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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072776
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 21/14 20060101AFI20220510BHJP
   H02K 1/27 20220101ALI20220510BHJP
【FI】
H02K21/14 M
H02K1/27 501A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020182411
(22)【出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】519315578
【氏名又は名称】株式会社マグネイチャー
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】横山 修一
(72)【発明者】
【氏名】黄 声揚
(72)【発明者】
【氏名】畑谷 成郎
【テーマコード(参考)】
5H621
5H622
【Fターム(参考)】
5H621BB06
5H621BB07
5H621HH01
5H622CA02
5H622CA05
5H622CA13
5H622PP03
5H622QB02
(57)【要約】
【課題】単位体積あたりの出力を維持しつつ電機子巻線の過熱を抑制し得る回転電機を提供する。
【解決手段】シングルハルバッハモータ1は、界磁子2と、界磁子2の外周を囲むように配置されて多相の電機子巻線30を有する電機子と、これらを収容するハウジング15,16と、を備える。電機子は、各相の電機子巻線30を収容保持する凹部が形成されたコイルホルダ12を有し、電機子巻線30は、界磁子2の単位永久磁石に対向する位置で周方向に所定間隔で直線状に相巻線が配置されたコイルサイド32と、コイルサイド32に対して軸方向の前後に湾曲して相巻線が配置された二つのコイルエンド31,33と、を有する。界磁子2は、複数の単位永久磁石が、二つのコイルエンド31,33の少なくとも一方に対して径方向で対向する範囲に位置するようにコイルサイド32よりも軸方向に張り出している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単位永久磁石を円筒状に配列した構造を有する界磁子と、該界磁子の周囲を囲むように配置されて多相の電機子巻線を有する電機子と、前記界磁子および電機子を収容するハウジングと、を備え、前記界磁子が回転子とされている回転電機であって、
前記電機子は、前記界磁子に対向配置されて且つ周方向に沿って湾曲形成された空芯の前記電機子巻線と、該電機子巻線を収容保持する凹部が形成されたコイルホルダと、を有し、
前記電機子巻線は、前記界磁子の単位永久磁石に対向する位置で周方向に所定間隔で直線状に相巻線が配置されたコイルサイドと、該コイルサイドに対して軸方向の前後に湾曲して相巻線が配置された二つのコイルエンドと、を有し、
前記界磁子は、前記複数の単位永久磁石が、前記二つのコイルエンドの少なくとも一方に対して径方向で対向する範囲に位置するように前記コイルサイドよりも軸方向に張り出していることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
前記ハウジングと前記電機子との間には、電磁鋼板が周方向に沿って円筒状に積層されてなるヨークが設けられており、
前記ヨークは、前記コイルサイドよりも軸方向に張り出している前記界磁子に対向するように前記コイルサイドよりも軸方向に張り出している請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記界磁子の位置を検出するホール素子を更に備え、
前記ホール素子は、前記コイルホルダのうち前記コイルサイドを収容する部分の空隙部に配置されており、
前記複数の単位永久磁石は、前記二つのコイルエンドの少なくとも一方に対して前記ホール素子に対して径方向で対向するように、前記コイルサイドよりも軸方向に張り出している請求項1または2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記界磁子は、複数の前記単位永久磁石を周方向に沿って円筒状に組み合わせてハルバッハ配列されたものである請求項1~3のいずれか一項に記載の回転電機。
【請求項5】
前記界磁子は、四角柱状をなす複数の前記単位永久磁石と、中空円筒状をなす非磁性部材製の内筒および外筒と、を備え、
前記内筒および前記外筒は互いに同軸に配置されるとともに、該同軸に配置された前記内筒と前記外筒との対向空間内に拘束されるように、前記複数の単位永久磁石がハルバッハ配列をなして前記内筒および前記外筒と同軸の円筒状に配置されている請求項4に記載の回転電機。
【請求項6】
前記内筒および前記外筒は、炭素繊維強化プラスチックによって形成されている請求項5に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機を駆動すると、磁場を形成する電機子巻線に発熱が生じる。そのため、回転電機においては、冷却ファンや放熱フィンなどの冷却手段をハウジングに設けるなどによって電機子巻線の過熱を抑制している。
他方、電機子巻線の冷却手段として、回転電機のハウジング外周面に張り出す放熱フィンを設けることで回転電機が大型化したり、また、冷却ファンなどの冷却手段を取り付けることでコストの上昇を招いたりしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-122245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これに対し、例えば特許文献1に記載の技術では、電機子巻線のコイルエンドが、コイルサイドに対して径方向に張り出して設けられるとともに、コイルエンド自身の内部に、周方向に繋がる環状空洞を形成している。
同文献記載の技術によれば、径方向に張り出して設けられる環状空洞が、電機子巻線で生じた熱を放熱する放熱部として機能する。そのため、電機子巻線の放熱性を高めることができる。
【0005】
しかし、同文献記載の技術では、コイルエンドの部分を、環状空隙を形成するように径方向に張り出して曲げることが難しく、生産性を考慮すると改善の余地がある。
また、径方向に張り出したコイルエンドの部分により、回転電機の外形が大型化するという問題がある。そのため、単位体積あたりの出力を維持しつつ電機子巻線の過熱を抑制する上で不十分である。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、単位体積あたりの出力を維持しつつ電機子巻線の過熱を抑制し得る回転電機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る回転電機は、複数の単位永久磁石を円筒状に配列した構造を有する界磁子と、該界磁子の周囲を囲むように配置されて多相の電機子巻線を有する電機子と、前記界磁子および電機子を収容するハウジングと、を備え、前記界磁子が回転子とされている回転電機であって、前記電機子は、前記界磁子に対向配置されて且つ周方向に沿って湾曲形成された空芯の前記電機子巻線と、該電機子巻線を収容保持する凹部が形成されたコイルホルダと、を有し、前記電機子巻線は、前記界磁子の単位永久磁石に対向する位置で周方向に所定間隔で直線状に相巻線が配置されたコイルサイドと、該コイルサイドに対して軸方向の前後に湾曲して相巻線が配置された二つのコイルエンドと、を有し、前記界磁子は、前記複数の単位永久磁石が、前記二つのコイルエンドの少なくとも一方に対して径方向で対向する範囲に位置するように前記コイルサイドよりも軸方向に張り出していることを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様に係る回転電機によれば、界磁子は、複数の単位永久磁石が、相巻線が湾曲配置された二つのコイルエンドの少なくとも一方に対して径方向で対向する範囲に位置するようにコイルサイドの部分よりも軸方向に張り出しているので、複数の単位永久磁石が径方向で対向する、電機子巻線のコイルエンドの部分も出力発生部として機能させることができる。
【0008】
これにより、その出力の増加分に応じた印加電流を低減しても、回転電機の単位体積あたりの出力を維持できる。そのため、出力発生部として機能するコイルエンド部分での出力の増加分に応じ、単位体積あたりの出力を維持するように回転電機を制御することで印加電流を低減できる。よって、本発明の一態様に係る回転電機によれば、回転電機の単位体積あたりの出力を維持しつつ、電機子巻線の過熱を効果的に抑制できる。
【0009】
そして、本発明の一態様に係る回転電機によれば、空芯の電機子巻線の巻回形態は、界磁子に対向配置されて且つ周方向に沿って湾曲形成されているので、コイルエンドの部分が径方向に張り出している巻回形態と比べて、回転電機の外形を小型化できる。そのため、単位体積あたりの出力を維持する上で優れた構造である。また、コイルエンドの部分を径方向に張り出して曲げることも不要なので、生産性にも優れている。
【0010】
ここで、本発明の一態様に係る回転電機において、前記界磁子の位置を検出するホール素子を更に備え、前記ホール素子は、前記コイルホルダのうち前記コイルサイドを収容する部分の空隙部に配置されており、前記複数の単位永久磁石は、前記二つのコイルエンドの少なくとも一方に対して前記ホール素子に対して径方向で対向するように、前記コイルサイドよりも軸方向に張り出していることは好ましい。
【0011】
つまり、従来のBL(ブラシレス)DCモータであると、コイルの鉄芯があるため電磁反作用によるノイズが生じることから、磁場の影響に対する考慮が必要なので、界磁子の位置を検出する位置検出センサとしてのホール素子の配置に工夫を要する。そのため、従来のBLDCモータでは、ホール素子にノイズが入り難いように、止む無く、ずれた位置にホール素子を配したり、そのずれ分の補正処理を行ったりしてこれに対処している。
【0012】
これに対し、本発明の一態様に係る回転電機のような、BLDCコアレスモータであれば、電機子巻線は、鉄芯のない空芯コイルなので電磁反作用がほとんどない。そのため、磁場の影響に対する考慮が不要である。また、ホール素子にノイズも入らず、ホール素子の配置の自由度が高い。特に、電機子巻線が空芯コイルなので、このコイル中心の空芯部や、コイルホルダの隅の空隙部にホール素子を容易に配置できる。
【0013】
また、本発明の一態様に係る回転電機において、前記界磁子は、複数の前記単位永久磁石を周方向に沿って円筒状に組み合わせてハルバッハ配列されたものであることは好ましい。
つまり、単位永久磁石がハルバッハ配列の界磁子の場合、隣接する単位永久磁石相互は同極が近づく配置になるため、熱減磁し易くなるという問題を内包する。
これに対し、本発明によれば、印加電流を低減して電機子巻線の過熱を効果的に抑制し得るので、ハルバッハ配列の界磁子に対して可及的に熱が伝わらないように印加電流を制御することで、その結果、ハルバッハ配列の界磁子の単位永久磁石に対して熱が伝わり難くなるといえる。
【0014】
また、例えば従来のコアレスモータは、SN配列磁石による界磁子なので、方形波が鎖交するため、正弦波が得られるように、難しい重ね巻きコイルの巻き方が採用されている。これに対し、本発明の一態様に係る回転電機であれば、ハルバッハ配列を界磁子に採用した場合、正弦波が鎖交するので、簡単な構成である集中巻きの空芯コイル3つで電機子を構成できる。
特に、4極の界磁子で集中巻きの空芯コイルを3スロットとする構成は回転電機としての性能が良いといえる。つまり、鉄心のないコアレスモータでは、4極:3スロットのときに鎖交磁束が最大になるからである。そのため、本発明の一態様に係る回転電機において、集中巻きの3つの空芯コイル×4極のハルバッハ界磁子を採用することが好ましい。
【0015】
また、本発明の一態様に係る回転電機において、ハルバッハ配列の界磁子の内外周面に内筒および外筒を設ける場合、これら内筒および外筒は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)によって形成されていることは好ましい。このような構成であれば、内筒および外筒が炭素繊維強化プラスチックなので熱伝導率が高い。
そのため、ハルバッハ配列の界磁子の内外周面にて可及的速やかに熱を分散できる。よって、隣接する単位永久磁石相互の熱減磁を防止または抑制する上で好適である。また、棒状の単位永久磁石の端面からの漏れ磁束を防止するための端面蓋を設けた構成であれば、この端面蓋に向けて、内筒および外筒から速やかに熱を逃がすことができる。
【発明の効果】
【0016】
上述したように、本発明によれば、単位体積あたりの出力を維持しつつ、電機子巻線の過熱を抑制し得る回転電機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一態様に係る回転電機の一実施形態であるシングルハルバッハモータの斜視図であり、同図では、一部を軸方向に沿って破断して図示している。
図2図1のシングルハルバッハモータを軸方向に沿って破断して示す説明図である。
図3図1のシングルハルバッハモータの電機子を示す斜視図であり、同図では、円筒状の外筒を軸方向にスライド移動した装着前の状態を示している。
図4図1のシングルハルバッハモータの電機子を示す側面図(a)、および正面図(b)である。
図5図1のシングルハルバッハモータを軸方向後方から見た説明図である。
図6図1のシングルハルバッハモータの界磁子を示す斜視図(a)、および界磁子部の界磁子配列を説明する模式図(b)である。
図7】本発明の一態様に係る回転電機の変形例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。本実施形態は、回転電機として、三相同期電動機として構成されたシングルハルバッハモータに、本発明を適用した例である。
なお、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
【0019】
図1および図2に示すように、本実施形態のシングルハルバッハモータ1は、複数の単位永久磁石2tを円筒状に配列した構造を含んで構成された円筒状の界磁子2と、界磁子2の外周面に径方向で対向配置するように、3つの電機子巻線30が収容されたコイルホルダ12と、を有する。本実施形態のシングルハルバッハモータ1は、下部がベース17によって支持された状態で設置対象に装着される。
【0020】
界磁子2の中心には、回転電機の入力または出力軸となるシャフト10が同軸に固定されている。本実施形態では、シャフト10には、その軸方向前後に離隔して一対のシャフトフランジ11が設けられ、一対のシャフトフランジ11が、軸方向前後の界磁子端部ホルダ6の外側の面に、複数のホルダ固定ボルト22によって固定されることにより一体とされている。
そして、シャフト10は、軸方向の前後に配置される一対のハウジング15、16それぞれの中心部に設けられた組み合わせ軸受け20によって回転自在に支持されるとともに、シャフト10の後端部が、C型止め輪21によってリアハウジング16に保持されることで軸方向の位置が規定されている。
【0021】
本実施形態の電機子巻線30は、図3図4および図5に示すように、平面視が小判型をなす空芯コイルであり、周方向に沿って湾曲形成されている。
小判型の電機子巻線30は、界磁子2の磁石部に対して径方向にて対向するように直線状に配置されたコイルサイド32と、コイルサイド32よりも軸方向での前後に位置して湾曲して配置される二つのコイルエンド31,33と、を有する。
二つのコイルエンド31,33は、湾曲して配置されることで、相巻線を周方向に周回させる周回部分である。電機子巻線30にリッツ線が用いることで、電流損失の増大を抑制でき、コイルの発熱を抑制できる。
【0022】
ここで、本実施形態のコイルホルダ12は、図3および図4に示すように、中空円筒状をなす非磁性且つ非導電性の部材製のコイルホルダ内筒13およびコイルホルダ外筒14を有して構成されている。本実施形態のコイルホルダ内筒13およびコイルホルダ外筒14は、炭素を型に収めて加圧・焼結することによって形成されたグラファイト製である。
【0023】
コイルホルダ内筒13は、その外周側を向く円筒面に、電機子巻線30を収容する楕円状の凹部13dが周方向に離隔して三か所に一体形成されている。コイルホルダ内筒13の楕円状の各凹部13dは、電機子巻線30が収容された後に、コイルホルダ外筒14がコイルホルダ内筒13と同軸に装着され、このコイルホルダ外筒14によってコイルホルダ内筒13の外面全体が覆われる。
【0024】
コイルホルダ12は、コイルホルダ内筒13の内周面が、界磁子2の外周面に対して適切な対向隙間を隔てた位置に位置するように、軸方向前後に離隔して設けられた一対のハウジング15、16によって保持される。一対のハウジング15、16同士の間には、電磁鋼板製の複数のヨーク7が配置されている。
この例では、複数のヨーク7は、図1および図2に示すように、例えば500枚が周方向に沿って円筒状に積層されており、複数のヨーク7の外側が円筒状の外ヨーク9で支持されるとともに、軸方向の前後から一対のヨーク押え8で支持される。
【0025】
一対のヨーク押え8が、外ヨーク9に複数のヨーク固定ボルト23で固定されることで、複数のヨーク7の配置姿勢が保持される。そして、上記一対のハウジング15、16は、軸方向の前後それぞれから、複数のハウジング固定ボルト24によって、一対のヨーク押え8の端面に固定される。
【0026】
電機子巻線30は、図3および図4(a)に示すように、円筒状のコイルホルダ内筒13の凹部13dに樹脂モールドされ、樹脂モールドされたコイルサイド32、およびコイルエンド31,33の部分全体が、円筒状のコイルホルダ外筒14によって覆われることで、ハウジング15,16それぞれの内周面にコイルホルダ外筒14を介して密着状態で保持される。
【0027】
コイルホルダ内筒13の3つの凹部13dの中心部には、長方形状の凸部13tが形成され、空芯コイル中心の空隙部30kが凸部13tの外周面にはめ込まれることで、電機子巻線30が所期の装着位置に確実に保持されるようになっている。そして、軸方向前側のコイルエンド(前)31は、フロントハウジング15の内部に収容されるように配置され、軸方向後側のコイルエンド(後)33は、リアハウジング16の内部に収容されるように配置される。
【0028】
本実施形態のシングルハルバッハモータ1では、図3および図4(a)に示すように、界磁子2の位置を検出する位置検出センサとして3つのホール素子40を備えている。3つのホール素子40は、各電機子巻線30に対して、各電機子巻線30のコイルサイド32を収容するコイルホルダ内筒12の隅部分の空隙部13kに配置される。
【0029】
3つの電機子巻線30は、図4(b)に示す、各電機子巻線30の巻き初めの端子30sが相互に繋がれて中性点とされている。なお、中性点には測定用の配線が接続され機外まで延設される。そして、各電機子巻線30の巻き終わりの各端子30a,30b,30cに三相交流がそれぞれ印加されるようになっている。
【0030】
界磁子2は、図6に示すように、所定の六面形状をなす単位永久磁石2tを周方向に複数個(この例では40個)を円筒状に組み合わせてハルバッハ配列された4極のN・S磁界構造を有するものである。複数の単位永久磁石2tは、所定のハルバッハ配列となるように、隣り合う単位永久磁石2t相互の磁性方向が異ならせたものが組み合わされている。
なお、同図において、各単位永久磁石2tの端面に示す矢印は、それぞれのもつ磁性方向のイメージを示しており、矢印基端側がS極、先端側がN極である。
【0031】
ハルバッハ配列は、例えば図6(b)に示すように、3の倍数に2を加えた数の何れか一つが分割数とされ、電気角1周期を分割数で除した角度ずつ着磁方向が順に変更されてなる単位永久磁石2tが配列されることが好ましい。この場合、すべての単位永久磁石2tの着磁方向に平行な断面積形状が同一であることは勿論である。
これにより、シングルハルバッハモータ1によれば、定格回転数に達するまでに機械的共振周波数を通過するものの、トルクリップルが抑制されることにより、機械的共振周波数を通過する際の振動が抑制される。
【0032】
界磁子2は、所定の六面形状をなす複数の単位永久磁石2tの列が、径方向内側に薄肉円筒状の界磁子ホルダ内筒3がはめ込まれるととともに、径方向外側に薄肉円筒状の界磁子ホルダ外筒4が同軸にはめ込まれている。内外の界磁子ホルダ3、4は炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製である。
【0033】
単位永久磁石2tの所定の六面形状は、軸方向両端の2つの面が相互に平行で且つ合同な矩形若しくは扇形またはこれらを組み合わせた形状であって軸方向に沿った他の4つの面が、軸方向両端の2つの面相互の対向する輪郭線に沿った平面または湾曲面になっている立体形状を採用できる。
本実施形態の界磁子2では、複数の単位永久磁石2tは、六面形状の態様が、軸方向両端の2つの面が相互に平行で且つ合同な台形形状であり、他の4つの面は、すべて軸方向に沿った平行四辺形形状をなす四角柱状である。
【0034】
複数の単位永久磁石2tは、同軸に配置された界磁子ホルダ内筒3と界磁子ホルダ外筒4との対向空間内に拘束されるように、複数の単位永久磁石2tがハルバッハ配列をなして界磁子ホルダ内筒3と界磁子ホルダ外筒4と同軸の円筒状に配置される。
特に、本実施形態の界磁子2は、円筒状に配置された複数の単位永久磁石2tは、相互に接着されることなく、界磁子ホルダ内筒3と界磁子ホルダ外筒4のみによって径方向の位置が拘束される。なお、周方向の位置については、当然に、充填状態に隣接配置される複数の単位永久磁石2t相互によって拘束される。
【0035】
ここで、本実施形態の界磁子2は、図2に示すように、複数の単位永久磁石2tが、二つのコイルエンド31,33の少なくとも一方に対して径方向で対向する範囲に位置するようにコイルサイド32の部分よりも軸方向に張り出している。
複数の単位永久磁石2tは、二つのコイルエンド31,33の少なくとも一方に対してホール素子40に対して径方向で対向する側が、コイルサイド32の部分よりも軸方向に張り出している。
【0036】
本実施形態では、複数の単位永久磁石2tは、二つのコイルエンド31,33に対して、ホール素子40は後方のコイルエンド33に対し、コイルホルダ内筒12の隅部分の空隙部13kに配置されていることから、後方のコイルエンド33側がコイルサイド32の部分よりも、コイルエンド33の先端部近傍まで軸方向に長く張り出している。
【0037】
一方、本実施形態では、前方のコイルエンド31に対しては、コイルサイド32の部分よりも軸方向に張り出してはいるものの、その張り出し量は前方のコイルエンド31の途中部分までであって、後方のコイルエンド33側の張り出し量に比べて、張り出し量は少なく設定された非対称張り出し構造になっている。
【0038】
界磁子内ホルダ3の内周面には、内ヨーク5が同軸にはめ込まれる。また、内ヨーク5端面の固定雌ねじ部に対し、軸方向の前後に、端面蓋としての界磁子端部ホルダ6が複数のホルダ固定ボルト22によって固定される。これにより、複数の単位永久磁石2tの円筒状組み合わせ状態が保持される。
また、界磁子端部ホルダ6により、棒状の単位永久磁石2tの端面からの漏れ磁束を防止するとともに、界磁子端部ホルダ6に向けて、界磁子ホルダ内筒3と界磁子ホルダ外筒4からの熱を速やかに逃がすことができるので、放熱性をより向上させることが可能になっている。
【0039】
次に、本実施形態のシングルハルバッハモータ1の動作、および作用効果について説明する。
本実施形態のシングルハルバッハモータ1は、各電機子巻線30の巻き終わりの各端子に三相交流がそれぞれ印加され、3つの電機子巻線30に対して時間的に120°遅れたU相、V相、W相の交流を順に流すことで、その移動磁界に4極の界磁子2のN・S磁界が引かれることで界磁子2が同期して、三相交流電流の周波数に応じた回転数で回転することができる。なお、起動時は、3つのホール素子40から界磁子2の位置情報を取得することで、安定した起動制御が可能になっている。
【0040】
本実施形態のシングルハルバッハモータ1によれば、電機子巻線30は、円筒状のコイルホルダ内筒12の外周面に形成された凹部に樹脂モールドされ、樹脂モールドされたコイルサイド32、およびコイルエンド31,33の部分全体が、ハウジング12の内周面にコイルホルダ外筒14を介して密着保持されているので、前後のコイルエンド31,33が、電機子巻線30で生じた熱を放熱する放熱部として効果的に機能するため、各電機子巻線30の放熱性を高めることができる。
【0041】
特に、本実施形態のシングルハルバッハモータ1によれば、コイルホルダ12は、中空円筒状をなす非磁性且つ非導電性の部材のコイルホルダ内筒13およびコイルホルダ外筒14を有し、コイルホルダ内筒13およびコイルホルダ外筒14が同軸に配置されるとともに、該同軸に配置されたコイルホルダ内筒13とコイルホルダ外筒14との対向空間内に各電機子巻線30が拘束されているので、回転電機用電機子を、小型でコンパクトなユニットとして構成することができる。
【0042】
そして、コイルホルダ内筒13およびコイルホルダ外筒14が同軸に配置された対向空間内に各電機子巻線30が拘束されているので、一対のハウジング15、16への装着位置に対して、電機子自身の軸心を精度良く管理可能となり、対向配置される界磁子2との同軸度も精度良く装着することができる。
【0043】
さらに、コイルホルダ12は、中空円筒状をなす非磁性且つ非導電性の部材(この例ではグラファイト)製のコイルホルダ内筒13およびコイルホルダ外筒14から構成され、それらの対向空間内に各電機子巻線30が拘束されているので、各電機子巻線30からの熱を内外で密着する非磁性且つ非導電性の部材のコイルホルダ内筒13およびコイルホルダ外筒14へと効率良く伝熱させることができる。
【0044】
そのため、各電機子巻線30の過熱を抑制可能とする構造として優れている。よって、本実施形態に係るコイルホルダ12を有する電機子によれば、小型でコンパクトな構成とし且つ生産性を向上する上で好適であり、電機子巻線30の過熱を効果的に抑制できる。特に、本実施形態に係るコイルホルダ12であれば、伝熱効率の高いグラファイトによってコイルホルダ内筒13およびコイルホルダ外筒14が形成されているので、各電機子巻線30の過熱を抑制する上でより好適である。
【0045】
また、コイルホルダ内筒13は、コイルホルダ内筒13の外周面に、各電機子巻線30を収容する凹部が一体成型されており、各電機子巻線30は、コイルホルダ内筒13の凹部に樹脂モールドされているので、各電機子巻線30の装着姿勢をより安定させる構造として優れている。そのため、生産性を向上する上でより好適であり、また、コイルホルダ12と各電機子巻線30との密着性を向上する上でより好適となるので、各電機子巻線30の過熱を抑制する上でも優れた構成といえる。
【0046】
さらに、本実施形態のシングルハルバッハモータ1によれば、界磁子2は、複数の単位永久磁石2tが、二つのコイルエンド31,33の少なくとも一方に対して径方向で対向する範囲に位置するようにコイルサイド32よりも軸方向に張り出しているので、複数の単位永久磁石2tが径方向で対向する、電機子巻線30のコイルエンド31,33の部分も出力発生部として機能させることができる。
【0047】
そのため、その増加分に応じた印加電流を低減しても、シングルハルバッハモータ1の単位体積あたりの出力を維持できる。そして、出力発生部として機能する増加分に応じた印加電流を低減できるため、P=RI^2の関係式からも明らかなように、二乗で効いてくる電機子巻線30の過熱を効果的に抑制できる。
【0048】
そして、空芯の電機子巻線30の巻回形態は、平面視が小判型で且つ周方向に沿って湾曲形成されているため、コイルエンド31,33の部分が径方向に張り出している巻回形態と比べて、シングルハルバッハモータ1の外形を小型化できる。また、コイルエンド31,33の部分を径方向に張り出して曲げることも不要なので、生産性にも優れている。
【0049】
また、本実施形態のシングルハルバッハモータ1においては、界磁子2の位置を検出する位置検出センサとして、3つのホール素子40を備え、各ホール素子40が、各電機子巻線30に対して、コイルサイド32を収容するコイルホルダ内筒12の空隙部に配置され、複数の単位永久磁石2tが、二つのコイルエンド31,33の少なくとも一方に対してホール素子に対して径方向で対向する側が、コイルサイド32の部分よりも軸方向に張り出している。
【0050】
つまり、従来のBL(ブラシレス)DCモータであると、コイルの鉄芯があるため電磁反作用による磁場の影響に考慮が必要となる。そのため、位置検出センサ(ホール素子)の配置に工夫が必要である。そのため、従来のBLDCモータでは、止む無くずれた位置に位置検出センサを配置してその分の補正を行ったりしている。
【0051】
これに対し、本実施形態のシングルハルバッハモータ1のような、BLDCコアレスモータであれば、電機子巻線30が空芯コイルなので、磁場の影響に対する考慮が不要である(電磁反作用がほとんどないため)。そのため、ホール素子40にノイズも入らず、ホール素子40の配置の自由度が高い。
特に、電機子巻線30が空芯コイルなので、この空芯部やコイルホルダ内筒12の空隙部にホール素子40を容易に配置できる。本実施形態の例では、単位永久磁石2tが電気角1周期のハルバッハ配列である。そのため、ホール素子40では正弦波状の磁束が検出されるので、より精度よく磁極の位置を検出でき、始動時から駆動効率の良いベクトル制御が適用できる。また、効率が向上すれば同じ出力に対して入力を減少させることができ、以って電機子巻線30に流れる電流が減少するので電機子巻線30の過熱が抑制できる。
【0052】
また、本実施形態のシングルハルバッハモータ1においては、界磁子2が、単位永久磁石2tを周方向に複数個を円筒状に組み合わせてハルバッハ配列されたものであることから、隣接する単位永久磁石2t相互は、同極が近づく配置になるため、熱減磁し易くなるという問題を内包する。これに対し、本実施形態のシングルハルバッハモータ1によれば、電機子巻線30の過熱を効果的に抑制し得るので、ハルバッハ配列の界磁子2に対して、可及的に熱が伝わらないように印加電流を抑制することで、その結果、ハルバッハ配列の界磁子2の単位永久磁石2tに熱が伝わり難くなるといえる。
【0053】
また、本実施形態のシングルハルバッハモータ1によれば、界磁子ホルダ外筒4が炭素繊維強化プラスチック製なので熱伝導率が高いため、ハルバッハ配列の界磁子2の外周面にて可及的速やかに熱を分散できる。そのため、隣接する単位永久磁石2t相互の熱減磁を防止または抑制する上で好適である。また、棒状の単位永久磁石2tの端面からの漏れ磁束を防止するための界磁子端部ホルダ6に向けて界磁子外ホルダ4から速やかに熱を逃がすことができる。
【0054】
また、本実施形態のシングルハルバッハモータ1によれば、界磁子2側の界磁子ホルダ内筒3および界磁子ホルダ外筒4による二重円筒構造と、コイルホルダ12による電機子側のコイルホルダ内筒13とコイルホルダ外筒14とによる二重円筒構造と、を同軸に配置した「四重円筒構造」によって回転電機を構成している。そのため、シングルハルバッハモータ1の界磁子および電機子の軸心を精度良く管理する上で優れた構成であり、対向配置される界磁子と電機子の同軸度もより一層精度良く装着できる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態のシングルハルバッハモータ1によれば、単位体積あたりの出力を維持しつつ電機子巻線の過熱を抑制し得る回転電機として好適である。なお、本発明に係る回転電機は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能なことは勿論である。
【0056】
例えば、上記実施形態のシングルハルバッハモータ1においては、界磁子2は、複数の単位永久磁石2tが、二つのコイルエンド31,33に対し、コイルサイド32の部分よりも軸方向に張り出している例を示したが、これに限定されない。
つまり、本発明に係る回転電機では、少なくとも界磁子2は、複数の単位永久磁石2tが、二つのコイルエンド31,33の少なくとも一方に対して径方向で対向する範囲に位置するようにコイルサイド32よりも軸方向に張り出していればよい。
【0057】
例えば、図7に変形例を示すように、二つのコイルエンド31,33のうち、例えば後方のコイルエンド33に対してのみ径方向で対向する範囲に位置するようにコイルサイド32よりも軸方向に張り出すように構成できる。
また、その逆に、図示は省略するが、二つのコイルエンド31,33のうち、例えば前方のコイルエンド33に対してのみ径方向で対向する範囲に位置するようにコイルサイド32よりも軸方向に張り出すように構成できる。
【0058】
また、本発明に係る回転電機では、例えば界磁子2は、二つのコイルエンド31,33の両方に対して複数の単位永久磁石2tを、コイルサイド32よりも軸方向に張り出すように構成する場合においても、上記実施形態に示したシングルハルバッハモータ1ように、二つのコイルエンド31,33に対する張り出し量を前後で異ならせることができるし、これに限らず、二つのコイルエンド31,33に対する張り出し量を同じ長さとしてもよい。
【0059】
また、本発明に関わる電動機では、界磁子2がコイルエンドの方向に張り出しているが、界磁子2に対向するようにヨーク7を張り出しても差し支えない。この場合、ヨーク7を張り出すことにより、重量は増加するが、コイルエンド31,33に鎖交する磁束の量が増加する。この効果により増加する出力を、コイル電流を減少させることにより一定に維持すればコイル全体の発熱量を減らし、電機子巻線30の過熱を効果的に抑制できる。
また、例えば上記実施形態のシングルハルバッハモータ1においては、空冷構造を基本として、電機子巻線のコイルエンド31,33の部分も出力発生部として機能させ、単位体積あたりの出力を維持しつつ電機子巻線の過熱を抑制する例を示したが、これに限らず、水冷構造を基本として本発明と組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 シングルハルバッハモータ(回転電機)
2 界磁子
3 界磁子ホルダ内筒
4 界磁子ホルダ外筒
5 内ヨーク
6 界磁子端部ホルダ(端面蓋)
7 ヨーク
8 ヨーク押え
9 外ヨーク
10 シャフト
11 シャフトフランジ
12 コイルホルダ
13 コイルホルダ内筒
14 コイルホルダ外筒
15 フロントハウジング
16 リアハウジング
17 ベース
20 軸受け
21 C型止め輪
22 ホルダ固定ボルト
23 ヨーク固定ボルト
24 ハウジング固定ボルト
30 電機子巻線
31 コイルエンド(前)
32 コイルサイド
33 コイルエンド(後)
40 ホール素子(位置検出センサ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7