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特開2022-72760単糖の表示方法、プログラムおよび表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072760
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】単糖の表示方法、プログラムおよび表示装置
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/26 20060101AFI20220510BHJP
【FI】
G09B23/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020182388
(22)【出願日】2020-10-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 「著者『何森健』、書籍名『Izumofleet formula』(日本語版)、2019年11月初版発行、発行所『(株)希少糖生産技術研究所』」 「著者『何森健』、書籍名『Izumofleet formula』(英語版)、2019年11月初版発行、発行所『(株)希少糖生産技術研究所』」
(71)【出願人】
【識別番号】503019785
【氏名又は名称】何森 健
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】何森 健
(57)【要約】
【課題】イズモリングのための簡易な希少糖構造の表示方法、プログラムおよび表示装置を提供する。
【解決手段】アルドース、ケトース、およびポリオールの全体の総数59の単糖について、フィッシャー投影式を構成する各炭素と当該炭素が結合する炭素以外の元素との組み合わせをパターン化し、それらのいずれかのパターンを組み合わせて一の単糖のフィッシャー投影式に対応するパターン構造式とし、該パターン構造式を縦に表示することを特徴とする単糖の表示方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルドース、ケトース、およびポリオールの全体の総数59の単糖について、フィッシャー投影式を構成する各炭素と当該炭素が結合する炭素以外の元素との組み合わせをパターン化し、それらのいずれかのパターンを組み合わせて一の単糖のフィッシャー投影式に対応するパターン構造式とし、該パターン構造式を縦に表示することを特徴とする単糖の表示方法。
【請求項2】
前記単糖は、イズモリング(Izumoring)を構成するアルドースが16種類、ケトースが8種類、糖アルコールが10種の全部で34種の6炭糖類である、請求項1に記載の単糖の表示方法。
【請求項3】
前記パターン構造式でイズモリング(Izumoring)を構成する6炭糖を表示する、請求項1または2に記載の単糖の表示方法。
【請求項4】
前記各炭素と当該炭素が結合する炭素以外の元素との組み合わせは、フィッシャー投影式を構成するCHO,C=O,OH-C-H,H-C-OHおよびCHOHのいずれかである、請求項1ないし3のいずれかに記載の単糖の表示方法。
【請求項5】
前記各炭素と当該炭素が結合する炭素以外の元素との組み合わせは、丸○と棒|の組み合わせでパターン化する、請求項1ないし4のいずれかに記載の単糖の表示方法。
【請求項6】
コンピュータを用いて、イズモリング(Izumoring)を構成する6炭糖であるアルドース、ケトース、およびポリオールの全体の総数34の単糖について、フィッシャー投影式を構成するCHO,C=O,OH-C-H,H-C-OHおよびCHOHのいずれかである各炭素と当該炭素が結合する炭素以外の元素との組み合わせを丸○と棒|の組み合わせでパターン化し、それらのいずれかのパターンを組み合わせて一の単糖のフィッシャー投影式に対応するパターン構造式とし、該パターン構造式を縦にしてイズモリング(Izumoring)を構成する6炭糖を表示装置に表示する機能を実現させる、プログラム。
【請求項7】
イズモリング(Izumoring)を構成する6炭糖であるアルドース、ケトース、およびポリオールの全体の総数34の単糖について、フィッシャー投影式を構成するCHO,C=O,OH-C-H,H-C-OHおよびCHOHのいずれかである各炭素と当該炭素が結合する炭素以外の元素との組み合わせを丸○と棒|の組み合わせでパターン化し、それらのいずれかのパターンを組み合わせて一の単糖のフィッシャー投影式に対応するパターン構造式とし、該パターン構造式を縦にしてイズモリング(Izumoring)を構成する6炭糖をディスプレイに表示する、表示装置。
【請求項8】
イズモリング(Izumoring)を構成する6炭糖であるアルドース、ケトース、およびポリオールの全体の総数34の単糖について、フィッシャー投影式を構成するCHO,C=O,OH-C-H,H-C-OHおよびCHOHのいずれかである各炭素と当該炭素が結合する炭素以外の元素との組み合わせを丸○と棒|の組み合わせでパターン化し、それらのいずれかのパターンを組み合わせて一の単糖のフィッシャー投影式に対応するパターン構造式とし、該パターン構造式を縦にしてイズモリング(Izumoring)を構成する6炭糖をイズモリングに表示することを特徴とするイズモリング(Izumoring)盤。
【請求項9】
請求項8に記載のイズモリング盤を含むことを特徴とする単糖構造式の学習用教材。
【請求項10】
イズモリング盤が平面上を360°回転可能に設けられている請求項9に記載の単糖構造式の学習用教材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、丸○と棒|の組み合わせでパターン化して構造式を表示するイズモリングのための単糖の表示方法、プログラムおよび表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
「希少糖」とは、自然界に希にしか存在しない単糖(アルドース、ケトースおよび糖アルコール)と定義づけることができる。この定義は糖の構造や性質による定義ではないため、あいまいである。すなわち、一定量以下の存在量を希少糖というなどの量の定義はなされていないためである。しかし、一般に自然界に多量に存在するアルドースとしてはD-グルコース、D-ガラクトース、D-マンノース、D-リボース、D-キシロース、L-アラビノースの6種類あり、それ以外のアルドースは希少糖と定義される。ケトースとしては、D-フラクトースが存在しており、他のケトースは希少糖といえる。また糖アルコールは単糖を還元してできるが、自然界にはD-ソルビトールが比較的多いがそれ以外のものは量的には少ないので、これらも希少糖といえる。他のケトースとして、D- プシコース、D- タガトース、D- ソルボース、L- フラクトース、L- プシコース、L- タガトース、L- ソルボースが挙げられる。また糖アルコールは単糖を還元してできるが、自然界にはD- ソルビトールが比較的多いがそれ以外のものは量的には少ないので、これらも希少糖といえる。
これらの糖は、酸化還元酵素の反応、アルドース異性化酵素の反応、アルドース還元酵素の反応で変換できる。
【0003】
<イズモリング>
D-タガトース3エピメラーゼ(以下、DTE)の発見によって、すべての単糖がリング状につながり、単糖の知識の構造化が完成し、イズモリング(Izumoring)と名付けた。発明者の何森健は、4炭糖、5炭糖、6炭糖についてのイズモリング(Izumoring)連携図を特許文献1で公表しその有用性を示している。図21で示される生産過程と分子構造(D型、L型)により、炭素数4から6の単糖全てをつないだ連携図が、イズモリング(Izumoring)の全体図である。その全体図から、単糖は、炭素数4、5、6全てがつながっているということが理解できる。イズモリングC6の中でのつながりと、イズモリングC5の中でのつながりと、イズモリングC4の中でのつながりと、C4、C5、C6が全てつながっていることである。イズモリングC6のD-グルコースは、イズモリングC5のD-アラビトールおよびイズモリングC4のエリスリトールとつながっている。この線は、発酵法によってD-グルコースからD-アラビトールおよびエリスリトールを生産できることを示している。すなわち、イズモリングC6,イズモリングC5およびイズモリングC4は連結されている。この連結は、炭素数の減少という主に発酵法による反応であり、このD-アラビトールおよびエリスリトールへの転換反応の二つ以外の発酵法によるイズモリングC6とイズモリングC5,C4との連結は可能である。例えばD-グルコースからD-リボースの生産も可能である。このように、3つのイズモリングにより全ての炭素数4,5,6の単糖(アルドース、ケトース、糖アルコール)が連結されたことで、それぞれの単糖が全単糖の中でその存在場所を明確に確認できる。
【0004】
<ヘキソースのイズモリング>
炭素数が6つの単糖(ヘキソース)のイズモリングは、図21の下段に示すように、炭素数が6つの単糖(ヘキソース)は全部で34種類あり、アルドースが16種類、ケトースが8種類、糖アルコールが10種類ある。
これらの糖は、酸化還元酵素の反応、アルドース異性化酵素の反応、アルドース還元酵素の反応で変換できる。DTEは全てのケトースの3位をエピ化する酵素であり、このDTEによって、すべての単糖がリング状につながり、イズモリングを形成する。D-グルコースを出発点としてL-グルコースを生産しようと思えば、D-グルコースを異性化→エピ化→還元→酸化→エピ化→異性化するとL-グルコースが作れることを示している。
炭素数が6つの単糖(ヘキソース)のイズモリングを使って、自然界に多量に存在する糖と微量にしか存在しない希少糖との関係が示されている。D-グルコース、D-フラクトース、D-マンノースと、牛乳中の乳糖から生産できるD-ガラクトースは、自然界に多く存在し、それ以外のものは微量にしか存在しない希少糖と分類される。DTEの発見によって、D-グルコースからD-フラクトース、D-プシコースを製造し、さらにD-アロース、アリトール、D-タリトールを製造することができるようになった。
炭素数が6つの単糖(ヘキソース)のイズモリングの意義をまとめると、生産過程と分子構造(D型、L型)により、すべての単糖が構造的に整理され(知識の構造化)、単糖の全体像が把握できること、研究の効果的、効率的なアプローチが選択できること、最適な生産経路が設計できること、欠落部分について予見できること、が挙げられる。
(星印)を中心としてL型とD型が点対称になっていることもわかる。例えば、D-グルコースとL-グルコースは、中央の点を基準として点対称になっている。
【0005】
<ペントースのイズモリング>
炭素数が5つの単糖(ペントース)のイズモリングは、図21の中段に示すように、アルドース8個、ケトース4個および糖アルコール4個全てを含む炭素数6のイズモリングよりも小さいリングである。炭素数5のイズモリングは、炭素数6のイズモリングが点対象に全単糖が配置されているのに対し、左右が対象に配置されていることが特徴である。全てが酵素反応で結ばれる。異なる点は、酸化還元反応、異性化反応のみでリング状に全てが連結できることである。一方、DTEを用いることによって、さらに効率のよい生産経路が設計できることがわかる。
炭素数5のイズモリングの特徴は、図21の中段から明らかなように、炭素数6のイズモリングが点対象に全単糖が配置されているのに対し、左右が対象に配置されていることが大きな特徴である。これら全ペントースは、酵素反応により連結されていることから、炭素数6のイズモリングの場合と全く同様に、すべてのペントースが構造的に整理され(知識の構造化)、全体像が把握できること、研究の効果的、効率的なアプローチが選択できること、最適な生産経路が設計できること、欠落部分について予見できる意義を持っている。
【0006】
<テトロースのイズモリング>
炭素数が4つの単糖(テトロース)のイズモリングは、図21の上段に示すように、テトロースの構造上の特性のため、リングが完成しないという特徴がある。炭素数5のイズモリング上部半分の構造を持っている。このリングの場合も、炭素数5,6の場合と同様の酸化還元および異性化反応によって連結されている。DTEが炭素数4のケトースに反応しないため、ケトース間の反応は現在のところ存在しない。しかし、新規のエピメラーゼの存在が予測され、この研究は現在研究途上である。
全体の配置は、炭素数5と同様に左右対称であり、アルドース4個、ケトース2個および糖アルコール3個全てを含んでいる。すなわち炭素数5,6のイズモリングと同様の意義が存在する。
【0007】
イズモリングC6のD- グルコースは、イズモリングC5のD- アラビトールおよびイズモリングC4のエリスリトールとつながっている。この線は、発酵法によってD- グルコースからD- アラビトールおよびエリスリトールを生産できることを示している。すなわち、イズモリングC6、イズモリングC5およびイズモリングC4は連結されている。この連結は、炭素数の減少という主に発酵法による反応であり、このD- アラビトールおよびエリスリトールへの転換反応の二つ以外の発酵法によるイズモリングC6とイズモリングC5,C4との連結は可能である。例えばD- グルコースからD- リボースの生産も可能である。
このように、3つのイズモリングにより全ての炭素数4、5、6の単糖(アルドース、ケトース、糖アルコール)が連結されたことで、それぞれの単糖が全単糖の中でその存在場所を明確に確認できる。最も有名なキシリトールは、未利用資源の木質から生産できるD- キシロースを還元することで容易に生産できることを明確に確認できる。
もしも特定の単糖が生物反応によって多量に得られた場合には、それを原料とした新たな単糖への変換の可能性が容易に見いだすことが可能である。すなわち、この全体像から全ての単糖の原料としての位置を確実につかむことができるため、有用な利用法を設計することができる。特に廃棄物や副産物から単糖が得られた場合の利用方法を容易に推定できるのである。
単糖類を還元すると、アルデヒド基およびケトン基はアルコール基となり、炭素原子が同数の多価アルコール、すなわち糖アルコールとなる。還元糖は食品等の分野で有用なものが多く、例えばL- アラビノースは、五炭糖で、蔗糖に近い味質を持ち、難吸収性のノンカロリーな糖質である。また蔗糖やマルトースなどの二糖が体内に吸収される際に作用する二糖水解酵素を阻害することが知られており、ダイエット用甘味料や糖尿病患者用甘味料としての利用が期待されている。また、L- アラビノースは医薬品の合成原料としても有用な糖である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】再表2004/063369号公報
【特許文献1】特開平1-223567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
炭素数が4、5の テトロース、ペントースはイズモリングの設計図を用いることなく生産できる。しかし炭素数6以上の単糖は、分子構造が複雑となり種類も多くなるため生産が困難であったが、イズモリングを設計図として用いることで計画性を持って生産が可能となった。
希少糖の研究は生産とその用途開発とが連携して研究されることが重要である。現在、香川大学では国際希少糖研究教育機構が設置され、70人以上の研究者が学部を超えて研究を進めている。
多くの研究者が共同研究を行う過程で、各種の解決するべき課題が明らかになってきている。その重要なものの一つが「希少糖の分子構造を簡便に認識する方法」の確立である。
種類が多い炭素数6のヘキソースであっても、扱う希少糖が少ない場合には、構造などを考える必要がない場合が多い。希少糖Aという「白い粉」でよかった。ところが研究が進み、希少糖A、希少糖B、希少糖C、希少糖Dそして、天然型の単糖Gも使用する実験となると、それらの構造を認識することが必要になってきた。希少糖A,B,C,Gという多種類の「白い粉」を用いる研究では、実験結果の議論が不十分となる場面に遭遇することが多くなった。それを克服するためには、希少糖Aと希少糖Bの「構造を簡便に認識する方法が必要」となってきたのである。
大量に生産されるようになった希少糖のプシコース(アルロース)一つを取り上げても、食後血糖の上昇抑制、抗肥満、動脈硬化の抑制などが実証試験により認められ、2020年3月27日には食品表示基準について「0kcal」と表示できることとなり、プシコース(アルロース)を取り扱う研究者は今後ますます世界に広がり、研究内容は深まっていく状況にある。それはアロース、タガトース、アリトールへと続いており、研究者の道を歩む若者たちに希少糖に興味・関心をもって研究内容を深めてもらいたい。また、大量生産方法が確立していない希少糖はそのほかにも数多くあり、希少糖には人類生存に資するずっと多くの可能性がいまだ未知の状態にあり、イズモリングの理解を助ける希少糖の情報に工夫をこらして、高校生を含む将来の研究者に興味・関心を高めてもらう必要がある。イズモリング(Izumoring)の全体図である生産過程とイズモフリート分子構造(D型、L型)により、炭素数4から6の単糖全てをつないだ連携図の理解を一層助けることができる。
【0010】
また、共同研究者の間では、共有できる簡便な単糖の表記法が求められる。例えば長年共同研究を続けている間柄のF先生は有機化学者であり「単糖をジグザク法」でサラサラと描くが、本発明者は「フィッシャー投影式」を描く。頭の中でF先生が描かれるジグザグの構造をフィッシャー投影式に「翻訳」しなければならない。簡易な希少糖構造表記法は、本発明者が一番必要としているものである。F先生にも認めてもらえる単糖の表記法を作る必要があった。
【0011】
有機化合物(特に糖)では、多くの異性体を有し、複雑な有機化合物の合成経路では類似の化学構造式を有する化合物が多数存在するため、観察者が化学構造式を一見してどの有機化合物であるかを把握することは困難である。
従来、化学構造式を表示するための文書作成装置が知られている。たとえば、特許文献2では、操作者がメタンを意味する「CH」との文字列を入力することで、当該文字列をメタンの化学構造式に変換する技術が開示されている。
本発明は、イズモリングのための簡易な希少糖構造の表示方法、プログラムおよび表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の(1)ないし(5)の単糖の表示方法を要旨とする。
(1)アルドース、ケトース、およびポリオールの全体の総数59の単糖について、フィッシャー投影式を構成する各炭素と当該炭素が結合する炭素以外の元素との組み合わせをパターン化し、それらのいずれかのパターンを組み合わせて一の単糖のフィッシャー投影式に対応するパターン構造式とし、該パターン構造式を縦に表示することを特徴とする単糖の表示方法。
(2)前記単糖は、イズモリング(Izumoring)を構成するアルドースが16種類、ケトースが8種類、糖アルコールが10種の全部で34種の6炭糖類である、上記(1)に記載の単糖の表示方法。
(3)前記パターン構造式でイズモリング(Izumoring)を構成する6炭糖を表示する、上記(1)または(2)に記載の単糖の表示方法。
(4)前記各炭素と当該炭素が結合する炭素以外の元素との組み合わせは、フィッシャー投影式を構成するCHO,C=O,OH-C-H,H-C-OHおよびCHOHのいずれかである、上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の単糖の表示方法。
(5)前記各炭素と当該炭素が結合する炭素以外の元素との組み合わせは、丸○と棒|の組み合わせでパターン化する、上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の単糖の表示方法。
【0013】
また、本発明は、以下の(6)に記載のプログラムを要旨とする。
(6)コンピュータを用いて、イズモリング(Izumoring)を構成する6炭糖であるアルドース、ケトース、およびポリオールの全体の総数34の単糖について、フィッシャー投影式を構成するCHO,C=O,OH-C-H,H-C-OHおよびCHOHのいずれかである各炭素と当該炭素が結合する炭素以外の元素との組み合わせを丸○と棒|の組み合わせでパターン化し、それらのいずれかのパターンを組み合わせて一の単糖のフィッシャー投影式に対応するパターン構造式とし、該パターン構造式を縦にしてイズモリング(Izumoring)を構成する6炭糖を表示するを表示装置に表示する機能を実現させる、プログラム。
【0014】
また、本発明は、以下の(7)に記載の表示装置を要旨とする。
(7)イズモリング(Izumoring)を構成する6炭糖であるアルドース、ケトース、およびポリオールの全体の総数34の単糖について、フィッシャー投影式を構成するCHO,C=O,OH-C-H,H-C-OHおよびCHOHのいずれかである各炭素と当該炭素が結合する炭素以外の元素との組み合わせを丸○と棒|の組み合わせでパターン化し、それらのいずれかのパターンを組み合わせて一の単糖のフィッシャー投影式に対応するパターン構造式とし、該パターン構造式を縦にしてイズモリング(Izumoring)を構成する6炭糖をディスプレイに表示する、表示装置。
【0015】
また、本発明は、以下の(8)に記載のイズモリング(Izumoring)盤を要旨とする。
(8)イズモリング(Izumoring)を構成する6炭糖であるアルドース、ケトース、およびポリオールの全体の総数34の単糖について、フィッシャー投影式を構成するCHO,C=O,OH-C-H,H-C-OHおよびCHOHのいずれかである各炭素と当該炭素が結合する炭素以外の元素との組み合わせを丸○と棒|の組み合わせでパターン化し、それらのいずれかのパターンを組み合わせて一の単糖のフィッシャー投影式に対応するパターン構造式とし、該パターン構造式を縦にしてイズモリング(Izumoring)を構成する6炭糖をイズモリングに表示することを特徴とするイズモリング(Izumoring)盤。
【0016】
また、本発明は、以下の(9)または(10)に記載の単糖構造式の学習用教材を要旨とする。
(9)上記(8)に記載のイズモリング盤を含むことを特徴とする単糖構造式の学習用教材。
(10)イズモリング盤が平面上を360°回転可能に設けられている上記(9)に記載の単糖構造式の学習用教材。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、希少糖を含む単糖の化学構造式をパターン化して表示することで、希少糖を含む単糖を直感的または容易に把握することができる。共同研究者の間で共有できる簡便な単糖の表記法を提供することができる。
希少糖は種類が数多くあり、その中のほとんどのものは人類生存に資する可能性がいまだ未知の状態にある。そのためには希少糖について、将来の研究者に興味を持ってもらう必要があり、本発明によりイズモリングの理解を助ける希少糖の情報に工夫をこらして、希少糖研究の内容を深めるために、研究の道を歩む研究者、歩もうとしている若者たちに興味をもってもらうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係るイズモリング早見盤の上面図である。
図2】本実施形態に係るイズモリング盤の上面図である。
図3】本実施形態に係るイズモリング早見盤の表紙を取り外した場合の上面図である。
図4】実施形態に係るイズモリング早見盤の裏面図である。該早見盤の使い方などの説明が記載されている。
図5】イズモフリート構造式(Izumofleet formula)の基本法則を示す。
図6】アルドース、ケトース、およびポリオールについて、フィッシャー投影式およびイズモフリート構造式を比較して、パターン図形であるイズモフリート構造式の表記法の原則を示す。
図7】イズモリングに出てくるイソメラーゼ(Isomerase)反応とケトース3-エピメラーゼ(ketose 3-epimerase)反応をイズモフリート構造式で示す。
図8】イズモリングに出てくるポリオールデヒロゲナーゼ(Polyol dehydrogenase)反応をイズモフリート構造式で示す。
図9】D-ソルビトール(D-sorbitol) からL-ソルボース(L-sorbose) への酸化反応をフィッシャー投影式で記載した。
図10図9のソルボース発酵をイズモフリート構造式で記載した。
図11】イズモフリート構造式で記載のL-タリトール(=L-アリトール)の酸化反応と生成物の構造と名称を示す。
図12】イズモリングを用いてD-グルコースから L-グルコースを生産する反応をイズモフリート構造式で記載した。
図13】イズモフリート構造式によると、D-アルロースから L-アルロースへの変換過程が、の利点を明確に示している。
図14】イズモフリート構造式(Izumofleet formula)の基本法則を示す図5から六炭糖のアルドースであるD-グルコースを取り出して、(A)にフィッシャー投影式で表示したD-グルコース、(B)にパターン図形(イズモフリート構造式)で表示したD-グルコースを併記した。
図15】イズモフリート構造式(Izumofleet formula)の基本法則を示す図5から六炭糖のケトースであるD-フルクトースおよびポリオールであるD-ソルビトールを取り出して、(A)にフィッシャー投影式で表示したD-フルクトース、(B)にパターン図形(イズモフリート構造式)で表示したD-フルクトース、(C)にフィッシャー投影式で表示したD-ソルビトール、(D)にパターン図形(イズモフリート構造式)で表示したD-ソルビトールを併記した。
図16】グルコースおよびフルクトースの鏡面異性体を、本実施形態に係る表示方法で表示した図である。
図17】D-グルコースとD-フルクトースとの異性化反応を、本実施形態に係る表示方法で表示した図である。
図18】D-グルコースから、D-アルロース、D-アロース、D-タガロース、L-アルロースを製造する工程を、本実施形態に係る表示方法で表示した図である。
図19】本実施形態に係る表示装置を示す構成図である。
図20】本実施形態に係る表示方法を示すフローチャートである。
図21】炭素数4から6の単糖全てをつないだイズモリング(Izumoring)連携図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<イズモリングの理解を助ける「ひと目で分かる構造式」の創作>
全ての教科書での単糖単独の表記はフィッシャー投影式(Fischer projection)が大部分である。フィッシャー投影式は、不斉炭素についての絶対立体配置を表現するために使われる構造式である。1891年にエミール・フィッシャーが糖類の絶対立体配置を表現するために初めて使用した。本発明者は、丸○と棒|を用いて、長い間試行錯誤を繰り返して、フィッシャー投影式を発展させた簡単な単糖の表記法を完成した。丸○と棒|のみで単糖の構造を表しているので、簡便に使用できる利点がある。丸○と棒|を用いた表記法は、公式に認められていないが、イズモリングの理解を助けるために必要とされる単糖の表記法を提案することができる。本発明において、その表記法をイズモフリート構造式(Izumofleet formula)と命名した。
【0020】
<イズモフリート構造式>
目指したイズモフリート構造式は、以下の条件を満足していることとした。
1)希少糖を丸○と棒|で表現できる。
2)イズモリング(Izumoring)を理解するために有効である。
3)PCや手書きでの記載が簡単である。
【0021】
<イズモフリート構造式の基本法則>
単糖を扱っている研究者の全員が、容易に法則を理解できるように、図5に、イズモフリート構造式(Izumofleet formula)の基本法則を示す。アルドースはD-グルコース、ケトースはD-フラクトース、およびポリオールはD-ソルビトールを例に挙げて、イズモフリート構造式とフィッシャー投影式をそれぞれ縦に並べることで基本法則を示した。図中、フィッシャー投影式を分解したCHO,C=O,OH-C-H,H-C-OHおよびCHOHにそれぞれ対応する「丸○と棒|の組み合わせのパターン」を付属させた。
【0022】
糖に含まれる炭素と当該炭素が結合する炭素以外の元素との組み合わせ(以下、単に組み合わせともいう。)ごとに、対応するパターンが予め決定されていることを意味し、対応する各パターンを示している。例えば、アルデヒド基「CHO」の組み合わせは、丸の下部に短い縦棒を付けたパターンに、ケトン基「C=O」からなる組み合わせは、丸の上下に短い縦棒を付けたパターンに、フィッシャー投影式で鎖の中間に位置する「HO-C-H」の組み合わせは、棒が突き出た「T」の文字を時計まわりに90°回転させたパターンに、同じく鎖の中間に位置する「H-C-OH」の組み合わせは、棒が突き出た「T」の文字を時計まわりに270°回転させたパターンにそれぞれ対応している。さらに、フィッシャー投影式で最下部に置かれる「CHOH」の組み合わせは、「T」の文字を180°回転させたパターンに、フィッシャー投影式で最上部に置かれる「CHOH」の組み合わせは、「T」の文字のようなパターンにそれぞれ対応している。
このようにイズモフリート構造式は、単糖のフィッシャー投影式を各炭素と当該炭素が結合する炭素以外の元素との組み合わせであるCHO,C=O,OH-C-H,H-C-OHおよびCHOHのいずれかに分け、各組み合わせを丸○と棒|の組み合わせの対応するパターンにそれぞれ変換し、変換したパターンを結合してパターン図形として、当該単糖を表示する。
【0023】
図5において、六炭糖のアルドースであるD-グルコースは、フィッシャー投影式では、「CHO」、「H-C-OH」,「HO-C-H」,「H-C-OH」,「H-C-OH」および「CHOH」の6つの組み合わせに分けることができる。D-グルコースを構成する各組み合わせで変換し、各パターンを結合した場合、D-グルコースは、図に示すパターン図形(イズモフリート構造式)で表示することができる。
同様に、六炭糖のケトースであるD-フルクトースは、フィッシャー投影式では、「CHOH」,「C=O」,「HO-C-H」,「H-C-OH」,「H-C-OH」および「CHOH」の6つの組み合わせに分けることができるため、図に示すパターン図形(イズモフリート構造式)で表示することができる。
さらに、D-ソルビトールは、フィッシャー投影式では、「CHOH」,「H-C-OH」,「HO-C-H」,「H-C-OH」,「H-C-OH」および「CHOH」の6つの組み合わせに分けることができるため、図に示すパターン図形(イズモフリート構造式)で表示することができる。
【0024】
<イズモフリート構造式の表記法の原則>
図6に、アルドース、ケトース、およびポリオールについて、フィッシャー投影式およびイズモフリート構造式を比較して、パターン図形であるイズモフリート構造式の表記法の原則を示した。
上段の左端は炭素Cを入れたフィッシャー投影式で表示したD-グルコースであり、その右側に炭素Cを省略したフィッシャー投影式で表示したD-グルコース、右端はパターン図形(イズモフリート構造式)、すなわち本実施形態に係る表示方法で表示したD-グルコースである。フィッシャー投影式は、不斉炭素についての絶対立体配置を表現するために使われる構造式であるところ、不斉炭素がある、あるいは省略した鎖式で、あるいは水素Hを省略した鎖式で表示されるが、縦型の鎖でなければならないとされている。
中段の左端は炭素Cを入れたフィッシャー投影式で表示したD-フルクトースであり、その右側に炭素Cを省略したフィッシャー投影式で表示したD-フルクトース、右端はパターン図形(イズモフリート構造式)、すなわち本実施形態に係る表示方法で表示したD-フルクトースである。
下段の左端は炭素Cを入れたフィッシャー投影式で表示したD-グリシトール、D-ソルビトールであり、その右側に炭素Cを省略したフィッシャー投影式で表示したD-グリシトール、D-ソルビトール、右端はパターン図形(イズモフリート構造式)、すなわち本実施形態に係る表示方法で表示したD-グリシトール、D-ソルビトールである。
【0025】
<イズモフリート構造式の特徴>
イズモリングに出てくる反応をイズモフリート構造式で示すことで、特徴を示した。
1)イソメラーゼ(Isomerase)反応とケトース3-エピメラーゼ(ketose 3-epimerase)反応を図7に示す。
図中、イソメラーゼ反応を左側、およびケトース3-エピメラーゼ反応を右側に記載した。狭いスペースに簡単に表記できることがわかる。
2)ポリオールデヒロゲナーゼ(Polyol dehydrogenase)反応を図8に示す。
図中、D-ソルビトール(D-sorbitol)を酸化反応する反応は、左側の式に記載したC-2を酸化する場合はD-フラクトース(D-fructose)が生産される。一方、右側の式に記載したC-5が酸化されるとL-ソルボース(L-sorbose)が生産される。
図9に、D-ソルビトール(D-sorbitol) からL-ソルボース(L-sorbose) への酸化反応をフィッシャー投影式で記載した。このフィッシャー投影式をイズモフリート構造式の場合と比較してみると、希少糖を含む単糖の化学構造式をパターン化して表示することで、当該単糖を直感的または容易に把握することができることが分かる。
すなわち、この“ソルボース発酵”は、D-ソルビトール(D-sorbitol)を記載する上下の方向によりL-ソルボース(L-sorbose)が逆転して表記される。一方、イズモフリート構造式ではD-ソルビトール(D-sorbitol)を簡単に上下を逆転した表記が可能であるため、L-ソルボース(L-sorbose)の構造が分かりやすい。イズモフリート構造式の場合に相当する図10に示すように、イズモフリート構造式でのD-ソルビトールを180°回転する場合のC-1~C-6を白丸1~3、黒丸3~6で示した。C-1とC-6の上下が逆転することを理解しやすい表記法である。
【0026】
<新しい簡易な表記法のイズモリングの理解>
本発明の新しい簡易な表記法の条件としてイズモリングの理解に有効であることを目標の一つとした。イズモリングを理解するためには、ポリオール(polyol)をどのように表記するかが重要となる。図11にイズモフリート構造式で記載のL-タリトール(=L-アリトール)の酸化反応と生成物の構造と名称を示す。
図中、L-アリトールは180°回転させると、L-タリトールとなる。C-2の位置を酸化するポリオールデヒロゲナーゼは、それぞれをL-アルロースと L-タガトースへ変換する。フィッシャー投影式で表現するよりも、イズモフリート構造式を用いることで簡単で分かりやすい表現となる。
以上のようにイズモフリート構造式は目標とした、(a)希少糖を丸○と棒|で表現できること、(b)イズモリングを理解するために有効であること、(c)PCや手書きでの記載が簡単であること、これらを満足できるものである。
【0027】
<イズモフリート構造式の利用>
イズモリングを用いてD-グルコースから L-グルコースを生産する反応をイズモフリート構造式で記載した。図12に示す。
その図面から理解できるように、イゾメラーゼ反応、ケトース3-エピメラーゼ反応、酸化還元反応が容易に記載できる。フィッシャー投影式の表記では、複雑となりコンパクトには記載できないことが分かる。
【0028】
<イズモフリート構造式表記法の特徴の再度確認>
イズモリングを用いたD-グルコースから L-グルコースの生産反応の中でイズモフリート構造式表記法の特徴を再度確認する。
図13に示すとおり、D-アルロースから L-アルロースへの変換過程が、イズモフリート構造式の利点を明確に示している。
図中、D-アルロースの炭素1,2,3,4,5,6の位置を番号で示した。D-アルロースのC-2を還元してアリトールを生産、180°回転しC-5を酸化することでL-アルロースを生産する。
この反応をイズモフリート構造式で示すことで全体の反応を容易に示すことができる。そして、D-アルロースの1位炭素は生産された L-アルロースの6位炭素となっていることが明白に理解できる。上記の反応はイズモリングのこのルートでのL-グルコースの生産の中間に位置していることから、D-グルコースの1位炭素は、生産物のL-グルコースの6位炭素となることが理解できる。
フィッシャー投影式では表現が複雑になる反応は、イズモフリート構造式を用いることで簡単に表示でき、反応の理解を深めることができる。
【0029】
<まとめ>
以上のとおり、新しく簡易な単糖の構造表記法をイズモフリート構造式として記載した。本発明者は現在、このイズモフリート構造式を用いて研究計画や実験結果について議論をしている。今のところ特に問題となることはなく、使用する人の数が増えている状況である。表記法イズモフリート構造式は、フィッシャー投影式の簡易な表現法の一つとして、現状では「限定的な位置」にあるものである。少なくとも香川大学内での使用では有効であることが実証されつつある。多くの研究者はもちろんのこと、高校生、大学生にも使ってもらいたい。
【0030】
以下に、本発明に係る単糖の表示方法についてより詳細に説明する。なお、単糖とは、アルドース、ケトース、およびポリオールの全体の総数59の単糖であり、本実施形態では、単糖を、各炭素と当該炭素が結合する炭素以外の元素との組み合わせに分け、各組み合わせを対応するパターンにそれぞれ変換し、変換したパターンを結合してパターン図形として、単糖を表示する。本発明において、その表記法をイズモフリート構造式(Izumofleet formula)と命名したことは上記のとおりである。
【0031】
イズモフリート構造式(Izumofleet formula)の基本法則を示す図5から六炭糖のアルドースであるD-グルコースを取り出して、(A)にフィッシャー投影式で表示したD-グルコース、(B)にパターン図形(イズモフリート構造式)で表示したD-グルコースを併記して図14としている。フィッシャー投影式で表示したD-グルコースは、各炭素と当該炭素が結合する炭素以外の元素との組み合わせに分けた場合、「CHO」、「H-C-OH」,「HO-C-H」,「H-C-OH」,「H-C-OH」および「CHOH」の6つの組み合わせに分けることができる。
【0032】
図5上段に示される単糖に含まれる炭素と当該炭素が結合する炭素以外の元素との組み合わせごとに、対応する各パターン図の詳細を図5下段に示す。図5は、当該炭素が結合する炭素以外の元素との組み合わせごとに、対応するパターンが予め決定されているところ、糖に含まれる各炭素と当該炭素が結合する炭素以外の元素との組み合わせと、パターンとの対応関係を示す図である。
(A)アルデヒド基「CHO」の組み合わせは、丸の下部に短い縦棒を付けたパターンに対応している。(B)ケトン基「C=O」からなる組み合わせは、丸の上下に短い縦棒を付けたパターンに対応している。(C)フィッシャー投影式で鎖の中間に位置する「HO-C-H」の組み合わせは、棒が突き出た「T」の文字を時計まわりに90°回転させたパターンに対応しており、(D)同じく鎖の中間に位置する「H-C-OH」の組み合わせは、棒が突き出た「T」の文字を時計まわりに270°回転させたパターンに対応している。さらに、フィッシャー投影式で最下部に置かれる(E)「CHOH」の組み合わせは、「T」の文字を180°回転させたパターンに対応しており、フィッシャー投影式で最上部に置かれる(F)「CHOH」の組み合わせは、「T」の文字のようなパターンに対応している。
【0033】
イズモフリート構造式(Izumofleet formula)の基本法則を示す図5から六炭糖のケトースであるD-フルクトースおよびポリオールであるD-ソルビトールを取り出して、(A)にフィッシャー投影式で表示したD-フルクトース、(B)にパターン図形(イズモフリート構造式)で表示したD-フルクトース
(C)にフィッシャー投影式で表示したD-ソルビトール、(D)にパターン図形(イズモフリート構造式)で表示したD-ソルビトールを併記して図15としている。
フィッシャー投影式で表示したD-フルクトースは、「CHOH」,「C=O」,「HO-C-H」,「H-C-OH」,「H-C-OH」および「CHOH」の6つの組み合わせに分けることができるため、(B)に示すパターン図形で表示することができる。さらに、フィッシャー投影式で表示したD-ソルビトールは、「CHOH」,「H-C-OH」,「HO-C-H」,「H-C-OH」,「H-C-OH」および「CHOH」の6つの組み合わせに分けることができるため、(D)に示すパターン図形で表示することができる。
【0034】
さらに、図16(A)~(D)は、本実施形態に係る表示方法で表示したグルコースおよびフルクトースの鏡面異性体を示している。このように、本実施形態に係る表示方法で鏡面異性体を表示することにより、鏡面異性体の立体配置の違いを直感的かつ容易に把握することも可能となる。
【0035】
また、図17は、図7のイズモリングに出てくるイソメラーゼ(Isomerase)反応を抜き出した、本実施形態に係る表示方法で、D-グルコースとD-フルクトースとの異性化反応を表示した図である。このように、本実施形態に係る表示方法で異性化反応を表示することにより、D-グルコースとD-フルクトースとの異性化反応において、D-グルコースおよびD-フルクトースのどの部位がどのように変化したかが、直感的かつ容易に把握することができる。
【0036】
図18は、D-グルコースから、D-アルロース、D-アロース、D-タガロース、L-アルロースを製造する合成経路を、本実施形態に係る表示方法で表示した図である。出発物質(D-グルコース)から、所定の生成物(D-アルロース、D-アロース、D-タガロース、L-アルロース)までの合成経路における有機化合物を、本実施形態に係る表示方法で表示することで、化学反応の前後でどのように有機化合物が変化したかを把握し易くすることができる。たとえば、図18に示す例において、エピメラーゼにより、D-フルクトースがD-アルロースに変換される反応では、第3位置(C3位)のヒドロキシ基(OH)がエピマー化されたことを容易に把握することができる。
【0037】
また、図3は、希少糖生産戦略を示すイズモリング(生産過程と分子構造(D型、L型)により、炭素数の異なる単糖全てをつないだ連携図)におけるヘキソースのイズモリングにおける、アルドース、ケトース、およびポリオールの全体の総数34の単糖を、本実施形態に係る表示方法で表示した図である。イズモリングは、4炭糖、5炭糖、6炭糖の単糖のエピマー化反応、酸化反応、異性化反応、還元反応による反応経路をまとめたものであり(図21参照)、ヘキソースのイズモリングは、単糖の種類が34種類もあるため、たとえフィッシャー投影式で糖を表現しても、一画面(あるいは一枚の紙)で表示することは困難であり、観察者が各反応を理解することが難しいという問題があった。これに対して、図3に示すように、イズモリングの有機化合物を、本実施形態に係る表示方法で表示することで、イズモリングを一画面(あるいは一枚の紙)で表示することができ、これにより、観察者が各反応を理解することが容易となる。
【0038】
次に、本実施形態に係る有機化合物の表示方法を実行可能なプログラムを有する、表示装置について説明する。図19は、本実施形態に係る表示装置1の構成を示す構成図である。本実施形態に係る表示装置1は、処理装置10と、記憶装置20と、ディスプレイ30とを有する。本実施形態において、記憶装置20には、本実施形態に係る有機化合物の表示方法を実行するためのプログラムが記憶されており、処理装置10により当該プログラムが読み出されて実行される。処理装置10は、当該プログラムに基づいて、有機化合物の化学構造式を本実施形態に係る有機化合物の表示方法のパターン図形に変換し、ディスプレイ30に表示する。
【0039】
図20は、本実施形態に係る有機化合物の表示方法を示すフローチャートである。以下に、図面に基づいて、本実施形態に係る有機化合物の表示方法を説明する。まず、ステップS1では、処理装置10により、機化合物の化学構造式が取得される。たとえば、処理装置10は、フィッシャー投影式で表示された有機化合物の化学構造式を示す画像データを取得することで、有機化合物の化学構造式を取得することができる。
【0040】
ステップS2では、処理装置10により、ステップS1で取得した有機化合物の化学構造式を、各炭素と当該炭素が結合する炭素以外の元素との組み合わせに分ける処理が行われる。たとえば、D-グルコースであれば、六炭糖であるため、「CHO」、「H-C-OH」,「HO-C-H」,「H-C-OH」,「H-C-OH」および「CHOH」の6つの組み合わせに分けることができる。
【0041】
ステップS3では、処理装置10により、ステップS2で分けられた各組み合わせに応じたパターンが選択される。なお、各組み合わせとパターンとの対応関係は、図2に示すように、記憶装置20に予め記憶されており、処理装置10は、記憶装置20に記憶されている対応関係に参照して、各組み合わせに応じたパターンを選択することができる。
【0042】
ステップS4では、処理装置10により、ステップS3で選択されたパターンを、第1位置(C1位置)から第n位置(Cn位)まで順番に結合させることで、有機化合物を示すパターン図形が生成される。そして、ステップS5では、処理装置10により、ステップS4で作成された有機化合物のパターン図形が、ディスプレイ30に表示される。
【0043】
以上のように、本実施形態では、有機化合物に含まれる各炭素と当該炭素が結合する炭素以外の元素との組み合わせをパターン化し、当該パターンを結合して表示することで、有機化合物を、フィッシャー投影式などの化学構造式で記載する場合と比べて、観察者に、直感的かつ容易に把握させることができる。また、本実施形態に係る有機化合物の表示方法では、フィッシャー投影式と同じように、不斉炭素の立体配置を表現することもできる。
【0044】
さらに、本実施形態に係る有機化合物の表示方法では、有機化合物の化学構造式を簡易なパターンに変換することで、有機化合物を表示するための表示スペースを省くことができるため、複雑な有機化合物の合成経路において、見やすさや理解のしやすさを高めることができる。また、有機化合物を表示するための表示スペースを省くことができるため、たとえば一画面(あるいは一枚の紙)で表示しきれなかった合成経路を一画面(あるいは一枚の紙)で表示することもできる。
【0045】
以上、本開示にて幾つかの実施形態を単に例示として詳細に説明したが、本発明の新規な教示及び有利な効果から実質的に逸脱せずに、その実施の形態には多くの改変例が可能である。
【0046】
たとえば、上述した実施形態では、処理装置10が有機化合物の化学構造式を画像データで取得することで、有機化合物の化学構造式をパターンに変換して表示する構成を例示したが、この構成に限定されず、たとえば、「D-グルコース」とテキスト入力された場合に、当該テキスト情報に対応するパターンに変換して表示する構成とすることができる。また、処理装置10は、記憶装置20に予め複数の有機化合物をパターン化したパターン画像データを用意しておき、ユーザーが当該パターン画像データを適宜選択する構成としてもよい。
【0047】
また、上述した実施形態では、本実施形態に係る有機化合物の表示方法を実行可能なプログラムを有する表示装置を用いて説明したが、本実施形態に係る有機化合物の表示方法は、表示装置に限定されず、たとえば当該表示方法で有機化合物を表示した教材、玩具、書籍、印刷物などにも適用することもできる。
【0048】
さらに、上述した実施形態では、有機化合物として糖を例示して説明したが、この構成に限定されず、糖以外の有機化合物についても適用することができる。
【0049】
<イズモフリート構造式を用いたイズモリング盤>
イズモリング(Izumoring)を構成する6炭糖であるアルドース、ケトース、およびポリオールの全体の総数34の単糖について、フィッシャー投影式を構成するCHO,C=O,OH-C-H,H-C-OHおよびCHOHのいずれかである各炭素と当該炭素が結合する炭素以外の元素との組み合わせを丸○と棒|の組み合わせでパターン化し、それらのいずれかのパターンを組み合わせて一の単糖のフィッシャー投影式に対応するパターン構造式とし、該パターン構造式を縦にしてイズモリング(Izumoring)を構成する6炭糖をイズモリングに表示することを特徴とするイズモリング(Izumoring)盤を図2および図3に示す。図2のイズモリング盤は、イズモリング早見盤として単糖構造式の学習用教材に用いることができる。イズモリング盤が平面上を360°回転可能に設けられている単糖構造式の学習用教材である。図1には上記イズモリング(Izumoring)盤を盤の直径よりも幅が狭いが直径より長い長方形のダンボール用紙を三枚の間に回転可能に挟んだイズモリング早見盤の上面図が示されている。三枚の用紙の中間紙にはイズモリング盤が回転可能にはめ込まれるような切り抜きが施されている。この教材は、イズモリングの原理及び希少糖の構造を、イズモフリート構造式で理解するために考案した。現在はデジタルの時代であり、スマホ等を用いた教材があふれている。そんな中、時代遅れのアナログの教材をダンボール用紙で創作した。手で持ち、指先で構造を回す。常に机の上に置き、構造をもとに議論をする。そんな教材もあってもいい。グルグル回して、楽しんでほしい。
【0050】
早見盤を用いて希少糖の分子構造を探す方法を示す。
(I)1)アルドースは円の外側に位置し、ピンクの16個である。2)ケトースは中心の円にあり、8種が存在する。3)ポリオールはケトースとケトースを結合し、内部に10個存在する。指先でグルグル回しながら目的の希少糖を見つける。
(II)希少糖をつくる方法を探す。1)目的とする希少糖を円の中に移動する。2)その希少糖と周辺の糖を結合する酵素を確認する。イソメラーゼ(少し細い実線)はアルドースとケトースを結合する。デヒドロゲナーゼ(点線)はケトースとポリオールを結合する。ケトース3-エピメラーゼ(太い実線)はケトースとケトースを結合する。3)酵素を確認し、最も適切な経路を見つけ出す。
(III)イズモリング早見盤を楽しむ。多数の希少糖の分子構造を指で回して楽しむだけでよい。
図1
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