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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072802
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】高周波誘導加熱装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/06 20060101AFI20220510BHJP
【FI】
H05B6/06 393
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020182446
(22)【出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】000227836
【氏名又は名称】日本アビオニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】保坂 儒人
【テーマコード(参考)】
3K059
【Fターム(参考)】
3K059AA08
3K059AC07
3K059AD04
3K059AD13
3K059CD73
(57)【要約】
【課題】被加熱物の温度を従来よりも小さい誤差で計測する。
【解決手段】高周波誘導加熱装置は、高周波電流の供給を受けて高周波誘導によって被加熱物11に誘導電流を発生させる加熱コイル1と、直流電圧を交流電圧に変換して、加熱コイル1に高周波電流を供給する発振器2と、発振器2の一次側に供給される電流を計測する電流センサ5と、電流センサ5によって計測された電流の積算値を、積算値と被加熱物11の温度との関係を示す回帰直線の式に入力することにより、被加熱物11の温度の推定値を算出する温度算出部6とを備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波電流の供給を受けて高周波誘導によって被加熱物に誘導電流を発生させるように構成された加熱コイルと、
直流電圧を交流電圧に変換して、前記加熱コイルに高周波電流を供給するように構成された発振器と、
前記発振器の一次側に供給される電流を計測するように構成された電流センサと、
前記電流センサによって計測された電流の積算値を、積算値と前記被加熱物の温度との関係を示す回帰直線の式に入力することにより、前記被加熱物の温度の推定値を算出するように構成された温度算出部とを備えることを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項2】
請求項1記載の高周波誘導加熱装置において、
前記被加熱物の温度の推定値が予め規定された温度閾値を超えているかどうかを判定するように構成された判定部をさらに備えることを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の高周波誘導加熱装置において、
前記被加熱物の温度の推定値を算出する前に行われる複数回の加熱試験時に、前記電流センサによって計測された加熱試験毎の電流の積算値のデータと前記被加熱物に取り付けられた温度センサによって計測された加熱試験毎の被加熱物の温度のデータとを取得して、取得したデータに基づいて前記回帰直線の式を求めるように構成された単回帰分析部をさらに備えることを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項4】
高周波電流の供給を受けて高周波誘導によって被加熱物に誘導電流を発生させるように構成された加熱コイルと、
直流電圧を交流電圧に変換して、前記加熱コイルに高周波電流を供給するように構成された発振器と、
前記発振器の二次側に供給される交流電流を計測するように構成された電流センサと、
前記発振器の二次側に供給される交流電圧を計測するように構成された電圧センサと、
前記電流センサによって計測された交流電流と前記電圧センサによって計測された交流電圧の積の積算値を、積算値と前記被加熱物の温度との関係を示す回帰直線の式に入力することにより、前記被加熱物の温度の推定値を算出するように構成された温度算出部とを備えることを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項5】
請求項4記載の高周波誘導加熱装置において、
前記被加熱物の温度の推定値が予め規定された温度閾値を超えているかどうかを判定するように構成された判定部をさらに備えることを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項6】
請求項4または5記載の高周波誘導加熱装置において、
前記被加熱物の温度の推定値を算出する前に行われる複数回の加熱試験時に、前記電流センサと前記電圧センサによって計測された加熱試験毎の交流電流と交流電圧の積の積算値のデータと、前記被加熱物に取り付けられた温度センサによって計測された加熱試験毎の被加熱物の温度のデータとを取得して、取得したデータに基づいて前記回帰直線の式を求めるように構成された単回帰分析部をさらに備えることを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁誘導の原理を利用して金属などを加熱する高周波誘導加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高周波誘導加熱装置は、加熱コイルに高周波電流を流して磁界を発生させ、加熱コイルの中あるいは加熱コイルの近傍に配置された金属製の被加熱物に誘導電流を発生させて、この誘導電流により被加熱物にジュール熱を発生させることにより、被加熱物を加熱するものである(特許文献1参照)。
【0003】
例えば金属製の被加熱物を樹脂部品に圧入する製造工程に高周波誘導加熱装置を利用する場合、被加熱物の温度を適切に管理することは高品質な製品を生産する上で重要な事項であるが、例えばナットやスリーブなどの個々の被加熱物に温度センサを取り付けることはできない。そこで、従来は放射温度計などによる温度管理が行われていた。
しかしながら、放射温度計による温度計測は外乱の影響を受け易く、例えば50℃~100℃の大きな計測誤差があるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-87807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、温度センサを取り付けることが難しい被加熱物の温度を従来よりも小さい誤差で計測することができる高周波誘導加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の高周波誘導加熱装置は、高周波電流の供給を受けて高周波誘導によって被加熱物に誘導電流を発生させるように構成された加熱コイルと、直流電圧を交流電圧に変換して、前記加熱コイルに高周波電流を供給するように構成された発振器と、前記発振器の一次側に供給される電流を計測するように構成された電流センサと、前記電流センサによって計測された電流の積算値を、積算値と前記被加熱物の温度との関係を示す回帰直線の式に入力することにより、前記被加熱物の温度の推定値を算出するように構成された温度算出部とを備えることを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明の高周波誘導加熱装置の1構成例は、前記被加熱物の温度の推定値が予め規定された温度閾値を超えているかどうかを判定するように構成された判定部をさらに備えることを特徴とするものである。
また、本発明の高周波誘導加熱装置の1構成例は、前記被加熱物の温度の推定値を算出する前に行われる複数回の加熱試験時に、前記電流センサによって計測された加熱試験毎の電流の積算値のデータと前記被加熱物に取り付けられた温度センサによって計測された加熱試験毎の被加熱物の温度のデータとを取得して、取得したデータに基づいて前記回帰直線の式を求めるように構成された単回帰分析部をさらに備えることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の高周波誘導加熱装置は、高周波電流の供給を受けて高周波誘導によって被加熱物に誘導電流を発生させるように構成された加熱コイルと、直流電圧を交流電圧に変換して、前記加熱コイルに高周波電流を供給するように構成された発振器と、前記発振器の二次側に供給される交流電流を計測するように構成された電流センサと、前記発振器の二次側に供給される交流電圧を計測するように構成された電圧センサと、前記電流センサによって計測された交流電流と前記電圧センサによって計測された交流電圧の積の積算値を、積算値と前記被加熱物の温度との関係を示す回帰直線の式に入力することにより、前記被加熱物の温度の推定値を算出するように構成された温度算出部とを備えることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の高周波誘導加熱装置の1構成例は、前記被加熱物の温度の推定値が予め規定された温度閾値を超えているかどうかを判定するように構成された判定部をさらに備えることを特徴とするものである。
また、本発明の高周波誘導加熱装置の1構成例は、前記被加熱物の温度の推定値を算出する前に行われる複数回の加熱試験時に、前記電流センサと前記電圧センサによって計測された加熱試験毎の交流電流と交流電圧の積の積算値のデータと、前記被加熱物に取り付けられた温度センサによって計測された加熱試験毎の被加熱物の温度のデータとを取得して、取得したデータに基づいて前記回帰直線の式を求めるように構成された単回帰分析部をさらに備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電流センサと温度算出部とを設けるか、または電流センサと電圧センサと温度算出部とを設けることにより、高周波誘導加熱装置を利用して被加熱物を加熱する工程において温度センサを取り付けることが難しい被加熱物の温度を従来の放射温度計よりも小さい誤差で計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の第1の実施例に係る高周波誘導加熱装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の第1の実施例に係る高周波誘導加熱装置の動作を説明するフローチャートである。
図3図3は、本発明の第1の実施例に係る回帰直線の導出方法を説明するフローチャートである。
図4図4は、1回の加熱試験中の電流と温度の変化の例を示す図である。
図5図5は、本発明の第1の実施例に係る回帰直線の導出方法を説明する図である。
図6図6は、本発明の第2の実施例に係る高周波誘導加熱装置の構成を示すブロック図である。
図7図7は、本発明の第2の実施例に係る高周波誘導加熱装置の動作を説明するフローチャートである。
図8図8は、本発明の第2の実施例に係る回帰直線の導出方法を説明するフローチャートである。
図9図9は、本発明の第2の実施例に係る回帰直線の導出方法を説明する図である。
図10図10は、本発明の第1、第2の実施例に係る高周波誘導加熱装置を実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[発明の原理]
高周波誘導加熱装置の加熱中の一次側の電圧Vと一次側の電流Iとの乗算値の積算値が被加熱物の温度と一次関数の関係になることが実験的に分かっている。
発明者は、加熱中の一次側の電圧Vが一定の場合、一次側の電流Iのみが変化するので、加熱中の電流Iの積算値から被加熱物の温度を求めることができることに想到した。
【0013】
[第1の実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施例に係る高周波誘導加熱装置の構成を示すブロック図である。高周波誘導加熱装置は、高周波電流の供給を受けて高周波誘導によって被加熱物11に誘導電流を発生させる加熱コイル1と、直流電圧Vを交流電圧に変換して、加熱コイル1に高周波電流を供給する発振器2と、発振器2と加熱コイル1との間に設けられたマッチングボックス3と、発振器2を制御する制御部4と、発振器2の一次側に供給される直流電流Iを計測する電流センサ5と、加熱中に計測された電流Iの積算値を、積算値と被加熱物11の温度との関係を示す回帰直線の式に入力することにより、被加熱物11の温度の推定値を算出する温度算出部6と、温度を表示する表示部7と、被加熱物11の温度の推定値が予め規定された温度閾値を超えているかどうかを判定する判定部8と、判定結果を出力する判定結果出力部9と、被加熱物11の温度の推定値を算出する前に行われる複数回の加熱試験時に得られたデータに基づいて回帰直線の式を求める単回帰分析部10とを備えている。
【0014】
図1に示すように、被加熱物11は、加熱コイル1の中(あるいは加熱コイル1の近傍)に配置される。被加熱物11の例としては、例えば加熱された状態で樹脂部品に圧入されるナットやスリーブなどがある。加熱コイル1と被加熱物11とは、機械的に固定されていることが必要となる。
【0015】
次に、本実施例の高周波誘導加熱装置の動作を図2を参照して説明する。制御部4は、例えばユーザからの加熱開始の指示に応じて(図2ステップS100においてYES)、発振器2に対して加熱制御信号を出力する。発振器2は、制御部4から加熱制御信号が入力されると、マッチングボックス3を介して加熱コイル1に高周波電流の供給を開始する(図2ステップS101)。マッチングボックス3は、発振器2と加熱コイル1のインピーダンスを整合させて、発振器2から加熱コイル1への高周波電流の供給効率を向上させるものである。加熱コイル1に高周波電流を供給することにより、加熱コイル1の中に配置された金属製の被加熱物11に誘導電流が発生し、この誘導電流により被加熱物11にジュール熱が発生する。
【0016】
発振器2は、外部から供給される直流電圧Vを交流電圧に変換して、加熱コイル1に高周波電流を供給する。電流センサ5は、この発振器2の一次側に供給される電流Iを計測する。
温度算出部6は、電流センサ5によって計測された電流Iのデータを取得する(図2ステップS102)。温度算出部6は、加熱開始(発振開始)時点からの加熱時間が設定値に達するまで(図2ステップS103においてYES)、電流Iのデータの取得を一定時間毎に行う。これにより、温度算出部6には、電流Iの時系列データが記録される。
【0017】
制御部4は、加熱時間が設定値に達すると、加熱制御信号の出力を停止する。これにより、発振器2は、加熱コイル1への高周波電流の供給を停止する(図2ステップS104)。これにより、被加熱物11の加熱が停止する。
【0018】
温度算出部6は、加熱時間が設定値に達して加熱が停止すると、加熱開始から加熱停止までの間に取得した電流Iの時系列データの積算値を、積算値と温度との関係を示す所定の回帰直線の式に入力することにより、被加熱物11の温度の推定値を算出する(図2ステップS105)。被加熱物11の温度Tの推定値をTE、電流Iの積算値をIINTEGRAL、積算値IINTEGRALと温度Tの推定値TEとの関係を示す回帰直線の傾きをa、回帰直線の切片をbとすると、回帰直線の式は以下のようになる。回帰直線の導出方法については後述する。
E=a×IINTEGRAL+b ・・・(1)
【0019】
表示部7は、温度算出部6によって算出された被加熱物11の温度Tの推定値TEを表示する(図2ステップS106)。なお、本実施例では、推定値TEを表示しているが、推定値TEのデータを外部に送信するようにしてもよい。
【0020】
判定部8は、温度算出部6によって算出された被加熱物11の温度Tの推定値TEが予め規定された温度閾値を超えているかどうかを判定する(図2ステップS107)。具体的には、判定部8は、推定値TEが温度下限値TLOWER未満あるいは温度上限値TUPPERを超過している場合、異常と判定し、推定値TEが温度下限値TLOWER以上で温度上限値TUPPER以下であれば、正常と判定する。
【0021】
判定結果出力部9は、判定部8の判定結果を出力する(図2ステップS108)。判定結果の出力方法としては、例えば判定結果を知らせる内容を表示したり、判定結果を知らせる情報を外部に送信したりする等の方法がある。
【0022】
こうして、高周波誘導加熱装置の動作が終了する。本実施例では、電流Iの積算値IINTEGRALと被加熱物11の温度Tとの関係を利用することにより、温度センサを取り付けることが難しい被加熱物11の温度を従来の放射温度計よりも小さい誤差で計測することができる。
【0023】
次に、電流Iの積算値IINTEGRALと被加熱物11の温度Tの推定値TEとの関係を示す回帰直線の導出方法について説明する。本実施例では、実際に被加熱物11を加熱して製品の製造を行う前に、製造時と同じ加熱コイル1および被加熱物11を使用して、事前の加熱試験を複数回行い、電流Iの積算値IINTEGRALのデータと被加熱物11の温度のデータとを取得して、回帰直線を求める。
【0024】
図3は回帰直線の導出方法を説明するフローチャートである。まず、高周波誘導加熱装置を使用するユーザは、加熱コイル1の中(あるいは加熱コイル1の近傍)に配置される被加熱物11に熱電対などの温度センサを取り付ける。
【0025】
制御部4は、例えばユーザからの試験開始の指示に応じて(図3ステップS200においてYES)、発振器2に対して加熱制御信号を出力する。発振器2は、制御部4から加熱制御信号が入力されると、マッチングボックス3を介して加熱コイル1に高周波電流の供給を開始する(図3ステップS201)。
【0026】
単回帰分析部10は、電流センサ5によって計測された電流Iのデータを取得する(図3ステップS202)。
被加熱物11に取り付けられた温度センサは、被加熱物11の温度Tを計測する。単回帰分析部10は、温度センサによって計測された温度Tのデータを取得する(図3ステップS203)。単回帰分析部10は、加熱開始時点からの加熱時間が設定値に達するまで(図3ステップS204においてYES)、電流Iと温度Tのデータの取得を一定時間毎に行う。これにより、単回帰分析部10には、電流Iの時系列データと温度Tの時系列データとが記録される。
【0027】
制御部4は、加熱時間が設定値に達すると、加熱制御信号の出力を停止する。これにより、発振器2は、加熱コイル1への高周波電流の供給を停止する(図3ステップS205)。
【0028】
次に、高周波誘導加熱装置は、被加熱物11を冷却する(図3ステップS206)。被加熱物11を強制的に冷やすために冷却装置(不図示)を用いる。ここでは、予め規定された時間だけ待つようにしてもよいし、温度センサによって計測された温度Tが規定値以下になるまで待つようにしてもよい。
【0029】
単回帰分析部10は、被加熱物11が冷えるまで待った後に、加熱条件を変更する(図3ステップS207)。加熱条件としては、加熱時間の設定値、加熱効率(マッチングボックス3のインピーダンス)がある。マッチングボックス3は、マッチングトランス(不図示)を備えており、このマッチングトランスのタップを変えることでインピーダンスを変更し、加熱効率を変更することができるようになっている。
単回帰分析部10は、加熱時間の設定値と加熱効率のうち少なくとも一方を変更する。
【0030】
制御部4は、加熱試験の回数が所定回数(例えば2回)に達したかどうかを判定し(図3ステップS208)、加熱試験の回数が所定回数に達していない場合、ステップS201に戻って、発振器2に対して加熱制御信号を出力する。
こうして、所定回数の加熱試験が終わるまで、ステップS201~S207の処理が繰り返し実施される。図4は1回の加熱試験中の電流Iと温度Tの変化の例を示す図である。
【0031】
単回帰分析部10は、所定回数の加熱試験の終了後、記録した電流Iの時系列データと温度Tの時系列データとに基づいて単回帰分析を行い、回帰直線の傾きaと切片bとを算出する(図3ステップS209)。
具体的には、単回帰分析部10は、加熱試験毎の電流Iの積算値IINTEGRALと、加熱試験毎の温度Tの最高値とが例えば図5のように得られたとき、最小二乗法により回帰直線Lの傾きaと切片bとを算出する。図5の例におけるI1は1回目の加熱試験における電流Iの積算値、T1は1回目の加熱試験における温度Tの最高値、I2は2回目の加熱試験における電流Iの積算値、T2は2回目の加熱試験における温度Tの最高値である。
【0032】
そして、単回帰分析部10は、算出した傾きaと切片bの値を温度算出部6に設定する(図3ステップS210)。
以上で、図3の処理が終了する。図3の処理は実際に被加熱物11を加熱して製品の製造を行う前に行われるが、加熱コイル1と被加熱物11のうち少なくとも一方の種類が変更された場合には図3の処理を再度行う必要がある。
【0033】
本実施例によれば、事前の加熱試験により回帰直線を導出して温度算出部6の設定を自動的に行うことができ、設備立ち上げの際の効率化を実現することができる。
【0034】
[第2の実施例]
次に、本発明の第2の実施例について説明する。図6は本発明の第2の実施例に係る高周波誘導加熱装置の構成を示すブロック図である。高周波誘導加熱装置は、加熱コイル1と、発振器2と、マッチングボックス3と、制御部4と、発振器2の二次側に供給される交流電流Iaを計測する電流センサ5aと、温度算出部6aと、表示部7と、判定部8と、判定結果出力部9と、単回帰分析部10aと、発振器2の二次側に供給される交流電圧Vaを計測する電圧センサ12とを備えている。
【0035】
次に、本実施例の高周波誘導加熱装置の動作を図7を参照して説明する。図7のステップS300,S301は、図2のステップS100,S101と同じである。
電流センサ5aは、発振器2の二次側に供給される交流電流Iaを計測する。電圧センサ12は、発振器2の二次側に供給される交流電圧Vaを計測する。
【0036】
温度算出部6aは、電流センサ5aによって計測された交流電流Iaのデータと電圧センサ12によって計測された交流電圧Vaのデータとを取得する(図7ステップS302)。温度算出部6aは、加熱開始(発振開始)時点からの加熱時間が設定値に達するまで(図7ステップS303においてYES)、交流電流Iaと交流電圧Vaのデータの取得を一定時間毎に行う。これにより、温度算出部6aには、交流電流Iaと交流電圧Vaの時系列データが記録される。
【0037】
温度算出部6aは、加熱時間が設定値に達して加熱が停止すると(図7ステップS304)、加熱開始から加熱停止までの間に取得した交流電流Iaと交流電圧Vaの積の時系列データの積算値を、積算値と温度との関係を示す所定の回帰直線の式に入力することにより、被加熱物11の温度の推定値を算出する(図7ステップS305)。被加熱物11の温度Tの推定値をTE、交流電流Iaと交流電圧Vaの積の積算値をWINTEGRAL、積算値WINTEGRALと温度Tの推定値TEとの関係を示す回帰直線の傾きをa、回帰直線の切片をbとすると、回帰直線の式は以下のようになる。回帰直線の導出方法については後述する。
E=a×WINTEGRAL+b ・・・(2)
【0038】
図7のステップS306~S208は、図2のステップS106~S108と同じである。
【0039】
次に、積算値WINTEGRALと被加熱物11の温度Tの推定値TEとの関係を示す回帰直線の導出方法について説明する。本実施例では、実際に被加熱物11を加熱して製品の製造を行う前に、製造時と同じ加熱コイル1および被加熱物11を使用して、事前の加熱試験を複数回行い、積算値WINTEGRALのデータと被加熱物11の温度のデータとを取得して、回帰直線を求める。
【0040】
図8は回帰直線の導出方法を説明するフローチャートである。図8のステップS400,S401は、図3のステップS200,S201と同じである。
【0041】
単回帰分析部10aは、電流センサ5aによって計測された交流電流Iaのデータと電圧センサ12によって計測された交流電圧Vaのデータとを取得する(図8ステップS402)。
第1の実施例と同様に被加熱物11に取り付けられた温度センサは、被加熱物11の温度Tを計測する。単回帰分析部10aは、温度センサによって計測された温度Tのデータを取得する(図8ステップS403)。単回帰分析部10aは、加熱開始時点からの加熱時間が設定値に達するまで(図8ステップS404においてYES)、交流電流Iaと交流電圧Vaと温度Tのデータの取得を一定時間毎に行う。これにより、単回帰分析部10aには、交流電流Iaと交流電圧Vaと温度Tの時系列データが記録される。
【0042】
加熱時間が設定値に達して加熱が停止すると(図8ステップS405)、高周波誘導加熱装置は、被加熱物11を冷却する(図8ステップS406)。
第1の実施例と同様に、単回帰分析部10aは、被加熱物11が冷えるまで待った後に、加熱条件を変更する(図8ステップS407)。
【0043】
単回帰分析部10aは、所定回数の加熱試験の終了後、交流電流Iaと交流電圧Vaの積の時系列データと、温度Tの時系列データとに基づいて単回帰分析を行い、回帰直線の傾きaと切片bとを算出する(図8ステップS409)。
具体的には、単回帰分析部10aは、加熱試験毎の交流電流Iaと交流電圧Vaの積の積算値WINTEGRALと、加熱試験毎の温度Tの最高値とが例えば図9のように得られたとき、最小二乗法により回帰直線Lの傾きaと切片bとを算出する。図9の例におけるW1は1回目の加熱試験における交流電流Iaと交流電圧Vaの積の積算値、T1は1回目の加熱試験における温度Tの最高値、W2は2回目の加熱試験における交流電流Iaと交流電圧Vaの積の積算値、T2は2回目の加熱試験における温度Tの最高値である。
【0044】
そして、単回帰分析部10aは、算出した傾きaと切片bの値を温度算出部6aに設定する(図8ステップS410)。
こうして、本実施例では、第1の実施例と同様の効果を得ることができる。なお、本実施例では、電流センサ5aと電圧センサ12を発振器2とマッチングボックス3の間に設けているが、マッチングボックス3と加熱コイル1の間に設けるようにしてもよい。
【0045】
第1、第2の実施例で説明した高周波誘導加熱装置の制御部4と温度算出部6,6aと表示部7と判定部8と判定結果出力部9と単回帰分析部10,10aは、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインターフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を図10に示す。
【0046】
コンピュータは、CPU100と、記憶装置101と、インタフェース装置(以下、I/Fと略する)102とを備えている。I/F102には、発振器2と電流センサ5,5aと電圧センサ12と表示部7のハードウェアと判定結果出力部9のハードウェアと温度センサ等が接続される。このようなコンピュータにおいて、本発明の方法を実現させるためのプログラムは記憶装置101に格納される。CPU100は、記憶装置101に格納されたプログラムに従って第1、第2の実施例で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、高周波誘導加熱装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1…加熱コイル、2…発振器、3…マッチングボックス、4…制御部、5,5a…電流センサ、6,6a…温度算出部、7…表示部、8…判定部、9…判定結果出力部、10,10a…単回帰分析部、11…被加熱物、12…電圧センサ。
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図10