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特開2022-72702セルロース繊維複合物及びセルロース繊維複合組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072702
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】セルロース繊維複合物及びセルロース繊維複合組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/02 20060101AFI20220510BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20220510BHJP
   C08F 251/02 20060101ALI20220510BHJP
   D06M 14/04 20060101ALI20220510BHJP
   D06M 15/09 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
C08L51/02
C08L1/02
C08F251/02
D06M14/04
D06M15/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020182297
(22)【出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】000190895
【氏名又は名称】新中村化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100171941
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 忠行
(74)【代理人】
【識別番号】100150762
【弁理士】
【氏名又は名称】阿野 清孝
(72)【発明者】
【氏名】明石 量磁郎
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 聡一
(72)【発明者】
【氏名】谷奥 章人
(72)【発明者】
【氏名】西本 琢朗
【テーマコード(参考)】
4J002
4J026
4L033
【Fターム(参考)】
4J002AB01X
4J002BN01W
4J002FA04X
4J002GJ00
4J026AA02
4J026AC22
4J026AC26
4J026BA27
4J026CA02
4J026CA05
4J026DB02
4J026DB12
4J026EA02
4J026GA08
4L033AA02
4L033AB01
4L033AC15
4L033CA05
4L033CA18
(57)【要約】
【課題】 セルロース繊維の樹脂等の被分散材料への分散性を阻害することなく、水、過剰な分散剤、ビニル系ホモポリマーなどが簡便かつ低エネルギーで除去されたセルロース繊維複合物を製造できるセルロース繊維複合物の製造方法と、このセルロース繊維複合物を用いたセルロース繊維複合組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】 セルロース繊維複合物の製造方法は、セルロース誘導体にビニル系ポリマーがグラフトされた共重合体を分散剤とし、当該分散剤により、有機溶剤又は有機溶剤と水との混合溶剤中にセルロース繊維を分散させた分散液を調製する工程と、前記分散液から、セルロース繊維に吸着されない過剰な分散剤及び/又はセルロース誘導体にグラフトされなかったビニル系ホモポリマーを含む液体を分離することにより、分散剤が吸着したセルロース繊維を目的のセルロース繊維複合物として回収する工程とを含む。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース誘導体にビニル系ポリマーがグラフトされた共重合体を分散剤とし、当該分散剤により、有機溶剤又は有機溶剤と水との混合溶剤中にセルロース繊維を分散させた分散液を調製する工程と、
前記分散液から、セルロース繊維に吸着されない過剰な分散剤及び/又はセルロース誘導体にグラフトされなかったビニル系ホモポリマーを含む液体を分離することにより、分散剤が吸着したセルロース繊維を目的のセルロース繊維複合物として回収する工程と
を含む、セルロース繊維複合物の製造方法。
【請求項2】
前記分散剤を両親媒性有機溶剤で洗浄する工程を含む、請求項1に記載のセルロース繊維複合物の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法によりセルロース繊維複合物を製造したのち、当該セルロース繊維複合物を、被分散材料である有機溶剤、樹脂及び/又は樹脂前駆体と混合することにより、セルロース繊維を被分散材料に再分散させる工程を含む、セルロース繊維複合組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維複合物及びセルロース繊維複合組成物の各製造方法に関し、特に、分散剤をセルロース繊維に吸着させてセルロース繊維複合物として回収するセルロース繊維複合物の製造方法と、これを用いてセルロース繊維を樹脂等に分散させたセルロース繊維複合組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは再生可能資源として紙や機能性材料として様々な用途に利用されている。また、セルロースをナノレベルに解繊したいわゆるナノセルロースが新しい機能をもった材料として注目されている。
ナノセルロースには化学処理による10nm以下の繊維径をもったセルロースナノファイバー(CNF)(TEMPO酸化CNFやリン酸エステル化CNFと呼ばれ、シングルナノファイバーとも呼ばれる)、機械的・物理的な解繊による化学処理に比べて繊維径が大きなCNFや、ミクロフィブリル、パルプを強酸等で処理して結晶性の高い部分を取り出したセルロースナノクリスタル(CNC)、さらには微生物によって産生されたバクテリアセルロースなどが知られている。
これらの材料はフィルム材料、ガスバリア材料、粘度調整剤、潤滑剤、熱伝導材料、植物育成剤、熱硬化樹脂、UVや電子線などの放射線硬化樹脂、汎用樹脂との複合材料やゴムとの複合材料などとして広くその応用が期待されている。
【0003】
ナノセルロースの有望な用途として樹脂との複合化がある。ナノセルロースはカーボンファイバーやアラミド繊維に近い強度を持ち、鋼鉄の1/5の重量で、かつ5倍以上の強度である。そのために、ナノセルロースを樹脂に分散させた複合材料は高強度かつ軽量となり、外装材、内装材やゴムベルトなど自動車部材等への応用が期待されている。
【0004】
樹脂へのナノセルロースの分散、複合化には様々なアプローチがなされている。例えば、パルプと樹脂、さらには必要に応じて膨潤剤とを混合し、混練機を使って解繊する方法や、直径が10nm未満のシングルナノサイズのCNF分散溶液を樹脂に混合して同様に混練機を使って解繊する方法などである。
【0005】
ただし、これらの方法では、シングルナノレベルでの分散が困難で、狙った物性を得ることが難しいことが現状である。
その理由の一つは、ナノセルロースの多くはその表面に親水性官能基を持っているために水への親和性や分散性には優れるが、一般的に疎水性の高い樹脂への分散性は著しく悪いためである。特に、TEMPO酸化法やリン酸エステル化処理法で作製されたCNFはシングルナノレベルの繊維径であって有用であるが、表面にはカルボン酸塩基やリン酸塩基を持っているために疎水性樹脂への馴染みが極めて悪い。
【0006】
そこで、樹脂へ分散させるために様々な技術検討がなされている。
その一つは、ナノセルロースの表面に存在する水酸基等を利用して化学反応によって疎水性官能基を導入する方法である。
例えば、カプロラクトンのグラフト化(特許文献1参照)、無水酢酸の付加反応によるアセチル化(特許文献2参照)、アルケニル無水コハク酸の付加反応などが知られている(特許文献3参照)。
さらには、ナノセルロースとそれを分散させたい樹脂の両成分に親和性をもったアクリル系ブロックポリマーを分散剤として利用する方法も知られている(特許文献4,5参照)。
また、本願出願人は、セルロース繊維、特にナノセルロースを有機溶剤や樹脂等に安価かつ十分なレベルで分散することが可能なセルロース繊維分散用複合体とそれを含むセルロース繊維組成物として、セルロース誘導体にビニル系ポリマーがグラフトされた構造を備える複合体(本複合体のことを本発明では「分散剤」と呼ぶ)と、この複合体とセルロース繊維とを含むセルロース繊維組成物を提案している(特許文献6参照。)。セルロース繊維組成物の具体的な構成としては、さらに、有機溶剤、樹脂前駆体、樹脂などを含んで用いたものが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-68707号公報
【特許文献2】特開2017-165946号公報
【特許文献3】特許第5757779号公報
【特許文献4】特開2016-104865号公報
【特許文献5】国際公開第2015/152188号
【特許文献6】特開2020-7525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献6に記載の技術では、セルロース繊維、特にナノセルロースを樹脂に安価かつ十分なレベルで分散することができる。ただ、セルロース誘導体にビニル系ポリマーがグラフトされた構造を備える分散剤を作製する際には、セルロース誘導体にグラフトされなかったビニル系ホモポリマーも副生し、このようなビニル系ホモポリマーが、得られるセルロース繊維組成物の物性に悪影響を及ぼす可能性がある。また、セルロース繊維の分散に寄与しない過剰な分散剤が含まれることは効率的ではない。特許文献6には、このビニル系ホモポリマーや過剰な分散剤を除去するための方法については開示されていない。また、水の除去方法として、減圧下での脱水が行われているが、より低エネルギーで水を除去することができれば、当該技術の価値はさらに高まる。
【0009】
そこで、本発明は、特許文献6に記載の発明の改良技術に係り、セルロース繊維の樹脂等の被分散材料への分散性を阻害することなく、水、過剰な分散剤、ビニル系ホモポリマーなどが簡便かつ低エネルギーで除去されたセルロース繊維複合物を製造することができるセルロース繊維複合物の製造方法と、セルロース繊維複合物を用いたセルロース繊維複合組成物の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、以下の構成を採用することにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明のセルロース繊維複合物の製造方法は、セルロース誘導体にビニル系ポリマーがグラフトされた共重合体を分散剤とし、当該分散剤により、有機溶剤又は有機溶剤と水との混合溶剤中にセルロース繊維を分散させた分散液を調製する工程と、前記分散液から、セルロース繊維に吸着されない過剰な分散剤及び/又はセルロース誘導体にグラフトされなかったビニル系ホモポリマーを含む液体を分離することにより、分散剤が吸着したセルロース繊維を目的のセルロース繊維複合物として回収する工程とを含む。
【0012】
また、本発明のセルロース繊維複合組成物の製造方法は、上記方法によりセルロース繊維複合物を製造したのち、当該セルロース繊維複合物を、被分散材料である有機溶剤、樹脂及び/又は樹脂前駆体と混合することにより、セルロース繊維を被分散材料に再分散させる工程を含む。
【0013】
なお、本発明における用語について、念のために整理しておくと、分散液から回収した、分散剤が吸着したセルロース繊維を「セルロース繊維複合物」と称しているのに対し、この「セルロース繊維複合物」を用いて、セルロース繊維を被分散材料(有機溶剤、樹脂、樹脂前駆体など)に(再)分散したものを、「セルロース繊維複合組成物」と称している。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特許文献6に記載の技術における利点、すなわち、セルロース繊維を樹脂等に十分に分散させることができるので、セルロース繊維と樹脂との複合材料(複合組成物)の作製に有効であり、また、セルロース誘導体へのビニル系ポリマーのグラフトは、比較的に安価に実施できるという利点を有する。その上で、簡便かつ低エネルギーで、水、さらには、分散性に寄与しないビニル系ホモポリマーや過剰な分散剤が除去され、必要かつ十分な量の分散剤がセルロース繊維に吸着された状態で残ることとなるため、樹脂等との複合化において、セルロース繊維の樹脂への分散がより効率的となり、樹脂等の物性改善効果の更なる向上が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るセルロース繊維複合物及びセルロース繊維複合組成物の製造方法の好ましい実施形態について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
【0016】
〔分散剤〕
本発明で使用する分散剤は、セルロース誘導体にビニル系ポリマーがグラフトされた構造を備える。このような分散剤としては、例えば、特開2020-7525号公報に「セルロース繊維分散用複合体」として開示されたものを用いることができる。
【0017】
セルロース誘導体は、セルロースの水酸基の一部が置換されたものである。
セルロース誘導体としては、従来公知のセルロース誘導体を用いることができ、具体的には、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ブチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、酢酸セルロース、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、トリアセチルセルロース、ニトロセルロース、カチオン化セルロースなどが挙げられる。
なかでも有機溶剤への溶解度の高さやビニル系ポリマーのグラフトし易さ、入手性の観点からエチルセルロース、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、トリアセチルセルロース、カチオン化セルロースが好ましい。
【0018】
これらの従来公知のセルロース誘導体には、通常、未修飾の水酸基が存在する。この水酸基を利用して、重合性不飽和基やチオール(メルカプト)基を導入することができる。このようにして重合性不飽和基やチオール基を導入することで、これらの官能基を基点として、後述するビニル系ポリマーのグラフトを容易に行うことができる。
上記重合性不飽和基やチオール基の導入は、例えば、上述した従来公知のセルロース誘導体に対して、昭和電工製カレンズMOIやAOIなどのイソシアネート系(メタ)アクリレート化合物を付加反応させる、無水(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸などの無水物を付加反応させる、カルボジイミドなどの縮合剤を利用して(メタ)アクリル酸等を付加反応させる、(メタ)アクリル酸クロライド、チオール基をもった有機酸を反応させる等により、実施可能である。重合性不飽和二重結合又はチオール基をもった有機酸を例示すれば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、ブテントリカルボン酸、4-エテニル安息香酸、3-メルカプトプロピオン酸等が挙げられる。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」の表記は、メタアクリル酸とアクリル酸の双方を含む表記である。「(メタ)アクリレート」などの表記も同様である。
【0019】
重合性不飽和基やチオール基の導入においては、公知技術同様に、各種の溶媒や触媒(縮合剤、有機金属材料、アミン等)を利用することができる。
また、導入される重合性不飽和基やチオール基の数は、セルロース誘導体1分子当たり平均で20以下であることが望ましい。20を超える数の導入ではグラフト重合時にゲル化する恐れがある。
上記の反応溶媒としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ピリジンなどの非プロトン性溶媒を、単独あるいは混合して使用することができる。
【0020】
本発明において、セルロース誘導体は、カチオン基を有していてもよい。
セルロース誘導体がカチオン基を有することで、特に、TEMPO酸化法やリン酸処理法で作製されたCNFの分散性に優れた分散剤となる。これらのCNFは、その表面にカルボン酸塩基やリン酸塩基を持っているが、これらCNF表面の官能基と、セルロース誘導体のカチオン基との親和性により、CNFの分散が促進されるためである。
【0021】
カチオン基を有するセルロース誘導体としては、従来公知のカチオン化セルロースを用いても良いが、以下のようにして、カチオン基を有しないセルロース誘導体にカチオン基を導入することもできる。
すなわち、例えば、アミノ基を導入する方法として、塩化チオニル/アンモニアを反応させる方法、エポキシ基を導入した後にアンモニアや多価アミノ化合物を反応させる方法が知られている。さらには、アミノ基とカルボキシル基の双方を分子内にもった化合物を上記した縮合剤等を用いて反応させて導入する方法が実施できる。
上記の反応溶媒としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ピリジンなどの非プロトン性溶媒を、単独あるいは混合して使用することができる。
カチオン基は、セルロース誘導体1分子あたりに平均で1~30個の範囲が望ましい。
【0022】
セルロース誘導体へのビニル系ポリマーのグラフトは、例えば、上述のようにして重合性不飽和基やチオール基が導入されたセルロース誘導体の存在下で、ビニル系モノマーをラジカル重合することにより行うことができる。重合性不飽和基やチオール基を基点としてビニル系ポリマーであるグラフト鎖が形成される。
【0023】
上記において、ビニル系モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレートなどのアルキル基炭素数1~20の(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートアダマンチル系(メタ)アクリレート(大阪有機化学工業社製:MADA、MADMA、EtADA、EAMA(P)など)、繰り返しユニット数が1~30のメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、繰り返しユニット数が1~30のメトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート、2-(メタ)アクロイロキシエチルアシッドホスフェート、スチレン、スチレン誘導体、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、無水マレイン酸、(メタ)アクリロニトリル、N-ビニルピロリドン、シリコーン系(メタ)アクリレート(JNC製、商品名サイラプレーン「FM-0711」、「FM-0721」、「FM-0725」等、信越化学社製:「X-22-174DX」、「X-22-2426」、「X-22-2475」等))、フッ素置換基含有(メタ)アクリレート(ダイキン社製の種々のフッ素置換アルキル(メタ)アクリレートなど)などが挙げられる。
【0024】
また、ゲル化によって溶剤へ不溶化しない程度の量で、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートなどの多官能性(メタ)アクリレートやジビニルベンゼン等を利用することも可能である。また、これらの各モノマーは単独もしくは複数種を組み合わせて使用することができる。
【0025】
上記したビニル系モノマーの組み合わせによって生成するビニル系ポリマーの性質が変化し、特に有機溶剤や樹脂へのセルロース繊維の分散性能が変わる。一般論として分散させる対象となる有機溶剤や樹脂との親和性の指標としてSolubility Parameter(SP)値が挙げられる。グラフトされたビニル系ポリマーと前記分散対象とのSP値を近い値とするような設計が望ましいものとなる。特に実験値や計算値上のSP値の差が1.0((cal/cm31/2)以内であることが望ましい。
また、ビニル系モノマーとして、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有モノマーやポリアルキレンオキサイド系のモノマー成分、特に、繰り返しユニット数が1~30のメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、繰り返しユニット数が1~30のメトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートを使用すると、セルロース繊維中に酸塩基等が存在した場合にも有効な相互作用の効果が期待できるため、共重合する一成分として使用することが望ましい。
【0026】
さらには分散対象の材料(特に樹脂)との相互作用を持ったビニル系モノマーを選択することも望ましい。相互作用とはアルキル基等の疎水性相互作用、水酸基、アミン、カルボキシル基、アミド基等の水素結合、芳香族環によるπ-πなどの共役系スタックなどが挙げられ、このような官能基をもったものを使用することで実現できる。
さらにはまた、生成したビニル系ポリマー中に反応性基を導入し、分散対象の樹脂等との結合を形成させることも可能である。その一つの方法は、前記したグリシジル(メタ)アクリレートや3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基をもったビニル系モノマーを共重合することである。他の方法としては、生成したビニル系ポリマー中の官能基、例えば水酸基やカルボキシル基等を利用して重合可能な(メタ)アクリレート基、ビニル基、アリル基等を化学反応で導入することである。このような反応性基の導入にはイソシアネート基含有(メタ)アクリレートであるカレンズMO-IやAO-I等(昭和電工製)、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートなどを使用した付加反応で実現できる。
【0027】
前記した重合性不飽和基またはチオール基を導入したセルロース誘導体とビニル系モノマーの重合にあたって、各々は重量比で5:95~99:1の範囲内で配合されることが好ましい。この範囲外であるとセルロース繊維の分散剤としての効果が低くなる恐れがある。
なお、上記した重合において、ビニル系モノマーから形成されるビニル系ポリマーがすべてセルロース誘導体にグラフト(化学結合)される必要はない。ビニル系モノマーの単独重合によって生成するポリマーが含まれていてもよい。
【0028】
セルロース誘導体にグラフトして形成するビニル系ポリマーの分子量は、重量平均分子量で1000~50万の範囲から選択されることが好ましい。前記重量平均分子量が1000未満であると分散剤としての効果が低下する恐れがあり、また、前記重量平均分子量が50万を超えると粘度が高くなりすぎる傾向がある。
なお、セルロース誘導体、このセルロース誘導体にグラフトされるビニル系ポリマー、及び分散剤(セルロース誘導体にビニル系ポリマーがグラフトされた共重合体)の各重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値である。
【0029】
分散剤の分子量としては、重量平均分子量で5000~80万の範囲が好ましい。この重量平均分子量は、セルロース誘導体へ結合されたビニル系ポリマーと、結合体や結合されていないビニル系ホモポリマー(単独重合体)を含むものとする。
なお、GPC法によって測定される上記分散剤の分子量は、セルロース誘導体固有の溶液特性が原因と思われるが、単純にセルロース誘導体とビニル系ポリマーとの総和とはならない場合がある。詳細は不明であるがセルロース誘導体にビニル系ポリマーが結合することによって、高分子鎖の広がり等やセルロース誘導体間の相互作用が変化する可能性がある。したがって、あくまでもGPC法での測定分子量となる。
【0030】
重合に使用可能な有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ベンジルアルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチルラクテート、ジメチルスルホキシド、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(ブチルカルビトールアセテート)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、ジヒドロターピネオールアセテート、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピネオールアセテートなどの1種か混合物が好適である。
【0031】
重合開始剤としては、例えば、過酸化物系やアゾ系の各種タイプのラジカル重合開始剤を使用することができる。また、重合時の濃度、開始剤濃度等は公知の技術の範囲内で実施可能である。
【0032】
セルロース誘導体にビニル系モノマーを重合した後、必要に応じて貧溶媒による沈殿精製を実施することも従前のポリマー精製と同様に可能である。未反応モノマー、副生成物を除くことが可能である。
一方で、上記のような方法で作製した分散剤には、セルロース誘導体とビニル系ポリマーが結合した理想的な分散剤の構造の他にも結合されていないビニル系ホモポリマーが生成し、それが混合している。これはラジカル重合というラジカルの連鎖移動が起こるというメカニズムから不可避なことである。また、生成した重合物からビニル系ホモポリマーを再沈殿精製等で完全に除くことは困難であることも判明した。このようなビニル系ホモポリマーが多く含まれている場合は、その後の複合材料を作製した時に物性低下の要因となることも判明した。したがって、本製造方法ではこのようなビニル系ホモポリマーを効果的に除去することも狙いとしている。
【0033】
〔セルロース繊維〕
本発明に使用されるセルロース繊維は、例えば、前記したような、化学処理による10nm以下の繊維径をもったセルロースナノファイバー(CNF)(TEMPO酸化CNFやリン酸エステル化CNFと呼ばれ、シングルナノファイバーとも呼ばれる)、機械的・物理的な解繊による化学処理に比べて繊維径が大きなCNF、リグニンが結合したリグノセルロースやそのナノセルロース、ミクロフィブリル、パルプを強酸等で処理して結晶性の高い部分を取り出したセルロースナノクリスタル(CNC)、さらには微生物によって産生されたバクテリアセルロースなどである。
市販品として入手可能なものとしては、王子ホールディングス製のスラリー状CNF(リン酸化処理品、名称:アウロ・ヴィスコ)、パウダー状CNF、日本製紙製のTEMPO酸化法CNF、中越パルプ製のNanoforest-S、大王製紙製の水分散CNF(名称:ELLEX-S)、第一工業製薬製のTEMPO酸化法による水分散型CNF(名称:レオクリスタ)などの繊維径が4nmから500nmのものが挙げられる。
本発明の製造方法では、これらの繊維径がマイクロメートルからナノメートルレベルの水分散されたナノセルロースを使用しても良く、また、原料パルプに上記した分散剤を添加したうえで機械的、物理的な手法で解繊しても良い。
【0034】
〔分散液の調製〕
本発明のセルロース繊維複合物の製造方法は、有機溶剤又は有機溶剤と水との混合溶剤中で、上記分散剤により上記セルロース繊維を分散させた分散液を調製する工程を含む。
セルロース繊維としては、上記のように、化学処理されたセルロース繊維が水分散体の形態で市販されており、また、原料パルプから製造することもできる。これらを原料とする場合を例とすると、分散液の調製は、例えば、以下のようにして行うことができる。
【0035】
まず、化学処理されたセルロース繊維の水分散物を出発原料とする場合は、水分散体である化学処理セルロースに、水に溶解する有機溶媒を混合し、また、前述の分散剤を添加して攪拌、混合処理を行うことで分散液を調製することができる。
水に分散されたセルロース繊維水分散液に対して、混合する有機溶剤の量比は、水分散液1重量部に対して1~50重量部が好ましい。また、分散剤を添加する量は、セルロース繊維水分散液中のセルロース繊維1重量部に対して、分散剤(ポリマー固形分相当)の重量で0.1~10重量部の範囲で添加することが望ましい。一般的に化学処理セルロース繊維(水分散状態)の固形分濃度は0.5重量%から5重量%の範囲であり、この固形分重量に対して分散剤の量を上記の範囲で調整することができる。
分散操作は、混合物をホモジナイザー、ジェットミル、ボールミルやビーズミルなどの機械的な攪拌装置を用いてセルロース繊維を分散させることができる。
【0036】
セルロース繊維の水分散物を出発原料とする上記プロセスにおいては、セルロース繊維の水分散物にあらかじめ特定の有機溶剤を混合して水と有機溶剤との混合物を除去することで、含有される大多数の水を除去することも望ましく実施可能である(予備脱水)。
予備脱水に使用する有機溶剤は、水を除去するため、水との親和性の高い両親媒性有機溶剤が好適であり、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、エチルラクテート、ジメチルスルホオキシド、エチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが好ましく挙げられ、一種又は複数種組み合わせて使用することができる。
このプロセスを実施することで、水の影響によって分散剤が不溶化することを抑制できる場合がある。つまり、有機溶剤として複数のものを使用し、多段階のプロセスで脱水と余剰な分散剤を除去することも実施可能である。
【0037】
また、パルプ繊維を出発原料とする場合には、パルプに分散剤と有機溶剤単独あるいは水と有機溶剤の混合溶剤を混合し、それを機械的、物理的な手法で解繊することで、ナノレベルへの分散を行うことができる。この製法ではパルプ繊維の解繊(繊維径が小さくなる)にともなって表面積が増えるために、解繊工程に分散剤を添加すると、生成したセルロース繊維の表面に分散剤が吸着することで安定な分散状態を形成することができる。一方で、分散剤を加えずに解繊工程を行って、最終工程で分散剤を添加して解繊を進めることも実施可能である。
パルプとしては針葉樹系、広葉樹系、ケナフ、竹などの原料別の他にも、処理法の違いによる化学的パルプ、機械的パルプ、化学的機械パルプ、半化学的パルプなどの様々なタイプを使用することができる。
解繊前のセルロース繊維1重量部に対して、前記した有機溶剤や水と有機溶剤との混合溶剤を、例えば、0.5~100重量部の範囲で混合し、機械的あるいは物理的な手段で解繊を実施することができる。添加する分散剤の量は、化学処理されたセルロース繊維の水分散物を出発原料とする場合と同様である。
解繊にあたっては、前記の機械的分散装置に加えてニーダー、連続式二軸混練機、ジェットミルなどのジェット粉砕機を用いることができる。
【0038】
パルプ繊維を出発原料とする上記プロセスにおいては、有機溶剤と水との混合物、さらには必要に応じて分散剤を添加してパルプなどのセルロース繊維を解繊した後に、段階的に有機溶剤へと置換、洗浄し、水や過剰な分散剤の除去を行うことも可能である。
【0039】
本工程で用いる有機溶剤としては、分散剤作製の際、官能基の導入やグラフト重合時に使用した有機溶剤を使用しても良いが、特に、予備脱水に関して例示したような両親媒性有機溶媒が好ましく使用できる。
【0040】
以上のようにして、有機溶剤又は有機溶剤と水との混合溶剤中で、上記分散剤により上記セルロース繊維を分散させることで、セルロース繊維表面に分散剤が吸着される。
【0041】
〔セルロース繊維複合物の回収〕
本発明のセルロース繊維複合物の製造方法は、次に、上記工程で調製した分散液から、セルロース繊維に吸着されない過剰な分散剤及び/又はセルロース誘導体にグラフトされなかったビニル系ホモポリマーを含む液体を分離することにより、分散剤が吸着したセルロース繊維を目的のセルロース繊維複合物として回収する。
【0042】
前述の分散液の調製工程後の分散液では、有機溶剤又は有機溶剤と水との混合溶剤中にセルロース繊維が分散している。この分散液について、本工程により液体の分離を行うことで、セルロース繊維に必要十分な量の分散剤が吸着した理想的な構造のセルロース繊維複合物を回収することができる。言い換えれば、セルロース繊維に吸着しない分散剤やビニル系ホモポリマー等、物性低下の影響を与え得る成分は、分離除去される。水も液体成分として除去できるので、水の除去と物性低下の影響を与え得るビニル系ホモポリマー等の不要成分の除去を同時に行うことが可能となる。
この液体の分離方法としては、各種フィルターを用いたろ過法、セルロース繊維と液体を分離させた状態から液体を流し出して除去する方法、遠心分離装置等によってセルロース繊維を沈降させて分離する方法などが実施可能である。特に、簡便で低コストであることからろ過法を実施することが望ましい。
この操作で使用されるフィルターとしては、各種ペーパーフィルター、その加工処理フィルターやフッ素樹脂、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエーテルスルフォン、セルロース混合エステルなどに代表される繊維体や多孔質体からなる樹脂フィルター、MERK社製のミリポアなどのメンブレンフィルター、樹脂メッシュフィルター、金属メッシュフィルター、ガラス繊維フィルター、チューブ状の限外ろ過フィルターなどが使用され。その目開きの孔径としては10nm~50μmの範囲を使用することができる。あるいは、フィルターの性能の指標として保持粒子径があり、この値が50nm~20μmの範囲のものが好適である。またフィルターは性能差の違うものを複数種併用しても良い。
ろ過時や液体との分離時の溶液温度は、通常、-10℃~100℃の範囲で実施される。また、ろ過法を実施する場合には減圧(吸引)ろ過や加圧ろ過を行なうことが可能である。
【0043】
液体分離の工程では、有機溶剤を使用してセルロース繊維複合物を洗浄することも望ましい。この洗浄工程によって、水分の除去や分散剤中のビニル系ホモポリマーを効果的に除去することが可能となる。特に、繰り返し洗浄することで、含有される水分等を1.0重量%以下まで減少させることが可能である。含有される水分量を1.0重量%以下にすることで、後述のセルロース繊維複合組成物等への応用に際して物性などの特性上、優れた効果が期待できる。
一方で、セルロース繊維に吸着された分散剤の望ましい量は、セルロース繊維の重量100重量部に対して1~200重量部の範囲が望ましい。セルロース繊維の径によって、それが小さいほど表面積が増加し、吸着量も増加するが、種々の繊維径で検討した結果、望ましい範囲は上記のものとなることがわかった。分散剤がこの範囲で吸着されていれば、セルロース繊維が様々な被分散材料に均一に分散できることが判明した。1重量部よりも少ないと、セルロース繊維の分散性が低下し、また、200重量部よりも多い場合にはセルロース繊維を樹脂等と複合化させた場合の複合物の物性が低下するなどの恐れがある。
この洗浄工程で使用する有機溶剤としては、特に限定するわけではないが、予備脱水に関して例示したような両親媒性有機溶媒が好ましく使用できる。
【0044】
液体分離の工程は、固体成分から液体成分を完全に分離することまでも意味するものではなく、回収するセルロース繊維複合物は、有機溶剤が一部セルロース繊維内に取り込まれて残存した湿潤状態であっても良い。逆に、有機溶剤がほぼ完全に除去された状態であっても良いが、有機溶剤を完全に除去するとセルロース繊維間の凝集が起こる可能性がある。そこで、残存する有機溶剤の好ましい範囲は、分散剤が吸着したセルロース繊維1重量部に対して1~200重量部である。
さらに上記の脱水処理、分散剤の吸着と過剰な分散剤の除去という製造プロセスで使用された有機溶剤は、回収して精製することで繰り返し使用することがコスト面から望ましい。
【0045】
〔セルロース繊維複合組成物〕
上記のようにして得られるセルロース繊維複合物(分散剤が吸着したセルロース繊維)を、被分散材料(有機溶剤、樹脂、樹脂前駆体など)と混合することにより、被分散材料にセルロース繊維が均一に分散したセルロース繊維複合組成物を作製することができる。
以下に、セルロース繊維複合組成物について説明をする。
具体的な構成としては、その用途等に応じて、種々の構成をとりうる。以下、好ましい構成として、第1~第3の構成を例示する。
【0046】
<第1の構成:有機溶剤分散組成物>
組成物の第1の構成は、前記セルロース繊維複合物と有機溶剤とを含む有機溶剤分散組成物である。
有機溶剤としては、前記した反応や重合や分散プロセスにて使用したものが使用可能であり、以下のものが挙げられる。
酢酸エチル、酢酸ブチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、ブチルアルコール、ベンジルアルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチルラクテート、ジメチルスルホキシド、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(ブチルカルビトールアセテート)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、ジヒドロターピネオールアセテート、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピネオールアセテートなどの1種か混合物である。
【0047】
有機溶剤はセルロース繊維複合物の1重量部に対して、5~500重量部の範囲となることが好ましい。
上記のセルロース繊維複合物と用途に応じた上記の有機溶剤とを混合し、前記した分散装置等を使用してセルロース繊維を再分散させることで有機溶剤分散組成物が得られる。
なお、原料となるセルロース繊維複合物には前記の製造工程で使用した有機溶剤が含まれている場合がある。これらのセルロース繊維複合物に含まれる有機溶剤は減圧脱溶剤方法等によって除くことも好ましく実施される。
上記した第1の構成の組成物は、インキ、接着剤、配合材や各種部品の原料等として広く応用することができる。
【0048】
<第2の構成:樹脂前駆体分散組成物>
組成物の第2の構成は、前記セルロース繊維複合物と樹脂前駆体を含む組成物である。
この第2の構成に係る組成物も、前記第1の構成に係る組成物と同様な方法で調製することができる。つまり、セルロース繊維複合物と樹脂前駆体を混合し、前述のような分散処理を実施し、必要に応じてセルロース繊維複合物に存在する有機溶剤を除去する方法である。
【0049】
ここで、樹脂前駆体とは、重合反応等によって高分子材料を形成するものであり、(メタ)アクリレート系化合物、ビニル系化合物、アリル系化合物、酸無水物、アミン系化合物、イソシアネート系化合物、エポキシ化合物や反応性シリコーン化合物等が使用可能である。
【0050】
これらの中でも、特に、反応性と汎用性の高さから、(メタ)アクリレート系化合物、ビニル化合物、イソシアネート系化合物やエポキシ化合物が好ましく使用される。
(メタ)アクリレート系化合物としては、単官能(メタ)アクリレート化合物として炭素数1~30のアルキル系、メトキシエチレンオキサイド系、ビスフェノールA骨格系、芳香族系の(メタ)アクリレート化合物などが、二官能(メタ)アクリレート化合物としてエチレングリコール系、プロピレングリコール系、ビスフェノールA骨格系、フルオレン骨格系、トリシクロデカン骨格系等のジ(メタ)アクリレート化合物などが、それ以上の多官能(メタ)アクリレート化合物としてグリセリン骨格系(メタ)アクリレート化合物、(モノ-、ジ-、トリ-)トリメチロールプロパン骨格系、イソシアヌレート骨格系多官能(メタ)アクリレート化合物、(モノ-、ジ-、トリ-)ペンタエリスリトール骨格系多官能(メタ)アクリレート化合物などの多官能(メタ)アクリレート化合物などが挙げられる。
【0051】
ビニル化合物としては、ジビニルベンゼン、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、アクリロニトリルなどが挙げられる。
【0052】
イソシアネート系化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)に代表されるイソシアネートや、それらとアルコールとの付加物等のポリイソシアネート類などが挙げられる。
【0053】
エポキシ化合物としては、ビスフェノールA系、ビスフェノールF系、ビスフェノールS、ノボラックフェノール系、レゾールフェノール系、ナフタレン系、ビフェニル系、およびこれらの水添化合物、イソシアヌレート系、ポリブタジエン系などの骨格をもったグリシジルエーテル系、グリシジルアミド系、グリシジルエステル系、脂環式エポキシ系などの多官能エポキシ化合物や反応性希釈剤である単官能等のエポキシ化合物が挙げられる。
【0054】
反応性シリコーン化合物としては、例えば、信越化学工業製の種々のRTVシリコーンゴムやLIM(Liquid Injection Molding)用シリコーンが使用可能である。これに限定されず2液系等の縮合系、付加系、UV硬化系の種々のRTVシリコーンゴムやLIM用シリコーン材料を使用することができる。
【0055】
セルロース繊維複合物と樹脂前駆体の配合比は、セルロース繊維複合物の重量に対して、5倍重量~100倍重量の範囲となることが好ましい。また、(メタ)アクリレート系化合物を用いる場合は、保存安定性を向上させる目的でハイドロキノン類などの重合禁止剤を添加することも従来技術同様に実施可能である。
また、セルロース繊維複合物に有機溶剤が含まれる場合は、必要に応じて公知の装置を用いての加熱や減圧脱溶剤プロセスを行うことで除去することができる。
【0056】
第2の構成の組成物は、UV硬化材料、3D造形用材料、熱硬化材料、接着剤、配合材、各種部品の原料等として広く応用することができる。
【0057】
<第3の構成:樹脂分散組成物>
組成物の第3の構成は、前記セルロース繊維複合物と樹脂とを含む組成物である。
樹脂としては、各種アクリル系樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、各種ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ニトリルゴム、ブタジエンゴム、ポリ(スチレン-ブタジエン)、ポリイソプレン、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、各種ポリエステル、各種ポリウレタン、各種ナイロン樹脂(ポリアミド)、ポリアセタール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール、エチルセルロースやセルロースアセテートブチレートや酢酸セルロースなどのセルロース系樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルフィド、フェノール樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂などが挙げられる。
【0058】
第3の構成に係る組成物を製造する方法としては、例えば、前記したセルロース繊維複合物と前記した樹脂とを混合し、必要に応じて加熱しながらニーダーや連続式二軸混練機等を用いて機械的に混練、分散する方法である。また、前記した樹脂のなかで有機溶剤への溶解性のあるものを選択の上、それを溶解させて、そこに前記したセルロース繊維複合物を混合、攪拌し、均一に分散した後に有機溶剤を除去する方法も好ましく適用できる。
これらの方法は使用する樹脂の種類によって使い分けることが好ましい。
【0059】
セルロース繊維複合物と樹脂との配合比は、セルロース繊維複合物が1重量部に対して、樹脂が5倍重量~100倍重量の範囲となることが好ましい。
【0060】
第3の組成物は、無定形物や種々有機溶剤を含んだ無定形物として、様々な用途の原料として使用することもできる。また、加熱成型や機械加工等によってそれ自身から形成されたバルク状、フィルム状、球状や繊維状等の構造体として各種の部品等に応用することができる。さらに、塗布や溶融成型によって形成されたフィルム形状や他のフィルム基板上に積層された形態として応用することもできる。
【0061】
<本発明の組成物における任意成分>
上記した本発明の組成物には、前記した分散剤、セルロース繊維、有機溶剤、樹脂前駆体や樹脂の他にも様々な材料を複数種類配合しても構わない。
これらを例示すれば、界面活性剤、可塑剤、粘度調整剤、消泡剤、レベリング剤、UV吸収剤や酸化防止剤などの安定剤、色素、ポリマー粒子、金属粒子やセラミック粒子などの無機粒子、エポキシ硬化剤、硬化促進触媒、重合開始剤、エポキシ化合物やイソシアネート化合物類と反応可能な酸無水物類、多官能アルコール類や多官能アミン類などである。これらの材料は、組成物の全体重量に対して、例えば、0.001~90重量%の範囲内で配合することができる。
【実施例0062】
以下、本発明に係るセルロース繊維複合物及びセルロース繊維複合組成物の製造方法について、実施例及び比較例を示す。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0063】
〔分散剤の合成〕
<合成例1:分散剤A>
エチルセルロース(ダウケミカル社製の「エトセルSTD-10」、数平均分子量:2.27万)100重量部、酢酸エチル300重量部を反応容器に加えて混合し、エチルセルロースを酢酸エチルに均一溶解させた溶液を調製した。
上記溶液に、メタクリル酸(富士フイルム和光純薬社製):1.14重量部、縮合剤としてジイソプロピルカルボジイミド(富士フイルム和光純薬社製):1.66重量部、及び反応促進剤としてジメチルアミノピリジン(富士フイルム和光純薬社製):0.08重量部を添加、混合した。引き続き、40℃で12時間、撹拌して反応を実施し、エチルセルロースの水酸基の一部にエステル結合によってメタクリレート基を導入した(導入したメタクリレート基は、エチルセルロース鎖1本あたり平均で3個)。官能基の導入はFT-IRスペクトル測定で、エステル結合が生成していることで確認できた。
上記の反応溶液を50℃に昇温し、さらに溶液中にガラス管によって窒素をバブル状に吹き込み、攪拌をしながら窒素置換を行った。さらに、ビニル系モノマーとしてベンジルメタクリレート:20重量部を混合し、さらに重合開始剤としてアゾイソブチロニトリル(AIBN)(富士フイルム和光純薬社製):0.4重量部を加え、80℃で8時間重合反応を実施した。反応後の溶液中のポリマー成分の濃度は29重量%であった。
生成したポリマーの一部を精製し、GPC分子量分析や1H-NMRによる組成分析を行ったところ、エチルセルロースとベンジルメタクリレートとの上記仕込み組成とほぼ同一のポリマーが生成しており、これを分散剤として使用した。
【0064】
<合成例2:分散剤B>
エチルセルロース(ダウケミカル社製の「エトセルSTD-20」、数平均分子量:3.9万)100重量部、酢酸エチル300重量部を反応容器に加えて混合し、エチルセルロースを酢酸エチルに均一溶解させた溶液を調製した。
上記溶液に、メタクリル酸:1.1重量部、縮合剤としてジイソプロピルカルボジイミド:1.62重量部、及び反応促進剤としてジメチルアミノピリジン:0.08重量部を添加、混合した。引き続き、40℃で12時間、撹拌して反応を実施し、エチルセルロースの水酸基の一部にエステル結合によってメタクリレート基を導入した(導入したメタクリレート基は、エチルセルロース鎖1本あたり平均で5個)。官能基の導入はFT-IRスペクトル測定で、エステル結合が生成していることで確認できた。
上記の反応溶液を50℃に昇温し、さらに溶液中にガラス管によって窒素をバブル状に吹き込み、攪拌をしながら窒素置換を行った。さらに、ビニル系モノマーとしてブチルメタクリレート:50重量部を混合し、さらに重合開始剤としてアゾイソブチロニトリル(AIBN)0.5重量部を加え、80℃で8時間重合反応を実施した。反応後の溶液中のポリマー成分の濃度は33重量%であった。
生成したポリマーの一部を精製し、GPC分子量分析や1H-NMRによる組成分析を行ったところ、エチルセルロースとブチルメタクリレートとの上記仕込み組成とほぼ同一のポリマーが生成しており、これを分散剤として使用した。
【0065】
<合成例3:分散剤C>
エチルセルロース(ダウケミカル社製の「エトセルSTD-10」、数平均分子量:2.27万)100重量部、酢酸エチル300重量部を反応容器に加えて混合し、エチルセルロースを酢酸エチルに均一溶解させた溶液を調製した。
上記溶液に、メタクリル酸:1.14重量部、縮合剤としてジイソプロピルカルボジイミド:1.66重量部、及び反応促進剤としてジメチルアミノピリジン(富士フイルム和光純薬社製):0.08重量部を添加、混合した。引き続き、40℃で12時間、撹拌して反応を実施し、エチルセルロースの水酸基の一部にエステル結合によってメタクリレート基を導入した(導入したメタクリレート基は、エチルセルロース鎖1本あたり平均で3個)。官能基の導入はFT-IRスペクトル測定で、エステル結合が生成していることで確認できた。
上記の反応溶液を50℃に昇温し、さらに溶液中にガラス管によって窒素をバブル状に吹き込み、攪拌をしながら窒素置換を行った。さらに、ビニル系モノマーとしてジシクロペンタニルメタクリレート(日立化成社製):50重量部を混合し、さらに重合開始剤としてアゾイソブチロニトリル(AIBN):0.4重量部を加え、80℃で8時間重合反応を実施した。反応後の溶液中のポリマー成分の濃度は約27重量%であった。
生成したポリマーの一部を精製し、GPC分子量分析や1H-NMRによる組成分析を行ったところ、エチルセルロースとジシクロペンタニルメタクリレートとの上記仕込み組成とほぼ同一のポリマーが生成しており、これを分散剤として使用した。
【0066】
<合成例4:分散剤D>
エチルセルロース(ダウケミカル社製の「エトセルSTD-4」、数平均分子量:1.37万)100重量部、酢酸エチル300重量部を反応容器に加えて混合し、エチルセルロースを酢酸エチルに均一溶解させた溶液を調製した。
上記溶液に、3-メルカプトプロピオン酸(東京化成工業社製):2.32重量部、縮合剤としてジイソプロピルカルボジイミド:2.76重量部、及び反応促進剤としてジメチルアミノピリジン0.13重量部を添加、混合した。引き続き、40℃で12時間、撹拌して反応を実施し、エチルセルロースの水酸基の一部にエステル結合によってチオール基を導入した(導入したチオール基は、エチルセルロース鎖1本あたり平均で3個)。官能基の導入はFT-IRスペクトル測定で、エステル結合が生成していることで確認できた。
上記の反応溶液を50℃に昇温し、さらに溶液中にガラス管によって窒素をバブル状に吹き込み、攪拌をしながら窒素置換を行った。さらに、ビニル系モノマーとしてイソボルニルメタクリレート(東京化成工業社製):10重量部を混合し、さらに重合開始剤としてアゾイソブチロニトリル(AIBN)0.4重量部を加え、80℃で8時間重合反応を実施した。反応後の溶液中のポリマー成分の濃度は27重量%であった。
生成したポリマーの一部を精製し、GPC分子量分析や1H-NMRによる組成分析を行ったところ、エチルセルロースとイソボルニルメタクリレートとの上記仕込み組成とほぼ同一のポリマーが生成しており、これを分散剤として使用した。
【0067】
<合成例5:分散剤E>
エチルセルロース(ダウケミカル社製の「エトセルSTD-20」、数平均分子量:3.9万)100重量部、酢酸エチル300重量部を反応容器に加えて混合し、エチルセルロースを酢酸エチルに均一溶解させた溶液を調製した。
上記溶液に、3-メルカプトプロピオン酸:1.36重量部、縮合剤としてジイソプロピルカルボジイミド:1.62重量部、及び反応促進剤としてジメチルアミノピリジン0.08重量部を添加、混合した。引き続き、40℃で12時間、撹拌して反応を実施し、エチルセルロースの水酸基の一部にエステル結合によってチオール基を導入した(導入したチオール基は、エチルセルロース鎖1本あたり平均で5個)。官能基の導入はFT-IRスペクトル測定で、エステル結合が生成していることで確認できた。
上記の反応溶液を50℃に昇温し、さらに溶液中にガラス管によって窒素をバブル状に吹き込み、攪拌をしながら窒素置換を行った。さらに、ビニル系モノマーとしてジシクロペンタニルメタクリレート:20重量部を混合し、さらに重合開始剤としてアゾイソブチロニトリル(AIBN)0.4重量部を加え、80℃で8時間重合反応を実施した。反応後の溶液中のポリマー成分の濃度は29重量%であった。
生成したポリマーの一部を精製し、GPC分子量分析や1H-NMRによる組成分析を行ったところ、エチルセルロースとジシクロペンタニルメタクリレートとの上記仕込み組成とほぼ同一のポリマーが生成しており、これを分散剤として使用した。
【0068】
〔セルロース繊維水分散体の予備脱水と溶剤置換〕
<予備脱水例1>
ガラス製容器にTEMPO酸化法CNF(CNF固形分量2重量%水分散液:第一工業製薬製)を50重量部、両親媒性有機溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME):1000重量部投入し、高速攪拌機を用いて30分間撹拌・混合を行った。
その後、No.2のろ紙(保持粒子径>5μm)を用いて吸引ろ過し、さらにPGME:500重量部で繰り返し洗浄することでCNFとPGMEとからなる混合物を得た。混合物の重量は約73.5gであった。
なお、上記操作後のろ液中の不揮発分は無いことを確認した。堆積物の不揮発分を測定することにより、堆積物中のCNF含有量が分かる。実際に取り出した堆積物中のCNF含有量は1.36重量%であった。また含有される水分は1.0重量%以下であった。
【0069】
<予備脱水例2>
ガラス製容器にTEMPO酸化法CNF(CNF固形分量2重量%水分散液:第一工業製薬製)を50重量部、両親媒性有機溶剤としてエチレングリコールモノメチルエーテル(EGME)を1000重量部投入し、高速攪拌機を用いて30分間撹拌・混合を行った。
その後、No.2のろ紙を用いて吸引ろ過し、さらにEGMEで繰り返し洗浄することでCNFとEGMEとからなる混合物を得た。混合物の重量は約75gであった。
なお、上記操作後のろ液中の不揮発分は無いことを確認した。堆積物の不揮発分を測定することにより、堆積物中のCNF含有量が分かる。実際に取り出した堆積物中のCNF含有量は1.33重量%であった。また含有される水分は1.0重量%以下であった。
【0070】
<予備脱水例3>
ガラス製容器にTEMPO酸化法CNF(CNF固形分量2重量%水分散液:第一工業製薬製)を50重量部、両親媒性有機溶剤としてジメチルホルムアミド(DMF)を1000重量部投入し、高速攪拌機を用いて30分間撹拌・混合を行った。
その後、No.2のろ紙を用いて吸引ろ過し、さらにDMFで繰り返し洗浄することでCNFとDMFとからなる混合物を得た。混合物の重量は約70gであった。
なお、上記操作後のろ液中の不揮発分は無いことを確認した。堆積物の不揮発分を測定することにより、堆積物中のCNF含有量が分かる。実際に取り出した堆積物中のCNF含有量は1.43重量%であった。また含有される水分は1.0重量%以下であった。
【0071】
〔セルロース繊維複合物の作製〕
以下のプロセスによって、水分散されたTEMPO酸化CNFの表面に上記合成例で作製した分散剤を吸着させて、疎水性媒体中へCNFを均一に分散可能なCNFと分散剤との複合物を作製した。
<実施例1>
ガラス容器に上記予備脱水例1の操作で得たCNFとPGMEとの混合物を20重量部(含有されるCNF重量は約0.27重量部)となるように秤量し、さらに、合成例1で作製した分散剤Aを含む酢酸エチル溶液を0.94重量部(分散剤の固形分重量で0.27重量部)、エチレングリコールジメチルエーテル(EGDME):100重量部となるように混合し、高速攪拌機を用いて30分間撹拌・混合を行ってCNFに分散剤を吸着させた分散液を得た。
さらに上記分散液をNo.2のろ紙(保持粒子径>5μm)を用いて室温(25℃)で吸引ろ過し、さらにはEGDME:100重量部による洗浄を実施し、ろ紙上にろ過生成物として分散剤が吸着したCNF(セルロース繊維複合物)を得た。
ろ紙上のろ過生成物と吸引ろ過後のろ液の不揮発分を測定することにより、ろ過生成物中の有機溶剤量とCNFに吸着されている分散剤の量が求められる。その結果、有機溶剤(EGDME)はろ過生成物中に約95重量%含まれており、またCNF100重量部に対して約42重量部の分散剤が吸着していることがわかった。添加した分散剤量はCNF100重量部に対して100重量部の比率であることから、添加した分散剤量の約42重量%が吸着していることになる。また、CNFに吸着されなかったろ液中の分散剤を1NMRで分析したところ、アクリルポリマー成分(ベンジルメタクリレートのホモポリマー)が、初期の分散剤の組成に比べて増加していることが判明した。つまり、CNFには狙いの分散剤の構造を持ったエチルセルロースとアクリルポリマーとのグラフト体が優先的に吸着されていることがわかった。
また、生成物中の水分を測定すると、0.5重量%以下であった。以下の実施例2~17においても生成物中の水分は0.5重量%以下であった。
(なお、上記したCNFと分散剤との複合物では、作製に使用したエチレングリコールジメチルエーテルが残存した状態で使用しても良いし、除去した状態でも構わない。)
【0072】
<実施例2~5>
分散剤として合成例2~5に示した分散剤B~Eを使用して、実施例1と同様な有機溶剤量、CNFと分散剤との重量比のもと、セルロース繊維複合物を作製した。これらの条件については表1に記載する。
【0073】
<実施例6~7>
実施例1において分散剤の添加量を増加させた。条件については表1に記載するとおりである。
【0074】
<実施例8>
予備脱水例2の操作で得たCNFとEGMEとの混合物を使用した。それ以外の条件は実施例1と同様である。
【0075】
<実施例9>
予備脱水例2の操作で得たCNFとEGMEとの混合物を使用した。それ以外の条件は実施例5と同様である。
【0076】
<実施例10>
予備脱水例3の操作で得たCNFとDMFとの混合物を使用した。それ以外の条件は実施例1と同様である。
【0077】
<実施例11>
予備脱水例3の操作で得たCNFとDMFとの混合物を使用した。それ以外の条件は実施例5と同様である。
【0078】
<実施例12>
実施例1において分散剤を吸着させる処理において、使用する有機溶媒としてEGDMEに代わってイソプロピルアルコール(IPA)を使用した。
【0079】
<実施例13>
実施例5において分散剤を吸着させる処理において、使用する有機溶媒としてEGDMEに代わってイソプロピルアルコール(IPA)を使用した。
【0080】
<実施例14>
実施例8において分散剤を吸着させる処理において、使用する有機溶媒としてEGDMEに代わってイソプロピルアルコール(IPA)を使用した。
【0081】
<実施例15>
実施例9において分散剤を吸着させる処理において、使用する有機溶媒としてEGDMEに代わってイソプロピルアルコール(IPA)を使用した。
【0082】
<実施例16>
実施例10において分散剤を吸着させる処理において、使用する有機溶媒としてEGDMEに代わってイソプロピルアルコール(IPA)を使用した。
【0083】
<実施例17>
実施例11において分散剤を吸着させる処理において、使用する有機溶媒としてEGDMEに代わってイソプロピルアルコール(IPA)を使用した。
【0084】
<実施例18>
予備脱水を行わずに脱水処理と同時に分散剤の吸着を以下のように実施した。
ガラス製容器にTEMPO酸化法CNF(CNF固形分量2重量%水分散液:第一工業製薬製)を10重量部(CNF固形分は約0.2重量部)、PGME:100重量部、EGDME:100重量部を投入し、高速攪拌機を用いて30分間撹拌・混合を行った。さらに、合成例1で作製した分散剤Aを含む酢酸エチル溶液を0.69重量部(分散剤の固形分重量はCNF量に対して等量)加えて同様に高速攪拌を行った。
その後、No.2のろ紙を用いて吸引ろ過し、さらにEGDME:200重量部で繰り返し洗浄することで、ろ紙上にろ過生成物として分散剤が吸着したCNF(セルロース繊維複合物)を得た。
ろ紙上のろ過生成物と吸引ろ過後のろ液の不揮発分を測定することにより、ろ過生成物中の有機溶剤量とCNFに吸着されている分散剤の量が求められる。その結果、有機溶剤(EGDME)はろ過生成物中に約55重量%含まれており、またCNF100重量部に対して約45重量部の分散剤が吸着していることがわかった。添加した分散剤量はCNF100重量部に対して100重量部の比率であることから、添加した分散剤量の約45重量%分が吸着していることになる。
また、生成物中の水分は0.5重量%以下であった。下記の実施例19~22においても生成物中の水分は0.5重量%以下であった。
【0085】
<実施例19~22>
分散剤として合成例2~5に示した分散剤B~Eを使用して、実施例18と同様な有機溶剤量、CNFと分散剤との重量比のもと、セルロース繊維複合物を作製した。これらの条件については表1に記載する。
【0086】
〔セルロース繊維複合組成物の作製〕
実施例1~22で作製したセルロース繊維複合物(有機溶剤を含む)を用いて、そのCNF含有分を2重量部として秤量し、そこにA-TMPT:98重量部を混合し、高速撹拌機を用いてCNFを分散させた。その後、減圧脱溶剤装置を用いて含有される有機溶剤を除去した。さらに光開始剤としてイルガキュアTPO:9重量部を混合した。
以上の操作により、樹脂前駆体である多官能性アクリルモノマー中(A-TMPT:トリメチロールプロパントリアクリレート:新中村化学社製)にセルロース繊維を再分散したセルロース繊維複合組成物(樹脂前駆体分散組成物)を得た。
【0087】
〔セルロース繊維複合組成物の評価〕
上記にて得たセルロース繊維複合組成物を、ブレードコーターを用いて、離型処理ポリエチレンテレフタレートフィルムにコート後、高圧水銀光源のUV照射装置によって1000mJの積算エネルギー光量で硬化し、離型フィルムから剥離することで厚み約100μmの透明なフィルムを得た。得られたセルロース繊維分散樹脂フィルムについて、各種特性を評価した。
【0088】
<分散性>
フィルム中のセルロース繊維(CNF)の分散状態を顕微鏡や偏光顕微鏡で観察して評価した。
分散性の評価基準としては、光学500倍にて偏光下でのCNFの分散状態を評価した。全く凝集体が確認されないレベルを○、ごく一部の凝集体が確認されたものを△、多数の凝集体が観測されたものは×とした。これらの結果を、原料としたセルロース繊維複合物の各実施例番号に対応させて、表1に併記する。
【0089】
<フィルム透明性>
フィルムの透明性を目視評価した。
評価基準は透過状態で全く濁りを感じないものを○、濁りのあるものを×とした。これらの評価結果も、原料としたセルロース繊維複合物の各実施例番号に対応させて、表1に併記する。
【0090】
<力学特性>
(株)島津製作所製の引張試験機(AG-10N)によって、フィルムの引張強度を測定(S-S曲線)して引っ張り弾性率を測定した。CNFを分散していないA-TMPT単独フィルムの引っ張り弾性率は1.6GPaであり、これを基準にして20%以上向上したものは:○、20%未満~同等を:△、低下したものを:×とした。これらの評価結果も、原料としたセルロース繊維複合物の各実施例番号に対応させて、表1に併記する。
【0091】
【表1】
【0092】
〔比較実験〕
以下、本発明の優位性を確認するために比較実験を実施した。
<比較例1>
実施例18においてCNFに対して等量の分散剤を混合、分散後にろ過を実施せずに、樹脂前駆体を混合し、さらに減圧脱溶剤装置にて水と有機溶剤を除去した。水と有機溶剤の除去にはろ過法に比べて長時間を要した。さらに上記と同様に評価用のフィルムサンプルを作製して評価した。その結果、CNFの分散性とフィルムの透明性は良好であったが、力学特性は実施例に比べてやや劣るものとなった。力学特性が劣る原因として、分散剤に含有されているビニル系ホモポリマーの影響と推定した。結果を表1に記す。
【0093】
<比較例2>
比較例1においてCNFに対しての分散剤量を1/2量とした以外は同様に処理を行った。さらに上記と同様に評価用のフィルムサンプルを作製して評価した。その結果、CNFの分散性が実施例に比較してやや劣ることがわかった。また、力学特性も実施例に比べてやや劣るものとなった。力学特性が劣る原因として、分散剤に含有されているビニル系ホモポリマーやCNFの分散性低下の影響と推定した。結果を表1に記す。
【0094】
<比較例3>
比較例1において分散剤を添加せずに処理を行った。さらに上記と同様に評価用のフィルムサンプルを作製して評価した。その結果、CNFの分散性、透明性や力学特性のいずれも実施例に比べて大きく劣るものとなった。この結果は、本発明の分散剤の効果を示すものである。結果を表1に記す。
【0095】
以上の実施例と比較例から、本発明はCNFの樹脂等への分散性を向上させ、また、分散剤に含まれるビニル系ホモポリマー等を除去することで、得られたCNF分散樹脂などの組成物の物性を向上できることがわかった。さらにはCNF水分散液に含まれる水の除去を効率的に実施可能で、プロセスの低コスト化に寄与することも明らかとなった。