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特開2022-72743水溶液の製造装置、電解槽ユニットおよび製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072743
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】水溶液の製造装置、電解槽ユニットおよび製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/02 20210101AFI20220510BHJP
   C25B 1/26 20060101ALI20220510BHJP
   C02F 1/461 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
C25B15/02 302
C25B1/26 C
C02F1/461 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020182357
(22)【出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】509266789
【氏名又は名称】株式会社微酸研
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】特許業務法人エム・アイ・ピー
(72)【発明者】
【氏名】土井 豊彦
(72)【発明者】
【氏名】福島 太門
(72)【発明者】
【氏名】江畑 朋治
【テーマコード(参考)】
4D061
4K021
【Fターム(参考)】
4D061DA01
4D061DA04
4D061DB10
4D061EA02
4D061EB01
4D061EB04
4D061EB14
4D061EB17
4D061EB20
4D061EB31
4D061EB37
4D061EB39
4D061ED13
4D061ED20
4D061FA20
4D061GA12
4D061GC02
4D061GC14
4D061GC20
4K021AB07
4K021BA03
4K021BA05
4K021BB05
4K021BC01
4K021CA12
4K021DC07
(57)【要約】
【課題】 電解槽を効果的に冷却し、電極および電解槽の寿命の適正化を図るとともに、目標の性状の範囲内の水溶液を正常な電解動作で安定的に生成することが可能な製造装置を提供すること。
【解決手段】 水溶液の製造装置は、電解槽と、電解槽内に設けられた複数の電極と、電解槽内でそれぞれ電極間に形成される1以上の単位セルと、電解槽に原料溶液を供給する溶液供給路とを備える。製造装置は、また、原料溶液とは独立して、1以上の単位セル各々に冷却水を供給する給水路と、1以上の単位セルから、原料溶液の電解により生成された電解液を排出する排出口と、複数の電極間に電流を流す電源装置とを備える。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解槽と、
前記電解槽内に設けられた複数の電極と、
前記電解槽内でそれぞれ電極間に形成される1以上の単位セルと、
前記電解槽に原料溶液を供給する溶液供給路と、
前記原料溶液とは独立して、前記1以上の単位セル各々に冷却水を供給する給水路と、
前記1以上の単位セルから、前記原料溶液の電解により生成された電解液を排出する排出口と、
前記複数の電極間に電流を流す電源装置と、
を備える、水溶液の製造装置。
【請求項2】
前記溶液供給路に接続される溶液供給ポンプと、
前記給水路に接続され、前記溶液供給ポンプとは非同期で動作する給水ポンプと
をさらに備える、請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】
前記給水ポンプは、前記冷却水を間欠的にまたは連続・定量で供給することを特徴とし、前記製造装置は、
前記電源装置による電流の測定値に基づいて前記溶液供給ポンプの動作を制御する制御装置
をさらに備える、請求項2に記載の製造装置。
【請求項4】
前記制御装置は、電解中の期間であって、かつ、電解開始時から始まる前記電源装置による電流の測定値に基づいて前記電源装置の電圧を昇圧する段階を除く期間内に、前記給水ポンプに対し前記冷却水の供給を行うよう制御することを特徴とする、請求項3に記載の製造装置。
【請求項5】
前記給水ポンプは、前記給水路を介して、単位セル当たり750秒以下の平均滞留時間となる流量で冷却水を供給することを特徴とする、請求項2~4のいずれか1項に記載の製造装置。
【請求項6】
前記排出口が、前記単位セル毎に1つ設けられているか、または、
前記排出口が、前記単位セル毎に複数設けられており、かつ、前記製造装置が、前記1以上の単位セルの前記排出口からの電解液を集合させるための共通排出流路および集合された電解液を排出する共通排出口を前記電解槽にさらに備える、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造装置。
【請求項7】
前記給水路は、前記1以上の単位セル各々の入口まで前記溶液供給路と独立して前記冷却水を供給するか、または、前記1以上の単位セル各々の入口の前段まで前記溶液供給路とは独立し、かつ、前記前段で前記溶液供給路と一部流路を共通する、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造装置。
【請求項8】
前記電解槽の外側に前記電解槽を囲むように設けられ、前記電解槽に連通し、前記電解槽から排出される前記電解液を原水で希釈するとともに、前記原水により前記電解槽を冷却する希釈槽と、
前記希釈槽から希釈水溶液を取り出すための取出口と
をさらに備える、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造装置。
【請求項9】
電解槽と、
前記電解槽内に設けられた複数の電極と、
前記電解槽内でそれぞれ電極間に形成される1以上の単位セルと、
前記電解槽に原料溶液を供給する溶液供給路と、
前記原料溶液とは独立して、前記1以上の単位セル各々に冷却水を供給するための給水路と、
前記1以上の単位セルから、前記原料溶液の電解により生成された電解液を排出する排出口と
を備える、電解槽ユニット。
【請求項10】
前記給水路および前記溶液供給路は、それぞれ、互いに非同期で動作する給水ポンプおよび溶液供給ポンプに接続される、請求項9に記載の電解槽ユニット。
【請求項11】
溶液供給路を介して、原料溶液を、電解槽内に設けられた1以上の単位セル各々にを供給する工程と、
前記電解槽内に設けられた複数の電極間に電流を流し、各単位セルに供給される原料溶液を電解して、電解液を生成する工程と、
前記原料溶液とは独立して、前記1以上の単位セル各々に給水路を介して冷却水を供給する工程と、
前記1以上の単位セル各々から、前記電解液を排出する工程と、
排出された電解液を原水で希釈する工程と
を含む、水溶液の製造方法。
【請求項12】
前記冷却水を供給する工程は、
前記溶液供給路を介した原料溶液の供給を行う原料ポンプとは非同期で制御される給水ポンプで行われることを特徴とする、請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水溶液の製造装置、電解槽ユニットおよび製造方法に関する。本開示は、より詳細には、塩素イオンを含有する溶液を電解することによって水溶液を製造するための製造装置、該水溶液を製造するために用いられる電解槽ユニット、および、該水溶液を製造するための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩素イオンを含有する溶液、例えば塩酸単独や、塩酸と塩化ナトリウムまたは塩化カリウムとの混合溶液を、所定の条件で電気分解し、希釈して、遊離次亜塩素酸を含む水溶液を生成する技術が知られている。この生成される水溶液は、遊離次亜塩素酸が殺菌成分としてはたらき、幅広い微生物などに対して殺菌効果を示すため、広い分野で利用されている。上述した遊離次亜塩素酸を含む水溶液の中でも、塩酸または塩酸に塩化ナトリウム水溶液を加えて調整した水溶液を原料として生成される微酸性次亜塩素酸水は、食品添加物の殺菌用にも指定されており、多くの優れた特徴を備えていることが知られている。
【0003】
多くの優れた特徴を備えるため、微酸性次亜塩素酸水の利用分野は、極めて広範囲にわたっており、食品加工分野(牛乳・乳製品、飲料、酒類、菓子、惣菜、水産加工、農畜産加工など)、医療介護分野、スポーツやレジャー遊戯施設、農水産分野(水稲栽培、果樹園芸、野菜栽培工場、畜産養鶏、水産養殖等)、さらに、一般家庭の衛生管理などにおいても、安全で効果的な殺菌剤として利用されている。
【0004】
微酸性次亜塩素酸水は、塩酸など塩素イオン含有溶液を無隔膜電解槽で電解し、得られた電解液を水で希釈することによって生成される。この微酸性次亜塩素酸水の生成技術において、求められる点としては、製造装置の安定した電解動作、所定範囲内の有効塩素濃度およびpHの微酸性次亜塩素酸水の安定した生成、電極および電解槽の寿命を挙げることができる。
【0005】
しかしながら、特定分野の使用現場で、高濃度の有効塩素が求められる場合があり、使用者が装置に負荷をかけ継続的にストレスを与えるケースが多くなってきた。そのため、従来の電解設計では十分対応できない場面が発生している。
【0006】
例えば、これまで、原水の水質や使用状況などに依存した特定の条件下において、正常ではない電解による動作不安や、有効塩素濃度およびpHの目標範囲からの逸脱、電極および電解槽の寿命の短縮といった不具合が発生する場合があった。
【0007】
上述した電極や電解槽の寿命に影響する物理的条件の1つとしては、電解によって発生する熱がある。電極の周辺の温度上昇を極力抑制することが電極寿命に好適である。
【0008】
発熱による電極に関連して、特開2019-198820号公報(特許文献1)が知られている。特許文献1は、電解生成された水素や発生する熱に起因した電極の劣化を防止するとともに、水素を安全に排出することが可能な水溶液の製造方法を提供することを目的とした技術を開示する。特許文献1の従来技術は、混合室内で塩素イオン含有溶液に気体を混和する工程を含む、少なくとも遊離次亜塩素酸が含まれる水溶液の製造方法を開示する。混入した気体により、電解槽内の溶液の撹拌効果が得られ、また、一部の液体が気泡内に気化することによる気化熱で、電解槽内部が冷却されるという効果が得られ、これにより、電極で発生した熱が吸収され、電極の温度上昇を抑えるというものである。また、上述した特許文献1を含む従来技術では、内槽および外槽からなる二重殻構造電解槽を用いて、外槽に貯留された原水により、電気分解が行われる内槽を冷却することが行われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来技術でも、二重殻構造電解槽における外槽を流れる原水により、電解槽内部を一定程度冷却することができる。上述した不具合について、発明者等が、鋭意検討した結果、二重殻構造電解槽における外槽の原水による冷却では、特定条件下では電解槽の中心部分の冷却が十分ではない場合があり、内部温度の上昇に起因して、正常ではない電解による動作不安および電極あるいは電解槽の寿命の短縮といった不具合を発生させ得ることを突き止めた。また、外槽と連通させている排出口から原水を各単位セル内へ一部逆流させることで、内部温度を下げ、高温状態が緩和されるように設計されていた。しかしながら、特定条件下で規定の性状を継続・安定させることにつき改善すべき課題が残っていた。発明者等はこの問題点を突き止め、安定させるための方法を解明した。
【0010】
本開示は、上記点に鑑みてなされたものであり、電解槽を効果的に冷却し、電極および電解槽の寿命の適正化を図るとともに、目標の性状の範囲内の水溶液を正常な電解動作で安定的に生成することが可能な製造装置、電解槽ユニットおよび製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、鋭意検討した結果、原料溶液とは独立して、電解槽の各単位セル内へ冷却水を供給する経路を設けることにより、中心部分を含め電解槽内部を効率的に冷却することが可能となり、目標の性状の範囲内の水溶液を正常な電解動作で安定的に生成することが可能となるとともに、電極および電解槽の短寿命化の防止を図ることができることを見出し、本発明に至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明では、上記課題を解決するために、下記特徴を有する、水溶液の製造装置が提供される。製造装置は、電解槽と、電解槽内に設けられた複数の電極と、電解槽内でそれぞれ電極間に形成される1以上の単位セルとを備える。製造装置は、また、電解槽に原料溶液を供給する溶液供給路と、1以上の単位セルから、原料溶液の電解により生成された電解液を排出する排出口と、複数の電極間に電流を流す電源装置とを備える。製造装置は、さらに、上記原料溶液とは独立して、1以上の単位セル各々に冷却水を供給する給水路を備える。
【0013】
好ましい実施形態では、製造装置は、溶液供給路に接続される溶液供給ポンプと、給水路に接続され、溶液供給ポンプとは非同期で動作する給水ポンプとをさらに備える。さらに好ましい実施形態では、給水ポンプは、冷却水を間欠的にまたは連続・定量で供給することを特徴とし、製造装置は、電源装置による電流の測定値に基づいて溶液供給ポンプの動作を制御する制御装置をさらに備える。また、制御装置は、電解中であって、かつ、電解開始時から始まる電源装置による電流の測定値に基づいて電源装置の電圧を昇圧する段階を除く期間に、給水ポンプに対し冷却水の供給を行わせることができる。給水ポンプは、好ましくは、溶液供給路を介して、単位セル当たり750秒以下の平均滞留時間となる流量で冷却水を供給することができる。
【0014】
特定の実施形態では、排出口は、単位セル毎に1つ設けられていてよい。他の特定の実施形態では、排出口は、単位セル毎に複数設けられており、かつ、製造装置は、1以上の単位セルの排出口からの電解液を集合させるための共通排出流路および集合された電解液を排出する共通排出口を電解槽にさらに備えていてもよい。また、特定の実施形態では、給水路は、1以上の単位セル各々の入口まで溶液供給路と独立して冷却水を供給してもよく、あるいは、1以上の単位セル各々の入口の前段まで溶液供給路とは独立し、かつ、前段で溶液供給路と一部流路を共通してもよい。
【0015】
好ましい実施形態では、製造装置は、電解槽の外側に電解槽を囲むように設けられ、電解槽に連通し、電解槽から排出される電解液を原水で希釈するとともに、原水により電解槽を冷却する希釈槽と、希釈槽から希釈水溶液を取り出すための取出口とをさらに備えてもよい。
【0016】
また、特定の実施形態では、複数の電極は、それぞれ板状であり、電解槽は、複数の電極が平行に配置され、両最外側の2枚の電極には給電結線され、両最外側の給電結線された2枚の電極の間に少なくとも1枚の非給電結線の電極が、それぞれ平行に配置された複極式電解槽であり、単位セルそれぞれに原料溶液が供給され、各単位セルそれぞれから、電解液が排出されてもよい。
【0017】
特定の実施形態では、複数の電極は、チタン、またはチタンを含む合金を含む基材を含み、原料溶液は、塩化水素、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムからなる群から選択された1または複数の物質が溶解した塩素イオン含有溶液であることを特徴とする。
【0018】
さらに、本発明の実施形態によれば、下記特徴を有する、電解槽ユニットを提供することができる。電解槽ユニットは、電解槽と、電解槽内に設けられた複数の電極と、電解槽内でそれぞれ電極間に形成される1以上の単位セルと、1以上の単位セル各々に原料溶液を供給するための溶液供給路と、原料溶液とは独立して、1以上の単位セル各々に冷却水を供給するための給水路と、1以上の単位セル各々に設けられ、供給された原料溶液の電解により生成された電解液を排出するための排出口とを備える。好ましい実施形態では、給水路および溶液供給路は、それぞれ、互いに非同期で動作する給水ポンプおよび溶液供給ポンプに接続されてもよい。
【0019】
また、本発明の実施形態によれば、さらに、下記特徴を有する、水溶液の製造方法を提供することができる。製造方法は、溶液供給路を介して、原料溶液を、電解槽内に設けられた1以上の単位セル各々に供給する工程を含む。製造方法は、さらに、電解槽内に設けられた複数の電極間に電流を流し、各単位セルに供給される原料溶液を電解して、電解液を生成する工程を含む。製造方法は、また、原料溶液とは独立して、1以上の単位セル各々に給水路を介して冷却水を供給する工程を含む。製造方法は、各単位セルから、電解液を排出する工程と、排出された電解液を原水で希釈する工程とを含む。
【0020】
好ましい実施形態では、冷却水を供給する工程は、溶液供給路を介した原料溶液の供給を行う原料ポンプとは非同期で制御される給水ポンプで行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
上記構成により、電解槽を効果的に冷却し、電極および電解槽の寿命の適正化を図るとともに、目標の性状の範囲内の水溶液を正常な電解動作で安定的に生成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態のよる微酸性次亜塩素酸水製造装置の全体構成図。
図2】本実施形態による二重殻構造電解槽の詳細な構造を示す断面図である。
図3】本実施形態による二重殻構造電解槽の上面図。
図4】本実施形態による電解槽ユニットの外槽への取り付け方を説明する図。
図5】本実施形態による電解槽ユニットの斜視図。
図6】微酸性次亜塩素酸水の製造方法の実施形態を示すフローチャート。
図7】特定の実施形態において実行される電解開始時の馴化処理を示すフローチャート。
図8】好ましい実施形態によるポンプ動作を示すチャート。
図9】矩形電解槽の電解液およびガスの排出口で測定された温度変化を示すグラフ。
図10】安定運転中の電解を停止した後の再始動時の電流値の時間変化を示すグラフ。
図11】連続運転中の電解を停止した後の再始動時の有効塩素濃度およびpHの時間変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明について実施形態をもって説明するが、本発明は、これらの図面に示される特定の実施形態に限定されるものではない。
【0024】
図1は、本実施形態による、微酸性次亜塩素酸水を生成するための製造装置(以下、単に製造装置として参照する。)50の全体構成図である。
【0025】
図1に示す製造装置50は、二重殻構造電解槽40を含んで構成され、二重殻構造電解槽40は、内槽20と、該内槽20の外側に設けられ、該内槽20を囲むように構成された外槽32とを含み構成される。
【0026】
内槽20は、原料溶液の電気分解により次亜塩素酸を含有する電解液を生成するための電解槽としてはたらく。内槽20内で生成された比較的高濃度の次亜塩素酸を含有する電解液は、内槽20の天井に設けられた開口28から、内槽20の外側にある外槽32内の空間へと排出される。
【0027】
外槽32は、内槽20に開口28を介して連通しており、生成された電解液を希釈するための希釈槽としてはたらく。外槽32内には、生成された電解液を希釈すると共に内槽20を冷却するための水(以下、原水として参照する)が満たされている。外槽32には、原水供給口33が設けられており、原水供給口33から供給される原水34は、外槽32内に浸漬された内槽20を冷却しながら電解液を希釈する。また、外槽32の上部は、外槽蓋部39により密閉されており、外槽蓋部39には、外槽32から希釈水溶液を取り出すための取出口35が設けられる。そして、希釈された電解液は、所定範囲の有効塩素濃度および所定範囲のpHとされて、取出口35から、微酸性次亜塩素酸水36として、二重殻構造電解槽40の外部に排出される。
【0028】
ここで、微酸性次亜塩素酸水とは、次亜塩素酸水(塩酸または塩化ナトリウム水溶液を電解することにより得られる次亜塩素酸を主成分とする水溶液)の一種であって、塩酸および必要に応じ塩化ナトリウム水溶液を加え適切な濃度に調整した原料溶液を無隔膜電解槽内で電解して得られた水溶液をいう。なお、微酸性次亜塩素酸水の有効塩素濃度の範囲は、10~80mg/Lであり、pHの範囲は、5.0~6.5とされている。
【0029】
原料溶液は、原料タンク1に貯留されており、外槽32を密閉する外槽蓋部39には、原料供給口30が設けられている。原料溶液は、原料溶液供給ポンプ3を使用して、原料供給管2を経由して、原料供給口30から、その内部の内槽20に供給される。本実施形態において、原料溶液の主たる成分は、塩化水素溶液である。特定の実施形態において、原料溶液は、所望の塩酸濃度で原料タンク1に貯留され、そのまま二重殻構造電解槽40に供給され得る。他の特定の実施形態においては、原料溶液は、所定濃度で原料タンク1に貯留され、原水によって所望の塩酸濃度に希釈された上で、二重殻構造電解槽40に供給され得る。以下、原料タンク1から原料供給管2を経て内槽20の内部(より具体的には内槽20内の単位セルであり、詳細は後述する。)へ原料溶液を供給する経路全体およびその一部を参照して、溶液供給路という。
【0030】
本実施形態による製造装置50では、さらに、原料溶液とは独立して、水源から内槽20の内部(より具体的には内槽20内の単位セルであり、詳細は後述する。)へ冷却水4を供給する経路が設けられている。外槽蓋部39には、冷却水供給口37が設けられている。冷却水4は、水道栓や貯水タンクなどを水源とし、給水ポンプ6を使用して、給水配管5を経由して、冷却水供給口37から、その内部の内槽20に供給される。以下、水源から給水配管5を経て内槽20の内部(より具体的には内槽20内の単位セルであり、詳細は後述する。)へ冷却水を供給する経路全体およびその一部を参照して、給水路という。
【0031】
図1に示す製造装置50は、さらに、電源装置41と、電流計測部42と、制御装置43とを含んで構成される。外槽蓋部39には、2つの給電端子29が設けられる。電源装置41は、外槽蓋部39に設けられた2つの給電端子29に電気的に接続されており、二重殻構造電解槽40内部の内槽20の複数の電極間に直流電流を流す。2つの給電端子29間を流れる電流の値は、電流計測部42によって測定される。電流計測部42で測定された電流値は、制御装置43に与えられる。
【0032】
制御装置43は、電流の測定値に基づいて、原料溶液供給ポンプ3の動作を制御しており、内槽20への原料溶液の供給を管理する。例えば、制御装置43にあらかじめ電流の測定値の範囲を設定しておき、電流の測定値が範囲の下限値を下回る場合には、原料溶液供給ポンプ3を動作させて原料の供給を開始させる。また、電流の測定値が範囲の上限値を上回る場合には、原料溶液供給ポンプ3を停止し、原料の供給を停止する。
【0033】
また、制御装置43は、2つの給電端子29間に印加する電圧も制御しており、特定の実施形態においては、電解開始時に電流の測定値に基づいて電圧を調整するモード(以下、馴化モードといい、馴化モードで行われる工程・処理を馴化ないし馴化処理と参照する。)を含んでもよい。馴化モードでは、制御装置43は、初期電圧から、電流の測定値が目標値に到達するまで電圧の昇圧を試みる。制御装置43は、また、電流の測定値が目標値に到達すると、上述した通常の動作と同じように電流の上限値および下限値に基づいて原料溶液供給ポンプ3の作動と停止を繰り返しながら、所定のレートで電圧を通常の設定電圧(塩素発生に適した電圧)まで下降させる。なお、設定最大電圧に達しても電流の測定値が目標値に到達することができなかった場合は、そのまま原料溶液供給ポンプ3の作動を開始する。この馴化モードにより、電極や内槽20の劣化が見られ始めた状態でも、電解開始時に正常な電流を確保し易くすることができる。
【0034】
原料溶液を二重殻構造電解槽40に供給する前に原水によって希釈する実施形態では、制御装置43は、原料溶液供給ポンプ3に同期させて、図示しない希釈ポンプを制御し、原料溶液に原水を混合させて、希釈された原料溶液を原料供給口30から供給するような構成としてもよい。
【0035】
本実施形態による制御装置43は、さらに、原料溶液供給ポンプ3とは非同期に給水ポンプ6を制御し、冷却水4を内槽20に供給する。給水ポンプ6は、好ましい実施形態においては、冷却水4を間欠的にまたは連続・定量で、内槽20の内部(より具体的には内槽20内の単位セルであり、詳細は後述する。)に供給することができる。また、制御装置43は、原水34の供給するポンプとも非同期に給水ポンプ6を制御し、冷却水4を内槽20に供給することが好ましい。
【0036】
なお、図1中では、内槽20内部の構造が省略されているが、これらについては、図2図5を参照しながら後述する。なお、図1に示す内槽20を含むユニットを、以下、本実施形態における電解槽ユニット60と参照する。
【0037】
以下、図2図5を参照しながら、本実施形態による製造装置50における電解槽ユニット60(内槽20)について、より詳細に説明する。
【0038】
図2(A)および図2(B)は、本実施形態による二重殻構造電解槽40の内槽20の内部を含めた構造を示す断面図である。図3は、本実施形態による二重殻構造電解槽40の上面図である。図2(A)は、図3に示す矢印Aから見た場合のA矢視を示し、図2(B)は、図3に示す矢印Bから見た場合のB矢視を示す。なお、図2(A)および図2(B)は、内槽20に備えられる電極の電極面に対し垂直な切断面での内槽20の断面図を示している。また、図3には、円筒形状の外槽32内に収容される矩形内槽20の輪郭が破線で示されている。
【0039】
図2(A)および図2(B)に示すように、電解槽である内槽20内には、互いに面を対向させて平行に複数の電極24が設けられる。両最外側にある2枚の電極24には、給電結線され、図1に示した電源装置41から給電端子29を介して電解電流が供給されており、複数の板状電極が平行に設けられた複極式の無隔膜電解槽を形成する。
【0040】
両最外側にある給電結線された2枚の電極の間に少なくとも1枚の非給電結線の電極板がそれぞれ平行に配置される。そのように構成し、両最外側の板状電極に直流電流を印加することにより、複数の板状電極24のうちの給電結線されていない中間の板状電極は、全て、片面が陽極、反対面が陰極として作用し、これらの間に単位セル31が構成される。なお、電極24は、説明する実施形態では、平板電極であるものとするが、電極24は、平行とされ、均一な電界を形成することができる限り平板に限定されるわけではなく、平行曲面を形成する形状とされていても良い。
【0041】
電極24は、電極基材を含む。電極基材としては、チタン、またはチタンを含む合金を含む材料を挙げることができる。電極基材の陽極面は、酸化イリジウム、ルテニウムやオスミウムの酸化物、白金被膜などが形成されていてもよい。また、電極24は、バインダーとして微量のタンタルを含んでいてもよい。電極基材の陰極面は、無処理で電極基材そのものであってもよいし、白金族の金属を含む物質の被覆を有していてもよい。しかしながら、電極および内槽20の製造コストおよび保守コストを削減する観点からは、白金族の金属を含む物質の被覆を省略することができる。
【0042】
内槽20は、平行等間隔に配設された複数の電極24を固定するために、底部20bおよび天井部20aとともに、電極24の周囲端面全体を電極端面に密着して囲繞する絶縁性の枠構造を形成する。内槽20は、電極24の側端を保持しており、さらに、電解液を原水から隔離している。なお、内槽20は、特に限定されるものではないが、典型的には、塩化ビニルなどの樹脂を用いて形成される。
【0043】
説明する実施形態において、隣り合う電極2枚、内槽20の壁面、天井部20aおよび底部20bの枠構造で囲繞された各直方体空間が構成され、内槽20内でそれぞれ隣り合う2枚の電極24間に各単位セル31が形成される。図2は、説明の便宜上、電極4枚に対して3つの単位セル31が形成されたものを例示するが、電極の枚数およびそれに伴う単位セル数は、4および3に限定されるものではなく、任意の電極枚数(n)およびそれに応じたセル数(n-1)であってよい。例えば、特定の実装では、電極5枚で直列接続された4セルが構成されてもよいし、他の特定の実装では、10枚9セルや12枚11セルなど生産能力に合わせて任意に構成することができる。
【0044】
単位セル当たりに印加する電圧は、塩素の発生効率を高め、かつ、副生成物が発生することによる品質低下を防止する観点から、好ましくは0.5V以上、6.0V以下、より好ましくは、1.5V以上、5.0V以下とすることができる。電流密度は、単位面積当たりの電解量の減少や装置の大型化を防止し、かつ、電極の消耗を抑制する観点から、好ましくは0.05mA/mm以上、1.2mA/mm以下、より好ましくは0.2mA/mm以上、1.00mA/mm以下、さらに好ましくは、0.7mA/mm以上、0.95mA/mm以下とすることができる。電極間隔は、電気分解の際に発生した気泡を分離しやすくし、かつ、電力効率の悪化を防止する観点からは、好ましくは0.5mm以上、10mm以下とすることができ、より好ましくは、1mm以上、8mm以下である。
【0045】
枠構造の底部20bには、それぞれ配管を接続するための2つの接続部30c,37cが設けられている。第1の接続部30cは、底部20b内部の流路に配管を接続するためのものである。電解槽ユニット60(内槽20)は、一端が、底部20bの第1の接続部30cに接続され、他端が、外槽蓋部39に設けられる原料供給口30aに接続され、原料溶液を二重殻構造電解槽40外部から内槽20内部に供給するための第1の配管30bを備える。第2の接続部37cは、同じく底部20b内部の流路に配管を接続するためのものであり、電解槽ユニット60は、一端が、底部20bの第2の接続部37cに接続され、他端が、外槽蓋部39に設けられる冷却水供給口37aに接続され、冷却水を二重殻構造電解槽40外部から内槽20内部に供給するための第2の配管37bを備える。なお、安全性を向上するため、接続部30c,37cの(通常の流れからみて)上流に、単位セル31からの液流れを阻止する方向に、逆止弁が設けれれてもよい。
【0046】
枠構造の底部20bには、内部構造として、第1の接続部30cに接続される第1の内部流路30dと、第1の内部流路30dと連通し、内槽20の各直方体空間において、原料溶液を個別に供給するための個別原料供給路30eとが設けられる。枠構造の底部20bには、内部構造としてさらに、第2の接続部37cに接続される第2の内部流路37dと、第2の内部流路37dと連通し、内槽20の各直方体空間において、冷却水を個別に供給するための個別冷却水供給路37eとが設けられる。
【0047】
第1の配管30b、第1の接続部30c、第1の内部流路30dおよび単位セル毎の個別原料供給路30eが、電解槽ユニット60が備える、1以上の単位セル31各々に原料溶液を供給する溶液供給路を構成する。同様に、第2の配管37b、第2の接続部37c、第2の内部流路37dおよび単位セル毎の個別冷却水供給路37eが、電解槽ユニット60が備える、原料溶液とは独立して、1以上の単位セル31各々に冷却水を供給する給水路を構成する。
【0048】
好ましい実施形態では、冷却水を供給する給水路は、図2に例示されるように、各単位セル31の入口(各個別冷却水供給路37eの単位セル31側の開口)まで、上述した溶液供給路とは独立して設けられることが好ましい。これは、原料溶液と完全に独立に冷却水を単位セル内に供給することが可能となり、制御上の利点があるためである。
【0049】
しかしながら、この好ましい実施形態に限定されるものではなく、冷却水を供給する給水路が、単位セル31各々の入口の前段まで溶液供給路とは独立し、かつ、入口の前段で溶液供給路と一部流路を共通する、部分的に独立した形態を採用することを妨げるものではない。例えば、第2の接続部37cに接続される第2の内部流路37dが、第1の接続部30cに接続される第1の内部流路30dと連通していてもよいし、内部流路30d,37dおよび単位セル31への個別流路30e,37eが共通していてもよい。一方で、一部で流路が共通する場合は、原料溶液供給ポンプ3が停止し、給水ポンプ6のみ稼働する期間においても、共通する流路内に残留した原料溶液が冷却水の供給とともに単位セル31内に押し出されることになる。
【0050】
本開示において、原料溶液と独立して1以上の単位セル31各々に冷却水を供給するとは、原料溶液供給ポンプ3が停止している期間において、給水ポンプ6が稼働した場合に、冷却水が優勢的に単位セル31内に供給されることをいう。すなわち、溶液供給路および給水路で共通する流路部分は、この共通流路の体積(残留原料溶液が押し出され得る体積の最大値)が、給水ポンプ6の平均流量(オン期間およびオフ期間で均した流量)で2~12秒の平均滞留時間(冷却水の流入により共通流路内がすべて冷却水で入れ替わるまでに要する時間)となるような体積であることを条件として許容される。
【0051】
なお、個別原料供給路30eおよび個別冷却水供給路37eの径は、特に制限されるものではなく、その数も単位セルあたり1つでも複数でもよいが、一般的には、それぞれ、総開口面積で電極の有効片面面積の所定割合となるように数およびサイズを設定することができる。
【0052】
枠構造の天井部20aには、電解により生成された電解液を排出するための個別電解液排出口26が単位セル31毎に設けられる。個別電解液排出口26も、その径および数は、特に限定されるものではないが、所定条件によっては、個別電解液排出口26の単位セルあたりの数は、単一とした方が好ましい。個別電解液排出口26には、排出口各々からの電解液の排出を均一化するための構造(電解液集合・排出構造)を備えることができる。上述した個別電解液排出口26の個数に関する所定条件は、電解液集合・排出構造に関連するものであり、個別電解液排出口26は、電解液集合・排出構造を設けない場合は、単位セル毎に1つ設けられていることが好ましく、その場合、単位セル毎の個別電解液排出口26がそのまま外槽に連通する開口28となる。
【0053】
また、個別電解液排出口26が、単位セル毎に複数設けられている場合は、排出口26各々からの電解液の排出を均一化するための電解液集合・排出構造を備えることが好ましい。なお、図2に示す実施形態は、電解液集合・排出構造28aが備えられた場合を示しており、電解液集合・排出構造28aは、個別電解液排出口26からの電解液を集合させるための共通排出流路28bおよび集合された電解液を排出する開口(共通排出口)28を備える。個別電解液排出口26が複数ある場合、ある排出口を介して電解液が外槽32へ排出される一方で、別の排出口から外槽32の原水が逆流し易くなり、この原水の逆流が最終的に得られる微酸性次亜塩素酸水36の性状に影響を与える虞があるため、この原水の逆流を制御するためである。電解液集合・排出構造28aを設けることにより、個別電解液排出口26が複数ある場合であっても、この外槽32から内槽20への原水の逆流を好適に低減することができる。
【0054】
また、1以上の単位セル31に供給される冷却水の量は、充分な冷却を行う観点から、好ましくは、単位セル当たり、200~750秒の平均滞留時間(冷却水の流入により単位セル内がすべて冷却水で入れ替わるまでに要する時間)、好ましくは、600秒以下の平均滞留時間、より好ましくは、550秒以下の平均滞留時間となる平均流量とすることができる。なお、上述した冷却水の量の範囲は、再始動時から所定の性状の電解水を安定に生成し、かつ、高温状態での電極の劣化を防止する観点から、好ましい範囲を示すものであり、この範囲に限定されるものではない。平均滞留時間で3000秒程度など少しでも冷却水の供給が行われれば、電極の劣化に関し一定程度の効果が期待され、また、硬度などの条件によっては、200秒未満の平均滞留時間であってもよい可能性がある。したがって、条件が許す限り、任意の平均滞留時間で冷却水を供給することができる。
【0055】
なお、単位時間に単位セルの単位容積当たりに供給される純塩化水素ミリモル数(塩化水素供給量)は、電力の損失による電力効率の低下を防止し、かつ、塩素の変換率の低下を防止する観点からは、好ましくは0.0006mMol/hmm以上、0.013mMol/hmm以下、より好ましくは0.0013mMol/hmm以上、0.0063mMol/hmm以下とすることができる。
【0056】
各単位セル31に個別原料供給路30eを介して供給された原料溶液は、単位セル31中を鉛直上方向に移動する間に電解され、単位セル31それぞれを通過してきた電解液が個別電解液排出口26から排出される。原料に含まれる塩素イオンは、各単位セル31を通過する間に電解され、最終的に次亜塩素酸HOClと少量の塩化水素HClに変化する。
【0057】
電解液集合・排出構造28aが備えられた実施形態では、複数の個別電解液排出口26は、その上部に形成され、開口28に接続する共通排出流路28bと連通しており、間隙を通過してきた電解液を開口28から排出する。電解液は、この共通排出流路28bを通して個別電解液排出口26よりも大面積で内槽20に形成された開口28から外槽32内の原水を流通させる部分に排出される。これに対して、電解液集合・排出構造28aが備えられない実施形態では、複数の個別電解液排出口26は、間隙を通過してきた電解液をそのまま外槽32内の原水を流通させる部分に排出する。
【0058】
電解液は、開口28を経て外槽32内に排出され、そこを流下する原水に混合される。電解液は、外槽32内で原水により希釈された後、取出口35から微酸性次亜塩素酸水36として排出される。
【0059】
上述した複極式電極は、電極の構造を単純化しながら、陽極および陰極で適切な電気分解特性を提供することを可能とし、電解効率を改善し、微酸性次亜塩素酸水の生成効率を向上させることができるという利点がある。
【0060】
図4は、本実施形態による電解槽ユニット60の外槽32への取り付け方を説明する図である。図5は、本実施形態による電解槽ユニット60の斜視図である。なお、図5(A)と図5(B)とは、AおよびBの矢印の配置で示されるように、視線の方向が異なる。図4および図5に示すように、電解槽ユニット60は、内槽20と、内槽20の上面に取り付けられた2つの給電配線29aと、それぞれ接続部30c,37cを介して内槽20に接続される配管30b,37bとを含み構成される。電解槽ユニット60は、図4に示すように、外槽32の上部開口から外槽32内に嵌め込まれ、各端子や供給口を備えた外槽蓋部39が被せられ、密閉される。
【0061】
以下、図6を参照しながら、上述した実施形態による二重殻構造電解槽40を用いて微酸性次亜塩素酸水を製造する製造方法について説明する。なお、図6に示す制御は、馴化を行わない場合に対応する。図6(A)は、原料溶液供給ポンプ3側の制御フローを示し、図6(B)は、原料溶液供給ポンプ3とは非同期で行われる給水ポンプ6側の制御フローを示す。
【0062】
図6に示す製造方法は、工程S100から開始され、工程S101では、制御装置43は、原水の給水栓を開く。工程S102では、制御装置43は、電源装置を通電し、電極間に電解電流の印加を開始する。
【0063】
工程S103では、制御装置43は、ポンプ始動条件を満たすか否かを判定する。例えば、制御装置43は、電流計測部42によって測定された電流の測定値を読み取り、電流の測定値があらかじめ設定された下限値未満であるか否かを判定することにより、ポンプ始動条件を満たすか否かを判定することができる。工程S103で、例えば下限値を上回り、ポンプ始動条件を満たさないと判定された場合(NO)は、工程S103をループさせる。一方、工程S103で、例えば下限値未満であり、ポンプ始動条件を満たすと判定された場合(YES)は、工程S104へ制御が進められる。工程S104では、制御装置43は、原料溶液供給ポンプ3および必要に応じて希釈ポンプ(事前に原料溶液を希釈する場合)を始動し、原料溶液の供給を開始する。
【0064】
工程S105では、制御装置43は、ポンプ停止条件を満たすか否かを判定し、満たすまで(NOの間)待ち受ける。例えば、制御装置43は、電流計測部42によって測定された電流の測定値を読み取り、測定値があらかじめ設定された上限値を超えるか否かを判定することにより、ポンプ停止条件を満たすか否かを判定することができる。工程S105で、例えば設定された上限値を超えることにより、ポンプ停止条件を満たすと判定された場合(YES)は、工程S106へ制御が進められる。工程S106では、制御装置43は、原料溶液供給ポンプ3および必要に応じて希釈ポンプ(事前に原料溶液を希釈する場合)を停止し、原料溶液の供給を停止し、工程S103へ戻す。
【0065】
電解液に注目して説明すると、上述した原料溶液供給ポンプ3の動作により、以下の処理が行われる。ポンプ動作により、内槽20内に面を対向して設けられた複数の電極24間の単位セル31に原料溶液が供給される。原料溶液が単位セル31を通過している間に、複数の電極24間に電流が印加されていることに応じて、電極24の陽極面で原料中の塩素イオンが電解酸化されるとともに、陰極面で水素ガスが発生する。電解生成された水素ガスが混合された電解液は、電極24間の単位セル31から排出されて、外槽32内で希釈水により希釈される。余分な気体を分離しながら、生成された微酸性次亜塩素酸水36が取出口35を介して二重殻構造電解槽40から排出される。
【0066】
また、原料溶液供給ポンプ3とは非同期に動作する給水ポンプ6側では、図6(B)に示す工程S200~工程S203の制御が行われる。
【0067】
工程S201では、制御装置43は、冷却水の給水条件を満たすか否かを判定する。ここで、冷却水の給水条件は、まず電解中であることを条件とすることができる。また、上述したように、電解開始時に馴化処理が行われる場合があり、馴化処理では、電流の測定値が低いときに、より電解しやすい状態となるように印加電圧を上昇させる電圧上昇期間がある。一方で、冷却水を供給は、単位セル31の空間を冷却するとともに、単位セル31内の原料溶液を希釈し、導電率を下げる副作用も生じさせる。このため、馴化昇圧中は、より電流を流れに難くする副作用を生じさせる冷却水の供給を行うことが望ましくない。そのため、上記冷却水の給水条件は、馴化昇圧中ではないことを条件とすることが好ましい。すなわち、制御装置43は、電解中であって、かつ、電解開始時から始まる電源装置41による電流の測定値に基づいて電源装置41の電圧を昇圧する段階(馴化昇圧中)以外の期間に、給水ポンプ6に対し冷却水の供給を行わせることが好ましい。
【0068】
工程S201で、冷却水の給水条件を満たすと判定された場合(YES)は、工程S202へ制御が進められる。工程S202では、制御装置43は、給水ポンプ6を稼働させ、適宜一定の待ち時間を経て、工程S201へ制御を戻す。一方、工程S201で、冷却水の給水条件を満たさないと判定された場合(NO)は、工程S203へ処理が分岐される。工程S203では、制御装置43は、給水ポンプ6を停止させ、適宜一定の待ち時間を経て、工程S201へ制御を戻す。
【0069】
以下、図7を参照しながら、上述した電解開始時の馴化処理について説明する。なお、図7に示す制御は、給水ポンプ6側とは非同期で行われる原料溶液供給ポンプ3側の制御フローを示す。
【0070】
図7に示す製造方法は、工程S300から開始され、工程S301では、制御装置43は、原水の給水栓を開く。工程S302では、制御装置43は、電源装置41を通電し、電極間に電解電流の印加を開始する。工程S303では、制御装置43は、電源装置41を通電したタイミングで原水の流量を測定し、馴化時の目標電流値、上限電流値および下限電流値を演算する。
【0071】
工程S304では、制御装置43は、電源装置41の印加電圧を一定周期で段階的に上昇させる電圧上昇処理を開始する。工程S305では、制御装置43は、電流の測定値が目標電流値に到達したか否かを判定し、目標電流値に到達するまで(NOの間)、昇圧を続ける。工程S305で、目標電流値に到達したと判定された場合(YES)は、工程S306へ制御を進める。工程S304で電圧上昇を開始してから、工程S305で目標電流値に到達したと判定されるまでの期間が、馴化昇圧期間となる。なお、図7に示すように、工程S305で、目標電流値に到達していないと判定されている間(NOの間)、工程S314を制御を進めて、設定最大電圧に到達したか否かを判定し、設定最大電圧に到達しても目標電流値に到達していない場合(S314でYES)に工程S306へ制御を進めよう構成してもよい。
【0072】
工程S306では、制御装置43は、電流の測定値が上限電流値を下回っている否かを判定する。工程S306で、上限電流値を下回っていると判定された場合(YES)は、工程S307へ制御が進められる。工程S307では、制御装置43は、原料溶液供給ポンプ3を始動するととも、電圧を一定に保持する。工程S308では、制御装置43は、電流の測定値が上限電流値を上回るか否かを判定し、上限電流値を上回るまで(NOの間)待ち受ける。工程S308で、上限電流値を上回ると判定された場合(YES)は、工程S309へ制御が進められる。工程S309では、制御装置43は、原料溶液供給ポンプ3を停止するととも、所定レートで電圧下降を開始し、工程S311へ制御を進める。一方、工程S306で、電流の測定値が上限電流値を下回らないと判定された場合(NO)は、工程S310へ処理が進められる。工程S310では、制御装置43は、原料溶液供給ポンプ3を未始動のまま、所定レートで電圧下降を開始し、工程S311へ制御を進める。
【0073】
工程S311では、制御装置43は、現在印加している電圧が所定の設定電圧に到達したか否かを判定する。工程S311で、設定電圧に到達していないと判定された場合(NO)は、工程S312へ制御が進められる。工程S312では、制御装置43は、電流の測定値が下限電流値を下回るか否かを判定し、下限電流値を下回るまで(NOの間)、工程S311へループさせる。一方、工程S312で、電流の測定値が下限電流値を下回ると判定された場合(YES)は、工程S307へ制御を戻し、工程S307で、原料ポンプの始動および電圧保持を行う。このように、原料溶液供給ポンプ3の始動および電圧保持と、原料溶液供給ポンプ3の停止および電圧降下とを繰り返し、工程S311で、設定電圧に到達したと判定されると(YES)、工程S313で、通常動作に移行する。なお、上記通常動作になるまで、過電流検出は行われない。
【0074】
なお、図7には示さないが、馴化降圧工程において、一定電圧下で測定電流値が設定電流値超えかつ設定時間以上維持するという条件が満足されたときにさらに、ステップ降圧する制御が行われてもよい。
【0075】
上述したように、原料溶液供給ポンプ3は、電源装置41による電流の測定値に基づいて制御される。このため、原料溶液供給ポンプ3に同期して冷却水を供給する場合、電源装置41による電流の測定値が低下してきたことに応答して原料溶液供給ポンプ3の動作させているにも関わらず、電流を流れにくくする希釈の副作用を生じさせる冷却水の供給を行うことになってしまう。したがって、給水ポンプ6の動作は、溶液供給ポンプの動作とは非同期であることが望ましい。また、電解を行いつつ、冷却水により定常的に内槽20内を冷却する観点からは、給水ポンプ6は、冷却水を、一定周期で間欠的にまたは連続・定量で供給することが好ましい。なお、給水ポンプ6は、特に限定されるものではないが、間欠的に冷却水を供給する観点からは、ポンプヘッドが1連のダイヤフラムポンプなどを用いることができる。
【0076】
図8は、好ましい実施形態による原料溶液供給ポンプ3および給水ポンプ6の制御信号を示すチャートである。図8には、参考として、原料溶液供給ポンプ3と同期して動作する希釈ポンプの制御信号が示されている。図8に示すように、原料溶液供給ポンプ3および希釈ポンプは、電流の測定値に応答した任意のタイミングでオンおよびオフする。一方、給水ポンプ6は、好ましい実施形態では、図8に示すように、周期T1でオン期間T2だけ間欠的に駆動される。
【0077】
以下、図9図11を参照しながら、上述した原料溶液とは独立して冷却水を単位セル31へ供給する手法の利点について説明する。
【0078】
図9は、矩形電解槽の電解液(ガス)の排出口で測定された温度変化を示すグラフである。
【0079】
ここで、簡潔に、温度度測定を行うに至った経緯について説明する。これまで、原水の水質や使用状況などに依存した特定の条件下において、正常ではない電解による動作不安や、有効塩素濃度およびpHの目標範囲からの逸脱、電極(ひいては電解槽)の寿命の短縮(想定よりも短い時間で劣化の症状が出る。)といった不具合が発生する場合があった。特に、単位セル毎に排出口が複数設けられている電解槽であって、上記電解液集合・排出構造28aが設けれられているもので、正常ではない電解による動作不安、特に、上述した馴化処理を行ってもなお設定電流を超えた状態が意図せず継続する過電流状態および電極の寿命の短縮という現象が発生するケースがあった。ここで、電極の劣化は、詳細は後述するが、図9の加水無しの一点鎖線で示されるように、電解を一旦停止し、しばらく期間をおいて電解を再開した際に、期待する電流(電解停止前の電流値)が得られないという形で現れる。このような場合、典型的には、馴化処理が行われる。また、上記意図せず継続する過電流状態は、電流を流そうとして原料溶液の供給過多を起こし、設定値に到達した後、供給停止しても電流が低下せず、過電流が検出されエラーを発生させるという事象である。
【0080】
一方で、電解槽から上記電解液集合・排出構造28aを除去すると、上述した意図せず継続する過電流状態および電極の寿命の短縮が幾分か緩和される一方で、特定条件で、生成される微酸性次亜塩素酸水の性状に影響が出るケースがあった。特に、高い有効塩素濃度を目標とした場合に、得られる微酸性次亜塩素酸水のpHが想定よりも下がってしまったり、反対に、微酸性次亜塩素酸水のpHを適正範囲に収めようとすると、有効塩素濃度を目標まで上げることが難しい場合があった。
【0081】
電極の劣化の原因を探るべく、電極面の劣化状態(原料溶液入口、電解液出口で、酸化イリジウムや白金被膜が消耗し、チタン母材の溶解が発生している。)や、電解液の排出口が、塩素ガス、次亜塩素酸および塩酸の混合物という、過酷な液体が常に接していることから、塩酸濃度の不斉による電流の局所集中が電極の消耗を加速させている可能性が疑われた。そこで、単極の透明電解槽を作成し、電流の分布と電解槽内の塩酸の実測を試みたところ、結果は、全体に影響を及ぼすような電流密度の偏りはなく、電極板全体で均一に通電されており、内部塩酸濃度の実測値も極端に高い数値にはならなかった。一方で、電解槽側面が予想よりも高い温度になっていたこと判明した。上記経緯から、電解槽中心部での温度に着目し、電解槽の温度測定および冷却水の加水の効果を検証する実験を行った。
【0082】
図9にある温度変化のグラフは、株式会社微酸研製HOCL0.96tの矩形電解槽(内槽)の電解液およびガスの排出口に近傍に熱電対を設けたものを用いて得られたものである。矩形電解槽を、外槽から外し、水槽外に出した条件と、水槽内で水没させた条件とで電解を行った。電解槽内の内部流路に別口で冷却水と9%塩酸(原料溶液)を供給し、電源装置に通電して、熱電対の出力および電流値を記録した。なお、時間の経過に伴って実験条件を変化させており、温度変化が安定した時点での出口温度の数値が各条件の安定時点を示す縦の太線にあせて図9中に記載されている。
【0083】
電解条件は、すべて、設定電圧33Vおよび設定電流5Aであった。また、冷却水の温度は20℃であった。条件1は、単位セルへの冷却水の加水を行わず、矩形電解槽を水槽外に出して通電したものである。条件2は、冷却水の中程度の加水し、矩形電解槽を水槽外に出して通電したものである。条件3は、冷却水を多めに加水し、矩形電解槽を水槽外に出して通電したものである。条件4は、条件3の条件と同様に冷却水を多めに加水し、矩形電解槽を水槽に水没させて通電したものである。条件5は、冷却水の加水無しで、矩形電解槽を水槽に水没させて通電したものである。
【0084】
測定により、図9に示すように、条件1では79℃、条件2では64℃、条件3では57℃、条件4では46℃、条件5では55℃という結果が得られた。上記条件1は、熱の出入りのない多層電解槽の中央部のセル温度に相当するものと考えることができる。上記条件2および条件3は、冷却水の加水による冷却効果を示しており、条件4は、条件3と比較した場合に、ジャケット冷却の効果を示している。条件5は、冷却水の加水を行わない従来の二重殻構造電解槽で外槽でジャケット冷却する条件に相当する。
【0085】
図9において、注目すべき点は、セル中心部では79℃程度まで達する可能性があることを示唆する点であり、また、ジャケット冷却が電解液を66℃程度まで冷却する効果があることを示唆する点である。電解槽の内部は、塩素、塩酸および次亜塩素酸の混合状態であり、酸化力および溶解力が高いため、この温度状態と相まって、上述した電極材料の劣化が進み易いことが判明した。
【0086】
一方で、均一化する目的で取り付けている上記電解液集合・排出構造28aを取り外すと、上記意図せず継続する過電流状態の発生や電極劣化の事象の発生が抑えられる一方で、pHなどの性状が影響を受けるのは、外槽から電解槽内へ逆流した原水が、電解槽内部を冷却するが、単位セル31内部の溶液状態を変化させ、電流値に応じた原料溶液供給ポンプ3のフィードバック制御と相まって、電解状態に影響を与えていることが原因であることが判明した。
【0087】
そして、電解槽への原水の逆流が起こりにくいように上記電解液集合・排出構造28aを取り付けた上で(あるいは、排出口を単一とした上で)、原料溶液とは独立して、電解槽の各単位セル内へ冷却水を供給する経路を設けることにより、中心部分を含め電解槽内部を効率的に冷却することが可能となり、目標の性状の範囲内の水溶液を正常な電解動作で安定的に生成することが可能となるとともに、電極および電解槽の寿命の適正化が図られることが判明した。
【0088】
図10は、安定運転中の電解を停止した後の再始動時の電流値の時間変化を示すグラフである。なお、図10は、馴化処理を行わない場合に対応する。9%塩酸を原料溶液とし、株式会社微酸研製HOCL0.96tを5Aの電解条件で連続2時間運転し、内部温度が安定したところで電解を停止し、30分保持した後に再始動し、その際の電流の時間変化を記録した。なお、電解槽は、12セルであり、1セル当たりの容積は、22.8mlであった。冷却水の加水がない場合(つまり「加水無し」の場合)は、停止直前の電流を維持できず、数分かけて徐昇するという傾向がみられた。電解中は、陰極側は還元状態であるため、酸化反応が進行しないものと考えられるが、高温状態での停止中に、チタン母材の酸化などの劣化が生じたものと推察される。特に、この傾向は、一晩(12時間)放置した場合にさらに悪化した。
【0089】
一方、冷却水の加水がある場合(「加水弱」および「加水強」)では、停止直前の電流への回復が早く、加水の強度が大きい方が良好な傾向があった。なお、図10のグラフ中、「加水弱」は、図8に示す周期T1が10秒、オン期間T2が5秒として、1セル当たり約720秒の平均滞留時間になるような加水条件(welco社製ポンプ(WPX1―P3.2M4―WM4―B)で16Vの設定)である。「加水強」は、同じく周期T1が10秒、オン期間T2が5秒として、1セル当たり約540秒の平均滞留時間になるような加水条件(同20Vの設定)である。「加水強」の条件では、設定電流5.5Aに再始動直後(約10秒後)に達しているのに対し、「加水弱」は、若干遅れて設定電流5.5Aに達し、一方で、「加水無し」の条件では、より一層再始動時の反応が悪化した。なお、「多目に加水」設定は、過電流気味に推移したものの、その後(35秒以降)の冷却水の加水により、電流低減し、通常の稼働状態に戻った。他の設定では、電流値は戻らず、原料溶液供給ポンプ稼働による塩酸供給により、設定電流値に戻った。「加水弱」は、図10に示す時間範囲では、4.5A程度までしか回復していないが、実際は、電流が徐々に上昇しおおむね設定電流5.5Aに達していた。
【0090】
図10の「加水強」の流量は、1800ml/hrに換算され、同期運転で原料溶液に加えられるとした場合、7倍希釈することに相当し、濃度が低くなり過ぎで、必要な電流を得ることが期待できない。したがって、原料溶液(塩酸)と冷却水の流路を別にすることが好ましい。
【0091】
なお、上述した電極の劣化は、一度起こっても、次に冷却水を加水しながら電解を行うことで、再始動する前に維持していた設定電流を割り込むことなく、再度、劣化がないものと同様の挙動に戻ることが確認された。つまり、電極の劣化を回復することができることを示しており、上述した電極が劣化した場合に行われる馴化処理を行わずに安定な電流を確保できることが期待される。
【0092】
図11は、連続運転中の電解を停止した後の再始動時の有効塩素濃度およびpHの時間変化を示すグラフである。連続運転の時間は2時間とし、再始動までの停止時間は15分とした。図11に示すように、加水無しの場合、再始動時に充分な電流が確保されないために過剰な塩酸が供給され、高塩素濃度で低pHの微酸性次亜塩素酸水が20分にわたって製造された。一方、冷却されないため、温度が上がって行き、温度が上がると導電率が上がりより電流が流れやす(い状態で停止され、その後電解液温度が下がったために伝導率も下がった)くなるので、供給する原料塩酸の供給量が下がる。そうすると、生成される塩素の濃度が低くなり、pHも上昇する。これに対して、冷却水の加水がある場合、充分な塩酸が供給され、pHが6.3で安定化している。加水により冷却され(ていたために再起動直後から電解槽内の電解質濃度が必要十分な量で保たれており)、安定した塩素ガスが生成し、充分に有効塩素濃度が得れることを示している。
【0093】
以上説明した実施形態によれば、電解槽を効果的に冷却し、電極および電解槽の寿命の適正化を図るとともに、目標の性状の範囲内の水溶液を正常な電解動作で安定的に生成することが可能な製造装置、電解槽ユニットおよび製造方法を提供することができる。
【0094】
また、上記冷却水の供給は、冷却のみならず、電流が大きくなり過ぎた場合のブレーキとしての役割を果たすことができる。冷却により温度上昇を抑えることにより、導電率を一定に維持し、原料塩酸の濃度を一定に維持でき、塩素濃度の低下を防止することができる。
【0095】
なお、上述した実施形態では、原料である塩素イオン含有溶液として、塩化水素の水溶液、塩酸を用いる場合を例示したが、塩酸に限定されるものではなく、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどの溶液であってもよいし、それらの混合物でも良く、塩化水素、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムからなる群から選択された1または複数の物質が溶解した塩素イオン含有溶液を用いることができる。また、次亜塩素酸水の製造について説明したが、少なくとも遊離次亜塩素酸が含まれる水溶液一般に拡張することができる。
【0096】
以上、本発明について実施形態をもって説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、当業者が推考しうる実施態様の範囲内において、本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0097】
1…原料タンク、2…原料供給管、3…原料溶液供給ポンプ、4…冷却水、5…給水配管、6…給水ポンプ、20…内槽、24…電極、26…個別電解液排出口、28…開口、29…給電端子、30…原料供給口、31…単位セル、32…外槽、33…原水供給口、34…原水、35…取出口、36…微酸性次亜塩素酸水、37…冷却水供給口、39…外槽蓋部、40…二重殻構造電解槽、41…電源装置、42…電流計測部、43…制御装置、50…製造装置、60…電解槽ユニット
【先行技術文献】
【特許文献】
【0098】
【特許文献1】特開2019-198820号公報
図1
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