(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072660
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】手術顕微鏡用光学構造
(51)【国際特許分類】
G02B 21/20 20060101AFI20220510BHJP
G02B 25/00 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
G02B21/20
G02B25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020182224
(22)【出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】390013033
【氏名又は名称】三鷹光器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】中村 勝重
【テーマコード(参考)】
2H052
2H087
【Fターム(参考)】
2H052AB18
2H052AB19
2H052AB20
2H052AB21
2H052AB24
2H052AD06
2H087KA09
2H087LA11
(57)【要約】
【課題】変倍光学系の有効径を拡大してもステレオベースが大きくなり過ぎない手術顕微鏡用光学構造を提供する。
【解決手段】プリズム8を左右方向に連続した一体型としたため、その一体型のプリズム8は左右両側を支持するだけで済み、従来のような必須間隔を左右中央に設ける必要がない。そのため変倍光学系9の有効径を30mmにしても、そのステレオベースSは必要以上に大きくならず、ステレオベースSに応じた自然な立体感で術部Gを観察することができる。一体型のプリズム8は変倍光学系9に導入される最大径の光束Aを反射可能なサイズを有しているため、2本の光束Aを確実に変倍光学系9側へ向けて反射することができる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接眼部が前側に位置する手術顕微鏡の内部に設けられるもので、上下方向に沿う1つの対物光学系と、それぞれ前後方向に沿う左右一対の変倍光学系と、対物光学系を通過した左右一対の光束を直角に反射して変倍光学系に導く断面直角二等辺三角形のプリズムとを備え、
前記変倍光学系の有効径がそれぞれ30mmであり、プリズムがその変倍光学系に導入される最大径の光束を反射可能なサイズで且つ左右方向に連続した一体型であることを特徴とする手術顕微鏡用光学構造。
【請求項2】
左右一対の変倍光学系を通過する光束の中心点間の距離であるステレオベースが35mmであることを特徴とする請求項1記載の手術顕微鏡用光学構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は手術顕微鏡用光学構造に関する。
【背景技術】
【0002】
手術顕微鏡は1つの対物光学系と2つの変倍光学系を内蔵しており、術部で反射された上向きの光束を対物光学系に通した後、左右2個のプリズムにより直角に反射して、前後方向に沿う左右一対の変倍光学系に導いている。変倍光学系を通過後の2本の光束はその他の光学要素により前側へ折り返され、前側に設けられた接眼部に至る。ドクターはこの接眼部から左右2本の光束を瞳に導いて術部を立体的に観察することができる。対物光学系を通過することにより焦点調整でき、変倍光学系を通過することにより倍率調整できる。
【0003】
対物光学系を通過する1本の大きな光束のうち、変倍光学系に導入される2本の光束だけが接眼部まで導かれるが、変倍光学系に導入される光束の径は変倍光学系の倍率により変化する。倍率を上げると径が小さくなり、倍率を下げると径が大きくなる。最低倍率の時に最大径(変倍光学系の有効径)となり、そこから倍率を上げると光束の径は小さくなる。
【0004】
変倍光学系の直前に設けられている2個のプリズムは最大径の光束も反射可能なサイズを有し、左右の変倍光学系に対応した位置に左右それぞれ同一形状のものが設けられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような関連技術にあっては、変倍光学系に導入される光量を増加するために変倍光学系の有効径を大きくしたいという要請がある。具体的には一般的な変倍光学系の有効径は15mm程度であるが、それを30mmにして導入光量を4倍に増やしたいという要請がある。そうすることで、より鮮明で明るい視野が得られるようになる。
【0007】
しかし変倍光学系の有効径を大きくするためには、直前の2個のプリズムもそれぞれ大きくする必要があるが、そうするとプリズムで反射される光束の中心点間の距離であるステレオベースが必要以上に大きくなってしまうという別の課題が生じる。
【0008】
すなわち変倍光学系の有効径を大きくしたこと自体によりステレオベースは拡大されるが、それに加えて、2個のプリズムの間に機械的支持構造のための必須間隔が必要となり、この必須間隔の分だけステレオベースが必要以上に大きくなり過ぎる。ステレオベースは立体的な観察をするために必要であるが、これがあまり大きくなり過ぎると、不自然な立体感となり、手術顕微鏡の視認性に影響を与える。
【0009】
本発明はこのような関連技術に着目してなされたものであり、変倍光学系の有効径を拡大してもステレオベースが大きくなり過ぎない手術顕微鏡用光学構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の技術的側面によれば、接眼部が前側に位置する手術顕微鏡の内部に設けられるもので、上下方向に沿う1つの対物光学系と、それぞれ前後方向に沿う左右一対の変倍光学系と、対物光学系を通過した左右一対の光束を直角に反射して変倍光学系に導く断面直角二等辺三角形のプリズムと、を備えた手術顕微鏡用光学構造であって、前記変倍光学系の有効径がそれぞれ30mmであり、プリズムがその変倍光学系に導入される最大径の光束を反射可能なサイズで且つ左右方向に連続した一体型であることを特徴とする。
【0011】
本発明の第2の技術的側面によれば、左右一対の変倍光学系を通過する光束の中心点間の距離であるステレオベースが35mmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の技術的側面によれば、プリズムを左右方向に連続した一体型としたため、その一体型のプリズムは左右両側を支持するだけで済み、従来のような必須間隔を左右中央に設ける必要がない。そのため変倍光学系の有効径を30mmにしても、そのステレオベースは必要以上に大きくならず、ステレオベースに応じた自然な立体感で術部を観察することができる。一体型のプリズムは変倍光学系に導入される最大径の光束を反射可能なサイズを有し、対物光学系を通過した光束のうち、変倍光学系に対応する2本の光束を確実に変倍光学系側へ向けて反射することができる。
【0013】
本発明の第2の技術的側面によれば、ステレオベースが35mmで、左右の変倍光学系を通過する光束が最大径(30mm)の場合も、その間には必要最小限の間隔5mmが存在するだけである。このように光束(変倍光学系)を左右方向で接近させることにより、ステレオベースの過度な拡大を防止することができ、変倍光学系の有効径を拡大しつつも、自然な立体感を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1~
図5は本発明の好適な実施形態を示す図である。以上及び以下の説明において前後左右の方向性は
図1及び
図3中に示された通りである。
【0016】
手術顕微鏡1は図示せぬスタンド装置のアームの先端に支持され、そのアームの範囲内において位置を自由に変更できると共に、変更後の位置において向きを自由に変えることができる。
【0017】
手術顕微鏡1の前側には接眼部2が設けられている。手術顕微鏡1の下部には光束取入口3が形成され、そこから術部Gで反射された光束Aを取り入れることができる。光束取入口6の上部には上下方向に沿う対物光学系4が設置されている。対物光学系4は上下2つの固定レンズ5、6と、その間に位置する可動レンズ7の3枚から構成される。可動レンズ7は上下方向に移動自在で、その可動レンズ7の位置に応じて焦点距離を変えることができる。具体的には可動レンズ7が上昇すると焦点距離が短くなり、下降すると長くなる。
【0018】
対物光学系4の真上には、断面直角二等辺三角形で左右方向に延びる一体型のプリズム8が設けられている。このプリズム8は対物光学系4を通過した光束Aを後方に向けて直角に反射するためのものである。
【0019】
プリズム8の後方には前後方向に沿う左右一対の変倍光学系9が設けられている。この変倍光学系9も複数のレンズ群から構成され、構成レンズの一部を移動させることにより倍率を変化させることができる。変倍光学系9の有効径は30mmで、対物光学系4を通過してプリズム8により後方へ反射された光束Aのうち、左右の変倍光学系9に対応する2本の光束Aだけが、変倍光学系9を通過する。変倍光学系9を通過する光束Aは、その光束Aの中心点間の距離であるステレオベースSだけ離れているため、互いに立体視が可能な両眼視差を有する。
【0020】
この両眼視差を有する2本の光束Aは変倍光学系9の後方に設けられたプリズム10、11により、いったん上方に向けられた後、変倍光学系9の上方で前方へ向けて折り返される。前側へ折り返された光束Aは結像レンズ12を経て接眼レンズ13等を含む接眼部2へ導かれる。そしてドクターは接眼部2から術部Gを立体的に観察することができる。
【0021】
この実施形態に係る変倍光学系9は有効径が30mmであるため、そこに導入される光束Aの径も低倍率時には最大30mmとなり、倍率を上げると光束Aの径も小さくなる。導入される光束Aは変倍光学系9の有効径に応じて大きくなるが、変倍光学系9を通過した光束Aはそれほど大きくならないので、変倍光学系9以降のプリズム10、11等は従来の大きさで且つ左右に2個設けた構造である。
【0022】
変倍光学系9の有効径が30mmに拡大されているため、プリズム8のサイズもそれに応じて大きくなっている。従来に比べて4倍の光量を反射して変倍光学系9に導くため、従来よりも鮮明で明るい視野が得られる。
【0023】
本実施形態のプリズム8の利点を
図5に基づいて説明する。
【0024】
図5は上側に本実施形態のプリズム8を示し、その下方に比較例としての従来の分離形のプリズム14を示す。
【0025】
本実施形態のプリズム8は左右方向に連続した一体型のため、その左右両側を手術顕微鏡1の内部構造に対して支持するだけで済み、2個に分離されていた従来のように左右中央に機械的支持構造のための必須間隔Dを設ける必要がない。そのため左右の光束A(変倍光学系9)の間には必要最小限の間隔d(5mm)を設けるだけで済み、変倍光学系9の有効径を30mmに拡大しながら、そのステレオベースSは35mmで済む。
【0026】
従来のプリズム14はその間に必須間隔Dを設ける必要があるため、同じ35mmのステレオベースSを維持すると、プリズム14のサイズがどうしても小さくなり、大きな径を有する光束Aの全てを反射できなくなる。
【0027】
本実施形態では変倍光学系9の有効径を30mmに拡大しても、ステレオベースSは35mmに抑えることができ、自然な立体感で術部Gの観察を行うことができる。
【符号の説明】
【0028】
1 手術顕微鏡
2 接眼部
4 対物光学系
8 プリズム
9 変倍光学系
A 光束
G 術部
S ステレオベース
D 必須間隔
d 最小限間隔