とリタードローラ20の一方のみが裾広がり部57を有する場合でも、その裾広がり部57の寄与により、フィードローラ10とリタードローラ20の間に作用する面圧の均一性が高められるため、フィードローラ10とリタードローラ20の両方の表面において、偏摩耗を抑制することができる。しかし、フィードローラ10とリタードローラ20の両方が、裾広がり部57(17,27)を有する本実施形態にかかるローラ50として構成されていれば、面圧の均一性の向上による偏摩耗抑制の効果が、フィードローラ10とリタードローラ20の両方においてさらに高められ、好ましい。特に、フィードローラ10とリタードローラ20の両方が片持ち支持される場合に、それら両方を、裾広がり部57(17,27)を有する本実施形態にかかるローラ50として構成することで、片持ち支持に起因する面圧の偏在および偏摩耗を抑制する効果を、高く得ることができる。
【0041】
本実施形態にかかる給紙用ローラ50においては、自由端54側に裾広がり部57が設けられていれば、裾広がり部57の具体的な形状や、裾広がり部57が設けられる領域は、特に限定されるものではない。上記のように、裾広がり部57の裾広がり形状は、軸方向aに沿って自由端54に向かって、直線状に拡径するものでも、内凸状に拡径するものでもいずれでもよいが、裾広がり形状による面圧の均一化の効果を高める等の観点から、内凸形状の方が好ましい。なお、内凸形状とは、滑らかな曲線状に、給紙用ローラ50の内側に向かって凸となった形状を指し、軸方向aに沿って、裾広がり部57の途中に、段差状の不連続な外径の変化を有する形態や、外径が変化しない領域または外凸形状に変化する領域を一部に含む形態は、含まれない。
【0042】
ローラ50に裾広がり部57を設けることによる面圧の均一化の効果は、自由端54に近い位置おいて、ローラ50の外径が大きくなっているほど、大きく発現する。裾広がり部57の中で大きな外径の変化を設け、面圧の均一化に寄与させやすくする観点からは、
図5に示す形態のように、軸方向aに沿って、支持端53と自由端54の間の中央の位置にあたる中央部55から、自由端54までにわたる領域を少なくとも含んで、裾広がり部57を形成することが好ましい。一方、ローラ50の支持端53側にまで延ばして、裾広がり部57を設けすぎても、面圧均一化の効果の増大は飽和し、さらには、支持端53側に作用する面圧を分散させる効果がかえって小さくなる可能性もある。このような面圧分散の効果の飽和や減少を避ける観点からは、軸方向aに沿って、中央部55の位置、あるいは中央部55よりも自由端54側の位置から、自由端54までにわたる領域に、裾広がり部57を収める方が好ましい。求められる面圧の均一化の程度や、具体的なローラ50の寸法や材質等に応じて、軸方向aに沿って裾広がり部57を設ける領域を選択すればよい。また、面圧分散の効果の飽和や減少を避ける観点から、
図5に示す形態のように、軸方向aに沿って、自由端54側の領域には裾広がり部57を設ける一方、支持端53側には直筒部56を設け、裾広がり部57と直筒部56が滑らかに接合された形態で、ローラ50を構成することが好ましい。ここで、直筒部56は、完全な直円筒形状に限られず、裾広がり部57よりも軸方向aに沿った外径の変化が小さくなっていればよい。ローラ50に裾広がり部57と筒状部56をともに設ける場合に、裾広がり部57を、自由端54側の領域に設け、それよりも支持端53側の領域を直筒部56とすればよい。裾広がり部57よりも支持端53側の領域は、逆クラウン形状(
図7参照)のように、支持端53側に向かって広がっていないことが好ましい。
【0043】
裾広がり部57におけるローラ50の外径の変化の程度も、特に限定されるものではないが、以下の形態を好ましいものとして挙げることができる。ここで、軸方向aに直交するローラ50の断面の外径を、支持端53においてD1、中央部55においてD2、自由端54においてD3とする。
【0044】
まず、自由端54の外径D3と中央部の外径D2の差(D3-D2)について説明する。L1<D3-D2とした場合に、下限値L1が、0.05mmであるとよい。このことは、裾広がり部57における外径の変化の程度が、十分に大きいことを意味しており、自由端54側に裾広がり部57を設けることによる支持端53側への面圧の局在の緩和を、効果的に達成することができる。下限値L1は、0.075mm、また0.10mmであると、さらに好ましい。
【0045】
一方、D3-D2≦L2とした場合に、上限値L2が、0.50mmであることが好ましい。すると、裾広がり部57における外径の変化が大きすぎることにより、かえって自由端54側の面圧が支持端53側よりも高くなる事態を避けやすい。上限値L2は、0.40mm、また0.30mmであると、さらに好ましい。
【0046】
次に、中央部の外径D2と支持端53の外径D1との差の絶対値(|D2-D1|)について説明する。|D2-D1|≦L3とした場合に、絶対値の上限値L3が、0.05mmであることが好ましい。これは、ローラ50の支持端53側の部位において、軸方向aに沿った外径の変化が小さく抑えられていることを意味しており、ローラ50の支持端53側の領域が、ストレート形状の直筒部56、あるいはそれに近い形状となっていることになる。すると、ローラ50が、支持端53側の領域に作用する面圧を低減し、面圧を均一化する効果に優れたものとなる。上限値L3は、0.04mm、また0.03mmであると、さらに好ましい。D2とD1の差が小さいほど、面圧の均一化に対する寄与が大きくなることから、|D2-D1|の値には特に下限は設けられない。D1=D2となる形態が最も好ましい。
【0047】
本実施形態にかかるローラ50は、表面、つまり弾性体層52の外周面の硬度が、JIS-A硬度で、30度以上であることが好ましい。さらには、40度以上、50度以上であるとよい。すると、ローラ50の表面の摩耗を抑制しやすい。一方、ローラ50の表面の硬度は、JIS-A硬度で、80度以下であることが好ましい。さらには、70度以下、65度以下であるとよい。すると、用紙Pの削れ等、ローラ50との接触による用紙Pへのダメージが抑えられやすく、画質の悪化が起こりにくくなる。ローラ50の硬度は、弾性体層52の材料構成、弾性体層52の厚みなどにより調整することができる。
【0048】
給紙装置1において、フィードローラ10とリタードローラ20のうち、一方のみが裾広がり部57を有する本実施形態にかかるローラ50として構成される場合、および両方がそのようなローラ50として構成される場合のいずれにおいても、フィードローラ10およびリタードローラ20が、ともに上記の範囲の硬度を有することが好ましい。また、フィードローラ10の表面の硬度とリタードローラ20の表面の硬度の間には、差があることが好ましい。両者の硬度に差があると、一方のローラの表面が他方のローラの表面に食い込むことで、フィードローラ10とリタードローラ20の間の摩擦係数が大きくなりやすい。これにより、用紙Pの搬送性(用紙Pの搬送方向p1への推進力)が向上する。好ましくは、リタードローラ20の表面の硬度が、フィードローラ10の表面の硬度よりも高いとよい。搬送性向上の効果を高める観点から、表面硬度の差は、JIS-A硬度で5度以上、さらには10度以上、15度以上であるとよい。一方、フィードローラ10およびリタードローラ20の摩耗が抑えられやすいなどの観点から、表面硬度の差は、50度以下、さらには40度以下であるとよい。
【0049】
本実施形態にかかるローラ50の構成材料は、特に限定されるものではないが、例えば、弾性体層52がポリウレタンを含む弾性体で構成されているとよい。弾性体層52が、ポリウレタンを含むことで、長期間使用時の耐摩耗性に優れたものとなる。弾性体層52は、導電剤や、各種添加剤を含有してもよい。弾性体層52の厚みは、特に限定されるものではなく、0.1~10mmの範囲内などで適宜設定すればよい。弾性体層52は、外周表面に表面凹凸を有することが好ましい。表面凹凸により、表面の摩擦係数を高めることができる。ローラ50が裾広がり部57を有することで、偏摩耗による表面凹凸の摩滅、およびそれによる摩擦係数の低下が、起こりにくく、表面凹凸によって摩擦係数を高めた状態が、長期にわたって保持されることになる。
【0050】
ローラ50の弾性体層52は、ウレタン組成物を用い、成形金型による成形などによって形成することができる。例えば、軸体をローラ成形金型の中空部に同軸的に設置し、未架橋のウレタン組成物を注入して、加熱・硬化(架橋)させた後、脱型するなどにより、軸体の外周に弾性体層52を形成することができる。成形金型として、裾広がり部57に対応する形状を内周面に有するものを使用することで、ローラ50に裾広がり部57を形成することができる。また、成形金型の内周面に凹凸形状を設けておくことで、弾性体層52の表面に、凹凸を設けることができる。
【実施例0051】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明する。ここでは、各種形状を有するフィードローラとリタードローラを作製し、面圧分布と耐久性を評価した。
【0052】
[試料の作製]
フィードローラおよびリタードローラとして、複数の形状を有するものを作製した。フィードローラおよびリタードローラの形状は、
図7に示すように、裾広がり形状、ストレート形状、クラウン形状、逆クラウン形状とした。裾広がり形状のローラについては、支持端、中央部、自由端の外径D1、D2、D3が異なるものを、複数準備した。
【0053】
フィードローラおよびリタードローラの作製に際しては、上記の各種所定形状を有し、内周面に凹凸構造を有する金型の貫通孔に、芯金(外径φ10mm)を同軸的にセットするとともに、両端開口部をキャップ型で閉栓し、その成形空間内に、弾性体層の形成材料である未架橋の熱硬化性ウレタン系ポリマーを充填した後、その成形金型をオーブン内に入れ、架橋した(150℃×60分間)。そして、上記芯金の外周面に、架橋硬化された熱硬化性ウレタン系ポリマーよりなる弾性体を形成し、その後、脱型するとともに芯金から弾性体を抜き取り、長さ25mmに切断した。得られた弾性体は、チューブ状(外径は表1,2に表示のとおり、内径φ10mm、長さ25mm)であり、その表面には凹凸が形成されている。次に、ポリアセタール(POM)製の軸体(長さ27mm、外径φ10mm)を準備した。次いで、チューブ状弾性体の中空部に、上記軸体を圧入した。以上により、フィードローラおよびリタードローラをそれぞれ作製した。フィードローラおよびリタードローラの表面硬度は、ウレタン系ポリマーに添加する可塑剤の添加量により調整した。
【0054】
[評価方法]
(1)面圧分布の評価
上記で作製したフィードローラおよびリタードローラを、FRR方式の給紙システムを持った市販の複写機に、片持ち支持にて組み込んだ状態で、フィードローラとリタードローラの間に作用する面圧の分布を測定した。面圧の分布は、フィードローラとリタードローラの間に、面圧測定装置として圧力センサーシートを挟み込んで、面積1mm2の正方形のマス目ごとに、作用する面圧を計測することで、評価した。圧力センサーシートは、厚み1mm程度のシート内部に、行・列の電極が配列交差されたものであり、シートに圧力がかかると電気抵抗が変化する。その電気抵抗の傾向変化量を圧力値に変換して出力する。
【0055】
得られた面圧の分布において、測定全データのうち、最大面圧を含む軸方向の行のデータに対して、その1行における最大面圧と最小面圧の間の差を、荷重で割った比率を算出した。その比率が3%以下の場合を「A」、3%超6%以下の場合を「B」、6%超10%以下の場合を「C」、10%超15%以下の場合を「D」、15%超の場合を「E」と評価した。評価結果がA,B,Cの場合は、面圧分布の均一性が十分に高いと判定することができ、評価結果がD,Eの場合は、面圧の分布が不均一になっていると判定される。
【0056】
図8に、上記の方法で面圧を評価した例を示す。図では、面圧が高いほど濃色で表示するグレースケールで、実測された面圧の分布を表現している。図の横方向が、ローラの軸方向を示しており、ローラ全域を表示している。
図8(a)では、図の縦方向には、面圧の分布が見られるものの、横方向には、面圧に大きな不均一分布は見られず、ローラの軸方向に沿って、均一性高く面圧が作用していることが分かる。これに対応して、面圧分布の均一性の評価結果が、A評価と高くなっている。一方、
図8(b)では、図の横方向に沿って、面圧に大きな不均一分布が生じている。具体的には、図の左側(支持端側)において、右側(自由端側)よりも大きな面圧が観測されている。特に、縦方向の中ほどから下方にわたる領域において、横方向に沿った面圧の不均一性が大きくなっている。このように、
図8(b)においては、ローラに作用する面圧が、軸方向に沿って不均一になっている。これに対応して、面圧分布の均一性の評価結果も、D評価と低くなっている。
【0057】
(2)耐久性の評価
上記で作製したフィードローラおよびリタードローラを、FRR方式の給紙システムを持った市販の複写機に、片持ち支持にて組み込み、紙送り性の評価を行った。用紙には市販のPPC用紙を用い、50万枚通紙を行って、紙詰まりの発生回数を測定した。紙詰まりの発生回数が1回以下のものを「A」、紙詰まりの発生回数が1回以上3回以下のものを「B」、紙詰まりの発生回数が4回以上6回以下のものを「C」、紙詰まりの発生回数が7回以上10回以下のものを「D」、紙詰まりの発生回数が11回以上のものを「E」とした。評価結果がA,B,Cの場合は、耐久性が十分に高いと判定することができ、評価結果がD,Eの場合は、耐久性が低いと判定される。
【0058】
[評価結果]
図7に、各種形状を有する給紙用ローラを用いる形態として、実施例1および比較例1~3について、ローラ形状(フィードローラ、リタードローラともに同じ)とともに、面圧分布および耐久性の評価結果を示す。形状図は、図の左側を支持端、右側を自由端として表示している。いずれの形状の場合も、表面のJIS-A硬度は、フィードローラが60度、リタードローラが70度である。さらに、表1,2に、全実施例および比較例について、各ローラの形状、外径D1,D2,D3、およびそれらの関係性、表面硬度をまとめるとともに、面圧分布および耐久性の評価結果を示す。
【0059】
【0060】
図7に示されるように、フィードローラおよびリタードローラが、従来一般のストレート形状を有する比較例1の場合には、面圧が、不均一な分布をとっている(D評価)。面圧分布のパターンとしては、自由端側では低い一方、支持端側で高くなっており、支持端側に面圧が偏在している。これと比較して、フィードローラおよびリタードローラが、裾広がり形状を有する実施例1の場合には、面圧分布の均一性が高くなっている(A評価)。面圧分布のパターンとしては、支持端側における面圧の偏在が緩和され、支持端側から自由端側に向かって、面圧が緩やかに減少するものとなっており、ストレート形状の場合と比較して、軸方向に沿った面圧の分布の均一性が上がっている。このような面圧分布の均一性の向上に対応して、耐久性の評価結果が、比較例1のストレート形状の場合には、D評価と低いのに対し、実施例1の裾広がり形状においては、A評価と高くなっている。このことから、片持ち支持された給紙用ローラの自由端側に裾広がり部を形成することで、全体をストレート形状とした従来一般の給紙用ローラの場合よりも、面圧を分散させ、面圧分布の均一性を高められることが分かる。その結果として、給紙用ローラの耐久性が向上する。耐久性の向上は、偏摩耗の抑制によるものと考えられる。
【0061】
比較例2のクラウン形状の場合、および比較例3の逆クラウン形状の場合には、ストレート形状の場合よりもさらに面圧分布の均一性が下がっている(E評価)。面圧分布のパターンとしては、比較例2のクラウン形状の場合には、比較例1のストレート形状の場合と比較して、面圧が偏在している箇所が、軸方向の中央部側へと移動しており、比較例3の逆クラウン形状の場合には、軸方向に沿って、支持端側から中央部近傍に向かって面圧が減少する一方、中央部近傍の位置からさらに自由端側に向かって面圧が増大する複雑な面圧分布をとるが、いずれの場合にも、全体として面圧分布の不均一性がストレート形状の場合よりも高くなっている。これに対応して、比較例2,3のいずれの場合にも、耐久性の評価結果が、E評価と低くなっている。このことから、給紙用ローラにクラウン形状や逆クラウン形状を形成しても、裾広がり形状を形成する場合とは異なり、面圧分布の均一化およびそれによる耐久性の向上には効果が得られず、むしろ耐久性がさらに低くなってしまうと言える。
【0062】
さらに、表1,2にまとめた各実施例においては、フィードローラとリタードローラの形状の組み合わせ、また各部の外径(D1,D2,D3)および硬度を様々に変化させた場合について、面圧分布の均一性および耐久性の評価結果を示している。いずれの実施例においても、フィードローラとリタードローラの少なくとも一方が、裾広がり形状を有している。そして、いずれの実施例においても、C評価以上の高い面圧分布の均一性と耐久性が得られている。
【0063】
まず、フィードローラとリタードローラの形状の組み合わせとしては、実施例1,6~19,28~30では、リタードローラのみが裾広がり形状となっており、フィードローラはストレート形状となっている。実施例2~5では、逆に、フィードローラのみが裾広がり形状となっており、リタードローラはストレート形状となっている。実施例20~27では、フィードローラ、リタードローラの両方が裾広がり形状となっている。これら3とおりの組み合わせについて、裾広がり形状をとるローラの各部の外径(D1,D2,D3)が同じで、かつ両ローラの硬度が同じ場合を相互に比較すると(例えば、実施例2,6,21を相互に比較すると)、面圧分布、耐久性とも、ほぼ同じ評価結果が得られている。このことから、フィードローラおよびリタードローラの少なくとも一方を裾広がり形状としておけば、いずれが裾広がり形状を有していても、高い面圧の均一性と耐久性が得られると言える。
【0064】
実施例1,6~12の組、実施例2~5の組、実施例20~23の組では、それぞれ、裾広がり形状を取るローラの外径差D3-D2および|D2-D1|の値が相互に異なっている。これらの組における評価結果を相互に比較すると、|D2-D1|≦0.05mm、かつ0.05mm<D3-D2≦0.50mmとなっている実施例1~9,20~23において、高い面圧の均一性と耐久性が得られる傾向がある。特に、|D2-D1|≦0.00mm、つまりD1=D2となり、かつD3-D2≦0.40mmとなっている実施例1,20では、A評価を与える優れた面圧の均一性と耐久性が得られている。
【0065】
実施例28~30は、実施例1と比較して、外径(D1,D2,D3)の絶対値はそれぞれ異なっているが、径差|D2-D1|およびD3-D1の値は同じになっている。これら実施例28~30では、いずれにおいても、実施例1と同じA評価の面圧の均一性および耐久性が得られている。この結果から、フィードローラおよびリタードローラの少なくとも一方を裾広がり形状とし、かつ、各ローラの外径の絶対値によらず、|D2-D1|≦0.05mm、0.05mm<D3-D2≦0.50mmを満たすように、裾広がり形状のローラを設計しておけば、高い面圧の均一性と耐久性が得られると言える。
【0066】
実施例1,13~19の組、また実施例20,24~27の組では、フィードローラおよび/またはリタードローラの表面硬度が、相互に異なっている。これらはいずれも、フィードローラおよびリタードローラの硬度が、JIS-A硬度で30度以上、また80度以下の範囲にあり、C評価以上の高い面圧分布の均一性と耐久性が得られている。中でも、リタードローラの方がフィードローラよりも硬度が高く、かつその差がJIS-A硬度で5度以上となっている実施例1,13,16,17,20,24,27において、B評価以上の高い面圧分布の均一性と、A評価の優れた耐久性が得られている。
【0067】
以上、本発明の実施形態・実施例について説明したが、本発明は上記実施形態・実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。