(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072805
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】調光シート
(51)【国際特許分類】
G02F 1/13 20060101AFI20220510BHJP
G02F 1/1334 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/1334
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020182450
(22)【出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】森永 かおり
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 泰佑
(72)【発明者】
【氏名】矢野 勇士
(72)【発明者】
【氏名】高橋 政之
【テーマコード(参考)】
2H088
2H189
【Fターム(参考)】
2H088EA34
2H088FA09
2H088FA18
2H088FA29
2H088GA10
2H088HA01
2H088HA02
2H088HA03
2H088JA04
2H088KA02
2H088MA20
2H189AA04
2H189CA08
2H189FA81
2H189HA16
2H189JA04
2H189KA01
2H189LA01
2H189LA03
2H189LA05
2H189MA15
(57)【要約】
【課題】一対の透明電極層間に電位差が生じていない状態での透明さを高めることを可能とした調光シートを提供する。
【解決手段】電圧が印加される第1透明電極層と、第2透明電極層と、第1透明電極層と第2透明電極層との間に位置して空隙31Dが分散している樹脂層31P、および、液晶分子を含み空隙31Dを埋める液晶組成物を備える調光層31と、第1透明電極層と調光層とに挟まれた第1配向層であって、電圧の印加によって調光層31のヘイズを高めるように構成された第1配向層とを備える。調光層31は、第1配向層に接する第1面31Fを含み、第1面31Fにおける空隙31Dの面積率が49%以上である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧が印加される第1透明電極層と、
第2透明電極層と、
前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間に位置して空隙が分散している樹脂層、および、液晶分子を含み前記空隙を埋める液晶組成物を備える調光層と、
前記第1透明電極層と前記調光層とに挟まれた第1配向層であって、前記電圧の印加によって前記調光層のヘイズを高めるように構成された前記第1配向層と、を備え、
前記調光層は、前記第1配向層に接する第1面を含み、
前記第1面における前記空隙の面積率が49%以上である
調光シート。
【請求項2】
第1面において、単位面積当たりにおける空隙の個数が31個以下である
請求項1に記載の調光シート。
【請求項3】
第1面において、単位面積当たりにおける空隙の個数が20個以上である
請求項1または2に記載の調光シート。
【請求項4】
前記調光層の厚さ方向において前記調光層と前記第2透明電極層との間に位置する第2配向層をさらに備え、
前記調光層は、前記第2配向層に接する第2面を含み、
前記第2面における前記空隙の面積率が49%以上である
請求項1から3のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項5】
前記調光層の厚さは、3.0μm以上11.0μm以下である
請求項1から4のいずれか一項に記載の調光シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配向層を備えたリバース型の調光シートに関する。
【背景技術】
【0002】
リバース型の調光シートは、液晶分子を含む調光層、さらに、調光層に接し、かつ、調光層を挟む一対の配向層を備えている。各配向層は例えば垂直配向層であり、一対の透明電極層間に電位差が生じていない状態において、各液晶分子の長軸が配向層に対して略垂直になるように液晶分子を配向させる。そのため、リバース型の調光シートは、一対の透明電極層間に電位差が生じていない状態において透明である。一方、一対の透明電極層間に電位差が生じた状態では、液晶分子は電界方向に沿って配向し、これによって、調光シートは不透明な状態を有する(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした構造を有するリバース型の調光シートでは、一対の透明電極層間に電位差が生じている状態で不透明さが実現される一方で、一対の透明電極層間に電位差が生じていない状態における透明さを高めるという新たな要請が生じている。
【0005】
本発明は、一対の透明電極層間に電位差が生じていない状態での透明さを高めることを可能とした調光シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための調光シートは、電圧が印加される第1透明電極層と、第2透明電極層と、前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間に位置して空隙が分散している樹脂層、および、液晶分子を含み前記空隙を埋める液晶組成物を備える調光層と、前記第1透明電極層と前記調光層とに挟まれた第1配向層であって、前記電圧の印加によって前記調光層のヘイズを高めるように構成された前記第1配向層とを備える。前記調光層は、前記第1配向層に接する第1面を含み、前記第1面における前記空隙の面積率が49%以上である。
【0007】
上記調光シートによれば、第1面における空隙の面積率が49%以上であることによって、面積率がより小さい場合に比べて、調光層の厚さ方向において、調光層の中央部よりも第1面寄りに空隙が位置しやすい。そのため、調光層が含むより多くの液晶分子に対して第1配向層の配向規制力が作用するから、一対の透明電極層間に電位差が生じていない状態において、調光シートの透明さを高めることが可能である。
【0008】
上記調光シートにおいて、第1面において、単位面積当たりにおける空隙の個数が31個以下であってもよい。この調光シートによれば、単位面積当たりにおける空隙の個数が31個以下であることによって、一対の透明電極層間に電位差が生じていない状態において、調光層における第1面寄りに空隙が位置しやすい。そのため、調光層が含むより多くの液晶分子に対して配向層の配向規制力が作用するから、一対の透明電極層間に電位差が生じていない状態において、調光シートの透明さを高めることが可能である。
【0009】
上記調光シートにおいて、第1面において、単位面積当たりにおける空隙の個数が20個以上であってもよい。この調光シートによれば、単面積当たりにおける空隙の個数が20個以上であることによって、一対の透明電極層間に電位差が生じていない状態において、調光シートが高いヘイズを有することが抑えられる。
【0010】
上記調光シートにおいて、前記調光層の厚さ方向において前記調光層と前記第2透明電極層との間に位置する第2配向層をさらに備え、前記調光層は、前記第2配向層に接する第2面を含み、前記第2面における前記空隙の面積率が49%以上であってもよい。
【0011】
上記調光シートによれば、第2面における空隙の面積率が49%以上であることによって、一対の配向層を備える調光シートでは、調光層の厚さ方向において、調光層の中央部よりも第1面寄りおよび第2面寄りに空隙が位置しやすい。そのため、調光層が含むより多くの液晶分子に対して各配向層の配向規制力が作用するから、一対の透明電極層間に電位差が生じていない状態において、調光シートの透明さを高めることが可能である。
【0012】
上記調光シートにおいて、前記調光層の厚さは、3.0μm以上11.0μm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、一対の透明電極層間に電位差が生じていない状態での透明さを高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態における調光装置の構造を駆動部とともに示す断面図。
【
図2】
図1が示す調光シートが備える調光層の第1面の構造を模式的に示す平面図。
【
図3】
図1が示す調光装置が備える調光シートの構造を模式的に示す断面図。
【
図4】実施例1の調光シートにおける調光層の第1面を撮像したSEM画像。
【
図5】実施例1の調光シートにおける調光層の断面を撮像したSEM画像。
【
図6】実施例5の調光シートにおける調光層の第1面を撮像したSEM画像。
【
図7】実施例5の調光シートにおける調光層の断面を撮像したSEM画像。
【
図8】比較例1の調光シートにおける調光層の第1面を撮像したSEM画像。
【
図9】比較例1の調光シートにおける調光層の断面を撮像したSEM画像。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1から
図9を参照して、調光シートの一実施形態を説明する。以下では、調光装置、調光シート、および、実施例を順に説明する。
【0016】
[調光装置]
図1を参照して調光装置を説明する。
図1が示すように、調光装置10は、リバース型の調光シート21を含む調光ユニット11と、駆動部12とを備えている。
【0017】
調光シート21は、調光層31、第1配向層32、第2配向層33、第1透明電極層34、および、第2透明電極層35を備えている。調光シート21では、調光層31の厚さ方向において、第1配向層32と第2配向層33とが調光層31を挟んでいる。調光層31の厚さ方向において、第1透明電極層34と第2透明電極層35とが、一対の配向層32,33を挟んでいる。調光シート21は、さらに、第1透明電極層34を支持する第1透明基材36、および、第2透明電極層35を支持する第2透明基材37を備えている。
【0018】
調光ユニット11は、第1透明電極層34の一部に取り付けられた第1電極22Aと、第2透明電極層35の一部に取り付けられた第2電極22Bとを備えている。調光ユニット11はさらに、第1電極22Aに接続された第1配線23Aと、第2電極22Bに接続された第2配線23Bとを備えている。第1電極22Aは第1配線23Aによって駆動部12に接続され、第2電極22Bは第2配線23Bによって駆動部12に接続されている。
【0019】
調光層31は、第1配向層32に接する面である第1面31Fと、第2配向層33に接する面である第2面31Sとを備えている。また、調光層31は、透明な樹脂層と液晶組成物とを備えている。樹脂層は、液晶組成物が充填される空隙を有している。液晶組成物は、樹脂層が有する空隙に充填されている。液晶組成物は液晶分子を含む。液晶分子の一例は、シッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、ビフェニル系、ターフェニル系、安息香酸エステル系、トラン系、ピリミジン系、シクロヘキサンカルボン酸エステル系、フェニルシクロヘキサン系、および、ジオキサン系から構成される群から選択されるいずれかである。
【0020】
調光層31の厚さは、空隙の大きさにおける最小値の2倍以上11μm以下、例えば、2μm以上10μm以下であってよい。また、調光層31の厚さは、3.0μm以上11.0μm以下であってよい。なお、調光層31の厚さが空隙の大きさに対する2倍以上であることは、調光層31内において後述する相対的に密度が異なる少なくとも2つの領域を生成することが可能である点において好ましい。また、調光層31の厚さが11μm以下であることによって、調光シート21の製造時において液晶分子を含む塗液を露光した場合に、液晶分子と透明な樹脂層とが適切に分離される。
【0021】
液晶組成物の保持型式は、高分子ネットワーク型、高分子分散型、および、カプセル型から構成される群から選択されるいずれか1つである。高分子ネットワーク型は、3次元の網目状を有した透明な高分子ネットワークを備え、相互に連通した網目状の空隙のなかに液晶組成物を保持する。高分子ネットワークは、樹脂層の一例である。高分子分散型は、孤立した多数の空隙を樹脂層のなかに備え、高分子層に分散した空隙のなかに液晶組成物を保持する。カプセル型は、カプセル状を有した液晶組成物を樹脂層のなかに保持する。なお、液晶組成物は、上述した液晶分子以外に、樹脂層を形成するためのモノマー、および、二色性色素などを含んでもよい。
【0022】
第1配向層32、および、第2配向層33を形成するための材料は、有機化合物、無機化合物、および、これらの混合物である。有機化合物は、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、および、シアン化化合物などである。無機化合物は、シリコン酸化物、および、酸化ジルコニウムなどである。なお、配向層32,33を形成するための材料は、シリコーンであってもよい。シリコーンは、無機性の部分と有機性の部分とを有する化合物である。各配向層32,33の厚さは、例えば0.02μm以上0.5μm以下である。
【0023】
第1配向層32、および、第2配向層33は、例えば、垂直配向層、あるいは、水平配向層である。垂直配向層は、第1透明電極層34に接する面とは反対側の面、および、第2透明電極層35に接する面とは反対側の面に対して垂直であるように、液晶分子の長軸方向を配向させる。水平配向層は、第1透明電極層34に接する面とは反対側の面、および、第2透明電極層35に接する面とは反対側の面に対してほぼ平行であるように、液晶分子の長軸方向を配向させる。このように、配向層32,33がいずれの配向層であっても、配向層32,33は、調光層31が含む複数の液晶分子における配向を規制する。なお、配向層32,33の少なくとも一方が水平配向層である場合には、調光シート21は偏光層を備えることができる。
【0024】
第1透明電極層34、および、第2透明電極層35は、可視光を透過する光透過性を有する。第1透明電極層34の光透過性は、調光シート21を通した物体の視覚認識を可能にする。第2透明電極層35の光透過性は、第1透明電極層34の光透過性と同様、調光シート21を通した物体の視覚認識を可能にする。各透明電極層34,35の厚さは、例えば0.005μm以上0.1μm以下であってよい。これにより、調光シート21の適切な駆動を担保しつつ、調光シート21が撓んだ場合に生じ得るクラックを低減させることが可能である。
【0025】
各透明電極層34,35を形成するための材料は、例えば、酸化インジウムスズ、フッ素ドープ酸化スズ、酸化スズ、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、および、銀から構成される群から選択されるいずれか1つであってよい。
【0026】
各透明基材36,37を形成する材料は、合成樹脂、または、無機化合物であってよい。合成樹脂は、例えば、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、および、ポリオレフィンなどである。ポリエステルは、例えばポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレートなどである。ポリアクリレートは、例えばポリメチルメタクリレートなどである。無機化合物は、例えば、二酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、および、窒化ケイ素などである。各透明基材36,37の厚さは、例えば16μm以上250μm以下であってよい。透明基材36,37の厚さが16μm以上であることによって、調光シート21の加工および施工が容易である。透明基材36,37の厚さが250μm以下であることによって、ロールトゥロールによる調光シート21の製造が可能である。
【0027】
各電極22A,22Bは、例えばフレキシブルプリント基板(FPC : Flexible Printed Circuits)である。FPCは、支持層、導体部、および、保護層を備えている。導体部が、支持層と保護層とに挟まれている。支持層および保護層は、絶縁性の合成樹脂によって形成されている。支持層および保護層は、例えばポリイミドによって形成される。導体部は、例えば金属薄膜によって形成されている。金属薄膜を形成する材料は、例えば銅であってよい。各電極22A,22Bは、FPCに限らず、例えば金属製のテープであってもよい。
【0028】
なお、各電極22A,22Bは、図示されない導電性接着層によって、各透明電極層34,35に取り付けられている。各電極22A,22Bのうち、導電性接着層に接続される部分では、導体部が保護層または支持層から露出している。
【0029】
導電性接着層は、例えば、異方性導電フィルム(ACF : Anisotropic Conductive Film)、異方性導電ペースト(ACP : Anisotropic Conductive Paste)、等方性導電フィルム(ICF : Isotropic Conductive Film)、および、等方性導電ペースト(ICP : Isotropic Conductive Paste)などによって形成されてよい。調光装置10の製造工程における取り扱い性の観点から、導電性接着層は、異方性導電フィルムであることが好ましい。
【0030】
各配線23A,23Bは、例えば、金属製のワイヤーと、金属製のワイヤーを覆う絶縁層とによって形成されている。ワイヤーは、例えば銅などによって形成されている。
駆動部12は、第1透明電極層34と第2透明電極層35との間に交流電圧を印加する。駆動部12は、矩形波状を有した交流電圧を一対の透明電極層34,35間に印加することが好ましい。なお、駆動部12は、矩形波状以外の形状を有した交流電圧を一対の透明電極層34,35間に印加してもよい。例えば、駆動部12は、正弦波状を有した交流電圧を一対の透明電極層34,35間に印加してもよい。
【0031】
調光層31は、2つの透明電極層34,35の間において生じる電圧の変化を受けて、液晶分子の配向を変える。液晶分子における配向の変化は、調光層31に入る可視光の散乱度合い、吸収度合い、および、透過度合いを変える。リバース型の調光シート21は、調光シート21の通電時に、すなわち、第1透明電極層34と第2透明電極層35との間に電位差が生じているときに、相対的に高いヘイズを有する。リバース型の調光シート21は、調光シート21の非通電時に、すなわち、第1透明電極層34と第2透明電極層35との間に電位差が生じていないときに、相対的に低いヘイズを有する。例えば、リバース型の調光シート21は、調光シート21の通電時に不透明状態を有し、調光シート21の非通電時に透明状態を有する。
【0032】
調光シート21は、例えば、車両および航空機などの移動体が備える窓に取り付けられる。また、調光シート21は、例えば、住宅、駅、空港などの各種の建物が備える窓、オフィスに設置されたパーティション、店舗に設置されたショーウインドウ、および、映像を投影するスクリーンなどに取り付けられる。調光シート21の形状は、平面状であってもよいし、曲面状であってもよい。
【0033】
[調光シート]
図2および
図3を参照して、調光シート21の構造をより詳しく説明する。
図2は、調光層31の第1面31Fと対向する視点から見た調光層31の平面構造を示している。
図2では、調光層31が含む空隙と樹脂層との区別を簡単にする目的で、樹脂層に網点が付されている。なお、以下では、調光層31が含む第1面31Fについて詳細に説明するが、調光層31が含む第2面31Sでは、調光層31における位置が互いに異なる一方で、空隙の大きさ、および、空隙の分布は第1面31Fと共通である。そのため、調光層31が含む第2面31Sの詳しい説明を省略する。
【0034】
これに対して、
図3は、調光シート21の断面構造を模式的に示している。なお、
図3では、図示の便宜上、透明基材36,37の図示が省略されている。また、
図3では、調光層31の構造を説明する便宜上、各配向層32,33の厚さ、および、各透明電極層34,35の厚さに対する調光層31の厚さの比が、実際の比よりも大きい。また、
図3では、一対の透明電極層34,35間に電位差が生じていない状態での調光層31の状態が示されている。
【0035】
図2が示すように、調光層31は、空隙31Dが分散している樹脂層31P、および、液晶分子を含み空隙31Dを埋める液晶組成物を備えている。なお、
図2では、図示の便宜上、液晶組成物の図示が省略されている。上述したように、調光層31は、第1配向層32に接する第1面31Fを含んでいる。調光層31は、以下の条件1を満たす。
(条件1)第1面31Fにおける空隙31Dの面積率が49%以上である。
【0036】
第1面31Fにおける空隙31Dの面積率が49%以上であることによって、面積率がより小さい場合に比べて、調光層31の厚さ方向において、調光層31の中央部よりも第1面31F寄りに空隙31Dが位置しやすい。そのため、調光層31が含むより多くの液晶分子に対して第1配向層32の配向規制力が作用するから、一対の透明電極層34,35間に電位差が生じていない状態において、調光シート21の透明さを高めることが可能である。
【0037】
第1面31Fにおける空隙31Dの面積率は、以下の方法によって算出される。すなわち、面積率を算出する際には、第1面31Fにおいて所定の面積を有した算出対象領域が設定される。また、算出対象領域に含まれる全空隙31Dの面積における総和が算出される。空隙31Dの面積率は、算出対象領域の面積に対する当該総和の百分率である。
【0038】
なお、調光シート21の透明さは、調光シート21が有する可視光の透過率によって表すことが可能である。調光シート21において、ヘイズの値が低いほど調光シート21の透明さが高く、ヘイズの値が高いほど調光シート21の透明さが低い。また、調光シート21の透明さは、調光シート21が有するヘイズによって表すことが可能である。ヘイズは、JIS K 7136:2000に準拠した方法によって算出される。調光シート21において、ヘイズの値が低いほど調光シート21の透明さが高く、ヘイズの値が高いほど調光シート21の透明さが低い。
【0039】
調光層31は、上述した条件1に加えて、以下に記載の条件2および条件3の少なくとも一方を満たすことが好ましい。
(条件2)第1面31Fにおいて、単位面積当たりにおける空隙31Dの個数が31個以下である。
なお、本開示において、単位面積は96μm2である。
【0040】
単位面積当たりにおける空隙の個数が31個以下であることによって、一対の透明電極層34,35間に電位差が生じていない状態において、調光層31における第1面31F寄りに空隙が位置しやすい。そのため、調光層31が含むより多くの液晶分子LCMに対して配向層32,33の配向規制力が作用するから、一対の透明電極層34,35間に電位差が生じていない状態において、調光シート21の透明さを高めることが可能である。
【0041】
(条件3)第1面31Fにおいて、単位面積当たりにおける空隙31Dの個数が20個以上である。
単面積当たりにおける空隙31Dの個数が20個以上であることによって、一対の透明電極層34,35間に電位差が生じていない状態において、調光シート21が高いヘイズを有することが抑えられる。
【0042】
上述したように、第2面31Sにおける空隙31Dの大きさ、および、空隙31Dの分布は、第1面31Fにおける空隙31Dの大きさ、および、空隙31Dの分布と共通であるから、調光層31は、以下の条件4を満たす。また、調光層31は、以下の条件5および条件6の少なくとも一方を満たすことが好ましい。
【0043】
(条件4)第2面31Sにおける空隙31Dの面積率は49%以上である。
第2面31Sにおける空隙31Dの面積率が49%以上であることによって、一対の配向層32,33を備える調光シート21では、調光層31の厚さ方向において、調光層31の中央部よりも第1面31F寄りおよび第2面31S寄りに空隙31Dが位置しやすい。そのため、調光層31が含むより多くの液晶分子に対して各配向層32,33の配向規制力が作用するから、一対の透明電極層34,35間に電位差が生じていない状態において、調光シート21の透明さを高めることが可能である。
【0044】
(条件5)第2面31Sにおいて、単位面積当たりにおける空隙31Dの個数が31個以下である。
(条件6)第2面31Sにおいて、単位面積当たりにおける空隙31Dの個数が20個以上である。
【0045】
調光層31が条件5を満たすことによって、調光層31が条件2を満たす場合と同等の効果を得ることができる。また、調光層31が条件6を満たすことによって、調光層31が条件3を満たす場合と同等の効果を得ることができる。
【0046】
図3が示すように、液晶組成物31LCは、液晶分子LCMを含み空隙31Dを埋めている。調光層31は、単位厚さあたりの液晶組成物31LCの密度が高い第1高密度部31H1と、単位厚さあたりの液晶組成物31LCの密度が低い低密度部31Lとを備えている。第1高密度部31H1が、第1配向層32に接している。
【0047】
言い換えれば、調光層31では、調光層31の厚さ方向における中間で液晶組成物31LCの密度が最も低い。なお、調光層31の厚さ方向における中間とは、調光層31の厚さ方向において対向する一対の面よりも調光層31の中央寄りの部分である。なお、調光層31の各部における単位厚さ当たりの液晶組成物31LCの密度は、各部が含む液晶組成物31LCの体積を各部の厚さで除算することによって算出される。また、調光層31では、調光層31の厚さ方向における中央を含む部分で液晶組成物31LCの密度が最も低いことが好ましい。なお、調光層31は非常に薄いことから、調光層31が含む液晶組成物31LCの体積を求めることは実際には困難である。そのため、本開示では、調光層31の断面を撮像したSEM画像から求められる液晶組成物31LCの面積、および、調光層31の面積を用いて、各密度を算出している。
【0048】
なお、第1配向層32は例えば垂直配向層であり、第1配向層32は典型的には液晶分子LCMの長軸が第1透明電極層34に対して直交するように液晶分子LCMを配向させる。ただし、第1配向層32は、液晶分子LCMの長軸が第1透明電極層34に対して実質的に垂直であると判断される範囲において、長軸が垂直に対して数度傾くように液晶分子LCMを配向させてもよい。また、第1高密度部31H1における液晶組成物31LCの密度は、低密度部31Lにおける液晶組成物31LCの密度よりも高い。
【0049】
第1配向層32からの距離が小さい領域における液晶組成物31LCの密度が高いため、複数の液晶分子LCMにおいて第1配向層32の配向規制力によって配向される液晶分子LCMの量を増やすことが可能である。そのため、第1透明電極層34と第2透明電極層35との間に電位差が生じていない状態において、調光シート21の透明さを高めることができる。
【0050】
調光層31は、第2高密度部31H2をさらに備えている。第2高密度部31H2は、第2配向層33に接し、かつ、低密度部31Lにおける液晶組成物31LCの密度よりも高い液晶組成物31LCの密度を有している。低密度部31Lは、調光層31の厚さ方向に沿う断面において、第1高密度部31H1と第2高密度部31H2とに挟まれている。
【0051】
調光層31では、調光層31の厚さ方向において対向する一対の面の近傍において、配向層32,33の配向規制力に従って液晶分子LCMが配向する。そのため、第1透明電極層34と第2透明電極層35との間に電位差が生じていない状態において、調光シート21の光透過性をさらに高めることができる。
【0052】
調光層31は、第1高密度部31H1、第2高密度部31H2、および、低密度部31Lから構成されている。調光層31の厚さ方向に沿う断面において、空隙31Dの面積を調光層31の厚さで除算した値が、単位厚さ当たりの空隙31Dの密度である。単位厚さ当たりにおける第1高密度部31H1での空隙31Dの密度、および、単位厚さ当たりにおける第2高密度部31H2での空隙31Dの密度が、単位厚さ当たりにおける低密度部31Lでの空隙31Dの密度よりも高い。
【0053】
そのため、第1高密度部31H1での液晶組成物31LCの密度、および、第2高密度部31H2での液晶組成物31LCの密度を、低密度部31Lでの液晶組成物31LCの密度よりも高くすることが可能である。
【0054】
なお、単位厚さ当たりにおける空隙31Dの密度は、各部に含まれる各空隙31Dの面積の総和を各部の厚さで除算することによって算出される。
調光層31において、例えば、第1高密度部31H1の厚さTH1、第2高密度部31H2の厚さTH2、および、低密度部31Lの厚さTLは、互いにほぼ等しい。すなわち、第1高密度部31H1の厚さTH1、第2高密度部31H2の厚さTH2、および、低密度部31Lの厚さTLは、調光層31の厚さT31の約1/3である。なお、低密度部31Lの厚さTLは、各高密度部31H1,31H2の厚さTH1,TH2よりも厚くてもよいし、薄くてもよい。また、第1高密度部31H1の厚さTH1は、第2高密度部31H2の厚さと互いに等しくてもよいし、互いに異なってもよい。
【0055】
調光層31の厚さ方向に沿う断面において、低密度部31Lの面積(SL)に対する、低密度部31Lに含まれる各空隙31Dの面積の総和(SD)の百分率([SD/SL]×100)が10%以下であることが好ましい。これにより、低密度部31Lの空隙31Dによって保持される液晶組成物31LCの割合を小さくすることが可能であるから、第1透明電極層34と第2透明電極層35との間に電位差が生じていない状態において、低密度部31Lに含まれる液晶分子LCMが調光シート21の不透明さを高めることが抑えられる。
【0056】
さらには、低密度部31Lは、空隙31Dを有しないことが好ましい。言い換えれば、低密度部31Lには、液晶組成物31LCが含まれないことが好ましい。これにより、調光層31に含まれる全ての液晶分子LCMが、配向層32,33の配向規制力に従って配向しやすくなるため、第1透明電極層34と第2透明電極層35との間に電圧差が生じていない状態での調光シート21のヘイズをさらに低めることができる。
【0057】
このように、低密度部31Lにおいて、低密度部31Lの面積SLに対する各空隙31Dの面積の総和SDは、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、0%であることが最も好ましい。
【0058】
また、空隙31Dは、調光層31の厚さ方向に沿う断面において、第1配向層32から3.0μm以下の範囲に位置し、かつ、第2配向層33から3.0μm以下の範囲に位置することができる。言い換えれば、第1高密度部31H1の厚さTH1が3.0μm以下であり、かつ、第2高密度部31H2の厚さTH2が3.0μm以下であることができる。
【0059】
なお、第1配向層32を基準とした空隙31Dの位置する範囲は、調光層31の厚さ方向に沿う断面において、調光層31の中央部よりも第1配向層32寄りに位置する空隙31Dと、第1配向層32のうちで調光層31に接する面との間の距離における最大値である。また、第2配向層33を基準とした空隙31Dの位置する範囲は、調光層31の厚さ方向に沿う断面において、調光層31の中央部よりも第2配向層33寄りに位置する空隙31Dと、第2配向層33のうちで調光層31に接する面との間の距離における最大値である。
【0060】
調光層31の厚さ方向に沿う断面において、各配向層32,33から3.0μm以下の範囲に空隙31Dが位置するため、各空隙31Dに保持された液晶分子LCMが、配向規制力に従って配向する確実性を高めることが可能である。
【0061】
第1高密度部31H1に含まれる各空隙31Dは、第1配向層32に接していることが好ましい。また、第2高密度部31H2に含まれる各空隙31Dは、第2配向層33に接していることが好ましい。言い換えれば、調光層31が備える複数の空隙31Dは、第1配向層32と調光層31との界面に沿う1層の空隙層と、第2配向層33と調光層31との界面に沿う1層の空隙層とのみから構成されることが好ましい。
【0062】
第1高密度部31H1に含まれる各空隙31D、および、第2高密度部31H2に含まれる各空隙31Dは、配向層32,33に接する液晶組成物31LCを保持することが可能であるため、各空隙31Dに保持される液晶組成物31LCの全体に配向層32,33の配向規制力が作用しやすくなる。これにより、第1透明電極層34と第2透明電極層35との間に電位差が生じていない状態において、調光シート21が有する透明さをさらに高めることができる。
【0063】
調光シート21において、調光層31の厚さT31が、3.0μm以上11.0μm以下であり、かつ、空隙31Dの大きさが、1.0μm以上2.5μm以下である。
【0064】
調光層31の厚さが3.0μm以上11.0μm以下であるから、調光層31の厚さ方向において対向する一対の面から離れた位置に空隙31Dが形成されることが抑えられる。さらに、空隙31Dの大きさが1.0μm以上2.5μm以下であるから、配向層32,33の近傍に液晶組成物31LCが保持される。そのため、第1透明電極層34と第2透明電極層35との間に電圧差が生じていない状態での調光シート21の透明さを高めることが可能である。
【0065】
なお、調光シート21が有する散乱特性の観点では、空隙31Dの大きさは、0.38μm以上3.0μm以下であることが好ましい。空隙31Dの大きさが0.38μm以上3.0μm以下の範囲に含まれることによって、調光シート21において生じる散乱を好適な程度とすることが可能である。空隙31Dの大きさが0.38μm以上であることによって、散乱特性、特に可視域での散乱特性を十分に担保することが可能である。空隙31Dの大きさが3.0μm以下であることによって、液晶による光学作用、すなわち散乱を受ける光の成分よりも空隙を透過してしまう光の成分の方が大きくなることが抑えられ、これによって適切な調光効果を奏しやすい。
【0066】
なお、調光シート21の厚さ方向に沿う断面において、空隙31Dが円形状を有する場合、空隙31Dの大きさは、空隙31Dの直径である。調光シート21の厚さ方向に沿う断面において、空隙31Dが楕円形状を有する場合、空隙31Dの大きさは、空隙31Dの長径である。調光シート21の厚さ方向に断面において、空隙31Dが不定形を有する場合、空隙31Dの大きさは、空隙31Dに外接する円の直径である。
【0067】
調光層31の厚さ方向に沿う断面において、各配向層32,33からの距離が小さい位置に保持された液晶分子LCMほど、配向層32,33が有する配向規制力に従って配向しやすくなる。上述したように空隙31Dの大きさが2.5μm以下である場合には、高密度部31H1,31H2に位置する各空隙31Dに保持された液晶分子LCMが配向規制力に従って配向しやすい。
【0068】
調光シート21を形成する際には、まず、透明電極層34,35が形成された透明基材36,37が準備される。そして、各透明電極層34,35上に配向層32,33が形成される。次いで、一対の配向層32,33間に塗液が塗布される。塗液は、樹脂層31Pを形成するための重合性組成物、および、液晶分子LCMを含む。重合性組成物は、紫外線の照射により重合可能なモノマー、または、オリゴマーである。その後、透明電極層34,35を通して塗液に紫外線が照射され、これによって、空隙31Dを有した樹脂層31Pが形成され、かつ、空隙31D内に液晶分子LCMが保持される。
【0069】
塗液が硬化する際には、まず、液晶分子LCMを含む液晶組成物31LCが重合性組成物から分離され、重合性組成物内における複数の場所に液晶組成物31LCが位置する。次いで、重合性組成物が硬化される前に、液晶組成物31LCが各配向層32,33に向けて移動する。その後、重合性組成物が硬化されることによって、液晶組成物31LCを取り囲む空隙31Dを有した樹脂層31Pが形成される。樹脂層31Pが形成されるまでの間は、互いに離間した液晶組成物31LCが集合することによって、樹脂層31Pに形成される空隙31Dが拡張し続ける。この点で、空隙31Dの大きさが1.0μm以上であれば、各空隙31Dが配向層32,33の近傍にまで移動する前に重合性組成物が硬化される可能性を低くすることが可能である。結果として、調光層31の低密度部31Lにおける空隙31Dの数を減らすことが可能である。
【0070】
[実施例]
図4から
図9を参照して実施例を説明する。
以下に説明する製造方法によって、実施例1から実施例7の調光シート、および、比較例1の調光シートを得た。
【0071】
[実施例1]
ITO膜が形成されたPET基材を一対準備した。ITO膜の厚さは30nmであり、PET基材の厚さは125μmであった。各ITO膜上に、バーコーターを用いて100nmの厚さを有した垂直配向層を形成した。次いで、一方の垂直配向層上に重合性組成物と液晶分子とを含む塗液を塗布した。そして、他方の垂直配向層を塗膜上に配置することによって、一対の垂直配向層によって塗膜を挟んだ。塗膜の厚さ方向における両側から、PET基材、ITO膜、および、垂直配向層を通して、塗膜に紫外線を照射した。
【0072】
調光シートの品質を左右する一因として、調光シートを製造する際の塗膜、すなわち調光層への露光工程が挙げられる。より詳しくは、露光工程において、塗液が含む材料や塗膜の厚さなどの諸条件に鑑みて最適な露光量、換言すれば最適な積算光量が定められる。ここで、積算光量は、照射される紫外線の照度に紫外線の照射時間を乗じることによって求められる。以下に説明する各実施例および比較例は、最適な積算光量を得るため、照度や照射時間を適宜変化させることによって得られた調光シートを説明している。なお、各実施例1から実施例7および比較例1に示す調光シートはいずれも調光層の厚みが7.0μmに設定されている。
【0073】
実施例1では、紫外線の照度を10mW/cm2に設定し、積算光量が600mJ/cm2となるように、塗膜に紫外線を照射した。
【0074】
[実施例2]
実施例1において、塗膜に対して紫外線を照射する際の照度を15mW/cm2に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例2の調光シートを得た。
【0075】
[実施例3]
実施例1において、塗膜に対して紫外線を照射する際の照度を20mW/cm2に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例3の調光シートを得た。
【0076】
[実施例4]
実施例1において、塗膜に対して紫外線を照射する際の照度を25mW/cm2に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例4の調光シートを得た。
【0077】
[実施例5]
実施例1において、塗膜に対して紫外線を照射する際の照度を30mW/cm2に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例5の調光シートを得た。
【0078】
[実施例6]
実施例1において、塗膜に対して紫外線を照射する際の照度を35mW/cm2に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例6の調光シートを得た。
【0079】
[実施例7]
実施例1において、塗膜に対して紫外線を照射する際の照度を40mW/cm2に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例7の調光シートを得た。
【0080】
[比較例1]
実施例1において、塗膜に対して紫外線を照射する際の照度を200mW/cm2に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、比較例1の調光シートを得た。
【0081】
[評価方法]
[空隙の面積率および個数]
走査型電子顕微鏡を用いて樹脂層の第1面を撮像し、撮像によって得られた画像を用いて第1面における空隙の面積率、および、第1面における空隙の個数を求めた。空隙の面積率および個数を求める際には、まず、各実施例、および、比較例1の調光シートから、一辺の長さが10cmである正方形状を有した試験片を切り出した。そして、各試験片をイソプロピルアルコールに浸すことによって、樹脂層から液晶組成物を取り除いた。次いで、各試験片において、調光層と第1配向層との境界において、調光層から第1配向層を剥がした。これにより、各調光シートの調光層が有する第1面を露出させた。
【0082】
そして、走査型電子顕微鏡を用いて液晶組成物を取り除いた試験片の第1面を撮像した。この際に、12μmの長さを有し、8μmの長さを有し、かつ、96μm2の面積を有する矩形状の領域を撮像領域に設定した。試験片の第1面に対して5箇所の撮像領域を任意に設定した。なお、互いに隣り合う撮像領域の間の距離が1mm以上であるように、5箇所の撮像領域を設定した。各撮像領域について得られた画像を2値化することによって、各画像における空隙の面積率を算出した。画像を2値化する際には、輝度における閾値を108に設定した。5つの画像における空隙の面積率を平均することによって、各試験片における空隙の面積率を算出した。また、各試験片について得られた画像において空隙の個数を計数した。5つの画像における空隙の個数を平均することによって、各試験片における空隙の個数を算出した。
【0083】
[ヘイズ]
実施例1から実施例7の調光シート、および、比較例1の調光シートの各々について、不透明時のヘイズと、透明時のヘイズとを算出した。ヘイズの算出には、JIS K 7136:2000に準拠する方法を用いた。各調光シートにおいて、一対の透明電極層間に電位差が生じていない状態、すなわち、一対の透明電極間に交流電圧を印加していない状態を透明時に設定した。また、一対の透明電極層間に交流電圧を印加し、かつ、調光シートのヘイズが飽和している状態を不透明時に設定した。
【0084】
[クラリティ]
実施例1から実施例7の調光シート、および、比較例1の調光シートの各々について、不透明時のクラリティを算出した。クラリティは、調光層31を透過した光のなかで、調光層31に入射した平行光LPの進行方向に沿って直進する直進光の光量を光量LCとし、平行光LPの進行方向に対する角度が±2.5°以内である狭角散乱光の光量を光量LRとするときに、以下の式(1)によって算出される。なお、ヘイズの算出時と同様一対の透明電極層間に交流電圧を印加し、かつ、調光シートのヘイズが飽和している状態を不透明時に設定した。
100×(LC-LR)/(LC+LR) … 式(1)
【0085】
[評価結果]
実施例1,5および比較例1について、各試験片の第1面および断面を撮像した結果は、
図4から
図9に示す通りであった。また、各評価結果は、以下の表1および表2が示す通りであった。なお、
図4から
図9は、実施例1、実施例5、および、比較例1の調光シートにおける第1面および断面を撮像したSEM画像を順に示している。
【0086】
【0087】
【0088】
実施例1から実施例7の調光シートでは、調光層の第1面における空隙の面積率が49%以上であることが認められた。これに対して、比較例1の調光シートでは、第1面における空隙の面積率が45%であり、49%に満たないことが認められた。そして、実施例1から実施例7の調光シートにおける透明時のヘイズが、比較例1の調光シートにおける透明時のヘイズに対して大幅に改善されることが認められた。このように、調光層の第1面における空隙の面積率が49%以上であることによって、透明時におけるヘイズの値が小さくなる、言い換えれば、電圧非印加時における透明さが高められるといえる。
【0089】
また、
図4から
図9が示す調光層の断面構造によれば、実施例1および実施例5の調光シートでは、調光層が有する全ての空隙が第1面または第2面に接することが認められた。一方で、比較例1の調光シートでは、調光層が有する空隙のうち、一部の空隙が第1面または第2面に接し、かつ、残りの空隙は調光層の厚さ方向における調光層の中央部に位置することが認められた。このように、第1面における空隙の面積率は、調光層の厚さ方向における空隙の分布を表す指標であり、第1面における空隙の面積率が49%以上であることによって、調光層における第1面の近傍に位置する空隙の数を増やすことが可能であるといえる。
【0090】
なお、実施例1から実施例7の調光シートにおいて透明時のヘイズの値を比較すると、実施例2から実施例5におけるヘイズの値が、実施例1、実施例6、および、実施例7におけるヘイズの値よりも改善されていることが認められた。こうした結果から、第1面における空隙の面積率が49%以上であり、かつ、単位面積当たりにおける空隙の個数が20個以上28個以下であることによって、電圧非印加時における調光シートの透明さがより高められるといえる。すなわち、実施例2から実施例5の調光層では、第1面に位置する空隙の大きさが好適な範囲に含まれるといえる。
【0091】
なお、実施例6,7および比較例1では、調光シートの透明時において白色を有した点状の領域が認められ、これによって透明時におけるヘイズの値が高められていることが認められた。点状の領域は、調光層の厚さ方向において、配向層の配向規制力が作用し難い程度に配向層から離れた位置に空隙が形成され、当該空隙内に液晶組成物が充填されていることを示している。一方で、実施例1の調光シートでは、実施例6,7および比較例1において認められた点状の領域は認められなかった。
【0092】
そのため、単位面積当たりにおける空隙の個数が29個以下である、すなわち、空隙の大きさが所定の大きさ以上であることによって、調光層の厚さ方向において配向層から離れた位置に空隙が形成されることを抑え、これによって、電圧非印加時における調光シートの透明さが高められるといえる。これに対して、単位面積当たりにおける空隙の個数が20個以上である、すなわち、空隙の大きさが所定の大きさ以下であることによって、空隙の大きさに依存した光の散乱を抑え、これによって、電圧非印加時における調光シートの透明さが高められるといえる。
【0093】
なお、各実施例および比較例の調光シートでは、調光層の第2面においても、上述した第1面と同等の結果が得られることが認められている。
実施例1から実施例7、および、比較例1では、調光シートを製造する際に照射する紫外線の照度を変更した。以下に説明する実施例8から実施例16では、3通りの照度の各々において、積算光量を3通りに変更した。
【0094】
[実施例8]
実施例2において、積算光量を450mJ/cm2に変更した以外は、実施例2と同様の方法によって、実施例8の調光シートを得た。
【0095】
[実施例9]
実施例2と同様の方法によって、実施例9の調光シートを得た。
【0096】
[実施例10]
実施例2において、積算光量を750mJ/cm2に変更した以外は、実施例2と同様の方法によって、実施例10の調光シートを得た。
【0097】
[実施例11]
実施例4において、積算光量を450mJ/cm2に変更した以外は、実施例4と同様の方法によって、実施例11の調光シートを得た。
【0098】
[実施例12]
実施例4と同様の方法によって、実施例11の調光シートを得た。
【0099】
[実施例13]
実施例4において、積算光量を750mJ/cm2に変更した以外は、実施例4と同様の方法によって、実施例13の調光シートを得た。
【0100】
[実施例14]
実施例6において、積算光量を450mJ/cm2に変更した以外は、実施例6と同様の方法によって、実施例14の調光シートを得た。
【0101】
[実施例15]
実施例6と同様の方法によって、実施例15の調光シートを得た。
【0102】
[実施例16]
実施例6において、積算光量を750mJ/cm2に変更した以外は、実施例6と同様の方法によって、実施例16の調光シートを得た。
【0103】
【0104】
【0105】
[評価方法]
実施例1から7、および、比較例1の調光シートを評価した方法と同様の方法を用いて、空隙の面積率、空隙の個数、クラリティ、および、ヘイズを評価した。
【0106】
[評価結果]
実施例8から実施例16の調光シートについて、各評価結果は表3および表4が示す通りであった。
【0107】
実施例8から実施例16の調光シートによれば、実施例8から実施例13の調光シートにおける透明時のヘイズの値が、実施例14から実施例16の調光シートにおける透明時ヘイズの値に比べて改善されていることが認められた。こうした結果から、調光層の第1面における空隙の面積率が49%以上であり、かつ、単位面積当たりの空隙の個数が31個以下であることによって、電圧非印加時における調光シートの透明さがより高められることが認められた。
【0108】
なお、各実施例および比較例の調光シートでは、調光層の第2面においても、上述した第1面と同等の結果が得られることが認められている。
【0109】
以上説明したように、調光シートの一実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)第1面31Fにおける空隙31Dの面積率が49%以上であることによって、調光層31の厚さ方向において、調光層31の中央部よりも第1面31F寄りに空隙31Dが位置しやすい。そのため、調光層31が含むより多くの液晶分子に対して第1配向層32の配向規制力が作用するから、一対の透明電極層34,35間に電位差が生じていない状態において、調光シート21の透明さを高めることが可能である。
【0110】
(2)単位面積当たりにおける空隙の個数が31個以下であることによって、一対の透明電極層34,35間に電位差が生じていない状態において、調光層31における第1面31F寄りに空隙が位置しやすい。そのため、調光層31が含むより多くの液晶分子LCMに対して配向層32,33の配向規制力が作用するから、一対の透明電極層34,35間に電位差が生じていない状態において、調光シート21の透明さを高めることが可能である。
【0111】
(3)単面積当たりにおける空隙31Dの個数が20個以上であることによって、一対の透明電極層34,35間に電位差が生じていない状態において、調光シート21が高いヘイズを有することが抑えられる。
【0112】
(4)第2面31Sにおける空隙31Dの面積率が49%以上であることによって、一対の配向層32,33を備える調光シート21では、調光層31の厚さ方向において、調光層31の中央部よりも第1面31F寄りおよび第2面31S寄りに空隙31Dが位置しやすい。そのため、調光層31が含むより多くの液晶分子に対して各配向層32,33の配向規制力が作用するから、一対の透明電極層34,35間に電位差が生じていない状態において、調光シート21の透明さを高めることが可能である。
【0113】
なお、上述した実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
[配向層]
・調光シート21は、第1配向層32を備える一方で、第2配向層33を備えなくてもよい。この場合には、第1面31Fにおける空隙の面積率が49%以上であることを満たすことで、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【符号の説明】
【0114】
10…調光装置
11…調光ユニット
12…駆動部
21…調光シート
31…調光層
31D…空隙
31P…樹脂層
32…第1配向層
33…第2配向層
34…第1透明電極層
35…第2透明電極層
LCM…液晶分子
【手続補正書】
【提出日】2021-09-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧が印加される第1透明電極層と、
第2透明電極層と、
前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間に位置して空隙が分散している樹脂層、および、液晶分子を含み前記空隙を埋める液晶組成物を備える調光層と、
前記第1透明電極層と前記調光層とに挟まれた第1配向層であって、前記電圧の印加によって前記調光層のヘイズを高めるように構成された前記第1配向層と、を備え、
前記調光層は、前記第1配向層に接する第1面を含み、
前記第1面における前記空隙の面積率が49%以上である
調光シート。
【請求項2】
前記第1面において、単位面積である96μm
2
当たりにおける空隙の個数が31個以下である
請求項1に記載の調光シート。
【請求項3】
前記第1面において、単位面積である96μm
2
当たりにおける空隙の個数が20個以上である
請求項1または2に記載の調光シート。
【請求項4】
前記調光層の厚さ方向において前記調光層と前記第2透明電極層との間に位置する第2配向層をさらに備え、
前記調光層は、前記第2配向層に接する第2面を含み、
前記第2面における前記空隙の面積率が49%以上である
請求項1から3のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項5】
前記調光層の厚さは、3.0μm以上11.0μm以下である
請求項1から4のいずれか一項に記載の調光シート。
【手続補正書】
【提出日】2022-02-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧が印加される第1透明電極層と、
第2透明電極層と、
前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間に位置して空隙が分散している樹脂層、および、液晶分子を含み前記空隙を埋める液晶組成物を備える調光層と、
前記第1透明電極層と前記調光層とに挟まれた第1配向層であって、前記電圧の印加によって前記調光層のヘイズを高めるように構成された前記第1配向層と、を備え、
前記調光層は、前記第1配向層に接する第1面を含み、
前記第1面における前記空隙の面積率が49%以上であり、
前記調光層の厚さ方向において前記調光層と前記第2透明電極層との間に位置する第2配向層をさらに備え、
前記調光層は、前記第2配向層に接する第2面を含み、
前記第2面における前記空隙の面積率が49%以上であり、
前記樹脂層内における前記空隙の分散は、前記調光層の厚さ方向における中央部に対して前記第1面寄りおよび前記第2面寄りに前記空隙が位置するような偏りを有する
調光シート。
【請求項2】
前記第1面において、単位面積である96μm2当たりにおける空隙の個数が31個以下である
請求項1に記載の調光シート。
【請求項3】
前記第1面において、単位面積である96μm2当たりにおける空隙の個数が20個以上である
請求項1または2に記載の調光シート。
【請求項4】
前記調光層の厚さは、3.0μm以上11.0μm以下である
請求項1から3のいずれか一項に記載の調光シート。