IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ MCPPイノベーション合同会社の特許一覧

特開2022-72709熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物、シラン架橋エチレン系重合体組成物、熱収縮性フィルム及び、熱収縮性フィルムの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072709
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物、シラン架橋エチレン系重合体組成物、熱収縮性フィルム及び、熱収縮性フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/06 20060101AFI20220510BHJP
   C08F 255/02 20060101ALI20220510BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220510BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20220510BHJP
   B29C 61/06 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
C08L51/06
C08F255/02
C08J5/18 CES
C08J3/24 A
B29C61/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020182305
(22)【出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】林 義晃
【テーマコード(参考)】
4F070
4F071
4F210
4J002
4J026
【Fターム(参考)】
4F070AA13
4F070AB11
4F070AB24
4F070AC52
4F070AC56
4F070AC67
4F070AE08
4F070AE16
4F070GA01
4F070GB03
4F070GC02
4F071AA19X
4F071AA78X
4F071AA82X
4F071AA88X
4F071AC08A
4F071AC16A
4F071AC18
4F071AE02
4F071AE02A
4F071AF05
4F071AF15Y
4F071AF61
4F071AG05
4F071AH04
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
4F210AA04
4F210AG01
4F210AH54
4F210QA01
4F210QA02
4F210QA03
4F210QC01
4F210QC05
4F210QG01
4F210QG02
4F210QG18
4F210RA03
4F210RC02
4J002BN041
4J002GG02
4J026AA12
4J026BA43
4J026BB01
4J026DB05
4J026DB15
4J026DB32
4J026DB38
4J026EA08
4J026FA09
4J026GA08
4J026GA09
(57)【要約】
【課題】熱収縮率と強度に優れた熱収縮性フィルムを可能とする熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物と、このシラン変性エチレン系重合体組成物を用いた熱収縮性フィルムを提供する。
【解決手段】水中置換法で測定される密度が880kg/m以上、905kg/m以下である熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物。この熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物を得る工程、該シラン変性エチレン系重合体組成物と架橋触媒を溶融混練した押出組成物を延伸して延伸フィルムを得る工程、及び、該延伸フィルムを架橋処理して熱収縮性フィルムを得る工程を有する熱収縮性フィルムの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物であって、水中置換法で測定される密度が880kg/m以上、905kg/m以下である熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物。
【請求項2】
前記シラン変性エチレン系重合体組成物の変性前のエチレン系重合体組成物が2種以上の直鎖状低密度ポリエチレンを含む、請求項1に記載の熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物。
【請求項3】
190℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが0.05g/10分以上、10g/10分以下である、請求項1又は2に記載の熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物。
【請求項4】
示差走査熱量計(DSC)で測定される融解ピーク温度が110℃以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物を架橋させた架橋体を含む、シラン架橋エチレン系重合体組成物。
【請求項6】
JIS K7113(1995)を参照して、3号形試験片を作製し、23℃、試験速度50mm/minで測定される成形流れ方向の引張破壊強さが15MPa以上である、請求項5に記載のシラン架橋エチレン系重合体組成物。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のシラン架橋エチレン系重合体組成物を用いた熱収縮性フィルム。
【請求項8】
熱収縮性フィルムの製造方法であって、
請求項1~4のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物を得る工程、
該シラン変性エチレン系重合体組成物と架橋触媒を溶融混練した押出組成物を延伸して延伸フィルムを得る工程、
及び、
該延伸フィルムを架橋処理して熱収縮性フィルムを得る工程
を有する熱収縮性フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記架橋触媒がシラノール縮合触媒である、請求項8に記載の熱収縮性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物、シラン架橋エチレン系重合体組成物、熱収縮性フィルム及び、熱収縮性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱収縮性の包装用フィルムとして電子線照射で架橋したエチレン系重合体よりなる多層フィルムが知られている。しかし、電子線照射での架橋は、専用の高価な設備を要し、かつ煩雑な工程が必要となる。そこで工程の簡便さから、シラン架橋されたフィルムの開発が行われおり、例えば、シラン架橋構造を有するオレフィン系樹脂を配合したフィルムが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
コンビニエンスストアやスーパー等の食品売り場に占める弁当や総菜は、ストレッチフィルムで包装されている。最近では、被包装物である弁当や総菜の種類、大きさ、形状が多種多様となり、この様な被包装物への対応のため、製袋工程では、自動包装機で製袋する際の余裕率(被包装物の大きさに対する製袋するフィルムの大きさの度合い)を大きくし、トンネル状の加熱装置を用いて加熱収縮させ、商品の形状に密着させて包装を行ったり、密封・整袋した後に製袋物内に含まれる空気を脱気するための小孔を付与したりする工夫がなされている。このような状況下、フィルムには、整袋工程での大きな余裕率に対応可能な高い熱収縮率と、包装中や輸送中に小孔や突起(折箱容器の角等)から破れることがない十分な強度に対する要求が高まっている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のフィルムは、上記した要求に対して、熱収縮率と強度の面で十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-203145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題を解決し、熱収縮率と強度に優れた熱収縮性フィルムを可能とする熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物、シラン架橋エチレン系重合体組成物、熱収縮性フィルム及び、熱収縮性フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、特定の密度のシラン変性エチレン系重合体組成物とすることで、熱収縮率と強度に優れた熱収縮性フィルムを得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0009】
[1] 熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物であって、水中置換法で測定される密度が880kg/m以上、905kg/m以下である熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物。
【0010】
[2] 前記シラン変性エチレン系重合体組成物の変性前のエチレン系重合体組成物が2種以上の直鎖状低密度ポリエチレンを含む、[1]に記載の熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物。
【0011】
[3] 190℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが0.05g/10分以上、10g/10分以下である、[1]又は[2]に記載の熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物。
【0012】
[4] 示差走査熱量計(DSC)で測定される融解ピーク温度が110℃以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物。
【0013】
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物を架橋させた架橋体を含む、シラン架橋エチレン系重合体組成物。
【0014】
[6] JIS K7113(1995)を参照して、3号形試験片を作製し、23℃、試験速度50mm/minで測定される成形流れ方向の引張破壊強さが15MPa以上である、[5]に記載のシラン架橋エチレン系重合体組成物。
【0015】
[7] [5]又は[6]に記載のシラン架橋エチレン系重合体組成物を用いた熱収縮性フィルム。
【0016】
[8] 熱収縮性フィルムの製造方法であって、[1]~[4]のいずれかに記載の熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物を得る工程、該シラン変性エチレン系重合体組成物と架橋触媒を溶融混練した押出組成物を延伸して延伸フィルムを得る工程、及び、該延伸フィルムを架橋処理して熱収縮性フィルムを得る工程を有する熱収縮性フィルムの製造方法。
【0017】
[9] 前記架橋触媒がシラノール縮合触媒である、[8]に記載の熱収縮性フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、熱収縮率と強度に優れた熱収縮性フィルムを可能とする熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物、シラン架橋エチレン系重合体組成物、熱収縮性フィルム及び、熱収縮性フィルムの製造方法を提供することができる。
本発明の熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物は、従来熱収縮性フィルムが使用されている用途への展開が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
なお、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0020】
また、一般的に「フィルム」とは、長さおよび幅に比べて厚みが極めて小さく、最大厚みが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいう(日本工業規格JIS K6900)。また、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、一般にその厚みが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう。しかし、フィルムとシートの境界は定かでない。本明細書においては両者を同一の意味を有する用語として用い、両者を統一して「フィルム」と記す。
【0021】
本発明において、「シラン変性エチレン系重合体組成物」は、シラン変性されたエチレン系重合体の1種又は2種以上を含み、また、シラン変性エチレン系重合体だけでなく、シラン変性されていないエチレン系重合体をも含み得るものであり、更にはエチレン系重合体組成物のシラン変性に用いた不飽和シラン化合物の未反応残留物やラジカル発生剤をも含み得ることから「組成物」と呼称するが、一般的には、「シラン変性エチレン系重合体」とも称されるものである。
また、後述の「エチレン系重合体組成物」についても、1種のエチレン系重合体よりなるものと2種以上のエチレン系重合体よりなるものの総称として「組成物」と呼称するが、一般的には、「エチレン系重合体」とも称されるものである。
【0022】
[熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物]
本発明の熱収縮性フィルム用シラン変性エチレン系重合体組成物(以下、「本発明のシラン変性エチレン系重合体組成物」と称す場合がある。)は、水中置換法で測定される密度が880kg/m以上、905kg/m以下であることを特徴とする。
シラン変性エチレン系重合体組成物の密度が上記上限値を超えると、架橋により得られるシラン架橋エチレン系重合体組成物や熱収縮性フィルムに適用した場合の剛性が高くなってしまい、例えば、使用時の形状自由度が損なわれる。シラン変性エチレン系重合体組成物の密度が上記下限値未満であると、熱収縮性フィルムに適用した場合の熱収縮率が低下する他、フィルム強度が低下し、孔開きや破れを生ずる恐れがある。上記した観点から、シラン変性エチレン系重合体組成物の密度の下限は、885kg/m以上であることが好ましく、上限は903kg/m以下であることが好ましい。
なお、本発明のシラン変性エチレン系重合体組成物の密度は、具体的には、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0023】
<メカニズム>
本発明のシラン変性エチレン系重合体組成物により、熱収縮率と強度に優れた熱収縮性フィルムが得られるメカニズムは以下のとおり推定される。
シラン変性エチレン系重合体組成物において、シリル基は、主として、シラン変性エチレン系重合体組成物を構成するエチレン系重合体の非晶部にグラフト重合されて存在する。この非晶部に存在するシリル基同士が架橋反応して得られる三次元ネットワーク構造により、フィルムとして高い熱収縮率を示す。そのため、非晶部が多い程この特性を発現しやすい傾向にある。シラン変性エチレン系重合体組成物の密度は、シラン変性エチレン系重合体組成物に存在する非晶部の量と相関があり、シラン変性エチレン系重合体組成物の密度が小さいほど、非晶部の量が多く、フィルムとして高い熱収縮率を示す傾向がある。一方で、密度が小さくなっていくと、柔軟性が高まるにつれ、応力緩和の影響が表れ、熱収縮率が低くなる。そこで、シラン変性エチレン系重合体組成物の密度を880kg/m以上、905kg/m以下とすることで、フィルム成形した場合の熱収縮率に優れたフィルムを得ることができる。また、この密度領域のシラン変性エチレン系重合体組成物を可能とする変性前のエチレン系重合体組成物は、強度にも優れるので、熱収縮性フィルムに高強度をもたらす。
【0024】
<シラン変性エチレン系重合体組成物>
本発明のシラン変性エチレン系重合体組成物は、2種以上のシラン変性エチレン系重合体をブレンドしたものや、シラン変性エチレン系重合体とシラン変性されていないエチレン系重合体とをブレンドしたものであってもよい。
好適には、エチレン系重合体組成物を不飽和シラン化合物によりグラフト変性したもので、後述のエチレン系重合体組成物に、加水分解可能な有機基を有するオレフィン性不飽和シラン化合物をラジカル発生剤の存在下に共重合させることによって得ることができる。この反応において、不飽和シラン化合物は、エチレン系重合体組成物に含まれるエチレン単独重合体やエチレン・α-オレフィン共重合体が相互に架橋する架橋点となるよう、それぞれの重合体にグラフト化されるものである。
【0025】
<エチレン系重合体組成物>
シラン変性エチレン系重合体の原料として用いることができるエチレン系重合体としては、エチレン単独重合体、エチレン単位とエチレン単位以外のα-オレフィン単位やα-オレフィン以外の単量体単位との共重合体が挙げられる。エチレン・α-オレフィン共重合体は、エチレンと以下に述べる1種類のα-オレフィンとの共重合体であってもよく、エチレンと2種類以上のα-オレフィンを組合わせた共重合体であってもよい。
【0026】
α-オレフィンとしては、通常、炭素数3~20のα-オレフィンが挙げられ、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、6-メチル-1-ヘプテンなどが挙げられるが、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンが好ましい。
【0027】
エチレン系共重合体のエチレン単位の含有率は、通常エチレン系共重合体全体に対して、51~99.9質量%である。エチレン系共重合体の場合、エチレン単位以外のα-オレフィン単位及びα-オレフィン以外の単量体単位の含有率は、同様の理由から、エチレン系共重合体全体に対して、合計で0.1~49質量%である。
【0028】
エチレン系共重合体が、エチレン・α-オレフィン共重合体である場合、共重合体を構成する構成単位として、1種又は2種以上のα-オレフィン2~45質量%と、エチレン55~98質量%とを共重合させたものが好ましい。この範囲よりもエチレンが多くα-オレフィンが少ないと十分な柔軟性を得ることが困難になる傾向があり、この範囲よりもエチレンが少なく、α-オレフィンが多いと融点が低くなり、耐熱性が低下する傾向にある。
【0029】
エチレン系共重合体としては、耐熱性と強度のバランスに優れる等の観点から、直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。直鎖状低密度ポリエチレンのなかでも、エチレン・炭素数3~20のα-オレフィン共重合体が好ましい。これらの直鎖状低密度ポリエチレンは、1種を単独で用いてもよいが、2種以上選択することが好ましい。
これらの中でも、エチレン単独重合体とエチレン・炭素数3~8のα-オレフィン共重合体を含むエチレン系重合体組成物、エチレン・1-オクテン共重合体とエチレン・1-ヘキセン共重合体を含むエチレン系重合体組成物、エチレン・1-オクテン共重合体とエチレン・1-ブテン共重合体を含むエチレン系重合体組成物、エチレン・1-オクテン共重合体とエチレン・プロピレン共重合体を含むエチレン系重合体組成物がより好ましい。
【0030】
エチレン単独重合体とエチレン・炭素数3~8のα-オレフィン共重合体を含むエチレン系重合体組成物において、エチレン単独重合体とエチレン・α-オレフィン共重合体の割合は、上記したシラン変性エチレン系重合体組成物の密度を満たすよう配合すればよく、特に限定されないが、透明性が求められるフィルム用途では、エチレン系重合体組成物の主な材料を任意のエチレン・α-オレフィン共重合体で構成することが好ましい。
【0031】
なお、エチレン系重合体の製造方法は、各種公知の方法で製造することができ、特に限定されない。例えば、使用する触媒の種類としては、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系触媒が挙げられる。エチレンとα-オレフィンを重合させる際に用いる触媒としては、好適な密度範囲のエチレン系共重合体を製造し易いことから、チーグラ-ナッタ系触媒が好ましい。メタロセン系触媒を用いて得られるエチレン・α-オレフィン共重合体は、通常密度の低い重合体が主体であるため、所望の範囲の密度を得るために密度の高いエチレン系重合体と適宜混合して用いるのがよい。
【0032】
エチレン系重合体の密度は、本発明のシラン変性エチレン系重合体組成物の密度を880kg/m以上、905kg/m以下に制御する観点から、880kg/m以上、965kg/m以下のものを単独もしくは2種以上組み合わせて用いるのが好ましく、890kg/m以上、960kg/m以下のものを単独もしくは2種以上組み合わせて用いるのが好ましい。
ただし、2種以上のエチレン系重合体を組み合わせて用いる場合、個々のエチレン系重合体の密度は上記好適範囲から外れていても、混合物としての密度が上記好適範囲内となるものであれば、同様に好ましく用いることができる。
【0033】
エチレン系重合体の密度は、主にエチレンと共重合する他のα-オレフィンの導入量によって調整することができる。
エチレン系重合体の密度を上記数値の範囲内とすることで、得られる熱収縮性フィルムの強度や耐熱性を良好に保持できる。また、適度な剛性を付与することができ、フィルム使用時の形状自由度を担保できる。
なお、エチレン系重合体の密度は、本発明のシラン変性エチレン系重合体組成物の密度と同様の方法で測定されるが、市販品であればカタログ値を用いることができる。
【0034】
エチレン系重合体の190℃、2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)は、0.1g/10分以上、10g/10分以下であることが好ましく、0.5g/10分以上、7g/10分以下であることがより好ましい。
密度と同様、2種以上のエチレン系重合体を組み合わせて用いる場合、個々のエチレン系重合体のMFRは上記好適範囲から外れていても、混合物としてのMFRが上記好適範囲内となるものであれば、同様に好ましく用いることができる。
【0035】
エチレン系重合体のMFRを上記数値の範囲内とすることで、シラン変性時の粘度が高くなりすぎることを抑制でき、シラン変性時の押出特性を良好に維持できる。また、得られるシラン変性エチレン系重合体組成物のMFRの大幅な低下を抑制できることから、フィルム成形時の圧力上昇やドローダウンの発生を抑制でき、例えばトルク異常や、表面性が悪化するメルトフラクチャーの発生等、押出成形性の悪化を抑制できる。
【0036】
本発明において、エチレン系重合体は市販品を用いることができる。エチレン単独重合体としては、例えば、日本ポリエチレン社製「ノバテック(登録商標)LD」シリーズが挙げられる。エチレン・α-オレフィン共重合体としては、例えば、日本ポリエチレン社製「ノバテック(登録商標)LL」シリーズ、「ハーモレックス(登録商標)」シリーズ、三井化学社製「タフマー(登録商標)」シリーズ、ダウケミカル社製「エンゲージ(登録商標)」シリーズ、「INFUSE(登録商標)」シリーズ、SABIC社製「QAMAR」シリーズが挙げられる。
【0037】
<シラン変性>
本発明のシラン変性エチレン系重合体組成物は、上述した原料となるエチレン系重合体組成物にアルコキシシランをグラフト導入してシラン変性することにより製造することができる。
シラン変性は、公知の手法に従って行うことができ、特に限定されない。例えば、溶液変性、溶融変性、電子線や電離放射線の照射による固相変性、超臨界流体中での変性等が好適に用いられる。これらの中でも、設備やコスト競争力に優れた溶融変性が好ましく、連続生産性に優れた押出機を用いた溶融混練変性がさらに好ましい。溶融混練変性に用いられる装置としては、例えば単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサーが挙げられる。これらの中でも連続生産性に優れた単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機が好ましい。
【0038】
一般に、エチレン系重合体へのアルコキシシランのグラフト導入は、ポリオレフィンの炭素-水素結合を開裂させて炭素ラジカルを発生させ、これに不飽和官能基が付加する、といったグラフト重合反応によって行うことができる。炭素ラジカルの発生源としては、上述した電子線や電離放射線の他、高温度とする方法や、有機、無機過酸化物等のラジカル発生剤を用いることで行うこともできる。コストや操作性の観点からは、有機過酸化物を用いることが好ましい。
【0039】
エチレン系重合体組成物のシラン変性に好適に用いられる加水分解可能な有機基を有するオレフィン性不飽和シラン化合物としては、下記一般式(1)で表されるシラン化合物が挙げられる。
RSiR’3-n (1)
(式(1)中、Rは1価のオレフィン性不飽和炭化水素基を示し、Yは加水分解し得る有機基を示し、R’は脂肪族不飽和炭化水素以外の1価の炭化水素基あるいはYと同じものを示し、nは0、1又は2を示す。)
【0040】
一般式(1)において、Rはビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基等が好ましく、R’はメチル基、エチル基、プロピル基、デシル基、フェニル基等が好ましく、Yはメトキシ基、エトキシ基、ホルミルオキシ基、アセトキシ基、プロピオノキシ基、アルキルないしアリールアミノ基が好ましい。
【0041】
また、より好ましい不飽和シラン化合物としては、例えば、下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
CH=CHSi(OA) (2)
(式(2)中、Aは炭素数1~8の1価の炭化水素基を示す。)
【0042】
上記一般式(2)で表される不飽和シラン化合物としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが挙げられる。
【0043】
不飽和シラン化合物としてはまた、下記一般式(3)で表される化合物も好ましく用いることができる。
CH=C(CH)COOCSi(OA) (3)
(式(3)中、Aは式(2)におけると同義である。)
【0044】
上記一般式(3)で表される不飽和シラン化合物としては、例えばγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0045】
これらの中で、不飽和シラン化合物としてはビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0046】
これらの不飽和シラン化合物は1種を単独で用いても、2種以上を任意の組合せで併用してもよい。
【0047】
グラフト変性に用いる不飽和シラン化合物の添加率は、シラン変性に供するエチレン系重合体組成物の全質量を基準にして、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.7質量%以上であり、通常15質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、更に好ましくは4質量%以下である。不飽和シラン化合物の添加率を上記数値範囲とすることで、シラン変性エチレン系重合体組成物において、高い熱収縮率及び材料強度を得るために必要な所望のシラン導入率を得やすくなる傾向がある。ここで、不飽和シラン化合物の添加率は、シラン変性エチレン系重合体組成物における不飽和シラン化合物に由来する単位と同じ意味をもつものである。
【0048】
グラフト変性時に使用されるラジカル発生剤としては、重合開始作用の強い種々の有機過酸化物及びパーエステル、例えば、ジクミルパーオキサイド、α,α′-ビス(t-ブチルパーオキシジイソプロピル)ベンゼン、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-ベンゾイルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシピバレート、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートが挙げられる。これらの中で、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイドが好ましい。これらのラジカル発生剤は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組合せで併用してもよい。
【0049】
ラジカル発生剤の添加率は、得られるシラン変性エチレン系重合体組成物のMFRが最終的に以下のMFRの範囲になるよう調整するのが望ましく、得られるシラン変性エチレン系重合体組成物の全質量を基準にして、通常0.005質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上であり、通常0.5質量%以下、好ましくは0.4質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下である。ラジカル発生剤の添加率を上記数値範囲とすることで、シラン変性エチレン系重合体組成物における所望のシラン導入率を得やすくなる傾向があると同時に、シラン変性エチレン系重合体組成物のMFRの低下を抑制し、押出加工性を損なわず、成形表面の状態を良好に維持しやすい傾向がある。
【0050】
<MFR>
本発明のシラン変性エチレン系重合体組成物の190℃、2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)は0.05g/10分以上、10g/10分以下であることが好ましく、0.1g/10分以上、8g/10分以下であることがより好ましい。
シラン変性エチレン系重合体組成物のMFRが上記数値範囲であることで、フィルム成形時の圧力上昇やドローダウンの発生を抑制でき、例えばトルク異常や、表面性が悪化するメルトフラクチャーの発生等、押出成形性の悪化を抑制できる。
【0051】
<融解ピーク温度>
本発明のシラン変性エチレン系重合体組成物は、示差走査熱量計(DSC)で測定される融解のピーク温度(以下「融解ピーク温度」と称す場合がある。)が110℃以上であることが好ましい。シラン変性エチレン系重合体組成物の融解ピーク温度が110℃以上であると高温でも結晶により形状を保持可能である。この観点から、シラン変性エチレン系重合体組成物の融解ピーク温度は115℃以上であることがより好ましい。ただし、シラン変性エチレン系重合体組成物の融解ピーク温度が過度に高いと、成形昇温時の未溶融のブツや成形冷却時の早期結晶化により外観不良となる恐れがあることから、シラン変性エチレン系重合体組成物の融解ピーク温度は通常135℃以下であることが好ましい。
なお、シラン変性エチレン系重合体組成物の融解ピーク温度は、具体的には、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0052】
[シラン架橋エチレン系重合体組成物]
本発明のシラン変性エチレン系重合体組成物を架橋処理することにより、該シラン変性エチレン系重合体組成物を架橋させた架橋体を含む、本発明のシラン架橋エチレン系重合体組成物を得ることができる。
本発明のシラン架橋エチレン系重合体組成物を得るための本発明のシラン変性エチレン系重合体組成物の架橋処理の方法については、後掲の[熱収縮性フィルムの製造方法]の項において説明する。
【0053】
本発明のシラン架橋エチレン系重合体組成物は、JIS K7113(1995)を参照して、23℃、試験速度50mm/minで測定される成形流れ方向の引張破壊強さが15MPa以上であることが、得られる熱収縮性フィルムのフィルム強度の観点から好ましい。シラン架橋エチレン系重合体組成物の引張破壊強さを上記下限以上とすることで、包装時及び包装後の輸送や保管を含めて種々の外的負荷(裂け、突き破れ等)に対応可能なフィルム強度を得ることができる。
【0054】
シラン架橋エチレン系重合体組成物の引張破壊強さを上記下限以上とするための工夫としては、架橋処理に供するシラン変性エチレン系重合体組成物の製造において、以下のような方法が挙げられる。
(1) 材料の観点では、シラン変性に供するエチレン系重合体として材料強度に優れる直鎖状低密度ポリエチレンを選択し、エチレン系重合体組成物の配合比率及びシラン変性時の不飽和シラン化合物とラジカル発生剤の種類と添加量を適宜調整するのが好適である。
(2) 製造方法の観点では、シラン変性に供するエチレン系重合体組成物に適切に不飽和シラン化合物がグラフト反応するように温度設定した押出機へ投入して溶融混練し、溶融混練物を紐状に押し出し、冷却後カッティングして、シラン変性エチレン系重合体組成物を得るのが好ましい。
【0055】
なお、シラン架橋エチレン系重合体組成物の引張破壊強さは、具体的には、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0056】
[熱収縮性フィルム]
本発明の熱収縮性フィルムは、本発明のシラン架橋エチレン系重合体組成物を用いて得られる。
【0057】
<ゲル分率>
本発明の熱収縮性フィルムのゲル分率、即ち、本発明の熱収縮性フィルムを構成する本発明のシラン架橋エチレン系重合体組成物のゲル分率は55質量%以上85質量%以下であることが好ましい。熱収縮性フィルムに含有されるゲル分は、シラン架橋エチレン系重合体組成物に含まれる架橋体に由来するものである。
ゲル分率は、シラン変性エチレン系重合体組成物の不飽和シラン化合物のグラフト率(変性量)、後述の架橋反応の架橋触媒として用いるシラノール縮合触媒の種類と配合量、架橋させる際の条件(温度、時間)等を変えることにより調整することができる。
【0058】
ゲル分率は一般的に架橋ポリエチレン管の規格であるJIS K6769や、暖房用ポリエチレン管の規格であるJXPA401にて規定されている。ここで、ゲル分率は、樹脂の架橋度を示す指標となるものであり、ゲル分率が大きければ架橋度が高く、逆にゲル分率が小さければ架橋度は低いと言える。
【0059】
熱収縮性フィルムのゲル分率の下限を55質量%以上とすることで、耐熱性、機械強度の低下を抑制できる。この観点から、本発明の熱収縮性フィルムのゲル分率はより好ましくは60質量%以上、更に好ましくは65質量%以上である。一方、ゲル分率の上限を85質量%以下とすることで、熱収縮性フィルムの熱収縮率の低下を抑制できる。この観点から本発明の熱収縮性フィルムのゲル分率の上限はより好ましくは83質量%以下、更に好ましくは81質量%以下である。
【0060】
JIS K6769やJXPA401にて規定されているゲル分率測定方法は、実際の成形加工を実施した後、成形体の状態で架橋処理を実施し、成形体を切削したサンプルを用いて測定されるが、本発明においては簡便のため、次の方法によりシラン架橋エチレン系重合体組成物のゲル分率を測定し、これを熱収縮性フィルムのゲル分率とする。
【0061】
<シラン架橋エチレン系重合体組成物のゲル分率の測定方法>
シラン変性エチレン系重合体組成物にジオクチル錫ジラウレートを0.05質量%添加(実際にはMFR:3.5g/10分、密度898kg/mの直鎖状低密度ポリエチレンにジオクチル錫ジラウレートを1質量%添加したマスターバッチを添加)し、溶融混練後、210℃にて0.5mm厚みに押出したフィルムを80℃温水中、24時間架橋処理して得られるシラン架橋エチレン系重合体組成物のサンプルを用い、1mm四方に裁断したサンプル約0.5g(試料重量をG1(g)とする)を200メッシュの金網中で、キシレン中、120℃で8時間還流した後、金網上に残った沸騰キシレン不溶分を10Torrの真空中において80℃で8時間乾燥させてその重量を精量し(精量した沸騰キシレン不溶分の重量をG2(g)とする)、下記式(4)により求める。
ゲル分率(%)=G2(g)÷G1(g)×100 (4)
【0062】
<厚み>
本発明の熱収縮性フィルムの厚みは、要求性能、例えば用途、最終製品の形状、要求される物性等に応じて、任意に設定することができ、特に限定されない。例えば食品包装用や工業製品包装用、電子部材のフィルムとして用いる場合の熱収縮性フィルムの総厚みは1~500μmが好ましく、より好ましくは2~800μm、更に好ましくは3~700μmである。
また、本発明の熱収縮性フィルムは厚みなどによってはシートとして使用することも可能である。
【0063】
[熱収縮性フィルムの製造方法]
本発明の熱収縮性フィルムの製造方法には、従来公知の種々の手法を採用することができ、その方法は特に限定されないが、エチレン系重合体組成物をシラン変性することにより本発明のシラン変性エチレン系重合体組成物を得る工程、本発明のシラン変性エチレン系重合体組成物と架橋触媒を溶融混練した押出組成物を延伸して延伸フィルム(以下、「本発明の延伸フィルム」と称す場合がある。)を得る工程、及び、得られた延伸フィルムを架橋処理して熱収縮性フィルムを得る工程を経て製造されることが好ましい。
【0064】
すなわち、本発明の熱収縮性フィルムは、本発明のシラン変性エチレン系共重合体組成物を架橋触媒の存在下に架橋反応させてなるシラン架橋体を含有するものであり、通常、本発明のシラン変性エチレン系共重合体組成物と架橋触媒とを含む原料を押出機に円筒状のダイスまたはTダイを設置した成形機で溶融混練し押出組成物を延伸して延伸フィルムを成形した後、架橋処理することで製造される。
【0065】
<延伸フィルムを得る工程>
本発明の延伸フィルムを得る工程の一例を説明する。
この工程としては、例えば、本発明のシラン変性エチレン系重合体組成物と架橋触媒を押出機で溶融混練させた溶融樹脂組成物をダイスに供給して成形するインフレーションフィルム成形、T-ダイフィルム成形等で得られた未延伸のフィルムを冷却固化後、インライン又はアウトラインで60~160℃の延伸温度まで再加熱し、テンター及び圧縮空気等を用い一軸方向、或いは二軸方向に少なくとも面積比で1.5倍以上延伸を行い、一軸又は二軸延伸成形した延伸フィルムを得る方法が挙げられる。これらは同時延伸であっても、逐次延伸であってもよい。インフレーションフィルムの場合、インフレーション同時二軸延伸法、ロール及びテンターを用いる場合、逐次二軸延伸法等が一般的に用いられている。
【0066】
本発明の熱収縮性フィルムは、熱収縮性と強度に優れることから単層で用いることが好適であるが、積層された多層フィルムでも良い。この場合、例えば、三枚の成形されたフィルムを貼合わせる方法でも押出ラミネートする方法でも、また、コーティングする方法でもよいが、特に複数の押出機と多層ダイスを用いたインフレーション成形法あるいはTダイ成形法等による共押出し法が最適である。
【0067】
<架橋処理工程>
延伸フィルムを架橋処理して熱収縮性フィルムを得る工程の一例を説明する。
前記した延伸フィルムを得る工程で成形された本発明の延伸フィルムは架橋処理される。この架橋処理は例えば、フィルムをロール状に巻き取った状態で、高温高湿下、例えば温水又は水蒸気の存在下で行ってもよい。
【0068】
本発明の延伸フィルムを架橋処理して熱収縮性フィルムを得る工程では、本発明のシラン変性エチレン系重合体組成物の押出成形体を延伸することによりシラン変性エチレン系重合体を配向結晶化させた後に、その非晶部を架橋し三次元ネットワーク構造を形成させる。このように延伸後に架橋処理を行うことが、より大きな熱収縮率を持つフィルムを得る観点から好ましい。
【0069】
<架橋触媒>
シラン変性エチレン系重合体組成物の架橋反応に用いる架橋触媒としては、シラノール縮合触媒が好ましく使用される。以下、シラノール触媒について詳述する。
【0070】
シラノール縮合触媒としては、例えば、ジブチル錫ジラウレート、酢酸第一錫、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクトエート、ジオクチル錫ジラウレート等の錫触媒;ナフテン酸鉛、ステアリン酸鉛等の鉛触媒;カプリル酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛等の亜鉛触媒;ナフテン酸コバルト等のコバルト触媒、チタン酸テトラブチルエステル等のチタン触媒;ステアリン酸カドミウム等のカドミウム触媒;ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム等のアルカリ土類金属触媒等の有機金属触媒が挙げられる。これらの中で錫触媒が好ましい。これらのシラノール縮合触媒は1種を単独で用いても、2種以上を任意の組合せで併用してもよい。
【0071】
シラノール縮合触媒の添加率は、シラノール縮合触媒を添加するシラン変性エチレン系重合体組成物の全質量を基準として、通常0.01質量%以上、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、通常5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。シラノール縮合触媒の添加率を上記数値範囲とすることで、十分な架橋反応を進めることができる。
【0072】
なお、シラノール縮合触媒は、一般的にマスターバッチ形式で添加することが簡便である。シラノール縮合触媒のマスターバッチは、例えば、シラノール縮合触媒をエチレン単独重合体(ポリエチレン)やエチレン・α-オレフィン共重合体等のポリオレフィンの1種又は2種以上に添加して混練することにより製造することができる。
【0073】
シラノール縮合触媒を、ポリオレフィンにシラノール縮合触媒を配合したマスターバッチとして用いる場合、マスターバッチ中のシラノール縮合触媒の含有率には特に制限は無いが、通常0.1~5.0質量%程度とすることが好ましい。
【0074】
シラノール縮合触媒含有マスターバッチには、必要に応じて、混和可能な他の熱可塑性樹脂や、安定剤、滑材、充填剤、着色剤、発泡剤、その他の補助資材を添加することができる。これらの添加剤は、それ自体既知の通常用いられるものであればよい。また、第3成分として、シラノール縮合触媒と共にこれらの添加剤を、本発明のシラン変性エチレン系重合体組成物に添加することも可能である。
【0075】
<架橋反応の条件>
シラノール縮合触媒による架橋反応は、通常、シラン変性エチレン系重合体組成物にシラノール縮合触媒を配合した組成物を押出成形、射出成形、プレス成形等の各種成形方法により成形した後、水雰囲気中に曝すことにより、シラノール基間の架橋反応を進行させて行われるので特別な架橋設備を必要としない。水雰囲気中に曝す方法は、各種の条件を採用することができ、水分を含む空気中に放置する方法、水蒸気を含む空気を送風する方法、水浴中に浸漬する方法、温水を霧状に散水させる方法等が挙げられる。
【0076】
この架橋反応では、本発明のシラン変性エチレン系重合体組成物が有する不飽和シラン化合物由来の加水分解可能なアルコキシ基がシラノール縮合触媒の存在下、水と反応して加水分解することによりシラノール基が生成し、更にシラノール基同士が脱水縮合することにより、反応が進行し、シラン変性エチレン系重合体組成物中のシラン変性エチレン系重合体同士が結合してシラン架橋体を生成する。
【0077】
架橋反応の進行速度は水雰囲気中に曝す条件によって決まるが、通常20~130℃の温度範囲、かつ10分~1週間の範囲で曝せばよい。好ましい条件は、20~130℃の温度範囲、1時間~160時間の範囲である。水分を含む空気を使用する場合、相対湿度は1~100%の範囲から選択される。
【0078】
[用途]
本発明の熱収縮フィルムの用途は、食品、医療品、電子部材、建築材料等の包装用熱収縮フィルムとしての用途が好ましい。また、それ以外の用途としても、本発明の熱収縮フィルムの特性や機能を使った様々な熱収縮包装分野において非常に有用である。
【実施例0079】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と、下記実施例の値または実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0080】
[使用原料]
以下の製造例では、エチレン系重合体として以下のものを用いた。
【0081】
<直鎖状低密度ポリエチレン>
PE1:ダウケミカル社製 エンゲージ(登録商標) 8200
エチレン・1-オクテン共重合体
MFR(190℃、2.16kg):5.0g/10分
密度:870kg/m
PE2:ダウケミカル社製 エンゲージ(登録商標) 8180
エチレン・1-オクテン共重合体
MFR(190℃、2.16kg):0.5g/10分
密度:863kg/m
PE3:日本ポリエチレン社製 ハーモレックス(登録商標) NF464N
エチレン・1-ヘキセン共重合体
MFR(190℃、2.16kg):2.0g/10分
密度:918kg/m
PE4:SABIC社製 QAMAR FD18N
エチレン・1-ブテン共重合体
MFR(190℃、2.16kg):2.0g/10分
密度:920kg/m
【0082】
[製造例1]
PE1:ダウケミカル社製 エンゲージ(登録商標) 8200(エチレン・1-オクテン共重合体)と、PE3:日本ポリエチレン社製 ハーモレックス(登録商標) NF464N(エチレン・1-ヘキセン共重合体)を40:60の質量割合で混合して変性前組成物1とした。
【0083】
この変性前組成物1の100質量部に対してジ-t-ブチルパーオキサイド(表-1中、「Pox」と記載)0.04質量部とビニルトリメトキシシラン(表-1中、「Si」と記載)2質量部とを添加、混合した後、単軸押出機PMS50-32(1V)(D=50mmφ、L/D=32、IKG(株)製)を用いて、温度220℃、スクリュー回転数60rpm、押出量20kg/hで溶融混練した。その後、溶融混練物を紐状に押し出し、冷却後カッティングし、シラン変性エチレン系重合体組成物1を得た。
得られたシラン変性エチレン系重合体組成物1のMFR、密度、融解ピーク温度を以下の方法で測定した。結果を表-1に示す。
【0084】
<MFR>
JIS K7210(1999)に準拠して、190℃、2.16kg荷重にて測定した。
【0085】
<密度>
JIS K7112(1999)A法に準拠して、徐冷プレスにて成形した厚さ2mm、長さ40mm、幅15mmの試験片を用い、水中置換法にて測定した。
【0086】
<融解ピーク温度>
日立ハイテクサイエンス社製の示差走査熱量計、商品名「DSC6220」を用いて、JIS K7121(2010)に準じて、試料約5mgを加熱速度10℃/分で20℃から200℃まで昇温し、200℃で3分間保持した後、冷却速度10℃/分で-10℃まで降温し、その後、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温した時に測定されたサーモグラムから融解ピーク温度を算出した。
【0087】
また、シラン変性エチレン系重合体組成物1を架橋処理したシラン架橋エチレン系重合体組成物1について、前述の方法でゲル分率を測定すると共に、以下の方法で引張破壊強さを測定し、結果を表-1に示した。
【0088】
<引張破壊強さ>
シラン変性エチレン系重合体組成物1の100質量部に対して、シラノール縮合触媒マスターバッチ(1質量%スズ触媒(ジオクチル錫ジラウレート)含有直鎖状低密度ポリエチレン(MFR:2g/10分、密度:920kg/m)マスターバッチ)5質量部をドライブレンドし、20mm単軸押出機を備えたシート成形機に供給し、ダイス温度220℃、ライン速度2m/minで厚み1mmのフィルムを得た。
得られたフィルムを80℃の温水中に24時間浸漬させ架橋処理を行った後、JIS K7113(1995)に準拠して、3号形試験片を作製し、23℃、試験速度50mm/minで成形流れ方向に引張破壊強さを測定した。
【0089】
[製造例2~3]
表-1に示す変性前組成物の配合とした以外は製造例1と同様にしてシラン変性エチレン系重合体組成物2、シラン変性エチレン系重合体組成物3を得た。得られたシラン変性エチレン系重合体組成物について、製造例1と同様に測定を行った。測定結果を表-1に示す。
また、得られたシラン変性エチレン系重合体組成物2,3から製造例1と同様にしてシラン架橋エチレン系重合体組成物2,3を得た。得られたシラン架橋エチレン系重合体組成物について、製造例1と同様に測定を行った。測定結果を表-1に示す。
【0090】
[実施例1]
シラン変性エチレン系重合体組成物1の100質量部に対して、シラノール縮合触媒マスターバッチ(1質量%スズ触媒(ジオクチル錫ジラウレート)含有直鎖状低密度ポリエチレン(MFR:3.5g/10分、密度:898kg/m)マスターバッチ)5質量部をドライブレンドし、20mm単軸押出機を備えたTダイフィルム成形機に供給し、ダイス温度220℃、ライン速度2m/minで厚み660μmの未架橋フィルムを作製した。得られた未架橋フィルムを、アイランド工業社二軸延伸装置にて、成形流れ方向に槽内温度設定80℃、延伸速度1.8m/minで1軸2倍に延伸し、厚み600μmの延伸フィルムを作製した。この延伸フィルムを恒温恒湿器にて85℃、85%RHの環境下で16時間静置して架橋処理を行い、熱収縮性フィルム1を得た。
【0091】
[実施例2]
実施例1においてシラン変性エチレン系重合体組成物1の代りに、シラン変性エチレン系重合体組成物2を用いたこと以外は、実施例1と同様に未架橋フィルムを作製し、同様に1軸方向に2倍延伸して延伸フィルムを作製し、同様に架橋処理して熱収縮性フィルム2を得た。
【0092】
[比較例1]
実施例1においてシラン変性エチレン系重合体組成物1の代りに、シラン変性エチレン系重合体組成物3を用いたこと以外は、実施例1と同様に未架橋フィルムを作製し、同様に1軸方向に2倍延伸して延伸フィルムを作製し、同様に架橋処理して熱収縮性フィルム3を得た。
【0093】
熱収縮性フィルム1~3の熱収縮率を以下の方法で評価した。結果を表-1に示す。
【0094】
<熱収縮率>
得られた熱収縮性フィルムを長さ3cm、幅3cmに切出し、120℃のギアオーブンに1時間静置した後の成形流れ方向のフィルム長さを測定し、下記式(5)で熱収縮率を算出した。
熱収縮率(%)=
(収縮前長さ(L0)-収縮後長さ(L1))/収縮前長さ(L0)×100 (5)
【0095】
【表1】
【0096】
以上の結果から、本発明によれば、熱収縮性と強度に優れた熱収縮性フィルムを提供できることが分かる。本発明の熱収縮性フィルムは、単層で製膜が可能であり、特別な架橋設備を必要としないことから、実用上非常に有利である。